(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】異音診断支援システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/20 20230101AFI20240925BHJP
【FI】
G06Q10/20
(21)【出願番号】P 2021138719
(22)【出願日】2021-08-27
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植田 裕
【審査官】野元 久道
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-136300(JP,A)
【文献】特開2010-128553(JP,A)
【文献】特開2014-191790(JP,A)
【文献】特開2006-258510(JP,A)
【文献】特開2010-096547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の異音診断を支援する異音診断支援システムであって、
車両の異音に関する複数の問診情報と、前記問診情報に対応した異音を再現するための再現条件とを紐付けて記憶する記憶装置と、
新規問診情報の入力を受け付ける入力受付装置と、
前記入力受付装置による前記新規問診情報の受け付けに応じて、前記新規問診情報と前記複数の問診情報とに基づいて前記記憶装置から前記新規問診情報に適合する前記再現条件を抽出し、抽出した前記再現条件を出力する情報処理装置と、
を備える異音診断支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の異音診断を支援する異音診断支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、診断対象車両で発生した不具合症状の関連情報を取得するための問診を行い、取得情報に基づいて不具合症状の原因を自ら推定するか、あるいは取得情報を外部に出力する問診装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この問診装置は、上記関連情報を取得するための質問を表示する表示部と、不具合症状に対応するサンプル異音を出力するサンプル異音出力部と、表示部の表示およびサンプル異音出力部の出力音を制御すると共にユーザの操作入力を処理する制御部と、表示部の表示に関するデータである表示データおよび不具合症状ごとに対応して発生する車両音を収集したデータであるサンプル異音データを記憶した記憶部とを含む。また、問診装置の制御部は、不具合症状が発生した運転操作場面の選択を求める選択ボタンである複数の場面選択ボタンと、場面選択ボタンの選択結果に関連付けられた不具合症状の内容の選択を求める選択ボタンである複数の症状選択ボタンとを表示部に表示させる。更に、当該制御装置は、不具合症状の内容が、診断対象車両での異音発生に関するものである場合、その不具合症状に対応するサンプル異音を出力させるサンプル異音出力ボタンを表示部に症状選択ボタンと並べて表示させる。これにより、不具合症状の内容が異音発生に関連する場合、症状を選択するための指標として対応するサンプル異音を出力することが可能となり、顧客等の実際に異音を聞いた者は、複数のサンプル異音を比較することで、表現が難しい異音発生の症状内容を選択して回答することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、サンプル異音が候補として出力されたのに応じて、顧客等が実際の異音に近い音として複数のサンプル異音を選択した場合、確認作業に却って手間が掛かってしまう。また、顧客等が複数のサンプル異音から実際の異音に近い音を判別し得ない場合、結局、不具合症状が発生した運転操作場面といった問診情報を基に異音の発生原因を特定せざるを得なくなってしまう。そして、修理工場等で異音が再現できなければ、作業者は、異音の原因となる異常を正確に認識することができず、異音を解消するための対策を車両に施せなくなってしまう。
【0005】
そこで、本開示は、車両で発生した異音の再現性を向上させて異音診断を効率よく実行可能にする異音診断支援システムの提供を主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の異音診断支援システムは、車両の異音診断を支援する異音診断支援システムであって、車両の異音に関する複数の問診情報と、前記問診情報に対応した異音を再現するための再現条件とを紐付けて記憶する記憶装置と、新規問診情報の入力を受け付ける入力受付装置と、前記入力受付装置による前記新規問診情報の受け付けに応じて、前記新規問診情報と前記複数の問診情報とに基づいて前記記憶装置から前記新規問診情報に適合する前記再現条件を抽出し、抽出した前記再現条件を出力する情報処理装置とを含むものである。
