(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】露出型柱脚の施工方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20240925BHJP
E04B 1/24 20060101ALI20240925BHJP
E02D 27/00 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
E04B1/58 511H
E04B1/24 R
E02D27/00 D
(21)【出願番号】P 2023004854
(22)【出願日】2023-01-17
【審査請求日】2023-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】508279177
【氏名又は名称】株式会社構造工学研究所
(72)【発明者】
【氏名】須藤 庄一
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特許第7375281(JP,B1)
【文献】特開2020-016104(JP,A)
【文献】特開2020-111936(JP,A)
【文献】特開2021-195783(JP,A)
【文献】特開2019-124063(JP,A)
【文献】株式会社構造工学研究所,「アンカーボルトへのせん断力の伝達」を可能にした親子フィラーQ標準施工マニュアル<1> ver2 ボルトを縦方向に使うケース,2020年10月01日,インターネット<URL:https://kozo-kogaku.co.jp/wp-content/themes/meteo/img/download/manual/construction_bolt_v.pdf>,令和6年1月18日検索
【文献】株式会社構造工学研究所,親子フィラーQ 施工の手順(A.Bt 縦使い),2020年02月05日,インターネット<URL:https://kozo-kogaku.co.jp/wp-content/themes/meteo/img/download/doc/procedure.pdf>,令和6年1月18日検索
【文献】株式会社構造工学研究所,親子フィラーQの作業解説書<3>ver2(アンカーボルトを縦使いするケース),2020年10月01日,インターネット<URL:https://kozo-kogaku.co.jp/wp-content/themes/meteo/img/download/doc/procedure_anchor_bolt_v.pdf>,令和6年1月18日検索
【文献】株式会社構造工学研究所,親子フィラーQ [グラウト材が充填される原理 ],2020年01月31日,インターネット<URL:https://kozo-kogaku.co.jp/wp-content/themes/meteo/img/download/doc/principle.pdf>,令和6年1月18日検索
【文献】株式会社構造工学研究所,親子フィラー設計・施工標準図 Qタイプ,2022年10月01日,インターネット<URL:https://kozo-kogaku.co.jp/wp-content/themes/meteo/img/download/standard_drawing/filler_Q_20221001.pdf>,令和6年1月18日検索
【文献】株式会社構造工学研究所,親子フィラーカタログ,2019年11月01日,インターネット<URL:https://kozo-kogaku.co.jp/wp-content/themes/meteo/img/download/catalog/catalog.pdf>,令和6年1月18日検索
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/24
E04B 1/58
E02D 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎コンクリート上面に突出する複数のアンカーボルトを、鉄骨柱の下端部に固着されたベースプレートの複数の拡大孔にそれぞれ挿通し、該拡大孔と外部とを連通する空気流路を備えた座金を介して前記ベースプレートの上面側にてナットで締め付けるとともに、前記ベースプレートの辺部側面に対して所定の間隔を保持して平行状態に型枠を設置し、該型枠への上方からのグラウト材の注入により前記ベースプレートの下面と拡大孔にグラウト材を充填して前記鉄骨柱を前記基礎コンクリート上に固定する露出型柱脚の施工方法であって、前記グラウト材を前記ベースプレートの上面付近の高さまで注入した状態で、前記アンカーボルトに近い区域のグラウト材表面に
