(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】湿式粉砕用助剤およびそれを含有する水性スラリー組成物
(51)【国際特許分類】
B02C 23/06 20060101AFI20240925BHJP
A01N 25/04 20060101ALN20240925BHJP
A01N 43/70 20060101ALN20240925BHJP
A01N 47/18 20060101ALN20240925BHJP
A01N 43/56 20060101ALN20240925BHJP
【FI】
B02C23/06
A01N25/04 102
A01N43/70
A01N47/18 101C
A01N43/56 C
(21)【出願番号】P 2024031086
(22)【出願日】2024-03-01
【審査請求日】2024-03-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤井 伸也
【審査官】川口 聖司
(56)【参考文献】
【文献】特許第4620923(JP,B2)
【文献】特開2001-039801(JP,A)
【文献】特開平05-017304(JP,A)
【文献】特開平03-146126(JP,A)
【文献】特許第2750173(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B02C 19/18
B02C 23/00-23/40
A01N 1/00-65/48
C09K 23/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物の湿式粉砕用助剤であって、
下記の芳香族化合物(A)と下記の脂肪族化合物(B)とを含有し、
前記芳香族化合物(A)と前記脂肪族化合物(B)との含有量の合計を100質量%とすると、前記芳香族化合物(A)を
30~
87質量%含有することを特徴とする湿式粉砕用助剤。
芳香族化合物(A):(アルキル)ナフタレンスルホン酸およびその中和塩から選ばれる少なくとも一つ
脂肪族化合物(B):下記のエーテル化合物(1)及び下記のエーテル化合物(2)から選ばれる少なくとも一つ
エーテル化合物(1):炭素数3~16の脂肪族1価アルコール1モルに対して、炭素数2~3のアルキレンオキシドを合計1~150モル付加させた化合物
エーテル化合物(2):炭素数2~14の脂肪族2価アルコール1モルに対して、炭素数2~3のアルキレンオキシドを合計1~150モル付加させた化合物
【請求項2】
前記(アルキル)ナフタレンスルホン酸が、ナフタレンスルホン酸1モル
に対して炭素数1~4の
アルキル基が平均0.7~3.0モル
付加されている化合物である請求項1に記載の湿式粉砕用助剤。
【請求項3】
前記脂肪族化合物(B)が、前記エーテル化合物(1)から選ばれる化合物である請求項1に記載の湿式粉砕用助剤。
【請求項4】
前記有機化合物と、請求項1から3のいずれか一項に記載の湿式粉砕用助剤と、水とを含有することを特徴とする水性スラリー組成物。
【請求項5】
前記有機化合物、前記湿式粉砕用助剤、及び前記水の含有量の合計を100質量%とすると、前記有機化合物を1~70質量%、前記湿式粉砕用助剤を0.1~10質量%、及び前記水を20~98.9質量%の割合で含有する、請求項4に記載の水性スラリー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、湿式粉砕用助剤およびそれを含有する水性スラリー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
農薬製剤の一つの剤型として、水溶解度が低い農薬原体を湿式粉砕して、水性媒体に均一に分散させた水性懸濁剤(フロアブル剤)が知られている。水性懸濁剤は、計量および散布が容易であると共に、有機溶剤を含まないため作業者が気化した有機溶媒を吸入する危険性がない利点を有しており、主要な農薬剤型の一つになりつつある。
【0003】
水性懸濁剤中において農薬原体は固体粒子として分散しているため、一般にその粒径が大きいほど生物効果が低下する傾向がある。そのため、水性懸濁液中の農薬原体の粒径は小さく保たれること、好ましくはサブミクロン単位であることが望まれる。しかし、湿式粉砕は固体粒子を物理的に粉砕する処理であり、通常、所望の粒径、特にサブミクロンサイズまで粉砕するためには多大な作業時間およびエネルギーを要する。また、農薬原体は疎水性のものが多いため、粒径が小さくなるほど再凝集性が高まり、農薬原体の種類によってはサブミクロン単位まで湿式粉砕するのは困難である。そこで、このような問題を改善するために、農薬等の有機化合物の湿式粉砕において様々な粉砕助剤を用いる技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1~8には従来の湿式粉砕用の粉砕助剤が開示されている。