IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-冷媒回路システムおよびその制御方法 図1
  • 特許-冷媒回路システムおよびその制御方法 図2
  • 特許-冷媒回路システムおよびその制御方法 図3
  • 特許-冷媒回路システムおよびその制御方法 図4
  • 特許-冷媒回路システムおよびその制御方法 図5
  • 特許-冷媒回路システムおよびその制御方法 図6
  • 特許-冷媒回路システムおよびその制御方法 図7
  • 特許-冷媒回路システムおよびその制御方法 図8
  • 特許-冷媒回路システムおよびその制御方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】冷媒回路システムおよびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/70 20180101AFI20240925BHJP
   B60H 1/22 20060101ALI20240925BHJP
   B60H 1/00 20060101ALI20240925BHJP
   B60K 11/02 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
F24F11/70
B60H1/22 651A
B60H1/22 671
B60H1/00 101Z
B60K11/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021143947
(22)【出願日】2021-09-03
(65)【公開番号】P2023037294
(43)【公開日】2023-03-15
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】道川内 亮
(72)【発明者】
【氏名】藍川 嗣史
(72)【発明者】
【氏名】松本 達人
【審査官】佐藤 正浩
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110715466(CN,A)
【文献】特開平05-322275(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0358833(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/70
B60H 1/22
B60H 1/00
B60K 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮させるコンプレッサと、
圧縮された前記冷媒を放熱させる凝縮器と、
放熱された前記冷媒を、それぞれの弁開度を調整して減圧膨張させる第1および第2膨張弁と、
前記第1膨張弁で減圧膨張された前記冷媒を吸熱させる第1蒸発器と、
前記第1蒸発器と並列に設けられ、前記第2膨張弁で減圧膨張された前記冷媒を吸熱させる第2蒸発器と、
前記第1蒸発器により温度調整される第1温調対象の温度に関連する第1情報、前記第2蒸発器により温度調整される第2温調対象の温度に関連する第2情報および前記コンプレッサの入口における冷媒の過熱度に関連する第3情報に基づいて、前記第1膨張弁の弁開度、前記第2膨張弁の弁開度および前記コンプレッサによる前記冷媒の圧縮率を制御する制御装置と、を備え
前記制御装置は、前記第1膨張弁の弁開度,前記第2膨張弁の弁開度および前記コンプレッサによる前記冷媒の圧縮率を、前記第1情報,前記第2情報および前記第3情報を入力とする所定の関係式に基づいてフィードフォワード制御する、
ことを特徴とする冷媒回路システム。
【請求項2】
冷媒を圧縮させるコンプレッサと、
圧縮された前記冷媒を放熱させる凝縮器と、
放熱された前記冷媒を、それぞれの弁開度を調整して減圧膨張させる第1および第2膨張弁と、
前記第1膨張弁で減圧膨張された前記冷媒を吸熱させる第1蒸発器と、
前記第1蒸発器と並列に設けられ、前記第2膨張弁で減圧膨張された前記冷媒を吸熱させる第2蒸発器と、
前記第1蒸発器により温度調整される第1温調対象の温度に関連する第1情報、前記第2蒸発器により温度調整される第2温調対象の温度に関連する第2情報および前記コンプレッサの入口における冷媒の過熱度に関連する第3情報に基づいて、前記第1膨張弁の弁開度、前記第2膨張弁の弁開度および前記コンプレッサによる前記冷媒の圧縮率を制御する制御装置と、を備え
前記制御装置は、前記第1膨張弁の弁開度,前記第2膨張弁の弁開度および前記コンプレッサによる前記冷媒の圧縮率を、予め準備された前記第1情報,前記第2情報および前記第3情報との関係を示すテーブルに基づいてフィードフォワード制御する、
ことを特徴とする冷媒回路システム。
【請求項3】
前記第1膨張弁は、弁開度が電気的に制御可能な第1電気式膨張弁であり、
前記第2膨張弁は、弁開度が電気的に制御可能な第2電気式膨張弁であり、
前記コンプレッサは、前記冷媒の圧縮率がモータの回転数により制御される電気式コンプレッサであり、
前記制御装置は、前記第1情報,前記第2情報および前記第3情報に基づいて、前記第1電気式膨張弁の弁開度、前記第2電気式膨張弁の弁開度および前記電気式コンプレッサの前記モータの回転数を制御する、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の冷媒回路システム。
【請求項4】
さらに、
前記第1蒸発器の近傍に設けられ、前記第1温調対象の温度を検出する第1センサと、
前記第2蒸発器の近傍に設けられ、前記第2温調対象の温度を検出する第2センサと、
前記コンプレッサの入口に設けられ、前記第1蒸発器から流出した第1冷媒および前記第2蒸発器から流出した第2冷媒が混合された前記コンプレッサの入口における冷媒の温度および圧力を検出する第3センサと、を備え、
前記第1情報は、前記第1センサで検出された前記第1蒸発器の近傍における前記第1温調対象の温度情報を含み、
前記第2情報は、前記第2蒸発器の近傍における前記第2センサで検出された前記第2温調対象の温度情報を含み、
前記第3情報は、前記第3センサで検出された前記コンプレッサの入口における冷媒の温度および圧力情報を含む、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の冷媒回路システム。
【請求項5】
前記冷媒回路システムは、バッテリを搭載した車両に適用され、
前記第1蒸発器は、前記バッテリの温度を調整するチラーであり、
前記第1温調対象は、前記チラーにより冷却される冷却水であり、
前記第2蒸発器は、前記車両の室内の温度を調整するエバポレータであり、
前記第2温調対象は、前記エバポレータにより冷却される冷却空気であり、
前記第1情報は、前記チラーにおける前記冷却水の流量の情報を含み、
前記第2情報は、前記エバポレータにおける前記冷却空気の流量の情報を含む、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の冷媒回路システム。
【請求項6】
前記制御装置は、さらに、前記コンプレッサの入口における前記冷媒の過熱度に基づいて、前記コンプレッサによる前記冷媒の圧縮率をフィードバック制御する、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の冷媒回路システム。
【請求項7】
冷媒を圧縮させるコンプレッサと、圧縮された前記冷媒を放熱させる凝縮器と、放熱された前記冷媒を、それぞれの弁開度を調整して減圧膨張させる第1および第2膨張弁と、前記第1膨張弁で減圧膨張された前記冷媒を吸熱させる第1蒸発器と、前記第1蒸発器と並列に設けられ、前記第2膨張弁で減圧膨張された前記冷媒を吸熱させる第2蒸発器と、を備える冷媒回路システムの制御方法であって、
前記第1蒸発器により温度調整される第1温調対象の温度に関連する第1情報、前記第2蒸発器により温度調整される第2温調対象の温度に関連する第2情報および前記コンプレッサの入口における冷媒の過熱度に関連する第3情報に基づいて、前記第1膨張弁の弁開度、前記第2膨張弁の弁開度および前記コンプレッサによる前記冷媒の圧縮率を制御し、
前記第1膨張弁の弁開度、前記第2膨張弁の弁開度および前記コンプレッサによる前記冷媒の圧縮率を制御するのは、前記第1情報,前記第2情報および前記第3情報を入力とする所定の関係式に基づいてフィードフォワード制御する、
