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特許7559982ジアミンまたはジアミン組成物、ポリアミド、成形品、繊維、フィルム、またはシート、ジアミンおよび/またはジカルボン酸の製造方法、ジアミンおよび/またはジアミン組成物の製造方法およびポリアミドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】ジアミンまたはジアミン組成物、ポリアミド、成形品、繊維、フィルム、またはシート、ジアミンおよび/またはジカルボン酸の製造方法、ジアミンおよび/またはジアミン組成物の製造方法およびポリアミドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/10 20060101AFI20240925BHJP
   C07C 209/00 20060101ALI20240925BHJP
   C07C 51/06 20060101ALI20240925BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
C08J11/10
C07C209/00
C07C51/06
C08G69/26
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023573395
(86)(22)【出願日】2023-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2023038787
(87)【国際公開番号】W WO2024090534
(87)【国際公開日】2024-05-02
【審査請求日】2024-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2022172430
(32)【優先日】2022-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023073137
(32)【優先日】2023-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 美帆子
(72)【発明者】
【氏名】山下 浩平
(72)【発明者】
【氏名】吉冨 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 公哉
(72)【発明者】
【氏名】歌崎 憲一
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1611477(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107056625(CN,A)
【文献】特表平10-510295(JP,A)
【文献】特公昭39-023390(JP,B1)
【文献】特開2001-131282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 69/00-69/50
C08J 11/00-11/28
C07C 1/00-409/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミンとジカルボン酸を重縮合して得られるポリアミドホモポリマーまたはコポリマーを解重合して得られるジアミンまたはジアミン組成物であって、ジアミン1gに対して、化学式(1)で表されるアミノアルコールが6.0×10-5mol以下である、ジアミンまたはジアミン組成物。
化学式(1):HN-R-OH
(式中、Rは炭素数3以上12以下の脂肪族基、脂環族基、および芳香族基から選ばれる少なくとも1種を含む残基。)
【請求項2】
ジアミン1gに対してアミノアルコールが0.010×10-5mol以上である、請求項1に記載のジアミン組成物。
【請求項3】
ジアミンとジカルボン酸を重縮合して得られるポリアミドホモポリマーまたはコポリマーを解重合して得られるジアミンまたはジアミン組成物を重合原料として含み、化学式(2)で表される末端構造が3.0×10-5mol/g以下である、ポリアミド。
化学式(2):-NH-R-OH
(式中、Rは炭素数3以上12以下の脂肪族基、脂環族基、および芳香族基から選ばれる少なくとも1種を含む残基。)
【請求項4】
請求項3に記載のポリアミドを用いてなる、成形品、繊維、フィルム、またはシート。
【請求項5】
ジカルボン酸残基をXmolとジアミン残基とを含有するポリアミドホモポリマーまたはコポリマーを含有するポリアミド組成物(A)と、アルカリ金属イオンをYmolおよび/またはアルカリ土類金属イオンをYmol含有する水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)を、式(1)を満たすように混合し、230℃以上の温度に0.1~45分間保持する工程を有するジアミンおよび/またはジカルボン酸の製造方法。
式(1):1.6≦(Y+2×Y)/X<2.4
【請求項6】
前記保持する工程における温度が、示差走査熱量測定で求めたポリアミド組成物(A)の融点以上400℃未満である請求項5に記載のジアミンおよび/またはジカルボン酸の製造方法。
【請求項7】
ポリアミド組成物(A)と水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)の質量比を1:Zとした場合、Zが1.0以上10.0以下である請求項5に記載のジアミンおよび/またはジカルボン酸の製造方法。
【請求項8】
ポリアミド組成物(A)からのジアミンおよびジカルボン酸の収率がいずれも70mol%以上である、請求項5に記載のジアミンおよび/またはジカルボン酸の製造方法。
【請求項9】
ポリアミド組成物(A)と水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)を接触させて得られた反応混合物(C)中に含まれるジアミンの量をX′mol、化学式(1)で表されるアミノアルコールの量をY′molとした場合、Y′/X′が4.0×10-3以下である、請求項5に記載のジアミンおよび/またはジカルボン酸の製造方法。
化学式(1):HN-R-OH
(式中、Rは炭素数3以上12以下の脂肪族基、脂環族基、および芳香族基から選ばれる少なくとも1種を含む残基。)
【請求項10】
ポリアミド組成物(A)が廃棄物である、請求項5に記載のジアミンおよび/またはジカルボン酸の製造方法。
【請求項11】
請求項1に記載のジアミンまたはジアミン組成物を製造する方法であって、以下の工程(1)~(3)をこの順に含む、ジアミンまたはジアミン組成物の製造方法。
(1)ポリアミド組成物(A)と水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)を接触させてジアミンおよびジカルボン酸塩を製造する工程
(2)工程(1)で製造されたジアミンとジカルボン酸塩を分離する工程
(3)工程(2)で分離したジアミンを蒸留する工程
【請求項12】
請求項11に記載のジアミンまたはジアミン組成物の製造方法により得られるジアミンまたはジアミン組成物を含む原料を重縮合する工程を含む、ポリアミドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアミンまたはジアミン組成物、それを用いたポリアミド、およびジアミンとジカルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、海洋プラスチック問題をトリガーに地球環境問題に対する関心が高まり、持続可能な社会の構築が必要であるとの認識が広まってきている。地球環境問題には、地球温暖化をはじめ、資源枯渇、水不足などがある。地球環境問題の多くは産業革命以降の化石燃料の使用と工業の急速な発展による、資源消費量と地球温暖化ガス排出量の増大が原因にある。そのため、持続可能な社会構築のためには、プラスチックなどの化石資源循環利用、および地球温暖化ガス排出量低減に関する技術がますます重要となる。
