(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】セラミックス・耐火物用途向けアルミナ水分散液及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 7/026 20220101AFI20240925BHJP
C04B 35/10 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
C01F7/026
C04B35/10
(21)【出願番号】P 2024003209
(22)【出願日】2024-01-12
【審査請求日】2024-01-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】399127625
【氏名又は名称】浅田化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 太一
(72)【発明者】
【氏名】筒井 義也
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-172415(JP,A)
【文献】特開2003-002642(JP,A)
【文献】特公昭40-014292(JP,B1)
【文献】特開昭53-045314(JP,A)
【文献】特開2000-071609(JP,A)
【文献】国際公開第2009/119143(WO,A1)
【文献】特開2013-010652(JP,A)
【文献】TERVOORT Elena et al.,Influence of Short-Chain Carboxylic Acids on the mechanical Properties and Structure of Coagulated Alumina Suspensions,Journal of the american cermic society,2005年,Vol.88 No.9,P.2504-2509,doi:10.1111/j.1551-2916.2005.00470.x
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 7/026
C04B 35/00-35/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ粒子を分散粒子として含むアルミナ水分散液であって、以下の特性:
(1)アルミナ分散粒子を個数基準で測定した際の平均粒子径が10~1000nmの範囲であり、
(2)アルミナ水分散液を100℃で乾燥時のアルミナ粒子の結晶系が不定形および/またはχアルミナであり、
(3)アルミナ水分散液のpHが2.0~5.3の範囲であり、
(4)アルミナ水分散液が有機酸およびアルカリを含み、前記有機酸がギ酸またはギ酸と酢酸との組合せであり、前記アルカリがアンモニアであり、
(5)アルミナ水分散液に含まれるアルミナ(Al
2O
3)換算濃度が0.5~11.5質量%である、
を満足する
セラミックスまたは耐火物の形成に使用されるアルミナ水分散液。
【請求項2】
前記アルミナ水分散液が、B型粘度計によるチクソトロピックインデックス(TI値=回転数6rpm/回転数60rpm)2~10を有する請求項1記載の
セラミックスまたは耐火物の形成に使用されるアルミナ水分散液。
【請求項3】
前記アルミナ水分散液が、アルカリ金属またはハロゲン元素をアルミナ水分散液中の固体成分の総重量に基づいて0~0.03質量%の範囲で含む請求項1または2記載の
セラミックスまたは耐火物の形成に使用されるアルミナ水分散液。
【請求項4】
硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムのいずれかから選ばれるアルミニウム塩の水溶液にアンモニア水を加えてpH5~8とした後、15~45℃の範囲で0.5~3時間攪拌して非晶質水酸化アルミニウムの沈殿物を生成する第1工程、
生成した非晶質水酸化アルミニウムを洗浄後水分率が60~80%となるように乾燥する第2工程、
乾燥した非晶質水酸化アルミニウムに加水し、分散させた後、アルミニウム1モルに対してギ酸又はギ酸と酢酸との混合物を1.8モル~10モル添加し、40~80℃で1~3時間攪拌してギ酸アルミニウム水溶液またはギ酸アルミニウムと酢酸アルミニウムとの混合物の水溶液を得る第3工程、および
得られたギ酸アルミニウム水溶液またはギ酸アルミニウムと酢酸アルミニウムとの混合物の水溶液を90~120℃の温度で1~24時間で濃縮する第4工程、
を包含する請求項1に記載の
セラミックスまたは耐火物の形成に使用されるアルミナ水分散液の製造方法。
【請求項5】
前記第3工程で得られたギ酸アルミニウム水溶液またはギ酸アルミニウムと酢酸アルミニウムとの混合物の水溶液の体積をCとし、その後第4工程で90~120℃で1~24時間加熱濃縮した時の体積をDとした場合、体積濃縮率(D/C)が0.3~0.8であるように濃縮することを特徴とする請求項
4記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックスや耐火物用途向けアルミナ水分散液及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナ粒子を水に分散したアルミナ水分散液は、現在種々の用途に使用されている。
【0003】
特許7308650号(特許文献1)には、アルミナ粒子を分散粒子とし、分散粒子の平均粒子径が50~3000nm、100℃で乾燥させた際のアルミナの結晶形がベーマイト又は擬ベーマイトで、pHが5.5~9であり、アルミナ粒子分散液が有機酸及びアルカリを含有し、有機酸が乳酸及び/又はリンゴ酸であり、アルカリがアンモニア及びアルカリ金属のうちいずれか1種以上であることのすべてを満たす大粒径アルミナ分散液が記載されている。この大粒径アルミナ分散液は、焼成温度を600℃以下で焼成をした際に残炭が残り、低温焼成用途では使用できない課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明では、600℃以下での焼成でも残炭が残らない、セラミックスなどの焼成により耐火物を形成する用途に有用なアルミナ水分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明は以下の態様を提供する:
[1]
アルミナ粒子を分散粒子として含むアルミナ水分散液であって、以下の特性:
(1)アルミナ分散粒子を個数基準で測定した際の平均粒子径が10~1000nmの範囲であり、
(2)アルミナ水分散液を100℃で乾燥時のアルミナ粒子の結晶系が不定形および/またはχアルミナであり、
(3)アルミナ水分散液のpHが2.0~5.3の範囲であり、
(4)アルミナ水分散液が有機酸およびアルカリを含み、前記有機酸がギ酸またはギ酸と酢酸との組合せであり、前記アルカリがアンモニアであり、
(5)アルミナ水分散液に含まれるアルミナ(Al2O3)換算濃度が0.5~11.5質量%である、
を満足するアルミナ水分散液。
