(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】組成物、平板状成形体、および、平板状成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20240925BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20240925BHJP
C08K 5/49 20060101ALI20240925BHJP
C08L 67/03 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
C08L69/00
C08J5/00 CFD
C08K5/49
C08L67/03
(21)【出願番号】P 2021522804
(86)(22)【出願日】2020-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2020020888
(87)【国際公開番号】W WO2020241674
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2019100496
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】大野 翔太朗
(72)【発明者】
【氏名】山口 円
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-197313(JP,A)
【文献】特開2014-080577(JP,A)
【文献】特開2011-068798(JP,A)
【文献】特開2004-075867(JP,A)
【文献】特開2016-216553(JP,A)
【文献】特開2004-002609(JP,A)
【文献】特開2002-097361(JP,A)
【文献】特開2013-076042(JP,A)
【文献】米国特許第04788248(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08J 5/00
C08K 5/49
C08L 67/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極限粘度が0.
35dL/g以下であるポリカーボネート樹脂(A)および極限粘度が0.40~0.65dL/gであるポリアリレート樹脂(B)を含み、前記(A)/(B)の質量比率が90/10~10/90であり、前記(A)と(B)の極限粘度の差が0.3dL/g以下である、組成物
であって、
ポリカーボネート樹脂(A)がビスフェノールA型ポリカーボネートであり、ポリカーボネート樹脂(A)とポリアリレート樹脂(B)の合計含有量が、組成物の95質量%以上である組成物。
【請求項2】
前記ポリアリレート樹脂(B)の極限粘度が0.55dL/g以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ポリカーボネート樹脂(A)の極限粘度が0.33dL/g以下である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ポリカーボネート樹脂(A)とポリアリレート樹脂(B)の極限粘度の差が0.1dL/g以上である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記
ポリアリレート樹脂(B)が、式(B-2)で表される構成単位を含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載の組成物。
式(B-2)
【化1】
(式(B-2)中、R
8は、それぞれ独立に、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素原子数1~9のアルキル基、炭素原子数6~12のアリール基、炭素原子数1~5のアルコキシ基、炭素原子数2~5のアルケニル基または炭素原子数7~17のアラルキル基を表す。qは0~5の整数を表す。)
【請求項6】
前記組成物の示差走査熱量計で測定したガラス転移温度が150℃以上である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物を厚み500μmに成形した際のヘイズが5.0%以下である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
さらに、酸化防止剤(C)を含む、請求項1~
7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記酸化防止剤(C)が、リン系酸化防止剤を含む、請求項
8に記載の組成物。
【請求項10】
さらに、エステル交換防止剤(D)を含む、請求項1~
9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の組成物から形成された平板状成形体。
【請求項12】
押出成形品である、請求項
11に記載の平板状成形体。
【請求項13】
厚みが10~2000μmである、請求項
11または
12に記載の平板状成形体。
【請求項14】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の組成物を溶融押出することを含む、平板状成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、平板状成形体、および、平板状成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、様々な製品の成形材料として適用されている。特に、ポリカーボネート樹脂に様々な機能を付与するため、他の樹脂とブレンドすることが検討されている。
例えば、特許文献1には、(A)ポリアリレート樹脂および/またはポリカーボネート樹脂20~60質量部、(B)テレフタル酸を主たるジカルボン酸成分とし、1,4-シクロヘキサンジメタノールがジオール成分の70モル%以上であるポリエステル80~40質量部からなるポリマー成分100質量部に対して(C)ホスフェート化合物0.01~0.3質量部を配合してなる樹脂組成物から形成された車載用芳香剤容器部品が開示されている。
