IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ グローフーズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-冷凍食品及びその製造方法 図1
  • 特許-冷凍食品及びその製造方法 図2
  • 特許-冷凍食品及びその製造方法 図3
  • 特許-冷凍食品及びその製造方法 図4
  • 特許-冷凍食品及びその製造方法 図5
  • 特許-冷凍食品及びその製造方法 図6
  • 特許-冷凍食品及びその製造方法 図7
  • 特許-冷凍食品及びその製造方法 図8
  • 特許-冷凍食品及びその製造方法 図9
  • 特許-冷凍食品及びその製造方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】冷凍食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20240925BHJP
   A23L 3/36 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
A23L7/10 E
A23L3/36 A
A23L7/10 F
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023146348
(22)【出願日】2023-09-08
【審査請求日】2023-10-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523344588
【氏名又は名称】グローフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136847
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼山 嘉成
(72)【発明者】
【氏名】井ノ元 豊
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-110537(JP,A)
【文献】特開昭56-151470(JP,A)
【文献】特開2000-083606(JP,A)
【文献】特開平05-126447(JP,A)
【文献】特開2003-250473(JP,A)
【文献】月刊フードケミカル,Vol. 30, No. 7,2014年,後1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23B
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不凍タンパク質を添加した水を用いて米を炊飯する炊飯工程と、
炊飯後のご飯を容器に入れる工程と、
前記容器に入れられた状態の前記ご飯に振動を加えながら冷凍する冷凍工程とを備え、
前記冷凍工程において前記容器に入れられた前記ご飯に加える振動の周波数は、25.0Hz~35.0Hzの範囲であることを特徴とする、冷凍食品の製造方法。
【請求項2】
前記炊飯工程において、水に対して添加する前記不凍タンパク質の重量は、0.1~0.2(重量%)であることを特徴とする、請求項1に記載の冷凍食品の製造方法。
【請求項3】
前記不凍タンパク質を添加した水を米に浸水させる浸水工程をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の冷凍食品に製造方法。
【請求項4】
前記浸水工程において、水に対して添加する前記不凍タンパク質の重量は、0.1~0.2(重量%)であることを特徴とする、請求項3に記載の冷凍食品の製造方法。
【請求項5】
不凍タンパク質を添加した水を用いて米を炊飯する炊飯工程と、
前記炊飯工程で得られたご飯に対して合わせ酢を混ぜる寿司飯工程と、
前記寿司飯工程で得られたご飯に圧力を加えて舎利玉に成型する成型工程と、
前記成型工程で得られた前記舎利玉に寿司ネタを載せる寿司ネタ工程と、
前記寿司ネタ工程で得られた寿司に振動を加えながら冷凍する冷凍工程と、
を備え、
前記冷凍工程では、前記寿司ネタ工程で得られた前記寿司に振動を加えながら冷凍し、
