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特許7559834電気機器、及び、電気機器の書き込み又は読み込み装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】電気機器、及び、電気機器の書き込み又は読み込み装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20240925BHJP
   B25F 5/00 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
H02J7/00 301Z
H02J7/00 301B
H02J7/00 302A
B25F5/00 H
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022565446
(86)(22)【出願日】2021-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2021043370
(87)【国際公開番号】W WO2022114120
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2020198489
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】工機ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】新戸 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】河野 祥和
【審査官】鈴木 智之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/003741(WO,A1)
【文献】特表2014-529320(JP,A)
【文献】特表2014-525841(JP,A)
【文献】国際公開第2019/171808(WO,A1)
【文献】特開2003-319563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
B25F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池パックから供給される第1電力によって動作する負荷部と、
前記負荷部の動作を制御する制御部と、
前記負荷部へ前記第1電力供給する電力端子とは別に前記制御部に接続される第1端子と、
前記第1端子が設けられ、前記第1端子が接続可能な電池側通信端子を有する電池パックと、前記第1端子が接続可能なアダプタ側通信端子を有するアダプタと、を択一的に接続可能な電池パック装着部と、を備え、
前記電池パック装着部にアダプタが接続されると、前記制御部は前記第1端子を介して前記第1電力と異なり前記制御部が動作するための第2電力が供給される、ことを特徴とする電気機器。
【請求項2】
請求項1に記載の電気機器であって、
前記第1端子は、前記電池パック装着部に電池パックが接続されると電池パックとの通信を行うための第1通信端子である、ことを特徴とする電気機器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電気機器であって、
前記第1端子と前記制御部とを接続する第1通信回路と、
前記第1端子又は前記第1通信回路から分岐し、前記制御部に前記第2電力を供給する通電回路と、を備えることを特徴とする電気機器。
【請求項4】
電池パックから供給される第1電力によって動作する負荷部と、
前記負荷部の動作を制御する制御部と、
前記制御部に接続される第1通信端子と、
電池パックの電力端子に接続され、前記制御部に前記第1電力と異なり前記制御部が動作するための第2電力を供給する電力供給部と、
前記第1通信端子が設けられ、前記第1通信端子が接続可能な電池側通信端子を有する電池パックと、前記第1通信端子が接続可能なアダプタ側通信端子を有するアダプタと、を択一的に接続可能に構成された電池パック装着部と、を備え、
前記制御部は、前記電池パック装着部に電池パックが接続された際には前記電力供給部から前記第2電力が供給され、前記電池パック装着部にアダプタが接続された際には前記第1通信端子を介して前記第2電力が供給される、ことを特徴とする電気機器。
【請求項5】
電池パックから供給される第1電力によって動作する負荷部と、
前記負荷部の動作を制御する制御部と、
前記制御部に接続される第1通信端子と、
前記第1通信端子が設けられ、前記第1通信端子が接続可能な電池側通信端子を有する電池パックと、前記第1通信端子が接続可能なアダプタ側通信端子を有するアダプタと、を択一的に接続可能に構成された電池パック装着部と、を備えた電気機器であって、
前記電池パック装着部にアダプタが接続されると、前記制御部は、前記第1通信端子を介して前記第1電力と異なり前記制御部が動作するための第2電力が供給されるとともに、前記電気機器の制御プログラムが書き込まれる又は読み込まれるよう構成される、ことを特徴とする電気機器。
【請求項6】
求項4又は5に記載の電気機器であって、
前記第1通信端子と前記制御部とを接続する第1通信回路と
記第1通信回路から分岐し、前記制御部に前記第2電力を供給する通電回路と、を備えることを特徴とする電気機器。
【請求項7】
請求項に記載の電気機器であって、
前記制御部は、前記電池パック装着部にアダプタが接続された際には、前記第1通信端子を介して供給される前記第2電力が通電回路を経由して供給される、ことを特徴とする電気機器。
【請求項8】
請求項1からのいずれか一項に記載の電気機器であって、
電池パックに接続される第2通信端子と、
前記第2通信端子と前記制御部とを接続する回路から分岐され、前記第2通信端子と前記制御部とを接続する通信回路と、を備えることを特徴とする電気機器。
【請求項9】
請求項に記載の電気機器であって、
前記制御部は、
前記電池パック装着部に電池パックが接続された状態では前記第2通信端子と前記制御部とを接続する前記分岐された回路を介して電池パックからの信号を受信し、
前記電池パック装着部にアダプタが接続された状態では前記通信回路を介してアダプタからの信号を受信する、ことを特徴とする電気機器。
【請求項10】
請求項1からのいずれか一項に記載の電気機器であって、電池パックに接続される第3通信端子と、
前記第3通信端子と前記制御部とを接続する回路からから分岐され、前記第3通信端子と前記制御部とを接続するリセット制御回路と、を備えることを特徴とする電気機器。
【請求項11】
請求項10に記載の電気機器であって、
前記リセット制御回路は、
前記制御部の入力ポートに接続され、前記第3通信端子と前記入力ポートとの間に設けられた第1スイッチング素子と、
前記制御部の出力ポート及び前記第1スイッチング素子の制御端子に接続され、前記制御端子と前記出力ポートとの間の設けられた第2スイッチング素子と、を有し、
前記出力ポートからの信号に応じて前記第1スイッチング素子及び第2スイッチング素子の接続又は遮断が切り替わるよう構成されることを特徴とする電気機器。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の電気機器であって、
前記制御部は、