特に、自動車、電気・電子用途など各分野で多量に使用されているポリアミド66では、単量体製造時に排出される地球温暖化ガス量が多い。そのため、ポリアミド66を含む製品から単量体まで戻して再資源化する技術が望まれている。
ポリアミド66のような、ジアミンとジカルボン酸からなるポリアミドを解重合し、単量体まで戻して再資源化する技術としては、水酸化ナトリウムのような無機塩基化合物の存在下に、例えば220℃などのポリアミド66の融点未満の温度で加水分解する方法が知られている(例えば特許文献1、非特許文献1参照)。
また、無機塩基化合物を用いずにジアミンとジカルボン酸からなるポリアミドの解重合を行う方法としては、ポリアミドと高温高圧水とを接触させて原料モノマーであるジアミンとジカルボン酸を回収する方法、ポリアミドと高温水を接触させた後に酵素を用いてさらに加水分解させ、ジアミンとジカルボン酸を得る方法が開示されている(例えば特許文献2~3、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表平7-507556号公報
【文献】特開2001-302597号公報
【文献】国際公開第2023/149514号
【非特許文献】
【0004】
【文献】Chemical Abstract 15 (1959) 14558g
【文献】Polymer Degradation and Stability 83 (2004) 389-393
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2、非特許文献2に開示されている、ポリアミド66を水の亜臨界状態または超臨界状態を利用して分解する方法は、単量体収率は最大でも25%と資源の循環利用を達成するために十分であるとは言い難い。また、非特許文献2には、反応混合物中にオリゴマーが含まれること、亜臨界水中ではジアミンの脱アンモニア環化反応、さらに超臨界水中ではジカルボン酸の脱炭酸環化反応によって、反応混合物中には環状副生物が単量体と同等もしくはそれ以上の量、含まれることが記述されている。特許文献3の酵素反応を利用する方法は、ヘキサメチレンジアミンを収率82%、アジピン酸を収率72%で得られるものの、二段階の加水分解工程を経ながらも収率はまだ十分に向上されているとは言えない。
また、特許文献1に開示されたポリアミド66の分解方法によれば、ポリアミド66を水酸化ナトリウム水溶液中で220℃、6時間反応後、分離・精製することで、ヘキサメチレンジアミンを収率92%、アジピン酸を収率81%で得られる。非特許文献1においては、特許文献1の方法に比較して反応時間が1時間まで短縮されながら、90%の収率で各単量体を得られるものの、まだ効率的とは言えない。さらに、特許文献1では、解重合によりジアミンが生成することは確認できるものの、ポリアミドの原料として使用できる品質であるか否かは開示されていない。
本発明の課題は、ポリアミドを解重合して得られるジアミンにおいて、重合阻害成分であるアミノアルコール化合物の含有量の少ないジアミンまたはジアミン組成物、それを高効率かつ高純度で得ることが可能なジアミンおよび/またはジカルボン酸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。
[1]ポリアミドを解重合して得られるジアミンまたはジアミン組成物であって、ジアミン1gに対して、化学式(1)で表されるアミノアルコールが6.0×10-5mol以下である、ジアミンまたはジアミン組成物。
化学式(1):HN-R-OH
(式中、Rは炭素数3以上12以下の脂肪族基、脂環族基、および芳香族基から選ばれる少なくとも1種を含む残基。)
[2]ジアミン1gに対してアミノアルコールが0.010×10-5mol以上である、上記[1]に記載のジアミン組成物。
[3]ポリアミドを解重合して得られるジアミンまたはジアミン組成物を重合原料として含み、化学式(2)で表される末端構造が3.0×10-5mol/g以下である、ポリアミド。
化学式(2):-NH-R-OH
(式中、Rは炭素数3以上12以下の脂肪族基、脂環族基、および芳香族基から選ばれる少なくとも1種を含む残基。)
[4]上記[3]に記載のポリアミドを用いてなる、成形品、繊維、フィルム、またはシート。
[5]ジカルボン酸残基をXmol含有するポリアミドを含有するポリアミド組成物(A)と、アルカリ金属イオンをYmolおよび/またはアルカリ土類金属イオンをYmol含有する水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)を、式(1)を満たすように混合し、230℃以上の温度に0.1~45分間保持する工程を有するジアミンおよび/またはジカルボン酸を製造する方法。
式(1):1.6≦(Y+2×Y)/X<2.4
[6]前記保持する工程における温度が、示差走査熱量測定で求めたポリアミド組成物(A)の融点以上400℃未満である上記[5]に記載のジアミンおよび/またはジカルボン酸の製造方法。
[7]ポリアミド組成物(A)と水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)の質量比を1:Zとした場合、Zが1.0以上10.0以下である上記[5]に記載のジアミンおよび/またはジカルボン酸の製造方法。
[8]ポリアミド組成物(A)からのジアミンおよびジカルボン酸の収率がいずれも70mol%以上である、上記[5]に記載のジアミンおよび/またはジカルボン酸の製造方法。
[9]ポリアミド組成物(A)と水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)を接触させて得られた反応混合物(C)中に含まれるジアミンの量をX′mol、化学式(1)で表されるアミノアルコールの量をY′molとした場合、Y′/X′が4.0×10-3以下である、上記[5]に記載のジアミンおよび/またはジカルボン酸の製造方法。
化学式(1):HN-R-OH
(式中、Rは炭素数3以上12以下の脂肪族基、脂環族基、および芳香族基から選ばれる少なくとも1種を含む残基。)
[10]ポリアミド組成物(A)が廃棄物である、上記[5]に記載のジアミンおよび/またはジカルボン酸の製造方法。
[11]上記[1]に記載のジアミンまたはジアミン組成物を製造する方法であって、以下の工程(1)~(3)をこの順に含む、ジアミンまたはジアミン組成物の製造方法。
(1)ポリアミド組成物(A)と水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)を接触させてジアミンおよびジカルボン酸塩を製造する工程
(2)工程(1)で製造されたジアミンとジカルボン酸塩を分離する工程
(3)工程(2)で分離したジアミンを蒸留する工程
[12]上記[11]に記載のジアミンまたはジアミン組成物の製造方法により得られるジアミンまたはジアミン組成物を含む原料を重縮合する工程を含む、ポリアミドの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、再重合原料として好適に使用可能で、重合阻害成分であるアミノアルコールの少ないジアミンまたはジアミン組成物を提供できる。さらに、ポリアミド組成物に対して特定量のアルカリ(土類)金属イオンを含有する水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液を用いて、230℃以上で短時間反応させることで、アミノアルコールの生成量を低減せしめ、ジアミンおよびジカルボン酸を短時間かつ高効率で製造する方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について実施の形態とともに詳細に説明する。
