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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】高圧タンクに生じるひずみの予測方法
(51)【国際特許分類】
   F16J 12/00 20060101AFI20240925BHJP
   B29C 70/32 20060101ALI20240925BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20240925BHJP
   F17C 13/00 20060101ALI20240925BHJP
   F17C 5/06 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
F16J12/00 A
B29C70/32
B29C70/16
F17C13/00 301Z
F17C5/06
F17C13/00 301A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021210236
(22)【出願日】2021-12-24
(65)【公開番号】P2023094744
(43)【公開日】2023-07-06
【審査請求日】2024-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】里屋 大輔
(72)【発明者】
【氏名】石川 武史
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-116980(JP,A)
【文献】特開2017-096334(JP,A)
【文献】特開2019-148325(JP,A)
【文献】特開2020-070836(JP,A)
【文献】特開2017-089724(JP,A)
【文献】特開2020-153918(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00464202(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 12/00
B29C 70/32
B29C 70/16
F17C 13/00
F17C 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧タンクに生じるひずみの予測方法であって、
前記高圧タンクは、
ライナと、
繊維強化樹脂によって形成され、前記ライナの外周を覆う補強層と、を備え、
前記予測方法は、
(a1)前記ライナの形状を示す形状データと、
(a2)フィラメントワインディング法によって前記ライナの前記外周に前記繊維強化樹脂を巻き付けるときの加工条件を示す加工データと、
(a3)前記繊維強化樹脂を硬化させるときの温度を示す温度データと、
(a4)前記繊維強化樹脂を硬化させた後における前記ライナおよび前記補強層の形状と状態とを示す状態データと、
(a5)前記状態データを取得した後に、前記高圧タンクの内部を予め定めた値まで加圧することによって生じたひずみを示すひずみデータと、を含むデータセットを取得する取得工程と、
(b)前記データセットを機械学習モデルに入力することによって、前記ひずみと、前記データセットに含まれる前記ひずみデータ以外の前記データと、の相関関係を学習させて算出する算出工程と、
(c)前記相関関係を学習した前記機械学習モデルに、
(c1)前記機械学習モデルの学習に用いられていない新たな前記ライナの形状を示す被予測用形状データ、または、
(c2)前記機械学習モデルの学習に用いられていない新たな前記加工条件を示す被予測用加工データを入力することによって、前記ひずみを予測する予測工程と、を備える、予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高圧タンクに生じるひずみの予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ライナと、ライナの外周に繊維強化樹脂を巻き付けることによって形成された補強層と、を備えた高圧タンクを設計する場合に、ライナの形状に応じて、フープ巻きとヘリカル巻きとの割合を変化させる技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-116980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高圧タンクの内部を加圧したときに生じるひずみをより正確に予測する技術が望まれている。しかし、高圧タンクの内部を加圧したときに生じるひずみの大小は、ライナの形状と、ライナの外周に繊維強化樹脂を巻き付けるときの加工条件と、を含む複数の条件に起因して変動する。よって、ライナの形状などの単一の条件からひずみを予測することが難しい場合が生じ得る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
本開示の一形態によれば、高圧タンクに生じるひずみの予測方法が提供される。高圧タンクに生じるひずみの予測方法において、前記高圧タンクは、ライナと、繊維強化樹脂によって形成され、前記ライナの外周を覆う補強層と、を備え、前記予測方法は、(a1)前記ライナの形状を示す形状データと、(a2)フィラメントワインディング法によって前記ライナの前記外周に前記繊維強化樹脂を巻き付けるときの加工条件を示す加工データと、(a3)前記繊維強化樹脂を硬化させるときの温度を示す温度データと、(a4)前記繊維強化樹脂を硬化させた後における前記ライナおよび前記補強層の形状と状態とを示す状態データと、(a5)前記状態データを取得した後に、前記高圧タンクの内部を予め定めた値まで加圧することによって生じたひずみを示すひずみデータと、を含むデータセットを取得する取得工程と、(b)前記データセットを機械学習モデルに入力することによって、前記ひずみと、前記データセットに含まれる前記ひずみデータ以外の前記データと、の相関関係を学習させて算出する算出工程と、(c)前記相関関係を学習した前記機械学習モデルに、(c1)前記機械学習モデルの学習に用いられていない新たな前記ライナの形状を示す被予測用形状データ、または、(c2)前記機械学習モデルの学習に用いられていない新たな前記加工条件を示す被予測用加工データを入力することによって、前記ひずみを予測する予測工程と、を備える。この形態によれば、相関関係を学習した機械学習モデルを用いることで、形状データが異なったり、加工データが異なったりした場合におけるひずみをより精度良く予測できる。
