(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】粉体シール材
(51)【国際特許分類】
D03D 27/00 20060101AFI20240925BHJP
G03G 15/08 20060101ALI20240925BHJP
D03D 25/00 20060101ALI20240925BHJP
D06C 23/02 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
D03D27/00 E
G03G15/08 233
D03D27/00 A
D03D25/00 102Z
D06C23/02 B
(21)【出願番号】P 2020166724
(22)【出願日】2020-10-01
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】596024426
【氏名又は名称】槌屋ティスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162341
【氏名又は名称】瀬崎 幸典
(72)【発明者】
【氏名】大原 康之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 旭
(72)【発明者】
【氏名】橘田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】中山 勝
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-281991(JP,A)
【文献】特開平11-061101(JP,A)
【文献】特開2003-053277(JP,A)
【文献】特開2003-140465(JP,A)
【文献】特許第3646048(JP,B2)
【文献】特開平07-118993(JP,A)
【文献】国際公開第2017/216975(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 25/00
D03D 27/00
G03G 15/08
D06C 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに交差する方向に延びる複数本の経糸及び緯糸を織り上げて得られる基布
上に立設された複数本のパイル糸からなる粉体シール材であって、
前記緯糸に織り込まれて前記
経糸方向に沿ってそれぞれ並んで立設された
前記パイル糸
からなる第1パイル列と前記第1パイル列に対してそれぞれの前記パイル糸が千鳥状の関係となるように
立設された第2パイル列とが一組のパイル列を構成し、前記
経糸は、前記第1パイル列と前記第2パイル列の間には織り込まれず、前記一組のパイル列の間に複数本を一組として織り込まれている、
ことを特徴とする
粉体シール材。
【請求項2】
前記緯糸は、繊度が500デニール以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の粉体シール材。
【請求項3】
前記パイル糸は、単糸繊度3~8デニールで繊度が150デニール以上500デニール以下である低摩擦係数と耐摩耗性を有する合成樹脂繊維である、
ことを特徴とする請求項1
又は2に記載の粉体シール材。
【請求項4】
前記パイル糸は、前記経糸と平行する方向に毛倒しされている、
ことを特徴とする請求項1ないし
3のいずれか1項に記載の粉体シール材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体シール材に関する。
【背景技術】
【0002】
微細粉粒体に接触する移動体に対向する支持体に取り付けられ、地糸をタテ編みして得られる編布より形成された基布と、該基布上に起毛され、移動体に摺接してその表面に付着した微細粉粒体を掻き取ることにより移動体表面をクリーニングするパイル糸とを備える微細粉粒体のクリーニング材が知られている(特許文献1)。
【0003】
微細粉粒体に接触する可動体と該可動体のハウジングとの所定の隙間を、可動体あるいはハウジング面に接着して該可動体の可動を妨げることなく前記粉粒体のもれをシールするシール材であって、摺動する羽毛となるパイル糸とそれを支える平織地組織の基布から構成されたパイル織物を主体とし、羽毛のパイル糸が単糸繊度6デニール以上の低摩擦係数と耐摩耗性を有する合成樹脂繊維であり、かつ羽毛の高さが1.5mm以上で羽毛の立毛密度が4万本/In2以上であり、基布裏面に羽毛の抜けを防ぐコーティング層を有し、さらにパイル糸が加熱により一定方向に毛倒しされてなる微細粉粒体のもれ防止用のシール材も知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-141263号公報
