IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公立大学法人首都大学東京の特許一覧

<>
  • 特許-ポーラスアルミナ板の製造方法 図1
  • 特許-ポーラスアルミナ板の製造方法 図2
  • 特許-ポーラスアルミナ板の製造方法 図3
  • 特許-ポーラスアルミナ板の製造方法 図4
  • 特許-ポーラスアルミナ板の製造方法 図5
  • 特許-ポーラスアルミナ板の製造方法 図6
  • 特許-ポーラスアルミナ板の製造方法 図7
  • 特許-ポーラスアルミナ板の製造方法 図8
  • 特許-ポーラスアルミナ板の製造方法 図9
  • 特許-ポーラスアルミナ板の製造方法 図10
  • 特許-ポーラスアルミナ板の製造方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】ポーラスアルミナ板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/04 20060101AFI20240925BHJP
   C25D 11/00 20060101ALI20240925BHJP
   C25D 11/16 20060101ALI20240925BHJP
   C25D 11/24 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
C25D11/04 302
C25D11/00 308
C25D11/16 301
C25D11/24 302
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020161290
(22)【出願日】2020-09-25
(65)【公開番号】P2022054224
(43)【公開日】2022-04-06
【審査請求日】2023-06-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔1〕 ▲1▼発行日 令和1年9月26日 ▲2▼刊行物 日本化学会秋季事業 第9回CSJ化学フェスタ2019要旨集 公益社団法人日本化学会 発行(Web公開URL:https://www.csj.jp/festa/2019/ https://festa.csj.jp/program_list.php?theme=&theme_1=%E3%83%95%E3%82%A7%E3%82%B9%E3%82%BF%E4%BC%81%E7%94%BB&theme_2=%E5%85%AC%E9%96%8B%E4%BC%81%E7%94%BB&theme_3=%E5%AD%A6%E7%94%9F%E3%83%9D%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E4%BC%81%E7%94%BB&category=&enty=2019&entmd=&pubttl=&allpresenter=&program_no=&enthms_s=&enthms_e=&page=29 <資 料>第9回CSJ化学フェスタ2019概要及び予稿集公開ウェブページ <資 料>第9回CSJ化学フェスタ2019予稿集掲載 研究要旨 〔2〕 ▲1▼開催日(公開日) 令和1年10月15日(会期 令和1年10月15日~17日) ▲2▼集会名、開催場所 日本化学会秋季事業 第9回CSJ化学フェスタ2019 公益社団法人日本化学会 主催 タワーホール船堀1階展示ホール <資 料>第9回CSJ化学フェスタ2019日程表及びプログラム
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】柳下 崇
(72)【発明者】
【氏名】益田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】白野 直斗
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-073127(JP,A)
【文献】特開2008-063639(JP,A)
【文献】特開昭62-185898(JP,A)
【文献】特開2004-323975(JP,A)
【文献】特開2009-224146(JP,A)
【文献】特開2002-353432(JP,A)
【文献】特開2013-057102(JP,A)
