(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/10 20160101AFI20240925BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20240925BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20240925BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240925BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20240925BHJP
F16H 59/18 20060101ALN20240925BHJP
【FI】
B60W20/10 ZHV
F16H61/02
F16H63/50
B60W10/06 900
B60W10/08 900
F16H59/18
(21)【出願番号】P 2021165799
(22)【出願日】2021-10-07
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】伴野 孝臣
(72)【発明者】
【氏名】早坂 昭人
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/101791(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/190022(WO,A1)
【文献】特開2007-161209(JP,A)
【文献】特開2011-121423(JP,A)
【文献】特開2014-094595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 ー 20/50
F16H 59/18
F16H 61/02
F16H 63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン及び電動機を含む動力源と、前記動力源の動力を駆動輪へ伝達する動力伝達装置と、を備えた車両の、制御装置であって、
前記車両に対する駆動要求量が所定要求量以下であるときに、前記エンジンの回転を停止させた停止状態で前記電動機の動力のみを用いて前記駆動要求量を実現するモータ走行モードと、前記駆動要求量が前記所定要求量を超えているときに、少なくとも前記エンジンの動力を用いて前記駆動要求量を実現するハイブリッド走行モードと、の間で走行モードを切り替える動力源制御部と、
前記駆動要求量が前記車両の減速を要求する減速要求量であるときに、前記減速要求量を前記電動機が出力可能な負トルクでは実現できない場合には、運転状態にある前記エンジンへの燃料供給を停止するフューエルカット作動を実施し、前記エンジンが出力可能な負トルクを用いて前記減速要求量を実現する減速制御部と、
を含んでおり、
前記減速制御部は、前記ハイブリッド走行モードでの走行中に前記駆動要求量が前記所定要求量以下となったときに、前記減速要求量を前記電動機が出力可能な負トルクを用いて実現できる場合には、前記エンジンを前記停止状態とすることを許可する一方で、前記減速要求量を前記電動機が出力可能な負トルクでは実現できない場合には、前記エンジンを前記停止状態とすることを禁止することを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと電動機とを動力源として備えた車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンを含む動力源と、前記動力源の動力を駆動輪へ伝達する動力伝達装置と、を備えた車両の制御装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載された車速制御装置がそれである。この特許文献1には、運転状態にあるエンジンへの燃料供給を停止するフューエルカット作動が非実施のときに、減速度の要求値を実現できない場合、エンジンのフューエルカット作動を実施することで減速度の実際値を要求値に近づけることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、動力源としてエンジン及び電動機を含む車両も良く知られている。この車両では、例えば駆動要求量の増減によって、エンジンの回転を停止させた停止状態で電動機の動力のみを用いて駆動要求量を実現するモータ走行モードと、少なくともエンジンの動力を用いて駆動要求量を実現するハイブリッド走行モードと、の間で走行モードが切り替えられる。その為、ハイブリッド走行モードでの走行中に、駆動要求量が低下したことでモータ走行モードへ切り替えられたときに、駆動要求量としての車両の減速を要求する減速要求量を実現する必要が生じた状況において、減速要求量を電動機が出力可能な負トルクでは実現できない場合には、再度エンジンを始動させた上で、エンジンのフューエルカット作動を実施し、エンジンが出力可能な負トルクを用いて減速要求量を実現することが考えられる。