(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】内燃機関システム
(51)【国際特許分類】
F02D 41/06 20060101AFI20240925BHJP
F02D 41/34 20060101ALI20240925BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
F02D41/06
F02D41/34
F02D29/02 321B
(21)【出願番号】P 2021201524
(22)【出願日】2021-12-13
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 卓弘
(72)【発明者】
【氏名】小松 雄大
【審査官】稲本 遥
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-145331(JP,A)
【文献】特開2007-046482(JP,A)
【文献】特開2019-143571(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0137543(US,A1)
【文献】特開2005-248803(JP,A)
【文献】特開2001-280185(JP,A)
【文献】特開平10-103177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00-29/06
41/00-41/40
F02M 39/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮行程での燃料噴射である圧縮行程噴射と吸気行程での燃料噴射である吸気行程噴射とを実行可能な筒内噴射弁、及び前記筒内噴射弁に供給される燃料圧力を調整する燃圧調整機構、を有した内燃機関と、
前記筒内噴射弁及び前記燃圧調整機構を制御することにより、自動停止した前記内燃機関の自動再始動時での燃料噴射制御を実行する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
自動再始動要求があってから前記圧縮行程噴射を第1の回数実行すると共に、前記燃料圧力を所定値に制御する第1の制御部と、
前記圧縮行程噴射の前記第1の回数の実行後に、前記吸気行程噴射を第2の回数実行すると共に、前記燃料圧力を前記所定値よりも低下させる第2の制御部と、を備えた内燃機関システム。
【請求項2】
前記筒内噴射弁に供給される燃料を蓄圧する蓄圧機構を備え、
前記第2の制御部は、前記燃圧調整機構を制御することにより前記蓄圧機構への燃料供給を停止した状態で前記吸気行程噴射を実行することにより前記燃料圧力を低下させる、請求項1の内燃機関システム。
【請求項3】
前記第2の制御部は、前記
内燃機関への要求トルクが小さいほど、前記第2の回数を増大させる、請求項2の内燃機関システム。
【請求項4】
前記第2の制御部は、前記要求トルクが所定トルク以上の場合に、前記第2の回数を0に設定する、請求項3の内燃機関システム。
【請求項5】
前記第1及び第2の制御部は、前記要求トルクが大きいほど、前記第1の回数と前記第2の回数との合計回数を減少させる、請求項
3又は4の内燃機関システム。
【請求項6】
前記第1及び第2の制御部は、前記内燃機関の温度が低いほど、前記燃料圧力を高く制御する、請求項1乃至5の何れかの内燃機関システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動停止した内燃機関に対して自動再始動が要求される場合がある。この場合に、筒内噴射弁から圧縮行程で燃料噴射を行う圧縮行程噴射を実行する技術がある。これにより内燃機関のトルクを早期に増大させて自動再始動することができる。圧縮行程噴射は、燃料の霧化を促進するために燃料圧力が高い状態で実行される(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら自動再始動要求時での要求トルクが小さい場合においても自動再始動完了後に燃料圧力が高いままだと、自動再始動完了後に要求される燃料噴射量に対して実際の燃料噴射量が多くなるおそれがある。これにより、空燃比が理論空燃比に対してリッチ側にずれて、排気エミッションや燃費に影響を与えるおそれがある。
【0005】
