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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 15/00 20060101AFI20240925BHJP
   F02D 13/02 20060101ALI20240925BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
F02D15/00 E
F02D13/02 Z
F02D45/00 368A
F02D45/00 368S
F02D45/00 368Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023509891
(86)(22)【出願日】2021-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2021013202
(87)【国際公開番号】W WO2022208576
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 欣也
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 遼太
(72)【発明者】
【氏名】中田 涼太
(72)【発明者】
【氏名】城田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 捷
(72)【発明者】
【氏名】倉田 和郎
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/049646(WO,A1)
【文献】特開2013-217335(JP,A)
【文献】特開平07-042557(JP,A)
【文献】特開平11-280502(JP,A)
【文献】特開2007-146704(JP,A)
【文献】国際公開第2010/098370(WO,A1)
【文献】特開2009-203952(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 15/00
F02D 13/02
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変バルブ機構を備えたエンジンの制御装置であって、
主室と、
隔壁により前記主室と隔てられる副室と、
前記主室に設けられ前記主室に燃料を供給する主室噴射手段と、
前記主室噴射手段による燃料供給後に前記副室に燃料を供給する副室噴射手段と、
バルブタイミングに基づき、前記副室噴射手段から供給される燃料量である副室燃料量を補正値により変更する燃料制御手段と、
前記隔壁に設けられ前記副室に供給された燃料の燃焼による火炎を前記主室に噴出させる孔と
を備え、
前記燃料制御手段は、前記可変バルブ機構により吸気バルブの閉鎖時期が遅角方向に変更された場合に、前記閉鎖時期が前記遅角方向に変更される前と比較して前記補正値を大きな値にして前記副室燃料量を増加させ前記火炎を強化する
ことを特徴とする、エンジンの制御装置。
【請求項2】
前記燃料制御手段は、エンジン回転数が高いほど前記補正値を大きな値にする
ことを特徴とする、請求項1に記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
前記副室の内部に設けられる点火プラグと、
筒内圧の実測値または予測値を取得する筒内圧取得手段とを備え、
前記筒内圧取得手段は、吸気バルブ閉鎖時の筒内圧及び点火時の筒内圧を取得し、
前記燃料制御手段は、前記吸気バルブ閉鎖時の筒内圧に対する前記点火時の筒内圧の比である圧力比または、前記点火時の筒内圧から前記吸気バルブ閉鎖時の筒内圧を減じた圧力差が小さいほど前記補正値を大きな値にする
ことを特徴とする、請求項1または2に記載のエンジンの制御装置。
【請求項4】
ノッキングを検出するノッキング検出手段を備え、
前記バルブタイミングに基づいて前記副室燃料量を変更した後に、前記ノッキングが検出された場合に、前記ノッキングが検出される前と比較して前記燃料制御手段が前記バルブタイミングに基づいて変更した前記副室燃料量の前記補正値を小さな値に更に変更する
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置。
【請求項5】
燃焼不良を検出する燃焼不良検出手段を備え、
前記バルブタイミングに基づいて前記副室燃料量を変更した後に、前記燃焼不良が検出された場合に、前記燃焼不良が検出される前と比較して前記燃料制御手段が前記バルブタイミングに基づいて変更した前記副室燃料量の前記補正値を大きな値に更に変更する