【文献】特開2005-37955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、粉体の外部への漏出を抑制することができる粉体シール材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、請求項1記載の粉体シール材は、
互いに交差する方向に延びる複数本の経糸及び緯糸を織り上げて得られる基布上に立設された複数本のパイル糸からなる粉体シール材であって、
前記緯糸に織り込まれて前記経糸方向に沿ってそれぞれ並んで立設された前記パイル糸からなる第1パイル列と前記第1パイル列に対してそれぞれの前記パイル糸が千鳥状の関係となるように立設された第2パイル列とが一組のパイル列を構成し、前記経糸は、前記第1パイル列と前記第2パイル列の間には織り込まれず、前記一組のパイル列の間に複数本を一組として織り込まれている、
ことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の粉体シール材において、
前記緯糸は、繊度が500デニール以下である、
ことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の粉体シール材において、
前記パイル糸は、単糸繊度3~8デニールで繊度が150デニール以上500デニール以下である低摩擦係数と耐摩耗性を有する合成樹脂繊維である、
ことを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の粉体シール材において、
前記パイル糸は、前記経糸と平行する方向に毛倒しされている、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、本構成を有しない場合に比して、粉体の外部への漏出を抑制することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、本構成を有しない場合に比して、パイル糸を毛倒れしやすくすることができる。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、本構成を有しない場合に比して、単位当たりの糸密度を増加させることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、本構成を有しない場合に比して、粉体の摺接部への侵入を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】粉体シール材の基布の織構成と基布上の各パイルの立設状態を示す簡略斜視図である。
【
図2】(a)は粉体シール材の拡大断面模式図、(b)は粉体シール材の基布の織構成と基布上の各パイルの配置状態と示す簡略平面図である。
【
図3】(a)は毛倒しされた粉体シール材の拡大断面模式図、(b)はヒートローラによる毛倒しの工程を説明する模式図である。
【
図4】(a)は本実施形態に係る粉体シール材におけるパイル列の配置とトナーの侵入を説明する模式図、(b)は比較例の粉体シール材におけるパイル列の配置とトナーの侵入を説明する模式図である。
【
図5】(a)はトナーを用いて画像形成を行う画像形成装置の現像装置の断面模式図、(b)は粉体シール材の粉体シール機能を説明する模式図である。
【
図6】(a)は実施例1の粉体シール材の拡大断面写真、(b)は実施例2の粉体シール材の拡大断面写真、(c)は比較例の粉体シール材の拡大断面写真である。
【
図7】実施例におけるパイル糸根元の隙間の大きさの評価結果を示す図である。
【
図8】比較例に係る粉体シール材の基布の織構成と基布上の各パイルの立設状態を示す簡略斜視図である。
【
図9】(a)は比較例に係る粉体シール材の拡大断面模式図、(b)は比較例に係る粉体シール材の基布の織構成と基布上の各パイルの配置状態と示す簡略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に図面を参照しながら、以下に実施形態及び具体例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態及び具体例に限定されるものではない。
また、以下の図面を使用した説明において、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【0016】
(1)
粉体シール材の構成
図1は粉体シール材の基布の織構成と基布上の各パイルの立設状態を示す簡略斜視図、
図2(a)は粉体シール材の拡大断面模式図、(b)は粉体シール材の基布の織構成と基布上の各パイルの配置状態と示す簡略平面図、
図3(a)は毛倒しされた粉体シール材の拡大断面模式図、(b)はヒートローラによる毛倒しの工程を説明する模式図である。
以下本実施形態に係る
粉体シール材1の構成と機能について図面を参照しながら説明する。
【0017】
(1.1)
粉体シール材の全体構成
図1に示すように、