、前記型枠の内面と前記ベースプレートの辺部側面との間に挿入可能な平面視矩形状に形成され、それら型枠内面とベースプレート辺部側面の間隔に対して対応する1組の対辺の長さが短く、その差が2mm以内に設定されるとともに、連結部材で長さ方向に連結一体化した板状押圧具を当てて下方に押し込むことにより、前記拡大孔のアンカーボルト周囲に残存する空気をベースプレートの下面側から流入するグラウト材で前記座金の空気流路から外部に排出して拡大孔の内部にグラウト材を導入することを特徴とする露出型柱脚の施工方法。
【請求項2】
基礎コンクリート上面に突出する複数のアンカーボルトを、鉄骨柱の下端部に固着されたベースプレートの複数の拡大孔にそれぞれ挿通し、該拡大孔と外部とを連通する空気流路を備えた座金を介して前記ベースプレートの上面側にてナットで締め付けるとともに、前記ベースプレートの辺部側面に対して所定の間隔を保持して平行状態に型枠を設置し、該型枠への上方からのグラウト材の注入により前記ベースプレートの下面と拡大孔にグラウト材を充填して前記鉄骨柱を前記基礎コンクリート上に固定する露出型柱脚の施工方法であって、前記グラウト材を前記ベースプレートの上面付近の高さまで注入した状態で、前記ベースプレートの隅部に配置された前記アンカーボルトに対して、前記型枠の内面と前記ベースプレートの辺部側面との間に挿入可能な平面視矩形状に形成され、それら型枠内面とベースプレート辺部側面の間隔に対して対応する1組の対辺の長さが短く、その差が2mm以内に設定されてい
る板状押圧具の2個を1組としてL字状に配置し、一方の板状押圧具を前記グラウト材に当てた状態で他方の板状押圧具を押し込むことを特徴とする露出型柱脚の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨造などで使用される露出型柱脚の施工において、アンカーボルト挿通用の拡大孔を有するベースプレートの下面と基礎コンクリートの上面との間に形成される空間と、ベースプレートの拡大孔内部へのグラウト材の充填技術に係り、特に、アンカーボルトが貫通している拡大孔に対するグラウト材の充填性を高めた施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
露出型柱脚において、アンカーボルトが上端部を残して基礎コンクリートの所定位置に埋設され、鉄骨柱の下端に固着されたベースプレートは、複数本のアンカーボルトによって基礎コンクリートに定着される。具体的には、ベースプレートの周辺部分に複数のアンカーボルト挿通孔が形成され、これら挿通孔にアンカーボルトを挿通し、座金を介して螺合するナットの締付けによりベースプレートを固定している。なお、ベースプレートは基礎コンクリートの上面に設けたレベルモルタルの上に載置され、基礎コンクリートの上面とベースプレート下面との間に形成された空間に無収縮モルタル等のグラウト材を注入充填することにより、基礎コンクリートに対して密着される。この場合には、グラウト材がベースプレートの下面全体に隙間なく充填されればよい。
【0003】
アンカーボルトは、柱脚の応力伝達の媒体として引張力、せん断力を負担すると同時に、鉄骨建て方時の位置決めに必要であることから、その設置に際しては高い精度が求められる。すなわち、水平方向の位置と垂直度がアンカーボルトにとって重要である。露出型柱脚において、ベースプレートに設けるアンカーボルトの挿通孔は、アンカーボルト径+5mm以内としなければならないことが建築基準法(施行令第66条の実施規定「H12建告第1456号」)で規定されている。ただし、この規定は構造計算で安全が確認された場合には適用されない。そこで、アンカーボルトの施工誤差(位置ずれ)への対策として、アンカーボルト挿通孔の大きさを規定値よりも大きくした拡大孔に形成し、拡大孔を貫通するアンカーボルトの外周面と拡大孔の内周面との間隙にグラウト材を充填させる工法がある。この工法では、グラウト材がベースプレートの下面側から拡大孔の内部に入り込み、内部を隙間なく埋めることがきわめて重要である。
【0004】
グラウト材の充填に際し求められる条件は、グラウト材の流動性と注入圧力である。流動性に関しては、適切なグラウト材を選定し、必要な強度が得られる範囲で配合を行うことになる。注入圧力は、注入するグラウト材の圧力と充填先の空間との圧力差による。一般的な充填方法としては、
図17に示すように、ベースプレート2の周囲に間隔を空けて型枠12を設置し、グラウト容器16からグラウト材Gをベースプレート2の上端レベルまで注入する。この場合、充填先との高低差h1が注入圧力となる。
