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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】製品品質分析支援システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/04 20120101AFI20240925BHJP
【FI】
G06Q50/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023540847
(86)(22)【出願日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2022013235
(87)【国際公開番号】W WO2023181127
(87)【国際公開日】2023-09-28
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井波 治樹
【審査官】宮地 匡人
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-192915(JP,A)
【文献】特開2014-179060(JP,A)
【文献】特開2020-003871(JP,A)
【文献】国際公開第2019/102614(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼プラントに適用される製品品質分析支援システムであって、
少なくとも1つのプロセッサとメモリとモニタとを備え、
前記メモリは、過去に圧延された複数の圧延材それぞれについて、製品諸元と、圧延材の長手方向の各位置の品質データに基づく品質データ波形パターンと、圧延材の長手方向の各位置のプロセスデータに基づくプロセスデータ波形パターンと、を格納し、
前記プロセッサは、
前記メモリに格納された複数の品質データ波形パターンのうち、品質が不良と判定された複数の不良波形パターンを、類似度に基づいて少なくとも1つの不良波形パターングループに分類する第1処理と、
前記不良波形パターングループについて、製品諸元およびプロセスデータ波形パターンに基づく条件との相関スコアを計算する第2処理と、
前記不良波形パターングループの特徴を示す前記相関スコアが条件閾値を超える場合に、前記不良波形パターングループを代表する代表波形パターンと、前記相関スコアに応じた情報と、要因・対策入力領域とを含む入力画面を、前記モニタに表示する第3処理と、
前記要因・対策入力領域に入力された案内情報と、前記代表波形パターンと、前記相関スコアに応じた情報と、を関連付けた支援情報を前記メモリに格納する第4処理と、を実行するように構成されること、
を特徴とする製品品質分析支援システム。
【請求項2】
前記プロセッサは、
1本の圧延材が圧延完了する度に実行され、当該圧延材の品質データ波形パターンが不良波形パターンである場合に、前記メモリに格納された支援情報に基づいて当該不良波形パターンに関連した案内情報および相関スコアに応じた情報を前記モニタに表示する第5処理、を実行するように構成されること、
を特徴とする請求項1に記載の製品品質分析支援システム。
【請求項3】
前記第2処理は、品質i(1≦i≦I)のグループm(1≦m≦M)と、条件j(1≦j≦J)のグループn(1≦n≦N)とのすべての組み合わせについて、相関スコアを算出すること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の製品品質分析支援システム。
【請求項4】
前記相関スコアに応じた情報は、前記条件を説明する文字情報を含むこと、
を特徴とする請求項1又は2に記載の製品品質分析支援システム。
【請求項5】
前記相関スコアに応じた情報は、前記相関スコアが大きいほど径が大きい円状の図形を含むこと、
を特徴とする請求項1又は2に記載の製品品質分析支援システム。
【請求項6】
前記プロセッサは、前記不良波形パターングループを削除可能な削除処理、を実行するように構成されること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の製品品質分析支援システム。
【請求項7】
前記プロセッサは、新たな前記不良波形パターングループを追加可能な追加処理、を実行するように構成されること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の製品品質分析支援システム。
【請求項8】
前記プロセッサは、前記不良波形パターングループを代表する代表波形パターンを修正可能な修正処理、を実行するように構成されること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の製品品質分析支援システム。
【請求項9】
前記第1処理は、前記不良波形パターングループを代表する代表波形パターンが固定されている場合に、当該代表波形パターンに類似する波形パターンを検索する方法により、前記複数の不良波形パターンをグループ分けし、前記代表波形パターンが固定されていない場合に、クラスタリング手法により前記複数の不良波形パターンをグループ分けすること、
