(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】電力取引システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/06 20240101AFI20240925BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
G06Q50/06
H02J3/00 180
(21)【出願番号】P 2021163488
(22)【出願日】2021-10-04
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 和峰
(72)【発明者】
【氏名】小幡 一輝
(72)【発明者】
【氏名】菊池 智志
(72)【発明者】
【氏名】工藤 由貴
(72)【発明者】
【氏名】木暮 宏光
(72)【発明者】
【氏名】間庭 佑太
【審査官】▲高▼瀬 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-111067(JP,A)
【文献】特開2019-075889(JP,A)
【文献】特開2018-068017(JP,A)
【文献】特開2017-127085(JP,A)
【文献】特開2019-216534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 -99/00
H02J 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統に連系された配電網における電力の取引を行う電力取引システムであって、
前記配電網には、複数の電力リソースが連系されており、前記複数の電力リソースの各々は、前記配電網を通じて他の電力リソースと電力を授受すること、および、所有する充放電設備を通じて他の電力リソースと直接に電力を授受すること、の少なくとも一方を実行可能に構成され、
電力のP2P(Peer to Peer)取引を行う電力取引市場と、
前記複数の電力リソースにおける電力の取引を管理する管理装置とを備え、
前記電力取引市場は、
前記電力系統の平常時に、前記複数の電力リソース間の電力の取引を行う第1の個別市場と、
前記電力系統からの電力供給が停止される非常時に、前記複数の電力リソース間の電力の取引を行う第2の個別市場とを含み、
前記管理装置は、前記第1および第2の個別市場の各々において、電力の取引における約定を履行しない参加者に対してペナルティを科すように構成され、
前記管理装置は、前記第2の個別市場における前記ペナルティを、前記第1の個別市場における前記ペナルティよりも高い値に設定する、電力取引システム。
【請求項2】
前記電力取引市場は、前記電力系統における停電の発生が検出されたときには、前記第1の個別市場から前記第2の個別市場に移行するとともに、前記参加者に対して、前記第2の個別市場への移行に伴う前記ペナルティの変更を通知する、請求項1に記載の電力取引システム。
【請求項3】
前記電力取引市場は、前記電力系統における停電の発生が検出されたときには、前記参加者が連系される前記配電網に対して開設された前記第2の個別市場以外の市場への当該参加者の入札を受け付けない、または、当該入札を約定させないように構成される、請求項2に記載の電力取引システム。
【請求項4】
前記管理装置は、前記第1および第2の個別市場の各々において、前記参加者の取引実績に基づいて達成度を算出し、算出された前記達成度が低いほど前記参加者に科される前記ペナルティを高くするように構成され、
前記管理装置は、同一の前記達成度に対する、前記第2の個別市場における前記ペナルティを、前記第1の個別市場における前記ペナルティよりも高い値に設定する、請求項1から3のいずれか1項に記載の電力取引システム。
【請求項5】
前記管理装置は、前記約定に従って前記参加者が取引すべき電力量と、前記参加者が取引した電力量とに基づいて、前記参加者の前記達成度を算出する、請求項4に記載の電力取引システム。
【請求項6】
前記管理装置は、前記参加者が取引した電力量の売買価格に基づいて、前記参加者の前記達成度を算出する、請求項4に記載の電力取引システム。
【請求項7】
前記管理装置は、前記参加者が取引した電力量における再生可能電力の比率に基づいて、前記参加者の前記達成度を算出する、請求項4に記載の電力取引システム。
【請求項8】
前記管理装置は、前記第1および第2の個別市場の各々において、前記配電網を通じて授受される電力の取引における前記ペナルティを、前記充放電設備を通じて授受される電力の取引における前記ペナルティよりも高い値に設定する、請求項1から7のいずれか1項に記載の電力取引システム。
【請求項9】
前記管理装置は、前記第1および第2の個別市場の各々において、買い手における電力の逼迫度が高いほど、前記約定を履行しない売り手に科される前記ペナルティを高くするように構成され、
前記管理装置は、同一の前記逼迫度に対する、前記第2の個別市場における前記ペナルティを、前記第1の個別市場における前記ペナルティよりも高い値に設定する、請求項1から3のいずれか1項に記載の電力取引システム。
【請求項10】
前記管理装置は、前記電力系統における停電の発生が検出されたときには、通信網を経由して前記電力取引市場に対して、前記第1の個別市場から前記第2の個別市場への移行の要求を出力するように構成され、
前記電力取引市場は、前記管理装置からの前記要求に応答して、前記第1の個別市場を無効化するとともに、前記第2の個別市場を有効化するように構成され、
前記管理装置は、前記電力取引市場との通信を確立できない場合には、前記第2の個別市場と同一の機能を有する第3の個別市場を前記電力取引市場から独立して開設し、前記第3の個別市場における電力の取引を管理する、請求項2に記載の電力取引システム。
【請求項11】
前記管理装置は、前記配電網に連系される電力調整リソースを有しており、
前記電力系統の非常時において前記配電網への電力の供給量が不足した場合には、前記管理装置は、前記配電網に電力を供給するように前記電力調整リソースを制御する、請求項1から10のいずれか1項に記載の電力取引システム。
【請求項12】
前記管理装置は、前記第1および第2の個別市場の各々において、前記参加者の電力の取引における信用度を表す指標を算出し、算出された前記指標を用いて参加者情報を生成するように構成され、
前記管理装置は、前記参加者に科された前記ペナルティが増えるに従って前記指標を低下させる、請求項1から11のいずれか1項に記載の電力取引システム。
【請求項13】
電力系統に連系された配電網における電力の取引を行う電力取引システムであって、
前記配電網には、複数の電力リソースが連系されており、前記複数の電力リソースの各々は、前記配電網を通じて他の電力リソースと電力を授受すること、および、所有する充放電設備を通じて他の電力リソースと直列に電力を授受することの少なくとも一方を実行可能に構成され、
電力のP2P取引を行う電力取引市場と、
前記複数の電力リソースにおける電力の取引を管理する管理装置とを備え、
前記管理装置は、前記電力取引市場において、電力の取引における約定を履行しない参加者に対してペナルティを科すとともに、参加者ごとに、当該参加者に科された前記ペナルティに基づいて、当該参加者の電力の取引における信用度を表す指標を算出するように構成され、
