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特許7559783高分子多孔膜、電池用セパレータ、電極ユニット、電極フレームワーク、および電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】高分子多孔膜、電池用セパレータ、電極ユニット、電極フレームワーク、および電池
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/18 20060101AFI20240925BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20240925BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20240925BHJP
   H01M 50/491 20210101ALI20240925BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240925BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20240925BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20240925BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240925BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20240925BHJP
   C08J 9/00 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B32B5/18
H01M50/426
H01M50/414
H01M50/491
H01M50/489
H01M50/449
H01M50/46
H01M4/13
H01M50/403 D
C08J9/00 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022021026
(22)【出願日】2022-02-15
(65)【公開番号】P2023118206
(43)【公開日】2023-08-25
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】政岡 壮太
(72)【発明者】
【氏名】松延 広平
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/147187(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/031713(WO,A1)
【文献】特開2021-140962(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0280942(US,A1)
【文献】国際公開第2014/208592(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03015506(EP,A1)
【文献】国際公開第2005/054350(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0128512(US,A1)
【文献】特開平06-296840(JP,A)
【文献】特開2020-123453(JP,A)
【文献】国際公開第2012/137375(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08J 9/00- 9/42
H01M 50/40-50/497
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1層と、
第2層と、
を含み、
前記第1層は、多孔質であり、
前記第1層は、三次元網目構造を有し、
前記第1層は、500~2000nmの平均細孔径を有し、
前記第2層は、0.5~1.5μmの厚さを有し、
前記第2層は、拡大倍率が5万倍である画像において、非多孔質であり、
下記式(I):
前記第2層の割合(%)=(t2/t0)×100 (I)
(t0は高分子多孔膜の厚さを示し、t2は前記第2層の厚さを示す。)
により求まる前記第2層の割合が、0%より大きく10%未満である、
高分子多孔膜。
【請求項2】
前記第2層は、2~8%の割合を有する、
請求項1に記載の高分子多孔膜。
【請求項3】
前記三次元網目構造は、連続気孔構造を含む、
請求項1または請求項2に記載の高分子多孔膜。
【請求項4】
エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリフッ化ビニリデンおよびポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種を含む、
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の高分子多孔膜。
【請求項5】
32~600s/100mlの透気度を有する、
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の高分子多孔膜。
【請求項6】
50~72%の空孔率を有する、
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の高分子多孔膜。
【請求項7】
16~25μmの厚さを有する、
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の高分子多孔膜。