前記冷凍工程において冷凍食品に加える振動の周波数は、25.0Hz~35.0Hzの範囲であることを特徴とする、冷凍食品の製造方法。
【請求項6】
前記周波数は、30.0Hz~35.0Hzの範囲であることを特徴とする、請求項1又は5に記載の冷凍食品の製造方法。
【請求項7】
前記冷凍工程で得られた冷凍された前記寿司を包装する包装工程をさらに備えることを特徴とする、請求項5に記載の冷凍食品の製造方法。
【請求項8】
前記包装工程では、ガス置換によって包装することを特徴とする、請求項7に記載の冷凍食品の製造方法。
【請求項9】
前記炊飯工程において、具及び/又は調味液をさらに加えて、炊飯することを特徴とする、請求項1に記載の冷凍食品の製造方法。
【請求項10】
前記不凍タンパク質は、カイワレ大根を原料とすることを特徴とする、請求項1又は5に記載の冷凍食品の製造方法。
【請求項11】
使用する米は、低アミロース米であることを特徴とする、請求項1又は5に記載の冷凍食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍食品の製造方法に関し、より特定的には、米を含む冷凍食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1及び2に記載のように、炊飯時に、不凍タンパク質を混合して炊飯し、冷凍して、米を含む冷凍食品を製造する方法が提案されている。
【0003】
特許文献1(段落0032、0037等参照)では、実施例において、カイワレ大根を原材料とする不凍タンパク質を混合して炊飯し、所定大きさの容器に小分けして-20度で冷凍している。なお、特許文献1では、容器ごとに小分けする記載はあるが、どのように成形するかは記載されていない。また、トンネルフリーザーの使用や真空パックに関する記載はない。また、白蝋化の記載はない。
【0004】
特許文献2(段落0043、表4等参照)では、甲殻類由来の不凍性タンパク質を配合して炊飯し、炊飯後、20グラムの寿司の押し型で成型し、-20℃で3日間凍結している。なお、特許文献2には、白蝋化の記載や、トンネルフリーザーの使用、真空パックに関する記載はない。
【0005】
また、不凍タンパク質以外の添加物を添加する場合もある。
【0006】
特許文献3(段落0035~0037、表7等参照)では、不凍多糖を添加して炊飯して、炊飯後に、形に入れ、シールしたあと-20度で急速冷凍している。なお、特許文献3には、成形時の加工条件は明記されていない。また、トンネルフリーザーの記載はない。
【0007】
特許文献4(段落0023、0025、0026等参照)では、寿司用冷凍米飯の製造に関し、ゼラチンを低分子化したアミノ酸を含む冷凍液を入れて炊飯している。炊飯後、プレス成型する。なお、特許文献4では、若干脱気してシール包装し、急速冷凍機で-40度~-50度で冷凍しているが、冷凍してからシール包装していない。また、特許文献4には、トンネルフリーザーの記載はない。
【0008】
特許文献5(段落0019、0023~0025等参照)では、米飯にオリゴ糖を添加して炊飯している。冷凍方法として、液体窒素トンエルフリージングが例示されているが、詳細条件は記載されていない。おにぎり型に適量を詰めて成型を行い、ラップに包み、袋に入れた後、-30℃の冷凍庫に静置することが記載されている。なお、特許文献5では、包装してから冷凍しており、冷凍後に真空パックする記載はない。また、特許文献5では、不凍素材との記載はない。
【0009】
特許文献6(段落0016、0023等参照)では、冷凍米飯の製造において、炊飯した米飯をおにぎりの形とし、トンネルフリーザーにて急速冷凍している。特許文献6では、炊飯後の米飯に糖類(トレハロース)含む処理液を加えることとしている。なお、特許文献6では、冷凍時に振動を与える記載はない。また、糖類を炊飯時に混合するものではない。
【0010】
特許文献7(段落0028、0029等参照)では、冷凍握り寿司の製法が記載されている。トレハロース(保水用)を添加して炊飯し、寿司ロボットを用いて成形、真空パック化で静菌処理し後、静置冷却している。なお、特許文献7では、冷凍条件が規定されているが、急速冷凍ではなく、トンネルフリーザーの記載もない。また、冷凍後に真空パックするのではなく、真空パック後に冷凍している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開2010/134489
