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  • 特許-熱硬化性樹脂組成物および半導体装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物および半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/29 20060101AFI20240925BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20240925BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240925BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240925BHJP
   C08K 5/3447 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
H01L23/30 R
C08K3/013
C08L101/00
C08K5/3447
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022566942
(86)(22)【出願日】2021-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2021043929
(87)【国際公開番号】W WO2022118853
(87)【国際公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2020200772
(32)【優先日】2020-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021054709
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】住田 稜
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 咲子
(72)【発明者】
【氏名】楠木 淳也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 豊誠
【審査官】金田 孝之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/031513(WO,A1)
【文献】特開2017-090508(JP,A)
【文献】国際公開第2015/151341(WO,A1)
【文献】特開2017-149914(JP,A)
【文献】特開2018-098442(JP,A)
【文献】特開2020-097661(JP,A)
【文献】特開2004-327557(JP,A)
【文献】特開平04-221842(JP,A)
【文献】国際公開第2011/010635(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103019034(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/28 -23/31
H01L 21/60
H01L 23/29
C08K 3/013
C08L 101/00
C08K 5/3447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
載置板と、
前記載置板上に搭載され、ボンディングパッドを有する、半導体チップと、
前記ボンディングパッドに接合された、前記半導体チップと前記載置板とを接続するボンディングワイヤと、
前記半導体チップ、前記載置板の前記半導体チップの搭載面、および前記ボンディングワイヤを封止する樹脂封止体と、を備える半導体装置において、
前記ボンディングワイヤの少なくとも一部、および前記ボンディングパッドを被覆するために用いる熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂、硬化剤、無機フィラーおよび溶剤を含み、
前記熱硬化性樹脂は、ノボラック型フェノール樹脂を含み、
前記硬化剤は、エポキシ樹脂およびアルコキシメチルグリコールウリル化合物を含み、
前記無機フィラーの含有量が、当該熱硬化性樹脂組成物の固形分全体に対して、40質量%以上85質量%以下である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機フィラーのレーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径が0.01μm以上10μm以下である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物を175℃で120分加熱処理した硬化物に対して、動的粘弾性測定機を用いて、測定温度:20℃~300℃、昇温速度:5℃/分、周波数:1Hz、引っ張りモードの条件で測定した、25℃における貯蔵弾性率が、2GPa以上20GPa以下である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物を175℃で120分加熱処理した硬化物において、下記手順で測定される塩素イオンの含有量が、0.01ppm以上10ppm以下である、熱硬化性樹脂組成物。
(手順)
前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物5gに対して50mLの純水を加え、125℃24時間熱水抽出し、抽出水を得る。得られた前記抽出水をイオンクロマトグラフにより分析することにより、前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物中のイオン濃度を測定する。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物を175℃で120分加熱処理した硬化物において、動的粘弾性測定機(DMA)を用いて、開始温度20℃、測定温度範囲20~300℃、昇温速度5℃/min、周波数1Hzの条件下で測定したガラス転移温度が、150℃以上350℃以下である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
ブルックフィールドBH型回転粘度計を用い、20rpm、25℃で測定された粘度が、20mPa・s以上2000mPa・s以下である、請求項1乃至5のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
粘度a/粘度bで表されるチキソ比が0.1以上3.0以下である、請求項1乃至6のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物:
粘度a:ブルックフィールドBH型回転粘度計を用い、10rpm、25℃で測定した粘度;
粘度b:ブルックフィールドBH型回転粘度計を用い、20rpm、25℃で測定した粘度。
【請求項8】
ジェットディスペンサを用いて、前記ボンディングワイヤと前記ボンディングパッドとの接続部を被覆するように塗布される、請求項1乃至7のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
前記無機フィラーが、シリカ、タルク、アルミナ、チタンホワイト、および窒化珪素から選択される少なくとも1つを含む、請求項1乃至8のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
前記溶剤が、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、N-エチル-2-ピロリドン、テトラメチル尿酸、乳酸エチル、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、乳酸メチル、乳酸ブチル、メチル-1,3-ブチレングリコールアセテート、1,3-ブチレングリコール-3-モノメチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチルおよびメチル-3-メトキシプロピオネートから選択される少なくとも1つを含む、請求項1乃至のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
載置板と、
前記載置板上に搭載された、ボンディングパッドを有する半導体チップと、
前記ボンディングパッドに接合された、前記半導体チップと前記載置板とを接続するボンディングワイヤと、
前記半導体チップ、前記載置板の前記半導体チップの搭載面、および前記ボンディングワイヤを封止する樹脂封止体と、
前記ボンディングワイヤと前記ボンディングパッドとの接続部を被覆するワイヤコート材と、を備え、
前記ワイヤコート材が、請求項1乃至10のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物およびこれを用いて製造される半導体装置に関する。より詳細には、本発明は、半導体チップの電極パッドがボンディングワイヤで電気的に接合され、半導体チップとボンディングワイヤとが熱硬化性樹脂組成物の硬化物で封止されている半導体装置において、電極パッドとボンディングワイヤとの接合部を保護するために用いる熱硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置は、通常、半導体チップがボンディングワイヤとともに樹脂で封止(パッケージング)された状態で流通している。パッケージ内において、半導体チップの電極パッドと、樹脂パッケージから一部が露出する電極リードとが、ボンディングワイヤにより電気的に接続されている。したがって、実装基板の配線に対して電極リードを外部端子として接続することにより、半導体チップと実装基板との電気的な接続が達成される。
【0003】
電極パッドと電極リードとを結ぶボンディングワイヤとして、従来は主に金ワイヤが用いられているが、高価な金の使用を減らすべく、近年では、金ワイヤよりも安価な銅ワイヤの使用が検討されている。近年主流のアルミニウム製の電極パッドに接続するワイヤとして銅ワイヤを用いた場合には、その浸入水分が電極パッドとボンディングワイヤとの接合界面に入り込むと、当該接合界面付近においてアルミニウムの腐食が進行しやすくなる。そのため、パッド-ワイヤ間において、電気的オープンが生じるおそれがある。また封止樹脂中の塩素元素と、電極パッドとボンディングワイヤとの接合界面に形成された金属間化合物が、腐食反応を起こすことにより、接合部の電気抵抗の増加や接合強度の低下を引き起こす場合があった。
