(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】半導体装置及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10B 53/30 20230101AFI20240925BHJP
【FI】
H10B53/30
(21)【出願番号】P 2020212780
(22)【出願日】2020-12-22
【審査請求日】2023-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】520233375
【氏名又は名称】富士通セミコンダクターメモリソリューション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】及川 光彬
(72)【発明者】
【氏名】王 文生
(72)【発明者】
【氏名】小澤 聡一郎
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-242930(JP,A)
【文献】特開2005-311297(JP,A)
【文献】特開2010-003741(JP,A)
【文献】特開2003-188350(JP,A)
【文献】特開平09-045662(JP,A)
【文献】特開平11-003976(JP,A)
【文献】特開2010-093064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10B 53/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強誘電体膜、前記強誘電体膜を挟む第1の電極及び第2の電極を含む強誘電体キャパシタと、
前記強誘電体キャパシタの表面を覆い、前記強誘電体膜の分極特性を変化させる物質の前記強誘電体膜内への侵入を抑制するための保護膜と、
を含み、
前記保護膜は、前記物質の前記強誘電体膜内への侵入を抑制する性能が異なる複数の部分を有
し、
前記強誘電体膜は、前記保護膜の前記複数の部分にそれぞれ対応して設けられた、分極特性が互いに異なる複数の部分を有する
半導体装置。
【請求項2】
前記保護膜は、膜質が互いに異なる複数の部分を有する
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記保護膜は、膜密度が互いに異なる複数の部分を有する
請求項1又は請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記保護膜は、膜厚が互いに異なる複数の部分を有する
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
強誘電体膜、前記強誘電体膜を挟む第1の電極及び第2の電極を含む強誘電体キャパシタと、
前記強誘電体キャパシタの表面を部分的に覆い、前記強誘電体膜の分極特性を変化させる物質の前記強誘電体膜内への侵入を抑制するための保護膜と、
を含
み、
前記強誘電体膜は、前記保護膜により覆われた部分及び覆われていない部分にそれぞれ対応して設けられた、分極特性が互いに異なる複数の部分を有する
半導体装置。
【請求項6】
強誘電体膜、前記強誘電体膜を挟む第1の電極及び第2の電極を含む強誘電体キャパシタを形成する第1の工程と、
前記強誘電体キャパシタの表面を覆い、前記強誘電体膜の分極特性を変化させる物質の前記強誘電体膜内への侵入を抑制するための保護膜を形成する第2の工程と、
前記保護膜において、前記物質の前記強誘電体膜内への侵入を抑制する性能が異なる複数の部分を形成する第3の工程と、
を含
み、
前記強誘電体膜は、前記保護膜の前記複数の部分にそれぞれ対応して設けられた、分極特性が互いに異なる複数の部分を有する
半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記第3の工程は、前記保護膜の一部分にイオン照射を行って当該一部分の膜質を変化させる処理を含む
請求項
6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記第3の工程は、前記保護膜の一部分をエッチングして当該一部分の膜厚を他の部分よりも薄くする処理を含む
請求項
6に記載の製造方法。
【請求項9】
強誘電体膜、前記強誘電体膜を挟む第1の電極及び第2の電極を含む強誘電体キャパシタを形成する第1の工程と、
