(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】PVAスポンジを用いるリキッドバイオプシーの調製方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/26 20060101AFI20240925BHJP
C12N 1/02 20060101ALI20240925BHJP
C12Q 1/24 20060101ALI20240925BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20240925BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20240925BHJP
C12N 9/12 20060101ALN20240925BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240925BHJP
C12M 1/34 20060101ALN20240925BHJP
C12M 1/00 20060101ALN20240925BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALN20240925BHJP
【FI】
C12M1/26
C12N1/02
C12Q1/24
C12Q1/68 100Z
C12N15/10 110Z
C12N9/12
C12N15/09 Z
C12M1/34 Z
C12M1/00 A
C12M1/34 B
C12Q1/6851 Z
(21)【出願番号】P 2020566428
(86)(22)【出願日】2020-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2020001064
(87)【国際公開番号】W WO2020149301
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2019004438
(32)【優先日】2019-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019068152
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518448013
【氏名又は名称】一般社団法人生命科学教育研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】木下 健司
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-232807(JP,A)
【文献】国際公開第2005/069005(WO,A1)
【文献】特表2017-525371(JP,A)
【文献】国際公開第2018/025856(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12M 1/00
C12N 1/02
C12N 5/00
C12Q 1/68
G01N 33/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PVAスポンジを含む、リキッドバイオプシー
をサンプリング
して遺伝子分析をするためのキットであって、
該PVAスポンジを、リキッドバイオプシーと接触させる工程と、
該PVAスポンジを乾燥させる工程と、
該PVAスポンジから
遺伝子分析のための反応水
溶液中で核酸試料を分離させ、上清を得る工程と、
該上清
中で遺伝子分析に供する工程と
を含む方法において用いられることを特徴とする、キットであって、該PVAスポンジが、平均気孔径が80μm~200μmであり、該PVAスポンジが、気孔率が89%~91%である、キット。
【請求項2】
前記上清を得る工程が、PVAスポンジを水中で加熱することを含む、請求項
1に記載のキット。
【請求項3】
リキッドバイオプシーをサンプリング
して遺伝子分析をするための方法であって、
PVAスポンジを、リキッドバイオプシーと接触させる工程と、
該PVAスポンジを乾燥させる工程と、
該PVAスポンジから
遺伝子分析のための反応水
溶液中で核酸試料を分離させ、上清を得る工程と、
該上清を遺伝子分析に供する工程と
を含む方法であって、該PVAスポンジが、平均気孔径が80μm~200μmであり、該PVAスポンジが、気孔率が89%~91%である、方法。
【請求項4】
前記上清を得る工程が、PVAスポンジを水中で加熱することを含む、請求項
3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生物学的または化学的な測定のためのサンプルの調製に関する。より詳細には、生体サンプル中の遺伝子分析または薬物分析のためのサンプル調製に関する。
【背景技術】
【0002】
医療の現場では、薬物の効果を調べる際に生体から得られるサンプルを分析することが必要とされる。例えば、薬物を投与する前に、薬物代謝酵素の遺伝子多型を被験体の生体サンプルから調べておくことにより、薬物の効果や副作用について予測することが可能になる。また、薬物の投与後にも、血中の薬物濃度をモニタリングすることにより、薬物が有効となる動態を示しているかを確認することが可能になる。
【0003】
しかしながら、生体から得られた物質(例えば、血液)には夾雑物が多く含まれており、精密な測定、測定に必要な酵素反応等を妨げることがあり、生体サンプルからの情報を分析するのには、煩雑な精製工程を踏む必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、ポリビニルアルコール(PVA)スポンジを用いることによって、精製工程を省いた迅速な生体サンプルのサンプリング方法、およびかかる方法において用いられるサンプリング材料またはサンプリングキットを提供する。PVAスポンジの特性は、リキッドバイオプシーを含めた生体サンプルのサンプリングに有用であることを本発明者は見出した。
【0005】
PVAスポンジは、生体サンプル中のポリメラーゼ増幅活性阻害成分の阻害を抑制することができ、本開示において、PVAスポンジを含む、ポリメラーゼの体液(例えば、血液)またはその成分による増幅活性阻害効果の抑制剤または抑制材料、それらを含むキット、あるいはそれらを用いる方法が提供される。PVAスポンジは微生物(例えば、細胞)を捕捉することができ、本開示において、PVAスポンジを含む、微生物またはその部分の捕捉剤または捕捉材料、それらを含むキット、あるいはそれらを用いる方法が提供される。また、PVAスポンジは核酸の安定化に用いることができ、本開示において、PVAスポンジを含む、核酸安定化剤または核酸安定化材料、それらを含むキット、あるいはそれらを用いる核酸を安定化するため、または核酸を保存するための方法が提供される。
【0006】
本開示は、例えば、以下の実施形態を提供する:
(項目A1) PVAスポンジを含む、ポリメラーゼの体液またはその成分による増幅活性阻害効果の抑制剤または抑制材料。
(項目A1-1) 前記PVAスポンジが、平均気孔径が80μm~200μmである、前記項目のいずれかに記載の抑制剤または抑制材料。
(項目A1-2) 前記PVAスポンジが、気孔率が89%~91%である、前記項目のいずれかに記載の抑制剤または抑制材料。
(項目A1-3) 前記体液が、血液または唾液である、前記項目のいずれかに記載の抑制剤または抑制材料。
(項目A2) 前記項目のいずれかに記載の抑制剤または抑制材料を含む、リキッドバイオプシーのサンプリング剤またはサンプリング材料。
(項目A3) 前記項目のいずれかに記載のサンプリング剤またはサンプリング材料を含む、キット。
(項目A4) 核酸分析のための、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目A5) 前記核酸分析が、核酸の増幅工程を含む、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目A6) 循環無細胞核酸の分析のための、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目A7) 前記循環核酸が、腫瘍循環DNAまたは腫瘍循環miRNAである、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目A8) 体内腫瘍量のモニタリング、薬剤耐性遺伝子の判定、がんの早期検出、または再発モニタリングのための、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目A9) 前記循環核酸が、cfDNAである、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目A10) 出生前診断のための、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目A11) 染色体異常の検出または新生児スクリーニングのための、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目A12) ウイルス感染の検出のための、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目A13) 核酸の絶対定量を行うための、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目A14) 前記絶対定量が、デジタルPCRによって行われる、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目A15) ポリメラーゼの体液またはその成分による増幅活性阻害効果を抑制する方法であって、該体液またはその成分をPVAスポンジに接触させる工程を包含する、方法。
(項目A16) 前記体液が、血液または唾液である、前記項目に記載の方法。
(項目B1) PVAスポンジを含む、微生物または微生物の部分の捕捉剤または捕捉材料。
(項目B1-1) 前記PVAスポンジが、平均気孔径が80μm~200μmである、前記項目に記載の捕捉剤または捕捉材料。
(項目B1-2) 前記PVAスポンジが、気孔率が89%~91%である、前記項目のいずれかに記載の捕捉剤または捕捉材料。
(項目B2) 細胞培養のための、前記項目のいずれかに記載の捕捉剤または捕捉材料を含むキット
(項目B3) リキッドバイオプシーのサンプリングのための、前記項目のいずれかに記載の捕捉剤または捕捉材料を含む、キット。
(項目B4) 核酸分析のための、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目B5) 前記核酸分析が、核酸の増幅工程を含む、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目B6) 血中循環腫瘍細胞を捕捉するための、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目B7) がんの予後予測または薬物治療法の再検討のための、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目B8) デジタルPCRを用いて腫瘍細胞数を定量するための、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目B9) 前記核酸分析が、デジタルPCRを含む、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目B10) 口腔内または血液中の細菌またはウイルスの絶対定量のための、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目B11) 微生物または微生物の部分を捕捉する前記項目に記載の方法。