【0004】
パッド-ワイヤ間の接続信頼性を向上するための技術として、例えば、特許文献1では、ボンディングワイヤの合金化添加元素を適正化することで、ボンディングワイヤと電極との接合部の長期信頼性を向上させる方法が記載されている。
【0005】
しかし、上記特許文献1では、ボンディングワイヤと電極との間の十分な接続信頼性を得るのは困難であった。本発明者らは、ボンディングワイヤとボンディングパッドとの間の接続信頼性を改善するために、これらの接合部をワイヤコート材で被覆する技術を検討した。ワイヤコート材で被覆する場合、ワイヤコート材として用いる樹脂組成物の組成を最適化して、良好な塗布性を維持しつつ、ボンディングワイヤとボンディングパッドとの間の接続信頼性を向上させることが重要な技術的課題であることを見出した。さらに、本発明者らは、熱履歴によりワイヤコート材等の剥離が生じる場合があることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-133362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ボンディングパッドとボンディングワイヤとの接続信頼性を向上させることができる、ボンディングワイヤの少なくとも一部と接合界面とを被覆するための熱硬化性樹脂組成物、およびこの熱硬化性樹脂組成物を使用して得られる、電気的信頼性に優れた半導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討した結果、載置板と、前記載置板上に搭載され、ボンディングパッドを有する、半導体チップと、前記ボンディングパッドに接合された、前記半導体チップと前記載置板とを接続するボンディングワイヤと、前記半導体チップ、前記載置板の前記半導体チップの搭載面、および前記ボンディングワイヤを封止する樹脂封止体と、を備える半導体装置において、前記ボンディングワイヤの少なくとも一部、および前記接合層を樹脂で被覆することにより、上記課題を解決できることを見出し本発明を完成させた。
【0010】
本発明によれば、
載置板と、
前記載置板上に搭載され、ボンディングパッドを有する、半導体チップと、
前記ボンディングパッドに接合された、前記半導体チップと前記載置板とを接続するボンディングワイヤと、
前記半導体チップ、前記載置板の前記半導体チップの搭載面、および前記ボンディングワイヤを封止する樹脂封止体と、を備える半導体装置において、
前記ボンディングワイヤの少なくとも一部、および前記ボンディングパッドを被覆するために用いる熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂、硬化剤、無機フィラーおよび溶剤を含み、
前記熱硬化性樹脂は、ノボラック型フェノール樹脂を含み、
前記硬化剤は、エポキシ樹脂およびアルコキシメチルグリコールウリル化合物を含み、
前記無機フィラーの含有量が、当該熱硬化性樹脂組成物の固形分全体に対して、40質量%以上85質量%以下である、熱硬化性樹脂組成物が提供される。
【0011】
また本発明によれば、
載置板と、
前記載置板上に搭載され、ボンディングパッドを有する、半導体チップと、
前記ボンディングパッドに接合された、前記半導体チップと前記載置板とを接続するボンディングワイヤと、
前記半導体チップ、前記載置板の前記半導体チップの搭載面、および前記ボンディングワイヤを封止する樹脂封止体と、を備え、
前記ワイヤコート材が、上記熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる、半導体装置が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、半導体チップとボンディングワイヤとの接続信頼性を改善することができる熱硬化性樹脂組成物、およびこれを用いて製造された信頼性に優れる半導体装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る半導体装置の断面模式図である。
図2】本実施形態に係る図1に示す半導体装置における、半導体チップとボンディングワイヤとの接合部の断面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、すべての図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応するものではない。本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、「a以上b以下」のことを表す。例えば、「5~90質量%」とは「5質量%以上90質量%以下」を意味する。
【0015】
第一の実施形態において、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、
載置板と、
前記載置板上に搭載され、ボンディングパッドを有する、半導体チップと、
前記ボンディングパッドに接合された、前記半導体チップと前記載置板とを接続するボンディングワイヤと、
前記半導体チップ、前記載置板の前記半導体チップの搭載面、および前記ボンディングワイヤを封止する樹脂封止体と、を備える半導体装置において、
前記ボンディングワイヤの少なくとも一部、および前記ボンディングパッドを被覆するために用いる熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂、硬化剤、および溶剤を含み、
当該熱硬化性樹脂組成物の、回転粘度計で測定した粘度が、20mPa・s以上である。
【0016】
第二の実施形態において、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、
載置板と、
前記載置板上に搭載され、ボンディングパッドを有する、半導体チップと、
前記ボンディングパッドに接合された、前記半導体チップと前記載置板とを接続するボンディングワイヤと、
前記半導体チップ、前記載置板の前記半導体チップの搭載面、および前記ボンディングワイヤを封止する樹脂封止体と、を備える半導体装置において、
前記ボンディングワイヤの少なくとも一部、および前記ボンディングパッドを被覆するために用いる熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂、無機フィラーおよび溶剤を含み、
前記無機フィラーの含有量が、当該熱硬化性樹脂組成物の固形分全体に対して、40質量%以上85質量%以下である。
【0017】
また、本実施形態に係る半導体装置は、
載置板と、
前記載置板上に搭載された、ボンディングパッドを有する半導体チップと、
前記ボンディングパッドに接合された、前記半導体チップと前記載置板とを接続するボンディングワイヤと、
前記半導体チップ、前記載置板の前記半導体チップの搭載面、および前記ボンディングワイヤを封止する樹脂封止体と、
前記ボンディングワイヤと前記ボンディングパッドとの接続部を被覆するワイヤコート材と、を備え、
前記ワイヤコート材が、上記熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる。
【0018】
本実施形態におけるワイヤコート材が本発明の熱硬化性樹脂組成物に対応する。また、本実施形態における半導体装置10が本発明の半導体装置に対応する。
【0019】
(半導体装置10)
図1は、本実施形態に係る半導体装置10の断面図である。図1に示すように、半導体装置10は、半導体チップ1、回路基板2、接続パッド8、樹脂封止体(封止樹脂)4、外部電極端子6、ボンディングワイヤ7を備える。半導体装置10において、回路基板2上の接続パッド8上にダイアタッチ材9を介して半導体チップ1が固定されている。半導体チップ1の電極パッド(図示せず)と回路基板2との間はボンディングワイヤ7によって接続されている。回路基板2の半導体チップ1が搭載された面は、樹脂封止体4によって封止されている。回路基板2上の電極パッドは、回路基板2の非封止面側の外部電極端子6と内部で接合されている。
【0020】
(半導体チップ1)
半導体チップ1の種類は特に限定されず、あらゆる種類の半導体チップが用いられ得る。半導体チップ1は、半導体チップ1の裏面が接続パッド8の上面に接するように、ダイアタッチ層9を介して回路基板2上に搭載されている。半導体チップ1の上面において、ボンディングワイヤ7がワイヤボンディング法を用いて、接合層(ボンディングパッド)17を介して半導体チップ1に電気的に接続されており、半導体チップ1とボンディングワイヤ7との接続部分が、樹脂コート材(ワイヤコート材)5により被覆されている。ここで、図2は、図1における半導体チップ1とボンディングワイヤ7との接続部分における拡大図を示している。図2に示すように、半導体チップ1は、その上面に、バリア層18と、接合層17とを備え、接合層17を介してボンディングワイヤ7の一端に電気的に接続されており、半導体チップ1とボンディングワイヤ7との接続部分が、以下で詳述する本実施形態の熱硬化性樹脂組成物の硬化物よりなるワイヤコート材5により被覆されている。
【0021】
この構成によれば、接合層17およびボンディングワイヤ7の一部が、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物の硬化物よりなるワイヤコート材5により被覆されている。そのため、樹脂パッケージ内部に水分が侵入しても、その水分をこのワイヤコート材5により塞ぎ止めることができるため、半導体チップ1とボンディングワイヤ7との接合界面(接合層17)が水分と接触して腐食することを防止することができる。また樹脂封止体4に含まれる水分や塩素イオンによる半導体チップ1とボンディングワイヤ7との接合界面(接合層17)の腐食を抑制することができる。さらに腐食が生じたとしてもその広がりを抑制することができる。また樹脂封止体4に含まれる酸素により、ボンディングワイヤ7や接合層19が酸化するのを防止することができる。その結果、パッド-ワイヤ間の接続信頼性を向上することができ、信頼性に優れる半導体装置を得ることができる。
【0022】
(回路基板2)