を特徴とする請求項7に記載の製品品質分析支援システム。
【請求項10】
前記メモリは、同一の不良波形パターンに対して異なる前記支援情報が登録された複数のデータベースを格納し、
前記プロセッサは、前記複数のデータベースのうち1つを選択して、前記第5処理を実行すること、
を特徴とする請求項2に記載の製品品質分析支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品品質分析支援システムに関し、特に、鉄鋼プラントで製造された製品の品質を維持するための分析作業を支援する製品品質分析支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼プラントで製造された製品の品質を維持のための分析作業は、品質不良の発生を判断し、不良の要因を特定し、不良を取り除くための操業条件や制御設定の変更方法を決定し、実際に実行するまでの一連の作業を含む。この一連の作業では、数多くのデータや情報に基づいて経験豊富な技術者が総合的に判断することが必要であるため、多大な労力と時間が必要であった。
【0003】
これらの一連の分析作業を効率化する支援システムが望まれている。例えば以下に記載する特許文献には、支援システムに関係する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2019/102614号
【文献】日本特開2019-16209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、鉄鋼プラントのメンテナンス支援システムを開示している。このメンテナンス支援システムは、最新の圧延材の品質精度が基準値を下回った場合にその波形が、波形パターン登録機能で過去に登録された不良波形パターンの中に類似したものが存在すれば、その不良波形パターンに紐づけられた過去の対策内容を表示する機能を有することを特徴とする。しかしながら、不良波形パターンに応じた有用な対策内容を使用者が登録する際には、実際の製品の特徴を把握し、使用者の知識と照らし合わせる必要がある。そのため、熟練者の知識と労力が必要であり、効率化が十分とは言えない。
【0006】
特許文献2は、診断装置を開示している。この診断装置は、不良診断部とグラフ作成部とを備えることを特徴とする。不良診断部は、異常検知モデルと要因分析モデルを有し、保守員が表示されたグラフを参照し、診断モデルによる結果が妥当か否かを判断し履歴データベースに登録する。診断モデルによる結果が妥当か判断できないときは、判断できるまでグラフ作成用のパラメータ情報を指定し、グラフを表示することを繰り返し行う。しかしながら、その作業は人の試行錯誤により行われるため、熟練者の知識と労力が必要であり、効率化が十分とは言えない。
【0007】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、鉄鋼プラントで製造された製品の品質を維持するための分析作業において、実際の製品の品質不良の発生状況を把握し、不良の要因を特定し対策を実行することにより不良を取り除く一連の作業を支援できる製品品質分析支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の観点は、鉄鋼プラントに適用される製品品質分析支援システムに関連する。
前記製品品質分析支援システムは、少なくとも1つのプロセッサとメモリとモニタとを備える。
前記メモリは、過去に圧延された複数の圧延材それぞれについて、製品諸元と、圧延材の長手方向の各位置の品質データに基づく品質データ波形パターンと、圧延材の長手方向の各位置のプロセスデータに基づくプロセスデータ波形パターンと、を格納する。
前記プロセッサは、第1処理と第2処理と第3処理と第4処理とを実行するように構成される。
前記第1処理は、前記メモリに格納された複数の品質データ波形パターンのうち、品質が不良と判定された複数の不良波形パターンを、類似度に基づいて少なくとも1つの不良波形パターングループに分類する(図3の不良波形パターングループ生成部18)。
前記第2処理は、前記不良波形パターングループについて、製品諸元およびプロセスデータ波形パターンに基づく条件との相関スコアを計算する(図3の不良波形パターングループ特徴取得部19)。
前記第3処理は、前記不良波形パターングループの特徴を示す前記相関スコアが条件閾値を超える場合に、前記不良波形パターングループを代表する代表波形パターンと、前記相関スコアに応じた情報と、要因・対策入力領域とを含む入力画面を、前記モニタに表示する(図3の不良波形パターングループ特徴出力部21と要因・対策入力部23)。
前記第4処理は、前記要因・対策入力領域に入力された案内情報と、前記代表波形パターンと、前記相関スコアに応じた情報と、を関連付けた支援情報を前記メモリに格納する(図3の要因・対策入力部23)。
【0009】
