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特許7560152高純度の1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジン単一異性体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】高純度の1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジン単一異性体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 211/14 20060101AFI20240925BHJP
【FI】
C07D211/14
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022534201
(86)(22)【出願日】2022-05-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-28
(86)【国際出願番号】 KR2022007010
(87)【国際公開番号】W WO2023101115
(87)【国際公開日】2023-06-08
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】10-2021-0169203
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522222102
【氏名又は名称】ブイエスファームテク
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】キム、クァンホ
(72)【発明者】
【氏名】ユ、チサン
(72)【発明者】
【氏名】ムン、チチャン
(72)【発明者】
【氏名】パク、シンヨン
(72)【発明者】
【氏名】ムン、ユナ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ソヒ
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/212261(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのキラル中心を有する1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジン(1-(1-(2-benzylphenoxy)propan-2-yl)-2-methylpiperidine)の4種の異性体の少なくとも2種の異性体混合物から単一異性体を99%以上の純度のリン酸塩として製造する方法であって、
メチルスルホニル又はメチルベンゼンスルホニルでヒドロキシ基が活性化された(R)-又は(S)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-オール(1-(2-benzylphenoxy)propan-2-ol)を2-メチルピペリジン(2-methylpiperidine)ラセミ混合物と反応させ、目的とする異性体を含むように、1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンの少なくとも2種の異性体を含む混合物を準備する第1ステップと、
前記1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンの少なくとも2種の異性体を含む混合物をアセトンに溶解した溶液を塩酸で処理し、形成される固体形態の塩酸塩を得る第2ステップと、
選択的に、前記目的とする異性体が(S,S)-form又は(R,R)-formであれば、第2ステップの濾液を臭化水素酸で少なくとも1回再結晶させて臭化水素酸塩を得る第2-aステップと、
前ステップで得られた塩酸塩又は臭化水素酸塩をエタノールに溶解した溶液にリン酸を添加し、塩酸塩又は臭化水素酸塩をリン酸塩に置換する第3ステップとを含む製造方法。
【請求項2】
前記第2ステップの濾液は、第2ステップで塩酸塩を除去した酸性溶液を中和して有機溶媒で抽出し、得られた粗生成物をアセトンに溶解した溶液である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ヒドロキシ基が活性化された(R)-又は(S)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-オールは、有機溶媒相で塩基としてのトリエチルアミン(triethylamine; TEA)及び触媒としてのジメチルアミノピリジン(dimethylaminopyridine; DMAP)存在下で(R)-又は(S)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-オールを活性化基の塩化物と反応させて準備するものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記(R)-又は(S)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-オールは、触媒としてのTBAF・3HO存在下で2-ベンジルフェノールを(R)-又は(S)-プロピレンカーボネート(propylene carbonate)と170℃以上の温度で反応させて準備するものである、請求項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第2ステップで得られた塩酸塩を塩酸で再結晶させる第2-1ステップを少なくとも1回さらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第2-1ステップは、ケトン類又は低級アルコール類の極性有機溶媒に溶解した溶液相で行われる、請求項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンの少なくとも2種の異性体を含む混合物は、(S,R)-form及び(S,S)-formの含有量の合計が80%以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンの少なくとも2種の異性体を含む混合物は、(R,S)-form及び(R,R)-formの含有量の合計が80%以上である、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度の1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジン単一異性体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌が生命を脅かす最も大きな原因は癌細胞の転移性にある。現在、普遍的な癌治療方法としては外科手術が挙げられるが、癌細胞は原発癌部位以外の様々な部位に転移するので、初期時期にしか手術による完治は期待できない。