【文献】特開2018-003048(JP,A)
【文献】特開2006-176827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/04
C25D 11/00
C25D 11/16
C25D 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム基板と、該アルミニウム基板の一面側を陽極酸化して形成したポーラスアルミナ層とを有し、前記ポーラスアルミナ層には、厚み方向に延びる複数の細孔が規則的に配列形成されているポーラスアルミナ板の製造方法であって、
前記アルミニウム基板の一面側に、前記細孔の形成パターンを象ったマスク体を形成するマスク体形成工程と、
前記アルミニウム基板を陽極酸化して、厚み方向に延びる複数の細孔が規則的に配列形成された前記ポーラスアルミナ層を形成する細孔形成工程と、を有することを特徴とするポーラスアルミナ板の製造方法。
【請求項2】
前記マスク体形成工程は、前記アルミニウム基板の一面側にレジスト樹脂からなる前記マスク体を形成した後、前記アルミニウム基板の一面側をエッチングすることによって前記アルミニウム基板の一面側に凹部を形成する工程であることを特徴とする請求項1に記載のポーラスアルミナ板の製造方法。
【請求項3】
前記マスク体形成工程は、前記アルミニウム基板の一面側に陽極酸化によってポーラスアルミナ中間層を形成し、前記ポーラスアルミナ中間層にレジスト樹脂からなる前記マスク体を形成した後、前記ポーラスアルミナ中間層をエッチングすることによって前記ポーラスアルミナ中間層に凹部を形成する工程であることを特徴とする請求項1に記載のポーラスアルミナ板の製造方法。
【請求項4】
前記マスク体形成工程は、凹部を形成した後のポーラスアルミナ中間層を溶解除去する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のポーラスアルミナ板の製造方法。
【請求項5】
前記マスク体は、前記細孔の形成パターンを象ったスタンプを前記レジスト樹脂に転写することによって形成することを特徴とする請求項2または3に記載のポーラスアルミナ板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の細孔が形成されたポーラスアルミナ板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムを酸性液中で陽極酸化することにより得られる陽極酸化ポーラスアルミナは、サイズの均一な細孔が配列したホールアレー構造を有するために、フィルターや触媒担体、鋳型材料等、様々な応用が期待できる機能性材料である。こうした陽極酸化ポーラスアルミナの特徴の一つに、適切な条件下で陽極酸化を行うと細孔が自己組織化的に規則配列を形成する(自己組織化プロセス)ことが挙げられる。
【0003】
陽極酸化ポーラスアルミナの細孔の周期は、陽極酸化時の電圧に依存にして変化するため、各電圧条件下で電解液の種類、濃度、液温、陽極酸化時間等、各種条件を最適化することによって、細孔が規則的に配列された陽極酸化ポーラスアルミナの作製が可能であることが明らかとなっている。
【0004】
例えば、最適化された条件下でアルミニウム材料に長時間陽極酸化を行った後、形成された酸化皮膜(ポーラスアルミナ)を選択的に溶解除去すれば、規則的な窪みパターンが形成されたアルミニウム材料を得ることができる。このような窪みは、陽極酸化の際に細孔発生の開始点として機能することから、上述したように酸化皮膜を溶解除去したアルミニウム材料を用いて、再度陽極酸化を行うことによって、表面から厚み方向に延びる細孔が規則配列されたポーラスアルミナを得ることができる(例えば、非特許文献1)。
【0005】
しかしながら、上述したような二段階の陽極酸化プロセスで、表面から細孔が規則配列したポーラスアルミナを得るためには、一段目の陽極酸化を長時間行う必要があり、スループットが低いといった課題があった。また、細孔が三角格子状や四角格子状など、理想的な形状になるように配列したポーラスアルミナを得ることも困難である。更に、Si等の基板上に形成したスパッタ薄膜のような厚みの薄いアルミニウム材料では、一段目の長時間の陽極酸化が、厚みが薄いことによって行えないといった、アルミニウム材料の厚みの制約もあった。
【0006】