そうすると、エンジンの停止状態と運転状態とが短期間で繰り返されるハンチングが発生するおそれがある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、減速要求量を実現する際に、エンジンの停止状態と運転状態との間でのハンチングを抑制することができる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の要旨とするところは、(a)エンジン及び電動機を含む動力源と、前記動力源の動力を駆動輪へ伝達する動力伝達装置と、を備えた車両の、制御装置であって、(b)前記車両に対する駆動要求量が所定要求量以下であるときに、前記エンジンの回転を停止させた停止状態で前記電動機の動力のみを用いて前記駆動要求量を実現するモータ走行モードと、前記駆動要求量が前記所定要求量を超えているときに、少なくとも前記エンジンの動力を用いて前記駆動要求量を実現するハイブリッド走行モードと、の間で走行モードを切り替える動力源制御部と、(c)前記駆動要求量が前記車両の減速を要求する減速要求量であるときに、前記減速要求量を前記電動機が出力可能な負トルクでは実現できない場合には、運転状態にある前記エンジンへの燃料供給を停止するフューエルカット作動を実施し、前記エンジンが出力可能な負トルクを用いて前記減速要求量を実現する減速制御部と、を含んでおり、(d)前記減速制御部は、前記ハイブリッド走行モードでの走行中に前記駆動要求量が前記所定要求量以下となったときに、前記減速要求量を前記電動機が出力可能な負トルクを用いて実現できる場合には、前記エンジンを前記停止状態とすることを許可する一方で、前記減速要求量を前記電動機が出力可能な負トルクでは実現できない場合には、前記エンジンを前記停止状態とすることを禁止することにある。
【発明の効果】
【0007】
前記第1の発明によれば、ハイブリッド走行モードでの走行中に駆動要求量が所定要求量以下となったときに、減速要求量を電動機が出力可能な負トルクを用いて実現できる場合には、エンジンを停止状態とすることが許可されるので、モータ走行モードにおいて減速要求量を実現することができる。一方で、ハイブリッド走行モードでの走行中に駆動要求量が所定要求量以下となったときに、減速要求量を電動機が出力可能な負トルクでは実現できない場合には、エンジンを停止状態とすることが禁止されるので、ハイブリッド走行モードが維持され、エンジンが停止状態とされた後に減速要求量を実現する為に再度始動させられることが抑制される。よって、減速要求量を実現する際に、エンジンの停止状態と運転状態との間でのハンチングを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であると共に、車両における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
【
図2】電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、減速要求量を実現する際にエンジンの停止状態と運転状態との間でのハンチングを抑制する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例】
【0010】
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
図1において、車両10は、動力源SPとして機能する、エンジン12及び電動機MGを備えたハイブリッド車両である。又、車両10は、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16と、を備えている。
【0011】
エンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置90によって、車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御装置50が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
【0012】
電動機MGは、電力から機械的な動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。電動機MGは、車両10に備えられたインバータ52を介して、車両10に備えられたバッテリ54に接続されている。バッテリ54は、電動機MGに対して電力を授受する蓄電装置である。電動機MGは、後述する電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、電動機MGの出力トルクであるMGトルクTmが制御される。MGトルクTmは、例えば電動機MGの回転方向がエンジン12の運転時と同じ回転方向である正回転の場合、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。具体的には、電動機MGは、バッテリ54から供給される電力により動力を発生する。又、電動機MGは、エンジン12の動力や駆動輪14側から入力される被駆動力により発電を行う。バッテリ54は、電動機MGの発電による電力を充電する。前記電力は、特に区別しない場合には電気エネルギーも同意である。前記動力は、特に区別しない場合には駆動力、トルク、及び力も同意である。
【0013】