[2]
前記アルミナ水分散液が、B型粘度計によるチクソトロピックインデックス(TI値=回転数6rpm/回転数60rpm)2~10を有する[1]のアルミナ水分散液。
[3]
前記アルミナ水分散液が、アルカリ金属またはハロゲン元素をアルミナ水分散液中の固体成分の総重量に基づいて0~0.03質量%の範囲で含む[1]または[2]のアルミナ水分散液。
[4]
前記アルミナ水分散液が、セラミックスまたは耐火物の形成に使用される[1]または[2]のアルミナ水分散液。
[5]
硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムのいずれかから選ばれるアルミニウム塩の水溶液にアンモニア水を加えてpH5~8とした後、15~45℃の範囲で0.5~3時間攪拌して非晶質水酸化アルミニウムの沈殿物を生成する第1工程、
生成した非晶質水酸化アルミニウムを洗浄後水分率が60~80%となるように乾燥する第2工程、
乾燥した非晶質水酸化アルミニウムに加水し、分散させた後、アルミニウム1モルに対してギ酸又はギ酸と酢酸との混合物を1.8モル~10モル添加し、40~80℃で1~3時間攪拌してギ酸アルミニウム水溶液またはギ酸アルミニウムと酢酸アルミニウムとの混合物の水溶液を得る第3工程、および
得られたギ酸アルミニウム水溶液またはギ酸アルミニウムと酢酸アルミニウムとの混合物の水溶液を90~120℃の温度で1~24時間で濃縮する第4工程、
を包含する[1]のアルミナ水分散液の製造方法。
[6]
前記第3工程で得られたギ酸アルミニウム水溶液またはギ酸アルミニウムと酢酸アルミニウムとの混合物の水溶液の体積をCとし、その後第4工程で90~120℃で1~24時間加熱濃縮した時の体積をDとした場合、体積濃縮率(D/C)が0.3~0.8であるように濃縮することを特徴とする[5]の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によるアルミナ水分散液は、600℃以下という低温で有機分を熱分解してアルミナとして使用可能で且つ平均粒子径が10~1000nmであるため、透明性、易焼結性等に優れているため、ガラスや金属等へのアルミナコーティングやセラミック、耐火物の無機粉体を接着するための無機バインダーや触媒担持体の表面修飾、微細研磨剤等としての利用が可能である。本発明のアルミナ水分散液は、600℃以下の低温で焼成しても残炭なく、焼成時に不具合を発生させるアルカリ金属やハロゲンを殆ど含まない。更に、本発明のアルミナ水分散液は無機フィラーと共に混合することで保形性を持たせるためのチクソトロピック性を持っている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1のアルミナ水分散液をガラス製蒸発皿にて100℃で10分乾燥したものをFE-SEM(JSM-7001F日本電子(株)製)にて100000倍で観察した電顕写真である。
【
図2】実施例1のアルミナ水分散液をガラス製蒸発皿に熱風循環式乾燥機にて100℃で20分乾燥した粉体をX線回折装置(Smartlab 9kw:リガク(株)製)で測定を行ったX線回折図である。
【
図3】実施例1のアルミナ水分散液をガラス製蒸発皿にて熱風循環式乾燥機にて100℃で20分乾燥した粉体をアルミナ製るつぼに入れて、電気炉(FO200:ヤマト科学(株)製)にて700℃で2時間焼成した粉体をX線回折装置(Smartlab 9kw:リガク(株)製)で測定を行ったX線回折図である。
【
図4】実施例1のアルミナ水分散液の粒度分布を個数基準で測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、好ましい実施形態に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲において種々の変更が可能である。なお、本明細書において数値範囲における「数値1~数値2」という表記は数値1を下限値とし、数値2を上限値とする。両端の数値1及び数値2を含む範囲を意味し、「数値1以上、数値2以下」と同義である。
【0010】
アルミニウムは、酸化数が3であるので、酸と塩を形成する時に全ての結合子が酸基と結合を形成するのでは無く、一部が結合する場合がある。具体的には、後述するようにギ酸との塩は、Al(OH)2(OOCH)、Al(OH)(OOCH)2およびAl(OOCH)3の3種類の形成が考えられる。本明細書中では、酸との塩の場合、この三種類の全ての場合を含む。
【0011】
(アルミナ水分散液)
本発明のアルミナ水分散液におけるアルミナ分散粒子を個数分布で測定した際の平均粒子径は10~1000nmが好ましく、より好ましくは30~100nmである。平均粒子径が10nm未満になると無機粒子との結着性が悪くなり、成形時の保形性が悪くなる課題がある。一方で1000nmを超えると平均粒子径が大きすぎて、一次粒子が数百nmの無機粉体を結着させ焼成した際に異物となり、破壊起点になる可能性がある。ここで「平均粒子径」は、ゼータサイザーナノZS(スペクトリス(株)製)を用いて水溶媒にて動的光散乱法で測定を行い、個数基準測定した平均粒子径を意味する。
【0012】
本発明のアルミナ水分散液におけるアルミナ結晶系は不定形および/またはχアルミナであることが、セラミック等の高温焼結時に焼成条件により、相転移してγアルミナ、αアルミナになるため好ましい。
【0013】
本発明のアルミナ水分散液のpHは2.0~5.3であり、より好ましくはpH3.0~4.7である。pHが2.0未満になると強酸性になるため、無機粒子と混合した際に無機粒子を変質させたり、金属にアルミナ水分散液が接触した際に腐食させたりする傾向がある。一方、pHが5.3を超えると耐火物の成形や触媒担体作製等において酸性環境が必要な際にアルミナ分散液が凝集を起こす。ここでいうアルミナ水分散液のpHは、東亜DKK(株)製ポータブルpH計「HM-40P」、pH複合電極「GST-2739C」を用いて測定する。
【0014】
本発明のアルミナ水分散液中にはギ酸又はギ酸と酢酸の混合物といった短鎖のカルボン酸を含み、低温度での熱分解性が良好な設計になっている。特許文献1にあるような乳酸、リンゴ酸等を含むアルミナ水分散液では熱分解性が悪く残炭を残すため、低温(例えば500~600℃)での熱分解用途には適さないと考えられる。
【0015】
本発明のアルミナ水分散液中のアルミナ(Al2O3)換算濃度が0.5~11.5質量%であるのが好ましい。アルミナ換算濃度は0.8~10.5質量%の範囲が好ましく、より好ましくは2~10質量%である。0.3質量%未満であるとアルミナ水分散液中のアルミナ濃度が低すぎて無機粒子の結着剤としての使用の際に接着性が悪くなることやチクソトロピック性を示さない。11.5質量%を超えるとギ酸アルミニウム又はギ酸アルミニウム及び酢酸アルミニウムの混合物の保管安定性が悪くなり、経時で析出物がアルミナ水分散液内に析出する課題がある。
【0016】
本発明のアルミナ水分散液中のアルミナ(Al2O3)換算濃度の算出は次のように行う。
