(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】トンネル磁気抵抗センサ
(51)【国際特許分類】
H10N 52/85 20230101AFI20240925BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20240925BHJP
【FI】
H10N52/85
H10N50/10 Z
(21)【出願番号】P 2019030126
(22)【出願日】2019-02-22
【審査請求日】2022-02-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、科学技術振興機構、「トンネル磁気抵抗素子を用いた心磁図および脳磁図と核磁気共鳴像の室温同時測定装置の開発」に係る委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519062764
【氏名又は名称】スピンセンシングファクトリー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】藤原 耕輔
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 静似
(72)【発明者】
【氏名】安藤 康夫
(72)【発明者】
【氏名】大兼 幹彦
【審査官】柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-269866(JP,A)
【文献】特開2006-005356(JP,A)
【文献】特開2001-102659(JP,A)
【文献】特開2016-015412(JP,A)
【文献】特開2000-215415(JP,A)
【文献】特開2016-021518(JP,A)
【文献】国際公開第2012/032962(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 52/85
H10N 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル磁気抵抗素子を複数有するトンネル磁気抵抗センサであって、
各トンネル磁気抵抗素子は、
磁化方向が固定されている固定層と、
磁化方向が変化可能な自由層と、
前記固定層と前記自由層との間に配置されたトンネルバリア層と、
導電性の材料(反強磁性体を除く)から成り、前記固定層の前記トンネルバリア層とは反対側、および、前記自由層の前記トンネルバリア層とは反対側のうち、いずれか一方の側に配置された第1の電極層と、
導電性の材料(反強磁性体を除く)から成り、前記固定層の前記トンネルバリア層とは反対側、および、前記自由層の前記トンネルバリア層とは反対側のうち、前記第1の電極層とは反対の側に配置された第2の電極層と、
前記第1の電極層の前記固定層または前記自由層とは反対側の面に接するよう設けられ、前記固定層、前記自由層、前記トンネルバリア層、前記第1の電極層および前記第2の電極層の層厚を合わせた厚さより大きい層厚を有する導電性のバッファ層とを有し、
一列または格子配列に並んで配置されたトンネル磁気抵抗素子アレイを構成しており、隣り合う2つのトンネル磁気抵抗素子を組として、前記組を成す2つのトンネル磁気抵抗素子の間で、前記第1の電極層と前記バッファ層とを共有し、前記第2の電極層を共有しておらず、さらに隣り合う組の間で隣り合ったトンネル磁気抵抗素子が、前記第2の電極層を共有し、前記第1の電極層と前記バッファ層とを共有していないことを
特徴とする
トンネル磁気抵抗センサ。
【請求項2】
前記バッファ層は、Cu、Al、AlCu、TiN、CuW、AlSiおよびWのうちの少なくともいずれか1つを含んでいることを特徴とする請求項1記載の
トンネル磁気抵抗センサ。
【請求項3】
前記バッファ層は、前記第1の電極層に接する表面の算術平均粗さRaが、0.5nm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の
トンネル磁気抵抗センサ。
【請求項4】
前記バッファ層は、前記第1の電極層に接する表面の算術平均粗さRaが、0.3nm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の
トンネル磁気抵抗センサ。
【請求項5】
