(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】充填材及び充填材の充填方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20240925BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
E04G23/02 B
E01D22/00 A
(21)【出願番号】P 2020154703
(22)【出願日】2020-09-15
【審査請求日】2023-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】刈茅 孝一
(72)【発明者】
【氏名】島田 昌紀
(72)【発明者】
【氏名】小阪 健次
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英一
(72)【発明者】
【氏名】山本 鋼志
(72)【発明者】
【氏名】丸山 一平
【審査官】菅原 奈津子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-060410(JP,A)
【文献】特開2003-013612(JP,A)
【文献】特開平03-081454(JP,A)
【文献】特表2016-525879(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0008541(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E01D 22/00
C09K 3/10
C09K 8/00- 8/94
C09K 17/00-17/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の組成物と、第2の組成物と、第1の容器と、第2の容器とを備え、
前記第1の容器に、前記第1の組成物が封入されており、
前記第2の容器に、前記第2の組成物が封入されており、
前記第1の組成物が、硬化性化合物を含み、
前記硬化性化合物が、エポキシ化合物であり、
前記第2の組成物が、硬化剤を含み、
前記第1の組成物及び前記第2の組成物の少なくとも一方が、炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物を含む、充填材。
【請求項2】
前記第1の組成物及び前記第2の組成物の少なくとも一方が、カルシウムイオンを放出可能な化合物を含む、請求項1に記載の充填材。
【請求項3】
前記炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物が、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸ナトリウム、又は炭酸水素ナトリウムである、請求項1に記載の充填材。
【請求項4】
前記第1の容器の壁部の厚さ及び前記第2の容器の壁部の厚さがそれぞれ、50μm以上2000μm以下である、請求項1
~3のいずれか1項に記載の充填材。
【請求項5】
前記第1の容器の壁部の材料及び前記第2の容器の壁部の材料がそれぞれ、水溶性である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の充填材。
【請求項6】
前記第1の容器の内容積及び前記第2の容器の内容積がそれぞれ、1cc以上10000cc以下である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の充填材。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の充填材を、充填箇所に注入する工程と、
前記第1の容器及び前記第2の容器を破壊することにより、前記第1の組成物及び前記第2の組成物を混合し、硬化させる工程とを備える、充填材の充填方法。
【請求項8】
前記充填箇所が、構造物の充填箇所又は地盤の充填箇所である、請求
項7に記載の充填材の充填方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物及び地盤等に用いることができる充填材に関する。また、本発明は、上記充填材の充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁及びトンネル等の構造物では、建築時に施工不良が生じたり、建築されてから長期間経過したりすると、ひび割れ及びジャンカ等が生じることがある。ひび割れ及びジャンカ等が発生した構造物では、構造物の強度が低下する。構造物の多くは、交通及び輸送等の社会基盤インフラを担っているため、建替えや取り壊しを安易に行うことができない。また、インフラ機能を停止させての大規模な補修又は補強は、困難である。
【0003】
このため、構造物のひび割れ部分やジャンカ部分に、エポキシ樹脂等の硬化性樹脂を含む充填材を注入し、該硬化性樹脂を硬化させる方法が行われることがある(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-031661号公報
【文献】特開2018-104996号公報
【文献】特開2015-030987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の充填材を用いて、構造物のひび割れ部分やジャンカ部分の補修を行った場合、補修からある程度の期間が経過するまでは、補修した箇所の強度を高めることができる。しかしながら、エポキシ樹脂等を含む従来の充填材では、雨水及びコンクリートに付着した水分等によって、硬化したエポキシ樹脂が徐々に劣化して、充填材と構造物表面との界面において、剥離が生じることがある。また、季節変動や繰り返しの振動及び伸縮によっても、充填材と構造物表面との界面において、剥離が生じることがある。このため、従来の充填材では、補修した箇所の強度が徐々に低下し、補修から長期間経過すると(例えば、補修から20年~50年経過後)、再度の補修が必要となる。
【0006】
なお、充填材としてモルタルを用いると、補修箇所の強度を長期間維持することができる。しかしながら、モルタルの粘度は高いため、ひび割れ部分及びジャンカ部分等のわずかな空隙部に、該モルタルを効率よく注入することは困難であり、作業性に劣る。
【0007】
また、石油の採掘や二酸化炭素の貯蔵埋設等により地盤を掘削した後に、地盤のボーリング口をパッキングしたり、高レベルの放射性廃棄物の埋設処分を行う構造物と地盤との境界面を補強したりする際に、充填材が用いられることがある。しかしながら、上記のような注入口から充填箇所までの距離が大きい場合や、空隙体積が大きい場合に、従来の充填材を空隙部に効率よく注入することが困難なことがある。
【0008】
