IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

特許7559711ギヤードモータ、および、それを用いたクラッチアクチュエータ
<>
  • 特許-ギヤードモータ、および、それを用いたクラッチアクチュエータ 図1
  • 特許-ギヤードモータ、および、それを用いたクラッチアクチュエータ 図2
  • 特許-ギヤードモータ、および、それを用いたクラッチアクチュエータ 図3
  • 特許-ギヤードモータ、および、それを用いたクラッチアクチュエータ 図4
  • 特許-ギヤードモータ、および、それを用いたクラッチアクチュエータ 図5
  • 特許-ギヤードモータ、および、それを用いたクラッチアクチュエータ 図6
  • 特許-ギヤードモータ、および、それを用いたクラッチアクチュエータ 図7
  • 特許-ギヤードモータ、および、それを用いたクラッチアクチュエータ 図8
  • 特許-ギヤードモータ、および、それを用いたクラッチアクチュエータ 図9
  • 特許-ギヤードモータ、および、それを用いたクラッチアクチュエータ 図10
  • 特許-ギヤードモータ、および、それを用いたクラッチアクチュエータ 図11
  • 特許-ギヤードモータ、および、それを用いたクラッチアクチュエータ 図12
  • 特許-ギヤードモータ、および、それを用いたクラッチアクチュエータ 図13
  • 特許-ギヤードモータ、および、それを用いたクラッチアクチュエータ 図14
  • 特許-ギヤードモータ、および、それを用いたクラッチアクチュエータ 図15
  • 特許-ギヤードモータ、および、それを用いたクラッチアクチュエータ 図16
  • 特許-ギヤードモータ、および、それを用いたクラッチアクチュエータ 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】ギヤードモータ、および、それを用いたクラッチアクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/46 20060101AFI20240925BHJP
   H02K 7/108 20060101ALI20240925BHJP
   H02K 7/116 20060101ALI20240925BHJP
   F16H 1/28 20060101ALI20240925BHJP
   F16D 13/52 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
F16H1/46
H02K7/108
H02K7/116
F16H1/28
F16D13/52 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021141589
(22)【出願日】2021-08-31
(65)【公開番号】P2023035018
(43)【公開日】2023-03-13
【審査請求日】2024-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 巧美
(72)【発明者】
【氏名】古市 敦大
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-023091(JP,A)
【文献】特開2004-092815(JP,A)
【文献】特開昭60-222640(JP,A)
【文献】実開昭61-058371(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/46
H02K 7/108
H02K 7/116
F16H 1/28
F16D 13/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング(12)と、
前記ハウジングに設けられ、通電によりトルクを出力可能な電動モータ(20)と、
前記電動モータからのトルクを減速し出力可能な減速機(30)と、
前記減速機からのトルクにより回転運動する回転部(40)と、を備え、
前記減速機は、
前記電動モータからのトルクが入力されるサンギヤ(31)、
前記サンギヤに噛み合いつつ自転しながら前記サンギヤの周方向に公転可能な複数のプラネタリギヤ(32)、
前記プラネタリギヤの回転中心に設けられたピン(335)、
前記プラネタリギヤと前記ピンとの間に設けられたプラネタリギヤベアリング(36)、
前記ピンの一端を支持することで前記プラネタリギヤを回転可能に支持し、前記サンギヤに対し相対回転可能な環状のキャリア(33)、
前記プラネタリギヤに噛み合い可能な環状の第1リングギヤ(34)、および、
前記プラネタリギヤに噛み合い可能、かつ、前記第1リングギヤとは歯部の歯数が異なるよう形成され、前記回転部にトルクを出力する環状の第2リングギヤ(35)を有し、
前記プラネタリギヤ、前記ピン、前記プラネタリギヤベアリングおよび前記キャリアは、キャリアサブアッセンブリ(330)を構成し、
複数の前記プラネタリギヤのうち少なくとも1つは、軸方向の一端に環状の面である第1プラネタリギヤ環状面(901)、軸方向の他端に環状の面である第2プラネタリギヤ環状面(902)を有し、
前記サンギヤは、一部が前記第1プラネタリギヤ環状面の一部に当接および摺動可能に対向する環状の面であるサンギヤ環状面(911)を有し、
前記第2リングギヤまたは前記回転部は、一部が前記第2プラネタリギヤ環状面の一部に当接および摺動可能に対向する環状の面である出力側環状面(921)を有し、
前記キャリアサブアッセンブリは、前記第1プラネタリギヤ環状面が前記サンギヤ環状面に当接したとき、または、前記第2プラネタリギヤ環状面が前記出力側環状面に当接したとき、前記ハウジングに対する軸方向の相対移動が規制され
前記プラネタリギヤは、筒状のプラネタリギヤ本体(322)、前記プラネタリギヤ本体の軸方向の一方の端面から筒状に突出する第1凸部(323)、および、前記プラネタリギヤ本体の軸方向の他方の端面から筒状に突出する第2凸部(324)を有し、
前記第1プラネタリギヤ環状面は、前記第1凸部の端面に形成され、
前記第2プラネタリギヤ環状面は、前記第2凸部の端面に形成されているギヤードモータ。
【請求項2】
前記第1プラネタリギヤ環状面および前記第2プラネタリギヤ環状面の外径は、前記プラネタリギヤの歯底円の直径より小さく設定され、
前記サンギヤ環状面の外径は、前記サンギヤの歯先円の直径以上に設定され、
前記出力側環状面の内径は、前記第2リングギヤの歯先円の直径以下に設定されている請求項1に記載のギヤードモータ。
【請求項3】
前記第1リングギヤに対し前記第2リングギヤとは反対側に設けられた環状のプレート(95)をさらに備え、
前記プレートは、一部が前記第1プラネタリギヤ環状面に当接および摺動可能に対向する環状の面であるプレート環状面(931)を有し、
前記キャリアサブアッセンブリは、前記第1プラネタリギヤ環状面が前記プレート環状面に当接したとき、または、前記第2プラネタリギヤ環状面が前記出力側環状面に当接したとき、前記ハウジングに対する軸方向の相対移動が規制される請求項1または2に記載のギヤードモータ。
【請求項4】
前記サンギヤ環状面の外径、および、前記出力側環状面の内径は、前記サンギヤと前記プラネタリギヤと前記第1リングギヤと前記第2リングギヤとの中心間距離に誤差が生じた場合でも、前記第1プラネタリギヤ環状面と前記サンギヤ環状面との対向、および、前記第2プラネタリギヤ環状面と前記出力側環状面との対向が維持される大きさに設定されている請求項1~3のいずれか一項に記載のギヤードモータ。
【請求項5】
前記キャリアは、前記プラネタリギヤの軸方向の中心に対し前記回転部側のみに設けられている請求項1~4のいずれか一項に記載のギヤードモータ。
【請求項6】
前記キャリアは、磁性材料により形成されている請求項5に記載のギヤードモータ。
【請求項7】
前記第1プラネタリギヤ環状面、前記第2プラネタリギヤ環状面、前記サンギヤ環状面、および、前記出力側環状面の少なくとも1つに設けられた環状の凹部である環状凹部(900)をさらに備える請求項1~6のいずれか一項に記載のギヤードモータ。
【請求項8】
複数の前記プラネタリギヤのうち一部は、前記第1プラネタリギヤ環状面および前記第2プラネタリギヤ環状面を有する請求項1~7のいずれか一項に記載のギヤードモータ。
【請求項9】
相対回転可能な第1伝達部(61)と第2伝達部(62)との間において、前記第1伝達部と前記第2伝達部との間のトルクの伝達を許容する係合状態と、前記第1伝達部と前記第2伝達部との間のトルクの伝達を遮断する非係合状態とに状態が変化するクラッチ(70)を備えるクラッチ装置(1)に用いられるクラッチアクチュエータ(10)であって、
請求項1~8のいずれか一項に記載のギヤードモータ(7)と、
前記回転部を有し、前記回転部の回転運動を、前記ハウジングに対する軸方向の相対移動である並進運動に変換し、前記クラッチの状態を係合状態または非係合状態に変更可能な回転並進部(2)と、
を備えるクラッチアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギヤードモータ、および、それを用いたクラッチアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、相対回転可能な第1伝達部と第2伝達部との間に設けられ、第1伝達部と第2伝達部との間のトルクの伝達を許容する係合状態と、第1伝達部と第2伝達部との間のトルクの伝達を遮断する非係合状態とに状態が変化するクラッチの状態を変更可能なクラッチアクチュエータが知られている。
【0003】
例えば特許文献1に記載されたクラッチアクチュエータは、クラッチを押し付けるための駆動部としてギヤードモータを備えている。ギヤードモータは、電動モータと、電動モータからのトルクを減速し出力可能な減速機と、を備えている。減速機は、サンギヤ、プラネタリギヤ、および、2つのリングギヤを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-90533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたギヤードモータでは、プラネタリギヤ、ピン、キャリアからなるキャリアサブアッセンブリのアキシャル方向すなわち軸方向の位置を、キャリアおよびサンギヤに同期する部品間で規制しており、位置規制部に比較的大きな相対回転が生じる。そのため、キャリアサブアッセンブリと位置規制部品との摺動速度は比較的高くなる。クラッチを押し付ける過程でギヤードモータの減速機にトルクが作用すると、プラネタリギヤが傾くことでキャリア全体にアキシャル方向の荷重が作用する。そのため、アキシャル方向の位置規制部は、摺動ストレスによって激しく摩耗するおそれがある。ここで、摺動ストレスは、摺動距離とアキシャル方向の荷重との積に相当する。
