(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】電動弁制御装置、調整装置、電動弁制御プログラムおよび調整プログラム
(51)【国際特許分類】
F16K 31/04 20060101AFI20240925BHJP
【FI】
F16K31/04 A
(21)【出願番号】P 2021100977
(22)【出願日】2021-06-17
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000133652
【氏名又は名称】株式会社テージーケー
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】弁理士法人インターブレイン
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 智宏
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 真司
(72)【発明者】
【氏名】金子 靖明
(72)【発明者】
【氏名】水嶋 亮直
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-332168(JP,A)
【文献】特開平11-62631(JP,A)
【文献】特開2018-135908(JP,A)
【文献】特開2019-122074(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0328489(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステップに対応する励磁パターンによって印加される駆動電流によってロータを回転させるステッピングモータと、前記ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構とを有する電動弁に接続され、
前記電動弁の個体毎に設定される励磁パターン補正値を記憶する励磁パターン補正値記憶部と、
前記ステップに対応する前記励磁パターンを、前記励磁パターン補正値に基づいて補正する回転制御部と、
補正された励磁パターンによって前記ステッピングモータに駆動電流を印加する回転指示部と、を備えることを特徴とする電動弁制御装置。
【請求項2】
前記電動弁制御装置は、更に、前記励磁パターン補正値を付加された補正値書き込みコマンドを受信する受信部を備え、
前記回転制御部は、受信した前記補正値書き込みコマンドに付加された前記励磁パターン補正値を、前記励磁パターン補正値記憶部に記憶させることを特徴とする請求項1に記載の電動弁制御装置。
【請求項3】
ステップに対応する励磁パターンによって印加される駆動電流によってロータを回転させるステッピングモータと、前記ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構と、前記ロータの角度を検出するセンサと、前記弁体の軸線方向に弾性力を与える弾性体と、を有する電動弁に接続された電動弁制御装置に接続され、
前記ロータの2つの回転方向のうち、前記弾性力による負荷トルクがより大きくなる一方の第1回転方向に前記ロータを回転させる動作におけるステップと、当該ステップにおいて前記センサで検出された前記ロータの角度を示すパラメータとを含むサンプルデータを、前記電動弁制御装置から取得するサンプル取得部と、
前記サンプルデータに基づいて、前記第1回転方向の動作において励磁パターンを先行させる励磁パターン補正値を算出する補正値算出部と、
算出された前記励磁パターン補正値を前記電動弁制御装置に設定する補正値設定部と、を備えることを特徴とする調整装置。
【請求項4】
前記サンプル取得部は、前記サンプルデータとして、更に前記第1回転方向と反対の第2回転方向に前記ロータを回転させる動作におけるステップと、当該ステップにおいて前記センサで検出された前記ロータの角度を示すパラメータとを、前記電動弁制御装置から取得し、
前記補正値算出部は、前記サンプルデータに基づいて、前記第1回転方向の動作における前記ステッピングモータの回転の遅れの大きさと、前記第2回転方向の動作における前記ステッピングモータの回転の遅れの大きさを近づける条件に従って、前記励磁パターン補正値を算出することを特徴とする請求項3に記載の調整装置。
【請求項5】
前記サンプル取得部は、前記サンプルデータとして、更に前記第1回転方向と反対の第2回転方向に前記ロータを回転させる動作におけるステップと、当該ステップにおいて前記センサで検出された前記ロータの角度を示すパラメータとを、前記電動弁制御装置から取得し、
前記補正値算出部は、前記サンプルデータに基づいて、前記第1回転方向の動作における前記励磁パターン補正値と異なり、前記第2回転方向の動作において励磁パターンを先行させる励磁パターン補正値を算出することを特徴とする請求項3に記載の調整装置。
【請求項6】
ステップに対応する励磁パターンによって印加される駆動電流によってロータを回転させるステッピングモータと、前記ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構と、前記ロータの角度を検出するセンサと、前記弁体の軸線方向に弾性力を与える弾性体と、を有する電動弁に接続され、
前記ロータの2つの回転方向のうち、前記弾性力による負荷トルクがより大きくなる一方の第1回転方向に前記ロータを回転させる動作におけるステップと、当該ステップにおいて前記センサで検出された前記ロータの角度を示すパラメータとを含むサンプルデータを生成するサンプル生成部と、
前記サンプルデータに基づいて、前記第1回転方向の動作において励磁パターンを先行させる励磁パターン補正値を算出する補正値算出部と、
算出された前記励磁パターン補正値を記憶する補正値記憶部と、を備えることを特徴とする電動弁制御装置。
【請求項7】
前記サンプル生成部は、前記サンプルデータに、更に前記第1回転方向と反対の第2回転方向に前記ロータを回転させる動作におけるステップと、当該ステップにおいて前記センサで検出された前記ロータの角度を示すパラメータとを加え、
前記補正値算出部は、前記サンプルデータに基づいて、前記第1回転方向の動作における前記ステッピングモータの回転の遅れの大きさと、前記第2回転方向の動作における前記ステッピングモータの回転の遅れの大きさを近づける条件に従って、前記励磁パターン補正値を算出することを特徴とする請求項6に記載の電動弁制御装置。
【請求項8】
前記サンプル生成部は、前記サンプルデータに、更に前記第1回転方向と反対の第2回転方向に前記ロータを回転させる動作におけるステップと、当該ステップにおいて前記センサで検出された前記ロータの角度を示すパラメータとを加え、
前記補正値算出部は、前記サンプルデータに基づいて、前記第1回転方向の動作における前記励磁パターン補正値と異なり、前記第2回転方向の動作において励磁パターンを先行させる励磁パターン補正値を算出することを特徴とする請求項6に記載の電動弁制御装置。
【請求項9】
前記電動弁制御装置は、更に、前記ステップに対応する前記励磁パターンを、前記励磁パターン補正値に基づいて補正する回転制御部と、
補正された励磁パターンによって前記ステッピングモータに駆動電流を印加する回転指示部と、を備えることを特徴とする請求項6から8のいずれかに記載の電動弁制御装置。
【請求項10】
ステップに対応する励磁パターンによって印加される駆動電流によってロータを回転させるステッピングモータと、前記ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構とを有する電動弁に接続されたコンピュータに、
前記ステップに対応する前記励磁パターンを、前記電動弁の個体毎に設定される励磁パターン補正値に基づいて補正する機能と、
補正された励磁パターンによって前記ステッピングモータに駆動電流を印加する機能と、を発揮させることを特徴とする電動弁制御プログラム。
【請求項11】
ステップに対応する励磁パターンによって印加される駆動電流によってロータを回転させるステッピングモータと、前記ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構と、前記ロータの角度を検出するセンサと、前記弁体の軸線方向に弾性力を与える弾性体と、を有する電動弁に接続された電動弁制御装置に接続可能なコンピュータに、
前記ロータの2つの回転方向のうち、前記弾性力による負荷トルクがより大きくなる一方の第1回転方向に前記ロータを回転させる動作におけるステップと、当該ステップにおいて前記センサで検出された前記ロータの角度を示すパラメータとを含むサンプルデータを、前記電動弁制御装置から取得する機能と、
前記サンプルデータに基づいて、前記第1回転方向の動作において励磁パターンを先行させる励磁パターン補正値を算出する機能と、
算出された前記励磁パターン補正値を前記電動弁制御装置に設定する機能と、を発揮させることを特徴とする調整プログラム。
【請求項12】
ステップに対応する励磁パターンによって印加される駆動電流によってロータを回転させるステッピングモータと、前記ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構と、前記ロータの角度を検出するセンサと、前記弁体の軸線方向に弾性力を与える弾性体と、を有する電動弁に接続されたコンピュータに、
前記ロータの2つの回転方向のうち、前記弾性力による負荷トルクがより大きくなる一方の第1回転方向に前記ロータを回転させる動作におけるステップと、当該ステップにおいて前記センサで検出された前記ロータの角度を示すパラメータとを含むサンプルデータを生成する機能と、
前記サンプルデータに基づいて、前記第1回転方向の動作において励磁パターンを先行させる励磁パターン補正値を算出する機能と、
算出された前記励磁パターン補正値を記憶する機能と、を発揮させることを特徴とする電動弁制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動弁に関し、特にステッピングモータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用空調装置は、一般に、圧縮機、凝縮器、膨張装置、蒸発器等を冷凍サイクルに配置して構成される。冷凍サイクルには、膨張装置としての膨張弁など、冷媒の流れを制御するために各種制御弁が設けられている。近年の電気自動車等の普及に伴い、駆動部としてステッピングモータを備える電動弁が広く採用されつつある。
【0003】
このような電動弁として、弁開度を検出するための磁気センサを備えるものが知られている(たとえば、特許文献1参照)。ロータとともに回転する作動ロッドの一端に弁体が設けられ、他端にマグネット(センサマグネット)が設けられる。そのセンサマグネットと軸線方向に対向するように磁気センサが設けられる。ロータの回転運動は、ねじ送り機構により弁体の軸線運動に変換される。ロータの回転に伴う磁束の変化を磁気センサで捉えることによりセンサマグネットの回転角度ひいては弁体の軸線方向位置を検出でき、弁開度を算出できる。
【0004】
電動弁内において上下動する弁体には、制御の基準となる基準位置が設定される。ロータが弁閉方向への回転を続けて「原点」ともよばれる基準位置に至ったとき、ロータはストッパにより回転を規制される(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-135908号公報
【文献】特開2020-204344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ステッピングモータに負荷がかかると脱調が生じることがある。脱調とは、急な速度の変化や過負荷などによって、ステッピングモータにおける回転誘導が損なわれる現象のことである。脱調が生じることがなくとも、ステッピングモータに負荷がかかると、ある程度回転に遅れが生じる。この遅れは回転角の誤差を生み、電動弁における弁開度の制御に影響を与える。
【0007】
回転角の誤差は、ステッピングモータの駆動特性やロータにかかる負荷の特性に依存する。これらの特性を踏まえて、より正確な回転角を得られるようにステッピングモータを制御し、弁開度の精度を高めることが望まれる。