本発明の目的は、作業性に優れ、充填した箇所の強度を高めることができ、かつ高い強度を長期間維持することができる充填材を提供することである。また、本発明の目的は、上記充填材の充填方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の広い局面によれば、第1の組成物と、第2の組成物と、第1の容器と、第2の容器とを備え、前記第1の容器に、前記第1の組成物が封入されており、前記第2の容器に、前記第2の組成物が封入されており、前記第1の組成物が、硬化性化合物を含み、前記第2の組成物が、硬化剤を含み、前記第1の組成物及び前記第2の組成物の少なくとも一方が、炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物を含む、充填材が提供される。
【0010】
本発明に係る充填材のある特定の局面では、前記炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物が、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸ナトリウム、又は炭酸水素ナトリウムである。
【0011】
本発明に係る充填材のある特定の局面では、前記第1の容器の壁部の厚さ及び前記第2の容器の壁部の厚さがそれぞれ、50μm以上2000μm以下である。
【0012】
本発明に係る充填材のある特定の局面では、前記第1の容器の壁部の材料及び前記第2の容器の壁部の材料がそれぞれ、水溶性である。
【0013】
本発明に係る充填材のある特定の局面では、前記第1の容器の内容積及び前記第2の容器の内容積がそれぞれ、1cc以上10000cc以下である。
【0014】
本発明の広い局面によれば、上述した充填材を、充填箇所に注入する工程と、前記第1の容器及び前記第2の容器を破壊することにより、前記第1の組成物及び前記第2の組成物を混合し、硬化させる工程とを備える、充填材の充填方法が提供される。
【0015】
本発明に係る充填材の充填方法のある特定の局面では、前記第1の容器及び前記第2の容器を破壊することにより、前記第1の組成物及び前記第2の組成物を混合する。
【0016】
本発明に係る充填材の充填方法のある特定の局面では、前記充填箇所が、構造物の充填箇所又は地盤の充填箇所である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る充填材は、第1の組成物と、第2の組成物と、第1の容器と、第2の容器とを備える。本発明に係る充填材では、上記第1の容器に、上記第1の組成物が封入されており、上記第2の容器に、上記第2の組成物が封入されている。本発明に係る充填材では、上記第1の組成物が、硬化性化合物を含み、上記第2の組成物が、硬化剤を含む。本発明に係る充填材では、上記第1の組成物及び上記第2の組成物の少なくとも一方が、炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物を含む。本発明に係る充填材では、上記の構成が備えられているので、作業性に優れ、充填した箇所の強度を高めることができ、かつ高い強度を長期間維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る充填材の断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第2の実施形態に係る充填材の断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施形態に係る充填材の充填方法を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0020】
(充填材)
本発明に係る充填材は、第1の組成物と、第2の組成物と、第1の容器と、第2の容器とを備える。本発明に係る充填材では、上記第1の容器に、上記第1の組成物が封入されており、上記第2の容器に、上記第2の組成物が封入されている。本発明に係る充填材では、上記第1の組成物が、硬化性化合物を含み、上記第2の組成物が、硬化剤を含む。本発明に係る充填材では、上記第1の組成物及び上記第2の組成物の少なくとも一方が、炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物(以下、「化合物X」と記載することがある)を含む。
【0021】
本発明に係る充填材では、上記の構成が備えられているので、作業性に優れ、充填した箇所の強度を高めることができ、かつ高い強度を長期間維持することができる。
【0022】
本発明に係る充填材では、構造物のひび割れ部分、ジャンカ部分や、地盤の掘削孔等に該充填材を充填した後、硬化性化合物が硬化し、充填した箇所の強度を高めることができる。また、充填材を充填した箇所が、雨水及びコンクリートに付着した水分等と接触した場合、これらの水分に含まれる炭酸イオン又はカルシウムイオンと、上記充填材に含まれる化合物Xから放出された炭酸イオン又はカルシウムイオンとが化学反応し、水分と硬化した充填材との接触面において、炭酸カルシウム(セメント)が生成する。すなわち、硬化した充填材の表面に、炭酸カルシウム層が生成する。生成した炭酸カルシウムにより、充填箇所の強度はさらに高められる。また、生成した炭酸カルシウムにより、充填材と水分とのさらなる接触が効果的に抑えられ、硬化性化合物の硬化物の劣化及び構造物等の劣化を効果的に抑えることができる。このため、本発明に係る充填材では、充填した箇所の強度及び構造体の強度を長期間高く維持することができる。なお、炭酸カルシウムは、通常、数カ月~数年をかけて生成すると考えられる。
【0023】
また、本発明に係る充填材は、充填する箇所が乾燥状態であっても、湿潤状態であっても用いることができる。さらに、本発明に係る充填材は、充填する箇所から水が流出している場合であっても、用いることができる。このため、本発明に係る充填材は、様々な用途の構造物及び地盤等に迅速に充填することが可能である。
【0024】
上記構造物としては、コンクリート構造物、RC高架橋構造物、山岳トンネル、及び地下トンネル構造物等が挙げられる。本発明の効果がより一層効果的に発揮されるので、上記構造物は、コンクリート構造物であることが好ましい。
【0025】
上記地盤としては、岩盤、洪積層、沖積層、人工地盤等が挙げられる。本発明の効果がより一層効果的に発揮されるので、上記地盤は、岩盤であることが好ましい。
【0026】
また、充填した箇所の強度をより高めるために、炭酸水素ナトリウム等の無機塩を含有する充填材を用いることが有効である。しかしながら、無機塩を多量に含有する充填材を、事前に又は直前に混合して開口部より充填する際に、充填材が硬化反応により増粘したり、充填材の分離が起こったりすることがある。さらに、上記充填材では、増粘により注入時に圧力が必要となるという問題がある。
【0027】
また、上記充填材では、硬化性化合物を含む第1の組成物と、硬化剤を含む第2の組成物とが別の容器に封入されており、混合される前の状態であり、充填後に混合することができるので、使用前の意図しない充填材の硬化を防ぐことができる。本発明に係る充填材では、充填前に、硬化性化合物と硬化剤とが硬化反応により増粘することを抑制することができるので、低圧で充填することができる。本発明に係る充填材では、充填箇所に充填材が十分に充填された後に、充填材の硬化反応を進行させることができる。このため、作業性に優れ、充填箇所の全体で強度を高めることができる。