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、可変バルブ機構を備えたエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バルブタイミングやバルブリフト量を変更可能な可変バルブ機構を搭載したエンジン(内燃機関)が知られている。吸排気バルブが開閉するタイミングや開口面積,開閉時間等を調節することで、燃焼室に導入される吸気及び排気の流速や体積が変更される。エンジンの作動状態に応じてこれらを制御することで、出力や燃費,排気浄化性能などが改善されうる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-076466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、燃焼室内に主室(主燃焼室)と副室(副燃焼室)とを形成し、副室の内部に点火プラグの電極を配した副室式のエンジンが存在する。このようなエンジンでは、副室の内部で発生した火炎が、主室に向かってトーチ状に噴出するように形成される。一方、このようなエンジンに可変バルブ機構を適用してバルブタイミングやバルブリフト量を変更した場合に、実圧縮比の低下に伴いトーチ火炎が弱まり、燃焼状態が不安定になってしまうことがある。
【0005】
本件の目的の一つは、上記のような課題に照らして創案されたものであり、可変バルブ機構の作動状態にかかわらず、副室式エンジンの燃焼状態を安定させることである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本件のエンジンの制御装置は、可変バルブ機構を備えたエンジンの制御装置であって、主室と、隔壁により前記主室と隔てられる副室と、前記主室に設けられ前記主室に燃料を供給する主室噴射手段と、前記主室噴射手段による燃料供給後に前記副室に燃料を供給する副室噴射手段と、バルブタイミングに基づき、前記副室噴射手段から供給される燃料量である副室燃料量を補正値により変更する燃料制御手段と、前記隔壁に設けられ前記副室に供給された燃料の燃焼による火炎を前記主室に噴出させる孔とを備える。前記燃料制御手段は、前記可変バルブ機構により吸気バルブの閉鎖時期が遅角方向に変更された場合に、前記閉鎖時期が前記遅角方向に変更される前と比較して前記補正値を大きな値にして前記副室燃料量を増加させ前記火炎を強化する。
【発明の効果】
【0007】
本件のエンジンの制御装置によれば、副室式エンジンの燃焼状態を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本件に係る制御装置が適用されるエンジンの構造を示す模式図である。
図2】本件に係る制御装置が適用される他のエンジンの構造を示す模式図である。
図3】本件に係る制御装置が適用される他のエンジンの構造を示す模式図である。
図4】本件に係る制御装置が適用される他のエンジンの構造を示す模式図である。
図5】ポート噴射による主室噴射のタイミングと、筒内噴射による副室噴射のタイミングとを示す模式図である。
図6】筒内噴射による主室噴射及び副室噴射のタイミングを示す模式図である。
図7】ポート噴射による主室噴射及び副室噴射のタイミングを示す模式図である。
図8】バルブタイミングによる圧縮状態の変化を説明するための模式図である。
図9】(A)は圧力比Rと副室燃料量の補正値との関係を示すマップであり、(B)は圧力差Dと副室燃料量の補正値との関係を示すマップである。
図10】(A)は副室燃料量の補正値をさらに補正する第1補正係数を設定するためのマップであり、(B)は第2補正係数を設定するためのマップであり、(C)は第3補正係数を設定するためのマップである。
図11】制御内容(圧力比Rの算出)に係るフローチャートである。
図12】制御内容(燃料噴射)に係るフローチャートである。
図13】制御内容(追加補正)に係るフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1.構成]
図1図13は、車両に搭載されるエンジン10(内燃機関)の制御装置を説明するための図である。図1図4はいずれも、連通する主室8(主燃焼室)及び副室5(副燃焼室)がシリンダ内に形成された副室式のエンジン10の構造を模式的に示している。図1図2は、主室8や吸気ポート11に設けられた噴射弁(ポート噴射弁1,筒内噴射弁3,多機能噴射弁4)から副室5内に燃料を供給する方式(パッシブ方式)のうち、火炎を形成するための燃料が主室8から副室5に向かって噴射される方式のエンジン10の構造を示す。図1は、副室5に燃料を供給するための噴射弁(副室噴射弁2)と主室8に燃料を供給するための噴射弁(ポート噴射弁1,筒内噴射弁3)とが別設されたエンジン10である。一方、図2は、単一の噴射弁(多機能噴射弁4)を用いて主室8と副室5とのそれぞれに燃料を吹き分けるエンジン10である。また、図3は、火炎を形成するための燃料が副室5の内部に直接的に供給される方式(アクティブ方式)のエンジン10の構造を示す。図4は、パッシブ方式のうち、図1及び図2とは異なる方式のエンジン10の構造の一例を示す。
【0010】
本件に係るエンジン10は、可変バルブ機構30を備える。可変バルブ機構30とは、吸気バルブ13及び排気バルブ14のバルブタイミングやバルブリフト量を変更するための機構である。バルブタイミングは、例えばクランクシャフトの回転角に対するカムシャフト回転角の位相を変化させることで調節可能である。また、バルブリフト量は、例えばカムの形状(カムプロファイル)を変化させることで調節可能である。可変バルブ機構30の具体的な構造については、公知の各種構造を適用することができる。