【文献】国際公開2007/105734
【文献】特開2019-50735号公報
【文献】特開2009-247294号公報
【文献】特開平06-141797号公報
【文献】特開2012-024056号公報
【文献】特開2016-202051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
たとえば、米を含む冷凍食品として、米だけを冷凍したものだけでなく、冷凍寿司や、冷凍炊き込みご飯、冷凍ケチャップご飯、冷凍おにぎりなど、様々な食品が考えられる。このような冷凍食品の中には、冷凍寿司のように、そもそも、電子レンジで再加熱することが適さないものもある。また、再加熱可能な食品であったとしても、たとえば、大勢の人に一時に食べてもらう状況においては、一度に、大量に電子レンジで再加熱することができない場合もある。また、そもそも、電子レンジなどの調理器具がない状況もある。
【0013】
そのため、米を含む冷凍食品を、解凍して美味しく食することができる技術へのニーズが存在する。
【0014】
しかし、炊き上がったご飯を冷凍して、解凍する際に、米から水分がなくなり、ロウのように、ボソボソした状態になる。この現象を白蝋化という。白蝋化したご飯は、美味しいとは言いがたい。そのため、米を含む冷凍食品を、解凍して食することができるようにするには、技術的工夫が必要である。
【0015】
それゆえ、本発明は、解凍して美味しく食することが可能な冷凍食品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような特徴を有する。
本発明は、不凍タンパク質を添加した水を用いて米を炊飯する炊飯工程と、炊飯工程で得られたご飯に振動を加えながら冷凍する冷凍工程とを備えることを特徴とする、冷凍食品の製造方法である。
【0017】
不凍タンパク質を添加して炊飯することで、不凍タンパク質が氷結晶に結合し、氷結晶の成長を抑制することで、冷凍による食品の品質劣化を低減している。
また、冷凍保存中、不凍タンパク質が水を保持し水分の蒸発を抑制しているため、蒸発した水蒸気が霜として食品に付着することを抑制しており、これにより、解凍後もしっとりした食感が維持される。
【0018】
加えて、本発明では、冷凍工程において、ご飯に振動を加えることとしているので、ご飯の粒一つ一つがふっくらした状態のまま冷凍されることとなる。
【0019】
このように、本発明は、炊飯時に配合する素材として、不凍タンパク質を用いるというだけでなく、冷凍方法として、適切に振動を加えながら冷凍するという、配合及び冷凍方法という二つのアプローチから、ご飯を冷凍するものである。
【0020】
冷凍工程において冷凍食品に加える振動の周波数は、25.0Hz~35.0Hzの範囲であるとよく、好ましくは、周波数は、30.0Hz~35.0Hzの範囲であるとよい。
この範囲の振動数を加えることで、ご飯の粒一つ一つがふっくらした状態のまま冷凍されることとなる。
【0021】
炊飯工程において、水に対して添加する不凍タンパク質の重量は、0.1~0.2(重量%)であるとよい。
この範囲の不凍タンパク質を添加することで、冷凍による食品の劣化を防止できる。
【0022】
製造過程において、不凍タンパク質を添加した水を米に浸水させる浸水工程をさらに備えるとよい。
浸水工程において、水に対して添加する不凍タンパク質の重量は、0.1~0.2(重量%)であるとよい。
炊飯工程だけでなく、浸水工程においても、不凍タンパク質を添加することで、より、品質を良くすることができる。
【0023】
上記製造過程で、さらに、炊飯工程で得られたご飯に対して合わせ酢を混ぜる寿司飯工程と、寿司飯工程で得られたご飯を舎利玉に成型する成型工程と、成型工程で得られた舎利玉に寿司ネタを載せる寿司ネタ工程とを備え、冷凍工程では、寿司ネタ工程で得られた寿司に振動を加えながら冷凍するとよい。