前記電池パック装着部に電池パックが接続された状態では前記第3通信端子と前記制御部とを接続する前記分岐された回路を介して前記電池パックからの信号を受信し、
前記電池パック装着部にアダプタが接続された状態では前記リセット制御回路が機能する、ことを特徴とする電気機器。
【請求項13】
請求項1からのいずれか一項に記載の電気機器の前記電池パック装着部に装着可能なアダプタを有し、
前記アダプタに接続され、前記電気機器の制御プログラムを記憶すると共に前記アダプタを介して前記電気機器に記憶されている前記制御プログラムを書き込む又は読み込むよう構成され、
前記第1端子を介して前記電気機器の制御部が動作する基準電圧を出力することを特徴とする書き込み又は読み込み装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池パックにより動作する電気機器、書き込み又は読み込み装置及び電気機器システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電動工具、音響機器、作業工具、照明機器等の携帯型の電気機器において、電源として着脱式の電池パックが広く用いられている。そのための電気機器の本体部分に、電池パックを容易に装着及び取外しができるように装着機構が形成される。電池パックにも電気機器の本体部分に対応する装着機構が形成される。近年、電池パックを電源とする電気機器において、作業負荷となるモータの駆動、音の増幅器の制御、作業機器の動作制御、光源の点灯制御等においてマイクロコンピュータを用いて電気的に高度に制御することが広く行われる。電気機器の工場出荷時には、マイクロコンピュータに必要な制御プログラムを格納して実行可能な状態で出荷する。電気機器に格納された制御プログラムは、通常では販売後に書き換えを行わないことが多いが、例えば特許文献1のように、記憶部に書き込まれた制御プログラムを外部機器(例えばコンピュータ)を用いて書き換え可能にした電動工具も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-240169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、電気機器の電源として電池パックが接続されるが、電池パック装着部には電池パックの端子が接続される機器側端子とは別に通信用のコネクタが設けられるため、電気機器の部品点数が多くなる上に、電池パック装着部が大きくなってしまう。また、機器側端子とはコネクタだけで接続されるため、コネクタが接続されるケーブルに外力が加わると機器側端子から外れやすい構成であった。
【0005】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、既存の端子を利用して別の機能を実現可能にした電気機器、書き込み又は読み込み装置及び電気機器システムを提供することにある。本発明の他の目的は、電気機器の部品点数の増加及び電池パック装着部の大型化を抑えた電気機器、書き込み又は読み込み装置及び電気機器システムを提供することにある。本発明のさらに他の目的は、読み込み装置(アダプタ)が電気機器から外れにくく、電気機器の不意の起動を抑えた電気機器、書き込み又は読み込み装置及び電気機器システムを提供することにある。本発明のさらに他の目的は、電気機器の制御部への電源供給を工夫して、安定した電源供給を可能にした電気機器、書き込み又は読み込み装置及び電気機器システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願において開示される発明のうち代表的な特徴を説明すれば次のとおりである。
本発明の一つの特徴によれば、電池パックから供給される第1電力によって動作する負荷部と、電池パックのレール部と係合して電池パックの装着を案内するレール受け部が設けられた電池パック装着部と、負荷部の動作を制御する制御部と、を備える。負荷部と制御部はハウジングに収容される。また、電池パック装着部に設けられ負荷部への第1電力が供給される電力端子とは別に前記制御部に接続される第1端子、又は、電池パック装着部に設けられ制御部に接続される第1通信端子と、を備える。電池パック装着部は、第1端子又は第1通信端子が接続可能な電池側通信端子を有する電池パックと、第1端子又は第1通信端子が接続可能なアダプタ側通信端子を有するアダプタに対して接続可能に構成される。電池パック装着部にアダプタが接続されると、制御部は第1端子又は第1通信端子を介して第2電力が供給される。電池パック装着部に電池パックが接続されると、第1端子部は電池パックと通信を行うための第1通信端子となる。アダプタは、レール受け部に係合可能なアダプタ側レール部を有すると共に電池パックとは接続不能であるように構成される。また、電気機器は、第1通信端子と制御部とを接続する第1通信回路を備える。電気機器は、第1通信回路から分岐して制御部に第2電力を供給する通電回路を備える。さらに電気機器は、電池パックの電力端子に接続され、制御部に第2電力を供給する電力供給部を備え、制御部は、ハウジングに電池パックが接続された状態では電力供給部から第2電力が供給される。制御部は、ハウジングにアダプタが接続された際には、第1通信端子を介して第2電力が供給される。制御部は、第1通信端子を供給される第2電力が通電回路を経由して供給されるように制御する。また、制御部は、ハウジングにアダプタが接続された状態で電気機器の制御プログラムが書き込まれる又は読み込まれるように構成される。
【0007】
本発明の他の特徴によれば、電気機器は、電池パックに接続される第2通信端子と、第2通信端子と制御部とを接続する回路から分岐され、第2通信端子と制御部とを接続する通信回路と、を備える。電気機器の制御部は、ハウジングに電池パックが接続された状態では第2通信端子と制御部とを接続する分岐された回路を介して電池パックからの信号を受信し、ハウジングにアダプタが接続された状態では通信回路を介してアダプタからの信号を受信する。また、電気機器は、電池パックに接続される第3通信端子と、第3通信端子と制御部とを接続する回路からから分岐され、第3通信端子と制御部とを接続するリセット制御回路と、を備える。
【0008】
本発明のさらに他の特徴によれば、電気機器のリセット制御回路は、制御部の入力ポートに接続され、第3通信端子と入力ポートとの間に設けられた第1スイッチング素子と、制御部の出力ポート及び第1スイッチング素子の制御端子に接続され、制御端子と出力ポートとの間の設けられた第2スイッチング素子と、を有し、出力ポートからの信号に応じて第1スイッチング素子及び第2スイッチング素子の接続又は遮断が切り替わるよう構成した。また、電気機器の制御部は、ハウジングに電池パックが接続された状態では第3通信端子と制御部とを接続する分岐された回路を介して電池パックからの信号を受信し、ハウジングにアダプタが接続された状態でリセット制御回路が機能するように構成した。
【0009】
本発明のさらに他の特徴によれば、電気機器の電池パック装着部に装着可能なアダプタを有し、アダプタに接続され、電気機器の制御プログラムを記憶すると共にアダプタを介して電気機器に記憶されている制御プログラムを書き込むよう構成される書き込み装置を構成した。書き込み装置は、第1通信端子を介して電気機器の制御部が動作する基準電圧を出力する。
【0010】