前記バッファ層は、50nm~500nmの層厚を有していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の
トンネル磁気抵抗センサ。
【請求項6】
前記第1の電極層は下部電極であり、前記第2の電極層は上部電極であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の
トンネル磁気抵抗センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル磁気抵抗(TMR)素子およびトンネル磁気抵抗(TMR)センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、心磁図(MCG)や脳磁図(MEG)といった生体磁場などを測定する磁気測定装置として、高い空間分解能および時間分解能を有し、室温で測定可能な、トンネル磁気抵抗(TMR)素子を含む磁気センサを利用した装置が開発されている(例えば、特許文献1参照)。この磁気測定装置では、1/fノイズなどのノイズを低減するために、磁気センサが、複数のトンネル磁気抵抗素子を格子配列したトンネル磁気抵抗素子アレイで構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の磁気測定装置では、トンネル磁気抵抗素子の上部電極や下部電極の寄生抵抗により、TMR比が低下して信号出力が低下することがある。上部電極は、素子の製造後であっても、厚みを大きくすることにより、TMR比の低下を抑えることができるが、下部電極については、素子の製造後に変更するのは難しいため、TMR比の低下を抑えるのは困難であるという課題があった。特に、トンネル磁気抵抗素子アレイを構成した場合には、電流が下部電極を何度も通過するため、寄生抵抗による影響が大きくなり、TMR比が大きく低下してしまうという課題があった。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、寄生抵抗によるTMR比の低下を抑えることができるトンネル磁気抵抗素子およびトンネル磁気抵抗センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係るトンネル磁気抵抗素子は、トンネル磁気抵抗素子アレイを構成するトンネル磁気抵抗素子であって、磁化方向が固定されている固定層と、磁化方向が変化可能な自由層と、前記固定層と前記自由層との間に配置されたトンネルバリア層と、導電性の材料(反強磁性体を除く)から成り、前記固定層の前記トンネルバリア層とは反対側、および、前記自由層の前記トンネルバリア層とは反対側のうち、いずれか一方の側に配置された第1の電極層と、導電性の材料(反強磁性体を除く)から成り、前記固定層の前記トンネルバリア層とは反対側、および、前記自由層の前記トンネルバリア層とは反対側のうち、前記第1の電極層とは反対の側に配置された第2の電極層と、前記第1の電極層の前記固定層または前記自由層とは反対側の面に接するよう設けられ、前記固定層、前記自由層、前記トンネルバリア層、前記第1の電極層および前記第2の電極層の層厚を合わせた厚さより大きい層厚を有する導電性のバッファ層とを有し、前記第1の電極層と前記バッファ層、または、前記第2の電極層は、隣り合うトンネル磁気抵抗素子との間で共有されることを特徴とする。
【0007】
本発明に係るトンネル磁気抵抗素子は、導電性のバッファ層が、第1の電極層の固定層または自由層とは反対側の面に接するよう設けられているため、第1の電極層側の寄生抵抗を小さくすることができ、TMR比の低下を抑えることができる。これにより、信号出力の低下を防ぎ、高い信号出力を得ることができる。特に、本発明に係るトンネル磁気抵抗素子は、第1の電極層が下部電極から成り、第2の電極層が上部電極から成る場合に、下部電極に接して導電性のバッファ層を有するため、下部電極側の寄生抵抗によるTMR比の低下を抑えることができる。
【0008】
本発明に係るトンネル磁気抵抗素子は、第1の電極層が固定層の側に、第2の電極層が自由層の側に配置されていてもよく、第1の電極層が自由層の側に、第2の電極層が固定層の側に配置されていてもよい。また、第1の電極層に接するバッファ層とは別に、第2の電極層の固定層または自由層とは反対側の面に接するよう、導電性の第2のバッファ層が設けられていてもよい。