(項目B13) 微生物を定量的に分析または捕捉する方法であって、
(a)一定体積のPVAスポンジを分析または捕捉対象の微生物を含む試料に接触させる工程と、
(b)該一定体積のPVAスポンジから、該微生物またはその成分を分離する工程と、
(c)必要に応じて、該微生物またはその成分を分析する工程と
を含む、方法。
(項目C1) PVAスポンジを含む、核酸安定化剤または核酸安定化材料。
(項目C1-1) 前記PVAスポンジが、平均気孔径が80μm~200μmである、前記項目に記載の核酸安定化剤または核酸安定化材料。
(項目C1-2) 前記PVAスポンジが、気孔率が89%~91%である、前記項目のいずれかに記載の核酸安定化剤または核酸安定化材料。
(項目C2) 前記項目のいずれかに記載の核酸安定化剤または核酸安定化材料を含む、キット。
(項目C3) 血液由来の核酸の保存のための、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目C4) 血液から血漿を分離し、保存するための、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目C5) 核酸を安定化するため、または保存するための方法であって、該核酸にPVAスポンジを接触させる工程を包含する、方法。
(項目D1) PVAスポンジを含む、リキッドバイオプシーのサンプリングのためのキットであって、
該PVAスポンジを、リキッドバイオプシーと接触させる工程と、
該PVAスポンジから水中で核酸試料を分離させ、上清を得る工程と、
該上清を遺伝子分析に供する工程と
を含む方法において用いられることを特徴とする、キット。
(項目D2) 前記方法が、前記接触させる工程の後に、前記PVAスポンジを乾燥させる工程をさらに含む、前記項目に記載のキット。
(項目D3) 前記上清を得る工程が、PVAスポンジを水中で加熱することを含む、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目D4) リキッドバイオプシーをサンプリングするための方法であって、
PVAスポンジを、リキッドバイオプシーと接触させる工程と、
該PVAスポンジから水中で核酸試料を分離させ、上清を得る工程と、
該上清を遺伝子分析に供する工程と
を含む方法。
(項目D5) 前記接触させる工程の後に、前記PVAスポンジを乾燥させる工程をさらに含む、前記項目に記載の方法。
(項目D6) 前記上清を得る工程が、PVAスポンジを水中で加熱することを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目E1) PVAスポンジを含む、リキッドバイオプシーのサンプリングのためのキットであって、
該PVAスポンジを、リキッドバイオプシーと接触させる工程と、
該PVAスポンジから水中で核酸試料を分離させ、上清を得る工程と、
該上清を凍結乾燥する工程と
該凍結乾燥した上清を水に溶解させる工程と
を含む方法において用いられることを特徴とする、キット。
(項目E2) 前記方法が、前記接触させる工程の後に、前記PVAスポンジを乾燥させる工程をさらに含む、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目E3) 前記上清を得る工程が、PVAスポンジを水中で加熱することを含む、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目E4) リキッドバイオプシーをサンプリングするための方法であって、
PVAスポンジを、リキッドバイオプシーと接触させる工程と、
該PVAスポンジから水中で核酸試料を分離させ、上清を得る工程と、
該上清を凍結乾燥する工程と
該凍結乾燥した上清を水に溶解させる工程と
を含む方法。
(項目E5) 前記接触させる工程の後に、前記PVAスポンジを乾燥させる工程をさらに含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目E6) 前記上清を得る工程が、PVAスポンジを水中で加熱することを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目F1) PVAスポンジを含む、乾燥付着血のサンプリングのためのキットであって、
該PVAスポンジを、乾燥付着血と接触させる工程と、
該PVAスポンジから水中で核酸試料を分離させ、上清を得る工程と、
該上清を遺伝子分析に供する工程と
を含む方法において用いられることを特徴とする、キット。
(項目F2) 前記上清を得る工程が、PVAスポンジを水中で加熱することを含む、前記項目に記載のキット。
(項目F3) 乾燥付着血をサンプリングするための方法であって、
PVAスポンジで、乾燥付着血と接触させる工程と、
該PVAスポンジから水中で核酸試料を分離させ、上清を得る工程と、
該上清を遺伝子分析に供する工程と
を含む方法。
(項目F4) 前記上清を得る工程が、PVAスポンジを水中で加熱することを含む、前記項目に記載の方法。
(項目G1) 血漿中の循環核酸の分析のための、PVAスポンジを含むサンプリング剤またはサンプリング材料。
(項目G1-1) 前記項目のいずれか1つまたは複数に記載の特徴を備える、前記項目に記載のサンプリング剤またはサンプリング材料。
(項目G2) 血漿中の循環核酸の分析のための、前記項目に記載のサンプリング剤またはサンプリング材料を含むキット。
(項目G2-1) 前記項目のいずれか1つまたは複数に記載の特徴を備える、前記項目に記載のキット。
(項目G3) 前記血漿中の循環核酸の分析が、定量的分析である、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目G4) 前記循環核酸が、腫瘍循環核酸である、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目G5) 血漿中の循環核酸の分析を行う方法であって、
PVAスポンジを血漿と接触させる工程と、
該PVAスポンジを遺伝子分析に供する工程と
を含む、方法。
(項目G5-1) 前記項目のいずれか1つまたは複数に記載の特徴を備える、前記項目に記載の方法。
(項目G6) PVAスポンジを含む、血漿中の循環核酸の分析のためのキットであって、
該PVAスポンジを血漿と接触させる工程と、
該PVAスポンジを遺伝子分析に供する工程と
を含む、方法において用いられることを特徴とする、キット。
(項目G6-1) 前記項目のいずれか1つまたは複数に記載の特徴を備える、前記項目に記載のキット。
【0007】
本開示において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。本開示のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0008】
PVAスポンジを用いたサンプリングは、迅速、簡便かつ安価に行うことができる。工程が短縮される(工程数の減少および時間の短縮などを含む)ことによって、信頼性が高まり、人件費を削減することができる。また、サンプル間のDNA品質格差が最小化される。PVAスポンジは絶対定量に用いることも可能であり、絶対定量は、複数回の測定を行う場合(例えば、被験体のモニタリング)には重要である。加えて、PVAスポンジは乾燥後、室温でサンプルの保存、郵送が可能であり、取扱い易さにも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例1Aにおいて、THUNDERBIRD Probe qPCR Mixを使用した場合のサンプル中の核酸増幅の結果を示す図である。各数字は各サンプル中のDNAコピー数を示す。SはPVAスポンジで回収したものを指し、Mは水溶紙で回収したものを指す。アルファベットが無いものは溶液中のコントロールDNAを指す。
【
図2】
図2は、実施例1Aにおいて、TaqPath qPCR Master Mixを使用した場合のサンプル中の核酸増幅の結果を示す図である。各数字は各サンプル中のDNAコピー数を示す。SはPVAスポンジで回収したものを指し、Mは水溶紙で回収したものを指す。アルファベットが無いものは溶液中のコントロールDNAを指す。
【
図3】
図3は、実施例1Bにおけるサンプリングの方法と、当該サンプリング方法によってサンプリングしたサンプル中の核酸増幅の結果を示す図である。
【
図4】
図4は、実施例1Cにおけるサンプリングの方法と、当該サンプリング方法によってサンプリングしたサンプル中の核酸増幅の結果を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例1Dにおけるサンプリングの方法と、当該サンプリング方法によってサンプリングしたサンプル中の核酸増幅の結果を示す図である。
【
図6】
図6は、本開示の血清採取デバイスと、それを用いる方法の一例を示す模式図である。
【
図7】
図7は、本開示の血清採取デバイスと、それを用いる方法の一例を示す模式図である。
【
図8】
図8は、実施例2Aにおける、PVAディスク中白血球細胞由来の核酸増幅結果を示す図である。各数字は、PVAディスクの末梢血中のインキュベーション時間である。
【
図9】
図9は、実施例2Bの核酸増幅の結果を示す図である。PVAスポンジPBS洗浄上清PCR遺伝子増幅の結果は、Ds、Es、Fs、Ysとして示され、PBS洗浄PVAスポンジディスク処理上清PCR遺伝子増幅の結果が、Dd、Ed、Fd、Ydとして示される。
【
図10】
図10は、実施例2Cの核酸増幅の結果を示す図である。それぞれの液量は、示される量の全血をPVAディスクに滴下したものに由来する核酸増幅の結果に対応する。
【
図11】
図11は、実施例2Dにおける、PVAスポンジによる唾液中の細胞捕捉の方法を示す模式図である。
【
図12】
図12は、実施例2Dにおける、PVAスポンジによって捕捉された唾液の細胞に由来する核酸増幅の結果を示す図である。
【
図13】
図13は、実施例2Eにおける、PVAスポンジによって口腔内から直接サンプリングしたサンプルに由来する核酸増幅の結果を示す図である。
【
図14】
図14は、本開示の唾液採取デバイスと、それを用いる方法の一例を示す模式図である。
【
図15】
図15は、本開示のがん細胞採取デバイスと、それを用いる方法の一例を示す模式図である。
【
図16】
図16は、PVAスポンジを利用した固形腫瘍細胞の迅速遺伝子検査を行う方法の一例を示す模式図である。
【
図17】
図17は、PVAスポンジを利用したPVAスポンジを利用した固形腫瘍細胞の薬剤選択性試験を行う方法の一例を示す模式図である。
【
図18】
図18は、実施例3における、DNAの血清中安定性試験の方法の模式図である。
【
図19】
図19は、実施例3における、ゲノムDNAの安定性試験の結果を示す図である。
【
図20】
図20は、実施例3における、プラスミドDNAの安定性試験の結果を示す図である。
【
図21】
図21は、実施例4における血清処理PVAスポンジ調整液の凍結乾燥実験の手順および結果を示す図である。
【
図22】
図22は、実施例5における、それぞれの試料(右パネル)と、それらからPVAスポンジで拭き取った血液に由来する核酸の増幅結果(左パネル)を示す図である。
【
図23】
図23は、本開示を用いた術後早期再発診断の例を示す模式図である。
【
図24】
図24は、本開示を用いた治療効果モニタリングの例を示す模式図である。