本発明のさらに他の特徴によれば、電気機器の電池パック装着部に装着可能なアダプタと、アダプタに接続される書き込み装置に電気機器の制御プログラムを記憶すると共に、アダプタを介して電気機器に出力するようにした電気機器システムを構成した。この電気機器システムは、電池パック装着部にアダプタと択一的に接続可能な電池パックを備える。
【0011】
本発明のさらに他の特徴によれば、電気機器の有する複数の通信端子の一つを、電気機器の制御部に第2電力を供給するための電力端子として利用すると共に、電池パックの電力端子と接続される本体側電力端子にはいずれの端子も接続されないように構成した。また電気機器は、正極端子と、負極端子と、複数の通信端子と、外部接続機器を着脱可能にするためのレール機構と、制御回路と、正極端子及び負極端子からの供給電力に基づいて制御回路の動作用の動作電圧を供給する電力回路と、を有し、外部接続機器が電気機器に接続されると、正極端子の代わりに複数の通信端子の一つを用いて動作電圧の供給を受けて、電気機器本体側の制御回路を動作させるように構成した。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来は専用の通信端子を設けて行われた通信機能を、既存の接続端子を利用して実現可能にした電気機器と、その電気機器に接続可能な読み込み装置(アダプタ)を実現し、これらを用いた電気機器システムを実現できた。本発明により専用の通信用コネクタの設置が不要となり、電気機器を構成する部品の点数増加を抑制できる。また、電気機器側の電気回路上の工夫で実現するので、電池パック装着部の構成の変更や、電池パック側の変更が不要となるので、電気機器の大型化を抑えることが可能となる。また、読み込み装置(アダプタ)には、電池パックと互換性のあるレール機構を有するため、装着時にはラッチ機構によって保持されるので、読み込み装置(アダプタ)が不意に外れることがない。さらには、読み込み装置(アダプタ)の装着時には、電気機器の制御回路だけが稼働するだけなので、安定した電源供給を可能としつつ作業部の動作を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例に係る電気機器システムの全体構成図である。
図2】本発明の実施例に係る電池パック100の斜視図である。
図3図1の電気機器1に電池パック100を装着した際の概略回路図である。
図4図1の電気機器1にアダプタ200と書き込み装置300を接続した際の概略回路図である。
図5】本発明の実施例に係る電気機器1のMCU50が起動した際の処理手順を説明するためのフローチャートである。
図6】本発明の実施例に係る電気機器1のMCU50の各入出力ポートに入力される信号波形を示す図であり、(A)はアダプタ200が接続されたプログラム書き込みの際の信号波形であり、(B)は電池パック100が装着された際の信号波形である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0014】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。本明細書においては、電気機器1と電池パック100の前後左右、上下の方向は図1及び図2に示す方向であるとして説明する。
【0015】
図1は本発明の実施例に係る電気機器システムの全体構成図である。電気機器システムは、電気機器1の本体部分と、それに装着可能な電池パック100と、電池パック100の代わりに装着されるアダプタ200を有する書き込み装置300、を含んで構成される。ここでは、電気機器1の例として電動工具(ここではインパクト工具)を図示している。電気機器1は、電池パック100を装着して動作する機器であり、AC電源を必要としないコードレス機器である。本明細書では、電池パック100を装着した状態を「電気機器1」と称し、電池パック100を取り外した状態の本体側を、「電気機器本体」と称する場合もある。電気機器1は、電池パック100が着脱可能であり、図示しないモータ(負荷部)による回転駆動力を用いて先端工具9(作業負荷部)に回転力や軸方向の打撃力を加えることにより締め付け作業を行う。電気機器1は、外形を形成する外枠たるハウジング2を備える。ハウジング2は、図示しないモータや動力伝達機構を収容する胴体部2aと、胴体部2aから下方に延びるハンドル部2bと、ハンドル部2bの下側に形成される電池パック装着部2cを含んで構成される。ハンドル部2bの一部であってユーザが把持した際に人差し指があたる付近には、トリガ状の動作スイッチ4が設けられる。動作スイッチ4の上方にはモータのアンビルの回転方向を切り替えるための正逆切替レバー7が設けられる。ハウジング2の前方側には出力軸たるアンビル(図では見えない)が設けられ、アンビルの先端には先端工具9を装着するための先端工具保持部8が設けられる。ここでは先端工具9としてプラスのドライバービットが装着されている。
【0016】
電池パック装着部2cには、左右両側の内壁部分に前後方向に平行に延びる溝やレールを含むレール部(レール受け部)11a、11bが形成され、それらの間にターミナル部20が設けられる。レール部11a、11bには、レールとその上側のレール溝を含んで構成され、レールには2つの凹部12a、12bが形成される。ターミナル部20は、合成樹脂等の不導体材料の一体成形により製造され、そこに金属製の複数の端子、即ち、正極端子22、T端子24、V端子25、LS端子26、負極端子27、LD端子(異常信号端子)28を鋳込んだものである。ターミナル部20は、装着方向(前後方向)の突き当て面となる垂直面20aと、電池パック100の上段面115と対面する水平面20bを有し、左右分割式のハウジング2に開口部分(ターミナル保持部)に挟持されるようにして固定される。水平面20bの前方側には、電池パック100の隆起部116と当接する湾曲部13が形成され、湾曲部13の左右中央付近には突起部14が形成される。突起部14は左右方向に2分割で形成される電気機器1のハウジング2のネジ止め用のボスを兼ねると共に、電池パック100の装着方向への相対移動を制限するストッパの役目も果たす。
【0017】
電池パック100は、定格電圧3.6Vのリチウムイオン電池セルを複数本直列接続して、例えば36Vの直流電力を出力可能としたものである。電池パック100の内部には回路基板(図示せず)が設けられ、回路基板上にはMCU(Micro Controller Unit)150(図3で後述)を有する制御回路が実装される。電池パック100は、左右両側に2本のレール部117a、117bが形成され、レール部117a、117bに隣接してラッチ機構が設けられる。
【0018】
アダプタ200は、電気機器1のマイコンに記憶された格納データ(プログラムや、プログラム実行のための各種パラメータ等)を書き換える際に用いられる接続機器(外部接続機器)であり、電池パック100に代えて装着されるものである。アダプタ200の形状は、電池パック100の上ケース110に形成された構造と互換性があり、図1からわかるようにレール部(117b等)や、ラッチ機構(118b等)、スロット群(図2の121等)、隆起部116の形状は電池パック100と同じである。従って、アダプタ200は電気機器1には装着できるが、電池パック100とは接続不能である。
【0019】