【0003】
一方、癌転移も癌発生と同様に、様々な遺伝子と癌細胞の移動、浸潤などに関与する要素が複合的に作用して起こる。
【0004】
癌転移において癌細胞の移動は重要な役割を果たす。例えば、癌細胞が初期の原発癌位置から細胞外マトリックス(extracellular matrix; ECM)を介して血管に移動したり、第2の転移組織から血管外に移動する際や、新生血管から血管内皮細胞(vascular endothelial cell)が移動する際に関与する。移動する細胞は、細胞移動誘導物質により活性化された信号受容体により極性(polarity)が誘導される。また、アクチン(actin)の重合により細胞前方の細胞膜が前方に拡張され、細胞はインテグリン(integrin)により細胞外マトリックスに付着する。ここで、アクチンポリマーに結合されたミオシン(myosin)によりアクチンポリマー間に強い収縮力が生じ、細胞全体に強い収縮力が加わる。よって、細胞の前部と後部の付着力の差により細胞移動の方向が決まり、細胞が移動する。よって、細胞移動抑制剤は、それ以上の転移が拡散しないように癌細胞の移動を抑制し、移動が抑制された状態で癌細胞の死滅を誘導する抗癌剤を投与できるようにするので、癌患者の生命を延長できる現実的なアプローチ方法であるとみなされている。
【0005】
一方、鎮咳去痰剤として常用されているベンプロペリンという薬物は、癌細胞の移動を遮断して新生血管の形成を阻害することにより、癌転移を効果的に抑制することが解明されている(特許文献1、2など)。さらに、前記ベンプロペリンの様々な誘導体が合成されてその活性が確認されており、それらのうちCG-609、特に(S,R)-formの(R)-1-((S)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンが著しく優れた活性を示すことが確認されている。
【0006】
しかし、前記(S,R)-formのCG-609を選択的に合成するために用いる反応物である(R)-プロピレンオキシドは、沸点が34℃と低く、爆発や火災の危険性があるので取り扱いが難しく、このような安全性の問題により、取り扱うと様々な法的制裁を受ける。また、共に用いられる他の反応物である(R)-2-メチルピペリジンや(S)-2-メチルピペリジンは、非常に高価なだけでなく、入手も難しく、量産に用いるには限界がある。特に、純粋なCG-609を合成するためにはカラムクロマトグラフィーを用いた精製が不可避であり、大量生産は難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】韓国登録特許第10-1323728号公報
【文献】米国登録特許第8716288号明細書
【文献】韓国登録公報第10-2259291号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Adv.Synth.Catal., 2019, 361: 1-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、安価で、かつ取り扱いが容易な代替物質を活用して特定異性体、例えば(S,R)-formのCG-609、(R)-1-((S)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンを高純度で製造する方法を見出すべく鋭意研究を重ねた結果、(R)-プロピレンオキシドに代えて(R)-プロピレンカーボネートを用いて中間体を合成し、(R)-2-メチルピペリジンに代えてラセミ2-メチルピペリジンを用いて(S,R)-formと(S,S)-formを主に含む混合物を得て、それを塩酸で処理し、その後リン酸塩に置換することにより、所望の特定異性体のCG-609、すなわち(R)-1-((S)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンを単一種で99%以上、さらには99.9%以上の高い純度で提供できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法を適用することにより、その比率は低いが、4種の異性体を全て含むため分離が難しい粗生成物を塩酸で処理し、その後リン酸塩に置換すると、さらなる再結晶を行わなくても、所望の単一異性体、例えば(S,R)-formの1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジン(1-(1-(2-benzylphenoxy)propan-2-yl)-2-methylpiperidine)リン酸塩が99%以上、さらには99.9%以上の純度で得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の製造例3により合成した中間体(R)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イルメタンスルホネート((R)-1-(2-benzylphenoxy)propan-2-yl methanesulfonate; (R)-Ben-OMs)のキラルHPLC結果を示す図である。
図2】本発明の実施例1の方法1-1により得られた粗生成物のキラルHPLC結果を示す図である。
図3】本発明の実施例1の方法1-1により得られた粗生成物のC18 HPLC結果を示す図である。
図4】高純度で分離したCG-609の(R,R)、(S,S)、(R,S)及び(S,R)異性体を単独又は組み合わせで含む組成物のキラルHPLC結果を示す図である。
図5】高純度で分離したCG-609の(R,R)、(S,S)、(R,S)及び(S,R)異性体を単独又は組み合わせで含む組成物のC18 HPLC結果を示す図である。
図6】本発明の製造方法における中間体及び分離した生成物のH-NMR結果を示す図である。
図7】本発明の製造方法における中間体及び分離した生成物のH-NMR結果を示す図である。
図8】本発明の製造方法における中間体及び分離した生成物のH-NMR結果を示す図である。
図9】本発明の製造方法における中間体及び分離した生成物のH-NMR結果を示す図である。
図10】本発明の製造方法における中間体及び分離した生成物のH-NMR結果を示す図である。
図11】本発明の製造方法における中間体及び分離した生成物のMS結果を示す図である。
図12】本発明の製造方法における中間体及び分離した生成物のMS結果を示す図である。
図13】本発明の製造方法における中間体及び分離した生成物のMS結果を示す図である。