ことを特徴とする冷媒回路システムの制御方法。
【請求項8】
冷媒を圧縮させるコンプレッサと、圧縮された前記冷媒を放熱させる凝縮器と、放熱された前記冷媒を、それぞれの弁開度を調整して減圧膨張させる第1および第2膨張弁と、前記第1膨張弁で減圧膨張された前記冷媒を吸熱させる第1蒸発器と、前記第1蒸発器と並列に設けられ、前記第2膨張弁で減圧膨張された前記冷媒を吸熱させる第2蒸発器と、を備える冷媒回路システムの制御方法であって、
前記第1蒸発器により温度調整される第1温調対象の温度に関連する第1情報、前記第2蒸発器により温度調整される第2温調対象の温度に関連する第2情報および前記コンプレッサの入口における冷媒の過熱度に関連する第3情報に基づいて、前記第1膨張弁の弁開度、前記第2膨張弁の弁開度および前記コンプレッサによる前記冷媒の圧縮率を制御し、
前記第1膨張弁の弁開度、前記第2膨張弁の弁開度および前記コンプレッサによる前記冷媒の圧縮率を制御するのは、予め準備された前記第1情報,前記第2情報および前記第3情報との関係を示すテーブルに基づいてフィードフォワード制御する、
ことを特徴とする冷媒回路システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で言及する実施形態は、冷媒回路システムおよびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バッテリを搭載したBEV(電気自動車),HEV(ハイブリッド車)およびPHEV(プラグインハブリッド車)、或いは、水素を利用したFCEV(燃料電池車)等が実用化されている。これらバッテリを搭載した車両には、例えば、バッテリを冷却する第1冷媒回路(チラー)と車両の室内を冷却する第2冷媒回路(エバポレータ)を備えた冷媒回路システムが適用されている。
【0003】
ところで、複数の冷媒回路を備えた冷媒回路システムは、例えば、システムの小型化および低廉化を図るために1つの圧縮器を共有し、その圧縮器から流出した冷媒を、複数の冷媒回路のそれぞれにおける蒸発器に流入させて熱交換(吸熱)を行っている。
【0004】
すなわち、共通の圧縮器から流出した冷媒は、第1冷媒回路の蒸発器(チラー)に供給されてバッテリを冷却すると共に、第2冷媒回路の蒸発器(エバポレータ)に供給されて車両室内を冷却する。
【0005】
従来、このような車両に搭載する複数の冷媒回路を備えた冷媒回路システムとしては、様々な提案がなされている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5643179号明細書
【文献】特許第5392298号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、バッテリを搭載した車両には、例えば、バッテリを冷却するチラーと車両室内を冷却するエバポレータを備えた冷媒回路システムが適用されている。このような冷媒回路システムでは、例えば、第1冷媒回路のチラーの出口に冷媒の温度・圧力を検出する第1センサが設けられ、第2冷媒回路のエバポレータの出口に冷媒の温度・圧力を検出する第2センサが設けられている。
【0008】
ここで、チラーの入口(上流)に設けられた第1膨張弁は、第1センサの出力に基づいてその弁開度が電気的に制御され、また、エバポレータの入口に設けられた第2膨張弁は、第2センサの出力に基づいてその弁開度が電気的に制御される。そして、圧縮器は、第1冷媒回路または第2冷媒回路の優先度に基づいて制御される。
【0009】
すなわち、圧縮器の冷媒圧縮率(電動コンプレッサのモータ回転数)は、第1冷媒回路によるバッテリの冷却、或いは、第2冷媒回路による車両室内の冷却における優先度の高い方の冷却要求に基づいて制御されるようになっている。
【0010】
そのため、例えば、優先度の高いバッテリを冷却する第1冷媒回路の要求に基づいて電動コンプレッサのモータ回転数を制御すると、優先度の低い車両室内を冷却する第2冷媒回路による冷却を適切に、或いは、効率的に行うことが難しくなるといった課題がある。
【0011】
なお、本明細書では、主としてバッテリを冷却する第1冷媒回路と車両室内を冷却する第2冷媒回路を備えた冷媒回路システムを例として説明するが、本発明が適用される冷媒回路システムは、バッテリおよび車両室内を冷却する2つの冷媒回路を備えたものに限定されるものではない。すなわち、本発明は、様々な個所を冷却する複数の冷媒回路を備えた冷媒回路システムおよびその制御方法として幅広く適用することができる。
【0012】
本明細書で言及する実施形態は、上述したような課題を解決するためになされたものであり、複数の冷媒回路をそれぞれ適切で効率的に制御することができる冷媒回路システムおよびその制御方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る一実施形態によれば、冷媒を圧縮させるコンプレッサと、圧縮された冷媒を放熱させる凝縮器と、放熱された冷媒を、それぞれの弁開度を調整して減圧膨張させる第1および第2膨張弁と、第1膨張弁で減圧膨張された冷媒を吸熱させる第1蒸発器と、第1蒸発器と並列に設けられ、第2膨張弁で減圧膨張された冷媒を吸熱させる第2蒸発器と、制御装置と、を備える冷媒回路システムが提供される。
【0014】
制御装置は、第1蒸発器により温度調整される第1温調対象の温度に関連する第1情報、第2蒸発器により温度調整される第2温調対象の温度に関連する第2情報およびコンプレッサの入口における冷媒の過熱度に関連する第3情報に基づいて、第1膨張弁の弁開度、第2膨張弁の弁開度およびコンプレッサによる冷媒の圧縮率を制御する。制御装置は、第1膨張弁の弁開度,第2膨張弁の弁開度およびコンプレッサによる冷媒の圧縮率を、第1情報,第2情報および第3情報を入力とする所定の関係式に基づいてフィードフォワード制御する。
【発明の効果】
【0015】
本実施形態に係る冷媒回路システムおよびその制御方法によれば、複数の冷媒回路をそれぞれ適切で効率的に制御することができるという効果を奏する。
【0016】
本発明の目的および効果は、特に請求項において指摘される構成要素および組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるであろう。前述の一般的な説明および後述の詳細な説明の両方は、例示的および説明的なものであり、特許請求の範囲に記載されている本発明を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、冷媒回路の一例を示すブロック図である。
図2図2は、図1に示す冷媒回路を説明するためのモリエル線図である。
図3図3は、冷媒回路システムの一例を概略的に示すブロック図である。
図4図4は、本実施形態に係る冷媒回路システムを概略的に示すブロック図である。
図5図5は、本実施形態に係る冷媒回路システムが適用される車載温調装置の一例を示すブロック図である。
図6図6は、図5に示す車載温調装置を搭載した車両の空調用空気通路の一例を模式的に示す図である。
図7図7は、図5に示す車載温調装置を搭載した車両の一例を模式的に示す図である。
図8図8は、本実施形態に係る冷媒回路システムの制御方法の一実施例を説明するための図である。
図9図9は、図8に示す冷媒回路システムの制御処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本実施形態に係る冷媒回路システムおよびその制御方法を詳述する前に、図1図3を参照して、冷媒回路システムの一例を説明する。
【0019】
図1は、冷媒回路(冷凍サイクル)の一例を示すブロック図である。図1において、参照符号10は圧縮器(コンプレッサ)、20は凝縮器(コンデンサ)、30は膨張弁、40は蒸発器、そして、50は温度・圧力センサ(センサ)を示す。圧縮器10は、冷媒を圧縮させ、凝縮器20は、冷媒を放熱させる。膨張弁30は、蒸発器40に流入する冷媒を減圧膨張させ、蒸発器(エバポレータ,チラー)40は、冷媒を吸熱させる。ここで、温度・圧力センサ50は、知られている様々な形式の温度センサおよび圧力センサを適用することができる。
【0020】
