(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】ロータリーキルン
(51)【国際特許分類】
F27B 7/24 20060101AFI20240925BHJP
F27D 7/06 20060101ALI20240925BHJP
F27D 7/02 20060101ALI20240925BHJP
F27B 5/04 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
F27B7/24
F27D7/06 B
F27D7/02 Z
F27B5/04
(21)【出願番号】P 2020046102
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】福島 宏康
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】実開昭49-060053(JP,U)
【文献】米国特許第04199154(US,A)
【文献】特開2006-078149(JP,A)
【文献】特開2011-117639(JP,A)
【文献】特開2015-155791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 7/24
F27D 7/06
F27D 7/02
F27B 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のキルン本体と、
前記キルン本体の軸方向端部に位置する開口部を覆うと共に、前記キルン本体の円筒状の外周部を回胴可能に保持する固定フードと、
前記キルン本体の前記外周部から外側に円環状に突出し、前記固定フードのうち前記外周部に対向する位置に形成された円環状の溝部に摺動する3つ以上のシール部と、
前記3つ以上のシール部のうち、隣接する2つの前記シール部と前記固定フードによって囲まれた2つ以上のシール空間の各々に、前記キルン本体の内部と外部の間の気体の移動を防止する加圧気体を供給する
流路を備えた加圧気体供給部と、
を備えたことを特徴とする、ロータリーキルン。
【請求項2】
請求項1に記載のロータリーキルンであって、
前記2つ以上の前記シール空間のうち、外気に近い側に位置する前記シール空間を外気側シール空間、前記外気側シール空間よりも前記キルン本体の内部の気体に近い側に位置する前記シール空間を内部側シール空間とした場合に、
前記加圧気体供給部は、前記内部側シール空間と前記外気側シール空間に、異なる圧力で前記加圧気体を供給することを特徴とする、ロータリーキルン。
【請求項3】
請求項2に記載のロータリーキルンであって、
前記加圧気体供給部は、前記内部側シール空間に供給する前記加圧気体の圧力を、前記外気側シール空間に供給する前記加圧気体の圧力よりも高くすることを特徴とする、ロータリーキルン。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のロータリーキルンであって、
前記加圧気体供給部は、前記キルン本体の内部に供給する雰囲気ガスを、前記加圧気体として前記シール空間に供給することを特徴とする、ロータリーキルン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転するキルン本体の内部で被処理物を攪拌させながら加熱処理するロータリーキルンに関する。
【背景技術】
【0002】
キルン本体と固定フードを備えたロータリーキルンが知られている。キルン本体は筒状であり、連続して回転することで、内部の被処理物を攪拌させながら搬送する。固定フードは、筒状であるキルン本体の端部(例えば両端部)を覆った状態で、キルン本体を回胴可能に保持する。
【0003】
キルン本体は、固定フードに摺動しながら回転する必要があるので、キルン本体と固定フードが摺動する摺動部を完全に密閉することは困難である。一方で、ロータリーキルンで被処理物を加熱処理する際に、キルン本体の内部と外部の間の気体の移動を制御することが望ましい場合も多い。例えば、空気中の物質(例えば、酸素、二酸化炭素、水蒸気等の少なくともいずれか)と被処理物の反応を避けるために、キルン本体の内部の雰囲気を制御した状態で、被処理物を熱処理する場合がある。また、キルン本体の内部から外部へガスが漏出することが望ましくない場合もある。従って、キルン本体と固定フードの摺動部を介した気体の移動を適切に制御できることが望ましい。
【0004】
例えば、特許文献1に記載のロータリーキルンは、固定フードに設けられた円筒状の第1摺動部および第2摺動部と、キルン本体の外周面と、固定フードの内周面とによって囲まれたシール空間に、外気を導入する。これによって、キルン本体から摺動部を介してガスが外部に漏出することの抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で開示された技術を採用した場合でも、例えば、キルン本体の内部と外部の間の圧力差の変動等に起因して、摺動部を介して気体が移動してしまう可能性があった。
【0007】