また、特許文献2には、特定の構造を有するポリアリレート樹脂を、ポリカーボネート樹脂にブレンドすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-002609号公報
【文献】特開2013-076042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の通り、ポリカーボネート樹脂に種々熱可塑性樹脂をブレンドすることが検討されている。
ここで、発明者が検討したところ、ポリカーボネート樹脂に、ポリアリレート樹脂をブレンドし、成形した場合、透明性が劣る場合があることが分かった。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、透明性に優れた組成物、ならびに、平板状成形体、および、平板状成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、極限粘度が小さいポリカーボネート樹脂(A)と、極限粘度が所定の範囲のポリアリレート樹脂(B)を用い、かつ、ポリカーボネート樹脂(A)とポリアリレート樹脂(B)の極限粘度の差を小さくすることにより、上記課題を解決しうることを見出した。具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>極限粘度が0.38dL/g以下であるポリカーボネート樹脂(A)および極限粘度が0.40~0.65dL/gであるポリアリレート樹脂(B)を含み、前記(A)/(B)の質量比率が90/10~10/90であり、前記(A)と(B)の極限粘度の差が0.3dL/g以下である、組成物。
<2>前記ポリアリレート樹脂(B)の極限粘度が0.55dL/g以下である、<1>に記載の組成物。
<3>前記ポリカーボネート樹脂(A)の極限粘度が0.35dL/g以下である、<1>または<2>に記載の組成物。
<4>前記ポリカーボネート樹脂(A)の極限粘度が0.33dL/g以下である、<1>または<2>に記載の組成物。
<5>前記ポリカーボネート樹脂(A)とポリアリレート樹脂(B)の極限粘度の差が0.1dL/g以上である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の組成物。
<6>前記ポリアリレート樹脂(B)が、式(B-2)で表される構成単位を含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の組成物。
式(B-2)
【化1】
(式(B-2)中、R
8は、それぞれ独立に、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素原子数1~9のアルキル基、炭素原子数6~12のアリール基、炭素原子数1~5のアルコキシ基、炭素原子数2~5のアルケニル基または炭素原子数7~17のアラルキル基を表す。qは0~5の整数を表す。)
<7>前記組成物の示差走査熱量計で測定したガラス転移温度が150℃以上である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の組成物。
<8>前記組成物を厚み500μmに成形した際のヘイズが5.0%以下である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の組成物。
<9>さらに、酸化防止剤(C)を含む、<1>~<8>のいずれか1つに記載の組成物。
<10>前記酸化防止剤(C)が、リン系酸化防止剤を含む、<9>に記載の組成物。
<11>さらに、エステル交換防止剤(D)を含む、<1>~<10>のいずれか1つに記載の組成物。
<12><1>~<11>のいずれか1つに記載の組成物から形成された平板状成形体。
<13>押出成形品である、<12>に記載の平板状成形体。
<14>厚みが10~2000μmである、<12>または<13>に記載の平板状成形体。
<15><1>~<11>のいずれか1つに記載の組成物を溶融押出することを含む、平板状成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、透明性に優れた組成物、ならびに、平板状成形体、および、平板状成形体の製造方法を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0008】
本発明の組成物は、極限粘度が0.38dL/g以下であるポリカーボネート樹脂(A)および極限粘度が0.4~0.65dL/gであるポリアリレート樹脂(B)を含み、前記(A)/(B)の質量比率が90/10~10/90であり、前記(A)と(B)の極限粘度の差が0.3dL/g以下であることを特徴とする。このような構成とすることにより、透明性に優れた組成物が得られる。
ポリカーボネート樹脂とポリアリレート樹脂を含む組成物は、例えば、押出成形により、平板状に成形すると、得られる平板状成形体が白化して、透明性が劣る場合があることが分かった。この点について、本発明では、極限粘度が小さいポリカーボネート樹脂(A)と、極限粘度が所定の範囲のポリアリレート樹脂(B)を用い、かつ、両者の極限粘度の差を小さくすることにより、上記課題を解決している。すなわち、上記の通り、極限粘度を調整することにより、ポリカーボネート樹脂(A)とポリアリレート樹脂(B)の相溶性を高め、白化の抑制に成功している。特に、成形に際し、冷却速度が遅い、押出成形などで、本発明の効果はより効果的に発揮される。
また、本発明では、ポリカーボネート樹脂(A)とポリアリレート樹脂(B)との相溶性を高くできるので、相対的にガラス転移温度(Tg)が高い樹脂であるポリアリレート樹脂(B)と、ポリカーボネート樹脂(A)をブレンドすることにより、Tgが高い組成物が得られる。
【0009】
<ポリカーボネート樹脂(A)>
本発明の組成物は、極限粘度が0.38dL/g以下であるポリカーボネート樹脂(A)を含む。極限粘度を0.38dL/g以下とすることにより、ポリアリレート樹脂(B)との相溶性が向上し、組成物の外観や透明性に優れる。
