(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】誘電体フィルタ
(51)【国際特許分類】
H01P 1/205 20060101AFI20240925BHJP
H01P 7/04 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
H01P1/205 B
H01P1/205 D
H01P7/04
(21)【出願番号】P 2023510570
(86)(22)【出願日】2022-02-03
(86)【国際出願番号】 JP2022004297
(87)【国際公開番号】W WO2022209278
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-19
(31)【優先権主張番号】P 2021055345
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仁平 高司
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/026889(WO,A1)
【文献】特開2016-220190(JP,A)
【文献】特開2009-124212(JP,A)
【文献】特開2000-059113(JP,A)
【文献】特開2010-141877(JP,A)
【文献】米国特許第05621366(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/205
H01P 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体層を備え、直方体の形状を有する積層体と、
前記積層体の内部において積層方向に離間して配置された第1平板電極および第2平板電極と、
前記第1平板電極と前記第2平板電極との間に配置され、前記積層方向に直交する第1方向に延在する第1共振器、第2共振器および第3共振器と、
前記積層体において、前記第1方向に垂直な第1側面および第2側面にそれぞれ配置され、前記第1平板電極および前記第2平板電極に接続された第1シールド導体および第2シールド導体と、
前記第1共振器と前記第3共振器とを結合する第1容量電極とを備え、
前記第1共振器、前記第2共振器および前記第3共振器は、前記積層体の内部において、前記積層方向および前記第1方向の双方に直交する第2方向に、前記第1共振器、前記第2共振器および前記第3共振器の順に並んで配置されており、
前記第1共振器、前記第2共振器および前記第3共振器の各々において、第1端部は前記第1シールド導体に接続されており、第2端部は前記第2シールド導体から離間している、誘電体フィルタ。
【請求項2】
前記第1容量電極は、
前記積層方向において前記第1共振器に対向し、前記第1方向に延在する第1部分と、
前記積層方向において前記第3共振器に対向し、前記第1方向に延在する第2部分と、
前記第1部分と前記第2部分とを接続する第3部分とを含む、請求項1に記載の誘電体フィルタ。
【請求項3】
前記第1容量電極は、
前記第1部分と前記第3部分とを接続する第1ビア電極と、
前記第2部分と前記第3部分とを接続する第2ビア電極とをさらに含む、請求項2に記載の誘電体フィルタ。
【請求項4】
前記第1容量電極は、
前記第1方向において前記第1共振器の第2端部に対向して配置された第4部分と、
前記第1方向において前記第3共振器の第2端部に対向して配置された第5部分と、
前記第4部分と前記第5部分とを接続する第6部分とを含む、請求項1に記載の誘電体フィルタ。
【請求項5】
前記第2方向において、前記第1共振器と前記第2共振器との間に配置された第4共振器と、
前記第2方向において、前記第2共振器と前記第3共振器との間に配置された第5共振器と、
前記第1共振器と前記第2共振器とを容量結合する第2容量電極と、
前記第2共振器と前記第3共振器とを容量結合する第3容量電極と、
前記第4共振器と前記第5共振器とを容量結合する第4容量電極とをさらに備える、請求項1~4のいずれか1項に記載の誘電体フィルタ。
【請求項6】
各共振器は、前記積層方向に沿って配置された複数の電極によって構成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の誘電体フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、誘電体フィルタに関し、より特定的には、誘電体フィルタにおける特性を向上させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2007-235465号公報(特許文献1)には、誘電体内に複数の内部電極層が積層された積層型誘電体共振器を用いたバンドパスフィルタが開示されている。特開2007-235465号公報(特許文献1)に開示されたバンドパスフィルタにおいては、内部電極層のインダクタ部が長手パターンで構成されており、当該長手パターンの一部の幅が徐々に狭くなる形状を有している。このような構成とすることによって、Q値を低下させることなく共振周波数を低下させることができるので、共振器の小型化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開2007-235465号公報(特許文献1)のような積層型誘電体共振器を用いたバンドパスフィルタにおいては、複数の共振器間の結合度合いによって、減衰極の周波数が定まる。一般的には、所望の通過帯域よりも高周波数側および低周波数側の双方に複数の減衰極が形成され、各減衰極の周波数を調整することによって、所望の通過帯域幅および減衰特性が実現される。