粉体シール材1は、織布よりなる平面視で矩形状をなす基布10と、基布10に複数のパイル糸21を略U字状をなすように織り込んで基布10上に立設された摺接部20とを備えている。
【0018】
図2(a)に示すように、基布10の裏面には合成樹脂製のコーティング剤によって構成されたコーティング層13が設けられており、コーティング層13により各パイル21の根元と基布10とが強固に接合されている。コーティング層13の裏面には貼付層30が設けられており、この貼付層30により粉体シール材1が粉体を使用する例えば画像形成装置に貼着されるようになっている。
【0019】
(1.2)基布
基布10は、互いに交差する方向に延びる複数本の経糸11及び緯糸12を織り上げて得られる織布である。
経糸11及び緯糸12には耐久性、柔軟性の高い糸が用いられており、このような糸としてはフィラメント糸、紡績糸等が挙げられる。
経糸11及び緯糸12を形成する繊維としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、アラミド樹脂、ポリエステル、ナイロン、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等よりなる合成繊維、レーヨン等よりなる半合成繊維、綿等よりなる天然繊維等が挙げられる。
【0020】
経糸11及び緯糸12の形態としては、特に限定されないが、本実施形態においては経糸11は、一例として、その太さが235T(デシテックス)/48F(フィラメント)(48本のマルチフィラメント全体で235dtex)となるように形成されたポリエチレンテレフタレート(PET)のマルチフィラメント糸を用いている。
【0021】
また、経糸11は、
図2(b)に示すように、緯糸12に織り込まれて経糸11方向(
図2中 A方向)に沿ってそれぞれ並んで立設された複数本のパイル糸21からなるパイル列22と、パイル列22に対してそれぞれのパイル糸21が千鳥状の関係となるように立設されたパイル列23の間には配置されず、パイル列22とパイル列23が一組となったパイル列24の間に複数本を一組として織り込まれている。本実施形態においては、2本を一組として織り込まれている。
これにより、後述するパイル列22とパイル列23の間に経糸11が配置される比較例の粉体シール材1Aに比べて、パイル列22とパイル列23が緯糸12方向により隣接し、パイル列22とパイル列23の間に隙間が発生しにくくなっている。特にパイル糸21の根元における緯糸12に交差する方向の隙間をより減少させることができる。
【0022】
また、本実施形態においては、その太さが235T/48Fという細い経糸11をパイル列22とパイル列23の間には織り込まず、パイル列22とパイル列23が一組となったパイル列24の間に複数本を一組として織り込むことで、それぞれのパイル列22、23の間に織り込む場合に比べて、基布10の経糸密度が高くなり、パイル列24間の間隙は広がっている。
【0023】
緯糸12には、その太さが500デニール以下の合成繊維を用いている。一例として、その太さが英式綿番手ST20/1となるように形成されたポリエチレンテレフタレート(PET)の紡績糸を用いている。緯糸12は、その太さが235T/48Fという細い経糸11に合わせて、その太さが英式綿番手ST20/1という細い紡績糸を用いているために、パイル糸21の締め付け力が弱くなり、後述するようにパイル糸21の毛倒れ処理が容易になっている。
【0024】
(1.3)摺接部
摺接部20は、
図2(b)に模式的に示すように、緯糸12に織り込まれて基布10上に起毛された複数本のパイル糸21の互いに緯糸12方向に隣り合うパイル糸21が千鳥状の関係となるように互い違いに経糸12方向(
図2中 A方向)に沿ってそれぞれパイル列22、パイル列23として並んで一組のパイル列24を構成し、一組のパイル列24が緯糸12方向に亘って隣り合うように配列されて構成されている。
【0025】
パイル糸21は、単糸繊度3~8デニールで繊度が150デニール以上500デニール以下である低摩擦係数と耐摩耗性を有する合成樹脂繊維が用いられている。単糸繊度が3デニールより細く繊度150デニール未満では、パイル糸21として強度が不足し、単糸繊度が8デニールより太く繊度500デニールを超える場合は、後述するパイル糸21の毛倒れ処理が困難になる。
低摩擦係数と耐摩耗性を有する合成樹脂繊維としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等が挙げられる。
【0026】
本実施形態においては、パイル糸21として、単糸繊度5.6デニールで繊度が250T(デシテックス)/40F(フィラメント)(40本のマルチフィラメント全体で250dtex)となるように形成されたテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)のマルチフィラメント糸を用いてパイル列を構成する一束を細くすることにより緻密に植毛している。