【請求項8】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の高分子多孔膜を含む、
電池用セパレータ。
【請求項9】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の高分子多孔膜と、
電極と、
を含み、
前記高分子多孔膜は、前記電極の表面に付着している、
電極ユニット。
【請求項10】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の高分子多孔膜を含む、
電極フレームワーク。
【請求項11】
第1電極と、
セパレータと、
第2電極と、
電解液と、
を含み、
前記第2電極は、前記第1電極と異なる極性を有し、
前記セパレータは、前記第2電極を前記第1電極から分離しており、
前記セパレータは、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の高分子多孔膜を含む、
電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高分子多孔膜、電池用セパレータ、電極ユニット、電極フレームワーク、電池、および高分子多孔膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2020-123453号公報(特許文献1)は、相分離法によりセパレータ層を形成することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-123453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多成分溶液の乾燥過程で誘起される相分離(以下「乾燥誘起相分離」とも記される。)により、高分子多孔膜を形成することが提案されている。高分子多孔膜は、例えば電池用セパレータとして利用され得る。以下、高分子多孔膜が「多孔膜」と略記され得る。
【0005】
多成分溶液は、高分子材料と良溶媒と貧溶媒とを含む。乾燥時、溶液の表面から溶媒が気化する。これにより、溶液の表層と、溶液のバルクとの間に組成差が生じ得る。その結果、多孔膜は、第1層と第2層とを含むように形成され得る。第1層は、多孔膜の基層である。第1層は、三次元網目構造を有し得る。第2層は、多孔膜の最表面に形成され得る。第2層は、非多孔質である。第2層は、5万倍のSEM(Scanning Electron Microscope)画像においても、細孔の存在が確認できない。
【0006】
電池内において、第2層(非多孔質層)は、イオンの透過を阻害し得る。すなわち多孔膜が第2層を含む場合、多孔膜がセパレータとして機能しない可能性がある。
【0007】
本開示の目的は、新規な高分子多孔膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし本明細書の作用メカニズムは推定を含む。作用メカニズムは本開示の技術的範囲を限定しない。
【0009】
1.高分子多孔膜は、第1層と第2層とを含む。第1層は多孔質である。第1層は、三次元網目構造を有する。第2層は、拡大倍率が5万倍である画像において、非多孔質である。第2層の割合は、0%より大きく10%未満である。
第2層の割合は、下記式(I)により求まる。
第2層の割合(%)=(t2/t0)×100 (I)
「t0」は、高分子多孔膜の厚さを示す。
「t2」は、第2層の厚さを示す。
【0010】
本開示の新知見によると、膜全体に対して、第2層(非多孔質層)が占める割合が、10%未満になると、第2層がイオン透過性を示すようになる。すなわち、10%未満の割合で第2層を含む多孔膜は、セパレータとして機能し得る。さらに、第2層が存在することにより、メリットが得られることも分かってきた。すなわち、第2層の存在により、電池の短絡耐性が向上することが期待される。第2層がデンドライトの成長を阻害するためと考えられる。
【0011】
2.第2層は、例えば2~8%の割合を有していてもよい。
【0012】
3.第2層は、例えば0.5~1.5μmの厚さを有していてもよい。
【0013】
4.第1層は、例えば500~2000nmの平均細孔径を有していてもよい。
【0014】
5.三次元網目構造は、例えば連続気孔構造を含んでいてもよい。
【0015】
例えば、泡状の気孔が部分的に重なり合うことにより、三次元網目構造が形成されてもよい。
【0016】
6.高分子多孔膜は、例えば、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、およびポリビニルアルコール(PVA)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0017】
多孔膜の原料は、非水溶性高分子であってもよいし、水溶性高分子であってもよい。
【0018】
7.高分子多孔膜は、例えば32~600s/100mlの透気度を有していてもよい。
【0019】
8.高分子多孔膜は、例えば50~72%の空孔率を有していてもよい。
【0020】
9.高分子多孔膜は、例えば16~25μmの厚さを有していてもよい。
【0021】
10.電池用セパレータは、高分子多孔膜を含む。
【0022】
多孔膜は、例えば、電池用セパレータとして使用され得る。以下「電池用セパレータ」が「セパレータ」と略記され得る。
【0023】
11.電極ユニットは、高分子多孔膜と電極とを含む。高分子多孔膜は、電極の表面に付着している。
【0024】
多孔膜は、例えば、電極ユニットに使用されてもよい。電極ユニットは、セパレータと電極とが一体となった部材である。
【0025】
