(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】脳血管状態を治療するためのCFTRモジュレーターの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/44 20060101AFI20240925BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240925BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240925BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
A61K31/44
A61P9/10
A61P25/00
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2021537500
(86)(22)【出願日】2019-09-09
(86)【国際出願番号】 EP2019074011
(87)【国際公開番号】W WO2020049189
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-09-09
(32)【優先日】2018-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521100841
【氏名又は名称】カナートファーマ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボルツ,シュテフェン-セバスティアン
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/105484(WO,A1)
【文献】特表2007-536244(JP,A)
【文献】J Cerebral Blood Flow & Metabolism,2017年,Vol. 38, No. 1,p.17-37
【文献】J Cyst Fibros.,2018年06月07日,Vol.17 No.5,p.573-581
【文献】肝胆膵,2013年,Vol.66 No.4,p.661-670
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CFTRモジュレーターを含有する脳血管障害の予防および/または治療用組成物であって、
前記CFTRモジュレーターは、ルマカフトール
、その薬学的に許容可能な塩、溶媒和物、およびエステルからなる群から選ばれるシクロプロパンカルボキサミド誘導体の少なくとも一つであり、
前記脳血管障害は
、くも膜下出
血により引き起こされる、
ことを特徴とする、脳血管障害の予防および/または治療用組成物。
【請求項2】
前記CFTRモジュレーターが、ルマカフトールであることを特徴とする、請求項
1に記載の
脳血管障害の予防および/または治療用組成物。
【請求項3】
前記脳血管
障害が、脳
血流低下または脳
血流不全
症状を有することを特徴とする、請求項1
または2記載の
脳血管障害の予防および/または治療用組成物。
【請求項4】
前記脳
血流低下が、心臓病、心不全、くも膜下出血、突発性感音難聴、血管性認知症、動脈性高血圧、虚血性脳卒中、出血性脳卒中、糖尿病、およびアルツハイマー病からなる群から選ばれる状態に関連することを特徴とする、請求項
3に記載の
脳血管障害の予防および/または治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳血管状態を予防及び/または治療するためのCFTRモジュレーターの使用とその治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢が進む世界人口において、心臓疾患とともに生きている個人の数は急速に増えている。潜在的な原因は、老人において心臓疾患が多く発症していることと生存率を著しく改善する医療進歩である。過去10年にわたり、寿命の延長は著しい認知低下(非特許文献1)に関連し、認知障害(非特許文献2)の「サイレントエピデミック」の出現を引き起こすことが明らかになった。そのインパクトは、直接の医療の必要性に加え、認知障害は患者達の基礎疾患に対処する能力に重大な影響を与え(例えば、治療規則順守の低下など)、家族、友人および社会一般に社会的影響を与える、というように重大であろう。この流行の出現の真の障害は、したがって、一つの経済的特徴によって計ることができないことである。確かなことは、我々の医療およびメンタルヘルスネットワークは構造的にまたは財政的に差し迫る危機に適応するように準備されていないことである。
【0003】
心不全(heart failure、HF)の患者は通常「血管性認知障害」に帰し、この用語は、血管起源から生じる複数の認知障害の形(例えば、記憶喪失、実行機能喪失、錯乱など)を述べる。総称として、血管性認知障害の原因は他因子的であり、臨床診断は挑戦的で不正確であり、複数の異なる複雑な障害サブタイプがある(非特許文献1)。ほとんどの心血管および脳血管の病状(高血圧、虚血性および出血性脳卒中、心臓病および糖尿病を含む)は、血管に基づく認知機能低下の主要かつ重要な原因と考えられている(非特許文献1)。血管性認知障害は多くの複雑で不定期なメカニズムを含むが、統一的見解は不十分な脳灌流である。これに関して、本願発明者らによる最近の研究は、HFおよびくも膜下出血(subarachnoid hemorrhage、SAH)実験モデルにおける脳灌流の改善に着目している。
【0004】
以下の参考文献は、実施例の方法と試薬の項で述べられている別の参照リストを除き、本開示において参照される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2005/075435号
【文献】国際公開第2007/021982号
【文献】国際公開第2008/127399号
【文献】国際公開第2009/108657号
【文献】国際公開第2009/123896号
【文献】国際公開第2010/068863号
【文献】国際公開第2010/151747号
【文献】国際公開第2011/008931号
【文献】国際公開第2006/101740号
【文献】国際公開第2012/166654号
【文献】国際公開第2014/152213号
【文献】国際公開第2012/171954号
【文献】国際公開第2014/081821号
【文献】国際公開第2014/081820号
【文献】国際公開第2010/066912号
【文献】米国特許出願公開2013/0310329号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Roman GC. Brain hypoperfusion: a critical factor in vascular dementia. Neurol Res 2004;26:454-8.
【文献】Roman GC. Stroke, cognitive decline and vascular dementia: the silent epidemic of the 21st century. Neuroepidemiology 2003;22:161-4.
【文献】Yang J, Hossein Noyan-Ashraf M, Meissner A, et al. Proximal Cerebral Arteries Develop Myogenic Responsiveness in Heart Failure via Tumor Necrosis Factor-α-Dependent Activation of Sphingosine-1-Phosphate Signaling. Circulation 2012;126:196-206.
【文献】Meissner A, Yang J, Kroetsch JT, et al. Tumor Necrosis Factor-α-Mediated Downregulation of the Cystic Fibrosis Transmembrane Conductance Regulator Drives Pathological Sphingosine-1-Phosphate Signaling in a Mouse Model of Heart Failure. Circulation 2012;125:2739-50.
【文献】Meissner A, Visanji NP, Momen MA, et al. Tumor Necrosis Factor-α Underlies Loss of Cortical Dendritic Spine Density in a Mouse Model of Congestive Heart Failure. J Am Heart Assoc 2015;4:e001920.
【文献】Yagi K, Lidington D, Wan H, et al. Therapeutically Targeting Tumor Necrosis Factor-α/Sphingosine-1-Phosphate Signaling Corrects Myogenic Reactivity in Subarachnoid Hemorrhage. Stroke 2015;46:2260-70.
【文献】Murdaca G, Spano F, Contatore M, et al. Infection risk associated with anti-TNF-α agents: a review. Expert Opin Drug Saf 2015;14:571-82.
【文献】Kroetsch JT, Levy AS, Zhang H, et al. Constitutive smooth muscle tumour necrosis factor regulates microvascular myogenic responsiveness and systemic blood pressure. Nat Commun 2017;8:14805.
【文献】Blankenbach KV, Schwalm S, Pfeilschifter J, Meyer Zu Heringdorf D. Sphingosine-1-Phosphate Receptor-2 Antagonists: Therapeutic Potential and Potential Risks. Front Pharmacol 2016;7:167.
【文献】Boyle MP, Bell SC, Konstan MW, et al. A CFTR corrector (lumacaftor) and a CFTR potentiator (ivacaftor) for treatment of patients with cystic fibrosis who have a phe508del CFTR mutation: a phase 2 randomised controlled trial. Lancet Respir Med 2014;2:527-38.
【文献】van Doorninck JH, French PJ, Verbeek E, et al. A mouse model for the cystic fibrosis delta F508 mutation. EMBO J 1995;14:4403-11.
【文献】Loubinoux I, Volk A, Borredon J, et al. Spreading of vasogenic edema and cytotoxic edema assessed by quantitative diffusion and T2 magnetic resonance imaging. Stroke 1997;28:419-26.
【文献】Malik FA, Meissner A, Semenkov I, et al. Sphingosine-1-Phosphate Is a Novel Regulator of Cystic Fibrosis Transmembrane Conductance Regulator (CFTR) Activity. PLoS One 2015;10:e0130313.
【文献】Henrion D. Pressure and flow-dependent tone in resistance arteries. Role of myogenic tone. Arch Mal Coeur Vaiss 2005;98:913-21.
【文献】Okiyoneda T, Veit G, Dekkers JF, et al. Mechanism-based corrector combination restores ΔF508-CFTR folding and function. Nat Chem Biol 2013;9:444-54.
【文献】Bidani AK, Griffin KA, Williamson G, Wang X, Loutzenhiser R. Protective importance of the myogenic response in the renal circulation. Hypertension 2009;54:393-8.
【文献】Moien-Afshari F, Skarsgard PL, McManus BM, Laher I. Cardiac transplantation and resistance artery myogenic tone. Can J Physiol Pharmacol 2004;82:840-8.
【文献】Van Iterson EH, Karpen SR, Baker SE, Wheatley CM, Morgan WJ, Snyder EM. Impaired cardiac and peripheral hemodynamic responses to inhaled β2-agonist in cystic fibrosis. Respir Res 2015;16:103.
【文献】Prager B, Spampinato SF, Ransohoff RM. Sphingosine 1-phosphate signaling at the blood-brain barrier. Trends Mol Med 2015;21:354-63.
【文献】Baron JC. Perfusion thresholds in human cerebral ischemia: historical perspective and therapeutic implications. Cerebrovasc Dis 2001;11 Suppl 1:2-8.
【文献】Jefferson AL, Tate DF, Poppas A, et al. Lower cardiac output is associated with greater white matter hyperintensities in older adults with cardiovascular disease. J Am Geriatr Soc 2007;55:1044-8.
【文献】Hui S, Levy AS, Slack DL, et al. Sphingosine-1-Phosphate Signaling Regulates Myogenic Responsiveness in Human Resistance Arteries. PLoS One 2015;10:e0138142.
【文献】Balch WE, Roth DM, Hutt DM. Emergent properties of proteostasis in managing cystic fibrosis. Cold Spring Harb Perspect Biol 2011;3:a004499.