ポリカーボネート樹脂(A)の極限粘度は、上限値が、0.35dL/g以下であることが好ましく、0.33dL/g以下であることがより好ましい。また、ポリカーボネート樹脂(A)の極限粘度は、下限値が、0.05dL/g以上であることが好ましく、0.1dL/g以上であることがより好ましく、0.2dL/g以上であることがさらに好ましく、0.25dL/gであってもよい。前記下限値以上とすることにより、組成物の耐熱性がより向上する傾向にある。
ポリカーボネート樹脂(A)の極限粘度は、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0010】
ポリカーボネート樹脂(A)の重量平均分子量は、10,000以上であることが好ましく、15,000以上であることがより好ましい。また、前記ポリカーボネート樹脂(A)の重量平均分子量の上限値は、100,000以下であることが好ましく、80,000以下であることがより好ましく、70,000以下であることがさらに好ましく、特には、50,000以下、40,000以下、30,000以下であってもよい。上記範囲の値を取ることで透明性により優れ、かつ、耐熱性により優れる組成物が得られる。
ポリカーボネート樹脂(A)の重量平均分子量は、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0011】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、8,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましい。また、前記ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量の上限値は、80,000以下であることが好ましく、50,000以下であることがより好ましく、40,000以下であることがさらに好ましく、特には、30,000以下、20,000以下であってもよい。上記範囲の値を取ることで透明性により優れ、かつ、耐熱性により優れる組成物が得られる。
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0012】
ポリカーボネート樹脂(A)の示差走査熱量計で測定したガラス転移温度は、120℃以上であることが好ましく、135℃以上であることがより好ましく、138℃以上であることがさらに好ましい。また、前記ガラス転移温度の上限値は、160℃以下であることが好ましく、150℃以下、145℃以下であってもよい。上記範囲の値を取ることで、耐熱性により優れる組成物が得られる。
ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度は、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0013】
ポリカーボネート樹脂(A)はその種類等特に定めるものではないが、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることにより、ポリアリレート樹脂(B)との相溶性をより向上させることができる。
ポリカーボネート樹脂(A)としては、ビスフェノールA型ポリカーボネート、ビスフェノールC型ポリカーボネート、ビスフェノールAP型ポリカーボネート、ビスフェノールZ型ポリカーボネート、ビスフェノールTMC型ポリカーボネート、ビスフェノールE型ポリカーボネート等が好ましく挙げられ、ビスフェノールA型ポリカーボネートを含むことが特に好ましい。
ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂とは、ビスフェノールAおよびその誘導体由来のカーボネート構成単位を有する樹脂をいい、下記式(A-1)で表される構成単位を有していることが好ましい。式中の*は他の構成単位や末端基との結合位置を表す。
【化2】
式(A-1)中、X
1は下記構造を表す。
【化3】
R
5およびR
6は、アルキル基または水素原子であり、少なくとも一方がメチル基であることが好ましく、両方がメチル基であることがより好ましい。
式(A-1)は下記式(A-2)で表されることが好ましい。
【化4】
【0014】
ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂における、式(A-1)で表される構成単位の含有量は、両末端を除く全構成単位中、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。上限値は特に限定されず、100モル%が式(A-1)で表される構成単位であってもよい。ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂として特に好ましくは実質的に両末端を除く全量が式(A-1)の構成単位で構成された樹脂である。ここでの実質的に両末端を除く全構成単位とは、具体的には、両末端を除く全構成単位中、99.0モル%以上であることを意味し、99.5モル%以上が好ましく、99.9モル%以上がより好ましい。
ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールAおよびその誘導体由来のカーボネート構成単位以外の他の構成単位を有していてもよい。このような他の構成単位を構成するジヒドロキシ化合物としては、例えば、特開2018-154819号公報の段落0014に記載の芳香族ジヒドロキシ化合物を挙げることができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0015】
ポリカーボネート樹脂(A)の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
【0016】
本発明の組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)を25~75質量%の割合で含むことが好ましく、28~72質量%の割合で含むことがより好ましい。
【0017】
<ポリアリレート樹脂(B)>
本発明の組成物は、極限粘度が0.40~0.65dL/gであるポリアリレート樹脂(B)を含む。上記下限値以上とすることにより、得られる組成物の耐熱性を向上させ、上記上限値以下とすることにより、ポリカーボネート樹脂(A)との相溶性が向上し、組成物および成形体の白化が抑制される。