【0011】
本件に係るエンジン10の制御装置は、主室8に燃料を供給する主室噴射手段と、副室5に燃料を供給する副室噴射手段とを備える。図1図4に示すように、副室5は、例えば燃焼室内の頂面中央部からピストン側に向かって膨出した中空の半球状に形成される。図1図4は、ペントルーフ型のシリンダヘッドにおいて、吸気ポート11と排気ポート12との間に副室5が配置された事例を示している。副室5の位置は、燃焼室の全体形状を考慮して、あるいは、吸気バルブ13や排気バルブ14の動作範囲を考慮して設定することが好ましい。また、吸気ポート11や排気ポート12よりもシリンダの外側(シリンダ筒面に近い位置)に副室5を配置してもよい。副室5と主室8とを隔てる隔壁6には、微小な孔7が形成される。また、副室5の内部には、点火プラグ9の電極が配置される。副室5の内部で燃料混合気が点火されると、その火炎が複数の孔7を介して副室5から主室8へとトーチ状に噴出するようになっている。
【0012】
図1図3に示すポート噴射弁1は、主室噴射手段の一つであって、吸気ポート11に燃料を噴射するインジェクタである。ポート噴射弁1による燃料の噴射方向は、例えば開放状態の吸気バルブ13と吸気ポート11との隙間に向かう方向に設定される。また、筒内噴射弁3も主室噴射手段の一つであって、主室8に燃料を噴射するインジェクタである。筒内噴射弁3による燃料の噴射方向は、例えば圧縮行程で燃焼室内に形成される気流(タンブル流やスワール流)の向きや流速に応じて設定される。ポート噴射弁1及び筒内噴射弁3のいずれか一方は省略可能である。
【0013】
図1に示す副室噴射弁2は、副室噴射手段の一つであって、副室5に燃料を噴射するパッシブ型のインジェクタである。副室噴射弁2の噴射方向は、例えば副室5へ向かう方向に設定される。ただし、副室噴射弁2の噴射方向は、副室5へ向かう方向のみに限定されるわけではない。例えば、シリンダ内に形成される気流(タンブル流やスワール流)の向きや流速を考慮して、副室5からややずれた位置に向かって燃料を噴射させてもよい。また、図3に示す副室噴射弁2′も副室噴射手段の一つであり、副室5の内部に直接的に燃料を噴射するアクティブ型のインジェクタである。
【0014】
図2に示す多機能噴射弁4は、主室噴射手段としての機能と副室噴射手段としての機能とを兼ね備えたインジェクタである。多機能噴射弁4の先端には、少なくとも二つの噴孔が形成される。一方の噴孔は、図1中の筒内噴射弁3と同様の燃料噴射を実現するための噴孔であって、主室8に供給される燃料が噴射される噴孔である。他方の噴孔は、図1中の副室噴射弁2と同様の燃料噴射を実現するための噴孔であって、副室5に供給される燃料が噴射される噴孔である。各々の噴孔の開閉状態は、個別に制御される。なお、図4に示すポート噴射弁1,筒内噴射弁3も、主室噴射手段としての機能と副室噴射手段としての機能とを兼ね備えたインジェクタである。これらのポート噴射弁1,筒内噴射弁3は、噴射時期を相違させることで、主室8と副室5とのそれぞれに燃料を吹き分ける機能を持つ。
【0015】
副室噴射手段による燃料供給は、一つの燃焼サイクル(吸気行程,圧縮行程,燃焼行程,排気行程の四行程からなるサイクル)において、主室噴射手段による燃料供給の後に実施される。例えば、主室噴射手段による燃料供給は、排気行程後半から吸気行程にかけて実施される。これに対し、副室噴射手段による燃料供給は、主室噴射後の吸気行程や圧縮行程で実施される。したがって、単一の噴射弁のみで主室噴射と副室噴射が実施される場合であっても、噴射タイミングに基づいてそれらを明確に区別することが可能である。
【0016】
なお、主室噴射手段から噴射される燃料の全てが主室8のみで燃焼するとは限らず、一部の燃料は副室5にも流入しうる。同様に、副室噴射手段から噴射される燃料の全てが副室5のみで燃焼するとは限らず、一部の燃料は主室8にも流出しうる。しかしながら、主室噴射手段から噴射される燃料は、主室8で燃焼することが意図された燃料であって、主室8で燃焼しやすいタイミングで噴射され、そのほとんどが主室8で燃焼する。同様に、副室噴射手段から噴射される燃料は、副室5で燃焼することが意図された燃料であって、副室5で燃焼しやすいタイミングで噴射され、そのほとんどが副室5で燃焼する。したがって、主室噴射手段を「主室8での燃焼に適したタイミングで燃料を供給する手段」と定義してもよいし、副室噴射手段を「副室5での燃焼に適したタイミングで燃料を供給する手段」と定義してもよい。
【0017】
図5図7は、主室噴射及び副室噴射のタイミングを説明するための模式図である。図中のIVO,IVCはそれぞれ吸気バルブ13の開放時(Intake Valve Opening),閉鎖時(Intake Valve Closing)を示し、EVO,EVCはそれぞれ排気バルブ14の開放時(Exhaust Valve Opening),閉鎖時(Exhaust Valve Closing)を示す。また、TDCは上死点(Top Dead Center)を示し、BDCは下死点(Bottom Dead Center)を示す。SAは点火時(あるいは点火時期に対応するクランク角,Spark Angle)を意味する。