【0007】
本開示の異音診断支援システムは、車両の異音に関する複数の問診情報と、当該問診情報に対応した異音を再現するための再現条件とを紐付けて記憶装置に記憶させる。そして、情報処理装置は、入力受付装置による新規問診情報の受け付けに応じて、当該新規問診情報と複数の問診情報とに基づいて記憶装置から新規問診情報に適合する再現条件を抽出し、抽出した再現条件を出力する。これにより、過去の情報や知見に基づいて複数の問診情報に再現条件を紐付けておくことで、新規問診情報の受け付けに応じて、それに適合した再現条件を速やかに提供することができる。この結果、車両で発生した異音の再現性を向上させて異音診断を効率よく実行することが可能となる。
【0008】
また、前記情報処理装置は、前記新規問診情報と前記問診情報との一致度を算出すると共に、前記一致度が高い前記問診情報に紐付けられた前記再現条件を前記一致度と共に出力するものであってもよい。これにより、異音を再現する作業をより効率よく実行することが可能となる。
【0009】
前記問診情報および前記新規問診情報は、車種情報を含むものであってもよい。これにより、車種情報に基づいて複数の問診情報を絞り込むことができるので、新規問診情報に適合した再現条件を効率よく速やかに抽出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の異音診断支援システムを示す概略構成図である。
【
図2】本開示の異音診断支援システムにおける問診情報を例示する説明図である。
【
図3】本開示の異音診断支援システムによる異音診断の支援手順を示すフローチャートである。
【
図4】本開示の異音診断支援システムにより提供される再現条件を用いて整備工場で行われる一連の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、図面を参照しながら、本開示の発明を実施するための形態について説明する。
【0012】
図1は、本開示の異音診断支援システム1を示す概略構成図である。同図に示す異音診断支援システム1は、動力発生源としてエンジンのみを搭載した車両や、ハイブリッド車、電気自動車(燃料電池車両を含む)といった車両Vで発生した異音の診断を支援するためのものであり、それぞれ車両Vの販売店(ディーラー)Dに設置される複数(
図1では、1つのみを図示する。)の端末2と、それぞれ車両Vの整備工場Fに設置される複数(
図1では、1つのみを図示する。)の端末3と、これらの複数の端末2,3と通信により情報をやり取り可能なサーバ5とを含む。
【0013】
異音診断支援システム1を構成する端末2,3は、CPU,ROM,RAM、入出力装置、記憶装置、通信モジュール等を含むコンピュータである。また、販売店Dに設置される端末2は、車両Vで発生した異音の診断に必要な問診情報の入力を受け付ける。すなわち、端末2において異音診断用のプログラムが起動されると、当該端末2の表示装置には、
図2に示すような問診情報の入力画面(問診票)が表示される。販売店Dの担当者は、ユーザから車両Vで異音が発生したことを伝えられると、当該ユーザから異音に関する問診情報を聞き取り、聞き取った情報を入力画面から端末2に入力する。
【0014】
また、本実施形態において、車両Vのユーザは、携帯情報端末4や図示しないパーソナルコンピュータから専用のウェブページにアクセスして入力画面に問診情報を入力することで、車両Vを購入した販売店Dの端末2に当該問診情報を送信することができる。そして、端末2に入力された問診情報は、例えば担当者が画面上で「送信」ボタンをクリックすることで、当該端末2からサーバ5へと送信される。
【0015】
本実施形態において、問診情報は、
図2に示すように、車種情報、ご用命事項、発生日時、発生頻度、音の種類、運転状態、車速、エンジン回転数(エンジン搭載車両のみ)、暖機影響(エンジン搭載車両のみ)、および走行モードという項目を含む。車種情報は、車台番号あるいは車両識別番号といった車両Vの車種を特定するための情報である。ご用命事項は、ユーザから聞き取られた異音の発生状態の詳細である。発生頻度は、常時、数回/日、1回/日、数回/週、1回/週、1回以下/月といった選択肢を含む予め用意された一覧(ドロップダウンリスト)から該当するものが選択される。
【0016】
音の種類は、予め用意された複数の擬音(例えば、ガラガラ、キュルキュル、ガー、キー等)を含む一覧(ドロップダウンリスト)から該当するものが選択される。運転状態は、始動、アイドリング、停車、レーシング、発進、加速、定速走行、減速、制動、シフト操作、後退、旋回といった複数の状態を含む一覧(ドロップダウンリスト)から該当するものが選択される。暖機影響は、例えば、ユーザから聞き取られた情報を基に「冷間」、「温間」、「冷間および温間」の中かの何れかが担当者により選択される。
【0017】
