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特許7560051義歯床用ペースト状硬化性組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】義歯床用ペースト状硬化性組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/35 20200101AFI20240925BHJP
   A61C 13/23 20060101ALI20240925BHJP
   A61K 6/15 20200101ALI20240925BHJP
   A61K 6/887 20200101ALI20240925BHJP
【FI】
A61K6/35
A61C13/23
A61K6/15
A61K6/887
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020156304
(22)【出願日】2020-09-17
(65)【公開番号】P2022049980
(43)【公開日】2022-03-30
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】深谷 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】瘧師 歩
(72)【発明者】
【氏名】山崎 達矢
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-152713(JP,A)
【文献】特開2013-087076(JP,A)
【文献】特開2009-179612(JP,A)
【文献】特開2004-203773(JP,A)
【文献】特開2021-147360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00- 6/90
A61C 13/00-13/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A成分:常温常圧で液体である(メタ)アクリル酸系重合性単量体からなる成分、
B成分:前記A成分に溶解し得る(メタ)アクリル酸系非架橋ポリマーからなる成分、及び
C成分:前記A成分を吸収し得る多孔質有機架橋ポリマーからなる成分、
を含んでなる義歯床用ペースト状硬化性組成物を製造する方法であって、
A成分とB成分とを所定の混合温度:TMIX(℃)で混合して、B成分がA成分に溶解した液状組成物を得る第一工程と、
前記第一工程で得られた液状組成物とC成分を混合及び混錬してペースト状組成物を得る第二工程と、
を含み
前記第一工程では、A成分100(質量部)に対して、B成分を、5~40(質量部)で且つ温度:TMIXにおけるA成分に対する飽和溶解量以下の量の体状のB成分を、A成分中に分散させながらB成分の溶解を行い、
前記第二工程では、C成分を、JIS K5101-13-1に準じて測定される、C成分の単位量(質量部)当たりに吸収されるA成分の量(質量部)を吸収量R(A成分質量部/C成分質量部)としたときに、65/R~165/R(質量部)となる量を混合及び混錬する、
ことを特徴とする義歯床用ペースト状硬化性組成物の製造方法。
【請求項2】
前記第一工程が、
A成分又はA成分の一部を分散媒とし、当該分散媒に対するB成分の飽和溶解量が、温度:TMIXにおけるA成分に対するB成分飽和溶解量よりも少なくなるような条件で、前記分散媒と体状のB成分とを混合して、前記分散媒に体状のB成分が分散した分散液を得る分散化工程、及び
前記分散化工程で得られた分散液を、A成分の全量と体状のB成分の全量とを含み、且つ系の温度がTMIXとなる状態としてB成分の溶解を行う溶解工程、
を含む、請求項1に記載の義歯床用ペースト状硬化性組成物の製造方法。
【請求項3】
所定の温度における、所定の組成を有する常温常圧で液体である(メタ)アクリル酸系重合性単量体成分:100質量部に可溶なB成分の最大量(質量部)を、前記所定の温度における前記重合性単量体成分に対するB成分溶解度としたときに、
前記分散化工程において、分散媒となるA成分又はA成分の一部に対してB成分の溶解度が5以下となる温度で前記分散媒と体状のB成分とを混合して、前記分散媒に体状のB成分が分散した分散液を得る、
請求項に記載の義歯床用ペースト状硬化性組成物の製造方法。
【請求項4】
A成分として、TMIXにおけるB成分の溶解度が5以下である(メタ)アクリル酸系重合性単量体からなるA1成分と、TMIXにおけるB成分の溶解度が5を越える(メタ)アクリル酸系重合性単量体からなるA2成分と、の混合物を用い、
前記分散工程において、分散媒としてA1成分を用いてA1成分中に体状のB成分を分散させた分散液を得、
前記溶解工程において、上記分散液とA2成分とを混合することによりA成分の全量と体状のB成分の全量とを含む状態としてから温度:TMIXでB成分の溶解を行う、
請求項に記載の義歯床用ペースト状硬化性組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義歯床用硬化性組成物の製造方法に関する。詳しくは、ペーストタイプの義歯床用レジンや義歯床用硬質裏装材、義歯床補修用レジンに好適なペースト状硬化性組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
義歯床用硬化性組成物とは、義歯床の製造や修理等に使用される組成物であり、当該組成物を使用した材料としては、義歯を新しく作製する際に用いられる義歯床用レジン、長期間の使用により患者の口腔粘膜に適合しなくなった義歯を改床し、再度使用できる状態に修正するために使用される義歯床用硬質裏装材、及び義歯床の裏装、改床や破折した義歯の補修等に用いる義歯床補修用レジン等が知られている。
【0003】
義歯床用硬化性組成物としては、メチルメタクリレート等の重合性単量体、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸系ポリマー、及び重合開始剤を含む重合硬化性組成物が一般に使用されている。重合開始剤としては、化学(レドックス)重合開始剤、光重合開始剤、熱重合開始剤、又はこれらの組み合わせが使用され、使用される重合開始剤の種類に応じて上記材料は、異なる形態で提供される。
【0004】
例えば、上記材料の中でも接触すると直ちに反応し得る、酸化剤(単に「ラジカル開始剤」と言われることもある。)と還元剤(「重合促進剤」と言われることもある。)との組合せを含む化学重合開始剤を用いる場合には、上記酸化剤と上記還元剤とを分けて保管される(分包される)必要があり、通常は、重合性単量体及び還元剤を主成分とする液剤と、(メタ)アクリル酸系ポリマー及び酸化剤を主成分とする粉剤と、から構成される粉液型(特許文献1及び2参照)或いは酸化剤及び還元剤に夫々重合性単量体と(メタ)アクリル酸系ポリマーを配合してペースト化した2ペースト型(特許文献3参照)として提供される。
【0005】
上記特許文献3で提案されている2ペースト型の義歯床用材料は、ウレタン結合を有さないメタクリレートと、ウレタン結合を有するメタクリレートと、交差結合を有するポリウレタン粉末と、充填剤を各々に有する2成分から構成され、片方の成分には、酸化剤(ラジカル開始剤)が、もう一方の成分には還元剤(重合促進剤)が含まれるものである。このような2成分からなる組成物とすることで、義歯床用材料を形成するのに十分な操作時間を有するために操作性に優れ、さらに該材料により形成された硬化体は適度な弾性を持つため、修復箇所の破損が少ないという特徴を有することが知られている。
【0006】
