(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】フラッシュランプ
(51)【国際特許分類】
H01J 61/54 20060101AFI20240925BHJP
H01J 61/90 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
H01J61/54 F
H01J61/90
(21)【出願番号】P 2023220778
(22)【出願日】2023-12-27
【審査請求日】2024-06-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524001617
【氏名又は名称】株式会社ミトリカ
(74)【代理人】
【識別番号】100165135
【氏名又は名称】百武 幸子
(72)【発明者】
【氏名】稲庭 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】佐直 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝昭
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-179205(JP,A)
【文献】実公昭49-001655(JP,Y2)
【文献】特開平06-290750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 61/54
H01J 61/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガスが封入され密封されたランプハウジングと、
アーク放電を生じさせる陰極及び陽極と、
前記アーク放電に先立って予備放電を行うトリガ電極と、
前記アーク放電始動のためのイオン化を促進する複数のスパーカを備え、
前記複数のスパーカはそれぞれ離間して配置されることを特徴とするフラッシュランプ。
【請求項2】
前記複数のスパーカのうち少なくとも1個は前記陰極の近傍に配置されることを特徴とする請求項1に記載のフラッシュランプ。
【請求項3】
前記トリガ電極を複数備えたことを特徴とする請求項1に記載のフラッシュランプ。
【請求項4】
前記陰極及び前記陽極と前記トリガ電極と前記複数のスパーカは、前記ランプハウジング内のステム上に配置され、前記陽極と前記トリガ電極と前記複数のスパーカのそれぞれに電気を供給するリードは、前記ステムから電気的に絶縁されて植立されて前記ランプハウジングの外面に導出され、前記ステムは金属製の排気管を備え、前記排気管は前記陰極に接続して給電する端子としたことを特徴とする請求項1に記載のフラッシュランプ。
【請求項5】
前記陰極及び前記陽極と前記トリガ電極と前記複数のスパーカは、前記ランプハウジング内のステム上に配置され、前記陰極と前記トリガ電極と前記複数のスパーカのそれぞれに電気を供給するリードは、前記ステムから電気的に絶縁されて植立されて前記ランプハウジングの外面に導出され、前記ステムは金属製の排気管を備え、前記排気管は前記陽極に接続して給電する端子としたことを特徴とする請求項1に記載のフラッシュランプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラッシュランプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、封入する不活性ガスとして特にキセノンガスを用いたフラッシュランプは、紫外線から赤外線の広帯域にわたる強い発光スペクトルが得られることから、分光分析用の光源として活用されている。その使用用途は、水質検査装置、自動車排ガスモニター、窒素酸化物モニターなどである。発光が充電コンデンサの放電によるアーク放電により得られるため、重水素ランプなどによる光源と比較して高光出力・低発熱・長寿命となり、省エネ・メンテナンスフリーな点が光源として重用される要因である。
【0003】
しかしながら、従来のフラッシュランプでは発光に至らないフラッシュミス現象が発生する、或いは発光毎に発光強度が変動する、又は放電回数の累積により発光強度の絶対値が減少するなどの欠点があり、様々な方法で改良が試みられてきた。一例として、陰極の材料として電子の放出が容易なように仕事関数を下げタングステンを基材にバリウムを多く含む金属材料を使うと、電極の消耗が激しくなり短寿命になり、また、アーク放電に伴うスパッタにより発光光が通過するガラス面板が曇る現象が起きやすく放電回数の累積により発光強度が減少してしまう。
