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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】歯科用根管長測定器具
(51)【国際特許分類】
   A61C 19/04 20060101AFI20240925BHJP
   C08F 212/14 20060101ALI20240925BHJP
   C08F 210/00 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
A61C19/04 A
C08F212/14
C08F210/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020140899
(22)【出願日】2020-08-24
(65)【公開番号】P2022036603
(43)【公開日】2022-03-08
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】597134016
【氏名又は名称】佐藤歯材株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文昭
(72)【発明者】
【氏名】村山 良介
(72)【発明者】
【氏名】侯 召民
(72)【発明者】
【氏名】西浦 正芳
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-308651(JP,A)
【文献】国際公開第2019/177110(WO,A1)
【文献】特開昭50-79989(JP,A)
【文献】特公昭57-44923(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 19/04
A61C 5/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
根管長測定針、および、
根管長測定針の根管内への押入深さを記録するための、根管長測定針に摺動自在に設けられたストッパーを有する、歯科用根管長測定器具であって、
ストッパーが、少なくとも1種の一般式(II)で表される極性オレフィンモノマーの構造単位、および、少なくとも1種の非極性オレフィンモノマーの構造単位を含む極性オレフィン系重合体を含む、オレフィン系成形品からなる、歯科用根管長測定器具。
【化1】
(式中、Zが酸素であり、R が炭素数1~6の直鎖状、分岐鎖状、環状アルキル基であり、nが1であり、R がメチレン基であり、R がフッ素原子、炭素数1または2の直鎖状アルキル基であり、mが0または1の整数である。)
【請求項2】
極性オレフィン系重合体中の全構造単位に対する極性オレフィン構造単位の割合が20mol%以上である、請求項1記載の歯科用根管長測定器具。
【請求項3】
極性オレフィン系重合体の数平均分子量が、2.0×10以上である、請求項1または2に記載の歯科用根管長測定器具。
【請求項4】
極性オレフィン系重合体が、下記一般式(III)および(IV)でそれぞれ表される構造単位を少なくとも含む、請求項1~のいずれか一項に記載の歯科用根管長測定器具。
【化2】
(式中、R、R、R、Z、mおよびnは、前記式(II)中のそれぞれと同義であり、xおよびyは、共重合体の全配列中における各構造単位の割合(モル比率)を示し、x>0、y>0、x>y、80%≦x+y≦100%を満足する正の数である。)
【請求項5】
極性オレフィン系重合体のガラス転移点が0℃以上20℃以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の歯科用根管長測定器具。
【請求項6】
歯科用根管長測定器具用のストッパーであって、
前記ストッパーは、根管長測定針の根管内への押入深さを記録するための、根管長測定針に摺動自在に設けられるストッパーであり、
ストッパーが、少なくとも1種の一般式(II)で表される極性オレフィンモノマーの構造単位、および、少なくとも1種の非極性オレフィンモノマーの構造単位を含む極性オレフィン系重合体を含む、オレフィン系成形品からなる、ストッパー。
【化3】
(式中、Zが酸素であり、R が炭素数1~6の直鎖状、分岐鎖状、環状アルキル基であり、nが1であり、R がメチレン基であり、R がフッ素原子、炭素数1または2の直鎖状アルキル基であり、mが0または1の整数である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用根管長測定器具等に関する。
【背景技術】
【0002】
根管治療においては、治療に先立って、根管長測定器具を用いて、根管長を測定している。根管長測定器具を根管内に挿入し、その先端が根尖孔の位置に到達したことを検知し、その状態で、根管長測定針に挿通されたストッパーの位置を歯冠に当接させ、そのまま根管長測定針を根管から引き出し、物差し等を用いて、根管長測定針の先端から前記ストッパーまでの長さ(根管長)を計測して根管長を求めている。
【0003】
根管長測定器具におけるストッパーの素材としては、ラバー等が用いられ、ストッパーは使用前においては針元部に設置され、根管長測定時には歯冠に当接する位置まで根管長測定針を摺動させて根管長を測定、印記する。しかしながら、根管長測定器具には、通常、先端が細くなるテーパーが付与されており、針先端には、ストッパーは止まらず抜け落ち、ストッパーとして機能しないという問題がある。また、このように抜けてしまうと根管長の印記が失われ計測に支障をきたす。また、口腔内で外れると印記が失われるばかりか、誤飲事故につながる場合がある。
