(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】表面処理金属部材の製造方法および加工成型金属部材用の水系表面処理剤
(51)【国際特許分類】
C23C 26/00 20060101AFI20240925BHJP
C23C 22/78 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
C23C26/00 A
C23C22/78
(21)【出願番号】P 2023529848
(86)(22)【出願日】2022-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2022023543
(87)【国際公開番号】W WO2022264949
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2024-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2021101100
(32)【優先日】2021-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【氏名又は名称】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 朗
(72)【発明者】
【氏名】三浦 裕佑
(72)【発明者】
【氏名】大竹 祐二
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/093323(WO,A1)
【文献】特表2006-519308(JP,A)
【文献】国際公開第2007/020985(WO,A1)
【文献】特開2014-208874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00-30/00
C23C 22/00-22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材を脱脂し次いで水洗して、脱脂水洗した金属部材を形成する、脱脂水洗工程、
前記脱脂水洗した金属部材を水系表面処理剤と接触させて、表面に液膜を有する金属部材を形成する、表面処理剤接触工程、および
前記表面に液膜を有する金属部材を、水洗を行うことなく乾燥させて、表面処理皮膜を有する金属部材を形成する、乾燥工程、
を含む、表面処理金属部材の製造方法であって、
前記水系表面処理剤は、水性樹脂(A)、金属化合物(B)、キレート剤(C)および水を含み、
前記水性樹脂(A)は、水性エポキシ樹脂、水性ポリウレタン樹脂および水性シリコーンオリゴマーからなる群より選択される1種以上を含み、
前記金属化合物(B)は、マグネシウム、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムからなる群より選択される1種以上の金属元素を含み、
前記キレート剤(C)は、アミノ基およびホスホン酸基からなる群より選ばれる第1の金属配位部位と、カルボキシル基およびヒドロキシ基からなる群より選択される第2の金属配位部位とを、1分子中にそれぞれ1以上有するキレート剤であり、
前記水系表面処理剤の固形分量は、前記水系表面処理剤の総質量に対して、0.01~6質量%の範囲内であ
り、
前記金属化合物(B)の金属元素の当量数をEB、前記キレート剤(C)の金属配位部位の当量数をECとしたとき、
ECに対するEBが、0.40~4.26の範囲である、
表面処理金属部材の製造方法。
【請求項2】
前記水系表面処理剤の固形分量が、前記水系表面処理剤の総質量に対して、0.01~3質量%の範囲内である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記金属部材は、加工成型部材である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記水系表面処理剤が、フッ素イオンを含まないまたは不可避的不純物としてフッ素イオンを含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記キレート剤(C)は、アルコールアミン、ヒドロキシ基含有有機ホスホン酸化合物およびカルボキシル基含有有機ホスホン酸化合物からなる群より選択される1種以上である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項6】
ECに対するEBが、0.50~4.00の範囲である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記水性樹脂(A)は、一級アミノ基、二級アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、ウレタン基およびウレイド基からなる群より選択される基を2種以上有する樹脂である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記水性樹脂(A)は、アクリル変性エポキシ樹脂、炭素-炭素不飽和結合含有ポリウレタン樹脂、芳香環構造含有ポリウレタン樹脂からなる群より選択される1種以上を含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項9】
前記キレート剤(C)は、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、エチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン四酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、1,3-ジアミノ-2-ヒドロキシプロパン四酢酸、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、および2-ホスホノブタン-1,2,4-ブタントリカルボン酸からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項10】
加工成型金属部材用の水系表面処理剤であって、
前記水系表面処理剤は、水性樹脂(A)、金属化合物(B)、キレート剤(C)および水を含み、
前記水性樹脂(A)は、水性エポキシ樹脂、水性ポリウレタン樹脂および水性シリコーンオリゴマーからなる群より選択される1種以上を含み、