図14】本発明の製造方法における中間体及び分離した生成物のMS結果を示す図である。
図15】本発明の製造方法における中間体及び分離した生成物のMS結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本発明で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。また、以下の具体的な記述に本発明が限定されるものではない。
【0013】
また、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、通常の実験のみを用いて本発明に記載された本発明の特定の態様の多くの等価物を認識し、確認することができるであろう。さらに、その等価物も本発明に含まれることが意図されている。
【0014】
さらに、本発明の明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」という場合、これは特に断らない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
【0015】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0016】
本発明は、癌転移抑制活性を有することが知られている1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジン(1-(1-(2-benzylphenoxy)propan-2-yl)-2-methylpiperidine; CG-609)の製造において特に優れた活性を有する(S,R)-form異性体をより高い純度で提供すると共に、量産に有利な最適化された反応条件を見出すべく考案されたものであり、i)所望の異性体を選択的に提供するべく、反応物として1種又は2種のR又はS異性体を組み合わせて反応させても、その生成物は、比率の差こそあれ、理論的に予測できない異性体を含めて計4種の異性体の混合物で形成されることと、ii)従来から異性体の分離に用いられていたキラル試薬による再結晶方法は、前述したように4種の異性体を全て含む混合物に対して適用することが困難であることを確認したことに基づくものである。
【0017】
よって、本発明者らは、反応物として1種のR又はS異性体とラセミ混合物を反応させるか、2種ともR又はS異性体を反応させることにより、(S,R)-formと(S,S)-form、又は(R,S)-formと(R,R)-formのジアステレオマーを計80%以上含む粗生成物を得て、それを塩酸及び/又は選択的に臭化水素酸で処理して固体化し、前記塩酸塩及び/又は臭化水素酸塩をリン酸塩に置換することにより、所望の化合物が単一異性体として99%以上、さらには99.9%以上の高純度で得られることを見出した。
【0018】
本発明の第1態様は、2つのキラル中心を有する1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジン(1-(1-(2-benzylphenoxy)propan-2-yl)-2-methylpiperidine)の4種の異性体の少なくとも2種の異性体混合物から単一異性体を99%以上の純度のリン酸塩として製造する方法を提供する。
【0019】
具体的には、前記製造方法は、ヒドロキシ基が活性化された(R)-又は(S)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-オール(1-(2-benzylphenoxy)propan-2-ol)を2-メチルピペリジン(2-methylpiperidine)ラセミ混合物と反応させ、目的とする異性体を含むように、1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンの少なくとも2種の異性体を含む混合物を準備する第1ステップと、前記1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンの少なくとも2種の異性体を含む混合物をアセトンに溶解した溶液を塩酸で処理し、形成される固体形態の塩酸塩を得る第2ステップと、選択的に、前記目的とする異性体が(S,S)-form又は(R,R)-formであれば、第2ステップの濾液を臭化水素酸で少なくとも1回再結晶させて臭化水素酸塩を得る第2-aステップと、前ステップで得られた塩酸塩又は臭化水素酸塩をエタノールに溶解した溶液にリン酸を添加し、塩酸塩又は臭化水素酸塩をリン酸塩に置換する第3ステップとを含む。
【0020】
本発明の特徴は、前記第2ステップ及び第2-aステップをアセトン溶液相で行い、第3ステップをエタノール溶液相で行うことにより、最終生成物の収率はもとより品質が大幅に向上した最適化された製造方法を提供できることにある。
【0021】
例えば、前記第2ステップ及び第2-aステップにおいて、アセトン以外の溶媒を用いると、選択性が著しく低下し、所望の単一異性体を純粋に分離することができない。さらに、前記第3ステップにおいて、エタノール以外の溶媒を用いると、選択性が低下するだけでなく、所望の生成物の収率及び品質を低下させる結果を招く。
【0022】
例えば、前記第2ステップの濾液は、第2ステップで塩酸塩を除去した酸性溶液を中和して有機溶媒で抽出し、得られた粗生成物をアセトンに溶解した溶液であってもよい。前記溶液の中和は、水酸化ナトリウムを用いて行われるが、これに限定されるものではない。一方、前記抽出は、水と塩化メチレンを用いて行われるが、これに限定されるものではない。
【0023】
例えば、前記ヒドロキシ基が活性化された(R)-又は(S)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-オールは、メチルスルホニル又はメチルベンゼンスルホニルで活性化されたものであるが、これらに限定されるものではない。例えば、ヒドロキシ基に代えてハロゲンが置換された化合物であるが、これに限定されるものではない。
【0024】
例えば、前記ヒドロキシ基が活性化された(R)-又は(S)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-オールは、有機溶媒相で塩基としてのトリエチルアミン(triethylamine; TEA)及び触媒としてのジメチルアミノピリジン(dimethylaminopyridine; DMAP)存在下で(R)-又は(S)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-オールを活性化基の塩化物と反応させて準備するものであるが、これらに限定されるものではない。あるいは、市販の化合物を購入して用いてもよく、当該技術分野で公知の反応を適宜活用して合成したものを用いてもよい。