【0004】
この解決策としてバリウム量を減らしてスパッタを減らす試みが考えられるが、陰極と陽極間のアーク放電空間距離が短い場合でも放電回数の累積等により初期の段階でアーク放電が開始せず発光に至らない現象が発生する。このため電極からの放電がし難くなるのを複数のトリガ電極を設けて補う手段がとられる。しかし、この方法でもアーク放電が開始せず発光に至らないフラッシュミス現象が発生する場合があり、一方この現象を回避したとしても、アーク放電の経路が放電毎に若干異なる現象が発生し、フラッシュランプの導出光を狭いスリットを介して用いる光学系では、スリットを通過する光量が見かけ上変動するアパーチャージッタが増えるなどして根本的な解決には至らなかった。
【0005】
特許文献1には、パルス発光毎の放電経路のばらつきを少なくし、光出力安定性が向上される技術が記載されている。不活性ガスが封入されたランプハウジング内にアーク放電を行う陰極および陽極が対向配置され、アーク放電に先立って予備放電を行う複数本の針状のトリガ電極が、陰極および陽極間に配置されている。
【0006】
特許文献2には、フラッシュランプ及び付属スパーカに係わる労働、コスト及び作業のばらつきを低減する技術が記載されている。スパーカは、フラッシュランプの密閉貫通接続ヘッダに直接組み込まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4575012号公報
【文献】特許第6097437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、2のフラッシュランプは光出力安定性を向上させたものであるが、さらに発光毎の発光強度の変動を極力抑え、放電回数の累積により発光強度の絶対値が減少する特性を排除したキセノンフラッシュランプが望まれる。
【0009】
また、陰極と陽極の間のアーク放電距離が長いフラッシュランプであっても、上記の特徴を有するキセノンフラッシュランプが望まれる。さらに、フラッシュランプに植立され導出するリードの本数を減らし、フラッシュランプをプリント基板のパターンに接続する際パッド間の沿面距離を確保し沿面放電をし難くすると共に、陰極の温度上昇を下げることが可能なキセノンフラッシュランプが望まれている。
【0010】
本発明は上記課題に鑑み、安定した光出力が得られ、かつ放電回数の累積により発光強度が減少することを防止できるフラッシュランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、不活性ガスが封入され密封されたランプハウジングと、アーク放電を生じさせる陰極及び陽極と、前記アーク放電に先立って予備放電を行うトリガ電極と、前記アーク放電始動のためのイオン化を促進する複数のスパーカと、を備え、前記複数のスパーカはそれぞれ離間して配置されることを特徴とするフラッシュランプである。
請求項1の発明によれば、フラッシュランプは、不活性ガスが封入されたランプハウジング内にアーク放電を生じさせる陰極と陽極とアーク放電に先立って予備放電を行うトリガ電極を配置し、アーク放電始動のためのイオン化を促進するスパーカをそれぞれ離間して複数設けたため、スパーカが発光する際に発生する紫外線によるイオン化領域を広げることができ、陰極、陽極或いはトリガ電極からプラズマ中への電子の放出を容易にすることができる。
請求項2に記載の発明は、前記第複数のスパーカのうち少なくとも1個は前記陰極の近傍に配置されることを特徴とする請求項1に記載のフラッシュランプである。
請求項2の発明によれば、請求項1の発明の構成に加えて、アーク放電始動のためのイオン化を促進する複数のスパーカの内、少なくとも1個は近傍に配置したので、発光の起点となる陰極からプラズマ中への電子の放出を容易に更に確実に安定して行われる。
請求項3に記載の発明は、前記トリガ電極を複数個備えたことを特徴とする請求項1に記載のフラッシュランプである。
請求項3の発明によれば、請求項1の発明の構成に加えて、トリガ電極を陰極と陽極間のアーク放電経路の近傍にそれぞれのトリガ電極の先端がほぼ陰極と陽極の対向する端面の小球面状部を結ぶ線上に位置するように複数個配置したので、陰極と陽極間のアーク放電距離が長い場合にも安定した発光を得ることができる。