【0006】
摩耗量低減のためには、(1)摺動ストレスの低減、すなわち、摺動距離またはアキシャル荷重の低減、(2)比摩耗量の向上といった対応が考えられるものの、特許文献1のギヤードモータの構成では、(1)摺動ストレスを低減することはできず、(2)比摩耗量の向上のためには少なくともキャリアに熱処理を施す必要があり、製造工程が複雑化するおそれがある。また、キャリアサブアッセンブリ全体をベアリング等で支持すれば上述の問題は解決できる可能性があるものの、体格の大型化等を招くおそれがある。
【0007】
また、特許文献1のギヤードモータでは、位置規制部に摩擦力が生じるため、「減速機全体の実効率」が「噛み合い効率のみを考慮した理論効率」より低くなり、クラッチアクチュエータの性能が低下するおそれがある。そのため、例えば、クラッチを係合する際、効率の低下を補うために余分に電動モータのトルクを出す必要があり、電流および消費電力が増大し、電動モータの発熱量が増大するおそれがある。これにより、クラッチアクチュエータの信頼性が低下するおそれがある。
【0008】
本発明の目的は、簡単な構成で耐摩耗性および減速機効率を向上できるギヤードモータおよびクラッチアクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るギヤードモータは、ハウジング(12)と電動モータ(20)と減速機(30)と回転部(40)とを備える。電動モータは、ハウジングに設けられ、通電によりトルクを出力可能である。減速機は、電動モータからのトルクを減速し出力可能である。回転部は、減速機からのトルクにより回転運動する。
【0010】
減速機は、サンギヤ(31)、複数のプラネタリギヤ(32)、ピン(335)、プラネタリギヤベアリング(36)、環状のキャリア(33)、環状の第1リングギヤ(34)、および、環状の第2リングギヤ(35)を有している。サンギヤには、電動モータからのトルクが入力される。プラネタリギヤは、サンギヤに噛み合いつつ自転しながらサンギヤの周方向に公転可能である。ピンは、プラネタリギヤの回転中心に設けられている。
【0011】
プラネタリギヤベアリングは、プラネタリギヤとピンとの間に設けられている。キャリアは、ピンの一端を支持することでプラネタリギヤを回転可能に支持し、サンギヤに対し相対回転可能である。第1リングギヤは、プラネタリギヤに噛み合い可能である。第2リングギヤは、プラネタリギヤに噛み合い可能、かつ、第1リングギヤとは歯部の歯数が異なるよう形成され、回転部にトルクを出力する。
【0012】
プラネタリギヤ、ピン、プラネタリギヤベアリングおよびキャリアは、キャリアサブアッセンブリ(330)を構成する。複数のプラネタリギヤのうち少なくとも1つは、軸方向の一端に環状の面である第1プラネタリギヤ環状面(901)、軸方向の他端に環状の面である第2プラネタリギヤ環状面(902)を有している。サンギヤは、一部が第1プラネタリギヤ環状面の一部に当接および摺動可能に対向する環状の面であるサンギヤ環状面(911)を有している。第2リングギヤまたは回転部は、一部が第2プラネタリギヤ環状面の一部に当接および摺動可能に対向する環状の面である出力側環状面(921)を有している。
【0013】
キャリアサブアッセンブリは、第1プラネタリギヤ環状面がサンギヤ環状面に当接したとき、または、第2プラネタリギヤ環状面が出力側環状面に当接したとき、ハウジングに対する軸方向の相対移動が規制される。
【0014】
本発明では、キャリアサブアッセンブリのアキシャル方向すなわち軸方向の位置を、サンギヤのサンギヤ環状面と、第2リングギヤまたは回転部の出力側環状面とにより規制可能である。ここで、第1プラネタリギヤ環状面とサンギヤ環状面との摺動速度、および、第2プラネタリギヤ環状面と出力側環状面との摺動速度は、特許文献1のキャリアサブアッセンブリと位置規制部品との摺動速度と比べ、極めて低い。そのため、第1プラネタリギヤ環状面とサンギヤ環状面との摺動距離、および、第2プラネタリギヤ環状面と出力側環状面との摺動距離を極めて小さくでき、摺動ストレスを大幅に低減できる。したがって、プラネタリギヤ、サンギヤ、第2リングギヤまたは回転部の摩耗量を低減でき、耐摩耗性を向上できる。
【0015】
また、キャリアサブアッセンブリと、位置規制部品としてのサンギヤおよび第2リングギヤまたは回転部との間のトルク損失を低減できるため、減速機全体の効率を向上できる。
プラネタリギヤは、筒状のプラネタリギヤ本体(322)、プラネタリギヤ本体の軸方向の一方の端面から筒状に突出する第1凸部(323)、および、プラネタリギヤ本体の軸方向の他方の端面から筒状に突出する第2凸部(324)を有する。第1プラネタリギヤ環状面は、第1凸部の端面に形成されている。第2プラネタリギヤ環状面は、第2凸部の端面に形成されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態によるギヤードモータおよびクラッチアクチュエータを適用したクラッチ装置を示す断面図。
図2】第1実施形態によるギヤードモータ、クラッチアクチュエータおよびクラッチ装置の一部を示す断面図。
図3】第1実施形態によるクラッチアクチュエータの一部を示す断面図。
図4】第1実施形態によるギヤードモータのプラネタリギヤおよびその近傍を示す模式図。
図5】比較形態によるクラッチアクチュエータの一部を示す断面図。
図6】比較形態によるギヤードモータのプラネタリギヤおよびその近傍を示す模式図。
図7】第1実施形態によるギヤードモータのプラネタリギヤおよびその近傍を示す図。
図8図7のVIII-VIII線断面の模式図。
図9】サンギヤの回転角と、プラネタリギヤと第1リングギヤおよび第2リングギヤとの接触点との関係を示す図。
図10】第2リングギヤに作用するトルクと、キャリアに作用するアキシャル荷重との関係を示す図。
図11】相対回転する2つの部品間のすべり率と摩擦係数との関係を示す図。
図12】第2実施形態によるクラッチアクチュエータの一部を示す断面図。
図13】第3実施形態によるクラッチアクチュエータの一部を示す断面図。
図14】第4実施形態によるクラッチアクチュエータの一部を示す断面図。
図15】第5実施形態によるクラッチアクチュエータの一部を示す断面図。
図16】第5実施形態によるクラッチアクチュエータのプラネタリギヤおよびその近傍を示す断面図。
図17】第6実施形態によるクラッチアクチュエータの一部を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、複数の実施形態によるクラッチアクチュエータを図面に基づき説明する。なお、複数の実施形態において実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0018】
(第1実施形態)
第1実施形態によるギヤードモータおよびクラッチアクチュエータを適用したクラッチ装置を図1、2に示す。クラッチ装置1は、例えば車両の内燃機関と変速機との間に設けられ、内燃機関と変速機との間のトルクの伝達を許容または遮断するのに用いられる。
【0019】
クラッチ装置1は、クラッチアクチュエータ10、クラッチ70、「制御部」としての電子制御ユニット(以下、「ECU」という)100、「第1伝達部」としての入力軸61、「第2伝達部」としての出力軸62等を備えている。
【0020】
クラッチアクチュエータ10は、ハウジング12、「原動機」としての電動モータ20、減速機30、「回転並進部」または「転動体カム」としてのトルクカム2等を備えている。ここで、ハウジング12と、電動モータ20と、減速機30と、後述するトルクカム2の一部である駆動カム40とが、ギヤードモータ7を構成している。
【0021】
ECU100は、演算手段としてのCPU、記憶手段としてのROM、RAM等、入出力手段としてのI/O等を有する小型のコンピュータである。ECU100は、車両の各部に設けられた各種センサからの信号等の情報に基づき、ROM等に格納されたプログラムに従い演算を実行し、車両の各種装置および機器の作動を制御する。このように、ECU100は、非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行する。このプログラムが実行されることで、プログラムに対応する方法が実行される。
【0022】
ECU100は、各種センサからの信号等の情報に基づき、内燃機関等の作動を制御可能である。また、ECU100は、後述する電動モータ20の作動を制御可能である。
【0023】
入力軸61は、例えば、図示しない内燃機関の駆動軸に接続され、駆動軸とともに回転可能である。つまり、入力軸61には、駆動軸からトルクが入力される。
【0024】
内燃機関を搭載する車両には、固定体11が設けられる(図2参照)。固定体11は、例えば筒状に形成され、車両のエンジンルームに固定される。固定体11の内周壁と入力軸61の外周壁との間には、ボールベアリング141が設けられる。これにより、入力軸61は、ボールベアリング141を介して固定体11により軸受けされる。
【0025】
ハウジング12は、固定体11の内周壁と入力軸61の外周壁との間に設けられる。ハウジング12は、「ハウジング筒部」としてのハウジング内筒部121、ハウジング板部122、ハウジング外筒部123、シール溝部124、ハウジング段差面125、ハウジング側スプライン溝部127、ハウジング穴部128等を有している。
【0026】
ハウジング内筒部121は、略円筒状に形成されている。ハウジング板部122は、ハウジング内筒部121の端部から径方向外側へ延びるよう環状の板状に形成されている。ハウジング外筒部123は、ハウジング板部122の外縁部からハウジング内筒部121と同じ側へ延びるよう略円筒状に形成されている。ここで、ハウジング内筒部121とハウジング板部122とハウジング外筒部123とは、例えば金属により一体に形成されている。
【0027】
上述のように、ハウジング12は、全体としては、中空、かつ、扁平形状に形成されている。
【0028】
シール溝部124は、ハウジング内筒部121の外周壁から径方向内側へ凹むよう環状に形成されている。ハウジング段差面125は、シール溝部124とハウジング板部122との間において、ハウジング板部122とは反対側を向くよう円環の平面状に形成されている。
【0029】
ハウジング側スプライン溝部127は、ハウジング内筒部121の軸方向に延びるようハウジング内筒部121の外周壁に形成されている。ハウジング側スプライン溝部127は、ハウジング内筒部121の周方向に複数形成されている。ハウジング穴部128は、ハウジング板部122を板厚方向に貫くよう形成されている。
【0030】
ハウジング12は、外壁の一部が固定体11の壁面の一部に当接するよう固定体11に固定される(図2参照)。ここで、ハウジング12は、固定体11および入力軸61に対し同軸に設けられる。ここで、「同軸」とは、2つの軸が厳密に一致する同軸の状態に限らず、僅かに偏心している状態または傾いている状態を含むものとする(以下、同じ)。
