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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】コイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/00 20060101AFI20240925BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
H01F17/00 D
H01F17/04 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021159269
(22)【出願日】2021-09-29
(65)【公開番号】P2023049498
(43)【公開日】2023-04-10
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100187584
【弁理士】
【氏名又は名称】村石 桂一
(72)【発明者】
【氏名】生石 正之
(72)【発明者】
【氏名】酒井 崇史
(72)【発明者】
【氏名】山本 誠
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-140835(JP,A)
【文献】特開平11-097244(JP,A)
【文献】特開2001-044038(JP,A)
【文献】特開2021-108326(JP,A)
【文献】特開2014-207406(JP,A)
【文献】特開2011-049492(JP,A)
【文献】特開2005-167098(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0371753(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00-19/08、27/28、41/04
H05K 1/16、3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層およびコイル導体層が積層方向に複数積層され、前記コイル導体層同士を電気的に接続する第1ビア導体および第2ビア導体を有する積層体を備えた、コイル部品であって、
前記第1ビア導体は、前記第2ビア導体よりも小さく、
断面視において、前記第1ビア導体の最も幅狭となる幅寸法は、前記第2ビア導体の最も幅狭となる幅寸法の0.5倍以上0.75倍未満であり、
前記第1ビア導体は、前記積層方向に隣接するコイル導体層同士を電気的に並列接続するビア導体であり、
前記第2ビア導体は、前記積層方向に隣接するコイル導体層同士を電気的に直列接続するビア導体である、
コイル部品。
【請求項2】
前記第1ビア導体で接続された前記コイル導体層同士の形状は、互いに同形状であり、
前記第2ビア導体で接続された前記コイル導体層同士の形状は、互いに異形状である、請求項に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記第1ビア導体と前記第2ビア導体は、同一直線上に配置されている、請求項1または2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記第1ビア導体および前記第2ビア導体は、断面視において、前記積層方向に幅広となるテーパー形状を有している、請求項1~のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記積層体の最外側に位置して隣接し合う前記コイル導体層それぞれに、外部電極と電気的に接続される引出部が設けられている、請求項1~のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記引出部が設けられた前記コイル導体層同士は、前記第1ビア導体によって電気的に互いに接続されている、請求項に記載のコイル部品。
【請求項7】
前記コイル導体層の外側には、外部電極と電気的に接続される少なくとも2つの引出電極層が互いに隣接し合うように備えられている、請求項1~のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項8】