【0027】
一組のパイル列24は、
図2に示すように、緯糸12に織り込まれて経糸11方向(
図2中 A方向)に沿ってそれぞれ並んで立設された複数本のパイル糸21からなるパイル列22と、パイル列22に対してそれぞれのパイル糸21が千鳥状の関係となるように立設されたパイル列23からなり、緯糸12方向に亘って2本の経糸11を挟んで隣り合うように配列されている。
【0028】
図3(a)に模式的に示すように、パイル糸21は基布10に対し経糸11と平行する方向(
図3(a)中 A方向)に毛倒しされている。毛倒しは
図3(b)に示すように、パイル織した織物すなわち
図2(a)に示す直立のパイル糸21を有する基布10を、加熱した一対のヒートローラ50に通すことによりなされる。例えば、100~150℃に加熱した溝深さ1~3mmの多数の溝51Aを有する溝ロ-ラ-51と、80~120℃に加熱したフラットロ-ラ-52の間に、パイル糸21側を溝ロ-ラ-51側にして通すことにより
図3(a)に示す毛倒しされたパイル糸21の状態の基布10に加工することができる。
【0029】
(1.3)コーティング層
コーティング層13としては、硬化した層が柔軟性を有する、ゴム系溶剤型接着剤、ホットメルト型接着剤、あるいは接着性樹脂等が使用される。本実施形態においては、水溶性の合成樹脂エマルジョンにより形成されたコーティング層13が設けられている。
水溶性の合成樹脂エマルジョンとしては、素材との接着性、汎用性等の観点から、アクリル合成樹脂系エマルジョンもしくは酢酸ビニル合成樹脂系エマルジョンよりなるコーティング剤が好適に用いられ、基布10を形成する経糸11と緯糸12の間に含浸されてほつれを防止するとともに、パイル糸21と基布10とを接合している。
【0030】
基布10にコーティング剤を塗布する方法は特に限定されるものでなく、例えば、ナイフコーティング法、ロールコーティング法、スプレーコーティング法などを挙げることができる。次いで、熱処理することにより、コーティング層13を形成することができる。
【0031】
(1.4)貼付層
貼付層30はフォーム材により形成され、粉体シール材1に弾力性を付与し、摺接層20を回転体に隙間なく十分に接触させるように設けられている。特に、パイル糸21が斜毛された摺接層20は、全体の厚みが薄くなるとともに、パイル糸21による弾力性が低減し、特に曲面状に湾曲させた状態で回転体に接触させると隙間が形成されやすくなるためである。貼付層30を形成するフォーム材としては、弾力性及び耐熱性を有するとともに、変形(へたり)に対する耐久性が高く、接着剤で接着可能な材料より形成されたものを用いることが好ましい。
【0032】
特に、フォーム材には、JIS K 6400の硬さ試験A法に準拠する25%圧縮荷重値が、0.3~3MPaであるものを使用することが好ましく、0.5~2MPaであるものを使用することがより好ましい。フォーム材の圧縮荷重値が0.3MPaより低い場合、回転体に摺接層20を十分に摺接させることができなくなる。また、圧縮荷重値が3MPaよりも高い場合、回転体と摺接層20との間で発生する摺接抵抗が大きくなり、回転体の回転が阻害される虞がある。このようなフォーム材としては、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリプロピレン等の発泡樹脂、エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴム(EPDM)、クロロプレンゴム等の合成ゴム、あるいは天然ゴム、オレフィン系、スチレン系等の熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0033】
(2)
粉体シール材の作用
図4(a)は本実施形態に係る
粉体シール材1におけるパイル列24の配置とトナーの侵入を説明する模式図、(b)は比較例の粉体シール材1Aにおけるパイル列の配置とトナーの侵入を説明する模式図、
図5(a)はトナーを用いて画像形成を行う画像形成装置の現像装置の断面模式図、(b)は粉体シール材1の粉体シール機能を説明する模式図、
図8は比較例に係る粉体シール材1Aの基布の織構成と基布上の各パイルの立設状態を示す簡略斜視図、
図9(a)は比較例に係る粉体シール材1Aの拡大断面模式図、(b)は比較例に係る粉体シール材1Aの基布の織構成と基布上の各パイルの配置状態と示す簡略平面図である。
以下、本実施形態に係る
粉体シール材1の作用について画像形成装置における現像装置を利用例に説明する。
【0034】
(2.1)現像装置
現像装置100は、現像ハウジング101、感光体ドラム120に対向して配置された現像ローラ102、現像ハウジング101内の粉体の一例としてのトナーを現像ローラ102側へ供給する供給ローラ103、トナーの層厚を規制する層規制ブレード104、現像ハウジング101に設けられた開口の下縁部に貼り付けられたトナー飛散防止フィルム105、その内側縁1aが層規制ブレード104の両端部104aと突き合わされ(