図1に示す冷媒回路は、例えば、車載温調装置として車両に搭載され、図示しない温調制御装置により、凝縮器20からの放熱を利用する暖房モード、および、蒸発器40による吸熱を利用する冷房モードを切り換える。また、温調制御装置は、車両室内の暖房モードや冷房モードを切り換えるだけでなく、例えば、除湿暖房モード,内部サイクルモードおよび除湿冷房モードを切り換えたり、さらには、車両室内だけでなくバッテリ等の温度調整も行うことができる。なお、本明細書では、主としてバッテリを冷却する第1冷媒回路と車両室内を冷却する第2冷媒回路を備えた冷媒回路システムを例として説明するが、冷媒回路はバッテリおよび車両室内を冷却するものに限定されず、さらに、3つ以上の冷媒回路を備えたものであってもよい。
【0021】
図2は、図1に示す冷媒回路を説明するためのモリエル線図(p-h線図)であり、縦軸は圧力[MPa]を示し、横軸は比エンタルピー[kJ/kg]を示す。図2に示されるように、冷媒は、飽和液線SLおよび飽和蒸気線SVの内側の領域(SLおよびSVで囲まれた領域)では気液混相(湿り蒸気域)になっており、飽和液線SLの左側(外側)の領域では液相(過冷却液域)になっており、そして、飽和蒸気線SVの右側(外側)の領域では気相(過熱蒸気域)になっている。
【0022】
ここで、膨張弁30は、凝縮器20を通過した冷媒液の圧力を、例えば、流体を流す小さな穴である弁オリフィスを通過させることで、流れの抵抗により圧力降下を生じさせて蒸発器40に流入する冷媒の圧力(蒸発圧力)を調整すると共に、蒸発器40の負荷変動に応じて冷媒の流量を調整する。これにより、蒸発器40の出口における冷媒過熱度を一定に保持して、圧縮器10への液戻りを防ぐようになっている。
【0023】
なお、冷媒過熱度とは、冷媒の過熱蒸気の温度と、その冷媒の圧力における飽和温度(飽和蒸気線SV)との差であり、蒸気の過熱の程度を表すために用いられる。この冷媒過熱度が不十分だと、冷媒が液体または液滴の状態(気液混相状態)で圧縮器10へ流入する液戻り(液圧縮)が生じ、圧縮器10に過剰な負荷がかかって好ましくない。また、冷媒過熱度が大きすぎると、無駄が生じて冷媒回路(車載温調装置)の効率が低下することになる。
【0024】
図3は、冷媒回路システムの一例を概略的に示すブロック図であり、2つの冷媒回路RC1'およびRC2'を備えた冷媒回路システム2'を示すものである。第1冷媒回路RC1'は、コンプレッサ(圧縮器)10,水冷コンデンサ(凝縮器)20,膨張弁(第1膨張弁)31,チラー(第1蒸発器)41および温度・圧力センサ(第1センサ)51により構成される。
【0025】
第2冷媒回路RC2'は、コンプレッサ10,水冷コンデンサ20,膨張弁(第2膨張弁)32,エバポレータ(第2蒸発器)42および温度・圧力センサ(第2センサ)52により構成される。このように、図3に示す冷媒回路システムにおいて、コンプレッサ10および水冷コンデンサ20は、2つの冷媒回路RC1'およびRC2'で共用されている。
【0026】
ここで、参照符号61は、チラー41により冷却された水の温度を検出する温度センサを示し、62は、エバポレータ42により冷却された空気の温度を検出する温度センサを示す。なお、温度センサ61は、検出したチラー41の冷却水の温度(温度情報,温度信号)を温調制御装置(ECU:Electronic Control Unit)に出力し、温度センサ62は、検出したエバポレータ42の冷却空気の温度(温度情報,温度信号)を温調制御装置に出力する。
【0027】
第1冷媒回路RC1'において、第1膨張弁31は、チラー41の出口に設けられた温度・圧力センサ51で検出された冷媒の温度および圧力(冷媒過熱度)に基づいて、その弁開度がフィードバック制御される。また、第2冷媒回路RC2'において、第2膨張弁32は、エバポレータ42の出口に設けられた温度・圧力センサ52で検出された冷媒の温度および圧力に基づいて、その弁開度がフィードバック制御される。
【0028】
コンプレッサ10は、例えば、冷媒の圧縮率をモータの回転数により制御することができる電動コンプレッサであり、バッテリを冷却するチラー(第1冷媒回路RC1')側、或いは、車両室内を冷却するエバポレータ(第2冷媒回路RC2')側のいずれかの冷却要求を優先し、その優先された冷却要求に基づいてモータの回転数(冷媒の圧縮率)をフィードバック制御するようになっている。
【0029】
すなわち、図1図3を参照して説明した冷媒回路システムでは、例えば、第1冷媒回路RC1'によるバッテリの冷却、或いは、第2冷媒回路RC2'による車両室内の冷却の優先度の高い方の冷却要求に基づいて、コンプレッサ10のモータの回転数が制御される。そのため、バッテリの冷却および車両室内の冷却の両方を適切で効率的に行うことが困難になっている。
【0030】
以下、図面を参照して、本実施形態に係る冷媒回路システムおよびその制御方法を詳述する。図4は、本実施形態に係る冷媒回路システムを概略的に示すブロック図であり、上述した図3に示す冷媒回路システムに相当する、2つの冷媒回路RC1およびRC2を備えた冷媒回路システム2を示すものである。
【0031】
図4に示されるように、第1冷媒回路RC1は、コンプレッサ(圧縮器)10,水冷コンデンサ(凝縮器)20,膨張弁(第1膨張弁)31,チラー(第1蒸発器)41,温度センサ(第1センサ)61および温度・圧力センサ(第3センサ)50により構成される。
【0032】
第2冷媒回路RC2は、コンプレッサ10,水冷コンデンサ20,膨張弁(第2膨張弁)32,エバポレータ(第2蒸発器)42,温度センサ(第2センサ)62および温度・圧力センサ50により構成される。このように、図4に示す本実施形態に係る冷媒回路システムにおいて、コンプレッサ10,水冷コンデンサ20および温度・圧力センサ50は、2つの冷媒回路RC1およびRC2で共用されている。
【0033】
第1冷媒回路RC1において、温度センサ61は、チラー41により冷却された水の温度を検出する。すなわち、温度センサ61は、第1蒸発器(チラー41)により温度調整される第1温調対象(冷却水)の温度を検出し、その検出したチラー41の冷却水の温度情報(温度信号,第1情報)を温調制御装置(ECU)に出力する。ここで、温度センサ61は、チラー41により温度調整された冷却水の温度を直接検出せずに、例えば、冷却水が流れる冷却水配管の近傍の温度を検出してもよい。
【0034】
第2冷媒回路RC2において、温度センサ62は、エバポレータ42により冷却された空気の温度を検出する。すなわち、温度センサ62は、第2蒸発器(エバポレータ42)により温度調整される第2温調対象(冷却空気)の温度を検出し、その検出したエバポレータ42の冷却空気の温度情報(温度信号,第2情報)を温調制御装置に出力する。ここで、温度センサ62は、エバポレータ42により温度調整された冷却空気の温度を直接検出せずに、冷却空気の温度に対応して変化するエバポレータ42の所定個所の温度を検出してもよい。
【0035】
なお、後に図8および図9を参照して詳述するように、温調制御装置に入力する第1情報としては、チラー41を流れる冷却水の温度情報だけでなく、冷却水の流量や熱量といった他の情報を含むのが好ましく、また、温調制御装置に入力する第2情報としても、エバポレータ42を流れる冷却空気の温度情報だけでなく、冷却空気の流量や熱量といった他の情報を含むのが好ましい。
【0036】
第1冷媒回路RC1において、第1膨張弁31は、温度センサ61で検出したチラー41の冷却水の温度に基づいて、その弁開度がフィードフォワード制御される。また、第2冷媒回路RC2において、第2膨張弁32は、温度センサ62で検出したエバポレータ42の冷却空気の温度に基づいて、その弁開度がフィードフォワード制御される。
【0037】
ここで、第1冷媒回路RC1における第1膨張弁31の弁開度のフィードフォワード制御は、例えば、チラー41の冷却水の温度に基づく所定の関係式を使用して行う。なお、第1膨張弁31の弁開度のフィードフォワード制御に使用する関係式としては、知られている様々な関係式を適宜適用することができる。或いは、チラー41の冷却水の温度に基づいて行う第1膨張弁31の弁開度のフィードフォワード制御は、チラー41の冷却水の温度と第1膨張弁31の弁開度の関係を示すテーブルを予め作成しておき、そのテーブルを利用して行うこともできる。
【0038】
同様に、第2冷媒回路RC2における第2膨張弁32の弁開度のフィードフォワード制御は、例えば、エバポレータ42の冷却空気の温度に基づく所定の関係式を使用して行う。なお、第2膨張弁32の弁開度のフィードフォワード制御に使用する関係式としては、知られている様々な関係式を適宜適用することができる。或いは、エバポレータ42の冷却空気の温度に基づいて行う第2膨張弁32の弁開度のフィードフォワード制御は、エバポレータ42の冷却空気の温度と第2膨張弁32の弁開度の関係を示すテーブルを予め作成しておき、そのテーブルを利用して行うこともできる。