一方、陽極酸化に用いるアルミニウム材料の表面にあらかじめテクスチャリング処理を施し、細孔発生の開始点として機能する窪みを形成することによって、細孔が規則的に配列されたポーラスアルミナを作製することもできる(例えば、非特許文献2)。こうした作製方法によれば、上述した自己組織化プロセスの様のように、適切な条件下で長時間陽極酸化を行う必要がないため、効率的に高規則性のポーラスアルミナを得ることができる。
【0007】
さらに、電子ビームリソグラフィー等の人工的な手法によってテクスチャリングに用いるモールドを作製することによって、自己組織化プロセスでは形成が困難な、細孔が正三角形格子状や正四角形格子状など、理想形状配列されたポーラスアルミナを作製することが可能であるとされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】H. Masuda and M. Satoh, Jpn. J. Appl. Phys., 35, L126 (1996)
【文献】H. Masuda, H. Yamada, M. Satoh, H. Asoh, M. Nakao, T. Tamamura, Appl. Phys. Lett., 71, 2770 (1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献2に開示されたポーラスアルミナの作製方法では、アルミニウム材料の表面に窪みを形成するためのテクスチャリングは、モールドをアルミニウム材料の表面に機械的に押し付けるために、高い圧力が必要であるという課題があった。
例えば、500nmの三角格子状の窪みパターンをアルミニウム材料の表面に1cmのサイズで形成するためには、油圧プレスを用いてモールドに2トン程度の高い圧力を付与する必要がある。このため、細孔が規則的に配列されたポーラスアルミナを大面積で作製することは難しく,また,モールドの消耗もあることから低コストで効率的に作製することが困難であった。
【0010】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、細孔が規則的に配列されたポーラスアルミナ板を、低コストで効率的に製造することが可能なポーラスアルミナ板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のポーラスアルミナ板の製造方法は、アルミニウム基板と、該アルミニウム基板の一面側を陽極酸化して形成したポーラスアルミナ層とを有し、前記ポーラスアルミナ層には、厚み方向に延びる複数の細孔が規則的に配列形成されているポーラスアルミナ板の製造方法であって、前記アルミニウム基板の一面側に、前記細孔の形成パターンを象ったマスク体を形成するマスク体形成工程と、前記アルミニウム基板を陽極酸化して、厚み方向に延びる複数の細孔が規則的に配列形成された前記ポーラスアルミナ層を形成する細孔形成工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明では、前記マスク体形成工程は、前記アルミニウム基板の一面側にレジスト樹脂からなる前記マスク体を形成した後、前記アルミニウム基板の一面をエッチングすることによって前記アルミニウム基板の一面側に凹部を形成する工程であってもよい。
【0018】
また、本発明では、前記マスク体形成工程は、前記アルミニウム基板の一面側に陽極酸化によってポーラスアルミナ中間層を形成し、前記ポーラスアルミナ中間層にレジスト樹脂からなる前記マスク体を形成した後、前記ポーラスアルミナ中間層をエッチングすることによって前記ポーラスアルミナ中間層に凹部を形成する工程であってもよい。
【0019】
また、本発明では、前記マスク体形成工程は、凹部を形成した後のポーラスアルミナ中間層を溶解除去する工程を含んでいてもよい。
【0020】
また、本発明では、前記マスク体は、前記細孔の形成パターンを象ったスタンプを前記レジスト樹脂に転写することによって形成してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、細孔が規則的に配列されたポーラスアルミナ板を、低コストで効率的に製造することが可能なポーラスアルミナ板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態のポーラスアルミナ板を示す要部拡大断面図である。
