(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】生コンクリート用の処理剤、生コンクリート用の処理剤の製造方法、及び生コンクリートの処理方法
(51)【国際特許分類】
B28C 7/16 20060101AFI20240925BHJP
C04B 18/06 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B28C7/16
C04B18/06
(21)【出願番号】P 2022062776
(22)【出願日】2022-04-05
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】522136739
【氏名又は名称】アサノ有明生コン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】田畑 和章
(72)【発明者】
【氏名】丸野 一
(72)【発明者】
【氏名】尾上 幸造
(72)【発明者】
【氏名】新 大軌
(72)【発明者】
【氏名】安達 丈
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-093473(JP,A)
【文献】登録実用新案第3202089(JP,U)
【文献】国際公開第2018/154890(WO,A1)
【文献】特開2012-193223(JP,A)
【文献】特開2007-015893(JP,A)
【文献】特表2016-526058(JP,A)
【文献】浦野 登志雄ほか,“製紙スラッジ焼却灰による廃棄生コンクリートの処理方法に関する実験的研究”,熊本高等専門学校研究紀要,2010年,第2号,p.63-68
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28C 1/00 - 9/04
C04B 18/00 - 18/30
C04B 22/06
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、及びシリカを主成分とし、タルクを微量成分として含む多孔質体からなる
生コンクリート用の処理剤。
【請求項2】
前記多孔質体におけるカルシウム(Ca)、ケイ素(Si)、及びマグネシウム(Mg)の含有量が、次の酸化物における全体重量を100重量%とする酸化物換算量として、
CaをCaOとして65~85重量%、
SiをSiO
2として5~15重量%、
MgをMgOとして0.5重量%以上、である
請求項1に記載の生コンクリート用の処理剤。
【請求項3】
前記多孔質体は、密度が1.9~2.3g/cm
3、吸水率が45%以上である
請求項1または請求項2に記載の生コンクリート用の処理剤。
【請求項4】
古紙再生処理の過程で排出される排水に所定量の凝集剤を添加して製紙スラッジを生成する工程と、
前記製紙スラッジを800℃~900℃の温度条件のもとで焼成し、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、及びシリカを主成分とし、タルクを微量成分として含む多孔質体からなる製紙スラッジ灰を生成する工程と、を備える
生コンクリート用の処理剤の製造方法。
【請求項5】
加水された残存生コンクリートに、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、及びシリカを主成分とし、タルクを微量成分として含む多孔質体からなる処理剤を所定量添加する
生コンクリートの処理方法。
【請求項6】
前記処理剤の添加量(M
PS)は、前記残存生コンクリートの質量をM(kg)、加水前の前記残存生コンクリートの単位水量をW
0(kg/m
3)、加水後の前記残存生コンクリートの推定単位水量をW
1(kg/m
3)、示方配合から計算されるベースコンクリートの単位容積資料ρ(kg/m
3)、セメントの種類に応じた比例定数α、とした場合に以下の数式に基づいて算出される
請求項5に記載の生コンクリートの処理方法。
【数1】
【請求項7】
前記式に基づいて算出された添加量に相当する前記処理剤を、前記残存生コンクリートが残存するアジテータ車のドラム内に投入し、該ドラムを所定時間だけ撹拌する
請求項6に記載の生コンクリートの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生コンクリート用の処理剤、生コンクリート用の処理剤の製造方法、及び生コンクリートの処理方法に関する。詳しくは、低コストかつ簡易な方法により残存生コンクリートの再資源化を図ることができる生コンクリート用の処理剤、生コンクリート用の処理剤の製造方法、及び生コンクリートの処理方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