【文献】Roy R, Couriel JM. Secondary pulmonary hypertension. Paediatr Respir Rev 2006;7:36-44.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の下にある課題は、脳血管状態を改善するための新しいレジメンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の技術的問題の解決策は、特許請求の範囲、本説明、および添付の図に開示されている本発明の実施形態によって提供される。
【0009】
本発明者らはHFおよびSAHにおける脳灌流を減少させる、鍵となる分子メカニズムを明らかにした。注目すべきことには、両方の病態は、同じ基本的メカニズムによって、脳血管自己調節および脳血流(cerebral blood flow、CBF)を変える。特に、HFおよびSAHは、脳動脈血管壁内に発現する成熟した腫瘍壊死因子(TNF)を誘引し、平滑筋細胞に局在するTNFは、スフィンゴシン-1-リン酸(Sphingosine-1-phosphate,S1P)生成を刺激するオートクライン/パラクラインメカニズムによって作用し、そしてS1P受容体サブタイプを経由して血管収縮を引き起こす(非特許文献3、4、6)。本発明者らは、この機能的見識に注力し、HFおよびSAH介在脳血管収縮の増強(すなわち筋緊張の増加として測定)が除かれる、二つの治療上の介入、TNFの隔離(エタネルセプト)またはS1P受容体拮抗、が脳灌流を正常化し(非特許文献3、4、6)、結果的に神経損傷を減少する(非特許文献5、6)ことを成功裏に確認した。しかしながら、エタネルセプトは、免疫抑制に起因する著しいリスクを有し(非特許文献7)、骨格筋の径の小さな動脈への血圧制御効果を低下し、(非特許文献8)、一方でS1P2受容体はいくつかの組織において需要で多様な機能を仲介するので(非特許文献9)、S1P受容体を拮抗することにより予想できない二次作用を引き起こすので、これら二つの介入の利用は限定されるであろう。
【0010】
代替えの治療標的の探索において、嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス制御因子(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator、CFTR)が興味深い候補として浮上した。本発明者らによる以前の研究は、HFおよびSAHが脳動脈におけるCFTRタンパク質発現をダウンレギュレートすることを示し、CFTRは平滑筋細胞S1P分解に関与する重要なトランスポーターであるため(非特許文献4)、CFTRダウンレギュレーションはS1Pバイオアベイラビリティおよびその収縮促進効果を増強するはずである(非特許文献3,4)ことを示した。実際、血管のTNF発現、CFTR発現および筋反応性は密接に関連しており(非特許文献3,4、6)、TNF依存性脳動脈緊張の増加はCFTRタンパク質の発現の減少を介して調節される(非特許文献4)という本発明に係るメカニズムの提案を支持する。これに関連して、CFTR治療は免疫機能と折り合いをつけ、かつ、CFTR発現/活性の増加が可能である、FDA承認CFTR治療が知られていないため、脳微小循環内での筋反応性を直すためにCFTRは魅力的で論理的な治療標的になる。
【0011】
本発明は、脳血管状態の治療および/または予防のための、CFTRモジュレーター化合物の使用を提供することであり、すなわち、本発明によると、一つ以上のCFTRモジュレーターの使用である。
【0012】
本発明によると、「脳血管状態」は個人の、好ましくはヒト患者の脳血管システムを低下し、害し、苦しめる状態である。より特に、脳血管状態は脳血管血流を減少し低下する状態である。用語「脳灌流」は、それぞれ「脳血流」および「脳灌流」として知られ、それぞれに同義語である。
【0013】
本発明によると、脳血管平滑筋細胞において、CFTRモジュレーターがCFTRタンパク質の存在または発現のそれぞれに効果を奏する。このようにすることにおいて、CFTRモジュレーターが、脳血管Erk1/2リン酸化およびスフィンゴシン-1-リン酸シグナリングおよび/または脳血管筋反応性および/または脳血流および/または神経細胞死および脳血管損傷を正常化し、および/または、脳血管状態、好ましくは低下したまたは減じた脳血流のそれぞれを有する対象のふるまいおよび学習障害を直す。
【0014】
典型的には、脳血管状態または病状を有する対象は、それぞれ、基礎疾患を有しており、典型的には、前記脳血管状態を結果的に引き起こす病気を有し、または前記脳血管状態に関連する少なくとも一つの病状を有する。本発明によると、好ましい脳血管状態は、前記一以上のCFTRモジュレーターでそれぞれ治療または予防され、その脳血管状態は心臓病、心不全(HF)くも膜下出血(SAH)、突発性感音難聴(SSHL)、血管性認知症、高血圧、虚血性脳卒中、糖尿病およびアルツハイマー型によって引き起こされる状態である。
【0015】
本発明の「CFTRモジュレーター」は、細胞表面にわたって流れる塩化物(塩の成分)のためのチャネルを作るというCFTRの主要機能に働く、CFTRタンパク質の機能を調節する化合物である。
【0016】
本発明の内容におけるいくつかの利用できるCFTRモジュレーターは、当該技術分野で知られており、好ましくは、CFTR増強薬(ポテンシエーター)、CFTR矯正薬(コレクター)およびCFTR増幅薬を含む。CFTR増強薬は、CFTRチャネル活性を増加する。CFTR矯正薬はCFTR細胞発現を増加する。CFTR増幅薬はCFTR mRNAの量を増加することにより発現CFTRの量を増加する。より好ましい本発明のCFTRモジュレーターは、CFTRへのプロテオスタティック効果を有する薬剤であり、より好ましくはCFTR矯正薬およびCFTR増強薬であり、特に好ましくは、CFTR矯正薬である。CFTR矯正薬は、CFTRの量が低い時でさえも非常によい活性を及ぼすので、本発明における使用のためには非常に好ましい。
【0017】
本発明で使用するための特に有用なCFTR矯正化合物は、国際公開2005/075435号、国際公開第2007/021982号、国際公開第2008/127399号、国際公開第2009/108657号および国際公開第2009/123896号に開示されているものなどのシクロプロパンカルボキサミド誘導体である。本発明で使用するための他の好ましいCFTR矯正化合物は、ピリミジン誘導体などのアミノヘテロシクリル誘導体であり、好ましくは国際公開第2010/068863号、国際公開第2010/151747号、国際公開第2011/008931号に開示されている化合物、アミノチアゾール誘導体、好ましくは国際公開第2006/101740号に開示されている化合物、キノリン/キナゾリン誘導体、好ましくは国際公開第2012/166654号に開示されている化合物、クマリン誘導体、好ましくは国際公開第2014/152213号に開示されている化合物、トリメチルアンゲリシン誘導体、好ましくは国際公開第2012/171954号に開示されている化合物である。本発明で利用される更に有用なCFTR矯正化合物は、国際公開第2014/081821、国際公開第2014/081820号、国際公開第2010/066912号に開示されている。本発明で使用するさらなるCFTR矯正化合物およびその組成物には、トランスグルタミナーゼ2(TG2)阻害剤およびカゼインキナーゼ2(CK2)阻害剤が含まれる。本発明で使用するための好ましいTG2阻害剤は、システアミンである。本発明で使用するための好ましいCK2阻害剤は、エピガロカテキンガラート(epigallocatechin gallate、 EGCG)である。本発明の好ましい実施形態によれば、TG2阻害剤、好ましくは、システアミン、およびCK2阻害剤、好ましくは、EGCGを組み合わせて使用する。このような組み合わせは、同時投与、好ましくは単一の組成物として実施することができるが、2つの個別の阻害剤、すなわちTG2阻害剤およびCK2阻害剤、各阻害剤そのものまたは医薬組成物の成分の何れか、の同時投与、であることも想定されている。別の実施形態では、TG2阻害剤およびCK2阻害剤を順次投与することも可能である(ここでも、そのものとして、または適切な組成物に含まれるものとして。)
TG2阻害剤とCK2阻害剤、好ましくはシステアミンとEGCGの組み合わせに関しては、米国特許出願公開第2013/0310329号を参照とする。
【0018】
本発明で使用するCFTRモジュレーターの具体例としては、C18(VRT-534)、ルマカフトール(VX-809)、テザカフトール(VX-661)、4,4’, 6-トリメチルアンゲリシン、VRT-768、VRT-422、VRT-325、CFpot-532、Copo-22、002_NB_28(DBM228)、DBM_003_8Cl(DBM308)、およびこれらの化合物の任意の組み合わせが含まれるが、これらに限定されるものではない。本発明による最も好ましいCFTRモジュレーターは、C18とルマカフトールである。本発明は、薬学的に許容される塩、溶媒和物、そのようなエステルのエステル酸塩、および必要としている対象への投与時に、直接的または間接的に、本発明で使用するCFTRモジュレーターまたはその代謝物もしくは残留物を提供することができる他の付加物または誘導体の使用にも向けられていることを理解されたい。
【0019】
本発明はまた、上述の状態の治療および/または予防における使用のための、上述のCFTRモジュレーターに向けられている。本発明はまた、上述の状態の治療および/または予防のための医薬品の調製における、上述のCFTRモジュレーターの使用にも向けられている。
【0020】
さらに、本発明は、上述の状態の予防および/または治療のための方法であって、少なくとも1つの(すなわち 1つ以上の)CFTRモジュレーターを、そのような治療を必要とする対象、好ましくはヒトの患者、より好ましくは、心臓病、心不全(HF)、くも膜下出血(SAH)、突発性感音難聴(SSHL)、血管性認知症、高血圧、虚血性脳卒中、出血性脳卒中、心臓病および糖尿病、アルツハイマー病から選択される1つまたは複数の疾患のそれぞれに関連する、またはそれらそれぞれによって引き起こされる、脳血管状態に罹患している対象に投与することによって、上記の状態を予防および/または治療する方法を提供する。
【0021】
本発明によれば、1つ以上のCFTRモジュレーターは、そのフリーの形態で使用することができる。他の実施形態では、本発明で使用されるCFTRモジュレーター(すなわち、少なくとも1つのCFTRモジュレーター)は、典型的には、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤、希釈剤、担体および/またはビークルと組み合わせて、前記少なくとも1つのCFTRモジュレーターを含む医薬組成物中に存在する。
【0022】
本発明の方法および使用において適用されるCFTRモジュレーターの有効量、すなわち、特定の対象または生物に対する特定の有効用量レベルは、治療される疾病および疾病の重症度、使用する特定の化合物の活性、使用する特定の組成物、対象の年齢、体重、一般的な健康状態、性別、食生活、使用する特定の化合物の投与期間、投与方法、排泄率、治療の期間、特定の化合物と組み合わせて使用する薬、同時に使用する薬、医療分野でよく知られているような要素を含む様々な要因に依存する。
【0023】
本発明の文脈での好ましい用量は、特にルマカフトールおよびC18に関連して、体重1kgあたり約0.1 mgから約10 mg(以下、「mg/kg」と略す)、好ましくは約1 mg/kgから約8 mg/kg、より好ましくは約3 mg/kgから約5 mg/kgである。用量は、1日2回または3回など、1回またはそれ以上の頻度で投与してもよい。好ましくは、用量は1日1回または2回投与される。
【0024】
CFTRモジュレーターの投与経路は特に重要ではなく、個々のCFTRモジュレーター化合物または適用される化合物、および治療対象に応じて選択される。好ましくは、CFTRモジュレーターは、経口または静脈投与など全身に投与されるが、特に経口投与が好ましい。また、脳脊髄液への注射が特に好ましい局所的な投与方法として考えられる。
【0025】
「対象」とは、本明細書では、動物、好ましくは哺乳類、最も好ましくはヒトを意味する。
【0026】
本発明による使用のための、好ましくは上記に概説したような医薬組成物中に存在する少なくとも1つのCFTRモジュレーターは、脳血管状態の治療に有効な任意の量および任意の投与経路を用いて投与することができる。本発明によれば、「治療する」または「治療」という用語は、治療していない状態と比較して、少なくとも状態の重症度が進行しないこと、好ましくは状態の重症度が進行しないこと、より好ましくは状態の重症度が軽減されること、さらに好ましくは状態の重症度が実質的に軽減されること、そして理想的には状態が実質的に治癒することを意味するとして理解される。好ましくは、本発明による状態の重症度が少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%、特に好ましくは少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも90%減少し、状態の完全な治癒が本発明の治療の最も好ましい結果である。
【0027】
本発明の使用および方法のそれぞれの対象である脳血管状態、重症度を軽減する程度または治癒する程度のそれぞれに関して、脳血管状態は、典型的には、当業者に知られている医学的および診断的手順に従って、本発明による治療の前に、好ましくは本発明治療の開始後に典型的な間隔で、治療対象者の神経学的評価によって評価される。そのような評価には、好ましくは、例えば以下の例に記載されているような、MRIに基づく脳灌流の測定が含まれる(例えば対象がヒトの対象である場合任意に、検査対象の対象に適合させる)。
【0028】
本発明はさらに、肺疾患、好ましくは肺高血圧症、より好ましくは二次性肺疾患、特に動脈硬化症、心血管疾患(CVD、冠動脈疾患(CAD)のような)(狭心症および心筋梗塞(一般に心臓発作として知られている))、脳卒中、心不全、高血圧性心疾患、リウマチ性心疾患、心筋症、異常な心拍数、先天性心疾患、心臓弁膜症、心臓炎、大動脈瘤、末梢動脈疾患、血栓塞栓症、および静脈血栓症などのそれぞれに、関連または引き起こされる二次性肺高血圧症、の予防および/または治療のための、CFTRモジュレーターの使用に関する。本発明はさらに、肺疾患、好ましくは肺高血圧症、より好ましくは二次性肺疾患、特に動脈硬化症、心血管疾患(CVD、冠動脈疾患(CAD)のような)(狭心症および心筋梗塞(一般に心臓発作として知られている))、脳卒中、心不全、高血圧性心疾患、リウマチ性心疾患、心筋症、異常な心拍数、先天性心疾患、心臓弁膜症、心臓炎、大動脈瘤、末梢動脈疾患、血栓塞栓症、および静脈血栓症などのそれぞれに、関連または引き起こされる二次性肺高血圧症、の予防および/または治療のための方法であって、少なくとも1つのCFTRモジュレーター、好ましくは本願でより特定的に開示されるCFTRモジュレーターの、それを必要とする対象へ有効量投与する工程を含む方法である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1A】
図1Aから
図1Iは、CFTR
Δ508マウスにおける脳血流(脳内血流)の減少についてである。
図1Aから
図1Iにおけるすべてのデータは平均±標準誤差である。*はマン・ホイットニーのU検定(Mann-Whitney検定)による比較でP<0.05を示す。略語は以下の通りである。 CFTR: cystic fibrosis transmembrane conductance regulator(嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンスレギュレーター)、 Cre : cremaster (精巣拳筋)、 KO : knockout (ノックアウト)、 PCA posterior cerebral artery(後大脳動脈)、 WT: wild type(野生型)。[
図1A]:筋血管収縮は、同腹兄弟の野生型(WT)と比べて、嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンスレギュレーターΔF508変異マウスから単離された後大脳動脈においてより強い。