異音診断支援システム1を構成するサーバ5は、例えば車両Vのメーカーによりにより設置・管理されるものである。サーバ5は、CPU,ROM,RAM、入出力装置等を有するコンピュータと、端末2,3と通信するための通信モジュールとを含む。サーバ5には、コンピュータのCPUやROM,RAMといったハードウエアと、予めインストールされた各種プログラムとの協働により、車両Vの発生した異音の診断を支援するための各種処理実行する情報処理装置としての情報処理モジュール6が構築されている。
【0018】
更に、サーバ5は、それぞれ上記複数の項目を含む複数の問診情報と、当該問診情報に対応した異音を再現するための再現条件と、異音対策処理の内容とを紐付けて格納したデータベースを記憶する記憶装置7を含む。当該データベースの問診情報は、基本的に、多数の車両V(ユーザ)から収集されるもの(過去の情報)であり、再現条件は、整備工場F等において1つ(1セット)の問診情報に対応した異音が再現されたときの車両Vのアクセル開度、車速、といった車両パラメータ(物理量)の値を示すものである。更に、当該データベースは、車両Vのベンチテストや試乗等に際して収集されて問診情報と、当該問診情報に対応した異音を再現するための再現条件とを紐付けて格納する。
【0019】
続いて、
図3を参照しながら、上述の異音診断支援システム1を構成するサーバ5の情報処理モジュール6による異音診断の支援手順について説明する。
【0020】
図3は、販売店Dの端末2から問診情報を受信したサーバ5の情報処理モジュール6により実行される一連の処理を示すフローチャートである。販売店Dの端末2からサーバー5に問診情報(以下、「新規問診情報」という。)が送信されると、サーバ5の情報処理モジュール6は、当該端末2からの問診情報を取得して記憶装置7のデータベースに格納する(ステップS100)。次いで、情報処理モジュール6は、記憶装置7に記憶されている複数の問診情報(新規問診情報以外のもの)ごとに、ステップS100にて取得した新規問診情報との一致の度合いを示す一致度(例えば、10段階で、9,8,7…といった数値)を順番に算出する(ステップS110)。
【0021】
ステップS110において、情報処理モジュール6は、記憶装置7に記憶された問診情報を新規問診情報の車種情報と同一のものに絞り込んだ上で、問診情報の各項目(
図2参照)に予め定められた重みと項目の内容の一致数とに基づいて新規問診情報と記憶装置7に記憶された問診情報との一致度を算出する。また、本実施形態では、問診情報の複数の項目のうち、例えば音の種類および運転状態には、他の項目よりも大きい重みが付与される。
【0022】
更に、情報処理モジュール6は、ステップS110にて算出した一致度が予め定められた閾値以上であるか否かを判定し(ステップS120)、一致度が閾値以上であると判定した場合(ステップS120:YES)、当該問診情報に紐付けられた再現条件を記憶装置7から読み出して(抽出して)RAMに格納する(ステップS130)。また、一致度が閾値未満であると判定した場合(ステップS120:NO)、情報処理モジュール6は、ステップS130の処理をスキップする。
【0023】
ステップS120またはS130の処理の後、情報処理モジュール6は、記憶装置7に記憶された問診情報のうちの照会すべき全情報(例えば、車種情報が同一のもの)について一致度を算出したか否かを判定し(ステップS140)、一致度を算出すべき問診情報が残っていると判定した場合(ステップS140:NO)、ステップS1120-S140の処理を再度実行する。なお、ステップS110-S140において、同一車種の問診情報に新規問診情報との一致度が閾値以上となるものが存在しなかった場合(例えば、車両Vの販売開始直後等)には、車種情報が一致していない問診情報の中から、音の種類や運転状態といった重みの高い項目が一致している問診情報を抽出して、抽出した問診情報と新規問診情報との一致度を算出してもよい。
【0024】
そして、情報処理モジュール6は、記憶装置7に記憶された問診情報のうちの照会すべき全情報について一致度を算出したと判定した場合(ステップS140:YES)、ステップS130にて読み出した再現条件とステップS110にて算出した一致度とを紐付けて販売店Dの端末2に送信し(ステップS150)、
図3の一連の処理を終了させる。販売店Dの端末2では、サーバ5から送信された再現条件が一致度に応じてランク付けされた状態で表示装置に表示される。これにより、販売店Dの担当者は、画面上に表示された再現条件に基づいて想定される異音の発生原因等の説明を行うことが可能となる。また、販売店Dの担当者は、対象となる車両VのIDや車種情報等と、サーバ5からの再現条件および一致度とを紐付けて当該車両Vの整備が行われる整備工場Fの端末3に送信する。販売店Dの端末2からの情報は、整備工場Fの端末3の記憶装置に記憶される。
【0025】
