(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】化学研磨剤、及び化学研磨方法
(51)【国際特許分類】
C23F 3/02 20060101AFI20240925BHJP
【FI】
C23F3/02
(21)【出願番号】P 2021558221
(86)(22)【出願日】2020-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2020038853
(87)【国際公開番号】W WO2021100369
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2019210612
(32)【優先日】2019-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 佑也
(72)【発明者】
【氏名】森口 朋
(72)【発明者】
【氏名】原 健二
(72)【発明者】
【氏名】田中 克幸
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-523753(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104962920(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110093608(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 1/00-4/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水、
(B)アルカリ金属塩、及び、
(C)
1~4つの水酸基を有する水溶性有機溶媒
、ポリグリセリン、又は4~9つの水酸基を有する糖アルコール
を含む、アルミニウム又はアルミニウム合金用化学研磨剤であって、
前記水に対する前記アルカリ金属塩の質量比(アルカリ金属塩/水)が、0.075以上であり、
前記水と、前記水溶性有機溶媒との体積比(水:水溶性有機溶媒)が、10:90~90:10であり、
前記化学研磨剤中、前記糖アルコールの濃度が100g/L以上であ
り、
前記化学研磨剤中、前記アルカリ金属塩の濃度が30g/L以上である、
化学研磨剤。
【請求項2】
前記アルカリ金属塩が、アルカリ金属水酸化物である、請求項
1に記載の化学研磨剤。
【請求項3】
前記水溶性有機溶媒が、1~4つの水酸基を有する水溶性有機溶媒、及びポリグリセリンからなる群より選択される1種以上である、請求項1
又は2に記載の化学研磨剤。
【請求項4】
(A)水、
(B)アルカリ金属塩、及び、
(C)
1~4つの水酸基を有する水溶性有機溶媒
、ポリグリセリン、又は4~9つの水酸基を有する糖アルコール
を含むアルミニウム又はアルミニウム合金用化学研磨剤に、アルミニウム又はアルミニウム合金を浸漬する工程を含む、アルミニウム又はアルミニウム合金の化学研磨方法であって、
前記水に対する前記アルカリ金属塩の質量比(アルカリ金属塩/水)が、0.075以上であり、
前記水と、前記水溶性有機溶媒との体積比(水:水溶性有機溶媒)が、10:90~90:10であり、
前記化学研磨剤中、前記糖アルコールの濃度が100g/L以上であ
り、
前記化学研磨剤中、前記アルカリ金属塩の濃度が30g/L以上である、
化学研磨方法。
【請求項5】
前記アルカリ金属塩が、アルカリ金属水酸化物である、請求項
4に記載の化学研磨方法。
【請求項6】
前記水溶性有機溶媒が、1~4つの水酸基を有する水溶性有機溶媒、及びポリグリセリンからなる群より選択される1種以上である、請求項
4又は5に記載の化学研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金用化学研磨剤、及び化学研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム又アルミニウム合金が加工されて様々な物品が製造されている。アルミニウム等は、表面に酸化皮膜が形成されているので、当該酸化皮膜を除去するために、エッチング処理が施される。アルミニウム又はアルミニウム合金の化学研磨方法としては、リン酸を含有する酸性の研磨剤を用いる方法が主流である(特許文献1、2)。
【0003】
これまでに、リンの排出規制の強化への対応や化学研磨剤の性能向上を目的として、リン酸を主体としない化学研磨剤の開発が行われているが、その性能(化学研磨性、光輝処理性)は十分ではなかった(特許文献3~5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-187398号公報
【文献】特公昭55-44116号公報
【文献】特公昭50-9732号公報
【文献】特公昭59-45756号公報
【文献】特公平5-30914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金に対する化学研磨性、光輝処理性に優れた化学研磨剤、及び化学研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、(A)水、(B)アルカリ金属塩、及び、(C)水溶性有機溶媒、又は4~9つの水酸基を有する糖アルコールを含む化学研磨剤を用いることによって、アルミニウム又はアルミニウム合金の光沢度を増加させることができることを見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
(A)水、
(B)アルカリ金属塩、及び、
(C)水溶性有機溶媒、又は4~9つの水酸基を有する糖アルコール
を含む、アルミニウム又はアルミニウム合金用化学研磨剤であって、
前記水に対する前記アルカリ金属塩の質量比(アルカリ金属塩/水)が、0.075以上である、化学研磨剤。
項2.