請求項4に記載の発明は、前記陰極及び前記陽極と前記トリガ電極と前記複数のスパーカは、前記ランプハウジング内のステム上に配置され、前記陽極と前記トリガ電極と前記複数のスパーカのそれぞれに電気を供給するリードは、前記ステムから電気的に絶縁されて植立されて前記ランプハウジングの外面に導出され、前記ステムは金属製の排気管を備え、前記排気管は前記陰極に接続して給電する端子としたことを特徴とする請求項1に記載のフラッシュランプである。
請求項4の発明によれば、金属製の排気管はランプハウジングの内の陰極に接続したので、陰電極用のリードを削除でき、リードの数の減少によりフラッシュランプを小型化することが可能となる。また、プリント基板のパターンに接続する際に夫々のリードを取り付けるパターン同士の沿面距離を拡大できるのでプリント基板の小型化も可能となる。更には、発光に伴う陰極の発熱を金属製の排気管で放熱可能なのでフラッシュランプの温度上昇を下げることが可能となりアーク放電に伴うスパッタ量を減少させることが可能となる。
請求項5に記載の発明は、前記陰極及び前記陽極と前記トリガ電極と前記複数のスパーカは、前記ランプハウジング内のステム上に配置され、前記陰極と前記トリガ電極と前記複数のスパーカのそれぞれに電気を供給するリードは、前記ステムから電気的に絶縁されて植立されて前記ランプハウジングの外面に導出され、前記ステムは金属製の排気管を備え、前記排気管は前記陽極に接続して給電する端子としたことを特徴とする請求項1に記載のフラッシュランプである。
請求項5の発明も請求項4と同様の効果が得られる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフラッシュランプは、安定した光出力が得られ、かつ放電回数の累積により発光強度が減少することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るフラッシュランプの一部切欠き斜視図である。
【
図2】
図1のフラッシュランプの一部切欠き側面図である。
【
図3】
図1のフラッシュランプの透過ガラス及びキャップを除いた状態の、陰極、陽極、トリガ、スパーカの配置を示す平面図である。
【
図4】
図1のフラッシュランプのスパーカの平面断面図である。
【
図5】
図1のフラッシュランプのスパーカの側面断面図である。
【
図6】
図3と異なる配置である、陰極、陽極、トリガ電極、スパーカの配置を示す平面図である。
【
図7】
図3と異なる配置である、陰極、陽極、トリガ電極、スパーカの配置を示す平面図である。
【
図8】
図3と異なる配置である、陰極、陽極、トリガ電極、スパーカの配置を示す平面図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態に係る実施形態に係るフラッシュランプの透過ガラス及びキャップを除いた状態の、陰極、陽極、トリガ電極、スパーカの配置を示す平面図である。
【
図10】
図9と異なる配置である、陰極、陽極、トリガ電極、スパーカの配置を示す平面図である。
【
図11】本発明の第3の実施形態に係るフラッシュランプの一部切欠き斜視図である。
【
図12】
図11のフラッシュランプの透過ガラス及びキャップを除いた状態の背面図である。
【
図13】
図11のフラッシュランプの透過ガラス及びキャップを除いた状態の、陰極、陽極、トリガ電極、スパーカの配置を示す平面図である。
【
図14】本発明の第1の実施形態又は第3の実施形態に係るフラッシュランプを点灯させる点灯装置のブロック回路図である。
【
図15】本発明の第2の実施形態に係るフラッシュランプを点灯させる点灯装置の部分ブロック回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態(以下実施例と略称する)を、図面に基づいて説明する。以下の図面において、共通する部分には同一の符号を付しており、同一符号の部分に対して重複した説明を省略する。なお、以下の実施例では、複数のスパーカとして、2個のスパーカ(第1のスパーカ60と第2のスパーカ70とする)を備える例について説明するが、本発明はこれに限らず、3個以上のスパーカを備えるフラッシュランプに適用できるものである。
【実施例1】
【0015】
本実施例のフラッシュランプ1の構成について
図1~
図8を参照して説明する。
図1に示すように、フラッシュランプ1は、不活性ガスが封入され密封されたランプハウジングと、アーク放電を生じさせる陰極20及び陽極30と、アーク放電に先立って予備放電を行うトリガ電極40と、アーク放電始動のためのイオン化を促進する複数のスパーカ(第1のスパーカ60と、第2のスパーカ70)と、から構成される。第1のスパーカ60と第2のスパーカ70は、それぞれで放電する際に、スパーカ同志で互いの放電が混合、干渉せずにスパークするように離間して配置される。封入する不活性ガスとして、例えばキセノンガスを使用する。
