(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】疲労寿命に優れた回し溶接継手及び回し溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 31/00 20060101AFI20240925BHJP
B23K 9/02 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B23K31/00 F
B23K9/02 D
(21)【出願番号】P 2022075730
(22)【出願日】2022-05-02
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】▲崎▼本 隆洋
(72)【発明者】
【氏名】半田 恒久
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-155635(JP,A)
【文献】特開平9-253843(JP,A)
【文献】特許第5843015(JP,B2)
【文献】国際公開第2013/157557(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 31/00
B23K 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガセットを主板に回し溶接して接合することによって得られる回し溶接継手であって、前記ガセットが前記主板に当接する矩形当接面の短辺に沿って形成され且つ前記矩形当接面の前記短辺の両側から前記主板上に延伸して形成される2本の短辺溶接ビードと、前記矩形当接面の長辺に沿って形成され且つ前記短辺溶接ビードを交差横断するように被せて前記主板上へ延伸して形成される2本の長辺溶接ビードと、を有し、
前記短辺溶接ビードと前記長辺溶接ビードの先端との間隔Nが10~50mm、
前記長辺溶接ビードと前記短辺溶接ビードの先端との間隔Lが5~50mm、
であることを特徴とする回し溶接継手。
【請求項2】
前記主板の板厚が5~20mmであることを特徴とする請求項1に記載の回し溶接継手。
【請求項3】
前記ガセットの板厚が5~20mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の回し溶接継手。
【請求項4】
前記主板の応力拡大係数範囲ΔKが15MPam
1/2である場合に、前記主板の疲労亀裂伝播速度が1.75×10
-8m/cycle以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の回し溶接継手。
【請求項5】
前記主板の応力拡大係数範囲ΔKが15MPam
1/2である場合に、前記主板の疲労亀裂伝播速度が1.75×10
-8m/cycle以下であることを特徴とする請求項3に記載の回し溶接継手。
【請求項6】
ガセットを主板に回し溶接で接合する回し溶接方法において、前記ガセットが前記主板に当接する矩形当接面の短辺に沿って2本の短辺溶接ビードを前記矩形当接面の前記短辺の両側から前記主板上に延伸して形成し、次いで、前記矩形当接面の長辺に沿って2本の長辺溶接ビードを前記短辺溶接ビードを交差横断するように被せて前記主板上へ延伸して形成し、
前記短辺溶接ビードと前記長辺溶接ビードの先端との間隔Nを10~50mm、
前記長辺溶接ビードと前記短辺溶接ビードの先端との間隔Lを5~50mm、
とすることを特徴とする回し溶接方法。
【請求項7】
前記主板の板厚が5~20mmであることを特徴とする請求項6に記載の回し溶接方法。
【請求項8】
前記ガセットの板厚が5~20mmであることを特徴とする請求項6又は7に記載の回し溶接方法。
【請求項9】
前記主板の応力拡大係数範囲ΔKが15MPam
1/2である場合に、前記主板の疲労亀裂伝播速度が1.75×10
-8m/cycle以下であることを特徴とする請求項6又は7に記載の回し溶接方法。
【請求項10】
前記主板の応力拡大係数範囲ΔKが15MPam
1/2である場合に、前記主板の疲労亀裂伝播速度が1.75×10