【0031】
ハウジング12は、「空間」としての収容空間120を有している。収容空間120は、ハウジング内筒部121とハウジング板部122とハウジング外筒部123との間に形成されている。
【0032】
電動モータ20は、収容空間120に収容されている。電動モータ20は、ステータ21、コイル22、ロータ23、「磁石」としてのマグネット230、マグネットカバー24等を有している。
【0033】
ステータ21は、ステータヨーク211、ステータティース212を有している。ステータ21は、例えば積層鋼板により形成されている。ステータヨーク211は、略円筒状に形成されている。ステータティース212は、ステータヨーク211の内周壁から径内方向へ突出するようステータヨーク211と一体に形成されている。ステータティース212は、ステータヨーク211の周方向に等間隔で複数形成されている。コイル22は、複数のステータティース212のそれぞれに設けられている。ステータ21は、ステータヨーク211の外周壁がハウジング外筒部123の内周壁に嵌合するようハウジング12に固定されている。
【0034】
ロータ23は、例えば鉄系の金属により形成されている。ロータ23は、ロータ本体231、ロータ筒部232を有している。ロータ本体231は、略円環状に形成されている。ロータ筒部232は、ロータ本体231の外縁部から筒状に延びるよう形成されている。
【0035】
マグネット230は、ロータ23の外周壁に設けられている。マグネット230は、磁極が交互になるようロータ23の周方向に等間隔で複数設けられている。
【0036】
マグネットカバー24は、マグネット230のロータ23の径方向外側の面を覆うようロータ23に設けられている。より詳細には、マグネットカバー24は、例えば非磁性の金属により形成されている。
【0037】
クラッチアクチュエータ10は、ロータベアリング15を備えている。ロータベアリング15は、ハウジング段差面125に対しハウジング板部122側において、ハウジング内筒部121の径方向外側に設けられている。ロータベアリング15は、内輪151、外輪152、「軸受転動体」としての軸受ボール153等を有している。
【0038】
内輪151、外輪152は、例えば金属により筒状に形成されている。外輪152は、内輪151の径方向外側に設けられている。軸受ボール153は、例えば金属により球状に形成されている。軸受ボール153は、内輪151の外周壁に環状に形成された溝部、および、外輪152の内周壁に環状に形成された溝部において、内輪151と外輪152との間で転動可能に設けられている。軸受ボール153は、内輪151および外輪152の周方向に複数設けられている。内輪151と外輪152との間で軸受ボール153が転動することにより、内輪151と外輪152とは相対回転可能である。軸受ボール153により、内輪151と外輪152との軸方向への相対移動が規制されている。
【0039】
ロータベアリング15は、内輪151の内周壁がハウジング内筒部121の外周壁に当接し、内輪151の軸方向の一方の端面がハウジング板部122から所定距離離間した状態でハウジング内筒部121に設けられている。ロータ23は、ロータ本体231の内周壁がロータベアリング15の外周壁に嵌合するよう設けられている。これにより、ロータベアリング15は、ロータ23をハウジング12に対し相対回転可能に支持している。
【0040】
ECU100は、コイル22に供給する電力を制御することにより、電動モータ20の作動を制御可能である。コイル22に電力が供給されると、ステータ21に回転磁界が生じ、ロータ23が回転する。これにより、ロータ23からトルクが出力される。このように、電動モータ20は、ステータ21、および、ステータ21に対し相対回転可能に設けられたロータ23を有し、電力の供給によりロータ23からトルクを出力可能である。
【0041】
ここで、ロータ23は、ステータ21の径方向内側において、ステータ21に対し相対回転可能に設けられている。電動モータ20は、インナロータタイプのブラシレス直流モータである。
【0042】
本実施形態では、クラッチアクチュエータ10は、回転角センサ104を備えている。回転角センサ104は、コイル22に対しハウジング板部122側に位置するよう電動モータ20に設けられている。
【0043】
回転角センサ104は、ロータ23と一体に回転するセンサマグネットまたはマグネット230から発生する磁束を検出し、検出した磁束に応じた信号をECU100に出力する。これにより、ECU100は、回転角センサ104からの信号に基づき、ロータ23の回転角および回転数等を検出することができる。また、ECU100は、ロータ23の回転角および回転数等に基づき、ハウジング12および後述する従動カム50に対する駆動カム40の相対回転角度、ハウジング12および駆動カム40に対する従動カム50の軸方向の相対位置等を算出することができる。
【0044】
図3に示すように、減速機30は、サンギヤ31、プラネタリギヤ32、キャリア33、第1リングギヤ34、第2リングギヤ35等を有している。
【0045】
サンギヤ31は、ロータ23と同軸かつ一体回転可能に設けられている。つまり、ロータ23とサンギヤ31とは、異なる材料により別体に形成され、一体に回転可能なよう同軸に配置されている。
【0046】
より詳細には、サンギヤ31は、サンギヤ基部310、「歯部」および「外歯」としてのサンギヤ歯部311、サンギヤ筒部312、サンギヤ延伸部315を有している。サンギヤ31は、例えば金属により形成されている。サンギヤ基部310は、略円環状に形成されている。サンギヤ筒部312は、サンギヤ基部310の外縁部から筒状に延びるようサンギヤ基部310と一体に形成されている。サンギヤ歯部311は、サンギヤ筒部312のサンギヤ基部310とは反対側の端部の外周壁に形成されている。サンギヤ延伸部315は、サンギヤ筒部312のサンギヤ基部310側の端部の外周壁から径外方向へ延びるよう環状に形成されている。
【0047】
サンギヤ31は、サンギヤ基部310の外周壁がロータ筒部232の内周壁に嵌合するよう設けられている。これにより、サンギヤ31は、ロータベアリング15により、ロータ23とともに、ハウジング12に対し相対回転可能に支持されている。
【0048】
ロータ23と一体回転するサンギヤ31には、電動モータ20のトルクが入力される。ここで、サンギヤ31は、減速機30の「入力部」に対応する。
【0049】
プラネタリギヤ32は、サンギヤ31の周方向に沿って複数設けられ、サンギヤ31に噛み合いつつ自転しながらサンギヤ31の周方向に公転可能である。より詳細には、プラネタリギヤ32は、例えば金属により略円筒状に形成され、サンギヤ31の径方向外側においてサンギヤ31の周方向に等間隔で複数設けられている。本実施形態では、プラネタリギヤ32は、4つ設けられている。プラネタリギヤ32は、「歯部」および「外歯」としてのプラネタリギヤ歯部321を有している。プラネタリギヤ歯部321は、サンギヤ歯部311に噛み合い可能なようプラネタリギヤ32の外周壁に形成されている。
【0050】
キャリア33は、プラネタリギヤ32を回転可能に支持し、サンギヤ31に対し相対回転可能である。
【0051】
より詳細には、キャリア33は、キャリア本体331を有している。キャリア本体331は、例えば金属により略円環の板状に形成されている。キャリア本体331は、軸方向においてはコイル22とプラネタリギヤ32との間に位置している。
【0052】
減速機30は、ピン335、プラネタリギヤベアリング36を有している。ピン335は、例えば金属により略円柱状に形成されている。ピン335は、軸方向の端部がキャリア本体331に固定されるようにして設けられている。
【0053】
プラネタリギヤベアリング36は、ピン335の外周壁とプラネタリギヤ32の内周壁との間に設けられている。これにより、プラネタリギヤ32は、プラネタリギヤベアリング36を介してピン335により回転可能に支持されている。すなわち、ピン335は、プラネタリギヤ32の回転中心に設けられ、プラネタリギヤ32を回転可能に支持している。また、プラネタリギヤ32とピン335とは、プラネタリギヤベアリング36を介して所定の範囲で軸方向に相対移動可能である。言い換えると、プラネタリギヤ32とピン335とは、プラネタリギヤベアリング36により、軸方向の相対移動可能範囲が所定の範囲に規制されている。
【0054】
第1リングギヤ34は、プラネタリギヤ32に噛み合い可能な歯部である第1リングギヤ歯部341を有し、ハウジング12に固定されている。より詳細には、第1リングギヤ34は、例えば金属により略円筒状に形成されている。第1リングギヤ34は、ステータ21に対しハウジング板部122とは反対側において、外縁部がハウジング外筒部123の内周壁に嵌合するようハウジング12に固定されている。そのため、第1リングギヤ34は、ハウジング12に対し相対回転不能である。
【0055】
ここで、第1リングギヤ34は、ハウジング12、ロータ23、サンギヤ31に対し同軸に設けられている。「歯部」および「内歯」としての第1リングギヤ歯部341は、プラネタリギヤ32のプラネタリギヤ歯部321の軸方向の一方の端部側に噛み合い可能なよう第1リングギヤ34の内周壁に形成されている。
【0056】
第2リングギヤ35は、プラネタリギヤ32に噛み合い可能な歯部であり第1リングギヤ歯部341とは歯数の異なる第2リングギヤ歯部351を有し、後述する駆動カム40と一体回転可能に設けられている。より詳細には、第2リングギヤ35は、例えば金属により筒状に形成されている。
【0057】
ここで、第2リングギヤ35は、ハウジング12、ロータ23、サンギヤ31に対し同軸に設けられている。「歯部」および「内歯」としての第2リングギヤ歯部351は、プラネタリギヤ32のプラネタリギヤ歯部321の軸方向の他方の端部側に噛み合い可能なよう第2リングギヤ35の軸方向の第1リングギヤ34側の端部の内周壁に形成されている。本実施形態では、第2リングギヤ歯部351の歯数は、第1リングギヤ歯部341の歯数よりも多い。より詳細には、第2リングギヤ歯部351の歯数は、第1リングギヤ歯部341の歯数よりも、プラネタリギヤ32の個数に整数を乗じた数分だけ多い。
【0058】
また、プラネタリギヤ32は、同一部位において2つの異なる諸元をもつ第1リングギヤ34および第2リングギヤ35と干渉なく正常に噛み合う必要があるため、第1リングギヤ34および第2リングギヤ35の一方もしくは両方を転位させて各歯車対の中心距離を一定にする設計としている。
【0059】
