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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20240925BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20240925BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B23B27/14 A
B23C5/16
C23C16/42
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023568387
(86)(22)【出願日】2023-07-13
(86)【国際出願番号】 JP2023025929
【審査請求日】2024-07-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 史佳
(72)【発明者】
【氏名】パサート アノンサック
(72)【発明者】
【氏名】原田 晴子
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-171412(JP,A)
【文献】特開2013-124406(JP,A)
【文献】特開2013-223894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 1/00- 9/00
B23B 27/00-29/34
B23B 51/00-51/14
B23P 5/00-17/06
B23P 23/00-25/00
C23C 16/00-16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
前記被膜は、硬質粒子層を含み、
前記硬質粒子層は、チタン、珪素、炭素および窒素からなる複数の硬質粒子からなり、
前記硬質粒子層は、第1領域および第2領域を含み、
前記第1領域は、前記硬質粒子層の前記基材側の第1主面と、前記第1主面から前記硬質粒子層側への距離が0.5μmである仮想面S1と、に挟まれる領域であり、
前記第2領域は、前記硬質粒子層の前記第1主面と反対側の第2主面と、前記第2主面から前記硬質粒子層側への距離が0.5μmである仮想面S2と、に挟まれる領域であり、
前記第1領域の組成は、Ti(1-Xb)SiXbCNであり、
前記第2領域の組成は、Ti(1-Xs)SiXsCNであり、
前記XsおよびXbは、Xb-Xs≧0.01、および、0<Xs<Xb≦0.10の関係を満たし、
前記硬質粒子は、立方晶構造であり、
前記硬質粒子において、前記第1主面から前記第2主面に向かう第1方向に沿って、前記珪素の濃度が周期的に変化する、切削工具。
【請求項2】
前記硬質粒子層は柱状構造である、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記硬質粒子層の厚さT1に対する、前記硬質粒子の前記第1方向に沿う長さL1の割合L1/T1は、0.3以上である、請求項2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記硬質粒子における、前記第1方向に沿う前記珪素の濃度の周期幅は、3nm以上20nm以下である、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
【請求項5】
前記硬質粒子層の平均厚さは、2μm以上15μm以下である、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
【請求項6】
前記被膜は、前記基材と、前記硬質粒子層と、の間に設けられる下地層を含み、
前記下地層は、TiN層、TiC層、TiCN層、TiBN層、TiCNO層およびAl層からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
【請求項7】
前記被膜は、前記被膜の最表面に設けられる表面層を含み、
前記表面層は、TiN層またはAl層である、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、切削工具の耐摩耗性を向上させるために、基材上にTiSiCN膜が形成された切削工具が開発されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2022/230363号
【発明の概要】
【0004】
本開示の切削工具は、
基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
前記被膜は、硬質粒子層を含み、
前記硬質粒子層は、チタン、珪素、炭素および窒素からなる複数の硬質粒子からなり、
前記硬質粒子層は、第1領域および第2領域を含み、
前記第1領域は、前記硬質粒子層の前記基材側の第1主面と、前記第1主面から前記硬質粒子層側への距離が0.5μmである仮想面S1と、に挟まれる領域であり、
前記第2領域は、前記硬質粒子層の前記第1主面と反対側の第2主面と、前記第2主面から前記硬質粒子層側への距離が0.5μmである仮想面S2と、に挟まれる領域であり、
前記第1領域の組成は、Ti(1-Xb)SiXbCNであり、
前記第2領域の組成は、Ti(1-Xs)SiXsCNであり、
前記XsおよびXbは、Xb-Xs≧0.01、および、0<Xs<Xb≦0.10の関係を満たし、
前記硬質粒子は、立方晶構造であり、
前記硬質粒子において、前記第1主面から前記第2主面に向かう第1方向に沿って、前記珪素の濃度が周期的に変化する、切削工具である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、実施形態1に係る切削工具の断面の一例を示す模式図である。
図2図2は、実施形態1に係る切削工具の断面の他の一例を示す模式図である。
図3図3は、実施形態1に係る切削工具の断面の他の一例を示す模式図である。
図4図4は、実施形態1に係る切削工具の断面の他の一例を示す模式図である。
図5図5は、実施形態1に係る切削工具の断面の他の一例を示す模式図である。
図6図6は、実施形態2に係る切削工具の製造に用いられるCVD装置の一例の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1の切削工具は、硬度の高いTiSiCN膜を有するため、耐摩耗性に優れている。一方、特許文献1の切削工具を用いて、ダイス鋼のミリング加工を行う場合、被膜に亀裂が発生し、工具寿命に至る可能性がある。このため、特に、ダイス鋼のミリング加工においても、長い工具寿命を有することのできる切削工具が求められている。
【0007】
そこで、本開示は、特に、ダイス鋼のミリング加工に用いた場合においても、長い工具寿命を有することのできる切削工具を提供することを目的とする。
【0008】
[本開示の効果]
本開示によれば、特に、ダイス鋼のミリング加工に用いた場合においても、長い工具寿命を有することのできる切削工具を提供することが可能となる。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の切削工具は、