12.電極フレームワークは、高分子多孔膜を含む。
【0026】
13.電池は、第1電極と、セパレータと、第2電極と、電解液とを含む。第2電極は、第1電極と異なる極性を有する。セパレータは、第2電極を第1電極から分離している。セパレータは、高分子多孔膜を含む。
【0027】
上記「13.」の電池は、上記「10.」のセパレータおよび「11.」の電極ユニットの少なくとも一方を含み得る。
【0028】
14.電池は、第1電極と、第2電極と、電解液とを含む。第2電極は、第1電極と異なる極性を有する。第2電極は、電極フレームワークを含む。第2電極は、第1層内の空隙における、金属の析出反応により充電され、かつ金属の溶解反応により放電されるように構成されている。
【0029】
本開示は、多孔膜の新規用途も提供する。電極フレームワークは、溶解析出型の電池において、活物質(金属)に反応場を提供する。金属は、電極フレームワーク(第1層)内の空隙において溶解し、かつ析出し得る。溶解析出型の電池は、高容量を有することが期待される。従来、溶解析出型の電池は、デンドライトが課題である。すなわち、金属のデンドライトが成長することにより、内部短絡が発生する可能性がある。例えば、第1層の空孔(泡状の気孔)内に金属が析出することにより、金属がデンドライトにならず、塊状になることが期待される。また、金属の溶解、析出に伴う、電極の体積変化が緩和されることも期待される。さらに、第2層が存在することにより、金属が第1層内に閉じ込められることが期待される。
【0030】
15.高分子多孔膜の製造方法は、下記(a)~(c)を含む。
(a)高分子材料と良溶媒と貧溶媒とを混合することにより、高分子溶液を準備する。
(b)高分子溶液の液膜を形成する。
(c)液膜を乾燥することにより、高分子多孔膜を製造する。
貧溶媒は、良溶媒に比して高い沸点を有する。
高分子多孔膜は、第1層と第2層とを含む。第1層は、多孔質である。第1層は、三次元網目構造を有する。第2層は、拡大倍率が5万倍である画像において、非多孔質である。第2層の厚さの割合は、0%より大きく10%未満である。第2層の厚さの割合は、上記式(I)により求まる。
【0031】
多孔膜は、乾燥誘起相分離により形成され得る。例えば、「高分子材料、良溶媒、および貧溶媒の種類」、「材料の組み合わせ」、「材料の配合比」、ならびに「乾燥条件」等の組み合わせにより、第2層の割合が調整され得る。
【0032】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」と略記され得る。)、および本開示の実施例(以下「本実施例」と略記され得る。)が説明される。ただし、本実施形態および本実施例は、本開示の技術的範囲を限定しない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、本実施形態における高分子多孔膜の断面SEM画像の一例である。
図2図2は、本実施形態における高分子多孔膜を示す概略断面図である。
図3図3は、本実施形態における高分子多孔膜の製造方法の概略フローチャートである。
図4図4は、本実施形態における第1電池の構成を示す概略断面図である。
図5図5は、本実施形態における第2電池の構成を示す概略断面図である。
図6図6は、No.1~5の断面および表面SEM画像である。
図7図7は、No.6~8の断面および表面SEM画像である。
図8図8は、直流内部抵抗の測定結果を示すグラフである。
図9図9は、初回充放電の結果を示すグラフである。
図10図10は、No.9~11の断面SEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
<用語の定義等>
「備える」、「含む」、「有する」、および、これらの変形(例えば「から構成される」等)の記載は、オープンエンド形式である。オープンエンド形式は必須要素に加えて、追加要素をさらに含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。「からなる」との記載はクローズド形式である。ただしクローズド形式であっても、通常において付随する不純物であったり、本開示技術に無関係であったりする付加的な要素は排除されない。「実質的に…からなる」との記載はセミクローズド形式である。セミクローズド形式においては、本開示技術の基本的かつ新規な特性に実質的に影響しない要素の付加が許容される。
【0035】
「してもよい」、「し得る」等の表現は、義務的な意味「しなければならないという意味」ではなく、許容的な意味「する可能性を有するという意味」で使用されている。
【0036】
単数形で表現される要素は、特に断りの無い限り、複数形も含む。例えば「粒子」は「1つの粒子」のみならず、「粒子の集合体(粉体、粉末、粒子群)」も意味し得る。
【0037】
各種方法に含まれる複数のステップ、動作および操作等は、特に断りのない限り、その実行順序が記載順序に限定されない。例えば、複数のステップが同時進行してもよい。例えば複数のステップが相前後してもよい。
【0038】
例えば「m~n%」等の数値範囲は、特に断りのない限り、上限値および下限値を含む。すなわち「m~n%」は、「m%以上n%以下」の数値範囲を示す。また「m%以上n%以下」は「m%より大きくn%未満」を含む。「m%より大きく」は「m%超」とも記される。さらに数値範囲内から任意に選択された数値が、新たな上限値または下限値とされてもよい。例えば、数値範囲内の数値と、本明細書中の別の部分、表中、図中等に記載された数値とが任意に組み合わされることにより、新たな数値範囲が設定されてもよい。
【0039】