【0005】
さらに大きな注入圧力を得る方法として、
図18に示すように、型枠12をベースプレート2の側面に密着させてベースプレート2の下面側に閉鎖空間Sをつくり、十分な量のグラウト材Gが収容されている先細状のグラウトロート17の先端部分を、ベースプレート2に設けた複数の注入孔2aのいずれかに立設状態で嵌入し、グラウト材Gの高さを利用してグラウト材Gを閉鎖空間Sに流し込む充填方法がある(特許文献1、2参照)。この充填方法は、グラウトロート17に収容するグラウト材Gの高さh2を高くすることで十分な注入圧力が得られるという利点がある。また、同じようなグラウトロートを利用する他の充填方法としては、ベースプレートに注入孔を設けることに代えて、アンカーボルト挿通孔の近くにグラウト材の注入孔が設けられた特殊形状の座金を使用する方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-319990号公報(
図1~3参照)
【文献】特開2000-319989号公報(
図1~3参照)
【文献】特許第6745014号公報(
図7~9参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、グラウトロートを使用する上記充填方法では、型枠で密閉状態に囲まれたベースプレートの下方空間の圧力が高くなることから、型枠の素材や組立て方によっては型枠が崩壊(パンク)してしまう可能性がある。さらに、ベースプレートに形成した注入孔が充填途中でグラウト材によって塞がれ、型枠内部に空気が閉じこもるような状況になると、グラウト材の流動が阻害されて隅々にまで行き渡らない虞がある。特に、アンカーボルトが貫通して狭い空間になっているベースプレートのアンカーボルト挿通孔(拡大孔)に対して、グラウト材が十分に充填されないという問題がある。また、十分な注入圧力を確保するため、対象空間の容積を大きく超えた容量のグラウト材が必要であることから、充填後にロート内に残るグラウト材が無駄になるという問題もある。
【0008】
上記施工方法の技術的状況に鑑み、本出願人は、ベースプレートの拡大孔と外部を連通する空気流路を備えた座金を使用し、その空気流路を利用して外部から拡大孔の内部を真空ポンプで減圧することにより、拡大孔の内部にグラウト材を導入する方法を既に提案している(特許文献3)。本出願人は、施工方法の更なる合理化を図るため、その後も鋭意検討を重ねた結果、本発明に想到したのである。
【0009】
すなわち、本発明は、アンカーボルトが貫通しているベースプレートの拡大孔に対するグラウト材の充填性を簡便な手段で高めることができるとともに、グラウト材の充填時に型枠の崩壊が生じ難く、グラウト材の無駄を減らせる露出型柱脚の施工方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための技術手段として、本願の請求項1に係る発明は、基礎コンクリート上面に突出する複数のアンカーボルトを、鉄骨柱の下端部に固着されたベースプレートの複数の拡大孔にそれぞれ挿通し、拡大孔と外部とを連通する空気流路を備えた座金を介してベースプレートの上面側にてナットで締め付けるとともに、ベースプレートの辺部側面に対して所定の間隔を保持して平行状態に型枠を設置し、型枠への上方からのグラウト材の注入によりベースプレートの下面と拡大孔にグラウト材を充填して鉄骨柱を基礎コンクリート上に固定する露出型柱脚の施工方法において、グラウト材をベースプレートの上面付近の高さまで注入した状態で、アンカーボルトに近い区域のグラウト材表面に、型枠の内面とベースプレートの辺部側面との間に挿入可能な平面視矩形状に形成され、それら型枠内面とベースプレート辺部側面の間隔に対して対応する1組の対辺の長さが短く、その差が2mm以内に設定されるとともに、連結部材で長さ方向に連結一体化した板状押圧具を当てて下方に押し込むことにより、拡大孔のアンカーボルト周囲に残存する空気をベースプレートの下面側から流入するグラウト材で座金の空気流路から外部に排出して拡大孔の内部にグラウト材を導入する、という構成を採用した点に特徴がある。
【0011】