【0025】
例えば、前記(R)-又は(S)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-オールは、触媒としてのTBAF・3HO存在下で2-ベンジルフェノールを(R)-又は(S)-プロピレンカーボネート(propylene carbonate)と170℃以上の温度で反応させて準備するものであるが、これらに限定されるものではない。あるいは、市販の化合物を購入して用いてもよく、当該技術分野で公知の反応を適宜活用して合成したものを用いてもよい。特許文献3には、(R)-プロピレンオキシドを用いて合成する例が開示されている。
【0026】
以下、1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンの(S,R)-form、(S,S)-form、(R,S)-form及び(R,R)-formをそれぞれ99%以上の純度で製造する方法を例示する。
【0027】
具体的には、本発明は、(R)-1-((S)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンの製造方法であって、ヒドロキシ基が活性化された(R)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-オールを2-メチルピペリジンラセミ混合物と反応させ、目的とする異性体を含むように、1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンの少なくとも2種の異性体を含む混合物を準備する第1’ステップと、前記1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンの少なくとも2種の異性体を含む混合物をアセトンに溶解した溶液を塩酸で処理し、形成される固体形態の塩酸塩を得る第2’ステップと、前ステップで得られた塩酸塩又は臭化水素酸塩をエタノールに溶解した溶液にリン酸を添加し、塩酸塩又は臭化水素酸塩をリン酸塩に置換する第3’ステップとを含む製造方法を提供する。
【0028】
具体的には、本発明は、(S)-1-((S)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンの製造方法であって、ヒドロキシ基が活性化された(R)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-オールを2-メチルピペリジンラセミ混合物と反応させ、目的とする異性体を含むように、1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンの少なくとも2種の異性体を含む混合物を準備する第1’ステップと、前記1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンの少なくとも2種の異性体を含む混合物をアセトンに溶解した溶液を塩酸で処理し、形成される固体形態の塩酸塩を得る第2’ステップと、第2’ステップの濾液を回収し、臭化水素酸で少なくとも1回再結晶させて臭化水素酸塩を得る第2’-aステップと、前ステップで得られた塩酸塩又は臭化水素酸塩をエタノールに溶解した溶液にリン酸を添加し、塩酸塩又は臭化水素酸塩をリン酸塩に置換する第3’ステップとを含む製造方法を提供する。
【0029】
具体的には、本発明は、(S)-1-((R)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンの製造方法であって、ヒドロキシ基が活性化された(S)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-オールを2-メチルピペリジンラセミ混合物と反応させ、目的とする異性体を含むように、1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンの少なくとも2種の異性体を含む混合物を準備する第1’’ステップと、前記1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンの少なくとも2種の異性体を含む混合物をアセトンに溶解した溶液を塩酸で処理し、形成される固体形態の塩酸塩を得る第2’’ステップと、前ステップで得られた塩酸塩又は臭化水素酸塩をエタノールに溶解した溶液にリン酸を添加し、塩酸塩又は臭化水素酸塩をリン酸塩に置換する第3’'ステップとを含む製造方法を提供する。
【0030】
具体的には、本発明は、(R)-1-((R)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンの製造方法であって、ヒドロキシ基が活性化された(S)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-オールを2-メチルピペリジンラセミ混合物と反応させ、目的とする異性体を含むように、1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンの少なくとも2種の異性体を含む混合物を準備する第1’’ステップと、前記1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンの少なくとも2種の異性体を含む混合物をアセトンに溶解した溶液を塩酸で処理し、形成される固体形態の塩酸塩を得る第2’’ステップと、第2’ステップの濾液を回収し、臭化水素酸で少なくとも1回再結晶させて臭化水素酸塩を得る第2’’-aステップと、前ステップで得られた塩酸塩又は臭化水素酸塩をエタノールに溶解した溶液にリン酸を添加し、塩酸塩又は臭化水素酸塩をリン酸塩に置換する第3’’ステップとを含む製造方法を提供する。
【0031】
例えば、前記第2ステップ、第2’ステップ又は第2’'ステップで得られた塩酸塩を塩酸で再結晶させる第2-1ステップを少なくとも1回さらに含むが、これらに限定されるものではない。
【0032】
ここで、前記第2-1ステップは、ケトン類又は低級アルコール類の極性有機溶媒に溶解した溶液相で行われ、具体的にはエタノールに溶解した溶液相で行われるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
例えば、本発明の製造方法において反応物として用いられる前記1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンの少なくとも2種の異性体を含む混合物は、(S,R)-form及び(S,S)-formの含有量の合計が80%以上の混合物であるが、これに限定されるものではない。
【0034】