ポリアリレート樹脂(B)の極限粘度は、0.42dL/g以上であることが好ましく、0.45dL/g以上であってもよい。また、ポリアリレート樹脂(B)の極限粘度は、0.55dL/g以下であることが好ましく、0.52dL/g以下であることがより好ましく、0.50dL/g以下であることがさらに好ましい。また、ポリアリレート樹脂(B)を2種以上配合する場合、混合物の極限粘度とする。他の物性および他の樹脂(ポリカーボネート樹脂等)についても同様に考える。
ポリアリレート樹脂(B)の極限粘度は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0018】
ポリアリレート樹脂(B)の重量平均分子量は、25,000以上であることが好ましく、30,000以上であることがより好ましく、35,000以上であることがさらに好ましく、37,000以上であることが一層好ましく、40,000以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、衝撃特性や折り曲げ特性などの機械的強度に優れた組成物が得られる。また、前記ポリアリレート樹脂(B)の重量平均分子量の上限値は、80,000以下であることが好ましく、60,000以下であることがより好ましく、50,000以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、成形加工性に優れた組成物が得られる。
ポリアリレート樹脂(B)の重量平均分子量は、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0019】
ポリアリレート樹脂(B)の示差走査熱量計で測定したガラス転移温度は、160℃超であることが好ましく、170℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることがさらに好ましく、190℃以上であることが一層好ましい。また、前記ガラス転移温度の上限値は、250℃以下であることが好ましく、さらには、240℃以下、230℃以下、220℃以下、200℃以下であってもよい。上記下限値以上とすることにより、得られる組成物の耐熱性をより向上させることができ、上記上限値以下とすることにより、溶融粘度をより適正な範囲とすることができる。
ポリアリレート樹脂(B)のガラス転移温度は、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0020】
本発明で用いるポリアリレート樹脂(B)は、芳香族ジカルボン酸由来の構成単位とビスフェノール由来の構成単位とから構成される芳香族ポリエステルであることが好ましい。
芳香族ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、3,3’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等が挙げられ、テレフタル酸およびイソフタル酸がより好ましい。
ビスフェノールとしては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン等が挙げられる。これらの化合物は単独で使用してもよいし、あるいは、2種以上混合して使用してもよい。
【0021】
より具体的には、ポリアリレート樹脂(B)は、下記式(B-1)で表される構成単位および/または下記式(B-2)で表される構成単位を含むことが好ましい。式中の*は他の構成単位や末端基との結合位置を表す。
式(B-1)
【化5】
式(B-1)中、X
8は下記構造を表す。
【化6】
R
5およびR
6は、アルキル基または水素原子であり、少なくとも一方がメチル基であることが好ましく、両方がメチル基であることがより好ましい。
式(B-1)で表される構成単位は、例えば、ビスフェノールAおよびその誘導体の少なくとも1種と、テレフタル酸およびイソフタル酸、ならびに、それらの誘導体の少なくとも1種とから形成される。テレフタル酸とイソフタル酸のモル比率は、40~60:60~40であることが好ましい。
【0022】
式(B-2)
【化7】
式(B-2)中、R
8は、それぞれ独立に、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素原子数1~9(好ましくは1~3)のアルキル基、炭素原子数6~12(好ましくは6~10)のアリール基、炭素原子数1~5(好ましくは1~3)のアルコキシ基、炭素原子数2~5(好ましくは2または3)のアルケニル基または炭素原子数7~17(好ましくは7~11)のアラルキル基を表す。qは0~5の整数を表し、1~3の整数が好ましい。
R
8は、それぞれ独立に、炭素原子数1~9(好ましくは1~3)のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0023】
式(B-2)で表される構成単位は、式(B-3)で表される構成単位であることが好ましい。
式(B-3)
【化8】
式(B-3)中、R
8は式(B-2)におけるR
8と同義であり、好ましい範囲も同様である。
式(B-2)で表される構成単位は、例えば、ビスフェノールTMCおよびその誘導体の少なくとも1種と、テレフタル酸およびイソフタル酸、ならびに、それらの誘導体の少なくとも1種とから形成される。テレフタル酸とイソフタル酸のモル比率は、40~60:60~40であることが好ましい。
【0024】
本発明で用いるポリアリレート樹脂(B)の第一の実施形態は、式(B-1)で表される構成単位を、両末端を除く全構成単位の90モル%以上含む形態である。第一の実施形態のポリアリレート樹脂を含む組成物は、流動性と耐熱性のバランスに特に優れており、流動性や耐熱性が特に求められる用途に好適に使用することができる。
