(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】金属樹脂複合体を製造するための装置、金型セット、および方法
(51)【国際特許分類】
B29C 43/36 20060101AFI20240925BHJP
B29C 43/18 20060101ALI20240925BHJP
B29C 43/34 20060101ALI20240925BHJP
B29C 33/14 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B29C43/36
B29C43/18
B29C43/34
B29C33/14
(21)【出願番号】P 2021166372
(22)【出願日】2021-10-08
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】599029110
【氏名又は名称】株式会社ラピート
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100218132
【氏名又は名称】近田 暢朗
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 憲一
(72)【発明者】
【氏名】伊原 涼平
(72)【発明者】
【氏名】山口 善三
(72)【発明者】
【氏名】重友 卓郎
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-212603(JP,A)
【文献】特開2006-95694(JP,A)
【文献】再公表特許第2019/224977(JP,A1)
【文献】特開2019-25679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
B29C 39/00-39/44
B29C 41/00-41/52
B29C 43/00-43/58
B29C 45/26-45/44
B29C 45/64-45/68
B29C 45/73
B29C 49/48-49/56
B29C 49/70
B29C 51/30-51/40
B29C 51/44
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材および樹脂材をプレス成形して金属樹脂複合体を製造するための装置であって、
前記金属部材および前記樹脂材を挟み込む上型および下型を備える金型と、
前記上型および前記下型によって形成される前記樹脂材を配置するためのキャビティの少なくとも一部を埋めるように、前記上型に着脱可能に固定されている成形補助部品と、
前記上型および前記下型の少なくとも一方を鉛直方向に移動させる駆動部と
を備え、
前記成形補助部品は、前記金属部材を成形するための第1プレス面を有し、
前記上型は、前記金属部材と前記樹脂材とを一体成形するための第2プレス面を有し、
前記成形補助部品が取り付けられた状態における前記第1プレス面と前記下型との間の距離は、前記成形補助部品が取り外された状態における前記第2プレス面と前記下型との間の距離よりも短い、装置。
【請求項2】
前記金属樹脂複合体は、長手方向に垂直な断面において、水平方向に延びる底壁部と、前記底壁部の両端から立ち上がる側壁部と、前記側壁部から水平方向外側に延びるフランジ部とを有し、
前記上型は、前記断面において、前記底壁部を成形する第1成形上面と、前記側壁部を成形する第2成形上面と、前記フランジ部を成形する第3成形上面とを有し、
前記成形補助部品は、前記第1成形上面および前記第2成形上面によって形成される角部を被覆するように配置されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第2成形上面には、段差が設けられている、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記成形補助部品は、前記キャビティの全部を埋めるように前記上型に着脱可能に固定されている、請求項1から3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
前記成形補助部品には貫通孔が設けられ、
前記上型には前記貫通孔と位置合わせされたねじ穴が設けられ、
前記貫通孔を介してねじを前記ねじ穴に締結することで、前記成形補助部品は、前記上型に固定されている、請求項1から4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
金属部材および樹脂材をプレス成形して金属樹脂複合体を製造するための金型セットであって、
前記金属部材および前記樹脂材を挟み込む上型および下型を備える金型と、
