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  • 特許-インホイールモータ車両の制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】インホイールモータ車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20240925BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20240925BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20240925BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20240925BHJP
   B60L 58/10 20190101ALI20240925BHJP
   H02P 29/028 20160101ALI20240925BHJP
【FI】
B60L3/00 J
B60L50/60
B60L9/18 P
B60L15/20 S
B60L58/10
H02P29/028
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021098042
(22)【出願日】2021-06-11
(65)【公開番号】P2022189458
(43)【公開日】2022-12-22
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 堅滋
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-005899(JP,A)
【文献】特開2009-254161(JP,A)
【文献】特開2005-166450(JP,A)
【文献】特開2006-318698(JP,A)
【文献】特開2020-185120(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0052475(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00- 3/12
B60L 7/00-13/00
B60L 15/00-58/40
B60R 16/02
B60K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤホイール内に設けられたモータと、前記モータを収容するケース内に設けられた少なくとも一つのセンサと、車体に設けられた電源および電力を蓄電する蓄電装置と、前記車体に設けられかつ前記モータを制御するコントローラと、前記モータと前記電源および前記蓄電装置とを接続するパワーケーブルと、前記センサと前記コントローラとを接続するセンサケーブルとを備えたインホイールモータ車両の制御装置であって
前記コントローラは、前記センサケーブルが断線した場合に、前記蓄電装置に蓄電された電力を他の装置に放電する断線制御を実行するように構成され、
前記センサは、第1センサと、第2センサとを含み、
前記センサケーブルは、前記第1センサと前記コントローラとを接続する第1センサケーブルと、前記第2センサと前記コントローラとを接続する第2センサケーブルとを含む
とを特徴とするインホイールモータ車両の制御装置。
【請求項2】
タイヤホイール内に設けられたモータと、前記モータを収容するケース内に設けられた少なくとも一つのセンサと、車体に設けられた電源および電力を蓄電する蓄電装置と、前記車体に設けられかつ前記モータを制御するコントローラと、前記モータと前記電源および前記蓄電装置とを接続するパワーケーブルと、前記センサと前記コントローラとを接続するセンサケーブルとを備えたインホイールモータ車両の制御装置であって
記コントローラは、前記センサケーブルが断線した場合に、前記蓄電装置に蓄電された電力を他の装置に放電する断線制御を実行するように構成され、
前記コントローラに前記センサケーブルを接続する第1接続部と、前記センサに前記センサケーブルを接続する第2接続部と、前記車体に前記パワーケーブルを接続する第3接続部と、前記モータに前記パワーケーブルを接続する第4接続部とを備え、
前記車体に対する前記タイヤホイールの位置が変化することに伴って前記第3接続部と前記第4接続部とが最も離隔した場合の距離と、前記パワーケーブルの長さとの差が、前記車体に対する前記タイヤホイールの位置が変化することに伴って前記第1接続部と前記第2接続部とが最も離隔した場合の距離と、前記センサケーブルの長さとの差よりも長く構成されている
とを特徴とするインホイールモータ車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のインホイールモータ車両の制御装置であって
前記センサは、第1センサと、第2センサとを含み、
前記センサケーブルは、前記第1センサと前記コントローラとを接続する第1センサケーブルと、前記第2センサと前記コントローラとを接続する第2センサケーブルとを含む