前記引出電極層同士は、前記第1ビア導体で電気的に接続されている、請求項に記載のコイル部品。
【請求項9】
前記引出電極層と前記コイル導体層とは、前記第2ビア導体で電気的に接続されている、請求項またはに記載のコイル部品。
【請求項10】
前記コイル導体層と前記絶縁層との間に空隙部を備えている、請求項1~のいずれか1項に記載のコイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の大電流化の傾向により、コイル部品は、高い定格電流が要求されるようになってきている。例えば、特許文献1~3には、コイル導体を形成したシートを複数枚(例えば、2枚)重ね合わせ、スルーホールを介して並列接続し、並列接続したもの同士を直列に接続したコイル部品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-053368号公報
【文献】特開平8-130115号公報
【文献】実開平5-57817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
所望のコイル特性を得るためにコイル導体を形成したシートをより多く重ね合わせるにつれて、絶縁層とコイル導体との間の応力が増大することで、クラックが発生するおそれがある。また、コイル導体同士を電気的接続するスルーホールに供給する導電性材料をより多く必要とする。このように導電性材料の使用量が多くなる結果、材料コストが高くなっていた。
【0005】
そこで、本開示の主たる目的は、コイル導体を接続する導電性材料の使用量を低減し、良好なコイル特性が得られるコイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のコイル部品は、
絶縁層およびコイル導体層が積層方向に複数積層され、前記コイル導体層同士を電気的に接続する第1ビア導体および第2ビア導体を有する積層体を備えた、コイル部品であって、
前記第1ビア導体は、前記第2ビア導体よりも小さい。
【発明の効果】
【0007】
本開示のコイル部品によれば、コイル導体層同士を電気的に接続する第1ビア導体および第2ビア導体に用いられる導電性材料の使用量を低減して、良好なコイル特性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示のコイル部品の斜視図である。
図2図2は、第1実施形態に係るコイル部品の積層体の分解斜視図である。
図3図3は、第1実施形態に係るコイル部品における積層体を構成する各積層部材の平面図である。
図4図4は、図2のIV-IV線の矢視方向の断面図である。
図5図5は、図4の破線部分の拡大断面図である。
図6図6(a)は、絶縁層作製工程を示す模式断面図、図6(b)は、空隙部形成用樹脂ペーストを作製する工程を示す模式断面図、図6(c)は、コイル導体層作製工程を示す模式断面図、図6(d)は、コイル導体層の周囲に絶縁材料を配置する工程を示す模式断面図、図6(e)は、積層体作製工程を示す模式断面図である。
図7図7(a)は、積層体を構成する積層部材の平面図、図7(b)は、図7(a)のb-b線の矢視方向の断面図である。
図8図8(a)は、積層体を構成する積層部材の平面図、図8(b)は、図8(a)のb-b線の矢視方向の断面図である。
図9図9は、第2実施形態に係るコイル部品における積層体を構成する各積層部材の平面図である。
図10図10は、第2実施形態に係るコイル部品の断面図である。
図11図11は、第3実施形態に係るコイル部品における積層体を構成する各積層部材の平面図である。
図12図12は、第3実施形態に係るコイル部品の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示のコイル部品を詳細に説明する。必要に応じて図面を参照して説明を行うものの、図示する内容は、本開示の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観や寸法比などは実物と異なり得る。なお、ここで説明されるコイル部品の構成は、あくまでも発明の理解のための例示にすぎず、発明を限定するものではない。
