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  • 特許-ヒートシール紙 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】ヒートシール紙
(51)【国際特許分類】
   B32B 37/14 20060101AFI20240925BHJP
   B32B 29/00 20060101ALI20240925BHJP
   B32B 27/10 20060101ALI20240925BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20240925BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240925BHJP
   D21H 19/20 20060101ALI20240925BHJP
   D21H 19/22 20060101ALI20240925BHJP
   D21H 19/46 20060101ALI20240925BHJP
   D21H 19/76 20060101ALI20240925BHJP
   D21H 27/10 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B32B37/14 Z
B32B29/00
B32B27/10
B32B27/28 101
B65D65/40 D
D21H19/20 A
D21H19/22
D21H19/46
D21H19/76
D21H27/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023077759
(22)【出願日】2023-05-10
【審査請求日】2023-11-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】堀越 達也
(72)【発明者】
【氏名】柴田 航希
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/152753(WO,A1)
【文献】特開2021-107597(JP,A)
【文献】特開2023-035395(JP,A)
【文献】特開2005-238722(JP,A)
【文献】特開2019-116535(JP,A)
【文献】特開2022-011705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
D21H11/00-27/42
C09J7/00-7/50
C09D1/00-10/00;101/00-201/10
C09J1/00-5/10;9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材と、該紙基材の少なくとも一方の面上にヒートシール層を有するヒートシール紙の製造方法であって
前記紙基材の水に対する接触角が100°未満であり、
前記ヒートシール層が、少なくとも水分散性樹脂バインダーとエトキシル化アセチレン系界面活性剤とを含有し、片面当たりの乾燥塗工量が5g/m以上であり、
前記ヒートシール層を形成するための塗工剤が、塗工時の表面張力が46mN/m未満であることを特徴とするヒートシール紙の製造方法(ただし、パルプと内添サイズ剤とを含有し、下記条件(a)で測定される前記パルプの変則フリーネスが50~700mlである紙基材を除く。
条件(a):パルプ懸濁液の固形分濃度を0.030±0.001%とし、JIS P
8121-2:2012に準じてフリーネスを測定する。)
【請求項2】
前記紙基材のMD方向とCD方向の引張こわさの相乗平均が、200kN/m以上であることを特徴とする請求項1に記載のヒートシール紙の製造方法
【請求項3】
前記水分散性樹脂バインダーが、エチレンメタクリル酸共重合樹脂、エチレンアクリル酸共重合樹脂、PHBHから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のヒートシール紙の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシール紙、特に包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材など、包装用途に好適に用いられる、ヒートシール適性を有するヒートシール紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境中にごみとして流出したプラスチックが、半永久的に分解されず生態系に悪影響を及ぼすことが懸念されることなどから、プラスチックごみが大きな問題として取り上げられている。対策としては、プラスチックをバイオマス由来材料、生分解性材料である紙に代替することが提案されている。