基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
前記被膜は、硬質粒子層を含み、
前記硬質粒子層は、チタン、珪素、炭素および窒素からなる複数の硬質粒子からなり、
前記硬質粒子層は、第1領域および第2領域を含み、
前記第1領域は、前記硬質粒子層の前記基材側の第1主面と、前記第1主面から前記硬質粒子層側への距離が0.5μmである仮想面S1と、に挟まれる領域であり、
前記第2領域は、前記硬質粒子層の前記第1主面と反対側の第2主面と、前記第2主面から前記硬質粒子層側への距離が0.5μmである仮想面S2と、に挟まれる領域であり、
前記第1領域の組成は、Ti(1-Xb)SiXbCNであり、
前記第2領域の組成は、Ti(1-Xs)SiXsCNであり、
前記XsおよびXbは、Xb-Xs≧0.01、および、0<Xs<Xb≦0.10の関係を満たし、
前記硬質粒子は、立方晶構造であり、
前記硬質粒子において、前記第1主面から前記第2主面に向かう第1方向に沿って、前記珪素の濃度が周期的に変化する、切削工具である。
【0010】
本開示によれば、特に、ダイス鋼のミリング加工に用いた場合においても、長い工具寿命を有することのできる切削工具を提供することが可能となる。
【0011】
(2)上記(1)において、前記硬質粒子層は柱状構造であってもよい。これによると、硬質粒子層は、せん断方向の応力に対して強く、耐摩耗性が向上する。さらに、硬質粒子層は膜厚に垂直な方向への粒界が少ないため、破壊の起点が少なくなり、耐欠損性も向上する。
【0012】
(3)上記(1)または(2)において、前記硬質粒子層の厚さT1に対する、前記硬質粒子の前記第1方向に沿う長さL1の割合L1/T1は、0.3以上であってもよい。これによると、硬質粒子層は、せん断方向の応力に対して強く、耐摩耗性が向上する。さらに、硬質粒子層は膜厚に垂直な方向への粒界が少ないため、破壊の起点が少なくなり、耐欠損性も向上する。
【0013】
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、前記硬質粒子における、前記第1方向に沿う前記珪素の濃度の周期幅は、3nm以上20nm以下であってもよい。これによると、硬質粒子内の歪みが維持され、被膜において亀裂の進展がさらに抑制され、切削工具の耐欠損性がさらに向上する。
【0014】
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、前記硬質粒子層の平均厚さは、2μm以上15μm以下であってもよい。これによると、工具寿命が更に向上する。
【0015】
(6)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、
前記被膜は、前記基材と、前記硬質粒子層と、の間に設けられる下地層を含み、
前記下地層は、TiN層、TiC層、TiCN層、TiBN層およびAl層からなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。
【0016】
下地層としてTiN層、TiC層、TiCN層またはTiBN層を配置することにより、基材と被膜との密着性を高めることができる。また、下地層としてAl層を用いることにより、被膜の耐酸化性を高めることができる。
【0017】
(7)上記(1)から(6)のいずれかにおいて、
前記被膜は、前記被膜の最表面に設けられる表面層を含み、
前記表面層は、TiN層またはAl層であってもよい。
【0018】
これによると、被膜の耐熱亀裂性および耐摩耗性が向上する。
【0019】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0020】
本開示において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。
【0021】
本開示において、数値範囲の下限および上限として、それぞれ1つ以上の数値が記載されている場合は、下限に記載されている任意の1つの数値と、上限に記載されている任意の1つの数値との組み合わせも開示されているものとする。例えば、下限として、a1以上、b1以上、c1以上が記載され、上限としてa2以下、b2以下、c2以下が記載されている場合は、a1以上a2以下、a1以上b2以下、a1以上c2以下、b1以上a2以下、b1以上b2以下、b1以上c2以下、c1以上a2以下、c1以上b2以下、c1以上c2以下が開示されているものとする。
【0022】
本発明者らは、ダイス鋼のミリング加工を行う場合においても、長い工具寿命を有することのできる切削工具の開発にあたり、従来の切削工具でダイス鋼のミリング加工を行い、被膜の破壊形態を観察した。
【0023】
特許文献1の切削工具を用いてダイス鋼のミリング加工を行った場合、工具表面で膜の亀裂が発生し、これにより膜の破壊が進行することが確認された。ダイス鋼のミリング加工は、逃げ面の摩耗とすくい面の熱亀裂が顕著な加工である。熱亀裂は工具表面側から被削材との接触による発熱と空転時の冷却が繰り替えされることで発生する。特に工具表面側の靭性が低い場合には亀裂の発生が顕著になる。特許文献1の切削工具のTiSiCN膜は高硬度であるため耐摩耗性に優れるが、ダイス鋼のミリング加工に対しては、被膜の靭性が不十分である。このため、特許文献1では、工具表面で膜の亀裂が発生すると推察される。
【0024】
本発明者らは、上記の知見に基づき鋭意検討の結果、ダイス鋼のミリング加工に用いた場合においても、長い工具寿命を有することのできる切削工具を得た。本開示の切削工具の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
【0025】
[実施形態1:切削工具]
本開示の一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す。)の切削工具について、図1図5を用いて説明する。本実施形態の切削工具1は、
基材10と、基材10上に配置された被膜15と、を備える切削工具であって、
被膜15は、硬質粒子層11を含み、
硬質粒子層11は、チタン、珪素、炭素および窒素からなる複数の硬質粒子からなり、
硬質粒子層11は、第1領域A1および第2領域A2を含み、
第1領域A1は、硬質粒子層11の基材10側の第1主面Q1と、第1主面Q1から硬質粒子層11側への距離が0.5μmである仮想面S1と、に挟まれる領域であり、
第2領域A2は、硬質粒子層11の第1主面Q1と反対側の第2主面Q2と、第2主面Q2から硬質粒子層11側への距離が0.5μmである仮想面S2と、に挟まれる領域であり、
第1領域A1の組成は、Ti(1-Xb)SiXbCNであり、
第2領域A2の組成は、Ti(1-Xs)SiXsCNであり、
XsおよびXbは、Xb-Xs≧0.01、および、0<Xs<Xb≦0.10の関係を満たし、
硬質粒子は、立方晶構造であり、
硬質粒子において、第1主面から第2主面に向かう第1方向に沿って、珪素の濃度が周期的に変化する、切削工具1である。
【0026】
本実施形態の切削工具は、特に、ダイス鋼のミリング加工に用いた場合においても、長い工具寿命を有することができる。この理由は明らかではないが、以下(i)~(iii)の通りと推察される。
【0027】