前記強誘電体キャパシタの表面を部分的に覆い、前記強誘電体膜の分極特性を変化させる物質の前記強誘電体膜内への侵入を抑制するための保護膜を形成する第2の工程と、
を含
み、
前記強誘電体膜は、前記保護膜により覆われた部分及び覆われていない部分にそれぞれ対応して設けられた、分極特性が互いに異なる複数の部分を有する
半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の技術は、半導体装置及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強誘電体キャパシタを備えた半導体装置に関する技術として以下の技術が知られている。例えば、基板上に絶縁体層、下部電極層、強誘電体層および上部電極層を順次に積層したゲートを具える強誘電体メモリ装置において、基板上に複数のゲート領域の各々における下部電極層の厚さをそれぞれ違えた段構造にしたものが知られている。これにより、強誘電体層の厚さをゲート領域ごとに異ならせることができる。
【0003】
また、第1の強誘電体領域と、第2の強誘電体領域と、これらの強誘電体領域の間に設けられた境界部材を含むメモリセルが知られている。境界部材は、金属、半導体、又は、絶縁体で構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-220105号公報
【文献】特開2019-169574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
FRAM(Ferroelectric Random Access Memory/登録商標)は、強誘電体キャパシタの分極を利用してデータを記録するものであり、不揮発性メモリの中でも低消費電力であり、且つ高速な読み出し及び書き込みができるという特長を持つ。
【0006】
FRAMの従来の高集積化は、FRAMを構成する各層の薄膜化及びセルサイズの微細化によって行われてきた。しかしながら、データの記録に必要十分な分極特性を確保するためには、薄膜化及び微細化には物理的な限界がある。高集積化を実現するための他の方法としては、1つのメモリセルにおいて2値よりも多い多値を記憶できるようにする方法が考えられる。メモリセルにおける記憶データの多値化により、薄膜化及び微細化の要求水準を下げつつ高集積化を図ることが可能である。2値以上の多値を記憶する強誘電体メモリセルの構造については、従来いくつか提案されているが、製造が必ずしも容易ではない。
【0007】
開示の技術は、強誘電体キャパシタにおける記憶データの多値化を比較的容易に実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
開示の技術に係る半導体装置は、強誘電体膜、前記強誘電体膜を挟む第1の電極及び第2の電極を含む強誘電体キャパシタを含む。半導体装置は、前記強誘電体キャパシタの表面を覆い、前記強誘電体膜の分極特性を変化させる物質の前記強誘電体膜内への侵入を抑制するための保護膜を含む。前記保護膜は、前記物質の前記強誘電体膜内への侵入を抑制する性能が異なる複数の部分を有し、前記強誘電体膜は、前記保護膜の前記複数の部分にそれぞれ対応して設けられた、分極特性が互いに異なる複数の部分を有する。
【発明の効果】
【0009】
開示の技術によれば、強誘電体キャパシタにおける記憶データの多値化を比較的容易に実現することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】開示の技術の実施形態に係る半導体装置の構成の一例を示す断面図である。
【
図2】開示の技術の実施形態に係る半導体装置の分極特性の一例を示す図である。
【
図3A】開示の技術の実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図3B】開示の技術の実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図3C】開示の技術の実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図3D】開示の技術の実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図3E】開示の技術の実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図3F】開示の技術の実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図3G】開示の技術の実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図4】開示の技術の実施形態に係る保護膜の構成の一例を示す断面図である。