第2の観点は、第1の観点に加えて、次の特徴を更に有する。
前記プロセッサは、第5処理を実行するように構成される。
前記第5処理は、1本の圧延材が圧延完了する度に実行される。前記第5処理は、当該圧延材の品質データ波形パターンが不良波形パターンである場合に、前記メモリに格納された支援情報に基づいて当該不良波形パターンに関連した案内情報および相関スコアに応じた情報を前記モニタに表示する(自動処理9)。
【0010】
第3の観点は、第1又は2の観点に加えて、次の特徴を更に有する。
前記第2処理は、品質i(1≦i≦I)のグループm(1≦m≦M)と、条件j(1≦j≦J)のグループn(1≦n≦N)とのすべての組み合わせについて、相関スコアを算出する。
【0011】
第4の観点は、第1乃至第3の観点のいずれかに加えて、次の特徴を更に有する。
前記相関スコアに応じた情報は、前記条件を説明する文字情報を含む。
【0012】
第5の観点は、第1乃至第4の観点のいずれかに加えて、次の特徴を更に有する。
前記相関スコアに応じた情報は、前記相関スコアが大きいほど径が大きい円状の図形を含む。
【0013】
第6の観点は、第1乃至第5の観点のいずれかに加えて、次の特徴を更に有する。
前記プロセッサは、前記不良波形パターングループを削除可能な削除処理、を実行するように構成される。
【0014】
第7の観点は、第1乃至第6の観点のいずれかに加えて、次の特徴を更に有する。
前記プロセッサは、新たな前記不良波形パターングループを追加可能な追加処理、を実行するように構成される。
【0015】
第8の観点は、第1乃至第7の観点のいずれかに加えて、次の特徴を更に有する。
前記プロセッサは、前記不良波形パターングループを代表する代表波形パターンを修正可能な修正処理、を実行するように構成される。
【0016】
第9の観点は、第7又は第8の観点に加えて、次の特徴を更に有する。
前記第1処理は、前記不良波形パターングループを代表する代表波形パターンが固定されている場合に、当該代表波形パターンに類似する波形パターンを検索する方法により、前記複数の不良波形パターンをグループ分けし、前記代表波形パターンが固定されていない場合に、クラスタリング手法により前記複数の不良波形パターンをグループ分けする。
【0017】
第10の観点は、第2乃至第9の観点のいずれかに加えて、次の特徴を更に有する。
前記メモリは、同一の不良波形パターンに対して異なる前記支援情報が登録された複数のデータベースを格納する。
前記プロセッサは、前記複数のデータベースのうち1つを選択して、前記第5処理を実行する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る製品品質分析支援システムによれば、鉄鋼プラントで製造された製品の品質を維持するための分析作業において、実際の製品の品質不良の発生状況を把握し、不良の要因を特定し対策を実行することにより不良を取り除く一連の作業を支援できる。特に、実績データから計算した相関スコアに基づく不良波形パターングループ別の特徴情報が表示されるため、使用者は、波形パターングループを決定し、要因や対策を登録する作業を正確かつ短時間に完了できる。また、その後の不良発生時には、登録された波形パターングループと要因・対策情報が表示されて、要因特定と対策実行を支援できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施の形態に係る製品品質分析支援システムが適用される鉄鋼プラント、ならびに製品品質分析支援システムで使われるデータの流れを示した模式図である。
図2】本発明の実施の形態に係る製品品質分析支援システムで使用される実績データの波形パターンを例示する図である。
図3】本発明の実施の形態に係る製品品質分析支援システムが有する機能の概要を例示するブロック図である。
図4】本発明の実施の形態に係る圧延材リストの一例を示す図である。
図5】本発明の実施の形態に係る製品品質分析支援システムの要因・対策出力部での画面表示を例示する図である。
図6】本発明の実施の形態に係る不良波形パターングループ特徴取得部における処理について説明するためのフローチャートである。
図7】本発明の実施の形態に係る不良波形パターングループ特徴取得部における相関スコアの計算例を説明するための図である。
図8】本発明の実施の形態に係る不良波形パターングループ特徴取得部における相関スコアの計算例を説明するための図である。
図9】本発明の実施の形態に係る不良波形パターングループ特徴出力部における出力例を表す模式図である。
図10】本発明の実施の形態に係る不良波形パターングループ特徴出力部における処理について説明するためのフローチャートである。
図11】本発明の実施の形態に係る製品品質分析支援システムの要因・対策入力部および要因・対策出力部での画面表示例を表す模式図である。
図12】本発明の実施の形態に係る製品品質分析支援システムのハードウェア構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0021】
実施の形態.