【0005】
しかしながら、誘電体基板内のレイアウトの制約などにより、共振器間の結合が十分に得られず、減衰極同士の周波数が接近して重なってしまう場合がある。そうすると、所望の減衰特性が実現できなくなる可能性がある。
【0006】
本開示は、このような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、誘電体フィルタにおける減衰特性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る誘電体フィルタは、誘電体フィルタは、直方体の形状を有する積層体と、第1平板電極および第2平板電極と、第1共振器~第3共振器と、第1シールド導体および第2シールド導体と、第1容量電極とを備える。積層体は、複数の誘電体層を備える。第1平板電極および第2平板電極は、積層体の内部において積層方向に離間して配置される。第1共振器~第3共振器は、第1平板電極と第2平板電極との間に配置され、積層方向に直交する第1方向に延在している。第1シールド導体および第2シールド導体は、積層体において、第1方向に垂直な第1側面および第2側面にそれぞれ配置され、第1平板電極および第2平板電極に接続されている。第1共振器~第3共振器は、積層体の内部において、積層方向および第1方向の双方に直交する第2方向に、第1共振器、第2共振器および第3共振器の順に並んで配置されている。第1共振器、第2共振器および第3共振器の各々において、第1端部は第1シールド導体に接続されており、第2端部は第2シールド導体から離間している。第1容量電極は、第1共振器と第3共振器とを結合する。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る誘電体フィルタによれば、入力端子から出力端子に向かって第1共振器、第2共振器、第3共振器の順に配置された構成において、第1共振器と第3共振器とを結合するための第1容量電極が配置される。この第1容量電極によって、互いに隣接していない2つの共振器における飛越結合の結合度合いを個別に調整することができる。これにより、複数の減衰極の周波数の調整範囲を拡大できるので、誘電体フィルタの減衰特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態のフィルタ装置が適用される高周波フロントエンド回路を有する通信装置のブロック図である。
【
図2】実施の形態のフィルタ装置の外観斜視図である。
【
図3】実施の形態のフィルタ装置の内部構造を示す透過斜視図である。
【
図4】実施の形態のフィルタ装置の通過特性を説明するための図である。
【
図5】変形例1のフィルタ装置の内部構造を示す透過斜視図である。
【
図6】変形例2のフィルタ装置の内部構造を示す透過斜視図である。
【
図7】変形例3のフィルタ装置の内部構造を示す透過斜視図である。
【
図8】変形例4のフィルタ装置の内部構造を示す透過斜視図である。
【
図10】変形例4のフィルタ装置の通過特性を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0011】
[実施の形態]
(通信装置の基本構成)
図1は、実施の形態に係るフィルタ装置が適用される高周波フロントエンド回路20を有する通信装置10のブロック図である。通信装置10は、たとえば、スマートフォンに代表される携帯端末、あるいは、携帯電話基地局である。
【0012】
図1を参照して、通信装置10は、アンテナ12と、高周波フロントエンド回路20と、ミキサ30と、局部発振器32と、D/Aコンバータ(DAC)40と、RF回路50とを備える。また、高周波フロントエンド回路20は、バンドパスフィルタ22,28と、増幅器24と、減衰器26とを含む。なお、
図1においては、高周波フロントエンド回路20が、アンテナ12から高周波信号を送信する送信回路を含む場合について説明するが、高周波フロントエンド回路20はアンテナ12を介して高周波信号を受信する受信回路を含んでいてもよい。
【0013】