前記上型および前記下型によって形成される前記樹脂材を配置するためのキャビティの少なくとも一部を埋めるように、前記上型に着脱可能に固定されている成形補助部品と
を備え、
前記成形補助部品は、前記金属部材を成形するための第1プレス面を有し、
前記上型は、前記金属部材と前記樹脂材とを一体成形するための第2プレス面を有し、
前記成形補助部品が取り付けられた状態における前記第1プレス面と前記下型との間の距離は、前記成形補助部品が取り外された状態における前記第2プレス面と前記下型との間の距離よりも短い、金型セット。
【請求項7】
金属部材および樹脂材をプレス成形して金属樹脂複合体を製造するための方法であって、
前記金属部材および前記樹脂材を挟み込む上型および下型を備える金型と、前記上型および前記下型によって形成される前記樹脂材を配置するためのキャビティの少なくとも一部を埋めるように、前記上型に着脱可能に固定されている成形補助部品とを準備し、
前記成形補助部品が取り付けられた前記上型および前記下型を閉じて、前記金属部材をプレス成形し、
前記成形補助部品が取り付けられた前記上型および前記下型を開いて、プレス成形された前記金属部材の上に前記樹脂材を配置し、
前記成形補助部品が取り外された前記上型および前記下型を閉じて、前記金属部材および前記樹脂材を一体成形する
ことを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属樹脂複合体を製造するための装置、金型セット、および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材および熱硬化性を有する樹脂材をプレス成形して金属樹脂複合体を製造するための装置が知られている(例えば特許文献1)。上記金属樹脂複合体は、上記装置とは別のプレス装置によって予めプレス成形された金属部材と、樹脂材とを上記装置によりプレス成形することで一体に成形される。つまり、上記金属樹脂複合体の製造には、金属部材をプレス成形するための金型と、金属部材と樹脂材とを一体に成形するための金型とを使用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記金属樹脂複合体を1組の金型を用いて成形する場合、金属部材を所定の形状にプレス成形した後、金属部材のプレス成形に用いた金型を使用して金属部材と樹脂材とをプレス成形する。この場合、金型のキャビティは、金属樹脂複合体の形状、つまり金属部材と樹脂材とが一体成形された最終形状に合わせて設計されるため、下型に沿った金属部材のプレス成形が難しく、金属部材の成形精度が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、1組の金型により金属樹脂複合体を製造するための装置、金型セット、および方法において、金属部材の成形精度の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、金属部材および樹脂材をプレス成形して金属樹脂複合体を製造するための装置であって、前記金属部材および前記樹脂材を挟み込む上型および下型を備える金型と、前記上型および前記下型によって形成される前記樹脂材を配置するためのキャビティの少なくとも一部を埋めるように、前記上型に着脱可能に固定されている成形補助部品と、前記上型および前記下型の少なくとも一方を鉛直方向に移動させる駆動部とを備え、前記成形補助部品は、前記金属部材を成形するための第1プレス面を有し、前記上型は、前記金属部材と前記樹脂材とを一体成形するための第2プレス面を有し、前記成形補助部品が取り付けられた状態における前記第1プレス面と前記下型との間の距離は、前記成形補助部品が取り外された状態における前記第2プレス面と前記下型との間の距離よりも短い、装置を提供する。
【0007】
金属部材のプレス成形と、金属部材および樹脂材の一体成形とを1組の金型で行う場合、樹脂材が配置されるキャビティが、上型および下型が閉じた状態で形成されている。そのため、金属部材のプレス成形時には、そのキャビティが形成されている箇所において、上型が金属部材を下型の成形面の形状に沿わせて成形できない。これに対して、この構成によれば、まず金属部材をプレス成形する際には成形補助部品を上型に取り付け、次に金属樹脂複合体をプレス成形する際には成形補助部品を上型から取り外すことができる。また、成形補助部品が取り外された状態における第1プレス面と下型との間の距離は、成形補助部品が取り付けられた状態における第2プレス面と下型との間の距離よりも短くなっている。つまり、金属部材のプレス成形時にキャビティの少なくとも一部を成形補助部品で埋めているため、キャビティが減少し、金属部材のプレス成形時に金属部材が下型の形状に沿いやすくなる。その結果、金属部材の成形精度を向上できる。そして、金属樹脂複合体をプレス成形する際には成形補助部品を取り外すことにより、所望の大きさおよび形状のキャビティを形成できるため、所望の形状の金属樹脂複合体を製造できる。