本開示は、上記の高圧タンクに生じるひずみの予測方法以外の種々の形態で実現することが可能である。例えば、高圧タンクに生じるひずみを予測するひずみ予測装置、ひずみ予測装置の製造方法、ひずみ予測装置の制御方法、その制御方法を実現するコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態における高圧タンクの概略構成を示す断面模式図。
図2】ひずみ予測装置の概略構成を示す図。
図3】高圧タンクに生じるひずみの予測方法を示すフローチャート。
図4】取得工程の詳細を示すフローチャート。
図5】メッシュデータの一例を模式的に示した図。
図6】加工データに含まれるデータを加工条件ごとに例示した図。
図7】画像相関法によって取得された第2ひずみデータを模式的に示した図。
図8図7の一部を拡大した図。
図9】データセットの一例を示す図。
図10】算出工程の詳細を示すフローチャート。
図11】予測工程の詳細を示すフローチャート。
図12】第2実施形態の予測工程を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態における高圧タンク100の概略構成を示す断面模式図である。図1では、高圧タンク100を中心軸Oに沿って断面視した状態を示している。図1には、互いに直交する軸としてのX軸、Y軸およびZ軸が描かれている。X軸,Y軸,Z軸の矢印が向いている方向は、それぞれX軸,Y軸,Z軸に沿った正の方向を示している。X軸,Y軸,Z軸に沿った正の方向を、それぞれ+X方向,+Y方向,+Z方向とする。X軸,Y軸,Z軸の矢印が向いている方向と逆の方向が、X軸,Y軸,Z軸に沿った負の方向である。X軸,Y軸,Z軸に沿った負の方向を、それぞれ-X方向,-Y方向,-Z方向とする。X軸,Y軸,Z軸に沿った方向で正負を問わないものを、それぞれX方向,Y方向,Z方向と呼ぶ。
【0009】
本実施形態では、X方向は、高圧タンク100の中心軸Oに沿った方向である。Y方向は、高圧タンク100の中心軸Oを中心とした周方向CDに沿った方向である。Z方向は、高圧タンク100の径方向(厚み方向)である。以下において、厚み方向において、中心軸Oに近づく側を径方向内側とし、中心軸Oから離れる側を径方向外側とする。これ以降に示す図および説明についても同様である。
【0010】
高圧タンク100は、例えば、燃料電池車両に搭載され、燃料電池に供給される水素ガスを貯留するために用いられる。高圧タンク100は、ライナ10と、補強層20と、バルブ側口金30と、エンド側口金40とを備える。
【0011】
ライナ10は、水素ガスなどの流体を貯留するための内部空間10pを形成する中空容器である。ライナ10は、例えば、ポリアミド樹脂などのガスバリア性を有する樹脂によって形成される。ライナ10の中心軸は、高圧タンク100の中心軸Oと同一である。
【0012】
補強層20は、ライナ10を補強するための層である。補強層20は、ライナ10の外周を覆う。補強層20を形成する材料は、例えば、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics:炭素繊維強化樹脂)などの繊維強化樹脂20f(後述の図6)である。本実施形態では、補強層20は、フィラメントワインディング法によって形成される。具体的には、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を含浸させた繊維が、予め設定された加工条件に従って、ライナ10の外周に巻き付けられる。このとき、繊維強化樹脂20fは、例えば、ボビンと搬送ローラとを備えた図示しない繊維巻出装置からライナ10に向けて供給される。加工条件の詳細は、後述する。このようにして、繊維強化樹脂20fで形成された複数の繊維強化樹脂層200fが、ライナ10の外周面に形成される。その後、加熱によって熱硬化性樹脂が熱硬化されることによって、補強層20が形成される。つまり、補強層20は、複数の繊維強化樹脂層200fが一体に成形された層である。なお、補強層20を形成する材料としての繊維材料および熱硬化性樹脂の種類は、これに限られるものではない。補強層20を形成するために用いられる繊維材料は、例えば、ガラス繊維を含んでいてもよい。
【0013】
以下において、複数の繊維強化樹脂層200fを区別する必要がある場合には、層数を記載する。層数とは、ライナ10に接する繊維強化樹脂層200fを第1層目とした場合に、径方向内側から径方向外側に向けて順番に数えた層番号を意味する。層数は、高圧タンク100の径方向(厚み方向)における位置によって規定される。よって、本実施形態では、層数は、Z座標値として取得される。また、複数の繊維強化樹脂層200fを区別する必要が無い場合や任意の層を示す場合には、単に第N層目と記載する。
【0014】
高圧タンク100の容器本体90は、ライナ10と補強層20とによって構成される。容器本体90は、本体部910と、第1ドーム部930と、第2ドーム部950とを有する。本体部910は、ライナ10と補強層20との一部によって形成される。本体部910の形状は、円筒形状である。
【0015】