このような化学重合開始剤を使用した2ペースト型の義歯床用材料は、2つのペーストを混和することで重合が開始するため、重合器等の特別な装置は不要というメリットがある一方、各ペーストの計量・混和が必要であり硬化体を製造する際の操作が煩雑であるという点で改善の余地があった。
【0007】
一方、光重合開始剤、或いは熱重合開始剤を用いた1ペースト型の義歯床用材料も種々提案されている。たとえば、特許文献4には、重合性モノマーと、アルキル(メタ)アクリレート単独重合体,アルキル(メタ)アクリレート共重合体,アルキル(メタ)アクリレート・スチレン共重合体から選ばれた少なくとも1種の重合体と、熱重合触媒及び/又は光重合触媒と、が混合されて成り、重合体成分の少なくとも一部が重合性モノマー中に溶解していることを特徴とする義歯床用樹脂材料が提案されている。また特許文献5には、重合時の弾性率が特定の範囲である重合性モノマー及び/又はオリゴマーと、弾性率が特定の範囲である有機質充填材及び/又は有機無機複合充填材と、加熱重合型重合開始剤及び/又は光重合型重合開始剤から成る重合開始剤とから成る、ワンペースト状の義歯床用レジン組成物が提案されている。
【0008】
1ペースト型の義歯床用材料は、硬化させるための重合器等の装置が必要となるものの、計量・混和の必要がなく、熱や光を付与するまではペースト性状を維持し任意のタイミングで重合を開始できるため操作性に優れるというメリットがある。さらに特許文献5記載の義歯床用レジン組成物は、適度の弾性率を有する材料を使用している事に起因して、得られる硬化体は、曲げ強さ及び弾性エネルギー特性に優れ、耐衝撃性に優れたものであるという特徴を有することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平11-335222号公報
【文献】特公平4-042364号公報
【文献】特開2000-175941号公報
【文献】特開2000-254152号公報
【文献】特開2002-104912公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記したように、前記1ペースト型及び2ペースト型の義歯床用材料については、適度な弾性を有しており、曲げ強さや耐衝撃性が良好で、操作性にも優れるものも知られている。しかしながら、強度及び靭性の点では必ずしも満足のゆくものではなく、また、使用する充填材料によっては、ペースト性状の制御が難しく、強度が低くなる場合がある等、なお改善の余地があった。
【0011】
さらに、ペーストタイプの義歯床用材料は、その形態の特徴から、グローブをはめた手で取り扱うことが多いため、グローブに付着しないようべたつきを抑える必要がある。一方で、新義歯作製に使用する場合は石膏模型に、義歯床の裏装や補修に使用する場合は義歯に、それぞれ粘着する必要がある。つまり、ペースト型の義歯床用硬化性組成物においては、操作性の観点から、グローブには付着しないが、石膏模型や義歯には粘着するといった適度な粘度を有するペースト性状が求められる。
【0012】
このように、ペースト型の義歯床用硬化性組成物においては、1ペースト型のものについてはそれ自体のペーストの操作性が良好で且つ硬化体の強度及び靭性が高いものが、2ペースト型のものについては夫々のペースト及び両ペースト混錬物(混練ペースト)の操作性が良好で且つ混錬ペースト硬化体の強度及び靭性が高いものが、求められている。
【0013】
本発明者等は、上記要求に応えられる1ペースト型の義歯床用硬化性組成物及び2ペースト型の義歯床用硬化性組成物用のペースト状硬化性組成物として、(メタ)アクリル酸系重合性単量体、当該(メタ)アクリル酸系重合性単量体を吸収し得る多孔質有機架橋ポリマー及び(メタ)アクリル酸系非架橋ポリマーを含有するペースト状硬化性組成物(以下、「既提案ペースト状硬化性組成物」ともいう。)を提案している(特願2019-4801号及び特願2019-48536号)。なお、「ペースト」とは、一般に、非沈降性の非ニュートン流体を意味し、本明細書における「ペースト状」とは、塑性変形性を有する高粘度ペースト、特に非水系の高粘度ペーストであることを意味する。
【0014】
上記既提案ペースト状硬化性組成物は前記課題を解決するものであるが、その後の本発明者等の検討により、その調製時において、各成分を単に混合・混錬した場合には調製に時間がかかるばかりでなく、得られたペースト状硬化性組成物が所期のペースト性状を示さなかったり、長期間保管した場合にペースト性状が変化したりすることがあることが判明した。
【0015】
そこで、本発明は、既提案ペースト状硬化性組成物を、それが本来有する特性を発揮できるような状態で、高効率且つ高い再現性で製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、本発明者等によって新たに認識された前記課題を解決するものであり、本発明の一の形態は、
A成分:常温常圧で液体である(メタ)アクリル酸系重合性単量体からなる成分、B成分:前記A成分に溶解し得る(メタ)アクリル酸系非架橋ポリマーからなる成分、及びC成分:前記A成分を吸収し得る多孔質有機架橋ポリマーからなる成分、を含んでなる義歯床用ペースト状硬化性組成物を製造する方法であって、
A成分とB成分とを所定の混合温度:TMIX(℃)で混合して、B成分がA成分に溶解した液状組成物を得る第一工程と、
前記第一工程で得られた液状組成物とC成分を混合及び混錬してペースト状組成物を得る第二工程と、
を含み
前記第一工程では、A成分100(質量部)に対して、B成分を、5~40(質量部)で且つ温度:TMIXにおけるA成分に対する飽和溶解量以下の量の体状のB成分を、A成分中に分散させながらB成分の溶解を行い、
前記第二工程では、C成分を、JIS K5101-13-1に準じて測定される、C成分の単位量(質量部)当たりに吸収されるA成分の量(質量部)を吸収量R(A成分質量部/C成分質量部)としたときに、65/R~165/R(質量部)となる量を混合及び混錬する、
ことを特徴とする義歯床用ペースト状硬化性組成物の製造方法である。なお、上記本発明における「常温常圧」とは、25℃、1気圧(≒1013hPa)を意味するものである。
【0018】
また、前記第一工程が、A成分又はA成分の一部を分散媒とし、当該分散媒に対するB成分飽和溶解量が、温度:TMIXにおけるA成分に対するB成分飽和溶解量よりも少なくなるような条件で、前記分散媒と体状のB成分とを混合して、前記分散媒に体状のB成分が分散した分散液を得る分散化工程、及び前記分散化工程で得られた分散液を、A成分の全量と体状のB成分の全量とを含み、且つ系の温度がTMIXとなる状態としてB成分の溶解を行う溶解工程、を含む、ことが好ましい。
【0019】
上記の好ましい態様においては、所定の温度における、所定の組成を有する常温常圧で液体である(メタ)アクリル酸系重合性単量体成分:100質量部に可溶なB成分の最大量(質量部)を、前記所定の温度における前記重合性単量体成分に対するB成分溶解度としたときに、前記分散化工程において、分散媒となるA成分又はA成分の一部に対するB成分溶解度を5以下となる温度で前記分散媒と体状のB成分とを混合して、前記分散媒に体状のB成分が分散した分散液を得る、ことが好ましい。
【0020】