図2】(a)本実施形態のポーラスアルミナ層の表面の様子を示す顕微鏡写真である。(b)本実施形態のポーラスアルミナ層の厚み方向に沿った断面の様子を示す顕微鏡写真である。
図3】第1実施形態のポーラスアルミナ板の製造方法を段階的に示した要部拡大模式図である。
図4】第2実施形態のポーラスアルミナ板の製造方法を段階的に示した要部拡大模式図である。
図5】第3実施形態のポーラスアルミナ板の製造方法を段階的に示した要部拡大模式図である。
図6】第4実施形態のポーラスアルミナ板の製造方法を段階的に示した要部拡大模式図である。
図7】第5実施形態のポーラスアルミナ板の製造方法を段階的に示した要部拡大模式図である。
図8】実施例1で得られたポーラスアルミナ板の表面顕微鏡写真である。
図9】実施例2で得られたポーラスアルミナ板の表面顕微鏡写真である。
図10】実施例3で得られたポーラスアルミナ板の表面顕微鏡写真である。
図11】実施例4で得られたポーラスアルミナ板の表面顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態のポーラスアルミナ板、およびその製造方法について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0024】
(ポーラスアルミナ板)
図1は、本発明の一実施形態のポーラスアルミナ板を示す要部拡大断面図である。
ポーラスアルミナ板10は、アルミニウム基板11と、このアルミニウム基板11の一面11a側に形成されたポーラスアルミナ層12とを有している。そして、ポーラスアルミナ層12には、ポーラスアルミナ板10の厚み方向tに延びる複数の細孔14が規則的に配列形成されている。
【0025】
アルミニウム基板11は、純アルミニウム、例えば4Nアルミニウムから構成される。なお、アルミニウム基板11は、アルミニウム以外の金属を含むアルミニウム合金から構成されていてもよい。アルミニウム基板11は、厚みが1mm以上の厚板であっても、厚みが0.1mm~0.5mm程度で湾曲可能な薄板であってもよい。また、アルミニウム基板11は、例えば円筒形に形成したアルミニウム材料であってもよい。
【0026】
ポーラスアルミナ層12は、アルミニウム基板11を陽極酸化することによって形成される多孔質酸化アルミニウム(Al)からなる。ポーラスアルミナ層12は、陽極酸化時の条件によって様々な厚みにすることができるが、例えば、1μm~100μm程度の厚みになるように形成されていればよい。
【0027】
図2(a)は、本実施形態のポーラスアルミナ層の表面の様子を示す顕微鏡写真である。また、図2(b)は、本実施形態のポーラスアルミナ層の厚み方向に沿った断面の様子を示す顕微鏡写真である。
ポーラスアルミナ層12に形成される細孔14は、ポーラスアルミナ層12の面広がり方向に沿って、高い規則的をもって配列形成されている。本実施形態では、細孔14は、正三角形格子状(理想三角格子状)に配列形成されている。
【0028】
互いに隣接する細孔14どうしの配列間隔は、例えば100nm以上、3μm以下の範囲になるように形成すればよい。
また、こうした細孔14の形成範囲は、例えば1cm以上である。本実施形態のポーラスアルミナ板10は、形成範囲1cm以上の大面積であっても、細孔14を備えたポーラスアルミナ層12を容易に形成できる。
【0029】
細孔14は、高アスペクト比の孔であり、直径(開口径)は、例えば0.01μm以上、2μm以下となるように形成されている。また、細孔14の厚み方向に沿った深さは、例えば0.5μm以上、1000μm以下となるように形成されている。
【0030】
なお、本実施形態では、細孔14を正三角形格子状(理想三角格子状)に配列形成した例を示したが、これ以外にも、正四角形格子状(理想四角格子状)など、所定の間隔で規則的に細孔14が配列されていれば、その配列形態は限定されるものではない。
【0031】
(ポーラスアルミナ板の製造方法:第1実施形態)
図3は、第1実施形態のポーラスアルミナ板の製造方法を段階的に示した要部拡大模式図である。
本実施形態では、まず、アルミニウム基板11を用意し、このアルミニウム基板11の一面11aに、後工程で形成する細孔の形成パターンを象ったマスク体21を直接形成する(マスク体形成工程)。
【0032】