前記管理装置は、前記参加者に科された前記ペナルティが増えるに従って、前記指標を低下させる、電力取引システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力取引システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2020-9334号公報(特許文献1)には、各構成員が太陽光発電電力を含む電力を売買することが可能な電力取引プラットフォームが開示されている。特許文献1では、各構成員が有するコンピュータはコンピュータネットワークを介して対等に接続されている。電力ネットワークを経由して販売または購入された販売電力量または購入電力量は、ブロックチェーン技術に基づいて検証かつ承認された後、全ての構成員に供給される台帳に1つのブロックにまとめられ、ブロックチェーン技術に基づいて管理される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した電力プラットフォームにおいて、各構成員は、太陽光発電システムおよび蓄電池を備えており、蓄電池に蓄えられた余剰電力についてコンピュータネットワークを経由して他の構成員との間で売買取引を行うことができる。
【0005】
しかしながら、構成員間で約定された電力の取引が履行されなかった場合には、構成員は事前に計画した需要に応じた電力を調達するすることが困難となることが懸念される。また、電力を送配電する電力ネットワークにおける電力の需給バランスに影響を及ぼす可能性が懸念される。したがって、電力プラットフォームにおいて電力の取引を行う参加者に対して、約定の確実な履行、ひいては履行確実性のある電力入札計画の作成を促すことができる仕組みが必要となる。
【0006】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、P2P電力取引システムにおいて、電力の取引における約定を履行しない参加者に対して適正なペナルティを科すことにより、確実な約定の履行を促進することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のある局面に係る電力取引システムは、電力系統に連系された配電網における電力の取引を行う。配電網には、複数の電力リソースが連系されている。複数の電力リソースの各々は、配電網を通じて他の電力リソースと電力を授受すること、および、所有する充放電設備を通じて他の電力リソースと直接に電力を授受すること、の少なくとも一方を実行可能に構成される。電力取引システムは、電力のP2P(Peer to Peer)取引を行う電力取引市場と、複数の電力リソースにおける電力の取引を管理する管理装置とを備える。電力取引市場は、第1の個別市場と、第2の個別市場とを含む。第1の個別市場は、電力系統の平常時に、複数の電力リソース間の電力の取引を行う。第2の個別市場は、電力系統からの電力供給が停止される非常時に、複数の電力リソース間の電力の取引を行う。管理装置は、第1および第2の個別市場の各々において、電力の取引における約定を履行しない参加者に対してペナルティを科すように構成される。管理装置は、第2の個別市場におけるペナルティを、第1の個別市場におけるペナルティよりも高い値に設定する。
【0008】
上記構成によれば、電力系統の平常時および非常時の各々において、電力の取引における約定を履行しない参加者に対して、配電網における電力の需給バランスを保つ観点から設定された適正なペナルティを科すことができる。これにより、参加者に対して約定の確実な履行を促すことができるため、配電網の電力の需給バランスに与える影響を低減することが可能となる。
【0009】
好ましくは、電力取引市場は、電力系統における停電の発生が検出されたときには、第1の個別市場から第2の個別市場に移行するとともに、参加者に対して、第2の個別市場への移行に伴うペナルティの変更を通知する。
【0010】
これによると、電力系統の非常時において第2の個別市場にて電力の取引を行うことを計画している参加者に対して、約定の確実な履行および、履行確実性のある入札計画の作成を促すことができる。
【0011】
好ましくは、管理装置は、第1および第2の個別市場の各々において、参加者の取引実績に基づいて達成度を算出し、算出された達成度が低いほど参加者に科されるペナルティを高くするように構成される。管理装置は、同一の達成度に対する、第2の個別市場におけるペナルティを、第1の個別市場におけるペナルティよりも高い値に設定する。
【0012】
これによると、参加者の取引実績に基づいた達成度に応じてペナルティが設定されるため、適正なペナルティを参加者に科すことができる。さらに、電力系統の非常時には、電力系統の平常時に比べてより高いペナルティが科されるため、参加者に対して、約定の確実な履行を促すことができる。
【0013】
好ましくは、管理装置は、約定に従って参加者が取引すべき電力量と、参加者が取引した電力量とに基づいて、参加者の達成度を算出する。
【0014】
これによると、参加者が取引した電力量の実績値に基づいて、参加者の達成度を正確に評価することができる。したがって、適正なペナルティを参加者に科すことができる。
【0015】
好ましくは、管理装置は、参加者が取引した電力量の売買価格に基づいて、参加者の達成度を算出する。
【0016】
これによると、取引された電力量の売買価格には、電力リソースにおける需要の緊急性が反映されるために、電力量の売買価格が高くなるほど、電力リソースにおける電力需要の増大に対応できていると判断され、参加者の達成度は高い値とされる。したがって、参加者の達成度を正確に評価することが可能となる。
【0017】
好ましくは、管理装置は、参加者が取引した電力量における再生可能電力の比率に基づいて、売り手の記達成度を算出する。
【0018】
これによると、参加者が取引した電力量における再生可能電力の比率が高くなるほど、安定的なエネルギーの供給および環境負荷低減への貢献度が高いと判断され、参加者の達成度が高い値とされる。したがって、参加者の達成度を正確に評価することが可能となる。
【0019】
好ましくは、管理装置は、第1および第2の個別市場の各々において、配電網を通じて授受される電力の取引におけるペナルティを、充放電設備を通じて授受される電力の取引におけるペナルティよりも高い値に設定する。
【0020】
配電網を通じて電力を取引する場合には、電力リソース内の充放電設備を通じて直接に電力を取引する場合と比較して、約定が履行されない場合に配電網の電力の需給バランスに及ぼす影響が大きくなることが予想されるため、ペナルティを高い値に設定することで、参加者に対して約定の確実な履行が促すことができる。
【0021】
好ましくは、管理装置は、第1および第2の個別市場の各々において、買い手における電力の逼迫度が高いほど、約定を履行しない売り手に科されるペナルティを高くするように構成される。管理装置は、同一の逼迫度に対する、第2の個別市場におけるペナルティを、第1の個別市場におけるペナルティよりも高い値に設定する。
【0022】