動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース18内において、K0クラッチ20、トルクコンバータ22、自動変速機24等を備えている。K0クラッチ20は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路におけるエンジン12と電動機MGとの間に設けられたクラッチである。トルクコンバータ22は、K0クラッチ20を介してエンジン12に連結されている。自動変速機24は、トルクコンバータ22に連結されており、トルクコンバータ22と駆動輪14との間の動力伝達経路に介在させられている。自動変速機24は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路における電動機MGと駆動輪14との間に設けられた変速機である。又、動力伝達装置16は、自動変速機24の出力回転部材である変速機出力軸26に連結されたプロペラシャフト28、プロペラシャフト28に連結されたディファレンシャルギヤ30、ディファレンシャルギヤ30に連結された1対のドライブシャフト32等を備えている。又、動力伝達装置16は、エンジン12とK0クラッチ20とを連結するエンジン連結軸34、K0クラッチ20とトルクコンバータ22とを連結する電動機連結軸36等を備えている。
【0014】
電動機MGは、ケース18内において、電動機連結軸36に動力伝達可能に連結されている。つまり、電動機MGは、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路、特にはK0クラッチ20とトルクコンバータ22との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結されている。見方を換えれば、電動機MGは、K0クラッチ20を介することなくトルクコンバータ22や自動変速機24と動力伝達可能に連結されている。
【0015】
トルクコンバータ22は、電動機連結軸36と連結されたポンプ翼車22a、及び自動変速機24の入力回転部材である変速機入力軸38と連結されたタービン翼車22bを備えている。トルクコンバータ22は、動力源SPからの動力を流体を介して電動機連結軸36から変速機入力軸38へ伝達する流体式伝動装置である。トルクコンバータ22は、ポンプ翼車22aとタービン翼車22bとを連結する、つまり電動機連結軸36と変速機入力軸38とを連結する直結クラッチとしてのLUクラッチ40を備えている。LUクラッチ40は、公知のロックアップクラッチである。
【0016】
自動変速機24は、例えば不図示の1組又は複数組の遊星歯車装置と、複数の係合装置CBと、を備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。係合装置CBは、例えば公知の油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、各々、油圧制御回路56から供給される調圧された油圧であるCB油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量であるCBトルクTcbが変化させられることで、係合状態や解放状態などの作動状態つまり制御状態が切り替えられる。
【0017】
自動変速機24は、係合装置CBのうちの何れかの係合装置が係合されることによって、変速比(ギヤ比ともいう)γat(=AT入力回転速度Ni/AT出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。自動変速機24は、後述する電子制御装置90によって、ドライバー(=運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて形成されるギヤ段が切り替えられる。AT入力回転速度Niは、変速機入力軸38の回転速度であり、自動変速機24の入力回転速度である。AT入力回転速度Niは、トルクコンバータ22の出力回転速度であるタービン回転速度Ntと同値である。AT入力回転速度Niは、タービン回転速度Ntで表すことができる。AT出力回転速度Noは、変速機出力軸26の回転速度であり、自動変速機24の出力回転速度である。
【0018】
K0クラッチ20は、例えば多板式或いは単板式のクラッチにより構成される油圧式の摩擦係合装置である。K0クラッチ20は、油圧制御回路56から供給される調圧された油圧であるK0油圧PRk0によりK0クラッチ20のトルク容量であるK0トルクTk0が変化させられることで、係合状態、スリップ状態、解放状態などの制御状態が切り替えられる。
【0019】
車両10において、K0クラッチ20の係合状態では、エンジン12とトルクコンバータ22とが動力伝達可能に連結される。一方で、K0クラッチ20の解放状態では、エンジン12とトルクコンバータ22との間の動力伝達が遮断される。電動機MGはトルクコンバータ22に連結されているので、K0クラッチ20は、エンジン12を電動機MGと断接するクラッチとして機能する。
【0020】
動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、K0クラッチ20が係合された場合に、エンジン連結軸34から、K0クラッチ20、電動機連結軸36、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。又、電動機MGから出力される動力は、K0クラッチ20の制御状態に拘わらず、電動機連結軸36から、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。このように、動力伝達装置16は、動力源SPの動力を駆動輪14へ伝達する。
【0021】
車両10は、機械式のオイルポンプであるMOP58、電動式のオイルポンプであるEOP60、ポンプ用モータ62等を備えている。MOP58は、ポンプ翼車22aに連結されており、動力源SPにより回転駆動させられて動力伝達装置16にて用いられる作動油OILを吐出する。ポンプ用モータ62は、EOP60を回転駆動する為のEOP60専用のモータである。EOP60は、ポンプ用モータ62により回転駆動させられて作動油OILを吐出する。MOP58やEOP60が吐出した作動油OILは、油圧制御回路56へ供給される。油圧制御回路56は、MOP58及び/又はEOP60が吐出した作動油OILを元にして各々調圧した、CB油圧PRcb、K0油圧PRk0などを供給する。