(i)本実施形態の切削工具において、被膜は、チタン、珪素、炭素および窒素からなる複数の硬質粒子からなる硬質粒子層を備える。硬質粒子層は、高い硬度を有する。よって、硬質粒子層を有する切削工具は、耐摩耗性に優れる。よって、切削工具は長い工具寿命を有することができる。
【0028】
(ii)本実施形態の切削工具において、硬質粒子層は、基材側の第1領域と表面側の第2領域とを含み、第2領域の珪素含有率は、第1領域の珪素含有率よりも小さく、第2領域は、第1領域よりも靭性が優れている。このため、硬質粒子層を有する切削工具は、ダイス鋼のミリング加工に用いた場合においても、硬質粒子層の表面側での亀裂の発生が抑制される。よって、切削工具は長い工具寿命を有することができる。
【0029】
(iii)本実施形態の切削工具の硬質粒子において、硬質粒子層の第1主面から第2主面に向かう第1方向に沿って、珪素の濃度が周期的に変化する。これによると、硬質粒子内に歪みが生じ、被膜の表面に切削に伴う亀裂が発生したとしても、その亀裂の基材への進展が効果的に抑制される。また、硬質粒子および硬質粒子層の硬度が高くなり、切削工具の耐摩耗性が向上する。よって、切削工具は長い工具寿命を有することができる。
【0030】
<切削工具>
図1に示されるように、本実施形態の切削工具1は、基材10と、該基材10上に配置された被膜15とを備える。図1では、該被膜15が硬質粒子層11のみから構成される場合を示している。被膜15は、基材の切削に関与する部分の少なくとも一部を被覆することが好ましく、基材の全面を被覆することが更に好ましい。基材の切削に関与する部分とは、基材表面において、刃先稜線からの距離が500μm以内の領域を意味する。基材の一部がこの被膜で被覆されていなかったり被膜の構成が部分的に異なっていたりしていたとしても、本開示の範囲を逸脱するものではない。
【0031】
<切削工具の種類>
本開示の切削工具は、例えば、ドリル、エンドミル(例えば、ボールエンドミル)、ドリル用刃先交換型切削インサート、エンドミル用刃先交換型切削インサート、フライス加工用刃先交換型切削インサート、旋削加工用刃先交換型切削インサート、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ等であり得る。
【0032】
<基材>
基材10は、すくい面と逃げ面とを含み、この種の基材として従来公知のものであればいずれも使用することができる。例えば、超硬合金(例えば、炭化タングステンとコバルトとを含むWC基超硬合金、該超硬合金はTi、Ta、Nbなどの炭窒化物を含むことができる)、サーメット(TiC、TiN、TiCNなどを主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなど)、立方晶型窒化ホウ素焼結体またはダイヤモンド焼結体のいずれかであることが好ましい。
【0033】
基材は、炭化タングステンとコバルトとを含む超硬合金からなり、該超硬合金中のコバルトの含有率は、5質量%以上11質量%以下であってもよい。これによると、高温における硬度と強度のバランスに優れ、上記用途の切削工具の基材として優れた特性を有している。基材としてWC基超硬合金を用いる場合、その組織中に遊離炭素、ならびにη相またはε相と呼ばれる異常層などを含んでいてもよい。
【0034】
さらに基材は、その表面が改質されていてもよい。例えば超硬合金の場合、その表面に脱β層が形成されていたり、サーメットの場合に表面硬化層が形成されていたりしてもよい。基材は、その表面が改質されていても所望の効果が示される。
【0035】
切削工具が刃先交換型切削インサートなどである場合、基材は、チップブレーカーを有しても、有さなくてもよい。刃先稜線部の形状は、シャープエッジ(すくい面と逃げ面とが交差する稜)、ホーニング(シャープエッジに対してアールを付与したもの)、ネガランド(面取りをしたもの)、又は、ホーニングとネガランドを組み合わせたもの等、いずれも採用できる。
【0036】
<被膜>
≪被膜の構成≫
本実施形態の被膜は、硬質粒子層を含む。本実施形態の被膜は、硬質粒子層を含む限り、他の層を含んでいてもよい。
【0037】
例えば、図2の切削工具1に示されるように、被膜15は、硬質粒子層11に加えて、基材10と硬質粒子層11との間に配置される下地層12を含むことができる。
【0038】
図3の切削工具1に示されるように、被膜15は、硬質粒子層11および下地層12に加えて、硬質粒子層11上に配置される表面層13を含むことができる。
【0039】
図4の切削工具1に示されるように、被膜15は、硬質粒子層11、下地層12、表面層13に加えて、下地層12と硬質粒子層11との間に配置される中間層14を含むことができる。
【0040】
硬質粒子層、下地層、中間層および表面層の詳細については後述する。
【0041】
≪被膜の厚さ≫
本実施形態の被膜の厚さは、2μm以上30μm以下でもよい。ここで、被膜の厚さとは、被膜全体の厚さを意味する。被膜全体の厚さが3μm以上であると、優れた耐摩耗性を有することができる。一方、被膜全体の厚さが30μm以下であると、切削加工時に、被膜と基材との間に大きな応力が加わった際の被膜の剥離または破壊の発生を抑制することができる。被膜全体の厚さの下限は、耐摩耗性向上の観点から、2μm以上でもよく、5μm以上でもよく、8μm以上でもよく、または、10μm以上でもよい。被膜全体の厚さの上限は、被膜の剥離または破壊の発生を抑制する観点から、30μm以下でもよく、25μm以下でもよく、20μm以下でもよい。被膜全体の厚さは、5μm以上25μm以下でもよく、8μm以上20μm以下でもよい。
【0042】
本開示において、被膜の厚さは、以下の手順で測定される。切削工具を表面の法線方向に平行な断面で切り出し、被膜の断面が露出した測定用試料を得る。測定用試料を走査透過型電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscopy)で観察することにより、被膜の厚さを測定する。測定用試料は、イオンスライサーなどを用いて加工された薄片サンプルである。走査透過型電子顕微鏡としては、例えば、日本電子株式会社製のJEM-2100F(商標)が挙げられる。測定条件は加速電圧200kVおよび電流量0.3nAとする。
【0043】
本開示において「厚さ」といった場合、その厚さは平均厚さを意味する。具体的には、測定用試料の観察倍率を10000倍とし、電子顕微鏡像中に「切削工具の表面に平行な長さが100μm」×「被膜の厚さ全体を含む長さ」の矩形の測定視野を設定し、該視野において10箇所の厚み幅を測定し、その平均値を「厚さ」とする。下記に記載される各層の厚さ(平均厚さ)についても、同様に測定し、算出される。
【0044】
同一の試料において測定する限りにおいては、測定視野の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどなく、任意に測定視野を設定しても恣意的にはならないことが確認されている。
【0045】
<硬質粒子層>
≪硬質粒子層の組成≫