本実施形態の半導体装置10が備える回路基板2は、半導体チップ1の載置板として使用される。回路基板2は、その裏面側に外部電極端子6を備えている。また、回路基板2は、回路基板2の上面および内部に配線を備える。更に、回路基板2は、回路基板2の上面に配線を介して接続パッド8を備える。図2に示すように、接続パッド8の裏面の全体が配線に接続されている必要はなく、接続パッド8の一部が配線に接続されていればよいが、接続パッド8の裏面の全体が配線に接続されていてもよい。また、回路基板2は、接続パッド8を介して半導体チップ1に接続される。
【0023】
本実施形態にて用いられる回路基板2の種類は特に限定されず、ガラスエポキシ材、BT(ビスマレイミドトリアジン)、レジン、ポリイミド等の有機絶縁基材に銅配線をパターニングした回路基板等を用いることができる。
【0024】
(ボンディングワイヤ7)
ボンディングワイヤ7は、半導体チップ1と回路基板2とを電気的に接続するために用いられる。具体的には、ボンディングワイヤ7の一端が半導体チップ1の上面に接合層19を介して電気的に接続されており、ボンディングワイヤ7の他端が回路基板2の上面に配線11を介して電気的に接続されている。この電気的な接続には、ワイヤボンディング法が用いられている。なお、本実施形態にて用いられるワイヤボンディングの種類は特に限定されず、ボールボンディング、ステッチボンディング等のあらゆる種類のワイヤボンディングが用いられ得る。
【0025】
本実施形態において用いられるボンディングワイヤ7は、アルミニウム、銀、および銅の何れかが導電材料として用いられていてもよい。ボンディングワイヤ7は、金属により予め被覆されていてもよい。
【0026】
(外部電極端子6)
外部電極端子6は、球形状をしており、回路基板2の裏面側(非封止面側)に設けられている。外部電極端子6の何れかが、配線(図示なし)に接続されており、これにより、半導体チップ1を駆動させるための電力が、外部電極端子6から配線およびボンディングワイヤ7を介して半導体チップ1に供給される。外部電極端子6としては、半田ボールを用いた球形状の端子、または、金を用いたランド形状の端子等が用いられる。
【0027】
(接続パッド8)
接続パッド8は、配線を介して回路基板2の上面に接続されている。一般に、半導体チップ1と回路基板2とがワイヤボンディング法を用いて電気的に接続される場合、半導体チップ1が積載されている接続パッド8は、半導体チップ1の周辺に配置されていることが望ましい。
【0028】
(樹脂封止体4)
樹脂封止体(封止樹脂)4は、回路基板2上の半導体チップ1を封止するために用いられており、図1に示すように、半導体チップ1、ボンディングワイヤ7、接続パッド8、半導体チップ1とボンディングワイヤ7との接合部、ボンディングワイヤ7と回路基板2との接合部、および配線を被覆する絶縁層(図示なし)の全体を覆うように、回路基板2上に形成される。樹脂封止体4の形成方法は、プレスおよび金型を用い、圧力を印加して樹脂成形するトランスファーモールド方法やコンプレッションモールド方法等が一般的であるが、本実施形態においては特にこれに限定されず、あらゆる種類の形成方法が用いられ得る。
【0029】
樹脂封止体4は、当該分野で一般的に用いられる材料より構成され、例えば、エポキシ樹脂と、硬化剤と、硬化促進剤と、無機充填剤とを含む封止用樹脂組成物を用いて作製することができる。
【0030】
樹脂封止体4を作製するための封止用樹脂組成物に配合されるエポキシ樹脂としては、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂等の結晶性エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂;フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂等のアラルキル型エポキシ樹脂;ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンの2量体をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂等のナフトール型エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等のトリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等の有橋環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0031】
エポキシ樹脂全体の配合割合の下限値としては特に限定されないが、封止用樹脂組成物全体に対して、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。エポキシ樹脂全体の配合割合が上記範囲内であると、粘度上昇によるワイヤ切れを引き起こす恐れが少ない。また、エポキシ樹脂全体の配合割合の上限値としては特に限定されないが、エポキシ樹脂組成物全体に対して、15質量%以下であることが好ましく、13質量%以下であることがより好ましい。エポキシ樹脂全体の配合割合の上限値が上記範囲内であると、吸水率増加による耐湿信頼性の低下等を引き起こす虞が少ない。
【0032】
樹脂封止体4を作製するための封止用樹脂組成物に配合される硬化剤としては、例えば重付加型の硬化剤、触媒型の硬化剤、縮合型の硬化剤のいずれかを用いることができる。
【0033】
重付加型の硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、メタキシレリレンジアミン(MXDA)などの脂肪族ポリアミン、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、m-フェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)などの芳香族ポリアミンのほか、ジシアンジアミド(DICY)、有機酸ジヒドララジドなどを含むポリアミン化合物;ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)などの脂環族酸無水物、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)などの芳香族酸無水物などを含む酸無水物;ノボラック型フェノール樹脂、フェノールポリマーなどのポリフェノール化合物;ポリサルファイド、チオエステル、チオエーテルなどのポリメルカプタン化合物;イソシアネートプレポリマー、ブロック化イソシアネートなどのイソシアネート化合物;カルボン酸含有ポリエステル樹脂などの有機酸類などが挙げられる。
【0034】
触媒型の硬化剤としては、例えば、ベンジルジメチルアミン(BDMA)、2,4,6-トリスジメチルアミノメチルフェノール(DMP-30)などの3級アミン化合物;2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール(EMI24)などのイミダゾール化合物;BF3錯体などのルイス酸などが挙げられる。
【0035】
縮合型の硬化剤としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等のフェノール樹脂系硬化剤;メチロール基含有尿素樹脂のような尿素樹脂;メチロール基含有メラミン樹脂のようなメラミン樹脂などが挙げられる。
【0036】
これらの中でも、耐燃性、耐湿性、電気特性、硬化性、保存安定性等のバランスの点からフェノール樹脂系硬化剤が好ましい。フェノール樹脂系硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等のノボラック型樹脂;トリフェノールメタン型フェノール樹脂等の多官能型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン及び/又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物等が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。高温保管特性や高温動作特性をさらに向上させるという観点では、トリフェノールメタン型フェノール樹脂等の多官能型フェノール樹脂が好ましく、トリフェノールメタン型フェノール樹脂が特に好ましい。
【0037】
硬化剤全体の配合割合の下限値については、特に限定されないが、封止用樹脂組成物全体に対して、0.8質量%以上であることが好ましく1.5質量%以上であることがより好ましい。配合割合の下限値が上記範囲内であると、充分な流動性を得ることができる。また、硬化剤全体の配合割合の上限値についても、特に限定されないが、封止用樹脂組成物全体に対して、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましい。配合割合の上限値が上記範囲内であると、吸水率増加による耐湿信頼性の低下等を引き起こす恐れが少ない。
【0038】
また、硬化剤としてフェノール樹脂系硬化剤を用いる場合におけるエポキシ樹脂とフェノール樹脂系硬化剤との配合比率としては、全エポキシ樹脂のエポキシ基数(EP)と全フェノール樹脂系硬化剤のフェノール性水酸基数(OH)との当量比(EP)/(OH)が0.8以上、1.3以下であることが好ましい。当量比がこの範囲であると、半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化性の低下又は樹脂硬化物の物性の低下等を引き起こす恐れが少ない。
【0039】
樹脂封止体4を作製するための封止用樹脂組成物に配合される無機充填材としては、一般に半導体封止用エポキシ樹脂組成物に使用されているものを用いることができ、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、タルク、アルミナ、チタンホワイト、窒化珪素等が挙げられる。最も好適に使用されるものとしては、溶融シリカである。これらの無機充填材は、単独でも混合して用いても差し支えない。また、これらの無機充填材は、カップリング剤により表面処理されていてもかまわない。充填材の形状としては、流動性改善のために、できるだけ真球状であり、かつ粒度分布がブロードであることが好ましい。
【0040】
