(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】ラチェットフィッティング、配管接続構造および液体クロマトグラフ
(51)【国際特許分類】
F16D 7/02 20060101AFI20240925BHJP
G01N 30/26 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
F16D7/02 F
G01N30/26 N
(21)【出願番号】P 2021100828
(22)【出願日】2021-06-17
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】柳林 潤
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0334894(US,A1)
【文献】特開2014-095700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 1/00-9/10
B01J 20/281-20/292
G01N 30/00-30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロマトグラフの配管の接続に用いられるラチェットフィッティングであって、
一方向に延びる軸の周りで回転可能なネジ部と、
前記ネジ部に前記軸の周りのトルクを与える操作部とを備え、
前記ネジ部および前記操作部のうち一方は、内周面を有する係合部材を有し、
前記ネジ部および前記操作部のうち他方は、外周面を有する弾性部材と、前記弾性部材とは別体で形成された保持部材とを有し、
前記係合部材の前記内周面には、内方へ突出する突起が設けられ、
前記弾性部材の前記外周面には、外方へ突出する突出部が設けられ、
前記弾性部材および前記係合部材は、前記突起と前記突出部との係合により互いに回転力を伝達可能でありかつ前記弾性部材の変形により前記突起と前記突出部との係合が解除可能であるように嵌め合わされ、
前記弾性部材は、第1の嵌合部を有し、
前記保持部材は、第2の嵌合部を有し、
前記保持部材および前記弾性部材は、回転方向において前記第1の嵌合部と前記第2の嵌合部とが互いに嵌合するように嵌め合わされた、ラチェットフィッティング。
【請求項2】
前記第1の嵌合部は、前記軸方向に平行な第1の接触面を有し、
前記第2の嵌合部は、前記軸方向に平行でかつ前記弾性部材および前記保持部材の一体的な回転時に前記第1の嵌合部の前記第1の接触面に接触可能な第2の接触面を有し、
前記弾性部材は、前記突出部と前記突起との係合により内方に変形する第1の部分と外方に変形する第2の部分とを有し、
前記第1の嵌合部の前記第1の接触面は、前記軸方向視で前記回転方向における前記第1の部分と前記第2の部分との中間に位置する、請求項1記載のラチェットフィッティング。
【請求項3】
前記第1および第2の嵌合部のうち一方は、前記軸方向に突出する凸部を含み、
前記第1および第2の嵌合部のうち他方は、前記凸部が嵌合する凹部を含む、請求項1または2記載のラチェットフィッティング。
【請求項4】
前記弾性部材は、前記第1の嵌合部として前記凸部を有し、
前記保持部材は、前記第2の嵌合部として前記凹部を有する、請求項3記載のラチェットフィッティング。
【請求項5】
前記凸部は、前記弾性部材の回転中心に関して対称な位置に設けられる第1および第2の凸部を含み、
前記凹部は、前記保持部材の回転中心に関して対称な位置に設けられる第1および第2の凹部を含み、
前記弾性部材は、前記第1および第2の凸部がそれぞれ前記第1および第2の凹部に嵌合した状態で前記保持部材と一体的に回転可能である、請求項4記載のラチェットフィッティング。
【請求項6】
前記突出部は、前記弾性部材の回転中心に関して互いに対称な位置に設けられる第1および第2の突出部を有し、
前記第1および第2の突出部は、前記軸方向視で前記回転方向における前記第1の凸部と前記第2の凸部との間に設けられた、請求項5記載のラチェットフィッティング。
【請求項7】
クロマトグラフの配管と、
請求項1~6のいずれか一項に記載のラチェットフィッティングと、
前記ラチェットフィッティングにより前記配管が接続される配管接続部とを備えた、配管接続構造。
【請求項8】
複数の構成要素を備え、