マスク体21の形成方法としては、細孔の形成パターンを象ったスタンプSにマスク体21を構成するレジスト樹脂を設け、このレジスト樹脂をアルミニウム基板11の一面11aに転写して硬化させることによって、細孔の形成予定部分だけアルミニウム基板11の一面11aを露呈させるマスク開口部を有するマスク体21を形成することができる(図3(a)参照)。
【0033】
本実施形態では、アルミニウム基板11として、4Nアルミニウム板を用いた。また、マスク体21を構成するレジスト樹脂としては、紫外線硬化性樹脂を用い、アルミニウム基板11への転写後に紫外線照射によって硬化させた。
【0034】
なお、マスク体21の構成材料としては、紫外線硬化性樹脂以外にも、熱硬化性樹脂、化学反応硬化性樹脂など、各種有機材料を用いることができる。また、マスク体21の構成材料として、上述した有機材料以外にも、無機材料を用いることもできる。
【0035】
また、本実施形態では、スタンプSとして、シリコン樹脂を用いた。シリコン樹脂は、加熱によって容易に硬化する(脱水縮合反応)ため、任意のサイズの細孔の形成パターンを象った形状を容易に形成することができる。また、硬化後のシリコン樹脂は柔軟であるため、アルミニウム基板11の一面11aが平面以外にも湾曲面である場合など、各種の面形状に追従してレジスト樹脂を転写することができる。
【0036】
次に、マスク体21を形成したアルミニウム基板11を陽極酸化して、アルミニウム基板11の一面11aに、細孔14を備えたポーラスアルミナ層12を形成する(細孔形成工程)。アルミニウム基板11の陽極酸化には、例えば、リン酸およびクエン酸の混合溶液(電解液)を用い、アルミニウム基板11を陽極として電気分解を行う。
【0037】
これにより、アルミニウム基板11の一面11aが陽極酸化されてポーラスアルミナ層12が形成されるが、この時、マスク体21で覆われない細孔の形成パターン部分(マスク開口部)はアルミニウム基板11の一面11aが露呈されているため、このアルミニウムの露呈部分から細孔14の発生が誘導される。
【0038】
そして、陽極酸化の進行によって厚み方向に延びる、規則的に配列された複数の細孔14がポーラスアルミナ層12に形成される(図3(b)参照)。なお、陽極酸化の電解液としては、リン酸およびクエン酸の混合溶液以外にも、例えば、希硫酸水溶液,リン酸水溶液,シュウ酸水溶液などを用いることもできる。
【0039】
以上のような本実施形態のポーラスアルミナ板の製造方法によれば、アルミニウム基板11の一面11aに細孔の形成パターンを象ったマスク体21を形成した後、アルミニウム基板11の陽極酸化を行うだけで、規則的に配列された複数の細孔14を有するポーラスアルミナ層12を備えたポーラスアルミナ板10を得ることができる。
【0040】
本実施形態では、従来のように、高い圧力をアルミニウム基板に付与してテクスチャを付けるなどの工程が必要無いので、規則的に配列された複数の細孔14を有するポーラスアルミナ層12を備えた、大面積のポーラスアルミナ板10を容易に、かつ低コストに製造することが可能になる。
【0041】
また、細孔の形成パターンを象ったマスク体21を形成する際に、スタンプSを用いた転写によって形成するので、従来の細孔を有するポーラスアルミナ板の製造方法では困難であった、湾曲面を有するアルミニウム基板に対しても、容易に規則的に配列された複数の細孔14を有するポーラスアルミナ層12を形成することが可能になる。
【0042】
(ポーラスアルミナ板の製造方法:第2実施形態)
図4は、第2実施形態のポーラスアルミナ板の製造方法を段階的に示した要部拡大模式図である。
本実施形態では、まず、アルミニウム基板11を用意し、このアルミニウム基板11の一面11aに、後工程で形成する細孔の形成パターンを象ったマスク体21を直接形成する(マスク体形成工程:図4(a)参照)。マスク体21は、スタンプSを用いた転写によって形成すればよい。
【0043】
次に、このマスク体21をエッチングマスクとして、アルミニウム基板11をエッチング液に浸漬してエッチングを行う。エッチング液としては、例えば、リン酸,塩酸,シュウ酸,硝酸,硫酸等の酸を1種類以上含む酸性水溶液を用いることができる。こうしたエッチングによって、マスク開口部(アルミニウム基板11の一面11aが露呈されている部分)に、凹部(窪み)22が形成される(図4(b)参照)。