上記製造過程で、さらに、冷凍工程で得られた冷凍された寿司を包装する包装工程を備えるとよい。
包装工程では、ガス置換によって包装するとよい。
【0024】
このような工程を経ることで、冷凍寿司を提供することが可能となる。特に、冷凍工程では、振動を加えながら、寿司を冷凍させることとなるので、舎利玉のご飯一つ一つをふっくらした状態のまま冷凍させることが可能となる。
【0025】
炊飯工程において、具及び/又は調味液をさらに加えて、炊飯するとよい。
これにより、解凍するだけで、炊き込みご飯やケチャップご飯など、味付きのご飯を美味しく食することが可能となる。
【0026】
好ましくは、不凍タンパク質として、カイワレ大根を原材料にするものが用いられるとよい。
天然由来の添加物となるので、消費者が受け入れやすい。
【0027】
好ましくは、使用する米を低アミロース米にするとよい。
これにより、品質がさらに良くなる。
【0028】
本発明は、上記の製造方法によって製造された冷凍食品である。
【0029】
また、本発明は、ご飯の重量に対する不凍タンパク質の重量の割合が0.08(重量%)~0.22(重量%)の範囲にあるご飯を用いた冷凍食品である。
【0030】
一実施形態として、本発明は、上記のご飯に合わせ酢を混ぜた寿司飯の成形物の上に寿司ネタを載せて冷凍された冷凍食品である。
【0031】
一実施形態として、本発明において、上記のご飯は具及び/又は調味液を混ぜて炊飯されており、具及び/又は調味液を含んだ状態のご飯の重量に対する不凍タンパク質の重量の割合が0.08(重量%)~0.22(重量%)となる冷凍食品である。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、白蝋化することなく、ご飯を解凍することができ、解凍して美味しく食することが可能な冷凍食品が提供されることとなる。
【0033】
なお、好ましい解凍方法としては、冷蔵庫の冷蔵室(10度程度)で4~6時間、解凍することであるが、本発明を限定するものではない。
【0034】
本発明のこれら、及び他の目的、特徴、局面、効果は、添付図面と照合して、以下の詳細な説明から一層明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るご飯を含む冷凍食品(ここでは、冷凍寿司)の製造工程を示す図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る製造工程を用いて製造したときの寿司飯の完成時の原材料の配合比率を示す図である。図2では、比較例1~3及び実施例の配合比率を重量%で示している。
図3図3は、白酢で製造した比較例1~3及び赤酢で製造した比較例1~3について、-3度で8時間解凍した場合の被験者3名(P1~P3)による官能試験の結果を示す図である。
図4図4は、白酢で製造した比較例1~3について、0度で4時間解凍した場合の被験者1名(P1)による官能試験の結果を示す図である。なお、被験者は、同一人物とは限らない(以下同様)。
図5図5は、白酢で製造した比較例1~3について、3度で4時間解凍した場合の被験者1名(P2)による官能試験の結果を示す図である。
図6図6は、白酢で製造した比較例1~3について、10度で4時間解凍した場合の被験者2名(P1,P3)による官能試験の結果を示す図である。
図7図7は、白酢で製造した比較例3及び実施例について、10度で4時間及び6時間解凍した場合の被験者5名(P1~P5)による官能試験の結果を示す図である。
図8図8は、不凍タンパク質の投入タイミングについて、3つのパターンで実施例を製造した場合の被験者3名(P1~P3)による官能試験の結果を示す図である。
図9図9は、3種類の米を用いて実施例を製造した場合の被験者3名(P1~P3)による官能試験の結果を示す図である。
図10図10は、本発明の一実施形態に係るご飯を含む冷凍食品(ここでは、炊き込みご飯)の製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1を参照しながら、本発明の一実施形態に係る冷凍食品(冷凍寿司)の製造方法について説明する。