特に、プラスチックフィルムからなる包装材の代替として、紙基材上に熱可塑性樹脂分散体を含む水又は溶剤分散液を塗工してヒートシール層を形成したヒートシール紙が提供されている(特許文献1~3等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2020/152753号
【文献】特開2022-11705号公報
【文献】特開2022-18163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヒートシール紙には、当然に優れたヒートシール強度が求められ、そのためには紙基材やヒートシール層が含む熱可塑性樹脂の種類等を最適化する必要がある。一方、加工性やヒートシール紙の使用目的等により、紙基材や熱可塑性樹脂の種類が限定される場合がある。
本発明は、ヒートシール強度に優れたヒートシール紙を提供することを課題とし、特に、使用する材料が限定されている場合にヒートシール強度により優れたヒートシール紙を提供することを課題する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の課題を解決するための手段は、以下の通りである。
1.紙基材と、該紙基材の少なくとも一方の面上にヒートシール層を有し、
前記紙基材の水に対する接触角が100°未満であり、
前記ヒートシール層が、少なくとも水分散性樹脂バインダーを含有し、片面当たりの乾燥塗工量が5g/m以上であり、
前記ヒートシール層を形成するための塗工剤が、塗工時の表面張力が46mN/m未満であることを特徴とするヒートシール紙。
2.前記紙基材のMD方向とCD方向の引張こわさの相乗平均が、200kN/m以上であることを特徴とする1.に記載のヒートシール紙。
3.前記ヒートシール層が、エトキシル化アセチレン系界面活性剤を含有することを特徴とする1.または2.に記載のヒートシール紙。
4.前記水分散性樹脂バインダーが、エチレンメタクリル酸共重合樹脂、エチレンアクリル酸共重合樹脂、PHBHから選ばれる1種以上であることを特徴とする1.~3.のいずれかに記載のヒートシール紙。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、ヒートシール強度に優れたヒートシール紙を提供することができる。特に、紙基材、熱可塑性樹脂からなる水分散性樹脂バインダーのいずれか、または両方が、特定のものに限定されている場合に、よりヒートシール強度に優れたヒートシール紙を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】水分散性樹脂バインダーとしてエチレンアクリル酸共重合樹脂を用い、乾燥塗工量が5g/m以上である実施例、比較例の結果について、表面張力と接触角、ヒートシール強度の関係を示すグラフ。
図2】水分散性樹脂バインダーとしてエチレンメタクリル酸共重合樹脂を用いた実施例、比較例の結果について、表面張力と接触角、ヒートシール強度の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
「ヒートシール紙」
本発明は、紙基材と、この紙基材の少なくとも一方の面上にヒートシール層を有し、
紙基材の水に対する接触角が100°未満であり、
ヒートシール層が、少なくとも水分散性樹脂バインダーを含有し、片面当たりの乾燥塗工量が5g/m以上であり、
ヒートシール層を形成するための塗工剤が、塗工時の表面張力が46mN/m未満であるヒートシール紙に関する。
【0009】
(紙基材)
紙基材は、パルプ、填料、各種助剤等を含む紙料を抄紙して得られる。
本発明のヒートシール紙を、食品と接触する用途に使用する場合、紙基材の各材料として、食品添加物として認可を受けている、またはFDA認証取得済み等、食品安全性に適合したものを使用することが好ましい。
【0010】
パルプとしては、針葉樹の晒クラフトパルプ(NBKP)、針葉樹の未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹の晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹の未晒クラフトパルプ(LUKP)、サルファイトパルプ(SP)等の木材の化学パルプ、グランドパルプ(GP)、リファイナグランドパルプ(RGP)、ストーングランドパルプ(SGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、セミケミカルパルプ(SCP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の木材の機械パルプ、ケナフ、バガス、竹、麻、ワラなどから得られた非木材パルプ、古紙を原料とし、脱墨工程にて古紙に含まれるインキを除去した古紙パルプなど、公知のパルプを適宜配合して用いることが可能である。これらの中で、異物混入が発生し難いLBKP、NBKP等の化学パルプが好ましく、また、古紙パルプの配合量が少ないことが好ましい。具体的には、全パルプに対する化学パルプの配合量が80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、95重量%がさらに好ましく、100重量%が特に好ましい。また、古紙パルプの配合量が10重量%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1重量%以下であることがさらに好ましく、含まないことが最も好ましい。