【0004】
他方、新規な物性を有する材料として、特定の極性オレフィンモノマーと非極性オレフィンモノマーの共重合体を含む、オレフィン系成形品が開発されている(特許文献1)。しかしながら、このようなオレフィン系成形品の歯科用器具への用途は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO/2019/177110
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の状況を鑑み、本発明は、根管長測定針からのストッパーの抜け落ちが防止された歯科用根管長測定器具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。すなわち、歯科用根管長測定器具のストッパーの素材について検討を行った。その結果、WO/2019/177110記載のオレフィン系成形品が、歯科用根管長測定器具のストッパーの素材として優れることを知見した。このような知見に基づいて本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 根管長測定針、および、
根管長測定針の根管内への押入深さを記録するための、根管長測定針に摺動自在に設けられたストッパーを有する、歯科用根管長測定器具であって、
ストッパーが、少なくとも1種の一般式(I)で表される極性オレフィンモノマーの構造単位、および、少なくとも1種の非極性オレフィンモノマーの構造単位を含む極性オレフィン系重合体を含む、オレフィン系成形品からなる、歯科用根管長測定器具。
CH=CH-R-Z(R・・・(I)
(式中、Zは窒素、酸素、リン、硫黄、および、セレンからなる群から選ばれるヘテロ原子であり、Rは置換または無置換の炭素数1~30のヒドロカルビル基であり、nはZ
の原子種に応じた1または2の整数であり、Rは置換または無置換の炭素数2~20のヒドロカルビレン基である。)
[2] 極性オレフィンモノマーが、一般式(II)で表される極性オレフィンモノマーである、[1]に記載の歯科用根管長測定器具。
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、Zは窒素、酸素、リン、硫黄、および、セレンからなる群から選ばれるヘテロ原子であり、Rは置換または無置換の炭素数1~30のヒドロカルビル基であり、nはZの原子種に応じた1または2の整数であり、Rは炭素数1~5のヒドロカルビレン基であり、Rはハロゲン原子、炭素数1~10のヒドロカルビル基、炭素数1~10のアルキルチオ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、または、炭素数1~10のアルコキシ基であり、Rがヒドロカルビル基であるときは結合して縮合環を形成していてもよく、mは0~4の整数である。)
[3] 極性オレフィン系重合体中の全構造単位に対する極性オレフィン構造単位の割合が20mol%以上である、[1]または[2]に記載の歯科用根管長測定器具。
[4] 極性オレフィン系重合体の数平均分子量が、2.0×10以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の歯科用根管長測定器具。
[5] 極性オレフィン系重合体が、下記一般式(III)および(IV)でそれぞれ表される構造単位を少なくとも含む、[1]~[4]のいずれかに記載の歯科用根管長測定器具。
【0011】
【化2】
【0012】
(式中、R、R、R、Z、mおよびnは、前記式(II)中のそれぞれと同義であり
、xおよびyは、共重合体の全配列中における各構造単位の割合(モル比率)を示し、x>0、y>0、x>y、80%≦x+y≦100%を満足する正の数である。)
[6] 一般式(II)または(III)において、Zが酸素であり、Rが炭素数1~6の直鎖状、分岐鎖状、環状アルキル基であり、nが1であり、Rがメチレン基であり、Rがフッ素原子、炭素数1または2の直鎖状アルキル基であり、mが0または1の整数である、[2]~[5]のいずれかに記載の歯科用根管長測定器具。
[7] 極性オレフィン系重合体のガラス転移点が0℃以上20℃以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の歯科用根管長測定器具。
[8] 歯科用根管長測定器具用のストッパーであって、
前記ストッパーは、根管長測定針の根管内への押入深さを記録するための、根管長測定針に摺動自在に設けられるストッパーであり、
ストッパーが、少なくとも1種の一般式(I)で表される極性オレフィンモノマーの構造単位、および、少なくとも1種の非極性オレフィンモノマーの構造単位を含む極性オレフィン系重合体を含む、オレフィン系成形品からなる、ストッパー。
CH=CH-R-Z(R・・・(I)
(式中、Zは窒素、酸素、リン、硫黄、および、セレンからなる群から選ばれるヘテロ原子であり、Rは置換または無置換の炭素数1~30のヒドロカルビル基であり、nはZの原子種に応じた1または2の整数であり、Rは置換または無置換の炭素数2~20のヒドロカルビレン基である。)
【発明の効果】
【0013】
本発明により、根管長測定針からのストッパーの抜け落ちが防止された歯科用根管長測定器具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一態様である根管長測定ファイルの作製過程を示す図(図面代用写真)である。
図2図2は、本発明の一態様である根管長測定ファイルの作製過程を示す図(図面代用写真)である。図2は、図1の拡大図である。