前記化学研磨剤中、前記アルカリ金属塩の濃度が30g/L以上である、項1に記載の化学研磨剤。
項3.
前記水と、前記水溶性有機溶媒との体積比(水:水溶性有機溶媒)が、10:90~90:10である、項1又は2に記載の化学研磨剤。
項4.
前記化学研磨剤中、前記糖アルコールの濃度が100g/L以上である、項1又は2に記載の化学研磨剤。
項5.
前記アルカリ金属塩が、アルカリ金属水酸化物である、項1~4のいずれかに記載の化学研磨剤。
項6.
前記水溶性有機溶媒が、1~4つの水酸基を有する水溶性有機溶媒、及びポリグリセリンからなる群より選択される1種以上である、項1~5のいずれかに記載の化学研磨剤。
項7.
(A)水、
(B)アルカリ金属塩、及び、
(C)水溶性有機溶媒、又は4~9つの水酸基を有する糖アルコール
を含むアルミニウム又はアルミニウム合金用化学研磨剤に、アルミニウム又はアルミニウム合金を浸漬する工程を含む、アルミニウム又はアルミニウム合金の化学研磨方法であって、
前記水に対する前記アルカリ金属塩の質量比(アルカリ金属塩/水)が、0.075以上である、化学研磨方法。
項8.
前記化学研磨剤中、前記アルカリ金属塩の濃度が30g/L以上である、項7に記載の化学研磨方法。
項9.
前記水と、前記水溶性有機溶媒との体積比(水:水溶性有機溶媒)が、10:90~90:10である、項7又は8記載の化学研磨方法。
項10.
前記化学研磨剤中、前記糖アルコールの濃度が100g/L以上である、項7又は8に記載の化学研磨方法。
項11.
前記アルカリ金属塩が、アルカリ金属水酸化物である、項7~10のいずれかに記載の化学研磨方法。
項12.
前記水溶性有機溶媒が、1~4つの水酸基を有する水溶性有機溶媒、及びポリグリセリンからなる群より選択される1種以上である、項7~11のいずれかに記載の化学研磨方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の化学研磨剤は、アルミニウム又はアルミニウム合金に対する化学研磨性(光輝処理性とも呼ばれる)に優れている。また、本発明の化学研磨方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金に対して優れた光輝性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。
【0010】
1.化学研磨剤
本発明に包含される化学研磨剤は、(A)水、(B)アルカリ金属塩、(C)水溶性有機溶媒、又は4~9つの水酸基を有する糖アルコールを含むことを特徴とする化学研磨剤である。以下、当該化学研磨剤を、「本発明の化学研磨剤」と表記することがある。なお、化学研磨剤は、光輝処理剤と呼ばれることもある。
【0011】
本発明の化学研磨剤は、(A)水、(B)アルカリ金属塩、及び(C)水溶性有機溶媒、又は4~9つの水酸基を有する糖アルコールを含むことにより、アルミニウム又アルミニウム合金表面の平滑化が促進されるため、アルミニウム又アルミニウム合金に対する、化学研磨性(光輝処理性)に優れている。このため、本発明の化学研磨剤を用いて処理されたアルミニウム又アルミニウム合金は、光輝性に優れている。
【0012】
(B)アルカリ金属塩としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム等のアルカリ金属炭酸水素塩などが挙げられる。また、これらの水和物であってもよい。中でも、化学研磨性(光輝処理性)に優れる点で、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物が好ましい。また、(B)アルカリ金属塩は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
本発明の化学研磨剤に含まれる、(A)水に対する(B)アルカリ金属塩の質量比(アルカリ金属塩/水)は、0.075以上である。上記質量比が0.075未満であると光輝性に劣る。上記質量比は、0.5以上が好ましく、0.7以上がより好ましい。また、上記質量比は、例えば1.0以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の化学研磨剤中、(B)アルカリ金属塩の濃度(アルカリ金属塩/水及び水溶性有機溶媒)が、30g/L以上であることが好ましい。(B)アルカリ金属塩の濃度は、200g/L以上が好ましく、280g/L以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、例えば、1000g/L以下が例示される。(B)アルカリ金属塩の濃度は、500g/L以下が好ましい。