本実施形態の硬質粒子層は、チタン、珪素、炭素および窒素からなる複数の硬質粒子からなる。硬質粒子層は、TiSiCNからなる硬質粒子からなるTiSiCN層とも表現することができる。TiSiCN層は、高い硬度を有する。よって、TiSiCN層を有する切削工具は、耐摩耗性に優れる。本開示の効果を損なわない限り、硬質粒子層は、チタン、珪素、炭素および窒素とともに、不純物元素を含むことができる。不純物元素としては、塩素、コバルト、タングステン、酸素が挙げられる。硬質粒子層における不純物元素の含有率は、例えば、0.5原子%以下とすることができる。硬質粒子層における不純物元素の含有率は、TEM(透過型電子顕微鏡:Transmission Electron Microscope)付帯のEDX(エネルギー分散型X線分光法:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)(TEM-EDX)により測定される。
【0046】
図5に示されるように、硬質粒子層11は、第1領域A1および第2領域A2を含む。第1領域A1は、硬質粒子層11の基材10側の第1主面Q1と、第1主面Q1から硬質粒子層11側への距離が0.5μmである仮想面S1と、に挟まれる領域である。第2領域A2は、硬質粒子層11の第1主面Q1と反対側の第2主面Q2と、第2主面Q2から硬質粒子層側への距離が0.5μmである仮想面S2と、に挟まれる領域である。
【0047】
第1領域の組成は、Ti(1-Xb)SiXbCNであり、第2領域の組成は、Ti(1-Xs)SiXsCNである。ここで、XsおよびXbは、Xb-Xs≧0.01、および、0<Xs<Xb≦0.10の関係を満たす。
【0048】
Xb-Xsの下限は、0.01以上であり、0.02以上でもよく、0.03以上でもよく、または、0.04以上でもよい。Xb-Xsの上限は、0.09以下でもよく、0.08以下でもよく、または、0.07以下でもよい。Xb-Xsは、0.01以上0.09以下でもよく、0.02以上0.08以下でもよく、0.03以上0.07以下でもよく、または、0.04以上0.07以下でもよい。
【0049】
Xsの下限は、0.01以上でもよく、0.02以上でもよく、または、0.03以上でもよい。Xsの上限は、0.09以下でもよく、0.08以下でもよく、または、0.07以下でもよい。Xsは、0.01以上0.09以下でもよく、0.02以上0.08以下でもよく、または、0.03以上0.07以下でもよい。
【0050】
Xbの下限は、0.02以上でもよく、0.03以上でもよく、または、0.04以上でもよい。Xbの上限は、0.10以下でもよく、0.09以下でもよく、または、0.08以下でもよい。Xbは、0.02以上0.10以下でもよく、0.03以上0.09以下でもよく、または、0.04以上0.08以下でもよい。
【0051】
本開示において、第1領域の組成Ti(1-Xb)SiXbCN、および、第2領域の組成Ti(1-Xs)SiXsCNは、以下の手順で測定される。
【0052】
(A1)切削工具の表面の法線に沿って、切削工具をダイヤモンドワイヤーで切り出し、硬質粒子層の断面を露出させる。露出された断面に対して収束イオンビーム加工(以下、「FIB加工」とも記す。)を行い、断面を鏡面状態とする。
【0053】
(A2)FIB加工された断面において、被膜の厚さ方向に沿って、SEM(走査型電子顕微鏡:Scanning Electron Microscopy)付帯のEDX(SEM-EDX)によりライン分析を行い、組成を測定する。ライン分析のビーム径は0.9nm以下とし、スキャン間隔は50nmとし、加速電圧は15kVとする。ライン分析の結果、不純物元素である塩素、タングステン、コバルト、酸素を除いて、チタン、珪素、炭素および窒素から構成される領域Aを特定する。上記断面において、領域Aの特定を、互いに重複せず、かつ、互いに1μm以上離れた3箇所で行う。上記断面において、3箇所の領域Aのそれぞれの最も基材に近い位置をつなぐ線が、硬質粒子層の基材側の第1主面Q1に該当する。上記断面において、3箇所の領域Aのそれぞれの最も基材から離れた位置をつなぐ線が、硬質粒子層の第1主面Q1と反対側の第2主面Q2に該当する。上記断面において、第1主面Q1と第2主面Q2とに挟まれた領域が、硬質粒子層11に該当する。
【0054】
(A3)FIB加工された断面において、硬質粒子層内で第1領域および第2領域を特定する。第1領域A1は、硬質粒子層11の基材10側の第1主面Q1と、第1主面Q1から硬質粒子層11側への距離が0.5μmである仮想面S1と、に挟まれる領域である。第2領域A2は、硬質粒子層11の第1主面Q1と反対側の第2主面Q2と、第2主面Q2から硬質粒子11層側への距離が0.5μmである仮想面S2と、に挟まれる領域である。
【0055】
(A4)第1領域A1において、SEM-EDXにより矩形分析を行い、第1領域A1の組成を特定する。矩形分析は、第1領域A1内に設定された、互いに重複しない3箇所の0.5μm×2μmの矩形の測定領域に対して行われる。本開示において、3箇所の測定領域の組成の平均が、第1領域A1の組成Ti(1-Xb)SiXbCNに該当する。上記の手順により、Xbを得ることができる。
【0056】
第2領域A2内において、SEM-EDXにより矩形分析を行い、第2領域A2の組成を特定する。矩形分析は、第2領域A2内に設定された、互いに重複しない3箇所の0.5μm×2μmの矩形の測定領域に対して行われる。本開示において、3箇所の測定領域の組成の平均が、第2領域の組成Ti(1-Xs)SiXsCNに該当する。上記の手順により、Xsを得ることができる。
【0057】
同一の試料において測定する限りにおいては、切削工具の切り出し位置や、測定領域を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認されている。
【0058】
本実施形態の硬質粒子層は、第1領域と第2領域とに挟まれる第3領域を含んでもよい。本開示の効果を損なわない限り、第3領域の組成は特に制限されない。第3領域の組成は、硬質粒子層の組織の連続性を維持できる組成とすることができる。第3領域の組成Ti(1-Xm)SiXmCNにおいて、Xs×0.9<Xm<Xb×1.1であれば、本開示の効果が損なわれないことが確認されている。第3領域の組成は、上記の第1領域の組成の測定方法と同様の方法で測定される。
【0059】
≪硬質粒子の結晶構造≫
本実施形態において、硬質粒子は、立方晶構造である。硬質粒子が立方晶構造を有すると、優れた耐摩耗性と、高い靭性とを両立できる。硬質粒子が立方晶構造を有することは、制限視野による電子線回折のパターン解析により確認することができる。
【0060】
≪硬質粒子における珪素濃度変化≫
本実施形態の硬質粒子において、硬質粒子層の第1主面から第2主面に向かう第1方向に沿って、珪素の濃度が周期的に変化する。硬質粒子において、硬質粒子層の第1主面から第2主面に向かう第1方向に沿って、珪素の濃度が周期的に変化することは、以下の手順で確認される。
【0061】
(B1)切削工具の表面の法線に沿って、切削工具をダイヤモンドワイヤーで切り出し、硬質粒子層の断面を露出させる。露出された断面に対して収束イオンビーム加工(以下、「FIB加工」とも記す。)を行い、断面を鏡面状態とする。
【0062】
(B2)FIB加工された断面を、明視野走査電子顕微鏡(BF-SEM)を用いて観察し、1つの硬質粒子を特定する。次に、特定された1つの硬質粒子のBE-STEM像を得る。
