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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】電極製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20240925BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20240925BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240925BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240925BHJP
   B05D 3/14 20060101ALI20240925BHJP
   B05D 1/30 20060101ALI20240925BHJP
   B05D 1/28 20060101ALI20240925BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/04 Z
H01M4/62 Z
B05D7/24 301A
B05D7/24 303A
B05D3/14
B05D1/30
B05D1/28
B05D3/00 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021120372
(22)【出願日】2021-07-21
(65)【公開番号】P2023016208
(43)【公開日】2023-02-02
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上薗 知之
(72)【発明者】
【氏名】小田 桃香
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-049231(JP,A)
【文献】特開2016-182579(JP,A)
【文献】特開2020-149862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質粉体とバインダとを含む顆粒を基材に付着させることにより電極を製造する、電極製造装置であって、
第1ロールと、
中継板と、
第2ロールと、
電界形成装置と、
を含み、
鉛直方向と交差する方向において、前記中継板は前記第1ロールから離れており、
前記鉛直方向において、前記第2ロールは、前記第1ロールおよび前記中継板より低い位置にあり、
前記電界形成装置は、前記第1ロールと前記中継板との間に第1電界を形成し、かつ前記中継板と前記第2ロールとの間に第2電界を形成するように構成されており、
前記第1ロールは、前記顆粒を前記第1電界内に搬送するように構成されており、
前記第2ロールは、前記基材を前記第2電界内に搬送するように構成されている、
電極製造装置。
【請求項2】
第3ロールをさらに含み、
前記顆粒が前記第1電界に到達する前に、
前記第1ロールと前記第3ロールとのギャップにおいて、前記顆粒が敷き均されるように構成されている、
請求項に記載の電極製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極の製造方法および電極製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2020-149862号公報は、電極シートの製造方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-149862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電極は基材と活物質層とを含む。活物質層は、粉体(電極材料)が基材の表面に塗装されることにより形成され得る。
【0005】
静電塗装により電極を製造する方法が提案されている。静電塗装によれば、均質な組成を有する活物質層が形成されることが期待される。さらに、生産性を高めるため、ロールtоロール方式により静電塗装を行うことが考えられる。
【0006】
ロールtоロール方式を静電塗装に適用するため、例えば、マグネットロールの使用が考えられる。すなわち磁力により、粉体がマグネットロールの表面に吸着する。基材がバックアップロールに支持される。マグネットロールとバックアップロールとのギャップに電界が形成される。電界中の粉体に静電気力が作用する。静電気力が磁力に打ち勝つように、電界強度が調整される。静電気力により、粉体がマグネットロールから離脱する。粉体は基材に向かって飛行する。粉体が基材に付着する。これにより活物質層が形成され得る。すなわち電極が製造され得る。ロールの回転により連続的に電極が製造され得る。
【0007】
電極材料が磁性を有しない場合、磁性担体(磁性粒子)が使用され得る。すなわち、電極材料と磁性粒子とが混合されることにより、磁性粒子に電極材料が付着する。磁力により、磁性粒子がマグネットロールに吸着する。これにより、電極材料がマグネットロールに担持され得る。
【0008】
ただし、電極材料と磁性粒子との付着力は、ばらつきが大きい傾向がある。付着力が過度に大きい場合、静電気力が作用しても、電極材料が磁性粒子から離脱しないことがある。その結果、塗装ムラが発生する可能性がある。
【0009】
本開示の目的は、塗装ムラを低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし本明細書の作用メカニズムは推定を含む。作用メカニズムは本開示の技術的範囲を限定しない。
【0011】
1.電極の製造方法は下記(a)~(f)を含む。
(a)活物質粉体とバインダとを含む顆粒を調製する。
(b)顆粒をロールの表面に供給する。
(c)顆粒を帯電させる。
(d)ロールの回転により、顆粒を第1領域から第2領域に搬送する。
(e)第2領域と第3領域との間に第1電界を形成することにより、第2領域から第3領域に向かって、顆粒を飛行させる。
(f)第3領域と基材との間に第2電界を形成することにより、第3領域から基材に向かって、顆粒を飛行させる。
鉛直方向において、第2領域は第1領域より低い位置にある。鉛直方向と交差する方向において、第3領域は第2領域から離れている。鉛直方向において、基材は第3領域より低い位置にある。顆粒が基材に付着することにより、活物質層が形成される。