1.全体構成
図1は、製品品質分析支援システムが適用される鉄鋼プラント、ならびに製品品質分析支援システムで使われるデータの流れを示した模式図である。
【0022】
圧延ライン2は、加熱炉、粗圧延機、仕上圧延機、冷却装置、コイラー等の設備を備える。圧延材1は、これらの設備において加熱、加工、冷却、巻取りの過程を経ることにより製品として製造される。
【0023】
制御システム3は、圧延ライン2の各設備を動作させるための指令データd1を圧延ライン2へ送信する。また、圧延ライン2の各設備にはセンサが取り付けられており、制御システム3は、これらのセンサにより計測された実績データを収集する。実績データには大きく2つがあり、制御システム3で使われる実績データd2と、制御システムで使われずに分析や評価に使われる実績データd3に分かれる。
【0024】
2.製品品質分析支援システム
製品品質分析支援システム4は、データ保存機能5と計算機能6と情報表示機能7とを含む。
【0025】
2-1.概要
データ保存機能5は、制御システム3から受信したd4、d5と、圧延ライン2から受信したd3と、を保存する。d4は、制御システム3に予め与えられた製品情報、スラブ情報、ロール情報等の製品諸元である。d5は、制御システム3で使用された実績データd2と、制御システム内の途中計算データ、ならびに計算結果データを合わせたデータの集合である。データ保存機能5は、d3、d4、d5を合わせたデータd6を計算機能6へ送信する。
【0026】
計算機能6は、情報表示機能7に使用者が入力した計算条件に従って、d6を用いて分析支援のための計算を実行し、その計算結果を情報表示機能7へ送信する。計算機能6における各種計算結果は、データベース30に格納される。データベース30は、後述する不良波形パターン登録DB(31~33)、その他の計算結果を格納する計算結果格納DB(34)を含む。
【0027】
情報表示機能7は、計算機能6の計算結果を編集し、モニタ8に表示する。使用者100は、モニタ8に表示された相関スコアに基づく情報(図11)を参照しながら、効率的に、品質不良発生時の要因・対策に関する案内情報を登録できる。
【0028】
図2は、製品品質分析支援システム4で使用される実績データの波形パターンを例示する図である。製品品質分析で対象とされる実績データには、品質データとプロセスデータがある。品質データは、センサから計測された板厚や板幅などの寸法、温度、形状等の製品の品質を表すデータである。プロセスデータは、センサから計測された設備の物理量(速度、開度など)を表すデータ、制御システム内の途中計算データ、ならびに計算結果データ等の圧延過程のデータなどである。
【0029】
図2に示す品質データ波形パターン(プロセスデータ波形パターン)は、圧延材1の長手方向の各位置の品質データ(プロセスデータ)が示す物理量に基づいて生成される。図2のX軸は圧延材1の長手方向の各位置を表し、Y軸は実績値と目標値との偏差を表す。品質データ波形パターンは、例えば後述する不良判定部11で生成されてデータベース30に格納される。プロセスデータ波形パターンは、例えば後述する不良波形パターングループ特徴取得部19で生成されてデータベース30に格納される。すなわち、データベース30は、過去に圧延された複数の圧延材それぞれについて、製品諸元と品質データ波形パターンとプロセスデータ波形パターンとを格納する。
【0030】
2-2.計算機能
図3は、製品品質分析支援システム4の計算機能6と情報表示機能7の構成を示すブロック図である。計算機能6は、自動処理9と手動一括処理10を含む。
【0031】
2-2-1.自動処理
自動処理9は、1本の圧延材1が圧延完了する度に自動的に実行される。自動処理9は、不良判定部11、不良波形パターン取得部12、要因・対策出力部13を備える。
【0032】
不良判定部11は、データ保存機能5に保存された圧延材1の品質データを品質種別ごとに取得する。不良判定部11は、圧延材1の長手方向の各位置の品質データが示す物理量に基づいて品質データ波形パターン(図2)を生成する。品質データ波形パターンは、圧延材1の長手方向のL個の位置それぞれにおける品質実績値と品質目標値との偏差を示す。
【0033】
不良判定部11は、それぞれの品質種別の精度指標に従った統計計算を施し、基準値を満たすか否かを判断する。具体的には、品質データ波形パターンにおいて、圧延材1の長手方向のL個の位置それぞれにおける品質実績値と品質目標値との偏差が精度指標を満たす割合を計算する。当該割合が基準値に達していない場合は、当該圧延材は当該品質種別について不良である。この場合、不良波形パターン取得部12の処理が実行される。
【0034】