【0044】
次に、エッチングによって凹部22が形成されたアルミニウム基板11を陽極酸化して、アルミニウム基板11の一面11aに、細孔14を備えたポーラスアルミナ層12を形成する(細孔形成工程)。
【0045】
これにより、アルミニウム基板11の一面11aが陽極酸化されてポーラスアルミナ層12が形成されるが、この時、エッチングによって形成したアルミニウム基板11の一面11aの凹部22から細孔14の発生が誘導される。そして、陽極酸化の進行によって厚み方向に延びる、規則的に配列された複数の細孔14がポーラスアルミナ層12に形成される(図4(c)参照)。
【0046】
なお、上述した第2実施形態では、エッチングによって凹部22を形成したアルミニウム基板11は、マスク体21をアルミニウム基板11に残したまま陽極酸化を行って、複数の細孔14を有するポーラスアルミナ層12を形成しているが、変形例として、マスク体21をエッチングマスクとしてアルミニウム基板11の一面11aに凹部22を形成した後、例えば有機溶媒等を用いてマスク体21を溶解除去してから陽極酸化を行って、複数の細孔14を有するポーラスアルミナ層12を形成することもできる。
【0047】
こうした変形例であっても、アルミニウム基板11に形成された凹部22から細孔14の発生が誘導されるので、陽極酸化の進行によって、厚み方向に延びる規則的に配列された複数の細孔14を備えたポーラスアルミナ層12を形成することができる。
【0048】
(ポーラスアルミナ板の製造方法:第3実施形態)
図5は、第3実施形態のポーラスアルミナ板の製造方法を段階的に示した要部拡大模式図である。
本実施形態では、まず、アルミニウム基板11を用意し、このアルミニウム基板11の一面11aに、陽極酸化によってポーラスアルミナ中間層23を形成する(図5(a)参照)。そして、このポーラスアルミナ中間層23に、スタンプSを用いた転写によって、後工程で形成する細孔の形成パターンを象ったマスク体21を形成する(マスク体形成工程)。
【0049】
次に、このマスク体21が形成されたポーラスアルミナ中間層23を有するアルミニウム基板11を再度、陽極酸化して、アルミニウム基板11の一面11aに、細孔14を備えたポーラスアルミナ層12を形成する(細孔形成工程)。
【0050】
この時、ポーラスアルミナ中間層23のうち、マスク体21から露呈した部分(マスク開口部)から細孔14の発生が誘導される。そして、陽極酸化の進行によって厚み方向に延びる、規則的に配列された複数の細孔14がポーラスアルミナ層12に形成される(図5(b)参照)。
【0051】
本実施形態では、アルミニウム基板11の一面11aに、予め陽極酸化によってポーラスアルミナ中間層23を形成することで、ポーラスアルミナ中間層23の表面の凹凸構造によるアンカー効果で、マスク体21の転写精度を向上させることができる。
【0052】
また、ポーラスアルミナ中間層23は、後工程での細孔14の形成精度を向上させるため、例えば、陽極酸化時の印加電圧が40V程度で作製される100nm周期よりも小さいポーラスアルミナであることが好ましい。また、ポーラスアルミナ中間層23の厚みは、1μm以下にすることが好ましい。
【0053】
(ポーラスアルミナ板の製造方法:第4実施形態)
図6は、第4実施形態のポーラスアルミナ板の製造方法を段階的に示した要部拡大模式図である。
本実施形態では、まず、アルミニウム基板11を用意し、このアルミニウム基板11の一面11aに、陽極酸化によってポーラスアルミナ中間層23を形成する(図6(a)参照)。そして、このポーラスアルミナ中間層23に、後工程で形成する細孔の形成パターンを象ったマスク体21を形成する(マスク体形成工程)。マスク体21は、スタンプSを用いた転写によって形成すればよい。
【0054】
次に、このマスク体21が形成されたポーラスアルミナ中間層23を有するアルミニウム基板11を、例えばクロム酸リン酸水溶液などのアルミナ溶解液に浸漬して、ポーラスアルミナ中間層23のうち、マスク体21のマスク開口部によって露呈する部分だけを選択的に溶解させる。
【0055】
これにより、ポーラスアルミナ中間層23には、細孔の形成パターンを象った凹部23aが形成され、この部分だけアルミニウム基板11の一面11aが露呈される(図6(b)参照)。こうしたポーラスアルミナ中間層23は、後工程の細孔形成工程において、陽極酸化時のマスク体として機能する。