更に上記の好ましい態様では、A成分として、TMIXにおけるB成分の溶解度が5以下である(メタ)アクリル酸系重合性単量体からなるA1成分と、TMIXにおけるB成分の溶解度が5を越える(メタ)アクリル酸系重合性単量体からなるA2成分と、の混合物を用い、前記分散工程において、分散媒としてA1成分を用いてA1成分中に体状のB成分を分散させた分散液を得、前記溶解工程において、上記分散液とA2成分とを混合することによりA成分の全量と体状のB成分の全量とを含む状態としてから温度:TMIXでB成分の溶解を行う、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の製造方法によれば、曲げ強さ(強度)と破断エネルギー(靭性)が共に高い硬化体を与えることができ、且つグローブには付着しないが、石膏模型や義歯には粘着するといった適度な粘度を有するペースト性状を有するばかりでなく、長期間保管後においてもこのようなペースト性状を維持できる義歯床用ペースト状硬化性組成物を効率的に製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の製造方法の目的物は、A成分:常温常圧で液体である(メタ)アクリル酸系重合性単量体(以下、当該重合性単量体を単に「モノマー」、A成分を「モノマー成分」と、言うこともある。)からなる成分;B成分:前記A成分に溶解し得る(メタ)アクリル酸系非架橋ポリマー(以下、「溶解性非架橋ポリマー」ともいう。)からなる成分;及びC成分:前記A成分を吸収し得る多孔質有機架橋ポリマー(以下、「吸モノマー性多孔質架橋ポリマー」ともいう。)からなる成分;を含んでなる、義歯床用としては新規なペースト状硬化性組成物であり、曲げ強さ(強度)と破断エネルギー(靭性)が共に高い硬化体を与えることができ、且つグローブには付着しないが、石膏模型や義歯には粘着するといった適度な粘度を有するペースト性状を有する。
【0023】
論理に拘束されるものではないが、上記義歯床用ペースト状硬化性組成物がこのような優れた効果を奏する機構は、次のようなものであると本発明者らは推察している。
【0024】
すなわち、硬化体の曲げ強さ(強度)が高くなるのは、有機充填剤として弾性率の高い架橋ポリマーを用いたためであると考えている。また、架橋ポリマーを使用しているにもかかわらず靱性が高くなることに関しては、C成分である吸モノマー性多孔質架橋ポリマーの細孔内部にA成分が滲入して硬化することにより発生するアンカー効果によって硬化体におけるマトリックスと有機充填材との界面接合強度が高くなったことによると考えられる。
【0025】
ペースト性状に関しては、B成分(溶解性非架橋ポリマー)とA成分(モノマー)の2成分系においてみられる、B成分がA成分へ溶解することによってペースト性状を調整できるという効果を、C成分(吸モノマー性多孔質架橋ポリマー)が阻害しないことによると考えられる。例えばC成分では無く吸モノマー性を有しない(細孔を有しない)架橋ポリマー体を配合した場合には、親和性が乏しいため均一分散し難いため、その配合量が多くなるとペースト性状の調整範囲は狭くなり、また、長期保管中にペースト内で凝集・沈降し、ペーストが硬くなる場合があるのに対し、吸モノマー性多孔質架橋ポリマー(C成分)体を配合し場合には、細孔内にモノマー成分が滲入することによりモノマーと親和性を有する状態になるため、均一に分散化が容易で、その分散状態を長期間保つことができるため、C成分の前記効果を阻害し難いと考えられる。
【0026】
本発明の製造方法の目的物である義歯床用ペースト状硬化性組成物は、このような優れた特長を有するものであるが、前記したように、その後の本発明者等の検討により、製造時において各成分を単に混合・混錬した場合には、調製に時間を要し、また、所期のペースト性状や、ペースト性状に関する所期の保存安定性が得られなくなることが判明した。
【0027】
本発明者等は、このような問題が起こる原因は次のようなものであると推定し、それに基づき解決方法の検討を行った。すなわち、調製に時間がかかるという問題は、溶解性非架橋ポリマー(B成分)としては通常、体が使用され、そのモノマーへの溶解は、体粒子内にモノマーが浸透して膨潤し、徐々に溶解が起こると考えられるところ、多量の体と多量のモノマーを一気に混合した場合には膨潤した体どうしが癒着して塊となり、モノマーとの接触面積が著しく減少することが原因であると考えた。また、所期のペースト性状等が得られなくなることに関しては、ペースト調製時において溶解性非架橋ポリマー(B成分)の一部がモノマーに溶解しない状態で存在していることが原因であり、そのことによって所期のペースト性状が得られ難くなり、また所期のペースト性状に調整し得た場合であっても、残存ポリマーが徐々に溶解するためペースト性状が安定しないと考えた。
【0028】
本発明は、このような新たな課題認識とその原因に関する上記仮説に基づく検討により成されたものであり、混合・混錬工程を2段に分けると共に1段目で体状のB成分を、A成分中に分散させながらB成分の完全な溶解を行うようにすることにより、上記課題を解決したものである。
【0029】
すなわち、本発明の製造方法は、A成分とB成分とを所定の混合温度:TMIX(℃)で混合し、B成分がA成分に溶解した液状組成物を得る第一工程と、前記第一工程で得られた液状組成物とC成分を混合及び混錬してペースト状組成物を得る第二工程と、を含み前記第一工程では、TMIXにおける成分Aに対する飽和溶解量以下の体状のB成分を、A成分中に分散させながらB成分の溶解を行う、ことを特徴としている。
【0030】
以下に、本発明の製造方法で使用する各種原材料及び本発明の製造方法における各工程について詳しく説明する。なお、本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。また、本明細書において、「(メタ)アクリル系」との用語は「アクリル系」及び「メタクリル系」の両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」との用語は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味し、「(メタ)アクリロイル」との用語は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両者を意味する。
【0031】
1.本発明の製造方法で使用する各種原材料
先ず、本発明の製造方法およびペースト状義歯床用硬化性組成物で使用する各成分について説明する。
【0032】
1-1.A成分:モノマー
本発明の製造方法に用いるA成分(モノマー成分)として使用する常温常圧で液体である(メタ)アクリル酸系重合性単量体としては、歯科用に一般的に使用される(メタ)アクリル酸系重合性単量体のうち、単独もしくは2種類以上で混合した際に、常温常圧で液体であるものを使用する。前記したとおり、本発明における「常温常圧」とは、25℃、1気圧(≒1013hPa)を意味する。
【0033】
かかる(メタ)アクリル酸系重合性単量体の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-メタクリロキシエチルプルピオネート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等の単官能性(メタ)アクリル酸系重合性単量体、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン、2,2-ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、およびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の二官能性(メタ)アクリル酸系重合性単量体、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート等の三官能性(メタ)アクリル酸系重合性単量体等が挙げられる。
【0034】
これらの(メタ)アクリル酸系重合性単量体は、単独であるいは2種類以上組み合わせて用いることができる。特に単官能のものと二官能あるいは三官能以上のものを組み合わせて用いる場合、該二官能あるいは三官能以上のものを多く配合することにより、得られる硬化体の強度や耐久性などの機械的物性も良好なものとすることができるので好ましい。
【0035】
1-2.B成分:溶解性非架橋ポリマー