図4を参照して、不良判定部11における計算例を説明する。図4は、圧延材リストの一例を示す図である。圧延材リストは、圧延材1と品質データとの関係を含む。図4において、「製品ID」は圧延材の固有識別子である。「板厚」と「板幅」は品質データの種別の一例である。図4には2つの品質種別(板厚、板幅)が例示されているが3つ以上であってもよい。1種類の品質データについて「目標」と「精度」と「判定」と「グループ」欄が関連付けられている。「目標」は品質目標値である。「精度」は、圧延材の長手方向のL個の位置それぞれにおける品質実績値(板厚、板幅)と品質目標値との偏差が精度指標(品質目標値の許容誤差)を満たすにある割合(%)を示す。なお、圧延材リストはデータベース30に格納される。
【0035】
例えば、製品ID「BBB」の圧延材について、板厚の品質目標値は2.8(mm)であり、板幅の品質目標値は900(mm)である。不良判定部11は、圧延材(BBB)の品質データ波形パターンに基づいて、圧延材(BBB)の長手方向のL個の位置それぞれにおける板厚実績値と板厚目標値(2.8(mm))との偏差と、精度指標(板厚目標値の許容誤差)とを比較し、L個の板厚実績値のうち91.0(%)が精度指標を満たしていることを算出し、圧延材リストに登録する。同様に、不良判定部11は、圧延材(BBB)の長手方向のL個の位置それぞれにおける板幅実績値と板幅目標値(900(mm))との偏差と、精度指標(板幅目標値の許容誤差)とを比較し、L個の板幅実績値のうち100(%)が精度指標を満たしていることを算出し、圧延材リストに登録する。
【0036】
不良波形パターン取得部12は、以下の計算により当該圧延材のグループ番号とそのグループの代表波形パターンを決定する。
【0037】
不良波形パターン取得部12は、まず、不良波形パターン登録DB(31~33)を確認し、登録されたグループが無い場合、もしくは、登録されたグループの代表波形パターンの中に類似の波形が無い場合は、当該圧延材の波形パターンを代表波形パターンとして登録し、グループ番号を付ける。グループ番号は、例えば既に10個のグループが登録されていれば、重ならないように次の番号11をグループ番号として付ける。そして、そのグループ番号を当該圧延材のグループ番号として取得する。
【0038】
一方、登録されたグループの代表波形パターンの中に類似の波形があった場合は、不良波形パターン取得部12は、見つかった類似の波形パターンが属するグループに当該圧延材を登録し、そのグループ番号を当該圧延材のグループ番号として取得する。
【0039】
また、グループの中に複数の波形パターンが登録される場合は、不良波形パターン取得部12は、どの波形パターンからも一番類似する波形パターンを代表波形パターンとして決定する。
【0040】
要因・対策出力部13は、当該圧延材が不良の場合に、データベース30を検索して不良波形パターングループ番号に対応した要因・対策の支援情報をモニタ8に表示する。図5は、圧延材が不良の場合にモニタ8に表示される支援情報の画面表示例を示す図である。
【0041】
以上説明したように、自動処理9は、1本の圧延材が圧延完了する度に実行され、当該圧延材の品質データ波形パターンが不良波形パターンである場合に、当該不良波形パターンに関連した支援情報(図5)をモニタ8に表示する。
【0042】
2-2-2.手動一括処理
手動一括処理10は、複数の圧延材が圧延完了した後に使用者の操作に基づいて実行される。手動一括処理10は、不良波形パターングループ生成部18、不良波形パターングループ特徴取得部19を備える。
【0043】
不良波形パターングループ生成部18は、後述する分析設定入力部20により使用者に入力された分析期間を受信する。分析期間内の製造時期の圧延材が分析に使用される。不良波形パターングループ生成部18は、メモリ92に格納された多数の品質データ波形パターンのうち、指定された分析期間に応じた品質データ波形パターンを抽出し、その中から品質が不良と判定された複数の不良波形パターンを、類似度に基づいて少なくとも1つの不良波形パターングループに分類する。グループ分類には、例えば、一般的に知られる階層型や非階層型のクラスタリング手法を利用可能である。以下では、各品質データの不良波形パターンのグループ分類により生成された不良波形パターングループを品質グループと記す。
【0044】
上述した圧延材リスト(図4)を参照して、不良波形パターングループ生成部18における計算例を説明する。図4の品質データには、上述した「目標」と「精度」の他に「判定」と「グループ」欄が関連付けられている。「判定」は品質の判定結果を示し、「精度」の値が基準値以上である場合に「良」、基準値未満である場合に「不良」と判定される。「グループ」は品質が不良と判定された不良波形パターンのグループ分けにより生成された品質グループの番号である。
【0045】