【
図25】
図25は、実施例7Aにおける、血漿中cfDNAのPVAスポンジを用いたダイレクト定量の手順および結果を示す図である。
【
図26】
図26は、実施例7Bにおける、血漿中cfDNAのPVAスポンジを用いたダイレクト定量の手順および結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0011】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0012】
(PVAスポンジ)
本開示において、ポリビニルアルコール(PVA)スポンジを用いるサンプリング方法、およびかかる方法において用いられるサンプリング材料またはサンプリングキットが提供される。
【0013】
本明細書において「サンプリング」とは、リキッドバイオプシーなどの検査法において、試料(サンプル)を抽出することをいい、そのための剤および材料は、それぞれサンプリング剤およびサンプリング材料という。
【0014】
本明細書において「PVAスポンジ」とは、PVAを架橋した多孔質の材料であり、その構造および作製方法は当技術分野で公知である(特開2001-302840などを参照)。架橋は、ホルムアルデヒド等で行うことができる。
【0015】
本明細書において「ポリビニルアルコール(PVA)」とは、ビニルアルコール<示性式 (-CH2CH(OH)-)n>を重合させた任意の重合体をいい、ポリ酢酸ビニルを酸またはアルカリで加水分解することにより得られる、水酸基を有する水溶性の重合体である。ポバールまたはPVOHとも呼ばれる。任意のPVAがPVAスポンジを製造するために用いることができる。
【0016】
PVAスポンジは、例えば、以下のようにして製造することができる。すなわち、水溶性のPVA(ポリビニルアルコール、ポバール)に酸を触媒としてホルムアルデヒドを結合させるホルマール化反応により不溶性物質のPVF(ポリビニルホルマール)を製造し、その工程で気孔生成剤を加え、気孔の形成を行い不溶性のPVFが完成後この気孔生成剤を抽出し、完成したPVFは多孔質体となり立体的樹枝網目状連続気孔を形成する。この多孔質体がPVAスポンジである。
【0017】
PVAスポンジは、その体積の90%近くを空隙で構成することができ、それでも基材として使用可能な構造的な強度を維持することが可能である。また、この空隙(気孔)を形成する基質部は、立体網目構造を成し、個々の気孔は全て連続化されている。このような一体構造がPVAスポンジの最大の特徴であり、これにより、数々の機能がもたらされる。加えて、PVAスポンジは、一般的なウレタンスポンジなどとは異なり、きわめて親水性が高く、また、縦横にめぐる微細気孔によって毛細管現象が生じるため、吸水性・保水性に非常に優れる。また、湿潤状態では柔軟性・弾力性があり、特に洗浄材や拭き取り材として使用する場合、対象物の表面を傷めることを防ぐことができる。
【0018】
PVAスポンジは、市販されているもの(例えば、アイオン株式会社製)を用いることができる。PVAスポンジのパラメータとしては、スポンジの気孔径(平均気孔径)または気孔率を選択することができる。気孔率は、スポンジの体積に占める空隙の体積の割合である。
【0019】
本明細書において「平均気孔径」は、気孔径の(算術)平均値であり、JIS Z 8831-2に基づき測定することができる。
【0020】
本明細書において「気孔率」は、所定量の固体によって占められる、全体積に対する吸着可能な細孔及び空隙の体積の比であり、JIS Z 8831-2に基づき測定することができる。
【0021】
以下は、アイオン株式会社にて提供されているPVAスポンジの物性を示す表である。本明細書の他の箇所において、下記の品番でPVAスポンジについて言及する場合は、アイオン株式会社製の当該品番のPVAスポンジを指す。
【表1】
【0022】
FBとGBとは気孔径が大きいため、他の規格のPVAスポンジの方が生体試料のサンプリングにはより適していると考えられる。本開示の一つの好ましい実施形態では、PVAスポンジの気孔径は、約80μm~約200μmである。
【0023】
本開示の一つの好ましい実施形態では、PVAスポンジの気孔率は、89%~91%である。
【0024】
D(D)~EB(D)のPVAスポンジでは、生体試料のサンプリングにおいて性能の差はあまりないと考えられる。機械的な特性から見るとF(D)が最も取り扱いやすいと考えられる。
【0025】
1つの局面において、本開示は、PVAスポンジを含む、ポリメラーゼの体液またはその成分による増幅活性阻害効果の抑制剤または抑制材料を提供する。理論に束縛されることを望まないが、この用途は、本発明者によって、PVAスポンジに血液を吸着させることで、血液中の増幅阻害物質がトラップされ、その後の増幅反応において阻害を回避できることが見出されたことによるものである。かかる増幅阻害物質のトラップは、そのような増幅阻害物質を含む任意の体液に対して有効であると考えられる。したがって、増幅活性阻害効果の抑制剤または抑制材料の他、このような性質によって、PVAスポンジを含む血液サンプリングキット、それを用いるサンプリング方法、血清(血漿)中のガン細胞由来ctDNAの検出(術後モニタリング)、血清(血漿)中腫瘍マーカー循環miRNAの検出、血清(血漿)中の浮遊DNA(cfDNA)の検出(出生前診断)、全血中のゲノムDNA検出(新生児スクリーニング)、血清(血漿)中がんマーカー遺伝子のモニタリング(未病)、絶対定量の可能性(リアルタイム・デジタルPCR)、全血中のゲノムDNA検出(新生児スクリーニング:遺伝病の有無)などが提供され得る。
【0026】
本明細書においてポリメラーゼの「増幅活性阻害(効果)」とは、ポリメラーゼが通常有する増幅活性が阻害されること、すなわち、通常の活性より低下しているかまたは消失していることをいう。本明細書においてポリメラーゼの「増幅活性阻害効果」の「抑制」とは、この「増幅活性阻害効果」が抑制、すなわち、阻害の程度が低下しているか消失(すなわち、通常有する増幅活性に回復すること)のほか、通常有する増幅活性より多く活性が回復することをも包含する。
【0027】
本発明者によって、PVAスポンジは、唾液中の白血球などの細胞を捕捉することが見出された。このような性質によって、血液中細胞の捕獲・培養の可能性、血清中のウイルス・細菌のRNA・DNA検出、唾液サンプリングからのデジタルPCRによる口腔内細菌・ウイルスの絶対定量、がん細胞サンプリングからのデジタルPCRでの正常細胞とがん細胞とのコピー数の比較が提供され得る。加えて、PVAスポンジは体積当たり一定の数の微生物(細胞など)を保持することができるため、サンプル中の微生物の量に依存せず、定量的なサンプリングを可能にし得る。
【0028】
また、PVAスポンジに試料を吸着することで核酸を安定化することができ、サンプリング後の保存・輸送にも有用である。
【0029】
生体サンプル(例えば、血液)をPVAスポンジに滴下して乾燥させることによって、生体サンプルの生物学的または化学的分析のためのサンプルを調製することができる。1つの実施形態では、生物学的分析は遺伝子分析である。
【0030】
(試料)
本明細書において使用される「核酸含有生体材料」とは、特定の対象となる核酸を含む任意の生体材料をいい、生体組織・細胞(例えば、植物、動物の細胞)、細菌およびウイルス等の微生物など、およびこれらに由来する調製物等を含み、「核酸含有生体材料を含む試料」としては、鼻汁、鼻腔ぬぐい液、眼結膜ぬぐい液、咽頭ぬぐい液、喀痰、糞便、血液、血清、血漿、髄液、唾液、尿、汗、乳、精液、口腔ぬぐい液、歯間ぬぐい液、湿性耳垢、膣腔ぬぐい液および細胞組織などの生体試料または臨床試料の他、食品などを挙げることができる。被検試料は、細胞、真菌、細菌およびウイルスからなる群より選択されるRNAを包含する試料を含むものであってもよい。増幅の対象となる遺伝子または検出の対象となる特定遺伝子はDNAであってもRNAであってもよい。この場合、本開示においては、PVA担体に担持させた被検試料を反応液に直接添加してRNA増幅反応を行なうことにより、当該被検試料中に存在するRNAを直に増幅させることができる。ここで、「直接添加」とは、RNA増幅に先立って、このRNAを包含する被検試料からRNAを抽出する過程が不要という意味である。
【0031】
(リキッドバイオプシー)
本明細書において、「リキッドバイオプシー」とは、液体の生体サンプルを指し、血液、尿、唾液、精液等の体液のサンプルが含まれる。リキッドバイオプシーの分析は、従来の生検の採取に比較して、低侵襲性で検査を行うことができるが、従来よりも高感度(例えば、100~1,000倍)の検出を行わなければならない場合が多い。リキッドバイオプシーの分析では、液中に漏れ出た生体分子を分析することになるためである。例えば、リキッドバイオプシーの分析には、血中循環がん細胞(CTC)、血中循環異常細胞(CAG)、幹細胞、血中循環がん遺伝子(CTG)、セルフリー遺伝子(cfDNA)、マイクロRNA(miRNA)、血中微量分子、ペプチド、マイクロパーティクル等の分析が含まれる。
【0032】
本明細書において、「微生物」とは、遺伝情報を有する分子を内包する粒子であって、(単独で可能かどうかにかかわらず)複製されることが可能である任意の粒子を指す。本明細書における「微生物」としては、単細胞生物、細菌、多細胞生物由来の細胞、真菌、ウイルスなどが包含される。
【0033】
(遺伝子分析)
本明細書において、「遺伝子分析」とは生体サンプル中の核酸(DNA、RNA等)の状態を調べることをいう。1つの実施形態では、遺伝子分析は、核酸増幅反応を利用するものを挙げることができる。これらを含め、遺伝子分析の例としては、配列決定、遺伝子型判定・多型分析(SNP分析、コピー数多型、制限酵素断片長多型、リピート数多型)、発現解析、蛍光消光プローブ(Quenching Probe:Q-Probe)、SYBR green法、融解曲線分析、リアルタイムPCR、定量RT-PCR、デジタルPCRなどを挙げることができる。遺伝子分析の1つの例は、TaqManプローブ法による遺伝子型の判定である。蛍光消光プローブ法については、https://www.aist.go.jp/Portals/0/resource_images/aist_j/aistinfo/aist_today/vol08_02/vol08_02_p18_p19.pdf等に記載されている。
【0034】
そのような遺伝子分析においては、核酸の増幅反応を伴うことが一般的である。生体サンプル(例えば、血液または唾液)を直接核酸増幅反応(例えば、PCR)の反応液に添加すると、生体サンプル中の物質による作用で、増幅反応(例えば、Taq DNAポリメラーゼなどのDNAポリメラーゼ)が阻害される場合がある。PVAスポンジに生体サンプル(例えば、血液または唾液)を滴下して調製したサンプルでは、かかる増幅反応の阻害が抑制される。理論に拘束されるものではないが、PVAスポンジが、PCR増幅を阻害する物質(ヘム、多糖類、ポリフェノール、フルボ酸、色素、イオンなど)を除去する能力を有しているためであると考えられる。
【0035】
(ポリメラーゼ)