-8m/cycle以下であることを特徴とする請求項8に記載の回し溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼構造物を建造する際に広く採用される主板とガセットとの回し溶接の技術に関し、詳しくは優れた疲労特性が要求される鋼構造物(例えば鋼橋、船舶等)に好適な回し溶接継手および回し溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、鋼構造物では
図4に示すようにガセット2の周囲を主板1に溶接(いわゆる回し溶接)した回し溶接継手が多数存在する。回し溶接継手においては溶接ビード3がガセット2を取り囲んでおり、その溶接ビード3に欠陥(例えば割れ等)が発生して、溶接止端部の形状が円滑に形成されなかった場合に、溶接止端部における応力集中が生じ易くなる。その結果、回し溶接に起因する溶接残留応力と外力に起因する繰り返し応力とが重畳して疲労亀裂を発生させ、さらに、その疲労亀裂が伝播して疲労破壊を引き起こす原因となる。なお外力は、鋼構造物に外部から繰り返し作用する荷重であり、例えば鋼構造物が鋼橋である場合は、自然の気象状況(例えば風等)や車両の通行によって繰り返し生じる荷重であり、鋼構造物が船舶である場合は、風や波によって繰り返し生じる荷重である。
【0003】
そして近年、鋼構造物の老朽化に伴って、疲労に起因する損傷に関する報告が増加している。そのような損傷を防止するためには、鋼構造物を定期的に検査して、損傷の進行状況を管理し、さらに、損傷の進行に応じて対策を講じる必要がある。とりわけ疲労に起因する損傷が鋼橋に発生した場合は、車両の通行を規制することによって鋼橋に作用する外力を軽減することは可能であるが、交通の渋滞や物流の遅延等を引き起こすので社会活動に多大な悪影響を及ぼす。そこで、鋼構造物の回し溶接継手における疲労特性を改善する技術が検討されている。
【0004】
例えば特許文献1には、ガセットが主板に当接する矩形の当接面(以下、矩形当接面という)の長辺を主板に隅肉溶接し、次いで室温まで冷却した後に、矩形当接面の角部から短辺を回し溶接することによって、継手疲労強度を安定して高める技術が開示されている。この技術は、矩形当接面の短辺に沿って形成される溶接ビード(以下、短辺溶接ビードという)が、長辺に沿って形成される溶接ビード(以下、長辺溶接ビードという)の上に被せられ、且つ、短辺溶接ビードが長辺溶接ビードを超えて主板上に延伸する。このように、まず長辺溶接ビードを溶接し、その上に短辺溶接ビードを被せて溶接すると、溶接ビードが重なる部位に隙間(すなわち主板、長辺溶接ビード、短辺溶接ビードで囲まれた空間)が生じ易く、応力集中に起因する疲労亀裂が容易に発生し、その疲労亀裂の伝搬を防止するのは困難である。つまり特許文献1に開示された技術では、回し溶接継手の疲労強度の大幅な向上は期待できない。
【0005】
これに対し、特許文献2には、回し溶接の施工コストの上昇を抑制するために通常の溶接装置、溶接材料を用いて、上記の隙間の発生を防止する技術が開示されている。この技術では、まず短辺溶接ビードを溶接し、次いで長辺溶接ビードを溶接することによって、短辺溶接ビードの上に長辺溶接ビードを被せる、その際、既に溶接されている短辺溶接ビードを超えて長辺溶接ビードが延伸するように溶接する。これにより、上記の隙間の発生を防止し、ひいては溶接止端部の形状に関わらず疲労亀裂の発生を防止している。さらに、短辺溶接ビードが長辺溶接ビードを超えない長さになるように溶接しておくことによって、上記の隙間の発生をより顕著に防止している。
【0006】
なお、特許文献2では、短辺溶接ビードが長辺溶接ビードを超えない長さになるように溶接しておく理由として、短辺溶接ビードが長すぎて、2本の長辺溶接ビードの下側から主板上に延伸した場合は、主板、短辺溶接ビード、長辺溶接ビード(2本のうちいずれか1本)で囲まれた隙間が生じ易く、疲労亀裂が発生し易くなると述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平8-19860号公報
【文献】特開2018-158380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、実際の溶接施工を考えた場合、特許文献2の技術に従い短辺溶接ビードが長辺溶接ビードを超えないように施工するのは溶接施工管理の上で問題がある。つまり、実際の溶接施工では、作業者の技能や溶接機の性能の差異等により、短辺溶接ビードの終端位置が変動して、短辺溶接ビードの実長さが狙い長さより5~10mm程度短くなる現象(短辺溶接ビードのショートビードという)が生じることがあり、このとき短辺溶接ビードが長辺溶接ビードと重なる部分に隙間が生じて長辺溶接ビードのビード幅に比して10%以上の隙間となるとビード不連続による応力集中が生じ、疲労強度が低下する。