アダプタ200は有線式のUSBケーブル320によって書き込み装置300と接続される。アダプタ200の内部には電池セルは収容されない。つまり、下ケース201の内部空間には電池セルを収容する必要が無いので、アダプタ200の下ケース201は電池パック100の下ケース101に比べて小型のもので良い。上ケース210は、上ケース110とほぼ同様であるが、ラッチボタン118bよりも後方側が延在せずに小型に形成される。尚、アダプタ200の形状や構成は任意であり、隆起部116の後方斜面に表示ランプやマトリックス表示部を設けても良い。
【0020】
書き込み装置300は、汎用のパーソナルコンピュータ、PDA、スマートフォン等の汎用のコンピュータ機器を用いることができ、電気機器1用の制御プログラムを記憶すると共に、アダプタ200を介して電気機器1に記憶されている制御プログラムを書き込むための専用のアプリケーションソフトウェアを実行し、必要な情報を表示画面301に表示する。書き込み装置300は、アダプタ200を介して電気機器1への書き込み(書き換え)動作を実現できる。書き込み装置300は有線又は無線にてアダプタ200との通信路を確立できる。アダプタ200と電気機器1との接続は、T端子24、LS端子26、負極端子27、LD端子28を用いて行われるが、詳細は図4にて後述する。
【0021】
アダプタ200と書き込み装置300の通信が有線の場合は、例えばUSB(Universal Serial Bus)ケーブル320によって接続する。有線通信の場合は、USBケーブル320からアダプタ200へ電源(5V)が供給可能である。また、アダプタ200に近接無線通信装置(例えば、ブルートゥース(登録商標))を搭載すれば、近接無線通信装置を介して書き込み装置300とアダプタ200間の無線通信330を行うことが可能である。但し、無線通信330の場合はアダプタ200の無線通信機能の電源と、電気機器1のMCU50(図3にて後述)の動作用の基準電圧VCCを供給するために、アダプタ200に何らかの電源(例えば電池セル)を準備する必要がある。
【0022】
書き込み装置300は、インターネットを通じて電気機器1の製造メーカや、そのサポート会社等のサーバ装置に接続可能である。よって、書き込み装置300は製造メーカから、電気機器1に格納されるデータの一部を書き換えるための更新データ又は書き換えデータを入手できる。さらに、書き込み装置300は、アダプタ200を介して特定の電気機器1の格納データを読み出して、インターネットを通じてサポート会社等のサーバ装置への格納データの送信が可能である。
【0023】
図2は本発明の実施例に係る電池パック100の斜視図である。電池パック100の筐体は、上下方向に分割可能な下ケース101と上ケース110により形成される。上ケース110は、電気機器1の電池パック装着部2c(図1参照)に取り付けるためにレール機構、即ち、2本のレール部117a、117bが形成される。レール部117a、117bは、電池パック100の装着方向と平行な方向に延びるように、且つ、上ケース110の左右側面に突出するように形成される。レール部117a、117bは、電気機器1の電池パック装着部2cに形成されたレール溝を含むレール部11a、11bと対応した形状に形成され、レール部117a、117bが電気機器本体側のレール溝と嵌合した状態で、ラッチ機構の爪となる掛止部119a(図2では見えない)、119bにて係止することにより電池パック100が電気機器1に固定される。電池パック100を電気機器1の本体部から取り外すときは、左右両側にあるラッチボタン118a、118bを押すことにより、掛止部119a、119bが内側に移動して係止状態が解除されるので、その状態で電池パック100を装着方向と反対側に移動させる。
【0024】
レール部117a、117bの溝部分は、前方側端部が開放端となり、後方側端部が隆起部116の前側壁面と接続された閉鎖端となる。ラッチ機構は、ラッチボタン118a(図2参照)118bと、それらの押下に応じて内側に移動する掛止部119a(図2では見えない)、119bを含んで構成される。電池パック100を電気機器1の本体部から取り外すときは、左右両側にあるラッチボタン118a、118bを押すことにより、ラッチ爪119a、119bが内側に移動して係止状態が解除されるので、その状態で電池パック100を装着方向と反対側に移動させる。
【0025】
上ケース110の下段面111と上段面115は階段状に高さが異なるように形成され、それらの接続部分から後方側に延びる複数のスロット121~128が形成される。スロット121~128は電池パック装着方向に所定の長さを有するように切り欠かれた部分であって、この切り欠かれた部分の内部には、電気機器1、又は、外部の充電装置(図示せず)の機器側端子と係合可能な複数の接続端子(接続端子群)が配設される。スロット121~128は、電池パック100の右側のレール部117aに近い側のスロット121が充電用正極端子(C+端子)の挿入口となり、スロット122が放電用正極端子(+端子)の挿入口となる。また、左側のレール部117bに近い側のスロット127が負極端子(-端子)の挿入口となる。
【0026】
正極端子と負極端子の間には、電池パック100と電気機器1や外部の充電装置(図示せず)への信号伝達用の複数の信号端子が配置され、ここでは信号端子用の4つのスロット123~126が電力端子群の間に設けられる。スロット123は予備の端子挿入口であり、本実施例では端子は設けられない。スロット124は電池パック100の識別情報となる信号を電気機器1又は充電装置に出力するためのT端子用の挿入口である。スロット125は外部の充電装置(図示せず)又は電気機器1からの制御信号、具体的には後述のLS端子の機能を有効にするための電圧信号が入力されるためのV端子用の挿入口である。スロット126はセルに接触して設けられた図示しないサーミスタ(感温素子)の電圧変化を伝達するためのLS端子用の挿入口である。負極端子(-端子)の挿入口となるスロット127の左側には、さらに電池パック100内に含まれる電池保護回路(図示せず)による異常停止信号を出力するLD端子用のスロット128が設けられる。
【0027】
電池パック100が電気機器1の本体部に装着されると、本体側の電力端子(正極端子22、負極端子27)と、電池パック100側の電力端子(後述する正極端子132、負極端子137)が嵌合することによって、電池パック100から電気機器1の本体部側への電力の供給が行われる。また、電池パック100側の信号端子(後述する端子134~136、138)が電気機器1の本体部側の信号端子(T端子24、V端子25、LS端子26、LD端子28)と嵌合することによって、電池パック100と電気機器1側の信号の伝達が行われる。
【0028】
上段面115の後方側には、隆起するように形成された隆起部116が形成される。隆起部116の中央付近に窪み状のストッパ部116aが形成される。ストッパ部116aは、電池パック100を、電池パック装着部2cに装着した際に突き当て面となる。電池パック100が電気機器1の所定の位置に装着されると電気機器1に配設された複数の端子(機器側端子)と電池パック100に配設された複数の接続端子が接触して導通状態となる。
【0029】