通信装置10は、RF回路50から伝達された信号を高周波信号にアップコンバートしてアンテナ12から放射する。RF回路50から出力された変調済みのデジタル信号は、D/Aコンバータ40によってアナログ信号に変換される。ミキサ30は、D/Aコンバータ40によってアナログ信号に変換された信号を、局部発振器32からの発振信号と混合して高周波信号へとアップコンバートする。バンドパスフィルタ28は、アップコンバートによって生じた不要波を除去して、所望の周波数帯域の信号のみを抽出する。減衰器26は、信号の強度を調整する。増幅器24は、減衰器26を通過した信号を、所定のレベルまで電力増幅する。バンドパスフィルタ22は、増幅過程で生じた不要波を除去するとともに、通信規格で定められた周波数帯域の信号成分のみを通過させる。バンドパスフィルタ22を通過した信号は、送信信号としてアンテナ12から放射される。
【0014】
上記のような通信装置10におけるバンドパスフィルタ22,28として、本開示に対応したフィルタ装置を採用することができる。
【0015】
(フィルタ装置の構成)
次に
図2および
図3を用いて、実施の形態のフィルタ装置100の詳細な構成について説明する。フィルタ装置100は、分布定数素子である複数の共振器により構成される誘電体フィルタである。
【0016】
図2は、フィルタ装置100の外観斜視図である。
図2においては、フィルタ装置100の外表面から見ることができる構成についてのみ示されており、内部の構成については省略されている。一方、
図3は、フィルタ装置100の内部構造を示す透過斜視図である。
【0017】
図2を参照して、フィルタ装置100は、複数の誘電体層が積層方向に積層された、直方体または略直方体の積層体110を備えている。積層体110は、上面111と、下面112と、側面113と、側面114と、側面115と、側面116とを有している。側面113は、X軸の正方向の側面であり、側面114はX軸の負方向の側面である。側面115,116はY軸方向に垂直な側面である。
【0018】
積層体110の各誘電体層は、たとえば低温同時焼成セラミックス(LTCC:Low Temperature Co-fired Ceramics)などのセラミックス、あるいは樹脂により形成されている。積層体110の内部において、各誘電体層に形成された複数の平板導体、および、誘電体層間に形成された複数のビアによって、共振器を構成する分布定数素子、ならびに、当該分布定数素子間を結合するためのキャパシタおよびインダクタが構成される。本明細書において「ビア」とは、異なる誘電体層に設けられた導体同士を接続し、積層方向に延在する導体を示す。ビアは、たとえば、導電ペースト、めっき、および/または金属ピンなどによって形成される。
【0019】
なお、以降の説明においては、積層体110の積層方向を「Z軸方向」とし、Z軸方向に垂直であって積層体110の長辺に沿った方向を「X軸方向」(第2方向)とし、積層体110の短辺に沿った方向を「Y軸方向」(第1方向)とする。また、以下では、各図におけるZ軸の正方向を上側、負方向を下側と称する場合がある。
【0020】
図2に示されるように、フィルタ装置100は、積層体110の側面115,116を覆う、シールド導体121,122を備えている。シールド導体121,122は、積層体110のX軸方向から見たときに略C字形状を有している。すなわち、シールド導体121,122は、積層体110の上面111および下面112の一部を覆っている。シールド導体121,122において、積層体110の下面112に配置された部分は、図示しない実装基板上の接地電極に、はんだバンプなどの接続部材によって接続される。すなわち、シールド導体121,122は接地端子としても機能する。
【0021】
また、フィルタ装置100は、積層体110の下面112に配置されている、入力端子T1および出力端子T2を備えている。入力端子T1は、下面112において、X軸の正方向の側面113に近い位置に配置されている。一方で、出力端子T2は、下面112において、X軸の負方向の側面114に近い位置に配置されている。入力端子T1および出力端子T2は、実装基板上の対応する電極に、はんだバンプなどの接続部材によって接続される。
【0022】
次に
図3を参照して、フィルタ装置100の内部構造について説明する。フィルタ装置100は、
図2に示した構成に加えて、平板電極130,135と、複数の共振器141~145と、キャパシタ電極161~165と、接続導体171~175と、容量電極200とをさらに備える。なお、以降の説明において、共振器141~145、キャパシタ電極161~165,接続導体171~175を、それぞれ包括的に「共振器140」,「キャパシタ電極160」,「接続導体170」と称する場合がある。
【0023】
平板電極130,135は、積層体110の内部において積層方向(Z軸方向)に離間した位置に、互いに対向して配置されている。平板電極130は、上面111に近い誘電体層に設けられており、X軸に沿った端部においてシールド導体121,122に接続されている。平板電極130は、積層方向から平面視した場合に、誘電体層をほぼ覆うような形状を有している。