上記構成により、電動モータ20のロータ23が回転すると、サンギヤ31が回転し、プラネタリギヤ32のプラネタリギヤ歯部321がサンギヤ歯部311と第1リングギヤ歯部341および第2リングギヤ歯部351とに噛み合いつつ自転しながらサンギヤ31の周方向に公転する。ここで、第2リングギヤ歯部351の歯数が第1リングギヤ歯部341の歯数より多いため、第2リングギヤ35は、第1リングギヤ34に対し相対回転する。そのため、第1リングギヤ34と第2リングギヤ35との間で第1リングギヤ歯部341と第2リングギヤ歯部351との歯数差に応じた微小差回転が第2リングギヤ35の回転として出力される。これにより、電動モータ20からのトルクは、減速機30により減速されて、第2リングギヤ35から出力される。このように、減速機30は、電動モータ20のトルクを減速して出力可能である。本実施形態では、減速機30は、3k型の不思議遊星歯車減速機を構成している。
【0060】
第2リングギヤ35は、後述する駆動カム40とは別体に形成され、駆動カム40と一体回転可能に設けられている。第2リングギヤ35は、電動モータ20からのトルクを減速して駆動カム40に出力する。ここで、第2リングギヤ35は、減速機30の「出力部」に対応する。
【0061】
トルクカム2は、「回転部」としての駆動カム40、「並進部」としての従動カム50、「カム転動体」としてのカムボール3を有している。
【0062】
駆動カム40は、駆動カム本体41、駆動カム特定形状部42、駆動カム板部43、駆動カム外筒部44、駆動カム溝400等を有している。駆動カム本体41は、略円環の板状に形成されている。駆動カム特定形状部42は、駆動カム本体41の外縁部から、駆動カム本体41の軸に対し傾斜して延びるよう形成されている。駆動カム板部43は、駆動カム特定形状部42の駆動カム本体41とは反対側の端部から径方向外側へ延びるよう略円環の板状に形成されている。駆動カム外筒部44は、駆動カム板部43の外縁部から駆動カム特定形状部42とは反対側へ延びるよう略円筒状に形成されている。ここで、駆動カム本体41と駆動カム特定形状部42と駆動カム板部43と駆動カム外筒部44とは、例えば金属により一体に形成されている。
【0063】
駆動カム溝400は、駆動カム本体41の一方の端面から他方の端面側へ凹みつつ、駆動カム本体41の周方向に延びるよう形成されている。駆動カム溝400は、駆動カム本体41の周方向において一方の端面からの深さが変化するよう形成されている。駆動カム溝400は、例えば駆動カム本体41の周方向に等間隔で3つ形成されている。
【0064】
駆動カム40は、駆動カム本体41がハウジング内筒部121の外周壁とサンギヤ31のサンギヤ筒部312の内周壁との間に位置し、駆動カム板部43がプラネタリギヤ32に対しキャリア本体331とは反対側に位置するようハウジング内筒部121とハウジング外筒部123との間に設けられている。駆動カム40は、ハウジング12に対し相対回転可能である。
【0065】
第2リングギヤ35は、第2リングギヤ歯部351が形成された端部とは反対側の端部の内周壁が駆動カム板部43の外縁部に嵌合するよう駆動カム40と一体に設けられている。第2リングギヤ35は、駆動カム40に対し相対回転不能である。すなわち、第2リングギヤ35は、「回転部」としての駆動カム40と一体回転可能に設けられている。そのため、電動モータ20からのトルクが、減速機30により減速され、第2リングギヤ35から出力されると、駆動カム40は、ハウジング12に対し相対回転する。すなわち、駆動カム40は、減速機30から出力されたトルクが入力されるとハウジング12に対し相対回転する。
【0066】
従動カム50は、従動カム本体51、従動カム特定形状部52、従動カム板部53、カム側スプライン溝部54、従動カム溝500等を有している。従動カム本体51は、略円環の板状に形成されている。従動カム特定形状部52は、従動カム本体51の外縁部から、従動カム本体51の軸に対し傾斜して延びるよう形成されている。従動カム板部53は、従動カム特定形状部52の従動カム本体51とは反対側の端部から径方向外側へ延びるよう略円環の板状に形成されている。ここで、従動カム本体51と従動カム特定形状部52と従動カム板部53とは、例えば金属により一体に形成されている。
【0067】
カム側スプライン溝部54は、従動カム本体51の内周壁において軸方向に延びるよう形成されている。カム側スプライン溝部54は、従動カム本体51の周方向に複数形成されている。
【0068】
従動カム50は、従動カム本体51が駆動カム本体41に対しロータベアリング15とは反対側、かつ、駆動カム特定形状部42および駆動カム板部43の径方向内側に位置し、カム側スプライン溝部54がハウジング側スプライン溝部127とスプライン結合するよう設けられている。これにより、従動カム50は、ハウジング12に対し、相対回転不能、かつ、軸方向に相対移動可能である。
【0069】
従動カム溝500は、従動カム本体51の駆動カム本体41側の面である一方の端面から他方の端面側へ凹みつつ、従動カム本体51の周方向に延びるよう形成されている。従動カム溝500は、従動カム本体51の周方向において一方の端面からの深さが変化するよう形成されている。従動カム溝500は、例えば従動カム本体51の周方向に等間隔で3つ形成されている。
【0070】
なお、駆動カム溝400と従動カム溝500とは、それぞれ、駆動カム本体41の従動カム本体51側の面側、または、従動カム本体51の駆動カム本体41側の面側から見たとき、同一の形状となるよう形成されている。
【0071】
カムボール3は、例えば金属により球状に形成されている。カムボール3は、3つの駆動カム溝400と3つの従動カム溝500との間のそれぞれにおいて転動可能に設けられている。すなわち、カムボール3は、合計3つ設けられている。
【0072】
このように、駆動カム40と従動カム50とカムボール3とは、「転動体カム」としてのトルクカム2を構成している。駆動カム40がハウジング12および従動カム50に対し相対回転すると、カムボール3は、駆動カム溝400および従動カム溝500においてそれぞれの溝底に沿って転動する。
【0073】
上述のように、駆動カム溝400および従動カム溝500は、駆動カム40または従動カム50の周方向において深さが変化するよう形成されている。そのため、減速機30から出力されるトルクにより駆動カム40がハウジング12および従動カム50に対し相対回転すると、カムボール3が駆動カム溝400および従動カム溝500において転動し、従動カム50は、駆動カム40およびハウジング12に対し軸方向に相対移動、すなわち、ストロークする。
【0074】
このように、従動カム50は、駆動カム溝400との間にカムボール3を挟むようにして一方の端面に形成された複数の従動カム溝500を有し、駆動カム40およびカムボール3とともにトルクカム2を構成している。従動カム50は、駆動カム40がハウジング12に対し相対回転すると駆動カム40およびハウジング12に対し軸方向に相対移動する。ここで、従動カム50は、カム側スプライン溝部54がハウジング側スプライン溝部127とスプライン結合しているため、ハウジング12に対し相対回転しない。また、駆動カム40は、ハウジング12に対し相対回転するものの、軸方向には相対移動しない。
【0075】
トルクカム2は、電動モータ20に対し軸方向の一方側に設けられ、電動モータ20からのトルクによる回転運動を、ハウジング12に対する軸方向の相対移動である並進運動に変換する。
【0076】
本実施形態では、クラッチアクチュエータ10は、「付勢部材」としてのリターンスプリング55、リターンスプリングリテーナ56を備えている。リターンスプリング55は、例えばコイルスプリングであり、従動カム本体51の駆動カム本体41とは反対側において、ハウジング内筒部121の径方向外側に設けられている。リターンスプリング55は、一端が従動カム本体51の駆動カム本体41とは反対側の面に当接している。
【0077】
リターンスプリングリテーナ56は、リテーナ内筒部561、リテーナ板部562、リテーナ外筒部563を有している。リテーナ内筒部561は、略円筒状に形成されている。リテーナ板部562は、リテーナ内筒部561の一方の端部から径方向外側に延びるよう環状の板状に形成されている。リテーナ外筒部563は、リテーナ板部562の外縁部からリテーナ内筒部561と同じ側へ延びるよう略円筒状に形成されている。リテーナ内筒部561とリテーナ板部562とリテーナ外筒部563とは、例えば金属により一体に形成されている。
【0078】
リターンスプリングリテーナ56は、リテーナ内筒部561の内周壁がハウジング内筒部121の外周壁に嵌合するようハウジング内筒部121に固定されている。リターンスプリング55の他端は、リテーナ内筒部561とリテーナ外筒部563との間においてリテーナ板部562に当接している。
【0079】
リターンスプリング55は、軸方向に伸びる力を有している。そのため、従動カム50は、駆動カム40との間にカムボール3を挟んだ状態で、リターンスプリング55により駆動カム本体41側へ付勢されている。
【0080】
出力軸62は、軸部621、板部622、筒部623、摩擦板624を有している(図2参照)。軸部621は、略円筒状に形成されている。板部622は、軸部621の一端から径方向外側へ環状の板状に延びるよう軸部621と一体に形成されている。筒部623は、板部622の外縁部から軸部621とは反対側へ略円筒状に延びるよう板部622と一体に形成されている。摩擦板624は、略円環の板状に形成され、板部622の筒部623側の端面に設けられている。ここで、摩擦板624は、板部622に対し相対回転不能である。筒部623の内側には、クラッチ空間620が形成されている。
【0081】
入力軸61の端部は、ハウジング内筒部121の内側を通り、従動カム50に対し駆動カム40とは反対側に位置している。出力軸62は、従動カム50に対し駆動カム40とは反対側において、入力軸61と同軸に設けられる。軸部621の内周壁と入力軸61の端部の外周壁との間には、ボールベアリング142が設けられる。これにより、出力軸62は、ボールベアリング142を介して入力軸61により軸受けされる。入力軸61および出力軸62は、ハウジング12に対し相対回転可能である。
【0082】
クラッチ70は、クラッチ空間620において入力軸61と出力軸62との間に設けられている。クラッチ70は、内側摩擦板71、外側摩擦板72、係止部701を有している。内側摩擦板71は、略円環の板状に形成され、入力軸61と出力軸62の筒部623との間において、軸方向に並ぶよう複数設けられている。内側摩擦板71は、内縁部が入力軸61の外周壁とスプライン結合するよう設けられている。そのため、内側摩擦板71は、入力軸61に対し相対回転不能、かつ、軸方向に相対移動可能である。
【0083】