【0011】
填料としては、タルク、カオリン、焼成カオリン、クレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、ホワイトカーボン、ゼオライト、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどの無機填料、尿素-ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子等の有機填料等の公知の填料を使用することができる。なお、填料は、必須材料ではなく、使用しなくてもよい。
【0012】
各種助剤としては、ロジン、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニルコハク酸無水物(ASA)などのサイズ剤、ポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、カチオン化澱粉、各種変性澱粉、尿素・ホルマリン樹脂、メラミン・ホルマリン樹脂などの乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、歩留剤、濾水性向上剤、凝結剤、硫酸バンド、嵩高剤、染料、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、紫外線防止剤、退色防止剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等が例示可能であり、必要に応じて適宜選択して使用可能である。
【0013】
紙基材の製造(抄紙)方法は特に限定されるものではなく、長網抄紙機、円網抄紙機、短網抄紙機、ギャップフォーマー型、ハイブリッドフォーマー型(オントップフォーマー型)等のツインワイヤー抄紙機等、公知の製造(抄紙)方法、抄紙機が選択可能である。また、抄紙時のpHは酸性領域(酸性抄紙)、疑似中性領域(疑似中性抄紙)、中性領域(中性抄紙)、アルカリ性領域(アルカリ性抄紙)のいずれでもよく、酸性領域で抄紙した後、紙層の表面にアルカリ性薬剤を塗工してもよい。また、紙基材は1層であってもよく、2層以上の多層で構成されていてもよい。
【0014】
さらに、紙基材の表面を各種薬剤で処理することが可能である。使用される薬剤としては、酸化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉、酵素変性澱粉、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、表面サイズ剤、耐水化剤、保水剤、増粘剤、滑剤などを例示することができ、これらを単独あるいは2種類以上を混合して用いることができる。さらに、これらの各種薬剤と顔料を併用してもよい。顔料としてはカオリン、クレー、エンジニアードカオリン、デラミネーテッドクレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、マイカ、タルク、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイトなどの無機顔料および密実型、中空型、またはコアーシェル型などの有機顔料などを単独または2種類以上混合して使用することができる。
【0015】
紙基材の表面処理の方法は特に限定されるものではないが、ロッドメタリングサイズプレス、ポンド式サイズプレス、ゲートロールコーター、スプレーコーター、ブレードコーター、カーテンコーターなど公知の塗工装置を用いることができる。
紙基材としては、上質紙、中質紙、塗工紙、片艶紙、クラフト紙、片艶クラフト紙、晒クラフト紙、グラシン紙、板紙、白板紙、ライナーなどの各種公知のものが例示可能である。
【0016】
本発明で使用する紙基材は、水に対する接触角(純水、2μL、接触から0.5秒後)が100°未満である。この接触角が100°未満である紙基材を用いることにより、接触角が100°以上である紙基材を用いた場合と比較してヒートシール強度に優れたヒートシール紙を得ることができる。紙基材のこの接触角は90°以下が好ましく、85°以下がより好ましく、80°以下がさらに好ましい。紙基材のこの接触角は30°以上が好ましく、35°以上がより好ましい。紙基材の接触角は、例えば、使用する助剤、薬剤の親水性、特に表面処理を行う場合は外添薬剤として界面活性剤を用いること等により調整することができる。