あるいは、本発明の製造方法において反応物として用いられる前記1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンの少なくとも2種の異性体を含む混合物は、(R,S)-form及び(R,R)-formの含有量の合計が80%以上の混合物であるが、これに限定されるものではない。
【実施例
【0035】
以下、実施例及び実験例を挙げて本発明の構成及び効果をより詳細に説明する。これらの実施例はあくまで本発明を例示するものにすぎず、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
実験例1:異性体の同定
異性体混合物から特定異性体を高い収率で分離するという本発明の目的上、生成物に含まれる各異性体を分離及び/又は同定する方法を確立することが重要である。よって、本発明の化合物である1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンの単一又は異性体混合物をキラルカラム及びC18カラムによるHPLCで分析した。
【0037】
本発明全般にわたって用いるC18 HPLC及びキラルHPLCの駆動条件は次の通りである。
[C18 HPLCの条件]
カラム:Aegispak C18 150mm×4.6mm,5μm
溶離液:Isogratic,A:B=50:50(solvent A:メタノール,solvent B:0.1mol酢酸アンモニウム)
検出器:270nm
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/min
注入体積:5μL
総実行時間(total run time):80分
サンプリング方法:100mgの試料を10mLのメタノールに溶解する
[キラルHPLCの条件]
カラム:IB-N5 250mm×4.6mm,5μm
溶離液:Isogratic,A:B=90:10(solvent A:0.15%Trifluoroacetic acid(TFA)&0.05%Diethylamine(DEA) in Hexane:Ethanol=99:1,solvent B:0.1%Trifluoroacetic acid(TFA)&0.1%Diethylamine(DEA) in Ethanol)
検出器:270nm
カラム温度:25℃
流速:1.2mL/min
注入体積:5μL
総実行時間(total run time):40分
サンプリング方法:100mgの試料を10mLのメタノール:エタノール:ヘキサン=1:1:1混合溶媒に溶解する
【0038】
さらに、キラルカラム及びC18カラムを用いたHPLCの結果をそれぞれ図2及び図3に示す。図2に示すように、キラルカラムで分離すると、(S,R)-form及び(S,S)-formはもとより、少量の(R,S)-form及び(R,R)-formまでも全て含むことが確認され、4つの各異性体は、(R,R)が3.5%、(S,S)が50%、(R,S)が4.6%、(S,R)が42%の比率で存在した。
【0039】
一方、図3に示すC18カラムでの分離の結果は、約50:50の比率で2つのピークのみ示し、それぞれは(R,R)と(S,S)の混合物及び(R,S)と(S,R)の混合物に相当するものである。これは、C18カラムを用いたHPLCでジアステレオマー(diastereomers)の分離は可能であるが、光学異性体(enantiomers)の分離は不可能であることを示すものである。
【0040】
これを裏付けるために、高純度で分離したCG-609の(R,R)、(S,S)、(R,S)及び(S,R)異性体を単独で又は組み合わせてキラルHPLC及びC18 HPLCにより分離した。それぞれの結果を図4及び図5に示す。図4及び図5に示すように、キラルHPLCでは、4種の異性体の全てが独立したピークを示したが、C18 HPLCでは、(R,R)及び/又は(S,S)から(R,S)及び/又は(S,R)の分離は可能であったが、(R,R)から(S,S)の分離及び(R,S)から(S,R)の分離は不可能であった。
【0041】
製造例1:(R)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-オール((R)-1-(2-benzylphenoxy)propan-2-ol; (R)-Ben-OH)の製造
方法1-1:反応物としての(R)-プロピレンオキシド((R)-propylene oxide)の使用
【0042】
【化1】
【0043】
CO(1.2g,8.68mmol,4当量)をN,N-ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide; DMF,0.85M,5mL,12当量)に添加して攪拌した。5分後に、常温で2-ベンジルフェノール(2-benzylphenol)を400mg(2.17mmol,1当量)添加した。30分後に、(R)-プロピレンオキシド((R)-propylene oxide,13.91mmol,0.9mL,6当量)を注射器で迅速に注入し、120℃のオイルバスで17時間反応させた。これを常温に冷却し、その後水を注入して反応を終結させ、次いで酢酸エチル(ethyl acetate)と水を用いて3回抽出した。その後、有機層を水で3回洗浄し、次いで塩水で再び洗浄した。これをMgSOで乾燥させ、その後フィルタリングして減圧下で濃縮した。濃縮液をカラムクロマトグラフィー(EA:Hex=1:9)により精製し、表題化合物(970mg,92.4%,bright yellow oil)を得た。
【0044】
前記反応において、過剰量で用いた(R)-プロピレンオキシドの沸点が34℃にすぎないので、反応初期に外部から120℃の熱を加えても内部の反応温度は約70℃であった。この温度では反応が完結せず、時間経過と共に次第に内部の反応温度が上昇し、最終的に120℃に達したときに反応が完結した。
【0045】
これは、前記反応において、外部から高い温度の熱を加えると、時間経過と共に低い沸点の(R)-プロピレンオキシドが蒸発し、反応温度が上昇するものと判断される。よって、6当量の(R)-プロピレンオキシド使用量を3当量に減少すると6時間以内に反応が完結したが、3当量以下では反応が完結しなかった。
【0046】
一方、前記反応物である(R)-プロピレンオキシドの低い沸点による爆発や火災の危険性、及び少量の試薬でも冷蔵状態を維持しなければならないという取り扱いの難しさの問題があるので、これを代替できる物質を見出そうと試みた。
【0047】
方法1-2:反応物としての(R)-プロピレンカーボネート((R)-propylene carbonate)の使用
【0048】
【化2】
【0049】