【0015】
(C)水溶性有機溶媒としては、例えば、1~4つの水酸基を有する水溶性有機溶媒、ポリグリセリンなどを用いることができる。1~4つの水酸基を有する水溶性有機溶媒は、水酸基の数が1~4つである限り特に限定せず、公知の水溶性有機溶媒を用いることができる。例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール等の一価アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール等の二価アルコール;グリセリン等の三価アルコール;ポリエチレングリコール;ポリプロピレングリコール;ジグリセリン等が挙げられる。化学研磨剤の性状(例えば、分離の有無、安定性など)の観点から、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン以外の水溶性有機溶媒は、例えば炭素数が1~6であることが好ましく、炭素数が1~5であることがより好ましく、炭素数が1~4であることがさらに好ましい。また、化学研磨剤の性状(例えば、分離の有無、安定性など)の観点から、ポリエチレングリコールは、分子量が例えば200~400程度であることが好ましく、200~300程度であることがより好ましい。また、化学研磨剤の性状(例えば、分離の有無、安定性など)の観点から、ポリグリセリンは、分子量が例えば150~800程度であることが好ましく、150~350程度であることがより好ましい。また、化学研磨剤の性状(例えば、分離の有無、安定性など)の観点から、ポリプロピレングリコールは、分子量が例えば130~700程度であることが好ましく、130~400程度であることがより好ましい。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
(C)4~9つの水酸基を有する糖アルコールは、水酸基の数が4~9つである限り特に限定せず、公知の糖アルコールを用いることができる。例えば、水酸基を6つ有するソルビトール、水酸基を5つ有するキシリトール、水酸基を9つ有するラクチトール等が挙げられる。化学研磨剤の性状(例えば、分離の有無、安定性など)の観点から、糖アルコールは、例えば炭素数が4~12であることが好ましく、炭素数が4~6であることがより好ましい。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
本発明の化学研磨剤に含まれる、(A)水と(C)水溶性有機溶媒との体積比(水:水溶性有機溶媒)は、10:90~90:10であることが好ましい。当該範囲の上限は、例えば、20:80、30:70、40:60、50:50、60:40、70:30、又は80:20であってもよい。また、当該範囲の下限は、例えば、20:80、30:70、40:60、50:50、60:40、70:30、又は80:20であってもよい。例えば、ブラスト材(A1050、A5052等)において水溶性有機溶媒をエチレングリコールとした場合、水とエチレングリコールの体積比は40:60が好ましい。又、例えば、水溶性有機溶媒をグリセリンとした場合、水とグリセリンの体積比は60:40が好ましい。
【0018】
(C)水溶性有機溶媒の含有量は、特に限定されないが、(A)水及び(C)水溶性有機溶媒の総量1Lあたり、例えば100ml以上が例示される。(C)水溶性有機溶媒の含有量は、例えば、ブラスト材(A1050、A5052等)の場合、500~900ml程度が好ましく、600~800ml程度がより好ましい。又、水ヘアー材(A1050等)の場合は、300~600ml程度が好ましく、400~500ml程度がより好ましい。上限も特に限定されないが、例えば、900ml以下が例示される。
【0019】