【0063】
(B3)上記BF-STEM像の中で、白色で示される層と、黒色で示される層がそれぞれ10層以上積層している領域を含むように測定領域(サイズ:100nm×100nm)を設定する。黒色で示される層は、珪素の含有量の多い領域であり、白色で示される層は珪素の含有量の少ない領域である。
【0064】
(B4)上記BF-STEM像中の測定領域内で、白色で示される層(以下、「白色層」とも記す。)と、黒色で示される層(以下、「黒色層」とも記す。)との積層方向を特定する。具体的には、制限視野領域の電子線回折パターンと、白色層と黒色層の積層方位を重ね合わせ、回折スポットが示す方位より積層方位特定する。
【0065】
(B5)上記BF-STEM像中の測定領域において、積層方向に沿ってSTEM付帯のEDX(エネルギー分散型X線分光法:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)によりライン分析を行い、組成を測定する。ライン分析のビーム径は0.5nm以下とし、スキャン間隔は0.5nmとし、ライン分析の長さは50nmとする。
【0066】
(B6)ライン分析の結果を、X軸が測定開始点からの距離、Y軸がチタンの原子数ATiと、珪素の原子数ASiとの合計に対する、珪素の原子数ASiの百分率{ASi/(ATi+ASi)}×100である座標系に示したグラフを作成する。該グラフにおいて、測定領域における{ASi/(ATi+ASi)}×100の平均(以下、「平均」とも記す。)を算出する。測定開始点からの距離の増加に伴い、該平均値よりも、{ASi/(ATi+ASi)}が大きい領域と小さい領域とが、交互に存在する場合、硬質粒子において、硬質粒子層の第1主面から第2主面に向かう第1方向に沿って、珪素の濃度が周期的に変化することが確認される。
【0067】
同一の試料において測定する限りにおいては、上記(B2)で特定される硬質粒子を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認されている。
【0068】
≪硬質粒子における珪素の濃度の周期幅≫
本実施形態の硬質粒子において、硬質粒子層の第1主面から第2主面に向かう第1方向に沿う珪素の濃度の周期幅は、3nm以上20nm以下でもよい。これによると、硬質粒子内の歪みが維持され、被膜において亀裂の進展がさらに抑制され、切削工具の耐欠損性がさらに向上する。珪素の濃度の周期幅は、3nm以上15nm以下でもよく、または、5nm以上10nm以下でもよい。
【0069】
本開示において、珪素の濃度の周期幅の測定方法は以下の通りである。上記(B1)~(B3)と同様の方法で測定領域を設定する。測定領域に対してフーリエ変換を行い、フーリエ変換像を得る。フーリエ変換像において、測定領域内の周期性はスポットとして現れる。周期幅は、スポットと、フーリエ変換像において最大強度を示す画像中央との間の距離の逆数を計算することにより算出される。
【0070】
同一の試料において測定する限りにおいては、測定箇所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認されている。
【0071】
≪硬質粒子層の組織≫
本実施形態の硬質粒子層は柱状構造であってもよい。これによると、硬質粒子層は、せん断方向の応力に対して強く、耐摩耗性が向上する。さらに、硬質粒子層は膜厚に垂直な方向への粒界が少ないため、破壊の起点が少なくなり、耐欠損性も向上する。
【0072】
本開示において、硬質粒子層が柱状構造であるとは、硬質粒子層を構成する全硬質粒子の数Nに対する、アスペクト比が3以上である第1硬質粒子の数N1の百分率(N1/N)×100が50%以上であることを意味する。硬質粒子層が柱状構造であることは、具体的には以下の手順で確認される。
【0073】
(C1)切削工具の表面の法線に沿って、切削工具をダイヤモンドワイヤーで切り出し、硬質粒子層の断面を露出させる。露出された断面に対して収束イオンビーム加工(以下、「FIB加工」とも記す。)を行い、断面を鏡面状態とする。
【0074】
(C2)FIB加工された断面に対して、電子線後方散乱回折装置(EBSD装置)を備えた電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)(製品名:「SUPRA35VP」、Carl Zeiss社製)を用いて、以下の測定条件でEBSD解析を行う。EBSD解析を行う領域(以下、解析領域とも記す。)は、硬質粒子層内に設けられる、互いに重複しない3箇所の矩形の領域とする。解析領域の大きさは、基材に平行な方向の長さが20μm以上の矩形とする。解析領域の被膜の厚み方向の長さは、硬質粒子層の厚みにより、適宜設定することができる。解析領域の被膜の厚み方向の長さは、例えば、硬質粒子層の厚みの90%以上となるように設定する。
(測定条件)
加速電圧 :15kV
電流値 :1.8nA
照射電流 :60μm(HC有り)
Exp :Long 0.03s
Binning :8×8
WD :15mm
Tilt :70°
Step size:0.02μm
BKD :Background Subtraction、
Dynamic Background Subtraction、
Normalize Intensity histogram
撮影倍率 :20000倍
粒界定義 :15°以上
【0075】
(C3)EBSD解析により収集されたデータについて、CI Dilation法(single Interation)とGrain CI Standardizationとで、CI>0.1を満たすデータのみを認識することにより、クリーンアップ処理を実行する。CI値は、Voting法により算出する。具体的には、CI=(V1-V2)/Videal(V1、2:1、2番目の解、Videal:理想解)により求められる。
【0076】
(C4)上記EBSD解析結果を、市販のソフトウェア(商品名:「OIM7.1」、株式会社TSLソリューションズ製)を用いて分析し、上記解析領域のIPFマップ(Inverse Pole igre map:逆極点図方位マップ)を作成する。該IPFマップの作成においては、隣接する測定点の方位差角が15°以上の場合を結晶粒界と定義する。該IPFマップには、各結晶粒の形状が示され、及び各結晶粒の配向が色分けして示される。
【0077】
(C5)上記ソフトウェア(「OIM7.1」)を用いて、各解析領域のIPFマップ内の全ての硬質粒子のそれぞれについて、アスペクト比を測定する。硬質粒子のアスペクト比とは、硬質粒子の長径aと短径bとの比b/aである。本開示において、長径aは、上記断面で観察される硬質粒子の最大差し渡し径であり、短径bは、長径aに直交する方向に沿う硬質粒子の最大径である。本開示において、解析領域のIPFマップ内の硬質粒子とは、硬質粒子の全てが解析領域のIPFマップ内に存在する硬質粒子、および、硬質粒子の少なくとも一部が解析領域のIPFマップ内に存在する硬質粒子の両方を含む。
【0078】