本発明のジアミンまたはジアミン組成物は、ポリアミドを解重合して得られるジアミンまたはジアミン組成物であって、ジアミン1gに対して、化学式(1)で表されるアミノアルコールが6.0×10-5mol以下である。
化学式(1):HN-R-OH
(式中、Rは炭素数3以上12以下の脂肪族基、脂環族基、および芳香族基から選ばれる少なくとも1種を含む残基。)
ここで、化学式(1)で表されるアミノアルコールは、ポリアミドを解重合した際に生成する特有の化合物である。具体的には、解重合するポリアミドに含まれるジアミン成分の一つのアミノ基が水酸基に変換されて生成する化合物を示す。化学式(1)で表されるアミノアルコールは、ポリアミドを高温高圧水で解重合した場合に生成し易い。
【0009】
本発明において、解重合するポリアミドとしては、ジアミンとジカルボン酸の残基を主構造単位とする重合体または共重合体である。ここで、「主構造単位とする」とは、全構造単位中、ジアミンとジカルボン酸の残基を50モル%以上有することを指し、それらの残基を80モル%以上有することが好ましい態様である。
【0010】
本発明において、解重合するポリアミドは、ジアミンとジカルボン酸を重縮合して得られるホモポリマーまたはコポリマーが好ましい。ジアミンの代表例としては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂環族ジアミンなどが挙げられる。また、ジカルボン酸の代表例としては、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸などが挙げられる。本発明においては、これらの原料から誘導されるポリアミドホモポリマーまたはコポリマーを2種以上配合してもよい。
上記ポリアミドを解重合した際に得られる化合物(1)のRの構造として、炭素数3以上12以下の脂肪族基、脂環族基、および芳香族基が挙げられる。
【0011】
本発明において、解重合するポリアミドは、本発明の目的を損なわない範囲で、アミノ酸、ラクタムを共重合したポリアミドコポリマーであってもよく、アミノ酸、ラクタムのを重縮合して得られるポリアミドホモポリマーまたはコポリマーを配合したものであってもよい。その原料の代表例としては、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタムなどのラクタムなどが挙げられる。
【0012】
上記ポリアミドの具体的な例としては、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリテトラメチレンセバカミド(ナイロン410)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリペンタメチレンセバカミド(ナイロン510)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン106)、ポリデカメチレンセバカミド(ナイロン1010)、ポリデカメチレンドデカミド(ナイロン1012)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリキシリレンセバカミド(ナイロンXD10)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ-2-メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド/ポリデカメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン5T/10T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン12T)およびこれらの共重合体などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。ここで、「/」は共重合体を示し、以下同じである。
【0013】
本発明で解重合するポリアミドは、本発明の目的を損なわない範囲で、重合触媒、ポリアミド以外の熱可塑性樹脂、染料、各種添加剤、繊維状充填材、非繊維状充填材などを配合したポリアミド組成物であってもよい。ここで繊維状充填材は、繊維状の形状を有するものであれば特に制限はない。繊維状充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などが挙げられる。一方、非繊維状充填材としては、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、タルク、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、モンモリロナイト、アスベスト、アルミノシリケート、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、シリカなどが挙げられる。これらを2種以上配合したものでもよい。
【0014】
本発明で解重合するポリアミドは、ポリアミドを含有する樹脂成形品であってもよい。ポリアミドを含有する樹脂成形品としては、ポリアミド製品、ポリアミド製品製造過程で発生する産業廃棄物、あるいはポリアミド製品使用済み廃棄物などを含む。ポリアミド製品の具体的な例としては、例えばラジエータータンク、オイルパンなどのエンジン周辺部品、ギアなどの自動車部品、コネクタ、スイッチなどの電気・電子部品、ファスナー、結束バンドなどの産業機械用途の部品、エアバッグなどの産業用繊維構造物、衣料用繊維構造物、シート、フィルム、成形品などが挙げられる。さらに、これらの生産工程で発生する製品屑、ペレット屑、塊状屑などであってもよい。
【0015】
本発明のジアミンおよび/またはジカルボン酸の製造方法において、ポリアミド組成物(A)が廃棄物であることが好ましい。ポリアミド組成物(A)が廃棄物であることにより、化石資源を循環利用できる。さらに、廃棄物を焼却処分する必要がないため地球温暖化ガス排出量を低減できる。
【0016】
本発明のジアミンまたはジアミン組成物は、ジアミン1gに対して、化学式(1)で表されるアミノアルコールが6.0×10-5mol以下である。
化学式(1):HN-R-OH
式中、Rは炭素数3以上12以下の脂肪族基、脂環族基、および芳香族基から選ばれる少なくとも1種を含む残基。
【0017】
本発明で得られるジアミンまたはジアミン組成物を、ポリアミド原料として再利用する場合、化学式(1)で表されるアミノアルコールが特定量含まれると末端封鎖剤となり重合を阻害する。本発明は、前記ジアミンまたはジアミン組成物を、実用的に使用可能な再重合できる品質に再生することを目的とする。ジアミンまたはジアミン組成物中に含まれる、化学式(1)で表されるアミノアルコールを、ジアミン1gに対して6.0×10-5mol以下とすることで、実用的に使用可能レベルまでポリアミドの重合度を上昇させることができる。ジアミン1gに対してアミノアルコール量は2.0×10-5mol以下が好ましく、1.0×10-5mol以下がより好ましく、0.5×10-5mol以下がさらに好ましい。一方で、本発明者らは、ジアミン組成物中のアミノアルコールをジアミン1gに対して、少なくとも0.010×10-5mol(実施例記載のガスクロマトグラフィーの検出限界)以上含有する再生ジアミンを重合すると、石油由来ジアミンを同条件で重合したポリアミドよりも重合度が高くなることを見出した。微量のアミノアルコールは、上記した末端封鎖剤としての影響は小さく、可塑剤のように作用し、ポリアミドの溶融粘度を低下させることで、分子運動性が高くなり重合反応が促進されるためと考えられる。本発明において、ジアミンまたはジアミン組成物中に含有される化学式(1)で表されるアミノアルコールの量は、実施例に記載のガスクロマトグラフィー(GC)による定量分析によって測定する。