まず、水に不凍タンパク質を添加した液体(以下、「不凍タンパク質添加液体」という。)を製造する(工程S101)。
用いる不凍タンパク質としては、カイワレ大根を原材料とする不凍タンパク質が好ましいが、限定されるものではない。
なお、魚を原材料とする不凍タンパク質が用いられてもよいし、その他を原材料とする不凍タンパク質が用いられてもよい。
【0037】
溶媒となる水に対する不凍タンパク質の割合は、0.1~0.2%(重量% 以下同様)が好ましい。たとえば、水8kgに対して、不凍タンパク質15gを溶かした溶液を製造する。この場合、水に対する不凍タンパク質の割合は0.185%となる。
【0038】
工程S102において、不凍タンパク質添加液体に生米を浸水させる。たとえば、不凍タンパク質添加液体に生米7kgを浸水させる。生米としては、無洗米が好ましいが、限定されるものではない。無洗米を用いない場合は、一度、生米を研いで、水をしっかり切ってから、不凍タンパク質添加液体に浸水させる。
なお、浸水させるための不凍タンパク質添加液体は、工程S103で捨てるため、その容量は限定されない。
【0039】
工程S103において、不凍タンパク質添加液体を捨てて、生米の水をしっかり切る。
【0040】
工程S104において、工程S101と同様に、不凍タンパク質添加液体を製造する。なお、不凍タンパク質添加液体として、工程S101で製造されたものが用いられてもよいことは、言うまでもない。
【0041】
工程S105において、浸水後の生米を不凍タンパク質添加液体で炊飯する。炊飯に必要な不凍タンパク質添加液体の容量は、通常の寿司飯用の炊飯時と同様であるが、適宜、季節や生米の種類などを考慮して、決定される。
このとき、適宜、炊飯油を添加することで、炊き上がったあとのご飯を取り扱いやすくするとよいが、限定されるものではない。
【0042】
ご飯が炊き上がったあと、工程S106において、ご飯にわせ酢を混ぜて、寿司飯を製造する。
そして、寿司飯を一つ一つの舎利玉に成型する(工程S107)。舎利玉の成型方法としては、周知のあらゆる手法を用いることができる。舎利玉に加える圧力としては、周知のあらゆる条件を用いることが出来る。
【0043】
続いて、各舎利玉の上に、寿司のネタを載せる(工程S108)。このとき、適宜、舎利玉とネタを適宜、人やロボットなどで握るなどしてもよい。
【0044】
工程S108で出来たお寿司に、振動を加えながら、冷凍させる(S109)。
たとえば、食品を振動させながら急速冷凍可能なトンネルフリーザーを用いる。トンネルフリーザーは、食品を通すことが可能にトンネル状になっており、コンベア上の食品に冷風を直接吹き付けて急速冷凍させることができる機械である。そして、コンベアを振動させることで、食品を振動させながら、急速冷凍が可能となっている。
【0045】
トンネルフリーザーの設定条件として、設定温度を-40度、通過時間を28分、振動周波数を30.0Hzとした。
当然、この設定条件は一例に過ぎず、トンネルフリーザーの設定条件として、設定温度を-35度~-45度、通過時間を25分~31分、振動周波数を25.0Hz~35.0Hzの範囲にするとよい。
より好ましくは、トンネルフリーザーの設定条件として、設定温度を-35度~-40度、通過時間を25分~28分、振動周波数を30.0Hz~35.0Hzの範囲にするとよい。
【0046】
工程S109で出来上がった冷凍寿司を、パックに詰めて、脱酸素剤を注入し、ガス置換しながら真空パックすることで、個包装の冷凍寿司を完成させる(工程S110)。
なお、複数の冷凍寿司を一度にまとめてプラスチック容器などのパックに詰めて、ガス置換しながら真空パックしてもよい。
その他、パックの方法としては、周知のあらゆる手法を用いることができる。
【0047】
以上のようにして製造した冷凍寿司を、一般的な家庭用冷蔵庫の冷蔵室(10度前後)で4~6時間解凍することで、白蝋化することなく、寿司飯が解凍されることとなる。
【0048】
(実施例及び比較例1~3)
図1に示した製造方法において、炊き上げる水に、不凍タンパク質を溶かした場合を実施例とする。実施例では、不凍タンパク質として、カネカ食品株式会社の製品名「カネカ不凍タンパク質KR1」・名称「カイワレ大根抽出液(食品添加物)」を用いた。8kgの水に15gの不凍タンパク質を溶かした液体を用いて炊き上げた。