請求項7に記載の前記配管接続部により配管が前記複数の構成要素のいずれかに接続される、液体クロマトグラフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラチェットフィッティング、配管接続構造および液体クロマトグラフに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、クロマトグラフ等の配管を接続するためのトルク制限接続具が記載される。トルク制限接続具は、頭部分および本体部分を含む。本体部分の上端部に頭部分が嵌め込まれ、頭部分および本体部分に配管が挿入される。頭部分にトルク規定値以下のトルクが与えられると、頭部分および本体部分が一体的に回転可能になる。一方、頭部分にトルク規定値よりも大きいトルクが与えられると、頭部分が本体部分に対して空転する。したがって、本体部分にトルク規定値よりも大きいトルクが与えられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のトルク制限接続具においては、頭部分の内周面に、傾斜部分を有するアバットメント(突起)が設けられる。本体部分には、円周方向に延びるスロットが形成されている。本体部分のスロットよりも上の部分(以下、上側部分と呼ぶ。)と本体部分のスロットよりも下の部分(以下、下側部分と呼ぶ。)とは、スロット以外の部分(以下、接続部分と呼ぶ。)で一体化されている。本体部分の下側部分には、雄ねじ部分が設けられる。本体部分の上側部分の外周面には、軸方向に延びるようにアバットメントが設けられる。
【0005】
頭部分のアバットメントと本体部分のアバットメントとが円周方向において係合するように、本体部分の上側部分に頭部分が嵌め込まれる。それにより、頭部分にトルク規定値以下のトルクが与えられると、頭部分および本体部分が一体的に回転可能になる。一方、頭部分にトルク規定値よりも大きいトルクが与えられると、本体部分の上側部分が変形する。この場合、本体部分のアバットメントが内方に変形することにより、頭部分のアバットメントと本体部分のアバットメントとの係合が外れる。それにより、頭部分が本体部分に対して空転する。したがって、本体部分にトルク規定値よりも大きいトルクが与えられない。
【0006】
しかしながら、本体部分の上側部分の下端と下側部分の上端とは、接続部分で一体化されている。本体部分の上側部分の上端は、解放されている。そのため、本体部分の上側部分の上端は変形し易いが、本体部分の上側部分の下端は変形し難い。それにより、本体部分の上側部分にトルクが与えられたときに、軸方向においてアバットメントの変形が均一にならないことがある。その結果、トルク規定値がばらつく可能性がある。
【0007】
本発明の目的は、トルク規定値の精度が向上されたラチェットフィッティング、それを用いた配管接続構造およびそれを用いた液体クロマトグラフを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面に従うラチェットフィッティングは、クロマトグラフの配管の接続に用いられるラチェットフィッティングであって、一方向に延びる軸の周りで回転可能なネジ部と、ネジ部に軸の周りのトルクを与える操作部とを備え、ネジ部および操作部のうち一方は、内周面を有する係合部材を有し、ネジ部および操作部のうち他方は、外周面を有する弾性部材と、弾性部材とは別体で形成された保持部材とを有し、係合部材の内周面には、内方へ突出する突起が設けられ、弾性部材の外周面には、外方へ突出する突出部が設けられ、弾性部材および係合部材は、突起と突出部との係合により互いに回転力を伝達可能でありかつ弾性部材の変形により突起と突出部との係合が解除可能であるように嵌め合わされ、弾性部材は、第1の嵌合部を有し、保持部材は、第2の嵌合部を有し、保持部材および弾性部材は、回転方向において第1の嵌合部と第2の嵌合部とが互いに嵌合するように嵌め合わされる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ラチェットフィッティングのトルク規定値の精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施の形態に係るラチェットフィッティングの斜視図である。
【
図2】
図1のラチェットフィッティングが分解された状態を斜め後方に見た斜視図である。
【
図3】
図1のラチェットフィッティングが分解された状態を斜め前方から見た図である。
【
図4】
図2および3の本体部およびスプリングの拡大斜視図である。
【
図6】
図4の本体部内に収容されたスプリングを表す平面図である。
【
図7】
図2および
図3のスプリングおよびヘッドの拡大斜視図である。
【
図8】
図7のヘッドに嵌合されたスプリングを表す平面図である。
【
図9】
図1のラチェットフィッティングによる配管の接続構造を示す断面図である。
【
図10】他の実施の形態に係るラチェットフィッティングが分解された状態を斜め後方に見た斜視図である。
【