アルミナ水分散液中のアルミニウム濃度を発光分光分析装置(Agilent5110ICP-OCS:アジレントテクノロジー社製)でアルミニウム濃度測定を行い、アルミニウムの原子量:27、酸素の原子量:16、Al2O3の分子量:102として、以下の式で換算して算出する。
Al2O3換算濃度(質量%)=Al濃度(質量%)×(102/27)
【0017】
本発明のアルミナ水分散液は、B型粘度計(東機産業(株)製TVB10M TM-3スピンドルローター使用)で測定のTI値(チクソトロピック・インデックス値)が2~10であることが好ましく、TI値はより好ましくは2.5~7、更に好ましくは3~8である。TI値は(回転数6rpm)/(回転数60rpm)で算出した。TI値が2未満であると液性状が構造粘性を持たないため、無機粒子と当該アルミナ水分散液の混合品を型に入れて成形する際に保形するのが難しくなり、形状崩れを発生させる。TI値が10を超えると構造粘性が強すぎて、せん断速度を高くしないと変形することが難しくなり、型を使用した成形の際に流し込み等を実施することが難しくなる。
【0018】
本発明のアルミナ水分散液は、アルカリ金属またはハロゲン元素を殆ど含まないことが好ましい。アルカリ金属またはハロゲン元素は好ましくは本発明のアルミナ水分散液中に0~0.03質量%、好ましくは0~0.02質量%の範囲で含む。アルカリ金属としては具体的にナトリウムやカリウムであり、ハロゲン元素としては具体的に塩素、臭素またはヨウ素が挙げられる。アルカリ金属の含有量が0.03質量%を超えると耐火物やセラミックス等で使用する時、焼成を実施した際に焼結温度の低下を起こし、焼結体の欠陥を発生させる傾向がある。ハロゲン元素が0.03質量%を超えると、耐火物やセラミックス等で使用する時、焼成を実施した際に各元素由来のガスが発生し、炉内の腐食等を発生させる課題がある。これらの元素の含有量は、アルミナ水分散液を80℃で30分乾燥させ、乾燥によって得られた粉体を日本電子(株)製走査型電子顕微鏡JCM-7000搭載のエネルギー分散型蛍光X線(EDX)で測定する。
【0019】
本発明のアルミナ水分散液は、600℃以下の低温で残炭なく、焼成時にハロゲンガスなどの発生が無い。また、無機フィラーと共に混合することで保形性をもたせることが可能であり、酸性領域でも凝集せず使用可能である。本発明のアルミナ水分散液は、セラミックスや耐火物の成形に有効に利用できる。
【0020】
(アルミナ水分散液の製造方法)
本発明のアルミナ水分散液は、以下の製造方法:
硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムのいずれかから選ばれるアルミニウム塩の水溶液にアンモニア水を加えてpH5~8とした後、15~45℃の範囲で0.5~3時間攪拌して非晶質水酸化アルミニウムの沈殿物を生成する第1工程、
生成した非晶質水酸化アルミニウムを洗浄後、水分率が60~80%となるように乾燥する第2工程、
乾燥した非晶質水酸化アルミニウムに加水し、分散させた後、アルミニウム1モルに対してギ酸又はギ酸と酢酸との混合物を1.8モル~10モル添加し、40~80℃で1~3時間攪拌してギ酸アルミニウム水溶液またはギ酸アルミニウムと酢酸アルミニウムとの混合物の水溶液を得る第3工程、および
得られたギ酸アルミニウム水溶液またはギ酸アルミニウムと酢酸アルミニウムとの混合物の水溶液を90~120℃の温度で1~24時間で濃縮する第4工程、
を包含する。
【0021】
第1工程では、アルミニウム塩(具体的には、硝酸アルミニウムまたは硫酸アルミニウム)の水溶液にアンモニア水を加えて非晶質水酸化アルミニウムの沈殿物を形成する工程である。この工程は、温度15~45℃の範囲で0.5~3時間撹拌することにより行われる。この工程は、好ましくは20~35℃で1~2時間の撹拌で行われる。温度が15℃未満になると硝酸アルミニウムや硫酸アルミニウムとアンモニアの反応性が悪くなり、反応に時間が掛かり、温度が45℃を超えるとアンモニア分の揮発が激しくなり、pHが安定しない傾向がある。また、攪拌時間が0.5時間未満であると反応時間が不十分で無定形水酸化アルミニウムが十分に析出しない傾向があり、3時間を超えると無定形水酸化アルミニウムは合成できるが、反応時間がかかりすぎ、生産性が悪化する。アンモニア水を加える時点で、pHは5~8になる。より好ましくはpH6~7になる。pH5未満であると非晶質の水酸化アルミニウムの沈殿物の沈降に非常に時間を要するため、生産性が悪くなり、pHが8を超えると非晶質水酸化アルミニウムに加水し分散を行う際に分散性が悪くなる傾向がある。
【0022】
第2工程では、生成した非晶質水酸化アルミニウムを洗浄後、水分率が60~80%となるように乾燥する。洗浄は、水で洗浄した後水を分離することで行われる。水の分離は、種々の方法で行って良いが、遠心分離などで行っても良い。洗浄は、一回でも良いが、通常数回、好ましくは3回程度、加水および分離が行われる。
【0023】
水の分離後に乾燥が行なわれる。乾燥は水分率が60~80%となるように乾燥する工程が必要である。より好ましい水分率は65~75%である。水分率が60%未満になると非晶質水酸化アルミニウムに加水し分散を行う際に分散性が悪くなり、水分率が80%を超えると非晶質水酸化アルミニウムの水分率が多すぎ、取り扱いが難しくなり、生産性が悪くなる。なお水分率は加熱乾燥式水分計(エー・アンド・デイ(株)製MX50)を用いて、105℃で40分の条件で測定を実施する。乾燥は、棚段乾燥機を用いて行ってもよい。
【0024】
第3工程は、乾燥した非晶質水酸化アルミニウムに加水し、分散させた後、アルミニウム1モルに対してギ酸又はギ酸と酢酸との混合物を1.8モル~10モル、好ましくは1.8~6モル、より好ましくは1.8~3モル添加し、40~80℃で1~3時間攪拌してギ酸アルミニウム水溶液またはギ酸アルミニウムと酢酸アルミニウムとの混合物の水溶液を得る工程である。ギ酸またはギ酸と酢酸との混合物がアルミニウム1モルに対して1.8モル未満の場合、ギ酸又はギ酸と酢酸の混合物が不足し、アルミナ水分散液が生成しなくなる傾向がある。ギ酸又はギ酸と酢酸の混合物がアルミニウム1モルに対して10モルをこえる場合、ギ酸又はギ酸と酢酸の混合物の量が過剰になり、アルミナ水分散液のpHが2未満になり、使用時に金属の腐食や無機粉体を溶解させるため使用できない。
【0025】
撹拌は、40℃~80℃、好ましくは45℃~65℃で行われる。40℃未満であると非晶質水酸化アルミニウムとギ酸又はギ酸と酢酸の混合物の反応が不十分であり、未反応のギ酸又はギ酸と酢酸の混合物が系内に残り、保管安定性が悪くなる。一方で80℃を超えると水とギ酸の蒸発が顕著になり、合成中に反応釜壁面に析出物ができることがある。
【0026】
上記第3工程における非晶質水酸化アルミニウム中のアルミニウムのモル数は、アルミニウムの原子量:27、酸素の原子量:16、水素の原子量:1、Al(OH)3の分子量:78として、以下の式から算出する:
アルミニウムのモル数=(水酸化アルミニウムの重量)×(100-水分率)/100×(27/78)/27
【0027】