【
図1B】CFTR
Δ508マウスから単離された後大脳動脈は、フェニレフリン用量反応性において上方シフトを示す。
【
図1C】しかしながら、一度フェニレフリン反応が基底トーヌスまで正常化すると(tone
active - tone
rest、ここでtone
activeは所定のフェニレフリン濃度でのトーヌス、tone
restは刺激直前のトーヌス)、野生型(WT)とCFTR
Δ508のフェニレフリン用量反応は事実上一致した(二元配置分散分析(Two-way ANOVA test)P=N.S.)。45 mmHgでの平均最大血管径(dia
max)は、CFTR
ΔF508: 186±2 μm, n=6 、 4匹のマウスから、WT: 169±8 μm, n=5 、3匹のマウスから、であった(マン・ホイットニーのU検定(Mann-Whitney test) P=N.S. dia
maxに対して)。
【
図1D】磁気共鳴画像(MRI)を用いて,事前に決定した前脳皮質領域の脳血流を測定した。WTおよびCFTR
ΔF508マウスの前脳の代表的な血流マップを示す。脳血流はCFTR
ΔF508マウス(n=10)の方がWTの同胞(n=11)よりも有意に低いが、
【
図1F】全末梢抵抗(両群ともn=5)では両遺伝子型の間で差がない。
【
図1G】WTマウスにおいて、CFTRmRNA発現は、精巣拳筋動脈(n=6 )に比較して、後大脳動脈(n=5)のほうが著しく高い。60 mmHgでの平均最大血管径(dia
max)は、WT(パネルG):72±3μm、n=5(4匹から)、CFTR KO(パネルH):88±4μm、n=6(4匹から)、WTの同腹個体(パネルH):78±4μm、n=5(2匹から)、である。
【
図1H】精巣拳筋動脈の径の小さな動脈の筋緊張は、in vitroにおいてCFTR阻害により変化しない(100 nmol/L CFTR
(inh)-172、30分間)。
【
図1I】CFTR遺伝子欠損(CFTR KO)では、しかしながら、筋緊張の著しい低下を、わずかではあるが引き起こす。
【
図2A】
図2Aから
図2Gは、プロテオスタティック機構による、C18による野生型CFTRタンパク質発現の増加についてである。
図2Aから
図2Gにおけるすべてのデータは平均±標準誤差である。パネルAからDでは、*はMann-Whitney検定による不対比較でP<0.05を示し、パネルEからGでは、*はKruskal-Wallis(クラスカル・ウォリス)検定およびDunnの多重比較検定によるコントロールとの不対比較でP<0.05を示す。略語は次のとおりである。Con:コントロール、CFTR:嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンスレギュレーター、TNF:腫瘍壊死因子。[
図2A]:C18を投与した(1日あたり3 mg/kg、2日間、n=5)ナイーブマウスから分離した脳動脈は、ビークルコントロール(n=5)から採取した動脈と比較して、嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンスレギュレーター(CFTR)のタンパク質発現が高い。
【
図2B】C18は脳動脈のCFTR mRNA発現に影響を与えない(Con n=6、C18 n=5)。
【
図2C】C18(6μmol/L、24時間)はヒトCFTRを安定的に発現しているベビーハムスター腎臓線維芽細胞のCFTRタンパク質発現を増加させる(両群ともn=12)。
【
図2D】C18はこの系でのCFTR mRNA発現に影響を与えない(両群ともn=6)。
【
図2E】腫瘍壊死因子(TNF;10ng/ml、48時間)は、腸間膜動脈の初代血管平滑筋細胞のCFTRタンパク質発現をダウンレギュレートし(コントロール:n=8、TNF:n=8)、24時間のTNFインキュベーションの後にTNFとC18(6μmol/L、24時間)を共にインキュベーションすると(すなわち、48時間TNF+24時間C18)CFTRタンパク質発現が完全に回復する(n=7)。
【
図2F】血管平滑筋細胞におけるCFTRタンパク質発現の回復は、低下したFITC標識スフィンゴシン-1-リン酸の取り込みの正常化と相関している(標準的な蛍光活性化細胞選別解析法により、525nmでの蛍光強度の増加として測定。コントロール:n=7、TNF:n=10;TNF+C18:n=6)。
【
図2G】フォルスコリン刺激によるヨウ化物流出(コントロール:n=7、TNF:n=6、TNF+C18:n=6)を示した。
【
図3A】
図3Aから
図3Gは、心不全におけるC18による脳灌流の回復についてである。
図3Aから
図3Gにおけるすべてのデータは平均±標準誤差である。パネルAおよびDでは、*はKruskal-Wallis検定およびDunnの多重比較検定によるSham (偽手術)との不対比較でP<0.05を示す。パネルBでは、*はTwo-way ANOVA検定およびTukeyの多重比較検定によるShamとの不対比較でP<0.05を示す。パネルCでは、*はTwo-way ANOVA検定(P=N.S.)での統計的比較を示す。パネルEからGでは、*はKruskal-Wallis検定およびDunnの多重比較検定によるHFとの不対比較でP<0.05を示す。パネルAに表示されている代表的なウエスタンブロット画像のサンプルはすべて同じフィルムから得られたものだが、HF+C18のサンプルはこの図のようにこのフィルム上で隣接して配置されていなかった。略語は次のとおりである。Sham : 偽手術、Con:コントロール、CFTR:嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンスレギュレーター、dia
max:最大血管径、HF:心不全、KO:ノックアウト。[
図3A]:心不全マウス(左前下行枝冠動脈結紮後6週間)から分離した脳動脈は、偽手術を受けたコントロールマウスから分離した動脈(n=6)と比較して、嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンスレギュレーター(CFTR)タンパク質の発現が低下している(n=5)。C18をin vivoで投与(1日3mg/kg、2日間)すると、この脳動脈のCFTRタンパク質発現の低下が解消される(n=8)。
【
図3B】C18をin vivoで投与すると、HFマウスから単離した後大脳動脈の筋緊張が低下した。
【
図3C】
図3Bのような効果は、CFTR ノックアウト(KO)マウスでは見られない。45 mmHgでの平均最大血管径(dia
max)は、Sham (偽手術):146±9 μm, n=5 3匹のマウス、HF:149±8μm,n=6 4匹のマウス、HF+C18:155±8μm,n=8 6匹のマウスから(Kruskal-Wallis test P=N.S. dia
maxに対して),およびCFTR KO:142±5μm,n=6 3匹のマウスから、CFTR KO+C18:145±5μm,n=6 3匹のマウスから(Mann-Whitney test P=N.S. dia
maxに対して)。
【
図3D】シャム手術をした対照マウスと比較して、HFマウスでは、心拍出量が低下する(Sham:n=6、HF:n=8、HF+C18:n=8)。
【
図3E】偽手術をした対照マウスと比較して、HFマウスでは、全末梢抵抗が上昇する(全群ともn=6)。
【
図3F】偽手術をした対照マウスと比較して、HFマウスでは、平均動脈圧が減少する(全群ともn=6)。
【
図3G】前脳皮質の脳灌流を測定するために使用した磁気共鳴画像による血流マップの代表例を示す。HFでは脳灌流の低下が促進され、C18の投与によりHFマウスの脳血流が有意に改善した(sham:n=6、HF:n=8、HF+C18:n=8)。
【
図4】
図4は、C18による脳浮腫の誘発についてである。 脳の水分量を磁気共鳴画像(MRI)のT
2緩和時間として評価した代表的な定量的T
2マップを示している。前脳,中脳,後脳の各領域をカバーする,1匹のマウスにつき,合計9枚のT
2マップを評価した。Sham (偽手術)マウス(上段)、心不全マウス(HF、中央)、C18投与マウス(1日3 mg/kg 2日間、下段)の前脳(左)、中脳(中央)、後脳(右)領域からのスライスである、代表的画像を示す。心不全マウスとC18投与の心不全マウスでは、いずれの調べたスライスにおいて、いずれも関心領域のT
2緩和時間に変化が見られない。そこで、大脳皮質および皮質下領域の平均T2緩和時間を得るためにデータをプールし、グラフで示した(sham:n=7、HF:n=7、HF+C18:n=6、大脳皮質および皮質下領域でそれぞれMann-Whitney検定 P=N.S.)。 すべてのデータは平均値±標準誤差であり,Kruskal-Wallis検定(P=N.S.)を用いて各群を統計的に比較した。略語は、HF:心不全、である。
【
図5A】
図5Aから
図5Dは、くも膜下出血におけるC18による脳灌流の回復についてである。 45 mmHgでの平均最大血管径(dia
max)は、Sham (偽手術):113±3 μm n=5 3匹のマウスから、SAH:109±6 μm n=6 6匹のマウスから、SAH+C18:104±12 μm n=5 4匹のマウスから (Kruskal-Wallis test P=N.S. dia
maxに対して)、CFTR WT:98±6 μm n=8 4匹のマウス、CFTR KO:110±8 μm n=5 4匹のマウスから、CFTR KO+C18:96±6 μm n=6 3匹のマウスから(Kruskal-Wallis test P=N.S. for dia
max)、である。
図5Aから
図5Dにおけるすべてのデータは平均±標準誤差である。パネルAおよびDでは、*は、Kruskal-Wallis検定およびDunnの多重比較検定によるSAHとの不対比較でP<0.05を示す。パネルBでは、*は、Two-way ANOVA検定およびTukeyの多重比較検定検定によるSAHとの不対比較でのP<0.05を示す。パネルCでは、グループはTwo-way ANOVAで統計的に比較された(P=N.S.)。略語は次のとおりである。CFTR:嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンスレギュレーター、Sham:偽手術、WT:野生型、dia
max:最大血管径、HF:心不全、KO:ノックアウト、SAH:くも膜下出血。[
図5A]:くも膜下出血(SAH;SAH誘発後2日目)のマウスから分離した脳動脈(n=6)では、偽手術をしたコントロール(Sham)から分離した動脈(n=6)と比較して、嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンスレギュレーター(CFTR)タンパク質の発現が低下している。in vivoでC18を投与(1日3mg/kg、2日間)すると、この動脈のCFTRタンパク質発現の低下が解消される(n=6)。
【
図5B】in vivoでC18を投与すると、SAHを発症したマウスから単離した嗅覚動脈の筋緊張が低下する。
【
図5C】
図5Bの効果は、CFTRノックアウト(KO)マウスから単離した嗅覚動脈では観察されない。
【
図5D】前脳皮質の脳灌流を測定するために使用された代表的な磁気共鳴画像の血流マップを示す。SAHでは脳灌流の低下が促進され、C18投与によりSAHマウスの脳灌流は有意に改善される(sham:n=10、SAH:n=5、SAH+C18:n=9)。
【
図6A】
図6Aから
図6Gは、くも膜下出血におけるルマカフトールによる、プロテオスタティック機構による野生型CFTRタンパク質発現の増加、および脳灌流の回復、についてである。
図6Aから
図6Gにおけるすべてのデータは平均±標準誤差である。パネルAおよびDでは、*は、Mann-Whitney検定によるSAHとの不対比較でP<0.05を示す。パネルEからGでは、*は、Kruskal-Wallis検定およびDunnの多重比較検定によるSAHとの不対比較でのP<0.05を示す。パネルFでは、グループはTwo-way ANOVAおよびTukeyの多重比較検定検定によるSAHとの不対比較でのP<0.05を示す。略語は次のとおりである。CFTR:嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンスレギュレーター、 dia
max:最大血管径、Con:コントロール、Lum:ルマカフトール、SAH:くも膜下出血。[
図6A]:ルマカフトール(Lum; 1日 3 mg/kg、2日間、n=6)を投与したナイーブマウスから分離した脳動脈は、ビークルコントロール(n=7)から採取した動脈に比べて、嚢胞性線維症膜貫通型コンダクタンスレギュレーター(CFTR)タンパク質の発現が高い。
【
図6B】ルマカフトールは脳動脈のCFTR mRNA発現に影響を与えない(両群ともn=5)。
【
図6C】ルマカフトール(6μmol/L; 24時間)は、ヒトCFTRを安定的に発現するベビーハムスター腎臓線維芽細胞のCFTRタンパク質発現を増加させる(両群ともn=13)
【
図6D】ルマカフトールはこの系のCFTR mRNA発現に影響を与えない(両群ともn=6)。
【
図6E】くも膜下出血(SAH)のマウスから分離した脳動脈(n=5)では、CFTRタンパク質の発現が、偽手術を受けたコントロールマウスから分離した動脈(n=6)に比べて低下している)。ルマカフトールをin vivoで投与(1日3mg/kg 2日間)すると、脳動脈のCFTRタンパク質の発現低下が解消される(n=6)。
【
図6F】ルマカフトールをin vivoで投与すると、SAHを発症したマウスから分離した嗅覚動脈の筋緊張が低下する。 45 mmHgでの平均最大血管径(dia
max)は、Sham (偽手術): 91±3μm n=7 4匹のマウスから、SAH:86±2μm、n=6 3匹のマウスから、SAH+Lum:87±4μm n=7 4匹のマウスから(Kruskal-Wallis test P=N.S. dia
maxに対して)、である。
【
図6G】脳灌流の測定に使用した代表的な磁気共鳴画像の血流マップを示す。SAHでは脳灌流の低下が促進され、ルマカフトールの投与はSAHを発症したマウスの脳灌流を有意に改善する(sham:n=6、SAH:n=5、SAH+Lum:n=6)。
【
図7A】
図7Aから
図7Eは、くも膜下出血におけるCFTR矯正による神経損傷の減少についてである。
図7Aから
図7Eにおけるすべてのデータは平均±標準誤差である。*は、Kruskal-Wallis検定およびDunnの多重比較検定によるShamとの不対比較でのP<0.05を示す。パネルCおよびDでは、+はKruskal-Wallis検定およびDunnの多重比較検定による未処理のSAHと比較してP<0.05を示す。略号は次の通りである。Sham :偽手術、Lum:lumacaftor、SAH:くも膜下出血。[
図7A]:コホート解析用に、C18(1日3mg/kg、2日間)投与した大脳皮質細胞を切断型カスパーゼ3の発現(上)およびフルオロジェイド(下)で染色した代表的な画像を示している。
【
図7B】コホート解析用に、ルマカフトール(Lum、1日3mg/kg、2日間)投与した大脳皮質細胞を切断型カスパーゼ3の発現(上)およびフルオロジェイド(下)で染色した代表的な画像を示している。
【
図7C】くも膜下出血(SAH、n=13)では、カスパーゼ3陽性細胞の数が、偽手術をしたコントロール(n=12)と比較して増加する。C18(n=6)およびルマカフトール(n=5)投与により、増加は解消する。
【
図7D】くも膜下出血(SAH、n=13)では、フルオロジェイド陽性細胞の数が、偽手術をしたコントロール(n=12)と比較して増加する。C18(n=6)およびルマカフトール(n=5)投与により、増加は解消する。
【
図7E】SAHを発症したマウス(n=11)は、偽手術を受けたマウス(n=11)と比較して、修正 Garciaスコア(最大スコア=18;SAH後2日目に盲検で評価)が低く、C18治療(n=10)により神経学的スコアが偽手術(Sham)のレベルに回復した。