図11】他の実施の形態に係るラチェットフィッティングが分解された状態を斜め前方から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態に係るラチェットフィッティングおよびそれを用いた接続構造について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
(1)ラチェットフィッティングの構成
図1は、一実施の形態に係るラチェットフィッティングの斜視図である。
図2は、
図1のラチェットフィッティングが分解された状態を斜め後方に見た斜視図である。
図3は、
図1のラチェットフィッティングが分解された状態を斜め前方から見た図である。
図1、
図2および
図3には、前方Fおよび後方Rがそれぞれ矢印で示される。
【0013】
図1のラチェットフィッティング100は、メイルナット1、本体部2、スプリング3(
図2および
図3参照)、ヘッド4および固定板5を備える。メイルナット1、本体部2および固定板5がネジ部100Aを構成し、スプリング3およびヘッド4が操作部100Bを構成する。
【0014】
図2および
図3に示すように、メイルナット1は、雄ねじ部1a、円筒部1b,1c、係合部1dおよび円筒部1eをこの順に有する。本実施の形態では、雄ねじ部1a、円筒部1b,1c、係合部1dおよび円筒部1eは、ステンレス鋼により一体的に形成される。なお、メイルナット1は、アルミニウム等の他の金属または硬質の樹脂材料等により形成されてもよい。雄ねじ部1a、円筒部1b,1c、係合部1dおよび円筒部1eの内部には、互いに連通する直線状の連通孔10aが形成される。以下、連通孔の中心軸を軸AXと呼ぶ。軸AXの方向を軸方向と呼ぶ。連通孔10aには、
図1に一点鎖線で示すように、配管110が挿入される。本実施の形態において、
図1~
図3のラチェットフィッティング100は、液体クロマトグラフに用いられる。
図1~
図3のラチェットフィッティング100は、超臨界流体液体クロマトグラフ等の他のクロマトグラフで用いられてもよい。
【0015】
雄ねじ部1aは、円筒形状を有する。雄ねじ部1aの外周面には、雄ねじが形成される。以下、雄ねじ部を締め付けるための回転方向を締付方向Tと呼ぶ。本実施の形態では、円筒部1bは、円筒部1cより小さな外径を有する。係合部1dは、六角形状の断面を有する。円筒部1eの外周面の後端近傍には、環状の溝部11eが形成される。
【0016】
本体部2は、テーパ部2aおよび円筒部2bを含む。テーパ部2aは、円筒部2bから前方Fに漸次減少する外径を有する。
図3に示すように、テーパ部2aには、前方Fに開口する開口部21aが形成される。開口部21aには、メイルナット1の係合部1dの六角形状の断面に対応する六角形状の断面を有する内周面22aが形成される。
【0017】
図2に示すように、円筒部2bには、後方Rに開口する開口部21bが形成される。開口部21bは、断面円形状の内周面22bを有する。開口部21bの内周面22bには、複数の突起がそれぞれ軸方向に延びるように設けられる。複数の突起は、軸AXを中心として等角度間隔で配置されている。本実施の形態では、4つの突起210,220,230,240が設けられている。円筒部2bは、開口部21bを取り囲む環状の当接面23bを有する。テーパ部2aの開口部21aおよび円筒部2bの開口部21bとは、貫通孔20aにより互いに連通する。
【0018】
本体部2のテーパ部2aおよび円筒部2bは、樹脂により一体的に形成される。本実施の形態において、本体部2は、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)により形成される。なお、本体部2は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の他の樹脂により形成されてもよい。
【0019】
スプリング3は、環状部300、複数の突出部310,320および複数の凸部330,340を有する。環状部300は、略円形または略楕円形の断面を有する。環状部300は、貫通孔30aを有する。複数の突出部310,320は、環状部300の外方に延びるように、環状部300の外周面に形成されている。また、複数の突出部310,320は、軸AXを中心として等角度間隔で配置されている。本実施の形態では、2つの突出部310,320が軸AXを中心として互いに対称な位置に形成されている。
【0020】
複数の凸部330,340は、環状部300の後端面から後方かつ軸方向に延びるように形成されている。また、複数の凸部330,340は、軸AXを中心として等角度間隔で配置されている。本実施の形態では、2つの凸部330,340が軸AXを中心として互いに対称な位置に形成されている。