下ケース101は、10本の図示しない電池セルを収容する大きさを有するもので、合成樹脂の一体成形により製造され、上側に開口面を有する。上ケース110の下向きの開口面と、下ケース101の上向きの開口面は接続され、図示しない4本のネジによって2つのケースが固定される。
【0030】
図3図1の電気機器1に電池パック100を装着した際の概略回路図である。電池パック100には、10本の電池セル140~149を直列に接続して、正極端子(+)132と負極端子(-)137に定格出力36Vが出力される。充電用正極端子(C+)131は、電池セル140の正極側にヒューズ139を介して接続される。電池セル140~149のそれぞれの正極と負極はMCU150の入力ポートに接続され、MCU150によって各電池セル140~149の充放電状況が監視される。MCU(Micro Controller Unit)150は、一つの集積回路に中央演算処理装置(CPU),RAM,ROM,I/Oインターフェース回路などを集積したものでマイクロコンピュータの働きをする組み込み用のマイクロプロセッサである。MCU150の4つの入出力ポート151~154には、電池パック100に設けられるT端子134、V端子135、LS端子136、LD端子138との接続信号が入力され又は出力される。
【0031】
T端子134はFET161のゲートを介して入出力ポート151に接続され、電池パック100の識別情報(5桁分のコード)となる信号を、5Vと0Vのデジタル信号にて出力する。この識別情報の送信は、MCU150が起動した直後に行われる。なお、識別情報の送信はMCU150の起動直後に限定されるものではない。T端子134は、電池パック100から電気機器1側への送信用の端子である。FET161はNチャンネルMOSFETであり、ドレインがT端子134に接続され、ソースが接地され、FET161のゲートに、入出力ポート151が接続される。入出力ポート151からのハイ(High)が出力されるとFET161のゲートがハイなってソース-ドレイン間が導通するので、T端子134が接地状態となる。入出力ポート151の出力がロー(Low)になると、FET161のソース-ドレイン間が遮断状態になる。
【0032】
V端子135は、入出力ポート152と電池パック100の基準電圧VCC1に接続される。従って、電池パック100のV端子135からV端子25には、基準電圧VCC1である+5Vが常時出力される。
【0033】
LS端子136は、電気機器1側にて電池温度の測定を可能とするための端子である。LS端子136は、FET163のゲートとサーミスタ164に接続される。FET163のドレインは電気通信ポート153に接続され、抵抗器162を介して基準電圧VCC1に接続される。FET163のソースは接地される。サーミスタ164は、電池セル140~149の温度を測定するためにいずれかの電池セルの近傍に取り付けられ、サーミスタ164の一端側がLS端子136に接続され、他端側が接地される。ここではサーミスタ164としてNTCサーミスタを用いる。NTCサーミスタは、温度が上昇することで抵抗値が下がるという特性を持つ。例えば、サーミスタの温度が20℃では3.0V程度が出力され、90℃では0.4V程度(保護設定値)が出力される。負極端子137は、接地される。
【0034】
LD端子138は、電池セル140~149の少なくとも1つが過放電になった際に接地されるようにMCU150によって制御される。MCU150は過放電時に、入出力ポート154からFET165のゲート信号をハイにする(通常時はロー)ことによりLD端子138を接地させる。FET165のゲート信号がローの時(通常状態の時)は、LD端子138は抵抗器166を介して接地される。
【0035】
電気機器1は、正極端子22と負極端子27の電力を用いてモータ3を駆動する。モータ3としては様々なモータを用いることができるが、ここではブラシレスDCモータをインバータ回路を用いた駆動回路5で駆動する。図示しないインバータ回路には6つの半導体スイッチング素子を含んで構成される。モータ3の回転力は、図示しない減速機構と、回転打撃機構を介して先端工具9の回転打撃力に変換される。
【0036】
レギュレータ60は電池パック100の正極端子132と接続される正極端子22に接続され、正極端子22と負極端子27からの供給電力に基づいてMCU(Micro Controller Unit)50の動作用の基準電圧VCCを供給する。作業者が電気機器1に電池パック100を装着し、メイン電源のスイッチを押す(インパクト工具では最初にトリガスイッチ6を引く)と、レギュレータ60が起動して、基準電圧VCC(ここでは+5V)の供給を開始する。この基準電圧VCCの供給によってMCU50が起動する。MCU50は電気機器1の制御部を構成し、一つの集積回路に中央演算処理装置(CPU),RAM,ROM,I/Oインターフェース回路などを集積したもので、マイクロコンピュータの働きをする組み込み用のマイクロプロセッサである。MCU50によって、インバータ回路を有する駆動回路5が制御され、ブラシレスDCモータ3が回転して、先端工具9(図1参照)等の作業機器を動作させる。MCU50のSW検出ポート59には、トリガスイッチ6の接続状態信号が入力され、MCU50はモータ3を回転させ、又は、モータ3を停止させる。
【0037】
MCU50は、電池パック100との通信を行うための複数のポート(51、54、55、57)を有する。これらのポートは、本発明の適用前の電気機器も有する。T(R×D1)ポート51は、T端子24(第3通信端子の一例)と接続されるもので、T端子24とT(R×D1)ポート51の間には,抵抗器R1~R5とトランジスタTr1が接続される。ここでは、基準電圧VCCとT端子24の間の電圧を抵抗器R1とR2で分圧し、分圧電圧を抵抗器R3を介してトランジスタTr1のベースに入力する。トランジスタTr1のコレクタはT(R×D1)ポート51と、抵抗器R5を介して基準電圧VCCに接続され、エミッタは接地される。トランジスタTr1のベースとエミッタ間には、T端子24の入力信号がオープンになったときに、トランジスタTr1のベースを接地させることによりトランジスタTr1をオフ状態にするための抵抗器R4が設けられる。
【0038】
MCU50のVポート54にはV端子25の信号がそのまま入力される。電池パック100が電気機器1に装着されると、電池パック100のV端子135から電池パック100側のVCC1(ここでは5V)が、V端子25に入力される。従って、MCU50は、Vポート54に入力される信号を監視することで、電池パック100が装着されているか、否かを判定できる。尚、図4にて後述するが、電池パック100の代わりにアダプタ200が電気機器1に装着された場合は、V端子25はオープン状態であるので、Vポート54の電圧を監視することで電池パック100が装着されているかが判別できる。
【0039】
LSポート55は、抵抗器R13とR14を介してLS端子26(第1通信端子、第1端子)の一例)に接続される。LS端子26は、LS端子136を介してサーミスタ164の出力が接続される。MCU50は、LSポート55に入力される電圧を検出することにより電池セル140~149の温度を検出することができる。電池セル140~149の温度が変化すると、検出される分圧電圧が変動する。LS端子26は、基準電圧VCCに対する抵抗器R11とR12の中立点65に接続される。中立点65の電圧は、抵抗器R13とR14を介してLSポート55に接続される。LSポート55とグランド電位の間にはコンデンサC2が設けられる。