そこで本発明は、内燃機関の自動再始動完了後に空燃比がリッチ側にずれることを抑制することができる内燃機関システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、圧縮行程での燃料噴射である圧縮行程噴射と吸気行程での燃料噴射である吸気行程噴射とを実行可能な筒内噴射弁、及び前記筒内噴射弁に供給される燃料圧力を調整する燃圧調整機構、を有した内燃機関と、前記筒内噴射弁及び前記燃圧調整機構を制御することにより、自動停止した前記内燃機関の自動再始動時での燃料噴射制御を実行する制御装置と、を備え、前記制御装置は、自動再始動要求があってから前記圧縮行程噴射を第1の回数実行すると共に、前記燃料圧力を所定値に制御する第1の制御部と、前記圧縮行程噴射の前記第1の回数の実行後に、前記吸気行程噴射を第2の回数実行すると共に、前記燃料圧力を前記所定値よりも低下させる第2の制御部と、を備えた内燃機関システムによって達成できる。
【0007】
前記筒内噴射弁に供給される燃料を蓄圧する蓄圧機構を備え、前記第2の制御部は、前記燃圧調整機構を制御することにより前記蓄圧機構への燃料供給を停止した状態で前記吸気行程噴射を実行することにより前記燃料圧力を低下させてもよい。
【0008】
前記第2の制御部は、前記内燃機関への要求トルクが小さいほど、前記第2の回数を増大させてもよい。
【0009】
前記第2の制御部は、前記要求トルクが所定トルク以上の場合に、前記第2の回数を0に設定してもよい。
【0010】
前記第1及び第2の制御部は、前記要求トルクが大きいほど、前記第1の回数と前記第2の回数との合計回数を減少させてもよい。
【0011】
前記第1及び第2の制御部は、前記内燃機関の温度が低いほど、前記燃料圧力を高く制御してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、内燃機関の自動再始動完了後に空燃比がリッチ側にずれることを抑制することができる内燃機関システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、ハイブリッド車両の概略構成図である。
【
図3】
図3は、ECUが実行する自動再始動時の燃料噴射制御の一例を示したフローチャートである。
【
図4】
図4Aは、自動再始動時のエンジンへの要求トルクと目標合計回数α、圧縮行程噴射回数β、及び吸気行程噴射回数γとの関係を規定したマップの一例であり、
図4Bは、カウンタ値Cとその際の目標燃圧との関係を規定したマップの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[ハイブリッド車両の概略構成]
図1は、ハイブリッド車両1の概略構成図である。ハイブリッド車両1には、エンジン10から駆動輪13までの動力伝達経路に、K0クラッチ14、モータ15、トルクコンバータ18、及び変速機19が順に設けられている。エンジン10及びモータ15は、ハイブリッド車両1の走行用駆動源として搭載されている。エンジン10は、内燃機関の一例であり、例えばV型6気筒ガソリンエンジンであるが気筒数はこれに限定されず、直列型のガソリンエンジンであってもよい。K0クラッチ14、モータ15、トルクコンバータ18、及び変速機19は、変速ユニット11内に設けられている。変速ユニット11と左右の駆動輪13とは、ディファレンシャル12を介して駆動連結されている。
【0015】
K0クラッチ14は、同動力伝達経路上のエンジン10とモータ15との間に設けられている。K0クラッチ14は、解放状態から油圧の供給を受けて係合状態となって、エンジン10とモータ15との動力伝達を接続する。K0クラッチ14は、油圧供給の停止に応じて解放状態となって、エンジン10とモータ15との動力伝達を遮断する。係合状態とは、K0クラッチ14の両係合要素が連結しエンジン10とモータ15が同じ回転数となっている状態である。解放状態とは、K0クラッチ14の両係合要素が離れた状態である。
【0016】
モータ15は、インバータ17を介してバッテリ16に接続されている。モータ15は、バッテリ16からの給電に応じて車両の駆動力を発生するモータとして機能し、更にエンジン10や駆動輪13からの動力伝達に応じてバッテリ16に充電する電力を発電する発電機としても機能する。モータ15とバッテリ16との間で授受される電力は、インバータ17により調整されている。
【0017】
インバータ17は、後述するECU100によって制御され、バッテリ16からの直流電圧を交流電圧に変換し、またはモータ15からの交流電圧を直流電圧に変換する。モータ15がトルクを出力する力行運転の場合、インバータ17はバッテリ16の直流電圧を交流電圧に変換してモータ15に供給される電力を調整する。モータ15が発電する回生運転の場合、インバータ17はモータ15からの交流電圧を直流電圧に変換してバッテリ16に供給される電力を調整する。