【0039】
以上において、コンプレッサ10における冷媒の圧縮率の制御は、コンプレッサ10の入口に設けられた温度・圧力センサ50の出力に基づいて行われる。すなわち、コンプレッサ10におけるモータの回転数は、コンプレッサ10の入口に設けられた温度・圧力センサ50により、チラー41から流出した冷媒(第1冷媒)とエバポレータ42から流出した冷媒(第2冷媒)が混合された冷媒の温度・圧力(冷媒過熱度)を検出し、その検出されたコンプレッサ10の入口における冷媒過熱度に基づいてフィードバック制御される。
【0040】
このように、本実施形態に係る冷媒回路システムによれば、第1冷媒回路RC1によるバッテリの冷却を適切で効率的に行うと共に、第2冷媒回路RC2による車両室内の冷却を適切で効率的に行うことが可能になる。さらに、本実施形態に係る冷媒回路システムによれば、例えば、図3を参照して説明した冷媒回路システムにおける2つの温度・圧力センサ51,52を1つの温度・圧力センサ50に置き換えることができ、温度・圧力センサを1つ削減することができる。
【0041】
なお、本明細書では、主としてバッテリを冷却する第1冷媒回路と車両室内を冷却する第2冷媒回路を備えた冷媒回路システムを例として説明するが、本発明が適用される冷媒回路システムは、バッテリを冷却する第1冷媒回路および車両室内を冷却する第2冷媒回路を備えたものに限定されるものではない。さらに、本発明が適用される冷媒回路システムは、3つ以上の冷媒回路を備えたものであってもよいのは言うまでもない。ここで、冷媒回路システムが第1冷媒回路および第2冷媒回路に加え、第3膨張弁および第3蒸発器を含む第3冷媒回路を備える場合、第3膨張弁の弁開度は、例えば、第3蒸発器に設けた温度センサにより検出した温度情報に基づいて制御される。
【0042】
次に、図5図7を参照して、本実施形態に係る冷媒回路システムが適用される車載温調装置の一例を詳述する。図5は、本実施形態に係る冷媒回路システムが適用される車載温調装置の一例を示すブロック図である。図5において、参照符号1は車載温調装置、2は冷媒回路システム、7は高温回路、8は低温回路、そして、9は制御装置(温調制御装置)を示す。
【0043】
図5に示されるように、車載温調装置1は、冷媒回路システム2,高温回路7,低温回路8および制御装置9を備える。冷媒回路システム2は、コンプレッサ(電動コンプレッサ)21,コンデンサ20の冷媒配管20a,レシーバ23,第1膨張弁31,第2膨張弁32,チラー41の冷媒配管41a,エバポレータ42,第1電磁調整弁310および第2電磁調整弁320を備える。冷媒回路システム2は、冷媒がこれら構成部品を通って循環することにより2つの冷媒回路を実現するようになっている。なお、冷媒には、例えば、ハイドロフルオロカーボン(例えば、HFC-134a)といった一般的に冷媒回路で冷媒として用いられる任意の物質が用いられる。
【0044】
冷媒回路システム2は、図4を参照して説明した2つの冷媒回路(RC1,RC2)を備え、冷媒基本流路2a,エバポレータ流路2bおよびチラー流路2cに分けられる。ここで、エバポレータ流路2bおよびチラー流路2cは、互いに並列に設けられ、それぞれ冷媒基本流路2aに接続されている。すなわち、第1冷媒回路RC1は、冷媒基本流路2aおよびチラー流路2cで構成され、第2冷媒回路RC2は、冷媒基本流路2aおよびエバポレータ流路2bで構成される。
【0045】
冷媒基本流路2aには、冷媒の循環方向において、コンプレッサ21,コンデンサ20の冷媒配管20aおよびレシーバ23がこの順番に設けられている。チラー流路2cには、冷媒の循環方向において、第1電磁調整弁310,第1膨張弁31およびチラー41の冷媒配管41aがこの順番に設けられている。さらに、エバポレータ流路2bには、冷媒の循環方向において、第2電磁調整弁320,第2膨張弁32およびエバポレータ42がこの順番に設けられている。
【0046】
冷媒基本流路2aには、第1電磁調整弁310および第2電磁調整弁320の開閉に関わらず冷媒が流れる。冷媒基本流路2aに冷媒が流れると、冷媒はコンプレッサ21,コンデンサ20の冷媒配管20aおよびレシーバ23の順にこれら構成部品を通って流れる。チラー流路2cには、第1電磁調整弁310が開かれているときに冷媒が流れる。チラー流路2cに冷媒が流れると、冷媒は、第1電磁調整弁310,第1膨張弁31およびチラー41の冷媒配管41aの順にこれら構成部品を通って流れる。エバポレータ流路2bには、第2電磁調整弁320が開かれているときに冷媒が流れる。エバポレータ流路2bに冷媒が流れると、冷媒は、第2電磁調整弁320,第2膨張弁32およびエバポレータ42の順にこれら構成部品を通って流れる。
【0047】
コンプレッサ21は、冷媒を圧縮して昇温するもので、例えば、モータの回転数に応じて冷媒の圧縮率が制御される電動コンプレッサとして構成される。ここで、コンプレッサ21の入口には、温度・圧力センサ50が設けられている。すなわち、チラー41から流出した低温・低圧の主にガス状の冷媒(第1冷媒)およびエバポレータ42から流出した低温・低圧の主にガス状の冷媒(第2冷媒)は混合され、その混合された冷媒の温度および圧力(冷媒過熱度)がコンプレッサ20の入口に設けた温度・圧力センサ50により検出される。
【0048】
なお、温度・圧力センサ50により検出されたコンプレッサ20の入口における温度および圧力の信号(情報)は、ECU91(温調制御装置9)に出力される。また、チラー41には、温度センサ(第1センサ)61が設けられ、チラー41により冷却された水の温度を検出し、その検出された冷却水の温度情報をECU91に出力する。さらに、エバポレータ42には、温度センサ(第2センサ)62が設けられ、エバポレータ42により冷却された空気の温度を検出し、その検出されたエバポレータ42の冷却空気の温度情報をECU91に出力する。
【0049】
ここで、温度センサ61は、チラー41における冷却水配管41bの近傍に設けられ、その冷却水配管41bの近傍の温度を冷却水の温度として検出しているが、例えば、チラー41の冷却水配管41bから流出した冷却水の温度を検出する第1水温センサ93を、温度センサ61として使用することもできる。すなわち、温度センサ61(第1センサ)は、チラー41の近傍に設けられ、チラー41により温度調整される冷却水に関連する温度を検出し、その温度信号(温度情報)をECU91に出力する。同様に、温度センサ62(第2センサ)は、エバポレータ42の近傍に設けられ、エバポレータ42により温度調整される冷却空気に関連する温度を検出し、その温度信号をECU91に出力する。
【0050】
コンデンサ20は、冷媒配管20aおよび冷却水配管20bを備え、冷媒配管20aを流れる冷媒と冷却水配管20bを流れる冷却水との間で熱交換を行い、冷媒から冷却水へ熱を移動させる。コンデンサ20の冷媒配管20aは、冷媒回路(冷凍サイクル)において冷媒を凝縮させる凝縮器として機能する。また、コンデンサ20の冷媒配管20aでは、コンプレッサ21から流出した高温・高圧であって主にガス状の冷媒が、等圧的に冷却されることにより、高温・高圧の主に液状の冷媒に変化する。
【0051】
レシーバ23は、コンデンサ20の冷媒配管20aによって凝縮された冷媒を貯留する。ここで、コンデンサ20では、必ずしも全ての冷媒を液化することができないため、レシーバ23は気液の分離を行うように構成される。これにより、レシーバ23からは、ガス状の冷媒が分離された液状の冷媒のみが流出する。なお、冷媒回路システム2は、レシーバ23を有する代わりに、コンデンサ20として気液分離器を内蔵したサブクール式のコンデンサを用いてもよい。
【0052】
第1膨張弁31および第2膨張弁32は、細径の通路を備えると共に、その細径の通路から冷媒を噴霧することで冷媒の圧力を急激に低下させる。すなわち、第1膨張弁31は、レシーバ23から供給された液状の冷媒を、チラー41の冷媒配管41a内に霧状に噴霧する。同様に、第2膨張弁32は、レシーバ23から供給された液状の冷媒を、エバポレータ42内に霧状に噴霧する。これら第1および第2膨張弁31,32では、レシーバ23から流出した高温・高圧の液状の冷媒が、減圧されて部分的に気化することにより、低温・低圧の霧状の冷媒に変化する。なお、これら第1および第2膨張弁31,32は、弁開度が電気的に制御可能な電気式膨張弁として構成されている。