【0012】
磁力に頼らずに粉体(電極材料)を搬送する場合、重力に逆らう方向に、粉体を搬送することは困難である。重力によって、粉体がロールから落下し得るためである。したがって、磁力に頼らずに粉体を搬送する場合、鉛直方向において、高い位置から低い位置へ粉体を搬送することになる。
【0013】
図1は、第1参考形態における電極製造装置を示す概念図である。第1参考形態においては、鉛直方向(Z軸方向)において、高い位置から低い位置へ粉体が搬送される。さらに第1参考形態においては、鉛直下方へ静電塗装(粉体の飛行)を行われる。
【0014】
鉛直方向において、バックアップロール212は、供給ロール211と隣り合っている。バックアップロール212は、供給ロール211より低い位置にある。供給ロール211は、粉体1を供給ロール211とバックアップロール212とのギャップに搬送する。バックアップロール212は、基材13を供給ロール211とバックアップロール212とのギャップに搬送する。供給ロール211とバックアップロール212とのギャップにおいて、静電塗装が行われる。しかし、供給ロール211とバックアップロール212とのギャップに粉体1が到達するまでに、重力により粉体1が供給ロール211から落下し得る。したがって、第1参考形態においては、塗装ムラ、歩留まりロスが発生すると考えられる。
【0015】
図2は、第2参考形態における電極製造装置を示す概念図である。第2参考形態においても、鉛直方向(Z軸方向)において、高い位置から低い位置へ粉体が搬送される。さらに、第2参考形態においては、水平方向(X軸方向)に静電塗装(粉体の飛行)が行われる。
【0016】
供給ロール221は粉体1を搬送する。粉体1は、重力によって落下し難い範囲で搬送される。水平方向において、バックアップロール222は、供給ロール221と隣り合っている。供給ロール221とバックアップロール222とのギャップにおいて、静電塗装が行われる。しかし、基材13に到達した粉体1の一部は、基材13に付着できず、重力により落下し得る。したがって、第2参考形態においても、塗装ムラ、歩留まりロスが発生すると考えられる。
【0017】
図3は、本実施形態における電極製造装置を示す概念図である。本開示における塗料は顆粒11である。顆粒11は粉体が造粒されることにより調製され得る。顆粒11は「造粒体」とも称され得る。通常の粉体は流動性が低いため、搬送中に粒子凝集を起こしやすい傾向がある。粒子凝集が起こると、静電気力が作用しても、飛行し難い傾向がある。顆粒11は、粉体に比して高い流動性を有し得る。顆粒11は、静電気力により飛行しやすいことが期待される。
【0018】
本開示においては、2段階の静電塗装(粉体の飛行)が行われる。第1ロール110は顆粒11を搬送する。顆粒11は、第1領域R1から第2領域R2に搬送される。顆粒11は、重力によって落下し難い範囲で搬送される。したがって静電塗装前における、重力による顆粒11の落下が低減され得る。すなわち、歩留まりロスが低減され得る。
【0019】
図4は、本実施形態における静電塗装を示す概念図である。鉛直方向と交差する方向において、第3領域R3は第2領域R2から離れている。鉛直方向と交差する方向に、第1静電塗装が行われる。すなわち、第2領域R2と第3領域R3との間に第1電界E1が形成されることにより、顆粒11に第1静電気力F1が作用する。第1静電気力F1により、第2領域R2から第3領域R3に向かって顆粒11が飛行する。
【0020】
さらに、鉛直方向に第2静電塗装が行われる。すなわち、第3領域R3と基材13との間に第2電界E2が形成されることにより、第3領域R3に移動した顆粒11に、第2静電気力F2が作用する。第2静電気力F2により、第3領域R3から基材13に向かって顆粒11が飛行する。飛行中の顆粒11には、第2静電気力F2に加えて、重力F3も作用する。鉛直方向において、基材13が第3領域R3より低い位置にあるためである。飛行中の顆粒11に、第2静電気力F2と重力F3との合力が作用することにより、顆粒11が基材13に強固に付着することが期待される。以上の作用の相乗により、本開示においては、塗装ムラの低減が期待される。
【0021】
2.顆粒は、質量分率で、例えば70~100%の固形分率を有していてもよい。
【0022】
「固形分率」は、混合物全体に対する、溶剤以外の成分の質量分率を示す。顆粒は、活物質粉体およびバインダが造粒されることにより調製される。顆粒は乾燥状態であってもよい。顆粒は湿潤状態であってもよい。すなわち、顆粒は溶剤(液体)を含んでいてもよい。ただし顆粒は、スラリー(粒子分散液)と異なる。顆粒においては、溶剤が液滴を形成している。顆粒においては、溶剤(液体)が粉粒体(固体)中に分散している。他方、スラリーにおいては溶剤が分散媒である。スラリーにおいては、溶剤(液体)中に粉粒体(固体)が分散している。スラリーは、例えば60%以下の固形分率を有し得る。
【0023】
従来、スラリーの塗布により、電極を製造することが一般的である。しかし従来法においては、多量の溶剤が使用され得る。本開示においては、溶剤の使用量が低減され得る。溶剤の低減により、例えば、製造コストおよび環境負荷の低減が期待される。
【0024】
3.顆粒は、例えば100~200μmのD50を有していてもよい。
【0025】
顆粒が100~200μmのD50を有することにより、例えば、顆粒が好適な流動性を示すことが期待される。
【0026】
4.顆粒は、例えば50°以下の安息角を有していてもよい。
【0027】
安息角は、粉粒体の流動性の指標である。安息角が小さい程、粉粒体の流動性が高いと考えられる。粉体の造粒により、安息角は小さくなり得る。顆粒が50°以下の安息角を有することにより、例えば、塗装ムラの低減が期待される。
【0028】
5.第1電界は第1電界強度を有する。第2電界は第2電界強度を有する。例えば、第2電界強度は第1電界強度より低くてもよい。
【0029】
第1電界強度により、第1静電気力が調整され得る。第2電界強度により、第2静電気力が調整され得る。第2静電塗装においては、第2静電気力に加えて、重力が顆粒に作用する。そのため、例えば、第2電界強度は第1電界強度より低く設定されてもよい。
【0030】
6.上記(d)は、例えば、ロールの表面において、顆粒を敷き均すことを含んでいてもよい。