Shih Chieh Kaoらにより開示された方法を参照して、(R)-プロピレンオキシドに代えて(R)-プロピレンカーボネートを反応物として用いて(R)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-オールを合成した(非特許文献1)。具体的には、出発物質である1当量の2-ベンジルフェノールに対して1.0~1.3当量の(R)-プロピレンカーボネートを反応させて合成を行った結果、1.2当量使用すると反応が完結した。また、(R)-プロピレンカーボネートは沸点が高い液体であるので、前記文献と同様に、最小限のDMF溶媒を用い、反応触媒であるTBAF・3HOの使用量も最小限に抑えた。高温の反応温度を低くするために試験を行った結果、150℃以下では反応が完結せず、170℃以上を維持すると4~6時間以内に反応が完結した。反応を確認するために、HPLCによりIPC(In process control)を行った。その結果、出発物質はほとんど存在せず、表題化合物よりも先に約5~10%の反応副産物が生成されることが確認された。
【0050】
前記反応生成物から表題化合物を分離するために、水及び有機溶媒下で処理すると、固体状態の目的物が分離されたが、固体状態で分離するためには処理工程が追加され、収率が60%以下に低下した。
【0051】
一方、反応後の粗生成物中の表題化合物の含有量が90%以上であることを考慮して、オイル状態の粗生成物を分離過程なしに以後の反応に用いたところ、高い収率及び純度の結晶として所望の生成物が得られることが確認されたので、別途の分離精製工程を経ずに粗生成物を以後のステップの反応に用いた。
【0052】
具体的には、5000mL反応器にて、1500gのベンジルフェノールを825mLのDMFに溶解した。この反応溶液に997.5gの(R)-(+)-プロピレンカーボネートと25.7gのTBAF・3HOを投入し、170℃まで昇温し、その後4時間反応させた。反応終了後に、20~30℃まで冷却し、次いで7500mLの酢酸エチルと7500mLの水を投入して有機層を分離した。回収した有機層を硫酸マグネシウムで脱水して濾過し、その後減圧濃縮した。濃縮した(R)-Ben-OHの全量を以後の反応に用いた。
【0053】
製造例2:(S)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-オール((S)-1-(2-benzylphenoxy)propan-2-ol; (S)-Ben-OH)の製造
(R)-(+)-プロピレンカーボネートに代えて(S)-(-)-プロピレンカーボネートを用いることを除いて、製造例1の方法1-2と同様に反応させて(S)-Ben-OHを得た。
【0054】
製造例3:中間体としての1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イルメタンスルホネート(1-(2-benzylphenoxy)propan-2-yl methanesulfonate; Ben-OMs)の製造
方法3-1:(R)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イルメタンスルホネート((R)-1-(2-benzylphenoxy)propan-2-yl methanesulfonate; (R)-Ben-OMs)の製造
【0055】
【化3】
【0056】
ステップ1で得られた(R)-Ben-OHを含む粗生成物を塩基存在下で塩化メタンスルホニル(methanesulfonyl chloride; MsCl)と反応させ、表題化合物を得た。具体的には、反応溶媒として酢酸エチルを用い、塩基としての1.5当量のトリエチルアミン、触媒としての0.1当量のDMAP(dimethylaminopyridine)を添加し、1.1当量のMsClと反応させた。反応終了後に、HPLCによりIPCを行って生成物を確認した。その結果、ステップ1の粗生成物から生じた反応副産物は全て消滅することが確認され、表題化合物である(R)-Ben-OMsが70~80%の収率で合成されることが確認された。
【0057】
本発明の目的はキラル化合物を高純度で生産することであることを考慮して、キラルHPLCカラムを用いて前述したように合成した(R)-Ben-OMsの光学純度を分析した結果、99.9%以上の光学純度で合成されたことが確認され、化学的純度も99.9%以上であった。得られた生成物をキラルHPLCにより確認した。その結果を図1に示す。
【0058】
具体的には、20L反応器に製造例1の方法1-2で準備した(R)-Ben-OHの濃縮残渣を注入し、9.84Lの酢酸エチルを投入して溶解した。1235.8gのTEA及び99.5gのDMAPを投入して10℃以下に冷却した。1026.0gのMsClを徐々に滴下し、その後常温に昇温して1時間攪拌した。反応終了後に、7891mLの水を投入し、418.7gの濃縮塩酸を徐々に滴下した。滴下終了後に、さらに30分間攪拌して有機層を分離し、5%NaHCO溶液で処理し、次いで硫酸マグネシウムで脱水して濾過し、濾液を減圧濃縮した。濃縮した残渣に5918mLのメタノールを投入して溶解した。結晶が生成されたら、濾過及び乾燥して(R)-Ben-OMsを得た(2107g,80.8%)。得られた生成物を1H NMR及びMSにより同定した。その結果をそれぞれ図6及び図11に示す。
【0059】
方法3-2:(S)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イルメタンスルホネート((S)-1-(2-benzylphenoxy)propan-2-yl methanesulfonate; (S)-Ben-OMs)の製造
【0060】
【化4】
【0061】
(R)-Ben-OHに代えて製造例2で準備した(S)-Ben-OHを用いることを除いて、方法3-1と同様に反応させて(S)-Ben-OMsを得た(2090g,80.1%)。
【実施例1】
【0062】
(R)-1-((S)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンの製造
方法1-1:反応物としてのラセミ2-メチルピペリジン(racemic 2-methylpiperidine)の使用
【0063】
【化5】
【0064】
1当量の(R)-Ben-OMsを3当量のラセミ2-メチルピペリジンに溶解し、その後120℃で6時間還流した。反応完結後に、塩化メチレン(MC)と水で処理して有機層を分離した。回収した有機層を減圧濃縮して粗生成物を得た。
【0065】
方法1-2:反応物としての(R)-2-メチルピペリジン((R)-2-methylpiperidine; (R)-2-MP)の使用
【0066】
【化6】
【0067】
反応物としてラセミ2-メチルピペリジンに代えて(R)-2-メチルピペリジン((R)-2-methylpiperidine)を用いることを除いて、実施例1の方法1-1と同様に反応させて粗生成物を得た。