【0018】
図5は、ポート噴射による主室噴射のタイミングと、筒内噴射による副室噴射のタイミングとを示す。ここでいう主室噴射には、例えば図1図3のポート噴射弁1からの燃料噴射が含まれる。ポート噴射による主室噴射は、吸気バルブ13の開放中だけでなく、それ以前の排気行程や燃焼行程や圧縮行程でも実施されうる。一方、筒内噴射による副室噴射は、ポート噴射による主室噴射よりも後に実施される。ここでいう副室噴射には、図1の副室噴射弁2や図3の副室噴射弁2′からの燃料噴射が含まれる。筒内噴射による副室噴射は、排気バルブ14の閉鎖時EVCから点火時SAまでの期間に実施される。主室噴射,副室噴射の各々の噴射回数は、一回でもよいし複数回でもよい。
【0019】
図6は、筒内噴射のみによる主室噴射及び副室噴射のタイミングを示す。ここでいう主室噴射には、例えば図1図3図4の筒内噴射弁3からの燃料噴射や図2の多機能噴射弁4からの燃料噴射が含まれる。また、ここでいう副室噴射には、例えば図1の副室噴射弁2,図2の多機能噴射弁4,図3の副室噴射弁2′,図4の筒内噴射弁3からの燃料噴射が含まれる。これらの主室噴射及び副室噴射は、ともに排気バルブ14の閉鎖時EVCから点火時SAまでの期間に実施される。また、副室噴射は、主室噴射よりも後に実施される。主室噴射,副室噴射の各々の噴射回数は、一回でもよいし複数回でもよい。
【0020】
図7は、ポート噴射のみによる主室噴射及び副室噴射のタイミングを示す。ここでいう主室噴射には、例えば図4のポート噴射弁1からの燃料噴射が含まれる。ポート噴射による主室噴射及び副室噴射は、ともに前回の燃焼サイクルにおける吸気バルブ13の閉鎖時IVCから今回の燃焼サイクルにおける吸気バルブ13の閉鎖時IVCまでの期間に実施される。また、副室噴射は、主室噴射よりも後に実施される。主室噴射,副室噴射の各々の噴射回数は、一回でもよいし複数回でもよい。
【0021】
本件に係るエンジン10には、図1図4に示すように、ノックセンサ15,筒内圧センサ16,エンジン回転数センサ17,アクセル開度センサ18,車速センサ19が設けられる。ノックセンサ15は、異常燃焼の一種であるノッキングの有無を把握するためのセンサであり、例えばシリンダの振動によって生じる力,圧力,加速度などを検出する。筒内圧センサ16は、燃焼室内における燃焼状態を把握するためのセンサであり、主室8の圧力を検出する。エンジン回転数センサ17は、エンジン10の作動状態を把握するためのセンサであり、例えば単位時間あたりのエンジン回転数(クランクシャフトの角速度)を検出する。アクセル開度センサ18は、エンジン10に要求されるトルク(ドライバ要求トルク)の大きさを把握するためのセンサであり、図示しないアクセルペダルの踏み込み操作量(アクセル開度)を検出する。車速センサ19は、エンジン10が搭載された車両の車速(走行速度)を検出するセンサである。これらのセンサ15~19で検出された各種情報は、ECU20に伝達される。
【0022】
ECU20は、エンジン10の作動状態を制御するための電子制御装置(Engine Control Unit, Electronic Control Unit)であって、プロセッサとメモリとを搭載した電子デバイスである。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit),MPU(Micro Processing Unit)などのマイクロプロセッサであり、メモリは、例えばROM(Read Only Memory),RAM(Random Access Memory),不揮発メモリなどである。ECU20で実施される制御の内容は、ファームウェアやアプリケーションプログラムとしてメモリに記録,保存される。プログラムの実行時には、プログラムの内容がメモリ空間内に展開され、プロセッサによって実行される。
【0023】
ECU20は、図示しない車載ネットワークを介して、制御対象となる装置及びセンサ15~19の各々に接続される。図1図4に示すように、制御対象となる装置にはポート噴射弁1,副室噴射弁2,2′,筒内噴射弁3,多機能噴射弁4,点火プラグ9が含まれる。エンジン10の燃料噴射量や点火時期,吸気バルブ13及び排気バルブ14の動作は、ECU20によって統括的に管理される。なお、図1図4に示されていないセンサで検出された情報を併用して、燃料噴射量,点火時期,バルブタイミング等を補正することも可能である。例えば、外気温センサやエンジン冷却水温センサなどで検出された温度情報に基づき、燃料噴射量や点火時期を補正してもよい。
【0024】
ECU20には、筒内圧取得手段21,ノッキング検出手段22,燃焼不良検出手段23,バルブ制御手段24,点火制御手段25,燃料制御手段26が設けられる。これらの要素は、ECU20で実現される機能を表現したものであり、例えばECU20内のROMや補助記憶装置に記録,保存されるソフトウェアとしてプログラミングされうる。あるいは、そのソフトウェアに対応する電子回路(ハードウェア)として実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアとが混在するシステムとして実現されてもよい。