【0056】
次に、このマスク体21が形成されたポーラスアルミナ中間層23を有するアルミニウム基板11を再度、陽極酸化して、アルミニウム基板11の一面11aに、細孔14を備えたポーラスアルミナ層12を形成する(細孔形成工程)。
【0057】
この時、ポーラスアルミナ中間層23に形成された凹部23aによって露呈した部分のアルミニウム基板11から細孔14の発生が誘導される。そして、陽極酸化の進行によって厚み方向に延びる、規則的に配列された複数の細孔14がポーラスアルミナ層12に形成される(図6(c)参照)。
【0058】
なお、上述した第4実施形態の変形例として、アルミナエッチングによってポーラスアルミナ中間層23に、細孔の形成パターンを象った凹部23aを形成した後、更に、リン酸,塩酸,シュウ酸,硝酸,硫酸等の酸を1種類以上含む酸性水溶液をアルミニウムのエッチング液として用いて、ポーラスアルミナ中間層23の凹部23aの形成部分(アルミニウム基板11の一面11aが露呈されている部分)に、凹部(窪み)を形成することもできる。
【0059】
こうした変形例では、細孔形成工程においてアルミニウム基板11の一面11aに形成された凹部から細孔14の発生が誘導されるので、より高精度に細孔14を形成することができる。
【0060】
(ポーラスアルミナ板の製造方法:第5実施形態)
図7は、第5実施形態のポーラスアルミナ板の製造方法を段階的に示した要部拡大模式図である。
本実施形態では、まず、アルミニウム基板11を用意し、このアルミニウム基板11の一面11aに、陽極酸化によってポーラスアルミナ中間層23を形成する(図7(a)参照)。そして、このポーラスアルミナ中間層23に、後工程で形成する細孔の形成パターンを象ったマスク体21を形成する(マスク体形成工程)。マスク体21は、スタンプSを用いた転写によって形成すればよい。
【0061】
次に、このマスク体21が形成されたポーラスアルミナ中間層23を有するアルミニウム基板11を、例えばクロム酸リン酸水溶液などのアルミナ溶解液に浸漬して、ポーラスアルミナ中間層23のうち、マスク体21のマスク開口部によって露呈する部分だけを選択的に溶解させる。
【0062】
これにより、ポーラスアルミナ中間層23には、細孔の形成パターンを象った凹部23aが形成され、この部分だけアルミニウム基板11の一面11aが露呈される(図7(b)参照)。
【0063】
次に、このマスク体21が形成されたポーラスアルミナ中間層23を有するアルミニウム基板11を再度、陽極酸化して、アルミニウム基板11の一面11aのうち、ポーラスアルミナ中間層23の凹部23aによって露呈する部分に、凹状のポーラスアルミナ中間層24を形成する(図7(c)参照)。
【0064】
次に、有機溶媒を用いてマスク体21を溶解除去し、更に、例えばクロム酸リン酸水溶液などのアルミナ溶解液を用いて、ポーラスアルミナ中間層23およびポーラスアルミナ中間層24を溶解除去する。これにより、一面11aに凹部(窪み)22が形成されたアルミニウム基板11が形成される(図7(d)参照)。
【0065】
次に、凹部22が形成されたアルミニウム基板11を陽極酸化して、アルミニウム基板11の一面11aに、細孔14を備えたポーラスアルミナ層12を形成する(細孔形成工程)。
【0066】
これにより、アルミニウム基板11の一面11aが陽極酸化されてポーラスアルミナ層12が形成されるが、この時、エッチングによって形成したアルミニウム基板11の一面11aの凹部22から細孔14の発生が誘導される。そして、陽極酸化の進行によって厚み方向に延びる、規則的に配列された複数の細孔14がポーラスアルミナ層12に形成される(図7(e)参照)。
【0067】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例
【0068】
(実施例1)
ディップコーティング法によって表面にネオプレン薄膜を形成した1μmピッチのピラーアレーパターンが形成されたポリジメチルシロキサン製スタンプを作成した。このスタンプを用いて、電解研磨を行った後にポーラスアルミナ膜を形成した4Nアルミニウム基板に押し付けることによって、細孔の形成パターンを象ったネオプレンマスクを、ポーラスアルミナ膜の表面に転写した。
【0069】