ギ酸と酢酸の組合せを使用する時には、ギ酸のモル数:Aと酢酸のモル数:Bの比(B/A)は0~0.25、好ましくは0~0.15であることが必要である。B/Aが0.25を超えると系内の酢酸量が多くなり、経時での保管時における析出が起こる可能性がある。
【0028】
第4工程は、得られたギ酸アルミニウム水溶液またはギ酸アルミニウムと酢酸アルミニウムとの混合物の水溶液を90~120℃の温度で1~24時間で濃縮する工程である。ギ酸アルミニウムまたは酢酸アルミニウムを加熱し、撹拌する際の加熱方法は特に制限されるものではなく、通常の加熱方法やオートクレーブ等の使用が可能である。攪拌の手法においても通常の攪拌方法であれば問題なく、反応温度は加熱温度90~120℃が好ましく、より好ましくは95~110℃である。反応時間は1~24時間以内で生産性を含め、任意に決めることが可能である。加熱温度が90℃未満であると反応が十分進行せずにアルミナ粒子分散液にならない。120℃を超えると温度を上げるために圧力をかける等の特殊反応環境が必要になり、生産性が悪化する。
【0029】
前記第3工程で得られたギ酸アルミニウム水溶液またはギ酸アルミニウムと酢酸アルミニウムとの混合物の水溶液の体積をCとし、その後第4工程で90~120℃で1~24時間加熱濃縮した時の体積をDとした場合、体積濃縮率(D/C)が0.3~0.8であるように濃縮することが好ましい。通常、アルミナ水分散液は反応容器を密閉した状態で温度をかけて合成することが多いので、濃縮は行われないが、本発明では積極的に濃縮工程を設けている。体積濃縮率(D/C)が0.3よりも小さいことは過剰な濃縮になり、アルミナ水分散液としての形態を保ちにくい。逆に、体積濃縮率(D/C)が0.8を超えると濃縮が不十分であるため、アルミナ水分散液ができない課題がある。
【0030】
本発明のアルミナ水分散液は、セラミックスや耐火物用途向けに高温焼成する際に炉を傷めるような塩素、臭素等のハロゲンガスやセラミックスや耐火物等焼結温度を下げるナトリウム、カリウム等のアルカリ金属等を含まない材料を選定して設計にする必要がある。従って、アルミナ水分散液を製造する際には、それらの元素(即ち、アルカリ金属およびハロゲン元素)を主成分に含まない原料を使用する必要がある。
【0031】
本発明で得られたアルミナ水分散液は、低温焼成で熱分解することが重要であり、重量減少が完了する温度が400~600℃の範囲が好ましく、より好ましくは450~550℃である。また焼成時間は2~300分の範囲が好ましく、より好ましくは5~60分である。焼成による重量減少が完了する温度が400℃未満になると樹脂等を配合し、300℃程度の温度で成形等を行う際に分解が開始し、成形体が安定しなくなる課題がある。一方、重量減少が完了する温度が600℃をこえると金属やガラス等にコーティングする際に基材が高温にさらされると溶融・変形し、コーティングができなくなる可能性がある。焼成時間が2分未満になると大物のコーティングや耐火物、セラミックを所定温度で焼成する際に熱分解速度が速すぎて、端部と中央部での焼成ばらつきを発生させやすくなり、焼成時間が300分を超えると生産性が悪くなる傾向がある。
【実施例】
【0032】
本発明を実施例により、更に詳細に説明するが、本発明はこれに制約されるものではない。
【0033】
(実施例1)
0.5mol/lの硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1160.6g投入し、温度を30℃で1時間攪拌した後、pHが6.6であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機((株)関西遠心分離製作所から市販の KBS-12)で2,000rpmで1分間遠心分離と4L加水を、3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥した。水分率は65%であった。乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加し攪拌して分散した後、23.1mol/lギ酸を2386.6g添加して、45℃、250rpmで1時間攪拌して塩基性ギ酸アルミニウム水溶液を合成した。得られた塩基性ギ酸アルミニウム水溶液500ml(C)をメスシリンダーで採取し、セパラブルフラスコに移し替え、250rpmで110℃、8時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。得られたアルミナ水分散液をメスシリンダーに投入し、体積を測定すると235ml(D)であった。
【0034】
(実施例2)
0.17mol/lの硫酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1260.6g投入し、温度を30℃で1時間攪拌した後、pHが7.0であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機((株)関西遠心分離製作所から市販のKBS-12)で2,000rpmで1分間遠心分離と4L加水を、3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥した。水分率は65%であった。乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加し攪拌して分散した後、23.1mol/lギ酸を2386.6g添加して、45℃、250rpmで1時間攪拌して塩基性ギ酸アルミニウム水溶液を合成した。得られた塩基性ギ酸アルミニウム水溶液500ml(C)をメスシリンダーで採取し、セパラブルフラスコに移し替え、250rpmで110℃、8時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。得られたアルミナ水分散液をメスシリンダーに投入し、体積を測定すると225ml(D)であった。
【0035】
(実施例3)
0.5mol/lの硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1060.6g投入し、温度を30℃で1時間攪拌した後、pHが6.2であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機((株)関西遠心分離製作所から市販のKBS-12)で2,000rpmで1分間遠心分離と4L加水を、3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥した。水分率は65%であった。乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加し攪拌して分散した後、23.1mol/lのギ酸を2386.6g添加して、45℃、250rpmで1時間攪拌して塩基性ギ酸アルミニウム水溶液を合成した。得られた塩基性ギ酸アルミニウム水溶液500ml(C)をメスシリンダーで採取し、セパラブルフラスコに移し替え、250rpmで110℃、8時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。得られたアルミナ水分散液をメスシリンダーに投入し、体積を測定すると250ml(D)であった。