【
図8】
図8は、FAIR-EPIおよび解析画像における関心領域の設定についてである。 心不全(上段)またはくも膜下出血(SAH;下段)の手術を受けたマウスの代表的な解剖学的T2強調画像,flow-sensitive alternating inversion recovery(FAIR)法のT1強調画像,およびFAIR脳血流(CBF)マップを示す。関心領域は,MIPAVソフトウェアを用いて,反転時間(TI)825 msで取得した前脳スライスFAIR画像上に手動で描画した。関心領域は,図のように,1脳半球内の皮質の体積の約1 mm
3に相当する。この関心領域を,各反転時間でのFAIR画像から得られたCBFマップに直接コピーした。SAHマウスと偽手術を受けたコントロールでは、様々な程度のエコープラナーイメージング(EPI)歪みが見られた(FAIR画像で最もよく見える)が、心不全マウスではEPI歪みは最小であった。 略語は次の通りである。CBF:脳血流、EPI:echo-planar imaging(エコープラナー法)、FAIR: flow-sensitive alternating inversion recovery、SAH:くも膜下出血。
【
図9】
図9は、CFTRノックアウトマウスにおける平均動脈圧についてである。 嚢胞性線維症膜貫通型コンダクタンスレギュレーターのノックアウトマウス(CFTR KO; CFTRtm1Unc; n=6)では、野生型の同腹仔(WT; n=6)に比べて平均動脈圧が低い。*は、不対比較でのP<0.05を示す。 略語は次の通りである。CFTR: 嚢胞性線維症膜貫通型コンダクタンスレギュレーター、KO : ノックアウト、WT:野生型。
【
図10A】
図10AおよびBは、マウス精巣拳筋動脈におけるフェニレフリン反応についてである。フェニレフリンは,野生型および嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンスレギュレーターノックアウトマウス(CFTR KO; CFTRtm1Unc)から分離した精巣拳筋動脈の血管収縮を用量依存的に刺激する。
図10AおよびBにおける略語は次の通りである。CFTR : 嚢胞性線維症膜貫通型コンダクタンスレギュレーター、dia
max:最大血管径、KO : ノックアウト、NS:有意差なし。[
図10A]: in vitroでCFTRを阻害してもフェニレフリン用量反応関係は変化しない。
【
図10B】CFTR遺伝子欠損してもフェニレフリン用量反応関係は変化しない。 60 mmHgでの平均最大血管径(dia
max)は、野生型(パネルA):72±3 μm n=5 4匹のマウスから、CFTR KO(パネルB):88±4 μm n=6 4匹のマウスから、野生型同腹仔(パネルB):79±4 μm n=5 2匹のマウスから、である。パネルAでの用量反応曲線は、Two-way ANOVAによるt検定対比較(P=NS)、パネルBでの用量反応曲線は、Two-way ANOVAによる不対比較(P=NS)である。パネルBについては、KOと野生型のdia
maxの値に差がない(t検定 P=NS)。
【
図11A】
図11AおよびBは、in vivo C18投与に続くマウス後大脳動脈でのフェニルフェリン反応についてである。45mmHgでの平均最大血管径(dia
max)は以下の通り。HF:137±7μm、n=5 3匹のマウスから、HF+C18:140±8μm n=5 4匹のマウスから(t検定 P=NS)。両パネルにおいて、*はTwo-way ANOVAでP<0.05を示す。
図11AおよびBにおける略語は次の通りである。Sham :偽手術、dia
max:最大血管径、HF:心不全、NS:有意差なし。[
図11A]:心不全マウス(CF)およびC18を投与した心不全マウス(HF+C18)から分離した後大脳動脈において、フェニレフリンが用量依存的な血管収縮を刺激する(3mg/kg i.p.を毎日2日間投与)。統計解析により、2つの曲線の間に有意差があることが確認された(すなわち、HF+C18に比べてHFの動脈では有意に高い緊張が見られる)。しかしながら、
【
図11B】データを基底トーヌスでノーマライズすると(tone
active-tone
rest、ここでtone
activeは所定のフェニレフリン濃度でのトーヌス、tone
restは刺激直前のトーヌス)、用量反応関係に有意な差は見られなかった。
【
図12A】
図12AおよびBは、偽手術を施したマウスから分離した後大脳動脈において、in vivo C18投与は筋緊張またはフェニレフリン反応を変化しないことを示している。両パネルの曲線は、Two-way ANOVAで比較した(P=NS)。略語は次の通りである。Sham :偽手術、dia
max:最大血管径、NS:有意差なし。[
図12A]:in vivoでのC18投与(3mg/kg i.p.を毎日2日間投与)は、偽手術を受けたマウスから分離した後大脳動脈の筋緊張を変化しない。Sham:146±9μm,n=5(3匹)、Sham+C18:138±9μm,n=7(4匹)(t検定 P=NS)
【
図12B】in vivoでのC18投与(3mg/kg i.p.を毎日2日間投与)は、フェニレフリン反応を変化しない。Sham:148±7μm,n=6(3匹),Sham+C18:130±10μm,n=5(3匹)(t検定 P=NS)
【
図13】
図13は、C18投与 CFTRノックアウトマウスからの後大脳動脈におけるフェニレフリン反応についてである。嚢胞性線維症膜貫通型コンダクタンスレギュレーターのノックアウトマウス(CFTR KO; CFTRtm1Unc)から分離した後大脳動脈において,フェニレフリンは用量依存性の血管収縮を刺激する。in vivoでのC18投与(3mg/kg i.p.を毎日2日間投与)は、フェニレフリン用量反応関係を変化しない。 45mmHgでの平均最大血管径(dia
max)は CFTR KO : 142±5 μm n=6 (3匹)、 CFTR KO + C18 : 145±5 μm n=6 3匹)(t検定 P=NS)。略語は次の通りである。CFTR : 嚢胞性線維症膜貫通型コンダクタンスレギュレーター、dia
max:最大血管径、KO : ノックアウト、NS:有意差なし。
【
図14A】
図14Aから
図14Dは、尖端樹状突起および基底樹状突起のSholl analysisの内訳についてである。*は、Two-way ANOVA検定およびDunnetの多重比較検定検定による偽手術マウスとの不対比較でのP<0.05を示す。略語は次の通りである。HF:心不全。[
図14A]:尖端樹状突起の、樹状突起長(細胞体からの距離)に対する樹状突起の交点数(樹状突起の分岐)をプロットしたSholl analysisヒストグラムを示す。偽手術群(N=4マウスからn=13の神経細胞)、心不全群(HF;n=11;N=4)、HF+C18群(3mg/kg i.p.を2日間毎日投与;n=11;N=4)では、枝分かれの形態に違いは見られないが、HFマウスでは、偽手術群およびHF+C18群に比べて、尖端樹状突起の長さが短い。
【
図14B】平均尖端樹状突起長(すなわち最大半径)は、HFマウスでは、偽手術マウスに比べて著しく減少し、この効果はC18投与により正常化する。
【
図14C】基底樹状突起のSholl analysis ヒストグラムは、偽手術群(n=12; N=4)、HF群(n=13;N=4)、HF+C18群 (n=11; N=4) において違いが見られないが、基底樹状突起の長さは、HFマウスでは、偽手術群およびHF+C18群に比べて短い。
【
図14D】平均基底樹状突起長(すなわち最大半径)は、HFマウスでは、偽手術マウスに比べて著しく減少し、この効果はC18投与により正常化する。
【
図15A】
図15AおよびBは、尖端樹状突起のスパイン密度解析についてである。群は統計的にTwo-way ANOVAで比較した(P=NS)。略語は次の通りである。HF:心不全、NS:有意差なし。[
図15A]:偽手術マウス(N=4匹から8個の神経細胞)、心不全マウス(HF; n=6; N=3)、HF+C18マウス(3mg/kg i.p.を2日間毎日投与; n=10; N=4)では、尖端樹状突起スパイン密度(すなわちシナプス密度の測定)は樹状突起の長さにわたって比較的一定であり、統計的にゼロと変わらない傾きを示す。
【
図15B】傾向はあるものの、細胞体から60~100μmの位置での平均尖端樹状突起スパイン密度は、統計的に有意ではない。
【
図16A】
図16AおよびBは、in vivo C18投与に続くマウス嗅覚脳動脈におけるフェニレフリン反応についてである。 45mmHgでの平均最大血管径(dia
max)は、SAH:109±6μm n=6 (6匹)、SAH+C18:105±12μm n=5 (4匹)(t検定 P=NS)、である。略語は次の通りである。dia
max:最大血管径、NS:有意差なし、SAH:くも膜下出血。 [
図16A]:くも膜下出血(SAH)マウスおよびC18投与SAHマウス(3 mg/kg i.p. 2日間毎日投与)から分離した嗅覚脳動脈において、フェニレフリンが用量依存性の血管収縮を刺激する。明らかに乖離傾向がみられるが、2つの曲線は統計的には差がない。
【
図16B】データを基底トーヌスでノーマライズすると(tone
active-tone
rest、ここでtone
activeは所定のフェニレフリン濃度でのトーヌス、tone
restは刺激直前のトーヌス)、用量反応関係の乖離は最小限に抑えられる。
【
図17A】
図17AおよびBは、偽手術マウスにおいて、C18は筋緊張またはフェニレフリン反応に影響を与えないことを示す。45mmHgでの平均最大血管径(dia
max)は、偽手術:113±3 μm n=5(3匹)、偽手術+ C18:110±8 μm n=6(4匹)(t検定 P=NS)、である。曲線はTwo-way ANOVAで比較した。略語は次の通りである。dia
max:最大血管径、NS:有意差なし。 [
図17A]:in vivoでのC18投与(3mg/kg i.p.を毎日2日間投与)は、偽手術を受けたマウスから分離した嗅覚脳動脈において筋緊張を変化しない。
【
図17B】in vivoでのC18投与は、偽手術を受けたマウスから分離した嗅覚脳動脈においてフェニレフリン用量反応関係を変化しない。
【
図18】
図18は、CFTRノックアウトマウスから分離した嗅覚脳動脈におけるフェニレフリン反応についてである。 嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンスレギュレーターのノックアウトマウス(CFTR KO; CFTRtm1Unc)から分離した嗅覚脳動脈において、フェニレフリンは野生型(WT)の同腹仔と同様の用量依存性の血管収縮を刺激する。In vivoでのC18処理(3mg/kg i.p.を2日間毎日)は、フェニレフリンの用量反応関係を変化させない。 45mmHgでの平均最大血管径(dia
max)は、WT:98±6μm n=8(4匹)、CFTR KO:110±8μm n=5(4匹)、CFTR KO + C18:96±6μm n=6(3匹)、である(one-way ANOVA P=NS)。曲線はtwo-way ANOVAで比較した。略語は次の通りである。CFTR : 嚢胞性線維症膜貫通型コンダクタンスレギュレーター、dia
max:最大血管径、KO : ノックアウト、NS:有意差なし、WT:野生型。
【
図19】
図19は、in vivo ルマカフトールに続く、マウス嗅覚脳動脈におけるフェニレフリン反応についてである。 ルマカフトール(Lum)をin vivoで投与(3mg/kg i.p.を2日間毎日)してもくも膜下出血(SAH)のマウスから分離した嗅覚脳動脈におけるフェニレフリン用量反応関係は変化しない。 45mmHgでの平均最大血管径(dia
max)は、SAH:86±2μm n=6(3匹)、SAH+Lum:87±4μm n=7(4匹)(t検定 P=NS)。曲線はtwo-way ANOVAで比較した。略語は次の通りである。dia
max:最大血管径、Lum:ルマカフトール、NS:有意差なし、SAH:くも膜下出血。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、下記の限定されない実施例によってさらに示される。
【実施例】
【0031】
方法と試薬
【0032】
[試薬]
ハムスターの子における腎線維芽細胞でCFTRを検出するために使用される抗ヒト嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンスレギュレーター(CFTR)抗体(「抗体596」)、CFTR矯正薬(コレクター)「C18」(CF-106951;WO2007/021982参照。1-(ベンゾ[d][1,3]ジオキソール-5-イル)-N-(5-((2-クロロフェニル)(3-ヒドロキシピロリジン-1-イル)メチル)チアゾール-2-イル)シクロプロパンカルボキサミド)は、Cystic Fibrosis Foundation Therapeutics Chemical and Antibody Distribution Programs (嚢胞性線維症財団治療薬・抗体配布プログラム)(http://www.cff.org/research) から得た。John Riordan 博士(University of North Carolina Chapel Hill)から「596 CFTR抗体」が、Robert Bridges 博士(Rosalind Franklin University of Medicine and Science, Chicago, USA)からC18化合物が提供された。596 CFTR抗体は、アミノ酸1204から1211(すなわち、ヌクレオチド結合ドメイン2に位置する)を標的としている(方法と試薬・参考文献1)。フルオレセイン標識試薬S1P(FITC-S1P)は,Echelon Biosciences社(Cedarlane Laboratories社経由;Burlington, Canada)から購入した。ルマカフトールはSelleck Chemicals社(Cedarlane Laboratories社)から、組換え腫瘍壊死因子はSigma-Aldrich Canada社(Oakville, Canada, cat# T6674)から、プロテアーゼ阻害剤カクテルタブレット(Complete(登録商標);ウェスタンブロット溶解バッファーに使用)はRoche社(Mississauga, Canada)から購入した。プロテアーゼインヒビターカクテルタブレット(Complete(登録商標);ウェスタンブロット溶解バッファーに使用)はRoche社(カナダ、ミシソーガ)から購入した。その他の化学試薬はすべてSigma-Aldrich社から購入した。MOPSバッファーには、NaCl 145 mmol/L 、KCl 4.7 mmol/L、CaCl2 3.0 mmol/L、MgSO4 -7H2O 1.17 mmol/L、NaH2PO4 -2H2O 1.2 mmol/L、ピルビン酸 2.0 mmol/L、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)0.02 mmol/L、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)3.0 mmol/L、グルコース5.0 mmol/L の成分が含まれている。
【0033】
[CFTR変異体およびノックアウトマウス]
Hospital for Sick Children(Toronto)で確立されたコロニーから、ΔF508 CFTR突然変異体(CFTRtm1EUR;本研究では「ΔF508」と示す)(方法と試薬・参考文献2)、CFTR遺伝子欠損体(CFTRtm1Unc;CFTR-/-と命名)、および相補的野生型コントロール同腹仔、のホモ接合の雄マウスを入手した(すべての CFTR-/-、CFTRΔF508、野生型同腹仔は混合系統)。CFTR-/-マウスは麻酔下で非常に死亡しやすいことがわかった。この死亡率は,脳動脈の分離を伴う実験(