本発明で用いるポリアリレート樹脂(B)の第二の実施形態は、式(B-1)で表される構成単位と式(B-2)で表される構成単位を、モル比で、90~40:10~60の割合で含む形態であり、90~51:10~49の割合で含むことがより好ましく、85~55:15~45の割合で含むことがより好ましい。式(B-1)で表される構成単位と式(B-2)で表される構成単位は、同じポリアリレート樹脂に含まれていてもよいし、式(B-1)で表される構成単位を含むポリアリレート樹脂と、式(B-2)で表される構成単位を含むポリアリレート樹脂のブレンド物であってもよい。また、第二の実施形態においては、本発明で用いるポリアリレート樹脂(B)が、式(B-1)で表される構成単位と式(B-2)で表される構成単位を、合計で、両末端を除く全構成単位の90モル%以上含むことがより好ましい。第二の実施形態のポリアリレート樹脂を含む組成物は、ポリカーボネート樹脂との相溶性により優れることから、透明性が特に求められる用途に好適に使用することができる。
【0025】
<ポリカーボネート樹脂(A)とポリアリレート樹脂(B)の関係>
本発明の組成物においては、ポリカーボネート樹脂(A)とポリアリレート樹脂(B)は、(A)/(B)の質量比率が90/10~10/90である。前記質量比率は、80/20~20/80であることが好ましく、75/25~25/75であることがさらに好ましく、72/28~28/72であることが一層好ましく、65/35~35/65であることがより一層好ましく、65/35~45/55であることがより一層好ましい。
また、組成物の溶融粘度をより低くしたい場合、前記質量比率は、75/25~65/35であることが好ましく、組成物の耐熱性を向上させたい場合、前記質量比率は、35/65~25/75であることが好ましい。
【0026】
本発明の組成物においては、また、ポリカーボネート樹脂(A)とポリアリレート樹脂(B)の極限粘度の差が0.3dL/g以下である。前記極限粘度の差の下限値は、0.1dL/g以上であることが好ましく、0.12L/g以上であることがより好ましく、さらには0.15L/g以上、0.17dL/g以上であってもよい。また、前記極限粘度の差の上限値は、0.25dL/g以下であることが好ましく、0.22dL/g以下であることがより好ましく、0.20dL/g以下であることがさらに好ましい。上記範囲内とすることで、透明性により優れた組成物が得られる。
本発明の組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)とポリアリレート樹脂(B)の合計含有量が、組成物の90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることがさらに好ましく、98質量%以上であることが一層好ましく、99質量%以上であることがより一層好ましい。このような範囲とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
本発明の組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
本発明の組成物はポリアリレート樹脂(B)を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0027】
<酸化防止剤(C)>
本発明の組成物は、酸化防止剤(C)を含むことが好ましい。
酸化防止剤(C)としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが挙げられ、リン系酸化防止剤(より好ましくはホスファイト系酸化防止剤)およびフェノール系酸化防止剤(より好ましくはヒンダードフェノール系酸化防止剤)の少なくとも1種が好ましく、特にリン系酸化防止剤が好ましい。また、リン系酸化防止剤およびフェノール系酸化防止剤を併用することも好ましい。
【0028】
リン系酸化防止剤は、リン原子を含む酸化防止剤である限り特に定めるものではない。
リン系酸化防止剤の具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族又は第2B族金属のリン酸塩;ホスフェート化合物、ホスファイト化合物、ホスホナイト化合物などが挙げられるが、ホスファイト化合物が特に好ましい。ホスファイト化合物を選択することで、より高い耐変色性と連続生産性を有する平板状成形体が得られる。
リン系酸化防止剤は、特開2018-090677号公報の段落0058~0064の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0029】
本発明で用いるリン系酸化防止剤としては、以下の式(1)または(2)で表されるホスファイト化合物が好ましい。
【化9】
(式(1)中、R
1およびR
2はそれぞれ独立に、炭素原子数1~30のアルキル基または炭素原子数6~30のアリール基を表す。)
【化10】
(式(2)中、R
3~R
7は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数6~20のアリール基または炭素原子数1~20のアルキル基を表す。)
上記式(1)中、R
1、R
2で表されるアルキル基は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の直鎖または分岐のアルキル基であることが好ましい。R
1、R
2がアリール基である場合、以下の一般式(1-a)、(1-b)、または(1-c)のいずれかで表されるアリール基が好ましい。
【化11】
(式(1-a)中、R
Aは、それぞれ独立に、炭素原子数1~10のアルキル基を表す。式(1-b)中、R
Bは、それぞれ独立に、炭素原子数1~10のアルキル基を表す。)
式(1)で表される化合物の中でも、特にビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト)などが好適に使用できる。
式(2)で表される化合物の中でも、特にトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトなどが好適に使用できる。
【0030】
フェノール系酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。このようなフェノール系酸化防止剤としては、特開2019-002023号公報の段落0041に記載のフェノール系酸化防止剤および特開2019-056035号公報の段落0033~0034に記載のフェノール系酸化防止剤が好ましく用いられ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0031】
