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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】楽譜編集装置
(51)【国際特許分類】
   G10G 1/04 20060101AFI20240925BHJP
【FI】
G10G1/04
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022044477
(22)【出願日】2022-03-18
(65)【公開番号】P2023138003
(43)【公開日】2023-09-29
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】植村 教裕
【審査官】大野 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-098161(JP,A)
【文献】特開2004-093900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10G 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移調前の楽譜の画像を第1の画像データとして認識する画像認識部と、
移調前の調と移調後の調との差を示すピッチ量の指定を受け付けるピッチ受付部と、
前記第1の画像データにおける音符を認識する音符認識部と、
前記第1の画像データから前記音符が削除された第2の画像データを出力する音符削除部と、
前記ピッチ受付部に指定されたピッチ量に基づいて、移調後の前記音符の画像を示す第3の画像データを出力する音符移調部と、
前記第2の画像データと前記第3の画像データとを合成することにより、移調後の楽譜の画像を示す第4の画像データを出力する合成部とを備える、楽譜編集装置。
【請求項2】
前記ピッチ受付部は、移調後の調の指定を受け付け、移調前の楽譜から移調前の調を検出し、検出された移調前の調と指定された移調後の調とに基づいてピッチ量の指定を受け付ける、請求項1記載の楽譜編集装置。
【請求項3】
前記音符認識部は、前記第1の画像データにおける五線をさらに認識し、
前記音符削除部は、前記第1の画像データから前記五線がさらに削除された前記第2の画像データを出力する、請求項1または2記載の楽譜編集装置。
【請求項4】
前記音符移調部は、前記ピッチ受付部に指定されたピッチ量に基づいて、認識された前記音符と前記五線とを相対的に移動させることにより、前記五線と移調後の前記音符の画像とを示す前記第3の画像データを出力する、請求項3記載の楽譜編集装置。
【請求項5】
前記音符認識部は、前記第1の画像データにおける音部記号、調号および拍子記号をさらに認識し、
前記音符削除部は、前記第1の画像データから前記音部記号、前記調号および前記拍子記号がさらに削除された前記第2の画像データを出力する、請求項3または4記載の楽譜編集装置。
【請求項6】
前記音符移調部は、移調後の前記調号と、前記音部記号および前記拍子記号とを異なる濃さまたは異なる色にして前記第3の画像データを出力する、請求項5記載の楽譜編集装置。
【請求項7】
前記音符移調部は、移調後の前記調号を前記音部記号と前記拍子記号との間の隙間に配置して前記第3の画像データを出力する、請求項5記載の楽譜編集装置。
【請求項8】
前記合成部は、前記五線の上方または下方に前記五線の間隔と等しい間隔でガイド直線を追加して前記第4の画像データを出力する、請求項3~7のいずれか一項に記載の楽譜編集装置。
【請求項9】
前記音符削除部は、音符、臨時記号、五線、音部記号、調号および拍子記号以外の音楽記号を周辺情報として含む前記第2の画像データを出力する、請求項1~8のいずれか一項に記載の楽譜編集装置。
【請求項10】
前記音符削除部は、移調後の前記音符に追従する位置に前記周辺情報を配置して前記第2の画像データを出力する、請求項9記載の楽譜編集装置。
【請求項11】
前記第4の画像データにおけるいずれかの音符の指定と、当該音符のピッチ量の指定とを受け付ける修正受付部をさらに備え、