図3Cおよび5Cなど)では問題ではなかったが,脳血流や全身の血行動態の測定に大きな影響を与えた。CFTR-/-マウスとは異なり、CFTRΔF508変異マウスは麻酔中に死に至ることはほぼなかった。CFTRΔF508の突然変異は、CFTRの細胞膜への輸送を著しく低下させるため(方法と試薬・参考文献3)、CFTRΔF508マウスモデルではCFTRの活性が非常に低い(方法と試薬・参考文献2,4,5)。したがって、CFTRΔF508モデルは、脳血流や全身の血行動態の測定において、CFTR-/- マウスの適切な代替えとなる。CFTR-/-の死亡率の根本的な原因については追求しなかった。CFTR-/- もCFTRΔF508も、ストレスに対して不利に反応することが広く知られている。その例として、飼育環境や輸送事情は、死亡率を著しく増加させる2つの顕著なストレス要因である(方法と試薬・参考文献6)。興味深いことに、CFTRΔF508マウスは、CFTR-/-マウスよりも重篤な表現型を示さない(方法と試薬・参考文献5,6)。これは、CFTRΔF508動物に存在する少量の残存CFTR活性によるものと推定される(方法と試薬・参考文献2)。このことから、CFTR-/-マウスは動物施設内の外部環境ストレス要因(飼育環境、騒音、ハンドリングなど)により敏感に反応し、最終的に麻酔下での死亡率が高くなったのではないかと予想される。実験モデルとしてのCFTRΔF508マウスは、CFTRの機能低下に伴ういくつかの異常を持っている。腸の合併症は、CFTR突然変異の最も顕著な病理学的影響であり、これは出生後の死亡率の主要原因でもある(方法と試薬・参考文献6,7)。共通の消化器系問題には、濃粘液貯留、運動障害および腸閉塞の強い傾向、が含まれる。CFTRΔF508マウスは、野生型のマウスに比べて体重/サイズが40から50%小さいが、成人まで元気に成長する (方法と試薬・参考文献6,7)。他にもいくつかの野生型マウスとの違いが観察されているが、これらは比較的小さいと思われる(方法と試薬・参考文献6,7)。例えば、特定の組織(腎臓、胆嚢、鼻腔上皮など)では、塩素電流やナトリウム輸送の変化が認められるが、組織が組織学的に損なわれているとは思えないため、これらの違いの病理学的な意味は明らかではない(方法と試薬・参考文献6,7)。なお、CFTRΔF508マウス(および一般的なCFTR変異マウス)の嚢胞性線維症の表現型は、ヒトの嚢胞性線維症と比較してかなり軽度である。CFTRΔF508マウスの下気道は基本的に正常であり、下気道上皮の異常は見られず、チャレンジなしでは肺炎を自然に発症しない (方法と試薬・参考文献6,7)。膵臓、胆嚢、肝臓、胆管、男性生殖管、涙腺、顎下腺は明らかな病理組織を示さない(方法と試薬・参考文献5から7)。重度の嚢胞性線維症の表現型が見られないのは、マウスの特定の組織にCFTRではないカルシウム依存性塩素チャネル(CACC)が発現し、CFTRの欠損を補っていることが一因である(方法と試薬・参考文献7,8)。
【0034】
[グローバル血行動態パラメーター]
既述のとおり(方法と試薬・参考文献9-11)、心エコーの測定は、平均動脈圧(MAP)の測定(Millar SPR-671 micro-tip mouse pressure catheter; Inter V Medical Inc, Montreal, Canada)とともに、30MHzの機械式セクタトランスデューサ(Vevo 770; Visual Sonics, Toronto, Canada)を用いて収集した。大動脈流量の時間流速積分値(VTI)は、大動脈基部のすぐ上でパルス波ドップラーを用いて測定した。大動脈の断面積(CSA)は、大動脈基部の寸法(ARD)から算出した。CSA = π(ARD/2)2. ストローク量(SV)、COおよびTPRは以下のように算出した。SV = CSA x VTI; CO = SV x HR; TPR = MAP/CO。
【0035】
[脳灌流のMRIによる測定]
これまでに述べたように(方法と試薬・参考文献10-12),我々は脳血流(CBF)を評価するために,flow-sensitive alternating inversion recovery(FAIR)法(造影剤を用いずに反転パルスによるラベリングを利用する方法)磁気共鳴画像(MRI)技術を用いた(13)。撮像中、マウスは1.8%のイソフルランをノーズコーンから投与されて固定された。体温を維持するため、外部のヒーターポンプから水を転換する、埋め込まれたチューブをMRIは備えた。呼吸は空気圧式枕(SA Instruments, Stonybrook, USA)を用いてモニターし、イソフルラン濃度は呼吸数が一分当たり約50回分になるように調整した。
【0036】
FAIR画像は、B-GA12グラジエントインサート、RF送信用の内径72mmのリニアボリュームレゾネーター、RF受信用の前方に配置されたヘッドコイルを含む、7 Tesla micro-MRI system(BioSpec 70/30 USR, Bruker BioSpin, Ettlingen, Germany)を用いて得られた。FAIR法では、次の式のように、非選択的反転調整に比べて選択的スライスに続く加速したT1シグナル緩和として灌流を分離する。
CBF = l (1/T1,ss - 1/T1,ns) (ml/(100g×min)
ここで,「ss」と「ns」はスライス選択型と非選択型の測定を示し,lは脳血液分配係数で,脳組織1gあたりの水分濃度と血液1mlあたりの水分濃度の比として定義される。この係数は、マウスでは約90ml/100gである(方法と試薬・参考文献14)。
本研究で用いたFAIR最適化は,前述の断熱反転を用いたsingle-shot echo planar imaging(シングルショットEPI)法であった。パラメータは、エコー時間12.5 ms、繰り返し時間17秒、25~6825msの範囲で400ms刻みで反転時間18回、3mmのスライス選択型反転スラブ、18×18mmの視野、72×72のマトリクスで250μmの面内分解能、1mmのスライス厚、10分12秒のデータ取得時間であった。撮像は、前脳、中脳、後脳の垂直断面において、前循環、混合循環、後循環に対応して繰り返し行われた。FAIR画像は,大脳半球下の関心領域(ROI)、「グローバル」と定義する、と大脳皮質および皮質下実質組織,中脳皮質および脳室傍実質組織,後脳皮質および中脳実質組織に対応する局所的な関心領域(ROI)を手動で設定(MIPAV, NIH, Bethesda, MD; http://mipav.cit.nih.gov)して評価した。ROIは,スキャン内の動きを手動で補正できるように,T1強調信号画像上に直接描画した。ROIをパラメトリックCBFマップに登録し,高灌流血管や髄膜からの偏りがないことを確認した。T1回帰とCBF計算はMatlab(Mathworks, Natick, MA)を用いて行った。報告されているすべてのCBF値は、本研究で使用したイソフルランレベルのマウスCBF測定値として公表されている範囲内に収まっている(15)。EPIは、特に位相エンコード方向に磁化率に起因する歪みが生じやすい(16)が、今回のFAIRプロトコルでは垂直方向に相当する。
図8に示すように,くも膜下出血(SAH)の手術モデルでは,術後の撮像タイムポイントで脳のすぐ近くに空気と組織の境界があるため,シミングを行ってもEPIの歪みを十分に抑えることができなかった。あるケースでは、歪みがひどく、ROIを大脳皮質のより外側に配置する必要があった(
図8)。しかし、歪みはすべてのT1強調画像で一貫しているため、歪んだ領域が他の領域と重ならない限り、T1測定に偏りはない。各コホート内で比較的一貫したns-T1値(コホート間の標準偏差7%、コホート内での治療群の違いなし)が得られたことから、歪曲バイアスがCBF測定に与える影響はごくわずかであることが裏付けられた。
【0037】
[細胞培養]
腸間膜動脈平滑筋細胞の分離・培養の手順は、(方法と試薬・参考文献10)に記載されている通りに行った。簡単に言うと、腸間膜動脈セグメントを分離し、小片に切断し、トリプシン、コラゲナーゼ、エラスターゼで消化した。得られた細胞懸濁液をリン酸緩衝生理食塩水で数回洗浄した後、10%牛胎児血清と1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に播種した。細胞培養は37℃、5% CO2で維持し、106細胞の播種密度で分割した。野生型ヒトCFTR(方法と試薬・参考文献10,17)を安定的に発現するベビーハムスター腎臓線維芽細胞を、5%ウシ胎児血清および250μmol/Lメトトレキサート(CFTR導入遺伝子プロモーターを活性化する)を含むDMEM/F12培地で維持した。細胞は、37℃、5%CO2の標準的な細胞培養条件で維持した。
【0038】
[FITC-S1P 取り込みのFACSによる測定]
以前述べられてように(方法と試薬・参考文献10)一層の細胞(処理済み又は未処理)を1μmol/L S1P-FITCで60分間インキュベートし、その後、トリプシンで細胞を剥離し、氷冷したPBSで2回洗浄した後、35μmのセルストレーナーでろ過し、FACS DIVA version 6.1ソフトウェアで操作されるBecton-Dickinson社製FACS Cantoを用いて解析した。非標識S1Pで処理した一層の細胞をバックグラウンドコントロールとした。解析方法は、各細胞集団の平均蛍光強度(任意単位)を求め、これを取り込みの指標とした。
【0039】
[ヨウ化物流出試験]
ヨウ化物流出量の測定は,既述の方法で行った(方法と試薬・参考文献18)。コンフルエントな細胞を、HEPESベースのローディングバッファー(136 mmol/L NaI, 3 mmol/L KNO3, 2 mmol/L Ca(NO3)2, 11 mmol/L glucose and 20 mmol/L HEPES; pH 7.4)中で1時間インキュベートすることにより、ヨウ化物を負荷した(標準的な細胞培養条件である37℃、5% CO2下で)。ヨウ化物負荷後、細胞はヨウ化物を含まない溶出バッファー(NaNO3をNaIに代えたもの)で4回洗浄した。上清のヨウ化物レベルは、ヨウ化物選択電極(Lazar Research Laboratories;Los Angeles, USA)を用いて定量し、NaI標準液で校正した。刺激前のヨウ化物レベルを測定した後、10μmol/L フォルスコリン、1mmol/L イソブチルメチルキサンチン、100μmol/L cpt-cAMPを含むカクテル(1% v/v DMSO中)で細胞を刺激した。刺激カクテルはPKAを強く活性化し、その結果、CFTRを最大限にリン酸化/活性化する。上清のヨウ化物レベルは、刺激後1分間隔で7回連続して測定した。以前の結果(方法と試薬・参考文献18)と同様に、溶出は最初の1分以内に明らかになり、60-120秒の間に確実に最大になった。したがって、最大流出速度は、刺激後60-120秒の間に測定された流出レベルを用いて算出した(方法と試薬・参考文献18)。
【0040】
[ウェスタンブロッティング]
CFTRのウェスタンブロットは,既述の方法で行った(方法と試薬・参考文献12,18)。脳動脈溶解物は、50mM Tris(pH7.3)、150mM NaCl、2mM ETDA、0.1% Triton-X-100、0.1% SDSおよびプロテアーゼインヒビターを含むライシスバッファー中で動脈サンプルを粉砕して調製した。培養細胞溶解物の調製にも同じライシスバッファーを用いた。溶解後、遠心分離(13,500g、10分、4℃)を行い、不溶物を除去した。ポリアクリルアミド電気泳動の直前に、SDS(2%最終濃度)、グリセロール(2%最終濃度)、β-メルカプトエタノール(2%最終濃度)、ジチオスレイトール(2mM最終濃度)を追加した。タンパク質は、7%アクリルアミドゲルで電気泳動的に分離し、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)膜に転写した。膜を5%、無脂スキムミルク(1%Tween20を含むリン酸塩緩衝生理食塩水(PBST);137mM NaCl, 2.7mM KCl, 10mM Na2HPO, 1.76mM K2HPO4;pH7.4)で30から40分ブロックした。一次抗体の処理は以下のことを含む。(i)ウサギポリクローナル抗CFTR(5%ミルク/PBSTで1,000倍希釈、New England Biolabs Canada経由Cell Signaling Technology社、Whitby, Canada、cat#2269);脳動脈および血管平滑筋細胞溶解物。(ii)マウスモノクローナル抗ヒトCFTR(5%ミルク/PBSTで1:20,000倍希釈;「抗体596」);ベビーハムスター腎臓線維芽細胞溶解物。(iii)マウスモノクローナル抗α-チューブリン(5%ミルク/PBST中5,000倍希釈;クローンDM1A;New England Biolabs Canada経由Cell Signaling Technology;cat# 3873)。一次抗体は、ペルオキシダーゼで標識したロバ抗ウサギIgG(GE Healthcare Amersham (Piscataway, USA) cat# NA934)またはペルオキシダーゼで標識したヤギ抗マウスIgG(GE Healthcare Amersham cat# NA931)の二次抗体を結合させた。標準的な化学発光法(Westar ETA C; VPQ Scientific, Toronto, Canada)を用いて、X線フィルムの露光やデジタル画像の収集を行った(ChemiDoc; Bio-Rad Laboratories; Mississauga, Canada)。現像したフィルムは「Image J」ソフトウェア(NIHより無償提供)を用いてデンシトメトリーで評価し、デジタル画像は「Image Lab」ソフトウェア(Bio-Rad)で評価した。
【0041】
径の小さな動脈のRNAは、プロテイナーゼK消化およびDNA除去の工程を用い、Norgen Biotek社(カナダ・ソロルド)の「Total RNA Purification Micro」スピンカラムを用いて、製造元の説明書に従い分離した。溶出したRNAをAgilent Technologies RNA 6000 Pico Kit and Bioanalyzerを用いて定量したところ、動脈組織サンプルから高品質のRNAが得られたことが確認された(RNA Integrity [RIN]: Cerebral=8.4±0.1, n=5; Cremaster=8.2±0.4, n=6)。ベビーハムスター腎臓線維芽細胞からのRNAの分離は、プロテイナーゼK消化のステップを省略して、同じ手順で行った。いずれの場合も、製造元の指示に従い、「Superscript III」逆転写キット(Invitrogen Life Technologies社、Burlington, Canada)を用いてRNAをcDNAに変換した。得られたcDNAをRNAse H (0.125 U/μl; New England Biolabs Canada; Whitby, Canada)とインキュベートすることにより、残留RNAを除去した。
【0042】
[定量PCR]
定量PCRは、Applied Biosystems ViiATM 7 Real Time PCRシステムとPower SYBR(登録商標) Green PCR master mix(いずれもInvitrogen Life Technologies社製)を用いて行った。各プライマーセットは、特異性と相対効率が確実であるように厳密に検証された。遺伝子ターゲットは、逆転写から生成した1ngのcDNAとネガティブコントロールには水を用い、トリプリケートで評価した。PCRの増幅は、95℃で10分間の変性後、40サイクルの増幅(95℃で15秒+60℃で60秒)で行われた。増幅後、アンプリコンを融解し、得られた解離曲線から単一の産物であることを確認した。マウス組織における転写産物の発現レベルは、標準ハウスキーピング遺伝子ヒドロキシメチルビランシンターゼ(HMBS)に対するDCt値から算出した。HMBSによるノーマライゼーションの信頼性を確認するために、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD)に対するDCt値からも転写産物の発現量を算出したところ、同様の結果が得られた。ベビーハムスターの腎臓線維芽細胞を用いた実験では、ヒトCFTRとハムスターGAPDHに特異的なプライマーを使用し、後者はハウスキーピングノーマライゼーション遺伝子として使用された。