【0018】
トルクコンバータ18は、トルク増幅機能を有した流体継ぎ手である。変速機19は、ギア段の切替えにより変速比を多段階に切替える有段式の自動変速機であるが、これに限定されず無段式の自動変速機であってもよい。変速機19は、動力伝達経路上のモータ15と駆動輪13の間に設けられている。トルクコンバータ18を介して、モータ15と変速機19とが連結されている。トルクコンバータ18には、油圧の供給を受けて係合状態となってモータ15と変速機19とを直結するロックアップクラッチ20が設けられている。尚、トルクコンバータ18は必ずしも必要ではなく、設けられていなくてもよい。
【0019】
変速ユニット11には、更にオイルポンプ21と油圧制御機構22とが設けられている。オイルポンプ21で発生した油圧は、油圧制御機構22を介して、K0クラッチ14、トルクコンバータ18、変速機19、及びロックアップクラッチ20にそれぞれ供給されている。油圧制御機構22には、K0クラッチ14、トルクコンバータ18、変速機19、及びロックアップクラッチ20のそれぞれの油圧回路と、それらの作動油圧を制御するための各種の油圧制御弁と、が設けられている。
【0020】
ハイブリッド車両1には、同車両の制御装置としてのECU(Electronic Control Unit)100が設けられている。ECU100は、車両の走行制御に係る各種演算処理を行う演算処理回路と、制御用のプログラムやデータが記憶されたメモリと、を備える電子制御ユニットである。ECU100は、内燃機関システムの一例であり、詳しくは後述する第1の制御部及び第2の制御部を機能的に実現する。
【0021】
ECU100は、エンジン10及びモータ15の駆動を制御する。具体的にはECU100は、エンジン10のスロットル開度、点火時期、燃料噴射量を制御することにより、エンジン10のトルクや回転数を制御する。ECU100は、インバータ17を制御してモータ15とバッテリ16との間での電力の授受量を調整することで、モータ15のトルクや回転数を制御する。またECU100は、油圧制御機構22の制御を通じて、K0クラッチ14やロックアップクラッチ20、変速機19の駆動制御を行う。
【0022】
ECU100には、イグニッションスイッチ71、クランク角センサ72、モータ回転数センサ73、アクセル開度センサ74、エアフローメータ75、空燃比センサ76、水温センサ77、及び燃圧センサ78からの信号が入力される。クランク角センサ72は、エンジン10のクランクシャフトの回転速度を検出する。モータ回転数センサ73は、モータ15の出力軸の回転速度を検出する。アクセル開度センサ74は、運転者のアクセルペダルの踏込量であるアクセルペダル開度を検出する。エアフローメータ75は、エンジン10の吸入空気量を検出する。空燃比センサ76は、触媒43に流入する排気の空燃比を検出する。水温センサ77は、エンジン10の冷却水の温度を検出する。燃圧センサ78は、後述する高圧デリバリパイプ54内の燃料の圧力を検出する。
【0023】
ECU100は、モータモード及びハイブリッドモードの何れかの走行モードでハイブリッド車両を走行させる。モータモードでは、ECU100はK0クラッチ14を解放し、モータ15の動力により走行する。ハイブリッドモードでは、ECU100はK0クラッチ14を係合状態に切り替えて少なくともエンジン10の動力により走行する。走行モードの切り替えは、車速やアクセル開度から求められた車両の要求駆動力と、バッテリ16の充電状態などに基づいて行われる。
【0024】
[エンジンの概略構成]
図2は、エンジン10の概略構成図である。エンジン10は、気筒30、ピストン31、コネクティングロッド32、クランクシャフト33、吸気通路35、吸気弁36、排気通路37、及び排気弁38を有している。
図2には、エンジン10が有する複数の気筒30のうちの一つのみが表示されている。気筒30では混合気の燃焼が行われる。ピストン31は、各気筒30に往復動可能に収容され、エンジン10の出力軸であるクランクシャフト33にコネクティングロッド32を介して連結されている。コネクティングロッド32は、ピストン31の往復運動をクランクシャフト33の回転運動に変換する。
【0025】
吸気通路35は、各気筒30の吸気ポートに吸気弁36を介して接続されている。排気通路37は、各気筒30の排気ポートに排気弁38を介して接続されている。吸気通路35には、エアフローメータ75、及び吸入空気量を調整するスロットル弁40が設けられている。排気通路37には空燃比センサ76、及び排気浄化用の触媒43が設けられている。