前記合成部は、前記修正受付部に指定されたピッチ量に基づいて、指定された前記音符を修正して前記第4の画像データを更新する、請求項1~10のいずれか一項に記載の楽譜編集装置。
【請求項12】
前記音符削除部は、前記第1の画像データから楽譜要素が削除された前記第2の画像データを出力する際、削除を行うためのマスク画像を膨張または回転させることにより前記第1の画像データに含まれる前記楽譜要素を削除する、請求項1~11のいずれか一項に記載の楽譜編集装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽譜を編集する楽譜編集装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形式の楽譜を認識する技術が知られている。例えば、特許文献1に記載された楽譜認識装置においては、予め記憶された複数のパートテンプレートからスキャナで読み取られた楽譜に応じたパートテンプレートが選択される。選択されたパートテンプレートを用いて、スキャナで読み取られた楽譜に対し、自動的に修正が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-98161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された楽譜認識装置によれば、スキャナで読み取られた楽譜が移調楽器を反映した楽譜である場合には、調号の修正を行うことができる。しかしながら、特許文献1に記載された技術においては、移調された楽譜を生成することは困難である。
【0005】
本発明の目的は、移調された楽譜を生成することが可能な楽譜編集装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面に従う楽譜編集装置は、移調前の楽譜の画像を第1の画像データとして認識する画像認識部と、移調前の調と移調後の調との差を示すピッチ量の指定を受け付けるピッチ受付部と、第1の画像データにおける音符を認識する音符認識部と、第1の画像データから音符が削除された第2の画像データを出力する音符削除部と、ピッチ受付部に指定されたピッチ量に基づいて、移調後の音符の画像を示す第3の画像データを出力する音符移調部と、第2の画像データと第3の画像データとを合成することにより、移調後の楽譜の画像を示す第4の画像データを出力する合成部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、移調された楽譜を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施の形態に係る楽譜編集装置を含む処理システムの構成を示すブロック図である。
図2】楽譜編集装置の構成を示すブロック図である。
図3】画像認識部により認識された第1の画像データに基づく楽譜の画像の例を示す図である。
図4】第1のテキストデータから生成された画像データに基づく楽譜要素の画像の例を示す図である。
図5】第2の画像データに基づく楽譜の画像の例を示す図である。
図6】第3の画像データに基づく移調後の楽譜要素の画像の例を示す図である。
図7】第4の画像データに基づく移調後の楽譜の画像の例を示す図である。
図8】第1の変形例における移調後の楽譜の画像の例を示す部分拡大図である。
図9】第2の変形例における移調後の楽譜の画像の例を示す部分拡大図である。
図10】第3の変形例における移調後の楽譜の画像の例を示す部分拡大図である。
図11】第4の変形例を説明するための図である。
図12】第4の変形例における移調後の楽譜の画像の例を示す図である。
図13】第4の変形例における移調前後の楽譜の画像の例を示す部分拡大図である。
図14】第5の変形例における移調後の楽譜の画像の例を示す部分拡大図である。
図15】第6の変形例における移調後の楽譜の画像の例を示す部分拡大図である。
図16図2の楽譜編集装置による楽譜編集処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(1)処理システムの構成