ことを特徴とするインホイールモータ車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1または3に記載のインホイールモータ車両の制御装置であって
前記コントローラは、
前記第1センサケーブルと、前記第2センサケーブルとが断線した場合に、前記断線制御を実行するように構成されている
ことを特徴とするインホイールモータ車両の制御装置。
【請求項5】
請求項1または3に記載のインホイールモータ車両の制御装置であって
前記コントローラは、
前記第1センサケーブルと前記第2センサケーブルとのうちの一方のセンサケーブルが断線してから、予め定められた所定時間以内に他方のセンサケーブルが断線した場合に、
前記断線制御を実行するように構成されている
ことを特徴とするインホイールモータ車両の制御装置。
【請求項6】
請求項1または請求項3ないし5のいずれか一項に記載のインホイールモータ車両の制御装置であって
前記第1センサは、前記モータの温度を検出する温度センサを含み、
前記第2センサは、前記モータの回転数を検出する回転数センサを含む
ことを特徴とするインホイールモータ車両の制御装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載のインホイールモータ車両の制御装置であって
前記パワーケーブルは、前記センサケーブルよりも強度が高く構成されている
ことを特徴とするインホイールモータ車両の制御装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか一項に記載のインホイールモータ車両の制御装置であって
前記電源と前記パワーケーブルとの間に前記電源から前記モータに供給する電力を制御するパワーコントロールユニットを備え、
前記パワーコントロールユニットは、前記蓄電装置と、前記電源と前記蓄電装置との電力の授受を選択的に遮断するリレースイッチとを有し、
前記断線制御は、前記リレースイッチによって前記電源と前記蓄電装置との電力の授受を遮断するとともに、前記蓄電装置に蓄電された電力を前記他の装置に放電するように構成されている
ことを特徴とするインホイールモータ車両の制御装置。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載のインホイールモータ車両の制御装置であって
前記インホイールモータ車両は、前記タイヤホイールとは異なる他のタイヤホイールと、前記他のタイヤホイールに設けられた他のモータとを更に備え、
前記他の装置は、前記他のモータを含む
ことを特徴とするインホイールモータ車両の制御装置。
【請求項10】
請求項9に記載のインホイールモータ車両の制御装置であって
前記他のモータは、同期モータを含み、
前記断線制御は、前記他のモータにd軸電流を通電することにより、前記他のモータの出力トルクを0に制御しつつ前記蓄電装置の電力を放電するように構成されている
ことを特徴とするインホイールモータ車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、前輪または後輪のホイール内にモータを備えたインホイールモータ車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両のメインスイッチが入れられたときに、駆動力源としてのモータ側のコネクタと電源側のコネクタとが接続されていないことや、モータと電源とを接続するパワーケーブルが断線していることを検出する制御装置が記載されている。この制御装置は、モータに供給する電力を制御するパワーコントロールユニット(PCU)に設けられた所定のリレースイッチをオンに切り替えることによって、平滑コンデンサを比較的低電圧の所定電圧まで上昇させ、その後に、電源と平滑コンデンサとを非通電状態とするとともに、平滑コンデンサとモータとが通電状態となるようにスイッチ素子を制御する。そして、上記のように平滑コンデンサとモータとが通電状態となるように制御した時点で、モータに通電される電流が所定電流とならない場合に、制御装置は、上記コネクタが接続されていない、またはパワーケーブルが断線していると判断するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-33568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された制御装置は、平滑コンデンサを比較的低電圧にチャージし、その後に、電源と平滑コンデンサとを非通電状態としかつ平滑コンデンサからモータに通電する。そのため、コネクタが接続されていない場合やパワーケーブルが断線している場合であっても、パワーケーブルに出力される電力が小さいことにより、大きな電力が外部に漏電することを抑制できる。しかしながら、特許文献1に記載された制御装置は、メインスイッチが入れられた時に、コネクタが外れまたはパワーケーブルが断線していることを検出するものであり、制御開始時に平滑コンデンサがチャージされていない状態を前提としている。そのため、車両が走行しているときにコネクタが外れまたはパワーケーブルが断線したことを判断することができない。