本開示の一つの実施形態で使用され得る核酸増幅反応においては、核酸ポリメラーゼが用いられる。1つの実施形態では、遺伝子分析に用いられるDNAポリメラーゼは、Taq DNAポリメラーゼに代表される、プライマー付加による核酸を合成する耐熱性に優れたポリメラーゼであれば特に制限なく用いることができる。本開示で特に利用される核酸増幅反応は、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼを用いるものである。理論に束縛されることを望まないが、KODポリメラーゼを用いると、増幅方法が異なるため、Taqman DNAポリメラーゼのように標識で検出できず、制限酵素での切断パターンでの解析を余儀なくされるため、煩雑な手法であるがTaq DNAポリメラーゼのような5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼを用いることで、簡便な解析を実現することができるからである。5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼには、Family A(Pol I型)のDNAポリメラーゼが含まれる。
【0036】
このようなDNAポリメラーゼとしては、たとえばThermus aquaticus由来のTaq DNAポリメラーゼの他、Tth DNAポリメラーゼ、あるいは上述したDNAポリメラーゼの少なくともいずれかの混合物などを挙げることができる。なお、Tth DNAポリメラーゼおよびCarboxydothermus hydrogenoformans由来のC.therm DNAポリメラーゼはRT活性も有しているため、RT-PCRをOne tube-One stepで行なうときに、1種類の酵素で賄うことができるという特徴を有している。1つの実施形態では、他のポリメラーゼを用いる方法も利用し得るが、サンプルを直接Taq DNAポリメラーゼのような5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼに用いることが簡便な方法として推奨される。このような場合、生体サンプル(例えば、血液サンプル)中に含まれる増幅阻害が生じることが本開示において見出された。本開示のようにPVAスポンジを用いることによって、このような生体サンプル(例えば、血液サンプル)中に含まれる増幅阻害という問題が予想外に解決された。これにより、血液サンプルなどの生体サンプルを直接、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼを用いた解析法(例えば、いわゆるTaqman法またはそれと同等の手法)に適用することができる。このようなことは、従来技術では達成できなかったことである。
【0037】
ポリメラーゼを用いた反応としては、例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification:ループ介在等温増幅)法、SDA(Strand Displacement Amplification:鎖置換増幅)法、RT-SDA(Reverse Transcription Strand Displacement Amplification:逆転写鎖置換増幅)法、RT-PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction:逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)法、RT-LAMP(Reverse Transcription Loop-Mediated Isothermal Amplification:逆転写ループ介在等温増幅)法、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification:核酸配列に基づいた増幅)法、TMA(Transcription Mediated Amplification:転写介在増幅)法、RCA(Rolling Cycle Amplification:ローリングサイクル増幅)法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids:等温遺伝子増幅)法、UCAN法、LCR(Ligase Chain Reaction:リガーゼ連鎖反応)法、LDR(Ligase Detection Reaction:リガーゼ検出反応)法、SMAP(Smart Amplification Process)法、SMAP2(Smart Amplification Process Version 2)法、PCR-インベーダー(PCR-Invader)法、Multiplex PCR-Based Real-Time Invader Assay (mPCR-RETINA)、蛍光消光プローブ(Quenching Probe:Q-Probe)などを挙げることができる。好ましくは、いわゆるTaqman法が用いられる。バッファーは特に制限されないが、EzWay(商標)(KOMA Biotechnology)、Ampdirect(登録商標)((株)島津製作所製)、Phusion(登録商標)Blood Direct PCR kitバッファー(New ENGLAND Bio-Labs)、MasterAmp(登録商標)PCRキット(Epicentre社製)などのうち、増幅阻害の除去の効果を減弱しないものを用いることができる。
【0038】
本開示における反応に用いられるプライマーは、増幅する対象となる遺伝子または検出する対象となる特定遺伝子を決定した時点で、適宜公知の方法で設計することができる。本開示における反応に用いられるプライマーは、増幅する対象となる遺伝子または検出する対象となる特定遺伝子を特異的に増幅することができるものであれば特に制限されない。
【0039】
本開示における被検試料に含まれる遺伝子の増幅または被検試料に含まれる特定遺伝子の検出は、プレート状またはチューブ状の不溶性担体上で行うことが好ましい。このような不溶性担体としては、反応液に対して不溶なプラスチック、ガラスなどからなるチューブのほか、96穴ウェルなどを挙げることができる。なお、チューブ状とは、中空状態のものをいい、底があるPCRチューブや、エッペンドルフチューブのような形状であってもよい。
【0040】
具体的には、まず、プレート状またはチューブ状の不溶性担体に反応液を投入する。チューブ状の不溶性担体である場合には、その内部にバッファー、ポリメラーゼおよびプライマー等の試薬を含有する反応液を投入し、プレート状の不溶性担体である場合には、その表面に前記反応液を置く。そして前記反応液と被検試料およびPVAスポンジが直接接触するように配置し、上述したPCR法などの増幅方法を行う。
【0041】
本明細書で用いられる定量PCRとしては、公知のリアルタイムPCR等の任意の公知の手法を用いて行うことができる。これらの手法は、蛍光試薬などの標識を用いてDNAの増幅量をリアルタイムで検出する方法であり、代表的に、サーマルサイクラーと分光蛍光光度計を一体化した装置を必要とする。このような装置は市販されている。用いる蛍光試薬によりいくつかの方法があり、例えば、インターカレンター法、TaqManTMプローブ法、Molecular Beacon法等が挙げられる。いずれも、鋳型ゲノムDNAおよび目的のSNP部位を含むゲノム領域を増幅するためのプライマー対を含むPCR反応系に、インターカレーター、TaqManTMプローブまたはMolecular Beaconプローブと呼ばれる蛍光試薬または蛍光プローブを添加するというものである。本開示で好ましく用いられるTaqManTMプローブ法(TaqManTM法ともいう)では、TaqManTMプローブは両端を蛍光物質と消光物質のそれぞれで修飾した、標的核酸の増幅領域にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドであり、アニーリング時に標的核酸にハイブリダイズするが消光物質の存在により蛍光を発せず、伸長反応時にDNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性により分解されて蛍光物質が遊離することにより蛍光を発する。従って、蛍光強度を測定することにより増幅産物の生成量をモニタリングすることができ、それによって元の鋳型DNA量を推定することができる。
【0042】
Taqmanアッセイによるコピー数分析は、例えば、当該分野で公知の手法である。Taqmanアッセイは、蛍光発生5’-ヌクレアーゼアッセイとも称される5’-ヌクレアーゼアッセイによるものであり;Holland et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:7276-7280 (1991);およびHeid et al., Genome Research 6:986-994 (1996)を参照することができる。
【0043】
TaqMan PCRの手順では、PCR反応に特異的なアンプリコンの作製のために、2つのオリゴヌクレオチドプライマーが用いられる。第三のオリゴヌクレオチド(TaqManプローブ)が、2つのPCRプライマーの間に位置するアンプリコン中のヌクレオチド配列とハイブリダイズするように設計される。プローブは、PCR反応で用いられるDNAポリメラーゼによって伸長できない構造を有してよく、通常は(必須ではないが)、互いに近接する蛍光レポーター染料および消光剤部分によって共標識される。レポーター染料からの発光は、蛍光体および消光剤が、プローブ上でそうであるように、近接している場合に、消光部分によって消光される。いくつかの場合では、プローブは、蛍光レポーター染料または別の検出可能部分だけで標識されてよい。
【0044】
TaqMan PCR反応では、5’-3’ヌクレアーゼ活性を持つ熱安定性DNA依存性DNAポリメラーゼを用いる。PCR増幅反応の間、DNAポリメラーゼの5’-3’ヌクレアーゼ活性により、鋳型特異的な様式でアンプリコンとハイブリダイズする標識プローブを開裂する。得られるプローブ断片は、プライマー/鋳型複合体から解離し、そして、レポーター染料は、消光剤部分の消光効果から解放される。新たに合成される各アンプリコン分子に対しておよそ1分子のレポーター染料が遊離され、未消光レポーター染料を検出することで、放出される蛍光レポーター染料の量がアンプリコン鋳型の量に正比例するという形でのデータの定量的解釈のベースが提供される。
【0045】
TaqManアッセイデータの1つの尺度は、通常、閾値サイクル(threshold cycle;CT)として表される。蛍光レベルは、各PCRサイクルの間に記録され、増幅反応にてその時点までに増幅された産物の量に比例している。蛍光シグナルが統計的に有意であるとして最初に記録された際の、または蛍光シグナルが他の何らかの任意レベル(例えば、任意蛍光レベル(arbitrary fluorescence level;AFL))を超える場合のPCRサイクルが、閾値サイクル(CT)である。5’-ヌクレアーゼアッセイのためのプロトコールおよび試薬は、当業者に公知であり、様々な参考文献に記載されている。例えば、5’-ヌクレアーゼ反応およびプローブは、米国特許第6,214,979号(Gelfand et al.);米国特許第5,804,375号(Gelfand et al.);米国特許第5,487,972号(Gelfand et al.);Gelfand et al.第5,210,015号(Gelfand et al.)等を参照することができる。
【0046】
TaqManTMPCRは、市販のキットおよび装置を用いて行うことができ、例えば、ABI PRISM(登録商標)7700 Sequence Detection System(Applied Biosystems,Foster City,CA、USA)、LightCycler(登録商標)(Roche Applied Sciences,Mannheim, Germany)などである。好ましい実施形態では、5’-ヌクレアーゼアッセイ手順は、ABI PRISM(登録商標)7700 Sequence Detection Systemなどのリアルタイム定量的PCR装置上で行われるがこれに限定されない。このシステムは、代表的に、サーモサイクラー、レーザー、電荷結合デバイス(CCD)、カメラ、およびコンピュータから構成される。このシステムは、サーモサイクラー上の96ウェルなどのマイクロタイタープレートフォーマット中のサンプルを増幅する。増幅の間、ウェルすべてについて、レーザー誘導蛍光シグナルが光ファイバーケーブルを通してリアルタイムで集められ、CCDカメラで検出される。このシステムは、機器の運転およびデータの解析のためのソフトウェアを含む。
