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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20240925BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240925BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
H01M4/139
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021142874
(22)【出願日】2021-09-02
(65)【公開番号】P2023036089
(43)【公開日】2023-03-14
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】蛭川 智史
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 健吾
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-084545(JP,A)
【文献】特開2014-103068(JP,A)
【文献】特開2014-120273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/04
H01M 4/139
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔と、前記金属箔上に配置された、塗工部および未塗工部と、を有する前駆体シートを準備する、準備工程と、
前記塗工部を、厚さ方向にプレスする、塗工部プレス工程と、
前記塗工部プレス工程の前または後に、前記未塗工部を、前記厚さ方向にプレスする、未塗工部プレス工程と、
を有し、
前記塗工部は、少なくとも活物質を含む電極材料を含有し、
前記未塗工部は、前記電極材料を含有せず、かつ、前記塗工部の端部に配置され、
前記未塗工部プレス工程において、軸体と、前記軸体を覆う弾性体とを有する、一対の弾性ロールを用いて、前記未塗工部を前記厚さ方向に押し付けながらロールプレスする、電極の製造方法であって、
前記弾性体が、下記<弾性体の圧縮ヤング率の測定方法>によって測定、算出された圧縮ヤング率が、10MPa以上86.1MPa以下であり、かつ
前記未塗工部プレス工程において、30N以上100N以下の引張り力を付与しながら行う、
電極の製造方法。
<弾性体の圧縮ヤング率の測定方法>
10mm×10mm×10mmのサイズに弾性体に対して、オートグラフで圧縮変形率(変形率)が0%→25%→0%(1サイクル目)、0%→25%(2サイクル目)になるように操作し、変形率と応力の関係を測定し、2サイクル目における変形率が10%の時の応力(σ 10 )を用いて、下記式から圧縮ヤング率を算出する。
圧縮ヤング率=σ 10 /0.1
【請求項2】
前記弾性体の圧縮ヤング率が、11.1MPa以上、86.1MPa以下である、請求項1に記載の電極の製造方法。
【請求項3】
前記弾性体の圧縮ヤング率が、20MPa以上である、請求項2に記載の電極の製造方法。
【請求項4】
前記弾性体の厚さをT1、前記塗工部の厚さをT2とした場合、T1/T2が、4以上である、請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電極の製造方法として、長尺の金属箔上に電極合材を塗布したシートを圧延する方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、電極活物質が塗布された塗工部と、電極活物質が塗布されていない未塗工部とを有する電池用電極のプレス方法が開示されている。特許文献2には、ガイドロール間で引張り力がかかった電極材料の未塗工部分のみを押しつけロールを用いて延伸させ、その後、電極材料をロールプレスする方法が開示されている。特許文献3には、電極板の塗工部と未塗工部でロールプレス作業により生ずるしわの発生を抑える、しわ発生防止装置を備えたロールプレス機を用いたロールプレス方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5760366号公報
【文献】特開2014-220113号公報
【文献】特開2019-102172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、塗工部と未塗工部とを有するシートをプレスする際に、しわが発生しないよう、塗工部と未塗工部とを個別にプレスして伸び差を調整する場合がある。この際、シートの端部に位置する未塗工部において破断が生じる場合がある。