【0018】
本発明のジアミンまたはジアミン組成物の製造方法は、以下の工程(1)~(3)をこの順に含むことが好ましい。
(1)ポリアミド組成物(A)と水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)を接触させてジアミンおよびジカルボン酸塩を製造する工程
(2)工程(1)で製造されたジアミンとジカルボン酸塩を分離する工程
(3)工程(2)で分離したジアミンを蒸留する工程。
本明細書では、アルカリ(土類)金属化合物という表記は、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属原子を含有する化合物と、例えばマグネシウム、カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類原子との双方、およびそれらの混合物を意味する。
【0019】
工程(1)のジアミンおよびジカルボン酸塩を製造する方法としては、特に制限はなく、例えば、解重合反応をバッチ式で行う場合は、解重合反応後、ジアミンおよびジカルボン酸のアルカリ(土類)金属塩を含有する反応混合物を得ることができる。また、解重合反応を連続式で行う場合には、反応の進行とともにジアミンおよびジカルボン酸のアルカリ(土類)金属塩を含有する反応混合物を得ることができる。反応混合物の状態としては、特に制限はなく、水溶液、スラリー、ペーストなどを例示できる。
【0020】
工程(2)のジアミンとジカルボン酸塩を分離する方法としては、製造するジアミンおよびジカルボン酸塩の性状に応じて、例えば、抽出、固液分離などの公知の方法を選択することができる。ポリアミドとしてポリアミド66、水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液として水酸化ナトリウム水溶液を用いる場合、ジアミンおよびジカルボン酸塩はどちらも水溶性であるため、抽出によって分離することが特に好ましい。また、反応混合物中に水に不溶の成分があれば、あらかじめ固液分離などの公知の方法により分離し、工程(2)に供することもできる。ポリアミドとしてポリアミド610、水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液として水酸化ナトリウムを用いる場合、冷却によってジカルボン酸塩を析出させることができるため、固液分離によっても分離することが可能である。
【0021】
工程(3)においては、工程(2)でジカルボン酸塩と分離したジアミンを蒸留し、化学式(1)で表されるアミノアルコールの含有量を低減させることが好ましい。例えば、ポリアミドとしてポリアミド66を使用する場合、原料モノマーであるヘキサメチレンジアミンの沸点は204℃、ヘキサメチレンジアミンの一つのアミノ基が水酸基に変換されたアミノアルコールである6-アミノ-1-ヘキサノールの沸点は225℃である。蒸留精製することで、重合阻害成分であるアミノアルコールの含有量を低減でき、実用的に使用可能レベルな再重合できる品質まで高めることができるので好ましい。このようにして得られたジアミンまたはジアミン組成物は、石油由来の原料から製造したジアミンおよびカルボン酸と同様に、ポリアミドの重合原料として用いることができる。
【0022】
本発明のポリアミドは、ポリアミドを解重合して得られるジアミンまたはジアミン組成物を重合原料として含み、化学式(2)で表される末端構造が3.0×10-5mol/g以下である。
化学式(2):-NH-R-OH
(式中、Rは炭素数3以上12以下の脂肪族基、脂環族基、および芳香族基から選ばれる少なくとも1種を含む残基。)
【0023】
本発明において、化学式(2)で表される末端構造の含有量は、ポリアミドを塩酸で加水分解した後、N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(BSTFA試薬)によってトリメチルシリル化されたアミノアルコールを、ガスクロマトグラフィー(GC)で分析することにより定量することができる。ここでいう末端構造の含有量は、ポリアミド1g当たりの化学式(2)で表される末端構造のモル当量として求める。この範囲とすることで、実用的に使用可能レベルまで高重合度化したポリアミドを得ることができる。1.0×10-5mol/g以下がより好ましく、0.5×10-5mol/g以下がさらに好ましく、0mol/gが最も好ましい。
【0024】
本発明では、ジアミン1gに対して上記化学式(1)で表されるアミノアルコールが約0.010×10-5molのジアミン組成物を重合して得られるポリアミドにおいては、上記化学式(2)で表される末端構造は0mol/g(ガスクロマトグラフィーの検出限界以下)となり、試薬ジアミンを重合した参考例1で示すポリアミドよりも重合度が高くなる効果は認められた。
【0025】
本発明のポリアミドの製造方法は、本発明のジアミンまたはジアミン組成物を含む原料を重縮合する工程を含む。
本発明のポリアミドは、ポリアミドを解重合して得られるジアミンまたはジアミン組成物をジカルボン酸とそのまま、またはその塩として、原料の一成分に用いて重縮合することで製造することができる。ポリアミドを製造する場合、モノマーのカルボキシル末端基量とアミノ末端基量の等モル性が適度に保たれる場合に高重合度化する。ジアミンとジカルボン酸を均一に混合させる目的から、ジアミンおよびジカルボン酸、およびその塩が重合系中に均一に溶解していることが好ましい。また、重縮合反応は、加熱しながら行うことが好ましい。好ましい温度の下限として150℃、好ましい温度の上限として400℃を例示できる。
【0026】
このようにして得られたポリアミドは、石油由来の原料から製造したポリアミドと同様に、射出成形品、押出成形品、繊維構造物、フィルム等各種製品に加工して利用することができる。これらの製品は、自動車部品、電気・電子部品、産業機械用途、産業用繊維構造物、衣料用繊維構造物、シート、フィルム、またはその他の用途として有用である。
【0027】
本発明の成形品、繊維、フィルム、またはシートは、本発明のポリアミドを用いてなる。本発明のポリアミドは、ポリアミドを解重合して得られるジアミンまたはジアミン組成物を重合原料として含む。そのため、得られるポリアミドは、資源循環利用と地球温暖化ガス排出量低減に貢献する環境低負荷なリサイクル材料になり得る。
【0028】
本発明のジアミンおよびジカルボン酸を製造する方法は、ジカルボン酸残基をXmol含有するポリアミドを含むポリアミド組成物(A)と、アルカリ金属イオンをYmolおよび/またはアルカリ土類金属イオンをYmol含有する水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)を、式(1)を満たすように混合し、230℃以上の温度に0.1~45分間保持する工程を有する。
式(1):1.6≦(Y+2×Y)/X<2.4
なお、本発明において、前記工程で混合し、上記範囲の温度、時間で保持するときの温度を反応温度、保持する時間を反応時間という場合がある。また、保持する際の圧力を反応圧力という場合がある。
【0029】
本発明のジアミンおよび/またはジカルボン酸の製造方法は、上述のとおり、ポリアミドを含有するポリアミド組成物(A)と水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)を混合してポリアミド組成物(A)を構成するポリアミドのモノマーであるジアミンおよびジカルボン酸を製造することを特徴とする。