図4は、異音診断支援システム1により提供される再現条件を用いて整備工場Fで行われる一連の処理を示すフローチャートである。
【0026】
整備対象となる車両Vが整備工場Fに入庫すると、当該整備工場の作業員は、端末3を操作して販売店Dの端末2から送信された再現条件および一致度を表示装置の画面上に表示させる(ステップS200)。続いて、作業員は、ユーザにより指摘された異音を再現するための異音再現試験を実施する(ステップS210)。ステップS210において、作業員は、対象となる車両Vを適宜走行させながら、例えば一致度が高い順に再現条件を適用し、異音の再現を試みる。また、ステップS210において、販売店Dからの再現条件を適用しても異音を確認し得なかった場合、別途作成されているマニュアル、自己の経験といった知見を利用しながら、車両Vのアクセル開度や車速といった車両パラメータを変化させて異音の再現を試みる。
【0027】
ステップS210の異音再現試験を経て、ユーザにより指摘された異音が再現された場合(ステップS220:YES)、作業員は、当該異音が再現されたときの各種車両パラメータを再現条件として記録すると共に、車両Vに対して当該異音を解消・低減するための異音対策処理を施す(ステップS230)。異音対策処理の完了後、作業員は、異音が再現されたときの再現条件と異音対策処理の内容とを端末3からサーバ5に送信する(ステップS240)。これにより、整備工場Fにおける異音に関する作業が完了する。
【0028】
ステップS240にて端末3からサーバ5に送信された再現条件や異音対策処理の内容は、
図3のステップS100にて記憶装置7のデータベースに格納(記憶)された問診情報(新規問診情報)に紐付けられて当該データベース(記憶装置7)に格納(記憶)される。これにより、サーバ5のデータベースが更新され、当該データベースの有用性が更に高められる。一方、異音再現試験においてユーザにより指摘された異音が再現されなかった場合(ステップS220:NO)、整備工場Fの作業員は、異音対策処理を行うことなく、再現条件が取得されずに対策が施されなかった旨を端末3からサーバ5に送信し、異音に関する作業を終了させる。
【0029】
以上説明したように、異音診断支援システム1は、車両Vの異音に関する複数の問診情報と、当該問診情報に対応した異音を再現するための再現条件とを紐付けて記憶装置7に記憶させる。そして、異音診断支援システム1の情報処理モジュール6は、入力受付装置としての販売店Dの端末2による新規問診情報の受け付けおよび送信に応じて、当該新規問診情報と当該複数の問診情報とに基づいて記憶装置7(データベース)から新規問診情報に適合する再現条件を抽出し(
図3のステップS110-S140)、抽出した再現条件を出力する(
図3のステップS150)。これにより、過去の情報や知見に基づいて複数の問診情報に再現条件を紐付けておくことで、新規問診情報の受け付けに応じて、それに適合した再現条件を速やかに提供することができる。この結果、車両Vで発生した異音の再現性を向上させて異音診断を効率よく実行することが可能となる。
【0030】
また、情報処理モジュール6は、新規問診情報と記憶装置7に記憶されている複数の問診情報との一致度を算出すると共に(
図3のステップS110-S140)、一致度が高い問診情報に紐付けられた再現条件を一致度と共に出力する(
図3のステップS150)。これにより、異音を再現する作業すなわち異音再現試験(
図4のステップS210)をより効率よく実行することが可能となる。
【0031】
更に、上記実施形態において、問診情報(新規問診情報)は、車両Vの車種を示す車台番号等の車種情報を含む。これにより、車種情報に基づいて複数の問診情報を絞り込むことができるので、新規問診情報に適合した再現条件を効率よく速やかに抽出することが可能となる。
【0032】
なお、
図3のステップS110-S140では、一致度が高い方から順番に所定数の再現条件が記憶装置7から読み出されてもよい。また、新規問診情報は、整備工場Fの端末3により受け付けられてもよく、当該端末3からサーバ5に送信されてもよい。更に、新規問診情報は、ユーザの携帯情報端末4等から整備工場Fの端末3に送信されてもよい。また、
図4のステップS200では、整備工場Fの端末3が再現条件および一致度をサーバ5から取得してもよい。
【0033】
本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記実施形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本開示の発明は、車両の製造販売業等において利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 異音診断支援システム、2,3 端末、4 携帯情報端末、5 サーバ、6 情報処理モジュール、7 記憶装置、D 販売店、F 整備工場、V 車両。