前記金属化合物(B)は、マグネシウム、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムからなる群より選択される1種以上の金属元素を含み、
前記キレート剤(C)は、アルコールアミン、ヒドロキシ基含有有機ホスホン酸化合物およびカルボキシル基含有有機ホスホン酸化合物からなる群より選択される1種以上であり、
前記水系表面処理剤の固形分量は、前記水系表面処理剤の総質量に対して、0.01~6質量%の範囲内であ
り、
前記金属化合物(B)の金属元素の当量数をEB、前記キレート剤(C)の金属配位部位の当量数をECとしたとき、
ECに対するEBが、0.40~4.26の範囲である、水系表面処理剤。
【請求項11】
前記水系表面処理剤の固形分量が、前記水系表面処理剤の総質量に対して、0.01~3質量%の範囲内である、請求項10に記載の水系表面処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理金属部材の製造方法および加工成型金属部材用の水系表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材の表面に塗装する場合、通常、塗装前の金属部材を化成処理して金属部材の表面に化成皮膜を形成し、金属部材に耐食性、塗膜密着性などを付与することが行われている。
【0003】
化成処理としては、リン酸塩系の化成処理が一般に使用されている。また、近年では環境負荷低減型の化成処理として、ニッケルなどの有害な重金属を含まないジルコニウム系の化成処理も使用され始めている。
【0004】
例えば、特許文献1では、リン酸塩系化成処理を施す前の金属の表面調整に用いられる表面調整用組成物が開示されている。
【0005】
特許文献2では、ジルコニウム、フッ素、及び可溶性エポキシ樹脂を含む金属表面処理用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-297709号公報
【文献】特開2013-053326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の表面調整用組成物と特許文献2の金属表面処理用組成物は、いずれも、金属材料表面と化成処理液との化学反応によって皮膜を形成するものであり、このような表面処理剤を用いた表面処理プロセスでは、表面処理剤を常温で使用できない;副生成物である化成スラッジが発生する;化成処理後に1回またはそれ以上の水洗工程が必要になる;処理時間または処理工程が多くなり多大な設備やコストが必要となる、などの課題があった。
【0008】
そこで、本発明は、従来技術と同等の耐食性および塗膜密着性を達成しながら、化成反応にて生成するスラッジ(以下、単に「化成スラッジ」ということがある)の量を低減することができる、表面処理金属部材の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明の別の目的は、従来技術と同等の耐食性および塗膜密着性を達成しながら、化成スラッジの量を低減することができる、加工成型金属部材用の水系表面処理剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る表面処理金属部材の製造方法は、
金属部材を脱脂し次いで水洗して、脱脂水洗した金属部材を形成する、脱脂水洗工程、
前記脱脂水洗した金属部材を水系表面処理剤と接触させて、表面に液膜を有する金属部材を形成する、表面処理剤接触工程、および
前記表面に液膜を有する金属部材を、水洗を行うことなく乾燥させて、表面処理皮膜を有する金属部材を形成する、乾燥工程、
を含む、表面処理金属部材の製造方法であって、
前記水系表面処理剤は、水性樹脂(A)、金属化合物(B)、キレート剤(C)および水を含み、
前記水性樹脂(A)は、水性エポキシ樹脂、水性ポリウレタン樹脂および水性シリコーンオリゴマーからなる群より選択される1種以上を含み、
前記金属化合物(B)は、マグネシウム、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムからなる群より選択される1種以上の金属元素を含み、
前記キレート剤(C)は、アミノ基およびホスホン酸基からなる群より選ばれる第1の金属配位部位と、カルボキシル基およびヒドロキシ基からなる群より選択される第2の金属配位部位とを、1分子中にそれぞれ1以上有するキレート剤であり、
前記水系表面処理剤の固形分量は、前記水系表面処理剤の総質量に対して、0.01~6質量%の範囲内である、表面処理金属部材の製造方法である。これにより、化成処理槽の加温や化成処理後の水洗を省略しても、従来技術と同等の耐食性および塗膜密着性の達成が可能である。
【0011】
本発明に係る製造方法の一実施形態では、前記水系表面処理剤の固形分量が、前記水系表面処理剤の総質量に対して、0.01~3質量%の範囲内である。
【0012】
本発明に係る製造方法の一実施形態では、前記金属部材は、加工成型部材である。
【0013】
本発明に係る製造方法の一実施形態では、前記水系表面処理剤のフッ素イオン含有量が0.005質量%未満である。
【0014】
本発明に係る製造方法の一実施形態では、前記キレート剤(C)は、アルコールアミン、ヒドロキシ基含有有機ホスホン酸化合物およびカルボキシル基含有有機ホスホン酸化合物からなる群より選択される1種以上である。
【0015】
本発明に係る製造方法の一実施形態では、前記金属化合物(B)の金属元素の当量数をEB、前記キレート剤(C)の金属配位部位の当量数をECとしたとき、
ECに対するEBが、0.50~4.00の範囲である。
【0016】
本発明に係る製造方法の一実施形態では、前記水性樹脂(A)は、一級アミノ基、二級アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、ウレタン基およびウレイド基からなる群より選択される基を2種以上有する樹脂である。
【0017】
本発明に係る製造方法の一実施形態では、前記水性樹脂(A)は、アクリル変性エポキシ樹脂、炭素-炭素不飽和結合含有ポリウレタン樹脂、芳香環構造含有ポリウレタン樹脂からなる群より選択される1種以上を含む。
【0018】