【0030】
ポリアミドを含有するポリアミド組成物(A)は、上記した解重合するポリアミド、および重合触媒、ポリアミド以外の熱可塑性樹脂、染料、各種添加剤、繊維状充填材、非繊維状充填材などを配合した組成物などが挙げられる。
【0031】
水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)は、アルカリ(土類)金属化合物と水を配合してなる。アルカリ(土類)金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどが挙げられる。アルカリ(土類)金属酸化物としては、酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウムなどが挙げられる。アルカリ(土類)金属炭酸塩としては、正塩、酸性塩(炭酸水素塩)のいずれでもよい。正塩としては、炭酸二リチウム、炭酸二ナトリウム、炭酸二カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどが挙げられる。アルカリ金属炭酸水素塩としては、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどが挙げられる。本発明において、これらアルカリ(土類)金属水酸化物、アルカリ(土類)金属酸化物とアルカリ(土類)金属炭酸塩の中から選択される2種類以上を配合して用いても良い。アルカリ(土類)金属としては、鉱物資源保護の観点から、ナトリウム、カリウム、カルシウムが好ましく、ジアミンおよびジカルボン酸の生成率を高める観点から、ナトリウム、カリウムがより好ましく、ナトリウムが特に好ましい。また、ポリアミドとの加水分解反応性を高める目的から、水酸化物、酸化物、炭酸塩の正塩が好ましく、水酸化物、酸化物が特に好ましい。ここで用いられる水に特に制限はないが、水道水、脱イオン水、蒸留水、井戸水など、どのような水を用いてもよい。共存する塩の影響による副反応を抑制する観点からは、水として、脱イオン水や蒸留水が好ましく用いられる。
【0032】
水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)中のアルカリ金属イオンの量は、ポリアミド組成物(A)中のポリアミド含有量に応じて設定される。ポリアミド組成物(A)に含まれるポリアミドのジカルボン酸残基をXmol、アルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)に含まれるアルカリ金属イオンをYmol、アルカリ土類金属イオンをYmolとした場合、(Y+2×Y)/Xは1.6以上であり、2.4未満である。(Y+2×Y)/Xをこの範囲に制御することで、ポリアミド組成物(A)の加水分解において、ジアミンおよびジカルボン酸の収率を向上させ、前記化学式(1)で表されるアミノアルコール量を低減させることができる。(Y+2×Y)/Xは1.8以上が好ましく、1.9以上がより好ましく、2.0以上が特に好ましい。一方、2.2以下がより好ましい。
ポリアミド組成物(A)に含まれるジカルボン酸残基の量は、重溶媒として硫酸またはヘキサフルオロイソプロパノールを用いたプロトン核磁気共鳴分光法(H-NMR)によって得られたスペクトルから、定量することができる。
【0033】
本発明において、ポリアミド組成物(A)に含まれるポリアミドを解重合して得られるジアミンおよびジカルボン酸の収率がいずれも70mol%以上であることが好ましい。ここでいう収率は、ポリアミド組成物(A)中に含まれるジアミン残基のモル数とジカルボン酸残基のモル数をそれぞれ100として、反応混合物中に含まれるジアミンとジカルボン酸の量をモル百分率で表すものである。前記収率は、いずれも80mol%以上が好ましく、いずれも90mol%以上がより好ましく、いずれも95mol%以上がさらに好ましい。本発明において、ジアミンの収率は、実施例に記載のガスクロマトグラフィー(GC)による定量分析によって算出する。また、本発明において、ジカルボン酸の収率は、実施例に記載のイオンクロマトグラフィー(IC)による定量分析によって算出する。ジアミンおよびジカルボン酸の収率が好ましい範囲にあることによって、リサイクル率を高めることができる。
【0034】
水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)の量については、特に制限はないが、ポリアミド組成物(A)と水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)の質量比を1:Zとした場合、Zは1以上が好ましい。Zが1未満であると、ポリアミド組成物(A)と水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)を230℃以上で混合する際、ポリアミド組成物(A)の水への分散性、溶解性が減少し、反応効率が低下する傾向がある。2.0以上がより好ましく、3.0以上がさらに好ましい。一方、Zは10以下が好ましく、8.0以下がより好ましく、6.0以下がさらに好ましい。本発明は化石資源の循環利用と地球温暖化ガス排出量低減の両立を目的とした、ポリアミド組成物(A)を解重合することによるジアミンおよびジカルボン酸の高効率な製造方法に関するものである。水の比熱容量は4.3kJ/kg・K、気化熱が2,250kJ/kgと、他の有機溶剤と比べると非常に高いため、水の使用量を減らすことが重要であり、一定の範囲の量の水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物を含有する水溶液(B)の量がこれらの範囲にあることにより、ジアミンおよびジカルボン酸の製造効率と省エネルギーを両立することができる。
【0035】
水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)の調製方法については特に制限はなく、あらかじめアルカリ(土類)金属化合物と水を混合して水溶液を調製してもよく、反応容器中でポリアミド組成物(A)と接触させる際にアルカリ(土類)金属化合物と水を混合して水溶液としてもよい。
【0036】
本発明のジアミンおよび/またはジカルボン酸の製造方法は、ポリアミド組成物(A)と水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)を、230℃以上の温度で0.1~45分接触させてジアミンおよびジカルボン酸を製造することを特徴とする。
本発明のジアミンおよび/またはジカルボン酸の製造方法における、ポリアミド組成物(A)と、水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)の反応時間は、0.1~45分である。本発明における反応時間は、上述のとおり、230℃以上の温度で保持する時間の合計のことをいい、反応温度に到達するまでの昇温過程や反応温度で反応させた後の冷却過程についても、反応容器内でポリアミド組成物(A)と水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)を230℃以上の温度で混合している時間は、反応時間に含める。反応時間が45分を超えると、ジアミンおよびジカルボン酸の収率低下と、アミノアルコールの生成量増加を招くため、好ましくない。45分以下が好ましく、40分以下がより好ましく、35分以内がさらに好ましい。一方で、反応時間が0.1分未満であると、解重合反応を十分進行させることができず、ジアミンおよびジカルボン酸の収率が低下する。0.1分以上が好ましく、1分以上がより好ましく、3分以上がさらに好ましい。
【0037】