【0031】
ロールの表面において顆粒が敷き均されることにより、顆粒の供給量のばらつきが低減され得る。これにより、例えば、塗装ムラの低減が期待される。
【0032】
7.電極の製造方法は、例えば下記(g)等をさらに含んでいてもよい。
(g)圧力および熱の少なくとも一方を活物質層に付与することにより、活物質層を基材に定着させる。
【0033】
上記(g)により、例えば、活物質層の剥離強さの向上が期待される。
【0034】
8.電極製造装置は、活物質粉体とバインダとを含む顆粒を基材に付着させることにより電極を製造する。電極製造装置は、第1ロールと、中継板と、第2ロールと、電界形成装置とを含む。
鉛直方向と交差する方向において、中継板は第1ロールから離れている。鉛直方向において、第2ロールは、第1ロールおよび中継板より低い位置にある。電界形成装置は、第1ロールと中継板との間に第1電界を形成し、かつ中継板と第2ロールとの間に第2電界を形成するように構成されている。第1ロールは、顆粒を第1電界内に搬送するように構成されている。第2ロールは、基材を第2電界内に搬送するように構成されている。
【0035】
上記8.の電極製造装置においては、顆粒が第1電界中および第2電界中を順次飛行することにより、基材に到着し得る。すなわち、上記1.の電極の製造方法が実行可能である。
【0036】
9.電極製造装置は、例えば第3ロールをさらに含んでいてもよい。電極製造装置は、顆粒が第1電界に到達する前に、第1ロールと第3ロールとのギャップにおいて、顆粒が敷き均されるように構成されていてもよい。
【0037】
上記9.の電極製造装置においては、上記6.の電極の製造方法が実行可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1図1は、第1参考形態における電極製造装置を示す概念図である。
図2図2は、第2参考形態における電極製造装置を示す概念図である。
図3図3は、本実施形態における電極製造装置を示す概念図である。
図4図4は、本実施形態における静電塗装を示す概念図である。
図5図5は、本実施形態における電極の製造方法の概略フローチャートである。
図6図6は、電極の一例を示す概念図である。
図7図7は、第1製造例および第2製造例の製造結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
<用語の定義等>
以下、本開示の実施形態(本明細書においては「本実施形態」と略記され得る。)、および本開示の実施例(本明細書においては「本実施例」と略記され得る。)が説明される。ただし、本実施形態および本実施例は、本開示の技術的範囲を限定しない。
【0040】
本明細書において、「備える」、「含む」、「有する」、および、これらの変形(例えば「から構成される」等)の記載は、オープンエンド形式である。オープンエンド形式は必須要素に加えて、追加要素をさらに含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。「からなる」との記載はクローズド形式である。ただしクローズド形式であっても、通常において付随する不純物であったり、本開示技術に無関係であったりする付加的な要素は排除されない。「実質的に…からなる」との記載はセミクローズド形式である。セミクローズド形式においては、本開示技術の基本的かつ新規な特性に実質的に影響を与えない要素の付加が許容される。
【0041】
本明細書において、「してもよい」、「し得る」等の表現は、義務的な意味「しなければならない」という意味ではなく、許容的な意味「する可能性を有する」という意味で使用されている。
【0042】
本明細書において、単数形で表現される要素は、特に断りの無い限り、複数形も含む。例えば「粒子」は「1つの粒子」のみならず、「粒子群」も意味し得る。
【0043】
本明細書に記載される方法において、複数のステップ、動作および操作等は、特に断りのない限り、その実行順序が記載順序に限定されない。例えば、複数のステップが同時進行してもよい。例えば複数のステップが相前後してもよい。
【0044】
本明細書において、幾何学的な用語(例えば「平行」、「直交」等)は、厳密な意味に解されるべきではない。例えば「平行」は、厳密な意味での「平行」から多少ずれていてもよい。本明細書における幾何学的な用語は、例えば、設計上、作業上、製造上等の公差、誤差等を含み得る。各図中の寸法関係は、実際の寸法関係と一致しない場合がある。本開示技術の理解を助けるために、各図中の寸法関係(長さ、幅、厚さ等)が変更されている場合がある。さらに一部の構成が省略されている場合もある。
【0045】
本明細書において、「鉛直方向と交差する方向」は、鉛直方向と平行でない任意の方向を示す。鉛直方向と交差する方向は、例えば、鉛直方向と直交する方向(すなわち水平方向)を含む。鉛直方向と交差する方向は、各ロールの回転軸と直交していてもよい。
【0046】
本明細書において、例えば「70~100%」等の数値範囲は、特に断りのない限り、上限値および下限値を含む。すなわち「70~100%」は、「70%以上100%以下」の数値範囲を示す。また、数値範囲内から任意に選択された数値が、新たな上限値または下限値とされてもよい。例えば、数値範囲内の数値と、本明細書中の別の部分、表中、図中等に記載された数値とが任意に組み合わされることにより、新たな数値範囲が設定されてもよい。
【0047】
本明細書において、全ての数値は用語「約」によって修飾されている。用語「約」は、例えば±5%、±3%、±1%等を意味し得る。全ての数値は、本開示技術の利用形態によって変化し得る近似値である。全ての数値は有効数字で表示される。測定値は、複数回の測定における平均値であり得る。測定回数は、3回以上であってもよいし、5回以上であってもよいし、10回以上であってもよい。測定値は有効数字の桁数に基づいて、四捨五入により端数処理され得る。測定値は、例えば測定装置の検出限界等に伴う誤差を含み得る。
【0048】
本明細書において「100μm以上のD50」は、質量(個数)基準の粒度分布において、粒径が小さい方からの頻度の累積が50%に達する粒径を示す。質量基準の粒度分布は、「JIS Z 8815 ふるい分け試験方法通則」に準拠して測定され得る。
【0049】