【
図5】開示の技術の実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図6】開示の技術の実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図7】開示の技術の実施形態に係る保護膜の構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一または等価な構成要素及び部分には同一の参照符号を付与し、重複する説明は省略する。
【0012】
図1は、開示の技術の第1の実施形態に係る半導体装置1の構成の一例を示す断面図である。半導体装置1は、強誘電体キャパシタ10とトランジスタ20とを含んで構成されるメモリセルを備えている。強誘電体キャパシタ10は、強誘電体キャパシタ10を構成する各層が半導体基板2上に積層されたスタック構造を有する。半導体基板2の表面には、SiO
2等の絶縁体によって構成される層間絶縁膜40a、40b、40cが積層されており、強誘電体キャパシタ10は、層間絶縁膜40bの表面に形成され且つ層間絶縁膜40c内に埋設されている。
【0013】
強誘電体キャパシタ10は、バリア膜12、第1の電極13、強誘電体膜15及び第2の電極14がこの順で形成された積層体を含んで構成されている。バリア膜12は、強誘電体膜15を形成する際に生じる酸素の内向拡散を抑制する機能を有する。バリア膜12は、例えば、厚さ10~20nm程度のTiAlNを含んで構成される。
【0014】
第1の電極13は、強誘電体キャパシタ10の下部電極として機能し、バリア膜12を覆っている。第1の電極13は、例えば、厚さ100~150nm程度のIrを含んで構成される。
【0015】
強誘電体膜15は、第1の電極13を覆っている。強誘電体膜15は、例えば、厚さ75nm~140nm程度の多結晶のPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)を含んで構成される。強誘電体膜15は、分極特性が互いに異なる第1の部分15A及び第2の部分15Bを含んでいる。第1の部分15A及び第2の部分15Bの詳細については後述する。
【0016】
第2の電極14は、強誘電体キャパシタ10の上部電極として機能し、強誘電体膜15を覆っている。第2の電極14は、例えば、厚さ180~250nm程度のIrを含んで構成される。
【0017】
半導体装置1は、強誘電体キャパシタ10の表面を覆う保護膜17を有する。すなわち、保護膜17は、バリア膜12、第1の電極13、強誘電体膜15及び第2の電極14を含む積層体の上面及び側面を覆っている。
【0018】
ここで、強誘電体膜15を構成するPZT等の強誘電体は、酸化物であるため還元雰囲気に晒されると容易に還元し、分極特性が劣化する。強誘電体キャパシタ10を含む半導体装置1の製造工程において、強誘電体膜15の還元は、強誘電体膜15内に水素が浸入することによって生じ得る。水素は、例えば、強誘電体キャパシタ10を覆う層間絶縁膜40cの成膜過程で生成され、層間絶縁膜40cの成膜中及び成膜後に強誘電体膜15内に侵入し、強誘電体膜15を構成する酸化物を還元する。
【0019】
保護膜17は、強誘電体膜15の分極特性を変化させる物質、すなわち水素の内向拡散及び外向拡散を抑制する機能を有する。保護膜17が、強誘電体キャパシタ10の表面を覆うことで、強誘電体膜15内への水素の侵入が抑制され、強誘電体膜15の分極特性の劣化が抑制される。保護膜17は、例えば、厚さ40~50nm程度のAl2O3(酸化アルミニウム)等の絶縁体を含んで構成される。
【0020】
保護膜17は、水素の強誘電体膜15内への侵入を抑制する性能が互いに異なる第1の部分17A及び第2の部分17Bを有する。本実施形態において、第1の部分17A及び第2の部分17Bは、膜質が互いに異なる。より具体的には、第2の部分17Bの膜密度は、第1の部分17Aよりも低い。従って、第2の部分17Bは、強誘電体膜15内への水素の侵入を抑制する性能が第1の部分17Aよりも低い。