【0026】
気筒30には筒内噴射弁41dが設けられている。筒内噴射弁41dは気筒30内に直接燃料を噴射する。吸気通路35には、吸気ポートに向けて燃料を噴射するポート噴射弁41pが設けられている。尚、筒内噴射弁41dが設けられていれば、ポート噴射弁41pは設けられていなくてもよい。各気筒30には、吸気通路35を通じて導入された吸気と筒内噴射弁41d及びポート噴射弁41pが噴射した燃料との混合気を火花放電により点火する点火プラグ42が設けられている。
【0027】
ポート噴射弁41pは低圧デリバリパイプ52に接続されている。低圧デリバリパイプ52には、低圧ポンプ51によりくみ上げた燃料タンク50内の燃料が供給される。低圧デリバリパイプ52内は比較的低い燃圧に維持されているため、ポート噴射弁41pは比較的少ない噴射量で燃料を噴射する。低圧ポンプ51は、電力の供給により駆動する電動式のポンプである。
【0028】
筒内噴射弁41dは、高圧デリバリパイプ54に接続されている。高圧デリバリパイプ54には、低圧ポンプ51により燃料タンク50からくみ上げられた燃料を高圧ポンプ53が昇圧して高燃圧となった燃料を蓄圧する。高圧デリバリパイプ54内は比較的高い燃圧に維持されているため、筒内噴射弁41dは比較的多い噴射量で燃料を噴射する。高圧ポンプ53は、エンジン10の回転に連動して駆動する機械式のポンプである。高圧デリバリパイプ54には燃圧センサ78が取り付けられている。燃圧センサ78が検出する燃料圧力(以下、燃圧と称する)は、上述したように高圧デリバリパイプ54内の燃圧であり、筒内噴射弁41dに供給される燃圧でもある。また、低圧ポンプ51及び高圧ポンプ53は、筒内噴射弁41dに供給される燃料圧力を調整する燃圧調整機構の一例である。高圧デリバリパイプ54は、蓄圧機構の一例である。
【0029】
[エンジンの自動停止と自動再始動]
このように構成されたエンジン10に対して、ECU100は、ハイブリッドモードにおいて所定の停止条件が成立した場合に自動停止させ、所定の自動再始動条件が成立した場合に自動再始動させる間欠運転制御を実行する。自動停止条件は、例えばハイブリッドモードにおいてアクセル開度が0になった場合である。自動再始動条件は、例えばエンジン10の自動停止後にアクセル開度が0よりも大きくなってエンジン10への要求トルクが0よりも大きくなった場合である。
【0030】
自動停止の際には、ECU100はK0クラッチ14を解放して燃料噴射を停止し、エンジン10の回転が停止した時点でのクランク角に基づいて、ピストン31が圧縮行程で停止した気筒30を記憶する。自動再始動の際には、ECU100はK0クラッチ14をスリップ状態に制御してモータ15によりエンジン10のクランキングを開始すると共に、ピストン31が圧縮行程で停止した気筒30の筒内噴射弁41dから燃料噴射を開始する。また、燃料噴射が所定の回数実行されたことをもって、エンジン10の運転状態が安定したものとみなしてエンジン10の自動再始動が完了する。自動再始動が完了すると、ECU100はK0クラッチ14を係合させ、エンジン10のトルクが要求トルクとなるように運転を制御する。尚、エンジン10にスタータモータが設けられている場合には、モータ15の代わりにスタータモータによりエンジン10をクランキングしてもよい。
【0031】
[自動再始動での燃料噴射制御]
図3は、ECU100が実行する自動再始動時の燃料噴射制御の一例を示したフローチャートである。本制御では、イグニッションがオンの状態で所定の周期ごとに繰り返し実行される。ECU100は、エンジン10への自動再始動要求があるか否かを判定する(ステップS1)。ステップS1でNoの場合には、本制御は終了する。
【0032】
ステップS1でYesの場合には、ECU100は自動再始動要求があった時のエンジン10への要求トルクに基づいて、目標合計回数αと圧縮行程噴射回数βとを算出する(ステップS2)。要求トルクは、アクセル開度センサ74により検出されるアクセル開度に基づいて算出され、アクセル開度が大きいほど要求トルクは大きく算出される。
【0033】
目標合計回数αは、自動再始動の要求があってから自動再始動が完了するまでに燃料噴射が実行される合計の回数である。例えば4気筒エンジンでは、クランク角が180度毎に何れかの気筒で燃料噴射が実行される。6気筒エンジンではクランク角が120度毎に、8気筒エンジンではクランク角が90度毎に何れかの気筒で燃料噴射が実行される。本実施例のようにエンジン10が6気筒エンジンであって例えばα=24の場合、24回数に対応したクランク角で2880度だけクランクシャフト33が回転するまで自動再始動時の燃料噴射制御が継続される。