【0024】
平板電極135は、下面112に近い誘電体層に設けられている。平板電極135は、積層方向から平面視した場合に、入力端子T1および出力端子T2に対向する部分に切り欠き部が形成された、略H型形状を有している。平板電極135は、X軸に沿った端部においてシールド導体121,122に接続されている。
【0025】
積層体110において、平板電極130と平板電極135との間に、共振器141~145が配置されている。共振器141~145の各々はY軸方向に延在している。共振器141~145の各々におけるY軸の正方向の端部(第1端部)は、シールド導体121に接続されている。一方、共振器141~145の各々におけるY軸の負方向の端部(第2端部)は、シールド導体122から離間している。
【0026】
フィルタ装置100においては、共振器141~145は、積層体110の内部においてX軸方向に並んで配置されている。より具体的には、X軸の正方向から負方向に向かって、共振器141,142,143,144,145の順に配置されている。
【0027】
共振器141~145の各々は、積層方向に沿って配置された複数の導体によって構成されている。
図4に示されるように、各共振器140のZX平面に平行な断面(すなわち、Y軸方向から平面視した断面)において、複数の導体は全体として略楕円形状を有している。言い換えれば、複数の導体において最上層および最下層に構成される導体のX軸方向の寸法(第1幅)は、中央付近の層に形成される導体のX軸方向の寸法(第2幅)よりも狭い。
【0028】
共振器140において、各共振器を構成する複数の導体は、第2端部に近い位置において、接続導体170によって電気的に接続されている。各共振器において、伝達される高周波信号の波長をλとすると、第1端部(すなわち、シールド導体121)第2端部との間の距離は約λ/4となるように設計される。
【0029】
共振器140は、複数の導体を中心導体とし、平板電極130,135を外導体とする、分布定数型のTEMモード共振器として機能する。
【0030】
共振器141は、ビアV10,V11および平板電極PL1を介して、入力端子T1に接続されている。なお、
図3においては、共振器によって隠れて見えなくなっているが、共振器145は、ビアおよび平板電極を介して出力端子T2に接続されている。共振器141~145は、互いに磁気結合しており、入力端子T1に入力された高周波信号は、共振器141~145の順に伝達されて、出力端子T2から出力される。このとき、各共振器間の結合度合いによって、フィルタ装置100はバンドパスフィルタとして機能する。
【0031】
共振器140の第2端部側には、隣接する共振器との間に突出したキャパシタ電極が設けられている。キャパシタ電極は、共振器を構成する複数の導体の一部が張り出した構造となっている。キャパシタ電極のY軸方向の長さ、隣接する共振器との距離、および/または、キャパシタ電極を構成する導体の数によって、隣接する共振器間の容量結合の度合いを調整することができる。
【0032】
フィルタ装置100においては、
図3に示されるように、共振器141から共振器142に向かってキャパシタ電極C10が突出して設けられており、共振器142から共振器141に向かってキャパシタ電極C20が突出して設けられている。また、共振器143から共振器142に向かってキャパシタ電極C30が突出して設けられており、共振器144から共振器143に向かってキャパシタ電極C40が突出して設けられている。さらに、共振器145から共振器144に向かってキャパシタ電極C50が突出して設けられている。
【0033】
なお、キャパシタ電極C10~C50は必須の構成ではなく、共振器間の所望の結合度合いが実現できれば、一部または全部のキャパシタ電極は設けられなくてもよい。また、
図3の構成に加えて、フィルタ装置は、共振器142から共振器143に向かって突出して設けられたキャパシタ電極、共振器143から共振器144に向かって突出して設けられたキャパシタ電極、共振器144から共振器145に向かって突出して設けられたキャパシタ電極を備えていてもよい。
【0034】
また、フィルタ装置100においては、共振器140の第2端部に対向して、キャパシタ電極160が配置されている。キャパシタ電極160のZX平面に平行な断面は、共振器140と同様の断面を有している。キャパシタ電極160は、シールド導体122に接続されている。これにより、共振器140と、対応するキャパシタ電極160とによってキャパシタが構成される。対応する共振器とキャパシタ電極との間のギャップ(Y軸方向の距離)を調整することによって、共振器140と対応するキャパシタ電極160とによって構成されるキャパシタのキャパシタンスを調整することができる。
【0035】
また、フィルタ装置100においては、共振器140よりも上面111側の誘電体層に、共振器141の上方から共振器145の上方までX軸方向に延在する平板形状の容量電極200が配置される。容量電極200によって、共振器141と共振器145とが容量結合される。