以下、本発明の実施の形態に係る楽譜編集装置について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る楽譜編集装置を含む処理システムの構成を示すブロック図である。図1に示すように、処理システム100は、RAM(ランダムアクセスメモリ)110、ROM(リードオンリメモリ)120、CPU(中央演算処理装置)130、記憶部140、操作部150および表示部160を備える。
【0010】
処理システム100は、パーソナルコンピュータ、タブレット端末、スマートフォンまたはスマートグラス等のコンピュータにより実現される。あるいは、処理システム100は、イーサネット等の通信路により接続された複数のコンピュータの共同動作により実現されてもよいし、電子ピアノ等の演奏機能を備えた電子楽器により実現されてもよい。
【0011】
RAM110、ROM120、CPU130、記憶部140、操作部150および表示部160は、バス170に接続される。RAM110、ROM120およびCPU130により楽譜編集装置10が構成される。
【0012】
RAM110は、例えば揮発性メモリからなり、CPU130の作業領域として用いられる。ROM120は、例えば不揮発性メモリからなり、楽譜編集プログラムを記憶する。CPU130は、ROM120に記憶された楽譜編集プログラムをRAM110上で実行することにより楽譜編集処理を行う。楽譜編集処理の詳細については後述する。
【0013】
楽譜編集プログラムは、ROM120ではなく記憶部140に記憶されてもよい。あるいは、楽譜編集プログラムは、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶された形態で提供され、ROM120または記憶部140にインストールされてもよい。あるいは、処理システム100がインターネット等のネットワークに接続されている場合には、当該ネットワーク上のサーバ(クラウドサーバを含む。)から配信された楽譜編集プログラムがROM120または記憶部140にインストールされてもよい。
【0014】
記憶部140は、ハードディスク、光学ディスク、磁気ディスクまたはメモリカード等の記憶媒体を含む。記憶部140には、楽譜の画像(いわゆる静的楽譜)を示す画像データに含まれる種々の音楽記号を特定するためのテンプレート(楽譜描画用の記譜フォントを含む。)または深層学習等で使用される学習モデルの重みパラメータが予め記憶されている。
【0015】
操作部150は、マウス等のポインティングデバイスまたはキーボードを含み、楽譜編集装置10に所定の指定を行うために使用者により操作される。表示部160は、例えば液晶ディスプレイを含み、楽譜編集装置10による楽譜編集処理の結果を表示する。操作部150および表示部160は、タッチパネルディスプレイにより構成されてもよい。
【0016】
(2)楽譜編集装置の構成
図2は、楽譜編集装置10の構成を示すブロック図である。図2に示すように、楽譜編集装置10は、機能部として、画像認識部11、音符認識部12、音符削除部13、ピッチ受付部14、音符移調部15、合成部16および修正受付部17を含む。図1のCPU130が楽譜編集プログラムを実行することにより、楽譜編集装置10の機能部が実現される。楽譜編集装置10の機能部の少なくとも一部は、電子回路等のハードウエアにより実現されてもよい。
【0017】
画像認識部11は、記憶部140に記憶されたテンプレートまたは深層学習等による重み学習モデルに基づいて、与えられた楽譜の画像における種々の音楽記号を特定することにより、楽譜の画像を示す第1の画像データを認識する。図3は、画像認識部11により認識された第1の画像データに基づく楽譜の画像の例を示す図である。
【0018】
なお、本例では、移調に関係する音楽記号のみが認識されればよい。例えば、小節線または繰り返し記号等の移調に関係しない音楽記号は認識されなくてもよい。一方で、移調に関係しない音楽記号が認識されて図3の描画が行われることにより、後述する音符削除部13により他の記号と重なる線の一部が削除される場合であっても、線の明瞭な楽譜を生成することができる。線が歪んでいると認識および再描画が困難であるため、認識機能の性能または処理対象の楽譜の品質を考慮して、認識する記号と削除する記号とが決定されてもよい。
【0019】