本発明の化学研磨剤中、(C)糖アルコールの濃度(糖アルコール/水及び水溶性有機溶媒)は、特に限定されないが、100g/L以上であることが好ましい。(C)糖アルコールの濃度は、300g/L以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、例えば、1000g/L以下が例示される。(C)糖アルコールの濃度は、700g/L以下が好ましい。
【0020】
(A)水の含有量は、特に限定されないが、(A)水及び(C)水溶性有機溶媒の総量1Lあたり、例えば100ml以上が例示される。水の含有量は、例えば、ブラスト材(A1050、A5052等)の場合、100~500ml程度が好ましく、200~400mlがより好ましい。又、水ヘアー材(A1050等)の場合は、400~700ml程度が好ましく、500~600ml程度がより好ましい。上限も特に限定されないが、例えば、900ml以下が例示される。
【0021】
本発明の化学研磨剤は、必要に応じてクリンカ防止剤等の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、酒石酸、グルコン酸等の有機酸、又はその塩、ソルビトール等が挙げられる。また、本発明の化学研磨剤は、リンを含んでいてもよく、リンを含んでいなくてもよい。
【0022】
本発明の化学研磨剤は、アルミニウム又はアルミニウム合金用の化学研磨剤として、好適に用いることができる。アルミニウム合金としては特に限定的ではなく、各種のアルミニウム主体の合金が例示される。アルミニウム合金の具体例としては、例えば、JISに規定されているJIS-A 1千番台~7千番台で示される展伸材系合金、AC、ADCの各番程で示される鋳物材、ダイカスト材等を代表とするアルミニウム主体の各種合金群等が挙げられる。また、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、例えば、ブラスト処理、水ヘアー処理等の処理が施されたアルミニウム又はアルミニウム合金を用いることができる。
【0023】
2.化学研磨方法
本発明は、(A)水、(B)アルカリ金属塩、及び、(C)水溶性有機溶媒、又は4~9つの水酸基を有する糖アルコールを含む化学研磨剤に、アルミニウム又はアルミニウム合金を浸漬する工程を含む、アルミニウム又はアルミニウム合金の化学研磨方法を好ましく包含する。以下、当該化学研磨剤方法を、「本発明の化学研磨方法」と表記することがある。なお、化学研磨方法は、光輝処理方法と呼ばれることもある。
【0024】
本発明の化学研磨方法は(A)水、(B)アルカリ金属塩、及び、(C)水溶性有機溶媒、又は4~9つの水酸基を有する糖アルコールを含むアルミニウム又はアルミニウム合金用化学研磨剤に、アルミニウム又はアルミニウム合金を浸漬することによって、アルミニウム又はアルミニウム合金を化学研磨(光輝処理)することができ、アルミニウム又はアルミニウム合金に所望の光輝性を付与することができる。このため、本発明の化学研磨方法により処理されたアルミニウム又アルミニウム合金は、光輝性に優れている。
【0025】
化学研磨剤は、上記1に記載した通りであり、上記記載を援用することができる。
【0026】
化学研磨剤にアルミニウム又はアルミニウム合金を浸漬する工程において、必要に応じて、化学研磨剤を撹拌してもよく、アルミニウム又アルミニウム合金を揺動させてもよい。攪拌方法、及び揺動方法としては、特に限定されず、従来公知の攪拌方法、及び揺動方法を実施することができる。
【0027】
化学研磨剤にアルミニウム又はアルミニウム合金を浸漬する工程において、化学研磨剤の浴温は、適宜調整することができる。例えば、40~80℃、40~60℃等とすることができる。
【0028】
化学研磨剤にアルミニウム又はアルミニウム合金を浸漬する工程において、化学研磨剤にアルミニウム又はアルミニウム合金を浸漬する時間は、所望の光輝性の程度に応じて適宜設定することができる。例えば、30秒~30分、30秒~5分等とすることができる。
【0029】
本発明の化学研磨処理によって、溶解されるアルミニウム又はアルミニウム合金の膜厚(溶解膜厚)は、化学研磨処理するアルミニウム又はアルミニウム合金の材質、化学研磨処理後の使用目的等に応じて、適宜調整することができる。例えばA1050(ブラスト材)の場合、5~25μm程度、A7075の場合は、1~5μm程度が例示される。
【0030】