無機充填材の含有割合は特に限定されないが、無機充填材の含有割合の下限値は、エポキシ樹脂組成物全体に対して、82質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがよりに好ましい。上記下限値を下回らない範囲であれば、低吸湿性、低熱膨張性が得られるため耐湿信頼性が不十分となる虞が少ない。また、無機充填材の含有割合の上限値は、エポキシ樹脂組成物全体に対して、92質量%以下であることが好ましく、89質量%以下であることがより好ましい。上記上限値を超えない範囲であれば、流動性が低下し成形時に充填不良等が生じたり、高粘度化による半導体装置内のワイヤ流れ等の不都合が生じたりする恐れが少ない。
【0041】
樹脂封止体4を作製するための封止用樹脂組成物には硬化促進剤をさらに配合してもよい。硬化促進剤は、エポキシ樹脂のエポキシ基と硬化剤の官能基(例えば、フェノール樹脂系硬化剤のフェノール性水酸基)との架橋反応を促進させるものであればよく、一般にエポキシ樹脂組成物に使用するものを用いることができる。例えば、1、8-ジアザビシクロ(5、4、0)ウンデセン-7等のジアザビシクロアルケン及びその誘導体;トリフェニルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類;2-メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物;テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等のテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート;ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物等が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種以上を併用しても差し支えない。
【0042】
硬化促進剤の配合割合の下限値としては特に限定されないが、封止用樹脂組成物全体に対して、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。硬化促進剤の配合割合の下限値が上記範囲内であると、硬化性の低下を引き起こす恐れが少ない。また、硬化促進剤の配合割合の上限値としては特に限定されないが、封止樹脂組成物全体に対して、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。硬化促進剤の配合割合の上限値が上記範囲内であると、流動性の低下を引き起こす恐れが少ない。
【0043】
(ワイヤコート材5)
ワイヤコート材5は、半導体チップ1とボンディングワイヤ7との接合部を被覆するために用いられる。本発明のワイヤコート材5について、以下に具体的に説明する。
【0044】
[第一の実施形態]
第一の実施形態において、ワイヤコート材5は、熱硬化性樹脂、硬化剤、および溶剤を含む熱硬化性樹脂組成物の硬化物から作製される。以下、ワイヤコート材5を作製するための熱硬化性樹脂組成物(以下、「ワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物」または「熱硬化性樹脂組成物」と称する)に配合される成分について説明する。
【0045】
<熱硬化性樹脂>
本実施形態のワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物に配合される熱硬化性樹脂としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールノボラック樹脂、フェノール-ビフェニルノボラック樹脂、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂、アリル化ノボラック型フェノール樹脂、およびキシリレンノボラック型フェノール樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、およびクレゾールノボラック樹脂等のフェノール化合物とアルデヒド化合物との反応物;フェノールアラルキル樹脂等のフェノール化合物とジメタノール化合物との反応物;ヒドロキシスチレン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリベンゾオキサゾール樹脂;ポリイミド樹脂;ならびに環状オレフィン樹脂を用いることができる。中でも、得られるワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物の耐熱性の観点から、フェノールノボラック樹脂を用いることが好ましく、特に、フェノール-ビフェニルノボラック樹脂を用いることが好ましい。
【0046】
熱硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂組成物の固形分全体に対して、例えば、10質量%以上95質量%以下、好ましくは、20質量%以上90質量%以下、より好ましくは、30質量%以上85質量%以下の量で配合される。
【0047】
<硬化剤>
本実施形態のワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物に配合される硬化剤としては、熱硬化性樹脂と熱により反応可能な基を有する化合物が用いられる。硬化剤としては、たとえば、1,2-ベンゼンジメタノール、1,3-ベンゼンジメタノール、1,4-ベンゼンジメタノール(パラキシレングリコール)、1,3,5-ベンゼントリメタノール、4,4-ビフェニルジメタノール、2,6-ピリジンジメタノール、2,6-ビス(ヒドロキシメチル)-p-クレゾール、4,4'-メチレンビス(2,6-ジアルコキシメチルフェノール)などのメチロール基を有する化合物;フロログルシドなどのフェノール類;1,4-ビス(メトキシメチル)ベンゼン、1,3-ビス(メトキシメチル)ベンゼン、4,4'-ビス(メトキシメチル)ビフェニル、3,4'-ビス(メトキシメチル)ビフェニル、3,3'-ビス(メトキシメチル)ビフェニル、2,6-ナフタレンジカルボン酸メチル、4,4'-メチレンビス(2,6-ジメトキシメチルフェノール)などのアルコキシメチル基を有する化合物;ヘキサメチロールメラミン、ヘキサブタノールメラミン等から代表されるメチロールメラミン化合物;ヘキサメトキシメラミンなどのアルコキシメラミン化合物;テトラメトキシメチルグリコールウリルなどのアルコキシメチルグリコールウリル化合物;メチロールベンゾグアナミン化合物、ジメチロールエチレンウレアなどのメチロールウレア化合物;アルキル化尿素樹脂;ジシアノアニリン、ジシアノフェノール、シアノフェニルスルホン酸などのシアノ化合物;1,4-フェニレンジイソシアナート、3,3'-ジメチルジフェニルメタン-4,4'-ジイソシアナートなどのイソシアナート化合物;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、イソシアヌル酸トリグリシジル、フェノキシ型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ナフタレン系エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック樹脂型エポキシ樹脂などのエポキシ基含有化合物;N,N'-1,3-フェニレンジマレイミド、N,N'-メチレンジマレイミドなどのマレイミド化合物等が挙げられる。
【0048】
また、ワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物中の硬化剤の含有量は、熱硬化性樹脂組成物の固形分全体(無機フィラーを除く)に対して、低温硬化時の靭性及び耐薬性向上の観点から、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上である。
また、硬化膜の耐薬性を高める観点から、熱硬化性樹脂組成物中の硬化剤の含有量は、熱硬化性樹脂組成物の固形分(無機フィラーを除く)を100質量%としたとき、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。
【0049】
<溶剤>
本実施形態のワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物に配合される用いられる溶剤としては、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、N-エチル-2-ピロリドン、テトラメチル尿酸、乳酸エチル、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、乳酸メチル、乳酸ブチル、メチル-1,3-ブチレングリコールアセテート、1,3-ブチレングリコール-3-モノメチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチルおよびメチル-3-メトキシプロピオネート等を用いることができる。中でも、γ-ブチロラクトンを用いることが、粘度の制御の観点から好ましい。
【0050】
第一の実施形態において、溶剤は、熱硬化性樹脂組成物の粘度を所望の範囲とするのに適切な量で使用することができ、例えば、熱硬化性樹脂組成物全体に対して、例えば、10質量%以上50質量%以下の量で使用できる。
【0051】
<無機フィラー>
本実施形態のワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物は、無機フィラーを含んでもよい。無機フィラーを用いることにより、流動性とチキソトロピー性を所望の値に調整することができる。
【0052】
用いることができる無機フィラーとしては、溶融シリカおよび結晶シリカ等のシリカ、タルク、アルミナ、チタンホワイト、窒化珪素等が挙げられる。中でも、チキソトロピー性の制御の観点から、シリカフィラーを用いることが好ましい。
【0053】
無機フィラーを用いる場合、この無機フィラーの平均粒径は、5.0μm以下であることが好ましい。本明細書において、平均粒径とは、特に断りのない限り、ISO-13320(2009)に準拠してレーザー回折法によって測定した体積基準のメジアン径(d50)を指す。無機フィラーの平均粒径は4.0μm以下であることが好ましく、3.0μm以下であることがより好ましい。平均粒径が5.0μm超であると、無機フィラーが沈降しやすくなる。さらに、粗粒が含有されやすくなり、以下で説明するジェットディスペンサのノズルが摩耗し、吐出される樹脂組成物が所望の領域外へ飛散しやすくなる。平均粒径の下限は特に限定されない。しかし、平均粒径が0.5μm未満であると、ワイヤコート材用樹脂組成物の粘度が高くなりやすいため、0.5μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましい。ある態様において、本発明に用いられる無機フィラーの平均粒径は、0.5μm以上5.0μm以下、好ましくは、1.0μm以上3.0μm以下である。