【0008】
本発明の主たる目的は、電動弁のロータの回転誤差を減ずるようにステッピングモータを制御する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様における電動弁制御装置は、ステップに対応する励磁パターンによって印加される駆動電流によってロータを回転させるステッピングモータと、ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構とを有する電動弁に接続され、電動弁の個体毎に設定される励磁パターン補正値を記憶する励磁パターン補正値記憶部と、ステップに対応する励磁パターンを、励磁パターン補正値に基づいて補正する回転制御部と、補正された励磁パターンによってステッピングモータに駆動電流を印加する回転指示部と、を備える。
【0010】
本発明のある態様における調整装置は、ステップに対応する励磁パターンによって印加される駆動電流によってロータを回転させるステッピングモータと、ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構と、ロータの角度を検出するセンサと、弁体の軸線方向に弾性力を与える弾性体と、を有する電動弁に接続された電動弁制御装置に接続され、ロータの2つの回転方向のうち、弾性力による負荷トルクがより大きくなる一方の第1回転方向にロータを回転させる動作におけるステップと、当該ステップにおいてセンサで検出されたロータの角度を示すパラメータとを含むサンプルデータを、電動弁制御装置から取得するサンプル取得部と、サンプルデータに基づいて、第1回転方向の動作において励磁パターンを先行させる励磁パターン補正値を算出する補正値算出部と、算出された励磁パターン補正値を電動弁制御装置に設定する補正値設定部と、を備える。
【0011】
本発明のある態様における電動弁制御装置は、ステップに対応する励磁パターンによって印加される駆動電流によってロータを回転させるステッピングモータと、ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構と、ロータの角度を検出するセンサと、弁体の軸線方向に弾性力を与える弾性体と、を有する電動弁に接続され、ロータの2つの回転方向のうち、弾性力による負荷トルクがより大きくなる一方の第1回転方向にロータを回転させる動作におけるステップと、当該ステップにおいてセンサで検出されたロータの角度を示すパラメータとを含むサンプルデータを生成するサンプル生成部と、サンプルデータに基づいて、第1回転方向の動作において励磁パターンを先行させる励磁パターン補正値を算出する補正値算出部と、算出された励磁パターン補正値を記憶する補正値記憶部と、を備える。
【0012】
本発明のある態様における電動弁制御プログラムは、ステップに対応する励磁パターンによって印加される駆動電流によってロータを回転させるステッピングモータと、ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構とを有する電動弁に接続されたコンピュータに、ステップに対応する励磁パターンを、電動弁の個体毎に設定される励磁パターン補正値に基づいて補正する機能と、補正された励磁パターンによってステッピングモータに駆動電流を印加する機能と、を発揮させる。
【0013】
本発明のある態様における調整プログラムは、ステップに対応する励磁パターンによって印加される駆動電流によってロータを回転させるステッピングモータと、ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構と、ロータの角度を検出するセンサと、弁体の軸線方向に弾性力を与える弾性体と、を有する電動弁に接続された電動弁制御装置に接続可能なコンピュータに、ロータの2つの回転方向のうち、弾性力による負荷トルクがより大きくなる一方の第1回転方向にロータを回転させる動作におけるステップと、当該ステップにおいてセンサで検出されたロータの角度を示すパラメータとを含むサンプルデータを、電動弁制御装置から取得する機能と、サンプルデータに基づいて、第1回転方向の動作において励磁パターンを先行させる励磁パターン補正値を算出する機能と、算出された励磁パターン補正値を電動弁制御装置に設定する機能と、を発揮させる。
【0014】
本発明のある態様における電動弁制御プログラムは、ステップに対応する励磁パターンによって印加される駆動電流によってロータを回転させるステッピングモータと、ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構と、ロータの角度を検出するセンサと、弁体の軸線方向に弾性力を与える弾性体と、を有する電動弁に接続されたコンピュータに、ロータの2つの回転方向のうち、弾性力による負荷トルクがより大きくなる一方の第1回転方向にロータを回転させる動作におけるステップと、当該ステップにおいてセンサで検出されたロータの角度を示すパラメータとを含むサンプルデータを生成する機能と、サンプルデータに基づいて、第1回転方向の動作において励磁パターンを先行させる励磁パターン補正値を算出する機能と、算出された励磁パターン補正値を記憶する機能と、を発揮させる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電動弁のロータの回転誤差を減ずるようにステッピングモータを制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】ステータおよびその周辺の構成を表す図である。
【
図4】磁気センサとセンサマグネットおよびセンサマグネットから発生する磁力線の関係を示す模式図である。
【
図6】センサマグネットのセンサ値と感知角との関係を示すグラフである。
【
図7】角度値(デューティー比)とステップの関係を示すグラフである。
【
図9】
図9(A)は、弁停止中におけるトルクバランスの概要を示す図である。
図9(B)は、上昇回転の始動時におけるトルクバランスの概要を示す図である。
図9(C)は、下降回転の始動時におけるトルクバランスの概要を示す図である。
【
図11】
図11(A)は、補正なし励磁パターンと理想のデューティー比を示すグラフである。
図11(B)は、補正なし励磁パターンと理想のデューティー比を示すグラフである。
【
図12】
図12(A)は、補正なし励磁パターンと上昇回転時の補正なしデューティー比を示すグラフである。
図12(B)は、補正なし励磁パターンと上昇回転時の補正なしデューティー比を示すグラフである。
【
図13】
図13(A)は、補正あり励磁パターンと上昇回転時の補正ありデューティー比を示すグラフである。
図13(B)は、補正あり励磁パターンと上昇回転時の補正ありデューティー比を示すグラフである。
【
図14】励磁パターン補正値の求め方を説明するためのグラフである。
【
図15】補正なし上昇回転時のパラメータ例を示す図である。
【
図16】補正なし下降回転時のパラメータ例を示す図である。
【
図17】励磁パターン補正の結果を説明するためのグラフである。
【
図18】補正あり上昇回転時のパラメータ例を示す図である。
【
図19】補正あり下降回転時のパラメータ例を示す図である。
【
図20】調整装置および電動弁制御装置の機能ブロック図である。
【
図22】電動弁制御装置の処理過程を示すフローチャートである。
【
図23】励磁パターン補正値算出処理過程を示すフローチャートである。
【
図24】電動弁制御装置の処理過程を示すフローチャートである。
【
図25】変形例3における電動弁制御装置の機能ブロック図である。
【
図26】変形例3における電動弁制御装置の補正値設定処理過程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明においては便宜上、図示の状態を基準に各構造の位置関係を表現することがある。また、以下の実施形態およびその変形例について、ほぼ同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0018】
図1は、実施形態に係る電動弁を表す断面図である。
電動弁1は、図示しない自動車用空調装置の冷凍サイクルに適用される。この冷凍サイクルには、循環する冷媒を圧縮する圧縮機、圧縮された冷媒を凝縮する凝縮器、凝縮された冷媒を絞り膨張させて霧状に送出する膨張弁、霧状の冷媒を蒸発させてその蒸発潜熱により車室内の空気を冷却する蒸発器等が設けられている。電動弁1は、その冷凍サイクルの膨張弁として機能する。
【0019】
電動弁1は、弁本体2とモータユニット3とを組み付けて構成される。弁本体2は、弁部を収容したボディ5を有する。ボディ5は、「バルブボディ」として機能する。ボディ5は、第1ボディ6と第2ボディ8とを同軸状に組み付けて構成される。第1ボディ6および第2ボディ8は、ともにステンレス鋼(以下「SUS」と表記する)からなる。第2ボディ8には弁座24が設けられるため、耐摩耗性に優れた材質が選定されている。第1ボディ6は第2ボディ8よりも溶接性に優れ、第2ボディ8は第1ボディ6よりも加工性に優れている。
【0020】
第1ボディ6は、外径が下方に向けて段階的に縮径する段付円筒状をなす。第1ボディ6の上端部の外径がやや縮径され、段差による係止部52が構成されている。第1ボディ6の下部外周面には、電動弁1を図示しない配管ボディに組み付けるための雄ねじ10が形成されている。なお、配管ボディには、凝縮器側から延びる配管や、蒸発器につながる配管などが接続されるが、その詳細については説明を省略する。第1ボディ6における雄ねじ10のやや上方の外周面には、環状溝からなるシール収容部12が形成され、シールリング14(Oリング)が嵌着されている。
【0021】
第1ボディ6の下部には、円穴状の凹状嵌合部16が設けられている。第2ボディ8は有底円筒状をなし、その上部が凹状嵌合部16に圧入されている。第2ボディ8の下部外周面には環状溝からなるシール収容部18が形成され、シールリング20が嵌着されている。第2ボディ8の底部を軸線方向に貫通するように弁孔22が設けられ、その弁孔22の上端開口部に弁座24が形成されている。第2ボディ8の側部に入口ポート26が設けられ、下部に出口ポート28が設けられている。第1ボディ6および第2ボディ8の内方に弁室30が形成されている。入口ポート26と出口ポート28とは、弁室30を介して連通している。
【0022】
ボディ5の内方には、モータユニット3のロータ60から延びる作動ロッド32が挿通されている。作動ロッド32は、弁室30を貫通する。作動ロッド32は、非磁性金属からなる棒材を切削加工して得られ、その下部にニードル状の弁体34が一体に設けられている。弁体34が弁室30側から弁座24に着脱することにより弁部を開閉する。
【0023】
第1ボディ6の上部中央には、ガイド部材36が立設されている。ガイド部材36は、非磁性金属からなる管材を段付円筒状に切削加工して得られ、その軸線方向中央部の外周面に雄ねじ38が形成されている。ガイド部材36の下端部が大径となっており、その大径部40が第1ボディ6の上部中央に圧入され、同軸状に固定されている。ガイド部材36は、その内周面により作動ロッド32を軸線方向に摺動可能に支持する一方、その外周面によりロータ60の回転軸62を回転摺動可能に支持する。
【0024】
作動ロッド32における弁体34のやや上方にばね受け42が設けられ、ガイド部材36の底部にもばね受け44が設けられている。ばね受け42,44間に、弁体34を閉弁方向に付勢するスプリング46(「付勢部材」として機能する)が介装されている。
【0025】
一方、モータユニット3は、ロータ60とステータ64とを含む三相ステッピングモータとして構成されている。モータユニット3は、有底円筒状のキャン66を有し、そのキャン66の内方にロータ60を配置し、外方にステータ64を配置して構成されている。キャン66は、弁体34およびその駆動機構が配置される空間を覆うとともにロータ60を内包する有底円筒状の部材であり、冷媒の圧力が作用する内方の圧力空間(内部空間)と作用しない外方の非圧力空間(外部空間)とを画定する。
【0026】