【0049】
炊き上げる水に、オリゴ糖を溶かして、炊き上げたご飯を比較例1とする。比較例1では、8kgの水に156gのオリゴ糖を溶かした液体を用いて炊き上げた。
【0050】
炊き上げる水に、オリゴ糖及びゼラチンを溶かして、炊き上げたご飯を比較例2とする。比較例2では、8kgの水に156gのオリゴ糖及び139gのゼラチンを溶かした液体を用いて炊き上げた。
【0051】
炊き上げる水に、ゼラチン及び甘味料トレハロースを溶かして、炊き上げたご飯を比較例3とする。比較例3では、8kgの水に87gのゼラチン及び69gの甘味料トレハロースを溶かした液体を用いて炊き上げた。
【0052】
実施例及び比較例1~3について、合わせ酢を加えた後の寿司飯にした状態での原材料の配合比率は、図2に示す通りとなる。
すなわち、実施例では、寿司飯の状態で、不凍タンパク質の配合比率が0.1%(「重量%」、以下同様。)となった。
なお、合わせ酢を含まない状態での不凍タンパク質の配合比率は、0.1÷(100-11.8)=約0.113%となる。
【0053】
同様に、比較例1では、オリゴ糖の配合比率が0.9%となった。
比較例2では、オリゴ糖の配合比率が0.9%、ゼラチンの配合比率が0.8%となった。
比較例3では、ゼラチンの配合比率が0.5%となり、甘味料トレハロースの配合比率が0.4%となった。
【0054】
実施例及び比較例1~3を舎利玉にして、工程S108に示した条件で冷凍した。
まず、比較例1~3について、どれが最も冷凍寿司に適した冷凍寿司飯であるかを検証した結果を図3図6を参照しながら説明する。
【0055】
比較例1~3を、-3度で8時間かけて解凍し、三名の被験者によって、風味、食感、見た目についての官能試験を実施した(図3)。良いを3点、普通を2点、悪いを1点とした。図3の実験では、合わせ酢として、白酢及び赤酢を用いた。
その結果、白酢及び赤酢ともに、比較例2が合計27点、比較例1が18点、比較例3が9点との評価となった。
【0056】
比較例1~3を、0度で4時間かけて解凍し、1名の被験者によって、官能試験を実施した(図4)。なお、合わせ酢は、白酢のみで評価している(以下同様)。
その結果、比較例3が9点、比較例1が8点、比較例2が6点との評価となった。
【0057】
比較例1~3を、3度で4時間かけて解凍し、1名の被験者によって、官能試験を実施した(図5)。
その結果、比較例1が8点、比較例3が6点、比較例2が5点との評価となった。
【0058】
比較例1~3を、10度で4時間かけて解凍し、2名の被験者によって、官能試験を実施した(図6)。
その結果、比較例3が15点、比較例1が12点、比較例2が10点との評価となった。
【0059】
冷蔵庫の冷蔵室は、10度程度であるので、10度で解凍した場合に評価の高い比較例3を実施例と比較するための比較例とした。
【0060】
図7に示すように、実施例と比較例3を10度で4時間解凍した場合の評価は、実施例は37点、比較例3は33点となった。
10度で4時間解凍した比較例3は、ツヤがなく、米のまとまりが硬く感じ、まとまりがないという評価となった。すなわち、比較例3では、白蝋化している可能性がある。
一方、10度で4時間解凍した実施例は、ツヤが少ないものの、米がほどけやすく食べやすく、もっちり感を感じるという評価となった。すなわち、実施例では、白蝋化していないと思われる。
【0061】
さらに、実施例と比較例3を10度で6時間解凍した場合の評価は、実施例は42点、比較例3は36点となった。
10度で6時間解凍した比較例3は、4時間実験とほぼ変わらないという評価となった。
一方、10度で6時間解凍した実施例は、パサパサ感がなくもっちりした食感であり、食べた時の米のまとまりがつよくなく、程よくほどけてより美味しく感じたとの評価となった。すなわち、実施例では、白蝋化していない。
【0062】
以上の実験から、不凍タンパクを配合して炊いたご飯を冷凍させて、10度で4時間~6時間解凍することで、美味しく感じられるお寿司を提供できることが分かった。
【0063】