【0021】
強誘電体膜15の第1の部分15Aは、保護膜17の第1の部分17Aに対応して形成される。すなわち、強誘電体膜15の第1の部分15Aは、水素の侵入を抑制する性能が相対的に高い保護膜17の第1の部分17Aによって覆われた部分であり、分極特性の劣化の程度が相対的に小さい部分である。
【0022】
強誘電体膜15の第2の部分15Bは、保護膜17の第2の部分17Bに対応して形成される。すなわち、強誘電体膜15の第2の部分15Bは、水素の侵入を抑制する性能が相対的に低い保護膜17の第2の部分17Bによって覆われた部分であり、分極特性の劣化の程度が相対的に大きい部分である。強誘電体膜15の第2の部分15Bにおける水素含有量は、第1の部分15Aよりも多い。
【0023】
トランジスタ20は、n型またはp型の拡散層21a、21bと、拡散層21a、21bの間に設けられたゲート23を有する。半導体装置1は、プラグ31を介してトランジスタ20の拡散層21aに接続されたビットラインとして機能する配線32と、プラグ33を介して強誘電体キャパシタ10の第2の電極14に接続されたプレートラインとして機能する配線34とを有する。トランジスタ20の拡散層21bは、プラグ35及びバリア膜12を介して強誘電体キャパシタ10の第1の電極13に接続されている。
【0024】
図2は、半導体装置1の分極特性の一例を示す図であり、強誘電体キャパシタ10に印加される電界の強度と分極電荷量との関係を示すヒステリシス曲線である。
図2において、横軸は強誘電体キャパシタ10に印加される電界の強度、縦軸が強誘電体キャパシタの分極電荷量を示している。ヒステリシス曲線HC1は、強誘電体膜15の第1の部分15Aに対応し、ヒステリシス曲線HC2は、強誘電体膜15の第2の部分15Bに対応する。
【0025】
上記したように、強誘電体膜15の第2の部分15Bの分極特性の劣化の程度は、第1の部分15Aよりも大きいため、第2の部分15Aにおける分極電荷量は、第1の部分15Aよりも小さくなっている。強誘電体キャパシタ10に印加するプラス方向の電界の強度Ecを、Ec1<Ec<Ec2とすることで、第2の部分15Bにおいて分極が生じ、その後電界強度をゼロにしても、この状態が維持される。この状態がデータ“0”に対応する。
【0026】
強誘電体キャパシタ10に印加するプラス方向の電界の強度EcをEc>Ec2とすることで、第1の部分15Aにおいても分極が生じ、その後電界強度をゼロにしても、この状態が維持される。この状態がデータ“1”に対応する。
【0027】
その後、強誘電体キャパシタ10に印加するマイナス方向の電界の強度Ec(絶対値)を、Ec3<Ec<Ec4とすることで、第2の部分15Bにおいて分極反転が生じ、その後電界強度をゼロにしても、この状態が維持される。この状態がデータ“2”に対応する。
【0028】
強誘電体キャパシタ10に印加するマイナス方向の電界の強度Ec(絶対値)をEc>Ec4とすることで、第1の部分15Aにおいても分極反転が生じ、その後電界強度をゼロにしても、この状態が維持される。この状態がデータ“3”に対応する。
【0029】
このように、半導体装置1は、水素の強誘電体膜15内への侵入を抑制する性能が異なる第1の部分17A及び第2の部分17Bを有する保護膜17によって覆われた強誘電体膜15を含む強誘電体キャパシタ10を有する。これにより、強誘電体膜15には、分極特性が互いに異なる第1の部分15A及び第2の部分15Bが形成される。強誘電体膜15が、分極特性が互いに異なる第1の部分15A及び第2の部分15Bを有することで、1つの強誘電体キャパシタ10に4値を記憶することが可能である。
【0030】
以下に半導体装置1の製造方法について説明する。
図3A~
図3Gは半導体装置1の製造方法の一例を示す断面図である。
【0031】
初めに、半導体基板2にゲート23を形成し、その後公知のイオン注入法を用いて、n型またはp型の拡散層21a、21bを形成することでトランジスタ20を形成する(
図3A)。
【0032】
次にCVDにより半導体基板2の表面にSiO
2等の絶縁体からなる層間絶縁膜40aを形成する(
図3B)。続いて、半導体基板2の表面に形成された拡散層21aに達するコンタクトホールを層間絶縁膜40aに形成し、このコンタクトホールをW等の導電体で埋めることによりプラグ31を形成する(