【0022】
車両10は、更に、車両10の制御装置を含む電子制御装置90を備えている。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、電動機制御用、クラッチ制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
【0023】
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ70、タービン回転速度センサ72、出力回転速度センサ74、MG回転速度センサ76、アクセル開度センサ78、スロットル弁開度センサ80、ブレーキスイッチ82、バッテリセンサ84、油温センサ86など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne、AT入力回転速度Niと同値であるタービン回転速度Nt、車速Vに対応するAT出力回転速度No、電動機MGの回転速度であるMG回転速度Nm、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキオン信号Bon、バッテリ54のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、油圧制御回路56内の作動油OILの温度である作動油温THoilなど)が、それぞれ供給される。
【0024】
電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路56、ポンプ用モータ62など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、電動機MGを制御する為のMG制御指令信号Sm、係合装置CBを制御する為のCB油圧制御指令信号Scb、K0クラッチ20を制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0、LUクラッチ40を制御する為のLU油圧制御指令信号Slu、EOP60を制御する為のEOP制御指令信号Seopなど)が、それぞれ出力される。
【0025】
電子制御装置90は、車両10における各種制御を実現する為に、動力源制御手段すなわち動力源制御部92、クラッチ制御手段すなわちクラッチ制御部94、及び減速制御手段すなわち減速制御部96を備えている。
【0026】
動力源制御部92は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部92aとしての機能と、インバータ52を介して電動機MGの作動を制御する電動機制御手段すなわち電動機制御部92bとしての機能と、を含んでおり、それらの制御機能によりエンジン12及び電動機MGによるハイブリッド駆動制御等を実行するハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部である。
【0027】
動力源制御部92は、例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで、運転者による車両10に対する駆動要求量DEMを算出する。前記駆動要求量マップは、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である。駆動要求量DEMは、例えば駆動輪14における要求駆動トルクTrdemである。要求駆動トルクTrdem[Nm]は、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動パワーPrdem[W]である。駆動要求量DEMとしては、駆動輪14における要求駆動力Frdem[N]、変速機出力軸26における要求AT出力トルク等を用いることもできる。駆動要求量DEMの算出では、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良い。
【0028】
動力源制御部92は、伝達損失、補機負荷、自動変速機24の変速比γat、バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Wout等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン12を制御するエンジン制御指令信号Seと、電動機MGを制御するMG制御指令信号Smと、を出力する。エンジン制御指令信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度NeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジン12のパワーであるエンジンパワーPeの指令値である。MG制御指令信号Smは、例えばそのときのMG回転速度NmにおけるMGトルクTmを出力する電動機MGの消費電力Wmの指令値である。
【0029】