上記構成によれば、対象となるアンカーボルトに近い区域のグラウト材表面に、板状押圧具を当てて下方に押し込むと、板状押圧具直下のグラウト材が下方に向けて押され、その押圧力が下方向からベースプレートの下面方向へと伝達し、ベースプレートの下面(裏面)側にあるグラウト材が押されて拡大孔の内部に入り込もうとする。この際、拡大孔の内面とアンカーボルトの周面との隙間(空間)には空気が残存しているが、当該空間はベースプレートの上面側に設置された座金の空気流路を介して外部とつながっている。これにより、グラウト材の上昇圧力によって上方へと押される残存空気は、アンカーボルトの周囲を上昇して座金との隙間も通過し、座金に形成された空気流路から円滑に外部に排出されるので、グラウト材の充填が阻害されることなく、拡大孔内の隙間を上昇してアンカーボルトの周囲を密実状態に充填することができる。
【0012】
すなわち、板状押圧具の押込み操作だけで拡大孔内の隙間にグラウト材を確実に充填することができるので、従来の各種注入方法に比べて簡便であるという利点が得られる。さらに、従来技術のように高低差を設けてグラウト材を加圧状態で注入する必要がないので、型枠の圧力負担が低減し、その崩壊(パンク)が生じ難くなる。また、注入圧力を確保するための余分なグラウト材が不要になるから経済的でもある。
【0013】
上記請求項1の構成において、板状押圧具が型枠の内面とベースプレートの辺部側面との間に挿入可能な平面視矩形状に形成され、それら型枠内面とベースプレート辺部側面の間隔(以下、注入幅と称することもある。)に対して、これに対応する1組の対辺の長さ(以下、板状部幅と称することもある。)が短く、その差が2mm以内に設定されていることが重要である。
【0014】
即ち、グラウト材が所定の高さまで注入されている型枠とベースプレートとの間に、例えば左官職人が使う角鏝のような平面視矩形状の板状押圧具を挿入した時、型枠内面もしくはベースプレート辺部側面との隙間(どちらか一方の面に接している場合)、あるいはそれらの両方の面に対する隙間(どちらの面にも接していない場合)の合計がごく僅かであることから、それらの面との隙間からグラウト材が漏出することがほとんどないので、板状部幅に直交する方向の長さを十分に確保することにより、板状押圧具の直下では、下方に向けての押込み圧力が逃げにくい。このため、板状押圧具の下方にあるグラウト材に対して押圧力が効果的に伝達されるので、前述した空気抜き作用と相俟ってアンカーボルトと拡大孔との隙間に確実にグラウト材を充填することができる。
【0015】
本発明において、板状押圧具の押込み操作により下方のグラウト材に押圧力を作用させる上で重要な点は、板状押圧具の下方にあるグラウト材の逃げ道(移動方向)がベースプレートの下面方向に向かうことである。板状押圧具の四方の側面から各方向に自由に移動したのでは押圧効果が乏しくなる。そのために、型枠内面とベースプレート辺部側面の間隔(注入幅)と、この間隔に対応する板状押圧具の幅(板状部幅)との関係は特に重要で、板状押圧具における板状部幅に関しては注入幅に対してクリアランスをほぼ無くし、隙間から漏れないようすることが肝要である。
【0016】
さらに、板状押圧具における板状部幅に直交する他方の対辺の長さに関しては、アンカーボルトの中心からベースプレート辺部側面までの距離の2~3倍の長さとすることにより、押圧された板状押圧具下部のグラウト材の大半が、ベースプレート下部へ向かうようになる。すなわち、グラウト材の自由面(隙間)が大きいと、押圧によるグラウト材の移動方向が分散され、効果的な残存空気の排出が必ずしも行われない恐れがあり、これを確実に行うためには、上記のような条件が好ましい。この寸法条件は、ベースプレートの隅部よりも辺部の中間に配置されたアンカーボルトに対して重要であり、アンカーボルトに対して板状部幅に直交する他方の対辺の中央位置で板状押圧具による押込み操作を行うことが望ましい。なお、板状押圧具は、施工の種々の場面を想定した結果、長さ方向に一定の制限を設けて製作するほうが経済的である。現場において、より長い板状押圧具が必要となった場合には、個々にそれを作成する手間を省くため、複数の板状押圧具を連結部材で長さ方向につなぐことで、簡単に長大な板状押圧具を現場にて調達することができる。
【0017】
また、ベースプレートの隅部に配置されたアンカーボルトに対しては、板状押圧具の2個を1組としてL字状に配置し、一方の板状押圧具をグラウト材に当てた状態で他方の板状押圧具を下方に押し込むと好都合である(請求項2)。この構成では、ベースプレートの隅部付近では、一方の辺部側のグラウト材が板状押圧具によって上方から抑えられているので、他方の辺部側のグラウト材に対してもう一つの板状押圧具を押し込むと、その押圧力が他方の辺部側に分散することを抑制するので、一方の辺部側のグラウト材に対して効果的に伝達され、ベースプレートの隅部に配置されているアンカーボルトと拡大孔との隙間を確実にグラウト材で埋めることができる。