本発明の製造方法に用いるB成分としては、前記A成分に対して溶解性を有しているものであり、歯科用に一般的に使用される、常温大気中で粒状又は粉末状の、非架橋性の(架橋を有しない)(メタ)アクリル酸系ポリマーが特に制限されず使用できる。A成分に対して溶解性を有しているとは、具体的には、目視で判断して、25℃のA成分100質量部に対し配合するB成分全てが溶解するものである。
【0036】
好適に使用できる(メタ)アクリル酸系非架橋ポリマーを例示すれば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1,3-ジメタクリロキシプロパン、イソブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートの単重合体又は共重合体、ポリ(スチレン-エチルメタクリレート)等の(メタ)アクリル酸系単量体と他の重合性単量体との共重合体等が挙げることができる。これらは、1種単独で、または2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0037】
上記B成分の平均分子量は、特に制限されるものではないが、上記溶解性及びペースト性状の調整のし易さの観点から、5万以上、100万未満であるのが好ましく、10万以上、70万以下がより好ましい。また、粒子径は、特に制限されるものではないが、大きすぎるとA成分へ溶解するのが遅く、製造に時間を要し作業効率が低下する傾向があるため、100μm以下であるのが好ましい。
【0038】
上記B成分の配合量は、A成分100質量部に対して、5~40質量部であるのが好ましく、15~30質量部であるのがより好ましい。
【0039】
1-3.C成分:吸モノマー性多孔質架橋ポリマー
本発明の製造方法で用いるC成分(吸モノマー性多孔質架橋ポリマー)としては、有機材料で構成される常温大気中で粒状又は粉末状(微粒の集合体)の有機材料で構成される架橋を有するポリマーからなり、粒子の内部に外部と連通する細孔であって、孔の内部に上記(メタ)アクリル酸系重合性単量体が滲入可能な細孔を多数表面に有するものであれば特に限定されずに使用できるが、高強度化効果の観点から、JIS K5101-13-1の「精製あまに油法」に準じて(精製あまに油に代えて上記(メタ)アクリル酸系重合性単量体を用いて)測定される、上記吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー単位量当たりに吸収される前記A成分の量(g)で定義される吸収量が、好ましくは1.5g/g以上、より好ましくは2.0g/g以上、5.0g/g以下の範囲であるものを使用することが好ましい。
【0040】
上記吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの材質は、架橋されたポリマーであれば特に限定されないが、上記(メタ)アクリル酸系重合性単量体との親和性の観点から、架橋ポリメチルメタクリレート、架橋ポリエチルメタクリレート、架橋ポリメチルアクリレート等の架橋ポリアルキル(メタ)アクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等が好ましい。また、このような多孔質架橋ポリマーとしては、特公平4-51522号公報、特開2002-265529号公報等に記載されるポリマーが使用できる。さらに、このような多孔質架橋ポリマーとしては、市販の「テクノポリマーMBP-8」(積水化成品工業(株))等が使用できる。
【0041】
上記吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの平均細孔径は、1~100nmであることが好ましく、5~50nmであることが特に好ましい。該平均細孔径とは、多孔質架橋ポリマー粒子の凝集によって形成される二次粒子の凝集細孔ではなく、多孔質架橋ポリマーの一次粒子の表面に形成される細孔の平均径を表す。該平均細孔径は、水銀圧入法細孔分布測定装置を用いて測定される粒子の細孔分布から計算によって求めることができる。
【0042】
平均細孔径が1nmより小さい場合、上記(メタ)アクリル酸系重合性単量体の細孔内への滲入量の減少に伴い硬化体におけるアンカー効果も減少して、充分な強度が得られ難くなる傾向がある。平均細孔径が100nmより大きい場合も、滲入量は多いもののアンカー効果は却って低下し、やはり充分な強度が得られ難い傾向がある。
【0043】
上記吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの粒子径は特に限定されないが、平均粒子径が1~50μmであることが好ましく、3~30μmであることが特に好ましい。なお、該平均粒子径とは、多孔質架橋ポリマー粒子の1次粒子の平均粒子径を意味し、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定装置を用いて測定される。平均粒子径が1μmより小さい場合、硬化前のペーストのべたつきが大きくなって操作性が低下する傾向があり、平均粒子径が50μmより大きい場合、比表面積が小さくなるため硬化体において充分な強度及び靱性が得られ難い傾向がある。なお、粒子形状は特に限定されず、粉砕型粒子、球状粒子のいずれも使用できる。
【0044】
上記吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの配合量は、上記吸収量によって最適な量が決定される。例えば、吸収量が多い多孔質有機架橋ポリマーはモノマーを多く吸収するため、見かけのモノマー量が少なくなり、比較的少ない配合量で目的とするペースト性状が得られる。一方、吸収量が少ない多孔質有機架橋ポリマーは比較的多く配合することができる。具体的には、上記JIS K5101-13-1に準じて測定されるC成分の単位量(質量部)当たりに吸収されるA成分の量(質量部)をR(A成分質量部/C成分質量部)としたときに、65/R~165/R(質量部)となる量が好ましい。C成分が165/Rを超える場合、硬化体が硬く脆くなる傾向があり、またペーストが硬くなる傾向がある。また、65/R未満の場合には、アンカー効果が低減し硬度が低下する傾向にある。硬化の観点から、C成分の量は80/R~150/R、特に100/R~140/Rであることが好ましい。
【0045】
なお、有機架橋ポリマーであっても表面に細孔を有しない非多孔質有機架橋ポリマーは上記(メタ)アクリル酸系重合性単量体に対して溶解、膨潤し難くマトリックスとの相互作用が乏しいため、ペースト内で凝集・沈降し、ペーストが硬くなる場合があるため、これを多量に配合すると、ペースト保管中にその性状が変化し(具体的には硬くなり)、ペーストの操作性が低下してしまうことがある。このため、非多孔質有機架橋ポリマーを配合する場合には、その配合量を上記(メタ)アクリル酸系重合性単量体100質量部に対して10質量部以下とすることが好ましく、全く配合しないことがより好ましい。
【0046】
1-4.その他成分
本発明の製造方法では歯科用材料として使用される重合開始剤を好適に用いることができる。重合開始剤としては、化学(レドックス)重合開始剤、光重合開始剤、熱重合開始剤、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0047】
本発明によって製造される義歯床用硬化性組成物が1ペースト型である場合、重合開始剤としては光重合開始剤及び/又は熱重合開始剤を使用し、化学重合開始剤は全く又は実質的に含まないことが好ましい。なお、ここで、実質的に含まないとは、保存安定性に悪影響を与えず、本発明の効果に影響を与えない範囲で極微量含むことは許容するという意味を示す。
【0048】