本発明に係る製造方法の一実施形態では、前記キレート剤(C)は、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、エチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン四酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、1,3-ジアミノ-2-ヒドロキシプロパン四酢酸、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、および2-ホスホノブタン-1,2,4-ブタントリカルボン酸からなる群から選択される1種以上を含む。
【0019】
本発明に係る水系表面処理剤は、加工成型金属部材用の水系表面処理剤であって、
前記水系表面処理剤は、水性樹脂(A)、金属化合物(B)、キレート剤(C)および水を含み、
前記水性樹脂(A)は、水性エポキシ樹脂、水性ポリウレタン樹脂および水性シリコーンオリゴマーからなる群より選択される1種以上を含み、
前記金属化合物(B)は、マグネシウム、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムからなる群より選択される1種以上の金属元素を含み、
前記キレート剤(C)は、アルコールアミン、ヒドロキシ基含有有機ホスホン酸化合物およびカルボキシル基含有有機ホスホン酸化合物からなる群より選択される1種以上であり、
前記水系表面処理剤の固形分量は、前記水系表面処理剤の総質量に対して、0.01~6質量%の範囲内である、水系表面処理剤である。これにより、化成処理槽の加温や化成処理後の水洗を省略しても、従来技術と同等の耐食性および塗膜密着性の達成が可能である。
【0020】
本発明に係る水系表面処理剤の一実施形態では、前記水系表面処理剤の固形分量が、前記水系表面処理剤の総質量に対して、0.01~3質量%の範囲内である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、従来技術と同等の耐食性および塗膜密着性を達成しながら、化成スラッジの量を低減することができる、表面処理金属部材の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、従来技術と同等の耐食性および塗膜密着性を達成しながら、化成スラッジの量を低減することができる、加工成型金属部材用の水系表面処理剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。これらの記載は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0023】
本発明において、2以上の実施形態を任意に組み合わせることができる。
【0024】
本発明において、皮膜と塗膜は相互互換的に用いることができる。
【0025】
本発明において、用語「固形分」は、固形分、不揮発分および有効成分を包括する概念である。
【0026】
本明細書において、数値範囲は、別段の記載がない限り、その範囲の上限値および下限値を含むことを意図している。例えば、0.01~6質量%は、0.01質量%以上6質量%以下の範囲を意味する。
【0027】
本明細書では、水性樹脂(A)、金属化合物(B)、キレート剤(C)を、それぞれ、単に「A成分」、「B成分」、「C成分」ということがある。
【0028】
本明細書では、表面処理剤接触工程を単に「接触工程」ということがある。
【0029】
本発明では、一級アミノ基は、「-NH2」を指し、二級アミノ基は「>NH」を指し、ウレタン基は、「-NH-(C=O)-O-で表される構造」を指し、ウレイド基は、「-NH-(C=O)-NH-で表される構造」を指す。
【0030】
本明細書では、(メタ)アクリル酸は、「アクリル酸およびメタクリル酸からなる群より選択される1種以上」を意味する。
【0031】
(表面処理金属部材の製造方法)
本発明に係る表面処理金属部材の製造方法は、
金属部材を脱脂し次いで水洗して、脱脂水洗した金属部材を形成する、脱脂水洗工程、
前記脱脂水洗した金属部材を水系表面処理剤と接触させて、表面に液膜を有する金属部材を形成する、表面処理剤接触工程、および
前記表面に液膜を有する金属部材を、水洗を行うことなく乾燥させて、表面処理皮膜を有する金属部材を形成する、乾燥工程、
を含む、表面処理金属部材の製造方法であって、
前記水系表面処理剤は、水性樹脂(A)、金属化合物(B)、キレート剤(C)および水を含み、
前記水性樹脂(A)は、水性エポキシ樹脂、水性ポリウレタン樹脂および水性シリコーンオリゴマーからなる群より選択される1種以上を含み、
前記金属化合物(B)は、マグネシウム、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムからなる群より選択される1種以上の金属元素を含み、
前記キレート剤(C)は、アミノ基およびホスホン酸基からなる群より選ばれる第1の金属配位部位と、カルボキシル基およびヒドロキシ基からなる群より選択される第2の金属配位部位とを、1分子中にそれぞれ1以上有するキレート剤であり、
前記水系表面処理剤の固形分量は、前記水系表面処理剤の総質量に対して、0.01~6質量%の範囲内である、表面処理金属部材の製造方法である。
【0032】
以下、本発明に係る表面処理金属部材の製造方法の各工程について説明する。
【0033】
・脱脂水洗工程
脱脂水洗工程では、金属部材を脱脂し次いで水洗して、脱脂水洗した金属部材を形成する。脱脂によって金属部材表面に付着している油分または汚れを除去する。また、脱脂後の水洗によって脱脂処理後の金属部材表面の脱脂剤を除去する。
【0034】
金属部材は、特に限定されず、公知の金属部材を用いることができる。金属部材は、例えば、鉄系基材、アルミニウム系基材、亜鉛系基材、マグネシウム系基材などが挙げられる。鉄系基材とは、基材が鉄および鉄合金からなる群より選択される1種以上である基材を指す。アルミニウム系基材とは、基材がアルミニウムおよびアルミニウム合金からなる群より選択される1種以上である基材を指す。亜鉛系基材とは、基材が亜鉛および亜鉛合金からなる群より選択される1種以上である基材を指す。マグネシウム系基材とは、基材がマグネシウムおよびマグネシウム合金からなる群より選択される1種以上である基材を指す。
【0035】
本発明に係る製造方法の一実施形態では、前記金属部材は、加工成型部材である。加工成型部材としては、例えば、レーザー加工、プレス加工などがされた加工成型部材などが挙げられる。
【0036】