【0028】
本発明に係る充填材では、充填前に、充填材の分離を抑制することができる。また、本発明に係る充填材は、作業性に優れるので、注入口から充填箇所までの距離が大きい場合や、空隙体積が大きい場合でも、空隙部に効率よく注入することができる。
【0029】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明する。以下の実施形態において、互いに異なる箇所が置き換え可能である。
【0030】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る充填材の断面図である。
【0031】
充填材1は、第1の組成物11と、第2の組成物12と、第1の容器13と、第2の容器14とを備える。第1の容器13に、第1の組成物11が封入されている。第2の容器14に、第2の組成物12が封入されている。充填材1では、第1の組成物11が、硬化性化合物を含み、第2の組成物12が、硬化剤を含む。充填材1では、第1の組成物11及び第2の組成物12の少なくとも一方が、炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物(化合物X)を含む。
【0032】
第1の容器13は、壁部を有する。第1の容器13は、壁部内に内部空間を有する。第1の容器13の上記内部空間全体に、第1の組成物11が封入されている。第2の容器14は、壁部を有する。第2の容器14は、壁部内に内部空間を有する。第1の容器14の上記内部空間全体に、第2の組成物12が封入されている。
【0033】
第1の組成物11が封入されている第1の容器13と、第2の組成物12が封入されている第2の容器14とは、直接連結されている。
【0034】
図2は、本発明の第2の実施形態に係る充填材の断面図である。
【0035】
充填材1Aは、第1の組成物11Aと、第2の組成物12Aと、第1の容器13Aと、第2の容器14Aとを備える。第1の容器13Aに、第1の組成物11Aが封入されている。第2の容器14Aに、第2の組成物12Aが封入されている。充填材1Aでは、第1の組成物11Aが、硬化性化合物を含み、第2の組成物12Aが、硬化剤を含む。充填材1Aでは、第1の組成物11A及び第2の組成物12Aの少なくとも一方が、炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物(化合物X)を含む。
【0036】
第1の容器13Aは、壁部を有する。第1の容器13Aは、壁部内に内部空間を有する。第1の容器13Aの上記内部空間の一部に、第1の組成物11Aが封入されている。第1の容器13Aには、第1の組成物11Aが収容されていない空間が存在する。第2の容器14Aは、壁部を有する。第2の容器14Aは、壁部内に内部空間を有する。第2の容器14Aの上記内部空間の一部に、第2の組成物12Aが封入されている。第2の容器14Aには、第2の組成物12Aが収容されていない空間が存在する。
【0037】
第1の容器13Aは、開口を有する第1の容器本体13Aaと、蓋13Abとを有する。第1の容器13Aでは、第1の容器本体13Aaに第1の組成物11Aが入れられた後、第1の容器本体13Aaの開口が蓋13Abにより封止されている。
【0038】
第2の容器14Aは、開口を有する第1の容器本体14Aaと、蓋14Abとを有する。第2の容器14Aでは、第2の容器本体14Aaに第2の組成物12Aが入れられた後、第2の容器本体14Aaの開口が蓋14Abにより封止されている。
【0039】
第1の組成物11Aが封入されている第1の容器13Aと、第2の組成物12Aが封入されている第2の容器14Aとは、接合部材15Aを介して間接的に連結されている。
【0040】
上記第1の組成物が封入されている上記第1の容器と、上記第2の組成物が封入されている上記第2の容器とは、連結されていてもよい。上記第1の組成物が封入されている上記第1の容器と、上記第2の組成物が封入されている上記第2の容器とは、分離していてもよい。上記充填材は、上記第1の組成物が封入されている上記第1の容器と、上記第2の組成物が封入されている上記第2の容器とを備えるセット品であってもよい。
【0041】
上記第1の容器の壁部と上記第2の容器の壁部とが一体化されていてもよい。上記第1の容器と上記第2の容器とは、壁部を共有していてもよい。上記第1の組成物と上記第2の組成物とは、1つの壁部のみによって隔離されていてもよい。
【0042】
以下、本発明に係る充填材に用いられる各成分の詳細などを説明する。
【0043】
<第1の組成物>
上記第1の組成物は、硬化性化合物を含む。上記第1の組成物は、上記硬化性化合物のみを含んでいてもよい。上記第1の組成物は上記硬化性化合物であってもよい。上記第1の組成物100重量%中の硬化剤の含有量は、上記第2の組成物100重量%中の硬化剤の含有量よりも少ないことが好ましく、上記第1の組成物は、硬化剤を含まないことが好ましい。
【0044】
上記硬化性化合物としては、硬化剤との混合により硬化可能な硬化性化合物、加熱により硬化可能な熱硬化性化合物、光の照射により硬化可能な光硬化性化合物等が挙げられる。上記充填材を空隙部等に充填してから硬化させる観点及び上記充填材の保存安定性を高める観点から、上記硬化性化合物は、上記硬化剤との混合により硬化可能な硬化性化合物であることが好ましい。上記硬化剤との混合により硬化可能な硬化性化合物は、熱硬化性化合物であってもよく、熱硬化性化合物でなくてもよい。上記硬化剤との混合により硬化可能な硬化性化合物は、例えば、硬化剤との混合により、0℃以下で硬化可能な硬化性化合物であってもよい。
【0045】
上記硬化性化合物としては、エポキシ化合物、ポリオール化合物、シリコーン化合物、フェノール化合物、ビニルエステル化合物、及びナフトキサジン化合物等が挙げられる。硬化後の充填箇所の強度をより一層効果的に高める観点から、上記硬化性化合物は、エポキシ化合物であることが好ましい。
【0046】
上記エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物、水添加ビスフェノールA型エポキシ化合物、ダイマー酸変性ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、ダイマー酸型エポキシ化合物、トリエポキシプロピルイソシアヌレート(トリグリシジルイソシアヌレート)、ヒダントインエポキシ化合物、脂肪族系エポキシ化合物、ジシクロ環型エポキシ化合物、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、及びグリシジルアミン型エポキシ化合物等が挙げられる。
【0047】
本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記エポキシ化合物は、ビスフェノールA型エポキシ化合物、又はビスフェノールF型エポキシ化合物であることが好ましい。
【0048】