【0018】
さらに、本発明においては、上記露出型柱脚の施工方法で型枠を設置する際に、ベースプレートの辺部側面に対して所定の間隔を保持するための型枠設置ガイドの使用が好適である。その構成は、ベースプレートの上面に載置される載置部と、該ベースプレートの辺部側面に一端側の段差面で当接し、この段差面から所定の間隔だけ離れる他端側の端面が型枠の内面に当接する間隔規制部とからなり、載置部が下面側に板状磁石を備える点に特徴がある。
【0019】
この型枠設置ガイドを使用する場合には、間隔規制部の段差面がベースプレートの辺部側面に当接した位置でベースプレートの上面に載せると、載置部の下面側に設けられている板状磁石により固定される。そして、間隔規制部の段差面とは反対側の端面に内面が当接するように型枠を立設すればよい。すなわち、型枠設置ガイドの間隔規制部の長さによりベースプレートの辺部側面と型枠内面の間隔(注入幅)が決まることになる。これにより、型枠の位置決めが容易になり、設置の手間はかなり軽減されるので、施工性の向上に大きな効果が見込める。ベースプレート等の表面状況により、磁石による固定効果が十分には得られない場合は、ガイドを抑える重石を載せる等の処置で補完することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る露出型柱脚の施工方法では、上記構成を採用したことにより、以下のような効果を得ることができる。
(1)板状押圧具の押込み操作により直下のグラウト材に対して押圧力が効果的に伝達され、押されたグラウト材がベースプレート下面にあるグラウト材を拡大孔に押し上げ、拡大孔の内部に残存する空気を座金に設けた空気流路によって容易に外部に押し出すものであるから、従来の各種注入方法に比べて簡便な手段でアンカーボルトと拡大孔との隙間に確実にグラウト材を充填することができる。
(2)グラウト材の注入作業において、板状押圧具の押込み操作を行うだけであるから、グラウト材には大きな圧力が付加されない。このため、高低差を利用してグラウト材を加圧状態で注入する従来方法に比べて型枠が受ける圧力が大幅に低下し、型枠の崩壊(パンク)を防止することができる。
(3)注入圧力を確保するための余分なグラウト材が不要になるので、施工方法として経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る露出型柱脚の施工方法において、座金を介在させたアンカーボルトの締付け状態を示す斜視図である。
【
図2】(a)および(b)は、
図1の施工方法で使用する座金(入れ子座金)の一方の構成部材である上座金の平面図と断面図の一例である。
【
図3】(a)~(c)は、
図1の施工方法で使用する座金(入れ子座金)の他方の構成部材である下座金の平面図、斜視図およびA-A断面図である。
【
図4】本発明の第1実施形態でレベルモルタルの設置状態を示す断面図である。
【
図5】
図4の次工程として、鉄骨建て方作業でのアンカーボルトの締付け状態を示す断面図である。
【
図6】(a)~(d)は、本発明の第1実施形態で使用する型枠設置ガイドの平面図、底面図、右側面図および正面図である。
【
図7】
図6の型枠設置ガイドの使用状態を示す平面図である。
【
図8】
図6の型枠設置ガイドの使用状態を示す断面図である。
【
図9】(a)、(b)は、本発明の第1実施形態で使用する板状押圧具の平面図および正面図である。
【
図10】
図9の板状押圧具の使用状態を示す断面図である。
【
図12】
図9の板状押圧具の別の使用状態を示す平面図である。
【
図13】(a)、(b)は、
図9の板状押圧具を連結使用するための連結部材と、その使用状態を示す説明図である。
【
図14】(a)、(b)は、連結部材で一体化した3個の板状押圧具の使用状態を示す平面図と、3個の板状押圧具の連結状態を示す正面図である。
【
図15】本発明の第1実施形態で施工が完了した状態を示す断面図である。
【
図17】グラウト材注入方法の従来例を示す断面図である。
【
図18】グラウト材注入方法の他の従来例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る露出型柱脚の施工方法の第1実施形態であって、一部のアンカーボルトの締結部を分解して外観全体を示した斜視図である。なお、本発明の特徴部分であるグラウト材の充填方法に関しては、露出型柱脚の全体構造の説明をした後、