第1ドーム部930と第2ドーム部950とはそれぞれ、容器本体90のうちで本体部910以外の部分であり、本体部910の両端に設けられる。具体的には、第1ドーム部930は、本体部910のうちで、軸方向ODにおける一端部30rに連続して設けられる。第1ドーム部930の形状は、本体部910の一端部30rからバルブ側口金30に向かって突出するドーム形状(球面形状)である。ここで言うバルブ側口金30とは、ライナ10の内部空間10pに貯留される水素ガスなどの貯留物の出入口であり、バルブの開閉によって内部空間10pと外部との連通状態を切り替えるための部材である。第1ドーム部930は、本体部910から離れるに従い径が縮小する。以下において、第1ドーム部930のうち、本体部910から最も離れた部分を頂部930pとも呼ぶ。
【0016】
第2ドーム部950は、本体部910のうちで、一端部30rとは反対側の端部である他端部40sに連続して設けられる。第2ドーム部950の形状は、本体部910の他端部40sからエンド側口金40に向かって突出するドーム形状(球面形状)である。ここで言うエンド側口金40は、他端部40s側において、ライナ10の内部空間10pを閉塞させるための部材である。第2ドーム部950は、本体部910から離れるに従い径が縮小する。
【0017】
図2は、ひずみ予測装置1の概略構成を示す図である。ひずみ予測装置1は、高圧タンク100(図1)に生じるひずみを予測するための装置である。ここで言うひずみとは、高圧タンク100の内部を予め定めた値まで加圧することによって、補強層20に生じるひずみを指す。具体的には、加圧により高圧タンク100の内圧が変化した場合に、ライナ10に巻き付けられた補強層20に応力が発生する。この応力に起因して、補強層20にひずみが生じる。そして、補強層20にひずみが生じた場合には、高圧タンク100の強度が低下するおそれがある。そのため、高圧タンク100の試作段階や製造段階において、高圧タンク100の内部に圧力(内圧)を付与して、圧力変化に伴って生じるひずみの大小を確認することが好ましい。よって、本実施形態では、ひずみ予測装置1を用いたひずみの予測方法について説明する。
【0018】
ひずみ予測装置1は、通信部3と、ディスプレイ4と、入力操作部5と、記憶部6と、CPU2とを備える。ひずみ予測装置1は、例えば、各構成要素2~6を備えるコンピュータである。ひずみ予測装置1は、通信部3を介して、後述するデータD1~D6を測定するための1以上の測定装置9と通信可能に接続されている。測定装置9は、例えば、3Dスキャナ、X線CTなどの非破壊検査装置である。測定装置9によって測定されたデータD1~D6は、通信部3を介して、CPU2へと送信される。ディスプレイ4は、例えば、液晶ディスプレイであり、CPU2の指令に応じて、情報を表示する。入力操作部5は、例えば、キーボードやマウスを有し、ユーザからの指示を受け付ける。
【0019】
記憶部6は、ひずみ予測装置1の動作を制御する各種プログラムと、後述するデータセットDと、機械学習モデル61とを含む各種情報を記憶する。機械学習モデル61は、機械学習を用いて学習されるモデルである。機械学習モデル61は、後述する相関関係を学習している。記憶部6は、RAMやROM、書き換え可能な不揮発性メモリなどを含む。
【0020】
CPU2は、記憶部6に記憶された各種プログラムを展開することにより、取得部21と、算出部23と、予測部25として機能する。取得部21は、測定装置9によって測定されたデータD1~D6を含むデータセットDを取得する。
【0021】
算出部23は、データセットDを機械学習モデル61に入力することによって、後述する目的変数である第2ひずみデータD6と、データセットDに含まれる第2ひずみデータD6以外の説明変数であるデータD1~D5と、の相関関係を回帰分析によって学習する。そして、算出部23は、学習した相関関係を示す回帰式65を記憶部6に記憶する。回帰式65は、例えば、重回帰分析によって導き出される回帰式65である。重回帰分析では、例えば、最小二乗法が用いられる。なお、回帰式65は、重回帰分析以外の手法によって算出されてもよい。つまり、回帰式65は、重回帰分析によって得られる回帰式以外の関係式であってもよい。また、重回帰分析によって回帰式65を算出する方法は、最小二乗法以外の方法であってもよい。
【0022】
予測部25は、相関関係を学習した機械学習モデル61に、後述する被予測用形状データと被予測用加工データとのいずれか一方を入力することによって、高圧タンク100の内部を加圧した場合において補強層20に生じるひずみを予測する。予測部25による予測結果や測定装置9によって得られたデータD1~D6などは、適宜ディスプレイ4に表示される。なお、CPU2の少なくとも一部の機能は、ハードウェア回路によって実現されてもよい。
【0023】
図3は、高圧タンク100に生じるひずみの予測方法を示すフローチャートである。本実施形態では、ひずみ予測装置1(図2)が図3に示すステップS1~ステップS5を実行する。これにより、高圧タンク100の内部を予め定めた値まで加圧することによって生じるひずみが予測される。予測方法は、取得工程(ステップS1)、算出工程(ステップS3)、予測工程(ステップS5)の順に実行される。
【0024】
図4は、取得工程(ステップS1)の詳細を示すフローチャートである。取得工程(ステップS1)は、機械学習モデル61に入力するデータセットDを取得する工程である。取得工程(ステップS1)において、取得部21は、形状データD1と、第1ひずみデータD2と、加工データD3と、温度データD4と、状態データD5と、第2ひずみデータD6と、を含むデータセットDを取得する。
【0025】
ステップS11において、取得部21は、ライナ10の形状を示す形状データD1を取得する。形状データD1は、例えば、測定装置9(図2)としての3Dスキャナによって、ライナ10の外表面10a(図1)の形状を測定することによって得られる。形状データD1は、ライナ10の全体形状(外形)を示すデータである。形状データD1は、例えば、デジタル画像データである。なお、形状データD1は、ライナ10の形状を示す数値データであってもよい。
【0026】