一方で、2ペースト型である場合は、A成分を重合、硬化させることができるものであれば何ら制限なく使用可能であり、公知の重合開始剤が使用可能である。例えば、歯科分野で用いられるラジカル重合開始剤としては、化学重合開始剤(常温レドックス開始剤)、光重合開始剤、熱重合開始剤等があり、これらは、それぞれ単独で使用しても良いし併用しても良い。2ペースト型である場合、該重合開始剤は、保存安定性の観点から、2つのペーストを混合した際に重合が開始するように配分することが好ましい。
【0049】
化学重合開始剤は、2成分以上からなり、使用直前に全成分が混合されることにより室温近辺で重合活性種を生じる重合開始剤である。このような化学重合開始剤としては、有機過酸化物/アミン化合物系のものが代表的である。
【0050】
このような化学重合開始剤として使用される有機過酸化物の代表的なものには、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアリールパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネートなどがあり、具体的には、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノパーオキサイド、P-メタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート等を例示することができる。
【0051】
これら有機過酸化物の好適な使用量は、用いられる有機過酸化物の種類によって異なるため一概に限定できないが、A成分100質量部に対して、0.05~5質量部の範囲で用いることが好ましく、0.1~3質量部の範囲で用いることがさらに好ましい。なお、2ペースト型でA成分を2組成物に分けて存在させる場合、上記A成分の量は、2つの組成物中に含有する(メタ)アクリル酸系重合性単量体の総和を100質量部として、有機過酸化物の使用量を適宜決定すれば良い。以下、各組成物の使用量をA成分の質量に対して規定する場合においても同様である。
【0052】
また、これら有機過酸化物と接触してラジカルを発生させるための第3級アミンとしては公知の化合物が特に制限されず使用される。好適に使用される第3級アミン化合物を具体的に例示すると、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジプロピルアニリン、N,N-ジブチルアニリン、N-メチル,N-β-ヒドロキシエチルアニリン等のアニリン類、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジプロピル-p-トルイジン、N,N-ジブチル-p-トルイジン、p-トリルジエタノールアミン、p-トリルジプロパノールアミン等のトルイジン類、N,N-ジメチル-アニシジン、N,N-ジエチル-p-アニシジン、N,N-ジプロピル-p-アニシジン、N,N-ジブチル-p-アニシジン等のアニシジン類、N-フェニルモルフォリン、N-トリルモルフォリン等のモルフォリン類、ビス( N,N-ジメチルアミノフェニル)メタン、ビス(N,N-ジメチルアミノフェニル)エーテル等が挙げられる。これらのアミン化合物は、塩酸、リン酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸などとの塩として使用してもよい。上記第3級アミン化合物の内、重合活性が高く、なおかつ低刺激、低臭という観点から、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジプロピル-p-トルイジン、p-トリルジエタノールアミン、p-トリルジプロパノールアミンが好適に使用される。
【0053】
第3級アミン化合物の使用量はA成分100質量部に対して、0 .05~5質量部の範囲で用いることが好ましく、0.1~3質量部の範囲で用いることがさらに好ましい。
【0054】
光重合開始剤として具体例には、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類;ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等のベンジルケタール類;ベンゾフェノン、アントラキノン、チオキサントン等のジアリールケトン類;ジアセチル、ベンジル、カンファーキノン、9,10-フェナントラキノン等のα-ジケトン類;ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)―フェニルホスフィンオキサイドなどのビスアシルホスフィンオキサイド類等を挙げることができる。これらは、それぞれ単独で使用することもできるし、異なる種類のものを混合して用いることもできる。
【0055】
なお、上記光重合開始剤は、還元性化合物と組合せて用いるのが好ましい。好適に使用できる還元性化合物としては、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、p-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル、N-メチルジエタノールアミン、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどの第三級アミン類;2-メルカプトベンゾオキサゾール、1-デカンチオール、チオサルチル酸、チオ安息香酸などの含イオウ化合物;N-フェニルアラニンなどを挙げることができる。
【0056】
また、前記の光重合開始剤の活性をより高めるために、光酸発生剤を加えるのも好ましい態様である。光酸発生剤としては、ジアリールヨードニウム塩系化合物、スルホニウム塩系化合物、スルホン酸エステル化合物、およびハロメチル置換-S-トリアジン有導体、ピリジニウム塩系化合物等が挙げられる。光酸発生剤を用いる場合、光重合開始剤としてはカンファーキノン等のα-ジケトン類が好ましく、p-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル等の還元性化合物を併用することがさらに好ましい。
【0057】
熱重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物を挙げることができる。
【0058】
光重合開始剤と熱重合開始剤の配合量は、光重合開始剤又は熱重合開始剤を単独で用いる場合は、用いた重合開始剤の量が、また光重合開始剤と熱重合開始剤を併用する場合は、重合開始剤の合計の量が、触媒量(すなわち、重合開始剤としての機能を発揮し、充分な重合を行うことができる量)であれば良い。その具体的な量は、用いる重合開始剤の種類によっても異なるため一概に限定できないが、A成分100質量部に対して、0.05~5質量部の範囲で用いることが好ましく、0.1~3質量部の範囲で用いることがさらに好ましい。
【0059】
還元剤や光酸発生剤の使用量は、A成分100質量部に対して、0.05~5質量部の範囲で用いることが好ましく、0.1~3質量部の範囲で用いることがさらに好ましい。
【0060】
また、本発明の製造方法では、本発明の効果を阻害しない範囲内で、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、チタン酸カリウム、水酸化アルミニウム、硅石粉末、ガラス粉末、珪藻土、シリカ、珪酸カルシウム、タルク、アルミナ、マイカ、石英ガラスなどの無機フィラー、無機粒子に重合性単量体を予め添加し、ペースト状にした後、重合させ、粉砕して得られる粒状の有機無機複合フィラー、ブチルヒドロキシトルエン、メトキシハイドロキノン等の重合禁止剤、4-メトキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、2-(2-ベンゾトリアゾール)-p-クレゾール等の紫外線吸収剤、α-メチルスチレンダイマー等の重合調整剤、色素、顔料、香料等を添加することができる。