バッテリ54の充電可能電力Winは、バッテリ54の入力電力の制限を規定する入力可能な最大電力であり、バッテリ54の入力制限を示している。バッテリ54の放電可能電力Woutは、バッテリ54の出力電力の制限を規定する出力可能な最大電力であり、バッテリ54の出力制限を示している。バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Woutは、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ充電量SOCに基づいて電子制御装置90により算出される。バッテリ充電量SOCは、バッテリ54の充電量に相当する充電状態を示すバッテリ54の充電状態値[%]であり、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいて電子制御装置90により算出される。
【0030】
動力源制御部92は、走行モードとして、BEV走行モード又はHEV走行モードを走行状態に応じて選択的に成立させる。つまり、動力源制御部92は、BEV走行モードとHEV走行モードとの間で走行モードを切り替える。例えば、動力源制御部92は、予め定められた関係である走行モード切替マップを用いて、要求駆動パワーPrdemが比較的小さなBEV走行領域にある場合には、BEV走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPrdemが比較的大きなHEV走行領域にある場合には、HEV走行モードを成立させる。前記走行モード切替マップは、例えば車速V及び要求駆動力Frdemを変数とする二次元座標上に、BEV走行モードとHEV走行モードとを切り替える為の、BEV走行領域とHEV走行領域との境界線を有する所定の関係である。BEV走行領域は、電動機MGの動力のみで要求駆動パワーPrdemを実現することが可能な走行領域である。HEV走行領域は、少なくともエンジン12の動力を用いないと要求駆動パワーPrdemを実現することができない走行領域である。前記境界線は、例えばBEV走行とHEV走行との切替えが判断される為の予め定められた走行領域切替線であって、電動機MGの動力のみで実現可能な予め定められた駆動要求量DEMの上限値である所定要求量DEMfに対応するものである。
【0031】
BEV走行モードは、動力源SPのうちの電動機MGのみから動力を出力して走行するモータ走行(=BEV走行)が可能な走行モードであって、駆動要求量DEMが所定要求量DEMf以下であるときに、エンジン12の回転を停止させた停止状態で電動機MGの動力のみを用いて駆動要求量DEMを実現するモータ走行モードである。エンジン12の回転を停止させた停止状態は、運転状態にあるエンジン12への燃料供給を停止するフューエルカット作動を実施した状態に加え、エンジン12の回転が停止している状態つまりエンジン12が回転していない状態である。本実施例では、エンジン12の停止状態は、エンジン12の回転を停止させた停止状態である。HEV走行モードは、動力源SPのうちの少なくともエンジン12から動力を出力して走行するエンジン走行つまりハイブリッド走行(=HEV走行)が可能な走行モードであって、駆動要求量DEMが所定要求量DEMfを超えているときに、少なくともエンジン12の動力を用いて駆動要求量DEMを実現するハイブリッド走行モードである。動力源制御部92は、BEV走行モードでは、K0クラッチ20の解放状態においてBEV走行を行う一方で、HEV走行モードでは、K0クラッチ20の係合状態においてHEV走行を行う。
【0032】
動力源制御部92は、要求駆動パワーPrdemがBEV走行領域にある場合であっても、つまり電動機MGの動力のみで要求駆動パワーPrdemを実現可能な場合であっても、バッテリ54の充電が必要な場合やエンジン12等の暖機が必要な場合などには、HEV走行モードを成立させる。
【0033】
動力源制御部92は、エンジン12の制御状態を停止状態から運転状態へ切り替えるエンジン始動要求の有無を判定する。例えば、動力源制御部92は、BEV走行モード時に、駆動要求量DEMが所定要求量DEMfを超えたか否か、又は、エンジン12等の暖機が必要であるか否か、又は、バッテリ54の充電が必要であるか否かなどに基づいて、エンジン始動要求が有るか否かを判定する。
【0034】
クラッチ制御部94は、動力源制御部92によりエンジン始動要求が有ると判定された場合には、K0クラッチ20の制御状態を解放状態から係合状態へ切り替えるようにK0クラッチ20を制御する。例えば、クラッチ制御部94は、クランキングトルクTcrをエンジン12側へ伝達する為のK0トルクTk0が得られるように、解放状態のK0クラッチ20を係合状態に向けて制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0を油圧制御回路56へ出力する。クランキングトルクTcrは、エンジン回転速度Neを引き上げるエンジン12のクランキングに必要なトルクである。
【0035】
動力源制御部92は、エンジン始動要求が有ると判定した場合には、エンジン12の始動制御を実行するようにエンジン12及び電動機MGを制御する。例えば、電動機制御部92bは、K0クラッチ20の係合状態への切替えに合わせて、電動機MGがクランキングトルクTcrを出力する為のMG制御指令信号Smをインバータ52へ出力する。又、エンジン制御部92aは、エンジン12のクランキングに連動して、燃料供給や点火などを開始してエンジン12を運転状態とする為のエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。
【0036】
動力源制御部92は、エンジン12の制御状態を運転状態から停止状態へ切り替えるエンジン停止要求の有無を判定する。例えば、動力源制御部92は、HEV走行モード時に、駆動要求量DEMが所定要求量DEMf以下であって、エンジン12等の暖機が不要であり、バッテリ54の充電が不要であるか否かなどに基づいて、エンジン停止要求が有るか否かを判定する。