全ての数値は用語「約」によって修飾されている。用語「約」は、例えば±5%、±3%、±1%等を意味し得る。全ての数値は、本開示技術の利用形態によって変化し得る近似値であり得る。全ての数値は有効数字で表示され得る。測定値は、複数回の測定における平均値であり得る。測定回数は、3回以上であってもよいし、5回以上であってもよいし、10回以上であってもよい。一般に測定回数が多い程、平均値の信頼性が向上することが期待される。測定値は有効数字の桁数に基づいて、四捨五入により端数処理され得る。測定値は、例えば測定装置の検出限界等に伴う誤差等を含み得る。
【0040】
化合物が化学量論的組成式(例えば「LiCoO2」等)によって表現されている場合、該化学量論的組成式は該化合物の代表例に過ぎない。化合物は、非化学量論的組成を有していてもよい。例えば、コバルト酸リチウムが「LiCoO2」と表現されている時、特に断りのない限り、コバルト酸リチウムは「Li/Co/O=1/1/2」の組成比に限定されず、任意の組成比でLi、CoおよびOを含み得る。さらに、微量元素によるドープ、置換等も許容され得る。
【0041】
幾何学的な用語(例えば「平行」、「垂直」、「直交」等)は、厳密な意味に解されるべきではない。例えば「平行」は、厳密な意味での「平行」から多少ずれていてもよい。本明細書における幾何学的な用語は、例えば、設計上、作業上、製造上等の公差、誤差等を含み得る。各図中の寸法関係は、実際の寸法関係と一致しない場合がある。本開示技術の理解を助けるために、各図中の寸法関係(長さ、幅、厚さ等)が変更されている場合がある。さらに一部の構成が省略されている場合もある。
【0042】
「多孔膜の厚さ」は、定圧厚さ測定器により測定され得る。例えば、テックロック社製の製品名「PG-01」(またはこれと同等品)が使用され得る。測定圧力は0.8Nである。
【0043】
多孔膜の構造は、次の手順で特定され得る。多孔膜から所定のサイズの試料が切り出される。試料の帯電を低減するため、試料に対して白金(Pt)がコーティングされる。試料が液体窒素に投入される。試料が十分冷却される。冷却後、試料が割断される。試料の割断面が、電界放出形走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope,FE-SEM)により観察される。例えばJEOL社製の製品名「JSM-7100F」(またはこれと同等品)が使用されてもよい。
【0044】
図1は、本実施形態における高分子多孔膜の断面SEM画像の一例である。5万倍の倍率で多孔膜の表層が観察される。ランダムに抽出された10箇所において、多孔膜の表面に開口する開気孔が存在しない場合、「拡大倍率が5万倍である画像において、非多孔質である」第2層が存在するとみなされる。なお、イオンが第2層を透過していることから、5万倍では確認できないナノスケールの細孔が、第2層に形成されている可能性がある。例えば、100nm以下の最大フェレ径を有する細孔が形成されている可能性がある。
【0045】
第2層の厚さ(t2)が測定される。前述の定圧厚さ測定器により、多孔膜の厚さ(t0)が測定される。上記式(I)により、第2層の割合が求まる。
【0046】
「平均細孔径」は、次の手順で求まる。第1層の断面SEM画像が準備される。画像の倍率は、例えば2千~5千倍であってもよい。断面SEM画像において、第1層が観察される。100個の細孔(泡状の気孔)の最大フェレ径が測定される。100個の最大フェレ径の算術平均が、平均細孔径とみなされる。
【0047】
「透気度」は、「JIS P8117」に規定される「透気抵抗度(air resistance)」を示す。透気度は、ガーレー試験機によって測定され得る。例えば、東洋精機製作所製のガーレー式デンソメーター(またはこれと同等品)が使用され得る。
【0048】
「空孔率」は、次の手順で測定される。多孔膜から所定のサイズの試料が切り出される。例えば、打ち抜きポンチ等が使用されてもよい。試料の質量および厚さが測定される。試料の面積と厚さとから、試料の体積が求まる。試料の質量と体積とから、見かけ密度が求まる。下記式(II)により、空孔率が求まる。
空孔率(%)={1-ρ/ρ0}×100 (II)
「ρ」は、試料の見かけ密度を示す。
「ρ0」は、高分子材料(試料の構成材料)の真密度を示す。
【0049】
ある液体材料が高分子材料に対して「良溶媒」であるか、または「貧溶媒」であるかは、次の基準により特定され得る。100質量部の液体材料に対して、2.5質量部以上の高分子材料が溶解し得る場合、液体材料は良溶媒とみなされる。100質量部の液体材料に対して、高分子材料が1質量部以上溶解しない場合、液体材料は貧溶媒とみなされる。
【0050】
電流の時間率は、記号「C」によって表される。「1C」の電流は、電池の定格容量を1時間で放電する。充放電条件における「CC(Constant Current)」は定電流方式を示し、「CCCV(Constant Current - Constant Voltage)」は定電流-定電圧方式を示す。
【0051】
「電極」は、正極および負極の総称である。電極は、正極であってもよいし、負極であってもよい。
【0052】
「平均重合度」は、一般的な方法により測定され得る。例えば、NMR(Nuclear magnetic resonance)により、高分子材料の平均重合度が測定されてもよい。
【0053】
「非水溶性高分子」は、25℃の水に対する溶解度が、質量分率で1%未満である高分子を示す。非水溶性高分子の溶解度は、0.5%以下であってもよいし、0.2%以下であってもよいし、0.1%以下であってもよい。「水溶性高分子」は、25℃の水に対する溶解度が、質量分率で1%以上である高分子を示す。
【0054】
<高分子多孔膜>