本明細書において、「100μm未満のD50」は、体積基準の粒度分布において、粒径が小さい方からの頻度の累積が50%に達する粒径を示す。体積基準の粒度分布は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定され得る。
【0050】
本明細書における「安息角」は、水平面に粉粒体が自然落下した際に形成される円錐(粉粒体の山)の斜面と、該水平面とのなす角を示す。安息角は、ホソカワミクロン社製の粉体特性評価装置「パウダテスタ」か、またはその同等品により測定され得る。
【0051】
本明細書において、例えば「LiCoO2」等の化学量論的組成式によって化合物が表現されている場合、該化学量論的組成式は代表例に過ぎない。組成比は非化学量論的であってもよい。例えば、コバルト酸リチウムが「LiCoO2」と表現されている時、特に断りのない限り、コバルト酸リチウムは「Li/Co/O=1/1/2」の組成比に限定されず、任意の組成比でLi、CoおよびOを含み得る。さらに、微量元素によるドープ、置換等も許容され得る。
【0052】
本明細書における「融点」は、DSC(Differential Scanning Calorimetry)曲線における融解ピーク(吸熱ピーク)のピークトップ温度を示す。DSC曲線は、「JIS K 7121 プラスチックの転移温度測定方法」に準拠して測定され得る。「融点付近」は、例えば融点±20℃の範囲を示し得る。
【0053】
<電極製造装置>
図3は、本実施形態における電極製造装置を示す概念図である。以下「本実施形態における電極製造装置」が「本製造装置」と略記され得る。本製造装置100は、顆粒11を基材13に付着させることにより、電極10を製造する。
【0054】
本製造装置100は、第1ロール110と、中継板140と、第2ロール120と、電界形成装置150とを含む。本製造装置100は、例えば、ホッパー160、第3ロール130等をさらに含んでいてもよい。
【0055】
本製造装置100は、例えば、制御装置(不図示)等をさらに含んでいてもよい。制御装置が各要素の動作を制限してもよい。
【0056】
本製造装置100は、例えば、定着装置(不図示)等をさらに含んでいてもよい。定着装置は、活物質層12に熱および圧力の少なくとも一方を付与し得る。定着装置は、例えば、一対のヒートロール等を含んでいてもよい。
【0057】
図3において、各ロールの回転軸は、実質的に平行であってもよい。各ロールに描かれた曲線矢印は、ロールの回転方向を示している。
【0058】
《電界形成装置》
図4は、本実施形態における静電塗装を示す概念図である。電界形成装置150は、第1電源151と第2電源152とを含む。第1電源151および第2電源152の各々は、例えば、高圧電源装置を含んでいてもよい。第1電源151および第2電源152は、例えば、互いに独立していてもよい。第1電源151および第2電源152は、例えば一体であってもよい。
【0059】
第1電源151は、第1ロール110と、中継板140との間に直流電圧(電位差)を印加する。すなわち第1電源151は、第1ロール110と、中継板140との間に第1電界E1を形成する。第2電源152は、中継板140と、第2ロール120との間に直流電圧を印加する。すなわち第2電源152は、中継板140と、第2ロール120との間に第2電界E2を形成する。
【0060】
本製造装置100においては、顆粒11が第1電界E1中および第2電界E2中を順次飛行することにより、顆粒11が基材13に到着し得る。顆粒11が基材13に付着することにより、活物質層12が形成され得る。
【0061】
《ホッパー》
顆粒11は、例えばホッパー160に充填されてもよい(図3参照)。ホッパー160は、ロータリーフィーダ161を含む。ロータリーフィーダ161は、例えば一定の流量で、顆粒11を送出してもよい。
【0062】
《第1ロール》
第1ロール110は、導電性を有する。第1ロール110は、例えば金属製であってもよい。第1ロール110の全部が導電性を有していてもよい。第1ロール110の一部が導電性を有していてもよい。例えば、顆粒11と接触する部分が導電性を有していてもよい。例えば、第1ロール110の表層が導電性を有していてもよい。第1ロール110は、第1電源151と電気的に接続されている。
【0063】
第1ロール110は、例えば「供給ロール」とも称され得る。第1ロール110は、第1領域R1において、ホッパー160から顆粒11を受け取る。第1ロール110が回転することにより、円周方向に顆粒11が搬送される。顆粒11は、第1領域R1から第2領域R2に搬送される。
【0064】
鉛直方向において、第2領域R2は、第1領域R1よりも低い位置にある。第2領域R2は、第1ロール110と中継板140とのギャップに形成されている。第1ロール110と中継板140との間には第1電界E1が形成されている。すなわち第1ロール110は、顆粒11を第1電界E1内に搬送する。
【0065】
第1領域R1は、例えば円弧状であってもよい。例えば、第1ロール110の回転軸を中心として、「クロックポジション」が設定されてもよい。クロックポジションにおける6時方向および12時方向は、鉛直方向(Z軸方向)と平行である。クロックポジションにおける3時方向および9時方向は、水平方向(X軸方向)と平行である。第1領域R1は、例えば11時方向と1時方向との間に形成されていてもよい。第1領域R1は、例えば12時方向と1時方向との間に形成されていてもよい。第1領域R1の両端と、第1ロール110の中心(回転軸)とによって形成される扇形の中心角は、例えば、1~45°であってもよい。
【0066】
第2領域R2は、中継板140と対向している。第2領域R2の範囲は、例えば、中継板140の大きさ、形状等により調整され得る。第2領域R2は、例えば円弧状であってもよい。第2領域R2は、例えば2時方向と4時方向との間に形成されていてもよい。第2領域R2は、例えば2時方向と3時方向との間に形成されていてもよい。これにより、例えば、顆粒11の落下(歩留まりロス)の低減が期待される。第2領域R2の両端と、第1ロール110の中心とによって形成される扇形の中心角は、例えば、1~45°であってもよい。
【0067】
《第3ロール》