ポリアミド組成物(A)を、水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)と上記好ましい範囲の反応時間で接触させることで、化学式(1)で表されるアミノアルコールの量を低減できる。アミノアルコールは、ポリアミド組成物(A)の解重合生成物であるジアミンの一つのNH基が、求核置換反応によってOH基に変換され、生成すると考えられる。本発明における化学式(1)で表されるアミノアルコールの量は、解重合後の反応混合物(C)に含まれるジアミンの量をX′mol、化学式(1)で表されるアミノアルコールの量をY′molとした場合、Y′/X′が4.0×10-3以下であることが好ましい。3.0×10-3以下がより好ましく、2.0×10-3以下がさらに好ましく、1.0×10-3以下が特に好ましい。ジアミンおよび化学式(1)で表されるアミノアルコールの量は実施例に記載のガスクロマトグラフィー(GC)による定量分析によって算出できる。化学式(1)で表されるアミノアルコールの量が好ましい範囲であると、この後精製して得られたジアミンまたはジアミン組成物を再重合して得られるポリアミドを高分子量化できる。
【0038】
本発明のジアミンおよび/またはジカルボン酸の製造方法における反応温度は、230℃以上である。反応温度は、温度が制御された反応容器内においてポリアミド組成物(A)と水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)を接触させる間の温度であり、一定温度であっても、経時的に変動させた温度であってもよい。なお、反応温度に到達するまでの昇温過程や反応温度で反応させた後の冷却過程における温度については、230℃未満であれば特に制限はない。反応温度が230℃以上であることで、ポリアミド組成物(A)の加水分解反応に要する時間を短縮でき、ジアミンおよびジカルボン酸の生成効率を高められる。
【0039】
さらに、反応温度は、示差走査熱量測定で求めたポリアミド組成物(A)の融点以上400℃未満の温度であることが好ましい。反応温度がポリアミド組成物(A)の融点以上であることにより、ポリアミド組成物(A)は水に分散、溶解し易くなり、反応効率を向上させることができる。水は圧力22.1MPa、温度374.2℃まで上げると液体でも気体でもない状態を示す。この状態にある水を超臨界水と言い、液体の溶解性と気体の拡散性を併せ持つ特徴から、ポリマーを分解するための反応場として、注目されている。また、水の臨界点よりやや低い温度および圧力の臨界点の近傍領域の熱水を亜臨界水と言う。亜臨界水は水であるにも関わらず、(i)誘電率が低い、(ii)イオン積が高いといった特徴があり、亜臨界水の誘電率、イオン積は温度や水の分圧に依存し、制御することが可能である。誘電率が低くなることにより、水でありながらも有機化合物の優れた溶媒となり、イオン積が高くなることにより水素イオンおよび水酸化物イオン濃度が高くなることから優れた加水分解作用を有する。反応温度が400℃未満であることで、ポリアミド樹脂(A)と水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)を混合・反応させる際に超臨界水または亜臨界水の優れた特徴を有する反応場を利用しつつ、熱分解などの望ましくない反応を抑制できる。また、反応温度が374.2℃未満であることで、水の亜臨界状態を利用してイオン積を好ましく制御できるため、反応効率を向上でき、反応時間を短縮できるので好ましい。さらに、ジアミンおよびジカルボン酸の過反応を抑制する目的から、反応温度は350℃未満がより好ましく、300℃未満がさらに好ましい。一方、解重合反応を促進する目的から、250℃以上がより好ましく、270℃以上がさらに好ましい。
【0040】
ここでいう、本発明におけるポリアミド組成物(A)の融点は、TAインスツルメント社製示差走査熱量計を用いて、窒素フロー下、40℃から昇温速度10℃/分で300℃まで昇温させた場合に現れる吸熱ピークの温度である。ただし、吸熱ピークが2つ以上検出される場合には、最も高温側に検出される吸熱ピークの温度を融点とする。ポリアミド組成物(A)の融点が400℃を超えると、ポリアミド組成物(A)の熱分解反応等が進行して、ジアミンおよびジカルボン酸の回収率が低減するため好ましくない。ポリアミド組成物(A)の融点の下限に特に制限はないが、好ましい下限としては、50℃を例示できる。ポリアミド組成物(A)の融点が50℃以上であると、ポリアミドが常温で固体となるため、取り扱い性に優れる。
【0041】
また、反応圧力としては飽和蒸気圧よりも高いことが好ましく例示できる。反応圧力を飽和蒸気圧より高くすることで、水が液体状態を維持でき、反応が進みやすいため水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)の圧力としては飽和蒸気圧よりも高いことが好ましい。また、反応圧力の上限としては特に制限はないが、22.1MPa以下であることが例示できる。このような圧力範囲にあることにより、上記した水のイオン積が高くなる傾向にあるため好ましい。反応圧力をこのような圧力範囲とする方法としては、圧力容器内部を加圧して密閉する方法が挙げられる。圧力容器内部を加圧するには、ポリアミド組成物(A)、水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)に加え気体を封入すれば良い。封入する気体としては、空気、アルゴン、窒素などが挙げることができる。酸化反応などの副反応を抑制するとの観点から、封入する気体は窒素、アルゴンを用いることが好ましい。また、高圧水を導入することによっても圧力容器内部を加圧することができる。高圧水を用いる場合は、圧力容器内に気体が無い状態とすることもできる。気体加圧の程度としては、目的の圧力となるように設定するため特に限定はされないが、0.3MPa以上を挙げることができる。
【0042】
本発明におけるポリアミド組成物(A)と水酸化物、酸化物、炭酸塩、およびこれらの2種類以上を含む混合物から選択されるアルカリ(土類)金属化合物の水溶液(B)との混合には、バッチ式および連続式など公知の各種反応方式を採用することができる。例えばバッチ式であれば、いずれも撹拌機と加熱機能を備えたオートクレーブ、縦型または横型反応器、撹拌機と加熱機能に加えてシリンダー等の圧縮機構を備えた縦型または横型反応器などが挙げられる。連続式であれば、いずれも加熱機能を備えた押出機、管型反応器、バッフルなどの混合機構を備えた管型反応器、ラインミキサー、縦型または横型反応器、撹拌機を備えた縦型または横型反応器、塔などが挙げられる。また、製造における雰囲気は非酸化性雰囲気下が好ましく、窒素、ヘリウム、およびアルゴンなどの不活性雰囲気下で行うことがより好ましく、経済性および取り扱いの容易さの面からは窒素雰囲気下がさらに好ましい。
【0043】
本発明の方法によって製造したジアミンとジカルボン酸の回収方法には特に制限はなく、何れの方法も採用できる。例えば、解重合反応をバッチ式で行う場合は、解重合反応後、ジアミンおよびジカルボン酸アルカリ(土類)金属塩の反応混合物(C)を得ることができる。また、解重合反応を連続式で行う場合には、反応の進行とともにジアミンおよびジカルボン酸アルカリ(土類)金属塩の反応混合物(C)を得ることができる。得られた反応混合物(C)は抽出などの公知の方法によりジアミンとジカルボン酸アルカリ(土類)金属塩を分離し、分離したジカルボン酸アルカリ(土類)金属塩を酸性条件下でジカルボン酸に転換し、さらに蒸留・固液分離などの公知の方法によってジアミンとジカルボン酸それぞれを回収することができる。また、反応混合物(C)中に水に不溶の成分があれば、あらかじめ固液分離などの公知の方法により分離し、ジアミンとジカルボン酸の回収工程に供することもできる。ジアミン中のアミノアルコールの含有量を低減させる目的から、ジアミンを蒸留精製することが特に好ましい。