取得部21は、さらに、形状データD1を複数の要素に分割することでメッシュデータDmを生成する。図5は、メッシュデータDmの一例を模式的に示した図である。図5では、形状データD1を-Z方向側から側面視することでライナ10を2次元的に図示している。しかし、実際には、メッシュデータDmは、3次元的に複数存在する。メッシュデータDmは、例えば、記憶部6に記憶された形状データD1をCPU2が読み込み、形状データD1をメッシュ分割することで生成される。メッシュ分割とは、形状データD1を離散化して有限個の要素(以下、メッシュm)に分割する処理である。メッシュ分割は、例えば、有限要素法(FEM)を用いて実行される。メッシュデータDmは、有限要素モデルとも呼ばれる。
【0027】
1つのメッシュデータDmは、図5に示すXYZ座標系における座標値によって特定される。本実施形態では、メッシュデータDmは、XYZ座標系の座標情報を有する4つの節点P1~P4によって格子状に規定された四角形のデータである。そこで、メッシュデータDmの中心点Poの座標値に基づいて、1つのメッシュmの位置を特定している。メッシュデータDmの中心点Poは、第1節点P1と第3節点P3とを結んだ第1線と、第2節点P2と第4節点P4とを結んだ第2線とが交差した点である。
【0028】
メッシュmの位置を示す座標値は、任意の点Pを始点Pとして表される。始点Pは、例えば、繊維強化樹脂20fをライナ10に巻き付ける際の巻き付け開始位置である。本実施形態では、始点Pは、図5に示すライナ10の中央部に位置している。なお、始点Pは、予め定められた任意の点であればよく、繊維強化樹脂20fの巻き付け開始位置に限られるものではない。始点Pは、例えば、頂部930pであってもよい。
【0029】
図4に示すように、ステップS11の後に、ステップS12が実行される。ステップS12において、加圧に対するライナ10単体での形状変化を把握するために、取得部21は、第1ひずみデータD2を取得する。第1ひずみデータD2とは、補強層20が形成される前、つまり、繊維強化樹脂20fが巻き付けられる前のライナ10に生じたひずみを示すデータである。具体的には、第1ひずみデータD2は、例えば、第2ひずみデータD6の取得時よりも弱い圧力をライナ10の内部に付与することによって、ライナ10に生じたひずみである。第1ひずみデータD2は、軸方向OD(X方向)におけるひずみと、周方向CD(Y方向)におけるひずみと、によって構成される。つまり、ステップS12では、軸方向ODにおけるひずみと、周方向CDにおけるひずみと、を示す2種類のデータを第1ひずみデータD2として取得する。第1ひずみデータD2は、例えば、画像相関法によって取得される。画像相関法を用いた第1ひずみデータD2の取得方法は、第2ひずみデータD6の取得方法と同一であるため、ここでは説明を省略する。第2ひずみデータD6の取得方法は、後述する。
【0030】
取得部21は、さらに、第1ひずみデータD2をメッシュ分割することで、第1ひずみデータD2に係るメッシュデータDmを生成する。このとき、メッシュmの数、および、メッシュmの位置を示すメッシュデータDmの座標値は、ステップS11と同一である。
【0031】
ステップS12の後に、ステップS13が実行される。ステップS13において、取得部21は、加工データD3を取得する。加工データD3は、フィラメントワインディング法によってライナ10の外周に繊維強化樹脂20fを巻き付けるときの加工条件を示すデータである。本実施形態では、加工条件は、張力、繊維供給量、および、繊維配向である。よって、ステップS13では、張力と、繊維供給量と、繊維配向とを示す3種類のデータを加工データD3として取得する。なお、加工データD3に含まれるデータの種類は、これに限られるものではなく、他のデータを含んでもよい。
【0032】
図6は、加工データD3に含まれるデータを加工条件ごとに例示した図である。図6では、ライナ10の形状および板厚の変化と加工条件とを比較できるように、形状変化データと板厚変化データとを併せて図示している。形状変化データは、ライナ10の外表面10a(図1)における形状変化を示すデータであり、ライナ10の外表面10aの凹凸を2次元的に表している。形状変化データは、例えば、形状データD1を用いて算出される。板厚変化データは、ライナ10の板厚変化を2次元的に表したデータである。板厚変化データは、例えば、後述する第1板厚データ(図9)を用いて算出される。
【0033】
張力は、フィラメントワインディング法によって補強層20を形成する際に付与される力である。本実施形態では、図示しない繊維巻出装置からライナ10に向かう方向を繊維強化樹脂20fの供給方向とした場合に、張力は、供給方向とは反対の方向に付与されている。図6では、フィラメントワインディング法による巻き付け時における張力の変化(推移)を2本のグラフG11,G12で表している。具体的には、図6では、繊維強化樹脂層200fが第N層目まで積層された補強層20のうちで、第1層目の張力変化を示す第1張力グラフG11と、第2層目の張力変化を示す第2張力グラフG12とを代表して図示している。つまり、第1張力グラフG11は、張力に係る第1層目のメッシュデータDmを1本の線で結んだグラフである。なお、実際には、補強層20を構成する繊維強化樹脂層200fの数だけ、張力に係るデータが取得されている。つまり、第1層目から第N層目まで繊維強化樹脂層200fが積層されることによって形成された補強層20に対して、張力変化は、N層分取得される。
【0034】