特許文献1は、特定構造のアルキルナフタレンスルホン酸塩からなる粉砕助剤を開示している。特許文献2は、炭素数が4~12のアルコールにエチレンオキシド、プロピレンオキシド、もしくはブチレンオキシドを付加し、または付加させずに、無水ジカルボン酸とエステル化した後に、スルホン化した化合物の塩からなる粉砕助剤を開示している。特許文献3は、ポリアルキレングリコールエーテルならびにエチレンオキシド、プロピレンオキシドまたはエチレンオキシドとプロピレンオキシドの混合物とアルキルフェノール、脂肪族アルコール、脂肪族アミンまたは脂肪酸との縮合生成物を粉砕助剤(分散剤)として例示している。特許文献4は、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム塩ホルムアルデヒド縮合物とポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンのコポリマーからなる粉砕助剤を開示している。特許文献5は、フェノールスルホン酸ナトリウムのホルムアルデヒド縮合物とポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンのブロックコポリマーからなる粉砕助剤を開示している。特許文献6および7は、粉砕助剤としてアルキルナフタレンスルホン酸塩を例示している。特許文献8は、アルキルナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩を含有する混合物からなる粉砕助剤を開示している。
【0005】
なお、粉砕の一態様である乾式粉砕には、湿式粉砕と比べて混入物を抑制できるという利点が知られており、極めて高い安全性が求められる医薬組成物の調製等では乾式粉砕が用いられる場合が多い。そのような乾式粉砕においても粉砕助剤として界面活性剤が用いられる場合がある(例えば、特許文献9参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第2931603号公報
【文献】特許第2750173号公報
【文献】特許第6186370号公報
【文献】米国特許公開第2001/0051175号公報
【文献】特許第4620923号公報
【文献】特開2003-238315号公報
【文献】特開平5-17303号公報
【文献】特開2021-042200号公報
【文献】特許第6460897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の湿式粉砕用助剤では有機化合物の微小化や再凝集の抑制が十分でない場合があり、有機化合物の粒径を所望のサイズにできない、すなわち粉砕効率が不十分となることがあった。また、湿式粉砕用助剤の種類によっては、起泡性が高すぎて歩留まりが悪化したり、粉砕時に有機化合物が空気や水を巻き込みながら凝集することで懸濁液(スラリー)が流動性を失うこともあった。
【0008】
そこで本発明は、湿式粉砕において優れた粉砕効率を実現すると共に、湿式粉砕により得られる水性スラリー組成物が良好な流動性および低い起泡性を有する、湿式粉砕用助剤およびそれを含有する水性スラリー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採る。
[1]有機化合物の湿式粉砕用助剤であって、下記の芳香族化合物(A)と下記の脂肪族化合物(B)とを含有し、前記芳香族化合物(A)と前記脂肪族化合物(B)との含有量の合計を100質量%とすると、前記芳香族化合物(A)を30~87質量%含有することを特徴とする湿式粉砕用助剤。
芳香族化合物(A):(アルキル)ナフタレンスルホン酸およびその中和塩から選ばれる少なくとも一つ
脂肪族化合物(B):下記のエーテル化合物(1)及び下記のエーテル化合物(2)から選ばれる少なくとも一つ
エーテル化合物(1):炭素数3~16の脂肪族1価アルコール1モルに対して、炭素数2~3のアルキレンオキシドを合計1~150モル付加させた化合物
エーテル化合物(2):炭素数2~14の脂肪族2価アルコール1モルに対して、炭素数2~3のアルキレンオキシドを合計1~150モル付加させた化合物
[2]前記(アルキル)ナフタレンスルホン酸が、ナフタレンスルホン酸1モルに対して炭素数1~4のアルキル基が平均0.7~3.0モル付加されている化合物である[1]の湿式粉砕用助剤。
[3]前記脂肪族化合物(B)が、前記エーテル化合物(1)から選ばれる化合物である[1]の湿式粉砕用助剤。
[4]前記有機化合物と、[1]から[3]のいずれかの湿式粉砕用助剤と、水とを含有することを特徴とする水性スラリー組成物。
[5]前記有機化合物、前記湿式粉砕用助剤、及び前記水の含有量の合計を100質量%とすると、前記有機化合物を1~70質量%、前記湿式粉砕用助剤を0.1~10質量%、及び前記水を20~98.9質量%の割合で含有する、[4]の水性スラリー組成物。
【0010】