【0036】
フィルタ装置100のような誘電体共振器を用いたフィルタにおいては、複数の共振器間の結合度合いによって減衰極の周波数が定まる。具体的には、共振器間の結合において、誘導性の結合が優位である場合には通過帯域よりも高周波数側に減衰極が生じ、容量性の結合が優位である場合には通過帯域よりも低周波数側に減衰極が生じる。
【0037】
互いに隣接する共振器同士においては、キャパシタ電極C10~C50を用いて共振器同士の距離または面積を変化させることによって結合度合いを調整することができる。しかしながら、隣接していない共振器同士については、キャパシタ電極C10~C50では共振器間の結合が十分に得られない場合が生じ得る。その場合、減衰極同士の周波数が接近して重なってしまい、所望の減衰特性が実現できなくなる可能性がある。
【0038】
一方、実施の形態のフィルタ装置100においては、上述のように、容量電極200によって、共振器141と共振器145とが結合されている。これによって、共振器141と共振器145との間の飛越結合を強めることができる。したがって、共振器141と共振器145とによって形成される減衰極の周波数を個別に調整することができ、所望の減衰特性を実現することが可能となる。なお、容量電極200の位置を第1端部側(シールド導体121側)に近づけると、共振器間の誘導性の結合が強くなり、第2端部側(シールド導体122側)に近づけると共振器間の容量性の結合が強くなる。
【0039】
(フィルタ装置の通過特性)
図4は、比較例のフィルタ装置、および、実施の形態のフィルタ装置100の通過特性を説明するための図である。比較例のフィルタ装置は、容量電極200を備えていない点がフィルタ装置100と異なる。
図4の各グラフにおいて、横軸には周波数が示されており、縦軸には挿入損失(線LN10,LN20)および反射損失(線LN11,LN21)が示されている。
図4の例においては、対象とする通過帯域はf1からf2の範囲である。
【0040】
図4を参照して、比較例のフィルタ装置においては、通過帯域よりも低周波数側の領域RG2では、複数の減衰極が重なり合っており、はっきりと減衰極の位置を確認することができない。これにより、領域RG2における減衰量(挿入損失)は、45dB付近でほぼ一定となっている。
【0041】
一方、実施の形態のフィルタ装置100においては、領域RG1に見られるように、2つの減衰極が明確に形成されており、各減衰極において60dBを超える減衰量が実現されている。
【0042】
なお、フィルタ装置100においては、入力端子T1に接続される共振器141と、出力端子T2に接続される共振器145との間の飛越結合を強める場合の例について説明したが、たとえば共振器142と共振器144との間、および/または、共振器143と共振器145との間などの、他の共振器同士における飛越結合を強めるようにしてもよい。
【0043】
また、実施の形態においては、5つの共振器を有するフィルタ装置の例について説明したが、本開示の特徴は、少なくとも3つの共振器を有するフィルタ装置に適用可能である。
【0044】
実施の形態における「共振器141~145」は、本開示における「第1共振器」,「第4共振器」,「第2共振器」,「第5共振器」,「第3共振器」にそれぞれ対応する。実施の形態における「平板電極130」および「平板電極135」は、本開示における「第1平板電極」および「第2平板電極」にそれぞれ対応する。実施の形態における「側面115」および「側面116」は、本開示における「第1側面」および「第2側面」にそれぞれ対応する。実施の形態における「シールド導体121」および「シールド導体122」は、本開示における「第1シールド導体」および「第2シールド導体」にそれぞれ対応する。実施の形態における「Y軸方向」および「X軸方向」は、本開示における「第1方向」および「第2方向」にそれぞれ対応する。実施の形態における「接続導体170(171~175)」は、本開示における「第2接続導体」に対応する。
【0045】
[変形例]
図5~
図10を用いて、共振器間の飛越結合を強めるための容量電極の変形例について説明する。なお、以下の変形例において、
図2のフィルタ装置100と重複する要素の説明は繰り返さない。
【0046】
(変形例1)
図5は、変形例1のフィルタ装置100Aの内部構造を示す透過斜視図である。フィルタ装置100Aにおいては、
図2のフィルタ装置100における容量電極200が、容量電極200Aに置き換わった構成となっている。
【0047】
容量電極200Aは、概略的には、フィルタ装置100の容量電極200に、端部から突出した突出部が加えられた構成に対応する。より詳細には、容量電極200Aは、第1部分201と、第2部分202と、第3部分203とを含んで構成されている。
【0048】