【0010】
コイル部品1は、図1に示すように、積層体S及び外部電極Eを備えている。積層体Sは、略直方体状を有しており、コイルを内蔵してよい。外部電極Eはそれぞれ、コイルに電気的に接続されており、積層方向に延在し、かつ、互いに対向する積層体Sの側面に設けられてよい。以下、本開示のコイル部品について、第1~3実施形態について説明する。
【0011】
[第1実施形態のコイル部品]
本開示のコイル部品1は、絶縁層Iおよびコイル導体層Mが積層方向に複数積層され、コイル導体層M同士を電気的に接続する第1ビア導体FVおよび第2ビア導体SVを有する積層体Sを備えている。
【0012】
まず、積層体Sを構成する複数の積層部材sb1~sb16について説明する。なお、積層部材の積層数は、一例として16層積層させたものを説明するが、これに限定されるものではない。
【0013】
最外面の積層部材sb1,sb16は、後述するコイル導体層Mを被覆するものであり、絶縁層Iを備えてよい。絶縁層Iは、好ましくは磁性体、さらに好ましくは焼結フェライトから構成されてよい。上記絶縁層Iは、主成分として、少なくともFe、Zn、CuおよびNiを含んでよい。一例として、Feは、Feに換算して40.0mol%以上49.5mol%以下、Znは、ZnOに換算して2mol%以上35mol%以下、Cuは、CuOに換算して6mol%以上13mol%以下、Niは、NiOに換算して10mol%以上45mol%以下としてよい。また、絶縁層Iは、さらにCo、Bi、SnまたはMn等の添加物または製造上不可避な不純物を含んでいてもよい。
【0014】
最外面の積層部材sb1,sb16よりも内側に配置される積層部材sb2~sb15は、上述した絶縁層Iと、コイル導体層Mおよびビア導体Vを備えてよい。
【0015】
コイル導体層Mを構成する導電性材料は、特に限定されないが、例えば、Au、Ag、Cu、PdまたはNi等が挙げられる。好ましくはAgまたはCu、より好ましくはAgとしてよい。導電性材料は、1種のみであっても、2種以上であってもよい。コイル導体層Mは、U字形状といった端部同士が接続されない形状(つまり、コイル導体層が閉じられていない形状)で構成され、コイル導体層Mは、絶縁層I上に形成されてよい。
【0016】
コイル導体層Mの厚みは、コイル部品に流す定格電流によって定められる。大電流を流す場合、コイル導体層Mの厚みは、20μm以上100μm以下であることが好ましい。コイル導体層Mの厚みを厚くすることにより、コイル部品の抵抗値がより小さくなる。ここで、コイル導体層Mの厚みが厚くなると、絶縁層I表面からのコイル導体層Mの突出量が大きくなり、積層部材sb1~sb16を積層させて積層体Sを製造する際に歪みが生じる可能性がある。この歪みを低減するために、コイル導体層Mの周囲に絶縁材料Imを配置し、コイル導体層Mの突出量を低減してもよい(図7(b)および図8(b)参照)。なお、コイル導体層Mの厚みが比較的薄く、積層体S製造時に歪みが少ない場合は、コイル導体層Mの周囲に絶縁材料Imを形成しなくてもよい。
【0017】
ビア導体Vは、製造上の観点から、コイル導体層Mと同じ材料を用いることが好ましいが、コイル導体層Mと異なる材料を用いてもよい。ビア導体Vは、コイル導体層M同士を電気的に接続する第1ビア導体FVおよび第2ビア導体SVを備えてよい。そして、第1ビア導体FVは、第2ビア導体SVよりも小さくてよい。言い換えると、第2ビア導体SVに用いられる導電性材料の使用量は、第1ビア導体FVに用いられる導電性材料の使用量よりも少なくてよい。つまり、本明細書でいう「第1ビア導体FVは、第2ビア導体SVよりも小さい」とは、ビア導体の体積に基づいた大小関係を意図している。したがって、本開示のコイル部品1は、第1ビア導体FVが第2ビア導体SVよりも小さいために、第2ビア導体SVのみでコイル導体層M同士を電気的に接続するコイル部品1と比較して、ビア導体に用いられる導電性材料の使用量を低減することができる。
【0018】