【0008】
前記金属樹脂複合体は、長手方向に垂直な断面において、水平方向に延びる底壁部と、前記底壁部の両端から立ち上がる側壁部と、前記側壁部から水平方向外側に延びるフランジ部とを有し、前記上型は、前記断面において、前記底壁部を成形する第1成形上面と、前記側壁部を成形する第2成形上面と、前記フランジ部を成形する第3成形上面とを有し、前記成形補助部品は、前記第1成形上面および前記第2成形上面によって形成される角部を被覆するように配置されていてもよい。
【0009】
この構成によれば、角部におけるキャビティが減少している。キャビティが減少している箇所においては、金属部材のプレス成形時に金属部材が下型の形状に沿いやすくなるため、金属部材の成形精度を向上できる。特に、角部では成形精度を求められるため、角部においてキャビティを減少させて寸法精度を高めることは有効である。
【0010】
前記第2成形上面には、段差が設けられていてもよい。
【0011】
この構成によれば、樹脂材がキャビティから漏出するためには、上型の段差を越えて流動する必要があるため、段差によってキャビティが封止され得る。従って、樹脂材の漏出を抑制できる。つまり、樹脂材のキャビティにおける充填圧を高め、品質を高めることができる。
【0012】
前記成形補助部品は、前記キャビティの全部を埋めるように前記上型に着脱可能に固定されていてもよい。
【0013】
この構成によれば、成形補助部品が上型に取り付けられている状態で上型および下型を閉じた場合、キャビティが無いため、金属部材のプレス成形時に金属部材が下型の形状に沿いやすくなる。そのため、金属部材の成形精度を向上できる。
【0014】
前記成形補助部品には貫通孔が設けられ、前記上型には前記貫通孔と位置合わせされたねじ穴が設けられ、前記貫通孔を介してねじを前記ねじ穴に締結することで、前記成形補助部品は、前記上型に固定されていてもよい。
【0015】
この構成によれば、成形補助部品を上型に機械的に強固に固定できる。そのため、プレス成形時に成形補助部品が上型から外れることを抑制ないし防止できる。
【0016】
本発明の第2の態様は、金属部材および樹脂材をプレス成形して金属樹脂複合体を製造するための金型セットであって、前記金属部材および前記樹脂材を挟み込む上型および下型を備える金型と、前記上型および前記下型によって形成される前記樹脂材を配置するためのキャビティの少なくとも一部を埋めるように、前記上型に着脱可能に固定されている成形補助部品とを備え、前記成形補助部品は、前記金属部材を成形するための第1プレス面を有し、前記上型は、前記金属部材と前記樹脂材とを一体成形するための第2プレス面を有し、前記成形補助部品が取り付けられた状態における前記第1プレス面と前記下型との間の距離は、前記成形補助部品が取り外された状態における前記第2プレス面と前記下型との間の距離よりも短い、金型セットを提供する。
【0017】
金属部材のプレス成形と、金属部材および樹脂材の一体成形とを1組の金型で行う場合、樹脂材が配置されるキャビティが、上型および下型が閉じた状態で形成されている。そのため、金属部材のプレス成形時には、そのキャビティが形成されている箇所において、上型が金属部材を下型の成形面の形状に沿わせて成形できない。これに対して、この構成によれば、まず金属部材をプレス成形する際には成形補助部品を上型に取り付け、次に金属樹脂複合体をプレス成形する際には成形補助部品を上型から取り外すことができる。これにより、金属部材のプレス成形時にキャビティの少なくとも一部を成形補助部品で埋めているため、キャビティが減少し、金属部材のプレス成形時に金属部材が下型の形状に沿いやすくなる。その結果、金属部材の成形精度を向上できる。そして、金属樹脂複合体をプレス成形する際には成形補助部品を取り外すことにより、所望の大きさおよび形状のキャビティを形成できるため、所望の形状の金属樹脂複合体を製造できる。
【0018】
本発明の第3の態様は、金属部材および樹脂材をプレス成形して金属樹脂複合体を製造するための方法であって、前記金属部材および前記樹脂材を挟み込む上型および下型を備える金型と、前記上型および前記下型によって形成される前記樹脂材を配置するためのキャビティの少なくとも一部を埋めるように、前記上型に着脱可能に固定されている成形補助部品とを準備し、前記成形補助部品が取り付けられた前記上型および前記下型を閉じて、前記金属部材をプレス成形し、前記成形補助部品が取り付けられた前記上型および前記下型を開いて、プレス成形された前記金属部材の上に前記樹脂材を配置し、前記成形補助部品が取り外された前記上型および前記下型を閉じて、前記金属部材および前記樹脂材を一体成形することを含む、方法を提供する。