図3B)。次に、層間絶縁膜40aの表面に、プラグ31に接続されたAl等の導電膜を形成する。次に、この導電膜をパターニングすることにより、層間絶縁膜40aの表面に、プラグ31を介して拡散層21aに接続されたビットラインとして機能する配線32を形成する(
図3B)。
【0033】
次にCVDにより半導体基板2の表面にSiO
2等の絶縁体からなる層間絶縁膜40bを形成する(
図3B)。続いて、半導体基板2の表面に形成された拡散層21bに達するコンタクトホールを層間絶縁膜40a、40bに形成し、このコンタクトホールをW等の導電体で埋めることによりプラグ35を形成する(
図3B)。
【0034】
次に、DCスパッタリングにより、層間絶縁膜40bの表面を覆う厚さ10~20nm程度のバリア膜12を形成する(
図3C)。ターゲットとして例えばTiAlNを用いることができる。基板温度は、例えば300~400℃程度が好ましく、導入ガスとして窒素とアルゴンの混合ガスを用いることが可能である。バリア膜12は、プラグ35を介して拡散層21bに接続される。
【0035】
次に、DCスパッタリングにより、バリア膜12の表面を覆う厚さ100~150nm程度の第1の電極13を形成する(
図3C)。ターゲットとして例えばIrを用いることができる。基板温度は、例えば500℃程度が好ましく、導入ガスとして例えばアルゴンガスを用いることが可能である。
【0036】
次に、MOCVDにより、第1の電極13を覆う厚さ75~140nm程度のPZTを含んで構成される強誘電体膜15を形成する(
図3C)。基板温度は、例えば550~800℃程度が好ましい。材料ガスとして、例えばPb(thd)
2、Zr(OiPr)
2(thd)
2及びTi(OiPr)
2(thd)
2を用いることが可能である。導入ガスとして、例えば酸素を用いることが可能である。圧力は、例えば150~270Pa程度が好ましい。
【0037】
次に、DCスパッタリングにより、強誘電体膜15を覆う厚さ180~250nm程度の第2の電極14を形成する(
図3C)。ターゲットとして例えばIrを用いることができる。基板温度は、例えば室温(25℃)~500℃程度が好ましく、導入ガスとして例えばアルゴンガスを用いることが可能である。バリア膜12、第1の電極13、強誘電体膜15、第2の電極14により強誘電体キャパシタ10が構成される。層間絶縁膜40b上に形成されたバリア膜12、第1の電極13、強誘電体膜15及び第2の電極14を含む積層体の不要部分は、エッチングにより除去される。
【0038】
次に、CVD法により、強誘電体キャパシタ10の表面を覆う厚さ40~50nm程度のAl
2O
3等の絶縁体からなる保護膜17を形成する(
図3D)。次に、保護膜17の一部を覆い、他の一部を露出させるレジスト50を形成する。次に、レジスト50を介して保護膜17にイオン照射を行う(
図3E)。イオン照射に用いられる元素として、Ar(アルゴン)、Xe(キセノン)、N(窒素)等が挙げられる。イオン照射における照射エネルギーは、例えば180keVであり、ドーズ量は、例えば5.0×10
15である。
【0039】
保護膜17のレジスト50から露出した部分にイオンが照射されることにより、当該部分に物理的なダメージが加わる。これにより、保護膜17のレジスト50から露出した部分において、膜密度が低下して、強誘電体膜15内への水素の侵入を抑制する性能が低下する。すなわち、保護膜17のイオン照射が行われた部分は、強誘電体膜15内への水素の侵入を抑制する性能が相対的に低い第2の部分17Aとなる。一方、保護膜17のレジスト50によって覆われた部分にはイオン照射が行われないので、成膜時の膜密度が維持され、強誘電体膜15内への水素の侵入を抑制する性能は維持される。すなわち、保護膜17のレジスト50によって覆われた部分は、強誘電体膜15内への水素の侵入を抑制する性能が相対的に高い第1の部分17Aとなる。
【0040】
次に、レジスト50を除去した後、CVDにより層間絶縁膜40bの表面にSiO
2等の絶縁体からなる層間絶縁膜40cを形成する。強誘電体キャパシタ10及び保護膜17は、層間絶縁膜40c内に埋設される(