第3ロール130は、ホッパー160と中継板140との間に配置されている(図3参照)。第3ロール130は、第1ロール110と対向している。第3ロール130は、例えば「スキージ」とも称され得る。第1ロール110と第3ロール130とのギャップにおいては、顆粒11が敷き均される。これにより、例えば顆粒11の供給量のばらつきが低減され得る。
【0068】
第3ロール130の直径は、例えば、第1ロール110の直径より小さくてもよい。第3ロール130の回転方向は、例えば、第1ロール110の回転方向と反対方向であってもよい。第1ロール110の回転方向に対して、第3ロール130が逆回転していることにより、顆粒11の供給量(顆粒層の厚さ)のばらつきが低減し得る。なお、ロール以外の形態のスキージが使用されてもよい。例えば、ブレード型のスキージ等が使用されてもよい。
【0069】
《中継板》
中継板140は導電性を有する。中継板140は、例えば金属製であってもよい。中継板140の全部が導電性を有していてもよい。中継板140の一部が導電性を有していてもよい。例えば、中継板140の表層が導電性を有していてもよい。中継板140は、第1電源151と電気的に接続されている。中継板140は、第2電源152とも電気的に接続されている(図3、4参照)。
【0070】
鉛直方向と交差する方向において、中継板140は、第1ロール110から離れている。水平方向において、中継板140は、第1ロール110から離れていてもよい。中継板140と第1ロール110とのギャップは、例えば、顆粒11のD50の10~50倍であってもよい。当該ギャップは、中継板140と第1ロール110との最短距離を示す。中継板140と第1ロール110とのギャップは、例えば1~10mmであってもよいし、2~6mmであってもよい。
【0071】
中継板140は第3領域R3を含む(図4参照)。第3領域R3は、鉛直方向と交差する方向において、第2領域R2から離れている。水平方向において、第3領域R3は第2領域R2から離れていてもよい。
【0072】
中継板140は、任意の形状を有し得る。中継板140は、例えば、平板状であってもよいし、湾曲していてもよい。中継板140において、顆粒11を受ける面は、例えば球面状であってもよいし、放物面状であってもよい。例えば、中継板140の厚さ方向と平行な断面(図3、4)は、鉛直下方に向かって、湾曲していてもよいし、屈曲していてもよい。第1静電塗装において、顆粒11は多方向から中継板140に到着し得る。例えば中継板140が湾曲していることにより、第2静電塗装において、顆粒11が基材13に付着する位置が安定し得る。これにより、例えば、塗装ムラが低減することが期待される。
【0073】
中継板140は、例えば「対向板」とも称され得る。中継板140は、第1対向面141と第2対向面142とを含む(図4参照)。第1対向面141は、第1ロール110と対向する。第1対向面141は、鉛直方向に沿って延びていてもよい。第2対向面142は、第2ロール120(基材13)と対向する。第2対向面142は、鉛直方向と交差する方向に延びていてもよい。
【0074】
第2対向面142は、第1対向面141と連続していてもよい。第2対向面142は、第1対向面141から離れていてもよい。第2対向面142が、第1対向面141と一体となって区別できないこともある。例えば第2対向面142の一部が、第1対向面141と重なっていてもよい。例えば第2対向面142の全部が、第1対向面141と重なっていてもよい。第2対向面142は、第1対向面141と実質的に同一であってもよい。例えば、中継板140が平板状である場合、第2対向面142が第1対向面141と実質的に同一になり得る。
【0075】
《第2ロール》
第2ロール120は、導電性を有する。第2ロール120は、例えば金属製であってもよい。第2ロール120の全部が導電性を有していてもよい。第2ロール120の一部が導電性を有していてもよい。例えば、基材13と接触する部分が導電性を有していてもよい。例えば、第2ロール120の表層が導電性を有していてもよい。第2ロールは、第2電源152と電気的に接続されている。第2ロール120は、接地されていてもよい。
【0076】
鉛直方向において、第2ロール120は、第1ロール110および中継板140より低い位置にある(図3参照)。第2ロール120は、例えば、第1ロール110の真下に配置されていてもよい。第2ロール120は、例えば、中継板140の真下に配置されていてもよい。第2ロール120の直径は、例えば、第1ロール110の直径より大きくてもよい。
【0077】
第2ロール120と中継板140とのギャップは、例えば、顆粒11のD50の20~100倍であってもよい。当該ギャップは、第2ロール120と中継板140との最短距離を示す。第2ロール120と中継板140とのギャップは、例えば2~20mmであってもよいし、6~10mmであってもよい。
【0078】
第2ロール120は、例えば「バックアップロール」とも称され得る。第2ロール120は、基材13を支持する。第2ロール120が回転することにより、基材13が搬送される。第2ロール120は、基材13を第2電界E2内に搬送する。鉛直方向において、基材13は、第3領域R3より低い位置にある(図4参照)。
【0079】
<電極の製造方法>
図5は、本実施形態における電極の製造方法の概略フローチャートである。以下「本実施形態における電極の製造方法」が「本製造方法」と略記される。本製造方法は、「(a)顆粒の調製」、「(b)供給」、「(c)帯電」、「(d)ロール搬送」、「(e)第1静電塗装」、および「(f)第2静電塗装」を含む。本製造方法は、例えば「(f)第2静電塗装」の後に、「(g)定着」等をさらに含んでいてもよい。前述の本製造装置100が、例えば「(b)供給」~「(g)定着」を実行してもよい。
【0080】
本製造方法においては、例えば、リチウムイオン電池用の電極が製造され得る。ただしリチウムイオン電池は、一例に過ぎない。本製造方法は、任意の電池系に適用され得る。本製造方法においては、正極および負極の少なくとも一方が製造され得る。
【0081】
《(a)顆粒の調製》
本製造方法は、活物質粉体とバインダとを含む顆粒11を調製することを含む。顆粒11は、いわば活物質層12の前駆体である。顆粒11は粉体が造粒されることにより調製され得る。顆粒11は、活物質粉体とバインダとを含む。すなわち、活物質粉体とバインダとの混合粉体が造粒されることにより、顆粒11が調製され得る。混合粉体は、任意成分(導電材等)をさらに含み得る。例えば、乾式造粒により顆粒11が調製されてもよいし、湿式造粒により顆粒11が調製されてもよい。本製造方法においては、任意の乾式造粒機、湿式造粒機が使用され得る。