【0061】
2.本発明の製造方法
前記のとおり、本発明の製造方法は、
A成分(モノマー)とB成分(溶解性非架橋ポリマー)を所定の混合温度:TMIX(℃)で混合して、B成分がA成分に溶解した液状組成物を得る第一工程と、
前記第一工程で得られた液状組成物とC成分(吸モノマー性多孔質架橋ポリマー)を混合及び混錬してペースト状組成物を得る第二工程と、を含む。
【0062】
2-1.第一工程
第一工程では、A成分(モノマー)とB成分(溶解性非架橋ポリマー)を所定の混合温度:TMIX(℃)で混合して、B成分がA成分に溶解した液状組成物を得るが、目的物である義歯床用ペースト状硬化性組成物中に未溶解のB成分が残存して所期のペースト性状等が得られなくなることを防止するために、A成分100(質量部)に対して、B成分が、5~40(質量部)で混合し、かつ温度:TMIXにおけるA成分に対する成分B飽和溶解量以下の量の体状のB成分を、A成分中に分散させながらB成分の溶解を行う。
【0063】
混合温度は、通常、室温以上の温度が採用されるが、B成分を溶解させる際に、B成分が溶けにくい場合は45~60℃とすることが好ましい。混合液の粘度上昇により撹拌が難しいと判断された場合には、撹拌を止めて混合液を保温することでB成分を溶解させればよい。保温する際の温度はB成分を撹拌溶解させた温度と同程度であることが好ましい。このような温度で溶解を行った場合、完全に溶解が完了すれば、通常、室温まで冷却してもB成分の析出は起こらない。保温後、25℃で溶け残りがないことを目視で確認し、もし溶け残りがあれば、全て溶解するまで保温を行う。なお、撹拌のみでA成分の溶解が確認された場合でも、一定時間の保温を行うことが好ましい。
【0064】
効率的にB成分をA成分に溶解させることができるという理由から、第一工程は、下記分散化工程及び溶解工程を含むことが好ましい。
【0065】
分散化工程: A成分又はA成分の一部を分散媒とし、当該分散媒に対するB成分飽和溶解量が、温度:TMIXにおけるA成分に対する成分B飽和溶解量よりも少なくなるような条件で、前記分散媒と体状のB成分とを混合して、前記分散媒に体状のB成分が分散した分散液を得る工程。
【0066】
溶解工程: 前記分散化工程で得られた分散液を、A成分の全量と体状のB成分の全量とを含み、且つ系の温度がTMIXとなる状態としてB成分の溶解を行う工程。
【0067】
さらに、効率が高く、短時間でB成分がA成分に溶解した液状組成物を得ることができるという理由から、所定の温度における、所定の組成を有する常温常圧で液体である(メタ)アクリル酸系重合性単量体成分:100質量部に可溶なB成分の最大量(質量部)を、前記所定の温度における前記重合性単量体成分に対するB成分溶解度としたときに、前記分散化工程において、分散媒となるA成分又はA成分の一部に対するB成分溶解度を5以下となる温度で前記分散媒と体状のB成分とを混合して、前記分散媒に体状のB成分が分散した分散液を得ることが好ましい。
【0068】
具体的には、下記(1)又は(2)に示す方法を採用することが好ましい。
【0069】
(1) A成分に対するB成分溶解度が5以下となるような温度で、A成分と体状のB成分を混合して体状のB成分を分散させた後に、混合液の温度をTMIXまで上昇させることにより、A成分中に体状のB成分を分散させながらB成分の溶解を行う方法。
【0070】
(2) A成分として、TMIXにおけるB成分の溶解度が5以下である(メタ)アクリル酸系重合性単量体からなるA1成分と、TMIXにおけるB成分の溶解度が5を越える(メタ)アクリル酸系重合性単量体からなるA2成分と、の混合物を用い、A1成分中に体状のB成分を分散させた分散液調製した後に、撹拌下に、当該分散液とA2成分とをTMIXで混合することにより、A成分中に体状のB成分を分散させながらB成分の溶解を行う方法。
【0071】
第一工程によって得られた液状組成物は、通常、23℃における損失正接:tanδ(23)は、1.0~3.0、好ましくは1.5~3.0の範囲内であり、当該液状組成物を用いて得られる義歯床用硬化性組成物は、良好なペースト性状を有する。なお、損失正接tanδとは、貯蔵弾性率と損失弾性率の比であり、損失弾性率が大きい、つまり物質の粘性が高いほどtanδが大きくなり、tanδが1.0よりも小さいと弾性が強くなる。液状組成物のtanδ(23)の値は、モジュラーコンパクトレオメータMCR302(アントンパール製)を用いて測定することができる。
【0072】
なお、その他成分として、前述の重合開始剤や重合禁止剤、紫外線吸収剤等を使用する場合、これら成分はどの段階で添加してもよいが、は、第一工程におけるA成分とB成分の混合を行う前に、A成分中に溶解させることが好ましい。
【0073】
2-2.第二工程
第二工程では、第一工程で得られた液状組成物とC成分(吸モノマー性多孔質架橋ポリマー)を混合及び混錬してペースト状組成物を得る。
【0074】
上記第一工程で得られた液状組成物とC成分を常温常圧で撹拌混合していくと、全体的に餅状になり、まとまりが見られるが、それまでに要する時間は使用するモノマーや吸モノマー性多孔質架橋ポリマーの組み合わせによって様々である。ペーストのムラを極力減らすため、ペーストが均一になったことを肉眼で確認してから、さらに10分以上混練し続けることが好ましい。また、得られたペーストの性状が硬すぎたり、柔らかすぎたりした場合は、適宜液状組成物、又はC成分を加えることにより、ペースト性状をコントロールすることができる。混練後のペーストは気泡を含んでいるため、真空条件下での脱泡を行うことが好ましい。上記方法により、1ペースト型の義歯床用硬化性組成物を製造することができる。
【0075】
その他成分として前述したフィラーを使用する場合、当該フィラーはどの段階で添加してもよいが、は、第二工程における液状組成物とC成分とを混合する際に、同じタイミングで加えることが好ましい。
【0076】
なお、本発明の製造方法は、1ペースト型の義歯床用硬化性組成物の製造に限定されるものではなく、2ペースト型の義歯床用硬化性組成物であって、2つのペーストをそれぞれ第一組成物、第二組成物したときに、A成分、B成分、及びC成分が両組成物に含まれている組成物を製造する場合にも適用できるし、一方のみがA~Cの三成分を含む場合での当該一方の組成物の製造方法として適用することができる。
【0077】
3.本発明の方法により得られた義歯床用硬化性組成物について
3-1.保存方法について
本発明の製造方法により製造されたペースト状の義歯床用硬化性組成物は、保管時の劣化防止のため、特に光重合開始剤を用いた場合、遮光性を有する容器で保存することが好ましい。ペースト形態は特に限定されるものではないが、棒、馬蹄形、シート、球、角柱等に成型したものを容器に収容しても良いし、或いは、成型せずチューブやボトル等に収容しても良い。
【0078】
3-2.使用方法について
本発明の製造方法により得られた義歯床用硬化性組成物を義歯床用レジン、硬質裏装材、補修用レジンとして使用する場合、公知の方法で使用することができる。
【0079】
1ペースト型で新たに義歯を作製する場合、患者の口腔内の印象を採得して石こう模型を作製し、その石こう模型上で本発明により製造された製造した義歯床用硬化性組成物を用いて義歯床部を形成し、咬合器にセットして人工歯の配列を行った後、光照射や加熱により重合硬化させ、形態修正・研磨を行い、義歯が作製される。
【0080】
2ペースト型で新たに義歯を作製する場合、患者の口腔内の印象を採得して石こう模型を作製し、その石こう模型上で本発明により製造された第一組成物及び/又は第二組成物を含んだ、両組成物を混合した義歯床用硬化性組成物を用いて義歯床部を形成し、咬合器にセットして人工歯の配列を行った後、光重合触媒又は熱重合触媒を用いた場合は光照射や加熱により重合硬化させ、形態修正・研磨を行い、義歯が作製される。