図11を中心にして詳しく説明する。図示の露出型柱脚の定着構造は、鉄骨柱1の下端部に固着されたベースプレート2が、基礎コンクリート(図示せず)上面に突出するアンカーボルト3で固定されたものである。ベースプレート2には、適用するアンカーボルト3の呼び径(M12~M80)に応じて、その径よりも22~50mm程度拡げた拡大孔4が四隅と各辺部の中間の位置に形成されている。そして、それぞれのアンカーボルト3は、次に詳述する入れ子座金5と平座金6の組合せからなる座金7を挿通した状態で2個のナット8,8で締結されている。
【0023】
図2,3は、入れ子座金5を2個1組で構成する上座金20と下座金30をそれぞれ示したものである。
図2に示した上座金20は、円板状の座部21の上面に空気流路としての1個以上(本例では3個)の溝部22が、内周縁と外周縁に跨るようにして形成され、その下面に脚部23を同心状に形成した形態をなしている。さらに、アンカーボルト3の軸径に合わせた内径のアンカーボルト受入れ孔24が、円板状の座部21に対して偏心した位置で座部21と脚部23を貫通している。
図3に示す下座金30は、上座金20の座部21の外径よりも大きい円板状の座部31の下面側にベースプレート2の拡大孔4の内径に合わせた外径の脚部32が座部31と同心状に形成されると共に、上座金20の脚部23の外径に合わせた内径の脚部受入れ孔33が、座部31に対して偏心した位置で座部31と脚部32を貫通している。これらの上座金20と下座金30は、下座金30の脚部受入れ孔33に上座金20の脚部23を挿入し、互いの座部21,31を上下に重ね合わせた状態で入れ子座金5として使用される。
【0024】
上記入れ子座金5は、アンカーボルト3が拡大孔4の中心から外れている場合に、その位置ずれを調整する手段として有効な部材である。具体的な装着方法としては、まず下座金30を回転することによってベースプレート2の拡大孔4内にその脚部32を嵌入する。次に、アンカーボルト3の上端を上座金20のアンカーボルト受入れ孔24に挿通した状態で上座金20を回転(必要により下座金30を回転)する。これにより、上座金20が下座金30の脚部受入れ孔33内に嵌入すると同時に、アンカーボルト3の上端が上座金20のアンカーボルト受入れ孔24に対して適正に挿通された状態になる。そして、このような状態で
図1に示すように、アンカーボルト3にダブルナット(シングルナットでもよい。)8,8を螺合して締め付けると、アンカーボルト3は入れ子座金5(上座金20と下座金30)によって拡大孔4内で大きな隙間が生じることなく、その位置ずれも併せて吸収され、ベースプレート2を強固に固定する。
【0025】
次に、第1実施形態に係る露出型柱脚の施工方法について、
図4~11を参照しながら説明する。
図4に示すように、アンカーフレームなどの公知の手段により、複数本のアンカーボルト3を基礎コンクリート9の所定位置に突出状態で設置し、基礎コンクリート9が硬化した後、テンプレート10を取り外し、レベルモルタル11を適宜の場所に敷設する。
【0026】
これに続く鉄骨建て方作業として、
図5に示すように、鉄骨柱1の下端部に固着されているベースプレート2のアンカーボルト挿通用の拡大孔4にアンカーボルト3を挿入しながら、レベルモルタル11上にベースプレート2を載置し、水平方向の位置調整を行う。さらに、上記入れ子座金5を構成する上座金20と下座金30をアンカーボルト3に嵌め入れ、アンカーボルト3の位置ずれ状況に応じて適宜方向に回転し、ベースプレート2の拡大孔4に対して下座金30の脚部32を嵌合する。さらに、上座金20の上面に平座金6を重ねた後、2個のナット8,8で締め付ける。
【0027】
図6(a)~(d)は、本発明の第1実施形態で使用する型枠設置ガイドのそれぞれ平面図、底面図、右側面図および正面図である。図示の型枠設置ガイド40は、ベースプレート2の辺部側面との間隔を精度よく、かつ効率的に型枠を設置するためのものである。例えば、木製板材41の一方の面に、木製板材41と同じ幅でそれよりも長さの短い木製板材42が、片方の端面を一致させた状態でビス43と接着剤で接合したものである。木製板材42の段差面42aを境にして木製板材42が延在しない木製板材41の一端側の区域は、ベースプレート2の上面に載置される載置部40Aとなり、木製板材41の一方の面の載置部40Aとなる区域には板状磁石44が接合されている。また、木製板材41の他方の面に接合された木製板材42は、使用時にベースプレートの辺部側面に一端側の段差面42aで当接し、この段差面42aから所定の間隔だけ離れる他端側の端面42bが型枠の内面に当接する間隔規制部40Bとなっている。さらに、木製板材41の他方の面には、設置する際に型枠側と鉄骨柱側とを識別するためのラベル45が貼られている。