【0021】
スプリング3は、変形可能でかつ復元力を有する弾性材料により形成される。本実施の形態では、スプリング3の環状部300、複数の突出部310,320および複数の凸部330,340は、樹脂により一体的に形成される。本実施の形態において、スプリング3は、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)により形成される。スプリング3は、メイルナット1より軟質のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の他の樹脂により形成されてもよい。
【0022】
ヘッド4は、
図3に示される前端面4aおよび
図2に示される後端面4bを有するとともに、軸方向に平行な外周面41を有する。ヘッド4の中央部には、貫通孔40aが設けられる。
図3に示すように、ヘッド4の前端面4aには、複数の凹部410,420が形成されている。複数の凹部410,420は、スプリング3の複数の凸部330,340に対応するように、貫通孔40aの周囲の位置に等角度間隔で配置されている。複数の凹部410,420には、複数の凸部330,340が嵌合可能である。本実施の形態では、2つの凹部410,420が軸AXを中心として対称な位置に形成されている。
【0023】
ヘッド4は、樹脂により形成される。本実施の形態において、ヘッド4は、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)により形成される。ヘッド4は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の他の樹脂により形成されてもよい。
【0024】
固定板5は、円弧形状を有する。固定板5には、内方に向かって突出する突出部51,52,53が形成される。突出部51,52,53は、メイルナット1の円筒部1eの溝部11eに取り付け可能に形成される。
【0025】
図2および
図3に示すように、ラチェットフィッティング100の組み立ての際には、メイルナット1の円筒部1eが本体部2、スプリング3およびヘッド4に嵌め込まれる。この状態で、本体部2のテーパ部2aの開口部21aの六角形状の内周面がメイルナット1の六角形状の係合部1dに係合する。それにより、本体部2がメイルナット1に回転不可能に固定される。本体部2の円筒部2bの開口部21b内には、スプリング3が収容される。また、スプリング3の凸部330,340がヘッド4の凹部410,420に嵌め込まれる。ヘッド4の前端面4aは、本体部2の後端面に回転可能に接触する。メイルナット1の円筒部1eの後端は、ヘッド4の貫通孔40aから後方Rに突出する。
図1に示すように、ヘッド4から突出した円筒部1eの溝部11eに固定板5の突出部51~53が嵌め込まれる。それにより、スプリング3およびヘッド4がメイルナット1および本体部2に対して回転可能に取り付けられる。
【0026】
(2)本体部2およびスプリング3の係合
図4は、
図2および3の本体部2およびスプリング3の拡大斜視図である。
図5は、
図4の本体部2の拡大斜視図である。
図6は、
図4の本体部2内に収容されたスプリング3を表す平面図である。
図6には、本体部2およびスプリング3の後方視(後ろから軸方向に見た場合)が示される。
【0027】
本体部2の突起210~240の各々は、被係合面f1,f2および中間面f3を有する。被係合面f1は、締付方向Tにおいて円筒部2bの内周面22bから内方に傾斜するように形成される。被係合面f2は、締付方向Tと逆の方向(以下、解除方向Uと呼ぶ。)において円筒部2bの内周面22bから内方に傾斜するように形成される。中間面f3は、軸AXを中心とする円形の断面を有し、被係合面f1と被係合面f2とをつなぐように形成される。
【0028】
図5に示すように、締付方向Tにおいて、被係合面f1と内周面22bとがなす角度a1は、解除方向において被係合面f2と内周面22bとがなす角度a2よりも小さい。円周方向における被係合面f1の長さL1は、円周方向における被係合面f2の長さL2よりも大きい。
【0029】
図6に示すように、スプリング3の突出部310,320の各々は、係合面F1,F2および中間面F3を有する。係合面F1は、平面状に形成され、解除方向Uにおいて環状部300の外周面3aから中間面F3まで延びる。係合面F2は、僅かに凹状に湾曲するように形成され、締付方向Tにおいて環状部300の外周面3aから中間面F3まで延びる。中間面F3は、軸AXを中心とする円形の断面を有する。ここで、
図6の後方視において、突出部310,320の中間面F3の中心を通る軸を軸A1と呼ぶ。軸A1に直交する軸を軸A2と呼ぶ。軸A1,A2は軸AXに直交する。