使用者は、移調前の所望の楽譜の画像を画像認識部11に与えることができる。移調前の楽譜の画像は、スマートデバイスまたはスマートグラス等を通して視認可能なAR(拡張現実)における画像であってもよい。移調後の楽譜の画像についても同様である。図3の例では、ブルグミュラー25の練習曲第10番「Tendre fleur(やさしい花)」の楽譜が画像認識部11に与えられる。楽譜中の音符の上方または下方に付された数字は、当該音符をピアノにより演奏する際に使用する指を示す指番号である。
【0020】
音符認識部12は、画像認識部11により認識された第1の画像データにおける音符、臨時記号、五線、音部記号、調号または拍子記号(以下、楽譜要素と呼ぶ。)を認識する。また、音符認識部12は、認識された楽譜要素と、楽譜要素の座標とを示す第1のテキストデータを生成する。図4は、第1のテキストデータから記譜フォントまたは線等を描画して生成された画像データに基づく楽譜要素の画像の例を示す図である。図4に示すように、第1のテキストデータに基づいて、楽譜要素の画像を示すPNG(Portable Network Graphics)形式等の画像データを生成することが可能である。
【0021】
音符削除部13は、音符認識部12により生成された第1のテキストデータに基づいて、画像認識部11により認識された第1の画像データから楽譜要素が削除された第2の画像データを出力する。図5は、第2の画像データに基づく楽譜の画像の例を示す図である。図5に示すように、第2の画像データにおいては、第1の画像データに含まれていた音符、臨時記号、五線、音部記号、調号および拍子記号以外の音楽記号が周辺情報として残存する。周辺情報の例としては、演奏記号、書き込み、解説等があり、図5の例では、曲名および演奏記号(速度、強弱、発想標語、アーティキュレーション(スラーまたはスタッカート)および奏法(指番号またはペダル)等)が該当する。
【0022】
図5の楽譜の画像は、図3の楽譜の画像と図4の楽譜要素の画像との残差として生成することができる。すなわち、図4の画像は、図3の画像から楽譜要素を削除するためのマスク画像として用いられ、図3の画像の各画素と図4の画像の各画素との重複部分が削除される。なお、図3の画像から不要な部分を確実に削除するために、音符削除部13は、図4の画像データにおける音符、臨時記号、五線、音部記号、調号および拍子記号の部分がわずかに膨張するように、図4の画像データを生成してもよい。
【0023】
画像を膨張させる方法として、モルフォロジー演算(膨張処理)、または楽譜認識時に得られた記号ごとのバウンディングボックス(記号を囲む矩形)の領域をマスク画像に利用する方法が例として挙げられる。また、記号によっては斜めに傾いている場合がある(例:ト音記号、符頭またはセーニョ)ので、より精度の高いマスク画像(図4の画像)を生成するために回転処理を組み合わせてもよい。
【0024】
ピッチ受付部14は、ピッチ量の指定を使用者から受け付ける。使用者は、操作部150を操作することにより、移調前の調と移調後の調との差を示すピッチ量をピッチ受付部14に与えることができる。ピッチ量は、半音の数として与えられてもよいし、調号におけるシャープまたはフラットの数として与えられてもよい。
【0025】
あるいは、ピッチ受付部14は、調の指定を使用者から受け付けてもよい。この場合、ピッチ受付部14は、図2の点線の矢印で示すように、移調前の楽譜において音符認識部12により認識された音符から移調前の調を検出する。また、ピッチ受付部14は、検出された移調前の調と指定された移調後の調とを比較することにより、上記のピッチ量の指定を受け付ける。
【0026】
音符移調部15は、ピッチ受付部14により指定されたピッチ量に基づいて、移調後の楽譜要素と、楽譜要素の座標とを示す第2のテキストデータを生成する。本例においては、各音符が指定されたピッチ量だけ五線に対して上下方向に移動した位置に配置されるように、第1のテキストデータにおける各音符の座標が書き換えられることにより、第2のテキストデータが生成される。また、音符移調部15は、生成された第2のテキストデータに基づいて、移調後の楽譜要素の画像を示す第3の画像データを出力する。図6は、第3の画像データに基づく移調後の楽譜要素の画像の例を示す図である。
【0027】