【0016】
陰極20及び陽極30は、その対向する端面がアーク放電を安定した経路で生じさせるため先端が小球面状の略円錐面の形状である。陰極20及び陽極30の他端はそれぞれモリブデンなどからなるリード棒21,31が圧入され、更にそれぞれの電極はリード22,32にスポット溶接などで固着されている。陰極20及び陽極30は、電子放出材料として仕事関数が小さなものを使用し、例えば、タングステンを基材として酸化バリウム、酸化アルミニウム、酸化カルシウム等が含有される。
【0017】
図2,3に示すように、陽極30に電気的に接続されるリード32は、ガラス質で半球形状に成され沿面距離を長く確保した絶縁体33を介して、金属製で円盤形状のステム3を貫通するように植立されている。陰極20も陽極30と同様に構成することは可能であるが、本実施例では陰極20に電気的に接続されるリード22は、金属製のステム3の表面に溶接固着されている。
【0018】
ランプハウジング2は、ステム3と金属製のキャップ4と透過ガラス5から構成される。金属製のステム3の外円周部にはキャップ4の一端が嵌め込まれ、勘合部は溶接封止される。一方、キャップ4の他端はつば部の内側に石英ガラス或いは硼珪酸ガラスなどの材質の透過ガラス5が溶着されており、陰極20及び陽極30からのアーク放電光を透過させる。
【0019】
ステム3の中心部には金属製の排気管6が溶接されており、排気管6を通してキセノンガスなどの不活性ガスを注入し、その後排気管6を封止することによりランプハウジング2が密封される。前述のように、本実施例では陰極20に接続されたリード22はステム3の表面に溶接固着されているため、ランプハウジング2の外部に導出された排気管6を陰極20の放熱路として電気的に接続させることができる。すなわち、排気管6を陰極20に接続して給電する端子とすることができる。本実施例ではこのような構成とする。なお、陰極20の電気的な接続は本実施例に限定されず、陽極30と同様に構成することもできる。また、排気管6を陽極30に接続して給電する端子とすることもできる。その場合、陰極20に電気的に接続されるリード22は、ガラス質で半球形状に成され沿面距離を長く確保した絶縁体を介して、金属製で円盤形状のステム3を貫通するように植立される(図示せず)。
【0020】
トリガ電極40はタングステン材等で構成されている。
図3に示すように、トリガ電極40の先端部は、陰極20と陽極30が対向する端面の小球面状部を結ぶ略線上で、やや陰極20寄りに位置するように配置される。トリガ電極40にスポット溶接などで固着されたリード42が陽極30と同様にガラス質の絶縁体43を介してステム3を貫通するように植立されておりランプハウジング2の外側に引き出されている。なお、リード22,32,42,62,72,ステム3,キャップ4、排気管6は、本実施例では金属製であり、例えばコバール金属が使用される。なお、本実施例ではステム3,キャップ4、排気管6は金属製であるが、材質は金属製に限定されず、ガラス等でもよい。
【0021】
図4及び
図5の断面図に示すように、第1のスパーカ60は、タングステン材などからなるスパーカピン61の周囲を、十分な耐トラッキング性を有するアルミナなどからなる筒状の絶縁体64を通し、その周囲を陰極となるニッケル板65で囲む構造となっている。ニッケル板65はステム3に溶接固着されている。スパーカピン61の一端はガラス質の絶縁体63を介してステム3を貫通するように植立されたリード62を介してランプハウジング2の外側に引き出されている。スパーカピン61の他端は
図4に示すようにスパーカピン61、絶縁体64及びニッケル板65の端面が略面一に配置されており、スパーカピン61とニッケル板65の間で沿面或いは空間放電する。第2のスパーカ70も第1のスパーカ60と同様に、ガラス質の絶縁体73、アルミナなどからなる筒状の絶縁体74、ニッケル板75、リード72及びスパーカピン71により構成される。
【0022】
図1,3に示すように本実施例では第1のスパーカ60と第2のスパーカ70は陰極20の近傍に配置される。第1のスパーカ60と第2のスパーカ70の配置は、