建設現場などで使用されるコンクリートの多くは、コンクリート製造工場から生コンクリートとしてアジテータ車(ミキサー車、生コン車、トラックミキサー等とも呼ばれる。)によって工事現場まで搬送され、コンクリートポンプ等の機器を用いて打設される。しかしながら、生コンクリートの管理業務の都合上、一般に工事現場では生コンクリートの量に余裕を持たせて多めに発注することから、工事現場に搬送された生コンクリートの一部は余剰となり工場に返却される(残コン)。また、品質不適合、或いは発注ミスにより不適切な配合となり、荷下ろし検査に不合格となった生コンクリートも未使用のまま工場に返却される(戻りコン)。
【0003】
以上のように、生コンクリートを使用する工事現場では、余剰となって工場に返却される残コン、或いは戻りコンが恒常的に生じている。さらに、コンクリート製造工場で製造された生コンクリートについても、出荷されずに未使用となるものがある。このような残存生コンクリート(残存生コン)は、通常、硬化する前にアジテータ車のドラムやコンクリート製造工場のミキサーから排出され、産業廃棄物として廃棄処理される。そして、生コンクリートの提供業者にとって、これら残存生コンクリートの処理コストは大きな負担となっている。
【0004】
そこで、近年では、資源の有効活用の観点から、これら残存生コンクリートを再生して、コンクリートブロックや再生骨材原料として再資源化する技術が望まれている。一方、残コンにおいては、アジテータ車からの排出時において大量に加水されるため、流動性の高いスラリー状となっており生コンクリートとして正常に凝結しない虞がある。また、戻りコンについても、品質不良の原因がスランプ異常や単位水量過多である場合には、水分量が過剰となっており、やはりスラリー状となり硬化し難いという問題がある。
【0005】
以上のような問題に対処するために、例えば特許文献1には、スラリー状の生コンクリートに、吸水性高分子重合体を添加、混合し、吸水性高分子重合体の吸水作用により、スラリー状の生コンクリートを造粒化する生コンクリートの処理方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1に開示の技術のように、生コンクリートの処理に高分子凝集剤を用いる場合には、生コンクリートに対する分散性が悪く、生コンクリートが硬化するまでに長時間を要するとともに、多量の高分子凝集剤を用いる必要があるため経済性の点で問題があった。
【0008】
一方、本願発明の発明者らは、鋭意研究した結果、残存生コンクリートが正常に固まらない原因は、残存生コンクリートの単位水量が多いことにより、生コンクリートの分離抵抗性が低下し、硬化中に生コンクリート中の骨材とセメントペースト分とが分離し、セメントペースト分だけが固まることで骨材が汚泥化することによるものであるとの知見を得た。そして、係る知見に基づいて、残存生コンクリートの分離抵抗性、及び成形性を一定程度まで回復可能な製紙スラッジ灰を主成分とする処理剤を開発するに至った。
【0009】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、低コストかつ簡易な方法により残存生コンクリートの再資源化を図ることができる生コンクリート用の処理剤、生コンクリート用の処理剤の製造方法、及び生コンクリートの処理方法に係るものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、本発明の生コンクリート用の処理剤は、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、及びシリカを主成分とし、タルクを微量成分として含む多孔質体からなるものである。
【0011】
ここで、生コンクリート用の処理剤の構成成分として、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、及びシリカを主成分とし含む多孔質体であることにより、吸水性が高まり、加水された生コンクリートである残コン、或いは戻りコン等の残存生コンクリート中の水分を吸収し、生コンクリートの分離抵抗性、及び成形性を一定程度まで回復させることができる。また、炭酸カルシウムおよび水酸化カルシウムは、セメント反応物およびその原料である石灰石に多く含まれる物質であり、残存生コンクリートの未反応セメントと積極的に反応することで、その反応を促進することができる。
【0012】
また、生コンクリート用の処理剤の構成成分として、タルクを微量成分として含むことにより、タルクは平滑性や骨材間のトライボロジー性を向上させることができるため、処理剤を添加した生コンクリートの性状として、例えばセルフレベリング性を高めることができる。