図2は、本実施形態における高分子多孔膜を示す概略断面図である。多孔膜5は、第1層1と第2層2とを含む。多孔膜5は、任意の用途で使用され得る。多孔膜5は、例えば、用途に応じて任意の膜特性を有し得る。例えば、後述のセパレータと、電極フレームワークとでは、好適な膜特性が異なる可能性もある。
【0055】
《膜厚》
多孔膜5は、例えば、1~100μmの厚さを有していてもよいし、5~50μmの厚さを有していてもよいし、10~30μmの厚さを有していてもよいし、16~25μmの厚さを有していてもよい。
【0056】
《透気度》
多孔膜5は、例えば、10~1000s/100mlの透気度を有していてもよいし、32~600s/100mlの透気度を有していてもよいし、125~385s/100mlの透気度を有していてもよいし、125~300s/100mlの透気度を有していてもよい。
【0057】
《空孔率》
多孔膜5は、例えば、10~90%の空孔率を有していてもよいし、40~80%の空孔率を有していてもよいし、50~80%の空孔率を有していてもよいし、50~72%の空孔率を有していてもよいし、64~72%の空孔率を有していてもよい。
【0058】
《組成》
多孔膜5は、任意の高分子材料により構成され得る。高分子材料は、例えば、非水溶性であってもよいし、水溶性であってもよい。高分子材料は、電気絶縁性であってもよい。高分子材料は、例えば、非イオン伝導性であってもよい。高分子材料は、例えば、非膨潤性であってもよい。高分子材料は、例えば、EVOH、PVDF、およびPVAからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0059】
《第1層》
第1層1は、多孔膜5の基層である。多孔膜5は、厚さの割合で、0%超10%未満の第2層2と、残部の第1層1とを含んでいてもよい。第1層1は多孔質である。第1層1は、三次元網目構造を有する。例えば、泡状の気孔が部分的に重なり合うことにより、三次元網目構造が形成されてもよい。すなわち三次元網目構造は、連続気孔構造を含んでいてもよい。第1層1における平均細孔径は、例えば100~5000nmであってもよいし、500~2000nmであってもよいし、500~1000nmであってもよい。
【0060】
《第2層》
第2層2は、多孔膜5の表層である。第2層2は、多孔膜5の片方の主面に形成されている。第2層2は、第1層1に積層されている。第2層2は、5万倍の観察において非多孔質である。第2層2は、イオン透過性を有する。第2層2は、デンドライトの成長を阻害し得る。
【0061】
第2層2の割合は、0%超10%未満である。第2層2の割合は、例えば、2~8%であってもよいし、2~7%であってもよいし、2~6%であってもよいし、2~5%であってもよい。第2層2の割合は、例えば、4~8%であってもよいし、5~8%であってもよいし、6~8%であってもよいし、7~8%であってもよい。
【0062】
第2層2は、例えば、0.1~2μmの厚さを有していてもよいし、0.5~1.5μmの厚さを有していてもよいし、0.5~1.0μmの厚さを有していてもよいし、1.0~1.5μmの厚さを有していてもよい。
【0063】
<高分子多孔膜の製造方法>
図3は、本実施形態における高分子多孔膜の製造方法の概略フローチャートである。以下「本実施形態における高分子多孔膜の製造方法」が「本製造方法」と略記され得る。本製造方法は、「(a)高分子溶液の準備」、「(b)液膜の形成」および「(c)乾燥」を含む。
【0064】
《(a)高分子溶液の準備》
本製造方法は、高分子材料と良溶媒と貧溶媒とを混合することにより、高分子溶液を準備することを含む。高分子材料は、例えば、70~500000の平均重合度を有していてもよいし、100~200000の平均重合度を有していてもよい。
【0065】
良溶媒および貧溶媒は、高分子材料の種類に応じて選択される。貧溶媒は、良溶媒に比して高い沸点を有する。貧溶媒の沸点は、良溶媒の沸点に比して、例えば10℃以上高くてもよい。貧溶媒の沸点は、良溶媒の沸点に比して、例えば90~300℃高くてもよい。
【0066】
例えば、高分子材料がEVOH、PVA等である時、良溶媒は、例えば、水、アルコール、およびジメチルスルホキシド(DMSO)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。良溶媒は、例えば、水、n-プロピルアルコール(nPA)、およびisо-プロピルアルコール(iPA)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。貧溶媒は、例えば、環状エステル、アルコール、ジオールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。貧溶媒は、例えば、γ-ブチロラクトン(GBL)、へキシレングリコール(HG)、およびジエチレングリコールモノメチルエーテル(DEGEE)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0067】
例えば、高分子材料がPVDF等である時、良溶媒は、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)およびDMSOからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。貧溶媒は、例えば、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。貧溶媒は、例えば、1,4-ブタンジオール、およびグリセリンからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0068】