図3F)。層間絶縁膜40cの成膜過程において水素が生成される。保護膜17は、膜密度が相対的に低い第2の部分17Bにおいて、膜密度が相対的に高い第1の部分17Aよりも多くの水素を透過させる。これにより、強誘電体膜15の保護膜17の第2の部分17Bによって覆われた部分において還元が生じやすくなり、当該部分において分極特性が顕著に劣化する。すなわち、強誘電体膜15の、保護膜17の第2の部分17Bによって覆われた部分が、分極特性の劣化の程度が相対的に大きい第2の部分15Bとなる。一方、強誘電体膜15の、保護膜17の第1の部分17Aによって覆われた部分においては、強誘電体膜15内への水素の侵入が抑制され、第2の部分15Aと比較して還元が生じにくい。すなわち、強誘電体膜15の、保護膜17の第1の部分17Aによって覆われた部分が、分極特性の劣化の程度が相対的に小さい第1の部分15Aとなる。
【0041】
層間絶縁膜40cの成膜後、強誘電体キャパシタ10に達するコンタクトホールを層間絶縁膜40cに形成し、このコンタクトホールをタングステン等の導電体で埋めることによりプラグ33を形成する(
図3G)。次に、層間絶縁膜40cの表面に、プラグ33に接続されたAl等の導電膜を形成する。次に、この導電膜をパターニングすることにより、層間絶縁膜40cの表面に、プラグ35を介して強誘電体キャパシタ10に接続されたプレートラインとして機能する配線34を形成する(
図3G)。
【0042】
以上のように、開示の技術の実施形態に係る半導体装置1は、強誘電体キャパシタ10の表面を覆い、強誘電体膜15の分極特性を変化させる物質(すなわち水素)の強誘電体膜15内への侵入を抑制するための保護膜17を有する。保護膜17は、水素の強誘電体膜15内への侵入を抑制する性能が異なる第1の部分17A及び第2の部分17Bを有する。これにより、強誘電体膜15の、保護膜17の第1の部分17Aによって覆われた領域に分極特性の劣化の程度が相対的に小さい第1の部分15Aが形成される。また、強誘電体膜15の、保護膜17の第2の部分17Bによって覆われた領域に分極特性の劣化の程度が相対的に大きい第2の部分15Bが形成される。強誘電体膜15が、分極特性が互いに異なる第1の部分15A及び第2の部分15Bを有することで、1つの強誘電体キャパシタ10に4値を記憶することが可能である。
【0043】
このように、半導体装置1は、保護膜17が、水素の強誘電体膜15内への侵入を抑制する性能が互いに異なる複数の部分を備えることで、強誘電体キャパシタ10における記憶データの多値化を実現したものである。保護膜17において、水素の強誘電体膜15内への侵入を抑制する性能が互いに異なる複数の部分を形成する工程は、上記したように、保護膜17への部分的なイオン照射によって実現することが可能である。すなわち、開示の技術の第1の実施形態に係る半導体装置1及びその製造方法によれば、強誘電体キャパシタ10における記憶データの多値化を比較的容易に実現することが可能となる。
【0044】
なお、本実施形態においては、保護膜17が、水素の強誘電体膜15内への侵入を抑制する性能が互いに異なる2つの部分を備える場合を例示したが、この態様に限定されない。保護膜17は、水素の強誘電体膜15内への侵入を抑制する性能が互いに異なる3つ以上の部分を備えていてもよい。これにより、強誘電体膜15が、分極特性が互いに異なる3つ以上の部分を備えることができるので、1つの強誘電体キャパシタ10に記憶することができるデータのビット数を更に増加させることができる。
【0045】
[第2の実施形態]
開示の技術の第2の実施形態に係る半導体装置は、保護膜17の構成が第1の実施形態に係る半導体装置1と異なる。以下の説明においては、第1の実施形態と異なる点について説明する。
図4は、開示の技術の第2の実施形態に係る保護膜17の構成の一例を示す断面図である。
【0046】
第2の実施形態に係る保護膜17は、上記した第1の実施形態に係る保護膜17と同様、水素の強誘電体膜15内への侵入を抑制する性能が互いに異なる第1の部分17A及び第2の部分17Bを有する。第2の実施形態に係る保護膜17は、膜厚が相対的に厚い第1の部分17Aと膜厚が相対的に薄い第2の部分17Bを有する。膜厚が相対的に薄い第2の部分17Bは、強誘電体膜15内への水素の侵入を抑制する性能が第1の部分17Aよりも低い。
【0047】
強誘電体膜15の第1の部分15Aは、保護膜17の第1の部分17Aに対応して形成される。すなわち、強誘電体膜15の第1の部分15Aは、水素の侵入を抑制する性能が相対的に高い保護膜17の第1の部分17Aによって覆われた部分であり、分極特性の劣化の程度が相対的に小さい部分である。
【0048】