【0013】
また、製紙スラッジ灰におけるカルシウム(Ca)、ケイ素(Si)、及びマグネシウム(Mg)の含有量が、次の酸化物における全体重量を100重量%とする酸化物換算量として、CaをCaOとして65~85重量%、SiをSiO2として5~15重量%、MgをMgOとして0.5重量%以上である数値範囲を満たす場合には、残存生コンクリートに含まれる水分を吸水して生コンクリートの分離抵抗性、及び成形性を回復することができる。また、Ca、Mgはそれぞれセメントとの親和性が高いため、これら成分が一定量含まれることで、セメントの水和反応が促進され、生コンクリートの強度を確保することができる。
【0014】
ここで、処理剤が生コンクリート中の水分を吸水することにより、生コンクリートの水セメント比を回復させると同時に、細骨材として寄与する。コンクリートの強度は同一骨材であれば水セメントに影響され、同一水セメント比であれば使用骨材の強度に依存する。よって、処理剤には、吸水率が高く、骨材としての強度が高いことが求められる。
【0015】
処理剤中の吸水性は処理剤の製造過程において、500℃前後でセルロースが燃焼すること、及び製紙スラッジに含まれる炭酸カルシウムが825℃付近で熱分解(脱炭酸)されることで生成される。また、500℃前後では、製紙スラッジ中の体積分率にして40%前後を占めるセルロースが自燃することで、製紙スラッジ凝集粒子が多孔質体へ変化する。その後、825℃付近で残余物中の炭酸カルシウムが熱分解し、多孔質体に更に微細な細孔が形成され、毛細管現象により吸水性能が向上し、セルロース成分は完全に灰化されるため、カルシウム含有量が多い方が吸水性は高まる傾向にある。
【0016】
しかし、炭酸カルシウムや酸化カルシウム(或いは室温で吸水し水酸化カルシウムに変化したもの)は骨材としての強度に劣るため、硬化コンクリートの物性を考慮するとシリカ(SiO2)が適量(10%前後)含まれる必要がある。なお、処理剤中のマグネシウムはタルク由来のものである。処理剤添加後の生コンクリートは非常に細骨材率が高いコンクリートとなるため、チキソトロピーが強くなるが、タルクがMgO換算で0.5%以上含まれることで骨材間の流動性を保つことができる。
【0017】
また、製紙スラッジ灰は、密度が1.9~2.3g/cm3、吸水率が45%以上である場合には、係る製紙スラッジ灰からなる処理剤を、加水された生コンクリート中に投入することで、生コンクリート中の水分を効果的に吸水し、生コンクリートの分離抵抗性、及び成形性が改善する。
【0018】
前記の目的を達成するために、本発明の生コンクリート用の処理剤の製造方法は、古紙再生処理の過程で排出される排水に所定量の凝集剤を添加して製紙スラッジを生成する工程と、前記製紙スラッジを800℃~900℃の温度条件のもとで焼成し、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、及びシリカを主成分とし、タルクを微量成分として含む製紙スラッジ灰を生成する工程とを備える。
【0019】
ここで、古紙再生処理の過程で排出される排水に所定量の凝集剤を添加して製紙スラッジを生成する工程を備えることにより、古紙再生処理の過程で排出される排水中に含まれるコロイド粒子を凝集して製紙スラッジを生成することができる。より具体的には、凝集剤により、古紙に含まれるパルプ(セルロース)、タルク、水酸化カルシウム、及び炭酸カルシウムからなる製紙スラッジが生成される。
【0020】
また、製紙スラッジを800℃~900℃の温度条件のもとで焼成し、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、及びシリカを主成分として含む多孔質体からなる製紙スラッジ灰を生成する工程を備えることにより、前記した製紙スラッジのうち、融点の低いセルロースが燃焼し、炭酸カルシウムをはじめとする多孔質体からなる製紙スラッジ灰が形成される。このように、多孔質体からなる製紙スラッジ灰は吸水性が高く、加水された生コンクリートである残コン、或いは戻りコン等の残存生コンクリートに添加することで、残存生コンクリート中の水分を効果的に吸水し、生コンクリートの分離抵抗性、及び成形性を一定程度まで回復させることができる。
【0021】
さらに、製紙スラッジを焼成することにより、前記した主成分に加え、微量成分としてタルクを含有させることができる。このタルクはセメントとの親和性が高く、加水された生コンクリートの諸性質を改善することができる。
【0022】