上記ポリオール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、シクロヘキサンジオール、メチルシクロヘキサンジオール、イソホロンジオール、ジシクロヘキシルメタンジオール、ジメチルジシクロヘキシルメタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、多塩基酸と多価アルコールとを脱水縮合して得られる重合体、及びε-カプロラクトン又はα-メチル-ε-カプロラクトンなどのラクトンを開環重合して得られる重合体等が挙げられる。
【0049】
本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記ポリオール化合物は、ポリエステルポリオール、又はポリエーテルポリオールであることが好ましい。
【0050】
上記シリコーン化合物としては、ケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。上記オルガノポリシロキサンの主鎖は、ジオルガノシロキサンの重合体の構造が一般的であるが、一部枝分かれした構造又は環状の構造を有していてもよい。上記オルガノポリシロキサンが有するアルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、1-メチル-2-プロペニル基、ペテニル基、へキセニル基、オクテニル基、及びシクロへキセニル基等が挙げられる。
【0051】
上記フェノール化合物としては、ノボラック型フェノール、ビフェノール型フェノール、ナフタレン型フェノール、ジシクロペンタジエン型フェノール、アラルキル型フェノール、及びジシクロペンタジエン型フェノール等が挙げられる。
【0052】
上記ビニルエステル化合物としては、エポキシ化合物と不飽和一塩基酸との反応物等が挙げられる。上記エポキシ化合物としては、ビスフェノールAジグリシジルエーテル及びその高分子量同族体、ノボラック型ポリグリシジルエーテル及びその高分子量同族体、並びに1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等の脂肪族系グリシジルエーテル類等が挙げられる。上記不飽和一塩基酸としては、アクリル酸及びメタクリル酸等が挙げられる。上記エポキシ化合物と、上記アクリル酸及び上記メタクリル酸との反応物としては、エポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0053】
上記第1の組成物が上記ビニルエステル化合物を含む場合に、上記第1の組成物は、ラジカル重合性不飽和単量体を含んでいてもよい。上記ラジカル重合性不飽和単量体としては、スチレンモノマー、スチレンのα-,o-,m-,p-アルキル,ニトロ,シアノ,アミド,エステル誘導体、クロルスチレン、ビニルトルエン、及びジビニルベンゼン等のスチレン系モノマー、ブタジエン、2,3-ジメチルブタジエン、イソプレン、及びクロロプレン等のジエン類;(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸-n-プロピル、(メタ)アクリル酸-i-プロピル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフリル、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート及びフェノキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸アミド及び(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミド等の(メタ)アクリル酸アミド;(メタ)アクリル酸アニリド等のビニル化合物;シトラコン酸ジエチル等の不飽和ジカルボン酸ジエステル;N-フェニルマレイミド等のモノマレイミド化合物;N-(メタ)アクリロイルフタルイミド等が挙げられる。
【0054】
なお、上記第1の組成物が上記ビニルエステル化合物を含む場合に、上記第1の組成物は、上記ビニルエステル化合物と上記ラジカル重合性不飽和単量体とを含むことが好ましい。
【0055】
上記第1の組成物100重量%中、上記硬化性化合物の含有量は、好ましくは1重量%以上、より好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上であり、好ましくは100重量%以下、より好ましくは90重量%以下、さらに好ましくは75重量%以下である。上記硬化性化合物の含有量が、上記下限以上及び上記上限以下であると、充填した箇所の初期強度をより一層高めることができる。なお、上記第1の組成物が上記化合物Xを含む場合には、上記第1の組成物100重量%中、上記硬化性化合物の含有量は100重量%未満である。
【0056】
上記第1の組成物と上記第1の容器との合計100重量%中、上記第1の組成物の含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上であり、好ましくは95重量%以下、より好ましくは90重量%以下、さらに好ましくは85重量%以下である。上記第1の組成物の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、上記第1の組成物及び上記第2の組成物を良好に混合することができる。
【0057】
上記第1の組成物は、必要に応じて、上記硬化性化合物以外の成分を含んでいてもよい。上記第1の組成物に含まれる上記硬化性化合物以外の成分としては、酸化防止剤、低収縮剤、粘度調整剤、及び着色剤等が挙げられる。上記硬化性化合物以外の成分は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0058】
<第2の組成物>
上記第2の組成物は、硬化剤を含む。上記第2の組成物は、上記硬化剤のみを含んでいてもよい。上記第2の組成物は上記硬化剤であってもよい。上記第2の組成物100重量%中の硬化性化合物の含有量は、上記第1の組成物100重量%中の硬化性化合物の含有量よりも少ないことが好ましく、上記第2の組成物は、硬化性化合物を含まないことが好ましい。
【0059】
上記第1の組成物がエポキシ化合物を含むとき、上記第2の組成物がエポキシ硬化剤を含むことが好ましい。上記エポキシ化合物と上記エポキシ硬化剤とを反応させることにより、エポキシ樹脂の硬化物を得ることができる。
【0060】