【0019】
金属部材のプレス成形と、金属部材および樹脂材の一体成形とを1組の金型で行う場合、樹脂材が配置されるキャビティが、上型および下型が閉じた状態で形成されている。そのため、金属部材のプレス成形時には、そのキャビティが形成されている箇所において、上型が金属部材を下型の成形面の形状に沿わせて成形できない。これに対して、この構成によれば、金属部材のプレス成形時にキャビティの少なくとも一部を成形補助部品で埋めているため、キャビティが減少し、金属部材のプレス成形時に金属部材が下型の形状に沿いやすくなる。その結果、金属部材の成形精度を向上できる。また、金属樹脂複合体をプレス成形する際には成形補助部品を取り外すことにより、所望の大きさおよび形状のキャビティを形成できるため、所望の形状の金属樹脂複合体を製造できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、1組の金型により金属樹脂複合体を製造するための装置、金型セット、および方法において、金属部材の成形精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1実施形態における金属樹脂複合体の斜視図。
【
図3】本発明の第1実施形態における装置の概略図。
【
図4】本発明の第1実施形態における上型の斜視図。
【
図5】本発明の第1実施形態における成形補助部品の斜視図。
【
図6】本発明の第1実施形態における上型および成形補助部品の斜視図。
【
図8】本発明の第1実施形態の変形例を示す
図7と同様の断面図。
【
図9】第1実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第1工程を示す断面図。
【
図10】第1実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第2工程を示す断面図。
【
図11】第1実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第3工程を示す断面図。
【
図12】第1実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第4工程を示す断面図。
【
図13】第1実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第5工程を示す断面図。
【
図14】本発明の第2実施形態における
図6の線XIV-XIVに沿った断面図。
【
図15】本発明の第2実施形態の変形例を示す
図14と同様の断面図。
【
図16】本発明の第2実施形態の変形例を示す
図14と同様の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態として、金属樹脂複合体を製造するための装置、金型セット、および方法について説明する。
【0023】
(第1実施形態)
図1および
図2を参照して、本実施形態で製造される金属樹脂複合体1は、金属板(金属部材)10と、樹脂材20とを含んでいる。
図2に示すように、金属樹脂複合体1は、長手方向に垂直な断面においてハット形をしている。詳細には、ハット形状を有する金属板10の内面(凹面)に樹脂材20が固着されることによって金属樹脂複合体1が構成されている。ただし、金属樹脂複合体1の形状は、ハット形に限定されず、任意の形状であり得る。
【0024】
金属樹脂複合体1は、水平方向に延びる底壁部2と、底壁部2の両端から立ち上がる側壁部3と、側壁部3から水平方向外側に延びるフランジ部4とを有している。底壁部2は金属板10と樹脂材20とからなり、側壁部3は金属板10と樹脂材20とからなり、フランジ部4は金属板10のみからなる。本実施形態では、側壁部3における樹脂材20は、底壁部2からフランジ部4に向かって側壁部3の途中で端面20aにて終端している。
【0025】
図1に示すように、本実施形態では、樹脂材20は、長手方向に延びる第1リブ5と、短手方向に延びる第2リブ6A~6Eとを有する。具体的には、第1リブ5は、底壁部2の樹脂材20の上面における短手方向の略中央に設けられている。第2リブ6A~6Eはそれぞれ、側壁部3の樹脂材20および底壁部2の樹脂材20を接続するように、底壁部2の樹脂材20の上面に長手方向に略等間隔で設けられている。
【0026】
図3~8を参照して、本実施形態における金属樹脂複合体1を製造するための装置50および金型セット80について説明する。
【0027】