(不凍タンパク質添加液体を用いるタイミング)
次に、炊飯時において、不凍タンパクをどのタイミングで添加するかを比較する実験を行った(図8)。
浸水時及び炊飯時に不凍タンパク溶液を用いて炊飯するパターン(図1の工程のパターン)、炊飯時にのみ不凍タンパク質添加液体を用いて炊飯するパターン、浸水時のみに不凍タンパク質添加液体を用いて炊飯するパターンの3パターンについて、官能試験を実施した。
【0064】
その結果、浸水時及び炊飯時に不凍タンパク溶液を用いて炊飯するパターンの場合は、23点、炊飯時にのみ不凍タンパク質添加液体を用いて炊飯するパターンの場合は、18点、浸水時のみに不凍タンパク質添加液体を用いて炊飯するパターンの場合は、10点となった。
これにより、浸水時及び炊飯時に不凍タンパク溶液を用いて炊飯するのが最も好ましく、次いで、炊飯時にのみ不凍タンパク質添加液体を用いて炊飯するのが好ましいことが分かった。従って、少なくとも、炊飯時に不凍タンパク質添加液体を用いて炊飯することがよいことが分かった。
【0065】
(米の種類)
次に、用いる米の種類を変更する比較実験を行った(図9)。
寿司飯用の米(いわゆる古米)を使った場合、低アミロース米(ここでは、「ゆめぴりか」とした)を使った場合、低アミロース米以外を使った場合の3パターンについて、官能試験を実施した。
なお、低アミロース米とは、米のアミロース含量が3~17%程度のものをいう。
【0066】
その結果、低アミロース米を使った場合が23点、低アミロース米以外を使った場合が18点、古米を使った場合が16点となった。
この実験結果から、低アミロース米を使うのが好ましいことが分かったが、それ以外の米でも、顕著に品質が悪いわけではないことが分かった。
【0067】
(他の実施形態)
上記実施形態では、冷凍寿司の製造方法について説明したが、本発明は、米を含む冷凍食品に関するものであり、冷凍寿司に限定されない。本発明は、不凍タンパクを添加して炊飯したご飯を用いた冷凍食品である。
そのため、ご飯そのものを冷凍食品にしたものであってもよい。ご飯そのものを冷凍食品にする場合には、炊飯後の味付けは行われず、容器に詰めるなどの工程を経て冷凍される。
また、炊飯後のご飯に味付けを行ってから、容器に詰めるなどの工程を経て冷凍されてもよい。
また、炊飯後のご飯に具材を入れるなどして、おにぎりにするなどの工程を経て、冷凍されてもよい。
【0068】
図10は、炊き込みご飯やケチャップご飯など、炊飯時に味付けをしたご飯を用いた冷凍食品を製造する工程を示す図である。
図10の工程S201~S204までは、図1の工程S101~S104までと同様である。
【0069】
工程S205において、浸水後の生米に対して、不凍タンパク質添加液体、具、及び調味液を入れて炊飯する。この工程では、目的とする炊き込みご飯やケチャップご飯などに適したレシピが用いられる。
【0070】
炊飯後、容器に入れられる(工程S206)。その後は、図1の場合と同様に、トンネルフリーザーで冷凍され(工程S207)、包装される(工程S208)。
【0071】
このような製造方法によって、解凍するだけで美味しい炊き込みご飯やケチャップご飯などの味の付いたご飯を含む冷凍食品を製造することが可能となる。
【0072】
(冷凍方法)
上記実施形態では、トンネルフリーザーを用いて冷凍することとした。トンネルフリーザーで振動を加えながら、冷凍することで、ご飯の粒一つ一つがふっくらした状態で冷凍されるものと考えられる。
【0073】
そのための振動条件としては、先述したように、振動周波数を25.0Hz~35.0Hzの範囲内とするとよく、好ましくは、30.0Hz~35.0Hzの範囲内とするとよく、一実施形態としては、30.0Hzにするとよい。
【0074】
なお、振動を与えながら、冷風を食品に当てて急速冷凍可能な機械であれば、トンネルフリーザー以外の機械が用いられて冷凍されてもよい。
【0075】
(添加のタイミング)
上記実施形態では、不凍タンパク質を添加するタイミングとして、最も好ましいのは、浸水時及び炊飯時とし、少なくとも炊飯時には添加するのがよいとしたが、炊き上がったご飯に不凍タンパク質が添加されていれば、解凍後の白蝋化防止というある一定の効果が期待されるので、浸水時のみに不凍タンパクを添加することが本発明において除外されるものではない。