【0036】
(実施例4)
0.5mol/lの硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1160.6g投入し、温度を30℃で1時間攪拌した後、pHが6.6であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機((株)関西遠心分離製作所から市販のKBS-12)で2,000rpmで1分間遠心分離と4L加水を、3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥した。水分率は65%であった。乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加し攪拌して分散した後、23.1mol/lのギ酸を2386.6g添加して、45℃、250rpmで1時間攪拌して塩基性ギ酸アルミニウム水溶液を合成した。得られた塩基性ギ酸アルミニウム水溶液500ml(C)をメスシリンダーで採取し、セパラブルフラスコに移し替え、250rpmで120℃、6時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。得られたアルミナ水分散液をメスシリンダーに投入し、体積を測定すると200ml(D)であった。
【0037】
(実施例5)
0.5mol/lの硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1160.6g投入し、温度を30℃で1時間攪拌した後、pHが6.6であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機((株)関西遠心分離製作所から市販のKBS-12)で2,000rpmで1分間遠心分離と4L加水を、3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥した。水分率は65%であった。乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加し攪拌して分散した後、23.1mol/lのギ酸を2386.6g添加して、45℃、250rpmで1時間攪拌して塩基性ギ酸アルミニウム水溶液を合成した。得られた塩基性ギ酸アルミニウム水溶液500ml(C)をメスシリンダーで採取し、セパラブルフラスコに移し替え、250rpmで100℃、20時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。得られたアルミナ水分散液をメスシリンダーに投入し、体積を測定すると235ml(D)であった。
【0038】
(実施例6)
0.5mol/lの硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1160.6g投入し、温度を30℃で1時間攪拌した後、pHが6.6であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機((株)関西遠心分離製作所から市販のKBS-12)で2,000rpmで1分間遠心分離と4L加水を、3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥した。水分率は72%であった。乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加し攪拌して分散した後、23.1mol/lのギ酸を1431.9g添加して、45℃、250rpmで1時間攪拌して塩基性ギ酸アルミニウム水溶液を合成した。得られた塩基性ギ酸アルミニウム水溶液500ml(C)をメスシリンダーで採取し、セパラブルフラスコに移し替え、250rpmで100℃、20時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。得られたアルミナ水分散液をメスシリンダーに投入し、体積を測定すると225ml(D)であった。
【0039】
(実施例7)
0.5mol/lの硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1160.6g投入し、温度を30℃で1時間攪拌した後、pHが6.6であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機((株)関西遠心分離製作所から市販のKBS-12)で2,000rpmで1分間遠心分離と4L加水を、3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥した。水分率は65%であった。乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加し攪拌して分散した後、23.1mol/lのギ酸を2386.6g添加して、60℃、250rpmで1時間攪拌して塩基性ギ酸アルミニウム水溶液を合成した。得られた塩基性ギ酸アルミニウム水溶液500ml(C)をメスシリンダーで採取し、セパラブルフラスコに移し替え、250rpmで110℃、8時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。得られたアルミナ水分散液をメスシリンダーに投入し、体積を測定すると225ml(D)であった。
【0040】
(実施例8)
0.5mol/lの硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1160.6g投入し、温度を30℃で1時間攪拌した後、pHが6.6であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機((株)関西遠心分離製作所から市販のKBS-12)で2,000rpmで1分間遠心分離と4L加水を、3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥した。水分率は65%であった。乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加し攪拌して分散した後、23.1mol/lのギ酸を2000gと17.4mol/lの酢酸を386.6g添加して、60℃、250rpmで1時間攪拌して塩基性ギ酸アルミニウム水溶液と塩基性酢酸アルミニウム水溶液の混合物を合成した。得られた塩基性ギ酸アルミニウム水溶液500ml(C)をメスシリンダーで採取し、セパラブルフラスコに移し替え、250rpmで110℃、8時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。得られたアルミナ水分散液をメスシリンダーに投入し、体積を測定すると225ml(D)であった。
【0041】
(比較例1)