強誘電体膜15の第2の部分15Bは、保護膜17の第2の部分17Bに対応して形成される。すなわち、強誘電体膜15の第2の部分15Bは、水素の侵入を抑制する性能が相対的に低い保護膜17の第2の部分17Bによって覆われた部分であり、分極特性の劣化の程度が相対的に大きい部分である。強誘電体膜15の第2の部分15Bにおける水素含有量は、第1の部分15Aよりも多い。
【0049】
以下において、第2の実施形態に係る半導体装置の製造方法について説明する。
図5は、第2の実施形態に係る保護膜17に、強誘電体膜15内への水素の侵入を抑制する性能が互いに異なる第1の部分17A及び第2の部分17Bを形成する工程の一例を示す断面図である。Al
2O
3等の絶縁体からなる保護膜17の成膜後、保護膜17の一部を覆い、他の一部を露出させるレジスト50を形成する。次に、レジスト50を介して保護膜17をエッチングする。エッチングは、例えば、ICP(Inductively Coupled Plasma)エッチング装置を用いて行うことが可能である。エッチングガスとして、Cl
2及びArの混合ガスを用いることが可能である。
【0050】
保護膜17のレジスト50から露出した部分が、エッチングガスに晒されることにより、当該部分の膜厚が薄くなり、当該部分において強誘電体膜15内への水素の侵入を抑制する性能が低下する。すなわち、保護膜17のエッチングされた部分は、強誘電体膜15内への水素の侵入を抑制する性能が相対的に低い第2の部分17Bとなる。
【0051】
一方、保護膜17のレジスト50によって覆われた部分には、エッチングガスに晒されないので、成膜時の膜厚が維持され、強誘電体膜15内への水素の侵入を抑制する性能が維持される。すなわち、保護膜17のレジスト50によって覆われた部分は、強誘電体膜15内への水素の侵入を抑制する性能が相対的に高い第1の部分17Aとなる。
【0052】
保護膜17の部分的なエッチングの完了後、レジスト50は除去される。その後、CVDにより層間絶縁膜40cを形成する。強誘電体キャパシタ10及び保護膜17は、層間絶縁膜40c内に埋設される(
図6)。層間絶縁膜40cの成膜過程において、水素が生成される。保護膜17は、膜厚が相対的に薄い第2の部分17Bにおいて、膜厚が相対的に厚い第1の部分17Aよりも多くの水素を透過させる。これにより、強誘電体膜15の、保護膜17の第2の部分17Bによって覆われた部分において還元が生じやすくなり、当該部分において分極特性が顕著に劣化する。すなわち、強誘電体膜15の、保護膜17の第2の部分17Bによって覆われた部分が、分極特性の劣化の程度が相対的に大きい第2の部分15Bとなる。一方、強誘電体膜15の、保護膜17の第1の部分17Aによって覆われた部分においては、強誘電体膜15内への水素の侵入が抑制され、第2の部分15Bと比較して還元が生じにくい。すなわち、強誘電体膜15の、保護膜17の第1の部分17Aによって覆われた部分が、分極特性の劣化の程度が相対的に小さい第1の部分15Aとなる。
【0053】
開示の技術の第2の実施形態に係る半導体装置は、第1の実施形態と同様、保護膜17が、水素の強誘電体膜15内への侵入を抑制する性能が異なる複数の部分を備えることで、強誘電体キャパシタ10における記憶データの多値化を実現したものである。保護膜17において、水素の強誘電体膜15内への侵入を抑制する性能が異なる複数の部分を形成する工程は、上記したように、保護膜17の部分的なエッチングによって実現することが可能である。すなわち、開示の技術の第2の実施形態に係る半導体装置及びその製造方法によれば、第1の実施形態と同様、強誘電体キャパシタ10における記憶データの多値化を比較的容易に実現することが可能となる。
【0054】
[第3の実施形態]
開示の技術の第3の実施形態に係る半導体装置は、保護膜17の構成が、第1及び第2の実施形態に係る半導体装置と異なる。以下の説明においては、第1及び第2の実施形態と異なる点について説明する。
図7は、開示の技術の第3の実施形態に係る保護膜17の構成の一例を示す断面図である。
【0055】
第3の実施形態に係る保護膜17は、強誘電体キャパシタ10の表面を部分的に覆っている。すなわち、強誘電体キャパシタ10は、保護膜17によって覆われた部分と、保護膜17によって覆われない部分を有する。
【0056】
強誘電体膜15の第1の部分15Aは、保護膜17によって覆われた部分であり、保護膜17による保護機能が作用する部分である。従って、強誘電体膜15の第1の部分15Aにおいては、分極特性の劣化の程度が相対的に小さくなる。