【0028】
図7、8は、
図5の鉄骨建て方作業の次工程として、
図6に示す型枠設置ガイド40を用いてベースプレート2の周囲に型枠12を設置した状態を示す平面図と断面図である。ベースプレート2の辺部に対して、型枠設置ガイド40の載置部40Aを段差面42aが側面に当接するように載せると、下面側の板状磁石44の磁力によってその位置で固定される。型枠設置ガイド40は、ベースプレート2の各辺部に対して、適切な間隔を空けて2個を1組として設置する。次に、ベースプレート2の各辺部に2個ずつ設置されている型枠設置ガイド40の他端側の端面42bに対して、4枚の型枠12を当接した状態で矩形枠状に一体化する。この場合、間隔規制部40Bは、ベースプレート2の辺部側面に当接する段差面42aから型枠12の内面に当接する他端側の端面42bまでの距離であり、前述した注入幅に相当する。例えば間隔規制部40Bの長さ(注入幅)を50mmに設定したとき、ベースプレート2の辺部側面に対する型枠12の位置を50mmにすることが簡単かつ容易であり、高い精度をもって型枠12の位置決めを行うことができ、型枠設置作業の効率化に大きく寄与する。
【0029】
図9(a)、(b)は、本発明の第1実施形態で使用する板状押圧具の平面図と正面図である。図示の板状押圧具50は、例えば左官職人が使用する長方形の角鏝のような形状であって、平面視長方形状の木製板材からなる本体部51の一方の面に対して、それよりも小さい木製板材52を把手として起立状態で接合一体化したものである。この場合、本体部51の幅(前述した板状部幅)は、上記型枠設置ガイド40の間隔規制部40Bの長さが50mmであるので、それよりも2mm狭い48mmとなっている。板状押圧具50の本体部51の幅は、ベースプレート2の辺部側面と型枠12の内面との距離(注入幅)、すなわち間隔規制部40Bの長さに応じて適宜増減することが可能である。後述する板状押圧具50による押圧力の有効活用の点から、注入幅と板状部幅の差は好ましくは2mm以内であり、2mmを超えると隙間からのグラウト材Gの漏出が始まり、その分だけ押圧力が弱まり、グラウト材Gの充填状態に悪影響を及ぼす。なお、上記の制限を除き、これら治具の材質や細部の形状、寸法などについてはこれに限定されない。
【0030】
図10、11は、
図9の板状押圧具50の使用状態を示す断面図と、その要部を拡大した断面図である。矩形枠状に立設した型枠12の内部に無収縮モルタル等のグラウト材Gをベースプレート2の上面付近まで流し入れる。なお、グラウト材Gの注入は、ベースプレート2の4側面すべての方向から行い、注入中に型枠12を木槌で叩き、グラウト材Gの流動を促すと良い。注入後、間を置かずに、対象となるアンカーボルト3に近い区域のグラウト材Gの表面に板状押圧具50の本体部51を当てて下方に押し押し込む。これにより流動性のあるグラウト材Gは、板状押圧具50の直下に向けて押され、その押圧力でベースプレート2の下面側にあるグラウト材Gが拡大孔4の内部に入り込もうとする。この際、拡大孔4の内面とアンカーボルト3の周面との隙間(空間)Sには空気が残存しているが、当該空間Sは、ベースプレート2の上面側に設置される座金5(上座金20)の空気流路22を介して外部とつながっている。これにより、グラウト材Gの圧力によって上方へと押される残存空気は、入れ子座金5の内周面とアンカーボルト3の外周面との隙間を上方に向けて移動し、さらに上座金20の上面に形成された3個の溝部22(空気流路)を通過して外部に排出されるので、グラウト材Gの充填が阻害されることがなく、拡大孔4の内部でアンカーボルト3の周囲を密実状態に充填することができる。なお、板状押圧具50による押込み(押圧)操作は、複数回(垂直方向に2~3回程度)繰り返すことが有効である。また、各アンカーボルト3に対しても同じように操作を行う。
【0031】
本発明の押圧による充填方法では、グラウト材の流動性と粘性が重要であり、ある程度流れやすく、かつ、形が崩れにくいという性質を持つグラウト材が不可欠である。市販のグラウト材はこれに適応するので、材料の選択には問題はない。
【0032】
図12は、
図9の板状押圧具の別の使用状態も含めて2種類の押圧方法を示した平面図である。図面の左下の隅部に位置するアンカーボルト3に対して、2個の板状押圧具50A、50Bを使用する方法である。この場合、一方の板状押圧具50Aはグラウト材Gの表面に当てただけの状態に保持する一方、他方の板状押圧具50Bのみを下方に向けて押し込むものである。すなわち、ベースプレート2の隅部付近では、一方の辺部側にあるグラウト材Gが板状押圧具50Aによって上方から抑えられているので、他方の辺部側にあるグラウト材Gに対してもう一つの板状押圧具50Bを押し込むと、その押圧力が板状押圧具50Bの下方に向けて効果的に伝達され、その押圧力によりグラウト材Gがベースプレート2の隅部にある拡大孔に向かって移動し、さらに拡大孔の内部に進入して隙間を確実に埋めることができる。