0.5mol/lの硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1960.6g投入し、温度を30℃で1時間攪拌した後、pHが8.9であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機((株)関西遠心分離製作所から市販のKBS-12)で2,000rpmで1分間遠心分離と4L加水を、3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥した。水分率は65%であった。乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加し攪拌して分散した後、23.1mol/lのギ酸を2386.6g添加して、45℃、250rpmで1時間攪拌して塩基性ギ酸アルミニウム水溶液を合成した。
【0042】
(比較例2)
0.5mol/lの硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1160.6g投入し、温度を30℃で1時間攪拌した後、pHが6.6であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機((株)関西遠心分離製作所から市販のKBS-12)で2,000rpmで1分間遠心分離と4L加水を、3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で8時間乾燥した。水分率は45%であった。乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加し攪拌して分散した後、23.1mol/lのギ酸を2386.6g添加して、45℃、250rpmで1時間攪拌して塩基性ギ酸アルミニウム水溶液を合成した。
【0043】
(比較例3)
0.5mol/lの硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1160.6g投入し、温度を30℃で1時間攪拌した後、pHが6.6であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機((株)関西遠心分離製作所から市販のKBS-12)で2,000rpmで1分間遠心分離と4L加水を、3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥した。水分率は65%であった。乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル 1137.5gに水6695g添加し攪拌して分散した後、23.1mol/lのギ酸を2386.6g添加して、10℃、250rpmで1時間攪拌して塩基性ギ酸アルミニウム水溶液を合成した。得られた塩基性ギ酸アルミニウム水溶液500ml(C)をメスシリンダーで採取し、セパラブルフラスコに移し替え、250rpmで110℃、8時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。
【0044】
(比較例4)
0.5mol/lの硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで撹拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1160.6g投入し、温度を30℃で1時間撹拌した後、pHが6.6であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機((株)関西遠心分離製作所から市販のKBS-10)で2,000rpmで1分間遠心分離と4L加水を、3回繰り返して無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥した。水分率は65%であった。乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加し攪拌して分散した後、23.1mol/lのギ酸を2386.6g添加して、45℃、250rpmで1時間攪拌して塩基性ギ酸アルミニウム水溶液を合成した。得られた塩基性ギ酸アルミニウム水溶液500ml(C)をメスシリンダーで採取し、セパラブルフラスコに移し替え、250rpmで50℃、24時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。
【0045】
(比較例5)
0.5mol/lの硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで撹拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1160.6g投入し、温度を30℃で1時間撹拌した後、pHが6.6であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機((株)関西遠心分離製作所から市販のKBS-12)で2,000rpmで1分間遠心分離と4L加水を、3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥した。水分率は65%であった。乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加し攪拌して分散した後、23.1mol/lのギ酸を315.0g添加して、45℃、250rpmで1時間攪拌して塩基性ギ酸アルミニウム水溶液を合成した。得られた塩基性ギ酸アルミニウム水溶液500ml(C)をメスシリンダーで採取し、セパラブルフラスコに移し替え、250rpmで110℃、8時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。
【0046】
(比較例6)
0.5mol/lの硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで撹拌しながら、8.0mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を386.9g投入し、温度を30℃で1時間撹拌した後、pHが6.9であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機((株)関西遠心分離製作所から市販のKBS-12)で2,000rpmで1分間遠心分離と4L加水を、3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥した。水分率は65%であった。乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加し攪拌して分散した後、23.1mol/lのギ酸を2386.6g添加して、45℃、250rpmで1時間攪拌して塩基性ギ酸アルミニウム水溶液を合成した。得られた塩基性ギ酸アルミニウム水溶液500ml(C)をメスシリンダーで採取し、セパラブルフラスコに移し替え、250rpmで110℃、8時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。得られたアルミナ水分散液をメスシリンダーに投入し、体積を測定すると225ml(D)であった。