【0053】
エバポレータ42は、冷媒を蒸発させる蒸発器として機能し、エバポレータ42周りの空気から冷媒へ吸熱させ、冷媒を蒸発させるようになっている。したがって、エバポレータ42では、第2膨張弁32から流出した低温・低圧の霧状の冷媒が、蒸発することにより、低温・低圧のガス状の冷媒に変化する。その結果、エバポレータ42周りの空気が冷却され、車両室内を冷房することが可能になる。
【0054】
チラー41は、冷媒配管41aおよび冷却水配管41bを備え、低温回路8の冷却水から冷媒へ吸熱させ、冷媒を蒸発させるようになっている。すなわち、チラー41は、冷却水配管41bを流れる冷却水と冷媒配管41aを流れる冷媒との間で熱交換を行い、冷却水から冷媒へ熱を移動させる。したがって、チラー41の冷媒配管41aでは、第1膨張弁31から流出した低温・低圧の霧状の冷媒が、蒸発することにより、低温・低圧のガス状の冷媒に変化する。その結果、低温回路8の冷却水が冷却され、バッテリ熱交換部85を介してバッテリ(図示しない)を冷却することが可能になる。
【0055】
以上において、第1膨張弁31の弁開度,第2膨張弁32の弁開度およびコンプレッサ21におけるモータの回転数は、ECU(制御装置)91により制御される。ECU91には、チラー41に設けられた温度センサ61により検出された冷却水の温度信号、エバポレータ42に設けられた温度センサ62により検出された冷却空気の温度信号、および、コンプレッサ21の入口に設けられた温度・圧力センサ50により検出された冷媒の温度および圧力の信号が入力される。ここで、温度・圧力センサ50は、チラー41から流出した冷媒(第1冷媒)およびエバポレータ42から流出した冷媒(第2冷媒)が混合された、コンプレッサ21の入口における冷媒の温度および圧力を検出し、その検出された温度および圧力の信号(情報)をECU91に出力する。
【0056】
すなわち、第1冷媒回路RC1における第1膨張弁31の弁開度は、チラー41に設けられた温度センサ61により検出された冷却水の温度(信号)に基づいてフィードフォワード制御され、第2冷媒回路RC2における第2膨張弁32の弁開度は、エバポレータ42に設けられた温度センサ62により検出された冷却空気の温度(信号)に基づいてフィードフォワード制御される。ここで、第1膨張弁31の弁開度のフィードフォワード制御は、チラー41の冷却水の温度に基づく所定の関係式を使用して行うことができ、また、第2膨張弁32の弁開度のフィードフォワード制御は、エバポレータ42の冷却空気の温度に基づく所定の関係式を使用して行うことができる。
【0057】
或いは、第1膨張弁31の弁開度のフィードフォワード制御は、予め作成されたチラー41の冷却水の温度と第1膨張弁31の弁開度の関係を示すテーブルを利用して行うこともでき、また、第2膨張弁32の弁開度のフィードフォワード制御は、予め作成されたエバポレータ42の冷却空気の温度と第2膨張弁32の弁開度の関係を示すテーブルを利用して行うこともできる。なお、コンプレッサ21におけるモータの回転数は、コンプレッサ21の入口に設けられた温度・圧力センサ50により検出された冷媒の温度および圧力(冷媒過熱度)に基づいてフィードフォワード制御される。
【0058】
第1電磁調整弁310および第2電磁調整弁320は、冷媒回路システム2における冷媒の流れを制御するために使用される。すなわち、第1電磁調整弁310の弁開度が大きくなるほどチラー流路2cに流入する冷媒が多くなり、よってチラー41に流入する冷媒が多くなる。また、第2電磁調整弁320の弁開度が大きくなるほどエバポレータ流路2bに流入する冷媒が多くなり、よってエバポレータ42に流入する冷媒が多くなる。なお、図5に示す例では、電磁調整弁310,320は、その弁開度を調整可能なものとして構成されているが、開いた状態と閉じた状態との間で切り換えられる開閉弁であってもよい。また、第1電磁調整弁310および第2電磁調整弁320の代わりに、冷媒基本流路2aからの冷媒をチラー流路2cのみ、エバポレータ流路2bのみ、および/または、その両方に選択的に流入させることができる三方弁が設けられてもよい。すなわち、冷媒基本流路2aからチラー流路2cおよびエバポレータ流路2bへ流入する流量を調整することができれば、電磁調整弁310,320の代わりに様々な弁を適用してもよい。
【0059】
次に、低温回路8について説明する。低温回路8は、第1ポンプ81,チラー41の冷却水配管41b,低温ラジエータ82,第1三方弁83および第2三方弁84を備える。さらに、低温回路8は、バッテリ熱交換部85,MG熱交換部86およびPCU熱交換部87を備える。低温回路8では、これら構成部品を通って冷却水が循環する。なお、冷却水は第1熱媒体の一例であり、低温回路8内では、冷却水の代わりに任意の他の熱媒体が用いられてもよい。
【0060】
低温回路8は、低温基本流路8a,低温ラジエータ流路8bおよび高温機器流路8cに分けられる。低温ラジエータ流路8bおよび高温機器流路8cは、互いに並列に設けられ、それぞれ低温基本流路8aに接続されている。
【0061】
低温基本流路8aには、冷却水の循環方向において、第1ポンプ81,チラー41の冷却水配管41b,バッテリ熱交換部85がこの順番に設けられている。また、低温基本流路8aには、バッテリ熱交換部85をバイパスするように設けられたバイパス流路8dが接続される。バイパス流路8dは、冷却水の循環方向において、チラー41とバッテリ熱交換部85との間に一方の端部が接続され、バッテリ熱交換部85の下流側に他方の端部が接続されている。低温基本流路8aとバイパス流路8dとの接続部には、第1三方弁83が設けられている。
【0062】
低温ラジエータ流路8bには、低温ラジエータ82が設けられている。高温機器流路8cには、冷却水の循環方向において、MG熱交換部86およびPCU熱交換部87がこの順番に設けられている。高温機器流路8cには、MG(モータジェネレータ:Motor Generator)やPCU(パワーコントロールユニット:Power Control Unit)以外の高温機器と熱交換する熱交換部が設けられてもよい。低温基本流路8aと低温ラジエータ流路8bおよび高温機器流路8cとの間には、第2三方弁84が設けられている。
【0063】
第1ポンプ81は、低温回路8内を循環する冷却水を圧送するもので、電動式のウォータポンプとして構成され、供給電力が調整されることによりその吐出容量が無段階に変化するようになっている。
【0064】
低温ラジエータ82は、低温回路8内を循環する冷却水と車両100の外部の空気(外気)との間で熱交換を行う熱交換器である。低温ラジエータ82は、冷却水の温度が外気の温度よりも高いときには冷却水から外気への放熱を行い、冷却水の温度が外気の温度よりも低いときには外気から冷却水への吸熱を行うように構成される。
【0065】
第1三方弁83は、チラー41の冷却水配管41bから流出した冷却水がバッテリ熱交換部85とバイパス流路8dとの間で選択的に流通するようになっている。低温基本流路8aでは、第1三方弁83がバッテリ熱交換部85側に設定されているときには、冷却水は第1ポンプ81,チラー41の冷却水配管41b,バッテリ熱交換部85の順にこれら構成部品を通って流れる。一方、第1三方弁83がバイパス流路8d側に設定されているときには、冷却水は、バッテリ熱交換部85には流通しないため、第1ポンプ81およびチラー41のみを通って流れる。
【0066】
第2三方弁84は、低温基本流路8aから流出した冷媒が、低温ラジエータ流路8bと高温機器流路8cとの間で選択的に流通するようになっている。第2三方弁84が低温ラジエータ流路8b側に設定されていると、低温基本流路8aから流出した冷却水は低温ラジエータ82を通って流れる。一方、第2三方弁84が高温機器流路8c側に設定されていると、低温基本流路8aから流出した冷却水は、MG熱交換部86およびPCU熱交換部87の順にこれら構成部品を通って流れる。さらに、第2三方弁84を冷却水が両方に流れるように設定できる場合には、低温基本流路8aから流出した冷却水は、その一部が低温ラジエータ82を通って流れ、残りがMG熱交換部86およびPCU熱交換部87の順にこれら構成部品を通って流れる。
【0067】