【0009】
本発明は、上述の事情に鑑み、実際の溶接施工を考慮し、ショートビードが生じても、疲労強度を安価に且つ安定して向上することができる回し溶接継手及び回し溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、その結果、短辺溶接ビードが長辺溶接ビードを超えて延伸した部分の実長さが5mm未満では、上記の隙間(主板、短辺溶接ビード、長辺溶接ビードで囲まれた空間)生じ易く疲労強度が低下する場合があるが、5mm以上であれば、短辺溶接ビードのショートビードの発生有無に関わらず優れた疲労強度が得られるという知見を得るに至った。
【0011】
本発明は、上記の知見に基き、さらに検討を加えてなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
[1] ガセットを主板に回し溶接して接合することによって得られる回し溶接継手であって、前記ガセットが前記主板に当接する矩形当接面の短辺に沿って形成され且つ前記矩形当接面の前記短辺の両側から前記主板上に延伸して形成される2本の短辺溶接ビードと、前記矩形当接面の長辺に沿って形成され且つ前記短辺溶接ビードを交差横断するように被せて前記主板上へ延伸して形成される2本の長辺溶接ビードと、を有し、
前記短辺溶接ビードと前記長辺溶接ビードの先端との間隔Nが10~50mm、
前記長辺溶接ビードと前記短辺溶接ビードの先端との間隔Lが5~50mm、
であることを特徴とする回し溶接継手。
[2] 前記主板の板厚が5~20mmであることを特徴とする[1]に記載の回し溶接継手。
[3] 前記ガセットの板厚が5~20mmであることを特徴とする[1]又は[2]に記載の回し溶接継手。
[4] 前記主板の応力拡大係数範囲ΔKが15MPam1/2である場合に、前記主板の疲労亀裂伝播速度が1.75×10-8m/cycle以下であることを特徴とする[1]~[3]のいずれか1項に記載の回し溶接継手。
[5] ガセットを主板に回し溶接で接合する回し溶接方法において、前記ガセットが前記主板に当接する矩形当接面の短辺に沿って2本の短辺溶接ビードを前記矩形当接面の前記短辺の両側から前記主板上に延伸して形成し、次いで、前記矩形当接面の長辺に沿って2本の長辺溶接ビードを前記短辺溶接ビードを交差横断するように被せて前記主板上へ延伸して形成し、
前記短辺溶接ビードと前記長辺溶接ビードの先端との間隔Nを10~50mm、
前記長辺溶接ビードと前記短辺溶接ビードの先端との間隔Lを5~50mm、
とすることを特徴とする回し溶接方法。
[6] 前記主板の板厚が5~20mmであることを特徴とする[5]に記載の回し溶接方法。
[7] 前記ガセットの板厚が5~20mmであることを特徴とする[5]又は[6]に記載の回し溶接方法。
[8] 前記主板の応力拡大係数範囲ΔKが15MPam1/2である場合に、前記主板の疲労亀裂伝播速度が1.75×10-8m/cycle以下であることを特徴とする[5]~[7]のいずれか1項に記載の回し溶接方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、鋼構造物を新たに建造する場合や老朽化した鋼構造物を補修する場合に、回し溶接の施工時に短辺溶接ビードの5~10mmのショートビードが生じても、回し溶接継手の疲労強度を安価に且つ安定して向上することが可能となり、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る回し溶接継手の例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す回し溶接継手を得るための溶接施工の手順を模式的に示す平面図である。
【
図4】従来の回し溶接継手の例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明に係る回し溶接継手の例を模式的に示す斜視図であり、
図2は、その回し溶接継手を得るための溶接施工の手順を示す平面図である。なお