脱脂の手法は、特に限定されず、例えば、特許文献2に記載の脱脂剤および脱脂条件を採用することができる。
【0037】
・表面処理剤接触工程
表面処理剤接触工程では、脱脂水洗した金属部材を水系表面処理剤と接触させて、表面に液膜を有する金属部材を形成する。
【0038】
・水系表面処理剤
本発明の製造方法で用いる水系表面処理剤は、水性樹脂(A)、金属化合物(B)、キレート剤(C)および水を含み、
前記水性樹脂(A)は、水性エポキシ樹脂、水性ポリウレタン樹脂および水性シリコーンオリゴマーからなる群より選択される1種以上を含み、
前記金属化合物(B)は、マグネシウム、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムからなる群より選択される1種以上の金属元素を含み、
前記キレート剤(C)は、アミノ基およびホスホン酸基からなる群より選ばれる第1の金属配位部位と、カルボキシル基およびヒドロキシ基からなる群より選択される第2の金属配位部位とを、1分子中にそれぞれ1以上有するキレート剤であり、
前記水系表面処理剤の固形分量は、前記水系表面処理剤の総質量に対して、0.01~6質量%の範囲内である。
【0039】
・A成分
A成分は、水性エポキシ樹脂、水性ポリウレタン樹脂および水性シリコーンオリゴマーからなる群より選択される1種以上を含む。金属部材に対する化成処理皮膜の耐食性の観点から、A成分は水性エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0040】
水性エポキシ樹脂の好ましい態様として、アクリル変性エポキシ樹脂が挙げられる。アクリル変性エポキシ樹脂が含まれることによって、金属部材に対する化成処理皮膜の良好な密着性を確保することができる利点がある。
【0041】
アクリル変性エポキシ樹脂の市販品として、例えば、荒川化学工業社製の商品名「モデピクス 301」、「モデピクス 302」、「モデピクス 303」、「モデピクス 304」などが挙げられる。
【0042】
水性エポキシ樹脂は、上記の他、例えば、特許文献1、特開2005-008975号公報などに記載の水性エポキシ樹脂を用いることができる。
【0043】
水性エポキシ樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
水性ポリウレタン樹脂は、特に限定されず、例えば、特開2005-008975号公報などに記載の水性ポリウレタン樹脂を用いることができる。
【0045】
一実施形態では、A成分は、分子内に炭素-炭素不飽和結合および芳香環構造からなる群より選択される1種以上を有する。
【0046】
本発明に係る製造方法の一実施形態では、前記水性樹脂(A)は、一級アミノ基(-NH2)、二級アミノ基(>NH)、カルボキシル基、ヒドロキシ基、ウレタン基およびウレイド基からなる群より選択される基を2種以上有する樹脂である。化成処理皮膜の耐食性を高める観点から、前記官能基2種以上を有する樹脂であることが好ましい。
【0047】
水性ポリウレタン樹脂としては特に限定されず、例えば、ポリオール化合物とジイソシアネート化合物とを反応させ、さらにジアミンなどで鎖延長し、水分散化させて得られたものなどを例示できる。
【0048】
水性ポリウレタン樹脂として市販品を用いてもよい。市販品として、例えば、ADEKA社製の商品名「HUX-320」、「HUX-550」;第一工業製薬社製の「スーパーフレックス(登録商標)」、および、DIC社製の「ハイドラン(登録商標)」などが挙げられる。
【0049】
水性ポリウレタン樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
水性シリコーンオリゴマーとしては、特に限定されず、例えば、特許第6058843号に記載のシリコーンオリゴマー(A)などを用いることができる。
【0051】
シリコーンオリゴマーは市販されているものを用いてもよい。市販品として、例えば、信越化学社製の商品名「KC-89」、「KR-500」、「X-40-9225」、「X-40-9246」、「X-40-9250」などのメチルメトキシ系オリゴマー;「KR-217」などのフェニルメトキシ系オリゴマー;「KBM-903」の縮合物などのアミノシランオリゴマー「KR-9218」、「KR-213」、「KR-510」、「X-40-9227」、「X-40-9247」、「KR-401N」などのメチル/フェニルメトキシ系オリゴマー;シリコーンワッカー社製の商品名「MSE-100」などのメチルメトキシ系オリゴマーなどが挙げられる。
【0052】
水性シリコーンオリゴマーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
本発明に係る製造方法の一実施形態では、前記水性樹脂(A)は、アクリル変性エポキシ樹脂、炭素-炭素不飽和結合含有ポリウレタン樹脂、芳香環構造含有ポリウレタン樹脂からなる群より選択される1種以上を含む。
【0054】
A成分の量は、適宜調節すればよく、例えば、水系表面処理剤中の全固形分に対して20~80質量%である。一実施形態では、A成分の量は、水系表面処理剤中の全固形分に対して、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上または70質量%以上である。別の実施形態では、A成分の量は、水系表面処理剤中の全固形分に対して、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下または30質量%以下である。
【0055】
・B成分
B成分は、マグネシウム、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムからなる群より選択される1種以上の金属元素を含む。B成分は、A成分と共に良好な耐食性を付与する働きを有する。
【0056】
B成分として、例えば、上記金属元素を含む、炭酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、酸化物、水酸化物、有機酸塩、錯化合物などが挙げられる。B成分は、単塩であってもよく、複塩であってもよい。
【0057】
マグネシウムを含むB成分の例として、例えば、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、酸化マグネシウムなどが挙げられる。
【0058】