【0030】
軸A1の方向におけるスプリング3の長さ(突出部310の中間面F3の中心と突出部320の中間面F3の中心との間の長さ)は、軸A2の方向におけるスプリング3の長さよりも長い。すなわち、軸AXから突出部310の中間面F3までの長さは、軸A2の方向における軸AXから環状部300の一方の外周面までの長さよりも大きい。軸AXから突出部320の中間面F3までの長さは、軸A2の方向における軸AXから環状部300の他方の外周面までの長さよりも大きい。
【0031】
スプリング3が軸AXを中心に締付方向Tに予め定められたトルク規定値以下のトルクで回転する場合、スプリング3の突出部310の係合面F1が本体部2の突起210の被係合面f1に接触するとともに、スプリング3の突出部320の係合面F1が本体部2の突起230の被係合面f1に接触する。それにより、スプリング3が本体部2に係合する。その結果、本体部2がスプリング3とともに締付方向Tに回転する。
【0032】
この状態で、スプリング3が軸AXを中心に締付方向Tにトルク規定値よりも大きいトルクで回転すると、突起210,230の被係合面f1に働く反力が突出部310,320に与えられる。それにより、突出部310,320が矢印S1,S2で示すように軸AXに近づくように内方に向かってそれぞれ変形する。これに伴い、スプリング3の突出部310,320間の環状部300が矢印S3,S4で示すように軸AXから遠ざかるように外方に向かって変形する。このように、スプリング3は、軸A1の方向において圧縮され、軸A2の方向において伸張される。この場合、スプリング3の突出部310,320が本体部2の突起210~240を乗り越えることが可能となる。それにより、スプリング3と本体部2との係合が外れる。その結果、スプリング3が本体部2に対して空転する。
【0033】
このような構成により、締付方向Tにおいてスプリング3にトルク規定値よりも大きなトルクが与えられても、本体部2にトルク規定値よりも大きなトルクが与えられない。
【0034】
一方、スプリング3が軸AXを中心に解除方向Uに任意のトルクで回転する場合、スプリング3の突出部310の係合面F2が本体部2の突起210の被係合面f2に接触するとともに、スプリング3の突出部320の係合面F2が本体部2の突起230の被係合面f2に接触する。それにより、スプリング3が本体部2に係合する。その結果、本体部2がスプリング3とともに解除方向Uに回転する。
【0035】
この場合、本体部2の突起210~240の被係合面f2の角度a2が被係合面f1の角度a1よりも大きく、かつスプリング3の突出部310,320の係合面F2が凹状に形成されている。したがって、スプリング3と本体部2との係合が外れにくい。そのため、解除方向Uにおいてスプリング3にトルク規定値よりも大きなトルクが与えられた場合、本体部2がスプリング3とともに解除方向Uに回転する。
【0036】
(3)スプリング3およびヘッド4の嵌合
図7は、
図2および
図3のスプリング3およびヘッド4の拡大斜視図である。
図8は、
図7のヘッド4に嵌合されたスプリング3を表す平面図である。
図8には、スプリング3およびヘッド4の前方視(前から軸方向に見た場合)が示される。
【0037】
スプリング3の凸部330,340の各々は、当接面cおよび接触面e1,e2を有する。各凸部330,340の接触面e1,e2は、軸方向に延びるように形成される。各凸部330,340の当接面cは、接触面e1と接触面e2とをつなぐように軸AXに垂直に形成される。本実施の形態において、
図6に示すように、後方視において、各凸部330,340の接触面e1は、内方に変形する突出部310,320の中間面F3の中心と、外方に変形する環状部300の中心との中間に位置する。各接触面e1が軸A1と軸A2との間の角度を2等分する位置に形成されることが好ましい。
【0038】
ヘッド4の凹部410,420の各々は、被当接面Cおよび被接触面E1,E2を有する。被接触面E1,E2は、軸方向に平行かつ軸AXを中心とする半径方向に延びるように形成される。各凸部330,340の被当接面Cは、被接触面E1と被接触面E2とをつなぐように軸AXに垂直に形成される。
【0039】
ヘッド4の凹部410,420内にスプリング3の凸部330,340が嵌合される。この状態で、
図8に示すように、ヘッド4が軸AXを中心に締付方向Tに回転すると、凹部410の被接触面E1が凸部330の接触面e1に接触するとともに凹部420の被接触面E1が凸部340の接触面e1に接触する。それにより、スプリング3がヘッド4とともに締付方向Tに一体的に回転する。
【0040】