【0054】
無機フィラーを用いる場合、本実施形態のワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物におけるシリカフィラーの含有量は、熱硬化性樹脂組成物の総重量に対し、例えば、0~50質量%である。含有量が高すぎると、エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなりすぎ、ジェットディスペンサでの適用が困難になる場合がある。また無機フィラーの含有量が高すぎると、硬化物にボイドが生じる場合がある。
【0055】
<酸発生剤>
本実施形態のワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物は、硬化膜を安定的に形成する観点から、酸発生剤を含んでもよい。酸発生剤は、具体的には、熱エネルギーまたは光エネルギーを吸収することにより酸を発生する化合物である。
【0056】
低温での硬化性および耐薬性を向上する観点から、酸発生剤は、好ましくは、スルホニウム化合物またはその塩(本明細書中、「成分(e1)」と称する)を含む。
成分(e1)は、具体的には、カチオン部としてスルホニウムイオンを有するスルホニウム塩である。このとき、成分(e1)のアニオン部は、具体的には、ホウ化物イオン、アンチモンイオン、リンイオンまたはトリフルオロメタンスルホン酸イオン等のスルホン酸イオンであり、低温での反応速度を向上する観点から、好ましくはホウ化物イオンまたはアンチモンイオンであり、より好ましくはホウ化物イオンである。これらのアニオンは置換基を有してもよい。
【0057】
熱硬化性樹脂組成物中の成分(e1)の含有量は、熱硬化性樹脂組成物の固形分(フィラーを除く)を100質量%としたとき、低温での硬化性を向上する観点から、好ましくは0.005質量%以上であり、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.02質量%以上である。
また、信頼性低下を抑制する観点から、感光性樹脂組成物中の成分(E)の含有量は、感光性樹脂組成物の全固形分を100質量%としたとき、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である。
【0058】
<他の添加剤>
本実施形態のワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物は、所望であれば、カップリング剤、他の無機フィラー、安定剤、レベリング剤等の他の添加材を含んでもよい。
【0059】
(ワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物の特性)
第一のワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物は、上記組成を有することにより、回転粘度計で測定した粘度が、20mPa・s以上である。これにより、以下で説明する熱硬化性樹脂組成物の適用時における流動性およびディスペンス性が向上する。
【0060】
第一のワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物は、ジェットディスペンサによる適用を意図しているため、内径数百μmの微細孔から熱硬化性樹脂組成物を高速で吐出できるよう、ノズル先端温度での粘度が低いことが好ましい。また、吐出後の熱硬化性樹脂組成物が流動性を有することが好ましい。このため、熱硬化性樹脂組成物は、30℃におけるその粘度が2000mPa・s以下であり、好ましくは1000mPa・s以下であり、より好ましくは800mPa・s以下である。また、取り扱いの観点から、粘度は100mPa・s以上であることが好ましい。本発明において、粘度は、日本工業規格JIS K6833に準じて求めることができる。具体的には、30℃における粘度は、E型粘度計を用いて、回転数1rpmで測定開始から1分後の値を読み取ることで、求めることができる。使用する機器やローターや測定レンジに特に制限はない。
【0061】
第一のワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物は、上記組成を有することにより、チキソトロピー性を有する。ここで、熱硬化性樹脂組成物がチキソトロピー性を有するとは、熱硬化性樹脂組成物が剪断応力を受けると(剪断速度を速くすると)粘度が低下し、剪断応力が解除されると(剪断速度を遅くすると)粘度が回復し流動が抑制される粘弾性特性を有することをいう。
【0062】
硬化性樹脂組成物のチキソトロピー性は、基準となる剪断速度10rpmにおける熱硬化性樹脂組成物の粘度η10(Pa・s)と、剪断速度20rpmにおける熱硬化性樹脂組成物の粘度η20(Pa・s)との比(x=η10/η20)として表される、チキソトロピック係数を指標にすることができる。
チキソトロピック係数が、0.8~2.0の範囲であれば、熱硬化性樹脂組成物を、ジェットディスペンサを使用して塗布したときに、熱硬化性樹脂組成物は、ジェットディスペンサから押出されているときは適度に流動し、押出された後は流動が止まるため、所定の範囲からの流出が生じ難く(塗布形状保持)、所定の範囲に塗付することが可能となる。
【0063】
ワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物中の塩化物イオン(Cl)および硫化物イオン(S2-)の含有濃度は、10ppm以下である。そのため、ワイヤコート材5で被覆されたボンディングワイヤを腐食することはない。なお、塩化物イオン(Cl)および硫化物イオン(S2-)は、アルミニウム、銀、および銅を溶解し、腐食させる性質がある。アルミニウム、銀、および銅の中では、アルミニウムがClおよびS2-によって最も腐食され易く、その腐食濃度閾値は100ppmである。換言すれば、ClおよびS2-の濃度が100ppm以下であれば、アルミニウム、銀、および銅の何れもが腐食されることはない。
【0064】
[第二の実施形態]
第二の実施形態において、ワイヤコート材5は、熱硬化性樹脂、無機フィラー、および溶剤を含む熱硬化性樹脂組成物の硬化物から作製される。以下、第二の実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物に配合される成分について説明する。
【0065】
<熱硬化性樹脂>
第二の実施形態の熱硬化性樹脂組成物に用いられる熱硬化性樹脂は、上述の第一の実施形態におけるものと同様の樹脂を用いることができる。熱硬化性樹脂の好ましい態様についても、第一の実施形態と同様である。
【0066】
熱硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂組成物の固形分全体(無機フィラーを除く)に対して、例えば、10質量%以上95質量%以下、好ましくは、20質量%以上90質量%以下、より好ましくは、30質量%以上85質量%以下の量で配合される。
【0067】
<無機フィラー>
第二の実施形態のワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物は、無機フィラーを必須成分として含む。無機フィラーの含有量は、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物の全固形分に対して、40質量%以上であり、好ましくは、50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、最も好ましくは65質量%以上である。上記配合量とすることにより、得られるワイヤコート材の熱収縮が抑制され、よって半導体チップ1と接続パッド8、半導体チップ1とバリア層18またはバリア層18と接合層19の間に剥離が生じることを抑制できる。
【0068】
また、無機フィラーの含有量は、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物の全固形分に対して、85質量%以下であり、好ましくは80質量%以下である。こうすることにより、ジェットディスペンサ等による塗布性が向上するとともに、ワイヤコート材にクラックが生じることを抑制できる。
【0069】
用いることができる無機フィラーとしては、溶融シリカおよび結晶シリカ等のシリカ、タルク、アルミナ、チタンホワイト、窒化珪素等が挙げられる。中でも、チキソトロピー性の制御の観点から、シリカを用いることが好ましい。シリカとしては、溶融球状シリカ、または溶融破砕シリカを用いることができ、中でも、溶融球状シリカを用いることが好ましい。また無機フィラーの形状は、得られ熱硬化性樹脂組成物の溶融粘度の上昇を抑制しつつ、無機フィラーの含有量を高めることができる観点から、できるかぎり真球状であることが好ましく、かつ粒度分布がブロードであることが好ましい。
【0070】
無機フィラーを用いる場合、この無機フィラーの平均粒径は、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上、最も好ましくは0.3μm以上である。こうすることにより、熱硬化性樹脂組成物中の無機フィラーの沈降を効果的に抑制できる。また、ジェットディスペンサのノズルが摩耗し、吐出される樹脂組成物が所望の領域外へ飛散しやすくなることを抑制できる。
また、上記平均粒径は、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、最も好ましくは3μm以下である。こうすることにより、ジェットディスペンサ等による塗布性を向上することができる。
【0071】
<溶剤>
第二の実施形態の熱硬化性樹脂組成物に用いられる溶剤は、上述の第一の実施形態におけるものと同様の溶剤を用いることができる。溶剤の好ましい態様についても、第一の実施形態と同様である。
【0072】