繊維供給量は、図示しない繊維巻出装置からライナ10に供給する繊維強化樹脂20fの供給速度である。繊維供給量は、例えば、単位時間当たりに供給される繊維強化樹脂20fの長さによって定められる。図6では、フィラメントワインディング法による巻き付け時における繊維供給量の変化(推移)を2本のグラフG21,G22で表している。具体的には、図6では、繊維強化樹脂層200fが第N層目まで積層された補強層20のうちで、第1層目の繊維供給量変化を示す第1速度グラフG21と、第2層目の繊維供給量変化を示す第2速度グラフG22とを代表して図示している。つまり、第1速度グラフG21は、繊維供給量に係る第1層目のメッシュデータDmを1本の線で結んだグラフである。なお、実際には、補強層20を構成する繊維強化樹脂層200fの数だけ、繊維供給量に係るデータが取得されている。つまり、第1層目から第N層目まで繊維強化樹脂20fが積層されることによって形成された補強層20に対して、繊維供給量の変化は、N層分取得される。
【0035】
繊維配向は、中心軸Oに対する繊維強化樹脂20fの繊維角αである。例えば、フープ巻きのように、中心軸Oに直交する繊維角αで繊維強化樹脂20fを本体部910に巻き付ける場合には、繊維配向は90°である。また、例えば、ヘリカル巻きのように、0°よりも大きく90°よりも小さい繊維角α、かつ、中心軸Oに沿った巻き付け方向において、繊維強化樹脂20fをライナ10全体に螺旋状に巻き付ける場合には、繊維配向は、繊維角αと一致した値となる。図6では、第1層目を形成するために、繊維強化樹脂20fがライナ10の外周にヘリカル巻きされた様子を図示している。
【0036】
図6に示す第1継手部分F1と第2継手部分F2とは、ライナ10の外表面10a形状が他の部分と比べて大きく変化する部分である。第1継手部分F1と第2継手部分F2とは、例えば、ライナ10を製造する際に、ライナ10を構成する部材同士を接着させた継手部分である。図5および図6に示すように、メッシュデータDmごとに各データD2~D6を取得することで、第1継手部分F1および第2継手部分F2のようにライナ10の形状が大きく変化する部分が存在する場合にも、後述する回帰式65をより精度よく算出することができる。
【0037】
取得部21は、さらに、加工データD3に含まれるデータであって、張力と繊維供給量と繊維配向とを示すデータをそれぞれ個別にメッシュ分割することで、加工データD3に係る3種類のメッシュデータDmを生成する。このとき、メッシュmの数、および、メッシュmの位置を示すメッシュデータDmの座標値は、ステップS11と同一である。なお、加工データD3に含まれるデータの種類は、これに限られるものではない。
【0038】
図4に示すように、ステップS13の後に、ステップS14が実行される。ステップS14において、繊維強化樹脂20fが硬化される。そして、ステップS14において、取得部21は、温度データD4を取得する。温度データD4は、繊維強化樹脂20fに含まれる熱硬化性樹脂を硬化させるときの加熱温度を示すデータである。
【0039】
ステップS14の後に、ステップS15が実行される。ステップS15において、取得部21は、状態データD5を取得する。状態データD5は、繊維強化樹脂20fを硬化させた後におけるライナ10および補強層20の形状と状態とを示すデータである。状態データD5には、図1に示す補強層20の外部から視認できない部分(以下、内層20a)の状態を示すデータが含まれる。本実施形態では、状態データD5は、寸法データと、第1板厚データと、第2板厚データと、層形状データと、ボイドデータである。状態データD5は、例えば、繊維強化樹脂20fを硬化させた後における高圧タンク100を、測定装置9としてのX線CTによってスキャンすることで取得される。
【0040】
寸法データは、補強層20を形成した後のライナ10の寸法(直径)を示すデータである。第1板厚データは、ライナ10の板厚を示すデータである。第2板厚データは、補強層20の板厚を示すデータである。層形状データは、補強層20を構成する繊維強化樹脂層200fの各層の形状を示すデータである。ボイドデータは、補強層20の内層20aにおいて、互いに接する繊維強化樹脂層200fの間に生じた空間(ボイド)の割合を示すデータである。具体的には、繊維強化樹脂20fを硬化させる際に、互いに接する繊維強化樹脂層200fの間に気泡が形成される場合がある。互いに接する繊維強化樹脂層200fの間に生じた気泡は、硬化後において、補強層20の内層20aに空間として残存する。そして、補強層20の内層20aに生じたボイドは、高圧タンク100に生じるひずみや強度に影響し得る。そのため、本実施形態では、取得部21は、ステップS15において、ボイドデータを状態データD5の1つとして取得している。
【0041】
取得部21は、さらに、状態データD5に含まれるデータであって、寸法データと、第1板厚データと、第2板厚データと、層形状データと、ボイドデータとをそれぞれ個別にメッシュ分割する。これにより、取得部21は、状態データD5に係る5種類のメッシュデータDmを生成する。このとき、メッシュmの数、および、メッシュmの位置を示すメッシュデータDmの座標値は、ステップS11と同一である。なお、状態データD5に含まれるデータの種類は、これに限られるものではない。
【0042】
図4に示すように、ステップS15の後に、ステップS16が実行される。ステップS16は、状態データD5が取得された後に、高圧タンク100の内部を加圧する工程である。ステップS16において、高圧タンク100の内部には、予め定めた値として、例えば70MPa~87.5MPaの圧力が付与される。なお、本実施形態では、ステップS16において高圧タンク100の内部に付与される圧力値は、高圧タンク100全体で均一であると仮定する。つまり、後のステップS18において、いずれのメッシュデータDmについても同一の圧力値が紐付けられる。
【0043】
ステップS16の後に、ステップS17が実行される。ステップS17において、加圧に対する補強層20の形状変化を把握するために、取得部21は、第2ひずみデータD6を取得する。第2ひずみデータD6とは、状態データD5を取得した後に高圧タンク100の内部を予め定めた値まで加圧することによって補強層20に生じたひずみを示すデータである。第2ひずみデータD6は、軸方向OD(X方向)におけるひずみと、周方向CD(Y方向)におけるひずみと、によって構成される。つまり、ステップS17では、軸方向ODにおける補強層20のひずみと、周方向CDにおける補強層20のひずみと、を示す2種類のデータを第2ひずみデータD6として取得する。