【0082】
顆粒11は、複合粒子の集合体である。1個の複合粒子は、1個以上の活物質粒子を含む。1個の複合粒子は、2個以上の活物質粒子を含んでいてもよい。1個の複合粒子は、活物質粒子の凝集体を含んでいてもよい。
【0083】
複合粒子は、任意の形状を有し得る。複合粒子は、例えば、ペレット状、球状、フレーク状、柱状、不定形状等であってもよい。
【0084】
顆粒11は、例えば、50~500μmのD50を有していてもよい。顆粒11は、例えば100~200μmのD50を有していてもよい。顆粒11が100~200μmのD50を有することにより、例えば、顆粒11が好適な流動性を示すことが期待される。
【0085】
造粒により、流動性の向上が期待される。活物質粉体(造粒前)は、例えば50°超の安息角を有していてもよい。顆粒11(造粒後)は、例えば、50°以下の安息角を有していてもよい。顆粒11が50°以下の安息角を有することにより、例えば、塗装ムラの低減が期待される。顆粒11は、例えば、45°以下の安息角を有していてもよい。顆粒11は、例えば、30°以上の安息角を有していてもよい。
【0086】
〈活物質粉体〉
活物質粉体は活物質粒子を含む。活物質粉体は、活物質粒子の集合体である。活物質粉体は、例えば、1~30μmのD50を有していてもよいし、1~20μmのD50を有していてもよいし、1~10μmのD50を有していてもよい。
【0087】
活物質粒子は電極反応を生起する。活物質粒子は任意の成分を含み得る。活物質粒子は、例えば、正極活物質を含んでいてもよい。活物質粒子は、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn24、Li(NiCoMn)O2、Li(NiCoAl)O2、およびLiFePO4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。例えば「Li(NiCoMn)O2」における「(NiCoMn)」は、括弧内の組成比の合計が1であることを示す。合計が1である限り、個々の成分量は任意である。Li(NiCoMn)O2は、例えばLi(Ni1/3Co1/3Mn1/3)O2、Li(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O2、Li(Ni0.8Co0.1Mn0.1)O2等を含んでいてもよい。
【0088】
活物質粒子は、例えば、負極活物質を含んでいてもよい。活物質粒子は、例えば、黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、珪素、酸化珪素、珪素基合金、錫、酸化錫、錫基合金、およびLi4Ti512からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0089】
〈バインダ〉
バインダは粉体状であり得る。バインダは、活物質層12において、固体材料同士を結合する。バインダの配合量は、100質量部の活物質粉体に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。バインダは、任意の成分を含み得る。バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、およびポリアクリル酸(PAA)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0090】
〈任意成分〉
顆粒11は、例えば導電材をさらに含んでいてもよい。導電材は粉体状であり得る。導電材は、活物質層12中に電子伝導パスを形成し得る。導電材の配合量は、100質量部の活物質粉体に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。導電材は任意の成分を含み得る。導電材は、例えば、導電性炭素粒子、導電性炭素繊維等を含んでいてもよい。導電材は、例えば、カーボンブラック、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ、およびグラフェンフレークからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。カーボンブラックは、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、およびサーマルブラックからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0091】
顆粒11は、例えば溶剤をさらに含んでいてもよい。溶剤は液体である。溶剤は、液滴となって顆粒11中に分散していてもよい。例えばバインダが溶剤を吸収して膨潤していてもよい。溶剤は、任意の成分を含み得る。溶剤は、例えば、水、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、および酪酸ブチルからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。顆粒11は、例えば、70~100%の固形分率を有していてもよいし、80~100%の固形分率を有していてもよいし、90~100%の固形分率を有していてもよい。
【0092】
顆粒11は、例えば固体電解質をさらに含んでいてもよい。すなわち本製造方法においては、全固体電池用の電極10も製造され得る。固体電解質は粉体状であり得る。固体電解質は、活物質層12中にイオン伝導パスを形成し得る。固体電解質は任意の成分を含み得る。固体電解質は、例えば、Li2S-P25、LiI-Li2S-P25、LiBr-Li2S-P25、およびLiI-LiBr-Li2S-P25からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0093】
《(b)供給》
本製造方法は、顆粒11を第1ロール110の表面に供給することを含む(図3参照)。例えば、顆粒11がホッパー160に充填されてもよい。ロータリーフィーダ161が、例えば一定の流量で、顆粒11を第1領域R1に送出してもよい。
【0094】
《(c)帯電》