なお、本明細書において「○○~△△」で示した数値範囲はその上限及び下限を含む範囲を表す。つまり、「○○~△△」は「○○以上、△△以下」を意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、湿式粉砕において優れた粉砕効率を実現できると共に、湿式粉砕により得られる水性スラリー組成物が良好な流動性および低い起泡性を有する、湿式粉砕用助剤およびそれを含有する水性スラリー組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪湿式粉砕用助剤≫
本発明の湿式粉砕用助剤は、有機化合物の湿式粉砕用助剤であって、芳香族化合物(A)と脂肪族化合物(B)とを含有する。後述する有機化合物の湿式粉砕時に本発明の湿式粉砕用助剤を添加することにより、有機化合物の粒径が小さく、流動性および起泡性が良好な水性スラリー組成物を得ることができる。
【0013】
<芳香族化合物(A)>
芳香族化合物(A)は、(アルキル)ナフタレンスルホン酸およびその中和塩から選ばれる少なくとも一つである。
【0014】
(アルキル)ナフタレンスルホン酸は、ナフタレンスルホン酸、または(ポリ)アルキルナフタレンスルホン酸を意味する。(ポリ)アルキルナフタレンスルホン酸としては、メチルナフタレンスルホン酸、エチルナフタレンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、イソプロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸、およびイソブチルナフタレンスルホン酸等のモノアルキルナフタレンスルホン酸と、ジメチルナフタレンスルホン酸、ジエチルナフタレンスルホン酸、ジプロピルナフタレンスルホン酸、ジブチルナフタレンスルホン酸、トリプロピルナフタレンスルホン酸、およびテトラプロピルナフタレンスルホン酸等のポリアルキルナフタレンスルホン酸とが挙げられる。また、(アルキル)ナフタレンスルホン酸は、そのスルホン化度に応じて、(アルキル)ナフタレンモノスルホン酸、(アルキル)ナフタレンジスルホン酸、および(アルキル)ナフタレントリスルホン酸等の少なくとも一つを含有する。アルキル基は、分岐でも直鎖でもよい。
【0015】
(アルキル)ナフタレンスルホン酸は、ナフタレンスルホン酸1モルと炭素数1~4の脂肪族1価アルコール0.7~3.0モルとから形成されていることが好ましく、ナフタレンスルホン酸1モルと炭素数3又は4の脂肪族1価アルコール0.7~3.0モルとから形成されていることが更に好ましい。
【0016】
(アルキル)ナフタレンスルホン酸の中和塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、およびアミン塩等が挙げられるが、中でも、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、ジエタノールアミン塩、およびトリエタノールアミン塩が好ましく、ナトリウム塩が最も好ましい。
【0017】
<脂肪族化合物(B)>
脂肪族化合物(B)は、エーテル化合物(1)およびエーテル化合物(2)から選ばれる少なくとも一つである。
【0018】
エーテル化合物(1)は、炭素数3~16の脂肪族1価アルコール1モルに対して炭素数2~3のアルキレンオキシドを合計1~150モル付加させた化合物であり、特に炭素数3~16の脂肪族1価アルコール1モルに対して炭素数2~3のアルキレンオキシドを合計1~20モル付加させた化合物が好ましく、さらには炭素数10~16の脂肪族1価アルコール1モルに対して炭素数2~3のアルキレンオキシドを合計1~20モル付加させた化合物が好ましい。炭素数3~16の脂肪族1価アルコールは、第1級アルコールでもよく、第2級アルコールでもよく、第3級アルコールでもよい。炭素数3~16の脂肪族1価アルコールとしては、例えば、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ドデカノール、トリデカノール、イソトリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール等が挙げられる。
【0019】
エーテル化合物(2)は、炭素数2~14の脂肪族2価アルコール1モルに対して、炭素数2~3のアルキレンオキシドを合計1~150モル付加させた化合物である。炭素数2~14の脂肪族2価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、および1,2-テトラデカンジオール等が挙げられる。
【0020】
アルキレンオキシドとしてエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドが付加されている場合、アルキレンオキシドはブロック共重合されていてもよいし、ランダム共重合されていてもよい。なお、本明細書におけるアルキレンオキシドの付加モル数は、平均付加モル数を意味する。