なお、積層部材sb1~sb16の任意の構成として、コイル導体層Mと絶縁層Iとの間に空隙部Aを備えていてよい。空隙部Aは、いわゆる応力緩和空間として機能する。つまり、積層体Sを焼成した後に室温まで温度が下がると、コイル導体層Mと絶縁層Iとの線膨張係数が異なるためコイル導体層Mと絶縁層Iとの間に応力がかかる。この応力を空隙部Aによって緩和することができる。空隙部Aの厚みは、1μm以上が好ましい。空隙部Aの厚みを1μm以上とすることにより、内部応力をより緩和することができ、クラックの発生を効果的に抑制することができる。
【0019】
次に、上記説明した積層部材sb1~sb16を積層させた積層体Sについて説明する。
【0020】
本開示のコイル部品1の積層体Sは、積層方向に隣接するコイル導体層M同士を、第1ビア導体FVを用いて電気的に並列接続してよい(図2および図3参照)。ここで、本明細書でいう「並列接続」とは、コイル導体層Mの両端のいずれもが積層方向に隣接するコイル導体層と電気的に接続されている構成を意図している。一例として、図2および図3に示すように、積層方向の上から2番目の積層部材sb2と上から3番目の積層部材sb3は、コイル導体層Mの一端が外部電極Eを通じて互いに電気的に接続されており、他端は第1ビア導体FVを通じて互いに電気的に接続されている。また、一例として、積層方向の上から4番目の積層部材sb4と5番目の積層部材sb5は、コイル導体層Mの両端が第1ビア導体FVを通じて互いに電気的に接続されている。なお、図示例では、隣接する2つの積層部材を並列接続する態様を示しているが、3つ以上の積層部材を並列接続させてもよい。
【0021】
本開示のコイル部品1の積層体Sは、積層方向に隣接するコイル導体層M同士を、第2ビア導体SVを用いて電気的に直列接続してよい(図2および図3参照)。ここで、本明細書でいう「直列接続」とは、コイル導体層Mの両端のいずれか一方が積層方向に隣接するコイル導体層と電気的に接続されている構成を意図している。一例として、図2および図3に示すように、積層方向の上から3番目の積層部材sb3と上から4番目の積層部材sb4は、コイル導体層Mの一端が第2ビア導体SVを通じて互いに電気的に接続されているものの、コイル導体層Mの他端同士は互いに電気的に接続されていない。なお、積層方向の上から5番目の積層部材sb5と6番目の積層部材sb6等も同様のことが云える。
【0022】
本開示のコイル部品1を大電流用として用いる場合、コイル導体層Mを並列接続させることによって、見かけ上でコイル導体層Mの厚みを厚くした場合と同程度の電流を流すことができる。これら並列接続されたもの同士を電気的に直列接続させることによって、所望のコイル特性を得ることができる。ここで、並列接続に用いられる第1ビア導体FVに流れる電流は、直列接続に用いられる第2ビア導体SVに流れる電流よりも少ない。そのため、第1ビア導体FVを第2ビア導体SVよりも小さくしても、コイル部品の電気特性への影響は低い。したがって、ビア導体に用いられる導電性材料の使用量を低減しても、良好な電気特性が得られるコイル部品とすることができる。
【0023】
好適なコイル部品1の態様として、第1ビア導体FVで接続されたコイル導体層M同士の形状は、同形状であり、第2ビア導体SVで接続されたコイル導体層M同士の形状は、異形状としてよい。一例として、図2および図3に示すように、第1ビア導体FVで接続される2番目の積層部材sb2のコイル導体層Mの形状および3番目の積層部材sb3のコイル導体層Mの形状は同形状であり、第2ビア導体SVで接続される3番目の積層部材sb3のコイル導体層Mの形状および4番目の積層部材sb4のコイル導体層Mの形状は異形状である。ここで、本明細書の「同形状」とは、コイル導体層Mを積層方向から透視した際に、コイル導体層M同士が実質的に重なる状態にあることを意図し、「異形状」とは、コイル導体層Mを積層方向から透視した際に、コイル導体層M同士が実質的に重ならない状態にあることを意図している。本開示のコイル部品は、同形状のコイル導体層M同士を第1ビア導体FVで電気的に接続し、異形状のコイル導体層M同士を第2ビア導体SVで電気的に接続するため、ビア導体に用いられる導電性材料の使用量を低減し、良好な電気特性が得られるコイル部品とすることができる。
【0024】