高分子材料、良溶媒、および貧溶媒は、所定の配合で混合される。良溶媒の配合量は、1質量部の高分子材料に対して、例えば、2~10質量部であってもよいし、4~8質量部であってもよいし、5~6.6質量部であってもよい。貧溶媒の配合量は、1質量部の高分子材料に対して、例えば、1~5質量部であってもよいし、1~3質量部であってもよいし、1.5~2.3質量部であってもよいし、1.5~2.0質量部であってもよい。
【0069】
高分子材料、良溶媒、および貧溶媒は、高分子材料が完全に溶解するように混合される。高分子材料の溶解を促進するため、例えば、高分子溶液が加熱されてもよい。加熱温度は、例えば、80~90℃であってもよい。高分子材料が溶解した後、高分子溶液は室温(25℃)まで冷却されてもよい。高分子溶液は均一相を形成し得る。
【0070】
《(b)液膜の形成》
本製造方法は、高分子溶液の液膜を形成することを含む。例えば、基材の表面に高分子溶液が塗布されることにより、液膜が形成されてもよい。塗布方法は任意である。例えば、キャスト法、スピンコート法等により高分子溶液が塗布されてもよい。例えば、液膜の厚さにより、高分子多孔膜の厚さが調整され得る。基材は、例えば、金属箔等であってもよい。基材は、例えば、電池用電極であってもよい。
【0071】
《(c)乾燥》
本製造方法は、液膜を乾燥することにより、高分子多孔膜を製造することを含む。乾燥方法は任意である。例えば、ホットプレート上において、液膜が乾燥されてもよい。乾燥温度は、例えば、80~150℃であってもよい。液膜が乾燥することにより、多孔膜5が形成され得る。例えば、次のメカニズムにより三次元網目構造が形成されると考えられる。
【0072】
乾燥中、良溶媒は貧溶媒に先行して気化し得る。貧溶媒の沸点が、良溶媒の沸点より高いためである。良溶媒の減少により、高分子溶液中の貧溶媒の濃度が相対的に増加する。高分子材料は、良溶媒に選択的に溶解するため、高分子材料と良溶媒とからなる相と、貧溶媒からなる相との分離が促進される。この分離は、スピノーダル分解であってもよい。相分離により、高分子材料が三次元網目構造の骨格を形成する。乾燥の初期段階においては、良溶媒リッチの溶媒が気化していく。乾燥の進行と共に、貧溶媒の比率が増大していく。乾燥の後期段階においては、貧溶媒リッチの溶媒が気化していく。溶媒の減少に伴って、高分子材料が析出する。さらに、貧溶媒が気化することにより、空孔が形成される。
【0073】
多孔膜5は、第1層1と第2層2とを含むように形成される。本製造方法においては、第2層2の割合が0%超10%未満になるように、各種条件が調整される。例えば、「高分子材料、良溶媒、および貧溶媒の種類」、「材料の組み合わせ」、「材料の配合比」、ならびに「乾燥条件」等の組み合わせにより、第2層2の割合が調整され得る。
【0074】
多孔膜5の形成後、基材が除去されてもよい。例えば、基材が金属箔である時、エッチング液により金属箔が除去され得る。基材が除去されることにより、多孔膜5(自立膜)が形成され得る。例えば、電極の表面に多孔膜5が形成されることにより、電極ユニットが製造されてもよい。
【0075】
<第1電池>
多孔膜5は、例えばセパレータとして使用され得る。図4は、本実施形態における第1電池の構成を示す概略断面図である。第1電池100は、例えば、リチウムイオン二次電池等であってもよい。第1電池100は、密閉容器(不図示)を含んでいてもよい。密閉容器内に、第1電極10と、セパレータ30と、第2電極20と、電解液(不図示)とが収納されていてもよい。第2電極20は、第1電極10と異なる極性を有する。例えば、第1電極10が正極である時、第2電極20は負極である。第1電極10は、負極であってもよいし、正極であってもよい。各電極は、活物質を含む。各電極は、例えば、インサーション材料を含んでいてもよい。正極は、例えば、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(NCM)等を含んでいてもよい。負極は、例えば、天然黒鉛(NG)等を含んでいてもよい。各電極は、例えば、導電材をさらに含んでいてもよい。各電極は、例えば、アセチレンブラック(AB)等を含んでいてもよい。各電極は、例えば、バインダをさらに含んでいてもよい。各電極は、例えばPVDF、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等を含んでいてもよい。
【0076】
電解液は、例えば、リチウム(Li)塩と溶媒とを含む。Li塩は、例えばLiPF6等を含んでいてもよい。Li塩の濃度は、例えば、0.5~2mоl/Lであってもよい。溶媒は、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)およびジエチルカーボネート(DEC)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0077】
《電池用セパレータ》
セパレータ30の少なくとも一部は、第1電極10と第2電極20との間に介在している。セパレータ30は、第2電極20を第1電極10から分離している。
【0078】
セパレータ30は、多孔膜5を含む。セパレータ30は、単一の多孔膜5からなっていてもよい。セパレータ30は、複数の多孔膜5を含んでいてもよい。例えば、複数の多孔膜5が積層されることにより、セパレータ30が形成されていてもよい。例えば、第2層2の上に、第1層1が積層されるように、複数の多孔膜5が順次積層されてもよい。例えば、第2層2同士が接触するように、2つの多孔膜5が積層されてもよい。この場合、セパレータ30の中心付近に第2層2が配置されることになる。