例えば、図4に示す圧延材リストは、指定された分析期間に応じて抽出された12個の圧延材についてのデータである。例えば、基準値が95.0%に定められている場合、製品ID「AAA」の圧延材の板厚の精度は100(%)であり、基準値以上であるため、板厚品質の判定結果は「良」である。一方、製品ID「BBB」の圧延材の板厚の精度は91.0(%)であり、基準値未満であるため、板厚品質の判定結果は「不良」である。板厚品質の判定結果は、圧延材リストに登録される。さらに、品質(板厚)が不良と判定された不良波形パターンについては類似度に基づいてグループ分類が実行されて、図4に示す例では、2つの不良波形パターングループに分類され圧延材リストに品質グループ番号が登録される。板幅についても同様の処理が実行されて、板幅品質の判定結果と、グループ分類の結果が圧延材リストに登録される。
【0046】
不良波形パターングループ特徴取得部19は、不良波形パターングループ生成部18においてグループ分けされた各不良波形パターングループについて、製品諸元およびプロセスデータ波形パターンに基づく条件との相関スコアを計算する。条件には、2値で出力されるもの(例えば、加熱炉番号、製品板厚が薄物か厚物か、など)、N値で出力されるもの(鋼種番号、圧下量の全長データのグループ分類番号、など)がある。板厚の相関スコアは、不良波形パターングループ毎の特徴を表す数値である。なお、条件として、他の品質データを用いることとしてもよい。例えば、板厚(品質データ)の不良波形パターングループと板幅(品質データ)に関する条件との相関スコアを計算してもよい。
【0047】
上述した圧延材リスト(図4)を参照して、製品諸元およびプロセスデータ波形パターンに基づく条件について説明する。圧延材リストは、上述した圧延材1と品質データとの関係の他に、圧延材1と条件との関係を含む。図4の圧延材リストには3つの条件が例示されている。
【0048】
条件1は加熱炉に関する。条件1には、圧延ライン2の最上流に設けられた複数の加熱炉の番号と、その条件グループ番号が定められている。条件2は鋼種に関する。条件2には、圧延材1の鋼種番号と、そのグループ番号が定められている。鋼種番号と条件グループ番号は1対1で対応づけられてもよいし、複数の鋼種番号に同一の条件グループ番号が定められてもよい。条件3は荷重波形グループに関する。不良波形パターングループ特徴取得部19は、圧延材の長手方向の各位置におけるプロセスデータ(この例では圧延荷重の実績値)に基づいて荷重波形パターン(プロセスデータ波形パターン)を生成し、類似度に基づいてグループ分類を実行して、条件グループ番号を定める。圧延材と各条件グループとの対応関係は圧延材リストに登録される。
【0049】
このように、圧延材リストには、圧延材と品質グループ番号と条件グループ番号との対応関係が定められている。
【0050】
次に、品質グループと条件グループとの相関スコアの計算方法について説明する。品質iのグループmの圧延材本数をNq(m)とする。条件jのグループnの圧延材本数をNc(n)とする。また、品質iのグループmに属するが条件jのグループnには属さない圧延材本数をNq(m)/Nc(n)とする。条件jのグループnに属するが品質iのグルームmには属さない圧延材本数をNc(n)/Nq(m)とする。このとき、品質iのグループmと条件jのグループnの相関スコアSは、次式で計算される。なお、S<0ならばS=0とする。
【0051】
【数1】
【0052】
図6は、不良波形パターングループ特徴取得部19における処理を説明するためのフローチャートである。不良波形パターングループ特徴取得部19は、品質i(品質数I)のグループm(グループ数M)と、条件j(条件数J)のグループn(グループ数N)のすべての組み合わせについて、相関スコアSを算出する。
【0053】
ステップS100において、不良波形パターングループ特徴取得部19は、必要に応じてプロセスデータ波形のグループ分類から条件を求める。例えば、図4の条件3は荷重波形パターンに関する条件である。条件3は、各圧延材について圧延材の長手方向の各位置における圧延荷重(プロセスデータ)の実績値から荷重波形パターンを生成し、類似する荷重波形パターンに同一の条件グループ番号を付すことで作成される。
【0054】
ステップS105において、各圧延材について、不良波形パターングループ特徴取得部19は、各条件に対する出力値を圧延材リストに記録する。
【0055】
ステップS110~ステップS170は4重ループになっており、不良波形パターングループ特徴取得部19は、品質i(1≦i≦I)のグループm(1≦m≦M)と、条件j(1≦j≦J)のグループn(1≦n≦N)とのすべての組み合わせについて、相関スコアSを算出する(ステップS150)。
【0056】
図7および図8を参照して、式(1)を使用した具体的な相関スコアの計算例について説明する。