その後、液温50℃の7M塩酸に1秒間浸漬することにより、マスク開口部から露呈している部分のアルミニウム基板を溶解し、アルミニウム基板の一面に形成する細孔のパターンを象った凹部(窪み)の形成を行った。そして、凹部形成を行ったアルミニウム基板を、2mMリン酸、0.3Mクエン酸の混合浴中で、印加電圧400V、浴温10℃において30分間陽極酸化を行い、1μm周期の三角形理想配列の細孔を備えたポーラスアルミナ板を得た。
実施例1で得られたポーラスアルミナ板の表面顕微鏡写真を図8に示す。
【0070】
(実施例2)
電解研磨を行った4Nアルミニウム基板を、0.3Mシュウ酸浴中で、印加電圧40V、浴温17℃において、5分間陽極酸化を行い、ポーラスアルミナ中間層の形成を行った。ディップコーティング法によって表面にネオプレン薄膜を形成した形成ピッチ1μmのピラーアレーパターンが形成されたポリジメチルシロキサン製スタンプを、ポーラスアルミナ中間層の表面に押し付けることによってネオプレンマスクをポーラスアルミナ中間層の表面に転写した。
【0071】
その後、クロム酸リン酸水溶液中に2分間浸漬させることで、マスク開口部のアルミナ部分を選択的に溶解除去し、部分的にアルミニウム基板を露出させた。この後、2mMリン酸、0.3Mクエン酸の混合浴中で、印加電圧400V、浴温10℃において30分間陽極酸化を行った。陽極酸化の後、クロム酸リン酸中ですべての酸化物層(ポーラスアルミナ中間層)を溶解除去し、凹部が形成されたアルミニウム基板に再度、同条件下で陽極酸化を行うことで、1μm周期の四角形理想配列の細孔を備えたポーラスアルミナ板を得た。
実施例2で得られたポーラスアルミナ板の表面顕微鏡写真を図9に示す。
【0072】
(実施例3)
電解研磨を行った4Nアルミニウム基板を、0.3Mシュウ酸浴中で、印加電圧40V、浴温17℃において、5分間陽極酸化を行い、ポーラスアルミナ中間層の形成を行った。ディップコーティング法によって表面にネオプレン薄膜を形成した形成ピッチ2μmのピラーアレーパターンが形成されたポリジメチルシロキサン製スタンプをポーラスアルミナ中間層の表面に押し付けることによって、ポーラスアルミナ中間層の表面にネオプレンマスクを転写した。
【0073】
その後、クロム酸リン酸水溶液中に2分間浸漬させることで、マスク開口部のアルミナ部分を選択的に溶解除去し、部分的にアルミニウム基板を露出させた。この後、0.2mMリン酸、0.3Mクエン酸を含む有機溶媒と水の混合浴中で、印加電圧800V、浴温16℃において1時間陽極酸化を行い、アルミニウム基板が露出した部分にポーラスアルミナ中間層の形成を行った。陽極酸化の後、クロム酸リン酸中ですべての酸化物層を溶解除去し、2μm周期で凹部が形成されたアルミニウム基板に再度、同条件下で陽極酸化を行うことで、2μm周期の三角形理想配列の細孔を備えたポーラスアルミナ板を得た。
実施例3で得られたポーラスアルミナ板の表面顕微鏡写真を図10に示す。
【0074】
(実施例4)
電解研磨を行った4Nアルミニウム基板を、0.3Mシュウ酸浴中で、印加電圧40V、浴温17℃において、5分間陽極酸化を行い、ポーラスアルミナ中間層の形成を行った。ディップコーティング法によって表面にネオプレン薄膜を形成した形成ピッチ500nmのピラーアレーパターンが形成されたポリジメチルシロキサン製スタンプをポーラスアルミナ中間層の表面に押し付けることによって、ポーラスアルミナ中間層の表面にネオプレンマスクを表面に転写した。
【0075】
その後、クロム酸リン酸水溶液中に2分間浸漬させることで、マスク開口部のアルミナ部分を選択的に溶解除去し、部分的にアルミニウム基板を露出させた。この後、0.1Mリン酸浴中で、印加電圧200V、浴温0℃において1時間陽極酸化を行い、アルミニウム基板が露出した部分にポーラスアルミナ中間層の形成を行った。陽極酸化の後、クロム酸リン酸中ですべての酸化物層を溶解除去し、500μm周期で凹部が形成されたアルミニウム基板に再度、同条件下で陽極酸化を行うことで、500μm周期の三角形理想配列の細孔を備えたポーラスアルミナ板を得た。
実施例4で得られたポーラスアルミナ板の表面顕微鏡写真を図11に示す。
【符号の説明】
【0076】
10…ポーラスアルミナ板
11…アルミニウム基板
12…ポーラスアルミナ層
14…細孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11