本開示の典型的な目的は、キルン本体の内部と外部の間で気体が移動することを適切に抑制することが可能なロータリーキルンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示される一態様のロータリーキルンは、筒状のキルン本体と、上記キルン本体の軸方向端部に位置する開口部を覆うと共に、上記キルン本体の円筒状の外周部を回胴可能に保持する固定フードと、上記キルン本体の上記外周部から外側に円環状に突出し、上記固定フードのうち上記外周部に対向する位置に形成された円環状の溝部に摺動する3つ以上のシール部と、上記3つ以上のシール部のうち、隣接する2つの上記シール部と上記固定フードによって囲まれた2つ以上のシール空間の各々に、上記キルン本体の内部と外部の間の気体の移動を防止する加圧気体を供給する加圧気体供給部と、を備える。
【0009】
本開示に係るロータリーキルンでは、キルン本体と固定フードが摺動する摺動部において、キルン本体の外周部から外側に円環状に突出するシール部が3つ以上形成されている。その結果、隣接する2つのシール部と固定フードによって囲まれるシール空間が、2つ以上形成される。2つ以上のシール空間の各々に、加圧気体が供給される。従って、複数のシール空間の1つを気体が移動した場合でも、他のシール空間によって気体の移動が遮断され易い。よって、キルン本体の内部と外部の間で気体が移動することが、適切に抑制される。
【0010】
2つ以上の前記シール空間のうち、外気に近い側に位置するシール空間を外気側シール空間、外気側シール空間よりもキルン本体の内部の気体に近い側に位置するシール空間を内部側シール空間とする。ここに開示されるロータリーキルンの好適な一態様では、加圧気体供給部は、内部側シール空間と外気側シール空間に、異なる圧力で加圧気体を供給する。この場合、加圧気体は、高い圧力で供給されたシール空間から、低い圧力で供給されたシール空間に向けて流れやすい。従って、複数のシール空間に同じ圧力で加圧気体が供給される場合に比べて、外部からキルン本体の内部に気体が流入する可能性、または、キルン本体の内部から外部へ気体が漏出する可能性が、さらに低下する。
【0011】
ここに開示されるロータリーキルンの好適な一態様では、加圧気体供給部は、内部側シール空間に供給する加圧気体の圧力を、外気側シール空間に供給する加圧気体の圧力よりも高くする。この場合、加圧気体は、内部側シール空間から外気側シール空間に向けて流れやすい。従って、外部からキルン本体の内部に気体が流入する可能性が、適切に低下する。
【0012】
ただし、加圧気体供給部は、外気側シール空間に供給する加圧気体の圧力を、内部側シール空間に供給する加圧気体の圧力よりも高くしてもよい。この場合、キルン本体の内部から外部に気体が漏洩する可能性が、さらに低下する。また、複数のシール空間に同じ圧力で加圧気体が供給されてもよい。この場合でも、シール空間が1つ(つまり、シール部が2つ)のみ設けられている場合に比べて、キルン本体の内部と外部の間で気体が移動する可能性は、適切に低下する。
【0013】
ここに開示されるロータリーキルンの好適な一態様では、加圧気体制御部は、キルン本体の内部に供給する雰囲気ガスを、加圧気体としてシール空間に供給する。この場合、シール空間に供給された雰囲気ガスが、キルン本体の内部に流入しても、被処理物の加熱処理が適切に実行される。例えば、空気中の物質(例えば、酸素、二酸化炭素、水蒸気等の少なくともいずれか)と反応する被処理物を、ロータリーキルンによって加熱処理する場合等であっても、被処理物が適切に加熱処理される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ロータリーキルン1の全体構成を示す模式断面図である。
【
図2】シール保持機構3Aの構成を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示における典型的な実施形態の1つについて、図面を参照しつつ詳細に説明する。本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0016】
<全体構成>
図1を参照して、本実施形態のロータリーキルン1の全体構成について説明する。本実施形態のロータリーキルン1は、空気中の物質(例えば、酸素、二酸化炭素、水蒸気等の少なくともいずれか)と反応する被処理物を、雰囲気制御下で加熱処理する。一例として、本実施形態のロータリーキルン1は、窒素雰囲気中で硫化リチウムを加熱処理する場合に使用される。しかし、硫化リチウム以外の被処理物を雰囲気制御下で加熱処理する場合にも、本実施形態のロータリーキルン1を使用することができる。なお、以下の説明では、
図1における左側をロータリーキルン1の基端側、
図1における右側をロータリーキルン1の先端側とする。
【0017】
本実施形態のロータリーキルン1は、キルン本体10、固定フード20A,20B、投入部30、搬送部40、雰囲気ガス供給部50、圧力検出部60、および制御部70を備える。
【0018】
キルン本体10は、筒状(本実施形態では円筒状)である。キルン本体10は、回胴機構(図示せず)によって回転軸Oを中心に回胴することで、内部に供給された被処理物を攪拌しながら、基端側(
図1の左側)から先端側(
図1の右側)に搬送する。キルン本体10は、内部の被処理物を加熱する加熱部11を備える。一例として、本実施形態の加熱部11は、キルン本体10の軸方向中央部の外周を覆うヒータであり、加熱部11に電力が供給されることで、キルン本体10の内部が加熱される。ただし、加熱部11の構成を変更することも可能である。例えば、ガスバーナー等によってキルン本体10の内部が加熱されてもよい。