【0047】
Taqman法の具体的手順の他の例としては、例えば、CYP2D6について報告されたTaqmanアッセイを使用することができる(Bodin et al., J Biomed Biotechnol. 3: 248-53 2005)。この場合、必要に応じて正確なデータを得るために、Primer Express等によって新たなリバースプライマーを設計し、コピー数分析を再度実施することもできる。Taqmanプローブは5’末端がFAMで標識され、3’末端にNo Fluorescence Quencher およびMGBを連結したものを用いることができる。参照遺伝子として、適切な標識(例えば、VIC)で標識したRNase P assay(ThermoFisher)を使用することができる。全てのTaqmanアッセイを製造業者から入手され得る、報告されたプロトコールに従って実施し、コピー数計算をΔΔCt法によって実施することができる(Bodin et al., 2005)。1つの例としては、ΔCt値の中央値を有するサンプルを2コピーと仮定し、キャリブレータとして使用することができるがこれに限定されない。全てのサンプルを2連で試験し、平均コピー数値を散布プロット分析で使用することができるが、サンプル数は必要に応じて増減することができる。
【0048】
本開示におけるリアルタイムPCR試薬として、TaqPathTM ProAmpTM Master Mixを使用することができる。TaqPathTM ProAmpTM Master Mixの特長としては、並外れたデータ品質(PCR阻害物質の存在下でも、ジェノタイピングおよびコピー数多型(CNV)解析において、高い特異性、ダイナミックレンジ、および再現性を提供できる)や、PCR阻害物質に対する耐性(ヒトや動物由来の調製サンプル(頬腔スワブ、血液、およびカードパンチ)に対応可能であること)が挙げられる。本開示におけるPVAスポンジの、血液またはその成分による増幅活性阻害効果の抑制と併せると、何ら抽出または精製を行わずに血液を反応に供することが可能である。例えば、リキッドバイオプシー(血液、血清、血漿、唾液等)を接触させたPVAスポンジを、反応液に添加することもできる。本開示において、PVAスポンジから上清または血漿を得る工程は、必要に応じて、次の反応にPVAスポンジを直接供する工程とすることができる。リキッドバイオプシーとの接触後、PVAスポンジは必要に応じて乾燥させることができる。
【0049】
デジタルPCRにおいては、核酸の混合物を、あるウェルは1個のターゲット分子を含む一方、他のウェルにはターゲットを含まない程度に多数の反応ウェルに分配する。各反応液で通常のPCRを実施し、ターゲット分子を含まないウェルを同定する。標準的な統計モデルで補正計算を行い最終的な濃度の値を得ることができる。デジタルPCRではコピー数の定量にCt値を使用しないので、絶対定量において既知のスタンダードとの比較が不要となる。
【0050】
(分析の対象)
本明細書において、「血中循環腫瘍細胞(CTC)」とは、原発腫瘍組織または転移腫瘍組織から上皮間葉転換(EMT)を経て血中へ遊離し、血流中を循環する細胞を指す。原発腫瘍部位から遊離した後、CTCは血液内を循環し、その他の臓器を侵襲して転移性腫瘍(転移巣)を形成する。CTCはがん患者の末梢血に存在するため、これを検出することで転移の過程を判断し、治療の予後予測に役立てることが可能である。
【0051】
本明細書において、「cfDNA(セルフリーDNA)」とは、血液中の細胞死によって細胞から放出された遊離DNAを指す。その中で、がん細胞由来のDNAを、「血中腫瘍DNA(circulatingtumorDNA,ctDNA)」と称する。
【0052】
現在、ctDNAは、臨床的に有用な腫瘍マーカーとして、体内腫瘍量のモニタリング、薬剤耐性遺伝子の判定および超早期がんの発見等に使用されている。体内腫瘍量のモニタリングは、現在は血清腫瘍マーカーが最も簡便なツールとして用いられることが多い。実際、腫瘍マーカーは再発がある程度進んだ場合や時系列の変動が治療を反映している場合は有用な補助診断ツールである。がん検診などで威力を発揮する可能性がある超早期がんの発見は、採血のみで高精度のがん検診を提供できるようになる可能性がある。採血に関する制約や、0.1%以下ともいわれる超低頻度変異を正確に計測するための技術の成熟など課題もある。しかしながら、将来的にはctDNAによって日常のがん診断が「見るもの」から「測るもの」へ変化してゆく可能性がある。
【0053】
しかしながら、不安定なctDNA研究を標準の技術とするためには、採血後2時間以内に血漿の遠心分離を行うこと、患者間、実験者間のバイアスを最小化すること、バイアス補正のため品質管理・定量、遺伝子検査プロセスの簡略化、コントロールに対する相対定量ではなく絶対定量を可能にすること、などの課題がある。PVAスポンジを用いたサンプリングは、迅速、簡便かつ安価であり、工程短縮による高い信頼性及び人件費削減、サンプル間のDNA品質格差の最小化、絶対定量(モニタリングには必須)、乾燥後の室温でサンプルの保存および輸送を可能にすることによって上記の課題の解決に有用である。
【0054】
(好ましい実施形態)
本開示の一つの局面において、PVAスポンジを含む、ポリメラーゼの体液(例えば、血液または唾液)またはその成分による増幅活性阻害効果の抑制剤または抑制材料が提供される。この局面において、本開示はまた、ポリメラーゼの体液(例えば、血液または唾液)またはその成分による増幅活性阻害効果を抑制する方法であって、該体液またはその成分をPVAスポンジに接触させる工程を包含する、方法をも提供する。
【0055】
本開示の他の局面において、PVAスポンジを含む、微生物の捕捉剤または捕捉材料が提供される。この局面において、本開示はまた、微生物またはその一部を捕捉するための方法であって、該微生物またはその一部にPVAスポンジを接触させる工程を包含する、方法をも提供する。
【0056】
本開示の他の局面において、PVAスポンジを含む、核酸安定化剤または核酸安定化材料、あるいは、核酸の保存剤または保存材料が提供される。この局面において、本開示はまた、核酸を安定化するため、または保存するための方法であって、該核酸にPVAスポンジを接触させる工程を包含する、方法をも提供する。
【0057】
一つの好ましい実施形態では、PVAスポンジは、平均気孔径が約80μm~約200μmであってよい。加えて、またはそれに換えた実施形態では、PVAスポンジは、気孔率が89%~91%であってよい。
【0058】
一つの実施形態において、本開示では、上述の抑制剤または抑制材料を含む、リキッドバイオプシーのサンプリング剤またはサンプリング材料、あるいはそれを含むキット、そのための組成物あるいはそのための方法も提供され得る。キットは、核酸分析(例えば、遺伝子分析)のためのものであってよく、核酸分析は、核酸の増幅工程を含み得る。特に、キット、組成物および方法等は、循環核酸(例えば、循環無細胞核酸)の分析のためのものであり得る。
【0059】
本明細書において、「循環核酸」とは、生体内(特に血中)を循環する核酸を言う。循環核酸のうち、細胞を含まないものを、本明細書において「循環無細胞核酸」という。本明細書において循環核酸は、例えば、腫瘍循環DNAまたは腫瘍循環miRNAであり得る。本明細書において「腫瘍循環核酸」とは、循環核酸のうち、腫瘍に関連するかまたは関連することが疑われているものをいい、核酸がDNAの場合は「腫瘍循環DNA」ともいい、核酸がmiRNAの場合は「腫瘍循環miRNA」ともいう。
【0060】
一つの実施形態において、本開示のキット、組成物および方法等は、体内腫瘍量のモニタリング、薬剤耐性遺伝子の判定、がんの早期検出、または再発モニタリングのために用いることができる。加えて、またはそれに換えて、循環核酸は、cfDNAであり得る。このような場合、本開示のキット、組成物および方法等は、出生前診断、染色体異常の検出、または新生児スクリーニングのために用いられ得る。本開示のキット、組成物および方法等は、ウイルス感染の検出のためにも使用し得る。また、本開示のキットは、核酸の絶対定量を行うためにも使用し得る。絶対定量は、デジタルPCRによって行われるものであり得る。
【0061】
本開示のキット、組成物および方法等は、血中循環腫瘍細胞を捕捉するためのものであり得る。そのようなキット、組成物および方法等は、がんの予後予測、または薬物治療法の再検討のために使用し得る。本開示のキット、組成物および方法等は、デジタルPCRを用いて腫瘍細胞数を定量するためにも使用し得る。核酸分析は、デジタルPCRを含み得る。
【0062】
本明細書において「デジタルPCR」とは、核酸の検出および定量のための方法であって、内部標準または内因性コントロールに頼らず、標的分子数を直接カウントすることで実現される方法をいう。
【0063】
本開示のキット、組成物および方法等は、口腔内または血液中の細菌またはウイルスの絶対定量のためにも用い得る。絶対定量の手法は、当技術分野において公知であり、代表的に、標準サンプルを用いて検量線を作成し、未知サンプルの絶対量を測定する方法により実現することができる。通常、絶対量(コピー数)が既知で、未知サンプルと同じ配列を持った標準サンプルが必要である。例えば、タカラバイオから入手可能なBacteria(tufgene) Quantitative PCR Kit等を用いることができるがこれらに限定されない。
【0064】
本開示のキット、組成物および方法等は、血液由来の核酸の保存のために用いることができる。また、本開示のキット、組成物および方法等は、血液から血漿を分離し、保存するためにも用い得る。
【0065】
一つの別の局面において、本開示では、PVAスポンジを用いることを特徴とする、リキッドバイオプシーのサンプリング方法が提供され得る。方法は、
PVAスポンジを、リキッドバイオプシーと接触させる工程と、
PVAスポンジから水中で核酸試料を分離させ、上清を得る工程と、
上清を遺伝子分析に供する工程と
を含み得る。方法は、上記接触させる工程の後に、PVAスポンジを乾燥させる工程をさらに含み得る。加えて、上記上清を得る工程は、PVAスポンジを水中で加熱し、核酸試料を分離させることを含んでもよい。PVAスポンジとリキッドバイオプシーとの接触は、PVAスポンジをリキッドバイオプシーに浸漬することによってもよい。また、かかる方法において用いるための組成物またはキットも提供され得る。
【0066】
本開示において、サンプルの濃縮方法が提供され得る。方法は、
PVAスポンジを、リキッドバイオプシーと接触させる工程と、
PVAスポンジから水中で核酸試料を分離させ、上清を得る工程と、
上清を凍結乾燥する工程と
凍結乾燥した上清を水に溶解させる工程と
を含み得る。方法は、上記接触させる工程の後に、PVAスポンジを乾燥させる工程をさらに含み得る。加えて、上記上清を得る工程は、PVAスポンジを水中で加熱し、核酸試料を分離させることを含んでもよい。PVAスポンジとリキッドバイオプシーとの接触は、PVAスポンジをリキッドバイオプシーに浸漬することによってもよい。また、かかる方法において用いるための組成物またはキットも提供され得る。