【0025】
筒内圧取得手段21は、筒内圧の値(実測値または予測値)を取得するものである。ここでは、筒内圧の変化を把握すべく、筒内圧の値がクランク角に対応付けられた形で取得される。ここで取得される筒内圧の値には、例えば吸気バルブ13の閉鎖時IVCにおける筒内圧Pや、点火時SAにおける筒内圧Pなどが含まれる。なお、筒内圧の実測値としては、筒内圧センサ16で検出された値を用いることができる。また、筒内圧の予測値は、例えば気体の状態方程式に基づいて算出してもよい。あるいは、公知の三次元数値流体解析ソフトウェアにエンジン10の諸元や燃料混合気の成分といった諸条件を入力し、燃焼室内での燃焼状態をシミュレートすることで算出してもよい。
【0026】
本実施例では、吸気バルブ13の閉鎖時IVCに筒内圧センサ16で検出された値が筒内圧Pとして用いられる。また、点火時SAにおける筒内圧Pは、燃焼室の断熱変化を表す以下の式1に基づいて予測される値が用いられる。図8に示すように、式1中のVは吸気バルブ13の閉鎖時IVCにおける燃焼室体積を表し、Vは点火時SAにおける燃焼室体積を表す。kは、既知の断熱指数(ポアソン指数)である。
【0027】
【数1】
【0028】
ノッキング検出手段22は、エンジン10のノッキングを検出するものである。ここでは、例えばノックセンサ15で検出された情報(シリンダ振動によって生じる力,圧力,加速度などの値)に基づいて、ノッキングが発生したか否かが判断される。この場合、例えば所定加速度よりも大きな加速度を検知した場合に、ノッキングが発生したと判断される。あるいは、筒内圧取得手段21で取得された筒内圧やエンジン回転数センサ17で検出されたエンジン回転数の回転変動〔エンジン回転数の変化勾配(角加速度)の絶対値〕に基づいて、ノッキングの有無が判断される。この場合、例えば通常運転時の角加速度範囲を超える角速度(所定角加速度よりも大きな角加速度)を検知した場合に、ノッキングが発生したと判断される。
【0029】
燃焼不良検出手段23は、エンジン10の燃焼不良を検出するものである。ここでは、例えば筒内圧取得手段21で取得された筒内圧やエンジン回転数センサ17で検出されたエンジン回転数の回転変動に基づいて、燃焼不良の有無が判断される。具体的には、例えば燃焼行程における筒内圧のピーク値が著しく低い場合や、通常運転時の角加速度範囲を下回る角速度(第2所定角速度よりも小さな角速度)を検知した場合に、燃焼不良が発生したと判断される。
【0030】
バルブ制御手段24は、可変バルブ機構30を制御して吸気バルブ13及び排気バルブ14の作動状態を制御するものである。ここでは、エンジン10の作動状態に応じて、吸気バルブ13及び排気バルブ14の作動状態が制御される。例えば、エンジン負荷やエンジン冷却水温,エンジン回転数,外気温などに基づいて、吸気バルブ13及び排気バルブ14のバルブタイミング及びバルブリフト量が制御される。なお、エンジン負荷は、アクセル開度と車速とに基づいて算出される。
【0031】
点火制御手段25は、点火プラグ9の点火時期(燃料混合気を点火するタイミング)を制御するものである。点火時期は、エンジン負荷とエンジン回転数とに基づいて設定される。一方、ノッキング検出手段22でノッキングが検出された場合には、点火時期をリタードさせる点火制御を実施してもよい。ただし、副室式エンジンにおいては、適切な点火時期の範囲が他のエンジンと比較して狭く、点火時期の変化をできるだけ抑制することが望まれる。このような実情を踏まえて、点火リタード制御を実施しないこととしてもよい。あるいは、ノッキング検出手段22でノッキングが検出された時間が所定時間を超えた場合に限って、点火リタード制御を開始することとしてもよい。
【0032】
燃料制御手段26は、主室噴射手段が供給する燃料量である主室燃料量と、副室噴射手段が供給する燃料量である副室燃料量とを制御するものである。これらの燃料量は、基本的にはエンジン負荷とエンジン回転数とに基づいて設定される。一方、バルブ制御手段24によってバルブタイミングが標準状態から変更されている場合には、燃焼室の実圧縮比が変化し、副室5から主室8に噴出されるトーチ火炎の勢いが変動しうる。そこで、本件の燃料制御手段26は、バルブタイミングに基づいて副室燃料量を変更する。例えば、吸気バルブ13の閉鎖時IVCに基づいて副室燃料量を変更する。また、点火制御手段25によって点火時期が標準状態から変更されている場合にも、燃焼室の実圧縮比が変化する。そこで、本件の燃料制御手段26は、点火時期にも基づいて副室燃料量を変更する。例えば、点火時SAに基づいて副室燃料量を変更する。
【0033】
燃料制御手段26では、燃焼室の実圧縮比に相当するパラメータとして、燃焼室内における圧縮前の筒内圧Pと圧縮後の筒内圧Pとの圧力差D,圧力比Rの少なくともいずれかが算出される。圧力差D,圧力比Rの値は、以下の式2,式3で与えられる。式2,式3中の筒内圧P,Pの値には、筒内圧取得手段21で取得された値が用いられる。その後、図9(A),(B)に示すようなマップに基づき、圧力差D,圧力比Rに応じた副室燃料量の補正値が算出される。
【0034】