図3を参照すると、本実施形態における金属樹脂複合体1を製造するための装置50は、金型100を含む金型セット80と、金型100を駆動する駆動部130と、金型を加熱する加熱部140とを有している。なお、駆動部130および加熱部140は、プレス成形を実行可能な公知のものを使用でき、詳細を図示することなく概念図として
図3にのみ示し、以降の図では図示を省略する。
【0028】
金型セット80は、金型100およびキャップ(成形補助部品)90を備える。
【0029】
金型100は、金属板10および樹脂材20をプレス成形して金属樹脂複合体1を製造するものである。金型100は、金属板10および樹脂材20を挟み込む上型110と下型120とを有している。本実施形態では、上型110がパンチとして構成され、下型120がダイとして構成されている。上型110は駆動部130によって鉛直方向に移動可能であり、即ち下型120に対して接近および離反可能に構成されている。ただし、駆動部130による金型100の駆動態様については特に限定されず、駆動部130は上型110および下型120の少なくとも一方を鉛直方向に移動させるものであり得る。また、本実施形態では上型110は1つの部材として構成されているが、
図8に示す変形例のように、上型110はパンチ110aおよびホルダー110bなどの2つ以上の部品で構成されてもよい。
【0030】
図3および
図4を参照すると、上型110は、底壁部2(
図2参照)を成形する第1成形上面111と、側壁部3(
図2参照)を成形する第2成形上面112と、フランジ部4(
図2参照)を成形する第3成形上面113とを有している。本実施形態では、第1成形上面111および第3成形上面113は水平面として構成されており、第2成形上面112は第1成形上面111および第3成形上面113を接続するとともに鉛直方向から傾斜して構成されている。上型110は、詳細を後述するように、金属板10と樹脂材20とを一体成形するための第2プレス面117有している。本実施形態では、第2プレス面117は、第1成形上面111と、第2成形上面112と、第3成形上面113とを含む。
【0031】
本実施形態では、第2成形上面112に段差112aが設けられている。段差112aは、第1成形上面111から第3成形上面113に向かって一段上がるように設けられている。
【0032】
本実施形態では、上型110には、長手方向に延びる第1溝部114と、短手方向に延びる第2溝部115A~115Eとが設けられている。具体的には、第1溝部114は、第1成形上面111における短手方向の略中央に設けられ、第2溝部115A~115Eはそれぞれ、第1成形上面111および第2成形上面112に長手方向に略等間隔で設けられている。
【0033】
図3を参照すると、下型120は、底壁部2(
図2参照)を成形する第1成形下面121と、側壁部3(
図2参照)を成形する第2成形下面122と、フランジ部4(
図2参照)を成形する第3成形下面123とを有している。本実施形態では、第1成形下面121および第3成形下面123は水平面として構成されており、第2成形下面122は第1成形下面121および第3成形下面123を接続するとともに鉛直方向から傾斜して構成されている。第1成形下面121は第1成形上面111と対向して配置され、第2成形下面122は第2成形上面112と対向して配置され、第3成形下面123は第3成形上面113と対向して配置されている。
【0034】
図5を併せて参照すると、キャップ90は、板状のキャップ底壁91と、キャップ底壁91の両端から立ち上がり、終端がキャップ端面92aであるキャップ側壁92とを備える。キャップ90は、詳細を後述するように、金属板10を成形するための第1プレス面97を有している。本実施形態では、第1プレス面97は、キャップ底壁91の下面91bと、キャップ側壁92の外面92bを含む。
【0035】
また、キャップ90には、長手方向に延びる第1突条93が、キャップ底壁91の上面91aの短手方向の略中央に設けられている。さらに、キャップ90には、短手方向に延びる第2突条94A~94Eが、キャップ底壁91の上面91aに長手方向に略等間隔で設けられている。
【0036】
本実施形態では、キャップ90の材質は硬質金属であるが、軟質金属または樹脂などであってもよい。また、本実施形態では、キャップ90は、切削加工により成形されているが、鋳造や3Dプリンティングなど他の加工方法によって成形されてもよい。
【0037】
図3および