キャン66は、非磁性金属(本実施形態ではSUS)からなり、その下部が第1ボディ6の上端部に外挿されるようにして同軸状に組み付けられている。キャン66は、その下端が係止部52に係止されることによりその挿入量が規制される。キャン66の下端と第1ボディ6との境界に沿って全周溶接が施されることにより(図示略)、ボディ5とキャン66との固定およびシールが実現されている。ボディ5とキャン66とに囲まれた空間が、上記圧力空間を形成している。
【0027】
ステータ64は、積層コア70の内周部に複数の突極を等間隔に配置して構成される。積層コア70は、環状のコアが軸線方向に積層されて構成される。各突極には、コイル73(電磁コイル)が装着されたボビン74が組み付けられている。これらコイル73およびボビン74により「コイルユニット75」が構成される。本実施形態では、三相電流を供給するためのモータユニット3つのコイルユニット75が、積層コア70の中心軸に対して120度ごとに設けられている(詳細後述)。
【0028】
ステータ64は、モータユニット3のケース76と一体に設けられている。すなわち、ケース76は、耐食性を有する樹脂材の射出成形(「インサート成形」または「モールド成形」ともいう)により得られる。ステータ64は、その射出成形によるモールド樹脂によって被覆されている。ケース76は、そのモールド樹脂からなる。以下、ステータ64とケース76とのモールド成形品を「ステータユニット78」とも称する。
【0029】
ステータユニット78は、中空構造を有し、キャン66を同軸状に挿通しつつボディ5に組み付けられている。第1ボディ6における係止部52のやや下方の外周面には、環状溝からなるシール収容部80が形成され、シールリング82(Oリング)が嵌着されている。第1ボディ6の上部外周面とケース76の下部内周面とに間にシールリング82が介装されることにより、キャン66とステータ64との間隙への外部雰囲気(水など)の侵入が防止されている。
【0030】
ロータ60は、回転軸62に組み付けられた円筒状のロータコア102と、ロータコア102の外周面に設けられたロータマグネット104と、ロータコア102の上端面に設けられたセンサマグネット106を備える。ロータコア102は、回転軸62に組み付けられている。ロータマグネット104は、その周方向に複数極に磁化(着磁)されている。センサマグネット106も複数極に磁化(着磁)されている。ロータマグネット104およびセンサマグネット106は、ロータコア102に一体成型されたマグネット部に後工程で着磁して得られたものであるが、その詳細については後述する。
【0031】
回転軸62は、有底円筒状の円筒軸であり、その開口端を下にしてガイド部材36に外挿されている。回転軸62の下部内周面に雌ねじ108が形成され、ガイド部材36の雄ねじ38と噛合している。これらのねじ部によるねじ送り機構109によって、ロータ60の回転運動が作動ロッド32の軸線運動に変換される。それにより弁体34が軸線方向、つまり弁部の開閉方向に移動(昇降)する。
【0032】
作動ロッド32の上部が縮径され、その縮径部110が回転軸62の底部112を貫通している。縮径部110の先端部には環状のストッパ114が固定されている。一方、縮径部110の基端と底部112との間には、作動ロッド32を下方(つまり閉弁方向)に付勢するスプリング116が介装されている。このような構成により、開弁時には、ストッパ114が底部112に係止される態様で作動ロッド32がロータ60と一体変位する。一方、閉弁時には、弁体34が弁座24から受ける反力によりスプリング116が押し縮められる。このときのスプリング116の弾性反力により弁体34を弁座24に押し付けることができ、弁体34の着座性能(弁閉性能)を高められる。
【0033】
モータユニット3は、キャン66の外側に回路基板118を有する。回路基板118は、ケース76の内方に固定されている。本実施形態では、回路基板118の下面に制御部や通信部として機能する各種回路が実装されている。具体的には、モータを駆動するための駆動回路、駆動回路に制御信号を出力する制御回路(マイクロコンピュータ)、制御回路が外部装置又は調整装置と通信するための通信回路、各回路およびモータ(コイル)に電力を供給するための電源回路等が実装されている。ケース76の上端は、蓋体77により閉止されている。ケース76における蓋体77の下方の空間に回路基板118が配設されている。
【0034】
回路基板118におけるセンサマグネット106との対向面には、磁気センサ119が設けられている。磁気センサ119は、キャン66の底部端壁を介してセンサマグネット106と軸線方向に対向する。ロータ60の回転に伴ってセンサマグネット106による磁束が変化する。磁気センサ119は、この磁束の変化を捉えることでロータ60の変位量(本実施形態ではロータ60の回転角度)を検出する。制御部は、そのロータ60の変位量に基づいて弁体34の軸線方向位置ひいては弁開度を算出する。
【0035】
それぞれのボビン74からはコイル73につながる一対の端子117が延出し、回路基板118に接続されている。回路基板118からは電源端子、グランド端子および通信端子(これらを総称して「接続端子81」ともいう)が延出し、それぞれケース76の側壁を貫通して外部に引き出されている。ケース76の側部にコネクタ部79が一体に設けられ、そのコネクタ部79の内方に接続端子81が配置されている。
【0036】
ロータ60の下方にはストッパ90が形成される。特許文献2に示すようにストッパ90の構成は既知である。作動ロッド32が弁閉位置に至ると、ロータ60にはスプリング116による弾性反力がかかり、弁閉が安定維持される。最終的には、ストッパ90がガイド部材36の一部として形成される図示しない突部(係止部)に当接することにより、ロータ60の弁閉方向への回転が完全に規制される。以下、ストッパ90が突部と当接したときのステップをステップの「原点」とする。また、本実施形態においてはステップの原点において弁体34が「基準位置」にあるものとする。
【0037】
図2は、ステータ64およびその周辺の構成を表す図である。
図2(A)は
図1のA-A矢視断面に対応し、ステータユニット78の断面図である。
図2(B)はステータ64のみ(樹脂モールド前の状態)を表す図である。なお、
図2(A)には参考のため、キャン66およびロータ60を示している(二点鎖線参照)。
【0038】
モータユニット3が三相のモータであるため、
図2(A)に示すように、ロータ60の軸線Lの周りに等間隔でコイルユニット75が設けられている。
図2(B)にも示すように、積層コア70の内周部に軸線Lに対して120度の間隔でスロット120a~120c(これらを特に区別しないときは「スロット120」と総称する)が設けられている。各スロット120には、その中央から半径方向内向きに突出する突極122a~122c(「突極122」と総称する)が形成され、それぞれU相コイル73a、V相コイル73b、W相コイル73c(「コイル73」と総称する)が組み付けられている。互いに隣接するスロット120の間にも、横断面U字状のスリット124が形成され、磁路の最適化が図られている。
【0039】
ロータマグネット104は、キャン66を介して突極122a~122cと対向する。本実施形態では
図2(A)に示すように、ロータマグネット104が雄ねじ10極に磁化されているが、その極数については適宜設定できる。
【0040】
次に、ロータ60におけるマグネットの構成について詳細に説明する。
図3は、ロータ60の構成を表す図である。
図3(A)は斜視図、
図3(B)は正面図、
図3(C)は平面図、
図3(D)は
図3(C)のB-B矢視断面図である。図中の「N」はN極、「S」はS極を示す。なお、同図においては、説明の便宜上、回転軸62(
図1参照)の表記を省略している。
【0041】
ロータ60は、ロータコア102の外周面に沿ってロータマグネット104を有し、ロータコア102の軸端部にセンサマグネット106を有する(
図3(A),
図3(D))。ロータマグネット104は円筒状をなし、外周面10極着磁とされている(
図3(B),
図3(C))。一方、センサマグネット106は環状をなし、平面2極着磁とされている。
【0042】
図3(D)に示したように、ロータマグネット104の内周面が環状溝140に嵌合し、センサマグネット106の下面が環状溝144に嵌合している。すなわち、環状溝140は、ロータコア102からのロータマグネット104の脱落を防止する脱落防止構造として機能する。同様に、環状溝144は、ロータコア102からのセンサマグネット106の脱落を防止する脱落防止構造として機能する。
【0043】
以上の構成を前提として、次に、磁気センサ119がロータ60の回転角度を検出する方法について説明する。なお、以下においては、
図1の上下方向を「開閉方向」または「上下方向」とよぶ。
【0044】
図4は、磁気センサ119とセンサマグネット106およびセンサマグネット106から発生する磁力線の関係を示す模式図である。
図4は、磁気センサ119およびセンサマグネット106を側面から見たときの模式図である。
図4に示すようにセンサマグネット106(永久磁石)のNからSに磁力線が発生する。センサマグネット106の直上に位置する磁気センサ119は、センサマグネット106から発生する磁力線を検出する既知構成のロータリーセンサである。磁気センサ119は、磁力線の方向に基づいて、センサマグネット106(ロータ60)の回転角を検出する(詳細後述)。なお、本実施形態において、磁気センサ119はセンサマグネット106の回転角を検出可能であるが、磁気センサ119により、センサマグネット106までの距離、いいかえれば、作動ロッド32の開閉方向における移動量を直接検出することはできないものとして説明する。
【0045】
図5は、センサマグネット106の平面図である。
ステータ64のコイル73に後述の方法にて駆動電流を流すことにより、ロータ60に回転駆動力が与えられる。ロータ60を閉弁方向(下方向)に回転させると(以下、「下降回転」とよぶ)、ロータ60に連動して作動ロッド32(弁体34)は閉弁方向、すなわち、
図1の図面下方向に移動する。ロータ60を開弁方向に回転させると(以下、「上昇回転」とよぶ)、ロータ60と連動して作動ロッド32(弁体34)は開弁方向、すなわち、
図1の図面上方に移動する。
【0046】
ロータ60の回転に連動して、センサマグネット106も回転する。センサマグネット106の回転にともなって、センサマグネット106の磁界方向MAも変化する。
図5に示すようにXY座標系(
図1における水平面に対応)を設定したとき、磁界方向MAがX軸となす角度をθとする。磁気センサ119は、特許文献1の角度センサに示す既知の方法にて、センサマグネット106の回転角度θを検出する。
【0047】
図6は、センサマグネット106のセンサ値と感知角との関係を示すグラフである。
横軸は、磁気センサ119の計測対象であるセンサマグネット106の回転角度θを示す(以下、「感知角」とよぶことがある)。縦軸は、磁気センサ119のセンサ値である。この例におけるセンサ値は、アークタンジェント値である。
図6に示すように、磁気センサ119は感知角に対応してノコギリ型の波形を示すセンサ値を検出する。磁気センサ119は、アナログ信号であるセンサ値を、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)によってパルスのデューティー比に置き換えて、変調されたデジタル信号を示す電流を出力する。このとき、センサ値を「下限値DA~上限値TA」に正規化して、パルスにおけるデューティー比が定められる。下限値DA、上限値TAは任意に設定可能である。下限値DAは、0であってもよい。以下、パルスのデューティー比を「角度値」とよぶことがある。制御回路は、磁気センサ119の仕様に則って、デジタル信号のパルスから読み取られるデューティー比(角度値)に基づき、実際のロータ角度(感知角)を特定できる。
【0048】
図7は、角度値(デューティー比)とステップの関係を示すグラフである。
本実施形態において、弁体34を最上位点から最下位点まで移動させるとき、ロータ60は合計4回転する。詳細は後述するが、制御回路は3相のコイル73に供給する駆動電流を変化させることにより、各コイル73の磁界方向を変化させることでロータ60を回転させる。本実施形態においては、制御回路はロータ60をu1度単位で回転させる(詳細後述)。以下、この単位回転量のことを「ステップ」とよぶ。360度×4回転÷u1度=1440/u1=SM4より、制御回路は作動ロッド32の動作範囲においてロータ60に合計SM4ステップ分の回転を指示することになる。ロータ60の4回転に対応して、角度値はDA~TAの間で4回変化する。