図3図3は、本発明の一態様である根管長測定ファイルを示す図(図面代用写真)である。
図4図4は、比較例の根管長測定ファイルを示す図(図面代用写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、説明する。
<歯科用根管長測定器具>
本発明の一態様は、根管長測定針、および、根管長測定針の根管内への押入深さを記録するための、根管長測定針に摺動自在に設けられたストッパーを有する、歯科用根管長測定器具であって、ストッパーが、少なくとも1種の一般式(I)で表される極性オレフィンモノマーの構造単位、および、少なくとも1種の非極性オレフィンモノマーの構造単位を含む極性オレフィン系重合体を含む、オレフィン系成形品からなる、歯科用根管長測定器具(以下、「本発明の歯科用根管長測定器具」ということがある)に関する。
【0016】
本発明の歯科用根管長測定器具は、根管長測定針を有する。根管長測定針としては、リーマー、Hファイル、およびKファイル等が一般的に使用されており、本発明の歯科用根管長測定器具には、上記の一般的な根管長測定針を特に限定されることなく、使用できる。一態様として、根管長測定針の形状として、直径は0.06mm以上1.4mm以下であってよい。根管長測定針の素材としては、ステンレス鋼線や硬鋼線等が用いられ得る。
また、根管長測定針には切除等の作業をなす所定長さの刃が配備されていてもよい。
【0017】
また、本発明の歯科用根管長測定器具は、根管長測定針の根管内への押入深さを記録するための、根管長測定針に摺動自在に設けられたストッパーを有する。ストッパーとしては、平板状、または円筒状の所定形状や長さのものが一般的に用いられており、本発明の歯科用根管長測定器具には、ストッパーの素材として特定のものを用いる以外、上記の一般的なストッパーに使用されるものを特に限定されることなく、使用できる。一態様として、ストッパーの形状として、直径は0.5mm以上、1mm以上、2mm以上、3mm以上、および6mm以下、5mm以下、4mm以下、3mm以下であってよく、これらの矛盾しない組み合わせであってよい。ストッパーの長さ(厚さ)は1mm以上、2mm以上、3mm以上、および6mm以下、5mm以下、4mm以下、3mm以下であってよく、これらの矛盾しない組み合わせであってよい。
ストッパーとしては、1つのファイルに対し1または複数個あるいは複数種のストッパーを用いてよい。
【0018】
本発明の歯科用根管長測定器具は、上記部材の他、歯科用根管長測定器具を保持するための柄等、歯科用根管長測定器具に通常使用される任意の部材をさらに有してもよい。柄の素材としては、樹脂等が用いられ得る。
【0019】
≪オレフィン系成形品≫
本発明の歯科用根管長測定器具は、ストッパーが、少なくとも1種の一般式(I)で表される極性オレフィンモノマーの構造単位、および、少なくとも1種の非極性オレフィンモノマーの構造単位を含む極性オレフィン系重合体を含む、オレフィン系成形品からなることを特長とする。
【0020】
本明細書において、単に「重合体」と表記する場合は、特に断りのない限り、単独重合体および共重合体を含む意味で用いるものとする。
【0021】
上記オレフィン系成形品は、自己修復性を有する。このような素材のストッパーを有することで、本発明の歯科用根管長測定器具は、ストッパーを根管長測定時に歯冠に当接する位置まで根管長測定針を摺動させて根管長を測定、印記する際に、ストッパーを摺動させた位置でストッパーの穴が塞がり、抜け落ちが防止され、根管長を正確に計測することができ、また、誤飲事故を防止することができる。
【0022】
≪極性オレフィンモノマー≫
上記オレフィン系成形品に含まれる極性オレフィン系重合体を構成する極性オレフィンモノマーは、以下の一般式(I)で表される、極性基を含有する極性オレフィンモノマーである。
CH=CH-R-Z(R・・・(I)
一般式(I)におけるZは窒素、酸素、リン、硫黄、および、セレンからなる群から選ばれるヘテロ原子であり、Rは置換または無置換の炭素数1~30のヒドロカルビル基であり、nはZの原子種に応じた1または2の整数である。
【0023】
上記一般式(I)におけるRは、極性オレフィンモノマーの極性基におけるヘテロ原子とオレフィンユニット、および、触媒の中心金属との重合反応における分子内相互作用が形成される限り、限定されない。通常、Rは、置換または無置換の炭素数1~30のヒドロカルビル基であり、好ましくは炭素数1~20、炭素数1~10、炭素数1~6の直鎖状、分岐鎖状、環状アルキル基、直鎖状、分岐鎖状アルケニル基、または、直鎖状、分岐鎖状アルキニル基;炭素数1~10のアルキル基、アルケニル基、または、アルキニル基で置換された環状アルキル基(ここで置換基であるアルキル基、アルケニル基、または、アルキニル基の数および環状アルキル基における置換位置は特に限定されない);アリール基;炭素数1~10のアルキル基、アルケニル基、または、アルキニル基で置換さ
れたアリール基(ここで置換基であるアルキル基、アルケニル基、または、アルキニル基の数およびアリール基における置換位置は特に限定されない)である。ここで、環状アルキル基またはアリール基は、飽和または不飽和の縮合環を形成していてもよい。
【0024】
前記置換ヒドロカルビル基におけるヒドロカルビル基は、前記したヒドロカルビル基と同様である。置換ヒドロカルビル基とは、ヒドロカルビル基の少なくとも1の水素原子が、ハロゲン原子等で置換されたヒドロカルビル基である。
【0025】