また、ヘッド4が軸AXを中心に解除方向Uに回転すると、凹部410の被接触面E2が凸部330の接触面e2に接触するとともに凹部420の被接触面E2が凸部340の接触面e2に接触する。それにより、スプリング3がヘッド4とともに解除方向Uに一体的に回転する。
【0041】
(4)ラチェットフィッティング100による配管の接続例
図9は、
図1のラチェットフィッティング100による配管の接続構造を示す断面図である。
【0042】
被接続部材700は、被接続孔710および流路720を含む。被接続孔710は、被接続部材700の後端面700aに設けられる。被接続孔710は、雌ねじ部711、テーパ部712および円筒部713を含む。雌ねじ部711、テーパ部712および円筒部713は、後端面700aから前方Fにこの順に形成される。雌ねじ部711の内周面には、ラチェットフィッティング100のメイルナット1の雄ねじ部1aに対応する雌ねじが形成される。雌ねじ部711および円筒部713は、円筒形状を有する。雌ねじ部711の内径は、円筒部713の内径より大きい。テーパ部712の内周面は、雌ねじ部711から円筒部713に漸次減少する内径を有する。流路720は、円筒部713から軸AXを中心に前方Fに延びるように形成される。ラチェットフィッティング100には、配管110が挿入される。本例では、ラチェットフィッティング100の雄ねじ部1aから前方に突出する配管110の外周面にフェルール800が取り付けられる。
【0043】
被接続部材700の被接続孔710には、ラチェットフィッティング100のメイルナット1が挿入される。フェルール800は、テーパ部712内に充填される。被接続孔710の雌ねじ部711にメイルナット1の雄ねじ部1aが螺合される。それにより、ラチェットフィッティング100により被接続部材700に配管110が接続される。この構成によれば、ラチェットフィッティング100が締め付けられると、フェルール800の後端面が雄ねじ部1aの前端面により前方に押圧される。それにより、被接続孔710と配管110とがフェルール800により封止される。本実施の形態のラチェットフィッティング100では、締付トルクが高い精度で与えられるので、フェルール800の後端面を押圧する力のばらつきが低減される。したがって、被接続孔710と配管110との封止が安定する。
【0044】
(5)実施の形態の効果
本実施の形態に係るラチェットフィッティング100によれば、ヘッド4とスプリング3とが別体で形成されているので、スプリング3の変形がヘッド4の影響を受けない。したがって、操作部100Bにトルク規定値よりも大きいトルクが与えられたときに、スプリング3が均一に変形することができる。その結果、ラチェットフィッティング100のトルク規定値の精度が向上する。
【0045】
また、スプリング3の接触面e1とヘッド4の被接触面E1とが接触することにより、スプリング3とヘッド4との間で回転力が伝達される。この場合、接触面e1は、スプリング3の軸方向視において、内方に変形する突出部310,320と外方に変形する環状部300との中間に位置する。すなわち、スプリング3の変形しない位置にヘッド4から回転力が伝達される。したがって、ヘッド4とスプリング3との間での回転力の伝達がスプリング3の変形に影響しない。その結果、スプリング3がより均一に変形することができる。
【0046】
(6)他の実施の形態
図10は、他の実施の形態に係るラチェットフィッティングが分解された状態を斜め後方に見た斜視図である。
図11は、他の実施の形態に係るラチェットフィッティングが分解された状態を斜め前方から見た図である。
図10および
図11には、前方Fおよび後方Rがそれぞれ矢印で示される。
【0047】
図10および
図11のラチェットフィッティング100は、メイルナット10、本体部20、スプリング30、ヘッド40および固定板50を備える。本実施の形態では、メイルナット10、本体部20、スプリング30および固定板50がネジ部100Aを構成し、ヘッド40が操作部100Bを構成する。
【0048】
メイルナット10、スプリング30および固定板50の構成は、
図2および
図3のメイルナット1、スプリング3および固定板5の構成と同様である。なお、スプリング30は、凸部330,340が前方に位置し、環状部300および突出部310,320が
後方に位置するように配置される。
【0049】
図10に示すように、本体部20には、
図3のヘッド4の凹部410,420と同様の凹部410,420が設けられる。本体部20の凹部410,420にスプリング30の凸部330,340が嵌合する。
【0050】
図11に示すように、ヘッド40には、
図2の本体部2の開口部21bおよび突起210,220,230,240と同様の開口部21bおよび突起210,220,230,240が設けられる。ヘッド40の開口部21b内にスプリング30