また、さらに高純度のジアミンおよびジカルボン酸を得るために、さらに公知の方法で精製を行ってもよい。
【0044】
本発明のジアミンおよび/またはジカルボン酸の製造方法で得られるジアミンおよびジカルボン酸は、石油由来の原料から製造したジアミンおよびカルボン酸と同様に、ポリアミドの重合原料として用いることができる。ポリアミドは、ジアミンおよび/またはジカルボン酸をそのまま、またはその塩を加熱重縮合することでポリアミド樹脂を製造することができる。本発明では、ポリアミドを解重合して得られるジアミンおよび/またはジカルボン酸を再重合することで、ポリアミドを再生することができるため、資源循環利用と地球温暖化ガス排出量低減に貢献する環境低負荷なリサイクル材料になり得る。
【0045】
また、このようにして得られたポリアミドは、石油由来の原料から製造したポリアミドと同様に、射出成形品、押出成形品、繊維構造物、フィルム等各種製品に加工して利用することができる。これらの製品は、自動車部品、電気・電子部品、産業機械用途、産業用繊維構造物、衣料用繊維構造物、シート、フィルム、またはその他の用途として有用である。
【実施例
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0047】
各実施例には下記原料を用いた。
(A-1)ポリアミド66:東レ(株)製“アミラン”(登録商標)、CM3001-N、融点262℃
(A-2)ポリアミド66廃棄物:廃車から回収されたポリアミド66製エアバッグ基布
(A-3)ポリアミド66廃棄物:廃車から回収されたポリアミド66製シリコーンコートエアバッグ基布、推定シリコーン付着量25g/m
(A-4)ポリアミド66廃棄物:GF30%強化ポリアミド66成形屑(スプルーおよびランナーの破砕品)
水酸化ナトリウム:関東化学(株)製、試薬特級
炭酸ナトリウム:関東化学(株)製、試薬特級
炭酸水素ナトリウム:富士フイルム和光純薬(株)製 一級
アジピン酸:富士フイルム和光純薬(株)製 特級
ヘキサメチレンジアミン:富士フイルム和光純薬(株)製 一級。
【0048】
≪評価方法≫
(ジアミン組成物中のアミノアルコール量(GC))
ジアミン組成物中のアミノアルコール量はガスクロマトグラフィー(GC)による定量分析を行って算出した。
装置:島津製作所製 GC-2010
カラム:アジレントテクノロジー社製 DB-5 0.32mm×30m(0.25μm)
キャリアーガス:ヘリウム
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
サンプル:ジアミン組成物を約0.02g量取り、約10gの脱イオン水で希釈し、濾過により脱イオン水に不溶な成分を分離除去することによりガスクロマトグラフィー測定サンプルを調製した。
アミノアルコールの定量:絶対検量線法によりアミノアルコール量を定量した。
【0049】
(ジアミン収率、反応混合物中のアミノアルコール量(GC))
反応混合物(C)中のジアミン量とアミノアルコール量はガスクロマトグラフィー(GC)による定量分析を行って算出し、算出したジアミン量からジアミン収率を求めた。
装置:島津製作所製 GC-2010
カラム:アジレントテクノロジー社製 DB-5 0.32mm×30m(0.25μm)
キャリアーガス:ヘリウム
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
サンプル:反応混合物を約0.15g量取り、約10gの脱イオン水で希釈し、濾過により脱イオン水に不溶な成分を分離除去することによりガスクロマトグラフィー測定サンプルを調製した。
ジアミンの定量:絶対検量線法によりジアミン量を定量した。
アミノアルコールの定量:絶対検量線法によりアミノアルコール量を定量した。
【0050】
(ジカルボン酸の収率(IC))
ジカルボン酸収率は、反応混合物(C)中のジカルボン酸ナトリウムを、イオンクロマトグラフィー(IC)による定量分析を行って算出した。
装置:島津製作所製 HIC-20Asuper
カラム:島津製作所製Shim-pack IC-SA2(250mm×4.6mmID)
検出器:電気伝導度検出器(サプレッサ)
溶離液:4.0mM炭酸水素ナトリウム/1.0mM炭酸ナトリウム水溶液
流速:1.0ml/分
注入量:50マイクロリットル
カラム温度:30℃
サンプル:反応混合物を約0.02g量取り、約10gの脱イオン水で希釈、濾過により脱イオン水に不溶な成分を分離除去することによりイオンクロマトグラフィー測定サンプルを調製した。
ジカルボン酸の定量:絶対検量線法によりジカルボン酸ナトリウム量を定量した。
【0051】
(ポリアミドの融点(DSC))
ポリアミド約5.0mgを示差熱分析装置(日立ハイテクサイエンス製TG/DTA7200)を用いて、窒素フロー下、40℃から昇温速度10℃/分で300℃まで昇温させた場合に現れる吸熱ピークの温度を融点とした。ただし、吸熱ピークが2つ以上検出される場合には、最も高温側に検出される吸熱ピークの温度を融点とした。
【0052】
(ポリアミドの分子量)
各実施例および比較例により得られたポリアミド約2.5mgを、ヘキサフルオロイソプロパノール(0.005N-トリフルオロ酢酸ナトリウム添加)4mlに溶解し、得られた溶液を0.45μmのフィルターでろ過した。得られた溶液を用いて、GPC測定により数平均分子量(Mn)を測定した。測定条件を以下に示す。
ポンプ:e-Alliance GPC system(Waters製)
検出器:示差屈折率計 Waters 2414(Waters製)
カラム:Shodex HFIP-806M(2本)+HFIP-LG
溶媒:ヘキサフルオロイソプロパノール(0.005N-トリフルオロ酢酸ナトリウム添加)
流速:1ml/min
試料注入量:0.1ml
温度:30℃
分子量基準物質:ポリメチルメタクリレート。
【0053】
(ポリアミド末端のアミノアルコール量(GC))
各実施例および比較例により得られたポリアミド樹脂約50mgを精秤して、内容量16mlのガラスアンプルに仕込み、6N塩酸水溶液8mlを添加後、アンプルを封管した。これを耐圧容器に入れ、180℃で20時間加熱し、加水分解処理した。冷却後、アンプルを取り出して、内容物を濃縮乾固した。さらに、塩酸を除去した後、乾燥することにより得られた乾固物を、N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(BSTFA試薬)を用いてトリメチルシリル化した。反応生成物を脱水アセトニトリルで希釈することによりガスクロマトグラフィー測定サンプルを調製した。測定条件を以下に示す。
装置:島津製作所製 GC-2010
カラム:アジレントテクノロジー社製 DB-5 0.32mm×30m(0.25μm)
キャリアーガス:ヘリウム
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
アミノアルコールの定量:トリメチルシリル化した試薬のアミノアルコールを用いた絶対検量線法によりアミノアルコール量を定量した。
【0054】
[実施例1]
撹拌機を具備したSUS316L製オートクレーブに、融点262℃のポリアミド66(A-1)、水酸化ナトリウム水溶液を表1に記載の量で仕込んだ。ポリアミド66の配合量Xモルと水酸化ナトリウムの配合量Yモルで表現されるモル比Y/Xは2.11であった。
反応容器の窒素置換を行い、窒素加圧0.5MPa下に密閉した後、200rpmで撹拌しながら280℃で15分間保持し反応を行った。反応時、系内の圧力は6.5MPaであった。反応終了後、室温にまで冷却して反応混合物を回収した。230℃以上で、反応容器内でポリアミド組成物と水酸化ナトリウム水溶液を混合する時間の合計は40分であった。