好適なコイル部品1の態様として、積層体Sの最外側に位置して隣接し合うコイル導体層Mそれぞれに、外部電極Eと電気的に接続される引出部Mdを設けてよい(図2参照)。本開示の引出部Mdの構成によれば、外部電極Eが隣接しあう複数のコイル導体層に設けられた引出部Mdによって電気的に接続されるため、引出部Mdの一方に不具合があっても他方の引出部Mdで電気的接続を担保することができる。
【0025】
さらに、上述の引出部Mdに関して、引出部Mdが設けられたコイル導体層M同士は、第1ビア導体FVによって電気的に互いに接続されてよい。このような構成によれば、引出部Mdが設けられたコイル導体層M同士は、外部電極Eとともに引出部Mdによって並列接続されることとなる。したがって、導電性材料の使用量が少ない第1ビア導体FVを用いてコイル導体層M同士が接続されるため、導電性材料の使用量を低減し、良好な電気特性が得られるコイル部品とすることができる。
【0026】
次に、第1ビア導体FVおよび第2ビア導体SVの好適な態様について説明する。
【0027】
好ましいビア導体として、第1ビア導体FVと第2ビア導体SVは、同一直線上に配置されてよい。このようにビア導体を配置することにより複雑な工程を経ることなく簡素な手法でコイル導体層M同士を電気的に接続することができる。
【0028】
好ましいビア導体の形状として、断面視において、第1ビア導体FVおよび第2ビア導体SVは、積層方向に幅広となるテーパー形状を有してよい(図4および図5参照)。ビア導体の形状をテーパー形状とすることにより、幅広側から容易に導電性材料を供給することができる。
【0029】
また、断面視において、第1ビア導体の最も幅狭となる幅寸法は、第2ビア導体の最も幅狭となる幅寸法の0.5倍以上0.75倍未満としてよい。この数値の根拠は、後述する実施例で説明する。
【0030】
[第1実施形態のコイル部品の製造方法]
次に、第1実施形態のコイル部品の製造方法について説明する。コイル部品の製造方法は、絶縁層作製工程、ビア導体作製工程、コイル導体層作製工程、積層体作製工程を備えている。
【0031】
-絶縁層作製工程(図6(a)参照)-
まず、原料としてFe、ZnO、CuOおよびNiOを上述した所定の組成になるように秤量する。当該原料を純水およびPSZ(部分安定化ジルコニア)ボールと共にボールミルに入れ、湿式で4時間以上8時間以下混合粉砕する。そして、水分を蒸発・乾燥させた後、700℃以上800℃以下の温度で2時間以上5時間以下仮焼することにより、仮焼物(仮焼粉)を作製する。
【0032】
作製した仮焼物をPSZメディアとともにボールミルに入れ、さらにポリビニルブチラール系の有機バインダ、エタノールまたはトルエン等の有機溶剤および可塑剤をいれて混合する。そして、ドクターブレード法等で膜厚が20μm以上30μm以下のシート状に成形加工し、これを矩形状に打ち抜いて、シート状の絶縁層Iを作製する。
【0033】
-ビア導体作製工程-
作製したシート状の絶縁層Iに対し、所定箇所にレーザーを照射してスルーホールを形成する。レーザー照射によってスルーホールを形成した場合、スルーホールの形状は、レーザー照射面が幅広となって先細りするテーパー形状となっていてよい。なお、スルーホールの形成はレーザー照射に限定されず、スルーホールを形成可能な他の加工技術を採用してもよい。スルーホールは、第2ビア導体SV形成用のスルーホールと、第2ビア導体SVよりも小さい第1ビア導体FV形成用のスルーホールを形成する。
【0034】
コイル部品の製造方法において必須の工程ではないが、ビア導体作製工程後、任意で、空隙部形成用樹脂ペーストPを作製し、絶縁層Iに印刷してよい(図6(b)参照)。空隙部形成用樹脂ペーストPは、一例として、焼成時に消失する樹脂(例えば、アクリル樹脂等)を溶剤(イソホロン等)に溶解して作製してよい。なお、空隙部Aが積層体Sの外面から露出することを防ぐため、空隙部形成用樹脂ペーストPは、外部電極Eと接続する引出部Mdの位置には形成しない。
【0035】
-コイル導体層作製工程(図6(c)参照)-
まず、導電性材料を準備する。導電性材料は、例えば、Au、Ag、Cu、Pdおよび/またはNi等が挙げられ、好ましくはAgまたはCu、より好ましくはAgである。所定量の導電性材料の粉末を秤量し、所定量の溶剤(オイゲノールなど)、樹脂(エチルセルロースなど)、および分散剤と、プラネタリーミキサー等で混錬した後、3本ロールミル等で分散することで、導電性ペーストを作製することができる。