上記エポキシ化合物の硬化剤(エポキシ硬化剤)としては、アミン化合物、イミダゾール化合物、アミド化合物、シアノ化合物、及び酸無水物等が挙げられる。上記アミン化合物としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、それらのアミンアダクト、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、及びジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。上記イミダゾール化合物としては、メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-イソブチル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、エチルイミダゾール、イソプロピルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール、フェニルイミダゾール、ウンデシルイミダゾール、ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、及び2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。上記アミド化合物としては、ポリアミド等が挙げられる。上記シアノ化合物としては、ジシアンジアミド等が挙げられる。上記酸無水物としては、無水マレイン酸及びその化合物、無水フタル酸及びその化合物等が挙げられる。
【0061】
本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記エポキシ硬化剤は、アミン系硬化剤(アミン化合物)、又は酸系硬化剤であることが好ましい。
【0062】
上記エポキシ化合物と上記エポキシ硬化剤との配合比は、エポキシ化合物とエポキシ硬化剤との種類の組み合わせによって適宜変更可能である。上記エポキシ化合物と上記エポキシ硬化剤との配合比は、例えば、エポキシ当量(活性水素当量)を基準にして、設定することができる。上記エポキシ化合物100重量部に対して、上記エポキシ硬化剤の含有量は、好ましくは10重量部以上、より好ましくは20重量部以上、好ましくは120重量部以下、より好ましくは100重量部以下である。
【0063】
上記第1の組成物がポリオール化合物を含むとき、上記第2の組成物が上記ポリオール化合物の硬化剤を含むことが好ましい。
【0064】
上記ポリオール化合物の硬化剤としては、ポリイソシアネート化合物等が挙げられる。上記ポリオール化合物と上記ポリイソシアネート化合物とを硬化反応させることにより、ウレタン樹脂を得ることができる。上記ポリイソシアネート化合物としては、芳香族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、及び脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられる。上記芳香族ポリイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジメチルジフェニルタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、及びポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等が挙げられる。上記脂環族ポリイソシアネートとしては、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、及びジメチルジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。上記脂肪族ポリイソシアネートとしては、メチレンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、及びヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0065】
本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記ポリオール化合物の硬化剤(ポリイソシアネート化合物)は、ジフェニルメタンジイソシアネート、又はトルエンジイソシアネートであることが好ましい。
【0066】
上記ポリオール化合物と上記ポリイソシアネート化合物との配合比は、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との種類の組み合わせによって適宜変更可能である。上記ポリイソシアネート化合物の配合量は、上記ポリオール化合物の水酸基量と、上記ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基量(NCO量)とが等量となる量であることが好ましい。
【0067】
上記シリコーン化合物の硬化剤(架橋剤)としては、SiH基を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン等が挙げられる。上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、フェニルメチルハイドロジェンポリシロキサン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、及び両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体等が挙げられる。
【0068】
上記フェノール化合物の硬化剤としては、ヘキサメチレンテトラミン、及びパラホルムアルデヒド等が挙げられる。
【0069】
上記ビニルエステル化合物の硬化剤としては、有機過酸化物等が挙げられる。上記有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、パーベンゾエート、ハイドロパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアリルパーオキサイド、パーオキシエステル、及びパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0070】
上記第2の組成物100重量%中、上記硬化剤の含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは50重量%以上であり、好ましくは100重量%以下、より好ましくは75重量%以下である。上記硬化剤の含有量が、上記下限以上及び上記上限以下であると、充填した箇所の初期強度をより一層高めることができる。なお、上記第2の組成物が上記化合物Xを含む場合には、上記第2の組成物100重量%中、上記硬化剤の含有量は100重量%未満である。
【0071】
上記第2の組成物と上記第2の容器との合計100重量%中、上記第2の組成物の含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上であり、好ましくは95重量%以下、より好ましくは90重量%以下、さらに好ましくは85重量%以下である。上記第2の組成物の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、上記第1の組成物及び上記第2の組成物を良好に混合することができる。
【0072】
上記第1の組成物と上記第2の組成物との混合物をより一層良好に硬化させる観点から、上記充填材中の上記硬化剤の含有量は、反応部数当量と等しいことが好ましい。
【0073】
上記第2の組成物は、必要に応じて、上記硬化剤以外の成分を含んでいてもよい。上記第2の組成物に含まれる上記硬化剤以外の成分としては、架橋剤、及び吸水剤等が挙げられる。上記硬化剤以外の成分は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0074】
<炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物(化合物X)>
上記充填材では、上記第1の組成物及び上記第2の組成物の少なくとも一方が、炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物(化合物X)を含む。この場合に、上記化合物Xは、上記第1の組成物に含まれていてもよく、上記第2の組成物に含まれていてもよく、上記第1の組成物と上記第2の組成物との双方に含まれていてもよい。
【0075】
上記化合物Xは、炭酸イオンを放出可能な化合物であってもよく、カルシウムイオンを放出可能な化合物であってもよく、炭酸イオンとカルシウムイオンとの双方を放出可能な化合物であってもよく、炭酸イオンを放出可能な化合物とカルシウムイオンを放出可能な化合物との混合物であってもよい。上記化合物Xは、粒子状であってもよい。上記化合物Xは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0076】
上記炭酸イオンを放出可能な化合物としては、炭酸塩、及び炭酸水素塩等が挙げられる。上記炭酸塩としては、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸リチウム、炭酸銅(II)、炭酸鉄(II)、及び炭酸銀(I)等が挙げられる。上記炭酸水素塩としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、及び炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0077】
上記カルシウムイオンを放出可能な化合物としては、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、炭酸水素カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、及び硫酸カルシウム等が挙げられる。
【0078】
上記炭酸イオンとカルシウムイオンとの双方を放出可能な化合物としては、炭酸水素カルシウムが挙げられる。
【0079】
上記化合物Xは、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸ナトリウム、又は炭酸水素ナトリウムであることが好ましい。上記化合物Xは、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸ナトリウム、又は炭酸水素ナトリウムであることがより好ましい。この場合には、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0080】
上記化合物Xは、マイクロカプセルの内包物であってもよい。上記充填材は、上記化合物Xを内包物として含有するマイクロカプセルを含んでいてもよい。上記充填材では、上記第1の組成物及び上記第2の組成物の少なくとも一方が、上記化合物Xを内包物として含有するマイクロカプセルを含んでいてもよい。上記化合物Xがマイクロカプセルの内包物であると、該化合物Xから炭酸イオン又はカルシウムイオンが放出される時期及び量を制御することができる。
【0081】
上記マイクロカプセルは、上記化合物Xを放出可能であることが好ましい。上記マイクロカプセルとしては、物理的に破壊可能なカプセル、溶融可能なカプセル、水溶性のカプセル等が挙げられる。上記物理的に破壊可能なカプセルの材料としては、ガラス、プラスチック等が挙げられる。上記溶融可能なカプセルの材料としては、低分子量のポリエチレンワックス、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体等が挙げられる。上記水溶性のカプセルは、水分と接触したときに、マイクロカプセルを構成する膜が崩壊する。上記水溶性のカプセルの材料としては、加水分解性を有するエチルセルロース、ゼラチン等のタンパク質、アルギン酸、デンプン、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。
【0082】
化合物Xから炭酸イオン又はカルシウムイオンが放出される時期及び量をより一層良好に制御する観点から、上記マイクロカプセルは、水溶性のカプセルであることが好ましい。
【0083】
上記硬化性化合物100重量部に対して、上記化合物Xの含有量は、好ましくは20重量部以上、より好ましくは50重量部以上であり、好ましくは300重量部以下、より好ましくは200重量部以下である。上記化合物Xの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、炭酸イオン又はカルシウムイオンがより一層効果的に放出され、炭酸カルシウムが良好に生成される。また、上記化合物Xの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、充填した箇所の強度をより一層高めることができる。
【0084】
上記硬化性化合物と上記硬化剤との合計100重量部に対して、上記化合物Xの含有量は、好ましくは20重量部以上、より好ましくは50重量部以上であり、好ましくは300重量部以下、より好ましくは200重量部以下である。上記化合物Xの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、炭酸イオン又はカルシウムイオンがより一層効果的に放出され、炭酸カルシウムが良好に生成される。また、上記化合物Xの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、充填した箇所の強度をより一層高めることができる。
【0085】
上記第1の組成物と上記第2の組成物との合計100重量%中、上記化合物Xの含有量は、好ましくは20重量%以上、より好ましくは50重量%以上であり、好ましくは300重量%以下、より好ましくは200重量%以下である。上記化合物Xの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、炭酸イオン又はカルシウムイオンがより一層効果的に放出され、炭酸カルシウムが良好に生成される。また、上記化合物Xの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、充填した箇所の強度をより一層高めることができる。
【0086】
<第1の容器及び第2の容器>
本発明に係る充填材は、第1の容器と、第2の容器とを含む。上記第1の組成物は、上記第1の容器に封入されている。上記第2の組成物は、上記第2の容器に封入されている。
【0087】
上記第1の容器(上記第1の容器の壁部、上記第1の容器本体、上記第1の容器の蓋)の材料、及び上記第2の容器(上記第2の容器の壁部、上記第2の容器本体、上記第2の容器の蓋)の各材料はそれぞれ、有機材料であってもよく、無機材料であってもよい。上記第1の容器及び上記第2の容器の材料は、同一であってもよく、同一でなくてもよい。
【0088】