【0057】
強誘電体膜15の第2の部分15Bは、保護膜17によって覆われない部分であり、保護膜17による保護機能が作用しない部分である。従って、強誘電体膜15の第の部分15Bにおいては、分極特性の劣化の程度が相対的に大きくなる。強誘電体膜15の第2の部分15Bにおける水素含有量は、第1の部分15Aよりも多い。
【0058】
第3の実施形態に係る半導体装置は、例えば、
図5に示す保護膜17のエッチング工程において、保護膜17のレジスト50から露出した部分を完全に除去することにより製造することが可能である。
【0059】
開示の技術の第3の実施形態に係る半導体装置は、保護膜17が強誘電体膜15を部分的に覆うことで、強誘電体キャパシタ10における記憶データの多値化を実現したものである。強誘電体膜15を部分的に覆う保護膜17は、上記したように、保護膜17の部分的なエッチングによって実現することが可能である。すなわち、開示の技術の第3の実施形態に係る半導体装置及びその製造方法によれば、第1の実施形態と同様、強誘電体キャパシタ10における記憶データの多値化を比較的容易に実現することが可能となる。
【0060】
以上の第1乃至第3の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0061】
(付記1)
強誘電体膜、前記強誘電体膜を挟む第1の電極及び第2の電極を含む強誘電体キャパシタと、
前記強誘電体キャパシタの表面を覆い、前記強誘電体膜の分極特性を変化させる物質の前記強誘電体膜内への侵入を抑制するための保護膜と、
を含み、
前記保護膜は、前記物質の前記強誘電体膜内への侵入を抑制する性能が異なる複数の部分を有する
半導体装置。
【0062】
(付記2)
前記保護膜は、膜質が互いに異なる複数の部分を有する
付記1に記載の半導体装置。
【0063】
(付記3)
前記保護膜は、膜密度が互いに異なる複数の部分を有する
付記1又は付記2に記載の半導体装置。
【0064】
(付記4)
前記保護膜は、膜厚が互いに異なる複数の部分を有する
付記1に記載の半導体装置。
【0065】
(付記5)
前記強誘電体膜は、前記保護膜の前記複数の部分にそれぞれ対応して設けられた、分極特性が互いに異なる複数の部分を有する
付記1から付記4のいずれか1項に記載の半導体装置。
【0066】
(付記6)
前記強誘電体膜の複数の部分は水素含有量が互いに異なる
付記5に記載の半導体装置。
【0067】
(付記7)
強誘電体膜、前記強誘電体膜を挟む第1の電極及び第2の電極を含む強誘電体キャパシタと、
前記強誘電体キャパシタの表面を部分的に覆い、前記強誘電体膜の分極特性を変化させる物質の前記強誘電体膜内への侵入を抑制するための保護膜と、
を含む半導体装置。
【0068】
(付記8)
前記強誘電体膜がチタン酸ジルコン酸鉛を含み、
前記物質が水素を含み、
前記保護膜が酸化アルミニウムを含む
付記1から付記7のいずれか1つに記載の半導体装置。
【0069】
(付記9)
強誘電体膜、前記強誘電体膜を挟む第1の電極及び第2の電極を含む強誘電体キャパシタを形成する第1の工程と、
前記強誘電体キャパシタの表面を覆い、前記強誘電体膜の分極特性を変化させる物質の前記強誘電体膜内への侵入を抑制するための保護膜を形成する第2の工程と、
前記保護膜において、前記物質の前記強誘電体膜内への侵入を抑制する性能が異なる複数の部分を形成する第3の工程と、
を含む半導体装置の製造方法。
【0070】
(付記10)
前記第3の工程は、前記保護膜の一部分にイオン照射を行って当該一部分の膜質を変化させる処理を含む
付記9に記載の製造方法。
【0071】
(付記11)
前記第3の工程は、前記保護膜の一部分をエッチングして当該一部分の膜厚を他の部分よりも薄くする処理を含む
付記9に記載の製造方法。
【0072】
(付記12)
強誘電体膜、前記強誘電体膜を挟む第1の電極及び第2の電極を含む強誘電体キャパシタを形成する第1の工程と、
前記強誘電体キャパシタの表面を部分的に覆い、前記強誘電体膜の分極特性を変化させる物質の前記強誘電体膜内への侵入を抑制するための保護膜を形成する第2の工程と、
を含む半導体装置の製造方法。
【符号の説明】
【0073】
1 半導体装置
10 強誘電体キャパシタ
13 第1の電極
14 第2の電極
15 強誘電体膜
15A 第1の部分
15B 第2の部分
17 保護膜
17A 第1の部分
17B 第2の部分