【0017】
紙基材は、MD方向とCD方向の引張こわさの相乗平均が200kN/m以上であることが好ましい。引張こわさの相乗平均の値が大きくなると負荷が加わった際の紙の変形(伸長)が小さくなるため、荷重が加わった際にヒートシール層が紙の変形に追従できずにひび割れ等の破壊が生じることを防止することができる。そして、ヒートシール層において、破壊箇所を起点とする破断が起こりにくくなるため、ヒートシール強度が向上する。この引張こわさの相乗平均は、300kN/m以上がより好ましく、400kN/m以上がさらに好ましく、500kN/m以上がよりさらに好ましく、600kN/m以上がよりさらに好ましく、700kN/m以上がよりさらに好ましい。引張こわさの相乗平均の上限は特に制限されないが、例えば、800kN/m以下程度である。
【0018】
紙基材の坪量は、所望される各種品質や取り扱い性等により適宜選択可能であるが、通常は20g/m以上600g/m以下のものが好ましい。食品などの包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材など、包装用途に使用するヒートシール紙の場合は、25g/m以上600g/m以下のものがより好ましく、特に袋、蓋材、または後述する軟包装材用途に使用するヒートシール紙の場合は、30g/m以上150g/m以下のものが、また容器、箱、カップ用途に使用するヒートシール紙の場合は、150g/m以上350g/m以下のものがより好ましい。なお、軟包装材とは、構成としては、柔軟性に富む材料で構成されている包装材であり、一般には紙、フィルム、アルミ箔等の薄く柔軟性のある材料を、単体あるいは貼り合せた包装材を指す。また、形状としては、袋など、内容物を入れることにより立体形状を保つような包装材を指す。
また、紙基材の密度は、所望される各種品質や取り扱い性等により適宜選択可能であるが、通常は0.5g/cm以上1.0g/cm以下のものが好ましい。
【0019】
(ヒートシール層)
ヒートシール層は、少なくとも水分散性樹脂バインダーを含有し、紙基材の接触角が100°未満である面上に直接形成される。
ヒートシール層は、紙基材の少なくとも一方の面上に設けられる。紙基材の両面にヒートシール層を設ける場合、紙基材の他方の面の接触角は特に制限されず、また、紙基材と他方のヒートシール層との間に、目止め層、インク受容層、耐水層、耐油層、水蒸気バリア層、ガスバリア層等の機能層の1層または2層以上を形成することができる。
【0020】
・水分散性樹脂バインダー
水分散性樹脂バインダーは、製紙分野においてヒートシール層の形成に用いられている熱可塑性樹脂からなるものを特に制限することなく使用することができ、例えば、ガラス転移温度が100℃以下であるものを用いることができる。熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、-20℃以上85℃以下であることが好ましい。また、熱可塑性樹脂の融点は、80℃以上120℃以下であることが好ましい。水分散性樹脂バインダー(熱可塑性樹脂)としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、PET、ポリ乳酸等のポリエステル樹脂、エチレンメタクリル酸共重合樹脂(EMAA)、エチレンメチルアクリレート共重合樹脂(EMA)、エチレンアクリル酸共重合樹脂(EAA)、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、スチレンアクリル酸エステル共重合樹脂等を用いることができ、これらの1種あるいは2種類以上を混合して使用することができる。これらの中で、ヒートシール強度に優れるため、エチレンメタクリル酸共重合樹脂、エチレンアクリル酸共重合樹脂、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、また、生分解性であるため、ポリエステルの一種であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)が好ましい。なお、アクリル酸またはメタクリル酸単位を有する樹脂は、アイオノマーであってもよい。
【0021】
・界面活性剤
ヒートシール層は界面活性剤を含むことができる。ヒートシール層に界面活性剤を含有させることにより、ヒートシール層を形成するための塗工剤の塗工時の表面張力を46mN/m未満とすることが容易となる。