は上記極性オレフィンモノマーにおいて、極性基とオレフィン部とをつなぐスペーサーの役割を果たす。Rは、極性オレフィンモノマーの極性基におけるヘテロ原子とオレフィンユニット、および、触媒の中心金属との重合反応における分子内相互作用が形成される限り、限定されない。分子内相互作用形成の観点から、Rは炭素数2~20であることが好ましい。また、Rの炭素数はZが示すヘテロ原子の種類、Rが示す置換基の種類等に応じて、重合活性等を指標とし、ヘテロ原子とオレフィンユニット、および、触媒の中心金属との重合反応における分子内相互作用の形成に適した炭素数を選択することができる。通常、Rは、炭素数2~11のヒドロカルビレン基である。より好ましくは、炭素数2~3の直鎖状、分岐鎖状アルキレン基;炭素数3~11の環状アルキレン基;炭素数6~11のアリーレン基;炭素数7~11のアラルキレン基である。Rの置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1~10のヒドロカルビル基、炭素数1~10のアルキルチオ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基または、炭素数1~10のアルコキシ基等が挙げられる。
【0026】
一般式(I)で表される化合物の一形態は、一般式(II)で表される化合物である。
【0027】
【化3】
【0028】
一般式(II)におけるZ、R、nは、一般式(I)において説明された定義と同義である。一般式(II)におけるZは、好ましくは酸素である。一般式(II)におけるRは、好ましくは炭素数1~3の直鎖状、分岐鎖状、環状アルキル基である。
芳香環における-Z(Rの結合位置は限定されないが、好ましくはo位である。
【0029】
通常、Rは炭素数1~5のヒドロカルビレン基である。より好ましくは、炭素数1~3の直鎖状、分岐鎖状アルキレン基;炭素数3~5の環状アルキレン基である。
【0030】
芳香環の置換基であるRはハロゲン原子、炭素数1~10のヒドロカルビル基、炭素数1~10のアルキルチオ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基または、炭素数1~10のアルコキシ基であり、Rがヒドロカルビル基であるときは結合して、飽和、不飽和またはヘテロ縮合環を形成していてもよい。芳香環におけるRの置換位置は限定されないが、好ましくはm位である。mは0~4の整数である。より好ましくは、mは0~2である。
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。炭素数1~10のヒドロカルビル基として、より好ましくは、炭素数1~6の直鎖状、分岐鎖状アルキル基、アルケニル基、または、アルキニル基であり、さらに好まし
くは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。炭素数1~10のアルキルチオ基として、より好ましくは、炭素数1~6のアルキルチオ基であり、メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、n-ブチルチオ基、イソブチルチオ基、sec-ブチルチオ基、tert-ブチルチオ基、n-ペンチルチオ基、n-ヘキシルチオ基等が挙げられる。炭素数1~10のアルキルアミノ基として、より好ましくは、炭素数1~6のアルキルアミノ基である。アルキルアミノ基はジアルキルアミノ基がよく、アミノ基を置換するアルキルは同一または異なるアルキルであってよい。アルキルアミノ基として、さらに好ましくは、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジn-プロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジn-ブチルアミノ基、ジイソブチルアミノ基、ジsec-ブチルアミノ基、ジtert-ブチルアミノ基等のジアルキルアミノ基が挙げられる。炭素数1~10のアルコキシ基として、より好ましくは、炭素数1~3のアルコキシ基であり、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等が挙げられる。Rが互いに結合し、Rが置換する芳香環と縮合し形成される飽和縮合環としては、ナフタレン環等が挙げられる。Rが互いに結合し、Rが置換する芳香環と縮合し形成されるヘテロ縮合環としては、インドール環、イソインドール環、キノリン環、イソキノリン環、カルバゾール環、アクリジン環、ベンゾフラン環、ベンゾピラン環、ベンゾチオフェン環等が挙げられる。縮合環は1~6個の置換基を有していてもよく、置換基としては上記Rと同様である。
【0031】
一般式(II)で表される化合物の具体例には、2-アリル-4-フルオロアニソール、2-アリル-4,5-ジフルオロアニソール、2-アリル-4-メチルアニソール、2-アリル-4-tert-ブチルアニソール、2-アリル-4-へキシルアニソール、2-アリル-4-メトキシアニソール、3-
(2-メトキシ-1-ナフチル)-1-プロピレン等の置換2-アリルアニソール(以下、「AP」とも称する);無置換の2-アリルアニソール(3-(2-アニシル)-1-プロピレン)(以下、「AP」とも称する);等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
重合反応に用いられる極性モノマーは単独でもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0033】
≪非極性オレフィンモノマー≫