光輝性は、光沢度計(GMX-202:株式会社村上色彩技術研究所製)によって光沢度を測定することにより評価することができる。光沢度の数値が大きいほど、高い光輝性を有することを示す。また、溶解膜厚に対する光沢度が大きいほど、化学研磨剤の化学研磨性(光輝処理性)が優れていることを示す。光沢度は、化学研磨処理するアルミニウム又はアルミニウム合金の材質、化学研磨処理後の使用目的等に応じて、適宜調整することができる。例えば、A1050(ブラスト材)の場合、溶解膜厚が5~25μm程度における光沢度が50以上であることが好ましい。又、A7075の場合は、溶解膜厚1~5μm程度における光沢度が400以上であることが好ましい。
【0031】
本発明の化学研磨方法は、化学研磨剤にアルミニウム又はアルミニウム合金を浸漬する工程の前に、脱脂処理工程が含まれていてもよい。脱脂処理の目的は、例えばアルミ表面に付着した汚れや油分を除去すること等である。脱脂処理方法としては、特に限定されず、従来公知の脱脂処理方法を実施することができる。
【0032】
本発明の化学研磨方法は、化学研磨剤にアルミニウム又はアルミニウム合金を浸漬する工程の前に、エッチング処理工程が含まれていてもよい。エッチング処理の目的は、例えばアルミ表面に形成された自然酸化皮膜を除去すること等である。エッチング処理方法としては、特に限定されず、従来公知のエッチング処理方法を実施することができる。
【0033】
本発明の化学研磨方法は、エッチング処理、及び/又は化学研磨処理の後に、デスマット処理が含まれていてもよい。デスマット処理の目的は、例えばエッチング、化学研磨により生成したスマットを除去すること等である。デスマット処理方法としては、特に限定されず、従来公知のデスマット処理方法を実施することができる。
【実施例】
【0034】
本発明の内容を以下の実施例及び比較例を用いて具体的に説明する。但し、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。下記において、特に言及する場合を除いて、実験は大気圧及び常温条件下で行っている。また特に言及する場合を除いて、「%」は「質量%」を意味する。また、各表に記載される各成分の配合量値も特に断らない限り「質量%」を示す。
【0035】
以下の条件に従って、下記の実施例及び比較例に用いるアルミニウム試験片(ブラスト加工されたA1050)を調製した。
【0036】
脱脂処理はトップADD-100(奥野製薬工業株式会社製)の55℃で2分間処理した。脱脂処理後のエッチング処理は水酸化ナトリウムの100g/LとアルサテンSK(奥野製薬工業株式会社製)5ml/Lの55℃で30秒間処理した。なお、エッチング処理後と化学研磨処理の後にはデスマット処理を行った。デスマット処理はトップデスマットN-20(奥野製薬工業株式会社製)の20~25℃で1~2分間行った。
【0037】
(比較例1~2)
上述した方法により、脱脂処理、及びエッチング処理を施した試験片を、アルカリ金属塩として水酸化ナトリウム、及び水を含む化学研磨剤に浸漬し、化学研磨処理を行った。なお、化学研磨剤の浴温は55℃とした。化学研磨剤に含まれる水酸化ナトリウム、及び水の含有量、試験片の化学研磨剤への浸漬時間を表1に示す。
【0038】
分析方法(溶解膜厚、溶解速度、及び光沢度)
化学研磨処理前後の試験片の重量を測定し、重量差とアルミニウムの比重より、溶解膜厚(μm)、溶解速度(μm/min)を算出した。また、光沢度を光沢度計(GMX-202:株式会社村上色彩技術研究所製)により測定した。結果を表1に合わせて示す。また、脱脂処理、又はエッチング処理のみを施した試験片の光沢度を参考例1、2として表1に示す。なお、溶解膜厚の増加に伴って、光沢度も増加するため、同程度の溶解膜厚(特に、15~25μm程度の溶解膜厚)の試験片同士の光沢度を比較することによって、化学研磨剤の性能を比較した。
【0039】
【0040】
表1に示す通り、水溶性有機溶媒、糖アルコールを含まない場合、化学研磨剤に含まれる水酸化ナトリウム量を変化させても明らかな光沢度の増加は確認できなかった。
【0041】
(実施例1~6)