【0036】
所定のコイル導体層Mの形状となるように、絶縁層Iに導電性ペーストを印刷する。図6(c)に示す製造方法では、空隙部形成用樹脂ペーストPを覆うようにコイル導体層Mを形成する。つまり、平面視で空隙部形成用樹脂ペーストPの面積よりもコイル導体層Mの面積が大きいことが好ましい。なお、導電性ペーストの形成手法は、印刷に限定されず、塗布形成等であってもよい。
【0037】
ここで、コイル部品の製造方法において必須の工程ではないが、コイル導体層Mの厚みが厚い場合は積層時に歪みが生じるため、歪みを改善するためにコイル導体層Mの周囲に絶縁材料Imを配置する工程を任意に行ってもよい(図6(d)参照)。この絶縁材料Imは、所定の組成のフェライト原料(仮焼物)を所定の粒径に粉砕した原料にケトン系溶剤、ポリビニルアセタール等の樹脂およびアルキド系等の可塑剤をプラネタリーミキサー等で混錬した後、3本ロールミル等で分散することで、作製することができる。そして作製された絶縁材料Imは、コイル導体層Mの周囲を覆うように印刷して形成されてよい。なお、コイル導体層Mの厚みが、積層時の歪みが少ない程度に薄い場合は、当該工程を省略してよい。
【0038】
-積層体作製工程(図6(e))-
以上の手順で作製した積層部材sb1~sb16を所定の順番(例えば、図2および図3参照)で積層し、熱圧着することにより積層体ブロックを作製する。積層体ブロックを個片化した後に、焼成炉で900℃以上920℃以下の温度で2時間以上4時間以下焼成を行う。ここで、空隙部形成用樹脂ペーストPを塗布した場合は、焼成によって空隙部形成用樹脂ペーストPが消失し、空隙部Aが形成される。その後、任意の工程として、焼成後の積層体を回転バレル機に入れて角部をR面取りする。
【0039】
以上のように作製された積層体Sに対して、外部電極Eを形成するための導電性ペーストを塗布し、800℃以上820℃以下の条件で焼き付けを行って下地電極を形成した後に、電解めっきによってNi膜およびSn膜を順次形成する。これにより、所望のコイル部品1を製造することができる。
【0040】
[第2実施形態のコイル部品]
次に、第2実施形態のコイル部品について図9および図10を参照しながら説明する。なお、上述の説明と重複する説明は、適宜省略する。
【0041】
第1実施形態のコイル部品は、隣接するコイル導体層Mを並列接続したが、第2実施形態のコイル部品は、コイル部品に流れる定格電流の観点から並列接続を行わない部分を備えていてもよい。言い換えると、第2実施形態のコイル部品1は、積層体Sにおいて、積層方向に連続して電気的に直列接続されている部分を含んでよい。
【0042】
図9に例示するとおり、例えば、隣接する積層部材sb3および積層部材sb4は直列接続されており、隣接する積層部材sb4および積層部材sb5も直列接続されている。なお、本実施形態においても、電気的に直列接続するビア導体は、第2ビア導体SVであり、電気的に並列接続するビア導体は、第1ビア導体FVであってよい。
【0043】
このような構成によれば、所定の定格電流が流れるようにコイル部品を適宜設計することができる。
【0044】
[第3実施形態のコイル部品]
次に、第3実施形態のコイル部品について図11および図12を参照しながら説明する。なお、上述の説明と重複する説明は、適宜省略する。
【0045】
第1実施形態のコイル部品は、積層体Sの最外側に位置して隣接し合うコイル導体層Mそれぞれに、外部電極Eと電気的に接続される引出部Mdが設けられていたが、第3実施形態のコイル部品は、コイル導体層Mの積層方向の外側に、外部電極Eと電気的に接続される少なくとも2つの引出電極層Dが互いに隣接し合うように備えられてよい。
【0046】
引出電極層Dは、コイルを構成するような屈曲形状とされず、非屈曲形状としてよい。言い換えると、引出電極層Dは、隣接するコイル導体層Mに対して外部電極Eとの電気的接続に用いられるために作用する配線層としてよい。
【0047】
引出電極層Dの好ましい態様として、2つの引出電極層Dが互いに隣接し合うように備えてよい。このような構成によれば、引出電極層Dの一方に不具合があっても他方の引出電極層Dで電気的接続を担保することができる。