【0021】
脂肪族化合物(B)は、有機化合物の粉砕効率の観点から、エーテル化合物(1)から選ばれることが好ましい。
【0022】
<含有割合>
湿式粉砕用助剤は、芳香族化合物(A)と脂肪族化合物(B)との含有量の合計を100質量%とすると、芳香族化合物(A)を30~87質量%含有する。
【0023】
<有機化合物>
湿式粉砕用助剤の使用対象となる有機化合物としては、水に不溶または水溶解度が小さく一般に水性スラリー組成物として調製される化合物であれば特に制限はなく、従来公知のものが使用可能である。有機化合物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。そのような有機化合物として、例えば、以下の殺虫剤、殺菌剤、または除草剤等の農薬活性成分が挙げられる。
【0024】
殺虫剤としては、例えば、クロマフェノジド、ピリミジフェン、レピメクチン、インドキサカルブ、エチプロール、カルバリル、クロラントラニリプロール、クロルフェナピル、クロルフルアズロン、ジアフェンチウロン、シアントラニリプロール、ジフルベンズロン、テブフェノジド、テブフェノジド、テフルベンズロン、トルフェンピラド、フェンピロキシメート、ブプロフェジン、フラチオカルブ、フルフェノクスロン、フルベンジアミド、ヘキサフルムロン、ベンゾエピン、メタフルミゾンまたはルフェヌロンあるいはそれらの塩等を挙げることができる。
【0025】
殺菌剤としては、例えば、カルベンダジム、トルプロカルブ、ペンチオピラド、アゾキシストロビン、オリサストロビン、カルプロパミド、キャプタン、シアゾファミド、ジクロシメット、ジクロメジン、ジチアノン、チアジニル、チフルザミド、ファモキサドン、フサライド、フルオルイミド、フルトラニル、プロシミドンまたはペンシクロンあるいはそれらの塩等を挙げることができる。
【0026】
除草剤としては、例えば、アトラジン、オキサジクロメホン、カフェンストロール、キザロホップエチル、クミルロン、クロメプロップ、ダイムロン、テニルクロール、ビフェノックス、ピラクロニル、ピラゾキシフェン、ピリフタリド、ピリブチカルブ、ピラゾスルフロンエチル、ピラフルフェンエチル、フェノキサスルホン、フェントラザミド、フェンメディファム、フルミオキサジン、プロジアミン、プロピリスルフロン、ブロモブチド、ベンスルフロンメチル、ベンゾフェナップ、ベンゾビシクロン、ペントキサゾンまたはメフェナセット等を挙げることができる。
【0027】
≪水性スラリー組成物≫
水性スラリー組成物は、有機化合物、湿式粉砕用助剤、および水を含有する。有機化合物は、好ましくは上述の農薬活性成分である。
【0028】
<含有割合>
水性スラリー組成物中の有機化合物および湿式粉砕用助剤の含有割合は有機化合物の種類に応じて適宜設定可能であるが、有機化合物、湿式粉砕用助剤、及び水の含有量の合計を100質量%とすると、有機化合物を1~70質量%、湿式粉砕用助剤を0.1~10質量%、及び水を20~98.9質量%の割合で含有することが好ましく、有機化合物を10~70質量%、湿式粉砕用助剤を1.0~5.0質量%の割合で含有することが更に好ましい。
【0029】
<添加剤>
水性スラリー組成物は、必要に応じて、その効果を損なわない範囲において、有機溶媒、界面活性剤、増粘剤、pH調整剤、凍結防止剤、消泡剤、防黴剤、塩、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含有することができる。上記界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、両性、非イオン性の各種界面活性剤を用いることができる。かかる界面活性剤として、ポリオキシアルキレンアリールフェニルエーテル、ポリオキシアルキレン化ヒマシ油、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合物、アルキルポリグリコシド、ショ糖脂肪酸エステル、ジアルキルスルホコハク酸金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸金属塩、アルキルナフタレンスルホン酸金属塩縮合物、ポリオキシアルキレンアリールフェニルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアリールフェニルエーテル硫酸エステル塩、アルキル硫酸塩、ポリカルボン酸塩、リグニンスルホン酸塩、アルキルアミン塩酸塩、アルキル四級アンモニウム塩、アルキルベタイン、脂肪酸エステルなどが例示されるが、これらに限定されない。
【0030】
≪製造方法≫