第1部分201は、積層方向において共振器141に対向し、Y軸方向に延在した平板電極である。第2部分202は、積層方向において共振器145に対向し、Y軸方向に延在した平板電極である。第3部分は203、X軸方向に延在する平板電極であり、第1部分201と第2部分202とを接続している。
【0049】
第1部分201および第2部分202のY軸方向の長さを調整することよって、第1部分201と共振器141と間の結合度合い、ならびに、第2部分202と共振器145との結合度合いをそれぞれ調整することができる。
【0050】
図3の容量電極200においては、積層方向から平面視した場合に、容量電極200が共振器142~144とも交差しているため、共振器141と共振器145との間だけでなく、他の共振器間の結合も少なからず生じ得る。一方で、変形例1の容量電極200Aの構成においては、第1部分201および第2部分202によって、容量電極200Aと、共振器141および共振器145との間の結合度合いを、他の共振器間の結合度合いよりも強くすることができる。
【0051】
以上のように、変形例1における容量電極200Aのような構成とすることによって、飛越結合の結合度合いをより細やかに調整することが可能となる。これにより、各減衰極の周波数の調整を容易化することができるとともに、減衰極の設定精度を高めることができるようになるので、所望の減衰特性を容易に実現することが可能となる。
【0052】
(変形例2)
図6は、変形例2のフィルタ装置100Bの内部構造を示す透過斜視図である。フィルタ装置100Bにおいては、
図2のフィルタ装置100における容量電極200が、容量電極200Bに置き換わった構成となっている。
【0053】
変形例2の容量電極200Bは、概略的には
図5の変形例1の容量電極200Aにおける、第1部分201および第2部分202と、第3部分203とがビアによって接続された構成となっている。
【0054】
より詳細には、容量電極200Bは、第1部分201Bと、第2部分202Bと、第3部分203Bと、ビア204B,205Bとを含んで構成されている。第1部分201Bは、積層方向において共振器141に対向し、Y軸方向に延在した平板電極である。第2部分202Bは、積層方向において共振器145に対向し、Y軸方向に延在した平板電極である。第3部分203Bは、X軸方向に延在する平板電極である。
【0055】
容量電極200Bにおいては、第3部分203Bは、第1部分201Bおよび第2部分202Bよりも上面111側の誘電体層に配置されている。第3部分203BのX軸の正方向の端部は、ビア204Bによって第1部分201Bと接続されている。また、第3部分203BのX軸の負方向の端部は、ビア205Bによって第2部分202Bと接続されている。
【0056】
このような構成とすることによって、実施の形態および変形例1と同様に、共振器141と共振器145との結合を強めることができる。さらに、容量電極200Bにおいては、他の共振器142~144と第3部分203Bとの積層方向の距離が、実施の形態の容量電極200および変形例1の容量電極200Aと比べて大きくされているため、容量電極200Bによる、共振器142~144への影響を低減することができる。すなわち、対象とすべき共振器のみを個別に調整することが可能となるため、減衰極の設定精度をより一層高めることができる。したがって、所望の減衰特性を容易に実現することが可能となる。
【0057】
なお、変形例2における「ビア204B」および「ビア205B」は、本開示における「第1ビア電極」および「第2ビア電極」にそれぞれ対応する。
【0058】
(変形例3)
図7は、変形例3のフィルタ装置100Cの内部構造を示す透過斜視図である。フィルタ装置100Cにおいては、
図2のフィルタ装置100における容量電極200が、容量電極200Cに置き換わった構成となっている。
【0059】
実施の形態および変形例1,2における容量電極200,200A,200Bは、積層方向(Z軸方向)において共振器141,145と結合する構成となっていた。一方、変形例3のフィルタ装置100Cにおける容量電極200Cは、共振器141,145の延在方向(Y軸方向)において、共振器141,145と結合する構成となっている。
【0060】
より詳細には、容量電極200Cは、共振器141の第2端部側に対向して配置された第4部分201Cと、共振器145の第2端部側に対向して配置された第5部分202Cと、第4部分201Cおよび第5部分202Cとを接続する第6部分203Cとを含む。第4部分201Cおよび第5部分202Cは、Y軸方向に平面視した場合に、対応する共振器およびキャパシタ電極と同様の形状を有しており、当該共振器とキャパシタ電極との間に配置されている。第4部分201Cおよび第5部分202Cと、対応する共振器との距離、第4部分201Cおよび第5部分202CのY軸方向の寸法、および/または、第4部分201Cおよび第5部分202Cに含まれる導体の数によって、対応する共振器との結合度合いが調整される。
【0061】