界面活性剤のイオン性は制限されるものはなく、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤のいずれの種類でも単独もしくは2種類以上を組み合わせて使用することができる。また、具体的な種類としては、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アルコール系界面活性剤、アセチレン基を有するアセチレン系界面活性剤、アセチレン基と2つの水酸基を有するアセチレンジオール系界面活性剤、エトキシル化アセチレン系界面活性剤、エトキシル化アセチレンジオール系界面活性剤、アルキル基とスルホン酸を有するアルキルスルホン酸系界面活性剤、エステル系界面活性剤、アミド系界面活性剤、アミン系界面活性剤、アルキルエーテル系界面活性剤、フェニルエーテル系界面活性剤、硫酸エステル系界面活性剤、フェノール系界面活性剤などを例示することができる。これらの中で、アセチレン系界面活性剤、アセチレンジオール系界面活性剤、エトキシル化アセチレン系界面活性剤、エトキシル化アセチレンジオール系界面活性剤が好ましく、エトキシル化アセチレン系界面活性剤がより好ましい。
ヒートシール層中の界面活性剤の配合量は特に制限されないが、ヒートシール層全体に対して、0.01重量%以上5重量%以下が好ましい。界面活性剤のこの配合量が0.01重量%未満では界面活性剤配合による効果が発揮できない場合がある。界面活性剤の配合量が5重量%を超えると逆にヒートシール強度が低下する場合がある。ヒートシール層中の界面活性剤の配合量は、ヒートシール層全体に対して、3重量%以下がより好ましく、2重量%以下がさらに好ましく、1重量%以下がよりさらに好ましい。
【0022】
ヒートシール層は、水分散性樹脂バインダーと界面活性剤のほかに、本発明の効果を損なわない範囲内において、ワックス、顔料等のアンチブロッキング剤、分散剤、増粘剤、染料等を含むことができる。
【0023】
ヒートシール層は、少なくとも水分散性樹脂バインダーを含み、界面活性剤等を含むことのできる塗工剤を、紙基材の少なくとも一面上に直接塗工し、乾燥することにより形成される。
ヒートシール層の塗工方法は特に限定されるものではなく、公知の塗工装置および塗工系で塗工することができる。例えば、塗工装置としてはブレードコーター、バーコーター、エアナイフコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、サイズプレスコーター、ゲートロールコーター等が挙げられる。また、塗工系としては、水等の溶媒を使用した水系塗工、有機溶剤等の溶媒を使用した溶剤系塗工などが挙げられるが、水系塗工であることが安全性や環境への負荷が少ない点から好ましい。
【0024】
本発明において、ヒートシール層を形成する塗工剤は、塗工時の表面張力が46mN/m未満である。塗工時の表面張力が46mN/m未満である塗工剤を、接触角が100°未満である紙基材上に直接塗工することにより、ヒートシール強度に優れたヒートシール紙を得ることができる。塗工剤の塗工時の表面張力は、42mN/m以下が好ましく、38mN/m以下がより好ましく、また、30mN/m以上が好ましく、32mN/m以上がより好ましい。
【0025】
ヒートシール層の片面当たりの乾燥塗工量は5g/m以上である。片面当たりの乾燥塗工量は5g/m未満では、紙基材上に十分な厚さのヒートシール層が形成されにくく、十分なヒートシール強度が得られない場合がある。ヒートシール層の片面当たりの乾燥塗工量は、多いほどヒートシール強度が向上する傾向となるが、多すぎると乾燥のためのエネルギーコストと材料コストが増加するため、20g/m以下が好ましく、10g/m以下がより好ましい。なお、ヒートシール層は、1層であってもよく、2層以上の多層で構成してもよい。ヒートシール層を2層以上の多層で構成する場合は、全ての塗工層を合計した塗工量を上記範囲とすることが好ましい。
【実施例
【0026】
(評価方法)
・塗工剤の表面張力
Wilhelmy法(プレート法、垂直板法)により、自動表面張力計(協和界面化学株式会社製、CBVP-Z)を用いて測定した。
・紙基材の接触角
JIS R3257(基板ガラス表面のぬれ性試験方法)静摘法の測定方法に準じ、純水2μLを摘下後、液摘が紙基材に接触した瞬間を0秒として、0.5秒後の接触角を測定し、5回の平均値を求めた。
・引張こわさ
ISO/DIS1924-3:に準拠して、L&W引張試験器にて測定した。
【0027】
・ヒートシール強度
幅100mmのヒートシール紙2枚をヒートシール層が向き合うように重ね、ヒートシールテスター(テスター産業製、TP-701-S)を用いて、120℃、2kgf/cm、0.5秒の条件でヒートシールした。
ヒートシールした試験片を温度23℃±1℃、湿度50±2%の環境に12時間以上静置したのち、JIS Z1707に準じ、15mm幅にカットした試験片をテンシロン万能材料試験機(エー・アンド・デイ製、TC-1250A)を用いて引張速度200mm/minでT字剥離し、記録された最大荷重をヒートシール剥離強度とした。