【0009】
本発明に係るトンネル磁気抵抗素子で、前記バッファ層は、Cu、Al、AlCu、TiN、CuW、AlSiおよびWのうちの少なくともいずれか1つを含んでいることが好ましい。この場合、バッファ層の導電性をより高くすることができる。
【0010】
前記バッファ層は、前記第1の電極層に接する表面の算術平均粗さRaが、0.5nm以下であることが好ましく、0.3nm以下であることが特に好ましい。これらの場合、第1の電極層とバッファ層との間の接触抵抗を小さくすることができ、寄生抵抗だけでなく、トンネルバリアの粗さによるTMR比の低下も抑えることができる。バッファ層の第1の電極層に接する表面は、例えば、化学機械研磨(CMP)やエッチバックなどの方法により、平坦化することができる。
【0011】
前記バッファ層は、前記固定層、前記自由層、前記トンネルバリア層、前記第1の電極層および前記第2の電極層の層厚を合わせた厚さより大きい層厚を有しており、例えば、バッファ層は、50nm~500nmの層厚を有していることが好ましい。この場合にも、バッファ層の導電性をより高くすることができる。
【0012】
本発明に係るトンネル磁気抵抗センサは、本発明に係るトンネル磁気抵抗素子を複数有し、各トンネル磁気抵抗素子は、一列または格子配列に並んで配置され、隣り合うトンネル磁気抵抗素子との間で、前記第1の電極層と前記バッファ層、または、前記第2の電極層を共有して、トンネル磁気抵抗素子アレイを構成していることを特徴とする。
【0013】
本発明に係るトンネル磁気抵抗センサは、本発明に係るトンネル磁気抵抗素子がトンネル磁気抵抗素子アレイを構成しているため、電流が第1の電極層およびバッファ層を何度も通過する。このとき、バッファ層により第1の電極層側の寄生抵抗が小さくなるため、その寄生抵抗による影響が大きくなるのを抑えることができ、TMR比の低下を抑えることができる。これにより、信号出力の低下を防ぎ、高い信号出力を得ることができる。特に、第1の電極層が下部電極から成る場合には、バッファ層で下部電極側の寄生抵抗による影響を抑えることができる。このとき、上部電極の厚みを大きくすること等により、上部電極での寄生抵抗による影響を容易に抑えることができるため、トンネル磁気抵抗素子アレイ全体のTMR比の低下を抑えることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、寄生抵抗によるTMR比の低下を抑えることができるトンネル磁気抵抗素子およびトンネル磁気抵抗センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態のトンネル磁気抵抗素子の層構成を示す正面図である。
【
図2】本発明の実施の形態のトンネル磁気抵抗センサを示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施の形態のトンネル磁気抵抗素子の、バッファ層の表面を化学機械研磨(CMP)により(a)研磨する前、(b)研磨した後の、バッファ層表面の断面の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【
図4】本発明の実施の形態のトンネル磁気抵抗センサ、および、バッファ層を有しない比較例のトンネル磁気抵抗センサの、磁気抵抗曲線を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施の形態のトンネル磁気抵抗センサ、および、バッファ層を有しない比較例のトンネル磁気抵抗センサの、(a)振幅が1μTの微弱な交流磁場信号を印加したときの信号出力を示すグラフ、(b)1Hzの単一帯域でのノイズを示すグラフである。
【
図6】本発明の実施の形態のトンネル磁気抵抗センサ、および、バッファ層を有しない比較例のトンネル磁気抵抗センサの、(a)磁場分解能(S/N=1となる入力磁場の大きさ;Detectivity)を示すグラフ、(b)シグナルに対するノイズの値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至
図6は、本発明の実施の形態のトンネル磁気抵抗素子およびトンネル磁気抵抗センサを示している。
図1に示すように、トンネル磁気抵抗素子10は、基板11と、基板11の上に順番に積層された下引き層12とバッファ層13と第1の電極層14と自由層15とトンネルバリア層16と固定層17と固定化促進層18と第2の電極層19とを有している。