アルミニウムを含むB成分の例として、例えば、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、酸化アルミニウムなどが挙げられる。
【0059】
チタンを含むB成分の例として、例えば、硝酸チタン、硝酸チタニル、硫酸チタニル、硫酸チタン、酸化チタン、ジイソプロポキシチタニウムビスアセチルアセトン、乳酸およびチタニウムアルコキシドの反応物、チタンラウレート、チタニウムアセチルアセトネート、チタン酸バリウムなどが挙げられる。
【0060】
ジルコニウムを含むB成分の例として、例えば、硝酸ジルコニル、酢酸ジルコニル、酢酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニル、硫酸チタン、塩基性硫酸ジルコニウム、オキシリン酸ジルコニウム、リン酸ジルコニウム、リン酸ジルコニウムナトリウム、炭酸ジルコニルアンモニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、塩基性炭酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニウム酸カルシウムなどが挙げられる。
【0061】
B成分として、ジルコニウムを含む金属化合物が好適に用いることができ、例えば炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウムなどが特に好適に用いることができる。
【0062】
B成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
B成分の量は、適宜調節すればよく、例えば、水系表面処理剤中の全固形分に対して10~70質量%である。一実施形態では、B成分の量は、水系表面処理剤中の全固形分に対して、10質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上または60質量%以上である。別の実施形態では、B成分の量は、水系表面処理剤中の全固形分に対して、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下または20質量%以下である。
【0064】
本発明に係る製造方法の一実施形態では、前記金属化合物(B)の金属元素の当量数をEB、前記キレート剤(C)の金属配位部位の当量数をECとしたとき、ECに対するEBが、0.50~4.00の範囲である。
【0065】
ECに対するEBの計算の一例を後述する実施例1を基に説明する。B成分である炭酸ジルコニウムアンモニウム(NH4)2ZrO(CO3)2は、263.33g/molとして扱い、ジエタノールアミンは、105.14g/molとして扱う。実施例1の(NH4)2ZrO(CO3)2:99.6質量部は、99.6/263.33=0.378mol=378mmolである。ここで、1molの(NH4)2ZrO(CO3)2中に、Zrは1mol含まれているから、EBは、378mmolである。一方、実施例1でジエタノールアミン:9.9質量部(有効成分換算)は、9.9/105.14=0.0942mol=94.2mmolである。ジエタノールアミンの金属配位部位数は3(ヒドロキシ基2、NH基1)であるから、金属配位部位のモル数、すなわち、ECは、94.2mmol×3=282.6mmolである。そうすると、EB/EC=378/282.6=1.337=約1.34となる。
【0066】
・C成分
C成分は、アミノ基およびホスホン酸基からなる群より選ばれる第1の金属配位部位と、カルボキシル基およびヒドロキシ基からなる群より選択される第2の金属配位部位とを、1分子中にそれぞれ1以上有するキレート剤である。
【0067】
好ましく用いることができるキレート剤として、例えば、アルコールアミン、ヒドロキシ基含有有機ホスホン酸化合物、カルボキシル基含有有機ホスホン酸化合物などが挙げられる。
【0068】
アルコールアミンとして、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-ブチルエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、ジメチルエタノールアミン、ジブチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミンなどが挙げられる。
【0069】
ヒドロキシ基含有有機ホスホン酸化合物として、例えば、ヒドロキシメタンジホスホン酸、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、1-ヒドロキシプロパン-1,1-ジホスホン酸などが挙げられる。
【0070】
カルボキシル基含有有機ホスホン酸化合物として、例えば、2-ヒドロキシホスホノ酢酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-ブタントリカルボン酸などが挙げられる。
【0071】
本発明に係る製造方法の一実施形態では、前記キレート剤(C)は、アルコールアミン、ヒドロキシ基含有有機ホスホン酸化合物およびカルボキシル基含有有機ホスホン酸化合物からなる群より選択される1種以上である。
【0072】
C成分として、アルコールアミンが特に好適に用いることができる。
【0073】
本発明に係る製造方法の一実施形態では、前記キレート剤(C)は、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、エチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン四酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、1,3-ジアミノ-2-ヒドロキシプロパン四酢酸、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、および2-ホスホノブタン-1,2,4-ブタントリカルボン酸からなる群から選択される1種以上を含む。
【0074】
C成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