第二の実施形態において、溶剤は、熱硬化性樹脂組成物の粘度を所望の範囲とするのに適切な量で使用することができ、例えば、熱硬化性樹脂組成物全体に対して、例えば、10質量%以上70質量%以下の量で使用できる。
【0073】
<硬化剤>
第二の実施形態の熱硬化性樹脂組成物は硬化剤を含んでもよい。硬化剤が用いられる場合、この硬化剤は、上述の第一の実施形態におけるものと同様の硬化剤を用いることができる。硬化剤の好ましい態様についても、第一の実施形態と同様である。
【0074】
また、硬化剤が用いられる場合、ワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物中の硬化剤の含有量は、熱硬化性樹脂組成物の固形分全体(無機フィラーを除く)に対して、低温硬化時の靭性及び耐薬性向上の観点から、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上である。
また、硬化膜の耐薬性を高める観点から、熱硬化性樹脂組成物中の硬化剤の含有量は、熱硬化性樹脂組成物の固形分(無機フィラーを除く)を100質量%としたとき、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。
【0075】
<他の添加剤>
第二の実施形態のワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物は、所望であれば、第一の実施形態と同様に、酸発生剤、密着助剤、他の無機フィラー、安定剤、界面活性剤等の他の添加材を含んでもよい。
【0076】
(ワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物の特性)
第二の実施形態のワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物は、当該熱硬化性樹脂組成物を175℃で120分加熱処理した硬化物に対して、動的粘弾性測定機を用いて、測定温度:20℃~300℃、昇温速度:5℃/分、周波数:1Hz、引っ張りモードの条件で測定した、25℃における貯蔵弾性率が、2GPa以上20GPa以下であり、好ましくは、3GPa以上18GPa以下である。ワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物より得られるワイヤコート材は、上記範囲の貯蔵弾性率を有することにより、低温時は十分な剛性を維持でき、封止時または作動時の高温下で低弾性であり、よって柔らかさを維持することができ、高温でボンディングワイヤおよび接続部で生じる熱応力を緩和することができる。
【0077】
本実施形態のワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物は、当該熱硬化性樹脂組成物を175℃で120分加熱処理した硬化物において、下記手順で測定される塩素イオンの含有量が、0.01ppm以上10ppm以下であり、好ましくは、0.01ppm以上6ppm以下である。
(手順)
当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物5gに対して50mLの純水を加え、125℃24時間熱水抽出し、抽出水を得る。得られた前記抽出水をイオンクロマトグラフにより分析することにより、当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物中のイオン濃度を測定する。
塩素イオン含有量が上記範囲である本実施形態のワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物は、塩素イオンによる半導体チップとボンディングワイヤとの接合界面(接合層19)の腐食を抑制することができる。
【0078】
本実施形態のワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物は、当該熱硬化性樹脂組成物を175℃で120分加熱処理した硬化物に対して、動的粘弾性測定機を用いて、測定温度:20℃~300℃、昇温速度:5℃/分、周波数:1Hz、引っ張りモードの条件で測定したガラス転移温度が、150℃以上350℃以下であり、好ましくは、180℃以上300℃以下であり、より好ましくは、200℃以上280℃以下である。ワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物より得られるワイヤコート材は、上記範囲のガラス転移温度を有することにより、優れた耐熱性を有する。
【0079】
本実施形態のワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物は、ブルックフィールドBH型回転粘度計を用い、20rpm、25℃で測定された粘度が、20mPa・s以上2000mPa・s以下であり、好ましくは、100mPa・s以上1800mPa・s以下であり、より好ましくは、150mPa・s以上1500mPa・s以下である 本実施形態のワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物は、ジェットディスペンサによる適用を意図しているため、内径数百μmの微細孔から熱硬化性樹脂組成物を高速で吐出できるよう、ノズル先端温度での粘度が低いことが好ましい。また、吐出後の熱硬化性樹脂組成物が流動性を有することが好ましい。上記範囲の粘度を有する本実施形態のワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物は、ジェットディスペンサによる塗布性に優れる。
【0080】
本実施形態のワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物は、粘度a/粘度bで表されるチキソ比が0.1以上3.0以下であり、好ましくは、0.5以上2.0以下である。
粘度a:ブルックフィールドBH型回転粘度計を用い、10rpm、25℃で測定した粘度。
粘度b:ブルックフィールドBH型回転粘度計を用い、20rpm、25℃で測定した粘度。
【0081】
本実施形態のワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物は、上記組成を有することにより、チキソトロピー性を有する。ここで、熱硬化性樹脂組成物がチキソトロピー性を有するとは、熱硬化性樹脂組成物が剪断応力を受けると(剪断速度を速くすると)粘度が低下し、剪断応力が解除されると(剪断速度を遅くすると)粘度が回復し流動が抑制される粘弾性特性を有することをいう。
【0082】
チキソ比が、0.1~3.0の範囲であれば、熱硬化性樹脂組成物を、ジェットディスペンサを使用して塗布したときに、熱硬化性樹脂組成物は、ジェットディスペンサから押出されているときは適度に流動し、押出された後は流動が止まるため、所定の範囲からの流出が生じ難く(塗布形状保持)、所定の範囲に塗付することが可能となる。
【0083】
(半導体装置の製造方法)
本実施形態の半導体装置は、上述の第一および第二の実施形態に係るワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物を使用して、以下方法にて作製される。
(1)ワイヤボンディング工程:まず、半導体チップ1の上面において、ボンディングワイヤ7を、例えばアルミニウムから成る接合層19を介して、半導体チップ1に接続する。その後、回路基板2の上面において、ボンディングワイヤ7を配線11を介して回路基板2に接続する。
(2)被覆工程:次に、ジェットディスペンサを用いて、半導体チップ1とボンディングワイヤ7との接合部に、上述のワイヤコート材用熱硬化性樹脂組成物を塗布する。このようにして、半導体チップ1とボンディングワイヤ7との接合部を接合層19を含めてワイヤコート材5により被覆する。
(3)封止工程:最後に、ワイヤコート材5を構成する樹脂とは異なる封止樹脂から成る樹脂封止体4により、半導体チップ1、回路基板2上の半導体チップが搭載された表面、ボンディングワイヤ7、半導体チップ1とボンディングワイヤ7との接合部、および、ボンディングワイヤ7と回路基板2との接合部を含めて半導体装置30の表面全体を覆う。
【0084】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、実施形態の例を付記する。
1. 載置板と、
前記載置板上に搭載され、ボンディングパッドを有する、半導体チップと、
前記ボンディングパッドに接合された、前記半導体チップと前記載置板とを接続するボンディングワイヤと、
前記半導体チップ、前記載置板の前記半導体チップの搭載面、および前記ボンディングワイヤを封止する樹脂封止体と、を備える半導体装置において、
前記ボンディングワイヤの少なくとも一部、および前記ボンディングパッドを被覆するために用いる熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂、硬化剤、および溶剤を含み、
当該熱硬化性樹脂組成物の、回転粘度計で測定した粘度が、20mPa・s以上である、熱硬化性樹脂組成物。
2. ジェットディスペンサを用いて、前記ボンディングワイヤの少なくとも一部、および前記ボンディングパッドと前記ボンディングワイヤとの接合部に塗布される、1.に記載の熱硬化性樹脂組成物。
3. 前記熱硬化性樹脂が、当該熱硬化性樹脂組成物の固形分全体に対して、10質量%以上である、1.または2.に記載の熱硬化性樹脂組成物。
4. 塩化物イオンおよび硫化物イオンの濃度が、10ppm以下である、1.乃至3.のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
5. 前記熱硬化性樹脂が、ノボラック型エポキシ樹脂、フェノール化合物とアルデヒド化合物との反応物、フェノール化合物とジメタノール化合物との反応物、ヒドロキシスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリイミド樹脂、環状オレフィン樹脂から選択される少なくとも1つを含む、1.乃至4.のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