これによると、電力リソースにおける電力需要の緊急性が高い場合には、ペナルティを高い値に設定することによって、電力取引の相手側に対して約定の確実な履行を求めることができる。さらに、電力系統の非常時には、電力系統からの電力供給が停止されるため、電力リソースは、必要な電力量を専ら他の電力リソースから調達しなければならないため、電力逼迫度が高くなるほどペナルティを高い値に設定することで、電力の調達を確実に達成することを可能とする。
【0023】
好ましくは、管理装置は、電力系統における停電の発生が検出されたときには、通信網を経由して電力取引市場に対して、第1の個別市場から第2の個別市場への移行の要求を出力するように構成される。電力取引市場は、管理装置からの要求に応答して、第1の個別市場を無効化するとともに、第2の個別市場を有効化するように構成される。管理装置は、電力取引市場との通信を確立できない場合には、第2の個別市場と同一の機能を有する第3の個別市場を電力取引市場から独立して開設し、第3の個別市場における電力の取引を管理する。
【0024】
これによると、電力系統の非常時において、電力取引市場および管理装置間の通信異常によって、電力リソース間の電力の取引が不能となることを回避することができる。
【0025】
好ましくは、管理装置は、配電網に連系される電力調整リソースを有している。電力系統の非常時において配電網への電力の供給量が不足した場合には、管理装置は、配電網に電力を供給するように電力調整リソースを制御する。
【0026】
これによると、電力系統の非常時に、配電網の電力の需給バランスが崩れることを抑制することができる。
【0027】
好ましくは、管理装置は、第1および第2の個別市場の各々において、参加者の電力の取引における信用度を表す指標を算出し、算出された指標を用いて参加者情報を生成するように構成される。管理装置は、参加者に科されたペナルティが増えるに従って指標を低下させる。
【0028】
これによると、電力リソースは、他の電力リソースの入札条件に加えて、当該電力リソースの信用度を参照して、約定を行うことが可能となる。したがって、信用度の高い電力リソース間での電力の取引を促進させることができ、結果的に約定の不履行を減らすことが可能となる。
【0029】
本開示の他の局面に係る電力取引システムは、電力系統に連系された配電網における電力の取引を行う。配電網には、複数の電力リソースが連系されており、複数の電力リソースの各々は、配電網を通じて他の電力リソースと電力を授受すること、および、所有する充放電設備を通じて他の電力リソースと直列に電力を授受することの少なくとも一方を実行可能に構成される。電力取引システムは、電力のP2P(Peer to Peer)取引を行う電力取引市場と、複数の設備における電力の取引を管理する管理装置とを備える。管理装置は、電力取引市場において、電力の取引における約定を履行しない参加者に対してペナルティを科すとともに、参加者ごとに、当該参加者に科されたペナルティに基づいて、当該参加者の電力の取引における信用度を表す指標を算出するように構成される。管理装置は、参加者に科されたペナルティが増えるに従って、指標を低下させる。
【0030】
上記構成によれば、約定を履行しない参加者に科されるペナルティに基づいて、参加者の電力取引における信用度が評価されるため、電力リソースは、他の電力リソースの入札条件に加えて、当該電力リソースの信用度を参照して、約定を行うことが可能となる。したがって、信用度の高い電力リソース間での電力の取引を促進させることができ、結果的に約定の不履行を減らすことが可能となる。
【発明の効果】
【0031】
本開示によれば、P2P電力取引システムにおいて、電力の取引における約定を履行しない参加者に対して適正なペナルティを科すことにより、確実な約定の履行を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】電力送配電システムの構成例を概略的に示す図である。
【
図2】本実施の形態に係る電力取引システムの構成を概略的に示す図である。
【
図3】本実施の形態に係る電力取引システムの構成を概略的に示す図である。
【
図4】本実施の形態に係る電力取引システムの全体構成を概略的に示す図である。
【
図5】平常用市場から非常用市場へ移行する処理の手順を示すフローチャートである。
【
図6】平常用市場から非常用市場へ移行する処理の手順を示すフローチャートである。
【
図7】達成度の算出方法の一例を説明するための図である。
【
図8】達成度とペナルティとの関係を模式的に示す図である。
【
図9】買い手の電力逼迫度とペナルティとの関係を模式的に示す図である。
【
図10】電力リソースの信用度スコアとペナルティとの関係を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0034】
<電力送配電システムの構成>
図1は、実施の形態に係る電力取引システムが適用される電力送配電システムの構成例を概略的に示す図である。
【0035】
図1を参照して、マイクログリッドMGは、電力系統1に連系された配電網2と、配電網2に連系された複数の電力リソース4とを備える。マイクログリッドMGは、複数の電力リソース4が1つの集合体として電力系統に連系される。
図1には、2つのマイクログリッドMG1,MG2が開閉器3を介して電力系統1に連系している構成例が示されている。以下の説明において、マイクログリッドMG1,MG2を総称する場合には「マイクログリッドMG」と表記する。
【0036】
電力リソース4には、分散型電源および需要家が含まれる。分散型電源は、小規模な発電設備であって、ガスエンジンおよびガスタービンなどの化石燃料を利用した発電設備、太陽光発電、風力発電およびバイオマス発電などの再生可能エネルギーを利用した発電設備、燃料電池などの水素を利用した発電設備、ならびに、蓄電池などの電力貯蔵装置が含まれる。蓄電池には、移動体6に搭載された蓄電池を含めることができる。なお、移動体6は、外部からの充電および外部への放電が可能な蓄電池を搭載している。移動体は、例えば、電気自動車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、または、無人で搬送物を搬送可能な自動運転車両である。
【0037】
電力リソース4にはさらに、プロシューマが含まれる。プロシューマとは、発電設備と、当該発電設備が発電した電力を蓄える電力貯蔵装置とを所有する需要家であって、発電設備が発電した電力を電力貯蔵装置に蓄え、余剰電力を他の電力リソースに対して供給することが可能に構成されている。
【0038】
図1では、配電網2に充放電設備5が接続されており、当該充放電設備5に移動体6を接続することによって、移動体6の蓄電池を充放電することができる。さらに、充放電設備5は電力リソース4の施設にも設置され得るため、移動体6と電力リソース4との電力の授受は、配電網2を介して実行することも、当該電力リソース4に設置された充放電設備5を介して直接に実行することも可能となる。したがって、移動体6を電力リソースとして利用することが可能となる。
【0039】
マイクログリッドMGには、マイクログリッドMG内の電力の需給バランスを調整するための管理装置7が存在している。管理装置7は、電力の需要と供給とをバランスさせるように、各分散型電源の出力を制御する。電力の需給をバランスさせることによって、配電網2を伝送する電力の電圧および周波数の変動を抑制することができる。