図6を参照すると、キャップ90は、キャップ底壁91の上面91aが第1成形上面111に接し、キャップ側壁92の外面92bが第2成形上面112に接し、さらに、キャップ端面92aが段差112aに接するように上型110に取り付けられている。また、キャップ90は、第1突条93が第1溝部114に嵌まるように、かつ、第2突条94A~94Eが第2溝部115A~115Eに嵌まるように、上型110に取り付けられている。すなわち、キャップ90は、第1成形上面111および第2成形上面112によって形成される角部118を被覆するように配置されている。本実施形態では、キャップ90は、後述のキャビティC(
図12参照)の全部を埋めるように上型110に固定されている。
【0038】
図6および
図7を参照すると、本実施形態では、キャップ90は、上型110に雄ねじであるねじ150で固定されている。具体的には、第1突条93および第2突条94A~94Eが交わる部分にはキャップ底壁91の下面91bから上型110に向けて貫通する貫通孔95A~95Eが設けられている。また、上型110には貫通孔95A~95Eと位置合わせされた雌ねじであるねじ穴116A~116Eが設けられている。貫通孔95A~95Eを介してねじ穴116A~116Eにねじ150を締結することで、キャップ90は上型110に固定されている。
【0039】
また、貫通孔95A~95Eの下面91b側には貫通孔95A~95Eより径が大きいざぐり96が設けられており、ねじ150を締結した際、ねじ150の頭部はキャップ底壁91の下面91bから突出しないようにざぐり96内に収納される。
【0040】
キャップ90は上型110にねじ150で固定されていることから、ねじ150を取り外すことで、キャップ90は上型110から取り外される。すなわち、キャップ90は、上型110に着脱可能に固定されている。キャップ90は、上型110に両面テープなどを用いた接着によって固定されてもよく、上型110に埋め込まれた磁石から生じる磁力によって固定されてもよい。
【0041】
図9~13を参照して、本実施形態における金属樹脂複合体1を製造するための方法について説明する。図面では、水平方向をX方向として示し、鉛直方向(上下方向)をY方向として示す。また、金属樹脂複合体1(金属板10と樹脂材20)については、断面であることを示すハッチングを付すが、その他の部材については図示を明瞭にするためハッチングを省略する。
【0042】
本実施形態では、
図9~13に示す第1~5工程を順に実行する中で2回のプレス成形を実行する。
図9~11に示す第1~3工程で1回目のプレスを実行し、
図11~13に示す第3~5工程で2回目のプレスを実行する。
【0043】
図9に示す第1工程では、上型110にキャップ90を取り付けた状態で、成形前の平板状の金属板10を下型120の上に載置する。
【0044】
図10に示す第2工程では、上型110を下降させ、金属板10をキャップ90が取り付けられた上型110と下型120とによって挟み込んでハット形にプレス成形する。このとき、金属板10は、主に第1プレス面97によって下型120に向かって押し付けられる。上型110と下型120が閉じられた状態において、キャップ底壁91の下面91bと第1成形下面121との間の距離d1は、金属板10の厚みtと概略等しい(d1=t)。距離d1を金属板10の厚みtに対して等しく設定することで、金属板10の成形精度を向上できる。また、第3成形上面113と第3成形下面123との間の距離d3は金属板10の厚みtと概略等しい(d3=t)。また、段差112aの下方におけるキャップ側壁92の外面92bと第2成形下面122との間の距離d21は、金属板10の厚みtに対して概略等しいかまたはわずかに大きい(d21=tまたはd21>t)。また、段差112aの上方における第2成形上面112と第2成形下面122との間の距離d22は金属板10の厚みtに対して概略等しいかまたはわずかに大きい(d22=tまたはd22>t)。特に、距離d22を金属板10の厚みtに対して等しく設定することで、後工程における樹脂材20の充填圧を高めることができる。なお、本工程では、樹脂材20(
図11~13参照)は未だ充填されておらず、金属板10のみをキャップ90を介して上型110と下型120とによって挟み込む。
【0045】
図11に示す第3工程では、上型110を上昇させる。このとき、金属板10は最終形状(本実施形態ではハット形)に成形されている。そして、金属板10上には必要な寸法に裁断したシート状の樹脂材20(プリプレグともいう。)を載置する。本実施形態では、SMC(Sheet Molding Compound)法と称される成形法によって、当該樹脂材20を高温高圧下で硬化させる(後述する第4工程参照)。本実施形態では、樹脂材20として、樹脂にガラス繊維や炭素繊維を含侵させた繊維強化樹脂(FRP:Fiber Reinforced Plastic)を使用する。また、本実施形態では、樹脂材20は、熱硬化性を有している。本工程では、樹脂材20は未だ加熱されておらず、即ち硬化していない。なお、樹脂材20は、シート状である必要はなく、任意の形状をとり得る。