【0043】
[免疫組織化学染色およびフルオロジェイド染色のための脳固定およびスライド調製]
遅発性血管収縮と脳障害の発生は、実験的なマウスSAHモデル(SAH後2~5日)(方法と試薬・参考文献12、19-21)では、臨床的に観察されるもの(SAH後4~12日(方法と試薬・参考文献22、23))と比較して、より急速に進行する。傷害マーカーの評価には、SAH誘発後2日目の時点を選択した。これは、この時点で神経細胞の傷害と行動障害が顕著であることを示した過去の研究結果に基づくものである(方法と試薬・参考文献12)。SAH誘発後2日目に、動物をイソフルランで麻酔し、上行大動脈を介して脳をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で灌流した後、上行大動脈を介してリン酸緩衝パラホルムアルデヒド(4%、pH7.4)で灌流固定した。脳を直ちに解剖し、ブレグマの後方1mmの位置で冠状切片に切断した。これらの脳切片は、4%パラホルムアルデヒド(pH7.4)で48時間(4℃)後固定し、凍結保護のために10%スクロース(3時間)、続いて30%スクロースで一晩(4℃)インキュベートした。その後、脳切片をイソペンタンとドライアイス上でOCT(Sakura Finetek USA; Torrance, USA)に包埋した。「Tissue Path Superfrost Plus Gold」スライド(Fisher Scientific; Whitby, Canada)にクライオスタット切片(厚さ5μmの冠状切片)を集め、使用するまで-80℃で保存した。
【0044】
[蛍光免疫組織化学染色]
すべてのサンプルを10分間プロテイナーゼ(20μg/ml、Promega社、Madison, USA)で前処理した後、PBS中の10%正常ロバ血清(Jackson ImmunoResearch Laboratories社、West Grove, USA)または1%ウシ血清アルブミンを含むPBS中の10%ヤギ血清(Invitrogen Life Technologies社、Burlington, Canada)を用いた標準的な60分間のブロッキング工程を行った。脳切片を、ウサギ抗ヒト活性型切断カスパーゼ-3(クローンC92-605;1000希釈;BD Biosciences Canada;Mississauga Canada)モノクローナル抗体とインキュベートし、Alexa Fluor 488ヤギ抗ウサギIgG(Invitrogen)抗体と結合させた。どちらの抗体もCan Get Signal(登録商標)immunoreaction enhancer solutionで希釈し、室温で1時間インキュベートした。検体を洗浄し、CC MountOで固定した。
【0045】
[フルオロジェイド染色]
脳切片を1%NaOH / 80%エタノール(5分)、70%エタノール(2分)、蒸留水(2分)、0.06%過マンガン酸カリウム(10分)で連続的にインキュベートした。脱イオン水で洗浄した後、脳切片を0.1%酢酸中の0.0004%Fluoro-jade B(Histo-Chem Inc.、Jefferson、USA)で染色した(15分)。その後、脱イオン水で洗浄し、乾燥させ、キシレンに1分間浸漬して洗浄した。スライドはDPX mounting medium(Sigma)を用いて固定した。
【0046】
[細胞計数による脳損傷のデジタル撮像および評価]
デジタル免疫蛍光画像は、Zeiss ZEN 2010ソフトウェアと併用して、Zeiss LSM 710共焦点レーザー走査顕微鏡を用いて取得した(血管画像)。オーバーレイは、自由に使用できるImageJ 1.44pソフトウェア(National Institutes of Health, USA)を用いて構築した。2人の独立した評価者が、既述のように盲検下でカスパーゼ-3およびFluoro-Jade(フルオロジェイド)陽性細胞を計数した(方法と試薬・参考文献12)。各動物について、ブレグマから1mm後方の単一冠状脳スライス(200倍)の、左右の側頭葉および頭頂葉を含む皮質領域を計数した。各評価者が計数した陽性細胞の数を平均し、平均陽性細胞数/動物とし、これを統計解析に用いた。
【0047】
[樹状突起形態学の組織学解析]
脳をヘパリン処置した生理食塩水で経心腔的灌流し,分離して,市販のRapid GolgiStainキット(FD NeuroTechnologies Inc; Columbia, USA)を用いて処理/染色した.このキットは,GlaserとVan der Loosが最初に記載したGolgi-Cox染色法を修正したものを使用している(方法と試薬・参考文献24).簡単に説明すると、分離した脳組織サンプルを、塩化水銀、重クロム酸カリウム、クロム酸カリウムを含むキット付属の溶液に、暗所で8日間浸漬し、続いて、組織保護液で6日間インキュベートし、その後、脳サンプルを洗浄し、4%低ゲル化温度アガロースに包埋し、冠状面で切片を作成(厚さ150μm、Campden Instruments 7000smz-2 vibrating microtome)し、ゼラチンコートしたスライドグラスに固定した。その後、キット付属の現像・染色試薬を用いて、メーカーの説明書に従って染色作業を完了した。神経細胞と樹状突起セグメントは、高解像度画像取得用の電動X、Y、Zフォーカスを備えたNikon Eclipse Ti2顕微鏡(Nikon Instruments Europe; Amsterdam, The Netherlands)で、立体解析学を基にしたNIS Elements ARソフトウェアを用いて画像化した。我々は、Sholl (方法と試薬・参考文献25)が考案した定量的な手法を用いて、前頭皮質から皮質錐体細胞の基底樹状突起と尖端樹状突起のネットワークの両方を解析した。Image Jソフトウェアと半自動のSimple Neurite Tracerプラグイン(いずれもNIHより無償提供)をつなげて用いて、200倍に拡大したハイパースタック画像から1つの皮質の神経細胞の樹状突起ネットワークを特定し、デジタル的に分離した。神経細胞体の中央をポインターでマークし、樹状突起の形態をSholl解析(https://imagej.net/Sholl_Analysis, version 3.7.4参照)により、5μm間隔、最大半径300μmで描写した。この解析では、樹状突起の形態を、樹状突起の交点(すなわち枝分かれ)と樹状突起の長さの観点から特徴づける。各処理グループについて、4匹のマウスから1匹のマウスにつき2から4個のニューロンを盲検下で分析した。樹状突起のスパイン密度(樹状突起に見られる小さな突起の数)を評価するために、3枝目の樹状突起セグメントを100倍に拡大して撮影した。スパイン密度は、細胞体から20~50μm、細胞体から50~80μm、細胞体から60~100μmの各セグメントについて、セグメントあたりのスパインの数として測定した。この 「sliding measurement 」法により、樹状突起の枝の長さに応じてスパイン密度がどのように変化するかを評価することができる。盲検化された条件下で、各処理群において、1群3から4匹のマウスから一匹のマウスたり2から4個の錐体皮質神経細胞(1個の神経細胞につき2から4個の3番目の分枝)のスパイン密度を測定した。
上述のとおり、CFTR矯正薬C18および抗ヒトCFTR抗体(「596」と命名)は、Cystic Fibrosis Foundation Therapeutics Chemical and Antibody Distribution Programs)を通じて入手した。その他の試薬はすべて市販されているものを使用した。
【0048】
[動物]
トロント大学のInstitutional Animal Care and Use Committees およびUniversity Health Network(UHN)が,すべての動物飼育および実験プロトコルを承認した。市販のオスの野生型マウス(2から3ヶ月、C57BL/6N)をCharles River Laboratories社(Montreal, Canada)から購入した。トロントのHospital for Sick Childrenで確立されたコロニーから、ΔF508 CFTR変異体のホモ接合の雄マウス(CFTRtm1EUR;本研究では「ΔF508」と呼称)(方法と試薬・参考文献11)、CFTR遺伝子欠損(CFTRtm1Unc;CFTR-/-と呼称)のホモ接合の雄マウスと、相補的な野生型コントロールの同腹仔を入手した(CFTR-/-、CFTRΔF508、同腹子はすべて混合系統)。すべてのマウスは、標準的な14時間:10時間の明暗サイクルで飼育され、通常の餌を与えられ、自由に水を飲むことができた。
【0049】
[心筋梗塞]
HFは左前下行枝冠動脈の外科的結紮により誘発された(方法と試薬・参考文献3)。簡単に説明すると、マウスをイソフルランで麻酔し,20ゲージの血管カテーテルで挿管し,室内空気で通風した。無菌状態で、胸郭と心膜を開き、左前下行枝冠動脈を7-0絹縫合糸(Deknatel; Fall River, USA)で永久結紮した。偽手術を行った対照群では、胸郭と心膜を開いたが、左前下行枝冠動脈は結紮しなかった。処置後、胸部を閉じ、マウスが自発的に呼吸した時点で抜管した。 梗塞後4~6週目に後大脳動脈(PCA)を分離した。
【0050】
[くも膜下出血の誘発]
よく特徴が知られている実験的SAHのモデル(方法と試薬・参考文献6)を使用した。簡単に説明すると、マウスに麻酔(イソフルラン)をかけ、頭部を定位脳手術用フレームに固定した後、前頭皮の正中線に沿って7mmの切り込みを入れ、ブレグマの4.5mm前方の頭蓋骨に0.9mmの穴を開けた。脊髄針を気管支槽まで進め、80μlの動脈血を10秒かけて頭蓋内の空間に注入した。注入した血液は、注入直前に別の野生型ドナーマウスから(心臓穿刺により)採取したもので、抗凝固剤は含まれていなかった。注射後、頭皮の切開部を閉じた。ブプレノルフィン(0.05mg/kg、0.5~1.0mlの容量)を1日2回投与した(SAHの外科手術直後に開始)。擬似手術を受けた動物には、同じ手術を行い、血液の代わりに滅菌生理食塩水を注入した。SAH誘発後2日目に嗅覚脳動脈を分離した。
【0051】
[小さい径の動脈の分離と機能試験]
以前述べられたように(方法と試薬・参考文献3,6)、マウスの嗅覚器官(前大脳動脈の第一枝)とPCAを慎重に解剖し、マイクロピペットにカニュレーションし、in vivo長にのばし、45mmHgに加圧した、マウスの骨格筋の微小循環の小さい径の動脈を精巣拳筋から切離し、カニューレを挿入して60mmHgに加圧した。すべての機能的実験は、3モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)バッファー生理食塩水を用いて37℃で行い、灌流は行わなかった。フェニレフリンに対する血管運動反応(後大脳動脈は5μmol/L、精巣拳筋動脈は10μmol/L)により、各実験の開始時と終了時に血管の生存率を評価した。フェニレフリンで25%以上の収縮が見られなかった動脈は除外した。
筋原性反応は、壁貫通部の圧力を20mmHgから80mmHg(嗅覚動脈)または100mmHg(後大脳動脈および精巣拳筋の微小循環の小さい径の動脈)へと段階的に20mmHgずつ上昇させることで誘発された。それぞれの段階において、一度定常状態に到達したら(5分)、血管径(diaactive)を測定した。処理が必要な血管(CFTR(inh)-172など)は、MOPS中の試薬と30分間インキュベートし、その後、その試薬の存在下で筋原性反応を評価した。すべてのdiaactive測定の終了後、MOPSバッファーをCa2+フリーのものに交換し、各圧力ステップでの最大の受動血管径(diamax)を測定した。筋原性緊張は,それぞれの壁内圧における最大径に対する収縮率として次のように算出した: tone (% of diamax) = [(diamax - diaactive)/diamax]x100,ここで,diaactiveはCa2+を含むMOPSでの血管径,diamaxはCa2+を含まないMOPSでの血管径。フェニレフリンに対する血管運動反応の解析でも同様の計算を行ったが、この場合、diaactiveは薬剤投与後の定常状態での血管径、diamaxはCa2+フリーの状態で測定した最大径を表す。
【0052】
[脳血管流の核磁気共鳴画像法による測定]
脳灌流の評価には,既述のように,非破壊的な磁気共鳴画像(MRI)法(FAIR技術)が用いられた(方法と試薬・参考文献6)。簡単に説明すると、FAIR技術では、灌流を、加速したT1シグナルの緩和として分離する。MRIシグナル(Bruker Corporation Biospec 70/30 USR; Ettlingen, Germany)を,前脳,中脳,後脳の垂直断面(前循環,混合循環,後循環に対応)から取得した。FAIR画像は,標準化されたアルゴリズムと画像処理工程(MIPAV; National Institutes of Health, Bethesda, USA; http://mipav.cit.nih.gov/)を用いて,指定された関心領域を評価した(領域の配置は
図8に示す)。
【0053】
[浮腫の核磁気共鳴画像法による測定]
浮腫は,7 Tesla micro-MRIシステム(Bruker Corporation Biospec 70/30 USR; Ettlingen, Germany)を用いて,定量的なT2マッピング(方法と試薬・参考文献12)により評価した。T2マッピングでは,前脳から後脳までをカバーする厚さ1 mmの連続した9枚の2次元軸スライスで定量的なT2マップを作成した。T2マップは,Bruker ソフトウェアを用いて,エコー時間12msから384msのT2強調画像から,ボクセルごとに対数変換した信号強度とエコー時間を線形回帰して作成した。T2値は,MIPAVソフトウェアを用いて,前脳,中脳,後脳のT2マップ内に手動で関心領域を設定して抽出した。
【0054】
[神経学的機能評価]
神経学的機能は、先に述べられたように、修正したGarciaスコアを用いて評価した(方法と試薬・参考文献6)。神経学的評価は、自発的活動、四肢の自発的運動、前足の伸展、よじ登り、身体の受容性感覚、振動子の接触に対する反応の6つの領域からなる。SAHの2日後に2人の盲検観察者が神経学的評価を行った。最大スコアは18で、神経機能が正常であることを示している。
【0055】
[統計]
すべてのデータは平均値±標準誤差で表され、nは独立した測定(すなわち、サンプル、血管評価または実験対象)の数である。統計的な比較として、2つの独立したグループの比較には、正確なp値を計算するノンパラメトリックなMann Whitney検定を利用した。複数の独立したグループの比較には,ノンパラメトリックな一元配置分散分析(one-way ANOVA)(Kruskal Wallis)を用い,その後,Dunnの多重解析を行った。筋原性反応および用量反応関係を評価するために、データを二元配置分散解析(two-way ANOVA)で解析し、Tukeyの 多重解析を行った。P<0.05で有意差があると判断した。
図6に示したデータはすべて盲検下で収集した。本研究で示したその他のデータは盲検を必要とせず、盲検下で収集したものではない。
【0056】
上記の方法と試薬の項では、以下の文献が参照されている。
参考文献1:Cui L, Aleksandrov L, Chang XB, et al. Domain interdependence in the biosynthetic assembly of CFTR. J Mol Biol 2007;365:981-94.