【0006】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、破断を抑制しつつ、未塗工部を延伸できる、電極の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示においては、金属箔と、上記金属箔上に配置された、塗工部および未塗工部と、を有する前駆体シートを準備する、準備工程と、上記塗工部を、厚さ方向にプレスする、塗工部プレス工程と、上記塗工部プレス工程の前または後に、上記未塗工部を、上記厚さ方向にプレスする、未塗工部プレス工程と、を有し、上記塗工部は、少なくとも活物質を含む電極材料を含有し、上記未塗工部は、上記電極材料を含有せず、かつ、上記塗工部の端部に配置され、上記未塗工部プレス工程において、軸体と、上記軸体を覆う弾性体とを有する、一対の弾性ロールを用いて、上記未塗工部を上記厚さ方向に押し付けながらロールプレスする、電極の製造方法を提供する。
【0008】
本開示によれば、所定の弾性ロールを用いて未塗工部をロールプレスするため、破断を抑制しつつ未塗工部を延伸できる。
【0009】
上記開示においては、上記弾性体の圧縮ヤング率が、11.1MPa以上、86.1MPa以下であってもよい。
【0010】
上記開示においては、上記弾性体の圧縮ヤング率が、20MPa以上であってもよい。
【0011】
上記開示においては、上記弾性体の厚みをT1、上記塗工された電極合材の厚みをT2とした場合、T1/T2が、4以上であってもよい。
【0012】
上記開示においては、上記未塗工部プレス工程を、100N以下の引張り力を付与しながら行ってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本開示においては、破断を抑制しつつ、未塗工部を延伸できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示における電極の製造方法の一例を示すフロー図である。
図2】本開示におけるメカニズムを説明する図である。
図3】本開示におけるメカニズムを説明する図である。
図4】本開示における、前駆体シートの一例を示す概略平面図である。
図5】本開示における、未塗工部プレス工程について説明する図である。
図6】実施例および比較例における、伸び率測定方法について説明する図である。
図7】実施例および比較例における、破断限界伸び率について説明する図である。
図8】実施例における、圧縮ヤング率と破断限界伸び率との関係を示すグラフである。
図9】参考例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示における電極の製造方法について、詳細に説明する。ここで、本明細書において、ある部材に対して他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方に、別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含む。
【0016】
図1は、本開示における電極の製造方法の一例を示すフロー図である。図1においては、まず、金属箔と、上記金属箔上に配置された、塗工部および未塗工部と、を有する前駆体シートを準備する(準備工程)。塗工部は、少なくとも活物質を含む電極材料を含有する。また、未塗工部は、電極材料を含有せず、かつ、塗工部の端部に配置されている。次に、上記塗工部を、厚さ方向にプレスする(塗工部プレス工程)。そして、上記未塗工部を、上記厚さ方向にプレスする(未塗工部プレス工程)。なお、図1では未塗工部プレス工程を、塗工部プレス工程の後に行っているが、塗工部プレス工程の前に行ってもよい。また、未塗工部プレス工程では、軸体と、上記軸体を覆う弾性体とを有する、一対の弾性ロールを用いて、上記未塗工部を上記厚さ方向に押し付けながらロールプレスする。
【0017】
本開示によれば、所定の弾性ロールを用いて未塗工部をロールプレスするため、破断を抑制しつつ、未塗工部を延伸できる。
【0018】
特許文献2では、段付きロールを未塗工部の片面から押しつけることで延伸しており、未塗工部には延伸のための引張り力のみが付与されている。このような方法では、未塗工部を延伸できるものの、破断してしまうおそれがある(図2(b)参照)。また、特許文献3では、圧延機構により電極合材の未塗工部を延伸している。後述する比較例2で示すように、プレス圧(圧縮力)のみを付与する方法では、未塗工部を効果的に延伸することができない。