6. 前記溶剤が、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、N-エチル-2-ピロリドン、テトラメチル尿酸、乳酸エチル、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、乳酸メチル、乳酸ブチル、メチル-1,3-ブチレングリコールアセテート、1,3-ブチレングリコール-3-モノメチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチルおよびメチル-3-メトキシプロピオネートから選択される少なくとも1つを含む、1.乃至5.のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
7. 無機フィラーをさらに含む、1.乃至6.のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
8. 載置板と、
前記載置板上に搭載された、ボンディングパッドを有する半導体チップと、
前記ボンディングパッドに接合された、前記半導体チップと前記載置板とを接続するボンディングワイヤと、
前記半導体チップ、前記載置板の前記半導体チップの搭載面、および前記ボンディングワイヤを封止する樹脂封止体と、
前記ボンディングワイヤと前記ボンディングパッドとの接続部を被覆するワイヤコート材と、を備え、
前記ワイヤコート材が、1.乃至7.のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる、半導体装置。
9. 載置板と、
前記載置板上に搭載され、ボンディングパッドを有する、半導体チップと、
前記ボンディングパッドに接合された、前記半導体チップと前記載置板とを接続するボンディングワイヤと、
前記半導体チップ、前記載置板の前記半導体チップの搭載面、および前記ボンディングワイヤを封止する樹脂封止体と、を備える半導体装置において、
前記ボンディングワイヤの少なくとも一部、および前記ボンディングパッドを被覆するために用いる熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂、無機フィラーおよび溶剤を含み、
前記無機フィラーの含有量が、当該熱硬化性樹脂組成物の固形分全体に対して、40質量%以上85質量%以下である、熱硬化性樹脂組成物。
10. 前記無機フィラーのレーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径が0.01μm以上10μm以下である、9.に記載の熱硬化性樹脂組成物。
11. 9.または10.に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物を175℃で120分加熱処理した硬化物に対して、動的粘弾性測定機を用いて、測定温度:20℃~300℃、昇温速度:5℃/分、周波数:1Hz、引っ張りモードの条件で測定した、25℃における貯蔵弾性率が、2GPa以上20GPa以下である、熱硬化性樹脂組成物。
12. 9.乃至11.のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物を175℃で120分加熱処理した硬化物において、下記手順で測定される塩素イオンの含有量が、0.01ppm以上10ppm以下である、熱硬化性樹脂組成物。
(手順)
前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物5gに対して50mLの純水を加え、125℃24時間熱水抽出し、抽出水を得る。得られた前記抽出水をイオンクロマトグラフにより分析することにより、前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物中のイオン濃度を測定する。
13. 9.乃至12.のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物を175℃で120分加熱処理した硬化物において、動的粘弾性測定機(DMA)を用いて、開始温度20℃、測定温度範囲20~300℃、昇温速度5℃/min、周波数1Hzの条件下で測定したガラス転移温度が、150℃以上350℃以下である、熱硬化性樹脂組成物。
14. ブルックフィールドBH型回転粘度計を用い、20rpm、25℃で測定された粘度が、20mPa・s以上2000mPa・s以下である、9.乃至13.のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
15. 粘度a/粘度bで表されるチキソ比が0.1以上3.0以下である、9.乃至14.のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物:
粘度a:ブルックフィールドBH型回転粘度計を用い、10rpm、25℃で測定した粘度;
粘度b:ブルックフィールドBH型回転粘度計を用い、20rpm、25℃で測定した粘度。
16. ジェットディスペンサを用いて、前記ボンディングワイヤと前記ボンディングパッドとの接続部を被覆するように塗布される、9.乃至15.のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
17. 前記無機フィラーが、シリカ、タルク、アルミナ、チタンホワイト、および窒化珪素から選択される少なくとも1つを含む、9.乃至17.のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
18. 前記熱硬化性樹脂が、ノボラック型フェノール樹脂、フェノール化合物とアルデヒド化合物との反応物、フェノール化合物とジメタノール化合物との反応物、ヒドロキシスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリイミド樹脂、環状オレフィン樹脂から選択される少なくとも1つを含む、9.乃至17.のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
19. 前記溶剤が、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、N-エチル-2-ピロリドン、テトラメチル尿酸、乳酸エチル、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、乳酸メチル、乳酸ブチル、メチル-1,3-ブチレングリコールアセテート、1,3-ブチレングリコール-3-モノメチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチルおよびメチル-3-メトキシプロピオネートから選択される少なくとも1つを含む、9.乃至18.のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
20. 載置板と、
前記載置板上に搭載された、ボンディングパッドを有する半導体チップと、
前記ボンディングパッドに接合された、前記半導体チップと前記載置板とを接続するボンディングワイヤと、
前記半導体チップ、前記載置板の前記半導体チップの搭載面、および前記ボンディングワイヤを封止する樹脂封止体と、
前記ボンディングワイヤと前記ボンディングパッドとの接続部を被覆するワイヤコート材と、を備え、
前記ワイヤコート材が、9.乃至19.のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる、半導体装置。
【実施例
【0085】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例で使用した各原料成分の詳細を以下に示す。
【0086】
(溶剤)
・溶剤1:γ-ブチロラクトン(メルク(AZエレクトロニックマテリアルズ)社製)
・溶剤2:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(メルクパフォーマンスマテリアルズ社製)
・溶剤3:2-ヘプタノン(東京化成工業株式会社製)
(樹脂)
・樹脂1:フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製、重量平均分子量54040)
・樹脂2:エポキシ樹脂(日本化薬社製、EPPN201)
・樹脂3:ポリノルボルネン樹脂(プロメラス社製、Avatrel2590)
・樹脂4:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製、jER1256)
(硬化剤)
・硬化剤1:テトラキス(メトキシメチル)グリコールウリルと、メタノール、ホルムアルデヒドとの混合物(ダイトーケミックス社製、CROLIN-318)
・硬化剤2:直鎖型エポキシ樹脂(三菱化学社製、JER YX7105)
・硬化剤3:2-ウンデシルメチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、C11Z)
(カップリング剤)
・カップリング剤1:3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM-503P)
・カップリング剤2:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM-403E)
・カップリング剤3:3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール(Huaihua Wangda Biotechnology Co., Ltd社製)
・カップリング剤4:トリエトキシシリルプロピルマレインアミド酸
(シリカ粒子)
・シリカ粒子1:球状シリカ、(アドマテックス製、 SE-2100、粒径0.58um)
・シリカ粒子2:球状シリカ(アドマテックス製、 UF-320、粒径2.80um)
(酸発生剤)
・酸発生剤1:(4,8-ジーn-ブトキシ-1-ナフチル)スルホニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート(熱酸発生剤、DSP五協フード&ケミカル株式会社製、ZK-1722)
・酸発生剤2:(4-アセトキシフェニル)ベンジル(メチル)スルホニウム=テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート熱酸発生剤(三新化学工業製、SI-B3A)
・酸発生剤3:光酸発生剤(サンアプロ株式会社製)
(界面活性剤)
・界面活性剤1:2-[N-ペルフルオロブチルスルホニル-N-メチルアミノ)エチル=アクリラート・ポリ(オキシアルキレングリコール)=モノアクリラート・ポリ(オキシアルキレングリコール)=ジアクリラートの共重合物(3M社製、FC-4432)