が収容される。この状態で、スプリング30の突出部310,320は、回転方向においてヘッド40の突起210,220,230,240に係合する。
【0051】
図10および
図11のラチェットフィッティング100では、本体部20とスプリング30とが回転不可能に固定される。ヘッド40の締付方向Tにトルク規定値以下のトルクが与えられると、メイルナット10、本体部20およびスプリング30がヘッド40と一体的に回転する。ヘッド40の締付方向Tにトルク規定値よりも大きいトルクが与えられると、スプリング30とヘッド40との係合が解除され、ヘッド40が空転する。
【0052】
この場合、本体部20とスプリング30とが別体で形成されているので、スプリング30の変形が本体部20の影響を受けない。したがって、ヘッド40にトルク規定値よりも大きいトルクが与えられたときに、スプリング30が均一に変形することができる。その結果、ラチェットフィッティング100のトルク規定値の精度が向上する。
【0053】
(7)請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応関係
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応の例について説明する。上記実施の形態では、本体部2またはヘッド40が係合部材の例であり、スプリング3またはスプリング30が弾性部材の例であり、ヘッド4または本体部20が保持部材の例である。凸部330,340が第1の嵌合部の例であり、凸部330が第1の凸部の例であり、凸部340が第2の凸部の例である。凹部410,420が第2の嵌合部の例であり、凹部410が第1の凹部の例であり、凹部420が第2の凹部の例である。突出部310が第1の突出部の例であり、突出部320が第2の突出部の例である。接触面e1が第1の接触面の例であり、被接触面E1が第2の接触面の例であり、回転方向における突出部310,320の中心が第1の部分の例であり、回転方向における環状部300の中心が第2の部分の例である。
【0054】
(8)態様
上述した複数の例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0055】
(第1項)一態様に係るラチェットフィッティングは、クロマトグラフの配管の接続に用いられるラチェットフィッティングであって、
一方向に延びる軸の周りで回転可能なネジ部と、
ネジ部に軸の周りのトルクを与える操作部とを備え、
ネジ部および操作部のうち一方は、内周面を有する係合部材を有し、
ネジ部および操作部のうち他方は、外周面を有する弾性部材と、弾性部材とは別体で形成された保持部材とを有し、
係合部材の内周面には、内方へ突出する突起が設けられ、
弾性部材の外周面には、外方へ突出する突出部が設けられ、
弾性部材および係合部材は、突起と突出部との係合により互いに回転力を伝達可能でありかつ
弾性部材の変形により突起と突出部との係合が解除可能であるように嵌め合わされ、
弾性部材は、第1の嵌合部を有し、
保持部材は、第2の嵌合部を有し、
保持部材および弾性部材は、回転方向において第1の嵌合部と第2の嵌合部とが互いに嵌合するように嵌め合わされる。
【0056】
一実施の形態に係るラチェットフィッティングによれば、予め定められたトルク規定値以下のトルクが操作部に与えられると、回転方向において係合部材の突起と弾性部材の突出部とが互いに係合するとともに、回転方向において第1の嵌合部と第2の嵌合部とが互いに嵌合する。それにより、操作部からトルクがネジ部へ伝達される。その結果、ネジ部が操作部と一体的に回転する。一方、トルク規定値よりも大きいトルクが操作部に与えられると、弾性部材の変形により係合部材の突起と弾性部材の突出部との係合が解除される。それにより、ネジ部に対して操作部が空転し、操作部からネジ部へトルクが伝達されない。
【0057】
上記の構成によれば、保持部材と弾性部材とが別体で形成されているので、弾性部材の変形が保持部材の影響を受けない。したがって、操作部にトルク規定値よりも大きいトルクが与えられたときに、弾性部材が均一に変形することができる。その結果、ラチェットフィッティングのトルク規定値の精度が向上する。
【0058】
(第2項)第1項に記載のラチェットフィッティングにおいて、
第1の嵌合部は、軸方向に平行な第1の接触面を有し、
第2の嵌合部は、軸方向に平行でかつ弾性部材および保持部材の一体的な回転時に第1の嵌合部の第1の接触面に接触可能な第2の接触面を有し、
弾性部材は、突出部と突起との係合により内方に変形する第1の部分と外方に変形する第2の部分とを有し、