【0017】
基板11は、非磁性であり、各層の成膜や熱処理等に耐えることができるものであれば、いかなるものから成っていてもよく、例えば、SiまたはSiO2から成っている。下引き層12は、基板11の表面に、その表面の粗さを整えるために設けられている。下引き層12は、基板11の表面の粗さを整えることができるものであれば、いかなるものから成っていてもよい。下引き層12は、2nm~10nm程度の層厚を有することが好ましい。
【0018】
バッファ層13は、導電性であり、下引き層12の基板11とは反対側の表面に設けられている。バッファ層13は、導電性の材料を含んでいることが好ましく、例えば、Cu、Al、AlCu、TiN、CuW、AlSiおよびWのうちの少なくともいずれか1つを含んでいることが好ましい。バッファ層13は、他の各層を合わせた厚さより大きい層厚を有していることが好ましく、例えば、層厚が50nm~500nmであることが好ましい。
【0019】
バッファ層13は、下引き層12とは反対側の表面が、化学機械研磨(CMP)やエッチバックなどの方法により平坦化されている。バッファ層13は、下引き層12とは反対側の表面の算術平均粗さRaが、0.5nm以下であることが好ましく、0.3nm以下であることが特に好ましい。
【0020】
第1の電極層14は、バッファ層13の下引き層12とは反対側の表面に接するよう設けられている。第1の電極層14は、導電性の材料であれば、いかなるものから成っていてもよい。第1の電極層14は、2nm~10nm程度の層厚を有することが好ましい。
【0021】
自由層15は、第1の電極層14のバッファ層13とは反対側の表面に設けられている。自由層15は、第1の電極層14の上に、第1の強磁性層21と第1の非磁性層22と第2の強磁性層23とを、この順番で積層した構造を有している。第1の強磁性層21は、外部からの磁束の影響を受けて磁化方向が変化可能になっている。第1の強磁性層21は、軟磁性材料であり、例えば、NiFe、CoFeSiB等から成り、30nm~200nm程度の層厚を有することが好ましい。
【0022】
第1の非磁性層22は、第1の強磁性層21と第2の強磁性層23とを磁気的に結合すると共に、第1の強磁性層21を第2の強磁性層23の結晶構造から切り離すために設けられている。第1の非磁性層22は、例えば、RuまたはTaから成り、0.2~1nm程度の層厚を有することが好ましい。第2の強磁性層23は、外部からの磁束の影響を受けて磁化方向が変化可能になっている。第2の強磁性層23は、例えば、CoFeBから成り、1.4nm~10.0nm程度の層厚を有することが好ましい。
【0023】
トンネルバリア層16は、自由層15の第1の電極層14とは反対側の表面に設けられている。トンネルバリア層16は、絶縁材料から成っており、例えば、MgO、Mg-Al-O、AlOx等から成っている。トンネルバリア層16は、例えば、1nm~10nm程度の層厚を有することが好ましい。
【0024】
固定層17は、トンネルバリア層16の自由層15とは反対側の表面に設けられており、自由層15との間にトンネルバリア層16を挟んでいる。固定層17は、トンネルバリア層16の上に、第3の強磁性層24と第2の非磁性層25と第4の強磁性層26とを、この順番で積層した構造を有している。第3の強磁性層24は、磁化方向が固定されている。第3の強磁性層24は、例えば、CoFeBから成り、1.4nm~10.0nm程度の層厚を有することが好ましい。
【0025】
第2の非磁性層25は、第3の強磁性層24と第4の強磁性層26とを磁気的に結合すると共に、第3の強磁性層24を第4の強磁性層26の結晶構造から切り離すために設けられている。第2の非磁性層25は、例えば、RuまたはTaから成り、0.2~1nm程度の層厚を有することが好ましい。第4の強磁性層26は、磁化方向が固定されている。第4の強磁性層26は、例えば、CoFeから成り、1.0nm~5.0nm程度の層厚を有することが好ましい。
【0026】
固定化促進層18は、第4の強磁性層26の固定化を促進するために、固定層17のトンネルバリア層16とは反対側の表面に設けられている。固定化促進層18は、例えば、IrMn、PtMnなどの反強磁性体から成り、5nm~20nm程度の層厚を有している。