図1の例では、マイクログリッドMG1の管理装置7は、配電網2への電力供給量を制御することが可能な分散型電源として、蓄電池8と、ガスエンジンなどの発電機9とを所有している。蓄電池8および発電機9は「電力調整リソース」の一実施例に対応する。
【0040】
マイクログリッドMGは、電力系統1の平常時には、電力系統1または他のマイクログリッドMGと連系することができる。さらに、マイクログリッドMGは、電力系統1からの独立した運用も可能である。例えば、災害等によって電力系統1からの電力供給が停止される非常時には、開閉器3が開放されてマイクログリッドMGが電力系統1から解列される。電力系統1が復旧するまでの間、マイクログリッドMG内では、配電網2を通じて電力リソース間で電力を授受することにより、負荷への給電を継続させることができる。あるいは、上述したように、移動体6と他の電力リソースとの間で充放電設備5を介して直接に電力を授受することによっても、負荷への給電を継続させることもできる。
【0041】
マイクログリッドMGにおいては、複数の電力リソース4間で直接に電力の取引を行うP2P(Peer to Peer)電力取引の導入が検討されている。
図2には、複数の電力リソース4間におけるP2P電力取引を実施するためのシステムが示される。
【0042】
図2に示すように、マイクログリッドMGにおけるP2P電力取引システムには、複数の入札エージェント15が存在する。複数の入札エージェント15は、マイクログリッドMG1が有する電力リソース4の入札エージェントと、マイクログリッドMG2が有する電力リソース4の入札エージェントとを含んでいる。
【0043】
複数の入札エージェント15には、分散型電源の入札および約定を管理する「発電エージェント」、需要家の入札および約定を管理する「需要家エージェント」、プロシューマの入札および約定を管理する「プロシューマエージェント」、ならびに、移動体6の入札および約定を管理する「移動体エージェント」が含まれる。各入札エージェント15は、通信ネットワークを通じて、P2P電力取引市場10との間で情報の遣り取りが可能となっている。各電力リソース4は、担当される入札エージェントを介して入札を行う。
【0044】
マイクログリッドMGにおいて電力のP2P取引が行われる場合、市場の形態として、「一般市場」と、「個別市場」とが考えられている。「一般市場」とは、電力の売り手から電力系統1を通じて買い手へ供給される電力の約定を行う市場である。
図1に示した電力送配電システムにおいては、マイクログリッドMG1における電力リソース4が売り手となり、マイクログリッドMG2における電力リソース4が買い手となって、電力系統1を通じて電力を取引する場合、もしくは、マイクログリッドMG2における電力リソース4が売り手となり、マイクログリッドMG1における電力リソース4が買い手となって、電力系統1を通じて電力を取引する場合などが想定される。
【0045】
「個別市場」とは、個々のマイクログリッドMGにおいて、電力リソース4間で授受される電力の取引を約定する市場(以下、「MG市場」とも称する)である。
図2では、P2P電力取引市場10には、マイクログリッドMG1において授受される電力の取引を約定する個別市場である「MG1市場12」、および、マイクログリッドMG2において授受される電力の取引を約定する個別市場である「MG2市場13」が開設されている。
【0046】
MG市場は、MG管理エージェントによって管理される。MG管理エージェントは、例えば、マイクログリッドMGの管理装置7が管理するサーバによって構成することができる。MG管理エージェントは「管理装置」の一実施例に対応する。
【0047】
MG1市場12は、MG1管理エージェント16によって管理される。MG1管理エージェント16は、MG1市場12を識別するための識別情報(市場ID)と、MG1市場12にログインするためのパスワードとを発行してMG1市場12に付与している。マイクログリッドMG1に連系される電力リソース4の入札エージェント15には、MG1市場12の市場IDおよびパスワードが通知される。これにより、マイクログリッドMG1に連系される電力リソース4のみが入札エージェント15を通じてMG1市場12に入札することが可能となる。
【0048】
MG2市場13は、MG2管理エージェント18によって管理される。MG2管理エージェント18は、MG2市場13を識別するための市場IDと、MG2市場13にログインするためのパスワードとを発行してMG2市場13に付与している。マイクログリッドMG2に連系される電力リソース4の入札エージェント15には、MG2市場13の市場IDおよびパスワードが通知される。これにより、マイクログリッドMG2に連系される電力リソース4のみが入札エージェント15を通じてMG2市場13に入札することが可能となる。
【0049】
図2に示すP2P電力取引システムにおいては、電力系統1の平常時、マイクログリッドMG1の各電力リソース4は、入札エージェント15を通じて、一般市場11にて電力の取引を行うことも、MG1市場12にて電力の取引を行うことも可能である。
【0050】
具体的には、一般市場11においては、それぞれの入札エージェント15を通じて、不特定多数の電力リソース4から入札を受け、売却側と買取側との入札条件が合致したものに対して約定がなされる。詳細には、単位時間帯毎に、複数の買い手と売り手とが価格および電力量の組を入札する。「単位時間帯」とは、電力の取引が行われる時間を、P2P電力取引市場において設定された所定の時間長さで区切って得られる複数の時間帯のうちの1つの時間帯を示している。現在、日本においては、24時間を48区分に区切っているため、1つの単位時間帯の長さは30分間である。電力の取引は、単位時間帯内で伝送される電力量(電力×単位時間帯の長さ)毎に行われる。
【0051】
個別市場においては、1つのマイクログリッドMGに連系される複数の電力リソース4に対して1つのMG市場が形成される。MG1市場12においては、マイクログリッドMG1内の1つの電力リソース4が単位時間帯毎に売りまたは買いの入札を行い、マイクログリッドMG1内の他の電力リソース4から単位時間帯毎に売りまたは買いの入札を行い、条件が合致した入札が約定されることとなる。なお、マイクログリッドMG1における電力リソース4間の電力の取引は、配電網2を通じて電力を授受すること、および、電力リソース4内の充放電設備を通じて直接に電力を授受することの少なくとも一方によって実現される。
【0052】
これに対して、電力系統1からの電力供給が停止される非常時においては、一般市場11において電力が取引不能となるため、MG1市場12のみにおいて電力が取引されることとなる。マイクログリッドMG1においては、電力系統1から解列されるため、需要家は、分散型電源または移動体などの他の電力リソース4から電力を調達することが必要となる。したがって、需要家は、MG1市場12に対して買いの入札を行う。MG1市場12は分散型電源または移動体から買いの入札を受け付け、条件が合致した入札に対して約定がなされることとなる。
【0053】