【0046】
また、第3工程では、上型110からキャップ90を取り外す。キャップ90が取り付けられた状態における第1プレス面97と下型120との間の距離d1,d21(
図10参照)は、キャップ90が取り外された状態における第2プレス面117と下型120との間の距離d4,d5(
図12参照)よりも短い。より具体的には、距離d1は距離d4より短く、距離d21は距離d5よりも短い。キャップ90が取り外された後、上型110のねじ穴116A~116Eに樹脂材20が入り込まないように、図示しない穴埋め用ねじをねじ穴116A~116Eに締結し、ねじ穴116A~116Eを埋める。
【0047】
図12に示す第4工程では、上型110を下降させ、金属板10と樹脂材20とを上型110と下型120とによって挟み込んで樹脂材20を金属板10に固着させるようにプレス成形する。このとき、金属板10および樹脂材20は、第2プレス面117によって下型120に向かって押し付けられる。また、第1~2成形上面111~112と第1~2成形下面121~122(詳細には金属板10)との間に設けられたキャビティCには、樹脂材20が充填される。即ち、SMC法によって、必要な寸法に裁断した樹脂材20を金型100に投入し、高温高圧下で硬化させる。本実施形態では、キャビティCは、上型110と下型120(詳細には金属板10)とによって挟み込まれて形成される段差112aより下方の空間と、第1溝部114および第2溝部115A~115Eにより画定される空間とをいう。
【0048】
キャビティCに樹脂材20が充填されるとき、樹脂材20は、上型110の第1溝部114および第2溝部115A~115Eにも流れ込み、第1リブ5および第2リブ6A~6E(
図1参照)が成形される。なお、本実施形態では、キャップ90はキャビティCの全部を埋めるように配置されており、樹脂材20はキャビティCの全部に充填される。そのため、
図1および
図5に示されているように、キャップ90と金属種子複合体1における樹脂材20とは、概略等しい形状となっている。
【0049】
図13に示す第5工程では、上型110を上昇させる。金属板10の上面(ハット形の凹面)には樹脂材20が固着され、金属樹脂複合体1が形成されている。このようにして、製品としてのハット形の金属樹脂複合体1が製造される。
【0050】
金属板10のプレス成形と、金属板10および樹脂材20の一体成形とを1組の金型100で行う場合、樹脂材20が配置されるキャビティCが、上型110および下型120が閉じた状態で形成されている。そのため、金属板10のプレス成形時には、そのキャビティCが形成されている箇所において、上型110が金属板10を下型120の成形面の形状に沿わせて成形できない。これに対して、本実施形態によれば、まず金属板10をプレス成形する際にはキャップ90を上型110に取り付け、次に金属樹脂複合体1をプレス成形する際にはキャップ90を上型110から取り外すことができる。また、キャップ90が取り付けられた状態における第1プレス面97と下型120との間の距離d1,d21は、キャップ90が取り外された状態における第2プレス面117と下型120との間の距離d4,d5よりも短くなっている。つまり、金属板10のプレス成形時にキャビティCの少なくとも一部をキャップ90で埋めているため、キャビティCが減少し、金属板10のプレス成形時に金属板10が下型120の形状に沿いやすくなる。その結果、金属板10の成形精度を向上できる。そして、金属樹脂複合体1をプレス成形する際にはキャップ90を取り外すことにより、所望の大きさおよび形状のキャビティCを形成できるため、所望の形状の金属樹脂複合体1を製造できる。
【0051】
また、キャップ90が上型110に取り付けられている状態で上型110および下型120を閉じた場合、キャビティCが無いため、金属板10のプレス成形時に金属板10が下型120の形状に沿いやすくなる。そのため、金属板10の成形精度を向上できる。
【0052】
第4工程において樹脂材20を充填する際、樹脂材20がキャビティCから漏出するためには、上型110の段差112aを越えて流動する必要があるため、段差112aによってキャビティCが封止され得る。従って、樹脂材20の漏出を抑制できる。つまり、樹脂材20のキャビティCにおける充填圧を高め、品質を高めることができる。
【0053】
キャップ90は上型110にねじ150で固定されているため、キャップ90を上型110に機械的に強固に固定できる。そのため、プレス成形時にキャップ90が上型110から外れることを抑制ないし防止できる。
【0054】
本実施形態における金属樹脂複合体1では、第1リブ5および第2リブ6A~6Bが成形されているため、金属樹脂複合体1の強度が向上し得る。