なお、バッテリ熱交換部85およびバイパス流路8dに流入する冷却水の流量を適切に調整することができれば、第1三方弁83の代わりに、調整弁や開閉弁等の他の調整装置が用いられてもよい。同様に、低温ラジエータ流路8bおよび高温機器流路8cに流入する冷却水の流量を適切に調整することができれば、第2三方弁84の代わりに、調整弁や開閉弁等の他の調整装置が用いられてもよい。
【0068】
バッテリ熱交換部85は、車両100のバッテリ(図示しない)と熱交換するように構成さ、例えば、バッテリの周りに設けられた配管を備え、この配管を流れる冷却水とバッテリとの間で熱交換が行われるようになっている。
【0069】
MG熱交換部86は、車両100のMG(モータジェネレータ:図示しない)と熱交換するように構成される。具体的には、MG熱交換部86は、MGの周りを流れるオイルと冷却水との間で熱交換が行われるように構成される。また、PCU熱交換部87は、車両100のPCU(パワーコントロールユニット:図示しない)と熱交換するように構成される。具体的には、PCU熱交換部87は、PCUの周りに設けられた配管を備え、この配管を流れる冷却水とバッテリとの間で熱交換が行われるように構成される。
【0070】
次に、高温回路7について説明する。高温回路7は、第2ポンプ71,コンデンサ20の冷却水配管20b,高温ラジエータ72,第3三方弁73,ヒータ74およびヒータコア75を備える。高温回路7でもこれら構成部品を通って冷却水が循環する。なお、この冷却水は第2熱媒体の一例であり、高温回路7内では、冷却水の代わりに任意の他の熱媒体が用いられてもよい。
【0071】
また、高温回路7は、高温基本流路7a,高温ラジエータ流路7bおよびヒータ流路7cに分けられる。高温ラジエータ流路7bおよびヒータ流路7cは、互いに並列に設けられ、それぞれ高温基本流路7aに接続されている。
【0072】
高温基本流路7aには、冷却水の循環方向において、第2ポンプ71,コンデンサ20の冷却水配管20bがこの順番に設けられている。高温ラジエータ流路7bには、高温ラジエータ72が設けられている。また、ヒータ流路7cには、冷却水の循環方向において、ヒータ(電気ヒータ)74およびヒータコア75がこの順番に設けられている。高温基本流路7aと高温ラジエータ流路7bおよびヒータ流路7cとの間には、第3三方弁73が設けられている。
【0073】
第2ポンプ71は、高温回路7内を循環する冷却水を圧送するもので、第1ポンプ81と同様な、電動式のウォータポンプとして構成される。また、高温ラジエータ72は、低温ラジエータ82と同様に、高温回路7内を循環する冷却水と外気との間で熱交換を行う熱交換器である。
【0074】
第3三方弁73は、コンデンサ20の冷却水配管20bから流出した冷却水が高温ラジエータ流路7bとヒータ流路7cとの間で選択的に流通するようになっている。第3三方弁73が、高温ラジエータ流路7b側に設定されていると、コンデンサ20の冷却水配管20bから流出した冷却水は高温ラジエータ流路7bを通って流れる。一方、第3三方弁73が、ヒータ流路7c側に設定されていると、コンデンサ20の冷却水配管20bから流出した冷却水はヒータ74およびヒータコア75を通って流れる。なお、高温ラジエータ流路7bおよびヒータ流路7cに流入する冷却水の流量を適切に調整することができれば、第3三方弁73の代わりに、調整弁や開閉弁等の他の調整装置が用いられてもよい。
【0075】
ヒータ74は、冷却水を加熱する加熱器として機能する。ヒータ74は、例えば冷却水が流れる配管の周りに配置された抵抗発熱体を備え、この抵抗発熱体に電力を供給することによって配管内の冷却水が加熱されるように構成される。ヒータ74は、例えば、外気の温度が極めて低く、その結果、冷媒回路システム2において冷媒が適切に機能しないような場合に暖房を行う際に用いられる。
【0076】
ヒータコア75は、高温回路7内を循環する冷却水とヒータコア75周りの空気との間で熱交換を行って、車両室内の暖房を行うように構成される。具体的には、ヒータコア75は、冷却水からヒータコア75周りの空気へ排熱するように構成される。したがって、ヒータコア75に高温の冷却水が流れると、冷却水の温度が低下すると共に、ヒータコア75周りの空気が暖められる。
【0077】
図6は、図5に示す車載温調装置を搭載した車両の空調用空気通路の一例を模式的に示す図であり、図7は、図5に示す車載温調装置を搭載した車両の一例を模式的に示す図である。
【0078】
図6に示されるように、車載温調装置1を搭載した車両100の空調用の空気通路60では、図中の矢印で示す方向に空気が流れる。図6に示す空気通路60は、車両100の外部または車両室内の空気吸い込み口に接続されており、空気通路60には制御装置9による制御状態に応じて外気または車両室内の空気が流入する。また、図6に示す空気通路60は、車両室内へ空気を吹き出す吹き出し口に接続されており、空気通路60からは、制御装置9による制御状態に応じて任意の吹き出し口に空気が供給される。
【0079】
図6に示す空調用の空気通路60には、空気の流れ方向において、ブロワ63,エバポレータ42,エアミックスドア64およびヒータコア75がこの順番に設けられている。
【0080】
ブロワ63は、ブロワモータ63aおよびブロワファン63bを備える。ブロワ63は、ブロワモータ63aによってブロワファン63bが駆動されると、外気または車両室内の空気が空気通路60に流入して、空気通路60を通って空気が流れるように構成される。
【0081】
エアミックスドア64は、空気通路60を通って流れる空気のうち、ヒータコア75を通って流れる空気の流量を調整する。エアミックスドア64は、空気通路60を流れる全ての空気がヒータコア75を流れる状態と、空気通路60を流れる全ての空気がヒータコア75を流れない状態と、その間の状態との間で調整できるように構成される。
【0082】
このように構成された空気通路60では、ブロワ63が駆動されているときに、エバポレータ42に冷媒が循環されている場合には、空気通路60を通って流れる空気が冷却される。また、ブロワ63が駆動されているときに、ヒータコア75に冷却水が循環されていて且つ空気がヒータコア75を流れるようにエアミックスドア64が制御されている場合には、空気通路60内を通って流れる空気が暖められる。
【0083】
図7は、車載温調装置1を搭載した車両100を概略的に示す図である。図7に示されるように、車両100のフロントグリルの内側に、低温ラジエータ82および高温ラジエータ72が配置される。したがって、車両100が走行しているときにはこれらラジエータ82,72には走行風が当たる。また、これらラジエータ82,72に隣接してファン70が設けられている。ファン70は駆動されるとラジエータ82,72に風が当たるように構成される。したがって、車両100が走行していないときでも、ファン70を駆動することにより、ラジエータ82,72に風を当てることができる。
【0084】
図5に示されるように、制御装置9は、電子制御ユニット(ECU)91を備える。ECU91は、各種演算を行うプロセッサ,プログラムや各種情報を記憶するメモリおよび各種アクチュエータや各種センサと接続されるインタフェースを備える。
【0085】
また、制御装置9は、バッテリの温度を検出するバッテリ温度センサ92,チラー41の冷却水配管41bから流出した冷却水の温度を検出する第1水温センサ93およびヒータコア75に流入する冷却水の温度を検出する第2水温センサ94を備える。ECU91はこれらセンサに接続され、ECU91にはこれらセンサからの出力信号が入力される。
【0086】
さらに、ECU91は、車載温調装置1の各種アクチュエータに接続されて、これらアクチュエータを制御する。具体的には、ECU91は、コンプレッサ21、電磁調整弁310,320、ポンプ81,71、三方弁83,84,73、ヒータ74、ブロワモータ63a、エアミックスドア64およびファン70に接続されて、これらを制御する。
【0087】
上述したように、チラー41の温調対象(冷却水)の温度,エバポレータ42の温調対象(冷却空気)の温度およびコンプレッサ21の入口における冷媒過熱度に基づいて、第1膨張弁31の弁開度,第2膨張弁32の弁開度およびコンプレッサ回転数(電動コンプレッサ21のモータ回転数)の3つのアクチュエータ動作量を決定して制御することができる。この制御は、所定の関係式またはテーブルを使用して行うことができ、例えば、次のようになる。
【0088】