【0005】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、電源とモータとを接続するパワーケーブルが断線した場合の断線制御を迅速に実行することができるインホイールモータ車両の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明は、タイヤホイール内に設けられたモータと、前記モータを収容するケース内に設けられた少なくとも一つのセンサと、車体に設けられた電源および電力を蓄電する蓄電装置と、前記車体に設けられかつ前記モータを制御するコントローラと、前記モータと前記電源および前記蓄電装置とを接続するパワーケーブルと、前記センサと前記コントローラとを接続するセンサケーブルとを備えたインホイールモータ車両の制御装置であって、前記コントローラは、前記センサケーブルが断線した場合に、前記蓄電装置に蓄電された電力を他の装置に放電する断線制御を実行するように構成され、前記センサは、第1センサと、第2センサとを含み、前記センサケーブルは、前記第1センサと前記コントローラとを接続する第1センサケーブルと、前記第2センサと前記コントローラとを接続する第2センサケーブルとを含むことを特徴とするものである
また、この発明は、タイヤホイール内に設けられたモータと、前記モータを収容するケース内に設けられた少なくとも一つのセンサと、車体に設けられた電源および電力を蓄電する蓄電装置と、前記車体に設けられかつ前記モータを制御するコントローラと、前記モータと前記電源および前記蓄電装置とを接続するパワーケーブルと、前記センサと前記コントローラとを接続するセンサケーブルとを備えたインホイールモータ車両の制御装置であって、前記コントローラは、前記センサケーブルが断線した場合に、前記蓄電装置に蓄電された電力を他の装置に放電する断線制御を実行するように構成され、前記コントローラに前記センサケーブルを接続する第1接続部と、前記センサに前記センサケーブルを接続する第2接続部と、前記車体に前記パワーケーブルを接続する第3接続部と、前記モータに前記パワーケーブルを接続する第4接続部とを備え、前記車体に対する前記タイヤホイールの位置が変化することに伴って前記第3接続部と前記第4接続部とが最も離隔した場合の距離と、前記パワーケーブルの長さとの差が、前記車体に対する前記タイヤホイールの位置が変化することに伴って前記第1接続部と前記第2接続部とが最も離隔した場合の距離と、前記センサケーブルの長さとの差よりも長く構成されていることを特徴とするものである。
【0007】
また、この発明では、前記センサは、第1センサと、第2センサとを含み、前記センサケーブルは、前記第1センサと前記コントローラとを接続する第1センサケーブルと、前記第2センサと前記コントローラとを接続する第2センサケーブルとを含んでよい。
【0008】
また、この発明では、前記コントローラは、前記第1センサケーブルと、前記第2センサケーブルとが断線した場合に、前記断線制御を実行するように構成されていてよい。
【0009】
また、前記コントローラは、前記第1センサケーブルと前記第2センサケーブルとのうちの一方のセンサケーブルが断線してから、予め定められた所定時間以内に他方のセンサケーブルが断線した場合に、前記断線制御を実行するように構成されていてよい。
【0010】
また、この発明では、前記第1センサは、前記モータの温度を検出する温度センサを含み、前記第2センサは、前記モータの回転数を検出する回転数センサを含んでよい。
【0011】
また、この発明では、前記パワーケーブルは、前記センサケーブルよりも強度が高く構成されていてよい。
【0013】
また、この発明では、前記電源と前記パワーケーブルとの間に前記電源から前記モータに供給する電力を制御するパワーコントロールユニットを備え、前記パワーコントロールユニットは、前記蓄電装置と、前記電源と前記蓄電装置との電力の授受を選択的に遮断するリレースイッチとを有し、前記断線制御は、前記リレースイッチによって前記電源と前記蓄電装置との電力の授受を遮断するとともに、前記蓄電装置に蓄電された電力を前記他の装置に放電するように構成されていてよい。
【0014】
また、この発明では、前記インホイールモータ車両は、前記タイヤホイールとは異なる他のタイヤホイールと、前記他のタイヤホイールに設けられた他のモータとを更に備え、前記他の装置は、前記他のモータを含んでよい。
【0015】
そして、この発明では、前記他のモータは、同期モータを含み、前記断線制御は、前記他のモータにd軸電流を通電することにより、前記他のモータの出力トルクを0に制御しつつ前記蓄電装置の電力を放電するように構成されていてよい。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、センサケーブルが断線した場合に、パワーケーブルが断線したものと判断して断線制御を実行することにより、電源の出力電圧やモータに通電される電流値に基づいて、パワーケーブルの断線を判断する場合よりも早期にパワーケーブルが断線したと判断することができる。その結果、蓄電装置に蓄電された電力を他の装置に放電する断線制御を迅速に実行することができるため、パワーケーブルから外部に電力が漏電することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この発明の実施形態におけるインホイールモータ車両の一例を説明するための模式図である。