なお、製紙スラッジの焼成温度が500℃未満の場合には、酸化反応が進行しないため、製紙スラッジに含まれるセルロースが完全に燃焼せず、処理剤が多孔質体を形成しないことから、処理剤の吸水性が劣る可能性がある。一方焼成温度の上限温度は特に限定されるものではないが、焼成温度が略825℃を越えると、炭酸カルシウムは徐々に酸化カルシウムに変化し、850℃を超えると完全に酸化カルシウムに変化するが、製紙スラッジ灰の冷却過程において、酸化カルシウムの一部は空気中の水分を吸収し水酸化カルシウムに変化する。そのため、焼成温度が略850℃を越えると、炭酸カルシウムと水酸化カルシウムの含有比率が変化する場合もあるが、何れの場合でも吸水性の高い処理剤を実現することができる。
【0023】
前記の目的を達成するために、本発明の生コンクリートの処理方法は、加水された残存生コンクリートに、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、及びシリカを主成分とし、タルクを微量成分として含む多孔質体からなる処理剤を所定量添加するものである。
【0024】
ここで、処理剤の構成成分として、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、及びシリカを主成分とする多孔質体であることにより、これら吸水性が高い性状を有する。そして、係る処理剤を加水された残コン、或いは戻りコンである残存生コンクリートに一定量投入することで、残存生コンクリートに含まれる水分を吸収し、残存生コンクリートの分離抵抗性、及び成形性を一定程度まで回復させることができる。
【0025】
また、処理剤の添加量(M
PS)は、残存生コンクリートの質量をM(kg)、加水前の残存生コンクリートの単位水量をW
0(kg/m
3)、加水後の残存生コンクリートの推定単位水量をW
1(kg/m
3)、示方配合から計算されるベースコンクリートの単位容積質量ρ(kg/m
3)、セメントの種類に応じた比例定数α、とした場合に以下の数1で示される数式に基づいて算出される場合には、残存生コンクリートに含まれる水量等の各種のパラメータに基づいて、最適な処理剤を算出することができるため、残存生コンクリートの分離抵抗性、及び成形性をより効果的に回復させることができる。
【数1】
【0026】
また、数1で示される数式に基づいて算出された添加量に相当する処理剤を、残存生コンクリートが残存するアジテータ車のドラム内に投入し、ドラムを所定時間だけ撹拌する場合には、ドラム内に残存する残存生コンクリートの全体にわたって均一に処理剤を混合させることができるため、生コンクリートの品質を一定に保つことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る生コンクリート用の処理剤、生コンクリート用の処理剤の製造方法、及び生コンクリートの処理方法は、低コストかつ簡易な方法により残存生コンクリートの再資源化を図ることができるものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の実施形態に係る処理剤の製造方法を示す工程図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る処理剤の使用方法を示す工程図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る処理剤に含まれる成分分析結果を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る処理剤を添加する前の生コンクリートのX線分析結果を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る処理剤を添加した後の生コンクリートのX線分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態に係る生コンクリート用の処理剤、生コンクリート用の処理剤の製造方法、及び生コンクリートの処理方法について図面等を用いて詳細に説明し、本発明の理解に供する。
【0030】
図1は本発明の実施形態に係る生コンクリート用の処理剤を製造するための工程図を示す。生コンクリート用の処理剤の製造方法においては、まず古紙再生処理工場に再生処理される古紙が搬入され、搬入された古紙は離解、除塵、脱墨・漂白等の周知の再生処理が行われる(工程11)。そして、工程11の再生処理により生じた排水に凝集剤を添加し、沈殿物としての製紙スラッジを生成する(工程12)。さらに、製紙スラッジを略800℃~900℃の温度条件のもとで焼成することで多孔質体からなる製紙スラッジ灰を生成する(工程13)。
【0031】
以上の工程により得られた製紙スラッジ灰が、本発明の実施形態に係る生コンクリート用の処理剤である。処理剤は、例えば水溶性の包装材により個別包装され、後記する通り、必要量を残存生コンクリートに添加して残存生コンクリートのスランプを回復させ、所定の規格に合致した生コンクリートの性状まで改善させることができる。