【数2】
【0035】
図9(A)は圧力比Rと副室燃料量の補正値との関係を例示するマップであり、図9(B)は圧力差Dと副室燃料量の補正値との関係を例示するマップである。副室燃料量の補正値は、圧力比R,圧力差Dが小さいほど、副室燃料量が増加するように大きな値に設定される。つまり、実圧縮比が低下するにつれて副室燃料量が増量され、副室5のトーチ火炎が強化される。これにより、燃焼状態の安定性が確保される。
【0036】
また、圧力比R,圧力差Dが大きいほど、補正値が小さな値に設定される。副室燃料量の補正値がとりうる範囲は、正の範囲のみであってもよいし、負の範囲まで拡張されてもよい。図9(A),(B)では、副室燃料量の補正値が正の値だけでなく負の値にも設定されている。負の補正値は、副室燃料量を減少補正するように作用する。圧縮比が高い状態での副室燃料量を減少させることで、副室5のトーチ火炎が弱められ、過剰燃焼やノッキングの発生が抑制される。なお、補正値が0となる圧力比R,圧力差Dは、バルブタイミングや点火時期が標準状態であるときに算出される圧力比R,圧力差Dの値に相当する。
【0037】
図10(A)~(C)は、上記の副室燃料量の補正値をさらに補正する第1~第3補正係数を設定するためのマップである。これらの第1~第3補正係数は、補正値に乗算されることで副室燃料量をさらに補正(追加補正)するように作用する。第1補正係数は、エンジン回転数に基づいて設定され、例えばエンジン回転数が高いほど大きな値に設定される。これにより、エンジン回転数が高いほど副室燃料量が増量され、副室5に導入される燃料量が確保されやすくなる(ただし、燃料が副室5の内部に直接的に供給されるアクティブ方式のエンジン10である場合を除く)。
【0038】
第2補正係数は、筒内圧に基づいて設定される。第2補正係数による補正は、ノッキング検出手段22でエンジン10のノッキングが検出された場合や、燃焼不良検出手段23でエンジン10の燃焼不良が検出された場合に実施することが好ましい。第2補正係数は、例えば筒内圧が通常の変動範囲を超えるほど高い場合に、その筒内圧が高いほど小さな値に設定される。これにより、筒内圧が高すぎる状況下での副室燃料量が減量され、ノッキングの発生が抑制されやすくなる。また、筒内圧が通常の変動範囲を下回るほど低い場合には、その筒内圧が低いほど第2補正係数が大きな値に設定される。これにより、筒内圧が低すぎる状況下での副室燃料量が増量され、燃焼不良が解消されやすくなる。
【0039】
第3補正係数はエンジン10の回転変動に基づいて設定される。回転変動は、例えばエンジン回転数の変化勾配(角加速度)の絶対値で与えられる。第3補正係数による補正も、ノッキング検出手段22でエンジン10のノッキングが検出された場合や、燃焼不良検出手段23でエンジン10の燃焼不良が検出された場合に実施することが好ましい。第3補正係数は、例えば回転変動が通常の変動範囲を超えるほど高い場合に、その回転変動が大きいほど小さな値に設定される。これにより、回転変動が大きすぎる状況下での副室燃料量が減量され、ノッキングの発生が抑制されやすくなる。また、回転変動が通常の変動範囲を下回るほど低い場合には、その回転変動が小さいほど第3補正係数が大きな値に設定される。これにより、回転変動が小さすぎる状況下での副室燃料量が増量され、燃焼不良が解消されやすくなる。
【0040】
副室燃料量は、副室噴射手段に供給される燃料の圧力や噴射圧をコントロールすることで増減させてもよい。この場合、燃料噴射開始時SOI(Start Of Injection)や燃料噴射終了時EOI(End Of Injection)を変更することなく噴射の勢いを弱めたり強めたりすることで、一回の燃焼サイクルで供給される副室燃料量を増減させることができる。あるいは、燃料噴射開始時SOIや燃料噴射終了時EOIをコントロールすることで副室燃料量を増減させてもよい。この場合、副室噴射手段に供給される燃料の圧力や噴射圧を一定に保ちつつ、燃料噴射期間を短縮したり延長したりすることで、一回の燃焼サイクルで供給される副室燃料量を増減させることができる。
【0041】
主室燃料量は、副室燃料量の補正値の大小に関わらず、エンジン負荷とエンジン回転数とに基づいて設定されることにしてもよい。あるいは、トータルの燃料噴射量が変化しないように、副室燃料量を減少(または増加)させた分だけ主室燃料量を増加(または減少)させてもよい。ここで、標準的な主室燃料量をFMAINと表記し、標準的な副室燃料量をFSUBと表記する。副室燃料量の減少量をFDECと表記すれば、実際に副室噴射手段から噴射される燃料量はFSUB-FDECとなる。このとき、主室噴射手段から噴射される燃料量はFMAINのままにしてもよいし、FMAIN+FDECとしてもよい。あるいは、FMAIN以上かつFMAIN+FDEC以下の範囲内で、主室噴射手段から噴射される燃料量を設定してもよい。同様に、副室燃料量の増加量をFINCと表記すれば、実際に副室噴射手段から噴射される燃料量はFSUB+FINCとなる。このとき、主室噴射手段から噴射される燃料量はFMAINのままにしてもよいし、FMAIN-FINCとしてもよい。あるいは、FMAIN-FINC以上かつFMAIN以下の範囲内で、主室噴射手段から噴射される燃料量を設定してもよい。