湿式粉砕用助剤は、芳香族化合物(A)および脂肪族化合物(B)を所定の割合で混合することにより製造することができる。一方、水性スラリー組成物は、湿式粉砕用助剤、有機化合物、水、および任意の添加剤を混合した後、ペイントシェーカー、サンドミル、ボールミル、ダイノミル、アペックスミル、アトライター等を用いて湿式粉砕することにより製造することができる。なお、添加剤はその使用目的に応じて湿式粉砕後に添加してもよい。また、湿式粉砕は、有機化合物の種類や粉砕前後の粒径等に応じて、一工程で行ってもよいし、粗砕、中砕、微粉砕、超微粉砕のように複数工程に分けて順次行ってもよい。
【0031】
本開示の湿式粉砕用助剤は、芳香族化合物(A)および脂肪族化合物(B)を所定の割合で含有することにより、湿式粉砕時において優れた粉砕効率を実現できる。また、湿式粉砕された水性スラリー組成物は、良好な流動性および低い起泡性を有する。
【実施例】
【0032】
以下、本開示の構成及び効果を具体的な実施例及び比較例を挙げて説明する。以下の実施例及び比較例において、部は質量部を意味する。
【0033】
≪各成分の表示≫
実施例および比較例で使用した各成分は以下のとおりである。
【0034】
【0035】
<B成分:脂肪族化合物>
【表2】
b-8:POE(7)オレイン酸エステル
b-9:ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム
b-10:ポリカルボン酸ナトリウム塩
b-11:POEアリールフェニルエーテルリン酸エステルアミン塩
【0036】
<調製例1>
芳香族化合物(A)としてA-1 87部と脂肪族化合物(B)としてB-1 13部とを混合し、湿式粉砕用助剤C-1を得た。
【0037】
<調製例2~21>
芳香族化合物(A)および脂肪族化合物(B)の種類および配合量を下記表3に記載の組成に変更した以外は調製例1と同様にして各湿式粉砕用助剤を得た。
【表3】
【0038】
<実施例1>
有機化合物としてアトラジンを60部、湿式粉砕用助剤C-1を2.5部、添加剤としてシリコーン系消泡剤を0.1部、及び市水37.5部を混合した後、ペイントシェーカーを用いて2mm径ジルコニアビーズにて30分間湿式粉砕を行った(粗粉砕工程)。得られた粉砕物から2mm径ジルコニアビーズを除去し、0.65mmジルコニアビーズを充填して再度湿式粉砕を行い(微粉砕工程)、水性スラリー組成物を調製した。その後、2mm径のスポイトにて水性スラリー組成物のみを回収した。
【0039】
<実施例2~13、比較例1~13>
水性スラリー組成物の組成を下記表4の構成に変更した以外は実施例1と同様にして各水性スラリー組成物を得た。
【0040】
【0041】
実施例および比較例の水性スラリー組成物を用いて下記試験を行った。試験結果は表4に示す。
【0042】
<粘度・起泡性の評価>
微粉砕工程を2時間実施した水性スラリー組成物の粘度と起泡性に基づきスラリーの評価を行った。起泡性は粉砕後に容器内に残存している泡の有無を目視にて観察した。
<評価基準>
〇:泡が残存していないかつスラリーの粘度が800mPas・s未満
×:泡が残存しているおよび/またはスラリーの粘度が800mPas・s以上
××:固化しており、流動性がない
【0043】
<粉砕効率>
2時間微粉砕を行った水性スラリー組成物中に分散している有機化合物の粒径(nm、メジアン径)を、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(HORIBA社製のLA-960、測定溶媒:イオン交換水)を用いて測定した。粉砕効率の評価基準は以下の通りである。
<評価基準>
◎◎:800nm未満
◎:800nm以上、1000nm未満
〇:1000nm以上、1200nm未満
×:1200nm以上
-:粉砕後の水性スラリー組成物に流動性がないため、未評価
【0044】
実施例1~13は、いずれも良好な流動性(粘度)および低い起泡性を有し、かつ、優れた粉砕効率を示した。一方、比較例1~3、9、10、及び12では、湿式粉砕用助剤が芳香族化合物(A)を含まないため、流動性および起泡性の少なくとも一方が劣っていた。比較例4~8では、湿式粉砕用助剤が脂肪族化合物(B)を含有しないため、粉砕効率が劣っていた。比較例11及び13は、湿式粉砕用助剤中の芳香族化合物(A)の含有割合が過剰又は過少であるため、流動性および起泡性が劣っていた。
【要約】
【課題】
湿式粉砕において優れた粉砕効率を実現し、湿式粉砕により得られる水性スラリー組成物が良好な流動性および低い起泡性を有する、湿式粉砕用助剤を提供する。
【解決手段】
有機化合物の湿式粉砕用助剤を、芳香族化合物(A)と脂肪族化合物(B)とを所定割合で含有するものとする。芳香族化合物(A)は、(アルキル)ナフタレンスルホン酸およびその中和塩から選ばれる少なくとも一つである。脂肪族化合物(B)は、炭素数3~16の脂肪族1価アルコール1モルに対して炭素数2~3のアルキレンオキシドを合計1~150モル付加させたエーテル化合物(1)と、炭素数2~14の脂肪族2価アルコール1モルに対して炭素数2~3のアルキレンオキシドを合計1~150モル付加させたエーテル化合物(2)の少なくとも一つである。
【選択図】なし