組成物中の酸化防止剤(C)の含有量は、含有する場合、樹脂成分(ポリカーボネート樹脂(A)および、ポリアリレート樹脂(B)の合計を意味する)100質量部に対して、好ましくは0.005質量部以上であり、より好ましくは0.007質量部以上、さらに好ましくは0.01質量部以上である。また、酸化防止剤(C)の含有量の上限値は、樹脂成分100質量部に対して、好ましくは4質量部以下、より好ましくは1質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下、一層好ましくは0.1質量部以下である。
酸化防止剤(C)の含有量を0.005質量部以上とすることにより、透明性がより向上する傾向にある。また、酸化防止剤(C)の含有量を4質量部以下とすることにより、湿熱安定性がより向上する傾向にある。
また、酸化防止剤(C)としてリン系酸化防止剤とフェノール系酸化防止剤(好ましくはヒンダードフェノール系酸化防止剤)を組み合わせて使用する場合、その含有量は、樹脂成分100質量部に対して、リン系酸化防止剤を0.001~0.2質量部、フェノール系酸化防止剤を0.001~0.2質量部の範囲で含有することが好ましい。
酸化防止剤(C)は、上述のとおり、1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0032】
<エステル交換防止剤(D)>
本発明の組成物は、エステル交換防止剤(D)を含有することが好ましい。
エステル交換防止剤としては、リン系エステル交換防止剤および硫黄系エステル交換防止剤が挙げられる。
リン系エステル交換防止剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル等が挙げられ、特にアルキルホスファイトが好適に使用できる。
エステル交換防止剤としては、国際公開第2015/190162号の段落0035~0039、特開2019-002023号公報の段落0037、特開2018-199745号公報の段落0041の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0033】
組成物中のエステル交換防止剤(D)の含有量は、含有する場合、樹脂成分100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上であり、より好ましくは0.005質量部以上、さらに好ましくは0.007質量部以上である。また、エステル交換防止剤(D)の含有量の上限値は、樹脂成分100質量部に対して、好ましくは1.0質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、さらに好ましくは0.3質量部以下、一層好ましくは0.1質量部以下である。エステル交換防止剤(D)の含有量を、上記範囲内とすることにより、組成物の分子量低下をより効果的に抑制できる。
エステル交換防止剤(D)は、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0034】
<離型剤(E)>
本発明の組成物は、離型剤(E)を含むことが好ましい。
離型剤(E)としては、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルの群から選ばれる少なくとも1種の化合物を挙げることができ、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルが好ましい。
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例として、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等を挙げることができる。
その他、離型剤(E)としては、特開2017-226848号公報の段落0032、特開2018-199745号公報の段落0056に記載の離型剤を用いることができ、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0035】
組成物中の離型剤(E)の含有量は、含有する場合、樹脂成分100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.005質量部以上であり、また、好ましくは2質量部以下、より好ましくは1質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下である。
離型剤(E)は、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0036】
<その他の成分>
上記組成物は、上記の他、他の熱可塑性樹脂、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、衝撃改良剤、摺動改良剤、色相改良剤、酸トラップ剤等を含んでいてもよい。これらの成分は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記他の成分の合計量は、含有する場合、組成物の0.001~5質量%であることが好ましく、0.001~2質量%であることがより好ましく、0.01~1質量%であることがさらに好ましい。アンチブロッキングとは、フィルム同士の密着を抑制する効果のことをいい、アンチブロッキング剤を添加すること等によって達成できる。
【0037】
<組成物の物性>
本発明の組成物は、300℃にて、せん断速度122sec-1におけるせん断粘度(かかる値を、本発明における「溶融粘度」とする)が3,500Pa・s以下であることが好ましく、900Pa・s以下であることがより好ましく、700Pa・s以下であることがさらに好ましい。前記溶融粘度の下限値は、50Pa・s以上であることが好ましく、100Pa・s以上であることがより好ましく、さらには、160Pa・s以上、200Pa・s以上であってもよい。上記範囲内の値を取ることで、溶融押出による成形性により優れる組成物が得られる。
溶融粘度は、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0038】