図2】この発明の制御装置で実行される制御の一例を説明するためのフローチャートである。
図3】この発明の制御装置で実行される制御の他の例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の実施形態におけるインホイールモータ車両の一例を説明するための模式図を図1に示してある。図1には、右前輪に設けられたインホイールモータ(以下、単にモータと記す)1、およびモータ1の支持構造、ならびにモータ1に電力を供給する装置を模式的に示してある。なお、左前輪や右後輪および左後輪も同様に構成することができる。
【0019】
図1に示すモータ1は、車体2に対して上下動することができるように保持されている。具体的には、従来知られている車輪と同様に、サスペンション3にナックル4が連結され、モータ1のケース5の一部が、ナックル4に連結されている。
【0020】
また、図示しないステアリングホイールの操舵角に応じて、サスペンション3の中心軸線を中心として揺動するように、モータ1のケース5には、ステアリングホイールの操舵量に応じて車幅方向に移動するタイロッド(またはナックルアーム)6の端部が連結されている。すなわち、モータ1は、サスペンション3およびタイロッド6によって車体2に保持されている。なお、この発明の実施形態におけるモータ1は、サスペンション3およびタイロッド6によって車体2に支持されたものに限らず、ロアアームやアッパアームなどによって支持されていてもよい。また、モータ1は、前輪に設けられたものに限らず、後輪に設けられていてもよく、その場合には、タイロッド6が連結されていなくてよい。
【0021】
図1に示すモータ1は、従来知られている電気自動車やハイブリッド車両などの駆動力源として設けられたモータと同様に構成されている。すなわち、通電される電力に応じた駆動トルクを出力することができるとともに、駆動輪(ホイール)の回転数を低下させるように制動トルクを出力することにより、駆動輪の運動エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機としての機能を備えている。具体的には、従来知られている永久磁石式同期モータや誘導モータなどの交流モータによって構成されている。
【0022】
図1に示すモータ1は、三相交流型の永久磁石式同期モータによって構成されていて、スプライン係合などによって出力軸7に一体化された環状のロータ8と、そのロータ8の外周側に所定の隙間を空けて形成されかつケース5に固定された環状のステータ9とによって構成されている。
【0023】
このロータ8は、環状の鋼板を積層して構成され、ロータ8の外周側には、軸線方向に所定の長さを有する図示しない永久磁石が埋め込められている。ステータ9も同様に、環状の鋼板を積層して構成され、ステータ9の内周側に突出したステータティースが、円周方向に所定の間隔を空けて複数形成されている。そして、それぞれのステータティースにコイル10が巻き付けられている。
【0024】
モータ1の出力軸7は、ボールベアリングなどによってケース5に回転自在に保持されていて、その先端に、フランジ部材11が一体回転可能に連結されている。そして、フランジ部材11に有底円筒状のタイヤホイール12が図示しないボルトなどによって固定されている。なお、モータ1のケース5の少なくとも一部が、タイヤホイール12の内側に収容されている。
【0025】
上記のケース5には、ステータ9の温度を検出する温度センサ13や、モータ1の回転数を検出するレゾルバなどの回転数センサ14が設けられ、それらのセンサ13,14は、車体2に設けられた電子制御装置(以下、ECUと記す)15に、第1センサケーブル16a、および第2センサケーブル16bを介して接続されている。上記第1センサケーブル16aと第2センサケーブル16bとの構造および機能は同様である。したがって、以下の説明では、温度センサ13とECU15とを接続する第1センサケーブル16aと、回転数センサ14とECU15とを接続する第2センサケーブル16bとを区別することなく、まとめてセンサケーブル16と記す場合がある。なお、モータ1には、U相、V相、W相の各相を流れる電流を検出するための電流計が設けられ、その電流計もECU15に接続されている。
【0026】
上述したように構成されたモータ1に電力を供給する電源(BATT)17、および電源17からモータ1(より具体的には、コイル10)に供給する電力を制御するパワーコントロールユニット(以下、PCUと記す)18が、車体2に設けられている。
【0027】