前記極性モノマーを、他のモノマー(好ましくは非極性オレフィンモノマー)と共重合させて用いる。非極性オレフィンモノマーは、付加重合性があり、極性オレフィンモノマーと共重合可能なものであれば、特に制限されず、例えばエチレン、α-オレフィン、置換および無置換スチレン、ジエン、炭素数3~20の環状オレフィン(2-ノルボルネンやジシクロペンタジエン等のノルボルネン類やシクロヘキサジエンを含む)等が挙げられる。
α-オレフィンとして具体的には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンのような炭素数3~20の直鎖状α-オレフィンや、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ブテンのような炭素数4~20の分岐鎖状α-オレフィン等が挙げられる。
オレフィン系モノマーであるジエンの例には、1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,4-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、2,4-ヘキサジエンのような炭素数3~20の直鎖状ジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,4-ジメチル-1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ヘキサジエンのような炭素数4~20の分岐鎖状ジエン、シクロヘキサジエンのような炭素数4~20の環状ジエン等が含まれる。
【0034】
共重合反応に用いられる非極性オレフィンモノマーは単独でもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0035】
極性オレフィンモノマー、非極性オレフィンモノマーは、有機化学分野における常法に基づき、合成したものを使用できる。また、市販されているものを使用してもよい。
【0036】
≪極性オレフィン系重合体≫
本発明に用いられるオレフィン系成形品は、少なくとも1種の一般式(I)で表される極性オレフィンモノマー由来の構造単位、および、少なくとも1種の非極性オレフィンモノマー由来の構造単位を含む極性オレフィン系重合体を含む。
【0037】
前記極性オレフィン系重合体の一実施形態として、前記極性オレフィンモノマーと、エチレン(非極性オレフィンモノマー)との共重合体を例に説明する。同共重合体は、下記式(A)で表される極性オレフィンモノマー由来の構造単位、および式(B)で表されるエチレン由来の構造単位を有する共重合体である。
【0038】
ここで式(A)におけるZ、R、R、nは、一般式(I)において上記したZ、R、R、nと同様である。
【0039】
【化4】
【0040】
共重合体において、上記式(A)および式(B)で表される構造単位は、任意の順序に配列していればよい。すなわち、両者がランダムに配列してしてもよいし、何らかの規則性を持って配列(例えば、(A)および(B)の構造単位が交互に配列している、それぞれがある程度連続して配列している、その他の決まった順序に配列している)していてもよい。従って、共重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、その他の定序性共重合体であってもよい。共重合体は、好ましくは交互共重合体である。
【0041】
ここで、交互共重合体は、主配列として(A)および(B)の構造単位が交互に配置された配列(以下、「交互(A)-(B)配列」または「(A)-alt-(B)配列」とも称する)からなるが、副配列として、それぞれが2個~ある程度連続して配置された配列等を含む場合がある。共重合体は交互共重合体であって、共重合体の全配列中における交互(A)-(B)配列の割合(2種以上の極性オレフィンモノマーの構造単位および2種以上の非極性オレフィンモノマーの構造単位を含む場合、極性オレフィンモノマーの構造単位と非極性オレフィンモノマーの構造単位とからなる交互配列の合計の割合)がモル比率で、通常30mol%以上、好ましくは40mol%以上、50mol%以上、60mol%以上、70mol%以上含むものである。
より具体的には、交互重合体の態様では、交互配列-(A)-alt-(B)-とともに、(A)および(B)それぞれの重合配列が含まれていてもよく、交互配列-(A)-alt-(B)-とともに、(B)の重合配列-(B)-(B)-が含まれていることが、後述する通り、本発明の成形品の機能性発現に寄与すると考えらえる。共重合体の全配列中における(B)の重合配列-(B)-(B)-(2種以上の非極性オレフィンモノマーの構造単位を含む場合、2種以上の非極性オレフィンモノマーの構造単位からなるランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、その他の定序性共重合体を含む)の割合がモル比率で、通常60mol%以下、好ましくは50mol%以下、40mol%以
下、30mol%以下、または20mol%以下である。なお、共重合体の全配列中における(A)の重合配列-(A)-(A)-(2種以上の極性オレフィンモノマーの構造単位を含む場合、2種以上の極性オレフィンモノマーの構造単位からなるランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、その他の定序性共重合体を含む)の割合がモル比率で、20mol%以下、10mol%以下、5mol%以下、または3mol%以下であることが好ましく、0mol%であってもよい。
【0042】