図3の配置に限定されず、どちらか一方のみを陰極20の近傍に配置してもよいし、どちらも陰極20の近傍に配置しなくてもよい。また、前述のように、第1のスパーカ60と第2のスパーカ70は離間して配置される。互いに接近させて配置すると、それぞれの放電が混合、干渉する不具合現象が発生するため、極端な接近は避けることが好ましい。さらに、第1のスパーカ60及び第2のスパーカ70を陰極20又は陽極30に極端に接近配置した場合も同様な不具合現象が発生するため、空間放電が発生しない距離を置いて配置する。
【0023】
上記のように構成されるフラッシュランプ1では、アーク放電を生じる陰極20と陽極30間に並列に接続された主放電用コンデンサ(
図14の107)が陰極20をマイナス電位、陽極30側をプラス電位として約300Vから1000Vに充電された状態で、陰極20を基準電位として陰極20と第1のスパーカ60のスパーカピン61、第2のスパーカ70のスパーカピン71、トリガ電極40、陽極30の間に約4000Vのマイナス電位の急峻なスパイク電圧を印加する。
【0024】
急峻なスパイク電圧が約4000Vに向かって上昇する途中の数百ナノ秒後の500Vから2500V程度のスパイク電圧値になると、陰極20とトリガ電極40の間で、一方、陰極20に電気的に接続されているニッケル板65とスパーカピン61間で、更にニッケル板75とスパーカピン71の間のそれぞれで、それぞれ異なったスパイク電圧値で予備放電が開始され、アーク放電始動のためのイオン化が進行する。その後、約1マイクロ秒後に陰極20と陽極30の間の不活性ガスで満たされた空間が破れアーク放電が発生し発光する。
【0025】
本実施例では、アーク放電に先立って予備放電を行う第1スパーカ60と第2のスパーカ70を陰極20の近傍に配置したので、アーク放電始動のためのイオン化がむらなく広範囲に行われる。それに従って、陰極20から陽極30に向かってプラズマ雰囲気中への電子の放出が容易になり、例えば、急峻なスパイク電圧を印加してもアーク放電に至らない不具合現象を確実に回避することができる。また、陰極20または陽極30が、タングステンの割合が高い導電性材料によって成形されることにより、電子の放出が通常程度であるが、電極の消耗が少ないため、安定した光出力が得られ、かつ放電回数の累積により発光強度が減少することを防止できる。
【0026】
更に、アーク放電に先立って予備放電を行うトリガ電極40を複数個、使用する従来技術と本発明とを比較すると、従来技術では複数のトリガ電極40の先端が陰極20と陽極30の間のアーク放電経路の近傍に配置されるので、光学系のスリット幅が短い場合アーク放電の経路によってはトリガ電極40の影がスリットに映り込む欠点がある。一方、本実施例の第1のスパーカ60及び第2のスパーカ70の放電はその構造上、第1のスパーカ60ではリード62とニッケル板65の間で、第2のスパーカ70ではリード72とニッケル板75の間で放電するため放電経路は自己完結している。そのため、第1のスパーカ60及び第2のスパーカ70の設置場所は自由度が高く、陰極20と陽極30間のアーク放電経路上又はその近傍に据えなくてよいので、上記のような欠点を引き起こすことがない。このことはスパーカを3個以上備える場合も同様である。
【0027】
また、本実施例では、ステム3の中心部に溶接された金属製の排気管6をフラッシュランプ1の外部に導出した陰極20に給電する端子として利用するようにしたから、フラッシュランプ1から導出されるリードの本数を減らすことができ、フラッシュランプ1の投影面積を小さくすることが可能となる。それにより、フラッシュランプ1のリードをプリント基板のパターンに接続する際に夫々のリードを取り付けるパターン同士の沿面距離を拡大できるのでプリント基板のパターン間での沿面放電開始電圧が高くなり、プリント基板表面の絶縁処理を不要あるいは簡易にすることができる。更には、発光に伴う陰極20の発熱を金属製の排気管で放熱可能なのでフラッシュランプ1の温度上昇を下げることが可能となるためアーク放電に伴うスパッタ量を減少させることができる。このように金属製の排気管6を陰極20に給電する端子として利用するのは、ランプハウジング2の外径が小さいフラッシュランプに特に有用である。金属製の排気管6をフラッシュランプ1の外部に導出した陽極30に給電する端子として利用する場合も同様の効果が得られる。また、スパーカが1個の場合においても、金属製の排気管6をフラッシュランプ1の外部に導出した陰極20又は陽極30に給電する端子として利用することができ、その場合はさらにフラッシュランプをシンプルかつ小型にすることが可能となる。
【0028】
次に