電源17は、従来の電気自動車やハイブリッド車に設けられた電源と同様に、リチウムイオン電池やニッケル水素電池などの二次電池によって構成されている。PCU18は、電源17の出力電圧を平滑にするために電力を蓄電する図示しない平滑コンデンサ、電源17と平滑コンデンサとの電力の授受を選択的に遮断できるリレースイッチ、電源17から出力された直流電圧を交流電圧に変換するための図示しないインバータなどによって構成されている。この平滑コンデンサが、この発明の実施形態における「蓄電装置」に相当する。なお、PCU18には、平滑コンデンサの出力電圧を検出するための図示しない電圧計が設けられ、その電圧計とECU15とが接続されている。
【0028】
PCU18には、コイル10との間で電力を授受するためのパワーケーブル19が接続されている。なお、上述したように図1に示すモータ1は、三相交流モータであるから、それぞれの相に対応して三つのパワーケーブル19が、PCU18に接続されている。また、これらのパワーケーブル19は、一つに束ねることなく、それぞれが独立して屈曲できるように構成されている。
【0029】
また、車体2には、上述した各センサ13,14が接続されたECU15が設けられている。このECU15は、この発明の実施形態における「コントローラ」に相当するものであり、マイクロコンピュータを主体として構成されている。ECU15には、上記各センサ13,14に加えて、車両に設けられた図示しない種々のセンサが接続され、それらのセンサによって検出された信号や予め記憶されている演算式あるいはマップなどに基づいて、モータ1などを制御するための信号を出力する。具体的に例を挙げて説明すると、運転者によるアクセル操作量と車速とに基づいて要求駆動力を求め、その求められた要求駆動力を出力するためのモータトルクを求める。そして、求められたモータトルクに応じたスイッチ信号をPCU18に設けられたインバータの図示しないスイッチ素子に出力する。
【0030】
なお、上記のECU15およびPCU18は、図示しない他のインホイールモータ(以下、他のモータと記す)に供給する電力も制御するように構成されている。すなわち、例えば、モータ1への電力の供給を停止した状態で、他のモータに電力を供給することや、モータ1と他のモータとに供給する電力を異ならせることなど、それぞれのモータに供給する電力を適宜制御することができるように構成されている。
【0031】
上述したように図1に示すモータ1は、サスペンション3によって支持されているため、例えば、凹凸路を走行するなどによって、車体2に対してモータ1が上下動する。そのため、センサケーブル16をECU15に接続する部分(第1接続部)20とセンサケーブル16をモータ1に接続する部分(第2接続部)21との最短距離や、パワーケーブル19をPCU18に接続する部分(第3接続部)22とパワーケーブル19をモータ1に接続する部分(第4接続部)23との最短距離が、モータ1の上下動に応じて変化する。
【0032】
また、図1に示すモータ1は操舵輪に設けられている。そのため、第1接続部20と第2接続部21との最短距離や、第3接続部22と第4接続部23とのの最短距離が、車体2に対するモータ1の転舵角に応じて変化する。
【0033】
したがって、センサケーブル16は、モータ1が予め定められた範囲内で、車体2に対して上昇しまたは下降しまた車体2に対して転舵することにより第1接続部20と第2接続部21とが最も離隔した場合の距離よりも長く形成されている。同様に、パワーケーブル19は、モータ1が予め定められた範囲内で、車体2に対して上昇しまたは下降しまた車体2に対して転舵することにより第1接続部20と第2接続部21とが最も離隔した場合の距離よりも長く形成されている。
【0034】
また、パワーケーブル19は、センサケーブル16よりも通電される電力が大きいため、パワーケーブル19よりも太く形成されている。したがって、パワーケーブル19の強度は、センサケーブル16の強度よりも高い。
【0035】
さらに、上記のようにパワーケーブル19は、センサケーブル16よりも太いため、曲げ剛性もパワーケーブル19の方がセンサケーブル16よりも高い。そのため、パワーケーブル19がセンサケーブル16よりも屈曲しにくい。
【0036】
そのため、パワーケーブル19の余裕長さは、センサケーブル16の余裕長さよりも長く形成されている。具体的には、モータ1が車体2に対して上昇しまたは下降し、更に車体2に対して転舵することにより第3接続部22と第4接続部23とが最も離隔した場合の距離とパワーケーブル19の長さとの差が、モータ1が車体2に対して上昇しまたは下降し、更に車体2に対して転舵することにより第1接続部20と第2接続部21とが最も離隔した場合の距離とセンサケーブル16の長さとの差よりも長くなるように、パワーケーブル19が形成されている。
【0037】
上述したようにパワーケーブル19には、比較的高い電力が通電されるため、例えば、車両が衝突するなどによってパワーケーブル19が断線した場合には、PCU18からパワーケーブル19に出力される電力を低下させるための制御(以下、断線制御と記す)に迅速に切り替えることが好ましい。より具体的には、リレースイッチをオフに切り替えて電源17とPCU18との間を電気的に遮断し、さらに平滑コンデンサに蓄電された電力を、他のモータに通電して、平滑コンデンサの蓄電電力を低下させることが好ましい。