電力系統1の非常時において、マイクログリッドMG内の電力の需給をバランスさせるためには、約定がなされた電力の取引が確実に履行されることが求められる。売り手が約定した相手側の需要家に対して電力を調達できなければ、需要家の需要を満たすことができず、電力の需給バランスが崩れてしまう可能性があるためである。電力の需給バランスが崩れることによって、系統周波数が変動し、発電設備が停止に至るおそれがある。
【0054】
このように電力系統1の非常時においては、電力の需給バランスを保つ観点から、電力系統1の平常時にも増して、電力取引における約定の確実な履行が求められる。本実施の形態は、MG市場で電力の取引を行う参加者に対して、約定の確実な履行、ひいては履行確実性のある入札計画の作成を促す仕組みを提供するものである。「参加者」とは、MG市場において電力の取引を行う資格を有する者であり、マイクログリッドMGに連系される複数の電力リソース4がこれに該当する。
【0055】
具体的には、
図2に示すように、MG市場12,13の各々には、「平常用市場」と、「非常用市場」とが設けられる。MG1市場12において、平常用市場12Aとは、電力系統1の平常時に、マイクログリッドMG1における電力の取引を約定する市場である。非常用市場12Bとは、電力系統1の非常時に、マイクログリッドMG1における電力の取引を約定する市場である。非常用市場12Bには、平常用市場12Aとは異なる市場IDおよびパスワードを付与することができる。平常用市場12Aは「第1の個別市場」の一実施例に対応し、非常用市場12Bは「第2の個別市場」の一実施例に対応する。
【0056】
P2P電力取引市場10は、電力系統1の平常時には平常用市場12Aを有効化し、かつ、非常用市場12Bを無効化する。一方、電力系統1の非常時には、P2P電力取引市場10は、平常用市場12Aを無効化し、かつ、非常用市場12Bを有効化する。平常用市場12Aから非常用市場12Bへの移行は、後述するように、MG管理エージェント16からの要求に応じて行われる。
【0057】
図2は、電力系統1の平常時におけるP2P電力取引市場10を示している。電力系統1の平常時には、一般市場11と、MG市場12,13における平常用市場12A,13Aとが有効とされている。これに対し、
図3は、電力系統1の非常時におけるP2P電力取引市場10を示している。電力系統1の非常時には、MG市場12,13における非常用市場12B,13Bが有効とされている。
【0058】
P2P電力取引市場10は、電力系統1の非常時には、マイクログリッドMG1に連系される複数の電力リソース4について、非常用市場12Bへの入札のみを受け付けて約定させることとし、非常用市場12B以外の市場への入札を受け付けない、および/または、非常用市場12B以外の市場への入札を約定させないように構成される。同様に、P2P電力取引市場10は、電力系統1の非常時には、マイクログリッドMG2に連系される複数の電力リソース4についても、非常用市場13Bへの入札のみを受け付けて約定させることとし、非常用市場13B以外の市場への入札を受け付けない、および/または、非常用市場13B以外の市場への入札を約定させないように構成される。なお、P2P電力取引市場10は、各電力リソース4がどのマイクログリッドMGに連系されているかの情報に基づいて、各電力リソース4が入札および約定を行うことができる非常用市場を制限することができる。
【0059】
MG1市場12において、平常用市場12Aと非常用市場12Bとは、電力のP2P取引におけるルールが異なっている。2つの市場の主な相違点に、約定を履行しない参加者に科されるペナルティがある。非常用市場12Bでは、平常用市場12Aと比較して、約定を履行しない参加者に科されるペナルティがより高い値に設定されている。電力系統1の非常時には、より高いペナルティを科すことによって、参加者に対して確実な約定の履行を求める。さらには、参加者に対して、履行確実性のある入札を行うように入札計画の作成を求める。
【0060】
<電力取引システムの構成>
図4は、本実施の形態に係る電力取引システムの全体構成を概略的に示す図である。
図4に示すように、電力取引システムは、P2P電力取引市場10と、複数の入札エージェント15と、MG1管理エージェント16とを備える。P2P電力取引市場10、複数の入札エージェント15およびMG1管理エージェント16は、通信ネットワークNWを経由して通信可能に接続されている。
図4に示す複数の入札エージェント15は、マイクログリッドMG1における複数の電力リソース4の入札および約定をそれぞれ管理する。
図4では、マイクログリッドMG2における電力リソース4、入札エージェント15およびMG2管理エージェント18の図示は省略されている。
【0061】
P2P電力取引市場10は、電力のP2P取引を実行する情報処理装置である。P2P電力取引市場10は、プロセッサ20と、メモリ22と、通信インターフェイス(I/F)24とを有する。プロセッサ20は、例えばCPU(Central Processing Unit)であって、プログラムに記述された所定の演算処理を実行するように構成される。この演算処理は、入札エージェント15による入札の受付および約定を含む。メモリ22は、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を含む。ROMは、プロセッサ20により実行されるプログラムを格納する。RAMは、プロセッサにおけるプログラムの実行により生成されるデータと、通信I/F24を介して入力されたデータとを一時的に格納する。RAMは、作業領域として利用される一時的なデータメモリとしても機能する。
【0062】
通信I/F24は、通信ネットワークNWを経由して、P2P電力取引市場10の外部機器(入札エージェント15およびMG管理エージェント16,18など)との間で双方向に通信が可能に構成されている。P2P電力取引市場10は、P2P電力取引市場10の運営者に設けられたコンピュータ装置を用いて構成されてもよく、クラウド・コンピューティングを用いて構成されてもよい。
【0063】
入札エージェント15は、対応する電力リソース4の入札および約定を管理する情報処理装置である。入札エージェント15は、プロセッサ30、メモリ32および通信I/F34を備える。プロセッサ30は、例えばCPUであって、プログラムに記述された所定の演算処理を実行するように構成される。この演算処理は、P2P電力取引市場における電力取引の入札を含む。メモリ32は、ROMおよびRAMを含む。ROMは、プロセッサ30により実行されるプログラムを格納する。RAMは、プロセッサ30におけるプログラムの実行により生成されるデータと、通信I/F34を介して入力されたデータとを一時的に格納する。RAMは、作業領域として利用される一時的なデータメモリとしても機能する。
【0064】
通信I/F34は、通信ネットワークNWを経由して、入札エージェント15の外部機器(P2P電力取引市場10およびMG管理エージェント16など)との間で双方向に通信が可能に構成されている。入札エージェント15は、電力リソースに設けられたコンピュータ装置を用いて構成されてもよく、クラウド・コンピューティングを用いて構成されてもよい。
【0065】