図3に示す配置と異なる配置であるいくつかの実施例を説明する。
図6~8は、
図3と異なる配置の、陰極20、陽極30、トリガ電極40、第1のスパーカ60、第2のスパーカ70を示す平面図である。
図6に示す実施例では、第1のスパーカ60は陰極20の近傍に、第2のスパーカ70は陽極30の近傍に配置され、どちらもトリガ電極40側に配置されている。この配置によっても先の実施例(
図3の配置)と同等の効果が得られる。
【0029】
図7に示す実施例では、第1のスパーカ60は陰極20の近傍に、第2のスパーカ70は陽極30の近傍に配置され、どちらもトリガ電極40に対向する側に配置されている。それにより、先の実施例の効果に加え、電極の組立が容易となり、またランプハウジング2内或いはリード32,42,62,72のそれぞれの間の絶縁が容易になる。
【0030】
図8に示す実施例では、第1のスパーカ60は陰極20の近傍に、第2のスパーカ70は陽極30の近傍に配置され、第1のスパーカ60はトリガ電極40側に、第2のスパーカ70はトリガ電極40に対向する側に配置されている。それにより、先の実施例の効果に加え、第1のスパーカ60と第2のスパーカ70が離れた位置に設置されているため、それらの組立が容易となり、フラッシュランプ1全体の組立性が向上する。
【実施例2】
【0031】
図9,10は、第2の実施例であるフラッシュランプ100の透過ガラス及びキャップを除いた状態の、陰極20、陽極30、トリガ電極40、トリガ電極50、第1のスパーカ60、第2のスパーカ70の配置を示す平面図である。フラッシュランプ100を構成するランプハウジング2、陰極20、陽極30、トリガ電極40、トリガ電極50、第1のスパーカ60、第2のスパーカ70等の構成は、第1の実施例と同様であるため説明を省略する。第2の実施例と、第1の実施例との違いは、複数のトリガ電極を備える点である。
図9,10の実施例は、陰極20と陽極30の先端の間隔(極間)が第1の実施例よりも広いフラッシュランプ100を例示したものである。このような極間が広いフラッシュランプ100の場合には、トリガ電極を2本設けることでアーク放電をし易くすることができる。
図9,10の実施例はトリガ電極を2本備えるが、3本以上備える構成としてもよい。本実施例の2本のトリガ電極を、それぞれ第1のトリガ電極40(
図3~8のトリガ電極40)、第2のトリガ電極50とする。
【0032】
図9に示す実施例において、第2のトリガ電極50は、第1のトリガ電極40と同様の構成、構造であり、その先端は陰極20と陽極30の対向する端面の小球面状部を結ぶ略線上に位置するように配置される。第1のトリガ電極40と同様に、第2のトリガ電極50にスポット溶接などで固着されたリード52がガラス質の絶縁体53を介してステム3を貫通するように植立されランプハウジング2の外側に引き出されている。第1のトリガ電極40と第2のトリガ電極50の先端を、陰極20と陽極30間のアーク放電経路の近傍に配置することにより、陰極20と陽極30間のアーク放電距離が長い場合にも安定した発光を得ることが可能である。
図9に示す実施例では、第1のスパーカ60は陰極20の近傍に、第2のスパーカ70は陽極30の近傍に配置した例を示している。第2の実施例においても、スパーカを2個設けたことによる効果は第1の実施例と同様である。
【0033】
図10に示す実施例は、第2のトリガ電極50を新たに設けた
図9の実施例と構成は同様であるが、主に第1のトリガ電極40と第2のトリガ電極50の配置を工夫し、植立されたリード42及びリード52の形状がほぼ直線状のままで第1のトリガ電極40と第2のトリガ電極50の先端部が、陰極20と陽極30の対向する端面の小球面状部を結ぶ略線上に位置になるように組み立てたものである。
図10に示すように、本実施例では第1のスパーカ60と第2のスパーカ70は陰極20の近傍に、陰極20を挟んで対向した位置に設けられている。本実施例のフラッシュランプ100も
図9に示す実施例と同様の効果を得ることができ、加えて組み立てが容易である。
【実施例3】
【0034】
図11は、本発明の第3の実施例に係るフラッシュランプ200の一部切欠き斜視図である。
図12は、フラッシュランプ200の透過ガラス及びキャップを除いた状態の背面図であり、