【0067】
また、本開示において、PVAスポンジを用いた付着血のサンプリング方法が提供される。方法は、
PVAスポンジを、乾燥付着血と接触させる工程と、
PVAスポンジから水中で核酸試料を分離させ、上清を得る工程と、
上清を遺伝子分析に供する工程と
を含み得る。加えて、上記上清を得る工程は、PVAスポンジを水中で加熱し、核酸試料を分離させることを含んでもよい。また、かかる方法において用いるための組成物またはキットも提供され得る。
【0068】
また、本開示において、微生物を定量的に分析または捕捉する方法が提供される。方法は、
一定体積のPVAスポンジを分析または捕捉対象の微生物を含む試料に接触させる工程と、
該一定体積のPVAスポンジから、該微生物またはその成分を分離する工程と、
必要に応じて、該微生物またはその成分を分析する工程と
を含み得る。加えて、上記分離する工程は、PVAスポンジを水中で加熱し、微生物またはその成分を分離させることを含んでもよい。成分は、例えば、微生物中の核酸であり得る。また、かかる方法において用いるための組成物またはキットも提供され得る。さらに、行う分析は、本明細書の他の箇所に記載される任意の分析であり得る。分析により、例えば、感染症の診断、例えば、敗血症の診断などを行うことができる。
【0069】
さらなる局面において、本開示は、血漿または血清中の循環核酸の分析のための、PVAスポンジを含むサンプリング剤またはサンプリング材料を提供し得る。また、本開示において、血漿または血清中の循環核酸の分析のための、かかるサンプリング剤またはサンプリング材料を含むキットも提供され得る。血漿または血清中の循環核酸の分析は、定量的分析であり得る。循環核酸は、腫瘍循環核酸であり得る。PVAスポンジは、血漿または血清の添加後、核酸を遊離させることなく、直接PVAスポンジをPCR等の反応液に添加し、血漿または血清中の核酸の分析(例えば、定量反応)を行うことができる。核酸を遊離させる工程を用いないことは、分析の対象となる核酸の全量をより正確に反映し、定量において非常に有利となり得る。
【0070】
本開示において、血漿または血清中の循環核酸の分析を行う方法であって、PVAスポンジを血漿または血清と接触させる工程と、PVAスポンジを遺伝子分析に供する工程とを含む、方法が提供され得る。方法において、PVAスポンジは、直接PCR等の反応に供することができる。また、かかる方法において用いるための組成物またはキットも提供され得る。さらに、行う分析は、本明細書の他の箇所に記載される任意の分析であり得る。分析により、腫瘍のモニタリング、超早期発見、薬剤効果モニタリングなどを行うことができる。
【0071】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J. et al.(1989). Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001); Ausubel, F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Ausubel, F.M.(1989). Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Innis, M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press; Ausubel, F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Ausubel, F.M. (1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Innis, M.A. et al.(1995).PCR Strategies, Academic Press; Ausubel, F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Wiley, and annual updates; Sninsky, J.J. et al.(1999). PCR Applications: Protocols for Functional Genomics, Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0072】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait, M.J.(1985). Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Gait, M.J.(1990). Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Eckstein, F.(1991). Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach, IRL Press; Adams, R.L. et al.(1992). The Biochemistry of the Nucleic Acids, Chapman & Hall; Shabarova, Z. et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids, Weinheim; Blackburn, G.M. et al.(1996). Nucleic Acids in Chemistry and Biology, Oxford University Press; Hermanson, G.T.(I996). Bioconjugate Techniques, Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0073】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0074】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0075】
(実施例1:PVAスポンジによる増幅阻害の抑制)
下記の実験により、PVAスポンジによる血液中の阻害物質による増幅阻害の抑制を実証する。
【0076】
(実施例1A:マウス血清ヒトゲノムDNA添加回収実験)
[実験]
直径4mm厚み3mmのPVAスポンジF(D)又は水溶紙120MDPにマウス血清10μLを浸漬した。約1時間自然乾燥後、スポンジ又は水溶紙に105、104、103、102コピー/10μLのヒトゲノムDNAを添加して、一昼夜、自然乾燥した。各サンプルに、DW100μLを加え、95℃で5min加熱した。加熱後サンプルを3000rpmで5分間遠心した。各上清5μLをPCR master mixに加えて、増幅反応を行なった。
【0077】
(コントロールゲノムDNAの調整)
Promega社製 Human Genomic DNA を購入し、ウェブサイト(http://cels.uri.edu/gsc/cndna.html)より原液のコピー数を算出し、105~102コピー数のコントロール溶液を調整した。
【0078】
(マウス血清添加コントロールサンプルの作成)
直径4mmのスポンジ又は水溶紙にマウス血清10mLを浸漬した。約1時間自然乾燥。マウス血清を浸漬したスポンジ又は水溶紙に105~102コピー/10μLのヒトゲノムDNAを添加して、一昼夜、自然乾燥した。
【0079】
(PCR条件)
(1)THUNDERBIRD Probe qPCR Mix(東洋紡)使用の場合
【表2】
(2)TaqPath qPCR Master Mix(Thermo Fisher Scientific Inc.)使用の場合
【表3】
【表4】
【0080】
[結果]
それぞれのサンプルの増幅の結果を、
図1および
図2に示す。PVAスポンジを用いた場合、血清中に添加したヒトゲノムDNAはTHUNDERBIRD、TaqPath共にRNase P遺伝子の増幅が可能であるが、水溶紙では、遺伝子増幅阻害物質に寛容なTaqPathのみ増幅可能であった。
【0081】
[考察]
PVAスポンジは、血清中のPCR反応阻害物質をトラップ(捕捉)し、ヒトゲノムDNA中のRNase P遺伝子の増幅を阻害しない。従来の血清中の浮遊DNA抽出・精製方法を行う事なく、血清中の浮遊DNAの遺伝子増幅、TaqMan Probeによる検出が可能である事が証明できた。
【0082】
(実施例1B:PVAスポンジ又は水溶紙サンプルの反応液直接添加)
[実験]
厚み3mmのPVAスポンジF(D)又は水溶紙120MDPに、それぞれに末梢血滴下またはスワブで採取した口腔内粘膜細胞を含む唾液塗布後、一昼夜乾燥した(約16時間)。スポンジ又は水溶紙を直径2mmでパンチした試料をPCR master mixに加えて、ヒトゲノムDNA中のRNase P遺伝子増幅反応を行なった。
【0083】
サンプリングは、DNA捕捉のために、PVAスポンジF(D)または120MDP水溶紙のディスク径:2mmΦのディスクを使用し、
図3に示されるサンプリング方法にしたがって行った。PCRに供する反応液量は、25μLであった。
【表5】
【表6】
【0084】
[結果]
増幅結果は
図3に示される。PVAスポンジF(D)は血液・唾液共にRNase P遺伝子増幅が観察されるが、水溶紙MDP120の場合、阻害の少ない唾液は遺伝子増幅しているものの、血液では全く増幅が観察されない。
【0085】
[考察]
PVAスポンジは、血液・唾液共に水溶紙120MDPよりもPCR反応阻害物質の捕捉、増幅反応の抑制効果が高い。さらには、PVAスポンジ小片(2mmφ、厚み3mm)を反応液に加えても、増幅反応阻害ならびにTaqManプローブから発する蛍光を検出するリアルタイムPCR 装置システムの光路阻害が観察されない。PVAスポンジ小片を直接PCR反応液に添加して、増幅反応の可能性が示唆された。
【0086】
(実施例1C:血清処理PVAスポンジの反応阻害試験)
[実験]
未処理PVAスポンジF(D)をPCR反応液に直接添加した場合の増幅反応阻害、測定系光路妨害の有無に関する実験。PCR反応液にゲノムDNA 5.0x10
4copyを添加したMaster Mixを調整し、25μLには直径2mmx厚み3mmのPVAスポンジを、50μL系には直径4mmx厚み3mmのPVAスポンジを添加してRNase P遺伝子増幅反応を行なった。サンプリングのプロセスは
図4に示される。
【表7】
【表8】
【0087】
[結果]
結果を
図4に示す。無添加の(1)、(3)に比べスポンジ添加により、Ct値が同レベル或は低くなる傾向が観察された。増幅曲線のCt(Threshold Cycle)値をPVAスポンジ無添加のコントロールと比較すると、反応液中のPVAスポンジF(D)の存在は、PCR反応および光路を阻害しない。
【0088】
[考察]
PVAスポンジ小片(4mmまたは2mmφ、厚み3mm)を反応液に加えても、増幅反応阻害ならびにTaqManプローブから発する蛍光を検出するリアルタイムPCR 装置システムの光路阻害が観察されない。PVAスポンジ小片を直接PCR反応液に添加して、増幅反応の可能性が示唆された。
【0089】
(実施例1D:血清処理PVAスポンジの反応阻害試験)
[実験]
血清処理PVAスポンジF(D)をPCR反応液に直接添加した場合の増幅反応阻害、測定系光路妨害の有無に関する実験。PCR反応液にゲノムDNA5.0x10
4copyを添加したMaster Mixを調整し、25μLには直径2mmx厚み3mmの血清処理PVAスポンジを、50μL系には直径4mmx厚み3mmの血清処理PVAスポンジを添加してRNase P遺伝子増幅反応を行なった。サンプリングのプロセスは