【0049】
ステップ0が原点に相当し、ステップnは、原点から数えてn番目のステップを表す。図示したSM1は、機械角が1周したときのステップの順番を表し、SM2は、機械角が2周したときのステップの順番を表し、SM3は、機械角が3周したときのステップの順番を表し、SM4は、機械角が4周したときのステップの順番を表す。機械角は、ロータ60などの回転体の実空間における角度を指す。
【0050】
制御回路はU相コイル73aに所定レベルの駆動電流を流す。このとき、V相コイル73bおよびW相コイル73cについても同様に所定レベルの駆動電流が流される。各コイル73に駆動電流を流すことによりコイル73における磁界を変化させ、ロータ60を回転させる。U相コイル73a、V相コイル73bおよびW相コイル73cそれぞれに与える駆動電流の電流値の組み合わせを「励磁パターン」とよぶ。本実施形態における励磁パターンはN種類である。ある励磁パターンP1を1つ隣りの励磁パターンP2に変化させることが「1ステップ」の回転、いいかえれば、単位回転量分の回転指示に対応する。
【0051】
励磁パターンの変化により、いいかえれば、1ステップずつ励磁パターンを変更することにより、指示角α(理想的なロータ角度)が制御される。指示角αの変化に同期して、ロータ60が回転し、感知角θも変化する。励磁パターンを変化させたあと、磁気センサ119により検出される角度値から感知角θを算出することで、制御回路は、感知角θ(実際のロータ角度)が指示角αに追従している状態であるか否かを判定する。感知角θが指示角αに追従している状態を「同調」といい、感知角θが指示角αに追従できていない状態を「脱調」という。
【0052】
N種類の励磁パターンにはそれぞれパターンIDが付与される。パターンID=N1の励磁パターン(以下、「励磁パターン(N1)」のように表記する)におけるU相コイル73a、V相コイル73bおよびW相コイル73cそれぞれの駆動電流値をIU(N1)、IV(N1)、IW(N1)とする。すなわち、励磁パターン(N1)とは[IU(N1)、IV(N1)、IW(N1)]の組み合わせを意味する。駆動電流IU(N1)、IV(N1)およびIW(N1)により各コイル73に磁界を生じさせて、ロータ60を励磁パターン(N1)に応じた指示角αへ誘導する。
【0053】
N種類のパターンIDは、電気角の1周分のN個のステップに対応している。電気角は、N個のパターンIDを0~360度の範囲に均等に割り当てた理論値である。原点から最上位までの各ステップnは、循環して順次パターンIDに対応付けられる。また、連続するパターンIDは、連続的に変化する励磁パターンに対応する。
【0054】
制御回路が、ステップnからステップn+1に移すとき、励磁パターン(N1)から励磁パターン(N1+1)へ切り替える。これにより、駆動電流値[IU(N1+1)、IV(N1+1)、IW(N1+1)]で、各コイル73による磁界を変化させ、ロータ60を単位回転量だけ上昇回転させる。反対に、制御回路が、ステップnからステップn-1に移すとき、励磁パターン(N1)から励磁パターン(N1-1)に切り替える。これにより、駆動電流値[IU(N1-1)、IV(N1-1)、IW(N1-1)]で、各コイル73による磁界を変化させ、ロータ60を単位回転量だけ下降回転させる。
【0055】
図3に示した構造のロータ60の場合、ロータマグネット104がN極とS極の対を5個有するので、ロータ60の1周(機械角の360度)において電気角は5周する。つまり、電気角の1周は、機械角の72度に相当する。また、電気角の1周にはN個のステップが含まれるので、1ステップの変化で回転する機械角は、u1=72/N度となる。また、
図7に関連して説明したように、弁体34を最上位点から原点まで移動させる間にロータ60を4周させる場合、全域にわたる移動で4×5×N個だけステップを進めることになる。つまり、
図7に示したSM4は、4×5×Nである。同様にSM1は、5×Nであり、SM2は、2×5×Nであり、SM3は、3×5×Nである。
【0056】
本実施形態においては、ストッパ90がガイド部材36(より厳密にはガイド部材36の突部)と当接するときのロータ60の位置を原点(基準位置)とし、制御回路はこのときの角度値および励磁パターンを「原点情報(基準情報)」として記録する。電動弁1の製造時において、電動弁1に固有の原点情報(基準情報)が回路基板118の不揮発性メモリに記録される。そして、制御回路は、原点(弁閉位置)を基準するステップnにより、作動ロッド32の移動量、すなわち、電動弁1の弁開度を調整する。
【0057】
図8は、ロータ60の移動範囲の模式図である。
図8の右方向はロータ60の開方向(上昇方向)、左方向は閉方向(下降方向)を示す。ステップ0の原点は、ストッパ90が回転規制を受け、ロータ60がそれ以上の下降回転をできなくなる限界位置である。ステップMは、弁体34が上昇を開始する弁開点である。Mの値は、所定の共通値でもよいし、電動弁1毎に異なる固有値でもよい。固有値を用いる場合には、弁開点のステップを示すMの値を回路基板118の不揮発性メモリに記憶しておく。原点から弁開点までの範囲では、スプリング116の弾性反力により弁体34が弁座24に押し付けられるため、弁閉状態は維持される。ロータ60が原点0から上昇回転を続け、弁開点Mを超えたとき弁体34は弁座24から離脱し、開弁状態となる。弁開点を超えたあともロータ60の上昇回転が続くと弁開度は徐々に拡大し、入口ポート26から出口ポート28への流量が増加する。
【0058】
原点から弁開点までの弁閉状態でも、弁開点から最上位点までの弁開状態でも、ねじ送り機構109における摩擦抵抗力や回転力などによって負荷トルクが生じる。以下で、ロータ60に生じるトルクについて説明する。
【0059】
図9(A)は、弁停止中におけるトルクバランスの概要を示す図である。
時計回りをロータ60の上昇回転の向きとし、反時計回りをロータ60の下降回転の向きとする。
図1に関連して説明したように、ばね受け42,44間に、弁体34を閉弁方向に付勢するスプリング46が介装されている。スプリング46は、ねじ送り機構109に荷重を付加する。この荷重によって、無励磁の状況下において、ロータ60が振動等によって勝手に回転しないよう、ねじ部の摩擦力でロータ60の位置を保持する機構になっている。
【0060】
ねじ部では、軸線方向の荷重を受けると、摩擦力が生じると共に回転力も生じる。つまり、スプリング46の弾性力によってねじ面に生じる軸方向の力のうち、ねじ面に平行な分力が、回転力としてロータ60の弁閉回転の方向にわずかなトルクを生じさせる。回転力による回転トルクは、下降回転方向に一定の大きさを有する。弁停止中は、モータユニット3による駆動トルクが発生していないので、回転トルクと反対の向きに回転トルクと同じ大きさの摩擦トルクが生じる。このときの摩擦トルクは、最大ではない。回転トルクが振動などの影響で増減した場合には、摩擦トルクが変化してトルクの均衡が保たれる。これにより、回転を阻止して、停止状態が維持される。
【0061】
図9(B)は、上昇回転の始動時におけるトルクバランスの概要を示す図である。
上昇回転の向きに生じる駆動トルクが増大して、動き始める直前の状態を表している。摩擦トルクは、駆動トルクと回転トルクと均衡するように下降回転の向きに生じる。このときの摩擦トルクは、最大である。摩擦トルクと回転トルクを合わせたトルクが、ロータ60の負荷トルクとなる。駆動トルクがこの負荷トルクの大きさを上回ると、ロータ60が上昇回転の向きに動き出す。
【0062】
図9(C)は、下降回転の始動時におけるトルクバランスの概要を示す図である。
下降回転の向きに生じる駆動トルクが増大して、動き始める直前の状態を表している。下降回転の向きに生じる回転トルクと駆動トルクに抗するように、上昇回転の向きに摩擦トルクが生じる。このときの摩擦トルクは、最大である。摩擦トルクと回転トルクを合わせたトルクが、ロータ60の負荷トルクとなる。駆動トルクがこの負荷トルクの大きさを上回ると、ロータ60が上昇回転の向きに動き出す。
【0063】
図9(B)と
図9(C)に示したように、上昇回転の場合には、下降回転の場合よりも大きな駆動トルクを与えなければ、ロータ60は動き出さない。
【0064】
図10は、駆動トルクの変化を示すグラフである。
モータユニット3の駆動トルクは、励磁パターンで指示した電気角(以下、「理想の電気角」とよぶ)と実際のロータ60の姿勢に相当する電気角(以下、「実際の電気角」とよぶ)の差によって定まる。この電気角差は、理想の電気角-実際の電気角と定義される。駆動トルクは、電気角差を変数とするサイン値として算出できる。したがって、図示するようなサイン曲線を描く。この図では、最大駆動トルクを1とした比率で駆動トルクを示している。
【0065】
なお、電気角差は、励磁パターンに対応するステップ(以下、「理想のステップ」とよぶ)と実際のロータ60の姿勢に相当するステップ(以下、「実際のステップ」とよぶ)の差と比例関係にある。このステップ差は、理想のステップ-実際のステップと定義される。したがって、ある状態Aにおける電気角差と別の状態Bにおける電気角差の大小関係は、状態Aにおけるステップ差と状態Bにおけるステップ差の大小関係と一致する。
【0066】
電気角差が増すときにどのように駆動トルクが変化するかについて説明する。電気角差が0のときには、駆動トルクは生じない。電気角差が大きくなるにつれて、駆動トルクは増加する。そして、電気角差が90度のときに、駆動トルクが最大となる。さらに電気角差が大きくなると、駆動トルクは減少に転じる。駆動トルクが減少する段階で駆動トルクが負荷トルクを下回ると、実際に脱調の現象が生じると考えられる。
【0067】
したがって、上昇回転させるようにステップnを変化させると、駆動トルクが負荷トルクを超えるまで、ロータ60は回転しない。駆動トルクが負荷トルクを超えると、ロータ60が回転し始める。その後は、電気角差がある状態のまま、実際のロータ角度が理想的なロータ角度を追従する。上述のように電気角差が増大して駆動トルクが負荷トルクを下回ることが無い限り、追従は継続する。
【0068】
この例では、太線400が、
図9(B)に示した駆動トルクを示している。つまり、ステップ差が5である点402において、上昇回転の駆動トルクと負荷トルクが均衡する。そして、上昇回転において点404に移ると、ロータ60が動き出す。
【0069】
この例では、太線410が、
図9(C)に示した駆動トルクを示している。つまり、ステップ差が-1である点412において、下降回転の駆動トルクと負荷トルクが均衡する。そして、下降回転において点414に移ると、ロータ60が動き出す。
【0070】
ここで説明した駆動トルクの大きさは、電動弁1の個体毎にばらつきがある。したがって、あるレベルの駆動トルクを生じさせるための電気角の大きさは、個体によって異なることがある。すべての電動弁1において電気角と駆動トルクの関係が一律であるとは限らない。たとえば、ステータ64のコイル73が生じさせる磁力の大きさにばらつきがあることがその原因である。
【0071】
図11(A)と
図11(B)は、補正なし励磁パターンと理想のデューティー比を示すグラフである。これらの図は、負荷トルクが無いと想定した理想の挙動を示している。励磁パターンの補正について後述するが、ここでは励磁パターンが補正されていない。
【0072】
図11(A)は、ステップ100~ステップ148の範囲を示し、
図11(B)は、ステップ100~ステップ112の範囲を示している。これらの範囲は、弁開状態に相当する。補正なし励磁パターンは、ステップnに対応して決められる。この例では、ステップの番号nが1つ増加するにつれて、励磁パターンのIDが1つ減少する関係にある。補正なし励磁パターンを、Rp(n)と表す。また、励磁パターンIDの番号を用いて、励磁パターンを識別する。
【0073】