上記第1の容器及び上記第2の容器の材料としては、ガラス及び樹脂等が挙げられる。上記樹脂としては、熱可塑性樹脂等が挙げられる。また、上記第1の容器及び上記第2の容器は、物理的作用又は化学的作用により破壊可能な容器であってもよい。
【0089】
上記第1の容器及び上記第2の容器としてはそれぞれ、物理的に破壊可能な容器、溶融可能な容器、水溶性の容器等が挙げられる。上記物理的に破壊可能な容器の材料としては、ガラス、及びプラスチック等が挙げられる。上記溶融可能な容器の材料としては、低分子量のポリエチレンワックス、スチレン-ブタジエン共重合体、及びスチレン-イソプレン共重合体等が挙げられる。上記水溶性の容器は、水分と接触したときに、容器の壁部が崩壊する。上記水溶性の容器の材料としては、加水分解性を有するエチルセルロース、ゼラチン等のタンパク質、アルギン酸、デンプン、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、及びポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。
【0090】
容器をより一層容易に破壊する観点からは、上記第1の容器の材料及び上記第2の容器の材料はそれぞれ、水溶性であることが好ましい。容器をより一層容易に破壊する観点からは、上記第1の容器の壁部の材料及び上記第2の容器の壁部の材料はそれぞれ、水溶性であることが好ましい。
【0091】
上記第1の容器の形状は、特に限定されない。上記第1の容器及び上記第2の容器の外形は、直方体状であってもよく、球状であってもよく、角錐状であってもよく、円錐状であってもよく、角柱状であってもよく、円柱状であってもよい。上記第1の容器及び上記第2の容器の形状は、同一であってもよく、同一でなくてもよい。作業性をより一層高める観点から、上記第1の容器及び上記第2の容器の外形は、球状又は直方体状であることが好ましい。
【0092】
上記第1の容器の内容積及び上記第2の容器の内容積はそれぞれ、好ましくは1cc以上、より好ましくは10cc以上、さらに好ましくは50cc以上であり、好ましくは10000cc以下、より好ましくは5000cc以下、さらに好ましくは1000cc以下である。上記第1の容器の内容積及び上記第2の容器の内容積はそれぞれ、500cc以下であってもよく、100cc以下であってもよい。上記容器の内容積が上記下限以上及び上記上限以下であると、作業性をより一層高めることができる。
【0093】
上記第1の容器の壁部の厚さ及び上記第2の容器の壁部の厚さはそれぞれ、好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.1mm以上であり、好ましくは3mm以下、より好ましくは1mm以下である。上記壁部の厚さが、上記下限以上であると、上記第1の容器及び上記第2の容器の意図しない破損を抑えることができる。上記壁部の厚さが、上記上限以下であると、上記第1の容器及び上記第2の容器を所望のタイミングで容易に破壊することができる。
【0094】
(充填材の充填方法)
上記充填材を、構造物及び地盤等の空隙部に充填することができる。上記充填材を用いて、構造物及び地盤等を補修することができる。上記充填材は、構造物及び地盤等の補修剤として好適に用いることができる。
【0095】
上記充填材の充填方法は、充填材を、充填箇所に注入する工程(充填工程)と、上記第1の容器及び上記第2の容器を破壊することにより、上記第1の組成物及び上記第2の組成物を混合し、硬化させる工程(硬化工程)とを備えることが好ましい。
【0096】
上記充填工程では、上記第1の組成物と、上記第2の組成物と、上記第1の容器と、上記第2の容器とが、上記充填箇所に充填される。充填前に、上記第1の組成物及び上記第2の組成物は、上記第1の容器及び上記第2の容器からそれぞれ取り出されない。
【0097】
上記充填材を注入する方法としては、特に限定されず、充填材を充填箇所に直接注入する方法、構造物及び地盤等の表面から割れ部分又はジャンカ部分に向かって穿孔して注入口を形成し、該注入口より充填材を注入する方法等が挙げられる。構造物の内部に空隙等がある場合、又は、ひび割れ等が構造物の深部にまで達する場合には、構造物に注入口を形成し、該注入口より充填材を注入することが好ましい。また、上記充填材の注入量は、充填する箇所のサイズ等に応じて適宜変更可能である。
【0098】
上記充填材を注入する際の圧力は、充填材の粘度、充填する箇所のサイズ等に応じて、適宜変更可能である。上記充填材は、ひび割れ部分又はジャンカ部分に、高圧で注入されてもよく、低圧で注入されてもよい。高圧で注入する場合の圧力は、好ましくは0.5MPa以上、好ましくは24MPa以下である。低圧で注入する場合の圧力は、好ましくは0.01MPa以上、好ましくは0.5MPa以下である。上記充填材では、充填前に、硬化性化合物と硬化剤とが硬化反応により増粘することを抑制することができるので、低圧で充填することができる。上記充填材は、作業時間を短縮し、かつ、空隙の深部まで充填材を良好に注入する観点から、上記充填材を注入する際の圧力は、好ましくは0.5MPa以上、好ましくは24MPa以下である。
【0099】
上記充填箇所は、構造物の充填箇所又は地盤の充填箇所であることが好ましい。
【0100】
上記第1の組成物及び上記第2の組成物を混合する工程では、物理的作用又は化学的作用によって上記第1の容器及び上記第2の容器を破壊することにより、上記第1の組成物及び上記第2の組成物を混合することが好ましい。物理的作用としては、衝撃等が挙げられる。化学的作用としては、容器の溶融、及び容器の水溶等が挙げられる。
【0101】
上記第1の組成物及び上記第2の組成物を混合する工程では、撹拌子によって上記第1の容器及び上記第2の容器を破壊することにより、上記第1の組成物及び上記第2の組成物を混合することが好ましい。
【0102】
なお、上記第1の容器及び上記第2の容器は、完全に破壊されていなくてもよい。上記第1の容器及び上記第2の容器は、上記充填材の混合及び硬化後に焼失していてもよく、残存していてもよい。また、撹拌子は、上記充填材の混合及び硬化後に、取り除いてもよく、残存していてもよい。
【0103】
上記充填材を硬化させる条件は、硬化性化合物の種類等により適宜変更可能である。
【0104】
図3は、本発明の第1の実施形態に係る充填材の充填方法を説明するための断面図である。
【0105】
構造物100は、コンクリート構造物である。構造物100の壁面101には、ひび割れ102が生じている。
【0106】
充填材の供給装置50は、注入ガン51とタンク52とを備える。タンク52には、上記充填材が充填されている。
【0107】
まず、壁面101のひび割れが生じていない部分からひび割れ102に向けて、所定の角度で穿孔し、注入口104を形成する。次いで、注入口104に、逆止弁付きの注入プラグ21を装着する。注入プラグ21と、注入ガン51とを接続する。次いで、コンプレッサーを用いて、充填材をひび割れ102に注入し、充填材が硬化するまで養生する。このようにして、構造物を補修することができる。上記充填材は補修剤として用いることができる。