図5に示される。
【0090】
サンプリングの条件は以下のとおりであった。
時間:0、1、2、4hr
PVA:4mmΦまたは2mmΦディスク
方法:PVAを血清中に浸漬
浸漬液量:約25μL又は約5μL
乾燥:翌朝まで約16時間
【表9】
【表10】
【0091】
[結果]
結果を
図5に示す。血清処理スポンジの(2)、(4)は非添加に比べ、Ct値が大きくなり阻害が認められた。しかし、阻害レベルはディスク径を小さく(血清量小)すると低くなった。増幅曲線のCt(Threshold Cycle)値をPVAスポンジ無添加のコントロールと比較すると、反応液中の血清処理PVAスポンジF(D)の存在はPCRの遺伝子増幅反応阻害が観察される。
【0092】
[考察]
血清処理PVAスポンジ小片(4mmまたは2mmφ、厚み3mm)を反応液に加えると増幅反応阻害が観察されたが、反応液量とPVAスポンジサイズ、血清の前処理プロセスを検討する事で本反応を最適化する可能性が示された。
【0093】
(実施例1-1:血清採取デバイス1)
本開示の実施形態の1つの例が、
図6に示される。親水性スポンジ(例えば、PVAスポンジ)を、一定の直径の円柱状(例えば、4mmφ)にし、持ち手としてのプラスチック棒を取り付けたデバイスを提供する。スポンジの厚みを調整して、スポンジによって保持される液量を100μLなど一定に調整することができる。
【0094】
エッペンドルフチューブ中で血液を分離させ、血清部分にデバイスのスポンジ部分を数秒間浸漬する。その後デバイスを取り出し、乾燥させる。乾燥後、蒸留水にスポンジを浸漬する。例えば、エッペンドルフチューブ中で行うことができる。スポンジを押し下げて密封し、95℃で5分熱処理し、5000rpmで5分遠心分離する。その後、上清5μLをPCRに供する。
【0095】
このようにしてサンプルを提供し、腫瘍循環DNA(ctDNA)の検出、腫瘍循環miRNAの検出、cfDNAの検出(出生前診断)、ウイルス感染(HBV、HCV、HIVなど)の検出などを行うことができる。
【0096】
(実施例1-2:血清採取デバイス2)
本開示の好ましい実施形態の例が、
図7に示される。血清(または血漿)サンプリングデバイスは、PVAスポンジを備える冶具と、それを収納するチューブ状の本体とを備え、本体は、キャップ、フィルター、ノズルを備える。全血または血清にPVAスポンジを浸漬し、PCAで吸い上げる。その後、PVAを乾燥させる。乾燥は自然乾燥でも良いが、シリカゲルを用いて乾燥することもできる。乾燥させたPVAを、デバイス中で蒸留水に浸漬し、キャップを閉め、95℃で5分間加熱する。その後、冶具を押すことで、フィルターを通してノズルから、蒸留水の上清を押し出す。上清を分注、凍結乾燥、濃縮などすることができる。また、押し出される上清の体積を調整し、10μL±0.5μL等に一定にすることができる。この一定体積の上清を、PCR反応液に入れ、デジタルPCRなどに供することができる。
【0097】
これにより、腫瘍循環DNA(ctDNA)の検出、腫瘍循環miRNAの検出、cfDNAの検出(出生前診断)、ウイルス感染(HBV、HCV、HIVなど)の検出などを行うことができる。
【0098】
(実施例2:PVAスポンジによる細胞の捕捉)
(実施例2A:PVAディスク中白血球細胞の安定性)
[実験]
ランセットを使用して指先から採取した末梢血10μLをPBS+1mMEDTA10μLで希釈したサンプルをPVA4mmφディスクに滴下し、密封容器(エッペンドルフチューブ)内、室温でインキュベーション(0、1、2、4、8時間)した。各時間経過したPVAディスクは室温で一晩乾燥後、ディスクを下記の手順で処理した。
【0099】
蒸留水50μlに浸漬し、95℃,5分間加熱後、3000rpm,3分間、遠心分離して得られた上清5μLをPCRマスターミックスに添加してRNase P遺伝子増幅反応を実施した。
【0100】
[結果]
結果を
図8に示す。増幅曲線のCt(Threshold Cycle)値から、0~2時間以内のインキュベーションではほぼ同等の遺伝子増幅(ΔCt:約1サイクル)であり、4時間ではΔCt:約3サイクル遅れて増幅する。8時間では全く増幅反応は観察されなかった。
【0101】
[考察]
全血中の白血球細胞のPVAスポンジへの接着は2時間で最大となり、その後、分解、8時間で消失すると考えられる。PVAスポンジに浸漬した末梢血は2時間以内に乾燥工程に入るのが望ましく、浸漬後速やかに乾燥工程に入るプロセスが好ましいことが実証できた。
【0102】
(実施例2B:PVAスポンジの選択)
[実験]
(サンプル調整)
PVAスポンジD(D)、E(D)、F(D)、Y(D)を使用して、各PVAの4mmφDiskに末梢血5μLを滴下し、一晩乾燥した。
【0103】
(PVAスポンジPBS洗浄)
乾燥した各PVAスポンジディスクをPBS200μLに浸漬し、ボルテックス後ディスクを取り除く。上清のPBS溶液を95℃、5分間加熱後、遠心分離(3000rpm、5分間)した上清1μLを4μLの蒸留水で希釈して、PCRマスターミックスに添加してRNase P遺伝子増幅反応を実施した。
【0104】
(PBS洗浄PVAスポンジディスク処理)
各ディスクをDW200μLに浸漬、ボルテックス後、95℃、5分間加熱、遠心分離(3000rpm、5分間)した上清5μLをPCRマスターミックスに添加してRNase P遺伝子増幅反応を実施した。
【0105】
[結果]
結果を
図9に示す。
PVAスポンジPBS洗浄上清PCR遺伝子増幅:Ds、Es、Fs、Ys
PBS洗浄PVAスポンジディスク処理上清PCR遺伝子増幅:Dd、Ed、Fd、Yd
【0106】
遺伝子増幅の結果について、PVAスポンジの種類による差は見出せなかった。Ct値からPBS洗浄液に遊離した白血球細胞よりもPVAスポンジに大部分の白血球細胞が接着していることが理解される。
【0107】
[考察]
PVAスポンジは、細胞を接着する性能を持つことが証明された。
【0108】
(実施例2C:PVAディスク全血保持量)
[実験]
PVAスポンジ(F(D)4mmφx3mmT)ディスクに末梢血2、5、10、20μLを滴下し、一晩乾燥後、ディスクを下記の手順で処理した。
【0109】
乾燥した各PVAスポンジディスクを蒸留水200μLに浸漬し、95℃、5分間加熱後、遠心分離(3000rpm、3分間)した上清5μLをPCRマスターミックスに添加してRNase P遺伝子増幅反応を実施した。
【0110】
[結果]
結果を
図10に示す。PVAスポンジに滴下した末梢血液量に依存し、定量的増幅曲線のCt値が観察された。
【0111】
[考察]
PVAスポンジ(F(D)4mmφx3mmT)の最大血液吸収量は25μLまで、血液成分によるPCR遺伝子増幅反応阻害は無いことが推察される。従って、PVAスポンジの最大吸水量まで液体検体(リキッドバイオプシー)を吸収させ、検体中のDNAを検出するデバイスとして適していることが証明出来た。
【0112】
(実施例2D:PVAスポンジによる唾液中の白血球・剥離上皮細胞捕捉)
[実験]
口腔内の唾液腺付近に分泌する唾液をエッペンドルフチューブにスポイドを使用して採取し、唾液サンプル中にPVAF(D)2mmφx3mmTディスク4個を浸漬させた。室温でインキュベーション(それぞれ0、0.5、1および2時間)した。各時間経過したPVAディスクは室温で一晩乾燥後、ディスクを下記の手順で処理した。乾燥したPVAスポンジディスクは、直接、PCR マスターミックスに添加してRNase P遺伝子増幅反応を実施した。2mmΦのPVAスポンジの唾液浸透量は約5μLであり、唾液中の細胞成分は、白血球:10
2~10
4cells/μL、剥離上皮細胞:10
2~10
4cells/μLとされているため、捕獲量は約10
5cells/PVA diskと考えられる。
【表11】
【表12】
【0113】
[結果]
結果を
図12に示す。増幅曲線のCt(Threshold Cycle)値から、0~2時間以内のインキュベーションで、増幅曲線のCt値が小さくなっていた。0時間:30サイクル、0.5時間:29サイクル、1時間:28サイクル、2時間:27サイクル、結果から捕獲細胞数は倍々で増えていた。
【0114】
[考察]
継時的に捕獲細胞数が増えていることから、白血球・剥離上皮細胞はPVAに接着することが推察される。唾液においてもPVAスポンジが細胞接着能力を有することが証明出来た。理論に拘束されるものではないが、PVAが細胞の足場になっているとも考えられる。
【0115】
本方法は、口腔内にPVAスポンジを含み、それを乾燥後に遺伝子分析に供することによって、生涯変わらない生殖細胞系列の遺伝子分析を行うのに適している。
【0116】
血液と同様にポリメラーゼの増幅反応を阻害することが判明している唾液でも同様にPVAスポンジによる抑制効果があることが分かった。
【0117】
(実施例2E:PVAスポンジを用いた口腔内ダイレクトサンプリング)
[実験]
ボランティア8名は、PVA スポンジディスク(F(D)2mmφx3mmT)を舌下の唾液腺付近に約1分間含ませ、取り出した後、一晩乾燥した。乾燥したPVAスポンジディスクは、直接、PCR マスターミックスに添加してRNase P遺伝子増幅反応を実施した。
【表13】
【表14】
【0118】
[結果]
結果を
図13に示す。8名の増幅曲線のCt(Threshold Cycle)値は29~32サイクルに観察され、コントロールゲノムDNAとの比較から、唾液中の白血球・剥離上皮細胞からPVAスポンジで捕捉できた細胞数は約10
4cellsであった。全血の場合、2mmΦのPVAスポンジ口腔内と水溶紙(120MDP)の差は小さかった。
【0119】
[考察]
本方法は、口腔内にPVAスポンジを含み、乾燥させるという簡便なサンプリングによって、生涯変わらない生殖細胞系列の遺伝子分析に適したサンプルを調製することができることが実証できた。
【0120】
また、通常個人ごとに唾液内の細胞量は大きく異なっているが、上述のとおり、8名の増幅曲線のCt値は一定の範囲に収まった。理論に束縛されることを望まないが、PVAスポンジが、その空隙内に一定量の細胞を捕捉したことによって、唾液中の細胞量に依存せず、スポンジの体積あたり一定量の細胞を回収できたと考えられる。そのため、PVAスポンジのこのような性質は、微生物を含む試料中から、一定量の微生物を回収することを可能にし、それによって、サンプル間の比較を容易にすると考えられる。
【0121】
(実施例2-1:唾液サンプリングプロセス)
本開示の好ましい実施形態の例が、
図14に示される。唾液サンプリングデバイスは、PVAスポンジを備える冶具と、それを収納するチューブ状の本体とを備え、本体は、キャップ、フィルター、ノズルを備える。サンプリングデバイスのPVAスポンジで口腔内の唾液腺付近を軽く擦る。PVAスポンジをシリカゲルによって乾燥させる。乾燥後、デバイス内で蒸留水に浸漬し、キャップをして95℃で5分間加熱する。冶具を押し下げ、フィルターを通してノズルから、蒸留水の上清を押し出す。上清を分注、凍結乾燥、濃縮などすることができる。また、押し出される上清の体積を調整し、10μL±0.5μL等に一定にすることができる。この一定体積の上清を、PCR反応液に入れ、デジタルPCRなどに供することができる。
【0122】
これにより、デジタルPCRを用いた口腔内細菌・ウイルスの絶対定量、次世代シークエンサーを用いた生殖系細胞の配列解析、遺伝子変異解析によるSNPまたはCNVの検出などを行うことができる。
【0123】
(実施例2-2:がん細胞サンプリングプロセス)
本開示の好ましい実施形態の例が、