(C6)各解析領域のIPFマップ内の全硬質粒子の数nに対する、アスペクト比が3以上である第1硬質粒子の数n1の百分率(n1/n)×100を算出する。本開示において、3箇所の解析領域のIPFマップにおける百分率(n1/n)×100の平均が、硬質粒子層を構成する全硬質粒子の数Nに対する、アスペクト比が3以上である第1硬質粒子の数N1の百分率(N1/N)×100に該当する。百分率(N1/N)×100が50%以上の場合、硬質粒子層は柱状構造であることが確認される。
【0079】
同一の試料において測定する限りにおいては、切削工具の切り出し位置や、測定領域を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認されている。
【0080】
本実施形態の硬質粒子層において、百分率(N1/N)×100の下限は、60%以上でもよく、70%以上でもよく、80%以上でもよく、または、90%以上でもよい。百分率(N1/N)×100の上限は、例えば、100%以下でもよい。百分率(N1/N)×100は、60%以上100%以下でもよく、70%以上100%以下でもよく、80%以上100%以下でもよく、または、90%以上100%以下でもよい。
【0081】
本実施形態において、硬質粒子層の厚さTに対する、硬質粒子の第1方向に沿う長さLの割合L/Tは、0.3以上であってもよい。これによると、硬質粒子層は、せん断方向の応力に対して強く、耐摩耗性が向上する。さらに、硬質粒子層は膜厚に垂直な方向への粒界が少ないため、破壊の起点が少なくなり、耐欠損性も向上する。
【0082】
本実施形態において、割合L/Tの下限は、耐摩耗性および耐欠損性向上の観点から、0.4以上でもよく、0.5以上でもよく、または、0.6以上でもよい。割合L/Tの上限は、1.0以下でもよく、または、0.9以下でもよい。割合L/Tは、0.3以上1.0以下でもよく、0.4以上1.0以下でもよく、0.5以上0.9以下でもよく、または、0.6以上0.9以下でもよい。
【0083】
本開示において、硬質粒子層の厚さT、および、硬質粒子の第1方向に沿う長さLは以下の手順で測定される。
(D1)上記の硬質粒子層が柱状構造であることの確認方法の手順(C1)~(C4)と同様の手順で、解析領域のIPFマップを作成する。本手順では、(C1)における解析領域は、互いに重複しない3箇所の「切削工具の表面に平行な長さが100μm」×「被膜の厚さ全体を含む長さ」の矩形の領域とする。
【0084】
(D2)ソフトウェア(「OIM7.1」)を用いて、各解析領域のIPFマップにおいて、硬質粒子層の第1主面から第2主面に向かう第1方向に沿って、10箇所の厚み幅を測定し、その平均値tを算出する。ここで、第1方向は、硬質粒子層の第1主面に垂直である。本開示において、3箇所の解析領域の平均値tの平均が、硬質粒子層の厚さTに該当する。
【0085】
(D3)ソフトウェア(「OIM7.1」)を用いて、各解析領域のIPFマップ内の全ての硬質粒子のそれぞれについて、第1方向に沿う長さを測定し、その平均値L1を算出する。本開示において、解析領域のIPFマップ内の硬質粒子とは、硬質粒子の全てが解析領域のIPFマップ内に存在する硬質粒子、および、硬質粒子の少なくとも一部がIPFマップ内に存在する硬質粒子の両方を含む。本開示において、3箇所の解析領域の平均値L1の平均が、硬質粒子の第1方向に沿う長さLに該当する。
【0086】
同一の試料において測定する限りにおいては、切削工具の切り出し位置や、測定領域を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認されている。
【0087】
≪硬質粒子層の厚さ≫
本実施形態の硬質粒子層の厚さは、2μm以上15μm以下でもよい。硬質粒子層の厚さが2μm以上であると、優れた耐摩耗性を有することができる。一方、硬質粒子層の厚さが15μm以下であると、切削加工時に、被膜と基材との間に大きな応力が加わった際の被膜の剥離または破壊の発生を抑制することができる。硬質粒子層の厚さの下限は、耐摩耗性向上の観点から、4μm以上でもよく、6μm以上でもよく、8μm以上でもよい。硬質粒子層の厚さの上限は、被膜の剥離または破壊の発生を抑制する観点から、15μm以下でもよく、10μm以下でもよい。硬質粒子層の厚さは、4μm以上15μm以下でもよく、6μm以上10μm以下でもよい。
【0088】
<下地層>
実施形態1の被膜は、基材と、硬質粒子層と、の間に設けられる下地層を含むことができる。下地層は、TiN層、TiC層、TiCN層、TiBN層、TiCNO層およびAl層からなる群より選択される少なくとも1種を含むことができる。
【0089】
下地層として、基材の直上にTiN層、TiC層、TiCN層またはTiBN層を配置することにより、基材と被膜との密着性を高めることができる。下地層としてAl層を用いることにより、被膜の耐酸化性を高めることができる。下地層は、平均厚さが0.1μm以上20μm以下であってもよい。これによると、被膜は優れた耐摩耗性および耐欠損性を有することができる。
【0090】
<表面層>
実施形態1の被膜は、被膜の最表面に設けられる表面層を含むことができる。表面層は、TiN層またはAl層であってもよい。TiN層は色彩が明瞭(金色を呈する)であるため、表面層として用いると、切削使用後の切削チップのコーナー識別(使用済み部位の識別)が容易であるという利点がある。表面層としてAl層を用いることにより、被膜の耐酸化性を高めることができる。
【0091】
表面層の平均厚さは、0.5μm以上10μm以下であってもよい。これによると、表面層と、隣接する層との密着性が向上する。
【0092】
<中間層>
実施形態1の被膜は、下地層と硬質粒子層との間に配置される中間層を含むことができる。下地層がTiN層の場合、中間層はTiCN層であることが好ましい。TiCN層は耐摩耗性に優れるため、被膜により好適な耐摩耗性を付与することができる。中間層の平均厚さは、1μm以上20μm以下であってもよい。
【0093】
[実施形態2:切削工具の製造方法]
実施形態1に係る切削工具の製造方法の一例について説明する。実施形態1に係る切削工具の製造方法は、基材を準備する第1工程と、基材上に被膜を形成して切削工具を得る第2工程と、を備えることができる。
【0094】
<第1工程>
第1工程において、基材を準備する。基材の詳細は、実施形態1に記載されているため、その説明は繰り返さない。
【0095】
<第2工程>
次に、第2工程において、基材上に被膜を形成して切削工具を得る。被膜の形成は、例えば図6に示されるCVD装置を用いて行う。CVD装置50内には、基材10を保持した基材セット治具52を複数設置することができ、これらは耐熱合金鋼製の反応容器53でカバーされる。また、反応容器53の周囲には調温装置54が配置されており、この調温装置54により、反応容器53内の温度を制御することができる。
【0096】
CVD装置50には、3つの導入口55、57(他の一つの導入口は図示せず)を有するノズル56が配置されている。ノズル56は、基材セット治具52が配置される領域を貫通するように配置されている。ノズル56の基材セット治具52近傍の部分には複数の噴射孔(第1噴射孔61,第2噴射孔62、第3噴射孔(図示せず))が形成されている。
【0097】