【0032】
ここで、必ずしも、製紙スラッジ灰は古紙を再生処理して排出される排水から生成された製紙スラッジを焼成して生成する必要はない。例えば木材を材料にして製造した新しいパルプ(バージンパルプ)から製紙する過程で生じる排水をもとにする製紙スラッジを原材料とすることもできる。
【0033】
しかしながら、バージンパルプを使用する場合には、処理剤の主成分のうち炭酸カルシウム、シリカ、タルクといった物質は木材チップには含まれておらず、木材チップの製造後に紙力強化などを目的に添加された薬品が、意図せず製紙スラッジとして排出された量に留まる。そのため、バージンパルプの製紙工程で排出される排水中には、本発明に係る処理剤を構成する成分含有量が少ない場合もあり、残存生コンクリートの分離抵抗性、及び成形性を効果的に回復させることを積極的かつ恒常的に期待することが困難である。
【0034】
より具体的には、バージンパルプから排出される排水に起因する製紙スラッジ灰に含まれる元素は、ケイ素、アルミニウム、鉄といった元素が相対的に多くなり、カルシウム、マグネシウム成分は減少するため、本発明の処理剤としての所定の性能を十分に発揮できない虞がある。
【0035】
工程12で使用する製紙スラッジを生成するために排水に添加される凝集剤としては、ポリ塩化アルミニウム、及びポリ塩化鉄を主成分とする無機凝集剤が使用される。但し、その他の無機凝集剤、或いは高分子凝集剤を使用することも可能である。
【0036】
また、工程13における製紙スラッジの焼成条件としては、前記した略800℃~900℃の温度条件に限定されるものではない。但し、焼成温度が略800℃未満となると、製紙スラッジに含まれる炭酸カルシウム成分が十分に脱炭酸反応せず、多孔質体からなる製紙スラッジ灰を生成することができず、一定程度の吸水性を確保することができない虞がある。但し、焼成温度が500℃未満ではセルロースも分解されないため、所定の性能を得ることができない。
【0037】
なお、焼成温度の上限値は特に限定されるものではなく、焼成コスト等を考慮して上限値は適宜設定できるものとし、焼成温度が略800℃~850℃の範囲内であれば、焼成後の製紙スラッジ灰は主に炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、及びシリカを主成分として含まれることになる。
【0038】
また、製紙スラッジを略825℃以上で焼成すると、製紙スラッジに含まれる炭酸カルシウムは酸化カルシウムに変化する。一方、酸化カルシウムは、製紙スラッジ灰の冷却過程において、空気中の水分を吸収し水酸化カルシウムに変化する。そのため、焼成温度が略850℃を越えると、炭酸カルシウムと水酸化カルシウムの含有比率が変化する場合もあるが、何れの場合でも吸水性の高い処理剤を実現することができる。なお、焼成温度が900℃を超えると、タルク成分が徐々に脱水・熱分解を開始する。よって、焼成温度は略900℃未満とすることが好ましい。
【0039】
次に、前記した製造工程により得られた処理剤(製紙スラッジ灰)の使用方法について
図2に基づいて説明する。
【0040】
まず、コンクリート製造工場に帰着したアジテータ車のドラム内に残存する残存生コンクリートの質量M(kg)を計測する(工程21)。残存生コンクリートの質量の計測は、例えばトラックスケール等の大型計量器で計測することができる。
【0041】
次に、ドラム内から残存生コンクリートを一定量(例えば10L)だけ採取し、採取したサンプルの質量を計測したうえで密度を算出し、算出した密度を単位水量計に入力することで、残存生コンクリートの加水前の単位水量W0(kg/m3)を測定する(工程22)。なお、密度の測定は、演算により求めてもよく、或いは密度測定器を用いて測定してもよい。
【0042】
工程22で求めた加水前の単位水量に対して、計測に使用した単位水量計の機種毎に設定されている補正係数で除して、加水後の残存生コンクリートの推定単位水量W1(kg/m3)を算出する(工程23)。
【0043】
さらに、示方配合から計算されるベースコンクリート(ベースコン)の単位容積質量ρ(kg/m3)を算出する(工程24)。
【0044】
以上の工程21~工程24で各パラメータが得られたら、前記した数1で示される数式に基づいてアジテータ車のドラムに添加すべき処理剤の適正量MPS(kg/m3)が算出される(工程25)。ここで、数式におけるαはセメント毎の比例係数であり、例えば普通ポルトランドセメント(Nセメント)であればα=0.8前後となる。
【0045】