図15に示される。唾液サンプリングデバイスは、PVAスポンジを備える冶具と、それを収納するチューブ状の本体とを備え、本体は、キャップ、フィルター、ノズルを備える。
【0124】
がん細胞塊をトリプシン処理する。トリプシン処理を行った反応液にPVAスポンジを浸漬する。PVAスポンジをシリカゲルによって乾燥させる。乾燥後、デバイス内で蒸留水に浸漬し、キャップをして95℃で5分間加熱する。冶具を押し下げ、フィルターを通してノズルから、蒸留水の上清を押し出す。上清を、PCR等の反応に供する。
【0125】
これにより、デジタルPCRを用いた正常細胞とがん細胞との間のコピー数の比較や、次世代シークエンサーによる網羅的がん関連遺伝子変異解析を行うことができる。
【0126】
(実施例2-3:固形腫瘍細胞の迅速遺伝子検査)
本開示の好ましい実施形態の例が、
図16に示される。がん細胞塊をトリプシン処理する。トリプシン処理を行った反応液にPVAスポンジを投入する。例えば、スポンジは、気孔サイズが200μmである。その後、PVAスポンジを取り出し、蒸留水に浸漬する。95℃,5分間加熱後、3000rpm,3分間、遠心分離して上清を得る。上清を遺伝子分析に供する。例えば、上清5μLを、PCRマスターミックスと混合し、PCR反応などを行うことができる。
【0127】
これにより、デジタルPCRを用いた正常細胞とがん細胞との間のコピー数の比較や、次世代シークエンサーによる網羅的がん関連遺伝子変異解析を行うことができる。
【0128】
(実施例2-4:固形腫瘍細胞の薬剤選択性試験)
本開示の好ましい実施形態の例が、
図17に示される。がん細胞塊をトリプシン処理する。トリプシン処理を行った反応液にPVAスポンジを投入する。例えば、PVAスポンジは2mmφのディスクである。がん細胞を付着させたディスクと、正常細胞を付着させたディスクとを抗がん剤添加培地で培養する。その後ディスクを乾燥させ、PCR反応に供する。細胞の生死をTaqman PCR法で判定し、腫瘍細胞の薬剤選択性を試験する。
【0129】
(実施例3:DNA安定性試験)
[概要]
リキッドバイオプシーを用いた遺伝子検査の場合、白血球または剥離上皮細胞などの細胞死(ネクローシス(細胞壊死)とアポトーシス(積極的、機能的細胞死)により、浮遊DNA(cfDNA)が増加するため、2時間以内に血清(血漿)に調整することが一般的である。そこで、血清中の遊離DNAの安定性について、ゲノムDNAまたはプラスミドDNAを添加して、PVAスポンジを用いてその安定性について検討した。検討の手法は、
図18においても図示されている。
【0130】
[材料および方法]
(ゲノムDNAまたはプラスミドDNA血清溶液の調製)
ゲノムDNAは市販(Human Genomic DNA:Promega社製)の溶液を調整して使用した。プラスミドDNAは、市販のレトロウイルス由来のプラスミドにアルコール代謝酵素遺伝子ADH1Bをコードした遺伝子断片を挿入し、大腸菌の遺伝子組み換え体を培養して抽出・精製した。それぞれ、以下の手順で調整した。
(1)1.0x106copy/20μL(DW)調整
(2)市販血清(正常ヒト血清・プール:コスモバイオ)又は蒸留水180μLで稀釈
(3)1.0x106copy/200μLを調整して安定性試験を実施した。
(4)37℃でインキュベーション
【0131】
(サンプリング)
PVAスポンジ:4mmφディスク
方法:PVAディスクを、血清またはコントロールの蒸留水で調整した溶液に浸漬
浸漬時間:0、1、2、4hr
浸漬液量:約20μL
乾燥時間:翌朝まで約16時間
【0132】
(ゲノムDNA抽出)
(1)DW100μL中にディスク浸漬
(2)95℃、5分間加熱
(3)5000rpm、5min
(4)5μLをPCRマスターミックスへ
(5)PCR反応に添加された理論的DNA添加量は計算上5x10
2copy
【表15】
【表16】
【0133】
[結果]
結果を
図19および20に示す。増幅曲線のCt(Threshold Cycle)値から、0~4時間以内のインキュベーションで、増幅曲線のCt値の変化はいずれも殆ど観察されなかった。
【0134】
[考察]
血清中に添加されたゲノムDNAまたはプラスミドDNAは、4時間以内では安定に存在することが証明出来た。血清(血漿)分離後に含まれる遊離DNA(ctDNA)は比較的安定であることが証明出来た。安定性は、プラスミドDNAがゲノムDNAより大きかった。
【0135】
(実施例3-1:血漿分離・保存)
フィルター血漿分離デバイスにおけるフィルター(例えば、ろ紙)の部分をPVAスポンジに置き換えたデバイスを提供する。その他の構成は、市販の血漿分離デバイス(例えば、ワトソン、深江化成)に従ったものでよい。
【0136】
全血をフィルター部分に滴下し、血漿成分を分離させたあと、生検パンチ(貝印)で小片をパンチする。小片を反応液に添加し、PCR等の遺伝子増幅反応に使用することができる。
【0137】
(実施例4:血清処理PVAスポンジ調整液の凍結乾燥)
[実験]
実験の手順は、
図21に示される。より詳細には、以下の手順で実験を行った。
【0138】
(実験条件)
(1)ゲノムDNA:25μLの1x10
4copy/μL溶液をDWでx2(50μL)に調整する。
(2)血清25μLで処理したPVAスポンジを乾燥、上記調整溶液に浸漬する。
(3)95℃,5分間処理後、3000rpm遠心
(4)上清10μLをPCRへ
(5)残りの上清約30μLを凍結乾燥
(6)凍結乾燥後、残渣を20μLのDWで溶解
(7)10μLをPCRに使用する。
【表17】
【表18】
【0139】
[結果]
結果を
図21に示す。血清処理PVAスポンジ調整液は凍結乾燥後、再溶解サンプルとしてPCRに使用しても問題なく増幅が生じた。
【0140】
[考察]
血清処理PVAスポンジ調整液の上清は凍結乾燥後、より少量のDWで溶解することにより、2倍~10倍濃縮出来ることが示唆された。PVAは固形のスポンジなので、上清を容易に分離する事が出来る。PCR反応阻害物は、PVAスポンジトラップおよび沈殿物として容易に除去できていると考えられる。
【0141】
(実施例5:繊維・紙・テーブル乾燥付着血の検出)
[実験]
(サンプル処理)
蒸留水を含ませたPVA4mmφディスクで繊維・テーブルに付着した血液をふき取り、下記の条件で処理した。
DW200μL/95℃,5min加熱/遠心(3000rpm,3min)/Sample上清5μL→PCR
【0142】
【0143】
[考察]
PVAのスポンジという機能を活用して、血液の付着した衣服、テーブルから血液を拭き取り、乾燥して、その後、遺伝子検査を行うことができる。犯罪捜査などにも使用可能であると考えられる。
【0144】
(実施例6:血液中のがん関連遺伝子モニタリングシステム)
(実施例6A:術後早期再発診断)
本開示を用いた術後早期再発診断の例が
図23に示される。
【0145】
がん手術時に、がん組織・細胞遺伝子変異解析を、以下の手順により次世代シークエンサ(NGS)(例えば、Illumina社、Thermo Fisher Scientific社、Roche社などから利用可能)を用いて行う。特に、変異の生じやすいCancer Hotspot Targetを標的とする。
1.細胞塊をPBS懸濁
2.トリプシン処理する
3.PVAスポンジに浸漬
4.乾燥
5.がん細胞DNA溶出
6.NGSによるシークエンシング
7.Hotspot解析
【0146】
血漿中のctDNAを、以下の手順によりdPCRを用いてモニタリングする。例えば、3ヶ月毎の検診時にモニタリングする。
1.採血(1mL)
2.フィルター血漿分離
3.PVAスポンジに浸漬
4.乾燥
5.ctDNA溶出
6.dPCR
7.Hotspotモニタリング
【0147】
がん関連遺伝子が検出された場合、画像による再発検索を行う。
【0148】
(実施例6B:治療効果モニタリング)
本開示を用いた治療効果モニタリングの例が
図24に示される。
【0149】
再発治療中に、血漿中のctDNAを、以下の手順によりdPCRを用いてモニタリングする。例えば、3ヶ月毎の検診時にモニタリングする。
1.採血(1mL)
2.フィルター血漿分離
3.PVAスポンジに浸漬
4.乾燥
5.ctDNA溶出
6.dPCR
7.Hotspotモニタリング
【0150】
ctDNAのコピー数が増加した場合、薬物治療法の再検討を行う。
【0151】
新規mutationの検索として、血中浮遊がん細胞の遺伝子変異解析を、dPCRおよびNGSを用いて行う。Cancer Hotspot Targetを標的とする。CTC分離・精製を以下の手順で行う。
1.採血 1mL
2.溶血バッファー処理
3.白血球除去(CD45)
4.PBS懸濁 100μL
5.PVAスポンジに浸漬
6.乾燥
7.CTC DNA溶出
8.dPCR:CTC Hotspot確認
9.NGS
10.Hotspot解析
【0152】
(実施例7A:血漿中cfDNAのPVAスポンジ・ダイレクト定量)
[実験]
実験の手順は、
図25に示される。より詳細には、以下の手順で実験を行った。
(1)血漿調整法:全血と同量のPBS+EDTAと加え、1500G, 10分間遠心分離した上清を以下の実験に使用した。
(2)ゲノムDNA:1x10
2copy/μL(PBS+EDTA)溶液を2mmΦPVAスポンジに5μL滴下・乾燥後、PCR反応液に添加する。
(3)各血漿5μLを2mmΦPVAスポンジに滴下・乾燥後、PCR反応液に添加する。
【表19】
【表20】
【0153】
[結果]
結果を
図25に示す。健常者cfDNAをCT値35~37サイクルで検出可能であった。
【0154】
[考察]
血漿添加PVAスポンジディスクはPCR反応を阻害しないことが理解される。また、血漿を添加したPVAスポンジから、核酸を遊離させる工程を行わずに反応液に添加しても循環核酸の増幅が可能であった。このことは、PVAスポンジを用いることで、循環核酸を余分な精製工程なしに定量可能であることを示唆している。正確な定量においては、溶出等の全体体積が変化する作業が少ないことは非常に有利である。
【0155】
(実施例7B:血漿中cfDNAのPVAスポンジ・ダイレクト定量)
[実験]
実験の手順は、
図26に示される。より詳細には、以下の手順で実験を行った。
(1)血漿調整法:全血と同量のPBS+EDTAと加え、1500G,10分間遠心分離した上清を以下の実験に使用した。
(2)ゲノムDNA:1x10
2copy/μL(PBS+EDTA)溶液を2mmΦPVAスポンジに5μL滴下・乾燥後、DW50μLで95℃、5分間処理。
(3)PCR Master Mixに10μLを添加して、PCRを実施した。
【表21】
【表22】
【0156】
[結果]
結果を
図26に示す。健常者cfDNAをCT値35~40サイクルで検出可能であった。
【0157】
[考察]
血漿添加PVAスポンジディスクはPCR反応を阻害しないことが理解される。PVAスポンジを用いることにより、血漿中のセルフリーDNAを定量的に分析できることが示される。
【0158】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本出願は、日本国特許出願第2019-4438号(2019年1月15日出願)および日本国特許出願第2019-68152号(2019年3月29日出願)に対して優先権を主張するものであり、それらの内容の全体は、本願において参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本開示は、研究または臨床におけるサンプル調製において、例えば、遺伝子型の判定のためのサンプル調製や、薬物動態モニタリングのためのサンプル調製に利用可能である。