【0033】
なお、図面の右側に記載した1個の板状押圧具50は、ベースプレート2の辺部中間に位置するアンカーボルト3を対象とした場合を示している。このように板状押圧具50の本体部51の長手方向両側が開放されている場合には、本体部51の長手方向の長さL1について、アンカーボルト3の中心からベースプレート2の側面までの距離L2の2~3倍の長さとする。これにより、押圧力の長手方向への分散を減少させ、押圧された本体部51の下部のグラウト材Gの大半がベースプレート2の下部へ向かうようにすることができる。ベースプレート2の辺部中間に位置するアンカーボルト3を対象とするときには、アンカーボルト3の軸芯に対して、板状押圧具50の長手方向の中央が一致する位置で押込み操作を行う。
【0034】
図13(a)、(b)は、
図9の板状押圧具を連結使用するための連結部材と、その使用状態を示す説明図である。図示の連結部材60は、2個の板状押圧具50,50を本体部51の長手方向に沿って連結するものであって、幅が同じで長さが異なる2枚の木製板材61,62を互いの中心を一致させて重ね合わせた構造である。この場合、2個の板状押圧具50,50は、それぞれ木製板材51の片方の端部を連結部材60の短いほうの木製板材62に両側から突き当てた位置でビス63により接合する。
【0035】
図14(a)、(b)は、
図13に示す連結した板状押圧具の応用例であって、連結部材で一体化した3個の板状押圧具の使用状態を示す平面図と、3個の板状押圧具50の連結状態を示す正面図である。この実施形態は、
図13の実施形態にさらに1個の板状押圧具50を追加したもので、本体部51の端面同士を突き合せた状態で1枚の木製板材70を重ね合わせ、同様にビスで固定した構造である。このように長手方向に延長された板状押圧具は、
図13(a)、(b)に示す2個を連結した板状押圧具も含め、ベースプレート2の寸法によっては辺部の全長に近い範囲を覆うことができるので、押込み操作による圧力をより効果的に発揮させることが期待できる。これにより、現場単位で押圧部の長さに合わせて板状押圧具を作成する手間をかけることなく、簡単に長大板状押圧具を作ることができる。
【0036】
図15、16は、本発明の第1実施形態に係る露出型柱脚の施工方法について、注入したグラウト材Gが硬化し、型枠12を外した施工完了状態を示す断面図とB-B断面図である。図に示すようにグラウト材Gは、ベースプレート2の拡大孔4内で入れ子座金5の脚部32の下面にまで到達している。これにより、ベースプレート2の拡大孔4において、アンカーボルト3の周囲の隙間がグラウト材Gで確実に充填されることになる。
【0037】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、入れ子座金に空気流路を設ける場合には、少なくとも上下の座金のどちらか一方に形成すればよいが、両方に設けることももちろんのこと、空気流路の形状や数、その設置場所の変更が可能であり、また、本発明に係る露出型柱脚の施工方法において、空気流路が形成された入れ子座金を使用する場合には、上座金とナットとの間に平座金を設けることは技術的には必須要件ではない。さらに、座金は入れ子座金以外でも空気流路を備えるものであれば適用可能であり、本発明の技術思想内でさまざまな変更実施が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る露出型柱脚の施工方法は、鉄骨造などの建造物に使用された場合にその優位性が発揮され、構造躯体の耐震性能、施工性、経済性を向上させる手段としてさらなる展開が期待される。
【符号の説明】
【0039】
1…鉄骨柱、2…ベースプレート、2a…注入孔、3…アンカーボルト、4…拡大孔、5…入れ子座金、6…平座金、7…座金、8…ナット、9…基礎コンクリート、10…テンプレート、11…レベルモルタル、12…型枠、16…グラウト容器、17…グラウトロート、20…上座金、21…座部、22…溝部(空気流路)、23,32…脚部、24…アンカーボルト受入れ孔、30…下座金、33…脚部受入れ孔、40…型枠設置ガイド、40A…載置部、40B…間隔規制部、44…板状磁石、50…板状押圧具、60,70…連結部材、G…グラウト材