まず、バッテリのみを現在よりもさらに冷やす場合(チラー41による冷却水の冷却能力を増加する場合)、現在よりもコンプレッサ回転数を上昇させると共に、第1膨張弁31の弁開度を開け、第2膨張弁32の弁開度を閉じるように制御する。また、車両室内の空気のみを現在よりもさらに冷やす場合(エバポレータ42による冷却空気の冷却能力を増加する場合)、現在よりもコンプレッサ回転数を上昇させると共に、第1膨張弁31の弁開度を閉じ、第2膨張弁32の弁開度を開けるように制御する。なお、チラー41による冷却水の冷却能力を低下する場合、および、エバポレータ42による冷却空気の冷却能力を低下する場合には、それぞれ逆の制御を行うことになる。
【0089】
次に、バッテリおよび車両室内の両方をさらに冷やす場合、現在よりもコンプレッサ回転数を上昇させると共に、第1膨張弁31および第2膨張弁32の弁開度を両方とも開けるように制御する。また、コンプレッサ21の入口における冷媒過熱度のみを現在よりもさらに高くする場合、コンプレッサ回転数を上昇させると共に、第1膨張弁31および第2膨張弁32の弁開度を閉じるように制御する。
【0090】
このように、本実施形態に係る冷媒回路システムによれば、例えば、第1膨張弁31の弁開度,第2膨張弁32の弁開度およびコンプレッサ回転数という3つの制御対象を、チラー41の冷却水の温度,エバポレータ42の冷却空気の温度およびコンプレッサ21の入口における冷媒過熱度という3つのパラメータセット(制御対象と同数のパラメータセット)に対して制御するため、それぞれのパラメータに基づく要求を満足することができる。また、本実施形態に係る冷媒回路システムによれば、例えば、第1冷媒回路RC1によるバッテリの冷却を適切で効率的に行うと共に、第2冷媒回路RC2による車両室内の冷却を適切で効率的に行うことが可能になる。さらに、本実施形態に係る冷媒回路システムによれば、例えば、図3を参照して説明した冷媒回路システムにおける2つの温度・圧力センサ51,52を1つの温度・圧力センサ50に置き換えることができ、温度・圧力センサを1つ削減することがで可能になる。なお、図5図7を参照して説明した車載温調装置は、本実施形態に係る冷媒回路システムが適用される単なる例であり、本実施形態に係る冷媒回路システムは、図5図7の車載温調装置への適用に限定されるものではない。
【0091】
以上において、ECU91に与える情報(信号)としては、チラー41の近傍に設けられた温度センサ61により検出された冷却水の温度情報、エバポレータ42の近傍に設けられた温度センサにより検出された冷却空気の温度情報、並びに、コンプレッサ21の入口に設けられた温度・圧力センサ50により検出された冷媒の温度および圧力の情報に限定されるものではない。
【0092】
図8は、本実施形態に係る冷媒回路システムの制御方法の一実施例を説明するための図であり、アクチュエータ動作量の算出処理を説明するためのものである。ここで、図8(a)は、冷媒回路システムの制御方法におけるアクチュエータ(ACT)動作量の算出処理を概略的に示し、図8(b)は、図8(a)に示すACT動作量の算出処理の一例をより詳細に示す。
【0093】
図8(a)に示されるように、本実施形態に係る冷媒回路システムにおけるACT動作量の算出処理は、例えば、チラー熱量,エバ(エバポレータ)熱量およびコンプ(コンプレッサ)入口冷媒過熱度を入力とし、コンプレッサ回転数(電動コンプレッサ21のモータ回転数),チラー側膨張弁開口径(第1膨張弁31の弁開度)およびエバ側膨張弁開口径(第2膨張弁32の弁開度)を制御するためにECU91(温調制御装置9)により実行される。
【0094】
ここで、チラー熱量は、チラー41の温調対象の目標温度に追従するのに必要な単位時間当りの熱移動量(熱量:[kW])であり、エバ熱量は、エバポレータ42の温調対象の目標温度に追従するのに必要な単位時間当りの熱移動量(熱量:[kW])である。また、コンプ入口冷媒過熱度は、チラー41で熱交換が行われた後の第1冷媒と、エバポレータ42により熱交換が行われた後の第2冷媒とが混合されたコンプレッサ21の入口における冷媒の過熱度であり、コンプレッサ21の入口に設けられた温度・圧力センサ50の検出信号から求めることができる。
【0095】
すなわち、図8(b)に示されるように、チラー冷媒流量(チラー41の冷媒配管41aを流れる冷媒の流量)は、チラー熱量,水冷コン入口水温(水冷コンデンサ20の冷却水配管20bの入口における冷却水配管20bを流れる冷却水の温度)および水冷コン水流量(水冷コンデンサ20の冷却水配管20bを流れる冷却水の流量)を入力とする関係式Aにより算出することができる。なお、コンデンサ20が水冷コンデンサではなく、空冷コンデンサの場合には、外気の温度および車両の走行速度等から水冷コン入口水温を求めることが可能である。また、エバ冷媒流量(エバポレータ42を流れる冷媒の流量)は、エバ熱量,水冷コン入口水温および水冷コン水流量を入力とする関係式Bにより算出することができる。そして、コンプ冷媒流量(コンプレッサ21を流れる冷媒の流量)は、チラー冷媒流量およびエバ冷媒流量から求めることができる。
【0096】
コンプ入口圧力(コンプレッサ21の入口における冷媒の圧力)は、チラー熱量,チラー入口水温(チラー41の冷却水配管41bの入口における冷却水の温度)およびチラー水流量(チラー41の冷却水配管41bを流れる冷却水の流量)を入力とする関係式Cにより算出することができる。また、コンプ出口圧力(コンプレッサ21の出口における冷媒の圧力)は、チラー熱量+エバ熱量,水冷コン入口水温および水冷コン水流量を入力とする関係式Dにより算出することができる。さらに、コンプ入出口圧力比(コンプレッサ21の入口と出口における冷媒の圧力比)は、コンプ入口圧力およびコンプ出口圧力から求めることができる。そして、コンプレッサ回転数は、コンプ冷媒流量,コンプ入口圧力およびコンプ入出口圧力比を入力とする関係式Eにより算出することができる。
【0097】
チラー側膨張弁開口径は、チラー側膨張弁開口面積から求めることができ、このチラー側膨張弁開口面積は、チラー熱量およびエバ熱量を入力とする関係式Fにより算出することができる。すなわち、第1冷媒回路RC1における第1膨張弁31の弁開度は、チラー熱量およびエバ熱量を関係式Fに入力することにより求めることができる。同様に、エバ側膨張弁開口径は、エバ側膨張弁開口面積から求めることができ、このエバ側膨張弁開口面積は、エバ熱量およびチラー熱量を入力とする関係式Gにより算出することができる。すなわち、第2冷媒回路RC2における第2膨張弁32の弁開度は、エバ熱量およびチラー熱量を関係式Gに入力することにより求めることができる。
【0098】
上述したように、図8に示す冷媒回路システムの制御方法の一実施例では、チラー41の温調対象(冷却水)の目標温度に追従するのに必要なチラー41の単位時間当りの熱移動量(熱量:[kW])、および、エバポレータ42の温調対象(冷却空気)の目標温度に追従するのに必要なエバポレータ42の熱量をそれぞれ算出する。さらに、チラー41の冷却水の熱量およびエバポレータ42の冷却空気の熱量に加え、コンプレッサ21の入口における冷媒過熱度、並びに、チラー41の冷却水の温度および流量、エバポレータ42の冷却空気の温度および流量、水冷コンデンサ20の水温および水流量といった冷媒回路システム2の熱交換先の現在の状態の情報から、第1および第2膨張弁の弁開度並びにコンプレッサ回転数の動作量を求め、これらの動作量を指示値としてフィードフォワード制御を行う。
【0099】
すなわち、第1膨張弁31の弁開度および第2膨張弁32の弁開度、並びに、コンプレッサ21のモータ回転数をフィードフォワード制御することにより、応答性の早い制御を行うことが可能となる。このフィードフォワード制御は、上述した所定の関係式A~Gに基づいて行うことができるが、予め各入力データに対する出力値を対応付けた関係式A~Gに対応するテーブルを準備しておき、そのテーブルを利用して行うことも可能である。このような処理は、例えば、次のようになる。
【0100】
まず、チラー水温(チラー41を流れる冷却水の温度)が目標値よりも低い場合、およびチラー水流量(チラー41を流れる冷却水の流量)が目標値よりも少ない場合には、コンプレッサ回転数上昇させる。また、エバポレータ風温(エバポレータ42を流れる冷却空気の温度)が目標値よりも低い場合、および、エバポレータ風量(エバポレータ42を流れる冷却空気の流量)が目標値よりも少ない場合には、コンプレッサ回転数を上昇させる。さらに、水冷コンデンサ水温(水冷コンデンサ20を流れる水の温度)が目標値よりも高い場合、および、水冷コンデンサ水流量(水冷コンデンサ20を流れる水の流量)が目標値よりも少ない場合には、コンプレッサ回転数を上昇させる。