負荷トルクが無いと想定した理想のデューティー比は、ステップの増加に対して一定の比率で増加する。この例で、1ステップ当たりのデューティー比の変化量を、jと表す。理想のデューティー比を、D(n)と表す。理想のデューティー比は、磁気センサ119から出力されると想定される値である。
【0074】
負荷トルクが無いとすれば、ステップnとデューティー比D(n)は、理論的に回転方向によらず同じ対応関係を示す。次に、負荷トルクを考慮した場合の挙動について説明する。
【0075】
図12(A)と
図12(B)は、補正なし励磁パターンと上昇回転時の補正なしデューティー比を示すグラフである。実際には、負荷トルクが生じる。ここでは、
図9(B)に示した上昇回転時の挙動に着目する。下降回転時の挙動については、
図14に関連して後述する。ステップの範囲は、
図11と同様である。
【0076】
図10に関連して説明したように、ステップ差が5に広がるまでは、ロータ60は回転しない。したがって、ステップ100のデューティー比をiと表すと、ステップ100からステップ105まで進んでもデューティー比のiは、変動しない。ここでは励磁パターンを補正していない。励磁パターンを補正していないときのデューティー比を、「補正なしデューティー比」という。上昇回転時の補正なしデューティー比をDu(n)と表す。補正なしデューティー比Du(n)は、磁気センサ119から実際に出力される値である。
【0077】
ステップ106から一定のペースでロータ60が上昇回転を始め、補正なしデューティー比Du(n)が増加する。たとえば、ステップ109において磁気センサ119から出力されるデューティー比Du(109)は、i+4jであり、理想のデューティー比D(109)のi+9jよりも5jだけ小さい。このように、理想のデューティー比D(n)から上昇回転時の補正なしデューティー比Du(n)を引いた値を、「上昇回転時の補正なしデューティー比差」といい、ΔDu(n)で表す。このデューティー比差の5jに相当する電気角だけロータ60の回転が遅れていると言える。
【0078】
ロータ60の回転の遅れは、ステップ差として把握することもできる。たとえば、ステップ109における補正なしデューティー比Du(109)=i+4jは、理想のデューティー比D(104)と同じレベルであるので、実質的にはステップ104に留まっていると捉えられる。実際のデューティー比と同等の理想のデューティー比に当たるステップを「実質ステップ」という。補正を行わない上昇回転時の実質ステップを、「上昇回転時の補正なし実質ステップ」といい、Su(n)と表す。上昇回転時に指示されているステップnから実質ステップSu(n)を引いた差を、「上昇回転時の補正なしステップ差」といい、ΔSu(n)と表す。1ステップ当たりのデューティー比の変化量を定数Uで表すと、ΔSu(n)は、以下の式1で算出される。この例で、定数Uは、jと等しい。
ΔSu(n)=ΔDu(n)/U [式1]
【0079】
図示するように、ステップ109における上昇回転時の補正なしステップ差ΔSu(109)は5であり、ステップ109において5ステップだけモータユニット3の反応がずれていることを意味する。そのため、ロータ60の回転が遅れている。
【0080】
このように機械的な反応の遅れでロータ60の変位量に誤差が生じると、弁体34の軸線方向位置にずれが生じ、ひいては弁開度の精度が下がる。そうなると、たとえば電動弁1を冷凍サイクルの膨張弁として使用する場合に、冷媒の流量を正確に調整しにくくなるという問題が生じる。また、ロータ60の回転の遅れは、モータユニット3に指示した角度と磁気センサ119で検出した角度の差に基づいて脱調を検出する脱調検出処理にも影響する。上述のように上昇回転時にロータ60の回転が遅れると、その分だけ脱調検出処理で監視している角度差が大きく表れ、脱調と判定されやすくなってしまう。
【0081】
これらの問題を踏まえ、本実施形態では、ロータ60の回転の遅れを抑制するために、ステップに対応する励磁パターンを補正してモータユニット3を動作させる。そして、ロータ60の変位量に生じる誤差を小さくする。
【0082】
図13(A)と
図13(B)は、補正あり励磁パターンと上昇回転時の補正ありデューティー比を示すグラフである。これらは、励磁パターンを補正した場合の挙動を示している。ステップの範囲は、
図11および
図12と同様である。
【0083】
この例では、黒矢印に示したように各励磁パターンを2つ減ずるように補正する。つまり、励磁パターン補正値が-2である。励磁パターン補正値をΔRpと表す。また、補正された励磁パターンを「補正あり励磁パターン」といい、Rp′(n)と表す。補正あり励磁パターンRp′(n)の算出式は、式2で表される。
Rp′(n)=Rp(n)+ΔRp [式2]
【0084】
補正を行ったステップ103では、補正を行わないステップ105と同じ励磁パターンになるので、
図12のステップ105の場合と同様に、起動トルクと負荷トルクが均衡する。そして、補正を行ったステップ104で、
図12のステップ106の場合と同様にロータ60が回転し始める。以降、一定のペースでロータ60が上昇回転を始める。補正あり励磁パターンによって表れるデューティー比を「補正ありデューティー比」といい、上昇回転時の「補正ありデューティー比」を、Du′(n)と表す。
【0085】
白矢印に示したように、補正によってデューティー比が上昇して、理想のデューティー比D(n)に近づく。理想のデューティー比D(n)から上昇回転時の補正ありデューティー比Du′(n)を引いた値を、「上昇回転時の補正ありデューティー比差」といい、ΔDu′(n)で表す。つまり、ΔDu′(n)は、以下の式3で算出される。
ΔDu′(n)=D(n)-Du′(n) [式3]
【0086】
たとえば、ステップ109における上昇回転時の補正ありデューティー比差ΔDu′(109)は、3jである。
図12(B)に示した補正なしデューティー比差ΔDu(109)=5jに比べて減少している。つまり、励磁パターンの補正によって、ロータ60の角度が理想に近づいたことを意味する。
【0087】
また、ステップ差も縮まる。励磁パターンが補正されて、上昇回転時において指示されているステップから実質ステップを引いた差を、「上昇回転時の補正ありステップ差」といい、ΔSu′(n)と表す。たとえば、上昇回転時のステップ109における補正ありステップ差ΔSu′(109)は3であり、
図12(B)に示した上昇回転時の補正なしステップ差ΔSu(109)の5よりも2つ小さくなっている。これは、励磁パターンを2つ先行させたことによる。このように、励磁パターンを先行させてモータユニット3の反応の悪さをカバーすれば、ロータ60の回転開始が早まり、上述した回転の遅れが抑制される。ΔSu′(n)は、以下の式4で表される。
ΔSu′(n)=ΔDu′(n)/U [式4]
【0088】
図14は、励磁パターン補正値の求め方を説明するためのグラフである。
図12と同様に補正が行われていない状態で、上昇回転する場合と下降回転する場合の挙動を示している。この挙動に関するパラメータの値を収集して、励磁パターン補正値算出処理に用いられるサンプルデータを得る。この例では、電気角の1周分のサンプルに関するデータを得るものとする。サンプルデータでは、各サンプルについて、ステップnと、磁気センサ119から出力されるデューティー比とが対応付けられる。
【0089】
図12で説明しなかった下降回転の挙動について説明する。下降回転時の補正なしデューティー比をDd(n)と表し、下降回転時の補正なしデューティー比差をΔDd(n)と表す。下降回転時の補正なしデューティー比差ΔDd(n)は、下降回転時の補正なしデューティー比Dd(n)から理想のデューティー比D(n)を引いた値である。また、補正を行わない下降回転時の実質ステップを「下降回転時の補正なし実質ステップ」といい、Sd(n)と表す。下降回転時に指示されているステップnから実質ステップSd(n)を引いた差を、「下降回転時の補正なしステップ差」といい、ΔSd(n)と表す。
【0090】
上側横軸に示したステップ147において、
図9(C)に示したように小さい駆動トルクで均衡状態を迎えて、次のステップ146で小さいステップ差でロータ60が動き出す。その後は、一定の遅れを保って下降回転を続ける。たとえばステップ146における下降回転時の補正なしデューティー比差ΔDd(146)は、jである。下降回転時の補正なし実質ステップSd(146)は、145であり、下降回転時の補正なしステップ差ΔSd(146)は、146-145で算出される1となる。
【0091】
上昇回転と下降回転の両方を行うと、ステップnについて、上昇回転時の補正なしデューティー比Du(n)と下降回転時の補正なしデューティー比Dd(n)が得られる。たとえば、ステップ106について、Du(106)はi+jであり、Dd(106)はi+7jである。また、Du(n)とDd(n)によって、上昇回転時の補正なしデューティー比差ΔDu(n)と下降回転時の補正なしデューティー比差ΔDd(n)が特定される。さらに、上昇回転時の補正なしステップ差ΔSu(n)と下降回転時の補正なしステップ差ΔSd(n)が特定される。ΔSd(n)は、以下の式5で表される。
ΔSd(n)=ΔDd(n)/U [式5]
【0092】
図示したステップ108における理想のデューティー比D(108)=i+8jに着目すると、そのレベルのデューティー比が上昇回転中はステップ113で表われ、下降回転中はステップ107で表われる。つまり、上昇回転時と下降回転時とで、同じ機械角を示すステップに開きがある。このステップの開きは、下降回転時の補正なしステップ差ΔSd(107)と上昇回転時の補正なしステップ差ΔSu(113)の合計によって特定することができる。このようなステップの開きは、他のレベルにおいても同様に生じている。
図14では、ステップの開きの中央点を結ぶ中央線を一点鎖線で示している。本実施形態では、白矢印で示した通り、この中央線を理想のデューティー比D(n)の線に重ねるように、補正なしデューティー比Du(n)、Dd(n)の全体をシフトさせる補正を行う。グラフ上で言えば、ΔSu(113)-ΔSd(107)の半分を移動量として、中央線を左側へスライドさせることになる。励磁パターンの補正を行った場合の挙動については
図17に関連して後述するが、上昇回転時の補正ありステップ差ΔSu′(n)と下降回転時の補正ありステップ差ΔSd′(n)が均等になる。下降回転時の補正ありデューティー比差を、ΔDd′(n)と表すと、ΔSd′(n)は、以下の式6で表される。
ΔSd′(n)=ΔDd′(n)/U [式6]
【0093】
処理としては、各ステップに対応する励磁パターンをステップの移動量に相当する分だけ小さくするように補正値を定める。この例で、励磁パターンの補正値は、ステップの移動量と一致する。この例では、ステップの移動量と励磁パターンの補正値が、ともに-2である。
【0094】
そして、励磁パターン補正値ΔRpは、以下の式7で求められる。
ΔRp=-(ΔSuの代表値-ΔSdの代表値)/2 [式7]
なお、上昇回転時の補正なしステップ差ΔSu(n)は、式1に従ってΔDu(n)から算出される。また、下降回転時の補正なしステップ差ΔSd(n)は、式5に従ってΔDd(n)から算出される。
【0095】
上昇回転時の補正なしステップ差ΔSuの代表値は、上昇回転におけるサンプルのΔSu(n)の代表値である。代表値の種類は、たとえば最小値である。他の例として、最大値、平均値、中央値あるいは最頻値などでもよい。下降回転時の補正なしステップ差ΔSdの代表値は、下降回転におけるサンプルのΔSd(n)の代表値である。代表値の種類は、たとえば最大値である。他の例として、最小値、平均値、中央値あるいは最頻値などでもよい。この例では、ΔSuの代表値が5であり、ΔSdの代表値が1であり、励磁パターン補正値ΔRpは-2になる。
【0096】
図15は、補正なし上昇回転時のパラメータ例を示す図である。
上昇回転におけるステップ100~ステップ153までのサンプルに関するパラメータを示している。この例は、
図14に対応している。ステップnは、制御回路において特定される。補正なし励磁パターンRp(n)は、ステップnとの対応関係によって定まる。理想のデューティー比D(n)は、補正なし励磁パターンRp(n)によって定まる。つまり、理想のデューティー比D(n)は、ステップnから論理的に定まる。上昇回転時の補正なしデューティー比Du(n)は、磁気センサ119から出力される。なお、このデューティー比Du(n)は、実際の動作と計測に基づく値であるので多少のばらつきを含む。