図2において、ガセット2が主板1に当接する矩形当接面2aは、ガセット2を主板1に投影した矩形線で囲まれた形状と一致する。以下では、
図2(a)~(c)の矩形線(すなわち主板1に投影されたガセット2)で囲まれた形状を矩形当接面2aとして説明する。また、
図3は、
図2(c)の拡大図である。
【0015】
図1に示すとおり、本発明に係る回し溶接継手は、最初に矩形当接面2aの短辺に沿って形成され、その後矩形当接面2aの短辺の両側から主板1上に延伸して形成される2本の短辺溶接ビード4、4と、矩形当接面2aの長辺に沿って形成され且つ短辺溶接ビード4、4を交差横断するように被せて主板1上へ延伸して形成される2本の長辺溶接ビード5、5とを有する。そして、
図3に示すように、短辺溶接ビード4と長辺溶接ビード5の先端との間隔N(以下、単に間隔Nともいい、N1とN2と区別する場合もある)が10~50mm、長辺溶接ビード5と短辺溶接ビード4の先端との間隔L(以下、単に間隔Lともいい、L1とL2と区別する場合もある)が5~50mmである。ここで、溶接ビードの「先端」とは、始端及び終端(止端)を総称していう。間隔Nは、1本の短辺溶接ビード4と交差する1本の長辺溶接ビード5の両端から前記1本の短辺溶接ビード4までの長短2つの距離のうち短い方を指し、間隔Lは、1本の長辺溶接ビード5と交差する1本の短辺溶接ビード4の両端から前記1本の長辺溶接ビード5までの長短2つの距離のうち短い方を指す(
図3参照)。なお、Sは長辺溶接ビード5の脚長である。
【0016】
疲労亀裂の伝播を抑制し且つ溶接施工の作業効率を向上させるために、間隔Nの範囲は10~50mmとする。間隔Nが10mmを下回ると疲労亀裂が伝播し易くなり、一方、間隔Nが50mmを上回ると2本の長辺溶接ビード5、5の形成に無駄な溶接工数が増加する。
【0017】
間隔Nの範囲を10~50mmとすることで、疲労亀裂が発生した場合には、疲労亀裂の起点は、2本の長辺ビード5、5の延伸部の間に存在するので、主板1側に発生する疲労亀裂の伝播が2本の長辺ビード5、5の間に制限され、ひいては疲労亀裂が広範囲に伝播するのを防止できる。なお、間隔Nは、好ましくは10~30mmである。
【0018】
一方、短辺溶接ビード4のショービードが発生しても優れた疲労強度を確保し且つ溶接施工の作業効率を向上させるために、間隔Lの範囲は5~50mmとする。短辺溶接ビード4のショートビードの発生有無に関わらず、間隔Lが5mm未満であると、疲労強度が低下する場合があるが、間隔Lが5mm以上であれば優れた疲労強度が得られる。一方、間隔Lが50mmを超えると2本の短辺溶接ビード4、4の形成に無駄な溶接工数が増加する。なお、間隔Lは、好ましくは5~10mmである。
【0019】
なお、間隔N及び間隔Lは、2本の短辺溶接ビード4、4と2本の長辺溶接ビード5、5とでつくられる4つの交差部と1対1に対応して、4つずつ存在するが、間隔N、Lとも4つのうち任意の2つ以上が同一値である場合とない場合のいずれであってもよい。
【0020】
本発明に係る回し溶接継手を得るにあたって、まず、
図2(a)に示すように、矩形当接面2aの短辺に沿って2本の短辺溶接ビード4、4を形成する。2本の短辺溶接ビード4、4のいずれを先あるいは後に施工するかは特に限定されない。
【0021】
この時、短辺溶接ビード4が矩形当接面2aの短辺の両側から主板1上に延伸し且つ前記間隔Lが5~50mmとなるように溶接を施工する。したがって短辺溶接ビード4の長さは、矩形当接面2aの短辺と、次工程の2本の長辺溶接ビード5、5の脚長S、Sと、前記間隔L1、L2との合計の長さとなるように予測して施工する。こうすることによって、溶接施工のバラツキによって短辺溶接ビード長さが狙いビード長さより5~10mm短くなる短辺溶接ビードのショートビードが生じても、次工程の長辺溶接ビード5を短辺溶接ビード4を交差横断するように被せて主板1上へ延伸して形成し、間隔Lの実長さを5~50mmとすることが可能である。
【0022】
なお、間隔L(L1とL2)の実長さを5~50mmとするには、間隔Lの狙い長さを15~50mmとして短辺溶接ビード4を施工することが好ましい。これによれば、間隔Lの実長さは、狙い通りの場合で15~50mm、狙いから小さい側へ最大10mmだけ外れた場合で5~40mmになり、いずれの場合でも、間隔Lの実長さを5~50mmとすることができる。