上述した方法により、脱脂処理、及びエッチング処理を施した試験片を、アルカリ金属塩として水酸化ナトリウム、水溶性有機溶媒として2つの水酸基を有するエチレングリコール、及び水を含む化学研磨剤に浸漬し、化学研磨処理を行った。なお、化学研磨処理時の浴温は55℃とした。化学研磨剤に含まれる水酸化ナトリウム、エチレングリコール及び水の含有量、試験片の化学研磨剤への浸漬時間は表2に示す。また、上述した分析方法に従って分析した結果を表2に合わせて示す。
【0042】
【0043】
水溶性有機溶媒(エチレングリコール)を含む化学研磨剤で処理することによって、光沢が得られることが分かった。また、水溶性有機溶媒(エチレングリコール)の量を増やすことによって、光沢度が増加することが分かった(実施例1~4)。また、実施例3及び5、又は実施例2及び6の結果から、化学研磨剤に含まれる水酸化ナトリウム量が多いほど、光沢度が増加することが分かった。
【0044】
(実施例7、8、比較例3)
【0045】
実施例1~6と同様の方法により、化学研磨処理を行った試験片について評価した。化学研磨剤に含まれる水酸化ナトリウム、エチレングリコール及び水の含有量、試験片の化学研磨剤への浸漬時間は表3に示す。
【表3】
【0046】
水と水溶性有機溶媒を併用する場合においても、水酸化ナトリウム量が多いほど、光沢度が増加することが分かった。さらに水酸化ナトリウムの濃度が25g/Lの場合には、浸漬時間を延長しても、光沢度の増加率は小さいことが分かった(比較例3)。また比較例2及び3の結果から、水酸化ナトリウムの濃度が25g/Lの場合、有機溶媒の有無によって、光沢度に差が見られないことから、化学研磨剤中の水酸化ナトリウムの濃度が25g/L以下の場合には、付与される光輝性が不十分であることが分かった。
【0047】
(実施例9~11)
上述した方法により、脱脂処理、及びエッチング処理を施した試験片を、アルカリ金属塩として水酸化ナトリウム、水溶性有機溶媒として2つの水酸基を有するポリエチレングリコール-200(平均分子量200)、及び水を含む化学研磨剤に浸漬し、化学研磨処理を行った。なお、化学研磨処理時の浴温は55℃、又は80℃とした。化学研磨剤に含まれる水酸化ナトリウム、ポリエチレングリコール-200及び水の含有量、試験片の化学研磨剤への浸漬時間、浴温は表4に示す。また、上述した分析方法に従って分析した結果を表4に合わせて示す。
【0048】
【0049】
エチレングリコールと同様、水溶性有機溶媒として、2つの水酸基を有するポリエチレングリコール-200を用いた場合にも、光沢が得られることが分かった。
【0050】
(実施例12~31)
実施例9~11と同様の方法により、化学研磨処理を行い、試験片を評価した。なお、水溶性有機溶媒としてポリエチレングリコール-200に代えて、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン(平均分子量310)、ポリプロピレングリコール(平均分子量300)を用いた。化学研磨剤に含まれる水酸化ナトリウム、水溶性有機溶媒及び水の含有量、試験片の化学研磨剤への浸漬時間、浴温は表5~12に示す。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
2つの水酸基を有する水溶性有機溶媒である、ジエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、及びジプロピレングリコール;3つの水酸基を有する水溶性有機溶媒であるグリセリン;4つの水酸基を有する水溶性有機溶媒であるジグリセリン;ポリグリセリンを用いた場合にも、光沢が得られることが分かった。
【0060】
なお、水溶性有機溶媒として、水酸基を1つ有する水溶性有機溶媒である、メタノール及びエタノール、1-プロパノールを用いた場合にも、光沢が得られることが分かった。一方、水酸基を有しない水溶性有機溶媒であるDMSOを用いた場合には、酸化ナトリウム存在下で相分離し、実験、及び実用化が難しいことが分かった。
【0061】
(実施例32)
上述した方法により、脱脂処理、及びエッチング処理を施した試験片を、アルカリ金属塩として水酸化ナトリウム、糖アルコールとしてソルビトール、及び水を含む化学研磨剤に浸漬し、化学研磨処理を行った。なお、化学研磨処理時の浴温は70℃とした。化学研磨剤に含まれる水酸化ナトリウム、ソルビトール及び水の含有量、試験片の化学研磨剤への浸漬時間は表13に示す。また、上述した分析方法に従って分析した結果を表13に合わせて示す。