参考文献2: van Doorninck JH, French PJ, Verbeek E, et al. A mouse model for the cystic fibrosis delta F508 mutation. EMBO J 1995;14:4403-11.
参考文献3:Van Goor F, Straley KS, Cao D, et al. Rescue of DeltaF508-CFTR trafficking and gating in human cystic fibrosis airway primary cultures by small molecules. Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2006;290:L1117-30.
参考文献4:French PJ, van Doorninck JH, Peters RH, et al. A delta F508 mutation in mouse cystic fibrosis transmembrane conductance regulator results in a temperature-sensitive processing defect in vivo. J Clin Invest 1996;98:1304-12.
参考文献5:Zeiher BG, Eichwald E, Zabner J, et al. A mouse model for the delta F508 allele of cystic fibrosis. J Clin Invest 1995;96:2051-64.
参考文献6:Wilke M, Buijs-Offerman RM, Aarbiou J, et al. Mouse models of cystic fibrosis: phenotypic analysis and research applications. J Cyst Fibros 2011;10 Suppl 2:S152-71.
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参考文献8: Nilius B, Droogmans G. Amazing chloride channels: an overview. Acta Physiol Scand 2003;177:119-47.
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【0057】
結果
【0058】
[CFTR機能不全による脳灌流の低下]
これまでの研究で、CFTRが脳動脈の筋緊張を顕著に制御していることが明らかになり、脳動脈のCFTRタンパク質発現と脳灌流の間に強い相関関係があることが特定されている(非特許文献4,6)。したがって、脳血管CFTR活性の欠損(細胞表面でのCFTR発現低下によるS1P輸送の低下)を改善することが、脳の筋原性反応の低下、ひいては脳血流の低下を正常化するための有効な治療戦略であるというメカニズム概念が提唱されている(非特許文献4)。脳動脈のCFTR活性と脳灌流の因果関係を明らかにするため,CFTR変異マウスを用いた。CFTR
-/-マウスは実験的なストレスに非常に敏感で、正確で再現性のある心エコーやCBF(Cerebral Blood Flow、脳血流(脳内血流))の測定ができなかった。そこで、細胞表面のCFTRの発現と活性が最小である、より安定したCFTR
ΔF508マウス(非特許文献11)を使用した。これは、機能喪失表現型の脳動脈筋緊張を血行動態パラメーターに関連付けるためにCFTR
ΔF508マウスを使用するという本発明者の戦略的決定を裏付けである。CFTRノックアウトマウスからの後大脳動脈(PCA)反応に関する以前に公開された特徴とCFTR
ΔF508の表現型を直接比較するために、後大脳動脈(PCA)の血管運動反応を評価した(非特許文献4)。予想通り、CFTR
ΔF508マウスのPCAは、パラメーターと比較して筋緊張の増加を示し(
図1A)、その増加の大きさはCFTR
-/-マウスで見られたものと定量的に類似している(非特許文献4)。フェニレフリンの反応は、筋緊張の亢進により上方にシフトしている(
図1B)。しかし、EC
50値には差がなく(log EC
50WT:-5.83±0.21、n=5、3匹のマウスから;log EC
50CFTR
ΔF508:-6.00±0.04、n=6 、4匹のマウスから;Mann-Whitney test P=N.S.)、基底の緊張での差(すなわち、45mmHgでの筋緊張;
図1C)を補正することで曲線の差は解消される。したがって、ΔF508変異は筋原性反応を増加するが、一般的な収縮性は変化させない。CFTR
ΔF508マウスでは、CBFが有意に低下しているが(
図1D)、心拍出量(Cardiac Output (CO)、
図1E)も全末梢(血管)抵抗(Total Peripheral Resistance (TPR)、
図1F)も変異の影響を受けていない。これらの観察結果から、脳灌流障害は明らかに血管に起因するものであると考えられる。
【0059】
CFTR
ΔF508変異はTPRを変化させないことから、すべての血管床がCFTR依存性の調節を受けるわけではないことがわかる。TPRは主に骨格筋の径の小さな動脈で生成・調節される(非特許文献14)ので、CFTRがマウスの精巣拳筋の径の小さな動脈の筋原性緊張に影響を与えるかどうかを評価した。CFTR mRNAの発現は、野生型マウスでは、脳動脈に比べて、精巣拳筋の径の小さな動脈では約10倍も低い(
図1G)。in vitroでCFTR活性を阻害しても(100 nmol/L CFTR
(inh)-172、30分)、野生型の精巣拳筋動脈の筋緊張には影響がなく(
図1H)、CFTR
(inh) -172が嗅覚性脳動脈の筋緊張を増加するという最近の観察結果とは対照的である(非特許文献6)。PCAとは異なり(非特許文献4)、CFTR遺伝子欠損は、精巣拳筋の径の小さな動脈の筋原性緊張を増加せず(
図1I)、実際、筋緊張は軽度に減衰し、低いMAP(Mean Arterial Pressure、平均動脈圧)に対応している(
図9)。フェニレフリンの用量反応関係は、in vitroでのCFTR阻害、CFTR遺伝子欠失のいずれによっても変化しない(
図10)。
【0060】
以上のことから、今回のCFTRΔF508の実験により、以下のことが証明された。(i) CFTRの発現とPCAの筋原性反応とCBFの間には因果関係がある。(ii)CFTRが特定の血管床で筋原性の緊張を調節する、(iii)CFTRが骨格筋の径の小さな動脈の緊張を調節しない、これらの動脈がTPRに大きく寄与するので、注目に値する。HFやSAHは、微小血管障害に伴って脳動脈CFTRの発現を低下させることから(非特許文献4,6)、これらのデータは、この病態における脳血管障害やCBF不全を特異的に改善するためにCFTR調節薬を使用することの、強力なメカニズム的基盤となる。
【0061】
[TNF依存性ダウンレギュレーションに伴うC18によるCFTR活性の増加]
ハイスループットの薬物スクリーニングにより同定されたCFTRを調節する薬剤が、嚢胞性線維症の症状を緩和に実験的にも臨床的にも用いられている。C18は、野生型CFTRと直接相互作用して安定化させ、それによって細胞膜でのCFTRの発現を増加させることが以前に実証されているので(非特許文献15)、本実施例では、C18を試験に用いた。
【0062】
本発明によれば、まず、C18がマウスとヒトの両方のCFTRの発現を増加させることができることが確認された。C18(1日3mg/kgで2日間)を投与したナイーブマウスから分離した脳動脈では、CFTRタンパク質の発現量がビークル投与したコントロール群に比べて高い(
図2A)。CFTR mRNAの発現量はC18の影響を受けない(
図2B)。ヒトCFTRに対するC18の影響を確認するために、ヒトCFTRコンストラクトを安定的に発現させたベビーハムスター腎臓線維芽細胞の異種発現系を用いた。C18処理(6μmol/L、24時間)により、ベビーハムスター腎臓線維芽細胞におけるCFTRタンパク質発現は2倍以上に増加する(
図2C)。C18はこの系におけるCFTR mRNA発現には影響を与えない(
図2D)。これらのデータは、C18がCFTRタンパク質の発現を直接安定化させるという以前の結果と一致しており(非特許文献15)、マウスおよびヒトのCFTRに対するC18の有効性を示している。
【0063】
次に、関連する病態生理メカニズムや細胞環境を合理的に再現した細胞培養環境で、C18処理によってCFTRの量が増加するかどうかを評価した。以前示されたように(非特許文献4)、TNF(10ng/ml)は初代血管平滑筋細胞のCFTRタンパク質発現を低下させ、HF(非特許文献4)やSAH(
図2E)で観察されたTNF依存性のCFTRダウンレギュレーションを模倣している(非特許文献6)。予想通り、CFTR発現の低下は、FITC-S1Pの取り込み(すなわち、CFTR依存のプロセス((非特許文献4);
図2F)およびフォルスコリン刺激によるヨウ化物流出(すなわち、CFTR活性の古典的な測定((非特許文献13);
図2G)の減少と相関している。C18処理(6μmol/L;10ng/ml TNFと24時間共にインキュベーションした後)は、CFTR発現の低下を回復させ(
図2E)、FITC-S1Pの取り込み(
図2F)とヨウ化物流出(
図2G)を完全に回復させる。これらの結果は、CFTRがダウンレギュレーションされている条件下で、C18のプロテオスタティック効果により、CFTRの総発現量が増加し、その活性が回復するという本発明の予測と完全に一致する。
【0064】
[C18投与による心不全での脳内血流の整流]
Meissnerら(非特許文献4)がすでに報告しているように、HFを引き起こすと、脳動脈のCFTRタンパク質の発現が著しく低下し(
図3A)、これはPCA筋緊張の著しい亢進と一致する(
図3B)。
図2のデータから予測されるように、C18をin vivoで投与(1日3mg/kg、2日間)すると、HFマウスから分離した脳動脈でCFTRの発現が回復し(
図3A)、付随してPCAの筋原性が正常化する(
図3B)。基底の緊張の減少により、筋緊張の減衰はフェニレフリン反応性の予想された変化に関連するが、EC
50値に差はない(log EC
50 Sham:-6.30±0. 14, n=6 、4 匹のマウスから; log EC
50HF:-6.25±0.07, n=5 、3 匹のマウスから; log EC
50 HF+C18:-5.94±0.21, n=5 、4 匹のマウスから; Kruskal Wallis test P=N.S.)、基底の緊張の差を補正すると、曲線は重なり合う(
図11)。C18の投与は、偽手術を受けたマウスのPCAの筋緊張やフェニレフリン反応に影響を与えない(
図12)。本発明は、CFTRノックアウトマウスから分離したPCAを用いて、C18がCFTRを標的にして筋緊張の減衰効果を媒介することを確認した。予想通り、CFTRノックアウトマウスのPCAは、in vivoでのC18投与に影響されない筋緊張の亢進を示し(
図3C)、フェニレフリン反応はC18投与に影響されない(
図13)。
【0065】
全身レベルでは、HFを誘発すると、偽手術をしたコントロール群に比べてCOが大幅に減少し(
図3D;梗塞後6週目に測定)、TPRはMAPの大幅な減少(
図3F)を防ぐために代償反応として増加する(
図3E)(非特許文献3,4)。MAPの減少が比較的小さいにもかかわらず、CBFは顕著に減少している(
図3G)。C18をin vivoで投与すると、HFマウスのCBFが回復し(
図3G)、これはPCA筋緊張の正常化(
図3B)と密接な関係がある。C18は、左前下行冠動脈結紮術による心外傷を改善せず、CBFの改善は明らかに血管系のメカニズムによるものと考えられる。さらに、C18はTPRやMAPに影響を及ぼさないことから(
図3)、C18を介したCBFの回復は、全身の血行動態パラメータの変化に依存しない局所的な微小血管の影響であるはずである。この治療プロファイルは、以前に報告されたエタネルセプトによる治療と完全に一致している(非特許文献3)。
【0066】
筋原性反応は、全身の圧力が変動しても一定の灌流を維持することに加え、損傷するレベルの圧力から脆弱な毛細血管床を保護し(非特許文献16)、毛細血管の静水圧を浮腫の形成を最小限に抑えるレベルに維持する(17)。このような状況下で、脳動脈の筋緊張を治療的に低下させることは、たとえHFで生じる亢進したレベルからであっても、脳浮腫の形成という逆効果の副作用を引き起こす可能性がある。そこで、浮腫の非破壊的イメージングを、HFとHFでC18治療をしたものどちらにおいても、脳のどの領域にも明らかな浮腫を誘発しないことを確認するために用いた(
図4)。
【0067】
[C18治療によるSAHでの脳血流不全の改善]
これまでの研究では、SAHがHFと同様の脳血管表現型(i)脳動脈CFTRタンパク質の発現が低下する、(ii)脳動脈の筋緊張が亢進する、(iii)脳灌流が低下する、を持つことが示されている(非特許文献6)。HFの場合(
図3)と同様に、in vivoでC18を投与(1日3mg/kg投与、2日間)すると、SAHを発症したマウスの脳動脈におけるCFTRの発現が回復し(
図5A)、付随して嗅覚脳動脈の筋緊張が正常化する(