【0079】
セパレータ30は、多孔膜5に加えて、追加の構成をさらに含んでいてもよい。例えば、多孔膜5の表面に耐熱層(不図示)が形成されてもよい。例えば、多孔膜5の表面にセラミック粒子が塗布されることにより、耐熱層が形成されてもよい。
【0080】
多孔膜5は、第1層1(多孔質層)と第2層2(非多孔質層)とを含む。正極と負極との間に、第2層2が介在することにより、短絡耐性の向上が期待される。負極から正極に向かって延びるデンドライトの成長を、第2層2が阻害するためと考えられる。第2層2の割合が10%未満であることにより、所望の電池抵抗が実現され得る。第2層2は、正極に対向していてもよいし、負極に対向していてもよい。
【0081】
《電極ユニット》
セパレータ30(多孔膜5)は、第1電極10の表面に付着していてもよい。セパレータ30が第1電極10と一体化することにより、電極ユニット40が形成される。すなわち、電極ユニット40は、多孔膜5と第1電極10とを含む。勿論、第1電極10は正極であってもよいし、負極であってもよい。例えば、第1電極10を基材として、その表面で多孔膜5が製造されることにより、電極ユニット40が製造され得る。セパレータ30が電極と一体であることにより、例えば、部品点数の低減、電池組立の簡略化等が期待され得る。
【0082】
第1電極10は、例えば、第1集電体11と第1活物質層12とを含んでいてもよい。第1集電体11は、例えば金属箔等を含んでいてもよい。第1集電体11は、例えばアルミニウム(Al)箔等を含んでいてもよい。第1活物質層12は、活物質を含む。活物質は粒子であってもよい。第1活物質層12は、例えば導電材、バインダ等をさらに含んでいてもよい。多孔膜5は、例えば、第1活物質層12の表面に付着していてもよい。
【0083】
<第2電池>
多孔膜5は、例えば電極フレームワークとして使用され得る。図5は、本実施形態における第2電池の構成を示す概略断面図である。第2電池200は、溶解析出型である。第2電池200は、例えばリチウム金属二次電池等であってもよい。第2電池200は、密閉容器(不図示)を含んでいてもよい。密閉容器内に、第1電極10と、第2電極20と、電解液(不図示)とが収納されていてもよい。第1電極10と第2電極20との間に、セパレータ30が配置されていてもよい。セパレータ30は、例えば、ポリオレフィン製の多孔膜、不織布等を含んでいてもよい。セパレータ30は、例えば、延伸法により製造されていてもよい。
【0084】
第2電極20は、第1電極10と異なる極性を有する。第2電極20は、例えば、負極であってもよい。第2電極20は、電極フレームワーク23を含む。第2電極20は、第2集電体21をさらに含んでいてもよい。第2集電体21は、例えば銅(Cu)箔等を含んでいてもよい。電極フレームワーク23は、第2集電体21に支持されていてもよい。電極フレームワーク23は、第2集電体21の表面に付着していてもよい。
【0085】
第2電極20は、溶解析出型の活物質を含む。活物質は、例えば、Li金属、マグネシウム(Mg)金属、カルシウム(Ca)金属、およびAl金属からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0086】
電極フレームワーク23は、多孔膜5を含む。多孔膜5は、第1層1(多孔質層)と第2層2(非多孔質層)とを含む。第2電極20の充電時、第1層1内の空隙において、金属(活物質)が析出し得る。第2電極20の放電時、第1層1内の空隙において、金属が電解液に溶解し得る。溶解析出型の活物質(金属)は、析出時にデンドライトを形成しやすい傾向がある。第1層1の空隙(泡状の気孔)内に、金属が析出することにより、金属の析出形態が塊状になることが期待される。
【0087】
通常、溶解析出型の電極は、充放電(金属の溶解析出)に伴って、その体積が大きく変化する。第1層1(三次元網目構造)内において、金属の溶解析出が起こることにより、第2電極20の体積変化が緩和されることが期待される。
【0088】
さらに、多孔膜5が第2層2(非多孔質層)を含むことにより、金属が第1層1内に閉じ込められることが期待される。金属が第1層1内に閉じ込められることにより、例えば、サイクル寿命の向上等が期待される。
【実施例
【0089】
<実験1>
実験1においては、非水溶性高分子を原料として、No.1~8に係る多孔膜が製造された。以下、例えば「No.1に係る多孔膜」が「No.1」と略記され得る。
【0090】
《多孔膜の製造》
No.1
下記材料が準備された。
高分子材料:EVOH(製品名「エバール L171B」、クラレ社製)
良溶媒:水、nPA、iPA
貧溶媒:GBL、HG
基材:Cu箔
【0091】
試料容器に、1質量部のEVOHと、3.3質量部の水と、3.3質量部のiPAと、2.0質量部のHGとが投入された。試料容器が80~90℃に加熱された。目視確認において、EVOHが完全に溶解するまで、350rpmの回転数で、混合物が攪拌された。これにより高分子溶液が得られた。さらに高分子溶液が25℃まで冷却された。
【0092】
冷却後の高分子溶液が、キャスト法により基材の表面に塗布された。これにより液膜が形成された。ホットプレート乾燥機(設定温度:100℃)に、液膜付きの基材が入れられた。液膜が20分間乾燥された。良溶媒および貧溶媒が気化することにより、基材の表面に多孔膜が形成された。エッチング液により、多孔膜が基材から分離された。
【0093】
No.2~8
下記表1に示されるように、良溶媒の種類および使用量、貧溶媒の種類および使用量、ならびに乾燥温度が変更されることを除いては、No.1と同様に、多孔膜が製造された。各種条件の変更により、第2層の割合が変化することがわかる。