図5(b)参照)、摺接部20が現像ローラ102の表面と接触して現像ハウジング101に貼り付けられた粉体シール材1で主要部が構成されている。
【0035】
現像ハウジング101の開口部分には、層規制ブレード104、粉体シール材1及びトナー飛散防止フィルム105が現像ローラ102と接触して設けられ現像ハウジング101と連通する閉空間を形成し、現像ハウジング101内には、それぞれイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)のいずれかのトナーが収容されている。
尚、現像ローラ102は、一例として外径が10~20mm程度の円筒状とされ、粉体シール材1は、回転する現像ローラ102のほぼ半周部分に接触するように屈曲して、現像ハウジング101に貼り付けられる(
図5(a)参照)。
【0036】
(2.2)粉体シール材の作用
現像ローラ102は、供給ローラ103により供給され層規制ブレード104で薄層コーティングされたトナーを感光体ドラム120へ搬送する。
そして、層規制ブレード104で規制された大半のトナーは供給ローラ103で現像ハウジング101内に回収されるが、層規制ブレード104の両側端104aにおいては、現像ローラ102の回転とともに横方向に流れ現像ハウジング101の外部へ漏れ出そうとする(
図5(b)中 矢印R参照)。
この状態で、粉体シール材1の摺接部20を形成するパイル糸21が回転する現像ローラ102の表面と摺擦しながら接触して、横方向に流れて漏れ出そうとするトナーを繊維間で捕集するとともに堰き止めて現像ハウジング101の外部への漏出を抑制する。
【0037】
比較例の粉体シール材1Aは、
図8、
図9に示すように、緯糸12に織り込まれて経糸11方向に沿ってそれぞれ並んで立設された複数本のパイル糸21からなるパイル列22と、パイル列22に対してそれぞれのパイル糸21が千鳥状の関係となるように立設されたパイル列23からなり、それぞれのパイル列22とパイル列23の間に1本の経糸11が配置されている。
【0038】
摺接部20Aは、
図9(b)に模式的に示すように、互いに千鳥状の関係となるように隣接して立設されたパイル列22とパイル列23は、その間に経糸11が配置され、それぞれのパイル糸21の間に隙間(
図9(b)中 矢印Wで示す)が発生している。特に隙間は
図9(a)に示すパイル糸21の根元において発生しやすい。そのために、
図4(b)に模式的に示すように、横方向に流れて漏れ出そうとするトナー(図中 矢印Aで示す)は、パイル列22とパイル列23の隙間を伝って現像ハウジング101の外部へ漏出する虞があった。
【0039】
本実施形態に係る粉体シール材1の摺接部20は、
図2(b)に示すように、経糸11方向に沿って並んで立設されたパイル糸21からなるパイル列22と、パイル列22に対してそれぞれのパイル糸21が千鳥状の関係となるように立設されたパイル列23を一組とするパイル列24が、緯糸12方向に亘って2本の経糸11を挟んで隣り合うように配列され、それぞれのパイル糸21の間に発生しやすい隙間(
図2(b)中 矢印Wで示す)が比較例に比べて小さくなっている。
これにより、
図4(a)に模式的に示すように、横方向に流れて漏れ出そうとするトナー(図中 矢印で示す)は、パイル列22とパイル列23が隣接して隙間なく配置されたパイル列24で堰き止められ現像ハウジング101の外部への漏出が抑制されている。特に、パイル糸21の根元において発生しやすい隙間が小さくなり、トナーの現像ハウジング101の外部への漏出が抑制されている。
【0040】
本実施形態に係る粉体シール材1の摺接部20は、経糸11をパイル列22とパイル列23の間には織り込まず、パイル列22とパイル列23が一組となったパイル列24の間に2本を一組として織り込むことで、それぞれのパイル列22、23の間に織り込む比較例の粉体シール材1Aに比べて、基布10の経糸密度が高くなり、パイル列24間の間隙は広がっている。これにより、現像ローラ102が摺接部20に接触しながら回転することにより発生するパイル糸21の根元における蓄熱を少なくしている。
【0041】
パイル糸21は、
図2(a)に示すように、経糸11と平行する方向に毛倒しされている。また、現像ハウジング101への取り付けにおいては、
図4(a)に示すように、このような毛倒し方向が現像ローラ102の回転軸102c(
図5(b)参照)と交差する角度、例えば45度となるようにすることで、横方向に流れて漏れ出そうとするトナー(図中 矢印で示す)のパイル列24への侵入が抑制されている。
【実施例】
【0042】
図6(a)は実施例1の粉体シール材の拡大断面写真、(b)は実施例2の粉体シール材の拡大断面写真、(c)は比較例の粉体シール材の拡大断面写真、