外側摩擦板72は、略円環の板状に形成され、入力軸61と出力軸62の筒部623との間において、軸方向に並ぶよう複数設けられている。ここで、内側摩擦板71と外側摩擦板72とは、入力軸61の軸方向において交互に配置されている。外側摩擦板72は、外縁部が出力軸62の筒部623の内周壁とスプライン結合するよう設けられている。そのため、外側摩擦板72は、出力軸62に対し相対回転不能、かつ、軸方向に相対移動可能である。複数の外側摩擦板72のうち最も摩擦板624側に位置する外側摩擦板72は、摩擦板624に接触可能である。
【0084】
係止部701は、略円環状に形成され、外縁部が出力軸62の筒部623の内周壁に嵌合するよう設けられる。係止部701は、複数の外側摩擦板72のうち最も従動カム50側に位置する外側摩擦板72の外縁部を係止可能である。そのため、複数の外側摩擦板72、複数の内側摩擦板71は、筒部623の内側からの脱落が抑制される。なお、係止部701と摩擦板624との距離は、複数の外側摩擦板72および複数の内側摩擦板71の板厚の合計よりも大きい。
【0085】
複数の内側摩擦板71および複数の外側摩擦板72が互いに接触、つまり係合した状態である係合状態では、内側摩擦板71と外側摩擦板72との間に摩擦力が生じ、当該摩擦力の大きさに応じて内側摩擦板71と外側摩擦板72との相対回転が規制される。一方、複数の内側摩擦板71および複数の外側摩擦板72が互いに離間、つまり係合していない状態である非係合状態では、内側摩擦板71と外側摩擦板72との間に摩擦力は生じず、内側摩擦板71と外側摩擦板72との相対回転は規制されない。
【0086】
クラッチ70が係合状態のとき、入力軸61に入力されたトルクは、クラッチ70を経由して出力軸62に伝達される。一方、クラッチ70が非係合状態のとき、入力軸61に入力されたトルクは、出力軸62に伝達されない。
【0087】
このように、クラッチ70は、入力軸61と出力軸62との間でトルクを伝達する。クラッチ70は、係合している係合状態のとき、入力軸61と出力軸62との間のトルクの伝達を許容し、係合していない非係合状態のとき、入力軸61と出力軸62との間のトルクの伝達を遮断する。
【0088】
本実施形態では、クラッチ装置1は、通常、非係合状態となる、所謂常開式(ノーマリーオープンタイプ)のクラッチ装置である。
【0089】
クラッチアクチュエータ10は、状態変更部80を備えている。状態変更部80は、「弾性変形部」としての皿ばね81、皿ばねリテーナ82、皿ばねスラストベアリング83を有している。皿ばねリテーナ82は、リテーナ筒部821、リテーナフランジ部822を有している。リテーナ筒部821は、略円筒状に形成されている。リテーナフランジ部822は、リテーナ筒部821の一端から径方向外側へ延びるよう環状の板状に形成されている。リテーナ筒部821とリテーナフランジ部822とは、例えば金属により一体に形成されている。皿ばねリテーナ82は、例えばリテーナ筒部821の他端が従動カム板部53の駆動カム40とは反対側の端面に接続するよう従動カム50に設けられている。ここで、リテーナ筒部821と従動カム板部53とは、例えば溶接により接続されている。
【0090】
皿ばね81は、内縁部がリテーナ筒部821の径方向外側において、従動カム板部53とリテーナフランジ部822との間に位置するよう設けられている。皿ばねスラストベアリング83は、環状に形成され、リテーナ筒部821の径方向外側において、従動カム板部53と皿ばね81の内縁部との間に設けられている。
【0091】
皿ばねリテーナ82は、リテーナフランジ部822が皿ばね81の軸方向の一端すなわち内縁部を係止可能なよう従動カム50に固定されている。そのため、皿ばね81および皿ばねスラストベアリング83は、リテーナフランジ部822により、皿ばねリテーナ82からの脱落が抑制されている。皿ばね81は、軸方向に弾性変形可能である。
【0092】
図3は、状態変更部80を取り付けていない状態のクラッチアクチュエータ10を示す断面図である。
【0093】
図1、2に示すように、カムボール3が、駆動カム本体41の一方の端面から駆動カム溝400の駆動カム本体41の軸方向すなわち深さ方向に最も離れた部位である最深部に対応する位置(原点)、および、従動カム本体51の一方の端面から従動カム溝500の従動カム本体51の軸方向すなわち深さ方向に最も離れた部位である最深部に対応する位置(原点)に位置するとき、駆動カム40と従動カム50との距離は、比較的小さく、皿ばね81の軸方向の他端すなわち外縁部とクラッチ70との間には、隙間Sp1が形成されている(図1参照)。そのため、クラッチ70は非係合状態であり、入力軸61と出力軸62との間のトルクの伝達は遮断されている。
【0094】
ここで、クラッチ70の状態を変更する通常作動時、ECU100の制御により電動モータ20のコイル22に電力が供給されると、電動モータ20が回転し、減速機30からトルクが出力され、駆動カム40がハウジング12に対し相対回転する。これにより、カムボール3が最深部に対応する位置から駆動カム溝400および従動カム溝500の周方向の一方側へ転動する。これにより、従動カム50は、リターンスプリング55を圧縮しながらハウジング12に対し軸方向に相対移動、すなわち、クラッチ70側へ移動する。これにより、皿ばね81は、クラッチ70側へ移動する。
【0095】
従動カム50の軸方向の移動により皿ばね81がクラッチ70側へ移動すると、隙間Sp1が小さくなり、皿ばね81の軸方向の他端は、クラッチ70の外側摩擦板72に接触する。皿ばね81がクラッチ70に接触した後さらに従動カム50が軸方向に移動すると、皿ばね81は、軸方向に弾性変形しつつ、外側摩擦板72を摩擦板624側へ押す。これにより、複数の内側摩擦板71および複数の外側摩擦板72が互いに係合し、クラッチ70が係合状態となる。そのため、入力軸61と出力軸62との間のトルクの伝達が許容される。
【0096】
このとき、皿ばね81は、皿ばねスラストベアリング83に軸受けされながら従動カム50および皿ばねリテーナ82に対し相対回転する。このように、皿ばねスラストベアリング83は、皿ばね81からスラスト方向の荷重を受けつつ、皿ばね81を軸受けする。
【0097】
ECU100は、クラッチ伝達トルクがクラッチ要求トルク容量に達すると、電動モータ20の回転を停止させる。これにより、クラッチ70は、クラッチ伝達トルクがクラッチ要求トルク容量に維持された係合保持状態となる。このように、状態変更部80の皿ばね81は、従動カム50から軸方向の力を受け、ハウジング12および駆動カム40に対する従動カム50の軸方向の相対位置に応じてクラッチ70の状態を係合状態または非係合状態に変更可能である。
【0098】
また、トルクカム2は、電動モータ20からのトルクによる回転運動を、ハウジング12に対する軸方向の相対移動である並進運動に変換し、クラッチ70の状態を係合状態または非係合状態に変更可能である。
【0099】
出力軸62は、軸部621の板部622とは反対側の端部が、図示しない変速機の入力軸に接続され、当該入力軸とともに回転可能である。つまり、変速機の入力軸には、出力軸62から出力されたトルクが入力される。変速機に入力されたトルクは、変速機で変速され、駆動トルクとして車両の駆動輪に出力される。これにより、車両が走行する。
【0100】
本実施形態では、クラッチ装置1は、オイル供給部5を備えている(図1、2参照)。オイル供給部5は、一端がクラッチ空間620に露出するよう、出力軸62において通路状に形成されている。オイル供給部5の他端は、図示しないオイル供給源に接続される。これにより、オイル供給部5の一端からクラッチ空間620のクラッチ70にオイルが供給される。
【0101】
ECU100は、オイル供給部5からクラッチ70に供給するオイルの量を制御する。クラッチ70に供給されたオイルは、クラッチ70を潤滑および冷却可能である。このように、本実施形態では、クラッチ70は、湿式クラッチであり、オイルにより冷却され得る。
【0102】
本実施形態では、「回転並進部」としてのトルクカム2は、「回転部」としての駆動カム40および第2リングギヤ35とハウジング12との間に収容空間120を形成している。ここで、収容空間120は、駆動カム40および第2リングギヤ35に対しクラッチ70とは反対側においてハウジング12の内側に形成されている。電動モータ20および減速機30は、収容空間120に設けられている。クラッチ70は、駆動カム40に対し収容空間120とは反対側の空間であるクラッチ空間620に設けられている。
【0103】
クラッチアクチュエータ10は、スラストベアリング16を備えている。図1に示すように、スラストベアリング16は、「スラスト軸受転動体」としてのころ161、レース162、バックアッププレート163を有している。レース162は、例えば金属により環状の板状に形成されている。ころ161は、例えば金属により略円柱状に形成され、レース162の一方の端面に接触しながらレース162の周方向に転動可能に設けられている。ころ161は、レース162の周方向に複数設けられている。
【0104】
バックアッププレート163は、プレート本体164、プレート凸部165を有している。プレート本体164は、略円環状に形成されている。プレート凸部165は、プレート本体164の内縁部から軸方向に突出するよう略円環状に形成されている。プレート本体164とプレート凸部165とは、例えば金属により一体に形成されている。
【0105】
バックアッププレート163は、プレート凸部165がハウジング段差面125に当接するようハウジング内筒部121の径方向外側に設けられている。レース162は、他方の端面がプレート本体164のプレート凸部165とは反対側の端面に当接するようハウジング内筒部121の径方向外側に設けられている。ころ161は、レース162と駆動カム本体41との間に設けられ、レース162の駆動カム本体41側の端面と駆動カム本体41のレース162側の面とに接触しつつ、レース162の周方向に転動可能である。
【0106】
スラストベアリング16は、駆動カム40からスラスト方向すなわち軸方向の荷重を受けつつ駆動カム40を軸受けする。本実施形態では、クラッチ70側からの軸方向の荷重は、皿ばね81、皿ばねスラストベアリング83、従動カム50、カムボール3、駆動カム40を経由してスラストベアリング16に作用する。
【0107】
本実施形態では、クラッチアクチュエータ10は、「シール部材」としての内側シール部材191、外側シール部材192を備えている。内側シール部材191は、例えばゴム等の弾性材料により環状に形成されたオイルシールである。外側シール部材192は、例えばゴム等の弾性材料および金属環等により環状に形成されたオイルシールである。
【0108】
内側シール部材191は、ハウジング内筒部121に形成されたシール溝部124に設けられている。内側シール部材191は、外縁部が駆動カム本体41の内周壁と摺動可能なようシール溝部124に設けられている。
【0109】