C成分の量は、適宜調節すればよく、例えば、水系表面処理剤中の全固形分に対して2~30質量%である。一実施形態では、C成分の量は、水系表面処理剤中の全固形分に対して、2質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上または25質量%以上である。別の実施形態では、C成分の量は、水系表面処理剤中の全固形分に対して、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下または5質量%以下である。
【0076】
水系表面処理剤は、水を含む。水の量は、水系表面処理剤の固形分が、水系表面処理剤の総質量に対して、0.01~6質量%の範囲内となる量とすることができる。水系表面処理剤は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、有機溶剤を含有することができる
【0077】
水系表面処理剤の固形分量は、水系表面処理剤の総質量に対して、0.01~6質量%の範囲内となる量である。好ましくは、0.1~3質量%または0.1~1質量%である。
【0078】
水系表面処理剤は、フッ素イオンを含まないことも可能である。また、水系表面処理剤は、不可避的不純物としてフッ素イオンを含むこともある。
【0079】
本発明に係る製造方法の一実施形態では、前記水系表面処理剤が、フッ素イオンを含まないまたは不可避的不純物としてフッ素イオンを含む。
【0080】
脱脂水洗した金属部材を水系表面処理剤と接触させる手法は、特に限定されず、例えば、浸漬法、スプレー法、ロールコート法、バーコート法などが挙げられる。あるいは、水系表面処理剤を、脱脂水洗した金属部材にかけ流して接触させてもよい。
【0081】
脱脂水洗した金属部材を水系表面処理剤と接触させる条件は、温度、時間ともに特に限定されない。接触させる際の水系表面処理剤の温度としては、例えば、外気温度と同じく10~40℃とすることができる。接触させる際の時間としては、適用する設備や部材等の条件に応じて任意に設定でき、例えば、10~30秒とすることができる。
【0082】
本発明では、上記水系表面処理剤を用いることによって、接触工程における水系表面処理剤の温度を従来よりも低い、常温などの温度とすることができる。寒冷環境下で水系表面処理剤が凍結する場合に、水系表面処理剤を融解させるための必要最低限の加温を行ってもよいが、通常環境下では水系表面処理剤を加温しなくともよい。一実施形態では、接触工程において、水系表面処理剤の温度を40℃以上、38℃以上または35℃以上に維持する加温手段を伴わない。
【0083】
接触工程で金属部材の表面に形成される液膜の固形分量は、例えば、0.01~6質量%の範囲内である。
【0084】
前記表面処理剤接触工程で形成された液膜の固形分量は、いずれも0.01~6質量%の範囲内である。
【0085】
・乾燥工程
乾燥工程では、表面に液膜を有する金属部材を、水洗を行うことなく乾燥させて、表面処理皮膜を有する金属部材を形成する。水洗を行うことなく乾燥させることによって、排水コストおよび産業廃棄物コストを削減することができる。また、本発明は化成反応にて生成するスラッジが発生しない。
【0086】
従来の反応型化成処理では、水洗を行わない場合に以下の3つの不具合があり、その不具合を回避するため水洗を行う。不具合の1つ目として、反応性化成処理液が金属部材表面に残存することによって皮膜反応が制御できず、目的とする皮膜が得られないこと;不具合の2つ目として、一般的な反応型化成処理剤は酸性であり、鋼板などの金属部材表面に残存することによって工程錆が発生すること;不具合の3つ目として、反応型化成処理は処理時に化成スラッジが生成し、金属部材表面に付着するが、付着によって化成後の塗装の外観異常に繋がることが挙げられる。
【0087】
これに対して、本発明では、上記水系表面処理剤は非反応型であり、表面処理皮膜の形成に化成反応を伴わない。化成反応を伴わないため、化成反応にて生成するスラッジが発生しない。そのため、本発明の製造方法では、上述した従来の反応型化成処理で必要とされる水洗が不要となる。
【0088】
表面処理剤塗布後の乾燥温度、乾燥時間は特に制限されず、皮膜に不要な成分が蒸発(例えば、水分や有機溶剤など)する温度、時間であれば構わない。例えば、温風乾燥機(エスペック社製「PHH-202など」)を用いて、100℃の乾燥機内で3分間乾燥する、などの方法をとることができる。また、必要に応じて、乾燥前にエアブローなどを行って余剰分の処理液を除いてから乾燥させても良い。
【0089】
乾燥によって形成される表面処理皮膜の乾燥膜厚は、特に限定されず、例えば、0.001~1.0μmである。一実施形態では、表面処理皮膜の乾燥膜厚は、0.002~1.0μmまたは0.002~0.5μmである。別の実施形態では、表面処理皮膜の乾燥膜厚は、0.002μm以上、0.005μm以上、0.010μm以上、0.050μm以上、0.100μm以上、0.500μm以上または1.000μm以上である。さらに別の実施形態では、表面処理皮膜の乾燥膜厚は、2.000μm以下、1.000μm以下、0.500μm以下、0.100μm以下、0.050μm以下、0.010μm以下または0.005μm以下である。
【0090】
・その他の工程
本発明の表面処理金属部材の製造方法では、脱脂水洗工程、接触工程および乾燥工程に加えて、任意に他の工程を含んでいてもよい。他の工程としては、例えば、乾燥工程後に、金属部材上に、または表面処理皮膜上に、塗料組成物を塗装して塗膜を形成する、塗装工程などが挙げられる。
【0091】
塗装工程で用いる塗料組成物は、特に限定されず、用途などに応じて適宜選択すればよい。
【0092】
塗装工程における塗装手法は、特に限定されず、浸漬法、スプレー法、ロールコート法、バーコート法、刷毛塗り、ローラー塗りなど公知の塗装手法を用いることができる。一実施形態では、塗装工程における塗装手法は、スプレー法である。
【0093】
(水系表面処理剤)
本発明に係る水系表面処理剤は、加工成型金属部材用の水系表面処理剤であって、
前記水系表面処理剤は、水性樹脂(A)、金属化合物(B)、キレート剤(C)および水を含み、
前記水性樹脂(A)は、水性エポキシ樹脂、水性ポリウレタン樹脂および水性シリコーンオリゴマーからなる群より選択される1種以上を含み、
前記金属化合物(B)は、マグネシウム、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムからなる群より選択される1種以上の金属元素を含み、
前記キレート剤(C)は、アルコールアミン、ヒドロキシ基含有有機ホスホン酸化合物およびカルボキシル基含有有機ホスホン酸化合物からなる群より選択される1種以上であり、