該配列の割合は、例えばH-NMR、13C-NMR等により測定することができる。具体的には、H-NMRにより、1.0-1.5ppmのピークの積分比を比較することにより求めることができる。
【0043】
共重合体に含まれる、式(A)の構造単位および式(B)の構造単位の含有率は任意である。例えば、全構造単位のうち、式(A)の構造単位の割合をモル比率で、1~99mol%にすることができる。なお、上記製造方法によれば、共重合体における極性オレフィン構造単位の割合が比較的高い共重合体とすることもできる。
ここで、本発明に用いられるオレフィン系成形品においては、オレフィン系成形品に含まれる共重合体が、十分に高い式(A)の構造単位の割合を有することで、十分に高い交互(A)-(B)配列の割合を有することができ、このことで自律的な自己修復作用や優れた機械特性、形状記憶性といった特性を有すると考えられる。共重合体のこの様な特性により、本発明に用いられるオレフィン系成形品は、自律的な自己修復作用とより高度なタフネスを有すると考えられる。また、この高度なタフネスといった機械特性は、十分に高度な引張強度と十分に高度な破断伸びの値とをよりバランスよく有するものであるとも言える。上記の様な高度な機械特性、自律的な自己修復作用、形状記憶性等の特性を達成するといった観点から、共重合体における極性オレフィン構造単位の割合は、式(A)の構造単位をモル比率で、通常20mol%以上、好ましくは30mol%以上、40mol%以上、50mol%以上、60mol%以上、70mol%以上、80mol%以上含む。
該構造単位の割合は、例えばH-NMR、13C-NMR等により測定することができる。具体的には、H-NMRにより、ヘテロ原子に隣接したメチレンまたはメチル水素と1-1.8ppmにある炭化水素との積分比を比較することにより求めることができる。該構造単位の割合は、共重合体の製造において、原料である各モノマーの比を調整することで制御される。
また、式(A)の構造単位の含有率が高くなると、極性オレフィンモノマーの極性基による特長である、極性材料との接着性、相溶性等が有効に発揮され得る。また、共重合体は高分子量化が可能であるため、絡み合い点が増加し、相溶性や接着性の向上が期待できる点で有利である。
【0044】
共重合体の分子量分布は任意であるが、共重合体の分子量分布が比較的狭い共重合体も好ましく用いることができる。ここで分子量分布は、GPC法(ポリスチレンを標準物質、1,2-ジクロロベンゼンを溶出液として、145℃で測定)等により測定される値(Mw/Mn)であってよく、例えばGPC測定装置(TOSOH HLC 8121 GPC/HT)を用いて測定することができる。
共重合体の分子量分布は、通常は、その指標であるMw/Mnが5.0以下、好ましくは4.0以下、3.0以下である。
【0045】
共重合体の数平均分子量は任意であるが、共重合体の数平均分子量が比較的高い共重合体も好ましく用いることができる。数平均分子量(g/mol)は(非)極性オレフィンモノマー由来の構造単位の構造、極性オレフィンモノマー由来の構造単位と非極性オレフィンモノマー由来の構造単位の比率等により変化するが、上記の様な高度な機械特性、自律的な自己修復作用、形状記憶性等の特性を達成するといった観点から、通常2.0×1
以上、好ましくは3.0×10以上、10×10以上、50×10以上、80×10以上、100×10以上、150×10以上、200×10以上、250×10以上、300×10以上、350×10以上、400×10以上、450×10以上、500×10以上、1000×10以上である。
【0046】
共重合体のガラス転移点(Tg)は極性オレフィンモノマー由来の構造単位の構造等によって変化し得る。ガラス転移点は特に制限されないが、通常-40~100℃程度である。ガラス転移点は示差走査熱量測定(DSC)法等により測定することができる。自己修復性の成形品とするためには、原料として用いる前記共重合体のTgは、使用温度(例えば、室温が使用温度の場合は、一般的には25℃であるが、用いられる態様、条件によって変動する場合がある)以下であるのが好ましい。また、形状記憶性の成形品とするためには、原料として用いる前記共重合体のTgは、使用温度(例えば、室温が使用温度の場合は、一般的には25℃であるが、用いられる態様、条件によって変動する場合がある)を超えているのが好ましい。使用性等の観点から、Tgは-10℃以上、0℃以上、3℃以上、および25℃以下、20℃以下、15℃以下、またはそれらの矛盾しない組み合わせであり得る。
【0047】
共重合体が融点を有する場合は、(非)極性オレフィンモノマー由来の構造単位の構造、極性オレフィンモノマー由来の構造単位と非極性オレフィンモノマー由来の構造単位の比率、その他によって変化するが、通常100℃以上、好ましくは110℃以上、120℃以上、130℃以上である。融点は、例えば、示差走査熱量測定(DSC)法により測定することができる。
【0048】
本発明に係る前記共重合体の一態様は、下記式(III)および(IV)でそれぞれ表される構造単位を含む。式中、xおよびyは、共重合体の全配列中における各構造単位の割合(モル比率)を示す。
【0049】
【化5】
【0050】
式中、R、R、R、Z、mおよびnは、前記式(II)中のそれぞれと同義であり、好ましい範囲も同様である。xおよびyは、各構造単位の割合を示し、x>0、y>0、x>y、80%≦x+y≦100%を満足する正の数である。x+yは、好ましくは、8
5%以上、90%以上、95%以上、または97%以上である。
【0051】