【0108】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0109】
第1の組成物として第1の主剤(硬化性化合物;エポキシ化合物):積水化学工業社製「インフラガード CRJM 主剤」(エポキシ化合物の含有量100重量%)
第2の組成物として第2の硬化剤(エポキシ硬化剤):積水化学工業社製「インフラガード CRJM 硬化剤」(エポキシ硬化剤の含有量100重量%)
【0110】
化合物X:
カルシウムを放出可能な化合物:塩化カルシウム
炭酸イオンを放出可能な化合物:炭酸水素ナトリウム
【0111】
第1の容器及び第2の容器(高宮産業社製「タマゴ型カプセル」、ポリスチレン製、壁部の厚み約500μm、内容積66cc)
【0112】
(実施例1)
(1)充填材の作製
第1の容器に、第1の主剤と、塩化カルシウムとを封入して、カプセルを閉じて、第1の組成物が封入されている第1の容器を得た。上記第1の組成物は、上記第1の主剤と塩化カルシウムとを含む。
【0113】
第2の容器に、第2の硬化剤と、炭酸水素ナトリウムとを封入して、カプセルを閉じて、第2の組成物が封入されている第2の容器を得た。上記第2の組成物は、上記第2の硬化剤と炭酸水素ナトリウムとを含む。
【0114】
このようにして、第1の組成物が封入されている第1の容器と、第2の組成物が封入されている第2の容器とをセット品として備える充填材を得た。得られた充填材において、硬化性化合物を100重量部とした場合に、硬化剤及び化合物Xの含有量は表1に示す通りであった。
【0115】
(2)充填材の充填
砂岩ブロック(幅200mm×奥行200mm×高さ200mm)の一面に、直径75mmの貫通穴をあけた後、一方の開口部をFRP(繊維強化プラスチック)で表面塗装し、開口部を1つ有する空隙を備える充填用ブロックを作製した。
【0116】
得られた充填材8セットを、充填用ブロックの開口部より注入した。次に、鋼製の撹拌棒によって、第1の容器及び第2の容器を破壊し、第1の組成物及び第2の組成物を撹拌混合し、混合物を硬化させて、補修済ブロックを得た。
【0117】
(実施例2~5)
(1)充填材の作製
配合成分の種類及び配合量を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして充填材を得た。
【0118】
(2)充填材の充填
実施例1と同様にして、充填材を充填して、補修済ブロックを得た。
【0119】
(比較例1)
(1)充填材の作製
配合成分の種類及び配合量を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして充填材を得た。
【0120】
比較例1では、化合物Xを用いなかった。
【0121】
(2)充填材の充填
実施例1と同様にして、充填材を充填して、補修済ブロックを得た。
【0122】
(比較例2)
(1)充填材の作製
第1の主剤と、塩化カルシウムとを配合して、第1の組成物を得た。上記第1の組成物は、上記第1の主剤と塩化カルシウムとを含む。
【0123】
第2の硬化剤と、炭酸水素ナトリウムとを配合して、第2の組成物を得た。上記第2の組成物は、上記第2の硬化剤と炭酸水素ナトリウムとを含む。
【0124】
このようにして、第1の組成物と、第2の組成物とをセット品として備える充填材を得た。得られた充填材において、硬化性化合物を100重量部とした場合に、硬化剤及び化合物Xの含有量は表1に示す通りであった。
【0125】
比較例2では、充填材(充填対象に充填される物質)として、容器を用いなかった。
【0126】
(2)充填材の充填
実施例1と同じ充填用ブロックを作製した。
【0127】
第1の組成物及び第2の組成物を予め混合した。充填材(混合物)を、充填用ブロックの開口部より注入した。次に、混合物を硬化させて、補修済ブロックを得た。
【0128】
(比較例3)
(1)充填材の作製
比較例2と同じ充填材を用意した。
【0129】
比較例3では、充填材(充填対象に充填される物質)として、容器を用いなかった。
【0130】
(2)充填材の充填
実施例1と同じ充填用ブロックを作製した。
【0131】
得られた充填材の第1の組成物と第2の組成物とをそれぞれ、充填用ブロックの開口部より注入した。この注入時に、第1の組成物と第2の組成物とが混合された。次に、混合物を硬化させて、補修済ブロックを得た。
【0132】
(評価)
(1)作業性
上記の充填材の充填において、作業性を以下の基準で判定した。
【0133】
[作業性の判定基準]
〇:充填開始時直後に硬化性化合物と硬化剤との接触が防がれており、硬化が進行せず、充填性に優れる
×:充填開始前又は充填開始時直後に硬化性化合物と硬化剤とが接触しているため、硬化が進行し、充填性に劣る
【0134】
(2)浸漬試験(炭酸カルシウムの生成)
実施例1,2及び比較例1~3で得られた補修済ブロックを、蒸留水に浸漬した。また、実施例3,4で得られた補修済ブロックを、3000ppmの炭酸水素ナトリウム水溶液に浸漬した。実施例5で得られた補修済ブロックを、4重量%の塩化カルシウム水溶液に浸漬した。浸漬から720時間後、各補修済ブロックを取り出して、充填箇所の表面状態を観察することで、炭酸カルシウムの生成の有無を確認した。
【0135】
[炭酸カルシウムの生成の判定基準]
○:補修済ブロックにおいて、砂岩ブロックの表面の全体に、炭酸カルシウム粒子が析出している
△:補修済ブロックにおいて、砂岩ブロックの表面に部分的に、炭酸カルシウム粒子が析出している
×:補修済ブロックにおいて、砂岩ブロックの表面に、炭酸カルシウム粒子が析出していない
【0136】
充填材の組成及び結果を、下記の表1に示す。
【0137】
【0138】
実施例1~5では浸漬初期から試験サンプルの表面が白濁していた。浸漬から720時間後の実施例1~5で得られた補修済ブロックを詳細に観察したところ、砂岩ブロックの表面の全体に炭酸カルシウム粒子が析出していた。充填部から離れた細孔でも、炭酸カルシウム粒子が十分に析出していた。この補修済ブロックの表面を走査型電子顕微鏡で観察すると、緻密な結晶構造を持つ炭酸カルシウム粒子(炭酸カルシウムのカルサイト構造)の集合体が確認された。
【0139】
浸漬から720時間後の比較例2及び3で得られた補修済ブロックを詳細に観察したところ、砂岩ブロックの表面に部分的に炭酸カルシウム粒子が析出していた。充填部から離れた細孔では、炭酸カルシウム粒子の析出が極めて少なかった。これは、比較例2では充填開始前に、また比較例3では充填開始時直後に、硬化性化合物と硬化剤とが接触しているため、硬化反応が進行し、増粘又は分離などによって、充填材が細孔まで至らなかったためと考えられる。
【符号の説明】
【0140】
1,1A…充填材
11,11A…第1の組成物
12,12A…第2の組成物
13,13A…第1の容器
13Aa…第1の容器本体
13Ab…蓋
14,14A…第2の容器
14Aa…第2の容器本体
14Ab…蓋
15A…接合部材
21…注入プラグ
50…供給装置
51…注入ガン
52…タンク
100…構造物
101…壁面
102…ひび割れ
104…注入口