【0081】
適合不良の義歯を修理する場合、患者の口腔内に適合しなくなった義歯に必要に応じて接着材・分離材を塗布し、ペースト(2ペースト型の場合、第一組成物及び第二組成物を混合したペースト)を盛り付け患者の口腔内に合わせた後、光重合触媒又は熱重合触媒を用いた場合は光照射や加熱により重合硬化させ、形態修正・研磨を行い、義歯の適合が改善される。粘膜面の裏装時にはペーストを薄く盛り付け、床延長時は棒状にしたペーストを巻きつけるように盛り付けてもよい。
【実施例
【0082】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。
【0083】
1.各実施例および比較例で使用した各種化合物等について
各実施例および比較例で使用した各種化合物の名称、特性、略号(略号を用いた場合)等を示す。
【0084】
1-1.A成分:(メタ)アクリル酸系重合性単量体
・HPr:2-メタクリロイルオキシエチルプルピオネート(単官能重合性単量体)
・ND:ノナメチレンジオールジメタクリレート(二官能重合性単量体)
・UDMA:1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン
・TT:トリメチロールプロパントリメタクリレート(三官能重合性単量体)。
【0085】
1-2.B成分:溶解性非架橋ポリマー
・PMMA:ポリメチルメタクリレート(平均粒径(d):20μm、重量平均分子量(Mw):25万)
・PEMA:ポリエチルメタクリレート(d:35μm、Mw50万)
・P(EMA-MMA):ポリエチルメタクリレート-メチルメタクリレート共重合体(エチルメタクリレート/メチルメタクリレート=50/50、d:40μm、Mw:100万)
・PBMA:ポリブチルメタクリレート(d:60μm、Mw:15万)。
【0086】
1-3.C成分:吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー
使用したポリマー(いずれも積水化成品工業製)の略称、成分、平均粒子径及び平均細孔径を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
1-4.重合開始剤
・CQ:カンファーキノン
・BPO:過酸化ベンゾイル
・DMBE:4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル
・DEPT:N,N-ジエチル-p-トルイジン。
【0089】
1-4.非多孔質有機架橋ポリマー
・PMMA-X:ポリメチルメタクリレート(d:8μm、積水化成品工業製)。
【0090】
2.実施例及び比較例
実施例1
(1)原材料
A成分としてHPr50質量部及びND50質量部の混合物使用し、B成分としてPEMAを使用し、C成分としてのPMMA-P8を使用した。また、重合開始剤としてCQ及びDMBEを使用した。製造目的物である義歯床用硬化性組成物の組成を表2にまとめる。
【0091】
なお、混合温度におけるA成分に対する上記B成分溶解度については、便宜的に或る値以上であるか、又は、或る値未満であるか、で評価することとした。具体的には、100質量部のA成分に対して所定量:X質量部のB成分を用い、混合温度において攪拌子を用いて3時間攪拌を行い、目視にて溶け残りの有無を確認し、溶け残りが無く完全に溶解した場合には上記溶解度はX以上であり、溶け残りが確認された場合には溶解度はX未満であるとし、前者(X以上)を「X<」と表記し、後者(X未満)を「<X」と表記することとする。この方法に準拠してX=25質量部で目視確認を行ったところ、溶け残りが無かったことから、前記A成分に対する前記B成分溶解度は25以上(25<)であるといえる。
【0092】
また、C成分であるPMMA―P8の上記A成分に対するモノマー吸収量Rを以下の方法にて測定したところ、2.4であった。なお、C成分の配合量は50質量部であり、65/R=27.1から165/R=68.8の範囲内である。
【0093】
[モノマー吸収量の測定方法]
JIS K5101-13-1に記載の精製あまに油法において、精製あまに油を用いるところを、各実施例又は比較例で使用するA成分(複数混合して使用した場合には同一組成のモノマー混合物)に置き換えて測定した。具体的には、所定量(g)〔M(g)〕のC成分をガラス板の上に置き、A成分のモノマーをビュレットから一回に4、5滴ずつ徐々に加え、その都度、パレットナイフでモノマーをポリマーに練り込んだ。これらを繰り返し、モノマー及びポリマーの塊ができるまで滴下を続け、以後、1滴ずつ滴下し、完全に混練するようにして繰り返し、ペーストが滑らかな硬さになったところを終点とし、終点までに使用したA成分のモノマーの量(g)〔M(g)〕を測定した。なお、終点までの操作に要する時間は25分間以内となるようにした。
【0094】
上記M(g)及びM(g)に基づき、下記式
モノマー吸収量R=M(g)/M(g)
に従い、モノマー吸収量を算出した。
【0095】
(2)第一工程
混合温度(TMIX)を常温である25℃として、次のようにして前記B成分が前記A成分に溶解した液状組成物を調製した。
すなわち、攪拌子を入れたスクリュー管瓶(25ml)に、A成分としてHPr 8g及びND 8gを、重合開始剤としてCQ 80mg(A成分100質量部に対して0.5質量部)及びDMBE 80mg(A成分100質量部に対して0.5質量部)を加え、これらを常温常圧{25℃、1気圧(≒1013hPa)}下で撹拌しながら、B成分であるPEMA 4g(A成分100質量部に対して25質量部)を凝集がないように少量ずつ加えながらB成分の全量添加し、後溶液が均一になるまで攪拌を続けた。その後、得られた混合液を45℃のインキュベーターで2時間保温を行い、25℃まで自然冷却してからで目視にて溶け残りがないことを確認した。
なお、前記A成分に対する前記B成分溶解度は25以上であることから、前記A成分16gに対する前記B成分の飽和溶解量は4g以上であると言える。
【0096】
(3)液状組成物の損失正接:tanδ測定
このようにして得られた液状組成物についてモジュラーコンパクトレオメータMCR302(アントンパール製)を用いて、直径20mm、1°のコーンプレートを使用し、周波数1Hz、測定温度23℃、せん断ひずみ(振動)が0.1%の条件で測定を行い、tanδを評価したところ1.7であった。なお、上記条件で5分間測定したときの測定開始から60秒以降の平均値を液状組成物の損失正接:tanδとした。
【0097】
(4)第二工程
第一工程で得られた液状組成物19gを乳鉢上に移し、これにC成分としてのPMMA-P8を7.5g(A成分100質量部に対して50質量部)加えて、乳棒を用いて、25℃で10分間混合した。混合後、均一なペーストになったことを目視で確認し、さらに10分間混合した後に得られたペーストを真空条件下で脱泡し、ペースト状の義歯床用硬化性組成物を得た。
【0098】
(5)製造時間
第一工程に要した時間は3時間30分であり、第二工程に要した時間(最後にペーストを脱泡し終えるまでの時間)は30分であり、両者の合計である製造時間は4.0時間であった。
【0099】
(6)ペースト状義歯床用硬化性組成物の評価
第二工程で得られた義歯床用硬化性組成物について、ペースト硬さ、ペースト粘着性、1カ月後のペースト性状を評価するともに、硬化体について曲げ強さ、弾性率、及び破断エネルギーを評価した。評価方法を以下に示す。
【0100】
[ペースト硬さの評価方法]
SUS製ナット状型にペースト(義歯床用硬化性組成物)を填入して表面を平らにならし、2分間遮光下で放置して温度を23℃一定にした。サンレオメーターCR-150(株式会社サン科学製)に感圧軸として直径(Φ)5mmのSUS製棒を取り付け、240mm/分の速度で2mmの深さまで圧縮進入したときの最大荷重[g]をペースト硬さとした。