好ましい一態様として、本発明に用いられるオレフィン系成形品に含まれる共重合体として、一般式(II)または(III)において、Zが酸素であり、Rが炭素数1~6の直鎖状、分岐鎖状、環状アルキル基であり、nが1であり、Rがメチレン基であり、Rがフッ素原子、炭素数1または2の直鎖状アルキル基であり、mが0または1の整数であるものが挙げられる
【0052】
≪オレフィン系成形品≫
本発明に用いられるオレフィン系成形品は、少なくとも1種の一般式(I)で表される極性オレフィンモノマーの構造単位、および、少なくとも1種の非極性オレフィンモノマーの構造単位を含む極性オレフィン系重合体を含む、オレフィン系成形品である。
本発明に用いられるオレフィン系成形品の一実施形態は、交互エチレン-(置換)アニシルプロピレン配列を有し、自律的な自己修復作用と優れた機械特性を有する。自律的な自己修復作用と優れた機械特性を有するメカニズムは、極性オレフィン共重合体が交互エチレン-(置換)アニシルプロピレン配列を有し、交互エチレン-プロピレン共重合体の骨格における側鎖としての(置換)アニシル基が規則的に分布していることが考えられる。これにより、水、酸、塩基による深刻な影響を受けることなく、損傷面間およびポリマー鎖間において分子の絡み合いが増強された可能性がある。本発明に用いられるオレフィン系成形品の一態様では、空気中のみでなく、水中、酸、アルカリ溶液中で、外的エネルギーまたは刺激(圧力、温度等)の必要なしに自己修復(すなわち、自律的自己修復)が可能である。本発明に用いられるオレフィン系成形品の自己修復作用には、外的エネルギーまたは刺激(圧力、温度等)は特に必要はないが、これらを加えることも可能である。外的エネルギーまたは刺激(圧力、温度等)を加えることにより、自己修復速度が向上する等の利点が考えられる。
【0053】
ここで「自己修復」とは、成形品等の傷あるいは切断面どうし等の損傷を接触させることで共重合体連鎖の絡み合いが再び起こり、損傷前の成形品等の形状、物性等に戻ることをいう。
自己修復作用は、例えば、損傷を接触させ、所定温度で所定環境下、所定時間放置し、損傷後の形状、物性等を損傷前と比較することにより確認することができる。具体的には、例えば、後記実施例に記載の方法等により確認することができる。本発明に用いられるオレフィン系成形品の自己修復効率は、用いる共重合体の種類等により変化し、限定されないが、例えば後記実施例に記載の方法により測定する自己修復性試験において、オレフィン系成形品における損傷を接触させ、室温(例えば25℃)で空気中での放置により、自律的に自己修復し、損傷後の破断伸びが損傷前の破断伸びの通常50%以上、好ましくは60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上、100%である。
【0054】
自己修復性成形品の一態様は、前記式(III)および(IV)でそれぞれ表される構造単位を有する共重合体であって、そのTgが使用温度(例えば、使用温度が室温である場合は、一般的には25℃)以下である前記共重合体を含有する成形品である。なお、本発明のストッパーとして用いられる場合、好ましいTgの範囲として、0℃以上20℃以下が挙げられる。
自己修復材料として用いられる本発明に用いられる成形品の一態様では、80%以上の自己修復率を達成可能である。
上記自己修復率を達成する時間については特に制限はなく、用いる重合体の種類(より具体的には、上記式(III)および(IV)でそれぞれ表される構造単位を有する共重合体を含む態様では、式(III)中のベンゼン環の置換基の種類、xおよびyの範囲、および分子量)等により、調整可能である。一例では、5日間で80%以上の自己修復率を
達成可能である。
【0055】
オレフィン系成形品の引張強度は、用いる重合体の種類(より具体的には、上記式(III)および(IV)でそれぞれ表される構造単位を有する共重合体を含む態様では、式(III)中のベンゼン環の置換基の種類、xおよびyの範囲、および分子量)等により変化し、限定されない。用途に応じて、適切な範囲に調整することができる。原料として、ガラス転移点の高い重合体を用いると、成形品の引張強度が高くなる傾向がある。例えば、本発明の成形品は、重合体がゴム状態を示すガラス転移温度以上の温度(一例として、室温(例えば25℃))における測定において、0.1MPa程度以上を達成可能である。好ましくは、0.4MPa超え、0.5MPa以上、1MPa以上、10.0MPa以上、20MPa以上、30MPa以上、40Mpa以上、または50MPa以上である。室温に限らず、その成形品が用いられる使用温度において、前記範囲の引張強度を示す態様であってもよい。
オレフィン系成形品の破断伸びは、用いる重合体の種類(より具体的には、上記式(III)および(IV)でそれぞれ表される構造単位を有する共重合体を含む態様では、式(III)中のベンゼン環の置換基の種類、xおよびyの範囲、および分子量)等により変化し、限定されない。用途に応じて、適切な範囲に調整することができる。原料として、ガラス転移点が高い重合体を用いると、成形品の破断伸びが小さくなる傾向がある。例えば、本発明の成形品は、重合体がゴム状態を示すガラス転移温度以上の温度(一例として、室温(例えば25℃))における測定において、10%程度以上を達成可能である。自己修復性の成形品とするためには、好ましく、100%超、500%以上、1000%以上、1200%以上、1500%以上、または2000%以上が好ましい。自己修復性を安定的に得るためには、上限値は、10000%程度である。なお、室温に限らず、その成形品が用いられる使用温度において、前記範囲の破断伸びを示す態様であってもよい。
【0056】