図13は、フラッシュランプ200の透過ガラス及びキャップを除いた状態の、陰極20、陽極30、トリガ電極40、第1のスパーカ60、第2のスパーカ70の配置を示す平面図である。第3の実施例が第1の実施例と異なる点は、ステム3及びキャップ4がコバールなどの金属ではなくガラス材質で形成されている点である。それに伴い、陰極20に溶着されているリード22はステム3に植立されて貫通させ、第1のスパーカ60及び第2のスパーカ70のそれぞれのニッケル板65,75は陰極20のリード22に電気的に接続されている。その他の構成は第1の実施例と同様であるため説明を省略する。
【0035】
ステム3とキャップ4をガラス材質とすると、陰極20と陽極30のリード棒21,31、トリガ電極40などがステム3あるいはキャップ4に接近してこれらと放電することが避けられるため、フラッシュランプ200が小径である場合に有効である。
【0036】
第3の実施例においても、スパーカを2個設けたことによる効果は第1の実施例と同様である。なお、排気管6の材質は金属でもガラスでも本発明の効果を達成できる。また、
陰極20と陽極30間のアーク放電距離が長い場合においても、実施例2と同様にトリガ電極を2個配置することにより、安定した発光を得ることができる。
【0037】
次に第1~3の実施例のフラッシュランプを点灯させる点灯装置のブロック回路図について
図14と
図15を参照して説明する。
図14は、第1の実施例又は第3の実施例のフラッシュランプを点灯させる点灯装置のブロック回路図である。
図15は、第2の実施例のフラッシュランプを点灯させる点灯装置の部分ブロック回路図である。
【0038】
先ず、
図14のブロック回路図の構成について説明する。A端子は電源入力端子、B端子は電源端子AのGND端子で、これらの端子を通して直流電力が供給される。供給電圧の範囲は、USBで使用される3.3V系からFA制御で使用される24V系が通常である。C端子は、フラッシュランプ1を点灯するパルス電圧信号入力端子である。
【0039】
フライバックトランス102の1次巻線の一端は端子Aに接続され、他端はMOSFET111のドレインに接続され、MOSFET111のソースは端子Bに接続されている。MOSFET111のON・OFFスイッチングにより、フライバックトランス102の2次巻線から逆阻止ダイオード103を介して主放電コンデンサ107がこの場合300Vから1000Vの間の所定電圧に充電される。主放電コンデンサ107の両端は、フラッシュランプ1の陽極30と陰極20が接続されアーク放電回路を形成する。
【0040】
フライバックトランス102の2次巻線の中間巻線部からは逆阻止のダイオード104
を介してトリガトランス110の1次側にパルス発生用のコンデンサ109の充電回路が形成され、その途中にはパルス発生用コンデンサ109の充電電圧を約100Vから200Vの間の一点で一定にするためのレギュレータ106が設けられている。IGBT108は、パルス発生用コンデンサの充電電荷をトリガトランス110の1次側に放電する。
【0041】
トリガトランス110の2次巻線からは約4000Vの高圧パルス電圧が出力され、直流阻止用のコンデンサ81~84は、それらの一端はトリガトランス110の2次巻線へ接続され、他端は
図14に示すようにそれぞれフラッシュランプ1の陽極30、トリガ電極40、第1のスパーカ60、第2のスパーカ70に接続されている。コンデンサ81~84には、それぞれに高抵抗の放電用の抵抗器91~94が並列に接続されている。
【0042】
図15の部分ブロック回路図において、
図14と同一機能の部分には同一の番号が付してある。
図15の部分ブロック回路図には、第2のトリガ電極50用に上記と同様の目的で直流阻止用のコンデンサ85及び高抵抗の放電用の抵抗器95と96とが追加されている。
【0043】
コントローラ101の入力は、P端子はA端子、G端子はB端子にそれぞれ接続されて給電され、IN2端子は主放電コンデンサ107の充電電圧を参照して入力している。コントローラ101の出力は、01端子はMOSFET111のゲートに接続され、02端子はIGBT108のベースに接続されている。IN1端子はC端子に接続されたフラッシュランプ1を発光させるためのパルス状のトリガ信号を入力する端子であり、コントローラ101は、トリガ信号の1発の入力に対応して1回発光するように構成されている。
【0044】
次に、
図14、
図15の動作について説明する。コントローラ101はIN1端子からパルス状のトリガ信号を入力する直前までは、IN2端子から主放電コンデンサ107の充電電圧を参照して所定値となる目標充電電圧に一致するように01端子からパルス幅制御信号をMOSFET111に出力する。
【0045】