【0101】
[ペースト粘着性評価方法]
グローブを装着し、ペースト(義歯床用硬化性組成物)を以下の判定基準に従い、◎~×で評価した。
◎:グローブには付着しないが、義歯及び石膏には粘着する
△:グローブに付着するが、義歯及び石膏に粘着させるとグローブから剥離できる
×:グローブに付着し、義歯及び石膏に粘着しない。グローブに付着せず、石膏にも
粘着しない。
【0102】
[1カ月後のペースト性状評価方法]
ペースト(義歯床用硬化性組成物)を23℃で1ヶ月間保管し、以下の判定基準に従い、◎~×で評価した。
◎:ペースト調製直後と変化なし
△:ペースト調製直後から、軽微な粘度変化がある
×:ペースト調製直後から、顕著な粘度変化がある。
【0103】
[硬化体の曲げ強さ、弾性率、及び破断エネルギーの評価方法]
30×30×2mmのポリテトラフルオロエチレン製モールドにペースト(義歯床用硬化性組成物)を充填し、光重合触媒を用いた場合は、両面をポリエチレンフィルムで圧接した状態で歯科技工用光重合装置αライトV(MORITA社製)を用いて5分間光照射して硬化体を作製し、熱重合触媒を用いた場合は、両面をポリエチレンフィルムで圧接した状態で、水中に浸漬し沸騰してから1時間加熱して硬化体を作製し、化学重合触媒を用いた場合は、両面をポリエチレンフィルムで圧接した状態で硬化させ、硬化体を作製した。次いで、#800および#1500の耐水研磨紙にて硬化体を研磨後、4×30×2mmの角柱状に切断した。得られた硬化体を水中浸漬し、37℃にて24時間放置した。この試験片を試験機(島津製作所製、オートグラフAG-1)に装着し、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/分で3点曲げ試験を行い、曲げ強さ、弾性率、破断エネルギーを測定した。
【0104】
これらの評価結果を表3、4に示す。表3、4に示されるように、ペースト性状は良好で、グローブには付着せず、義歯及び石膏に粘着し、1ヵ月後のペースト性状も調製直後から変化はなく、保存安定性も優れていた。また、硬化体の曲げ強さが78[MPa]、破断エネルギーが90[N・mm]と両者共に高く、高い強度及び靱性を有していることが確認された。
【0105】
【表2】
【0106】
【表3】
【0107】
【表4】
【0108】
実施例2~7、9~16
ペーストの組成を表2に示すように変更した他は、実施例1と同様に義歯床用硬化性組成物を製造した。何れの実施例においても混合温度でB成分が完全に溶解している。なお、表2中の「↑」は、「同上」を意味し、括弧()内の数字は質量部を表している。
得られた義歯床用硬化性組成物について、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表3、4に示す。
【0109】
実施例2~7、9~16はいずれも、高い強度及び靱性を有し、ペーストの操作性及び保存安定性も優れていた。
【0110】
実施例8
ペーストの組成を表2に示すように変更し、実施例1の製造方法における、A成分、B成分、重合開始剤の撹拌を、温度を55℃に加熱して行い(TMIX=55℃)、得られた混合液を55℃のインキュベーターで2時間保温を行った他は実施例1と同様に義歯床用硬化性組成物を製造し、評価を行った。結果を表3、4に示した。
【0111】
実施例8で用いたB成分は常温ではA成分に溶解しにくいものの、加熱しながら混合したことで、全て溶解でき、常温(25℃)においても溶解状態は維持されていた。ペースト操作性及び保存安定性にも優れたペーストが得られ、また、高い強度及び靭性も有していた。
【0112】
実施例17
表2に示すように、2つのペーストをそれぞれ第一組成物(a)、第二組成物(b)とし、それぞれの組成物を実施例1と同様に製造し、評価を行った。なお、曲げ強さ、弾性率及び破断エネルギーは、実施例17(a)及び(b)を混合させて得られた硬化体の物性である。結果を表3、4に示した。
【0113】
実施例17は2ペースト型の義歯床用硬化性組成物であり、1ペースト型のものと同様に、高い強度及び靱性を有し、ペーストの操作性及び保存安定性も優れていた。
【0114】
実施例18
ペーストの組成は実施例1と同じであり、液状組成物の調製工程において、スクリュー管瓶(25ml)に、A成分、重合開始剤を加え、常温常圧下で撹拌を行った後、混合液を2℃に冷却し、2℃に保ちながらB成分を加え、B成分が均一に分散するまで撹拌した。このとき、2℃におけるB成分のA成分に対する溶解度は5未満であった。その後、再び常温常圧で混合液が均一になるまで撹拌した他は、実施例1と同様に製造し、評価を行った。結果を表3、4に示した。
【0115】
実施例18では、A成分を冷却し、B成分の溶解度が5未満の条件で混合したことにより、B成分がA成分中に素早く均一に分散し、第一工程に要する時間は2時間30分と大きく短縮され、製造時間の短縮につながった。
【0116】
実施例19
ペーストの組成は実施例1と同じであり、液状組成物の調製工程において、スクリュー管瓶にB成分とCQ、A成分のうちのNDを加えて、B成分が均一に分散するまで撹拌した。その後、もう片方のA成分であるHPrを加え、混合液が均一になるになるまで撹拌を行った他は、実施例1と同様に製造し、評価を行った。結果を表3、4に示した。なお、25℃におけるB成分のNDに対する溶解度は5未満であり、HPrに対する溶解度は25以上であった。
【0117】
実施例19では、A成分のうちB成分の25℃における溶解度が5未満であるNDに、B成分を加えることで、B成分がA成分中に素早く均一に分散し、第一工程に要する時間は2時間30分と大きく短縮され、製造時間の短縮につながった。
【0118】
比較例1
攪拌子を入れたスクリュー管瓶(25ml)に、A成分としてHPr 8g、ND 8g、B成分であるPEMA 4g(A成分100質量部に対して25質量部)、C成分としてPMMA-P8 8g(A成分100質量部に対して50質量部)、重合開始剤としてCQ 80mg(A成分100質量部に対して0.5質量部)、DMBE 80mg(A成分100質量部に対して0.5質量部)、を順次加え、常温常圧下で30分撹拌を行った。混合物の粘性が上昇し、攪拌が困難になったため、乳鉢上に混合物を加え、乳棒を用いて常温常圧下で10分間混合し、ペースト状の義歯床用硬化性組成物を得た。実施例1と同様に評価を行った。結果を表3、4に示した。
【0119】
比較例1では、1段階でペースト製造を行ったため、B成分が残存してしまい、長期間保存した際に、ペースト性状が大きく変化してしまった。
【0120】
比較例2
攪拌子を入れたスクリュー管瓶(25ml)に、A成分としてHPr 8g、ND 8g、重合開始剤としてCQ 80mg(A成分100質量部に対して0.5質量部)、DMBE 80mg(A成分100質量部に対して0.5質量部)を加え、これらを常温常圧下で撹拌しながら、B成分であるPEMA 4g(A成分100質量部に対して25質量部)を一度に全量加えた他は、実施例1と同様に義歯床用硬化性組成物を製造し、評価を行った。結果を表3、4に示した。
【0121】
比較例2では、B成分である非架橋ポリマーを一度に全量加えたことで、B成分がA成分中に分散せずに凝集してしまったため、溶解に時間がかかってしまった。また、B成分が残存してしまい、長期間保存した際に、ペースト性状が大きく変化してしまった。
【0122】
比較例3
ペーストの組成を表2に示すように変更した他は、実施例1と同様に義歯床用硬化性組成物を製造し、評価を行った。結果を表3、4に示した。
【0123】
比較例3では、C成分である多孔質有機架橋ポリマーの代わりに、非多孔質有機架橋ポリマーを用いているため、硬化体の強度が低く1か月後のペースト性状も、調製直後から大きく変化していた。