【0023】
次いで、矩形当接面2aの長辺に沿って2本の長辺溶接ビード5、5を、短辺溶接ビード4、4を交差横断するように被せて主板1上へ延伸して形成し、間隔Nを10~50mmとする。2本の長辺溶接ビード5、5のいずれを先あるいは後に施工するかは特に限定されない。
【0024】
なお、長辺溶接ビード5の施工の場合でも、短辺溶接ビード4の施工の場合と同様の理由で、長辺溶接ビード5の間隔Nの実長さが狙い長さより5~10mm程度短くなることがある。そこで、間隔N(N1とN2)の実長さを10~50mmとするには、間隔Nの狙い長さを20~50mmとして長辺溶接ビード5を施工することが好ましい。これによれば、間隔Nの実長さは、狙い通りの場合で20~50mm、狙いから小さい側へ最大10mmだけ外れた場合で10~40mmになり、いずれの場合でも、間隔Nの実長さを10~50mmとすることができる。
【0025】
本発明においては、主板1の板厚は、特に限定されないが、疲労特性の改善効果の観点から好ましくは5~20mmである。主板1の板厚が5mm未満では、実施工では実施されない板厚であり、一方、20mm超では、本発明による疲労特性の改善効果が比較的小さい。
【0026】
また、本発明においては、ガセット2の板厚は、特に限定されないが、疲労特性の改善効果の観点から好ましくは5~20mmである。ガセット2の板厚が5mm未満では、ビードの大きさから短辺溶接と長辺溶接に分割するのが難しく、一方、20mm超では、本発明による疲労特性の改善効果が比較的小さい。
【0027】
また、本発明においては、どのような材質の主板やガセットを用いても効果が発揮されるが、特に疲労亀裂発生初期段階での主板側における亀裂前縁の大きさを制限できることから、疲労亀裂伝播速度の低い(疲労亀裂が進展しにくい)主板を適用することによって、より一層の長寿命化が期待できる。疲労亀裂伝播速度の低い主板の代表例としては、主板の応力拡大係数範囲ΔKが15MPam1/2である場合に、主板の疲労亀裂伝播速度が1.75×10-8m/cycle以下である主板が挙げられる。かかる主板の材料としては、鋼種がSM400、SM490、SM520、SM570等で、降伏応力が、245~560MPaの材料が挙げられる。
【0028】
回し溶接を行う溶接手段は、被覆アーク溶接法、ガスメタルアーク溶接法が主であるが、それ以外の手段についても適宜用いることができ、手動溶接又は自動溶接いずれを採用しても良い。
【0029】
本発明は、鋼構造物を新たに建造する場合のみならず、老朽化した鋼構造物を補修する場合にも適用できる。
【実施例】
【0030】
主板1(板厚:14.7mm、板幅:80mm、長さ:500mm)にガセット2(板厚:14.7mm、板幅:75mm、高さ:50mm)をフラックス入りワイヤを用いてガスメタルアーク溶接法で回し溶接し、得られた回し溶接継手を用いて、疲労試験を行なった。その手順を説明する。フラックス入りワイヤは、いずれの回し溶接継手においても、神戸製鋼所製MX-Z200(ワイヤ径1.2mm)を用い、溶接条件は240A-32Vとし、脚長は短辺溶接ビード4、長辺溶接ビード5とも8mm程度を狙った。なお、ガセット2は主板1の中央に配置したので、矩形当接面2aは主板1の中央に位置する。
【0031】
主板1及びガセット2は表1に示す成分を有する鋼板Aを使用した。なお、この鋼板は、主板1の応力拡大係数ΔKが15MPam1/2であるとき、疲労亀裂伝播速度が1.85×10-8m/cycleである。
【0032】
疲労試験は軸荷重制御、応力比0.1、周波数10Hzで室温・大気中で実施した。
【0033】
【0034】
上記の回し溶接継手について、実測ビード間隔、疲労試験の応力範囲及び試験結果(疲労寿命:疲労破断に至るまでの荷重繰り返し数)を表2に示す。
【0035】
【0036】
表2から明らかなように、本発明例はいずれも、間隔N1とN2が10~50mm、間隔L1とL2が5~50mmであり、良好な疲労寿命を有していた。一方、比較例はいずれも、間隔L1とL2のいずれか一方又は両方が5mm未満であり、疲労寿命が本発明例の半分以下となっていた。
【符号の説明】
【0037】
1 主板
2 ガセット
2a 矩形当接面
3 溶接ビード
4 短辺溶接ビード
5 長辺溶接ビード
S 長辺溶接ビードの脚長