第6部分203CはX軸方向に延在する平板電極であり、第4部分201Cにおける上面111側の導体と、第5部分202Cにおける上面111側の導体とを接続している。これにより、容量電極200Cを介して、共振器141と共振器145との間の結合が強められる。
【0062】
このような構成においても、共振器141と共振器145との飛越結合が強められるので、共振器141と共振器145とによって形成される減衰極の周波数を個別に調整することができる。したがって、所望の減衰特性を実現することが可能となる。
【0063】
(変形例4)
実施の形態および変形例1~3においては、容量電極によって共振器141と共振器145との間の飛越結合を強める構成について説明した。変形例4においては、共振器141と共振器145との間の飛越結合に加えて、他の共振器間の飛越結合をさらに強める構成について説明する。
【0064】
図8は、変形例4のフィルタ装置100Dの内部構造を示す透過斜視図である。また、
図9は、変形例4のフィルタ装置100Dの断面図である。
図9は、フィルタ装置100DをY軸方向から見た時の断面図である。
図8および
図9を参照して、フィルタ装置100Dにおいては、共振器141と共振器145とを結合するための容量電極200D1に加えて、他の共振器間を結合するための容量電極200D2,200D3,200D4が設けられている。
【0065】
変形例4における容量電極200D1~200D4は、実施の形態の容量電極200と同様に、X軸方向に延在する平板電極である。容量電極200D1は、上述のように、共振器141と共振器145とを結合する。容量電極200D2は、共振器141と共振器143とを結合する。容量電極200D3は、共振器143と共振器145とを結合する。容量電極200D4は、共振器142と共振器144とを結合する。
【0066】
なお、フィルタ装置100Dの例においては、容量電極200D1,200D3,200D4は共振器よりも上面111側に配置されており、容量電極200D2は共振器よりも下面112側に配置されている。各容量電極の配置は、必要となる共振器間の結合度合い、共振器間の結合における容量結合あるいは誘導結合のバランス、および/または、他の要素とのレイアウトの制約などに基づいて適宜決定される。
【0067】
図10は、
図8のフィルタ装置100Dの通過特性を説明するための図である。
図10においては、
図4で説明したフィルタ装置100の通過特性、および、変形例4のフィルタ装置100Dの通過特性が示されている。なお、変形例4のグラフにおいて、線LN30は挿入損失を示しており、線LN31は反射損失を示している。
【0068】
図10を参照して、フィルタ装置100においては、通過帯域よりも低周波数側の領域RG1に2つの減衰極が現れており、各減衰極の減衰量は60~65dBとなっている。一方、変形例4のフィルタ装置100Dにおいては、通過帯域よりも低周波数側の領域RG3には3つの減衰極が現れており、各減衰極において70dBを超える減衰量が実現されている。また、変形例4のフィルタ装置100Dでは、フィルタ装置100の場合よりも通過帯域に近い周波数に減衰極が形成されているため、より急峻な減衰特性が得られている。
【0069】
以上のように、変形例4のフィルタ装置100Dにおいては、容量電極200D1~200D4を備えることによって、共振器141と共振器145との間の飛越結合度合い、共振器141と共振器143との間の飛越結合の結合度合い、共振器143と共振器145との間の飛越結合の結合度合い、および、共振器142と共振器144との間の飛越結合の結合度合いを個別により細やかに調整することができる。したがって、減衰特性を向上させることが可能となる。
【0070】
なお、変形例4における「容量電極200D1~200D4」は、本開示における「第1容量電極」、「第2容量電極」、「第3容量電極」、および「第4容量電極」にそれぞれ対応する。
【0071】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0072】
10 通信装置、12 アンテナ、20 高周波フロントエンド回路、22,28 バンドパスフィルタ、24 増幅器、26 減衰器、30 ミキサ、32 局部発振器、40 コンバータ、50 RF回路、100,100A~100D フィルタ装置、110 積層体、111 上面、112 下面、113~116 側面、121,122 シールド導体、130,135,PL1 平板電極、140~145 共振器、160,161~165,C10~C50 キャパシタ電極、170,171~175 接続導体、200,200A~200C,200D1~200D4 容量電極、201,201B 第1部分、201C 第4部分、202,202B 第2部分、202C 第5部分、203,203B 第3部分、203C 第6部分、204B,205B,V10,V11 ビア、RG1~RG3 領域、T1 入力端子、T2 出力端子。