第1の嵌合部の第1の接触面は、軸方向視で回転方向における第1の部分と第2の部分との中間に位置してもよい。
【0059】
第2項に記載のラチェットフィッティングによれば、弾性部材の第1の接触面と保持部材の第2の接触面とが接触することにより、弾性部材と保持部材との間で回転力が伝達される。この場合、第1の接触面は、弾性部材の軸方向視において、内方に変形する第1の部分と外方に変形する第2の部分との中間に位置する。第1の部分と第2の部分との中間の位置は、ほとんど変形しない。すなわち、弾性部材のほとんど変形しない位置に保持部材から回転力が伝達される。したがって、保持部材と弾性部材との間での回転力の伝達が弾性部材の変形に影響しない。その結果、弾性部材がより均一に変形することができる。
【0060】
(第3項)第1項または第2項に記載のラチェットフィッティングにおいて、
第1および第2の嵌合部のうち一方は、軸方向に突出する凸部を含み、
第1および第2の嵌合部のうち他方は、凸部が嵌合する凹部を含んでもよい。
【0061】
第3項に記載のラチェットフィッティングによれば、簡単な構造で弾性部材の変形に影響を与えることなく、弾性部材と保持部材との間で回転力を伝達することができる。
【0062】
(第4項)第3項に記載のラチェットフィッティングにおいて、
弾性部材は、第1の嵌合部として凸部を有し、
保持部材は、第2の嵌合部として凹部を有してもよい。
【0063】
第4項に記載のラチェットフィッティングによれば、変形可能な弾性部材の構造を複雑化することなく、弾性部材と保持部材との間で回転力を伝達することができる。
【0064】
(第5項)第4項に記載のラチェットフィッティングにおいて、
凸部は、弾性部材の回転中心に関して対称な位置に設けられる第1および第2の凸部を含み、
凹部は、保持部材の回転中心に関して対称な位置に設けられる第1および第2の凹部を含み、
弾性部材は、第1および第2の凸部がそれぞれ第1および第2の凹部に嵌合した状態で保持部材と一体的に回転可能であってもよい。
【0065】
第5項に記載のラチェットフィッティングによれば、弾性部材の回転方向に均等なトルクが与えられるので、弾性部材と保持部材とが安定に一体回転することができる。
【0066】
(第6項)第5項に記載のラチェットフィッティングにおいて、
突出部は、弾性部材の回転中心に関して互いに対称な位置に設けられる第1および第2の突出部を有し、
第1および第2の突出部は、軸方向視で回転方向における第1の凸部と第2の凸部との間に設けられてもよい。
【0067】
第6項に記載のラチェットフィッティングによれば、操作部にトルク規定値よりも大きいトルクが与えられたときに、第1および第2の突出部が変形し易い。それにより、弾性部材および係合部材により構成されるラチェット機構が円滑に働く。また、保持部材と弾性部材との間および弾性部材と係合部材との間で回転力が安定に伝達される。
【0068】
(第7項)他の態様に係る配管接続構造は、
クロマトグラフの配管と、
第1~6項のいずれか一項に記載のラチェットフィッティングと、
ラチェットフィッティングにより配管が接続される配管接続部とを備えてもよい。
【0069】
第7項に記載の配管接続構造によれば、向上された精度を有するトルク規定値でクロマトグラフの配管をラチェットフィッティングにより配管接続部に接続することが可能となる。
【0070】
(第8項)他の態様に係る液体クロマトグラフは、
複数の構成要素を備え、
第7項に記載の配管接続部により配管が複数の構成要素のいずれかに接続されてもよい。
【0071】
第8項に記載の液体クロマトグラフによれば、より確実に種々の構成が接続される。
【符号の説明】
【0072】
1,10…メイルナット,1a…雄ねじ部,1b,1c,1e…円筒部,1d…係合部,10a…連通孔,11e…溝部,2,20…本体部,2B,2b…円筒部,2a…テーパ部,20a…貫通孔,21a,21b…開口部,22a,22b…内周面,23b…当接面,210~240…突起,3,30…スプリング,3a…外周面,30a…貫通孔,300…環状部,310,320…突出部,330,340…凸部,4,40…ヘッド,4a…前端面,40a…貫通孔,41…外周面,410~420…凹部,5,50…固定板,51,52,53…突出部,100…フィッティング,100A…ネジ部,100B…操作部,110…配管,700…被接続部材,700a…後端面,710…被接続孔,711…円筒部,712…テーパ部,713…雌ねじ部,720…流路,A1,A2,AX…軸,C…被当接面,c…当接面,E1,E2…被接触面,e1,e2…接触面,T…締付方向,U…解除方向,F1,F2…係合面,F3…中間面,f1,f2…被係合面,f3…中間面