本製造方法は、顆粒11を帯電させることを含む。なお、図5においては、便宜上、「(b)供給」と「(d)ロール搬送」との間に「(c)帯電」が図示されている。ただし「(c)帯電」は、「(a)顆粒の調製」と「(e)第1静電塗装」との間において、任意のタイミングで実行され得る。例えば、「(c)帯電」と「(d)ロール搬送」とが同時に実行されてもよい。
【0095】
例えば、第1電源151が第1ロール110に電荷(電子)を供給してもよい。例えば、第1ロール110が顆粒11に電荷を注入してもよい(図3参照)。これにより顆粒11が負に帯電し得る。
【0096】
《(d)ロール搬送》
本製造方法は、第1ロール110の回転により、顆粒11を第1領域R1から第2領域R2に搬送することを含む(図3参照)。鉛直方向において、第2領域R2は第1領域R1より低い位置にある。第2領域R2は、第1電界E1内に位置している(図4参照)。
【0097】
顆粒11が第1電界E1(第2領域R2)に到達する前に、第1ロール110の表面において、顆粒11が敷き均されてもよい。例えば、第1ロール110と第3ロール130とのギャップにおいて、顆粒11が敷き均されてもよい。これにより第1電界E1への顆粒11の供給量が安定することが期待される。
【0098】
《(e)第1静電塗装》
本製造方法は、第2領域R2と第3領域R3との間に第1電界E1を形成することにより、第2領域R2から第3領域R3に向かって、顆粒11を飛行させることを含む(図4参照)。
【0099】
例えば第1電源151が第1ロール110と中継板140との間に直流電圧を印加してもよい。これにより第2領域R2と第3領域R3との間に第1電界E1が形成され得る。第2領域R2に供給された顆粒11には、第1静電気力F1が作用し得る。第1静電気力F1により、顆粒11は、第1ロール110から離脱し、中継板140に向かって飛行し得る。
【0100】
《(f)第2静電塗装》
本製造方法は、第3領域R3と基材13との間に第2電界E2を形成することにより、第3領域R3から基材13に向かって、顆粒11を飛行させることを含む(図4参照)。基材13に到着した顆粒11は、基材13に付着し得る。これにより活物質層12が形成され得る。すなわち電極10が製造され得る。
【0101】
例えば第2電源152が中継板140と第2ロール120との間に直流電圧を印加してもよい。これにより第3領域R3と基材13との間に第2電界E2が形成され得る。中継板140に付着した顆粒11には、第2静電気力F2が作用し得る。さらに顆粒11には、重力F3も作用し得る。第2静電気力F2と重力F3との合力により、顆粒11は、中継板140から離脱し、基材13に向かって飛行し得る。第2静電気力F2と重力F3との合力により、顆粒11が基材13に強固に付着することが期待される。
【0102】
〈基材〉
基材13は、例えばシート状であってもよい。基材13は、例えば帯状であってもよい。基材13は導電性を有する。基材13は集電体であってもよい。基材13は、例えば金属箔を含んでいてもよい。基材13は、例えば、アルミニウム(Al)箔、Al合金箔、銅(Cu)箔、Cu合金箔、ニッケル(Ni)箔、Ni合金箔、チタン(Ti)箔、およびTi合金箔からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。基材13は、例えば、5~50μmの厚さを有していてもよいし、5~20μmの厚さを有していてもよい。
【0103】
〈電界強度〉
静電気力は電界強度により調整され得る。第1電界E1は第1電界強度を有する。第2電界E2は第2電界強度を有する。第1電界E1中においては、第1静電気力F1が顆粒11に作用する。第2電界E2中においては、第2静電気力F2に加えて、重力F3が顆粒11に作用する。したがって、例えば第2電界強度は第1電界強度より低くてもよい。
【0104】
第1電界強度は、第1ロール110と中継板140との間に印加される直流電圧が、第1ロール110と中継板140とのギャップ(最短距離)で除されることにより求まる。第1電界強度が過度に低いと、顆粒11が飛行できない可能性がある。第1電界強度が過度に高いと、顆粒11が中継板140に衝突する際の衝撃が過度に大きくなり得る。衝突の反動によって、顆粒11が中継板140から跳ね返る可能性がある。第1電界強度は、例えば、75000~300000V/mであってもよいし、100000~200000V/mであってもよい。
【0105】
第2電界強度は、中継板140と第2ロール120との間に印加される直流電圧が、中継板140と第2ロール120とのギャップ(最短距離)で除されることにより求まる。第2電界強度が過度に低いと、顆粒11が基材13に付着できない可能性がある。第2電界強度が過度に高いと、顆粒11が基材13に衝突する際の衝撃が過度に大きくなり得る。衝突の反動によって、顆粒11が基材13から跳ね返る可能性がある。第2電界強度は、例えば、37500~150000V/mであってもよいし、50000~100000V/mであってもよい。
【0106】
《(g)定着》
本製造方法は、圧力および熱の少なくとも一方を活物質層12に付与することにより、活物質層12を基材13に定着させることを含んでいてもよい。活物質層12の定着により、例えば、活物質層12の剥離強さの向上が期待される。
【0107】
圧力および熱は、別々に付与されてもよい。圧力および熱は、実質的に同時に付与されてもよい。例えば、ヒートロール、ヒートプレート等により、活物質層12が圧縮されてもよい。活物質層12の加熱温度は、例えば、バインダの融点付近の温度であってもよい。バインダの軟化、溶融、再固化により、定着力の向上が期待される。加熱温度は、例えば80~200℃であってもよいし、120~200℃であってもよいし、140~180℃であってもよい。
【0108】
圧力は、例えば、活物質層12の狙い厚さ、狙い密度等に応じて調整され得る。例えば、50~200MPaの圧力が活物質層12に加えられてもよい。
【0109】
《その他》
以上より、電極10が製造され得る。活物質層12(顆粒11)が溶剤を含む場合、電極10が乾燥されてもよい。電池設計に合わせて、電極が所定の平面形状に切断されてもよい。
【0110】
<電極>