外側シール部材192は、第2リングギヤ35に対し第1リングギヤ34とは反対側において、ハウジング外筒部123と駆動カム外筒部44との間に設けられている。外側シール部材192は、内縁部のシールリップ部が駆動カム外筒部44の外周壁と摺動可能なようハウジング外筒部123に設けられている。
【0110】
ここで、外側シール部材192は、内側シール部材191の軸方向から見たとき、内側シール部材191の径方向外側に位置するよう設けられている(図1、2参照)。
【0111】
上述のように、駆動カム本体41の内周壁は、内側シール部材191と摺動可能である。すなわち、内側シール部材191は、「回転部」としての駆動カム40に接触するよう設けられている。内側シール部材191は、駆動カム本体41とハウジング内筒部121との間を気密または液密にシールしている。
【0112】
駆動カム外筒部44の外周壁は、外側シール部材192の内縁部であるシールリップ部と摺動可能である。すなわち、外側シール部材192は、「回転部」としての駆動カム40に接触するよう設けられている。外側シール部材192は、駆動カム外筒部44の外周壁とハウジング外筒部123の内周壁との間を気密または液密にシールしている。
【0113】
上述のように設けられた内側シール部材191、および、外側シール部材192により、電動モータ20および減速機30を収容する収容空間120を気密または液密に保持可能であり、収容空間120と、クラッチ70が設けられたクラッチ空間620との間を気密または液密に保持可能である。これにより、例えばクラッチ70において摩耗粉等の異物が発生したとしても、当該異物がクラッチ空間620から収容空間120へ侵入するのを抑制できる。そのため、異物による電動モータ20または減速機30の作動不良を抑制できる。
【0114】
以下、本実施形態の各部の構成について、より詳細に説明する。
【0115】
図3に示すように、<1>プラネタリギヤ32、ピン335、プラネタリギヤベアリング36およびキャリア33は、キャリアサブアッセンブリ330を構成している。
【0116】
複数のプラネタリギヤ32のうち少なくとも1つは、軸方向の一端に環状の面である第1プラネタリギヤ環状面901、軸方向の他端に環状の面である第2プラネタリギヤ環状面902を有している。
【0117】
より詳細には、プラネタリギヤ32は、プラネタリギヤ歯部321、プラネタリギヤ本体322、第1凸部323、第2凸部324を有している。プラネタリギヤ本体322は、筒状に形成されている。第1凸部323は、プラネタリギヤ32の軸方向の一方の端面から筒状に突出するよう形成されている。第1凸部323の外径は、プラネタリギヤ本体322の外径より小さい。第1凸部323のプラネタリギヤ本体322とは反対側の端面は、環状かつ平面状に形成されている。第2凸部324は、プラネタリギヤ32の軸方向の他方の端面から筒状に突出するよう形成されている。第2凸部324の外径は、プラネタリギヤ本体322の外径より小さい。第2凸部324のプラネタリギヤ本体322とは反対側の端面は、環状かつ平面状に形成されている。プラネタリギヤ歯部321は、プラネタリギヤ本体322の外周壁に形成されている。
【0118】
第1プラネタリギヤ環状面901、第2プラネタリギヤ環状面902は、それぞれ第1凸部323、第2凸部324の端面に形成されている。そのため、第1プラネタリギヤ環状面901および第2プラネタリギヤ環状面902は、環状かつ平面状に形成されている。4つのプラネタリギヤ32は、いずれも第1プラネタリギヤ環状面901および第2プラネタリギヤ環状面902を有している。
【0119】
サンギヤ31は、一部が第1プラネタリギヤ環状面901の一部に当接および摺動可能に対向する環状の面であるサンギヤ環状面911を有している。
【0120】
より詳細には、サンギヤ筒部312は、サンギヤ大径部313、サンギヤ小径部314を有している。サンギヤ大径部313は、サンギヤ基部310側において筒状に形成されている。サンギヤ小径部314は、サンギヤ大径部313に対しサンギヤ基部310とは反対側においてサンギヤ大径部313と一体に筒状に形成されている。サンギヤ小径部314の外径は、サンギヤ大径部313の外径より小さい。そのため、サンギヤ大径部313の外周壁とサンギヤ小径部314の外周壁との間には、環状かつ平面状の段差面が形成されている。サンギヤ環状面911は、この段差面に形成されている。そのため、サンギヤ環状面911は、環状かつ平面状に形成されている。
【0121】
サンギヤ歯部311は、サンギヤ小径部314の外周壁に形成されている。サンギヤ環状面911の一部は、第1プラネタリギヤ環状面901の一部に当接および摺動可能に対向している。そのため、サンギヤ31の軸Ax1方向、および、プラネタリギヤ32の軸Ax2方向から見たとき、サンギヤ環状面911の一部と、第1プラネタリギヤ環状面901の一部とは重なる(図4の網掛け部分参照)。
【0122】
第2リングギヤ35は、一部が第2プラネタリギヤ環状面902の一部に当接および摺動可能に対向する環状の面である出力側環状面921を有している。
【0123】
より詳細には、第2リングギヤ35は、第2リングギヤ歯部351、第2リングギヤ本体352、第2リングギヤ延伸部353を有している。第2リングギヤ本体352は、筒状に形成されている。第2リングギヤ延伸部353は、第2リングギヤ本体352の第1リングギヤ34とは反対側の内周壁から径内方向へ延びるよう環状に形成されている。第2リングギヤ延伸部353の第1リングギヤ34側の端面は、環状かつ平面状に形成されている。出力側環状面921は、第2リングギヤ延伸部353の第1リングギヤ34側の端面に形成されている。そのため、出力側環状面921は、環状かつ平面状に形成されている。
【0124】
第2リングギヤ歯部351は、第2リングギヤ本体352の内周壁のうち第2リングギヤ延伸部353に対し第1リングギヤ34側に形成されている。出力側環状面921の一部は、第2プラネタリギヤ環状面902の一部に当接および摺動可能に対向している。そのため、プラネタリギヤ32の軸方向から見たとき、出力側環状面921の一部と、第2プラネタリギヤ環状面902の一部とは重なる。
【0125】
キャリアサブアッセンブリ330は、第1プラネタリギヤ環状面901がサンギヤ環状面911に当接したとき、または、第2プラネタリギヤ環状面902が出力側環状面921に当接したとき、ハウジング12に対する軸方向の相対移動が規制される。
【0126】
これにより、キャリアサブアッセンブリ330のアキシャル方向すなわち軸方向の位置を、サンギヤ31のサンギヤ環状面911と、第2リングギヤ35の出力側環状面921とにより規制可能である。
【0127】
<2>第1プラネタリギヤ環状面901および第2プラネタリギヤ環状面902の外径は、プラネタリギヤ32の歯底円の直径以下に設定されている。サンギヤ環状面911の外径は、サンギヤ31の歯先円の直径以上に設定されている。出力側環状面921の内径は、第2リングギヤ35の歯先円の直径以下に設定されている。
【0128】
より詳細には、第1プラネタリギヤ環状面901および第2プラネタリギヤ環状面902の外径は、プラネタリギヤ歯部321の歯底円の直径より小さく設定されている。サンギヤ環状面911の外径は、サンギヤ歯部311の歯先円の直径より大きく設定されている。出力側環状面921の内径は、第2リングギヤ歯部351の歯先円の直径より小さく設定されている。
【0129】
<4>サンギヤ環状面911の外径、および、出力側環状面921の内径は、サンギヤ31とプラネタリギヤ32と第1リングギヤ34と第2リングギヤ35との中心間距離に誤差が生じた場合でも、第1プラネタリギヤ環状面901とサンギヤ環状面911との対向、および、第2プラネタリギヤ環状面902と出力側環状面921との対向が維持される大きさに設定されている。
【0130】
図3、4に示すように、本実施形態では、電動モータ20からのトルクによりサンギヤ31が回転すると、プラネタリギヤ32は、サンギヤ31に噛み合いつつ自転しながらサンギヤ31の周方向に公転する。このとき、第1プラネタリギヤ環状面901の一部とサンギヤ環状面911の一部とは、プラネタリギヤ32の回転方向に摺動し得る(図4の網掛け部分参照)。このときの摺動速度は、極めて低い。また、このとき、第2プラネタリギヤ環状面902の一部と出力側環状面921の一部とは、プラネタリギヤ32の回転方向に摺動し得る。このときの摺動速度も、極めて低い。
【0131】
図5、6に示すように、比較形態によるギヤードモータでは、プラネタリギヤ32は、第1凸部323、第2凸部324、第1プラネタリギヤ環状面901および第2プラネタリギヤ環状面902を有していない。また、サンギヤ環状面911、出力側環状面921も形成されていない。
【0132】
キャリア本体331のコイル22側の端面の内縁部は、サンギヤ延伸部315のプラネタリギヤ32側の面に当接および摺動可能に設けられている。そのため、比較形態では、電動モータ20からのトルクによりサンギヤ31が回転すると、プラネタリギヤ32は、サンギヤ31に噛み合いつつ自転しながらサンギヤ31の周方向に公転し、キャリア本体331は、サンギヤ31の径方向外側においてサンギヤ31に対し相対回転する。このとき、キャリア本体331のコイル22側の端面の内縁部とサンギヤ延伸部315のプラネタリギヤ32側の面とは、キャリア本体331の回転方向に摺動し得る(図6の網掛け部分参照)。このときの摺動速度は、比較的高い。また、このとき、ピン335の先端部と駆動カム板部43とは、キャリア本体331の回転方向に摺動し得る。このときの摺動速度も、比較的高い。そのため、摺動ストレスが大きく、サンギヤ31とキャリア33と、および、ピン335と駆動カム板部43とが激しく摩耗するおそれがある。
【0133】
一方、本実施形態では、第1プラネタリギヤ環状面901とサンギヤ環状面911との摺動速度、および、第2プラネタリギヤ環状面902と出力側環状面921との摺動速度は極めて低いため、摺動ストレスは小さく、プラネタリギヤ32とサンギヤ31または第2リングギヤ35との摩耗を抑制できる。
【0134】
また、本実施形態および比較形態では、サンギヤ31、プラネタリギヤ32、第2リングギヤ35、駆動カム40は、熱処理により強度が高められている。また、キャリア本体331、ピン335は、熱処理されておらず、サンギヤ31、プラネタリギヤ32、第2リングギヤ35、駆動カム40よりも強度が低い。そのため、強度の高いサンギヤ31と強度の低いキャリア本体331と、強度の高い駆動カム40と強度の低いピン335とが摺動する比較形態では、特にキャリア本体331およびピン335が激しく摩耗するおそれがある。一方、強度の高いプラネタリギヤ32と強度の高いサンギヤ31または強度の高い第2リングギヤ35とが摺動する本実施形態では、各部品の摩耗を抑制できる。
【0135】