【0044】
図7は、画像相関法によって取得された第2ひずみデータD6を模式的に示した図である。図8は、図7の一部を拡大した図である。図8では、メッシュmごとの補強層20のひずみの大小を視認しやすくするために、図7に含まれる複数のメッシュデータDmの一部を拡大して示している。図7および図8では、補強層20のひずみの大小は、ハッチングの種類、および、ハッチングの濃さによって示されている。具体的には、ハッチングの濃さが濃い領域ほど補強層20に生じたひずみが大きく、ハッチングの濃さが薄い領域ほど補強層20に生じたひずみが小さい。また、斜線ハッチングが付されている領域は、クロスハッチングが付されている領域よりも補強層20に生じたひずみが小さい。ドットハッチングが付されている領域は、斜線ハッチングが付されている領域よりも補強層20に生じたひずみがさらに小さい。つまり、クロスハッチング、かつ、ハッチングの濃さが濃い領域ほど補強層20に生じたひずみが大きいことを示している。
【0045】
第2ひずみデータD6は、第1ひずみデータD2と同様に、画像相関法によって取得される。画像相関法によって第2ひずみデータD6を取得する場合には、例えば、圧力が付与される前と後とのそれぞれにおける高圧タンク100を、測定装置9に設けられた撮像装置によって撮像する。これにより、高圧タンク100のデジタル画像を生成する。
【0046】
圧力が付与される前の高圧タンク100のデジタル画像を生成するには、ステップS14が実行された後の高圧タンク100であって、ステップS16が実行される前の高圧タンク100(例えば、ステップS15における高圧タンク100)を撮像する。また、圧力が付与された後の高圧タンク100のデジタル画像を生成するには、ステップS16が実行された後の高圧タンク100を撮像する。
【0047】
取得部21は、生成されたデジタル画像(図7)を取り込む。そして、画像相関法によって、圧力が付与される前後の差異を図8に示すメッシュデータDmごとに比較する。これにより、取得部21は、補強層20に生じたひずみを第2ひずみデータD6として取得する。よって、図7は、第2ひずみデータD6をメッシュmごとにマッピングした図である。このとき、メッシュmの数、および、メッシュmの位置を示すメッシュデータDmの座標値は、ステップS11と同一である。よって、メッシュmの数、および、メッシュデータDmの座標値は、前述した全てのデータD1~D6において共通である。このようにすると、特定のメッシュmにおけるデータD1~D6を容易に関連付けることができる。
【0048】
なお、第1ひずみデータD2および第2ひずみデータD6は、撮像装置を備えた測定装置9など、ひずみ予測装置1以外の装置によって生成されてもよい。ひずみ予測装置1以外の装置によって第1ひずみデータD2および第2ひずみデータD6が生成される場合には、生成された第1ひずみデータD2および第2ひずみデータD6が取得部21に送信されることで、取得部21は、第1ひずみデータD2と第2ひずみデータD6とをそれぞれ取得する。
【0049】
図4に示すように、ステップS17の後に、ステップS18が実行される。図9は、データセットDの一例を示す図である。ステップS18では、図9に示すように、取得部21は、ステップS11(図4)からステップS17(図4)までの各工程において取得されたデータD1~D6をメッシュm(図5)ごとに格納した、データセットDを生成する。
【0050】
本実施形態では、XYZ座標系で定まる1つのメッシュデータDmにおける各データD1~D6を関連付けて、複数のデータ群Da~Ddを生成する。そして、取得部21は、ステップS18において、複数のデータ群Da~Ddの集合体を、データセットDとして取得する。
【0051】
第1データ群Daは、例えば、XYZ座標系における座標値が(1,1,1)の場合における形状データD1、第1ひずみデータD2、加工データD3、温度データD4、状態データD5、および、第2ひずみデータD6を関連付けたデータ群である。具体的には、第1データ群DaにおけるX座標値「1」は、例えば、始点P(図6)からの距離が軸方向ODに平行な-X方向において1mmであることを示している。第1データ群DaにおけるY座標値「1」は、例えば、始点P(図6)からの距離が周方向CDに平行な+Y方向において1mmであることを示している。また、第1データ群DaにおけるZ座標値「1」は、第1層目の補強層20に関するデータD3~D6であることを示している。なお、形状データD1、第1ひずみデータD2、状態データD5に含まれる第1板厚データなどのライナ10単体に関するデータD1,D2,D5については、同一層内(例えば、第1層目)において同一の値となる。また、データセットDに含まれる形状データD1は、メッシュmの座標値に関わらず同一である。
【0052】
同様に、第2データ群Dbは、XYZ座標系における座標値が(1,2,1)の場合における各データD1~D6を関連付けたデータ群である。第3データ群Dcは、XYZ座標系における座標値が(1,3,1)の場合における各データD1~D6を関連付けたデータ群である。第4データ群Ddは、XYZ座標系における座標値が(1,4,1)の場合における各データD1~D6を関連付けたデータ群である。
【0053】
つまり、データセットDには、メッシュmの数の分だけデータ群Da~Ddが含まれる。換言すると、データセットDは、繊維強化樹脂層200fの各層において、メッシュデータDmによって特定される領域ごとに、第2ひずみデータD6と、第2ひずみデータD6以外のデータD1~D5とが関連付けられてた状態で、記憶部6に記憶されている。データセットDは、教師あり学習における教師データに相当する。
【0054】