【0042】
[2.フローチャート]
図11図13は、ECU20で実施される制御の内容を説明するためのフローチャートである。これらのフローチャートに示される制御は互いに独立して実行され、所定の周期(例えば、一回の燃焼サイクルに対応する周期)で繰り返し実行される。
図11は、圧力比Rの算出に係るフローである。ステップA1では、吸気バルブ13の閉鎖時IVCにおける筒内圧P(実測値)及びクランク角θの情報が取得される。ステップA2では、エンジン負荷とエンジン回転数とに基づいて点火時SAが算出され、その点火時SAにおけるクランク角θが算出される。ステップA3では、クランク角θ,θに対応する燃焼室体積V,Vが算出される。ステップA4では、例えば式1に基づき、点火時SAの筒内圧P(予測値)が算出される。
【0043】
ステップA5では、式3に基づき、圧力比Rが算出される。ここで算出された圧力比Rは、図12に示すフローにおいて、副室燃料量の補正値を算出するために用いられる。なお、圧力比Rの代わりに圧力差Dを用いて副室燃料量の補正値を算出する場合には、ステップA5において、例えば式2に基づいて圧力差Dを算出すればよい。また、ステップA4において、点火時SAの筒内圧P(予測値)を算出する代わりに、その実測値を取得するようにしてもよい。この場合、ステップA5で算出された圧力比Rの情報は、次回の燃焼サイクルにおける副室燃料量の補正値に反映される。
【0044】
図12は、燃料噴射に係るフローである。ステップB1では、エンジン回転数及びエンジン負荷に基づき、その燃焼サイクルでの標準的な燃料量が算出される。燃料量は、主室燃料量と副室燃料量とが個別に算出される。本件では、副室燃料量が主室燃料量よりも少ない値として算出される。例えば、副室燃料量が燃料量全体に対して数パーセントから十数パーセント程度とされる。ステップB2では、例えば図9(A)に示すマップに基づき、圧力比Rに応じて副室燃料量の補正値が算出される。ここでは、圧力比Rが小さいほど副室燃料量が増加補正され、圧力比Rが大きいほど副室燃料量が減少補正される。
【0045】
ステップB3では、追加補正のための第1補正係数が算出される。例えば、図10(A)に示すマップに基づき、エンジン回転数に応じて第1補正係数が算出される。ここでは、エンジン回転数が高いほど第1補正係数が大きな値に算出される。これにより、エンジン回転数が高いほど副室燃料量が増量され、副室5に導入される燃料量が確保されやすくなる。そしてステップB4では、ステップB2で算出された副室燃料量の補正値に第1補正係数が乗算された後、燃料噴射が実施される。なお、燃料が副室5の内部に直接的に供給されるアクティブ方式のエンジン10においては、ステップB3の追加補正を省略してもよい。
【0046】
図13は、エンジン10のノッキングや燃焼不良に対する追加補正に係るフローである。ステップC1では図12に示すフローにおいて副室燃料量が変更されているか否かが判定される。ここでは、例えば図12のステップB1で算出された標準的な副室燃料量とステップB4で副室噴射手段から実際に供給された副室燃料量との差が算出され、その差の絶対値が所定値以上であるか否かが判定される。この条件が成立する場合にはステップC2に進み、成立しない場合にはこの制御サイクルでの制御が終了する。
【0047】
ステップC2では、ノッキング検出手段22でノッキングが検出されているか否かが判定される。この条件が成立している場合にはステップC3に進み、副室燃料量を減少させる補正がなされる。ステップC3では、例えば筒内圧に基づいて第2補正係数が設定されるとともに、回転変動に基づいて第3補正係数が設定される。その後のステップC4では、ステップB2で算出された副室燃料量の補正値に第1補正係数,第2補正係数,第3補正係数が乗算された後、燃料噴射が実施される。ノッキングが発生している状況下では、筒内圧や回転変動が通常の変動範囲を超えるほど高くなる。したがって、ステップC3で設定される第2補正係数,第3補正係数は通常時よりも小さい値となり、ステップC4において副室燃料量を減少させるように作用する。
【0048】
ステップC2の条件が不成立の場合にはステップC5に進み、燃焼不良検出手段23で燃焼不良が検出されているか否かが判定される。この条件が成立している場合にはステップC6に進み、副室燃料量を増加させる補正がなされる。一方、ステップC6の条件が成立しない場合には、この制御サイクルでの制御が終了する。
ステップC6では、例えば筒内圧に基づいて第2補正係数が設定されるとともに、回転変動に基づいて第3補正係数が設定される。その後のステップC7では、ステップB2で算出された副室燃料量の補正値に第1補正係数,第2補正係数,第3補正係数が乗算された後、燃料噴射が実施される。なお、燃焼不良が発生している状況下では、筒内圧や回転変動が通常の変動範囲を下回る程度まで低下する。したがって、ステップC6で設定される第2補正係数,第3補正係数は通常時よりも大きな値となり、ステップC7において副室燃料量を増加させるように作用する。
【0049】
[3.作用,効果]