【0101】
なお、コンプレッサ入口冷媒過熱度(コンプレッサ21の入口における冷媒過熱度)の目標値に対する誤差が小さくなるように、コンプレッサ21の入口に設けた温度・圧力センサ50で検出したコンプレッサ21の入口における温度および圧力情報(コンプレッサ入口冷媒過熱度)に基づいて、コンプレッサ回転数(電動コンプレッサ21のモータ回転数)をフィードバック制御するのが好ましい。ここで、コンプレッサ入口冷媒過熱度によりコンプレッサ回転数のみをフィードバック制御するのは、コンプレッサ21に液相の冷媒が流入して破損するのを確実に防止するのためである。
【0102】
すなわち、コンプレッサ入口冷媒過熱度の目標値に対する誤差が小さくなるように調整する場合、温調対象(チラー41を流れる冷却水およびエバポレータをネがれる冷却空気)の温度や熱量等の目標値に対する誤差への影響を小さくできるためである。さらに、コンプレッサ回転数ではなく、第1膨張弁31または第2膨張弁32の一方の弁開度を調整した場合には、第1冷媒回路RC1と第2冷媒回路RC2を流れる冷媒の配分が変化し、温調対象の温度や熱量等の目標値に対する誤差が大きくなってしまうからである。すなわち、コンプレッサ入口冷媒過熱度が目標値よりも低い場合には、コンプレッサ回転数を上昇させることになる。
【0103】
以上において、関係式A~Gには、それぞれ知られている様々な関係式を適宜適用することができ、上述した様々な情報(データ)をそれぞれ関係式A~Gに入力することにより、電動コンプレッサ21のモータ回転数(コンプレッサ回転数),第1冷媒回路RC1における第1膨張弁31の弁開度(チラー側膨張弁開口面積)および第2冷媒回路RC2における第2膨張弁32の弁開度(エバ側膨張弁開口面積)を、それぞれ算出してフィードフォワード制御することができる。なお、関係式A~Gを使用する代わりに、予め各入力データに対する出力値を対応付けた関係式A~Gに対応するテーブルを準備しておき、そのテーブルを利用してフィードフォワード制御を行うことも可能である。
【0104】
図9は、図8に示す冷媒回路システムの制御処理の一例を説明するためのフローチャートである。図9に示されるように、冷媒回路システムの制御処理(制御方法)の一例が開始(スタート)すると、ステップST1において、目標温度を設定し、ステップST2に進んで、熱量目標の算出を行う。
【0105】
すなわち、ステップST1では、ECU91からの指示に基づいて、チラー41により冷却(温度調整)される冷却水の目標温度およびエバポレータ42により冷却される冷却空気の目標温度が設定される。また、ステップST2における、冷却水の目標熱量の算出および冷却空気の目標熱量の算出は、例えば、ステップST1で設定された冷却水の目標温度および冷却空気の目標温度等に基づいて算出される。
【0106】
次に、ステップST3に進んで、チラー水温と水流量,エバポレータ風温と風量,水冷コンデンサ水温と水流量を検出する。すなわち、ステップST3では、チラー41の冷却水配管41bを流れる冷却水の温度および流量、エバポレータ42(空調用の空気通路60)を流れる冷却空気の温度および流量、並びに、水冷コンデンサ20の冷却水配管20bを流れる冷却水の温度および流量を検出する。
【0107】
ここで、ステップST3で検出される冷却水配管41bを流れる冷却水の温度および流量、空調用の空気通路60を流れる冷却空気の温度および流量、並びに、冷却水配管20bを流れる冷却水の温度および流量は、それぞれ適切なセンサにより検出され、そのセンサにより検出された温度および流量の情報(信号)は、ECU91に入力される。なお、チラー41,のエバポレータ42および水冷コンデンサ20等における熱交換が十分に行われるものと考え、例えば、チラー41により冷却される冷却水の温度およびエバポレータ42により冷却される冷却空気の温度を検出し、これら検出した冷却水および冷却空気の温度情報をECU91に出力してもよい。
【0108】
すなわち、例えば、温度センサ(第1センサ)61をチラー(第1蒸発器)41の近傍に設け、この温度センサ61により、チラー41で冷却される冷却水配管41bを流れる冷却水の温度を検出する。同様に、例えば、温度センサ(第2センサ)62をエバポレータ(第2蒸発器)42の近傍に設け、この温度センサ62により、エバポレータ42で冷却される空調用の空気通路60を流れる冷却空気(第2温調対象)の温度を検出する。なお、温度センサ61で検出された冷却水の温度情報(信号)および温度センサ62で検出された冷却空気の温度情報は、それぞれECU91に出力される。
【0109】
そして、ステップST4に進んで、コンプレッサおよび膨張弁の動作量を算出して指示する。すなわち、ステップST4において、ECU91は、入力された様々な情報(信号)に基づいて、電動コンプレッサ21のモータの回転数、第1膨張弁31の弁開度、および、第2膨張弁32の弁開度を制御する。具体的に、第1冷媒回路RC1において、第1膨張弁31は、チラー41の近傍に設けられた温度センサ61により検出された冷却水の温度信号に基づいて、その弁開度を制御することができる。同様に、第2冷媒回路RC2において、第2膨張弁32は、エバポレータ42の近傍に設けられた温度センサ62により検出された冷却空気の温度信号に基づいて、その弁開度を制御することができる。
【0110】
さらに、ステップST5において、コンプレッサ21の入口における冷媒過熱度を検出し、ステップST6に進んで、コンプレッサ21の動作補正量を算出して指示(制御)する。すなわち、ステップST5では、コンプレッサ21の入口に設けた温度・圧力センサ50により、チラー41で熱交換(吸熱)が行われた後の第1冷媒、および、エバポレータ42により熱交換(吸熱)が行われた後の第2冷媒が混合されたコンプレッサ21の入口における冷媒の温度および圧力を検出し、その温度および圧力の情報(信号)をECU91に出力する。
【0111】
そして、ステップST6では、コンプレッサ21の入口に設けた温度・圧力センサ50により検出された冷媒の温度および圧力の情報からコンプレッサ21の入口における冷媒過熱度を算出し、その算出された冷媒過熱度が目的とする冷媒過熱度となるようにコンプレッサ回転数(電動コンプレッサ21のモータ回転数)を制御する、フィードバック制御を行う。なお、上述した冷媒回路システムの制御処理(制御方法)は、例えば、図5に示すECU91により実行されるプログラムとして実施することが可能なのはいうまでもない。
【0112】
上述した冷媒回路システムおよびその制御方法の実施例は、単なる例を示すだけのものであり、様々な変形および変更等が可能なのは言うまでもない。また、本実施形態の電気式膨張弁制御装置および冷媒回路システムの制御方法は、車両に搭載される冷媒回路に限定されるものではなく、電動コンプレッサおよび電気式膨張弁を備えた様々な冷媒回路に対して幅広く適用することができる。
【0113】
以上、実施形態を説明したが、ここに記載したすべての例や条件は、発明および技術に適用する発明の概念の理解を助ける目的で記載されたものであり、特に記載された例や条件は発明の範囲を制限することを意図するものではない。また、明細書のそのような記載は、発明の利点および欠点を示すものでもない。発明の実施形態を詳細に記載したが、各種の変更、置き換え、変形が発明の精神および範囲を逸脱することなく行えることが理解されるべきである。
【符号の説明】
【0114】
1 車載温調装置
2 冷媒回路システム
7 高温回路
8 低温回路
9 制御装置(温調制御装置)
10,21 コンプレッサ(電動コンプレッサ,圧縮器)
20 コンデンサ(水冷コンデンサ,凝縮器)
30 膨張弁
31 第1膨張弁(第1電気式膨張弁)
32 第2膨張弁(第2電気式膨張弁)
40 蒸発器
41 第1蒸発器(チラー)
42 第2蒸発器(エバポレータ)
50 温度・圧力センサ(第3センサ)
51,52 温度・圧力センサ
61 温度センサ(第1センサ)
62 温度センサ(第2センサ)
63 ブロワ
64 エアミックスドア
70 ファン
72 高温ラジエータ
82 低温ラジエータ
91 ECU
100 車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9