図7は実施例におけるパイル糸根元の隙間の大きさの評価結果を示す図である。
以下実施形態をさらに具体化した実施例及び比較例について説明する。
【0043】
(実施例1)
経糸11としてその太さが235T(デシテックス)/48F(フィラメント)となるように形成されたポリエチレンテレフタレート(PET)のマルチフィラメント糸と、緯糸12としてその太さが英式綿番手ST20/1となるように形成されたポリエチレンテレフタレート(PET)の紡績糸を用いて基布10を製織した。
そして、この基布10にパイル糸21として単糸繊度5.6d(デニール)で繊度が500T(デシテックス)/80F(フィラメント)となるように形成されたテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)のマルチフィラメント糸を織り込んだ。
【0044】
このとき、織組織としてパイル糸21は緯糸12に対して経糸11方向に沿ってそれぞれ並んで織り込まれた複数本のパイル糸21からなるパイル列22と、パイル列22に対してそれぞれのパイル糸21が千鳥状の関係となるように織り込まれたパイル列23を一組のパイル列24として織り込み、経糸11はパイル列22とパイル列23との間には織り込まず、パイル列22とパイル列23が一組となったパイル列24の間に2本を一組として織り込んだ。
このパイル糸21を織り込んだ基布10にコーティング及び毛倒し処理を行って貼付層30としてフォーム材を貼り合わせることにより粉体シール材を形成し、所定の大きさに切断したものを実施例1とした。
【0045】
(実施例2)
パイル糸21として単糸繊度5.6d(デニール)で繊度が250T(デシテックス)/40F(フィラメント)となるように形成されたテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)のマルチフィラメント糸を用いた以外は実施例1と同様にし、これを実施例2とした。
【0046】
(比較例)
実施例1、2と同様の経糸11と緯糸12で織り込まれた基布にパイル糸21として単糸繊度5.6d(デニール)で繊度が500T(デシテックス)/80F(フィラメント)となるように形成されたテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)のマルチフィラメント糸を織り込んだ。
このとき、織組織としてパイル糸21は緯糸12に対して経糸11方向に沿ってそれぞれ並んで織り込まれた複数本のパイル糸21からなるパイル列とし、経糸11はそれぞれのパイル列の間に1本ずつ織り込み、これを比較例とした。
【0047】
上記実施例1、2及び比較例について、パイル糸根元の隙間の大きさを評価した。隙間の評価は、粉体シール材を所定の厚さに圧縮した状態でマイクロスコープで各隙間の面積を測定し、画像として抽出できた全ての空隙の面積の平均値を算出することで行った。実施例1の結果を
図6(a)、実施例2の結果を
図6(b)に示し、比較例の結果を
図6(c)に示す。
図6(a)-(c)に示すように、実施例1、実施例2においてはパイル糸根元の隙間(図中 丸印で示す)が比較例に比べて埋められていることが確認され、評価結果は、
図7に示すように、実施例1の隙間面積の平均値が2.6×10
-2mm2、実施例1の隙間面積の平均値が1.4×10
-2mm2、比較例の隙間面積の平均値が4.7×10
-2mm2であった。
【0048】
以上の結果より、その太さが235T/48Fという細い経糸をパイル列22とパイル列23の間には織り込まず、パイル列22とパイル列23が一組となったパイル列24の間に2本を一組として織り込むことで、それぞれのパイル列22、23の間に織り込む比較例に比べて、パイル糸根元における緯糸に交差する方向の隙間を減少させることができることが示された。
また、パイル糸21として実施例1よりもさらに細い糸番手(250T)とした実施例2においては、パイル糸根元における緯糸12に交差する方向の隙間をより減少させることができることが示された。
【0049】
以上、本発明に係る実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で種々の変更を行うことが可能である。例えば、本実施形態に係る粉体シール材は、微細粉体の薬剤を包装する包装機等の粉体送りローラに適用して、粉体送りローラとハウジングとの隙間から漏出する薬剤の漏出を抑制する粉体シール材として広く使用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1、1A・・・粉体シール材
10・・・基布
11・・・経糸
12・・・緯糸
13・・・コーティング層
20、20A・・・摺接部
21・・・パイル糸
22、23、24・・・パイル列
30・・・貼付層
100・・・現像装置
101・・・現像ハウジング
102・・・現像ローラ
103・・・供給ローラ
104・・・層規制ブレード