本発明の組成物は、厚み500μmに成形した際の全光線透過率が87%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましく、89%以上であることがさらに好ましい。全光線透過率の上限値としては、特に制限されないが、例えば、94%以下が実際的である。
全光線透過率は、後述する実施例に記載の方法に基づき測定される。
【0039】
本発明の組成物は、厚み500μmに成形した際のヘイズが5.0%以下であることが好ましく、4.0%以下であることがより好ましく、3.0%以下であることがさらに好ましく、2.0%以下であることが一層好ましく、1.0%以下であることがより一層好ましく、0.8%以下であることがさらに一層好ましい。下限値は特に制限されないが、0.1%以上でも、十分に性能要求を満たすものである。
ヘイズは、後述する実施例に記載の方法に基づき測定される。
【0040】
本発明の組成物は、示差走査熱量計で測定したガラス転移温度が150℃以上であることが好ましい。ポリアリレート樹脂(B)は比較的ガラス転移温度が高い樹脂であり、かつ、本発明では、ポリカーボネート樹脂(A)との相溶性に優れるため、組成物としてのガラス転移温度を高めることができる。
前記ガラス転移温度は、155℃以上とすることもでき、さらには、160℃以上、170℃以上、175℃以上とすることもできる。前記ガラス転移温度の上限値は特に定めるものではないが、例えば、190℃以下が実際的である。
ガラス転移温度(Tg)は、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0041】
本発明の組成物は、単官能フェノール化合物を含んでいてもよい。単官能フェノール化合物としては、ジブチルヒドロキシトルエンなどが挙げられ、主に、ポリカーボネート樹脂(A)やポリアリレート樹脂(B)の原料由来の未反応物や、酸化防止剤(C)などの分解物に由来する。本発明では、単官能フェノール化合物の総量が組成物の10,000質量ppm超であることが好ましく、10,000質量ppm超1質量部未満であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
【0042】
<組成物の製造方法>
本発明の組成物の製造方法に制限はなく、公知の組成物の製造方法を広く採用でき、上記ポリカーボネート樹脂(A)、ポリアリレート樹脂(B)、および、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常240~360℃の範囲である。
上記溶融混練した組成物は、例えば、ストランドカットによりペレットを得る。こうして得られたペレットを、例えば押出機により押出成形することにより、平板状成形体(例えば、フィルム状やシート状の成形体)を製造することができる。また、射出成形機により射出成形することにより、任意の形状の成形品を製造することもできる。
【0043】
本発明の平板状成形体は、例えば、本発明の組成物を溶融押出することによって製造することが好ましい。すなわち、本発明の平板状成形体の一実施形態は、押出成形品である。押出成形では、冷却速度が相対的に遅く、また、開放系の成形方法であるため、透明性が損なわれやすい。本発明では、所定の組成物とすることにより、押出成形しても、透明性に優れた平板状成形体が得られる。
【0044】
<成形体>
本発明の成形体は、本発明の組成物から成形される。本発明の成形体は、電気電子機器、OA機器、携帯情報端末、機械部品、家電製品、車輌部品、各種容器、照明機器等の部品等に好適に用いられる。これらの中でも、特に、電気電子機器、OA機器、情報端末機器および家電製品の筐体、照明機器および車輌部品(特に、車輌内装部品)、スマートフォンやタッチパネル等の表層フィルム、光学材料、光学ディスクに好適に用いられる。特に、本発明の成形品は、タッチパネルのセンサー用として適している。
【0045】
本発明の成形品の一実施形態として、平板状成形体が例示される。特に、本発明では、高耐熱用途の透明平板状成形体として好適に使用される。より具体的には、透明電極基材用板状成形体として使用することができる。ここで、透明電極とは、透明基材の一方または両方の面に透明電極層が配置されたものである。透明基材と透明電極層との間には、さらなる層が存在していてもよい。この透明電極における透明基材として、本発明の板状成形体を使用することができる。また、高耐熱用途の製品を保護するための保護フィルムとしても好適に使用することができる。
本発明の組成物から形成された板状成形体の厚さは特に限定されないが、10μm以上であることが好ましく、25μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましい。上限値としては、2,000μm以下であることが好ましく、1,000μm以下であることがより好ましく、750μm以下であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0047】
<原材料>
・ポリカーボネート樹脂(A)
A1:ビスフェノールAを出発原料とする界面重合法により得られた芳香族ポリカーボネート樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス社製、H-7000F、重量平均分子量:24,900、粘度平均分子量:14,000、Tg:141℃、極限粘度0.3dL/g
A2:ビスフェノールAを出発原料とする界面重合法により得られた芳香族ポリカーボネート樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス社製、L-1000F、重量平均分子量:16,700、粘度平均分子量:10,800、Tg:136℃、極限粘度0.24dL/g
A3:ビスフェノールAを出発原料とする界面重合法により得られた芳香族ポリカーボネート樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス社製、S-3000F、重量平均分子量:41,300、粘度平均分子量:21,000、Tg:148℃、極限粘度0.43dL/g
【0048】
・ポリアリレート樹脂(B)
B1:U-パウダー Dタイプ、ユニチカ社製、ジカルボン酸成分:テレフタル酸/イソフタル酸=50/50モル%、ビスフェノール成分:ビスフェノールA=100モル%