合成部16は、音符削除部13により出力された第2の画像データ(図5参照)と、音符移調部15により出力された第3の画像データ(図6参照)とを合成することにより、移調後の楽譜を示す第4の画像データを出力する。図7は、第4の画像データに基づく移調後の楽譜の画像の例を示す図である。合成部16は、出力された図7の第4の画像データに基づいて、移調後の楽譜の画像を表示部160に表示させることが可能である。
【0028】
修正受付部17は、合成部16により出力された第4の画像データにおけるいずれかの音符の指定と、当該音符のピッチ量の指定とを使用者から受け付ける。使用者は、操作部150を操作することにより、表示部160に表示された移調後の楽譜の画像において、所望の音符と、当該音符のピッチ量とを指定することができる。
【0029】
修正受付部17に音符とピッチ量とが指定された場合、合成部16は、指定されたピッチ量に基づいて、第2のテキストデータにおける指定された音符の座標を修正する。これにより、第4の画像データが更新され、移調後の楽譜において、指定された音符が指定されたピッチ量だけ上下方向に移動した位置に配置される。
【0030】
(3)変形例
移調後の楽譜の画像においては、周辺情報と楽譜要素とが重なり合うことにより、楽譜の可読性が低下することがある。そこで、楽譜の可読性を向上させるための種々の処理が実行されてもよい。
【0031】
図8は、第1の変形例における移調後の楽譜の画像の例を示す部分拡大図である。第1の変形例においては、合成部16は、周辺情報の画像を示す第2の画像データと、楽譜要素の画像を示す第2の画像データとを排他的論理和により合成して第4の画像データを出力する。この処理によれば、第4の画像データが2値データである場合でも、図8に示すように、移調後の楽譜の画像において、周辺情報と楽譜要素との重複部分が白抜きで示される。これにより、楽譜の可読性が向上する。第4の画像データが2値データでない場合には、移調後の楽譜の画像において、周辺情報と楽譜要素とが互いに異なる色で表示されてもよい。
【0032】
図9は、第2の変形例における移調後の楽譜の画像の例を示す部分拡大図である。第2の変形例においては、音符移調部15は、移調後の調号と、音部記号および拍子記号とを異なる濃さにして第3の画像データを出力する。この処理によれば、図9に示すように、移調後の楽譜の画像において、調号が音部記号および拍子記号よりも薄く表示される。これにより、調号が音部記号または拍子記号に重なる場合でも、楽譜の可読性が向上する。移調後の楽譜の画像において、調号が音部記号または拍子記号と異なる色で表示されてもよい。
【0033】
図10は、第3の変形例における移調後の楽譜の画像の例を示す部分拡大図である。第3の変形例においては、音符移調部15は、移調後の調号を音部記号と拍子記号との間の隙間に配置して第3の画像データを出力する。この処理によれば、図10に示すように、移調後の楽譜の画像において、調号が音部記号および拍子記号とは重ならないように配置される。これにより、楽譜の可読性が向上する。
【0034】
移調後の楽譜の画像においては、各音符に対応する周辺情報が当該音符の近傍に配置されてもよい。図11は、第4の変形例を説明するための図である。図11に点線で示すように、音符削除部13は、第2の画像データにおいて、移動領域Rを特定する。移動領域Rは、五線が配置されるべき領域の所定距離だけ上の位置から、五線が配置されるべき領域の所定距離だけ下の位置までの領域である。移動領域Rの左端および右端は、五線が配置されるべき領域の左端および右端とそれぞれ等しい。
【0035】
音符削除部13は、第2の画像データにおける周辺情報のうち、特定された移動領域Rに含まれる周辺情報を移調後の音符に追従する位置に配置して第2の画像データを出力する。合成部16は、上記の第2の画像データを用いて移調後の楽譜を示す第4の画像データを出力する。図12は、第4の変形例における移調後の楽譜の画像の例を示す図である。図12に示すように、上記の処理によれば、移調後の楽譜の画像において、当該音符の近傍に配置することができる。
【0036】