MG1管理エージェント16は、MG1市場12における電力の取引を管理する情報処理装置である。MG1管理エージェント16は、処理装置40と、通信I/F46とを備える。処理装置40は、プロセッサ42およびメモリ44を含む。プロセッサ42は、例えばCPUであって、プログラムに記述された所定の演算処理を実行するように構成される。この演算処理は、P2P電力取引市場10に対する非常用市場12Bへの切り替えの要求を含む。
【0066】
メモリ44は、ROMおよびRAMを含む。ROMは、プロセッサ42により実行されるプログラムを格納する。RAMは、プロセッサ42におけるプログラムの実行により生成されるデータと、通信I/F46を介して入力されたデータとを一時的に格納する。RAMは、作業領域として利用される一時的なデータメモリとしても機能する。
【0067】
通信I/F46は、通信ネットワークNWを経由して、MG1管理エージェント16の外部機器(P2P電力取引市場10および入札エージェント15など)との間で双方向に通信が可能に構成されている。MG1管理エージェント16は、マイクログリッドMG1の管理装置7に設けられたコンピュータ装置を用いて構成されてもよく、クラウド・コンピューティングを用いて構成されてもよい。
【0068】
<MG市場における移行処理>
次に、
図5および
図6を参照して、MG1市場12において平常用市場12Aから非常用市場12Bへ移行する処理の手順について説明する。
【0069】
図5は、平常用市場12Aから非常用市場12Bへ移行する処理の手順を示すフローチャートである。図中、MG1管理エージェント16の処理装置40により実行される処理を左側に示し、P2P電力取引市場10のプロセッサ20により実行される処理を中央に示し、入札エージェント15のプロセッサ30により実行される処理を右側に示す。各ステップは、処理装置40またはプロセッサ30,42によるソフトウェア処理により実現されるが、処理装置40またはプロセッサ30,42に搭載されたLSI(Large Scale Integration)などのハードウェアにより実現されてもよい。
【0070】
MG1管理エージェント16は、最初にステップ(以下、単にステップをSと表記する)01により、電力系統1の停電が発生したか否かを判定する。S01では、例えば、マイクログリッドMG1の管理装置7において電力系統1の電圧を検出し、検出値が予め定められた閾値未満であるときに、電力系統1の停電を検出することができる。
【0071】
電力系統1の停電が検出された場合(S01のYES判定時)、MG1管理エージェント16は、S02にて、通信ネットワークNWを経由して、P2P電力取引市場10に対し、MG1市場12における平常用市場12Aから非常用市場12Bへの移行の要求を出力する。
【0072】
P2P電力取引市場10においては、電力系統1の停電が発生していない平常時には、S11により、MG1市場12において平常用市場12Aが有効化され、非常用市場12Bを無効化されている。P2P電力取引市場10は、S12により、MG1管理エージェント16からの非常用市場12Bへの移行の要求を受信したか否かを判定する。要求を受信していなければ、S11に戻り、平常用市場12Aの有効化を継続させる。
【0073】
MG1管理エージェント16からの要求を受信すると(S12のYES判定時)、P2P電力取引市場10は、S13に進み、MG1市場12において、平常用市場12Aを無効化し、かつ、非常用市場12Bを有効化することにより、MG1市場12を平常用市場12Aから非常用市場12Bへ移行させる。
【0074】
さらに、P2P電力取引市場10は、S14により、非常用市場12Bにおける電力取引に関する情報を、通信ネットワークNWを介して、MG1市場12に入札することができる入札エージェント15に対して送信する。この電力取引に関する情報には、非常用市場12Bの市場IDおよびパスワード、ならびに、非常用市場12Bでの電力取引におけるルールが含まれる。なお、電力取引に関する情報には、ペナルティに関する情報が含まれる。
【0075】
P2P電力取引市場10は、MG1市場12が非常用市場12Bへ移行した後には、非常用市場12Bにおいて、マイクログリッドMG1に連系する電力リソース4のみの入札を受け付けて約定を行う。すなわち、P2P電力取引市場10は、他のマイクログリッドMGに連系する電力リソース4の非常用市場12Bへの入札を受け付けない、および/または、入札を約定させないように構成される。
【0076】
入札エージェント15は、電力系統1の平常時には、S21により、一般市場11またはMG1市場12の平常用市場12Aに対して、電力の売却または買取の入札を行う(
図2参照)。上述したように、入札エージェント15は、単位時間帯毎に売りまたは買いの入札を行う。一般市場11および平常用市場12Aの各々において、条件が合致した入札が約定される。
【0077】
入札エージェント15は、S22により、P2P電力取引市場10から、非常用市場12Bにおける電力取引に関する情報を受信したか否かを判定する。当該情報を受信していない場合(S22のNO判定時)、S21に戻り、一般市場11または平常用市場12Aに入札を行う。
【0078】
一方、非常用市場12Bにおける電力取引に関する情報を受信した場合には(S22のNO判定時)、入札エージェント15は、受信した情報に含まれる市場IDおよびパスワードを用いて、非常用市場12Bにログインする。そして、非常用市場12Bにおいて、入札エージェント15は、単位時間帯毎に売りまたは買いの入札を行い、条件が合致した入札が約定される。
【0079】
図5に示したフローチャートによれば、電力系統1の停電が発生した場合には、P2P電力取引市場10において、MG1市場12は平常用市場12Aから非常用市場12Bへ移行する。マイクログリッドMG1に連系される電力リソース4の入札エージェント15は、非常用市場12Bにおける電力取引のルールに従って、非常用市場12Bへの入札および約定を行うこととなる。
【0080】
しかしながら、MG1管理エージェント16とP2P電力取引市場10との間で通信を確立させることができない場合には、MG1管理エージェント16は、非常用市場12Bへの移行の要求をP2P電力取引市場10に対して伝送することができない。
図6には、MG1管理エージェント16およびP2P電力取引市場10間の通信を確立できない場合における、平常用市場12Aから非常用市場12Bへ移行する処理の手順が示される。
図6に示すフローチャートは、
図5に示したフローチャートに対してS03からS05の処理を追加したものである。
【0081】
MG1管理エージェント16は、最初に
図5と同じS01により、電力系統1の停電が発生したか否かを判定する。電力系統1の停電が検出された場合(S01のYES判定時)、MG1管理エージェント16は、S03により、MG1管理エージェント16とP2P電力取引市場10との間の通信が確立したか否かを判定する。S03では、例えば、MG1管理エージェント16が通信開始を求める要求をP2P電力取引市場10に対して送信し、P2P電力取引市場10から当該要求に対する応答を受信した場合において、通信が確立したと判定することができる。
【0082】
S03にてMG1管理エージェント16とP2P電力取引市場10との間の通信が確立したと判定された場合(S03のYES判定時)、MG1管理エージェント16は、