【0027】
第2の電極層19は、固定化促進層18の固定層17とは反対側の表面に設けられている。第2の電極層19は、導電性の材料であれば、いかなるものから成っていてもよい。第2の電極層19は、2nm~10nm程度の層厚を有することが好ましい。なお、第1の電極層14が下部電極を成し、第2の電極層19が上部電極を成している。
【0028】
図1に示す具体的な一例では、下引き層12は、Taから成り、層厚が5nmである。バッファ層13は、Cuから成り、層厚が200nmである。第1の電極層14は、Taから成り、層厚が5nmである。自由層15の第1の強磁性層21は、CoFeSiBから成り、層厚が70nmである。自由層15の第1の非磁性層22は、Ruから成り、層厚が0.9nmである。自由層15の第2の強磁性層23は、CoFeBから成り、層厚が3nmである。トンネルバリア層16は、MgOから成り、層厚が1.6nmである。固定層17の第3の強磁性層24は、CoFeBから成り、層厚が3nmである。固定層17の第2の非磁性層25は、Ruから成り、層厚が0.9nmである。固定層17の第4の強磁性層26は、CoFeから成り、層厚が5nmである。固定化促進層18は、IrMnから成り、層厚が10nmである。第2の電極層19は、Taから成り、層厚が5nmである。
【0029】
トンネル磁気抵抗素子10は、物理蒸着法であるスパッタリングや分子線エピタキシャル成長法(MBE法)などを用いて、基板11の上に各層を成膜することにより、製造することができる。また、トンネル磁気抵抗素子10は、所望の結晶構造を得るために、各層の成膜後に熱処理を行ってもよい。その熱処理の温度は、325℃~450℃であることが好ましい。
【0030】
トンネル磁気抵抗素子10は、導電性のバッファ層13が、下部電極である第1の電極層14の自由層15とは反対側の面に接するよう設けられているため、第1の電極層14の側の寄生抵抗を小さくすることができ、TMR比の低下を抑えることができる。これにより、信号出力の低下を防ぎ、高い信号出力を得ることができる。
【0031】
トンネル磁気抵抗素子10は、バッファ層13の第1の電極層14の側の表面が平坦化されているため、第1の電極層14とバッファ層13との間の接触抵抗を小さくすることができ、寄生抵抗だけでなく、接触抵抗によるTMR比の低下も抑えることができる。なお、トンネル磁気抵抗素子10は、固定層17と自由層15とが、トンネルバリア層16を挟んで互いに逆の位置に配置されていてもよい。
【0032】
図2に示すように、トンネル磁気抵抗センサ30は、トンネル磁気抵抗素子10を複数有しており、各トンネル磁気抵抗素子10が一列に並んで配置されている。各トンネル磁気抵抗素子10は、隣り合う2つのトンネル磁気抵抗素子10を組として、その2つのトンネル磁気抵抗素子10の間で自由層15と第1の電極層14とバッファ層13とを共有しており、さらに隣り合う組の間で、隣り合ったトンネル磁気抵抗素子10が第2の電極層19を共有している。これにより、各トンネル磁気抵抗素子10は、トンネル磁気抵抗素子アレイを構成している。
図2に示す具体的な一例では、直列に接続されたトンネル磁気抵抗センサ30が平行に3つ並んで配置されている。
【0033】
なお、トンネル磁気抵抗センサ30は、組になった2つのトンネル磁気抵抗素子10の間で第1の電極層14とバッファ層13とを共有していてもよく、隣り合う組の間で、隣り合ったトンネル磁気抵抗素子10が第2の電極層19と固定化促進層18と固定層17とを共有していてもよい。また、トンネル磁気抵抗センサ30は、各トンネル磁気抵抗素子10が格子配列に配置され、一方の並び方向だけでなく、それに垂直な並び方向にも、第1の電極層14とバッファ層13、または、第2の電極層19を共有するよう構成されていてもよい。
【0034】
トンネル磁気抵抗センサ30は、トンネル磁気抵抗素子10がトンネル磁気抵抗素子アレイを構成しているため、電流が第1の電極層14およびバッファ層13を何度も通過する。このとき、バッファ層13により第1の電極層14の側の寄生抵抗が小さくなるため、その寄生抵抗による影響が大きくなるのを抑えることができ、TMR比の低下を抑えることができる。これにより、信号出力の低下を防ぎ、高い信号出力を得ることができる。
【実施例1】
【0035】
マグネトロンスパッタリングを用いて、基板11の上に各層を成膜し、