図13は、第4の変形例における移調前後の楽譜の画像の例を示す部分拡大図である。図13の上段には移調前の楽譜の画像が示され、図13の下段には移調後の楽譜の画像が示される。図13に示すように、第4の変形例においては、演奏記号(スラーまたは運指番号等)、または書き込み等の周辺情報を、音符との位置関係を維持したまま移動させることができる。また、認識エラー等の理由により第2の画像データが周辺情報として装飾音符を含む場合でも、移調後の楽譜の画像において、装飾音符を適切な位置に配置することができる。このように、楽譜認識が部分的に誤っていたとしても、視覚的に楽譜が正しく移調される。これは、本発明の有効性を示す一例である。
【0037】
図14は、第5の変形例における移調後の楽譜の画像の例を示す部分拡大図である。図14に示すように、上記の移動領域Rに含まれる周辺情報は、楽譜要素等の他の記号と異なる色で表示されてもよい。この場合、音符の近傍の周辺情報が楽譜要素に重なる場合でも、楽譜の可読性が向上する。移動領域Rに含まれる周辺情報は、楽譜要素等の他の記号よりも薄く表示されてもよい。
【0038】
図15は、第6の変形例における移調後の楽譜の画像の例を示す部分拡大図である。図15に示すように、合成部16は、五線の上方または下方に五線の間隔と等しい間隔で1以上のガイド直線Gを追加して第4の画像データを出力してもよい。この処理によれば、移調された楽譜において、楽譜認識エラー等により加線がない状態で装飾音符が五線から離れた位置に配置された場合でも、使用者はガイド直線Gを基準として装飾音符のピッチを容易に認識することができる。これにより、装飾音符の認識エラー等が理由で装飾音符に加線を追加できない場合においても、音の高さを正しく認識することができる。なお、ここでは装飾音符の例を示したが、通常の音符にガイド直線Gを利用してもよい。
【0039】
図15の例では、ガイド直線Gの数は3本であるが、実施の形態はこれに限定されない。ガイド直線Gの数は、使用者により任意に指定されてもよい。また、図15の例では、ガイド直線Gは点線で表示されるが、ガイド直線Gは、五線と区別可能である限り、点線で表示されなくてもよい。例えば、ガイド直線Gは、五線とは異なる太さで表示されてもよいし、五線とは異なる色で表示されてもよい。
【0040】
(4)楽譜編集処理
図16は、図2の楽譜編集装置10による楽譜編集処理の一例を示すフローチャートである。図16の楽譜編集処理は、図1のCPU130が楽譜編集プログラムを実行することにより行われる。
【0041】
まず、画像認識部11は、楽譜の画像が与えられたか否かを判定する(ステップS1)。使用者は、画像認識部11に楽譜の画像を与えることができる。楽譜の画像が与えられない場合、画像認識部11は、楽譜の画像が与えられるまで待機する。楽譜の画像が与えられた場合、画像認識部11は、ステップS1で与えられた楽譜の画像を示す第1の画像データを認識する(ステップS2)。
【0042】
次に、音符認識部12は、ステップS2で認識された第1の画像データにおける楽譜要素を認識する(ステップS3)。また、音符認識部12は、ステップS3で認識された楽譜要素と、楽譜要素の座標とを示す第1のテキストデータを生成する(ステップS4)。続いて、音符削除部13は、ステップS4で生成された第1のテキストデータに基づいて、ステップS2で認識された第1の画像データから楽譜要素が削除された第2の画像データを出力する(ステップS5)。
【0043】
その後、ピッチ受付部14は、移調前の調と移調後の調との差を示すピッチ量の指定が受け付けられたか否かを判定する(ステップS6)。使用者は、ピッチ量をピッチ受付部14に指定することができる。あるいは、使用者は、ピッチ量に代えて、調をピッチ受付部14に指定することができる。ピッチ量の指定が受け付けられない場合、ピッチ受付部14は、ピッチ量の指定が受け付けられるまで待機する。
【0044】
ピッチ量の指定が受け付けられた場合、音符移調部15は、当該ピッチ量に基づいて、移調後の楽譜要素と、楽譜要素の座標とを示す第2のテキストデータを生成する(ステップS7)。また、音符移調部15は、ステップS7で生成された第2のテキストデータに基づいて、移調後の楽譜要素の画像を示す第3の画像データを出力する(ステップS8)。
【0045】