【0019】
一方、本開示における電極の製造方法では、所定の弾性ロールを用いて未塗工部をロールプレスするため、圧縮力と弾性体の変形に起因する変形力とを、未塗工部の同一箇所に付与することができる。その結果、ボイドの発生が抑制され、未塗工部の破断を抑制しつつ延伸できる。
【0020】
本開示におけるメカニズムを、図を用いて説明する。図2(a)は、一般的な金属箔を示す模式図である。図2(a)に示すように、金属箔には、一般的に、金属箔の材料よりも硬い硬質組織が介在物として含まれている。硬質組織を含めることで、例えば金属箔の強度を高めることができる。金属箔を延伸させるための引張り力(紙面左右方向の力)を加えると、硬質組織は変形しないものの、硬質組織よりも柔らかい周囲の金属箔が変形する。その結果、図2(b)に示すように、硬質組織の周囲にボイドが形成される。そして、複数のボイド同士が連結することで、破断が生じる。一方、本開示における電極の製造方法においては、図2(c)に示されるように、金属箔に対して局所的に圧縮力と弾性体の変形力を付与することができる。その結果、硬質組織の周囲にボイドが発生することを抑制できると考えられる。また、仮にボイドが発生したとしても、圧縮力によりボイドが拡大することを抑制できると考えられる。ここで、弾性体の変形力は、引張り力と同様の方向(図2における紙面左右方向)に働き、引張り力と同様に金属箔を延伸させる力である。一方、変形力は、後述するように弾性体と金属箔(未塗工部)とが接触している箇所に付与されるため、例えば張力付与装置により付与される引張り力に比べて、より局所的に力を付与することができると考えられる。
【0021】
次いで、本開示における弾性ロールの模式図を用いて、本開示におけるメカニズムを説明する。図3に示すように、未塗工部3(金属箔1)と、一対の弾性ロール20(A、B)における弾性体22とは、ロールプレスの際に接触する。この一対の弾性ロール20(A、B)を、前駆体シートの厚さ方向から押し付けることで、未塗工部に圧縮力(紙面上下方向からの力)を付与することができる。また、弾性ロール20(A、B)の弾性体22は弾性を有するため、弾性体22は圧縮力により変形し、弾性体22と接触している未塗工部3に、変形力(紙面左右方向への力)が付与される。このように、本開示の弾性ロールを用いることで、未塗工部の同一箇所に圧縮力と弾性体の変形力の両方を付与することができる。これにより、未塗工部の破断を抑制しつつ延伸させることができる。さらに、本開示における電極の製造方法であれば、未塗工部を延伸させるための力を、弾性体の変形力でまかなうことができるため、別途、張力付与装置等を設けなくても未塗工部の延伸が可能であり、製造設備を小型化することも可能となる。
【0022】
1.準備工程
本開示における準備工程は、金属箔と、上記金属箔上に配置された、塗工部および未塗工部と、を有する前駆体シートを準備する工程である。
【0023】
準備工程で準備する前駆体シートは、金属箔と、塗工部と、未塗工部とを有している。
【0024】
金属箔の材料としては、電池の集電体の材料として用いられる金属を挙げることができる。詳しくは「4.電極」に記載する。金属箔の厚さは、例えば1μm以上であり、10μm以上であってもよい。一方、金属箔の厚さは、例えば100μm以下である。
【0025】
前駆体シートの塗工部は、少なくとも活物質を含む電極材料を含有する。また、塗工部は、金属箔上に配置されている。塗工部は、後述する塗工部プレス工程を経て電極層となる。
【0026】
電極材料は、少なくとも活物質を含有する。また、電極材料は、必要に応じて、固体電解質、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有してもよい。活物質、導電材およびバインダーについては、「4.電極」に記載する。
【0027】
塗工部は、厚さ方向において、金属箔の第1面上のみに配置されていてもよく、第1面上と、第1面とは反対側の第2面上との両方に配置されていてもよい。
【0028】
塗工部は、金属箔の長手方向(搬送方向)に配置されていることが好ましい。
【0029】
塗工部の厚さは特に限定されず、所望の電極サイズに応じて適宜調整することができる。塗工部の厚さは、例えば0.2mm以上であり、0.3mm以上であってもよく、0.5mm以上であってもよい。一方、塗工部の厚さは、例えば1.5mm以下であり、1.0mm以下であってもよく、0.6mm以下であってもよい。
【0030】