・界面活性剤2:パーフルオロアルキルポリマー(C4系)(DIC社製、R-41)
【0087】
(実施例A1~A6、比較例A1)
(熱硬化性樹脂組成物の調製)
各実施例および各比較例について、以下のように熱硬化性樹脂組成物を調製した。
各実施例A、各比較例Aにおいて表1に示す表1に示す配合量の各成分を、溶剤に混合して、ワニス状の樹脂組成物を調製した。
【0088】
(ワニス状樹脂組成物の物性)
上記で得られたワニス状の樹脂組成物について、以下の物性を測定した。物性の測定結果および評価結果は、表1に示す。なお、表中、「-」は、測定未実施であることを示す。
【0089】
(1.粘度)
ワニス状樹脂組成物の、25℃における粘度を、回転粘度計により測定した。結果を表1に示す。
【0090】
(2.チキソ性)
樹脂組成物のチキソ性は、ブルックフィールドBH型回転粘度計を用いて、次の手順でチキソトロピック係数(x)を求めることにより評価した。広口型遮光瓶(100ml)に、上述で得たワニス状樹脂組成物を入れ、恒温水槽を用いて液温を25℃±0.5℃に調整した。ついで、ガラス棒を用いて12~15秒かけて40回撹拌した後、所定のローターを設置して、5分静置した後、20rpmで3分回転させたときの目盛りを読み取った。粘度η20は、この目盛りに換算表の係数をかけて算出した。同じく25℃、10rpmで測定した粘度η10の値から次式に従って計算した。結果を表1に示す。
=η10/η20
【0091】
(3.ジェットディスペンサでの塗布性)
(3.1 ジェットディスペンサの吐出圧力)
武蔵エンジニアリング製ジェットディスペンサの付属の外部コントローラMJET-3-CTRにて空気の供給圧を所定値に設定した。シリンジから、上記のワニス状樹脂組成物が吐出される最小圧力を、ジェットディスペンサの「吐出圧力」として測定した。結果を表1に示す。吐出圧力が小さいほど、ジェットディスペンサでの塗布性が良好であることを示す。また吐出時のシリンジ温度も併せて表1に記載した。
(3.2 塗布時のチップ汚染性-濡れ広がり性)
上記のワニス状樹脂組成物を、ジェットディスペンサを用いて、ボンディングワイヤに塗布した。塗布直後のチップの表面状態をジェットディスペンサ付属のカメラ(キーエンス社製)で撮像した。その写真の画像に基づいて、塗布後のチップの表面積(3.5mm x3.5mm)がワニス状樹脂組成物で10~30%覆われている状態を汚染度「低」、30超-60%覆われた状態を汚染度「普」、60%より多く表面が覆われている状態を汚染度「高」と評価した。面積は写真画像から手動計算により求めた。結果を表1に示す。汚染度が低いほど、塗布性が良好であることを示す。
(3.3 ボイドの有無)
チップ上に、上記のワニス状樹脂組成物を塗布し、加熱硬化した。硬化処理後、このチップの表面全体を、光学顕微鏡(キーエンス社製)を用いて100倍の倍率で俯瞰して観察した。硬化物の光学顕微鏡観察で表面が均一ではなく泡由来の空隙やフィラーと樹脂間の空隙が1つでも観察された場合は、ボイド「あり」、ボイドがまったく観察されない場合は、「なし」として、表1に結果を示す。
【0092】
(樹脂組成物の硬化物の物性)
(伸び率)
6インチウェハに、上述のワニス状樹脂組成物を塗布した後、120℃、240秒の条件下で熱処理を施すことにより脱溶媒を行って樹脂膜を得た。次いで、オーブン中で樹脂膜に対し熱処理を行い、硬化させた。当該熱処理は、上記ウェハが載置されたオーブン内を30℃、30分で窒素にて置換し、昇温速度5℃/minで各硬化温度(175℃、または220℃)まで昇温した後、その硬化温度にて120分間保持することにより行った。上記熱処理後、降温速度5℃/minでオーブン内の温度を70℃以下まで降温させ、上記ウェハを取り出した。次いで、フッ酸を用いて上記ウェハから樹脂膜を剥離して、60℃、10時間の条件下で乾燥した。このようにして、各実施例および各比較例のそれぞれについて、上述の各硬化温度により硬化させた樹脂膜を得た。
次いで樹脂膜に対し、以下のようにして引張伸び率をそれぞれ測定した。
まず、樹脂膜からなる試験片(幅10mm×長さ60mm以上×厚み0.005~0.01mm)に対して引張試験(引張速度:0.05mm/min)を、温度23℃、湿度55%の雰囲気中で実施した。引張試験は、オリエンテック社製引張試験機(テンシロンRTC-1210A)を用いて行った。次いで、当該引張試験の結果から、引張伸び率を算出した。ここでは、上記引張試験を試験回数n=5で行い、引張伸び率について5回の平均値を求め、これを測定値として示した。
【0093】
(半導体装置の信頼性評価)
上述の「半導体装置の製造方法」に記載の方法にしたがって、半導体装置を作製した。半導体装置の作製の際、ワイヤコート用熱硬化性樹脂組成物と封止樹脂との硬化は、175℃または220℃の温度条件で実施した。各硬化温度で得られた半導体装置に、温度130℃の環境下で、20VのDC電圧を240時間印加した。測定開始から、40時間後、80時間後、120時間後、および240時間後の半導体装置の不良(リーク不良)の発生数を調べた。n=10。結果を、サンプル数10個のうちの不良発生数として、表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
実施例Aのワイヤコート用熱硬化性樹脂組成物は、ジェットディスペンサでの塗布性に優れていた。また実施例のワイヤコート用樹脂組成物を用いて作製した半導体装置は、信頼性に優れるものであった。
【0096】
(実施例B1~B3、比較例B1~B4)
(熱硬化性樹脂組成物の調製)
各実施例および各比較例について、以下のように熱硬化性樹脂組成物を調製した。
各実施例、各比較例において表2に示す表2に示す配合量の各成分を、溶剤に混合して、ワニス状の樹脂組成物を調製した。
【0097】
(ワニス状樹脂組成物の物性)
上記で得られたワニス状の樹脂組成物について、以下の物性を測定した。物性の測定結果および評価結果は、表2に示す。
【0098】
(粘度)
ワニス状樹脂組成物の、20rpm、25℃における粘度を、ブルックフィールドBH型回転粘度計により測定した。結果を表2に示す。
【0099】
(チキソ性)
樹脂組成物のチキソ性は、回転粘度計を用いて、次の手順でチキソ比(x)を評価した。ブルックフィールドBH型回転粘度計を用い、10rpm、25℃で測定した粘度を粘度aとし、ブルックフィールドBH型回転粘度計を用い、20rpm、25℃で測定した粘度を粘度bとしたとき、次式に従って計算した。結果を表2に示す。
=粘度a/粘度b
【0100】
(樹脂組成物の硬化物の物性)
(貯蔵弾性率、ガラス転移温度)
各例で得られた樹脂組成物の硬化物の貯蔵弾性率およびガラス転移温度を以下のように測定した。
6インチウェハに、上述のワニス状樹脂組成物を塗布した後、120℃、240秒の条件下で熱処理を施すことにより脱溶媒を行って樹脂膜を得た。次いで、オーブン中で樹脂膜に対し熱処理を行い、硬化させた。当該熱処理は、上記ウェハが載置されたオーブン内を30℃、30分で窒素にて置換し、昇温速度5℃/minで175℃まで昇温した後、その硬化温度にて120分間保持することにより行った。上記熱処理後、降温速度5℃/minでオーブン内の温度を70℃以下まで降温させ、上記ウェハを取り出した。次いで、フッ酸を用いて上記ウェハから樹脂膜を剥離して、60℃、10時間の条件下で乾燥し、得られた硬化膜から幅4mm×長さ20mm×厚み10μmの試験片を得た。
各例の試験片に対し、動的粘弾性測定機(DMA、日立ハイテクサイエンス社製、DMA7100)を用いて、開始温度20℃、測定温度範囲20~300℃、昇温速度5℃/min、周波数1Hzの条件下で測定をおこない、測定結果より、Tg(℃)および25℃の貯蔵弾性率(GPa)を求めた。結果を表2に示す。なお、比較例B4においては、サンプルの作製ができなかったため、「測定不可」と示す。
【0101】
(塩素イオン含有量)
各例で得られた樹脂組成物の硬化物の塩素イオン濃度を以下のようにして測定した。
まず、上記で得られた樹脂組成物を、オーブンで175℃、120分の条件で硬化し硬化物を得た。得られた試料5gと純水50mlとを、テフロン(登録商標)製耐圧容器に入れて密閉し、温度125℃、相対湿度100%RH、24時間の処理(熱水抽出)を行なった。次に、室温まで冷却した後、抽出水を遠心分離し、20μmフィルターにてろ過し、ろ液を抽出水とした。得られた抽出水を、イオンクロマト装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いたイオンクロマトグラフにより分析し、その抽出水中の塩素イオン濃度を測定した。得られた塩素イオン濃度の結果を表2に示す。
【0102】
(ワイヤコート材の性能評価)
(剥離の有無)
上述の「半導体装置の製造方法」に記載の方法にしたがって、各例で得られた樹脂組成物をワイヤコート材として使用し、最大膜厚50μmでワイヤ接合部を被覆し、半導体装置を作製した。作製した半導体装置のワイヤ接合部で切断、研磨し、断面をSEMを用いて観察した。半導体チップ1と接続パッド8、半導体チップ1とバリア層18またはバリア層18と接合層19の間に剥離が1つでも観察された場合は、剥離「あり」、剥離がまったく観察されない場合は、「なし」として、表2に結果を示す。
【0103】
(クラックの有無)
上述の「半導体装置の製造方法」に記載の方法にしたがって、各例で得られた樹脂組成物をワイヤコート材を最大膜厚50μmでワイヤ接合部を被覆し、半導体装置を作製した。
作製した半導体装置のワイヤ接合部で切断、研磨し、断面をSEMを用いて観察した。ワイヤコート材5の断面にクラックが1つでも観察された場合は、クラック「あり」、クラックがまったく観察されない場合は、「なし」として、表2に結果を示す。
【0104】
【表2】
【0105】
実施例Bの樹脂組成物をワイヤコート材として用いて作製した半導体装置は、半導体装置中の各部材間の剥離の発生や、ワイヤコート材中におけるクラックの発生がなく、信頼性に優れるものであった。
【0106】
この出願は、2020年12月3日に出願された日本出願特願2020-200772号および2021年3月29日に出願された日本出願特願2021-054709号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
図1
図2