次に、合成部16は、ステップS5で出力された第2の画像データと、ステップS8で出力された第3の画像データとを合成することにより、移調後の楽譜を示す第4の画像データを出力する(ステップS9)。続いて、修正受付部17は、楽譜の修正の指示が受け付けられたか否かを判定する(ステップS10)。使用者は、ステップS9で出力された第4の画像データにおけるいずれかの音符と、当該音符のピッチ量とを指定することにより、楽譜の修正を修正受付部17に指示することができる。
【0046】
楽譜の修正が指示された場合、合成部16は、ステップS10で指定された音符およびピッチ量に基づいて、第2のテキストデータを修正する(ステップS11)。具体的には、第2のテキストデータにおいて、指定されたピッチ量に基づいて、指定された音符の座標が修正される。その後、合成部16は、ステップS8に戻る。これにより、第3の画像データと第4の画像データとが更新され、移調後の楽譜において、指定された音符が指定されたピッチ量だけ上下方向に移動した位置に配置される。
【0047】
ステップS10で楽譜の修正の指示が受け付けられない場合、合成部16は、終了の指示が受け付けられたか否かを判定する(ステップS12)。使用者は、操作部150を用いて所定の操作を行うことにより、楽譜編集処理を終了することを合成部16に指示することができる。終了の指示が受け付けられない場合、合成部16はステップS10に戻る。終了の指示が受け付けられた場合、合成部16は、楽譜編集処理を終了する。
【0048】
(5)実施の形態の効果
以上説明したように、本実施の形態に係る楽譜編集装置10は、移調前の楽譜の画像を第1の画像データとして認識する画像認識部11と、移調前の調と移調後の調との差を示すピッチ量の指定を受け付けるピッチ受付部14と、第1の画像データにおける音符を認識する音符認識部12と、第1の画像データから音符が削除された第2の画像データを出力する音符削除部13と、ピッチ受付部14に指定されたピッチ量に基づいて、移調後の音符の画像を示す第3の画像データを出力する音符移調部15と、第2の画像データと第3の画像データとを合成することにより、移調後の楽譜の画像を示す第4の画像データを出力する合成部16とを備える。
【0049】
この構成によれば、楽譜の画像から移調された楽譜を生成することができる。そのため、使用者は、所望の楽譜の画像を用いて移調楽譜を生成することができ、例えば、移調楽器との合奏を容易に行うことが可能になる。
【0050】
ピッチ受付部14は、移調後の調の指定を受け付け、移調前の楽譜から移調前の調を検出し、検出された移調前の調と指定された移調後の調とに基づいてピッチ量の指定を受け付けてもよい。この場合、移調後の調からピッチ量の指定を受け付けることができる。
【0051】
音符認識部12は、第1の画像データにおける五線をさらに認識し、音符削除部13は、第1の画像データから五線がさらに削除された第2の画像データを出力してもよい。この構成によれば、移調前の楽譜の画像が五線譜である場合でも、移調された楽譜を生成することができる。
【0052】
音符移調部15は、ピッチ受付部14に指定されたピッチ量に基づいて、認識された音符を五線に対して移動させることにより、五線と移調後の音符の画像とを示す第3の画像データを出力してもよい。この場合、移調された楽譜を容易に生成することができる。
【0053】
音符認識部12は、第1の画像データにおける音部記号、調号および拍子記号をさらに認識し、音符削除部13は、第1の画像データから音部記号、調号および拍子記号がさらに削除された第2の画像データを出力してもよい。この構成によれば、楽譜の画像に音部記号、調号および拍子記号が含まれる場合でも、移調された楽譜を生成することができる。
【0054】
音符削除部13は、第1の画像データから音符等が削除された第2の画像データを出力する。このときの削除を行うためのマスク画像(図4の画像データ)においては、第1の画像データに含まれる音符等よりも少し大きくなるように図4の音符等の部分が膨張されてもよい。この場合、第2の画像データにより示される楽譜の画像から音符等を確実に削除することができる。
【0055】