回収した反応混合物のガスクロマトグラフィー測定により算出したジアミン収率(X′)は98mol%、高速液体クロマトグラフィー測定により算出したジカルボン酸収率は95mol%であった。アミノアルコール量(Y′)は0.14mol%であり、Y′/X′は1.4×10-3であった。
[実施例2~9、比較例1~3]
原料のポリアミドの種類、水酸化ナトリウム水溶液の量および濃度、脱イオン水の量、反応温度、反応時間を適宜変更して実施例1と同様の方法にてポリアミドの解重合を行った。なお、比較例3では230℃より低温で反応させたため、反応時間は220℃で処理した時間(60分)とした。
【0055】
[実施例10、11]
水酸化ナトリウムを炭酸ナトリウムまたは炭酸水素ナトリウムに変更して実施例1と同様の方法にてポリアミドの解重合を行った。
実施例1~11、比較例1~3の反応条件および反応生成物の収率、定量分析結果を表1および表2に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
実施例1~11より、ポリアミドを、アルカリ金属水酸化物またはアルカリ金属炭酸塩を好ましい量含有する水溶液と接触させることで、加水分解を十分に進行させ、ジアミンおよびジカルボン酸の収率を高めつつ、化学式(1)で表されるアミノアルコールの量を低減できることがわかる。
/Xが好ましい範囲よりも大きい比較例1では、Y/Xの他は実質的に同一の条件で反応を行った実施例1と比較して、ジアミンの収率が低下し、アミノアルコールの生成量が多くなった。アルカリ金属水酸化物の量が過剰である場合、反応温度および反応時間の条件を満足してもジアミンおよびジカルボン酸の両方を収率よく得ることができず、アミノアルコールの生成量が増加した。
一方、好ましい範囲を超えて長時間反応させた比較例2では、反応時間の他は実質的に同一の条件で反応を行った実施例1と比較して、アミノアルコールの生成量が多くなった。
反応温度が230℃に満たない比較例3では、反応時間を60分とすることで、ジアミンおよびジカルボン酸を収率よく得られるが、アミノアルコールの生成量は多いままであった。
【0059】
このように、ポリアミド組成物を、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ金属炭酸塩を好ましい量含有する水溶液と230℃以上の温度で0.1~45分間接触させることで、加水分解を十分に進行させ、ジアミンおよびジカルボン酸の収率を高めつつ、化学式(1)で表されるアミノアルコールの量を低減できることがわかる。また、反応温度が好ましい範囲よりも低温である場合、特許文献1、非特許文献1にも記載されているように、反応に長時間を要する上、好ましい反応温度で反応させた場合よりもアミノアルコール量が多くなる。
ポリアミドとしてポリアミド66を選択する場合、ヘキサメチレンジアミン残基由来のアミノアルコールである6-アミノ-1-ヘキサノールは、沸点が225℃と、ヘキサメチレンジアミンの沸点204℃と近いため、反応混合物中のアミノアルコール量が多い場合、蒸留による分離・除去の難易度が上がり、再資源化に利用することが難しくなると考えられる。
【0060】
[参考例1]
ヘキサメチレンジアミン5.15g、アジピン酸6.47gを脱イオン水12.6gに溶解させ、塩溶液を調製した。この塩溶液を反応容器に仕込み密閉し、窒素置換した。反応容器外周にあるヒーターの設定温度を290℃とし、加熱を開始した。缶内圧力が1.75MPaに到達した後、水分を系外へ放出させながら缶内圧力1.75MPaに保持し、缶内温度が237℃になるまで昇温した。缶内温度が237℃に到達した後、1時間かけて常圧となるよう缶内圧力を調節した(常圧到達時の缶内温度:257℃)。続けて、缶内に窒素を流しながら(窒素フロー)60分間保持してポリアミド66を得た(最高到達温度:274℃)。得られたポリアミド66の数平均分子量は14300g/mol、融点は262℃であった。
【0061】
[実施例12]
実施例1と同様にして得られた反応混合物からイソブタノールでジアミンを抽出し、エバポレーターを用いて濃縮した後、84~90℃、3±1hPaで蒸留することで粗ジアミン組成物を得た。粗ジアミン組成物を再度84~90℃、3±1hPaで蒸留し、ジアミン組成物を得た。このジアミン組成物中のアミノアルコール含有量は、ジアミン1gに対して0.80×10-5molであった。
抽出によってジアミンが除かれたジカルボン酸水溶液に35%塩酸水溶液を15mL加え、ジカルボン酸を析出させたスラリー溶液を得た。スラリー溶液を80℃のオイルバス中で加熱し、均一溶液とした後、室温下で12時間静置することで粗アジピン酸を析出させた。減圧濾過によって回収した粗アジピン酸に、脱イオン水を粗アジピン酸の質量の2倍量加え、再度80℃のオイルバス中で加熱し、均一溶液とした後、室温下で12時間静置して析出したアジピン酸を減圧濾過で回収し、110℃に設定した真空オーブンで12時間乾燥することでアジピン酸を得た。
このようにして得られたジアミン組成物5.14g、アジピン酸6.50gを重合原料として用いた以外は参考例1と同様にしてポリアミド66を製造した。得られた再生ポリアミド66の数平均分子量は15300g/mol、融点は262℃、アミノアルコール末端基量は0.41×10-5mol/gであった。
【0062】
[実施例13]
実施例3と同様にして得られた反応混合物を、実施例12と同様の蒸留を2回実施し、ジアミン組成物を得た。このジアミン組成物中のアミノアルコール含有量は、ジアミン1gに対して0.010×10-5molであった。また、実施例12と同様の方法でアジピン酸、ポリアミド66を製造した。得られた再生ポリアミド66の数平均分子量は15000g/mol、融点は262℃、アミノアルコール末端基量は0mol/g(ガスクロマトグラフィーの検出限界未満)であった。
【0063】
[比較例4]
比較例1と同様にして得られた反応混合物から、実施例12と同様にしてジアミン組成物とアジピン酸を製造した。ジアミン組成物中のアミノアルコール含有量は、ジアミン1gに対して6.4×10-5molであった。このジアミン組成物とアジピン酸を重合原料として用いた以外は参考例1と同様にしてポリアミド66を製造した。得られた再生ポリアミド66の数平均分子量は11000g/mol、融点は261℃、アミノアルコール末端基量は3.3×10-5mol/gであった。
したがって、参考例1、実施例12、実施例13より、ポリアミドを解重合して得られた本発明のジアミン組成物とアジピン酸を再重合したポリアミドは、試薬ジアミンと試薬ジカルボン酸を重合したポリアミドよりも数平均分子量が大きくなることがわかった。
一方、参考例1、比較例4より、ジアミン組成物中のアミノアルコール含有量が、ジアミン1gに対して6.0×10-5molより大きいジアミン組成物を再重合したポリアミドは末端に3.0×10-5mol/g以上のアミノアルコール由来の構造を有し、数平均分子量が小さくなることがわかった。ジアミン組成物中のアミノアルコールにより、重合が阻害されているものと推測される。ヘキサメチレンジアミン残基由来のアミノアルコールである6-アミノ-1-ヘキサノールは、沸点が225℃と、ヘキサメチレンジアミンの沸点204℃と近いため、反応混合物中のアミノアルコール量が多いことで、蒸留による除去が困難になったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のジアミン組成物は不純物が少ないため、ポリアミドの再重合原料として好適に使用することができる。また、特に本発明のジアミン組成物をポリアミドの解重合により得ることで、資源循環利用と地球温暖化ガス排出量低減に貢献することができる。