【0097】
図15では省略しているが、ステップ137の補正なし励磁パターンRp(137)はk+10である。同様に補正なし励磁パターンRp(138)はk+9であり、補正なし励磁パターンRp(139)はk+8であり、補正なし励磁パターンRp(140)はk+7であり、補正なし励磁パターンRp(141)はk+6である。これらの値を
図14の左上部分に示している。k+10~k+6は、k+44~k+35よりも下に示すべき値であるが、グラフの大きさの都合により便宜的に上部に示している。
【0098】
上昇回転時の補正なしデューティー比差ΔDu(n)は、理想のデューティー比D(n)から上昇回転時の補正なしデューティー比Du(n)を引いた差として定まる。ΔDu(n)は、ほぼ一定であるが多少のばらつきが表われることがある。上昇回転時の補正なしステップ差ΔSu(n)は、式1に従って、ΔDu(n)から算出される。ΔSu(n)は、ほぼ一定であるが多少のばらつきが表われることがある。上昇回転時の補正なし実質ステップSu(n)は、ステップn-補正なしステップ差ΔSu(n)で特定される。Su(n)には、多少のばらつきが含まれることがある。補正なし実質ステップSu(n)は、説明の便宜のために
図15に示されているが算出しなくてもよい。
【0099】
図16は、補正なし下降回転時のパラメータ例を示す図である。
下降回転におけるステップ148~ステップ99までのサンプルに関するパラメータを示している。この例は、
図14に対応している。ステップn、補正なし励磁パターンRp(n)および理想のデューティー比D(n)は、
図15の場合と同様である。
【0100】
下降回転時の補正なしデューティー比Dd(n)は、磁気センサ119から出力される。なお、デューティー比Dd(n)は、Du(n)と同様に多少のばらつきを含む。下降回転時の補正なしデューティー比差ΔDd(n)は、下降回転時の補正なしデューティー比Dd(n)から理想のデューティー比D(n)を引いた差として定まる。ΔDd(n)は、ΔDu(n)と同様に多少のばらつきが表われることがある。下降回転時の補正なしステップ差ΔSd(n)は、式5に従って、ΔDd(n)から算出される。ΔSd(n)は、ΔSu(n)と同様に多少のばらつきが表われることがある。下降回転時の補正なし実質ステップSd(n)は、ステップn+補正なしステップ差ΔSd(n)で特定される。Sd(n)には、Su(n)と同様に多少のばらつきが含まれることがある。補正なし実質ステップSd(n)は、Su(n)と同様に説明の便宜のために
図16に示されているが算出しなくてもよい。
【0101】
サンプルデータには、
図15に示した上昇回転時のステップnと補正なしデューティー比Du(n)および
図16に示した下降回転時のステップnと補正なしデューティー比Dd(n)が含まれる。
図15および
図16に示した他のパラメータについては、サンプルデータの収集処理あるいは励磁パターン補正値算出処理の過程において算出できる。算出したパラメータを、処理の便宜のためにサンプルデータに含めるようにしても構わない。
【0102】
図17は、励磁パターン補正の結果を説明するためのグラフである。
図13と同様に、補正が行われた状態で上昇回転する場合と下降回転する場合の挙動を示している。調整された電動弁1を使用する場合には、このような挙動を示す。
図13に関連して説明したとおり、白丸で示した補正あり励磁パターンRp′(n)によって駆動電流が印加されて、モータユニット3が駆動する。
【0103】
上昇回転時の補正ありデューティー比Du′(n)と下降回転時の補正ありデューティー比Dd′(n)の中央線が、理想のデューティー比D(n)の線に重なっている。補正を行わない場合と比較すると、たとえばステップ106において、補正なし励磁パターンRp(106)=k+41から補正あり励磁パターンRp′(106)=k+39に変わっている。kは、整数の定数である。それに応じて、補正なしデューティー比Du(106)=i+jが、補正ありデューティー比Du′(106)=i+3jに移り、補正なしデューティー比Dd(106)=i+7jが、補正ありデューティー比Dd′(106)=i+9jに移る。その結果、上昇回転時の補正なしデューティー比差ΔDu(106)=5jが、上昇回転時の補正ありデューティー比差ΔDu′(106)=3jに変わり、下降回転時の補正なしデューティー比差ΔDd(106)=jが、下降回転時の補正ありデューティー比差ΔDd′(106)=3jに変わる。
【0104】
このように、補正しない場合には、上昇回転においてデューティー比差ΔDuが大きく、ロータ60の角度誤差が大きいが、本実施形態の補正を行うと、上昇回転においてデューティー比差ΔDu′が小さくなり、ロータ60の角度誤差が小さくなる。
【0105】
図18は、補正あり上昇回転時のパラメータ例を示す図である。
補正を行った場合の上昇回転におけるステップ100~ステップ151までのサンプルに関するパラメータを示している。この例は、
図17に対応している。ステップnと補正なし励磁パターンRp(n)は、
図15の場合と同様である。励磁パターン補正値ΔRpは一定の値である。補正あり励磁パターンRp′(n)は、式2に従って求められる。上昇回転時の補正ありデューティー比Du′(n)は、磁気センサ119から出力される値である。上昇回転時の補正ありデューティー比差ΔDu′(n)は、式3に示したとおり、理想のデューティー比D(n)から上昇回転時の補正ありデューティー比Du′(n)を引いた差として特定される。上昇回転時の補正ありステップ差ΔSu′(n)は、式4に従って、ΔDu′(n)から算出される。
【0106】
図18では省略しているが、ステップ137の補正あり励磁パターンRp′(137)はk+8である。同様に補正あり励磁パターンRp′(138)はk+7であり、補正なし励磁パターンRp(139)はk+6である。これらの値を
図17の左上部分に示している。
図14の場合と同様に、k+10~k+6は、k+44~k+35よりも下に示すべき値であるが、グラフの大きさの都合により便宜的に上部に示している。
【0107】
図19は、補正あり下降回転時のパラメータ例を示す図である。
補正を行った場合の下降回転におけるステップ148~ステップ97までのサンプルに関するパラメータを示している。この例は、
図17に対応している。ステップnと補正なし励磁パターンRp(n)は、
図16の場合と同様である。上述のとおり、励磁パターン補正値ΔRpは一定の値であり、補正あり励磁パターンRp′(n)は、式2に従って求められる。下降回転時の補正ありデューティー比Dd′(n)は、磁気センサ119から出力される値である。下降回転時の補正ありデューティー比差ΔDd′(n)は、下降回転時の補正ありデューティー比Dd′(n)から理想のデューティー比D(n)を引いた差として特定される。下降回転時の補正ありステップ差ΔSd′(n)は、式6に従って特定される。
【0108】
図20は、調整装置300および電動弁制御装置200の機能ブロック図である。
本実施形態では、製造段階で電動弁制御装置200に接続された調整装置300において、励磁パターン補正値を求めて、それを電動弁制御装置200に設定する。個々の電動弁制御装置200に対してそれぞれに適した励磁パターン補正値を定めるようにするので、電動弁1の個体毎に異なる駆動トルクや負荷トルクなどの条件に適した調整を行える。個体毎に駆動トルクの大きさが異なる理由としては、上述のとおりステータ64のコイル73が生じさせる磁力の大きさにばらつきがあることなどが挙げられる。また、個体毎に負荷トルクの大きさが異なる理由としては、ねじ部に生じる摩擦力や回転力の大きさにばらつきがあることなどが挙げられる。ねじ部の形状のばらつきやスプリング46の弾性力の大きさのばらつきなどがその要因となる。しかし、このように個体毎に適した調整を行えば、量産される製品の品質を安定させることに繋がる。電動弁1の部品の品質レベルを高く設定しなくても対処できるので、部品コストの低減に資する面もある。
【0109】
調整装置300の各構成要素は、CPU(Central Processing Unit)および各種コプロセッサなどの演算器、メモリやストレージといった記憶装置、それらを連結する有線または無線の通信線を含むハードウェアと、記憶装置に格納され、演算器に処理命令を供給するソフトウェアによって実現される。コンピュータプログラムは、デバイスドライバ、オペレーティングシステム、それらの上位層に位置する各種アプリケーションプログラム、また、これらのプログラムに共通機能を提供するライブラリによって構成されてもよい。図示した各ブロックは、ハードウェア単位の構成ではなく、機能単位のブロックを示している。
【0110】
調整装置300は、データ処理部302、通信部304およびデータ格納部306を含む。通信部304は、電動弁制御装置200に接続する通信路を介した通信処理を担当する。データ格納部306は各種データを格納する。データ処理部302は、通信部304により取得されたデータおよびデータ格納部306に格納されているデータに基づいて各種処理を実行する。データ処理部302は、通信部304およびデータ格納部306のインターフェースとしても機能する。
【0111】
通信部304は、データおよびコマンドを送信する送信部312とデータを受信する受信部310を含む。
【0112】
データ処理部302は、指示部318、サンプル取得部320、補正値算出部322および補正値設定部324を有する。指示部318は、電動弁制御装置200に対して原点探索などの各種指示を行う。サンプル取得部320は、電動弁制御装置200からサンプルデータを取得する。補正値算出部322は、サンプルデータに基づいて励磁パターン補正値ΔRpを算出する。補正値設定部324は、電動弁制御装置200に励磁パターン補正値ΔRpを設定する。
【0113】
データ格納部306は、サンプルデータを記憶するサンプルデータ記憶部330を有する。
【0114】
電動弁制御装置200の各構成要素は、回路基板118上における制御回路(マイクロコンピュータ)、メモリやストレージといった記憶装置、それらを連結する有線または無線の通信線を含むハードウェア(制御回路)と、記憶装置に格納され、演算器に処理命令を供給するソフトウェアによって実現される。コンピュータプログラムは、デバイスドライバおよびアプリケーションプログラム、また、これらのプログラムに共通機能を提供するライブラリによって構成されてもよい。以下に説明する各ブロックは、ハードウェア単位の構成ではなく、機能単位のブロックを示している。
【0115】
電動弁制御装置200は、データ処理部202、通信部204、データ格納部206およびロータインタフェース部208を含む。
通信部204は、接続端子81を介して外部装置又は調整装置に対するインターフェースとして機能する。ロータインタフェース部208は、磁気センサ119およびコイルユニット75に対するインターフェースとして機能する。データ処理部202は、データ格納部206に格納されているデータおよび通信部204、ロータインタフェース部208から取得された各種データに基づいて各種処理を実行する。データ処理部202は、通信部204、ロータインタフェース部208およびデータ格納部206のインターフェースとしても機能する。
【0116】
通信部204は、外部装置又は調整装置からデータおよびコマンドを受信する受信部210と、外部装置又は調整装置にデータを送信する送信部212を含む。
【0117】
ロータインタフェース部208は、回転指示部214および回転検出部216を含む。回転指示部214は、励磁パターンに応じて、U相コイル73a、V相コイル73bおよびW相コイル73cそれぞれに駆動電流を出力する。回転検出部216は、磁気センサ119から受けた電流のパルスからデューティー比を読み取る。
【0118】
データ処理部202は、回転制御部218を含む。回転制御部218は、原点情報(基準情報)および励磁パターン補正値などに基づいて回転指示部214を制御する。
【0119】