図5B)。基底緊張が低下するため、筋緊張の低下は予想されたフェニレフリン反応性の基底の変化に関係するが、EC
50値に差はなく(log EC
50 Sham:-5.52±0. 23, n=5、3匹のマウスから; log EC
50SAH: -6.01±0.16, n=6、6匹のマウスから ; log EC
50 SAH+C18:-6.01±0.31, n=5、4 匹のマウスから;Kruskal-Wallis test P=N.S.)、基底緊張の差を補正すると、曲線は重なり合う(
図14)。C18の投与は、偽手術を受けたマウスの嗅覚大脳の筋緊張やフェニレフリン反応に影響を与えない(
図15)。CFTRノックアウトマウスから分離した嗅覚脳動脈を用いて、本発明は、C18のCFTRを標的とする筋緊張の低下効果を示すことを確認した。予想通り、CFTRノックアウトマウスの嗅覚脳動脈は、in vivoでのC18投与に影響されない筋緊張の亢進を示し(
図5C)、これらの動脈のフェニレフリン反応性はC18投与によって影響されない(
図16)。重要なことは、in vivoでC18を投与すると、CBFが回復し(
図5D)、嗅脳動脈の筋緊張の正常化(
図5B)と再び相関したことである。
【0068】
[ルマカフトール治療によるSAHでの脳血流不全の改善]
C18のデータは、嚢胞性線維症の治療でFDAに承認されている臨床的に適切なC18アナログであるCFTR矯正薬 ルマカフトールとCFTRポテンシエーター(増強薬) イバカフトール(すなわち、Orkambi(登録商標))を併用した介入によって補完される。ルマカフトールは、マウスとヒトの両方のCFTRの発現を増加させる能力があることが最初に確認され、C18で観察されたように(
図2)、ルマカフトールは、マウスの脳動脈(マウスに1日3mg/kgを2日間注射)およびヒトのCFTRを安定的に発現しているベビーハムスターの腎臓線維芽細胞でCFTRタンパク質の発現を増加する(
図6)。いずれの場合も、CFTR mRNAの発現には影響がなく、非転写性のメカニズムであることがわかった(
図6)。SAHにおける今回のC18データ(
図5)と同様に、ルマカフトールをin vivoで投与(1日3mg/kg、2日間)すると、SAHマウスの脳動脈におけるCFTR発現が回復し(
図6)、同時に嗅覚脳動脈の筋緊張(
図6)と脳灌流(
図6)も正常化した。ルマカフトールはフェニレフリン反応性に影響を及ぼさず(
図17)、その結果、EC
50値に違いはなかった(log EC
50Sham:-5.79±0.09、n=7、4匹のマウスから、log EC
50SAH:-5.93±0.19、n=6、3匹のマウスから、log EC
50SAH+Lum:-5.90±0.18、n=7、4匹のマウスから、Kruskal-Wallis test P=N.S.)。
【0069】
[C18 およびルマカフトールによるSAHでの神経損傷の減少]
SAHによる神経細胞の損傷は、標準的な組織学的手法(フルオロジェイド染色、活性化カスパーゼ-3染色)と簡単な神経学的テスト(修正 Garcia スコア)で容易に特徴づけることができる(非特許文献6)。これらの方法を用いて、正常な筋原性反応と脳血流(CBF)の回復が、神経学的結果の改善と相関するかどうかを調べた。確かに、C18とルマカフトールは、活性化カスパーゼ3とフルオロジェイド染色で評価したように、SAHにおける神経損傷を劇的に減少させた(
図7)。C18投与マウスの神経損傷の減少は、神経機能の改善と相関している(
図7E)。具体的には、SAHマウスは偽手術をしたマウスよりも修正Garcia神経機能テストのスコアが低かったが、C18を投与したSAHマウスは偽手術をしたマウスと同等の神経機能スコアを示した。
【0070】
考察
【0071】
これまでの研究では、CFTRの阻害が微小血管の筋緊張を亢進するという最初の発見を、新たなメカニズムの概念へと発展させた(非特許文献4,6)。その核心においてCFTRは、S1Pの分解を決定的に制御しており、その結果、健康時および疾患時の脳血管の緊張を顕著に制御している(非特許文献4)。本研究では、この知識をHFやSAHの治療に応用している。本発明により、心血管治療薬への新しいクラスの治療薬が導入される。本発明により、CFTRが脳血管調節因子であることがin vivoで検証され、HFとSAHの両方で脳灌流を改善するために利用できることが確認された。ここ数年で登場した新しい微小血管治療薬のターゲットとして、CFTRの機能を向上させる治療薬は、脳血管障害や脳灌流不全を引き起こす様々な病態を治療するための未開発のリソースとなる可能性がある。
【0072】
CFTRを標的とした介入を過去の研究(非特許文献3,4,6)と直接比較するために、ここで紹介するHFの研究では近位PCAを、SAHの研究では嗅覚脳動脈を戦略的に選択した。PCAと嗅覚脳動脈は、脳の微小循環の異なる領域(すなわち、それぞれ後部と前部)に由来し、筋緊張曲線のベースラインに違いがあるが、それにもかかわらず、筋原性反応を増大させる病理学的なシグナル伝達メカニズムという点では似たような挙動を示す(非特許文献3,4,6)。CFTRを標的とした介入がPCAと嗅覚動脈で同等に成功したことは、CFTRが広く脳微小循環にわたって血管反応性を制御していることを示唆している。
【0073】
CFTRはすべての血管床で血管反応性を制御しているわけではないことは、(i)脳と骨格筋の径の小さな動脈、(ii) CFTR変異マウスと野生型マウスのTPR測定、(iii)TPRに対するC18投与の効果の欠如、から明らかである。CFTRの阻害が骨格筋の径の小さな動脈では明らかな役割を果たさないにも関わらず、なぜCFTRの阻害が脳動脈における筋緊張を制御するのかについて、定量的PCRで測定されたCFTRの発現の違いにより表面上説明される。今回のデータを総合すると、CFTR治療薬は、不連続の微小血管床(例えば、脳微小循環)に特異的に、限定された効果を有することが明らかになった。この特性は、効果的な血流再配分のための必須条件であり、無差別な血管拡張により危険なほど血圧を低下させる一般的な血管拡張剤に対して、顕著な治療上の優位性をもたらす。
【0074】
興味深いことに、急性/化学的なCFTRの阻害は精巣拳筋の径の小さな動脈には影響を及ぼさなかったが、生殖系列のCFTR遺伝子を欠失させると、この特異な微小血管床において筋緊張がわずかに低下した。全体的なCFTRの欠損は複雑な心血管表現型を引き起こすため(非特許文献18)、この軽度の相違は間接的な反応および/または適応的な反応に起因するものと考えられる。本発明者らはこれまでに、CFTR阻害剤の有効性を、細胞(非特許文献4)と単離された動脈(非特許文献6)の両方のシステムで示してきた。したがって、CFTRは精巣拳筋の動脈の筋緊張を調節する上で最小限の役割しか果たしていないと結論づけることができる。
【0075】
筋原性反応は、CBFオートレギュレーションの基礎であり、血管抵抗の貫壁性圧力へんの連続的一致である。したがって、病的に低下したCBFを増加させることを目的とした介入は、血管収縮を無差別に弱めるより、正常な筋原性反応を回復させるように努めなければならない。HFやSAHにおける筋原性反応を特異的に正常化することで、今回のCFTRを標的とした介入は、CBFのオートレギュレーションと局所の血管作動性刺激(神経血管結合など)に対する反応性の両方をin vivoで保護することが期待される。
【0076】
自己調節機能によって脳灌流を調節することに加え、筋原性反応は、毛細血管の圧力を損傷や浮腫の形成を最小限に抑えるレベルに維持する(非特許文献16,17)。したがって、筋原性反応を低下は、毛細血管床に圧力が加わることによる浮腫の形成を引き起こす可能性がある。これに関連して、S1Pは血液脳関門の透過性を顕著に制御しているので(非特許文献19)、CFTRによるS1Pシグナルの変化は、関門機能の変化を通じて浮腫を引き起こす可能性がある。このように、介入の重大な悪影響としての浮腫を除くことは非常に重要であった。実際、CFTR矯正薬治療(C18)は、HFマウスに浮腫を誘発しない。これにより、(i)静水圧が許容範囲内に保たれていること(CBFとMAPの測定値が偽薬の動物と同等であることから、これは予想される)、(ii)治療中に血液脳関門の機能が保持されていること、が確認される。
【0077】
これまで、ヒトの脳動脈における脳血管CFTR発現を評価したことはなく、嚢胞性線維症患者の脳灌流を測定したこともなかった。臨床的には、嚢胞性線維症は認知障害や虚血性傷害に関連しないが、これは脳灌流の低下を排除するものではない。これまでに証明されているように(非特許文献3, 20)、脳は明らかな傷害の閾値を越えない限り、適度なCBFの低下に耐えることができる。このように、若くて比較的健康な嚢胞性線維症患者では、必ずしも認知機能障害が予測されるわけではない。低血流が認知機能の低下(非特許文献1)や脳損傷(非特許文献21)に大きく寄与していることは疑いの余地がないが、臨床的に無症状のCBF低下を損傷の閾値を超えて押し上げるには、加齢や心臓病やSAHによる炎症反応など、他の「システムへのヒット」が必要である。
【0078】
生きたヒト脳動脈に接することは本質的に難しいので、本発明者らは、ヒト脳動脈にCFTRが発現している可能性について確認するために、腸間膜動脈と骨格筋動脈のCFTR発現をヒトとマウスで系統的に比較したトランスレーショナルリサーチ(非特許文献22)に依拠した。ヒト腸間膜動脈にはCFTRタンパク質が存在し、その機能を阻害すると筋原性反応が亢進することが予測されている(非特許文献22)。したがって、CFTRがヒトの径の小さな動脈の筋原性反応のモジュレーターであることが確認された。ヒト腸間膜動脈とは対照的に、ヒト骨格筋の径の小さな動脈にはCFTRタンパク質が検出されず、その結果、CFTRの阻害に鈍感である(非特許文献22)。ヒトとマウスの腸間膜動脈と骨格筋動脈の機能プロファイルが重なっていることから(すなわち、CFTRは腸間膜の径の小さな動脈を調節するが、骨格筋の径の小さな動脈は調節しない(
図1 (非特許文献4,22) )、脳微小循環においても機能プロファイルが重なることが推測される。直接的な評価がなされていない現時点では、これが、ヒトの脳血管のセッティングにおけるCFTRモジュレーターの効果を予測するための最も合理的な根拠である。
【0079】
矯正薬化合物は現在、ΔF508 CFTR変異に起因する嚢胞性線維症の治療に使用されている。これらの化合物は、誤って折り畳まれた変異型CFTRタンパク質の細胞膜への不随を手助けする。CFTRの輸送が欠損するという病態も、シャペロニングという治療介入も、CFTRの発現の低下が転写を基に起こるHFやSAHには当てはまらない。したがって、CFTRモジュレーター、好ましくはCFTR矯正薬、特にC18とルマカフトールが、CFTRタンパク質の発現がダウンレギュレートされている実験状況において、野生型CFTRの量を増加させることを確認することは非常に重要であった。確かに、今回のデータは、CFTRモジュレーター、特にC18やルマカフトールなどのCFTR矯正薬が、非転写メカニズムによって野生型CFTRの量を増加させることを示している。このプロテオスタティック効果により、細胞表面に局在するCFTRは、内在化し分解されることに反して、安定化する(非特許文献15)。より少ない細胞表面CFTRが内在化し、分解機構に向かうため、細胞表面のCFTRの安定化により、時間の経過とともにCFTRの発現量が増加する。本発明で利用する疾患モデルにおいてCFTRの発現を治療的に回復させることは、筋緊張の低下、CBFの正常化、SAHでは神経細胞の損傷の減少と一致する。
【0080】
CFTRはいくつかの臓器、特に肺において重要な制御タンパク質であるため、CFTR治療薬が非血管系組織に与える影響も考慮しなければならない。注目すべきは、HFでは肺末端の気管支上皮細胞でCFTRの発現がダウンレギュレートされることであり(非特許文献4)、したがって、この状況下ではCFTRの低下は微小循環に限定されない(すなわち、HFは多臓器不全を引き起こす可能性のある「嚢胞性線維症の表現型」を呼び起こす)。したがって、CFTR治療薬は、脳灌流の改善にとどまらず、HF患者に広く実質的なメリットをもたらす可能性がある。このような観点から、いくつかの重篤な併発疾患がHFと嚢胞性線維症の両方に共通しているという事実(例えば、二次性肺高血圧症(非特許文献24))は、HFにおける所定の二次的病態がCFTR活性の不足によって引き起こされるかまたは悪化するため、CFTR治療薬で修正可能であるという、刺激的であるが推測される主張を後押しするものである。
【0081】
結論
【0082】
本発明は、CFTRが脳血管反応性を制御し、ひいては脳灌流を制御していることを初めて証明したものであり、CFTRを脳灌流制御の「マスタースイッチ」として位置づけている。HFとSAHはいずれも、脳動脈CFTRタンパク質の発現を低下させ、自動調節機能を調整することで脳灌流を慢性的に低下させる。本実施例は、臨床的に利用可能なCFTR治療薬が、脳動脈のCFTR発現、血管反応性および脳灌流を回復させることができることを示している。驚くべきことに、CFTRは血圧制御に関与する末梢動脈の反応性を調節しているので、この治療効果は脳微小循環に限局している。したがって、CFTR治療薬は、脳血管障害、脳灌流不全、神経細胞傷害を管理するための貴重な臨床ツールである。本実施例では、CFTR治療薬が、特にHFやSAHに起因する脳灌流不全の予防および改善に有効であることを示している。