図5を同じS02により、通信ネットワークNWを経由して、P2P電力取引市場10に対し、MG1市場12における平常用市場12Aから非常用市場12Bへの移行の要求を出力する。当該要求を受信したP2P電力取引市場10は、
図5と同じS12からS14の処理を実行する。
【0083】
一方、S03にてMG1管理エージェント16とP2P電力取引市場10との間の通信が確立していないと判定された場合(S03のNO判定時)、MG1管理エージェント16は、S04により、P2P電力取引市場10から独立した非常用市場を開設する。この非常用市場は、P2P電力取引市場10における非常用市場12Bと同一の機能を有している。MG1管理エージェント16は、自身が管理するサーバに非常用市場を開設することができる。これによると、電力系統1の非常時において、P2P電力取引市場10およびMG1管理エージェント16間の通信異常によって、電力リソース4間の電力の取引が不能となることを回避することができる。
【0084】
MG1管理エージェント16は、S05により、非常用市場12Bにおける電力取引に関する情報を、通信ネットワークNWを介して、MG1市場12に入札することができる入札エージェント15に対して送信する。電力取引に関する情報には、非常用市場12Bの市場IDおよびパスワード、ならびに、非常用市場12Bでの電力取引におけるルール(ペナルティ情報など)が含まれる。
【0085】
入札エージェント15は、電力系統1の平常時には、
図5と同じS21により、一般市場11または平常用市場12Aに対して、電力の売却または買取の入札を行う。入札エージェント15は、S22にて、P2P電力取引市場10またはMG1管理エージェント16から、非常用市場12Bにおける電力取引に関する情報を受信したか否かを判定する。当該情報を受信していない場合(S22のNO判定時)、S21に戻り、一般市場11または平常用市場12Aに入札を行う。
【0086】
一方、非常用市場12Bにおける電力取引に関する情報を受信した場合には(S22のNO判定時)、入札エージェント15は、当該情報に含まれる市場IDおよびパスワードを用いて、非常用市場12Bにログインする。そして、非常用市場12Bにおいて、入札エージェントは、単位時間帯毎に売りまたは買いの入札を行い、条件が合致した入札が約定される。
【0087】
<MG市場におけるペナルティについて>
次に、MG市場において、約定を履行しない参加者に科されるペナルティについて説明する。
【0088】
ペナルティは、以下に述べるように、(1)電力取引における参加者の達成度、(2)電力取引における買い手側の電力逼迫度、(3)電力取引の経路、のうちの何れか1つ、または、2つ以上の組み合わせに応じて設定することができる。
【0089】
(1)電力取引における参加者の達成度
具体的には、ペナルティは、参加者の達成度に応じて設定することができる。「参加者の達成度」とは、参加者に期待される電力取引に対して、参加者がどの程度達成したかという度合いを示すものである。MG管理エージェントは、参加者ごとに、その取引実績に基づいて達成度を算出することができる。
【0090】
図7は、達成度の算出方法の一例を説明するための図である。
図7に示すように、達成度は、MG市場において参加者が取引した電力量の実績値、参加者が取引した電力量の単位時間毎の売買価格、および、参加者が取引した電力量における再生可能電力の比率の少なくとも1つに基づいて算出することができる。
【0091】
具体的には、達成度は、MG市場において参加者が約定に従って取引すべき電力量と、実際に参加者が取引した電力量(実績値)とに基づいて算出することができる。例えば、参加者が約定に従って取引すべき電力量に対する、実際に取引した電力量の比率が算出される。この比率が1となるとき(すなわち、取引すべき電力量と実際に取引した電力量とが等しいとき)に、達成度は最大値とされる。そして、当該比率が1から低下するに従って、最大値から低下するように達成度が算出される。これによると、約定に従って電力の取引が履行された場合には達成度が最大値となる一方で、約定が履行されなかった場合には、約定された電力量に対する電力量の実績値の比率が低下するに従って、達成度は減少することとなる。
【0092】
あるいは、達成度は、MG市場において参加者が取引した電力量の単位時間帯毎の売買価格に基づいて算出することができる。マイクログリッドMGにおいては、電力リソース4における電力需要が高くなるに従って、MG市場を通じて多くの電力を調達するために、当該電力リソース4がMG市場に入札する買取価格も高く設定されることが予想される。なお、電力量の買取価格とは、電力リソース4が他の電力リソース4から電力を買い取る際の売買価格である。取引された電力量の売買価格が高くなるほど、電力リソース4における電力需要の増大に対応できていると判断されるため、達成度は高い値となる。
【0093】
あるいは、達成度は、取引された電力量に占める再生可能電力の比率に基づいて算出することができる。再生可能電力とは、再生可能エネルギーによって発電された電力である。再生可能エネルギーとは、太陽光や風力といった地球資源の一部など自然界に常に存在するエネルギーであり、枯渇しない、どこにでも存在する、CO2を排出しないという特徴を有している。そのため、マイクログリッドMGにおいても、安定的なエネルギーの供給および環境負荷低減の観点から、再生可能電力の売買の促進が期待されている。そのため、取引された電力量に占める再生可能電力の比率が高くなるほど、期待に応えていると判断されて、達成度は高い値となる。
【0094】
図7には、MG市場において参加者が取引した電力量の実績値、参加者が取引した電力量の単位時間毎の売買価格、および、参加者が取引した電力量における再生可能電力の比率に基づいて達成度を算出する構成が示されている。ただし、これら3つのパラメータのうちの少なくとも1つに基づいて、達成度を算出することも可能である。
【0095】
MG管理エージェントは、算出された参加者の達成度に応じて、参加者に科されるペナルティを設定する。
図8は、達成度とペナルティとの関係を模式的に示す図である。
図8の横軸は達成度を示し、縦軸はペナルティを示している。図中のラインL1は、平常用市場における達成度とペナルティとの関係を示す。図中のラインL2は、非常用市場における達成度とペナルティとの関係を示す。
【0096】
図8に示すように、参加者の達成度が低くなるに従って、参加者に科されるペナルティは高くなる。なお、
図8では、達成度とペナルティとの関係式を直線で表しているが、達成度とペナルティとの関係式は、MG管理エージェントが適宜設定することができる。
【0097】
図8によると、同一の達成度に対する、非常用市場におけるペナルティは、平常用市場におけるペナルティよりも高い値に設定される。すなわち、非常用市場では、平常用市場に比べて相対的に高いペナルティが参加者に科されることとなる。したがって、電力系統の非常時には、MG市場で電力の取引を行う参加者に対して、約定の確実な履行を促すことが可能となる。さらに、参加者に対して、履行確実性のある入札計画の作成を促すことが可能となる。
【0098】
(2)電力取引における買い手側の電力逼迫度