【0040】
抵抗器R13とR14の中立点は、トランジスタTr3のコレクタに接続される。トランジスタTr3はLSポート55の電位をグランド電位に落とすためのスイッチとして機能し、トランジスタTr3のエミッタは接地される。トランジスタTr3のベースにはMCUの出力ポート56からの信号が抵抗器R15を介して入力される。出力ポート56は、LS端子26の電位を接地レベルに落とすための切り替え信号を出力する。トランジスタTr3のベースとエミッタ間には、抵抗器R16が設けられ、出力ポート56の出力信号がオープンになったときに、トランジスタTr3のベースを接地させることによりトランジスタTr3をオフ状態にする。
【0041】
LDポート57は、ダイオードD3と抵抗器R18を介してLD端子28(第2通信端子の一例)に接続される。ダイオードD3と抵抗器R18の接続点は、抵抗器R17を介して基準電圧VCCと接続される。LDポート57とグランド電位の間には、コンデンサC3が設けられる。LD端子28がグランド電位に落とされると、LDポート57の電位は、ゼロに落とされる。
【0042】
以上が、電気機器1のうち従来と同じ部分の回路構成である。本実施例では従来の構成に加えて、点線で囲んだ3つの追加回路を新たに設けた。追加回路は、通電回路61と第1通信回路62とリセット制御回路63である。
【0043】
通電回路61はLS端子26と中立点65との間と基準電圧VCCとの間を、ダイオードD2で接続する回路である。ここでダイオードD2を介在させたことで、図1で示したでアダプタ200の装着時にはLS端子26から+5Vの電圧を供給することができ、レギュレータ60が停止中の状態であってもMCU50を動作させることができる。尚、電池パック100を電気機器1に接続するのと違って、アダプタ200から定電圧端子236、LS端子26を用いて供給される5V電圧では、電気機器側のMCU50しか動作せずに、作業機器(図3ではモータ3)は起動できない。この通電回路61にダイオードD2が含まれることによって、電池パック100が電気機器1に装着されている際には機能しないことになるが、アダプタ200を装着した際には、自動的にMCU50に対して+5Vが供給可能となるので、正極端子22への電力供給がない状態でもMCU50が動作する。
【0044】
第1通信回路62は、LD端子28を介してMCU50のTool0(ツールゼロ)ポート58への通信路を確立する回路である。電池パック100での使用中に過放電になった際には、LD端子138及びLD端子28がグランド電位に落とされる。一方、LD端子28がグランド電位に無い場合は、LD端子28とTool0ポート58が抵抗器R19を介して接続される。また抵抗器R19と基準電圧VCCの間には抵抗器R20とダイオードD4が接続される。Tool0ポート58は外部との通信用の入出力ポートであり、従来の電気機器におけるTool0ポート58は、外部機器との接続用の専用の端子に配線されていた。本実施例では第1通信回路62を設けたことによりTool0ポート58への入出力信号をLD端子28を介して送信または受信する。尚、電池パック100が接続されている状態では、Tool0ポート58にはT端子24と同様の信号(5Vのハイ信号を抵抗器R19にて降下させた電圧)が伝達される。しかしながら、MCU50は、外部の機器(書き込み装置300)との通信を行っていないときにはTool0ポート58への信号を無視して利用しないようにすれば良いので、第1通信回路62を設けたことが電池パック100を用いた通常作業には影響しない。
【0045】
リセット制御回路63は、T端子24とRESETポート52を接続することにより、T端子24から外部機器(書き込み装置300)を介してMCU50のリセット動作を実行するための回路である。T端子24は、電池パック100の接続時には5Vのハイ信号が入力される。RESETポート52は、ロー信号が入ったときにMCU50をリセットための入力ポートである。従来の電気機器において、RESETポート52はT端子24とは接続されておらず、外部機器との接続用の専用の端子に配線されていた。本実施例では、MCU50からの制御によってRESETポート52にリセット信号を入力可能なように構成した。RESETポート52には、基本的にハイ信号が入力し続けられ、ロー信号になると書き込まれたプログラムがリセットされることになる。そのため、ダイオードD2と抵抗器R7を介して基準電圧VCCに接続されることによりRESETポート52の電位はハイに保たれる。RESETポート52とグランド電位の間にはコンデンサC1が設けられる。T端子24は抵抗器R6を介してMOSタイプのFET(第1スイッチング素子の一例)のソース端子に接続され、FETのドレイン端子がRESETポート52に接続される。FETには、ソースからドレインに電流が流れるようにボディダイオードD1が設けられる。FETのゲート端子にはトランジスタTr2(第2スイッチング素子の一例)を介してI/Oポートの53の出力信号が入力される。
【0046】
MCU50が電池パック100の装着による通常状態を認識した後に、MCU50はI/Oポート53からハイ信号を出力し続ける。I/Oポート53がハイ信号を出力すると、抵抗器R9を介してトランジスタTr2のベース信号がハイになるため、トランジスタTr2のエミッタ-コレクタ間が導通し、FETのゲート(制御素子)がグランド電位に落ちるため、FETのドレイン-ソース間が遮断される。その代わりRESETポート52近くのダイオードD2と抵抗器R7によってRESETポート52に基準電位5Vが入り続けることになるので、MCU50の書き込み内容がリセットされないように制御される。なお、RESETポート52によってプログラムソフトの動作をリセットする(MCU50(マイコン)がもう一度、最初から書き込まれた内容で動作する)ことになり、書き込まれた内容が消去されるものではない。
【0047】
I/Oポート53がローになると、トランジスタTr2のコレクタ-エミッタ間はオフになるので、基準電圧VCCと抵抗器R8によってFETのゲートには5Vが入り続け、T端子24とRESETポート52が導通するので、T端子24によるリセット信号がRESETポート52に入力される。
【0048】
以上の回路構成によって、電池パック100を取り外した際には、書き込み装置300からT端子24とLD端子28を介した通信動作が可能となる。また、LS端子26を介して書き込み装置300からMCU50の動作用の基準電圧VCCの供給が可能となる。
【0049】
図4図1の電気機器1にアダプタ200と書き込み装置300を接続した際の概略回路図である。電気機器1の回路構成は、図3と同じである。引用文献1に示したような従来の電気機器では、5Vを供給する線と、Tool0に書き込み信号を送る線と、Resetに接続する線と、グランド電位を接続する接続線を設け、これらを専用のコネクタを介してMCU50の対応するポートに接続していた。本実施例では、MCU50と外部の書き込み装置300との接続経路を、電気機器1の4つの接続端子、即ち、T端子24、LS端子26、負極端子27、LD端子28を用いて確立するようにした。この際、電気機器1に設けられる本体側プラス電力端子(充電用正極端子21、正極端子22)には端子が接続されないようにする。また、MCU50が動作するための5Vの基準電圧VCCを、LS端子26を兼用してアダプタ200の定電圧端子236を介して書き込み装置300側から供給する。さらに、Tool0ポート58の信号は、通信端子238、LD端子28から入力されるようにした。