MOSFET111のON制御によりフライバックトランス102の1次巻線が励磁され、MOSFET111のOFF制御により1次巻線の励磁が止むと、フライバックトランス102に蓄えられた磁気エネルギにより2次巻線からダイオード103,104を介して主放電コンデンサ107,109が充電される。
【0046】
主放電コンデンサ107及びパルス発生用コンデンサ109が所定電圧に充電された状態にあるときIN1端子からトリガ信号が入力されると、コントローラ101は01端子からのパルス幅制御信号出力をこの場合約500マイクロ秒間停止するので、主放電コンデンサ107及びパルス発生用コンデンサ109の充電が500マイクロ秒の間停止する。一方、この動作と並行して同時に02端子からこの場合約20マイクロ秒のパルス信号をIGBT108に出力する。すると、IGBT108がONになり、パルス発生用コンデンサ109の充電電荷によりトリガトランス110の1次巻線が励磁され、その2次巻線からは高圧で急峻な約4000Vのマイナスのスパイク電圧がコンデンサ81~84に印加される。
図15では更にコンデンサ85にも印加される。
【0047】
このスパイク電圧の印加により、陰極20を基準電位として、一斉に、陰極20と第1のスパーカ60のスパーカピン61の間、第2のスパーカ70のスパーカピン71の間、トリガ電極40の間、陽極30の間に、
図15では更に第2のトリガ電極50の間にもスパイク電圧が現れ予備放電が開始されるから、前述の作用機序で陽極30と陰極20の間でアーク放電が発生し、フラッシュランプ1が数マイクロ秒の間発光する。
【0048】
500マイクロ秒が経過する間にフラッシュランプ1の内部の不活性ガスは発光時のイオン状態から元の不活状態に復帰している。この後、コントローラ101が01端子から再びパルス幅制御信号がMOSFET111に出力するのが再開されると、IN2端子からの主放電コンデンサ107の充電電圧を参照しながら所定値となる目標充電電圧に一致するように01端子からパルス幅制御信号をMOSFET111に出力する。すると、主放電コンデンサ107及びパルス発生用コンデンサ109が所定電圧に数ミリ秒で充電され、次回のフラッシュランプ1の発光動作に備える動作が行われる。
【0049】
この後、IN1端子からトリガ信号が入力されると、上記と同様の動作順序でフラッシュランプ1が発光し、その後、主放電コンデンサ107及びトリガ用コンデンサ109が所定電圧に数ミリ秒で充電される動作の繰り返しとなる。
【0050】
以上説明した様に、本発明のフラッシュランプとその回路が構成されているため、本発明のフラッシュランプは、安定した光出力が得られ、かつ放電回数の累積により発光強度が減少することを防止できる。なお、上述した実施例のフラッシュランプは一例であり、発明の範囲を限定することは意図していない。その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0051】
1,100,200…フラッシュランプ、2…ランプハウジング、3…ステム、4…キャップ、5…透過ガラス、6…排気管、20…陰極、21,31…リード棒、22,32,42,52,62,72…リード、23,33,43,53,63,73…絶縁体、30…陽極、40…(第1の)トリガ電極、50…第2のトリガ電極、60…第1のスパーカ、61,71…スパーカピン、64,74…絶縁体、65,75…ニッケル板、70…第2のスパーカ、81~85…コンデンサ、91~96…抵抗器、101…コントローラ
、102…フライバックトランス、103~105…ダイオード、106…レギュレータ、107…主放電コンデンサ、108…IGBT、109…トリガ用コンデンサ、110…トリガトランス、111…MOSFET、A…電源端子(プラス)、B…電源端子(マイナス)、C…パルス電圧信号入力端子。
【要約】
【課題】安定した光出力が得られ、かつ放電回数の累積により発光強度が減少することを防止できるフラッシュランプを提供する。
【解決手段】本発明のフラッシュランプ1は、不活性ガスが封入され密封されたランプハウジング2と、アーク放電を生じさせる陰極20及び陽極30と、アーク放電に先立って予備放電を行うトリガ電極40と、アーク放電始動のためのイオン化を促進する複数のスパーカ60,70と、を備え、複数のスパーカ60,70はそれぞれ離間して配置される。複数のスパーカの少なくとも1個を陰極20の近傍に配置することができる。さらに、トリガ電極40を複数備えることができる。
【選択図】
図1