データセットDは、データD1~D6の取得対象として測定を行ったサンプル数の分だけ生成されている。例えば、1000個のライナ10のそれぞれにおいて、データD1~D6を取得した場合には、データセットDは、合計で1000個生成される。複数のデータセットDには、予め定められた設計値によって図4に示す各工程(ステップS11~ステップS17)を実行した場合における各データD2~D6の実測値がそれぞれ格納されている。実測値には、該当サンプルの製造時における製造誤差や環境条件の差異によって、ばらつきが生じ得る。これにより、同一種類(型番)の複数個のライナ10を測定してデータセットDを取得した場合であっても、算出部23は、ばらつきを基に、後述する回帰式65を算出することができる。なお、データセットDに係るデータD1~D6を取得する場合には、例えば、設計値を変更するなどしてライナ10の形状や加工条件等を意図的に変化させた様々なデータを収集して、機械学習モデル61に学習させてもよい。図4に示すステップS18までの各工程(ステップS11~ステップS18)の実行により、取得工程(ステップS1)は終了する。
【0055】
図3に示すように、取得工程(ステップS1)の後に、算出工程(ステップS3)が実行される。図10は、算出工程(ステップS3)の詳細を示すフローチャートである。算出工程(ステップS3)では、まず、算出部23が、記憶部6に記憶されたデータセットDを読み込む(ステップS31)。
【0056】
ステップS31の後に、ステップS33が実行される。ステップS33において、算出部23は、読み込まれたデータセットDを機械学習モデル61に入力する。
【0057】
ステップS33の後に、ステップS35が実行される。ステップS35において、算出部23は、第2ひずみデータD6と、データセットDに含まれる第2ひずみデータD6以外のデータD1~D5と、の相関関係を学習させる。そして、算出部23は、相関関係を示す関係式として回帰式65を算出する。本実施形態では、算出部23は、X座標値、Y座標値、およびZ座標値により定まる1つのメッシュmごとに回帰式65を算出している。ステップS35において算出された回帰式65は、記憶部6に記憶される。
【0058】
算出部23は、あるメッシュmにおける第2ひずみデータD6と、同一のメッシュmにおける形状データD1、第1ひずみデータD2、加工データD3、温度データD4、および状態データD5と、をそれぞれ関連付けた相関関係を機械学習モデル61に学習させる。この相関関係の学習を、算出部23は、同一のライナ10形状を有するサンプル数(例えば、1000個)の分だけ繰り返し実行する。これにより、算出部23は、相関関係に基づいた1以上の回帰式65を算出する。つまり、回帰式65は、1つのメッシュmにおける第2ひずみデータD6と、第2ひずみデータD6以外のデータD1~D5との相関関係を一義的に表す関係式である。図10に示すステップS35までの各工程(ステップS31~ステップS35)の実行により、算出工程(ステップS3)は終了する。
【0059】
図3に示すように、算出工程(ステップS3)の後に、予測工程(ステップS5)が実行される。図11は、予測工程(ステップS5)の詳細を示すフローチャートである。本実施形態では、予測工程(ステップS5)において、機械学習モデル61の学習に用いられていない新たなライナ(以下、新規ライナ)の補強層20に生じるひずみを予測する。
【0060】
予測工程(ステップS5)では、まず、ステップS51が実行される。ステップS51において、予測部25は、機械学習モデル61の学習に用いられていない新規ライナの形状を示す被予測用形状データを、後述する設計値データと共に回帰式65を学習した機械学習モデル61に入力する。設計値データは、第1ひずみデータD2、加工データD3、温度データD4、および、状態データD5を示すデータであり、学習に用いた高圧タンク100の設計値を示すデータである。このとき、回帰式65を学習した機械学習モデル61に入力される第1ひずみデータD2は、例えば、データセットDに含まれる第1ひずみデータD2から予測される予測値であってもよく、第1ひずみデータD1の平均値であってもよい。
【0061】
ステップS51の後に、ステップS55が実行される。ステップS55において、予測部25は、新規ライナの内部を加圧した場合に生じるひずみ(以下、ひずみ予測値)を、回帰式65を用いて予測する。このとき、ひずみ予測値は、データセットDを取得した際に高圧タンク100の内部に付与された圧力値と同一の圧力が付与されたと仮定して算出される。図11に示すステップS55までの各工程(ステップS51~ステップS55)の実行により、予測工程(ステップS5)は終了する。
【0062】
上記第1実施形態によれば、予測部25は、ライナ10の形状と、ライナ10の外周に繊維強化樹脂20fを巻き付けるときの加工条件と、を含む複数の条件からひずみを予測している。よって、相関関係を学習した機械学習モデル61を用いることで、形状データD1が異なる場合におけるひずみをより精度良く予測できる。
【0063】
また、上記第1実施形態によれば、図5および図7に示すように、取得部21は、メッシュデータDmを用いてデータセットDを生成している。このようにすると、補強層20のひずみをメッシュmごとに予測することができる。これにより、補強層20のいずれの部分にひずみが生じやすいかを明確にすることができる。
【0064】
また、上記第1実施形態によれば、図5および図7に示すように、メッシュデータDmは、取得したデータD1~D6を複数の要素としてのメッシュmにメッシュ分割することで生成されたデータである。取得部21は、メッシュデータDmを用いてデータセットDを生成している。そして、算出部23は、データセットDを機械学習モデル61に入力することで、相関関係を学習させて、回帰式65を算出している。このようにすると、1つの高圧タンク100からメッシュmの数の分だけデータD1~D6を得ることができる。よって、少ないサンプル数であっても、より精度の高い回帰式65を算出することができる。
【0065】