図6において、導入口55、57、および、他の一つの導入口(図示せず)からノズル56内に導入された各ガスは、ノズル56内においても混合されることなく、それぞれ異なる噴射孔を経て、反応容器53内に導入される。このノズル56は、その軸を中心軸として回転することができる。また、CVD装置50には排気管59が配置されており、排気ガスは排気管59の排気口60から外部へ排出することができる。なお、反応容器53内の治具類等は、通常黒鉛により構成される。
【0098】
被膜が下地層、中間層および表面層の少なくとも1つを含む場合は、これらの層は従来公知の方法で形成することができる。
【0099】
原料ガスとして、TiCl、SiCl、および、CHCNを用いる。TiClは、ノズルに設けられた複数の第1噴射孔から噴出され、SiClは、ノズルに設けられた複数の第2噴射孔から噴出され、CHCNは、ノズルに設けられた複数の第3噴射孔から噴出される。具体的には、TiClは、ノズルの導入口55からノズル56内に導入され、複数の第1噴射孔61から噴出される。SiClは、ノズルの導入口57からノズル56内に導入され、複数の第2噴射孔62から噴出される。CHCNは、ノズルの導入口(図示せず)からノズル56内に導入され、複数の第3噴射孔(図示せず)から噴出される。キャリアガスとして、Hガス、Nガス、Arガスなどを用いることができる。本開示において、原料ガスとキャリアガスとを含むガスを、反応ガスと記す。
【0100】
硬質粒子層の形成時に、以下の(i)および(ii)の条件を採用する。
(i)反応ガス全体の体積流量Vに対する、CHCNの体積流量V1の百分率(V1/V)×100を変化させる。例えば、硬質粒子層の形成開始から形成終了までの間に、百分率(V1/V)×100を漸減させる。
【0101】
(ii)TiClおよびSiClの合計流量VTi+Siに対するSiClの流量VSiの百分率(VSi/VTi+Si)×100を変化させる。例えば、硬質粒子層の形成開始から形成終了までの間に、百分率(VSi/VTi+Si)×100を減少させる。
【0102】
上記(i)および(ii)の条件を採用することにより、硬質粒子層の第1領域と第2領域の組成を変化させることができる。第1領域の組成Ti(1-Xb)SiXbCNおよび第2領域の組成Ti(1-Xs)SiXsCNにおいて、XsおよびXbがXb-Xs≧0.01、および、0<Xs<Xb≦0.10の関係を満たすように調整することができる。
【0103】
硬質粒子層の形成時に、基材温度を減少させることも、第1領域の組成Ti(1-Xb)SiXbCNおよび第2領域の組成Ti(1-Xs)SiXsCNにおいて、XsおよびXbがXb-Xs≧0.01、および、0<Xs<Xb≦0.10の関係を満たすように調整するために有効である。特に、第1領域の組成Ti(1-Xb)SiXbCNおよび第2領域の組成Ti(1-Xs)SiXsCNにおいて、Xsを0.07以上、かつ、Xbを0.09以上とするためには、硬質粒子層の形成時に、基材温度を減少させることが有効である。
【0104】
硬質粒子層の形成時に、ノズルを回転させながら成膜する。これにより、硬質粒子において、硬質粒子層の成長方向に沿って、珪素の濃度が周期的に変化する。
【0105】
本工程において、反応容器内の基材温度は800℃~900℃であり、反応容器内の圧力は50hPa~300hPaである。硬質粒子層の厚みは、原料ガスの流量と、成膜時間とを調節することによって制御することができる。硬質粒子における珪素の濃度の周期幅は、ノズルの回転速度と、成膜時間とを調節することによって制御することができる。
【0106】
硬質粒子層の形成中、反応ガスの総ガス流量は、例えば、70L/分~90L/分とすることができる。ここで「総ガス流量」とは、標準状態(0℃、1気圧)における気体を理想気体とし、単位時間当たりにCVD炉に導入された全容積流量を示す。
【0107】
(その他の工程)
次に、被膜が形成された基材10を冷却する。冷却速度は、例えば、5℃/minを超えることはなく、また、その冷却速度は基材10の温度が低下するにつれて遅くなる。
【0108】
なお、上記の工程に加えて、アニーリングなどの熱処理工程、表面研削、ショットブラストなどの表面処理工程を行うことができる。
【0109】
上述の製造方法により、実施形態1の切削工具を得ることができる。
【実施例
【0110】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0111】
<基材の準備>
基材として、超硬合金製の基材を準備した。基材の組成は、Co:10質量%、NbC:0.1質量%、TaC:2質量%および残部がWCである。基材の形状は、SEET13TAGSN-G(住友電工ハードメタル社製の刃先交換型切削インサート)である。
【0112】
<被膜の形成>
基材の表面に、CVD法により被膜を形成した。各試料の被膜の構成および各層の平均厚さを表1、表2および表3に示す。表の「-」で示される欄は、層が存在しないことを意味する。
【0113】
【表1】
【0114】
【表2】
【0115】
【表3】
【0116】
表1に示される下地層(TiN層)、中間層(TiCN層)および表面層(Al層)は、従来公知のCVD法によって形成された層である。
【0117】
表1に示される各試料の硬質粒子層は、図6に示されるCVD装置を用いて硬質粒子層を形成する。CVD装置のノズルには、第1噴射孔、第2噴射孔および第3噴射孔が設けられている。各試料において、硬質粒子層の形成時のノズル回転数、基材温度および圧力は、表4、表5および表6に示されるとおりである。
【0118】
【表4】
【0119】
【表5】
【0120】
【表6】
【0121】
試料1~試料39では、硬質粒子層の形成開始から形成終了までの間に、反応ガス全体の体積流量Vに対する、CHCNの体積流量V1の百分率(V1/V)×100を漸減させた。百分率(V1/V)×100の変化は、表4、表5および表6に示される通りである。例えば、試料1では、百分率(V1/V)×100を0.5%から0.4%に漸減させた。
【0122】
試料101~試料109では、硬質粒子層の形成の間、百分率(V1/V)×100を一定に維持した。百分率(V1/V)×100は、表4、表5および表6に示される通りである。例えば、試料101では、百分率(V1/V)×100を0.4%に維持した。
【0123】
試料1~試料39では、硬質粒子層の形成開始から形成終了までの間に、TiClおよびSiClの合計流量VTi+Siに対するSiClの流量VSiの百分率(VSi/VTi+Si)×100を減少させた。百分率(VSi/VTi+Si)×100の変化は、表4、表5および表6に示される通りである。例えば、試料1では、百分率(VSi/VTi+Si)×100を25%から20%に減少させた。
【0124】
試料101~試料109では、硬質粒子層の形成の間、百分率(VSi/VTi+Si)×100を一定に維持した。百分率(VSi/VTi+Si)×100は、表4、表5および表6に示される通りである。例えば、試料101では、百分率(VSi/VTi+Si)×100を20%に維持した。
【0125】
試料17、および、試料29~39では、硬質粒子層の形成の間、基材温度を減少させた。基材温度の変化は、表5および表6に示されるとおりである。例えば、試料17では、基材温度を870℃から850℃に減少させた。その他の試料では、硬質粒子層形成の間、基材温度を一定に維持した。