データ格納部206は、基準情報記憶部220と励磁パターン補正値記憶部222を含む。基準情報記憶部220は、原点情報(基準情報)を記憶する。励磁パターン補正値記憶部222は、励磁パターン補正値ΔRpを記憶する。基準情報記憶部220と励磁パターン補正値記憶部222は不揮発性メモリに構成される記憶領域である。
【0120】
図21は、調整処理過程を示すシーケンス図である。
調整処理は、たとえば製造最終段階において実行される。したがって、電動弁制御装置200の組み立ては完了しているものとする。
【0121】
調整装置300の指示部318は、電動弁制御装置200に対して原点探索を指示する(S10)。このとき、調整装置300の送信部312から原点探索コマンドが送信される。電動弁制御装置200はこのコマンドに従って、原点の位置に弁体34を合わせる原点探索の動作を行って、ステップ0のデューティー比D(0)と励磁パターンRp(0)を調整装置300へ返す(S12)。以降、調整装置300は、ステップ0のデューティー比D(0)と励磁パターンRp(0)に基づいて、各ステップnにおける励磁パターンRp(n)の特定および理想のデューティー比D(n)の特定などの処理を行う。
【0122】
調整装置300の指示部318は、弁開状態に相当するステップnの範囲で、サンプルデータを取得する。この例では、順次ステップnの切り替えを指示してそのステップnにおける補正なしデューティー比Du(n),Dd(n)を得る。
【0123】
たとえば、上昇回転のサンプリングにおいて、調整装置300の送信部312が、ステップ100への切り替えコマンド、ステップ101への切り替えコマンド、・・・ステップ153への切り替えコマンドを電動弁制御装置200へ送信する(S14,S18,S22)。これによって、調整装置300の受信部310は、電動弁制御装置200からステップ100の補正なしデューティー比Du(100)、ステップ101の補正なしデューティー比Du(101)、・・・ステップ153の補正なしデューティー比Du(153)を受信する(S16,S20,S24)。指示部318は、ステップnと補正なしデューティー比Du(n)とを対応付けてサンプルデータ記憶部330に記憶する。
【0124】
同様に、下降回転のサンプリングにおいて、調整装置300の送信部312が、ステップ152への切り替えコマンド、・・・ステップ99への切り替えコマンドを電動弁制御装置200へ送信する(S26,S30)。調整装置300の受信部310は、電動弁制御装置200からステップ152の補正なしデューティー比Dd(152)、・・・ステップ99の補正なしデューティー比Dd(99)を受信する(S28,S32)。指示部318は、ステップnと補正なしデューティー比Dd(n)とを対応付けてサンプルデータ記憶部330に記憶する。
【0125】
補正値算出部322は、サンプルデータに基づく励磁パターン補正値算出処理を実行する(S34)。励磁パターン補正値算出処理については、
図23に関連して後述する。励磁パターン補正値算出処理を終えると、補正値設定部324は、電動弁制御装置200に励磁パターン補正値ΔRpを設定する。具体的には、送信部312が、励磁パターン補正値ΔRpを付加された補正値書き込みコマンドを、電動弁制御装置200へ送信する(S36)。電動弁制御装置200は、このコマンドに従って、励磁パターン補正値ΔRpを記憶する。
【0126】
図22は、電動弁制御装置200の処理過程を示すフローチャートである。
図21に示した調整処理過程に関連する電動弁制御装置200の処理について詳述する。受信部210が、原点探索コマンドを受信すると(S50のY)、回転制御部218は、ストッパ90がガイド部材36の突部に当接するところまで、モータユニット3を下降回転させてステップ0(原点)を特定する(S52)。その状態で、回転検出部216は、磁気センサ119から受信したパルスからデューティー比D(0)を読み取る(S54)。送信部212は、調整装置300へステップ0のデューティー比D(0)と励磁パターンRp(0)を送信する(S56)。
【0127】
受信部210が、ステップnへの切り替えコマンドを受信すると(S58のY)、回転制御部218は、ステップnまで1つずつステップを進行させる。ここでは、1ステップ毎に切り替えコマンドを受信するものとする。回転制御部218は、切り替え指示されたステップnに対応する励磁パターンRp(n)を特定する(S60)。回転指示部214は、励磁パターンに応じて駆動電流の値を変更する(S62)。駆動電流の値を変更した後に、回転検出部216は、磁気センサ119から受信したパルスからデューティー比D(n)を読み取る(S64)。送信部212は、読み取ったステップnのデューティー比D(n)を調整装置300へ送信する(S66)。
【0128】
受信部210が、励磁パターン補正値ΔRpを付加された補正値書き込みコマンドを受信すると(S68のY)、回転制御部218は、書き込みコマンドに付加されている励磁パターン補正値ΔRpを励磁パターン補正値記憶部222に記憶させる(S70)。
【0129】
図23は、励磁パターン補正値算出処理過程を示すフローチャートである。
調整装置300の補正値算出部322は、励磁パターンRp(0)を基準として、各サンプルのステップnに対応する補正なし励磁パターンRp(n)を特定する(S80)。この例では、各サンプルの補正なし励磁パターンRp(n)がサンプルデータに格納されるものとする。
【0130】
補正値算出部322は、各サンプルの補正なし励磁パターンRp(n)に対応する理想のデューティー比D(n)を特定する(S82)。この例では、各サンプルの理想のデューティー比D(n)がサンプルデータに格納されるものとする。
【0131】
上述したS80およびS82の処理は、上昇回転時の各サンプルと下降回転時の各サンプルに関して共通に行われる。以下のS84~S88の処理は、上昇回転時の各サンプルに対して行われる。
【0132】
補正値算出部322は、上昇回転時の各サンプルについて、理想のデューティー比D(n)から上昇回転時の補正なしデューティー比Du(n)を引いて、上昇回転時の補正なしデューティー比差ΔDu(n)を算出する(S84)。この例では、上昇回転時の各サンプルの上昇回転時の補正なしデューティー比差ΔDu(n)がサンプルデータに格納されるものとする。補正値算出部322は、上昇回転時のサンプルにおける補正なしデューティー比差ΔDu(n)の代表値を特定する(S86)。この例では、補正値算出部322は、上昇回転時の補正なしデューティー比差ΔDu(n)の最小値を特定する。補正値算出部322は、上昇回転時の補正なしデューティー比差ΔDu(n)の最大値、平均値、中央値あるいは最頻値などを特定してもよい。補正値算出部322は、上昇回転時の各サンプルにおける上昇回転時の補正なしステップ差ΔSu(n)の代表値を算出する(S88)。上昇回転時の補正なしステップ差ΔSu(n)の代表値は、式1に従って算出される。
【0133】
続いて、補正値算出部322は、下降回転過程のサンプルに対してS90~S94の処理を行う。
補正値算出部322は、下降回転時の各サンプルについて、下降回転時の補正なしデューティー比Dd(n)から理想のデューティー比D(n)を引いて、下降回転時の補正なしデューティー比差ΔDd(n)を算出する(S90)。この例では、下降回転時の各サンプルの下降回転時の補正なしデューティー比差ΔDd(n)がサンプルデータに格納されるものとする。補正値算出部322は、下降回転時のサンプルにおける補正なしデューティー比差ΔDd(n)の代表値を特定する(S92)。この例では、補正値算出部322は、下降回転時の補正なしデューティー比差ΔDd(n)の最大値を特定する。補正値算出部322は、下降回転時の補正なしデューティー比差ΔDd(n)の最小値、平均値、中央値あるいは最頻値などを特定してもよい。補正値算出部322は、下降回転時の各サンプルにおける下降回転時の補正なしステップ差ΔSd(n)の代表値を算出する(S94)。下降回転時の補正なしステップ差ΔSd(n)の代表値は、式5に従って算出される。
【0134】
補正値算出部322は、式7にしたがって、励磁パターン補正値ΔRpを算出する(S96)。励磁パターン補正値ΔRpを整数にするために、補正値算出部322は、式7の算出結果の小数点以下に対する四捨五入、切り捨て、切り上げなどの処理を行う。
【0135】
図24は、電動弁制御装置200の処理過程を示すフローチャートである。
ここでは、励磁パターン補正値ΔRpを設定された電動弁制御装置200を使用する段階での処理過程を説明する。
【0136】
受信部210が、外部装置から移動コマンドを受信すると(S100のY)、回転制御部218は、移動コマンドに従って回転方向と回転速度を決める(S102)。回転制御部218は、回転方向と回転速度に従って、今すぐステップを進めるか否かを判定する(S104)。ステップを進める場合には(S104のY)、回転制御部218は、回転方向に従って次のステップnを特定する(S106)。回転制御部218は、ステップnと補正なし励磁パターンの対応関係に従って、次のステップnの補正なし励磁パターンRp(n)を特定する(S108)。回転制御部218は、励磁パターンを補正する(S110)。具体的には、回転制御部218は、式2に従って、補正なし励磁パターンRp(n)に励磁パターン補正値記憶部222から読み取った励磁パターン補正値ΔRpを加えて、補正あり励磁パターンRp′(n)を算出する。そのとき回転指示部214の通電がOFFになっていれば、回転制御部218は、回転指示部214の通電をONにする。また、回転制御部218は、回転指示部214に補正あり励磁パターンRp′(n)を指示し、回転指示部214は、補正あり励磁パターンRp′(n)に応じた値に駆動電流を変更する(S112)。つまり、補正あり励磁パターンRp′(n)に応じた駆動電流が、モータユニット3に印加される。
【0137】
受信部210が、停止コマンドを受信した場合には(S114のY)、回転制御部218は、回転指示部214の通電をOFFにする(S116)。これにより、
図9(A)に示したように、弁停止となりロータ60の姿勢が保持される。
【0138】
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【0139】
[変形例1]
本実施形態では、上昇回転時の補正ありデューティー比Du′(n)と下降回転時の補正ありデューティー比Dd′(n)の中央線を理想のデューティー比D(n)の線に重ねるように、補正なしデューティー比Du(n)、Dd(n)の全体をシフトさせる補正を行った。
図14のグラフ上で言えば、ΔSu(113)-ΔSd(107)の半分を移動量として、中央線を左側へスライドさせた。変形例として、中央線を理想のデューティー比D(n)の線に重ねずに、近づけるだけでもよい。
図14のグラフ上で言えば、ΔSu(113)-ΔSd(107)の半分より小さい幅を移動量としてもよい。その場合には、式8によってΔRpを算出する。
ΔRp=-(ΔSuの代表値-ΔSdの代表値)/V [式8]
定数Vは、2より大きい値である。たとえば、2<V≦4の値とする。
【0140】
[変形例2]
実施形態では、上昇回転時と下降回転時で共通の励磁パターン補正値ΔRpを求める例を示したが、上昇回転時と下降回転時で異なる励磁パターン補正値を求めるようにしてもよい。
【0141】
上昇回転時の励磁パターン補正値をΔRpuと表す。たとえば、上昇回転時の補正ありデューティー比Du′(n)を理想のデューティー比D(n)の線に重ねるように、補正なしデューティー比Du(n)をシフトさせる補正を行う。その場合には、式9によってΔRpuを算出する。
ΔRpu=-ΔSuの代表値 [式9]
なお、上昇回転時の補正なしステップ差ΔSu(n)は、式1に従ってΔDu(n)から算出される。この例では、ΔSuの代表値が5であり、上昇回転時の励磁パターン補正値ΔRpは-5になる。これにより、上昇回転時には5つ励磁パターンが先行する。
【0142】
下降回転時の励磁パターン補正値をΔRpdと表す。たとえば、下降回転時の補正ありデューティー比Dd′(n)を理想のデューティー比D(n)の線に重ねるように、補正なしデューティー比Dd(n)をシフトさせる補正を行う。その場合には、式10によってΔRpdを算出する。
ΔRpd=ΔSdの代表値 [式10]