【0050】
書き込み装置300のプロセッサ310は、4つの出力端子、即ちRESET端子324、電源端子336、グランド端子337、Tool0端子338を含んで構成される。アダプタ200の形状、特にレール部117a、117b、スロット群(121~128)、ラッチ機構(ラッチボタン118a、118b、ラッチ爪119a、119b)の形状と、その周辺部分の形状は電池パック100と互換である。つまり、アダプタ200の上ケース210の形状だけを見ると、図2の視点からの斜視図は電池パック100と同一形状となる。ここで、スロット群のうち、スロット224、226~228の位置に、順に、RESET端子234、定電圧端子236、グランド端子237、通信端子238を設ける。これらの端子(234、236~238)は、電池パックのT端子134、LS端子136、負極端子137、LD端子138と同一の金属部品を用いて形成すると良い。残りの4つのスロット221~223、225の内側部分には金属端子は設けられないため、アダプタ200を電気機器1に装着しても、電気機器1の充電用正極端子21、正極端子22、V端子25は接続されていない状態にある。尚、電池パック100のスロット123(図2参照)は予備用であって端子が設けられていないので、アダプタ200のスロット223にも接続端子は設けられない。
【0051】
書き込み装置300側には図示しないUSBコネクタが設けられ、書き込み装置300の図示しないUSBポートに接続される。USBケーブル320のアダプタ200側は、RESET端子234、定電圧端子236、グランド端子237、通信端子238にUSBケーブルの配線が直接接続される。尚、アダプタ200側の筐体にもUSBポートを設けて、書き込み装置300とアダプタ200の間を、両端にUSBコネクタを有する汎用のUSBケーブル320にて接続するように構成することも任意である。
【0052】
アダプタ200を電気機器1に装着すると、書き込み装置300のRESET端子324とT端子24が接続され、電源端子336とLS端子26が接続され、グランド端子337と負極端子27が接続され、Tool0端子338とLD端子28が接続される。この状態では、LS端子26には通電回路61を介して基準電圧VCCが供給されるので、MCU50が起動し、書き込み装置300のプロセッサ310は電気機器1のMCU50との通信を開始する。
【0053】
図5は電気機器1のMCU50が起動した際の処理手順を示すフローチャートである。ここで示す手順は、MCU50に基準電圧VCC(+5V)が供給されて電気機器1のMCU50が起動したらすぐに実行されるもので(ステップ40)、MCU50の起動時において、通常動作(電池パック100が装着)か、プログラムの書き込み動作(アダプタ200が装着)かを判別する手順でもある。図6は電気機器1のMCU50の各入出力ポートに入力される信号波形を示す図である。以下、図6を用いながら図5の手順を説明する。図6(A)はアダプタ200及び書き込み装置300が装着された際の信号波形であり、(B)は電池パック100が装着された際の信号波形である。
【0054】
MCU50の電源(基準電圧VCC)は、電池パック100が装着された場合にはトリガスイッチ6を押すことにより電源供給回路(レギュレータ、電力回路)60が動作するので、レギュレータ60で生成された基準電圧VCCがMCU50に供給され、MCU50が起動する。一方、アダプタ200が装着されると、LS端子26を介して書き込み装置300から+5Vが入力されるため、通電回路61のダイオードD2を介して基準電圧VCCとしてMCU50に供給され、直ちにMCU50が起動する。起動後、図5において最初にMCU50は、電池パック装着部2c(図1参照)に装着されたのが、電池パック100であるか、アダプタ200であるのかを判定するために、RESETポート52に入力される信号がローであるか否かを判定する(ステップ41)。
【0055】
MCU50の起動直後に、MCU50はI/Oポート53をローにしておく。装着されたのが電池パック100の場合は、正極端子22からレギュレータ60を介して基準電圧VCCが供給される。トランジスタTr2は抵抗器R10が接地(GNDに接続)されている。そのため、MUC50のI/Oポート53からの信号がロー又はハイインピーダンス(未出力)の場合、トランジスタTr2はオフ状態となる。MCU50が通常に起動した場合、起動してすぐにI/Oポート53からハイ信号を出力する(図6(B)の信号84参照)。なお、MCU50の起動からI/Oポート53がハイ信号になるまでの遅延時間はMCU50の処理時間である。
【0056】
次に、MCU50はRESETポート52に入力される信号がローであるか否かを判定する(ステップ41)。図6(B)にて示すように、電池パック100が装着された際の信号82はハイであるので、ステップ48へ進んで、電気機器1の通常の作業動作へ移行する。尚、ステップ48での電気機器1に対するMCU50の制御手順は、公知の電気機器と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0057】
ステップ41にてRESETポート52に入力される信号がローである場合は、次に、Tool0ポートの入力がローか否かを判定する(ステップ42)。電気機器1に電池パック100が装着された場合は、Tool0ポート58には抵抗器R20を介して基準電圧VCC(ハイ信号)が入力されるのでステップ41に戻る(ステップ42)。また、ステップ42において、アダプタ200が装着される書き込み時においては、図6(A)の信号73に示すようにTool0ポート58の入力がローに落ちているのでステップ43に進む。ここで、ステップ42がNoであれば、書き込みではないと判断されステップ41に戻るが、正常動作時(書き込み装置300が正常に動作する場合)にはNoとなる場合は起こらない。なお、電池パック100の接続時には、図6(B)の信号82及び83に示すように、いずれもハイ信号となるため、ステップ41及び42がYesとなることはない。異常状態によってステップ42でNoになったような場合は、ステップ41との間をループすることになるので、MCU50が正常に起動せずに、書き込み動作も、通常の電気機器の使用動作もできない状態が続くことになる。
【0058】
次に、MCU50は一定時間(例えば、100μ秒程度)待機し(ステップ43)、RESETポート52の信号72が矢印72aの時点でハイになったら(ステップ44)、Tool0ポート58の入力信号73がローか否かを判定する(ステップ45)。
【0059】
ステップ45でローの場合は、書き込み装置300を用いたMCU50へのソフトウェア書き込み処理を開始する。つまり、ステップ41、42、44、45の4つの分岐条件をすべて満たす(Yesとなる)ことで、ソフトウェアの書き込み動作に移行する。MCU50へのソフトウェアの書き込みは、従来の書き込み方法(機器側端子とは別に設けられた専用の通信コネクタを介して、MCU50のROM領域にプログラムデータを書き込む処理)と同様に行うが、その通信を第1通信回路62(図4参照)を介して行うことが従来例と異なる。