【0037】
動力源制御部92は、エンジン停止要求が有ると判定した場合には、エンジントルクTeを漸減する為のエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。その後、動力源制御部92は、クラッチ制御部94によってK0クラッチ20が解放状態へ切り替えられた後に、運転状態にあるエンジン12のフューエルカット作動を実施する為のエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。これにより、エンジン12は停止状態とされる。
【0038】
クラッチ制御部94は、例えば予め定められた関係である変速マップを用いて自動変速機24の変速判断を行い、必要に応じて自動変速機24の変速制御を実行する為のCB油圧制御指令信号Scbを油圧制御回路56へ出力する。前記変速マップは、例えば車速V及び要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標上に、自動変速機24の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。前記変速マップでは、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良いし、又、要求駆動トルクTrdemに替えて要求駆動力Frdemやアクセル開度θaccやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。
【0039】
ここで、アクセルオン状態での走行中にアクセル開度θaccを減少させるアクセル操作が為された場合、駆動要求量DEMが負値とされる場合がある。負値とされた駆動要求量DEMは、車両10の減速を要求する減速要求量DEMdである。動力源制御部92は、例えば予め定められた関係である減速要求量マップに、運転者によるアクセル操作(例えばアクセル開度θacc、アクセル開度θaccの減少速度)、車速V、降坂路の勾配などを適用することで、減速要求量DEMdを算出する。減速要求量DEMdは、例えば駆動輪14における要求減速トルクTrdemdである。減速要求量DEMdとしては、駆動輪14における要求減速力Frdemd、要求減速度Grdemd等を用いることもできる。
【0040】
減速制御部96は、駆動要求量DEMが減速要求量DEMdである場合には、要求減速トルクTrdemdが実現されるように、MG負トルクTbm及びエンジン負トルクTbeのうちの少なくとも一方を発生させる指令を動力源制御部92へ出力する。MG負トルクTbmは、電動機MGの回生制御によって得られる負トルクつまり回生トルクである。エンジン負トルクTbeは、エンジン12のフリクションによるエンジンブレーキによって得られる負トルクつまりエンジンブレーキトルクである。要求減速トルクTrdemd、MG負トルクTbm、及びエンジン負トルクTbeは、各々負値であるので、各々の値の小さい側が、各々の値の絶対値が大きい側、つまり大きな減速が得られる側となる。
【0041】
減速要求量DEMdは、例えばエネルギー効率の向上の観点では、MG負トルクTbmにて優先して発生させられる。又、エンジン12が運転状態であるときには、フューエルカット作動によってエンジンブレーキが作用させられるので、エンジン回転速度Neに応じたエンジン負トルクTbeが発生させられる。減速制御部96は、駆動要求量DEMが減速要求量DEMdであるときに、減速要求量DEMdつまり要求減速トルクTrdemdを電動機MGが出力可能なMG負トルクTbmでは実現できない場合には、運転状態にあるエンジン12のフューエルカット作動を実施し、エンジン12が出力可能なエンジン負トルクTbeを用いて減速要求量DEMdを実現する。減速制御部96は、例えばMG回転速度Nm、バッテリ54の充電可能電力Win、電動機MGの定格などに基づいて、電動機MGが出力可能なMG負トルクTbmを算出する。本実施例では、電動機MGが出力可能なMG負トルクTbmを、MG負トルクアベイラビリティTbmavと称する。
【0042】
ところで、HEV走行モードにおいてアクセルオン状態での走行中に、減速の為にアクセルペダルの戻し操作が為されたことによって駆動要求量DEMが所定要求量DEMf以下とされるとエンジン停止要求が有ると判定される。一方で、エンジン停止要求が有ると判定されたときに、運転者によるアクセルペダルの戻し操作が、例えばアクセルオン状態が保たれるところで止まる場合もあれば、アクセル開度θaccがゼロと判定されるアクセルオフ状態までいく場合もある。その為、例えばアクセルオフの減速走行とされるような状況下において、要求減速トルクTrdemdをMG負トルクアベイラビリティTbmavでは実現できない場合は、エンジン停止要求によって停止状態とされたエンジン12を再度始動させた上で、フューエルカット作動を実施し、エンジン負トルクTbeを用いて要求減速トルクTrdemdを実現する必要がある。そうすると、BEV走行モードとHEV走行モードとがつまりエンジン12の停止状態と運転状態とが短期間で繰り返されるハンチングが発生するおそれがある。加えて、運転者にとっては、アクセルオフ操作を行ったにも拘わらずエンジン12が始動する為、違和感が生じさせられ、ドライバビリティーが悪化するおそれがある。
【0043】