前記水系表面処理剤の固形分量は、前記水系表面処理剤の総質量に対して、0.01~6質量%の範囲内である、水系表面処理剤である。
【0094】
上記表面処理金属部材の製造方法の接触工程で説明した水系表面処理剤(以下、「第1の水系表面処理剤」ということがある)と、本発明に係る水系表面処理剤(以下、「第2の水系表面処理剤」ということがある)は、C成分において広狭の違いがあるが、その他の成分および量などは同様である。より具体的には、第1の水系表面処理剤では、C成分が、アミノ基およびホスホン酸基からなる群より選ばれる第1の金属配位部位と、カルボキシル基およびヒドロキシ基からなる群より選択される第2の金属配位部位とを、1分子中にそれぞれ1以上有するキレート剤であるのに対し、第2の水系表面処理剤では、C成分が、アルコールアミン、ヒドロキシ基含有有機ホスホン酸化合物およびカルボキシル基含有有機ホスホン酸化合物からなる群より選択される1種以上であり、第1の水系表面処理剤のC成分の方が、第2の水系表面処理剤のC成分よりも上位概念で広い。
【0095】
第2の水系表面処理剤のC成分であるアルコールアミン、ヒドロキシ基含有有機ホスホン酸化合物およびカルボキシル基含有有機ホスホン酸化合物からなる群より選択される1種以上は、第1の水系表面処理剤のC成分で説明したとおりである。
【0096】
第2の水系表面処理剤は、加工成型金属部材の表面処理用である。加工成型金属部材としては、例えば、レーザー加工、プレス加工などがされた加工成型金属部材が挙げられる。
【0097】
本発明の水系表面処理剤には、A~C成分以外にも、その目的を損なわない範囲で、無機系あるいは有機系の一般的な防錆剤や表面調整剤などの添加剤を使用してもよい。このような添加剤の例としてはイミダゾールやベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0099】
実施例で使用した水系表面処理剤の材料は以下のとおりである。
・A成分
水性エポキシ樹脂:DIC社製の商品名「EPICLON(登録商標) H-502-42W」、水性変性フェノキシ樹脂、固形分39~43質量%、ヒドロキシ基とカルボキシル基を有する、表1および2では、「エピクロン」と表記
水性エポキシ樹脂:荒川化学工業社製の商品名「MODEPICS(登録商標) 301」、固形分32~34%、ヒドロキシ基とカルボキシル基を有する、表1および2では、「モデピクス」と表記
水性ポリウレタン樹脂:ADEKA社製の商品名「HUX-320」、固形分30~34%、ウレタン基とカルボキシル基を有する芳香環構造含有ポリウレタン樹脂表1では、「HUX320」と表記
水性ポリウレタン樹脂:ADEKA社製の商品名「HUX-550」、固形分26.5~29.5%、ウレタン基とカルボキシル基を有する芳香環構造含有ポリウレタン樹脂、表1では、「HUX550」と表記
水性シリコーンオリゴマー:信越化学工業社製の商品名「KBM-903」の加水分解縮合物の溶液、固形分20%、ヒドロキシ基と一級アミノ基を有する、表1では、「903縮合物」と表記
・比較A成分
・アクリル樹脂:サイデン化学社製の商品名「NP-900A」、固形分47~49%、表2では、「900A」と表記
・B成分
炭酸ジルコニウムアンモニウム:第一稀元素化学工業社製の商品名「ジルコゾールAC-7」、(NH4)2ZrO(CO3)2、固形分29%、表1および2では、「AC-7」と表記
硝酸ジルコニル:第一稀元素化学工業社製の商品名「EKZ-5」、ZrO(NO3)2、固形分40%、表1では、「ZN」と表記
チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート):マツモトファインケミカル社製の商品名「オルガチックス TC-400」、Ti(O-i-C3H7)2(C6H14O3N)2、固形分79%、表1では、「TC400」と表記
酢酸アルミニウム:富士フイルム和光純薬社製の試薬「塩基性酢酸アルミニウム」、Al(OH)(CH3COO)2、固形分100%、表1では、「酢酸Al」と表記
酸化マグネシウム:富士フイルム和光純薬社製の試薬「酸化マグネシウム」、MgO、固形分100%、表1では、「MgO」と表記
・C成分
ジエタノールアミン:富士フイルム和光純薬社製の試薬「ジエタノールアミン」、アルコールアミン、分子量105.14、第1の金属配位部位としてアミノ基を1個、第2の金属配位部位としてヒドロキシ基を2個有する;有効成分濃度99%以上、表1および2では、「ジエタノールアミン」と表記
トリエタノールアミン:富士フイルム和光純薬社製の試薬「2,2’,2”-ニトリロトリエタノール」、アルコールアミン、分子量149.19、第1の金属配位部位としてアミノ基を1個、第2の金属配位部位としてヒドロキシ基を3個有する;有効成分濃度98%以上、表1および2では、「トリエタノールアミン」と表記
1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸:キレスト社製の商品名「PH-210」、分子量206.03、第1の金属配位部位としてホスホン酸基を2個、第2の金属配位部位としてヒドロキシ基を1個有する;固形分60%、表1では、「HEDP」と表記
2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸:キレスト社製の商品名「PH-430」、分子量270.13、第1の金属配位部位としてホスホン酸基を1個、第2の金属配位部位としてカルボキシル基を3個有する;固形分50%、表1では、「PBTC」と表記
・比較C成分
クエン酸:富士フイルム和光純薬社製、分子量192.123、固形分100%、表2では、「CA」と表記
アセチルアセトン:富士フイルム和光純薬社製、分子量100.117、有効成分濃度99%以上、表2では、「AA」と表記
・リン酸亜鉛処理用表面処理剤:日本ペイント・サーフケミカルズ社製の商品名「サーフダイン6350」
【0100】
その他の材料は以下のとおりである。
脱脂剤:日本ペイント・サーフケミカルズ社製の商品名「サーフクリーナー53NF」
表面調整剤:日本ペイント・サーフケミカルズ社製の商品名「サーフファインGL1」
粉体塗料:日本ペイント・インダストリアルコーティングス社製の商品名「ビリューシアPL1000」
金属部材:冷延鋼板(SPC270D、パルテック社製)
セロハンテープ:ニチバン社製の商品名「セロテープ(登録商標)」