【0126】
その後、基材を冷却して、各試料の切削工具を得た。
【0127】
<硬質粒子層の構成>
各試料の切削工具において、硬質粒子層を明視野走査電子顕微鏡(BF-SEM)で観察したところ、硬質粒子層は複数の硬質粒子からなることが確認された。
【0128】
<硬質粒子層の組成>
各試料の切削工具において、硬質粒子層の第1領域の組成Ti(1-Xb)SiXbCN、および、第2領域の組成Ti(1-Xs)SiXsCNをSEM-EDXにより測定した。具体的な測定方法は、実施形態1に記載の通りである。得られた結果に基づき、Xb、XsおよびXb-Xsを表7、表8および表9に示す。
【0129】
<硬質粒子の結晶構造>
各試料の切削工具の硬質粒子層において、硬質粒子の結晶構造を制限視野による電子線回折のパターン解析により確認した。結果を表7、表8および表9に示す。表において「立方晶」とは、硬質粒子が立方晶構造であることを示す。表において「立方晶+非晶質」とは、硬質粒子が立方晶構造と非晶質とを含むことを示す。
【0130】
<硬質粒子における珪素濃度変化>
各試料の切削工具の硬質粒子において、硬質粒子層の第1主面から第2主面に向かう第1方向に沿う、珪素の濃度変化を確認した。全ての試料の硬質粒子において、硬質粒子層の第1主面から第2主面に向かう第1方向に沿って、珪素の濃度が周期的に変化することが確認された。
【0131】
<硬質粒子における珪素の濃度の周期幅>
各試料の切削工具の硬質粒子において、硬質粒子層の第1主面から第2主面に向かう第1方向に沿う珪素の濃度の周期幅を測定した。具体的な測定方法は、実施形態1に記載の通りである。結果を表7、表8および表9の「Si濃度周期幅」に示す。
【0132】
<硬質粒子層の組織>
各試料の切削工具の硬質粒子層において、硬質粒子層を構成する全硬質粒子の数Nに対する、アスペクト比が3以上である第1硬質粒子の数N1の百分率(N1/N)×100を測定した。具体的な測定方法は、実施形態1に記載の通りである。結果を表7、表8および表9に示す。
【0133】
各試料の百分率(N1/N)×100の値が50%以上の場合、硬質粒子層は柱状構造であると判断される。
【0134】
<L/T>
各試料の切削工具において、硬質粒子層の厚さTに対する、硬質粒子の第1方向に沿う長さLの割合L/Tを測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載の通りである。結果を表7、表8および表9に示す。
【0135】
【表7】
【0136】
【表8】
【0137】
【表9】
【0138】
<切削試験1>
試料1~試料15および試料101~試料103の切削工具を用いて、以下の切削条件にて切削を行い、逃げ面摩耗量が0.2mmとなるまでの切削長を測定した。切削長が長いもの程、工具寿命が長いことを示す。結果を表10に示す。
【0139】
<切削条件>
被削材:SKD11 加工面サイズ:100mm×80mm
カッター:WGC4160R(住友電工ハードメタル社製)
インサート:SEET13TAGSN-G
切削速度Vc:100m/min
1刃当たりの送りfz:0.2mm/t
切込み深さap:1.0mm
切削液:あり(WET)
【0140】
【表10】
【0141】
<評価>
試料1~試料15の切削工具は実施例に該当する。試料101~試料103の切削工具は比較例に該当する。試料1~試料15の切削工具は、試料101~試料103の切削工具に比べて、ダイス鋼のミリング加工に用いた場合において、長い工具寿命を有することが確認された。
【0142】
<切削試験2>
試料16~試料27および試料104~試料106の切削工具を用いて、以下の切削条件にて切削を行い、逃げ面摩耗量が0.2mmとなるまでの切削長を測定した。切削長が長いもの程、工具寿命が長いことを示す。結果を表11に示す。
【0143】
<切削条件>
被削材:SKD11 加工面サイズ:100mm×80mm
カッター:WGC4160R(住友電工ハードメタル社製)
インサート:SEET13TAGSN-G
切削速度Vc:130m/min
1刃当たりの送りfz:0.2mm/t
切込み深さap:1.0mm
切削液:あり(WET)
【0144】
【表11】
【0145】
<評価>
試料16~試料27の切削工具は実施例に該当する。試料104~試料106の切削工具は比較例に該当する。試料16~試料27の切削工具は、試料104~試料106の切削工具に比べて、ダイス鋼のミリング加工に用いた場合において、長い工具寿命を有することが確認された。
【0146】
<切削試験3>
試料28~試料39および試料107~試料109の切削工具を用いて、以下の切削条件にて切削を行い、逃げ面摩耗量が0.2mmとなるまでの切削長を測定した。切削長が長いもの程、工具寿命が長いことを示す。結果を表12に示す。
【0147】
<切削条件>
被削材:SKD11 加工面サイズ:100mm×80mm
カッター:WGC4160R(住友電工ハードメタル社製)
インサート:SEET13TAGSN-G
切削速度Vc:150m/min
1刃当たりの送りfz:0.2mm/t
切込み深さap:1.0mm
切削液:あり(WET)
【0148】
【表12】
【0149】
<評価>
試料28~試料39の切削工具は実施例に該当する。試料107~試料109の切削工具は比較例に該当する。試料28~試料39の切削工具は、試料107~試料109の切削工具に比べて、ダイス鋼のミリング加工に用いた場合において、長い工具寿命を有することが確認された。
【0150】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0151】
1 切削工具、10 基材、11 硬質粒子層、12 下地層、13 表面層、14 中間層、15 被膜、50 CVD装置、52 基材セット治具、53 反応容器、54 調温装置、55,57 導入口、56 ノズル、59 排気管、60 排気口、61 第1噴射孔、62 第2噴射孔、A1 第1領域、A2 第2領域、S1,S2 仮想面。
【要約】
基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、前記被膜は、硬質粒子層を含み、前記硬質粒子層は、チタン、珪素、炭素および窒素からなる複数の硬質粒子からなり、前記硬質粒子層は、第1領域および第2領域を含み、前記第1領域は、前記硬質粒子層の前記基材側の第1主面と、前記第1主面から前記硬質粒子層側への距離が0.5μmである仮想面S1と、に挟まれる領域であり、前記第2領域は、前記硬質粒子層の前記第1主面と反対側の第2主面と、前記第2主面から前記硬質粒子層側への距離が0.5μmである仮想面S2と、に挟まれる領域であり、前記第1領域の組成は、Ti(1-Xb)SiXbCNであり、前記第2領域の組成は、Ti(1-Xs)SiXsCNであり、前記XsおよびXbは、Xb-Xs≧0.01、および、0<Xs<Xb≦0.10の関係を満たし、前記硬質粒子は、立方晶構造であり、前記硬質粒子において、前記第1主面から前記第2主面に向かう第1方向に沿って、前記珪素の濃度が周期的に変化する、切削工具である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6