【0034】
圧縮行程噴射回数βは、目標合計回数αのうち、圧縮行程での燃料噴射である圧縮行程噴射の目標回数である。吸気行程噴射回数γは、目標合計回数αのうち吸気行程での燃料噴射である吸気行程噴射の目標回数である。ここでα=β+γの関係が成立するため、ステップS2のように目標合計回数α及び圧縮行程噴射回数βのみを算出することにより、吸気行程噴射回数γが必然的に算出される。
【0035】
自動再始動での燃料噴射制御では、圧縮行程噴射回数βの分だけ圧縮行程噴射が実行され、続いて吸気行程噴射回数γの分だけ吸気行程噴射が実行される。例えば本実施例のようにエンジン10が6気筒エンジンであってα=24、β=γ=12の場合、前半のクランク角で1440度に対応した期間だけ圧縮行程噴射が実行され、後半のクランク角で1440度に対応した期間だけ吸気行程噴射が実行される。圧縮行程噴射回数βは第1の回数に相当し、吸気行程噴射回数γは第2の回数に相当する。
【0036】
図4Aは、自動再始動時のエンジン10への要求トルクと目標合計回数α、圧縮行程噴射回数β、及び吸気行程噴射回数γとの関係を規定したマップの一例である。縦軸は回数[-]を示し、横軸は要求トルク[N・m]を示す。目標合計回数α、圧縮行程噴射回数β、及び吸気行程噴射回数γは、自動再始動時のエンジン10への要求トルクに応じて異なっている。
図4Aに示すように吸気行程噴射回数γは、目標合計回数αと圧縮行程噴射回数βとの差分として表すことできる。
【0037】
目標合計回数α、圧縮行程噴射回数β、及び吸気行程噴射回数γは、要求トルクがトルクT1までは一定の値であり、いずれも最大噴射回数に設定される。要求トルクがトルクT1からトルクT2までは、目標合計回数α、圧縮行程噴射回数β、及び吸気行程噴射回数γは徐々に減少する。要求トルクがトルクT2よりも大きい場合には、吸気行程噴射回数γは0に設定され、目標合計回数αと圧縮行程噴射回数βとが一致する。尚、目標合計回数α、圧縮行程噴射回数β、及び吸気行程噴射回数γは、このようなマップに基づいて算出することに限定されず、例えば演算式により算出してもよい。
【0038】
次にECU100は、自動再始動要求があってからエンジン10での燃料噴射の実行回数をカウントするカウンタ値Cが、圧縮行程噴射回数β以下であるか否かを判定する(ステップS3)。尚、燃料噴射実行前ではカウンタ値Cは「0」に設定されている。
【0039】
ステップS3でYesの場合、ECU100は高燃圧制御を実行し(ステップS4)、筒内噴射弁41dにより圧縮行程噴射を実行する(ステップS5)。圧縮行程噴射により点火プラグ42周辺に燃料を集中させて、圧縮行程の次の燃焼行程で成層燃焼を短期間で実現することができ、これにより早期にエンジン10のトルクを増大させることができる。ステップS4及びS5は、第1の制御部が実行する処理の一例である。尚、ECU100は少なくともステップS4の開始前にK0クラッチ14をスリップ状態に制御してモータ15によるエンジン10のクランキングを開始する。次にECU100は圧縮行程噴射を実行したためカウンタ値Cに「1」を加算する(ステップS6)。
【0040】
ステップS4の高燃圧制御では、ECU100は低圧ポンプ51及び高圧ポンプ53を制御することにより筒内噴射弁41dに供給される燃圧を、以下のマップに規定された高圧の目標燃圧に維持する。
図4Bは、カウンタ値Cとその際の目標燃圧との関係を規定したマップの一例である。縦軸は目標燃圧[Pa]を示し、横軸はカウンタ値C[-]を示す。このマップは予めECU100のメモリに記憶されている。
図4Bに示すように、カウンタ値Cが圧縮行程噴射回数βとなるまで目標燃圧は高圧に設定される。これにより、圧縮行程噴射での燃料噴射量を確保してエンジン10のトルクを早期に増大させることができる。吸気行程噴射での目標燃圧については後述する。
【0041】
図4Bに示すように、水温センサ77によって検出されるエンジン10の冷却水の温度が低い場合には、冷却水の温度が高い場合よりも目標燃圧は高く設定される。エンジン10が低温であるほど燃料が霧化しにくく、気筒30のボア壁面等に付着する燃料量が増大して燃焼に寄与する燃料量が不足し、目標燃圧を高く設定することにより燃料の霧化を促進することができるからである。尚、