【0094】
《評価》
膜特性
前述の方法により、「多孔膜の厚さ」、「空孔率」、「透気度」、「平均細孔径」が測定された。結果は下記表1に示される。「透気度」の項目において、「>600」は、値が600を超えることを示し、「10<」は、値が10未満であることを示す。
【0095】
第2層の割合
前述の方法により、「第2層の厚さ」、「第2層の割合」が測定された。結果は下記表1に示される。
【0096】
電池特性
試験電池(コインセル)において、直流内部抵抗が測定された。試験電池の構成は下記のとおりであった。
【0097】
正極
形状:円盤状(直径:14mm)
活物質層の組成:NCM/AB/PVDF=88.8/9.4/1.8(質量比)
集電体:Al箔
【0098】
セパレータ
形状:円盤状(直径:19mm)
組成:No.1~8に係る多孔膜
向き:第2層が負極と対向するように、多孔膜が正極と負極との間に配置される。
【0099】
負極
形状:円盤状(直径:16mm)
組成:NG/SBR/CMC=98.8/0.7/0.5(質量比)
集電体:Cu箔
【0100】
電解液
Li塩:LiPF6(濃度:1.1mоl/L)
溶媒:EC/DMC/EMC=3/4/3(体積比)
【0101】
下記条件により、試験電池の内部抵抗が測定された。1Cは、1.5mAに相当する。
【0102】
初回充放電
周囲温度:25℃
CCCV充電:0.2C、4.1V
CC放電:0.2C、3.0V
【0103】
抵抗測定
初回充放電後、再度、下記条件により、充放電が実施された。
周囲温度:25℃
CCCV充電:0.2C、4.1V
CC放電:0.2C、3.0V
【0104】
放電開始時の電圧と、放電開始から10秒経過後の電圧との差分から、直流内部抵抗が求められた。直流内部抵抗のうち、0~0.1秒の成分は、「直流+反応抵抗」とみなされた。直流内部抵抗のうち、0.1~10秒の成分は、「拡散抵抗」とみなされた。
【0105】
【表1】
【0106】
《結果》
図6は、No.1~5の断面および表面SEM画像である。No.1~5においては、多孔膜の最表面に、第2層(非多孔質層)が薄く形成されていた。
【0107】
図7は、No.6~8の断面および表面SEM画像である。No.6においては、多孔膜の最表面に、第2層(非多孔質層)が厚く形成されていた。No.7、8においては、多孔膜の表面に開気孔が確認された。すなわち、No.7、8においては、第2層(非多孔質層)が形成されていなかった。
【0108】
図8は、直流内部抵抗の測定結果を示すグラフである。No.6は、直流内部抵抗が非常に大きい。No.6において、第2層の割合は10%以上である(上記表1参照)。No.1~5は、所望の直流内部抵抗を示した。No.1~5において、第2層の割合は、10%未満である(上記表1参照)。なお、No.7、8は、初回充電時に短絡したため、直流内部抵抗が測定されていない。
【0109】
図9は、初回充放電の結果を示すグラフである。No.7は、充電中に短絡した。No.7は、第2層の割合が0%であった(上記表1参照)。No.1は、充放電可能であった。No.1は、第2層の割合が0%を超えていた(上記表1参照)。
【0110】
<実験2>
実験2においては、水溶性高分子を原料として、No.9~11に係る多孔膜が製造された。
【0111】
《多孔膜の製造》
No.9
下記材料が準備された。
高分子材料:PVA(製品名「ポバール PVA117」、クラレ社製)
良溶媒:水
貧溶媒:DEGEE
基材:Cu箔
【0112】
試料容器に、1.5質量部のPVAと、10質量部の水と、6質量部のDEGEEとが投入された。試料容器が80~90℃に加熱された。目視確認において、PVAが完全に溶解するまで、350rpmの回転数で、混合物が攪拌された。これにより高分子溶液が得られた。さらに高分子溶液が25℃まで冷却された。
【0113】
冷却後の高分子溶液が、キャスト法により基材の表面に塗布された。これにより液膜が形成された。ホットプレート乾燥機(設定温度:140℃)に、液膜付きの基材が入れられた。液膜が20分間乾燥された。良溶媒および貧溶媒が気化することにより、基材の表面に多孔膜が形成された。エッチング液により、多孔膜が基材から分離された。
【0114】
No.10、11
下記表2に示されるように、貧溶媒の使用量、乾燥温度が変更されることを除いては、No.1と同様に、多孔膜が製造された。各種条件の変更により、第2層の割合が変化することがわかる。
【0115】
《評価》
前述の方法により、「多孔膜の厚さ」、「空孔率」、「第2層の割合」が測定された。結果は下記表2に示される。
【0116】
【表2】
【0117】
《結果》
図10は、No.9~11の断面SEM画像である。水溶性高分子が原料であっても、第1層と第2層とを含む多孔膜が、製造可能であることがわかる。
【0118】
本実施形態および本実施例は、全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は、制限的ではない。本開示の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内における全ての変更を包含する。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも当初から予定されている。
【符号の説明】
【0119】
1 第1層、2 第2層、5 多孔膜、10 第1電極、20 第2電極、21 集電体、22 活物質層、23 電極フレームワーク、30 セパレータ、40 電極ユニット、100 第1電池、200 第2電池。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10