なお、下降回転時の補正なしステップ差ΔSd(n)は、式5に従ってΔDd(n)から算出される。この例では、ΔSdの代表値が1であり、下降回転時の励磁パターン補正値ΔRpdは1になる。これにより、下降回転時には1つ励磁パターンが先行する。
【0143】
変形例2における動作について実施形態を基礎にして補足する。
図21に関連して、励磁パターン補正値算出処理を終えると、補正値設定部324は、電動弁制御装置200に上昇回転時の励磁パターン補正値ΔRpuと下降回転時の励磁パターン補正値ΔRpdを設定する。具体的には、送信部312が、上昇回転時の励磁パターン補正値ΔRpuと下降回転時の励磁パターン補正値ΔRpdを付加された補正値書き込みコマンドを、電動弁制御装置200へ送信する(S36)。電動弁制御装置200は、このコマンドに従って、上昇回転時の励磁パターン補正値ΔRpuと下降回転時の励磁パターン補正値ΔRpdを記憶する。
【0144】
図22に関連して、受信部210が、上昇回転時の励磁パターン補正値ΔRpuと下降回転時の励磁パターン補正値ΔRpdを付加された補正値書き込みコマンドを受信すると(S68のY)、回転制御部218は、書き込みコマンドに付加されている上昇回転時の励磁パターン補正値ΔRpuと下降回転時の励磁パターン補正値ΔRpdを励磁パターン補正値記憶部222に記憶させる(S70)。
【0145】
図24に関連して、S110に示した励磁パターンの補正において、上昇回転の場合には、回転制御部218は、式11に従って、補正なし励磁パターンRp(n)に励磁パターン補正値記憶部222から読み取った上昇回転時の励磁パターン補正値ΔRpuを加えて、補正あり励磁パターンRp′(n)を算出する。
Rp′(n)=Rp(n)+ΔRpu [式11]
【0146】
下降回転の場合には、回転制御部218は、式12に従って、補正なし励磁パターンRp(n)に励磁パターン補正値記憶部222から読み取った下降回転時の励磁パターン補正値ΔRpdを加えて、補正あり励磁パターンRp′(n)を算出する。
Rp′(n)=Rp(n)+ΔRpd [式12]
【0147】
[変形例3]
上述した実施形態、変形例1及び変形例2では、励磁パターン補正値を算出する処理を電動弁1の電動弁制御装置200に接続する調整装置300で行う例を示したが、これらの励磁パターン補正値を算出する処理を電動弁1側で行うようにしてもよい。すなわち、調整装置300の機能を回路基板118上の電動弁制御装置200に持たせて、電動弁1だけで励磁パターン補正値を算出することも可能である。
【0148】
図25は、変形例2における電動弁制御装置200の機能ブロック図である。
電動弁制御装置200のデータ処理部202は、サンプル生成部219と補正値算出部322を有する。
サンプル生成部219は、実施形態、変形例1及び変形例2に示した調整装置300が取得したサンプルデータと同等のサンプルデータを生成する。補正値算出部322は、実施形態及び変形例1に示した調整装置300の場合と同様に、サンプルデータに基づいて励磁パターン補正値ΔRpを算出する。あるいは、補正値算出部322は、変形例2に示した調整装置300の場合と同様に、サンプルデータに基づいて上昇回転時の励磁パターン補正値ΔRpuと下降回転時の励磁パターン補正値ΔRpdを算出する。
【0149】
電動弁制御装置200のデータ格納部206は、実施形態、変形例1及び変形例2に示した調整装置300のサンプルデータ記憶部330と同等のサンプルデータ記憶部330を有する。
【0150】
図26は、変形例3における電動弁制御装置200の補正値設定処理過程を示すフローチャートである。
この処理は、製造最終段階で電動弁制御装置200の受信部210が調整装置300から励磁パターン補正値の設定コマンドを受信したときに起動される。あるいは、この処理は、電動弁1がたとえば自動車用空調装置に実装された状態で、電動弁制御装置200の受信部210が外部装置から励磁パターン補正値の設定コマンドを受信したときに起動される。また、これら以外のタイミングで起動されるようにしてもよい。なお、原点探索の動作は、完了しているものとする。
【0151】
サンプル生成部219は、弁開状態に相当するサンプリング範囲のステップを順次特定する(S120)。具体的には、サンプル生成部219は、上昇回転のサンプリングにおいて、たとえばステップ100、ステップ101、・・・ステップ153の順に特定する。また、サンプル生成部219は、下降回転のサンプリングにおいて、たとえばステップ152、ステップ151、・・・ステップ99の順に特定する。
【0152】
回転制御部218は、サンプル生成部219で特定されたステップnに対応する励磁パターンRp(n)を特定する(S122)。回転指示部214は、励磁パターンに応じて駆動電流の値を変更する(S124)。駆動電流の値を変更した後に、回転検出部216は、磁気センサ119から受信したパルスからデューティー比D(n)を読み取る(S126)。そして、サンプル生成部219は、ステップnとデューティー比D(n)をサンプルデータに追加する(S128)。
【0153】
サンプル生成部219が、サンプリング範囲のステップ(上昇回転方向のステップと下降回転方向のステップ)の残りがあると判定した場合には(S130のN)、S120に戻って上述した処理を繰り返す。サンプル生成部219が、サンプリング範囲のステップのすべてについて処理したと判定した場合には(S130のY)、S132の処理に移る。
【0154】
このようにして、電動弁制御装置200においてサンプルデータが生成される。つまり、上昇回転のサンプリングによって、上昇回転方向の各ステップnと、それらのステップnにおける補正なしデューティー比Du(n)とが対応付けてサンプルデータ記憶部330に記憶される。また、下降回転のサンプリングによって、下降回転方向の各ステップnと、それらのステップnにおける補正なしデューティー比Dd(n)とが対応付けてサンプルデータ記憶部330に記憶される。
【0155】
サンプルデータの生成を終えると、電動弁制御装置200の補正値算出部322は、励磁パターン補正値算出処理を実行する(S132)。変形例3における励磁パターン補正値算出処理は、実施形態、変形例1及び変形例2において調整装置300の補正値算出部322が行う処理と同様である。実施形態及び変形例1と同様の励磁パターン補正値算出処理を行った場合には、電動弁制御装置200の補正値算出部322は、励磁パターン補正値ΔRpを励磁パターン補正値記憶部222に記憶させる。変形例2と同様の励磁パターン補正値算出処理を行った場合には、電動弁制御装置200の補正値算出部322は、上昇回転時の励磁パターン補正値ΔRpuと下降回転時の励磁パターン補正値ΔRpdを励磁パターン補正値記憶部222に記憶させる。
【0156】
電動弁制御装置200のその他の処理については、実施形態、変形例1及び変形例2の場合と同様である。
【0157】
本実施形態においては最下位点の原点を基準位置とする例を説明した。変形例として最上位点を基準位置に設定してもよい。基準位置は作動ロッド32をロータ60で駆動するための基準となるべき位置であればよい。ストッパ90によりロータ60の回転を規制可能な位置であれば任意に基準位置を定めることができる。
【0158】
上記実施形態では、磁気センサ119をセンサマグネット106と軸線方向に対向させる構成を例示した(
図1参照)。変形例においては、センサマグネットの側方(径方向外側)に磁気センサを配置してもよい。すなわち、両者を径方向に対向させてもよい。センサマグネットの外周面に着磁してもよい。その極数については、例えば弁本体2極とするなど適宜設定できる。
【0159】
上記実施形態では、ロータマグネット104とセンサマグネット106とが軸線方向に離隔する構成を例示した。変形例においては、ロータマグネットとセンサマグネットとを一体に構成してもよい。マグネット部成形工程において、ロータマグネット部とセンサマグネット部とを一体成形してもよい。その場合、磁気センサが磁束を確実に検出できるよう、センサマグネットの面積(外径)を大きくしてもよい。センサマグネットがロータコアの外周にはみ出すことになるため、センサマグネットとロータマグネットを射出成形しやすくなる。
【0160】
各実施形態では、ステータのコアとして積層コア(積層磁心)を例示した。変形例においては、圧粉コアその他のコアを採用してもよい。圧粉コアは、「圧粉磁心」とも呼ばれ、軟磁性材料を粉末にし、非導電性の樹脂等でコーティングした紛体と、樹脂バインダとを混練し、圧縮成型・加熱することで得られる。
【0161】
各実施形態では、回路基板の下面に駆動回路、制御回路、通信回路および電源回路が実装される構成を例示したが、実装される回路については適宜変更できる。例えば、駆動回路および電源回路を実装する一方、制御回路を電動弁の外部に設置してもよい。また、各回路を回路基板の上面に実装してもよい。
【0162】
各実施形態では、モータユニットとして、PM型ステッピングモータを採用したが、ハイブリッド型ステッピングモータを採用してもよい。また、上記実施形態では、モータユニットを三相モータとしたが、二相,四相、五相などその他のモータとしてもよい。ステータにおける電磁コイルの数もモータユニット3つや第1ボディ6つに限らず、モータの相数に合わせて適宜設定してよい。
【0163】
各実施形態の電動弁は、冷媒として代替フロン(HFC-134a)など使用する冷凍サイクルに好適に適用されるが、二酸化炭素のように作動圧力が高い冷媒を用いる冷凍サイクルに適用することも可能である。その場合には、冷凍サイクルに凝縮器に代わってガスクーラなどの外部熱交換器が配置される。
【0164】
各実施形態では、上記電動弁を膨張弁として構成したが、膨張機能を有しない開閉弁や流量制御弁として構成してもよい。
【0165】
各実施形態では、上記電動弁を自動車用空調装置の冷凍サイクルに適用する例を示したが、車両用に限らず電動膨張弁を搭載する空調装置に適用可能である。また、冷媒以外の流体の流れを制御する電動弁として構成することもできる。
【0166】
本実施形態における1は電気自動車に限らず、各種の自動車に応用可能である。
【0167】
センサマグネット106を両面4極着磁(片面弁本体2極の両面着磁)としてもよい。上面と下面で磁極の極性を反転させることで磁束を強化できる。この場合、ロータ60が閉弁方向に変位してセンサマグネット106と磁気センサ119との距離が大きくなっても、磁気センサ119の感度を良好に維持できる。
【符号の説明】
【0168】
1 電動弁、2 弁本体、3 モータユニット、5 ボディ、6 第1ボディ、8 第2ボディ、10 雄ねじ、12 シール収容部、14 シールリング、16 凹状嵌合部、18 シール収容部、20 シールリング、22 弁孔、24 弁座、26 入口ポート、28 出口ポート、30 弁室、32 作動ロッド、34 弁体、36 ガイド部材、38 雄ねじ、40 大径部、42 ばね受け、44 ばね受け、46 スプリング、52 係止部、60 ロータ、62 回転軸、64 ステータ、66 キャン、70 積層コア、73 コイル、73a U相コイル、73b V相コイル、73c W相コイル、74 ボビン、75 コイルユニット、76 ケース、77 蓋体、78 ステータユニット、79 コネクタ部、80 シール収容部、81 接続端子、82 シールリング、90 ストッパ、102 ロータコア、104 ロータマグネット、106 センサマグネット、108 雌ねじ、109 ねじ送り機構、110 縮径部、112 底部、114 ストッパ、116 スプリング、117 端子、118 回路基板、119 磁気センサ、120 スロット、122 突極、124 スリット、140 環状溝、144 環状溝、200 電動弁制御装置、202 データ処理部、204 通信部、206 データ格納部、220 基準情報記憶部、222 励磁パターン補正値記憶部、208 ロータインタフェース部、210 受信部、212 送信部、214 回転指示部、216 回転検出部、218 回転制御部、219 サンプル生成部、222 励磁パターン補正値記憶部、300 調整装置、302 データ処理部、304 通信部、306 データ格納部、310 受信部、312 送信部、318 指示部、320 サンプル取得部、322 補正値算出部、324 補正値設定部、330 サンプルデータ記憶部