【0057】
図7に示す例において、条件1のグループ2(以下、条件1-2)の圧延材は、すべて品質1のグループ2(以下、品質1-2)の圧延材であるが、品質1-2の圧延材には条件1の他のグループの圧延材も含まれている。この場合の相関スコアSは次式のように計算される。
【0058】
【数2】


【0059】
図8に示す例は、品質2のグループ3(以下、品質2-3)の圧延材と、条件2のグループ3(以下、条件2-3)の圧延材がすべて同一である場合を示す。この場合の相関スコアSは100である。
【0060】
2-3.情報表示機能
分析設定入力部20は、分析対象とする製造時期の圧延材を範囲指定するために、使用者が分析期間を入力できるように構成されている。
【0061】
不良波形パターングループ特徴出力部21は、上述した不良波形パターングループ特徴取得部19により算出された相関スコアを使用して不良波形パターングループの特徴を表示する。
【0062】
図9は、不良波形パターングループの特徴出力の例を示す模式図である。相関スコアは、品質iのグループmと条件jのグループnとの相関度を表す。相関スコアが条件jに対して予め定めた条件閾値よりも大きい場合は、不良波形パターングループ(品質i-m)の特徴に、条件j-nの影響が大きいと判断できる。不良波形パターングループ特徴出力部21は、条件閾値よりも大きい相関スコアとその条件を説明する文字情報とを不良波形パターングループの特徴として表示する(図9)。
【0063】
図9の例1では、板厚の不良波形パターンのグループ1の特徴出力の例を表す。板厚不良パターンのグループ1に対して、相関スコアが条件閾値よりも大きい条件jの文字情報が円の中心に表示される。円の半径は相関スコアが大きいほど大きく設定される。
【0064】
図9の例2では、指定の製品IDの特徴出力の例を表す。当該製品が不良と判定された品質iに対し、品質iが不良であることが文字情報で円の中心に表示される。当該製品が含まれる品質iのグループm(品質i-m)に含まれる圧延材本数に比例して円の半径が決定され、円の中にグループmと文字情報が表示される。また、品質iの条件jに対する相関スコアがそれぞれ算出される。相関スコアがしきい値よりも大きい条件jのグループnの文字情報が円の中心に表示され、品質i-mの円と条件j-nの円が線で結ばれる。条件j-nの円の半径は、(相関スコア)×(品質i-mの圧延材本数)に比例して決定される。
【0065】
図10は、不良波形パターングループ特徴出力部21における処理を説明するためのフローチャートである。ステップS200~ステップS265は4重ループになっており、不良波形パターングループ特徴出力部21は、品質i(1≦i≦I)のグループm(1≦m≦M)と、条件j(1≦j≦J)のグループn(1≦n≦N)とのすべての組み合わせについて、品質iのグループmと条件jのグループnとの相関スコアSが閾値より大きい場合に、相関スコアSに対応する特徴を文字情報で表示する。
【0066】
不良波形パターングループ編集部22は、それぞれの品質iの登録グループmを決定する。不良波形パターングループ編集部22は、不良波形パターングループを削除可能な削除処理、新たな不良波形パターングループを追加可能な追加処理、不良波形パターングループを代表する代表波形パターンを修正可能な修正処理、を備える。
【0067】
使用者は、不良波形パターングループ特徴出力部21で表示された情報を確認することにより、使用者が持つ知識と一致しない場合は、そのグループを登録から外す。また、使用者の持つ知識における波形グループが存在しない場合は、不良波形パターングループ編集部22から波形を描くことにより、新しい波形グループを登録する。また、登録された波形グループの代表波形パターンが使用者の持つ知識と一致しない場合は、代表波形パターンを修正する。
【0068】
代表波形パターンを新しく登録、もしくは修正した場合は、不良波形パターングループ生成部18により、波形パターングループの再計算を行う。この再計算では、不良波形パターングループ編集部22で新しく登録、もしくは修正された代表波形パターンは固定される。固定された代表波形パターンについては、代表波形パターンに類似する波形パターンを検索する方法により、不良波形パターンをグループ分けする。代表波形パターンが固定されていない残った圧延材については、一般的に知られるクラスタリング手法等を利用して、不良波形パターンをグループ分けする。
【0069】
要因・対策入力部23では、要因・対策入力画面(図11)をモニタ8に表示する。使用者は、要因・対策入力画面から、それぞれの品質iの登録グループmに対して、不良波形パターングループ特徴出力部21による相関スコアに応じた情報(図11の「特徴」欄)を参考にしながら、要因・対策入力領域に案内情報を文字情報で入力できる。要因・対策入力領域に入力された案内情報と、代表波形パターンと、相関スコアに応じた情報とを関連付けた支援情報は、データベース30に格納される。