【0076】
すなわち、本発明は、浸水時及び/又は炊飯時に、不凍タンパク質添加液体を用いることで、白蝋化を防止することが出来る。
【0077】
(不凍タンパク質添加液体の濃度)
上記実施形態では、水の重量に対して、0.1875%(重量%)の不凍タンパク質を溶かした溶液を、浸水時及び炊飯時に用いることとした。この重量%はあくまでも一例に過ぎないので、本発明において限定されるものではない。
【0078】
水の重量に対して、少なくとも0.1~0.2%の不凍タンパク質を溶かした液体を用いて、米を炊くのが好ましい。
【0079】
(炊飯後のご飯の配合比率)
上記実施形態では、生米7kgに対して、浸水に使用する不凍タンパク質添加液体(浸水後は捨てる)及び炊飯時に使用する不凍タンパク質添加液体(水8kgに対して15gの不凍タンパク質を添加)を用いて炊飯した。
米の種類や環境、季節によって変化するが、この配合で炊飯した場合、炊き上がり後のご飯は15kgになる。
【0080】
経験上、生米7kgに対して、浸水させた後、水8kgで炊飯すると、炊き上がりが15kgになることが分かっている。
そのため、ここで、単純化して、浸水時に用いた不凍タンパク質添加液体に含まれる不凍タンパク質が生米に吸収されていないと考えた場合、炊き上がり後の15kgのご飯に、15gの不凍タンパク質が含まれていることとなるから、炊飯後のご飯における不凍タンパク質の配合比率は、0.1%(重量%)ということになる。
【0081】
ただし、浸水時にも、不凍タンパク質添加液体を用いる実施形態では、浸水時に、生米に、不凍タンパク質が吸収される。
条件によってもことなるが、生米7kgの浸水後の重量は、おおよそ9.3kgとなるので、2.3kgの不凍タンパク質添加液体が生米に吸収されたこととなる。2.3kgの不凍タンパク質添加液体に含まれる不凍タンパク質の重量は4.3gである。
したがって、炊き上がり後のご飯に、15g+4.3g=19.3gの不凍タンパク質が含まれていることになるから、炊飯後のご飯における不凍タンパク質の配合比率は、約0.128%(重量%)となる。
【0082】
以上の考察より、炊飯後のご飯の重量に対する不凍タンパク質の重量の割合は、0.08%~0.22%であるのが好ましいことが分かる。
【0083】
また、具及び/又は調味液を混ぜて炊飯する場合についても、具及び/又は調味液を含んだ状態の炊飯後のご飯の重量に対する不凍タンパク質の重量の割合が0.08%~0.22%であるとよい。
【0084】
以上、本発明を詳細に説明してきたが、前述の説明はあらゆる点において本発明の例示にすぎず、その範囲を限定しようとするものではない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。本明細書に開示されている発明の構成要件は、それぞれ独立に単独した発明として成立するものとする。各構成要件をあらゆる組み合わせ方法で組み合わせた発明も、本発明に含まれることとする。本明細書上の具体的な表現については、あくまでも、例示であり、本発明には、当該例示的表現を概念化したものも含まれることとする。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、冷凍食品に関するものであり、産業上利用可能である。
【要約】
【課題】解凍して美味しく食することが可能な冷凍食品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の冷凍食品の製造方法は、不凍タンパク質を添加した水を用いて米を炊飯する炊飯工程(S101)と、炊飯工程で得られたご飯に対して合わせ酢を混ぜる寿司飯工程(S106)と、寿司飯工程で得られたご飯を舎利玉に成型する成型工程(S107)と、成型工程で得られた舎利玉に寿司ネタを載せる寿司ネタ工程(S108)と、寿司ネタ工程で得られた寿司に振動を加えながら冷凍する冷凍工程(S109)とを備える。
【選択図】図1

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10