【0101】
・実施例1~17および比較例1~3
表1および2に示す配合で各成分と水を混合して水系表面処理剤を調製した。各成分の量は、固形分の質量部である。また、その水系表面処理剤の固形分量を表1および2に合わせて示す。また、C成分の金属配位部位の当量数ECに対するB成分の金属元素の当量数EBの値を表1および2に合わせて示す。実施例1~17および比較例1~3の水系表面処理剤の調製では、フッ素イオンを添加しなかった。
【0102】
・比較例4の表面処理剤として、リン酸亜鉛処理用表面処理剤であるサーフダイン6350を用いた。
【0103】
【0104】
【0105】
・脱脂水洗工程
金属部材である冷延鋼板を、温度40℃に加温した脱脂剤に120秒間浸漬して脱脂し、次いで、水道水で十分に水洗して、脱脂水洗した金属部材を得た。
【0106】
・表面処理剤接触工程
脱脂水洗した金属部材に対して、実施例1で調製した水系表面処理剤を加温せず室温25℃で30秒間スプレーし、金属部材を水系表面処理剤と接触させ、金属部材の表面に水系表面処理剤の液膜を形成した。
【0107】
・乾燥工程
表面に液膜を有する金属部材を水洗せずに温度100℃の乾燥機内で乾燥させて、表面処理皮膜を有する金属部材を得た。表面処理皮膜の乾燥膜厚は、0.06μmであった。
【0108】
・塗装工程
次いで、表面処理皮膜上に粉体塗料を乾燥膜厚60μm以上となるようにスプレーで塗装し、乾燥して、塗膜を形成した。
【0109】
実施例2~17および比較例1~3では、実施例1の水系表面処理剤を各実施例または比較例の水系表面処理剤に代えたこと以外は、実施例1と同様に4つの工程を行い、金属部材側から順に表面処理皮膜と塗膜を形成した。表面処理皮膜の乾燥膜厚は、実施例17を除いていずれも0.002~0.5μmの範囲内であった。実施例17の表面処理皮膜の乾燥膜厚は、0.002~1.0μmの範囲内であった。
【0110】
比較例4では、実施例1と同様に脱脂水洗工程を行った。次いで、表面調整剤を用いて、室温で30秒間、浸漬法で表面調整処理を行った。次いで、リン酸亜鉛処理剤を用いて、35℃で2分間、浸漬法で化成処理を行った。次いで、水道水で十分に水洗処理した後、同様に純水で十分に水洗処理を行った。次いで、実施例1と同様に乾燥工程および塗装工程を行い、金属部材側から順に表面処理皮膜と塗膜を形成した。表面処理皮膜の乾燥膜厚は、2μmであった。比較例4では、リン酸亜鉛処理剤を用いた化成処理の際に、スラッジが発生した。
【0111】
各実施例および比較例で得られた表面処理皮膜と塗膜を有する金属部材に対して、以下のように試験を行い、耐食性と塗膜密着性を評価した。その結果を表1および2に示す。
【0112】
・耐食性の試験板の作製
金属部材の塗膜表面に十字状のクロスカット(カット長さ5cm)を入れて、試験板を作製した。
【0113】
・耐食性(SST)試験
試験板に対して、JIS Z 2371:2015の条件で、塩水噴霧試験(SST)を500時間まで実施した。そして、クロスカット部にセロハンテープを貼り、そのセロハンテープを剥がし、クロスカット部からの片側の最大剥離幅を測定した。そして、以下の基準で点数を付けた。4点および5点が合格である。
5点:剥離なし
4点:剥離があり、最大剥離幅が3mm未満
3点:最大剥離幅が3mm以上5mm未満
2点:最大剥離幅が5mm以上10mm未満
1点:最大剥離幅が10mm以上
【0114】
・耐食性(CCT)試験
試験板に対して、JASO M609の条件で、複合サイクル試験(CCT)を500時間まで実施した。そして、クロスカット部からの最大ふくれ幅を測定した。そして、以下の基準で点数を付けた。4点および5点が合格である。
5点:ふくれがあり、最大ふくれ幅が3mm未満
4点:最大ふくれ幅が3mm以上5mm未満
3点:最大ふくれ幅が5mm以上7mm未満
2点:最大ふくれ幅が7mm以上10mm未満
1点:最大ふくれ幅が10mm以上
【0115】
・耐食性(SDT)試験
試験板に対して、NaCl濃度3%の塩水、25℃の条件で、塩水浸漬試験(SDT)を500時間まで実施した。そして、SST試験と同様にクロスカット部からの片側の最大剥離幅を測定した。そして、以下の基準で点数を付けた。4点および5点が合格である。
5点:剥離なし
4点:剥離があり、最大剥離幅が3mm未満
3点:最大剥離幅が3mm以上5mm未満
2点:最大剥離幅が5mm以上10mm未満
1点:最大剥離幅が10mm以上
【0116】
・塗膜密着性の試験板の作製
金属部材の塗膜表面に、1mm間隔で100マスとなるように、碁盤の目状の傷を入れて、試験板を作製した。
【0117】
・塗膜密着性試験
試験板の傷部に対して、セロハンテープを貼り、そのセロハンテープを剥がし、試験板に剥離せずに残存した1mm角の塗膜の数を計測した。そして、以下の基準で点数を付けた。4点および5点が合格である。
5点:残存した塗膜の数が100個
4点:残存した塗膜の数が80個以上100個未満
3点:残存した塗膜の数が60個以上80個未満
2点:残存した塗膜の数が40個以上60個未満
1点:残存した塗膜の数が40個未満
【0118】
・貯蔵安定性試験
実施例および比較例で得られた水系表面処理剤と比較例4のリン酸亜鉛処理用表面処理剤を40℃の恒温槽中に30日間静置した。次いで、その処理剤のゲル化または沈降物の有無を目視し、以下の基準で評価した。その結果を表1および2に示す。
合格:ゲル化および沈降物がない
不合格:ゲル化または沈降物がある
【0119】
本発明によれば、従来技術と同等の耐食性および塗膜密着性を達成しながら、化成スラッジの量を低減することができる、表面処理金属部材の製造方法を提供することができた。また、本発明によれば、従来技術と同等の耐食性および塗膜密着性を達成しながら、化成スラッジの量を低減することができる、加工成型金属部材用の水系表面処理剤を提供することができた。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明によれば、従来技術と同等の耐食性および塗膜密着性を達成しながら、化成スラッジの量を低減することができる、表面処理金属部材の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、従来技術と同等の耐食性および塗膜密着性を達成しながら、化成スラッジの量を低減することができる、加工成型金属部材用の水系表面処理剤を提供することができる。