【0068】
実施例1の方法1-1及び1-2で得られた生成物の成分をより具体的に確認するためにキラルHPLC分析を行った。その結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示すように、(S,R)-formの単一異性体のみ生成されるものと予想される実施例1の方法1-2で得られた生成物も、(S,R)-formの比率が最も高いものの、4種の異性体を全て含み、副生成物である(R,R)、(S,S)及び(R,S)化合物の合計は20%を上回った。よって、実施例1の方法1-2の合成方法を用いたとしても、表題化合物を高純度で得るためにはさらなる分離/精製過程が避けられないことが確認された。これは、商業的に確保することも難しく、コストも高い(R)-2-メチルピペリジンを用いるよりも、ラセミ2-メチルピペリジンを用いるほうが表題化合物の大量生産に有利であることを示唆するものである。よって、これら異性体の混合物から特定異性体を90%以上、さらには99%以上の高い純度で得るための分離方法を見出そうと試みた。
【0071】
比較例1:キラル試薬を用いた分離精製
光学活性物質を分離するために広く用いられるキラル試薬である(D)-もしくは(L)-マンデル酸(mandelic acid)、(D)-もしくは(L)-酒石酸(tartaric acid)、又は(R)-もしくは(S)-カンファースルホン酸(camphorsulfonic acid)を用いて、粗生成物から純粋な(S,R)-formを分離するための試験を行った。
【0072】
具体的には、粗生成物をメタノールに溶解し、その後それぞれに(D)-もしくは(L)-マンデル酸、(D)-もしくは(L)-酒石酸、又は(R)-もしくは(S)-カンファースルホン酸を当量ずつ加えて反応させた。反応後に、メタノールを減圧濃縮して結晶が生成されたかを観察した。しかし、4種の異性体を全て含む本発明の試料においては、前述したように濃縮した後も全く結晶が生成されず、濃縮残渣に使用可能な10余種の有機溶媒を単独又は混合溶媒で用いてさらなる結晶化を試みたが、全て失敗した。これは、前記キラル試薬を用いた結晶化による分離は、2種の光学異性体が存在する混合物から1種を分離する場合には有用であるが、本発明において用いた4種の異性体を全て含む粗生成物に適用するのは困難であることを示すものである。よって、本発明者らは、4種の異性体を全て含む粗生成物から再結晶により相対的に少量存在する2種の異性体を先に除去し、相対的に純粋な2種の異性体混合物を得た上で、キラル試薬を用いる再結晶により分離することを考案した。
【実施例2】
【0073】
強酸を用いた(S,R)-formの分離精製
比較例1で提案した相対的に純粋な2種の異性体混合物を再結晶方法で製造するために、実施例1の方法1-1で得られたオイル状態の粗生成物をアセトンに溶解し、その後当量の酸、すなわちHCl、HBr、リン酸(HPO)、硫酸(HSO)を加え、次いで生成された固体を濾過してキラルカラムで分析した。その結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表2に示すように、HCl塩においては目的化合物である(S,R)-formの純度が41.5%から97.6%に増加し、他の酸類に比べて非常に高い選択性を示すのに対して、HBr塩及びリン酸塩においては特定異性体に対する明確な選択性を示さず、硫酸を加えた場合は全く塩が生成されなかった。よって、HCl塩を用いて析出する場合は、キラル試薬を用いるさらなる再結晶は不要であった。一方、アセトン以外の溶媒を用いて同様に再結晶を行ったところ、生成されたHCl塩はアセトンを用いる場合より選択性が著しく低下し、高い純度の(S,R)-formを製造することができなかった。
【0076】
前述した表に示すように、HCl塩において高い純度で目的化合物を得るためにエタノールを用いた再結晶を行い、最終的にリン酸塩の形態に変換すると、99.92%の高い純度で(S,R)-formが得られた。この過程で生じたそれぞれの塩について算出したキラル純度を表3に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
表3に示すように、最終目的物の収率は26.5%であるが、粗生成物における(S,R)-formの比率が41.5%であったことを考慮すると、理論的収率は63.9%となり、優れた収率を示した。
【実施例3】
【0079】
(S,R)-formの副産物である(S,S)-formの分離精製
前述したように、実施例1の方法1-1によりラセミ2-メチルピペリジンを反応物として用いると、目的化合物である(S,R)-form以外に、そのジアステレオマーである(S,S)-formが多量生成された。よって、本発明者らは、前記(S,S)-formを高純度で分離精製しようと試みた。
【0080】
まず、表3に示すように、粗生成物中の(S,S)-formの比率が48.6%であり、粗生成物中の(S,R)-formのHCl塩が理論的に63.9%分離されるとすると、1次(S,R)-form塩酸塩を分離した濾液においては、相対的に(S,S)-formの組成が大きくなるという論理に基づいて濾液を分析した。その結果、(S,S)-formは48.6%から76.3%に増加し、(S,R)-formは41.5%から9.4%に減少した。よって、本発明者らは、強酸を用いて粗生成物から(S,R)-formを分離したのと同様に、その濾液から(S,S)-formを分離しようと試みた。
【0081】
よって、前記(S,R)-formのHCl塩を除去した強酸性の濾液を水と塩化メチレン溶液において水酸化ナトリウムで中和し、その後有機層を分離して濃縮し、(S,S)-formを過剰量含むオイル形態の粗生成物を得た。
【0082】
前述したように得られた粗生成物をアセトンに溶解し、その後実施例2と同様に、当量の酸、例えばHCl、HBr、リン酸(HPO)、硫酸(HSO)を加えた。その結果、HBrを添加した場合にのみ固体状態の塩が生成され、それ以外の酸においては塩が生成されなかった。これは、前記HBrの使用により(S,S)-formに対して顕著な選択性を示すものである。さらに、アセトン以外の溶媒を用いて同様に実験したが、実施例2と同様にアセトンにおいてのみ高い選択性を示し、他の溶媒を用いた場合は高い純度の目的物を製造することができなかった。その後、さらに純度を高めるために、実施例2と同様にさらなる再結晶を行ったところ、最終的に99.96%の高い純度で目的化合物である(S,S)-formリン酸塩が得られた。ここで、各ステップにおいて算出した純度を表4に示す。
【0083】
【表4】
【0084】