そこで、減速制御部96は、HEV走行モードでの走行中に駆動要求量DEMが所定要求量DEMf以下となったときに、減速要求量DEMdをMG負トルクアベイラビリティTbmavを用いて実現できる場合には、エンジン12を停止状態とすることを許可する。一方で、減速制御部96は、HEV走行モードでの走行中に駆動要求量DEMが所定要求量DEMf以下となったときに、減速要求量DEMdをMG負トルクアベイラビリティTbmavでは実現できない場合には、エンジン12を停止状態とすることを禁止する。
【0044】
具体的には、減速制御部96は、動力源制御部92によってHEV走行モードの走行中にエンジン停止要求が有ると判定された場合には、減速目標トルクTbtgtがMG負トルクアベイラビリティTbmavよりも小さいか否か、つまり減速目標トルクTbtgtの絶対値がMG負トルクアベイラビリティTbmavの絶対値よりも大きいか否か、を判定する。減速目標トルクTbtgtは、要求減速トルクTrdemdを得る為の動力源SPによる負トルクの目標値であって、駆動輪14における要求減速トルクTrdemdを電動機連結軸36上に換算した値である。動力源SPによる負トルクは、MG負トルクTbmとエンジン負トルクTbeとを含んでいる。
【0045】
減速制御部96は、減速目標トルクTbtgtの絶対値がMG負トルクアベイラビリティTbmavの絶対値よりも大きいと判定した場合には、エンジン12を停止状態とすることを禁止する指令を動力源制御部92へ出力する。減速制御部96は、減速目標トルクTbtgtの絶対値がMG負トルクアベイラビリティTbmavの絶対値よりも小さいと判定した場合には、エンジン12を停止状態とすることを許可する指令を動力源制御部92へ出力する。
【0046】
図2は、電子制御装置90の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、減速要求量DEMdを実現する際にエンジン12の停止状態と運転状態との間でのハンチングを抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば繰り返し実行される。
【0047】
図2において、先ず、動力源制御部92の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、HEV走行モードでの走行中にエンジン停止要求が有るか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS10の判断が肯定される場合は減速制御部96の機能に対応するS20において、減速目標トルクTbtgtがMG負トルクアベイラビリティTbmavよりも小さいか否かが判定される。このS20の判断が肯定される場合は減速制御部96の機能に対応するS30において、エンジン12を停止状態とすることを禁止する指令が出力される。上記S20の判断が否定される場合は減速制御部96の機能に対応するS40において、エンジン12を停止状態とすることを許可する指令が出力される。
【0048】
上述のように、本実施例によれば、HEV走行モードでの走行中に駆動要求量DEMが所定要求量DEMf以下となったときに、減速要求量DEMdをMG負トルクアベイラビリティTbmavを用いて実現できる場合には、エンジン12を停止状態とすることが許可されるので、BEV走行モードにおいて減速要求量DEMdを実現することができる。一方で、HEV走行モードでの走行中に駆動要求量DEMが所定要求量DEMf以下となったときに、減速要求量DEMdをMG負トルクアベイラビリティTbmavでは実現できない場合には、エンジン12を停止状態とすることが禁止されるので、HEV走行モードが維持され、エンジン12が停止状態とされた後に減速要求量DEMdを実現する為に再度始動させられることが抑制される。よって、減速要求量DEMdを実現する際に、エンジン12の停止状態と運転状態との間でのハンチングを抑制することができる。又、エンジン12の停止状態と運転状態との間でのハンチングが抑制されることによって、減速要求量DEMdの実現とドライバビリティーの悪化の抑制とを両立することができる。
【0049】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0050】
例えば、前述の実施例では、自動変速機24として遊星歯車式の自動変速機を例示したが、この態様に限らない。自動変速機24は、公知のDCT(Dual Clutch Transmission)を含む同期噛合型平行2軸式自動変速機、公知のベルト式無段変速機などであっても良い。又は、自動変速機24は、必ずしも備えられている必要はない。要は、エンジン及び電動機を含む動力源と、前記動力源の動力を駆動輪へ伝達する動力伝達装置と、を備えた車両であって、BEV走行モードにおいてエンジンの回転を停止させた停止状態とすることができる車両であれば、本発明を適用することができる。
【0051】
また、前述の実施例では、流体式伝動装置としてトルクコンバータ22が用いられたが、この態様に限らない。例えば、流体式伝動装置として、トルクコンバータ22に替えて、トルク増幅作用のないフルードカップリングなどの他の流体式伝動装置が用いられても良い。又は、流体式伝動装置は、必ずしも備えられている必要はなく、例えば発進用のクラッチに置き換えられても良い。
【0052】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0053】
10:車両
12:エンジン
14:駆動輪
16:動力伝達装置
90:電子制御装置(制御装置)
92:動力源制御部
96:減速制御部
MG:電動機
SP:動力源