塗工部の幅(金属箔の長手方向に直交する方向の長さ)は特に限定されず、所望の電極サイズに応じて適宜調整することができる。金属箔の幅に対する塗工部の幅の割合は、例えば30%以上であり、50%以上であってもよく、70%以上であってもよい。また、上記割合は、例えば90%以下であり、80%以下であってもよい。
【0031】
未塗工部は、上記電極材料を含有せず、かつ、上記塗工部の端部に配置されている。未塗工部は、塗工部の一端部のみに配置されていてもよく、塗工部の両端部に配置されていてもよい。また、未塗工部は、金属箔において、金属箔の長手方向に直交する方向の一端部のみに配置されていてもよく、両端部に配置されていてもよい。
【0032】
未塗工部は、金属箔上に配置されている。また、未塗工部は、通常、塗工部が配置された金属箔の面と同一の面上に配置されている。未塗工部は、例えば、金属箔が露出した部分である。
【0033】
未塗工部の幅(金属箔の長手方向に直交する方向の長さ)は特に限定されず、所望の電極サイズに応じて適宜調整することができる。金属箔の幅に対する未塗工部の幅の割合は、例えば3%以上であり、5%以上であってもよい。一方、上記割合は、例えば20%以下であり、10%以下であってもよい。
【0034】
また、塗工部の幅に対する未塗工部の幅の割合は、例えば20%以上であり、30%以上であってもよい。一方、上記割合は、例えば50%以下である。
【0035】
前駆体シートは、例えば、金属箔に、分散媒を含有する電極材料を塗工して、乾燥することで準備することができる。分散媒としては、例えば、酪酸ブチル、ジブチルエーテル、ヘプタン等の有機溶媒が挙げられる。電極材料の塗工方法は特に限定されず、一般的な塗工方法が挙げられる。また、乾燥温度は、分散媒が揮発する温度であれば特に限定されない。
【0036】
準備工程で準備される前駆体シートは、例えば、図4に示すような、平面視上、1列の塗工部2と、塗工部2の両端部に配置された2列の未塗工部3とを、ストライプ状に有する前駆体シート10であってもよい。また、図示しないが、前駆体シートは、平面視上、N列(Nは2以上の整数)の塗工部と、N列の塗工部それぞれの両端部に配置された未塗工部を有するシートであってもよい。この場合、未塗工部の列数は、N+1列である。
【0037】
2.塗工部プレス工程
塗工部プレス工程は、上記塗工部を厚さ方向にプレスする工程である。塗工部プレス工程は、後述する未塗工部プレス工程の前に行ってもよく、後に行ってもよい。
【0038】
塗工部プレス工程の方法および条件は、塗工部をプレスして延伸できれば特に限定されない。プレス方法としては、例えば、塗工部をロールプレスするロールプレス方法を挙げることができる。例えば、一対のプレスロールの間に前駆体シートを通過させつつ、プレスロールを前駆体シートの厚さ方向の両面に押しつけることで、塗工部をプレスすることができる。
【0039】
塗工部プレス工程における圧縮力は特に限定されないが、後述する未塗工部プレス工程における圧縮力よりも大きいことが好ましい。前駆体シートの塗工部では、分散媒を含有する電極材料(スラリー)により濡れることでしわが生じることがあり、このしわを伸ばすために、大きな延伸力を必要となるからである。
【0040】
3.未塗工部プレス工程
未塗工部プレス工程は、上記塗工部プレス工程の前または後に、上記未塗工部を、上記厚さ方向にプレスする工程である。また、未塗工部プレス工程においては、軸体と、上記軸体を覆う弾性体とを有する、一対の弾性ロールを用いて、上記未塗工部を上記厚さ方向に押し付けながらロールプレスする。
【0041】
未塗工部をプレスすることで、未塗工部を延伸して塗工部との伸び差を調整することができる。これにより、電極におけるしわの発生を抑制できる。未塗工部の伸び量については、塗工部プレス工程の条件に応じて適宜調整する。
【0042】
ここで、未塗工部プレス工程について図を用いて説明する。図5(a)は、未塗工部プレス工程を金属箔の幅方向から見た概略側面図である。図5(b)は、図5(a)を前駆体シートの厚さ方向(紙面上下方向)から見た概略平面図である。図5(c)は、図5(a)を前駆体シートの搬送方向(紙面左右方向)から見た概略正面図である。
【0043】
図5(a)および(c)に示すように、未塗工部プレス工程においては、所定の一対の弾性ロール20Aおよび20Bの間に前駆体シートを通過させつつ、弾性ロール20Aおよび20Bを前駆体シートの厚さ方向の両面に押しつけることで、未塗工部3(金属箔1)をロールプレスする。
【0044】