工程25で処理剤の添加量の適正量MPSが得られたら、相当する量の処理剤を計量器で計測してアジテータ車のドラム内に投入する(工程26)。このとき、前記したように、処理剤が所定の単位量毎に水溶性包装で小分けして準備されている場合には、適正量に相当する個数の処理剤をドラム内に投入することができるため、処理剤を計量器で計量する手間を省くことができる。
【0046】
ドラム内に処理剤を投入したら、ドラムを回転駆動させることで、処理剤と残存生コンクリートを均一になるまで混合させる。ドラムの回転駆動時間は、回転速度や残存生コンクリートの量にもよるが、略3分間程度、高速回転させれば十分である。
【0047】
<実施例>
次に、実施例について説明する。実施例において使用した残存生コンクリートは普通ポルトランドセメント(Nセメント)であり、呼び強度、スランプ、粗骨材サイズが「24-18-20N」のものを使用した。
【0048】
まず、ドラム内にある残存生コンクリートから500L(0.5m3)をサンプルとして採取した。そしてサンプルの密度に基づいて、単位水量計(KEYTEC株式会社 SONO―WZ)で算出した残存生コンクリートの加水前の単位水量(W0)は184kg/m3であった。そして、単位水量の推定値に対して、計測に使用した単位水量計の補正係数(前記した単位水量計の場合には0.95)で除して、加水後の推定単位水量(W1)を求めると251.6kg/m3であった。
【0049】
そして、以上の各パラメータに基づいて、数1で示される数式により処理剤の適正量(MPS)を算出すると、略35kgとなった。この算出結果により、35kgの処理剤をドラム内に投入し、処理剤と残存生コンクリートとが均一に混合されるまでドラムを高速回転させた。
【0050】
このようにして得られた生コンクリートは、処理剤に微量成分として含まれるタルクにより、外観は表面性状が極めて良好であり、セルフレベリング性を有するものとなっていた。また、処理剤の添加前後の生コンクリートのスランプを計測すると、処理剤の添加前の生コンクリートのスランプは65cmであるのに対して、処理剤の添加後の生コンクリートのスランプは19cmまで改善することが確認できた。
【0051】
さらに、処理剤添加直後の生コンクリートの強度試験を実施した。強度試験に供した供試コンクリートは標準養成により養成し、1週強度は15.3N/mm2、2週強度は18.5N/mm2となった。これらより4週強度の推定値は21N程度となり、処理剤添加前の生コンクリートは「24-18-20N」であるのに対して、処理剤添加後の生コンクリートは「18-18-20N」となり、一定程度の強度が出ていることが確認できた。
【0052】
次に、X線回折装置(島津製作所株式会社)を使用して、処理剤の成分分析を行った結果を
図3に示す。測定は3回行い、それぞれの測定結果をPS1、PS2、PS3として表示している。
図3に示すように、処理剤の主成分としては、カルシウム(Ca)、ケイ素(Si)、及びマグネシウム(Mg)の含有量が、酸化物における全体重量を100重量%とする酸化物換算量として、CaをCaOとして65~85重量%、SiをSiO
2として5~15重量%、MgをMgOとして0.5重量%以上を含有する組成となる。
【0053】
そして、係る処理剤の添加前後の生コンクリートについて、波長分散型の蛍光X線分析装置(株式会社リガク ZSX Primus II)を使用して組成の分析を行った結果を
図4、
図5に示す。
図4は処理剤の添加前の生コンクリートのX線分析結果、
図5は処理剤の添加後の生コンクリートのX線分析結果をそれぞれ示す。
【0054】
図4、
図5に示すように、処理剤の添加前に比べて添加後の生コンクリートは、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、及びカルシウム(Ca)の含有量が増加していることが確認できる。このうち、マグネシウムは処理剤の微量成分として含まれるタルク由来のものである。一方、アルミニウムは製紙スラッジに添加した凝集剤に含まれるポリ塩化アルミニウム、ポリ塩化鉄に由来するものである。また、カルシウムは、製紙スラッジに含まれている炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、或いは酸化カルシウムに由来するものである。
【0055】
なお、生コンクリートの骨材に由来するケイ素(Si)については、処理剤の添加前に比べて添加後の含有率が下がっているが、これは他の元素成分の含有率が増加したことにより、相対的な含有率が下がったものであると推測される。
【0056】
以上のように、本発明に係る生コンクリート用の処理剤、生コンクリート用の処理剤の製造方法、及び生コンクリートの処理方法は、低コストかつ簡易な方法により残存生コンクリートの再資源化を図ることができる。