例えば、サンギヤ31、プラネタリギヤ32、第2リングギヤ35、駆動カム40に熱処理を施さない場合でも、本実施形態の構成のプラネタリギヤ32とサンギヤ31または第2リングギヤ35との摩耗量は、比較形態の構成のサンギヤ31とキャリア本体331と、および、駆動カム40とピン335との摩耗量に対し1/10程度になる。プラネタリギヤ32、第2リングギヤ35、駆動カム40に熱処理を施した場合は、本実施形態の構成のプラネタリギヤ32とサンギヤ31または第2リングギヤ35との摩耗量は、比較形態の構成のサンギヤ31とキャリア本体331と、および、駆動カム40とピン335との摩耗量に対し1/100~1/200程度になる。
【0136】
図7、8に示すように、プラネタリギヤベアリング36のガタつきによりプラネタリギヤ32が傾いた状態で、サンギヤ31を回転させると、プラネタリギヤ歯部321と第1リングギヤ歯部341および第2リングギヤ歯部351との接触部がアキシャル方向すなわち軸方向(図8にyで示す方向)に摺動する。その方向は、クラッチ70が非係合状態から係合状態に変化するときである係合時はプラネタリギヤ32に対しクラッチ70の方向、クラッチ70が係合状態から非係合状態に変化するときである解放時はプラネタリギヤ32に対し電動モータ20の方向である。このとき軸方向に作用する荷重であるアキシャル荷重は、歯面に作用する荷重と摩擦係数(μ)との積で計算できると考えられる。
【0137】
図7、8において、第1リングギヤ歯部341からプラネタリギヤ歯部321の歯面に作用する荷重WC、第2リングギヤ歯部351からプラネタリギヤ歯部321の歯面に作用する荷重WD、y方向への摺動開始前の第1リングギヤ歯部341とプラネタリギヤ歯部321との接触点y1、摺動中の接触点y1’、y方向への摺動開始前の第2リングギヤ歯部351とプラネタリギヤ歯部321との接触点y2、摺動中の接触点y2’を示す。プラネタリギヤ32の接触点が動く方向と逆方向に、アキシャル荷重である摩擦力F1、F2が発生する。ここで、F1=μ・WC、F2=μ・WDである。
【0138】
サンギヤ31の回転角(θ)と、接触点y1、y2の位置(y)との関係を図9に示す。接触点y1の位置を実線で示し、接触点y2の位置を一点鎖線で示す。
【0139】
第2リングギヤ35に作用するトルク(負荷)であるトルクT_outと、キャリア33に作用するアキシャル荷重F_axialとの関係を図10に示す。プラネタリギヤベアリング36の傾きが比較的小さいときのアキシャル荷重を実線で示し、プラネタリギヤベアリング36の傾きが比較的大きいときのアキシャル荷重を破線で示す。図10に示すように、プラネタリギヤベアリング36の傾きが大きいときほど、アキシャル荷重の絶対値が大きくなる。
【0140】
相対回転する2つの部品間のすべり率と摩擦係数との関係を図11に示す。比較形態では、サンギヤ31とキャリア本体331との間、および、駆動カム40とピン335との間のすべり率r2が比較的大きいため、サンギヤ31とキャリア本体331との間、および、駆動カム40とピン335との間の摩擦係数μ2も比較的大きい。一方、本実施形態では、プラネタリギヤ32とサンギヤ31または第2リングギヤ35との間のすべり率r1がr2と比べて大幅に小さいため、プラネタリギヤ32とサンギヤ31または第2リングギヤ35との間の摩擦係数μ1もμ2と比べて大幅に小さい。そのため、本実施形態では、比較形態と比べ、部品の摩耗量を大幅に低減できる。
【0141】
以上説明したように、<1>本実施形態では、第2リングギヤ35は、一部が第2プラネタリギヤ環状面902の一部に当接および摺動可能に対向する環状の面である出力側環状面921を有している。キャリアサブアッセンブリ330は、第1プラネタリギヤ環状面901がサンギヤ環状面911に当接したとき、または、第2プラネタリギヤ環状面902が出力側環状面921に当接したとき、ハウジング12に対する軸方向の相対移動が規制される。
【0142】
本実施形態では、キャリアサブアッセンブリ330のアキシャル方向すなわち軸方向の位置を、サンギヤ31のサンギヤ環状面911と、第2リングギヤ35の出力側環状面921とにより規制可能である。ここで、第1プラネタリギヤ環状面901とサンギヤ環状面911との摺動速度、および、第2プラネタリギヤ環状面902と出力側環状面921との摺動速度は、特許文献1のキャリアサブアッセンブリと位置規制部品との摺動速度と比べ、極めて低い。そのため、第1プラネタリギヤ環状面901とサンギヤ環状面911との摺動距離、および、第2プラネタリギヤ環状面902と出力側環状面921との摺動距離を極めて小さくでき、摺動ストレスを大幅に低減できる。したがって、プラネタリギヤ32、サンギヤ31、第2リングギヤ35の摩耗量を低減でき、耐摩耗性を向上できる。
【0143】
また、キャリアサブアッセンブリ330と、位置規制部品としてのサンギヤ31および第2リングギヤ35との間のトルク損失を低減できるため、減速機30全体の効率を向上できる。
【0144】
また、<2>本実施形態では、第1プラネタリギヤ環状面901および第2プラネタリギヤ環状面902の外径は、プラネタリギヤ32の歯底円の直径以下に設定されている。サンギヤ環状面911の外径は、サンギヤ31の歯先円の直径以上に設定されている。出力側環状面921の内径は、第2リングギヤ35の歯先円の直径以下に設定されている。
【0145】
そのため、プラネタリギヤ32の組み付け時、サンギヤ歯部311と第1プラネタリギヤ環状面901と、および、第2リングギヤ歯部351と第2プラネタリギヤ環状面902とが干渉するのを回避でき、組み付け性を向上できる。
【0146】
また、<4>本実施形態では、サンギヤ環状面911の外径、および、出力側環状面921の内径は、サンギヤ31とプラネタリギヤ32と第1リングギヤ34と第2リングギヤ35との中心間距離に誤差が生じた場合でも、第1プラネタリギヤ環状面901とサンギヤ環状面911との対向、および、第2プラネタリギヤ環状面902と出力側環状面921との対向が維持される大きさに設定されている。
【0147】
これにより、サンギヤ31とプラネタリギヤ32と第1リングギヤ34と第2リングギヤ35との中心間距離に誤差が生じた場合でも、プラネタリギヤ32がサンギヤ環状面911と出力側環状面921との間から脱落するのを抑制でき、サンギヤ環状面911と出力側環状面921とによるキャリアサブアッセンブリ330のアキシャル方向の位置の規制を良好に継続できる。
【0148】
また、<9>本実施形態は、相対回転可能な入力軸61と出力軸62との間において、入力軸61と出力軸62との間のトルクの伝達を許容する係合状態と、入力軸61と出力軸62との間のトルクの伝達を遮断する非係合状態とに状態が変化するクラッチ70を備えるクラッチ装置1に用いられるクラッチアクチュエータ10であって、上述のギヤードモータ7とトルクカム2とを備える。トルクカム2は、駆動カム40を有し、駆動カム40の回転運動を、ハウジング12に対する軸方向の相対移動である並進運動に変換し、クラッチ70の状態を係合状態または非係合状態に変更可能である。
【0149】
クラッチアクチュエータでは、クラッチの係合時、プラネタリギヤ等に高負荷がかかる。そのため、特許文献1のクラッチアクチュエータでは、部品の摩耗量が増大し、モータへの電流が増大し、効率および信頼性が低下するおそれがある。一方、本実施形態のクラッチアクチュエータ10は、上述のギヤードモータ7を備えているため、部品の摩耗量を低減し、電動モータ20への電流が低減し、効率および信頼性を向上できる。
【0150】
(第2実施形態)
第2実施形態によるギヤードモータおよびクラッチアクチュエータの一部を図12に示す。第2実施形態は、第2リングギヤ35、駆動カム40の構成等が第1実施形態と異なる。
【0151】
本実施形態では、第2リングギヤ35は、第2リングギヤ延伸部353を有していない。そのため、第2リングギヤ35は、筒状の第2リングギヤ本体352を主な構成要素とするため、単純な形状にでき、プレス等により容易に製造可能である。
【0152】
駆動カム40は、駆動カム最外筒部45を有している。駆動カム最外筒部45は、駆動カム板部43の外縁部と一体に筒状に形成されている。ここで、駆動カム最外筒部45のプラネタリギヤ32側の端部は、駆動カム板部43のプラネタリギヤ32側の端面に対しプラネタリギヤ32側に突出している。駆動カム最外筒部45のプラネタリギヤ32側の端面は、環状かつ平面状に形成されている。
【0153】
第2リングギヤ35は、第2リングギヤ本体352の第2リングギヤ歯部351とは反対側の内周壁が駆動カム最外筒部45の外周壁に嵌合するよう駆動カム40と一体に回転可能に設けられている。
【0154】
駆動カム40は、一部が第2プラネタリギヤ環状面902の一部に当接および摺動可能に対向する環状の面である出力側環状面921を有している。
【0155】
出力側環状面921は、駆動カム最外筒部45のプラネタリギヤ32側の端面に形成されている。そのため、出力側環状面921は、環状かつ平面状に形成されている。出力側環状面921の一部は、第2プラネタリギヤ環状面902の一部に当接および摺動可能に対向している。そのため、プラネタリギヤ32の軸方向から見たとき、出力側環状面921の一部と、第2プラネタリギヤ環状面902の一部とは重なる。
【0156】
キャリアサブアッセンブリ330は、第1プラネタリギヤ環状面901がサンギヤ環状面911に当接したとき、または、第2プラネタリギヤ環状面902が出力側環状面921に当接したとき、ハウジング12に対する軸方向の相対移動が規制される。
【0157】
これにより、キャリアサブアッセンブリ330のアキシャル方向すなわち軸方向の位置を、サンギヤ31のサンギヤ環状面911と、駆動カム40の出力側環状面921とにより規制可能である。
【0158】
以上説明したように、<1>本実施形態では、駆動カム40は、一部が第2プラネタリギヤ環状面902の一部に当接および摺動可能に対向する環状の面である出力側環状面921を有している。キャリアサブアッセンブリ330は、第1プラネタリギヤ環状面901がサンギヤ環状面911に当接したとき、または、第2プラネタリギヤ環状面902が出力側環状面921に当接したとき、ハウジング12に対する軸方向の相対移動が規制される。
【0159】
そのため、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0160】
(第3実施形態)
第3実施形態によるギヤードモータおよびクラッチアクチュエータの一部を図13に示す。第3実施形態は、ロータ23、サンギヤ31の構成等が第2実施形態と異なる。
【0161】
本実施形態では、ロータ23とサンギヤ31とは同一の部材により一体に形成されている。サンギヤ31は、サンギヤ基部310、サンギヤ延伸部315を有していない。ロータ23とサンギヤ31とは、ロータ筒部232とサンギヤ筒部312のサンギヤ大径部313とが接続することで、全体として筒状かつ一体に形成されている。