音符移調部15は、移調後の調号と、音部記号および拍子記号とを異なる濃さまたは異なる色にして第3の画像データを出力してもよい。この場合、移調後の楽譜において、調号が音部記号および拍子記号とは異なる態様で表示される。これにより、調号が音部記号または拍子記号に重なる場合でも、使用者は、調号を容易に認識することができる。
【0056】
音符移調部15は、移調後の調号を音部記号と拍子記号との間の隙間に配置して第3の画像データを出力してもよい。この場合、移調後の楽譜において、調号が音部記号および拍子記号とは重ならないように配置される。調号の記号(シャープまたはフラット)の数が移調前の調の記号の数よりも増える場合(図10の例は、ニ長調(シャープ2個)からホ長調(シャープ4個)に移調する場合)には、音部記号と拍子記号との間のスペースが足りなくなるので、調号のスペースを確保するために、音部記号とその周辺の五線等とを左に移動および延長した第3の画像データが生成されてもよい。これにより、使用者は、調号を容易に認識することができる。
【0057】
合成部16は、五線の上方または下方に五線の間隔と等しい間隔でガイド直線Gを追加して第4の画像データを出力してもよい。この構成によれば、移調後の楽譜において、装飾音符が五線から離れた位置に配置された場合でも、使用者は、ガイド直線Gを基準として装飾音符のピッチを容易に認識することができる。
【0058】
音符削除部13は、演奏記号、書き込みまたは解説等を周辺情報として含む第2の画像データを出力してもよい。この場合、移調前の楽譜の画像に記載されていた周辺情報を移調後の楽譜に維持することができる。
【0059】
音符削除部13は、移調後の音符に追従する位置に周辺情報を配置して第2の画像データを出力してもよい。この場合、移調後の楽譜において、音符と周辺情報との対応関係を容易に認識することができる。
【0060】
楽譜編集装置10は、第4の画像データにおけるいずれかの音符の指定と、当該音符のピッチ量の指定とを受け付ける修正受付部17をさらに備え、合成部16は、修正受付部17に指定されたピッチ量に基づいて、指定された音符を修正して第4の画像データを更新してもよい。この場合、移調後の楽譜において、一音単位で音符を編集することができる。
【0061】
(6)他の実施の形態
(a)上記実施の形態において、楽譜要素として五線、音部記号、調号および拍子記号が第3の画像データに含まれるが、実施の形態はこれに限定されない。五線、音部記号、調号および拍子記号の一部または全部が第3の画像データに含まれなくてもよい。また、音部記号、調号および拍子記号の一部または全部は、第3の画像データではなく第2の画像データに含まれてもよい。この場合、第2の画像データに基づく楽譜の画像には、五線、音部記号、調号および拍子記号の一部または全部が表示される。
【0062】
(b)上記実施の形態において、音符が五線に対して移動されることにより第3の画像データが出力されるが、実施の形態はこれに限定されない。音符と五線とが相対的に移動されることにより第3の画像データが出力されてもよい。したがって、五線が音符に対して移動されることにより第3の画像データが出力されてもよい。
【0063】
(c)上記実施の形態において、楽譜編集装置10は修正受付部17を含むが、実施の形態はこれに限定されない。移調後の楽譜において、一音単位で音符を編集する必要がない場合には、楽譜編集装置10は修正受付部17を含まなくてもよい。
【0064】
(d)上記実施の形態において、音符認識部12および音符移調部15は、テキストデータを生成し、生成されたテキストデータに基づいて画像データを生成するが、実施の形態はこれに限定されない。音符認識部12また音符移調部15は、テキストデータを生成することなく、画像認識部11等により認識された音符等のラスタ画像またはベクタ画像を処理することにより移調された画像データを生成してもよい。
【符号の説明】
【0065】
10…楽譜編集装置,11…画像認識部,12…音符認識部,13…音符削除部,14…ピッチ受付部,15…音符移調部,16…合成部,17…修正受付部,100…処理システム,110…RAM,120…ROM,130…CPU,140…記憶部,150…操作部,160…表示部,170…バス,G…ガイド直線,R…移動領域
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