【0060】
ステップ46でソフトウェアの書き込みを行う最初に、リセットが必要となる。そこで、図6(A)で示す書き込み時には、書き込み装置300はRESET端子324、234、T端子24を介してRESETポート52の信号72を、最初ローにてMCU50をリセットする。すなわち、MCU50のプロセッサ動作を初めから実行する(すなわち再起動する)。RESETポート52は、アッパーバーで示すように、ロー信号が入ったときにMCU50がリセットされる。RESETポート52には、信号82に示すように通常(電池パック接続時)はハイ信号が入力され続ける。ただし、プログラムの書き込みの際には、最初にリセットが必要となるため、図6(A)で示すようにMCU起動時にRESETポート52の信号72がローになる。
【0061】
電気機器1に電池パック100が装着されたときには、矢印84に示すようにI/Oポート53(図4参照)からハイ信号を出力し続けることによりリセットが行われないように制御する。I/Oポート53からハイ信号が出力されると、図4のトランジスタTr2のコレクタ-エミッタ間がオンになるので、抵抗器R8とR9の分圧電圧がFETのゲートに伝わり、FETのソース-ドレイン間がオフになるので、RESETポート52に信号が入らなくなる。その代わりRESETポート52近くのダイオードD2と抵抗器R7によってRESETポート52に基準電圧VCCが入り続けることになる。RESETポート52に5Vが入り続けると、リセット制御回路63を設けていない時と同じ動作を維持できる。尚、I/Oポート53の出力をローにすると、トランジスタTr2はオフになるので、FETのゲートがハイとなってソース-ドレイン間が導通する。この結果、T端子24とRESETポート52が導通する。
【0062】
矢印72aにてリセットが完了したら、MCU50はリセット状態から復帰する。その後、MCU50の情報の送信を要求する。要求信号を受けたMCU50は、MCU50の情報(型名、メモリ容量など)を書き込み装置300へ返信する。書き込み装置300は、書き込み対象の設定と一致していればMCU50に対してセキュリティコードを要求する。それを受信したMCU50は書き込み装置300にセキュリティコードを返信する。
【0063】
書き込み装置300は、受信したセキュリティコードが一致していれば、指定領域のメモリを消去し、指定領域のメモリの消去状態をMCU50に送信する。MCU50は消去状態が問題なければ、書き込みを開始する。書き込み終了後に、MCU50は指定領域のメモリの内容を書き込み装置300に送信する。書き込み装置300は、送信した内容と、返信された内容が一致しているかを確認し、一致していれば、書き込み動作が正常終了したことをTool0端子338、通信端子238、LD端子28を経由してMCU50に送信する。MCU50は、この正常終了の信号を以ってシャットダウンする(ステップ47)。なお、書き込み終了後に書き込み装置(アダプタ200)が接続された状態でもマイコン(MCU50)は再起動しない。書き込み装置300は、セキュリティコードを外すなど、接続を解除して処理を終了する。また、書き込み装置300は表示画面301(図1参照)にに“正常終了”した旨のメッセージを表示する。
【0064】
以上説明したように、電気機器1のMCU50の起動時に図5で示したフローチャートの手順が1回実行される。本実施例では、従来の電気機器ではプログラムの書き込みに専用端子を設けていたのを、電池パックの既存の端子を兼用するようにしてプログラムの書き込みができるようにし、電池パック100又はアダプタ200を差し込んだときに、回路上で電池パックによる通常通信をおこなうか、MCU50の動作電圧の供給を受けながら書き込み装置300と通信を行うかの回路を選択するようにした。この結果、電気機器1から通信専用の端子を省略することができ、部品点数の削減によるコストダウンを実現できた。さらには、電池パック100との通信用の端子(例えばLS端子)を使って電気機器1側のMCU50の動作用の電源を供給するので、アダプタ200をつないだ書き込み装置300を接続するだけで容易に電気機器1のプログラムを書き換えることができる。
【0065】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、上述の実施例では電気機器として、電動工具の例にて説明したが、着脱可能な電池パック100を電源として稼働する電気機器であって、MCU50を有し、書き込み装置300との通信ができる機器であれば、電気機器の種類は問われずに本発明の適用が可能である。また、使用する通信ケーブル320の種類は任意で有り、USBケーブル以外のケーブルを用いてアダプタ200と書き込み装置300を接続しても良い。また、書き込み装置300のようなソフトウェア(制御プログラム)を書き込む装置ではなく、ソフトウェア(制御プログラム)等の情報を、接続された電気機器から読み込むだけの読み込み装置に適用しても良い。
【符号の説明】
【0066】
1…電気機器、2…ハウジング、2a…胴体部、2b…ハンドル部、2c…電池パック装着部、3…モータ、4…動作スイッチ、5…駆動回路、6…トリガスイッチ、7…正逆切替レバー、8…先端工具保持部、9…先端工具、11a,11b…レール部、12a,12b…凹部、13…湾曲部、14…突起部、20…ターミナル部、20a…垂直面、20b…水平面、21…充電用正極端子、22…正極端子、24…T端子、25…V端子、26…LS端子、27…負極端子、28…LD端子、50…MCU、51…T(R×D1)ポート、52…RESETポート、53…I/Oポート、54…Vポート、55…LSポート、56…出力ポート、57…LDポート、58…Tool0ポート、59…検出ポート、60…レギュレータ(電力供給部)、61…通電回路、62…第1通信回路、63…リセット制御回路、65…中立点、100…電池パック、101…下ケース、110…上ケース、111…下段面、115…上段面、116…隆起部、116a…ストッパ部、117a,117b…レール部、118a,118b…ラッチボタン、119a,119b…ラッチ爪(掛止部)、121~128…スロット、131…正極端子(C+)、132…正極端子、134…T端子、135…V端子、136…LS端子、137…負極端子、138…LD端子、139…ヒューズ、140~149…電池セル、150…MCU、151,152…入出力ポート、153…電気通信ポート、154…入出力ポート、161…FET、164…サーミスタ、166…抵抗器、200…アダプタ、201…下ケース、210…上ケース、221~228…スロット、234…RESET端子、236…定電圧端子、237…グランド端子、238…通信端子、300…書き込み装置、301…表示画面、310…プロセッサ、320…USBケーブル、324…RESET端子、330…無線通信、336…電源端子、337…グランド端子、338…Tool0端子、D1~D4…ダイオードFET 第1スイッチング素子、R1~R20…抵抗器、C1~C3…コンデンサ、Tr1~Tr3…トランジスタ、VCC…(電気機器の)基準電圧、VCC1…(電池パックの)基準電圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6