図4Bには、冷却水の温度が低温の場合と高温の場合との2つのみを例示しているが、実際には、冷却水の温度毎に目標燃圧が規定されており、冷却水の温度が低いほど目標燃圧は高く設定される。冷却水の温度は、エンジン10の温度の一例であり、冷却水の温度の代わりに潤滑油の温度を用いてもよい。
【0042】
次にECU100は再度ステップS3の処理を実行する。ステップS3でNoの場合には、ECU100はカウンタ値Cが目標合計回数α以下であるか否かを判定する(ステップS7)。ステップS7でYesの場合、ECU100は低燃圧制御を実行し(ステップS8)、吸気行程噴射を実行する(ステップS9)。吸気行程噴射により均質燃焼を実現して、エンジン10のトルクと回転数とを安定させることができる。ステップS8及びS9は、第2の制御部が実行する処理の一例である。
【0043】
ステップS8の低燃圧制御では、ECU100は高圧ポンプ53を停止して新規の燃料が高圧デリバリパイプ54内に供給されることを規制しつつ、吸気行程噴射を実行する。これにより、吸気行程噴射が実行されるたびに高圧デリバリパイプ54内の燃料が消費され、筒内噴射弁41dに供給される燃圧が徐々に低下する。具体的には、
図4Bのマップに示すように、カウンタ値Cが圧縮行程噴射回数β以上であって目標合計回数α以下で、目標燃圧が徐々に低下する。ステップS8は、燃圧制御部が実行する処理の一例である。
【0044】
次にECU100は吸気行程噴射を実行したためカウンタ値Cに「1」を加算し(ステップS6)、再度ステップS3でNoと判定されてECU100はステップS7の処理を実行する。ステップS7でNoの場合には、本制御を終了する。
【0045】
以上のように、自動再始動の完了前に吸気行程噴射を実行することにより燃圧を低下させる。これにより、自動再始動完了後に要求される燃料噴射量に対して実際の燃料噴射量が増大して空燃比がリッチ側にずれることを抑制することができる。
【0046】
また、
図4Aに示したように要求トルクが小さいほど、吸気行程噴射の吸気行程噴射回数γは大きく設定され、自動再始動の完了前に燃圧を低下させる。要求トルクが小さいほど自動再始動完了後に要求される燃料噴射量は少ないため、この場合に燃圧を十分に低下させて、自動再始動完了後の要求燃料噴射量に対して実際の燃料噴射量を対応させることができる。
【0047】
また、
図4Aに示したように要求トルクがトルクT2よりも大きい場合には、吸気行程噴射回数γは0に設定される。上述したように要求トルクが大きいほど自動再始動完了後に要求される燃料噴射量は多いため、上述した吸気行程噴射を実行しないことにより燃圧を高い状態に維持して、自動再始動完了後の燃料噴射量を確保することができる。従って、吸気行程噴射回数γが0に設定される際のトルクT2は、自動再始動完了後の目標燃圧が、圧縮行程噴射での目標燃圧と同等以上となる要求トルクの最小値に設定されている。トルクT2は所定トルクの一例である。
【0048】
図4Aに示したように要求トルクが大きいほど、目標合計回数αは減少する。要求トルクが大きいほどエンジン10の実際のトルクを要求トルクにまで上昇させるのに時間を要するため、早期に自動再始動を完了させて通常運転に移行し、要求トルクに応じた燃料噴射量、スロットル開度、及び点火時期に制御するためである。
【0049】
上記実施例では、単一のECU100によりハイブリッド車両を制御する場合を例示したが、これに限定されない。例えばエンジン10を制御するエンジンECU、モータ15を制御するモータECU、K0クラッチ14を制御するクラッチECU等の複数のECUによって、上述した制御を実行してもよい。
【0050】
上記実施例では、エンジン10とモータ15との間にK0クラッチ14が設けられたハイブリッド車両1を例示したが、これに限定されない。例えば駆動輪に連結された駆動軸にプラネタリギヤを介してエンジン及び第1モータが接続すると共に、駆動軸に第2モータが接続したハイブリッド車両であってもよい。また、ハイブリッド車両1に限定されずエンジン車両であってもよい。エンジン車両の場合、いわゆるアイドリングストップ機能によりエンジンの自動停止と自動再始動とが行われる。
【0051】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0052】
10 エンジン
14 K0クラッチ
15 モータ
41d 筒内噴射弁
51 低圧ポンプ(燃圧調整機構)
53 高圧ポンプ(燃圧調整機構)
54 高圧デリバリパイプ(蓄圧機構)
100 ECU(第1の制御部、第2の制御部)