【0048】
第3実施形態のコイル部品によれば、コイル導体層Mとは異なる引出電極層Dによって外部電極Eと電気的接続されているため、引出電極層Dのレイアウト(位置・大きさ等)の自由度を向上できる。
【0049】
好適な引出電極層Dの態様について、引出電極層D同士は、第1ビア導体FVによって電気的に互いに接続されてよい。つまり、引出電極層D同士は、外部電極Eとともに第1ビア導体FVによって並列接続されることとなる。したがって、導電性材料の使用量が少ない第1ビア導体FVを用いて接続されるため、導電性材料の使用量を低減し、良好な電気特性が得られるコイル部品とすることができる。
【0050】
また、引出電極層Dとコイル導体層Mとは、第2ビア導体SVで電気的に接続されてよい。つまり、引出電極層Dとコイル導体層Mとは、直列接続されていてよい。このような構成によれば、コイル部品としての所望のコイル特性を得ることができる。
【実施例
【0051】
本開示に係る「コイル部品」に関して実証試験を行った。具体的には、厚みが12μm、幅が110μmのコイル導体を並列に接続したコイル導体層を2つ直列接続した1.5ターンのコイル部品を作製した(つまり、図2および図3に示したコイル部品について、積層部材sb1~sb3と積層部材sb14~sb16とを直列接続したコイル部品)。ここで、第1ビア導体FVおよび第2ビア導体SVの大きさは、最も幅狭となる幅寸法を[表1]のとおりとした。また、当該幅寸法に基づいた第1ビア導体FVと第2ビア導体SVの比率を[表1]のとおりとした。そして、作製したコイル部品それぞれの直流抵抗を測定した。直流抵抗の測定結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
なお、ビア導体の幅寸法の評価方法は、第1ビア導体および第2ビア導体が露出した断面を集束イオンビーム加工装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)のSMI3050R)を用いてFIB加工し、当該断面をSEM観察して第1ビア導体および第2ビア導体の最も幅狭となる幅寸法を算出した。
【0054】
また、直流抵抗は、横川電機株式会社製ディジタル抵抗計755611を用いて、測定電流値10mAで抵抗値を測定した。
【0055】
また、ビア導体のクラックの有無は、各試料をそれぞれ100個製造したときに、第1ビア導体または第2ビア導体にクラックが発生したか否かを上述のSEM観察により確認した。
【0056】
上記[表1]によれば、コイル部品の直流抵抗について、試料No.2および試料No.3について、抵抗値として5%未満の上昇に留まっており、良好なコイル特性が得られた。また、試料No.1および試料No.2は、第1ビア導体FVおよび第2ビア導体SVが大きいためにコイル導体層Mと絶縁層Iとの間の応力が増大し、クラック等が発生された。したがって、上記実証実験に基づいて、第1ビア導体の最も幅狭となる幅寸法は、第2ビア導体の最も幅狭となる幅寸法の0.5倍以上0.75倍未満であることが好ましい結果が得られた。
【0057】
なお、今回開示した実施態様は、すべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本開示の技術的範囲は、上記した実施態様のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、本開示の技術的範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本開示の積層コイル部品は、インダクタなどとして幅広く様々な用途に使用され得る。
【符号の説明】
【0059】
コイル部品 1
外部電極 E
積層体 S
積層部材 sb1~sb16
絶縁層 I
絶縁材料 Im
コイル導体層 M
引出部 Md
引出電極層 D
ビア導体 V
第1ビア導体 FV
第2ビア導体 SV
空隙 A
空隙部形成用樹脂ペースト P
図1
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図12