(1)上記のエンジン10の制御装置(すなわちECU20)では、燃料制御手段26の働きにより、バルブタイミングに基づいて副室燃料量が制御される。これにより、実圧縮比の変化に応じた適量の副室燃料量を供給することができ、副室5から主室8に噴出されるトーチ火炎の勢いを適正化することができる。したがって、エンジン10の燃焼状態の安定性を向上させることができる。
【0050】
例えば、実圧縮比が低下するようにバルブタイミングが変更された場合(吸気バルブ13の閉鎖時IVCが遅角方向に変更された場合や、点火時期が進角方向に変更された場合)には、副室燃料量を増量することで副室5のトーチ火炎を強化することができる。反対に、実圧縮比が上昇するようにバルブタイミングが変更された場合(吸気バルブ13の閉鎖時IVCが進角方向に変更された場合や、点火時期が遅角方向に変更された場合)には、副室燃料量を減量することで副室5のトーチ火炎を弱めることができる。このように、実圧縮比の変化に応じてトーチ火炎の勢いが適正化されるため、エンジン10の燃焼状態を安定させることができる。
【0051】
(2)上記のエンジン10の制御装置では、エンジン回転数が高いほど燃料制御手段26が第1補正係数を大きな値に設定し、副室燃料量を増加させる制御を実施する。これにより、パッシブ方式のエンジン10において、高回転領域で副室5に導入される燃料量の減少を抑えることができる。したがって、エンジン10の燃焼状態の安定性をさらに向上させることができる。
【0052】
(3)上記のエンジン10の制御装置には、筒内圧の実測値または予測値を取得する筒内圧取得手段21が設けられる。また、燃料制御手段26は、吸気バルブ閉鎖時IVC及び点火時SAの各々における筒内圧に基づいて副室燃料量を算出する。これにより、適切な量の副室燃料量を精度よく求めることができ、エンジン10の燃焼状態の安定性をさらに向上させることができる。
【0053】
(4)上記のエンジン10の制御装置には、ノッキングを検出するノッキング検出手段22が設けられる。また、燃料制御手段26は、バルブタイミングに基づいて副室燃料量を変更した後に、ノッキングが検出された場合に、副室燃料量を減少させる制御を実施する。これにより、ノッキングの発生を抑制でき、エンジン10の燃焼状態を安定させることができる。なお、主室燃料量を保ったまま副室燃料量のみを減少させた場合には、主室噴射手段側の制御を変更することなく容易にエンジン10の燃焼状態を改善することができる。また、副室燃料量の減少量に応じて主室燃料量を増加させた場合には、トータルの燃料量の変化を小さくすることができ、エンジン10の燃焼状態をさらに安定させることができる。
【0054】
(5)上記のエンジン10の制御装置には、燃焼不良を検出する燃焼不良検出手段23が設けられる。また、燃料制御手段26は、バルブタイミングに基づいて副室燃料量を変更した後に、燃焼不良が検出された場合に、副室燃料量を増加させる制御を実施する。これにより、燃焼不良の発生を抑制でき、エンジン10の燃焼状態を安定させることができる。なお、主室燃料量を保ったまま副室燃料量のみを増加させた場合には、主室噴射手段側の制御を変更することなく容易にエンジン10の燃焼状態を改善することができる。また、副室燃料量の増加量に応じて主室燃料量を減少させた場合には、トータルの燃料量の変化を小さくすることができ、エンジン10の燃焼状態をさらに安定させることができる。
【0055】
[4.変形例]
上記の実施例はあくまでも例示に過ぎず、本実施例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、本実施例の各構成は、必要に応じて取捨選択でき、あるいは適宜組み合わせることができる。例えば、上記の実施例では車両に搭載されるエンジン10の制御装置について詳述したが、本件に係る制御装置の適用対象は車載エンジンのみに制限されることはなく、例えば船舶や発電施設に設置されるエンジンにも適用可能である。少なくとも、主室噴射手段と副室噴射手段とを備えた内燃機関であれば、本件に係る制御装置を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 ポート噴射弁(主室噴射手段)
2,2′ 副室噴射弁(副室噴射手段)
3 筒内噴射弁(主室噴射手段)
4 多機能噴射弁(主室噴射手段,副室噴射手段)
5 副室
6 隔壁
7 孔
8 主室
9 点火プラグ
10 エンジン
11 吸気ポート
12 排気ポート
13 吸気バルブ
14 排気バルブ
15 ノックセンサ
16 筒内圧センサ
17 エンジン回転数センサ
18 アクセル開度センサ
19 車速センサ
20 ECU(制御装置)
21 筒内圧取得手段
22 ノッキング検出手段
23 燃焼不良検出手段
24 バルブ制御手段
25 点火制御手段
26 燃料制御手段
30 可変バルブ機構
IVO 吸気バルブ13の開放時
IVC 吸気バルブ13の閉鎖時
EVO 排気バルブ14の開放時
EVC 排気バルブ14の閉鎖時
TDC 上死点
BDC 下死点
SA 点火時
SOI 燃料噴射開始時
EOI 燃料噴射終了時
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13