また、上記第1実施形態によれば、第2ひずみデータD6と、データセットDに含まれる第2ひずみデータD6以外のデータD1~D5と、の相関関係は、重回帰分析によって算出された回帰式65によって表される。このようにすると、第2ひずみデータD6と、データセットDに含まれる第2ひずみデータD6以外のデータD1~D5と、の相関関係を容易に算出することができる。
【0066】
また、上記第1実施形態によれば、データセットDは、形状データD1と、第1ひずみデータD2と、加工データD3と、温度データD4と、状態データD5と、第2ひずみデータD6とを含む。加工データD3は、張力と、繊維供給量と、繊維配向とを示す3種類のデータを含む。状態データD5は、寸法データと、第1板厚データと、第2板厚データと、層形状データと、ボイドデータとの5種類のデータを含む。このようにすると、回帰式65を算出する際に、補強層20を形成するときの条件、および、補強層20を形成した後の状態と、第2ひずみデータD6とをより詳細に関連付けることができる。そのため、より精度の高い回帰式65を算出することができる。
【0067】
また、上記第1実施形態によれば、取得部21は、XYZ座標系によって定まる座標値に基づいて、1つのメッシュmにおける各データD1~D6を関連付けた複数のデータ群Da~Ddを生成する。そして、取得部21は、図4に示すように、ステップS18において、複数のデータ群Da~Ddの集合体を、データセットDとして取得する。このようにすると、メッシュmごとに回帰式65を算出することができる。これにより、高圧タンク100の内部を加圧したときに補強層20に生じるひずみをより一層正確に予測することができる。
【0068】
B.第2実施形態:
図12は、第2実施形態の予測工程を示すフローチャートである。第2実施形態の予測方法を実行するひずみ予測装置1は、前述した第1実施形態(図2)と同一である。本実施形態では、予測工程において、機械学習モデル61に入力されるデータの種類が第1実施形態とは異なる。よって、図3に示す取得工程(ステップS1)および算出工程(ステップS3)は、第1実施形態と同一である。本実施形態の予測工程(ステップS71~ステップS75)が実行される前には、図3に示す取得工程(ステップS1)と、算出工程(ステップS3)とがこの順で実行されている。なお、第1実施形態における各ステップと同一のステップについては、同一の符号を付す。
【0069】
ステップS71において、予測部25は、形状データD1と、機械学習モデル61の学習に用いられていない新たな加工条件を示す被予測用加工データを、回帰式65を学習した機械学習モデル61に入力する。このとき、ライナ10の形状は、機械学習モデル61の学習に用いられた形状データD1と同一の形状である。つまり、本実施形態の予測工程では、予測部25は、形状データD1と第2ひずみデータD6とを除くデータD2~D5の設計値の少なくとも一部を変更した場合に生じるひずみを予測する。例えば、被予測用加工データに、機械学習モデル61の学習時とは異なる第2板厚データや繊維強化樹脂20fの積層パターンが含まれている場合、第2板厚データと積層パターン以外のデータD1~D5は、機械学習モデル61の学習時と同じ設計値を入力する。
【0070】
ステップS71の後に、ステップS75が実行される。ステップS75において、予測部25は、加工条件を異ならせて形成した高圧タンク100の内部を加圧した場合のひずみを予測する。図12に示すステップS75までの各工程の実行により、予測工程(ステップS71~ステップS75)は終了する。
【0071】
上記第2実施形態によれば、図12に示すように、予測部25は、機械学習モデル61の学習に用いられていない新たな加工条件を示す被予測用加工データを、相関関係を学習した機械学習モデル61に入力する。そして、予測部25は、加工条件を変更した場合に生じるひずみを予測する。このようにすると、加工条件を変更した場合に生じる補強層20のひずみの程度を容易に予測することができる。
【0072】
C.他の実施形態:
異なる種類(型番)のライナ10の形状を示す形状データD1や、設計値が異なる場合の各データD1~D5についても、同様にデータセットDを準備して、機械学習モデル61の学習に用いてもよい。ライナ10の種類は、例えば、形状データD1に基づいて判断される。例えば、2つのライナ10に対して取得された形状データD1が、互いに同一または極めて近似している場合に、2つのライナ10は、同じ種類であると判断される。このような形態であれば、より精度の高いひずみの予測を行うことができる。
【0073】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0074】
1…ひずみ予測装置、2…CPU、3…通信部、4…ディスプレイ、5…入力操作部、6…記憶部、9…測定装置、10…ライナ、10a…外表面、10p…内部空間、20…補強層、20a…内層、20f…繊維強化樹脂、21…取得部、23…算出部、25…予測部、30…バルブ側口金、30r…一端部、40…エンド側口金、40s…他端部、61…機械学習モデル、65…回帰式、90…容器本体、100…高圧タンク、200f…繊維強化樹脂層、910…本体部、930…第1ドーム部、930p…頂部、950…第2ドーム部、CD…周方向、D…データセット、D1…形状データ、D2…第1ひずみデータ、D3…加工データ、D4…温度データ、D5…状態データ、D6…第2ひずみデータ、Da…第1データ群、Db…第2データ群、Dc…第3データ群、Dd…第4データ群、Dm…メッシュデータ、F1…第1継手部分、F2…第2継手部分、G11…第1張力グラフ、G12…第2張力グラフ、G21…第1速度グラフ、G22…第2速度グラフ、O…中心軸、OD…軸方向、P…始点、P1…第1節点、P2…第2節点、P3…第3節点、P4…第4節点、Po…中心点、m…メッシュ、α…繊維角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12