図1に示すトンネル磁気抵抗素子10を製造した。バッファ層13を成膜する際には、まず、Cuを500nm成膜した後、化学機械研磨(CMP)により300nm研磨して平坦化を行った。CMPによる研磨前後の、Cu表面の原子間力顕微鏡(AFM)による断面写真を、それぞれ
図3(a)および(b)に示す。
【0036】
図3(a)に示すように、CMPの前では、Cu表面の算術平均粗さRaが2.3nmであり、最大高低差が13nm以上であることが確認できる。これに対し、
図3(b)に示すように、CMPの後では、Raは0.29nmまで小さくなっており、最大高低差も約1.8nmまで小さくなっていることが確認された。製造したトンネル磁気抵抗素子10では、こうして平坦化されたバッファ層13の表面に、第1の電極層14を成膜している。
【0037】
次に、製造したトンネル磁気抵抗素子10を用いて、
図2に示すトンネル磁気抵抗センサ30を製造した。このとき、各トンネル磁気抵抗素子10の各層を成膜後に350℃で熱処理を行っている。製造したトンネル磁気抵抗センサ30は、平面サイズが7.1mm×7.1mmである。また、比較例として、バッファ層13を有さないトンネル磁気抵抗センサを、同じ方法で製造した。
【0038】
バッファ層13を有するトンネル磁気抵抗センサ30(以下、「with Cu 200 nm」ともいう)および比較例のトンネル磁気抵抗センサ(以下、「w/o Cu」ともいう)について、磁気抵抗曲線の測定を行った。その測定結果を、
図4に示す。
図4に示すように、バッファ層13を有するトンネル磁気抵抗センサ30は、バッファ層13を有しない比較例のトンネル磁気抵抗センサと比べて、約1.4倍のTMR比を有することが確認された。
【0039】
バッファ層13を有するトンネル磁気抵抗センサ30および比較例のトンネル磁気抵抗センサに対して、振幅が1μTの微弱な交流磁場信号を印加し、そのときの信号出力の測定を行った。その測定結果を、
図5(a)に示す。
図5(a)に示すように、バッファ層13を有するトンネル磁気抵抗センサ30は、測定信号にばらつきがあるものの、バッファ層13を有しない比較例のトンネル磁気抵抗センサと比べて、高い信号出力が得られていることが確認された。
【0040】
バッファ層13を有するトンネル磁気抵抗センサ30および比較例のトンネル磁気抵抗センサに対して、1Hzの単一帯域でのノイズの測定を行った。その測定結果を、
図5(b)に示す。
図5(a)に示すように、バッファ層13を有するトンネル磁気抵抗センサ30は、バッファ層13を有しない比較例のトンネル磁気抵抗センサと比べて、ノイズが小さくなっていることが確認された。これは、バッファ層13により、第1の電極層14の側での寄生抵抗が小さくなったためであると考えられる。
【0041】
バッファ層13を有するトンネル磁気抵抗センサ30および比較例のトンネル磁気抵抗センサ30について、
図5(a)および(b)の結果から、磁場分解能(S/N=1となる入力磁場の大きさ;Detectivity)を求め、
図6(a)に示す。
図6(a)に示すように、バッファ層13を有するトンネル磁気抵抗センサ30は、高シグナル、低ノイズであることから、バッファ層13を有しない比較例のトンネル磁気抵抗センサと比べて、より小さい磁場を分解(検出)可能であることが確認された。
【0042】
バッファ層13を有するトンネル磁気抵抗センサ30および比較例のトンネル磁気抵抗センサについて、
図5(a)および(b)の結果から、シグナルに対するノイズの値をプロットし、
図6(b)に示す。このグラフでは、グラフの右下に行けば行くほど、高シグナル、低ノイズであり、高性能であるといえる。
図6(b)に示すように、バッファ層13を有するトンネル磁気抵抗センサ30は、ノイズを低いレベルで保ったまま、高いシグナルが得られており、バッファ層13を有しない比較例のトンネル磁気抵抗センサよりも高性能であることが確認された。
【符号の説明】
【0043】
10 トンネル磁気抵抗素子
11 基板
12 下引き層
13 バッファ層
14 第1の電極層
15 自由層
21 第1の強磁性層
22 第1の非磁性層
23 第2の強磁性層
16 トンネルバリア層
17 固定層
24 第3の強磁性層
25 第2の非磁性層
26 第4の強磁性層
18 固定化促進層
19 第2の電極層
30 トンネル磁気抵抗センサ