【0162】
本実施形態では、比較形態においてキャリア33の軸方向の移動規制のために必要とされていたサンギヤ延伸部315が不要なため、サンギヤ31の構成を簡素化できる。また、ロータ23とサンギヤ31とを一体に形成することで、部品の形状を単純化しつつ、部品点数を削減できる。
【0163】
(第4実施形態)
第4実施形態によるギヤードモータおよびクラッチアクチュエータの一部を図14に示す。第4実施形態は、キャリア33の構成等が第3実施形態と異なる。
【0164】
<5>本実施形態では、キャリア33は、プラネタリギヤ32の軸方向の中心に対し駆動カム40側に設けられている。
【0165】
より詳細には、キャリア33のキャリア本体331は、プラネタリギヤ本体322の軸方向の中心に対し駆動カム40の駆動カム板部43側、かつ、駆動カム特定形状部42と駆動カム最外筒部45との間に設けられている。
【0166】
これにより、第3実施形態と比べ、プラネタリギヤ32を例えばキャリア本体331の板厚分、コイル22側へ寄せて配置でき、クラッチアクチュエータ10の軸方向の長さをd1分短縮できる。
【0167】
キャリア本体331およびピン335と駆動カム板部43との間には所定の隙間が形成されている。そのため、キャリア本体331およびピン335と駆動カム板部43とは当接および摺動不能である。
【0168】
<6>本実施形態では、キャリア33は、磁性材料により形成されている。
【0169】
以上説明したように、<5>本実施形態では、キャリア33は、プラネタリギヤ32の軸方向の中心に対し駆動カム40側に設けられている。そのため、プラネタリギヤ32をコイル22側へ寄せて配置でき、クラッチアクチュエータ10の軸方向の長さを短縮できる。
【0170】
また、<6>本実施形態では、キャリア33は、磁性材料により形成されている。
【0171】
キャリア33を磁性材料により形成しつつ、プラネタリギヤ32の軸方向の中心に対しコイル22側に設けた場合、電動モータ20のマグネット230とキャリア33とが近接し、キャリア33を電動モータ20側に吸引する荷重が生じるおそれがある。そこで、本実施形態では、キャリア33を加工性の良い磁性材料により形成しつつ、プラネタリギヤ32の軸方向の中心に対し駆動カム40側に設けることで、部材コストを低減しながら上記荷重の発生を抑制できる。
【0172】
(第5実施形態)
第5実施形態によるギヤードモータおよびクラッチアクチュエータの一部を図15に示す。第5実施形態は、第1リングギヤ34の近傍の構成等が第4実施形態と異なる。
【0173】
<3>本実施形態は、第1リングギヤ34に対し第2リングギヤ35とは反対側に設けられた環状のプレート95をさらに備える。
【0174】
より詳細には、プレート95は、例えば金属により環状の板状に形成されている。プレート95は、ハウジング外筒部123の内周壁に形成された段差面と第1リングギヤ34との間に外縁部が挟まれるようにして設けられている。
【0175】
プレート95は、一部が第1プラネタリギヤ環状面901に当接および摺動可能に対向する環状の面であるプレート環状面931を有している。
【0176】
より詳細にはプレート環状面931は、プレート95の第1リングギヤ34およびプラネタリギヤ32側の端面の内縁部に環状かつ平面状に形成されている。
【0177】
キャリアサブアッセンブリ330は、第1プラネタリギヤ環状面901がプレート環状面931に当接したとき、または、第2プラネタリギヤ環状面902が出力側環状面921に当接したとき、ハウジング12に対する軸方向の相対移動が規制される。
【0178】
これにより、キャリアサブアッセンブリ330のアキシャル方向すなわち軸方向の位置を、サンギヤ31のサンギヤ環状面911およびプレート95のプレート環状面931と、第2リングギヤ35の出力側環状面921とにより規制可能である。
【0179】
図16に示すように、第2リングギヤ歯部351または第1リングギヤ歯部341からプラネタリギヤ歯部321に対し、アキシャル荷重F_axial1が作用すると、プレート環状面931から出力側環状面921に対し、F_axial1と同等のアキシャル荷重F_axial2が作用する。プラネタリギヤ32に作用するモーメントM2は、
M2=R_axial×F_axial2-R_pitch×F_axial1
で表される。ここで、アキシャル荷重F_axial1が作用する位置とプラネタリギヤ32の軸Ax2との距離R_pitchと、アキシャル荷重F_axial2が作用する位置とプラネタリギヤ32の軸Ax2との距離R_axialとは、略同じ(R_axial≒R_pitch)ため、
M2≒0
となり、プラネタリギヤ32にはモーメントがほとんど発生しない。
【0180】
以上説明したように、<3>本実施形態は、第1リングギヤ34に対し第2リングギヤ35とは反対側に設けられた環状のプレート95をさらに備える。プレート95は、一部が第1プラネタリギヤ環状面901に当接および摺動可能に対向する環状の面であるプレート環状面931を有している。キャリアサブアッセンブリ330は、第1プラネタリギヤ環状面901がプレート環状面931に当接したとき、または、第2プラネタリギヤ環状面902が出力側環状面921に当接したとき、ハウジング12に対する軸方向の相対移動が規制される。
【0181】
本実施形態では、第1プラネタリギヤ環状面901および第2プラネタリギヤ環状面902をプレート環状面931と出力側環状面921とで挟むことにより、プラネタリギヤ32のアキシャル方向すなわち軸方向の位置を規制可能である。そのため、プラネタリギヤ32に発生し得るモーメントを低減できる。これにより、プラネタリギヤベアリング36にかかるストレスを低減でき、信頼性を向上できる。
【0182】
(第6実施形態)
第6実施形態によるギヤードモータおよびクラッチアクチュエータの一部を図17に示す。第6実施形態は、サンギヤ環状面911の構成等が第1実施形態と異なる。
【0183】
<7>本実施形態は、環状凹部900をさらに備える。環状凹部900は、サンギヤ環状面911に設けられている。環状凹部900は、サンギヤ環状面911、すなわち、サンギヤ大径部313の外周壁とサンギヤ小径部314の外周壁との間の段差面からロータ23側へ凹むようにして環状に形成されている。
【0184】
サンギヤ31に環状凹部900を形成することにより、サンギヤ31のイナーシャを低減できるとともに、コストを低減できる。
【0185】
(他の実施形態)
上述の実施形態では、プラネタリギヤ32を4つ設ける例を示した。これに対し、他の実施形態では、プラネタリギヤ32は、2つ以上であれば、いくつ設けてもよい。ここで、プラネタリギヤ32は、キャリア33の周方向に等間隔で設けることが望ましい。
【0186】
また、上述の実施形態では、複数のプラネタリギヤ32のうち全てが、第1プラネタリギヤ環状面901および第2プラネタリギヤ環状面902を有する例を示した。これに対し、<8>他の実施形態では、複数のプラネタリギヤ32のうち一部が、第1プラネタリギヤ環状面901および第2プラネタリギヤ環状面902を有することとしてもよい。この場合、第1プラネタリギヤ環状面901および第2プラネタリギヤ環状面902の加工工数を低減できる。ここで、例えばプラネタリギヤ32を6つ設ける場合、6つのプラネタリギヤ32のうち3つのプラネタリギヤ32が第1プラネタリギヤ環状面901および第2プラネタリギヤ環状面902を有する形態が考えられる。第1プラネタリギヤ環状面901および第2プラネタリギヤ環状面902を有する3つのプラネタリギヤ32は、間に第1プラネタリギヤ環状面901および第2プラネタリギヤ環状面902を有しないプラネタリギヤ32を1つ挟んで、キャリア33の周方向に等間隔で設けることが望ましい。
【0187】
また、第6実施形態では、環状凹部900をサンギヤ環状面911に設ける例を示した。これに対し、<7>他の実施形態では、環状凹部900は、第1プラネタリギヤ環状面901、第2プラネタリギヤ環状面902、サンギヤ環状面911、および、出力側環状面921の少なくとも1つに設けることとしてもよい。これにより、環状凹部900を設けた部品のイナーシャを低減できるとともに、コストを低減できる。
【0188】
また、上述の実施形態では、キャリアが磁性材料により形成される例を示した。これに対し、他の実施形態では、キャリアは、例えばステンレス等、非磁性材料により形成されていてもよい。
【0189】
また、他の実施形態では、駆動カム溝400および従動カム溝500は、それぞれ、3つ以上であれば、いくつ形成されていてもよい。また、カムボール3も、駆動カム溝400および従動カム溝500の数に合わせ、いくつ設けられていてもよい。
【0190】
また、上述の複数の実施形態は、構成上の阻害要因がない限り、どのように組み合わせてもよい。
【0191】
また、本発明は、内燃機関からの駆動トルクによって走行する車両に限らず、モータからの駆動トルクによって走行可能な電気自動車やハイブリッド車等に適用することもできる。
【0192】
また、他の実施形態では、「第2伝達部」からトルクを入力し、「クラッチ」を経由して「第1伝達部」からトルクを出力することとしてもよい。また、例えば、「第1伝達部」または「第2伝達部」の一方を回転不能に固定した場合、「クラッチ」を係合状態にすることにより、「第1伝達部」または「第2伝達部」の他方の回転を止めることができる。この場合、クラッチ装置をブレーキ装置として用いることができる。
【0193】
本発明のギヤードモータは、クラッチアクチュエータのモータ部に限らず、他の装置のモータ部として、あるいは、単体のモータとして利用することができる。
【0194】
このように、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【0195】
本開示に記載のクラッチ装置の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載のクラッチ装置の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載のクラッチ装置の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0196】
7 ギヤードモータ、12 ハウジング、20 電動モータ、31 サンギヤ、32 プラネタリギヤ、36 プラネタリギヤベアリング、33 キャリア、34 第1リングギヤ、35 第2リングギヤ、40 駆動カム(回転部)、330 キャリアサブアッセンブリ、335 ピン、901 第1プラネタリギヤ環状面、902 第2プラネタリギヤ環状面、911 サンギヤ環状面、921 出力側環状面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17