【0038】
一方、電圧計からECU15に入力される信号と、電流計からECU15に入力される信号との相関関係が意図したものとならない場合に、パワーケーブル19が断線したと判断することができる。しかしながら、上記の相関関係は、電圧計や電流計の測定誤差や、モータ1の温度に応じた永久磁石の磁力、あるいはモータ1の経年劣化や個体差などの種々の要因によって変化する。そのため、そのような要因によってパワーケーブル19が断線されたと誤って判断されることを回避するために、電圧計と電流計との相関関係がある程度変化するまでの間は、パワーケーブル19が断線したと判断することができない。それに対して、センサケーブル16の断線は、法規制に基づいて瞬時に判断することができるように構成されている。
【0039】
そのため、この発明の実施形態における制御装置は、センサケーブル16が断線した場合に、断線制御に切り替えるように構成されている。図2は、その制御例を説明するためのフローチャートである。図2に示す例では、まず、温度センサ13とECU15とを接続する第1センサケーブル16aが断線しているか否かを判断する(ステップS1)。このステップS1は、第1センサケーブル16aの断線を法規制に基づいて判断すればよい。つまり、第1センサケーブル16aの断線を判定するフラグがオンである場合には、ステップS1で肯定的に判断される。
【0040】
第1センサケーブル16aが断線していることによりステップS1で肯定的に判断された場合は、回転数センサ14とECU15とを接続する第2センサケーブル16bが断線しているか否かを判断する(ステップS2)。このステップS2は、ステップS1と同様に、第2センサケーブル16bの断線を法規制に基づいて判断すればよい。つまり、第2センサケーブル16bの断線を判定するフラグがオンである場合には、ステップS2で肯定的に判断される。
【0041】
上述したようにパワーケーブル19は、センサケーブル16よりも強度が高く、また余裕長さが長いため、センサケーブル16よりも断線しにくい。したがって、第1センサケーブル16aと第2センサケーブル16bとのいずれか一方が断線していないことによりステップS1またはステップS2で否定的に判断された場合は、パワーケーブル19が断線するほどの荷重が作用してなく、またはパワーケーブル19が断線する程度までモータ1と車体2との距離が離れていないと判断することができる。すなわち、パワーケーブル19が断線していないと判断できる。そのため、ステップS1またはステップS2で否定的に判断された場合は、断線制御を実行することなく、そのままこのルーチンを一旦終了する。
【0042】
それとは反対に、第1センサケーブル16aと第2センサケーブル16bとが断線していることによりステップS1およびステップS2で肯定的に判断された場合は、モータ1が車体2から外れている可能性が高い。つまり、パワーケーブル19も断線している可能性が高い。そのため、図2に示す制御例では、パワーケーブル19が断線しているものとして、断線制御を実行して(ステップS3)、このルーチンを一旦終了する。すなわち、リレースイッチを開放することによって電源17とPCU18とを遮断し、さらに平滑コンデンサに蓄電された電力を、他のモータに供給(放電)するなどによって低下させる。なお、平滑コンデンサから他のモータに電力を供給する場合には、電力を供給されることによって他のモータからトルクが出力されないように(つまり、出力トルクを0に制御するように)、例えば、電力が供給される他のモータの回転角に応じた相(d軸)に電力を通電することが好ましい。
【0043】
上述したように第1センサケーブル16aと第2センサケーブル16bとが断線した場合に、パワーケーブル19が断線したものと判断して断線制御を実行することにより、PCU18の出力電圧やモータ1に通電される電流値に基づいて、パワーケーブル19の断線を判断する場合よりも早期にパワーケーブル19が断線したと判断することができる。その結果、パワーケーブル19に通電される電力を迅速に低下させることができる。
【0044】
なお、上述した制御例では、二つのセンサケーブル16a,16bが断線した場合に、パワーケーブル19が断線したものと判断して断線制御を実行するように構成されているが、少なくともいずれか一方のセンサケーブル16a,16bが断線した場合に、断線制御を実行するように構成してもよい。また、例えば、モータ1を冷却し、または摺動部を潤滑するためのオイルがケース5内に封入されている場合には、そのオイルの温度を検出するセンサを設け、そのセンサが断線した場合に、断線制御を実行するなど、パワーケーブル19の断線を判断するためのセンサケーブルは、上記の第1センサケーブル16aおよび第2センサケーブル16bに限らない。さらに、第1センサケーブル16aと第2センサケーブル16bとに加えて、上記のオイルの温度を検出するセンサを設けるなど、三つ以上のセンサケーブルを備えている場合には、三つ以上のセンサケーブルが断線した場合にパワーケーブル19が断線しているものとして断線制御を実行するように構成してもよい。