極性オレフィン系重合体の機械的特性は、常法の引張試験により測定することができる。具体的には、例えば、後記実施例に記載の方法(JIS K-6251-7に基づいたダンベル形状試験片(幅: 2 mm; 長さ: 12 mm; 厚さ: 1 mm)を用い、ASTM 882-09の試験方法により行う。破断応力-破断ひずみ試験は、ひずみ率200 mm/minで一軸引張試験を用いた破壊により決定する。タフネス値は、応力-ひずみ曲線の面積を計算することにより算出することができる。
【0057】
本発明に用いられるオレフィン系成形品は、極性オレフィン系重合体を主成分(50質量%以上)として含むオレフィン系成形品であってよく、また副成分(50質量%未満)として含むオレフィン系成形品であってもよい。極性オレフィン系重合体以外の(共)重合体等の高分子材料、並びに通常成形品に用いられる各種添加剤、例えば、賦形剤、滑剤、紫外線吸収剤、耐候剤、帯電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、核剤、流動改良剤、着色剤等を含んでもよい。
【0058】
本発明に用いられるオレフィン系成形品は、極性オレフィン系重合体を溶融成形したものが好ましい。溶融成形は、公知の方法により行うことができる。このような溶融成形品は、限定されないが、例えば、射出成形品、真空、圧空成形品、押出成形品、ブロー成形品、熱プレス(溶融プレス)成形品およびキャスト成形品等であり、具体的には、ペレット、繊維および布、フィルム、シート、不織布等が挙げられる。その他、成形品は、レーザー加工、3Dプリンター技術等を利用して、製造することもできる。
【0059】
上記オレフィン系成形品は、例えば、WO/2019/177110に記載の方法に基づき、製造することができる。
【0060】
≪製造方法、使用方法≫
本発明の歯科用根管長測定器具は、ストッパーの素材として特定のものを用いる以外、一般的な歯科用根管長測定器具の製造方法に基づき、製造することができる。
また、本発明の歯科用根管長測定器具の使用方法は、一般的な歯科用根管長測定器具の使用方法と同様である。
【実施例
【0061】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
<素材の評価>
試験法
1. 引張り試験 (簡易引張り試験機Nextech DFS200により測定)
材料:WO/2019/177110に記載の方法に基づき製造した、2-アリルアニソール(AP)とエチレンとの共重合からなるシート(WO/2019/177110に記載のP2)を試験材料とした。
方法:30mm×10mmの試料片端を固定、1cm引張り、その時の値を計測した。試料厚さ1.0mm、2.0mmそれぞれ行った。
結果:表1に示すとおり、試験片は、適度な引張強度を有した。
【0063】
【表1】
【0064】
2. 穿通試験
方法:注射針14Gを繰り返し3回穿通する。試料のシートを穿通し、針の先端およびシートの断裂部をレーザー顕微鏡で観察し、残留物の有無および穿通後の状態を観察した。
結果:使用した針5本中2本の先端に試料の断端を認めた。また、シートを穿通した状態で、針を上下反転、および振動を与えたが、シートは針から動かなかった。穿通後のシートは2-5秒後には元の形状に戻った。
【0065】
3. 封鎖性試験
方法:試料を容器のキャップとして配置し、注射針14Gで穿通した後、水漏れをみた。
結果:穿通後、45秒間内容物の流出が続いた。その後、水滴が垂れる程度になり60秒後に漏洩は認められなくなった。流出した内容物は50mlであった。
【0066】
4. 引き抜き試験
方法:試料に注射針14Gを刺したまま、簡易引張り試験機で測定した。
結果:表2に示すとおり、試験片は、試料に十分に固定された。
【0067】
【表2】
【0068】
<根管長測定ファイル用ストッパーの作製および評価>
材料
以下の3種類の素材(シート)を用いて、根管長測定ファイル用ストッパーを作製した。
WO/2019/177110に記載のP2のポリマー(厚さ1mm)(実施例1)
ブチルゴム(生理食塩水のポート部ブチルゴム)(比較例1)
WO/2019/177110に記載のP9のポリマー(厚さ1mm)(比較例2)
【0069】
試験法
方法:
簡易フォースゲージの測定部にファイルを固定する(図1、2)。
各材料にファイルを貫通させる(図3、4)。
【0070】
結果:ファイルサイズを#15, #25, #35(先端径0.15mm, 0.25mm, 0.35mm)とした時の各シートにおける穿刺時および引き抜き時にかかる力の測定結果を示す。なお、比較例2に関しては、素材が硬く貫通しなかったため測定不可であった。
【0071】
【表3】
【0072】
考察:
比較例1のブチルゴムの厚みは10mm程度であり、これは引き抜きに対する抵抗力を付与するためのものである。したがって、穿刺時および引き抜き時に強い力が必要である。一方、実施例1のストッパーは、ストッパー本体を止める保持力以外は必要としない。そのため、測定時の力で十分であると考える。すなわち、ストッパーの小型化が可能であり、穿刺時および引き抜き時にかかる力も小さく、所定の位置で固定も可能なため、操作性に優れることが分かった。
【0073】
以上の結果から、特定のオレフィン系成形品をストッパーとして用いることで、根管長測定針からのストッパーの抜け落ちが防止された歯科用根管長測定器具が得られることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、歯科、医科等の分野で有用である。
図1
図2
図3
図4