【0047】
(比較例7)
0.5mol/lの硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで撹拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1160.6g投入し、温度を30℃で1時間撹拌した後、pHが6.6であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機((株)関西遠心分離製作所から市販のKBS-12)で2,000rpmで1分間遠心分離と4L加水を、3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥した。水分率は65%であった。乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加し攪拌して分散した後、23.1mol/lの乳酸を2386.6g添加して、45℃、250rpmで1時間攪拌して塩基性乳酸アルミニウム水溶液を合成した。得られた塩基性乳酸アルミニウム水溶液500ml(C)をメスシリンダーで採取し、セパラブルフラスコに移し替え、250rpmで110℃、8時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。得られたアルミナ水分散液をメスシリンダーに投入し、体積を測定すると210ml(D)であった。
【0048】
(比較例8)
0.5mol/lの塩化アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで撹拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1160.6g投入し、温度を30℃で1時間撹拌した後、pHが6.6であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機((株)関西遠心分離製作所から市販のKBS-12)で2,000rpmで1分間遠心分離と4L加水を、3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥した。水分率は65%であった。乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加し攪拌して分散した後、23.1mol/lの酢酸を2386.6g添加して、45℃、250rpmで1時間攪拌して塩基性酢酸アルミニウム水溶液を合成した。得られた塩基性酢酸アルミニウム水溶液500ml(C)をメスシリンダーで採取し、セパラブルフラスコに移し替え、250rpmで110℃、8時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。得られたアルミナ水分散液をメスシリンダーに投入し、体積を測定すると250ml(D)であった。
【0049】
実施例1~8および比較例1~8のアルミナ水分散液について、アルミナ粒子の平均粒子径(nm)、100℃乾燥時の結晶系、アルミナ水分散液のpHおよびAl2O3換算濃度(質量%)を以下のように測定し、結果を表1~4に記載した。尚、比較例1~5では、アルミナ水分散液の形成状態が不十分であり、最終の状態を表3に記載した。
【0050】
(アルミナ粒子の平均粒子径(nm))
実施例1~8および比較例6~8の平均粒子径は、ゼータサイザーナノZS(スペクトリス(株)製)を用いて水溶媒にて動的光散乱法で測定を行い、個数基準測定した平均粒子径を表1~表2および表4に記載した。
【0051】
(100℃乾燥時の結晶系)
実施例1~8および比較例6~8の100℃乾燥時の結晶系はX線回折装置(Smartlab 9kw:リガク(株)製)で測定を行い、結果を表1~表2および表3に記載した。
【0052】
(pH)
東亜DKK(株)製ポータブルpH計「HM-40P」、pH複合電極「GST-2739C」で測定を行い、結果を表1~表2および表3に記載した。
【0053】
(Al2O3換算濃度)
実施例1~8および比較例6~8のAl2O3換算濃度は、まず、アルミニウム濃度を発光分光分析装置(Agilent5110ICP-OCS:アジレントテクノロジー社製)を用いて測定を行い、アルミニウム濃度を以下の式からAl2O3濃度に変換して、表1~表2および表4に記載した。
Al2O3換算濃度(質量%)=Al濃度(質量%)×(102/27)
【0054】
(チクソトロピックインデックス(TI値))
B型粘度計(東機産業(株)製TVB10M TM-3スピンドルローター使用)で測定のTI値(チクソトロピック・インデックス)で、(回転数6rpm)/(回転数60rpm)で算出した。
【0055】
(D/C)
ギ酸アルミニウム水溶液またはギ酸アルミニウムと酢酸アルミニウムとの混合物の水溶液の体積を500ml(C)とし、その後最終で得られたアルミナ水分散液の体積を(D)とし、体積濃縮率(D/C)の値を表1~表2および表4に記載した。
【0056】
(塩素、臭素、ヨウ素、ナトリウムおよびカリウムの濃度)
実施例1~8および比較例6~8の塩素、臭素、ヨウ素、ナトリウム、カリウムの濃度はSEM(JCM-7000、日本電子(株)製)を用い、EDS(エネルギー分散型蛍光X線)を用いて測定を実施し、表1~表2および表4に記載した。検出されないものをn.d.と表示した。
【0057】
(熱分解性評価)
実施例1~8および比較例6~8のアルミナ水分散液を、30mm×50mm×2mmのガラス表面に1g滴下した後、熱風循環式乾燥機を用いて100℃で5分間乾燥した後、電気炉(FO200:ヤマト科学(株)製)にて600℃設定で5分間焼成を行い、ガラス上に残るものの外観を目視確認しその色を表1~表2および表4に記載した。
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
実施例1のアルミナ水分散液をガラス製蒸発皿にて100℃で10分乾燥したものをFE-SEM(JSM-7001F日本電子(株)製)にて100000倍で観察した結果を
図1に示す。
【0063】
実施例1のアルミナ水分散液をガラス製蒸発皿に手熱風循環式乾燥機にて100℃で20分乾燥した粉体をX線回折装置(Smartlab 9kw:リガク(株)製)で測定を行い、評価した結果を
図2に示す。
【0064】
実施例1のアルミナ水分散液をガラス製蒸発皿にて熱風循環式乾燥機にて100℃で20分乾燥した粉体をアルミナ製るつぼに入れて、電気炉(FO200:ヤマト科学(株)製)にて700℃で2時間焼成した粉体をX線回折装置(Smartlab 9kw:リガク(株)製)で測定を行い、評価した結果を
図3に示す。
【0065】
実施例1のアルミナ水分散液に関して、ゼータサイザーナノZS(スペクトリス(株)製)を用いて水溶媒にて動的光散乱法で測定を行い、個数基準で測定した結果を
図4に示す。
【0066】