【0070】
図11は、要因・対策入力部23の画面表示の例である。要因・対策入力画面には、選択されたデータベースに保存される不良波形パターンの一覧が表示される。その一覧には、代表波形パターンと要因・対策、特徴が表示される。また、登録された要因・対策を画面上で編集することができ、登録ボタンを押すと、正式に登録される。
【0071】
分析期間外再計算指令部24では、分析設定入力部20で入力された分析期間以外の期間に製造された圧延材に対して再計算を指令する。
【0072】
不良波形パターングループ生成部18、不良波形パターングループ特徴取得部19は、再計算の指令に応じて、分析期間以外の期間に製造された圧延材に対しての再計算を実行する。この再計算では、不良波形パターングループ編集部22で登録された全ての代表波形パターンを固定し、それらの代表波形パターンに類似する波形を検索する方法で波形グループを決定し、残った圧延材に対しては、一般的に知られるクラスタリング手法等を利用して、波形グループを決定する。不良波形パターングループ特徴出力部21は、その結果を表示する。
【0073】
不良波形パターン登録データベース管理部25では、不良波形パターンに依る各圧延材に対しての計算結果や使用者が入力した要因・対策の登録情報が保存されるデータベース30の管理を行う。図3に示すように、不良波形パターン登録データベースを例えば3つ(31,32,33)準備しておき、自動処理9で使用する不良波形パターンをDB1もしくはDB2から選択する。DB1とDB2には、同一の不良波形パターンに対して異なる支援情報が登録されているものとする。DB3には、直近で分析した情報を保存しておき、正式に登録する場合は、DB1もしくはDB2に格納する。
【0074】
.効果
以上説明したように、本実施形態の製品品質分析支援システム4によれば、実績データから計算した不良波形パターングループ別の特徴情報が表示されるため(図11)、使用者は、波形パターングループを決定し、要因や対策を登録する作業を正確かつ短時間に完了できる。また、その後の不良発生時には、自動処理9により登録された波形パターングループと要因・対策情報が表示されて、要因特定と対策実行を支援できる(図5)。そのため、鉄鋼プラントの製品の品質分析作業全体の効率化を図ることができる。
【0075】
.ハードウェア構成例
図12は、製品品質分析支援システム4のハードウェア構成例を示すブロック図である。上述した製品品質分析支援システム4の各処理は、処理回路により実現される。処理回路は、少なくとも1つのプロセッサ91と、メモリ92と、ネットワークインタフェース93と、入力インタフェース94と、モニタとが接続して構成されている。
【0076】
プロセッサ91は、メモリ92に記憶された各種プログラムを実行することにより、製品品質分析支援システム4の各機能を実現する。メモリ92は、主記憶装置および補助記憶装置を含み、データ保存機能5、データベース30を含む。ネットワークインタフェース93は、コンピュータネットワークを介して外部装置に接続し、各種信号を送受信可能なデバイスである。入力インタフェース94は、キーボード、マウス、タッチパネル等の入力デバイスである。モニタは、上述した図5図11に例示される支援情報を表示する。
【0077】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。上述した実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数にこの発明が限定されるものではない。また、上述した実施の形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。
【符号の説明】
【0078】
1 圧延材
2 圧延ライン
3 制御システム
4 製品品質分析支援システム
5 データ保存機能
6 計算機能
7 情報表示機能
8 モニタ
9 自動処理
10 手動一括処理
11 不良判定部
12 不良波形パターン取得部
13 要因・対策出力部
18 不良波形パターングループ生成部
19 不良波形パターングループ特徴取得部
20 分析設定入力部
21 不良波形パターングループ特徴出力部
22 不良波形パターングループ編集部
23 要因・対策入力部
24 分析期間外再計算指令部
25 不良波形パターン登録データベース管理部
30 データベース
91 プロセッサ
92 メモリ
93 ネットワークインタフェース
94 入力インタフェー
100 使用者
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12