表4に示すように、(S,S)-formの分離収率は23.2%であるが、粗生成物における比率が48.6%であったことを考慮すると、理論的収率は47.8%となり、非常に高いレベルである。
【実施例4】
【0085】
強酸を用いた(R,S)-form及び(R,R)-formの分離精製
(R)-Ben-OMsに代えて(S)-Ben-OMsを用いることを除いて、実施例1の方法1-1と同様に反応させて(R,S)-form及び(R,R)-formを主に含む粗生成物を得て、それに対しても実施例2及び3と同様に2次にわたってHClを用いる塩形成及びリン酸塩への置換を行った。実施例2及び3と同様に粗生成物のアセトン溶液をHClで結晶化してリン酸塩に置換した場合、選択的に(R,S)-formリン酸塩が高純度で得られ、前記HCl塩の結晶後の濾液から得られた(R,R)-formを過剰量含有する粗生成物であるアセトン溶液をHBrで結晶化し、リン酸塩に置換すると、選択的に(R,R)-formリン酸塩が高純度で得られた。前述した各ステップにおける純度の変化を算出して表5及び6に示す。
【0086】
【表5】
【0087】
【表6】
【0088】
表5及び表6に示すように、(R,S)-form及び(R,R)-formをそれぞれ99.9%以上の高い純度で精製することができる。ここで、それぞれの最終収率は20.5%(理論的収率50.6%)及び21.2%(理論的収率45.4%)であった。
【実施例5】
【0089】
高純度(R)-1-((S)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンリン酸塩の製造
ステップ1
200mL反応器に乾燥した(R)-Ben-OMs 20.0g(1当量)及び2-メチルピペリジン18.6g(3当量)を投入し、昇温して6時間還流攪拌した。反応終了後に冷却し、MC 100mL及び水100mLを投入して攪拌した。c-HCl 14g(2当量)を徐々に滴下し、その後有機層を分離した。回収した有機層に水66mLを投入してNaOH溶液で中和し、その後有機層を分離した。
【0090】
ステップ2
前述したように分離した有機層を減圧濃縮し、その後残渣にアセトン100mLを加えて溶解し、c-HCl 5.7gを加えて沈殿が生成されたら、さらに30分間加熱還流し、冷却して生成された沈殿物を濾過した。ここで、濾過した沈殿物をcrude CG-609 (S,R)-formのHCl塩に区分した。濾液は、後の(S,S)-formの分離に用いるために、回収して別途に保管した。
【0091】
前記crude CG-609 (S,R)-formのHCl塩をエタノール100mLに入れて30分間加熱還流し、その後冷却して生成された沈殿物を濾過した。ここで、生成された沈殿物は、精製されたCG-609 (S,R)-formのHCl塩に区分した。
【0092】
ステップ3
前記精製されたCG-609 (S,R)-formのHCl塩を再びMC 100mLと水100mLに入れてNaOH溶液で中和し、その後有機層を分離した。回収した有機層を減圧濃縮し、その後エタノール100mLを加えて溶解し、85%リン酸2.16gを加えて沈殿物が生成されたら、濾過して乾燥させ、精製されたCG-609 (S,R)-formのリン酸塩6.7g(26.5%)を得た。生成物をH NMR及びMSにより分析した。その結果を図10及び図15にそれぞれ示す。また、各ステップにおける純度をキラルHPLCにより分析した。その結果は、表3と同一であった。
[α]25 :-24.6(C=1,MeOH)
【実施例6】
【0093】
高純度(S)-1-((S)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンリン酸塩の製造
ステップ2-a
実施例5のステップ2で回収して保管した(S,R)-formを濾過した濾液を減圧濃縮した。その濃縮液にMC 100mL及び水100mLを加え、NaOHで中和し、その後有機層を分離した。回収した有機層を減圧濃縮し、残った残渣にアセトン100mLを加えて溶解し、その後48%HBr溶液8.9gを加えて沈殿物が生成されたら、さらに30分間加熱還流し、次いで沈殿物を濾過した。ここで、生成された沈殿物をcrude (S,S)-formのHBr塩に区分した。前記crude (S,S)-formのHBr塩をエタノール100mLに入れて30分間加熱還流し、その後冷却して生成された沈殿物を濾過した。ここで、生成された沈殿物は、精製された(S,S)-formのHBr塩に区分した。
【0094】
ステップ3
前記精製された(S,S)-formのHBr塩を再びMC 100mL及び水100mLに入れてNaOH溶液で中和し、その後有機層を分離した。回収した有機層を減圧濃縮し、その後エタノール100mLを加えて溶解し、85%リン酸2.16gを加えて沈殿物が生成されたら、濾過して乾燥させ、精製された(S,S)-formのリン酸塩6.1g(23.2%)を得た。生成物をH NMR及びMSにより分析した。その結果を図8及び図13にそれぞれ示す。また、各ステップにおける純度をキラルHPLCにより分析した。その結果は、表4と同一であった。
[α]25 :-18.9(C=1,MeOH)
【実施例7】
【0095】
高純度(S)-1-((R)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンリン酸塩の製造
(R)-Ben-OMsに代えて(S)-Ben-OMsを用いることを除いて、実施例5と同様に合成及び分離精製し、(R,S)-formのリン酸塩5.4g(20.5%)を得た。生成物をH NMR及びMSにより分析した。その結果を図9及び図14にそれぞれ示す。また、各ステップにおける純度をキラルHPLCにより分析した。その結果は、表5と同一であった。
[α]25 :+24.2(C=1,MeOH)
【実施例8】
【0096】
高純度(R)-1-((R)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンリン酸塩の製造
(S,R)-formを濾過した濾液に代えて実施例6で得られた(R,S)-formを濾過した濾液を用いることを除いて、実施例6と同様の方法で分離精製し、(R,R)-formのリン酸塩5.6g(21.2%)を得た。生成物をH NMR及びMSにより分析した。その結果を図7及び図12にそれぞれ示す。また、各ステップにおける純度をキラルHPLCにより分析した。その結果は、表5と同一であった。
[α]25 :+19.0(C=1,MeOH)
【0097】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、前記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15