弾性ロール20は、通常、軸体21の周囲に弾性体22が配置されたロール形状を有する。また、図5(c)に示されるように、弾性ロールはいわゆる段付きロールであり、未塗工部のみをプレスすることができる。ロール形状であれば、弾性ロールの軸体と弾性体とが結着しているため、シート形状に比べて、前駆体シートの搬送方向への弾性体の変形が抑制され、圧縮力を強くすることができる。また、弾性体の変形方向が安定し、しわの発生をより抑制することができる。
【0045】
軸体の材料は特に限定されないが、弾性体よりも圧縮ヤング率が大きい材料が好ましい。軸体の材料は、例えば金属が挙げられる。
【0046】
弾性体は、弾性を有する部材であれば特に限定されないが、例えば、ゴム;ウレタン等の樹脂が挙げられる。
【0047】
弾性体は、所定の圧縮ヤング率を有することが好ましい。圧縮ヤング率は、例えば10MPa以上であり、11.1MPa以上であってもよく、15MPa以上であってもよく、20MPa以上であってもよい。一方、圧縮ヤング率は、例えば90MPa以下であり、86.1MPa以下であってもよく、60MPa以下であってもよく、40MPa以下であってもよく、35MPa以下であってもよい。圧縮ヤング率が低すぎると、弾性体の変形が大きくなりすぎ、未塗工部に過剰な変形力が付与されてしまう。その結果、破断を十分に抑制することができないおそれがある。一方、圧縮ヤング率が高すぎると、弾性体が変形しにくく、未塗工部に十分な変形力を付与できないおそれがある。
【0048】
図5(b)に示すように、弾性体の幅W1は、未塗工部の幅W2より広くてもよい。W1/W2は、例えば1.1以上であり、1.2以上であってもよく、1.3以上であってもよい。
【0049】
図5(a)および図5(c)に示すように、弾性体の厚さをT1、塗工部の厚さをT2とした場合、T1/T2は、例えば4以上であり、5以上であってもよく、10以上であってもよく、15以上であってもよい。一方、T1/T2は、例えば40以下であり、33.3以下であってもよく、30以下であってもよく、25以下であってもよく、20以下であってもよい。なお、弾性体の厚さ(T1)は、典型的には、弾性ロールの半径から、軸体の半径を差し引いた値として求められる。
【0050】
本開示において、未塗工部プレス工程における圧縮力は特に限定されないが、用いる弾性体の材料、金属箔の材料、および必要な伸び量に基づき適宜調整することが好ましい。圧縮荷重は、例えば、2kgf/cm以上であり、2.1kgf/cm以上であってもよく、5kgf/cm以上であってもよく、10kgf/cm以上であってもよい。一方、線圧は、例えば、40kgf/cm以下であり、36kgf/cm以下であってもよく、30kgf/cm以下であってもよく、20kgf/cm以下であってもよい。なお、圧縮力(線圧)の求め方は実施例に記載する。
【0051】
未塗工部に、弾性ロールによる変形力が付与されることで、未塗工部を延伸することができる。そのため、本開示における未塗工部プレス工程では、弾性ロールを用いない場合(例えば、金属ロールを用いる場合)に比べて、引張り力を低減できる。未塗工部プレス工程において付与される引張り力は、例えば100N以下であり、70N以下であってもよく、50N以下であってもよい。一方、引張り力は、例えば30N以上である。引張り力は、例えば張力付与装置により加えることができる。
【0052】
未塗工部プレス工程は、塗工部プレス工程の前または後に行われる。すなわち、未塗工部プレス工程は、(i)塗工部プレス工程の前に行われ、塗工部プレス工程の後に行われなくてもよく、(ii)塗工部プレス工程の前に行われず、塗工部プレス工程の後に行われてもよく、(iii)塗工部プレス工程の前に行われ、さらに塗工部プレス工程の後に行われてもよい。
【0053】
4.電極
本開示の方法で製造される電極では、金属箔の少なくとも一方の面に電極層が形成されている。なお、電極層は、上記塗工部をプレスすることにより得られる層である。本開示の方法で製造される電極は、正極であってもよく、負極であってもよい。
【0054】
金属箔は、典型的には、集電箔(集電体)として機能する。つまり、金属箔は、正極集電体であってもよく、負極集電体であってもよい。金属箔が正極集電体である場合、金属箔の材料としては、例えば、Al、SUS、Niが挙げられる。金属箔が負極集電体である場合、金属箔の材料としては、例えば、Cu、SUS、Niが挙げられる。
【0055】