【0055】
(第2実施形態)
図14に示す第2実施形態は、上型110には第1溝部114(
図4参照)および第2溝部115A~115E(
図4参照)が設けられていない。また、キャップ90には第1突条93(
図5参照)および第2突条94A~94E(
図5参照)が設けられていない。さらに上型110には磁石160が埋め込まれている。これらに関する以外は、第1実施形態と実質的に同じである。従って、第1実施形態にて示した部分については説明を省略する場合がある。
【0056】
第2実施形態では、キャップ90は概略C字型の板状で、キャップ底壁91およびキャップ側壁92のみを有する。キャップ90は、金属板に曲げ加工を施すことで成形される。なお、キャップ90の成形方法は、曲げ加工に限定されず、例えば、切削によっても成形することができる。
【0057】
上型110には、磁石160が埋め込まれている。そのため、金属製のキャップ90は磁力によって上型110に固定されている。
【0058】
第2実施形態では、キャップ90は金属板の曲げ加工で成形されているため、加工が容易である。つまり、キャップ90の製造工数が低減され得る。また、キャップ90は磁石160により上型110に固定されているため、キャップ90の着脱が容易である。
【0059】
図15を参照すると、第2実施形態の変形例では、上型110には第1実施形態に示すように、第1溝部114および第2溝部115A~115E(
図4参照)が設けられている。また、キャップ90には第1突条93(
図5参照)および第2突条94A~94E(
図5参照)は設けられていない。
【0060】
この変形例では、第1実施形態に示すキャップ90が装着される上型110に対してもキャップ90を装着できる。換言すると、共通の上型110に対して、異なる形状のキャップ90を装着できる。
【0061】
図16を参照すると、第2実施形態の変形例では、キャップ90は角キャップ90a,90bで構成されている。角キャップ90a,90bは、キャビティC(
図12参照)の一部を埋めるように着脱可能に固定されている。具体的には、角キャップ90a,90bは上型110の第1成形上面111および第2成形上面112によって形成される角部118のみに被覆するように配置されている。
【0062】
キャップ90がキャビティCの一部のみを埋めるように構成されていることで、キャップ90の重量が低減され、キャップ90の着脱が容易になり得る。
【0063】
また、キャップ90は、第1成形上面111および第2成形上面112によって形成される角部118に取り付けられていることから、第2工程において金属板10をプレス成形する際、角部118において距離d1(
図10参照)および距離d21(
図10参照)が金属板10の厚みtと等しくなる。換言すると、角部118におけるキャビティCが減少している。キャビティCが減少している箇所においては、金属板10のプレス成形時に金属板10が下型120の形状に沿いやすくなるため、金属板10の角部118における成形精度が向上し得る。特に、角部118では成形精度を求められるため、角部118においてキャビティCを減少させて寸法精度を高めることは有効である。また、金属板10の曲がりが生じない直線部分は、第4工程において樹脂材20とともにプレス成形されることで、最終形状になり得る。従って、金属樹脂複合体1の成形精度が向上し得る。
【0064】
金属樹脂複合体1において、金属板10と樹脂材20との間に接着層を設けてもよい。この場合、接着層を設けることで、金属部材10と樹脂材20とを強固に一体成形することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 金属樹脂複合体
2 底壁部
3 側壁部
3a 段差部
4 フランジ部
5 第1リブ
6A~6E 第2リブ
10 金属板(金属部材)
20 樹脂材
20a 端面
50 装置
80 金型セット
90 キャップ(成形補助部品)
90a,90b 角キャップ
91 キャップ底壁
91a 上面
91b 下面
92 キャップ側壁
92a キャップ端面
92b 外面
93 第1突条
94A~94E 第2突条
95A~95E 貫通孔
96 ざぐり
97 第1プレス面
100 金型
110 上型
110a パンチ
110b ホルダー
111 第1成形上面
112 第2成形上面
112a 段差
113 第3成形上面
114 第1溝部
115A~115E 第2溝部
116A~116E ねじ穴
117 第2プレス面
118 角部
120 下型
121 第1成形下面
122 第2成形下面
123 第3成形下面
130 駆動部
140 加熱部
150 ねじ
160 磁石
C キャビティ