重量平均分子量63,000、極限粘度0.65dL/g、Tg:201℃
B2:U-パウダー Lタイプ、ユニチカ社製、ジカルボン酸成分:テレフタル酸/イソフタル酸=50/50モル%、ビスフェノール成分:ビスフェノールA=100モル%
重量平均分子量40,800、極限粘度0.48dL/g、Tg:195℃
B3:U-パウダー T-240AF、ユニチカ社製、ジカルボン酸成分:テレフタル酸/イソフタル酸=50/50モル%、ビスフェノール成分:ビスフェノールA/ビスフェノールTMC=60/40モル%
重量平均分子量38,000、極限粘度0.43dL/g、Tg:224℃
B4:ユニチカ社製、U-パウダー T-240AFとU-パウダー Lタイプの1:1(質量比)のブレンド物、重量平均分子量39,400、極限粘度0.46dL/g、Tg:210℃
【0049】
・酸化防止剤(C)
C1:トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、リン系酸化防止剤、ADEKA株式会社製、アデカスタブ2112
C2:ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、リン系酸化防止剤、ADEKA社製、アデカスタブPEP-36
C3:テトラキス[3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ADEKA社製、アデカスタブAO-60
C4:ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト)、Dover Chemical社製、Doverphos S-9228PC
【0050】
・エステル交換防止剤(D)
D1:オクタデシルホスファイト、ADEKA社製、AX-71
【0051】
・離型剤(E)
E1:グリセリンモノステアレート、理研ビタミン社製、リケマールS-100A
【0052】
実施例1~7、比較例1、2
上記各成分を、それぞれ表1または表2に記載の添加量となるように計量した。その後、タンブラーにて15分間混合した後、ベント付二軸押出機により、シリンダー温度320℃で溶融混練し、ストランドカットによりペレットを得た。
二軸押出機としては、スクリュー径32mmの日本製鋼所社製「TEX30α」を用いた。
【0053】
得られたペレットを用いて、以下の方法でフィルムを製造した。
上記で得られたペレットを、120℃で5時間乾燥した後、バレル直径32mm、スクリューのL/D=31.5のベント付き二軸押出機(日本製鋼所社製、「TEX30α」)からなるTダイ溶融押出機を用いて、吐出量10Kg/h、スクリュー回転数63rpmの条件で、溶融状に押し出し、冷却固化し、厚さ500μmのフィルムを作製した。シリンダー・ダイヘッド温度は280℃で行った。
【0054】
得られた組成物(ペレット)について、溶融粘度およびTgを測定した。また、得られたフィルムについて、全光線透過率とヘイズを測定した。
【0055】
<重量平均分子量の測定方法>
ポリカーボネート樹脂(A)およびポリアリレート樹脂(B)の重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより、以下のようにして行った。
ゲル浸透クロマトグラフィー装置には、LC-20AD system(島津製作所社製)を用い、カラムとして、LF-804(Shodex社製)を接続して用いた。カラム温度は40℃とした。検出器はRID-10A(島津製作所社製)のRI検出器を用いた。溶離液として、クロロホルムを用い、検量線は、東ソー社製の標準ポリスチレンを使用して作成した。
上記ゲル浸透クロマトグラフィー装置、カラム、および、検出器が入手困難な場合、同等の性能を有する他の装置等を用いて測定する。
【0056】
<ガラス転移温度(Tg)の測定>
ポリカーボネート樹脂(A)およびポリアリレート樹脂(B)、ならびに、組成物のガラス転移温度(Tg)は、下記のDSCの測定条件のとおりに、昇温、降温を2サイクル行い、2サイクル目の昇温時のガラス転移温度を測定した。
低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、変曲点の接線の交点を開始ガラス転移温度とし、高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、変曲点の接線の交点を終了ガラス転移温度とし、開始ガラス転移温度と終了ガラス転移温度の中間地点をガラス転移温度(Tg)とした。測定開始温度:30℃、昇温速度:10℃/分、到達温度:250℃、降温速度:20℃/分とした。
測定装置は、示差走査熱量計(DSC、日立ハイテクサイエンス社製、「DSC7020」)を使用した。
【0057】
<極限粘度および粘度平均分子量の測定方法>
ポリカーボネート樹脂(A)およびポリアリレート樹脂(B)の極限粘度[η](単位dL/g)は、溶媒としてメチレンクロライドを使用して測定した。温度は25℃条件とした。ウベローデ粘度計にて、各溶液濃度[C](g/dL)での比粘度[η
sp]を測定した。得られた比粘度の値と濃度から下記式により極限粘度を算出した。
【数1】
【0058】
粘度平均分子量[Mv]は、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10-4Mv0.83から算出した。
【0059】
<組成物の溶融粘度の測定>
組成物(得られたペレット)を120℃で5時間乾燥した。その後、キャピラリーレオメーターを用いて、300℃にて、長さ10mm×直径1.0mmのノズル穴(オリフィス)から樹脂を押し出した。このときの、せん断速度122sec-1におけるせん断粘度(単位:Pa・s)を測定し、溶融粘度とした。
キャピラリーレオメーターとしては、東洋精機製作所社製「キャピログラフ1B」(商品名)を用いた。
【0060】
<全光線透過率およびヘイズの測定>
上記で得られた厚さ500μmのフィルムについて、ヘイズメーターを用いて、JIS-K-7361およびJIS-K-7136に準拠して、D65光源10°視野の条件にて、全光線透過率(%)およびヘイズ(%)を測定した。
ヘイズメーターとしては、村上色彩技術研究所社製「HM-150」(商品名)を用いた。
【0061】
【0062】