【0045】
一方、第1センサケーブル16aが断線し、第1センサケーブル16aが断線してから所定時間が経過した後に、第2センサケーブル16bが断線するなど、各センサケーブル16a,16bが個別に断線した場合には、パワーケーブル19が断線していない可能性がある。そのような場合に断線制御を実行すると、他のモータにも電力を出力できなくなるため、車両を駆動走行させることができなくなる。
【0046】
そのため、図3に示す制御例では、第1センサケーブル16aと第2センサケーブル16bとがほぼ同時に断線した場合に、パワーケーブル19が断線したものと判断して断線制御を実行するように構成されている。したがって、図3に示す制御例では、まず、第1センサケーブル16aと第2センサケーブル16bとのいずれか一方のセンサケーブル16a(16b)が断線したか否かを判断する(ステップS11)。このステップS11は、図2に示す制御例におけるステップS1やステップS2と同様に判断することができる。
【0047】
一方のセンサケーブル16a(16b)が断線したことによりステップS11で肯定的に判断された場合は、タイマーのカウントを開始し(ステップS12)、続いて、ステップS11で肯定的に判断されてから予め定められた所定時間が経過していないか否かを判断する(ステップS13)。このステップS13における所定時間は、車両が衝突して脱輪する場合に、一方のセンサケーブル16a(16b)が断線してから、他方のセンサケーブル16b(16a)が断線するまでに要すると考えられる時間に定めることができる。
【0048】
したがって、ステップS11で肯定的に判断されてから所定時間が経過していないことによりステップS13で肯定的に判断された場合は、他方のセンサケーブル16b(16a)が断線したか否かを判断する(ステップS14)。このステップS14は、図2に示す制御例におけるステップS1やステップS2と同様に判断することができる。
【0049】
他方のセンサケーブル16b(16a)が断線したことによりステップS14で肯定的に判断された場合、すなわち、第1センサケーブル16aと第2センサケーブル16bとが所定時間の間に断線した場合には、脱輪するなどによってパワーケーブル19が断線している可能性が高い。そのため、図3に示す制御例では、ステップS14で肯定的に判断された場合は、パワーケーブル19が断線しているものと判断して断線制御を実行して(ステップS15)、このルーチンを一旦終了する。
【0050】
一方、各センサケーブル16a,16bが断線していないことによりステップS11で否定的に判断された場合や、一方のセンサケーブル16a(16b)が断線してから所定時間が経過していることによりステップS13で否定的に判断された場合には、そのままこのルーチンを一旦終了する。また、一方のセンサケーブル16a(16b)が断線してからの経過時間が所定時間以内であり、かつ他方のセンサケーブル16b(16a)が断線していない場合には、ステップS13にリターンする。すなわち、所定時間が経過するまで、または他方のセンサケーブル16b(16a)が断線するまで、ステップS13およびステップS14を繰り返し実行する。
【0051】
上述したように一方のセンサケーブル16a(16b)と他方のセンサケーブル16b(16a)とが所定時間内に断線した場合に限って、パワーケーブル19が断線したものとして断線制御を実行することにより、パワーケーブル19の断線を誤って判断することを抑制することができる。その結果、各センサケーブル16a,16bが断線しかつパワーケーブル19が断線していない場合に、例えば、他のモータに電力を供給するなどしてリンプホーム走行することができる。そのような場合であっても、パワーケーブル19が断線していないことにより、大きな電力が外部に漏電することを抑制できる。
【0052】
なお、第1センサケーブル16aのみが断線した場合には、モータ1の温度を検出することができなくなるものの、モータ1の出力を制限して走行してもよい。また、第2センサケーブル16bのみが断線した場合には、モータ1の回転数を検出することができなくなるものの、他のモータによって走行してもよい。
【0053】
なお、この発明の実施形態におけるインホイールモータ車両は、全ての車輪にインホイールモータを備えた車両や、一対の前輪と一対の後輪とのいずれか一方にインホイールモータを備え、車体に設けられた他の駆動力源によって他方の車輪を駆動するように構成された車両であってもよい。また、インホイールモータの出力軸に減速機構を設けるなど、インホイールモータとタイヤホイールとの間に他の機構を設けていてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 モータ
2 車体
5 ケース
8 ロータ
9 ステータ
10 コイル
12 タイヤホイール
13 温度センサ
14 回転数センサ
15 電子制御装置(ECU)
16(16a,16b) センサケーブル
17 電源
18 パワーコントロールユニット(PCU)
19 パワーケーブル
20,21,22,23 接続部
図1
図2
図3