図6は、電極の一例を示す概念図である。電極10は正極であってもよいし、負極であってもよい。電極10は、電池設計に合わせて、任意の外形を有し得る。電極10は、例えば、帯状であってもよい。電極10は基材13と活物質層12とを含む。活物質層12は、基材13の表面に配置されている。活物質層12は、基材13の片面のみに配置されていてもよい。活物質層12は、基材13の表裏両面に配置されていてもよい。
【0111】
活物質層12は、任意の厚さを有し得る。活物質層12は、例えば、10~500μmの厚さを有していてもよいし、50~200μmの厚さを有していてもよい。電極10が正極である時、活物質層12は、例えば、2~4g/cm3の密度を有していてもよい。電極10が負極である時、活物質層12は、例えば1~2g/cm3の密度を有していてもよい。なお、活物質層12の密度は「みかけ密度」を示す。みかけ密度は、活物質層12の質量が、活物質層12のみかけ体積で除されることにより求まる。みかけ体積は空隙体積を含む。
【0112】
活物質層12は、例えば、質量分率で、1~10%のバインダと、0~10%の導電材と、残部の活物質粉体とを含んでいてもよい。活物質粉体は、正極活物質を含んでいてもよいし、負極活物質を含んでいてもよい。
【実施例
【0113】
<電極の製造>
以下本実施例が説明される。第1製造例においては正極が製造された。第2製造例においては負極が製造された。
【0114】
《第1製造例》
下記材料が準備された。
活物質粉体:Li(NiCoMn)O2
導電材:アセチレンブラック
バインダ:PVdF
基材13:Al箔(厚さ 12μm)
【0115】
アーステクニカ社製の混合装置「ハイスピードミキサー」が準備された。混合装置の混合槽に、活物質粉体と導電材とバインダとが投入された。材料の配合比は「活物質粉体/導電材/バインダ=90/5/5(質量比)」であった。攪拌羽根の回転数が4500rpmに設定された。1分間にわたって材料が混合された。これにより混合粉体が調製された。混合粉体は、59.6°の安息角を有していた。
【0116】
乾式造粒機が準備された。乾式造粒機により、混合粉体が造粒された。これにより、顆粒11が調製された。顆粒11を構成する複合粒子の各々が、フレーク状に成形された。顆粒11が、16メッシュの金網により整粒された。整粒後の顆粒11は、100~200μmのD50を有していた。整粒後の顆粒11は、42.1°の安息角を有していた。
【0117】
図4、5の電極製造装置が準備された。各部の設定は下記のとおりであった。
第1電界E1:第1ロール110(-1200V)、中継板140(-600V)
第1ロール110と中継板140とのギャップ:4mm
第1電界強度:150000V/m
【0118】
第2電界E2:中継板140(-600V)、第2ロール120(0V、GND)
中継板140と第2ロール120とのギャップ:8mm
第2電界強度:75000V/m
【0119】
ホッパー160から第1ロール110の表面に顆粒11が供給された。顆粒11が第1ロール110から電荷の注入を受けることにより、顆粒11が帯電した。第1ロール110の回転により、顆粒11が第1領域R1から第2領域R2に搬送された。顆粒11が第1電界E1中および第2電界E2中を順次飛行することにより、顆粒11が基材13に付着した。これにより活物質層12が形成された。すなわち電極10が製造された。活物質層12は、60mm×200mmの平面サイズを有していた。
【0120】
2枚のヒートプレート(平板)に電極10が挟み込まれた。ヒートプレートの温度は160℃であった。ヒートプレートにより、30秒間にわたって15tfの荷重が活物質層12に付与された。これにより活物質層12が基材13に定着した。
【0121】
《第2製造例》
下記材料が準備された。
活物質粉体:アモルファスコート黒鉛
バインダ:PVdF
基材13:Cu箔(厚さ 8μm)
【0122】
アモルファスコート黒鉛においては、各黒鉛粒子の表面がアモルファス炭素材料によって被覆されていた。アーステクニカ社製の混合装置「ハイスピードミキサー」が準備された。混合装置の混合槽に、活物質粉体とバインダとが投入された。材料の配合比は「活物質粉体/バインダ=97.5/2.5(質量比)」であった。攪拌羽根の回転数が4500rpmに設定された。1分間にわたって材料が混合された。これにより混合粉体が調製された。混合粉体は、49.7°の安息角を有していた。
【0123】
乾式造粒機により、混合粉体が造粒された。これにより、顆粒11が調製された。顆粒11を構成する複合粒子の各々が、フレーク状に成形された。顆粒11が、16メッシュの金網により整粒された。整粒後の顆粒11は、100~200μmのD50を有していた。整粒後の顆粒11は、44.3°の安息角を有していた。これらを除いては、第1製造例と同様に電極10が製造された。
【0124】
<製造結果>
図7は、第1製造例および第2製造例の製造結果を示す写真である。第1製造例および第2製造例のいずれにおいても、活物質層12に塗装ムラはみられない。また、第1製造例および第2製造例においては、投入した顆粒11の全量が、活物質層12の形成に使用された。すなわち、実質的な歩留まりロスが発生しなかった。
【0125】
本実施形態および本実施例は、全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は、制限的ではない。本開示の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内における全ての変更を包含する。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも当初から予定されている。
【符号の説明】
【0126】
1 粉体、10 電極、11 顆粒、12 活物質層、13 基材、100 電極製造装置、110 第1ロール、120 第2ロール、130 第3ロール、140 中継板、141 第1対向面、142 第2対向面、150 電界形成装置、151 第1電源、152 第2電源、160 ホッパー、161 ロータリーフィーダ、211,221 供給ロール、212,222 バックアップロール、E1 第1電界、E2 第2電界、F1 第1静電気力、F2 第2静電気力、F3 重力、R1 第1領域、R2 第2領域、R3 第3領域。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7