参加者に科されるペナルティは、電力取引における買い手側の電力逼迫度に応じて設定することができる。
【0099】
電力逼迫度とは、買い手側における電力の需要の緊急性を示す指標である。電力逼迫度は、単位時間帯毎の需要電力量において、需要家が予め設定した電力系統から調達する電力量の最大値(基準値)を超過する程度の大きさを表す。なお、需要家が電力系統から調達する電力量の最大値の情報は、事前に需要家から取得してもよく、過去の市場における取引実績から推定されてもよい。
【0100】
需要家において、電力需要が増大することで、電力系統からの電力の調達量が予定した最大量(基準値)に近づく、もしくは、最大量を超過するおそれがあるときには、需要家は、電力系統からの電力の調達量を抑えるために、ピークカット処置として、MG市場において他の電力リソースとの取引による電力の調達を試みることとなる。この場合、需要家の需要の緊急性が高いことから、ペナルティを高い値に設定することによって、電力取引の相手側に対して約定の確実な履行を求める。
【0101】
図9は、買い手の電力逼迫度とペナルティとの関係を模式的に示す図である。
図9の横軸は買い手の電力逼迫度を示し、縦軸はペナルティを示している。図中のラインL3は、平常用市場における電力逼迫度とペナルティとの関係を示す。図中のラインL4は、非常用市場における電力逼迫度とペナルティとの関係を示す。
【0102】
図9に示すように、買い手の電力逼迫度が高くなるに従って、参加者に科されるペナルティは高くなる。なお、
図9では、電力逼迫度とペナルティとの関係式を直線で表しているが、電力逼迫度とペナルティとの関係式は、MG管理エージェントが適宜設定することができる。
【0103】
図9によると、同一の電力逼迫度に対する、非常用市場におけるペナルティは、平常用市場におけるペナルティよりも高い値に設定される。すなわち、非常用市場では、平常用市場に比べて相対的に高いペナルティが参加者に科されることとなる。電力系統の非常時には、電力系統からの電力供給が停止されるため、需要家は、必要な電力量を専らマイクログリッドMGの他の電力リソース4から調達することとなる。需要家の電力逼迫度が高くなるほどペナルティを高い値に設定することで、電力系統の非常時における電力の調達を確実に達成することを可能とする。
【0104】
(3)電力の取引経路
参加者に科されるペナルティは、売り手の電力リソースから買い手の電力リソースへの電力の伝送経路に応じて設定することができる。
【0105】
上述したように、マイクログリッドMGにおける電力リソース4間の電力の取引は、配電網2を通じて電力を授受すること、および、電力リソース4内の充放電設備5を通じて直接に電力を授受することの少なくとも一方によって実現される。
【0106】
配電網2を通じて電力を取引する場合には、配電網2を介して電力が伝送されるため、電力リソース4内の充放電設備5を通じて直接に電力を取引する場合と比較して、約定が履行されない場合にマイクログリッドMG内の電力の需給バランスに及ぼす影響が大きくなることが予想される。したがって、配電網2を通じて電力を取引する場合には、電力リソース4内の充放電設備5を通じて直接に電力を取引する場合と比較して、参加者には約定の確実な履行が求められる。
【0107】
そこで、配電網2を通じて電力を取引する場合には、電力リソース4内の充放電設備5を通じて直接に電力を取引する場合と比較して、ペナルティをより高い値に設定することとする。さらに、電力リソース4間の電力の伝送経路が同じである場合において、非常用市場におけるペナルティを、平常用市場におけるペナルティよりも高い値に設定する。電力系統1の非常時は、電力系統の平常時と比較して、約定が履行されないときにマイクログリッドMG内の電力の需給バランスに及ぼす影響が大きくなることが予想されるためである。
【0108】
<参加者情報について>
以上説明したように、MG市場において約定を履行しない参加者にはペナルティが科される。ペナルティは、参加者の取引実績に基づいているため、参加者の電力取引における信用度を表す指標となり得る。
【0109】
そこで、MG管理エージェントは、平常用市場および非常用市場の各々において、ペナルティに基づいて参加者の電力取引における信用度を表す指標(以下、「信用度スコア」とも称する)を算出し、算出された信用度スコアを参加者に関する情報として、MG市場にて公開する。
【0110】
図10は、電力リソースの信用度スコアとペナルティとの関係を模式的に示す図である。
図10の横軸はペナルティを示し、縦軸は信用度スコアを示している。図中のラインL5は、電力リソースの信用度とペナルティとの関係を示す。
【0111】
図10に示すように、電力リソース4に科されたペナルティが増えるに従って、信用度スコアは低くなる。なお、
図10では、信用度スコアとペナルティとの関係式を直線で表しているが、信用度スコアとペナルティとの関係式は、MG管理エージェントが適宜設定することができる。
【0112】
図11は、MG市場にて公開される参加者情報の一例を示す図である。
図11に示すように、参加者情報(信用度スコア)は、例えば、電力リソース4がMG市場にて電力を取引するための入札条件に含めることができる。
【0113】
入札条件は、「(電力リソース)電力の取引が可能な時間帯」と、「その時間帯における単位時間帯毎の電力量」と、「単位時間帯毎の売買価格」とが含まれる。「電力の取引可能な時間帯」とは、電力リソース4において電力の授受が可能な時間帯に相当する。
図10では、単位時間帯毎に電力の授受の可否が示されている。具体的には、「〇」は電力リソース4において電力の授受が可能であることを示し、「-」は電力リソース4において電力の授受が不可能であることを示している。「単位時間帯毎の電力量」とは、単位時間帯において電力リソースが授受することができる電力量である。電力リソースから給電可能な単位時間帯においては、電力リソース4は、MG市場において売りの入札をすることができる。一方、電力リソース4が受電可能な単位時間帯においては、電力リソースは、MG市場において買いの入札をすることができる。「単位時間帯毎の売買価格」とは、単位時間帯毎の電力量の売却または買取における価格である。
【0114】
図11によれば、入札エージェント15は、他の電力リソース4の入札条件に加えて、当該電力リソース4の信用度スコアを参照して、約定を行うことが可能となる。これによると、信用度スコアの高い電力リソース間での電力の取引を促進させることができ、約定の不履行を減らすことが可能となる。
【0115】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0116】
1 電力系統、2 配電網、3 開閉器、4 電力リソース、5 充放電設備、6 移動体、7 管理装置、8 蓄電池、9 発電機、10 P2P電力取引市場、11 一般市場、12 MG1市場、13 MG2市場、12A,13A 平常用市場、12B,13B 非常用市場、15 入札エージェント、16 MG1管理エージェント、18 MG2管理エージェント、20,30,42 プロセッサ、22,32,44 メモリ、24,34,46 通信I/F、40 処理装置、MG1,MG2 マイクログリッド、NW 通信ネットワーク。