電極層は、少なくとも活物質を含有する。電極層が正極層である場合、活物質は正極活物質である。正極活物質としては、典型的には酸化物活物質が挙げられる。酸化物活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の岩塩層状型活物質、LiMn、Li(Ni0.5Mn1.5)O等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCuPO等のオリビン型活物質が挙げられる。
【0056】
電極層が負極層である場合、活物質は負極活物質である。負極活物質としては、例えば、カーボン活物質、酸化物活物質および金属活物質を挙げることができる。カーボン活物質としては、例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボンおよびソフトカーボン等を挙げることができる。酸化物活物質としては、例えば、Nb、LiTi12およびSiOを挙げることができる。金属活物質としては、例えば、In、Al、SiおよびSnを挙げることができる。
【0057】
また、電極層は、必要に応じて、固体電解質、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。
【0058】
固体電解質としては、例えば無機固体電解質が挙げられる。無機固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、窒化物固体電解質およびハロゲン化物固体電解質が挙げられる。また、無機固体電解質は、例えばLiイオン伝導性を有することが好ましい。
【0059】
導電材としては、例えば、炭素材料、金属粒子、導電性ポリマーが挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック(AB)およびケッチェンブラック(KB)等の粒子状炭素材料;炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)およびカーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素材料が挙げられる。また、バインダーとしては、例えば、ポリビニリデンフロライド(PVDF)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素含有バインダー、ブタジエンゴム等のゴム系バインダーおよびアクリル系バインダーが挙げられる。
【0060】
本開示における電極の用途としては、例えばLiイオン電池が挙げられる。また、本開示における電池は、電解質層が無機固体電解質を含有する全固体電池であってもよい。また、本開示における電池の用途は、特に限定されないが、例えば、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。特に、ハイブリッド自動車または電気自動車の駆動用電源に用いられることが好ましい。また、本開示における電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【0061】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例
【0062】
[実施例1]
厚さが12μmのアルミ箔(1N30)の片面に、分散媒を含有した電極合材を、厚みが500μmとなるように塗工して乾燥させた。これにより、図4に示すような、塗工部2と未塗工部3とを有する前駆体シート10を準備した。
【0063】
また、軸体(直径50mm)の表面に弾性体が配置された弾性ロール(段付きロール)を準備した。弾性体の厚さは10mmとした。用いた弾性体の圧縮ヤング率は、以下のようにして測定した。まず、10mm×10mm×10mmのサイズに弾性体を調整した。この弾性体に対して、オートグラフで圧縮変形率(変形率)が0%→25%→0%(1サイクル目)、0%→25%(2サイクル目)になるように操作し、変形率と応力の関係を測定した。2サイクル目における変形率が10%の時の応力(σ10)を用いて、下記式から圧縮ヤング率を算出した。結果を表1に示す。
圧縮ヤング率=σ10/0.1
【0064】
準備した前駆体シートおよび弾性ロールを用いて、以下のように未塗工部の最大伸び率を算出した。
まず、図6(a)に示すように、前駆体シート10の未塗工部3(金属箔1)において、長手方向の任意の位置に線を2本引き、プレス前の線間の長さ(L)を測定した。次いで、図5に示すように、一対の弾性ロールを用いて、未塗工部を厚さ方向に押し付けながらロールプレスした。そして、図6(b)および図6(c)に示すように、プレス後の前駆体シートから未塗工部を切り出して、プレス後の上記線間の長さ(L)を測定した。下記式から伸び率(%)を算出した。なお、未塗工部のプレスは、前駆体シートに50Nの引張り力を付与しながら行った。