【0062】
【0063】
6つの水酸基を有する糖アルコールである、ソルビトールを含む化学研磨剤で処理することによって、光沢が得られることが分かった。
【0064】
(実施例33~37、比較例4~5)
実施例32と同様の方法により、化学研磨処理を行い、試験片を評価した。なお、糖アルコールとしてソルビトールに代えて、ラクチトール、キシリトールを用いた。また、糖アルコールに代えて、グルコース、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム塩(糖アルコールではない)を用いて比較した。化学研磨剤に含まれる水酸化ナトリウム、糖アルコール、又はグルコース及び水の含有量、試験片の化学研磨剤への浸漬時間は表14~16に示す。
【0065】
9つの水酸基を有する糖アルコールであるラクチトール、又は5つの水酸基を有する糖アルコールであるキシリトールを含む化学研磨剤で処理することによって、光沢が得られることが分かった。さらに、糖アルコールの量を増やすことによって、光沢度が増加することが分かった。また、グルコースを用いた場合には、炭化してしまうため、実用化が難しいことが分かった。また、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム塩を用いた場合にも、光沢度の明らかな増加は確認できなかった。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
(実施例38、39、比較例6、7)
上述した方法により、脱脂処理、及びエッチング処理を施した試験片を、アルカリ金属塩として水酸化カリウムまたは水酸化リチウム・1水和物、水溶性有機溶媒としてエチレングリコール、及び水を含む化学研磨剤に浸漬し、化学研磨処理を行った。なお、化学研磨処理時の浴温は55℃とした。化学研磨剤に含まれる水酸化カリウムまたは水酸化リチウム・1水和物、エチレングリコール及び水の含有量、試験片の化学研磨剤への浸漬時間は表17、18にそれぞれ示す。また、上述した分析方法に従って分析した結果を表17、18に合わせて示す。
【0070】
【0071】
【0072】
アルカリ金属塩として、水酸化ナトリウムに代えて、水酸化カリウム、及び水酸化リチウム・1水和物を用いた場合にも、水と水溶性有機溶媒を併用することによって、光沢度が増加することが確認された。
【0073】
(実施例40~46、参考例3~8)
実施例5と同様の条件により、化学研磨処理を行い、試験片を評価した。化学研磨剤に含まれる水酸化ナトリウム、エチレングリコール及び水の含有量、試験片の化学研磨剤への浸漬時間は表19に示す。また、試験片をブラスト加工されたA1050に代えて、水ヘアー加工されたA1050、ブラスト加工されたA5052、又は未加工のA7075を用いて、試験片の材質の違いによる影響を確認した結果を表20~表22に示す。なお、化学研磨剤に含まれる水酸化ナトリウム、エチレングリコール及び水の含有量、試験片の化学研磨剤への浸漬時間は表20~表22に示す。また、脱脂処理、又はエッチング処理のみを施した試験片の光沢度を参考例3~8として表20~22に示す。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
実施例40~46の結果から、水、アルカリ金属塩、及び、水溶性有機溶媒を含む化学研磨剤は、アルミニウム又はアルミニウム合金の種類、及びアルミニウム又はアルミニウム合金の加工方法に関わらず、アルミニウム又はアルミニウム合金に対して、光輝性を付与できることが分かった。
【0079】
(比較例8~11)
上述した方法により、脱脂処理、及びエッチング処理を施した試験片を、98%硫酸、及び水溶性有機溶媒としてエチレングリコールを含む化学研磨剤に浸漬し、化学研磨処理を行った。なお、化学研磨処理時の浴温は80℃とした。化学研磨剤に含まれる98%硫酸、エチレングリコールの含有量、試験片の化学研磨剤への浸漬時間は表23に示す。また、上述した分析方法に従って分析した結果を表23に合わせて示す。
【0080】
【0081】
表23に示す通り、アルカリ金属塩に代えて、98%硫酸を用いると、光沢度が増加しないことが分かった。また、98%硫酸と水溶性有機溶媒を併用した場合にも、光沢度の増加は確認されなかった。