【0028】
「実施例1~5、比較例1~8」
・紙基材
原紙(坪量50g/m、接触角103.4°)、またはこの原紙にエトキシル化アセチレンジオール系界面活性剤(日信化学工業株式会社製:サーフィノール-465)を異なる塗工量で塗工し、接触角をそれぞれ95.5°、77.9°、52.0°、40.2°としたものを紙基材として用いた。
【0029】
熱可塑性樹脂であるエチレンアクリル酸共重合樹脂(Michaelman社製:MICHEM PRIME 498345N.S)と界面活性剤1(日信化学工業株式会社製:サーフィノール-440、エトキシル化アセチレン系)とを、表1に示す配合(固形分)となるように混合、分散して固形分濃度42~45%の水分散液として、ヒートシール層用塗工剤を得た。
この塗工剤を、表1に示す乾燥塗工量となるように紙基材の片面に塗工、乾燥し、ヒートシール紙を得た。
【0030】
【表1】
【0031】
・結果
比較例2、6~8より、乾燥塗工量が5g/m未満では、原紙の接触角、塗工剤の表面張力に関わらず、ヒートシール強度に劣っていた。これは、乾燥塗工量が5g/m未満では、十分な厚さのヒートシール層が形成されなかったためであると推測される。
乾燥塗工量が5g/m以上である結果について、表面張力と接触角、ヒートシール強度の関係を図1に示す。
図1に示すように、水に対する接触角が100°未満である紙基材に表面張力が46mN/m未満である塗工剤を塗工することにより、ヒートシール強度に優れたヒートシール紙を得ることができた。また、紙基材の接触角が小さくなるほど、塗工剤の表面張力が小さくなるほど、ヒートシール強度が向上する傾向が確かめられた。このことから、特定の紙基材や、特定の熱可塑性樹脂を用いる場合に、接触角と塗工剤の表面張力を調整することにより、ヒートシール強度をより高くできることが確かめられた。
【0032】
「実施例6~10、比較例9、10」
熱可塑性樹脂であるエチレンメタクリル酸共重合樹脂(アイオノマー)(三井化学株式会社製:ケミパールS500)と、界面活性剤2(日信化学工業株式会社製:サーフィノール-465、エトキシル化アセチレンジオール系)を、表2に示す配合(固形分)となるように混合、分散して固形分濃度42~43%の水分散液として、ヒートシール層用塗工剤を得た。
この塗工剤を、上記で得た接触角の異なる紙基材の片面に、表2に示す乾燥塗工量となるように塗工、乾燥し、ヒートシール紙を得た。
【0033】
【表2】
【0034】
・結果
表面張力と接触角、ヒートシール強度の関係を図2に示す。
図2に示すように、水分散性樹脂バインダーとしてアイオノマーであるエチレンメタクリル酸共重合樹脂を用いた場合であっても、水に対する接触角が小さい紙基材の方がヒートシール強度に優れ、塗工剤の表面張力が小さくなるほどヒートシール強度に優れることが確かめられた。このことから、特定の紙基材や、特定の熱可塑性樹脂を用いる場合に、接触角と塗工剤の表面張力を調整することにより、ヒートシール強度をより高くできることが確かめられた。
【0035】
「実施例11、12」
熱可塑性樹脂(カネカ株式会社製:Green Planet(登録商標)、PHBH)と、界面活性剤2(日信化学工業株式会社製:サーフィノール-465、エトキシル化アセチレンジオール系)を、表3に示す配合(固形分)となるように混合、分散して固形分濃度42~44%の水分散液として、ヒートシール層用塗工剤を得た。
この塗工剤を、紙基材(坪量40g、接触角83.9°)の片面に表3に示す乾燥塗工量となるように塗工、乾燥し、ヒートシール紙を得た。
【0036】
【表3】
【0037】
・結果
表3に示すように、水分散性樹脂バインダーとしてPHBHを用いた場合であっても、塗工剤の表面張力が低くなるほどヒートシール強度に優れる傾向であることが確かめられた。
【0038】
「実施例13~16」
異なる紙基材に対して、比較例9、10で用いた塗料を表4に示す乾燥塗工量となるように塗工・乾燥し、ヒートシール紙を得た。表2の比較例9、10と合わせて表4に示す。
【0039】
【表4】
【0040】
・結果
実施例13~16と比較例9、10より、紙基材の引張こわさが大きいほど、ヒートシール強度が向上することが確かめられた。
【要約】
【課題】ヒートシール強度に優れたヒートシール紙を提供すること、特に使用する材料が限定されている場合にヒートシール強度により優れたヒートシール紙を提供すること。
【解決手段】紙基材と、該紙基材の少なくとも一方の面上にヒートシール層を有し、
前記紙基材の水に対する接触角が100°未満であり、
前記ヒートシール層が、少なくとも水分散性樹脂バインダーを含有し、片面当たりの乾燥塗工量が5g/m以上であり、
前記ヒートシール層を形成するための塗工剤が、塗工時の表面張力が46mN/m未満であるヒートシール紙。
【選択図】図1
図1
図2