伸び率=(L-L)/L×100
弾性ロールを押し当てる荷重を増やしていき、破断が生じない時の最大伸び率を破断限界伸び率として取得した。結果を表1に示す。
また、下記式から、破断時の荷重(線圧)を算出した。合わせて表1に示す。
線圧=荷重(P)/(弾性体幅(W1)×2)
【0065】
[実施例2~7]
実施例2~4、6については、圧縮ヤング率が表1の値となる弾性体を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、前駆体シートおよび弾性ロールを準備した。また、実施例5、7については、圧縮ヤング率が表1の値となる弾性体を用い、弾性体の厚さを1mmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、前駆体シートおよび弾性ロールを準備した。準備した前駆体シートおよび弾性ロールを用いて、実施例1と同様にして、破断限界伸び率および破断時の荷重を算出した。結果を表1に示す。
【0066】
[比較例1]
実施例1と同様にして、前駆体シートを準備した。この前駆体シートの未塗工部ついて、引張り力のみを加えた場合の破断限界伸び率を、以下のようにして求めた。結果を表2に示す。
前駆体シートから未塗工部(アルミ箔)を打ち抜き、オートグラフにより引張り試験を行った。下記式より、アルミ箔の破断限界伸び率εmaxを求めた。
破断限界伸び率εmax=(破断時の伸び率ε)-(1.0%歪みのスプリングバック量ε
なお、図7(a)および図7(b)に示すように、εは、破断が生じた際の歪(%)であり、εは、1.0%歪からのスプリングバック量(%)である。
【0067】
[比較例2]
弾性ロールの代わりに金属製のロールを用いたこと以外は、実施例1と同様に、破断限界伸び率および破断時の荷重を算出した。結果を表2に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
表1および表2に示すように、実施例1~7は比較例1に比べて破断限界伸び率が向上していた。これにより、弾性ロールを用いて未塗工部に変形力と圧縮力の両方を付与する場合は、引張り力のみを付与する場合よりも未塗工部の破断が抑制されることが確認された。また、実施例1~7および図8から、弾性ロールの圧縮ヤング率が大きいほど、破断限界伸び率が大きくなっており、未塗工部の破断抑制効果が高いことが確認された。一方、比較例2から、圧縮ヤング率が大きい金属ロールを用いた場合には、未塗工部がほとんど伸びずに破断してしまった。これは、金属ロールはほとんど変形せず、未塗工部に対して十分な変形力が付与されなかったためと考えられる。また、実施例4および5から、弾性体の厚みを変化させても破断限界伸び率に変化はなかった。
【0071】
[参考例1~11]
弾性体の厚みを表3に示すような値に調整した弾性ロールを準備した。また、塗工部の厚みを表3に示すような値に調整した前駆体シートを準備した。この弾性ロールおよび前駆体シートを用いて、図9に示すように、塗工部に弾性ロールが乗り上がるようにして、ロールプレスを行った。プレス後、電極シートに破断(乗り上げ破断)の発生の有無を確認した。結果を表3に示す。なお、ロールプレスは、未塗工部の延伸量が2%となる圧縮力を加えて行った。また、弾性ロールには、圧縮ヤング率が19.6MPaの弾性体を用いた。
【0072】
【表3】
【0073】
未塗工部のプレスにおいては、弾性体の変形力により未塗工部を延伸するため、弾性ロールに所定の圧縮力を加え、弾性体に荷重を加えている。その状態で弾性ロールが塗工部に乗り上げると、乗り上げ部分においては弾性体にさらなる荷重が加わり、弾性体の変形力が大きくなる。その結果、乗り上げ破断が生じてしまう。一方、弾性体の厚みが塗工部の厚みに対して十分大きい場合には、塗工部に乗り上げた場合に加わる荷重の影響を小さくでき、弾性体の変形力への影響を小さくできる。その結果、乗り上げ破断を防止できる。
【0074】
表3に示すように、弾性体厚みが、塗工部の厚みに対して4倍未満の場合、乗り上げ破断が発生してしまった。参考例の結果から、弾性ロールが蛇行等により塗工部に乗り上げてしまった場合を考慮すると、弾性体の厚みは、塗工部の厚みに対して4倍以上であることが好ましいことが示唆された。
【符号の説明】
【0075】
1 …金属箔
2 …塗工部
3 …未塗工部
10 …前駆体シート
21 …軸体
22 …弾性体
20 …弾性ロール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9