表1および表2に示すように実施例1~実施例3、実施例5~実施例8はいずれも非晶質のアルミナ水分散液ができており、平均粒子径、pH、Al2O3値、TI値が本発明の範囲を満たしており、600℃で5分間焼成した際に白色物が確認されており、有機物の焼成残りが確認されず、有機物の熱分解が完了していることが確認された。表1に示すように実施例4は非晶質+χアルミナのアルミナ水分散液ができており、平均粒子径、pHおよびAl2O3値、TIの値が本発明の範囲を満たしており、600℃で5分間焼成した際に白色物が確認されており、有機物の焼成残りが確認されず、有機物の熱分解が完了していることが確認された。
【0067】
表3に示すように比較例1は無定形水酸化アルミニウムのpHが高すぎて、次の工程において無定形水酸化アルミニウムが水に分散できない。比較例2では乾燥時の水分率が低すぎて次の工程において無定形水酸化アルミニウムが水に分散できない。比較例3は無定形水酸化アルミニウムゲルを水に分散した後、ギ酸を投入した後の温度が低すぎて、塩基性を含むギ酸アルミニウムが合成されておらず、高温で加熱してもアルミナ水分散液が生成しない。
【0068】
表3に示すように比較例4は無定形水酸化アルミニウムゲルを水に分散した後、ギ酸を投入した後の攪拌時の温度が低すぎて、ギ酸アルミニウムの生成が多数となり、アルミナ水分散液はできなかった。表3に示すように比較例5は無定形水酸化アルミニウムゲルに対するギ酸の添加量が少なすぎて、ギ酸アルミニウムの生成量が少なく、更に加熱した際にアルミナ水分散液は生成するが、その濃度が低い。
【0069】
表4に示すように、比較例6は無定形水酸化アルミニウムゲルの中和時にアンモニアではなく、水酸化ナトリウムで中和するために、アルミナ水分散液を合成した際にナトリウムが多く残る可能性がある。表4に示すように、比較例7は無定形水酸化アルミニウムゲルに対してギ酸の代わりに乳酸を使用して塩基性乳酸アルミニウムを合成し、アルミナ水分散液を合成した。アルミナ水分散液は合成できるものの熱分解性評価を実施した際にガラス表面が黒になっており、有機分が熱分解しきれていない残炭が発生し、アルミナになっていないことが確認され、低温熱分解性に課題があることが確認された。比較例8は塩化アルミニウムを使用し、ギ酸を使用せず、酢酸アルミニウムを合成し、アルミナ水分散液を合成しようとしたが、生成物に塩素を多く含むと同時に塩基性を含む酢酸アルミニウムの水溶解性が低く、追加加温する際に析出が優先して発生してしまい、アルミナ水分散液が合成できない。
【0070】
図1に示すように実施例1のアルミナ水分散液を100℃で10分間乾燥したものをFE-SEMで観察しているが、一次粒子径が100nm以下のものが多数を占めており、狙いのアルミナ水分散液が合成出来ていることが確認された。
【0071】
図2に示すように実施例1のアルミナ水分散液を100℃で20分間乾燥したもののX線回折を示しているが、明確なピークは確認されず、非晶質なアルミナ粒子分散液ができていることが確認された。
【0072】
図3に示すように実施例1のアルミナ水分散液を100℃で20分間乾燥し、700℃で2時間焼成したもののX線回折を示しているが、γアルミナピークパターンを示しており、非晶質なアルミナ粒子分散液から焼成温度を上げることで、γアルミナに相転移させることができることが確認された。
【0073】
図4に示すように実施例1のアルミナ水分散液の粒度分布を個数基準で測定した結果より、平均粒子径が55nmであり、100nmを超えるような粗大粒子がないアルミナ水分散液が得られていることが確認された。
【0074】
更に、以下のような態様も提案できる。
[1]
アルミナ粒子を分散粒子として含むアルミナ水分散液であって、以下の特性:
(1)アルミナ分散粒子を個数基準で測定した際の平均粒子径が10~1000nmの範囲であり、
(2)アルミナ水分散液を100℃で乾燥時のアルミナ粒子の結晶系が不定形および/またはχアルミナであり、
(3)アルミナ水分散液のpHが2.0~5.3の範囲であり、
(4)アルミナ水分散液が有機酸およびアルカリを含み、前記有機酸がギ酸またはギ酸と酢酸との組合せであり、前記アルカリがアンモニアであり、
(5)アルミナ水分散液に含まれるアルミナ(Al2O3)換算濃度が0.5~11.5質量%である、
を満足するアルミナ水分散液。
[2]
前記アルミナ水分散液が、B型粘度計によるチクソトロピックインデックス(TI値=回転数6rpm/回転数60rpm)2~10を有する[1]のアルミナ水分散液。
[3]
前記アルミナ水分散液が、アルカリ金属またはハロゲン元素をアルミナ水分散液中の固体成分の総重量に基づいて0~0.03質量%の範囲で含む[1]または[2]のアルミナ水分散液。
[4]
前記アルミナ水分散液が、セラミックスまたは耐火物の形成に使用される[1]~[3]のいずれかのアルミナ水分散液。
[5]
硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムのいずれかから選ばれるアルミニウム塩の水溶液にアンモニア水を加えてpH5~8とした後、15~45℃の範囲で0.5~3時間攪拌して非晶質水酸化アルミニウムの沈殿物を生成する第1工程、
生成した非晶質水酸化アルミニウムを洗浄後水分率が60~80%となるように乾燥する第2工程、
乾燥した非晶質水酸化アルミニウムに加水し、分散させた後、アルミニウム1モルに対してギ酸又はギ酸と酢酸との混合物を1.8モル~10モル添加し、40~80℃で1~3時間攪拌してギ酸アルミニウム水溶液またはギ酸アルミニウムと酢酸アルミニウムとの混合物の水溶液を得る第3工程、および
得られたギ酸アルミニウム水溶液またはギ酸アルミニウムと酢酸アルミニウムとの混合物の水溶液を90~120℃の温度で1~24時間で濃縮する第4工程、
を包含する[1]~[5]いずれかのアルミナ水分散液の製造方法。
[6]
前記第3工程で得られたギ酸アルミニウム水溶液またはギ酸アルミニウムと酢酸アルミニウムとの混合物の水溶液の体積をCとし、その後第4工程で90~120℃で1~24時間加熱濃縮した時の体積をDとした場合、体積濃縮率(D/C)が0.3~0.8であるように濃縮することを特徴とする[5]の製造方法。
【要約】 (修正有)
【課題】本発明では、600℃以下での焼成でも残炭が残らない、セラミックスなどの焼成により耐火物を形成する用途に有用なアルミナ水分散液を提供する。
【解決手段】本発明は、アルミナ粒子を分散粒子として含むアルミナ水分散液であって、以下の特性:(1)アルミナ分散粒子を個数基準で測定した際の平均粒子径が10~1000nmの範囲であり、(2)アルミナ水分散液を100℃で乾燥時のアルミナ粒子の結晶系が不定形および/またはxアルミナであり、(3)アルミナ水分散液のpHが2.0~5.3の範囲であり、(4)アルミナ水分散液が有機酸およりアルカリを含み、前記有機酸がギ酸またはギ酸と酢酸との組合せであり、前記アルカリがアンモニアであり、(5)アルミナ水分散液に含まれるアルミナ(Al
2O
3)換算濃度が0.5~11.5質量%である、を満足するアルミナ水分散液およびその製造方法を提供する。
【選択図】
図1