【0019】
固定フード20A,20Bは、キルン本体10の回転軸Oの方向の端部に位置する開口部12A,12Bを覆うことで、開口部12A,12Bから外部へのガスの漏出を抑制する。また、固定フード20A,20Bは、キルン本体10の円筒状の外周部を回胴可能に保持する。本実施形態では、キルン本体10の基端側の開口部12Aを覆い、且つ基端側の外周部を回胴可能に保持する固定フード20Aと、キルン本体10の先端側の開口部12Bを覆い、且つ先端側の外周部を回胴可能に保持する固定フード20Bが設けられている。基端側の固定フード20Aには、被処理物をキルン本体10の内部へ搬送する搬送部40が接続される。基端側の固定フード20Aと、キルン本体10の基端側の外周部が摺動する摺動部には、摺動部を通じたキルン本体10の内部と外部の間の気体の移動を抑制した状態でキルン本体10を回胴可能に保持するシール保持機構3Aが形成されている。また、先端側の固定フード20Bには、キルン本体10の内部で加熱処理された被処理物が排出される排出口21が設けられている。先端側の固定フード20Bと、キルン本体10の先端側の外周部が摺動する摺動部には、摺動部を通じた気体の移動を抑制した状態でキルン本体10を回胴可能に保持するシール保持機構3Bが形成されている。シール保持機構3A,3Bの詳細については、
図2を参照して後述する。
【0020】
投入部30には、加熱処理の対象となる被処理物が投入される。投入部30は、内部を密閉することが可能なグローブボックス5内に設けられている。作業者は、グローブボックス5内で投入部30に被処理物を投入する。ただし、ロータリーキルン1は、投入部30に被処理物を自動的に投入する投入機構を備えていてもよい。投入部30に投入された被処理物は、投入部30に接続された搬送部40に供給される。投入部30には、投入部30を通じた気体の移動を遮断する閉鎖部31が設けられている。一例として、本実施形態の閉鎖部31は、投入部30の投入口を開閉する蓋状の部材である。しかし、閉鎖部の構成を変更することも可能である。例えば、投入部30における被処理物の経路を開閉するシャッター等が、閉鎖部として採用されてもよい。閉鎖部31によって投入部30が閉鎖されることで、キルン本体10の内部から搬送部40の搬送経路を通じて投入部30へ移動した気体(本実施形態では、有毒物質を含む反応ガス)が、投入部30の投入口から外部へ漏出することが抑制される。
【0021】
搬送部40は、投入部30から投入された被処理物を、投入部30からキルン本体10の内部へ延びる搬送経路を通じて搬送する。一例として、本実施形態では、搬送部40としてスクリューフィーダが採用されている。本実施形態の搬送部40は、搬送経路に設けられた搬送機構(搬送スクリュー)41を、搬送用モータ42によって回転させることで、被処理物をキルン本体10の内部へ搬送する。ただし、搬送部の構成を変更することも可能である。例えば、搬送部は、搬送ベルト等によって被処理物を搬送してもよい。
【0022】
雰囲気ガス供給部50は、ロータリーキルン1の内部に雰囲気ガスを供給する。一例として、本実施形態で使用される雰囲気ガスは、被処理物である硫化リチウムの反応に寄与しない窒素ガスである。しかし、雰囲気ガスは、被処理物の種類等に応じて適宜選択されればよい。詳細は後述するが、本実施形態の雰囲気ガス供給部50は、シール保持機構3A,3Bの内部側シール空間6A(
図2参照)に、加圧気体(加圧した雰囲気ガス)SG1を供給し、且つ、外気側シール空間6B(
図2参照)に加圧気体(加圧した雰囲気ガス)SG2を供給する。
【0023】
雰囲気ガス供給部50は、キルン本体10の内部に雰囲気ガスSG3を供給する。本実施形態では、先端側の固定フード20Bを介して、キルン本体10の内部に雰囲気ガスSG3が供給される。また、基端側の固定フード20Aを介して、キルン本体10の内部から排ガスEG3が排出される。ただし、雰囲気ガスSG3の供給位置、および、排ガスEG3の排出位置を変更することも可能である。また、雰囲気ガス供給部50は、グローブボックス5の内部に雰囲気ガスSG4を供給する。グローブボックス5内から排ガスEG4が排出される。排ガスEG3,EG4は、湿式スクラバ等を備えた浄化装置(図示せず)に導かれる。
【0024】
圧力検出部60は、キルン本体10の内部の気体の圧力を検出する。一例として、本実施形態の圧力検出部60は、キルン本体10の内部空間に接続された、基端側の固定フード20Aの内部空間の気体の圧力を検出することで、キルン本体10の内部の気体の圧力を検出する。ただし、圧力検出部60の設置位置は適宜変更できる。
【0025】
制御部70は、ロータリーキルン1の各種制御を司るコントローラを備える。制御部70は、加熱部11、搬送用モータ42、第1加圧気体供給部51(
図2参照)、第2加圧気体供給部52(
図2参照)、および圧力検出部60等に接続されており、各部の動作制御を実行する。
【0026】
<シール保持機構>
図2を参照して、シール保持機構3A,3Bの構成について詳細に説明する。前述したように、本実施形態のロータリーキルン1では、キルン本体10の基端側の外周部をシールしつつ回胴可能に保持するシール保持機構3Aと、キルン本体10の先端側の外周部をシールしつつ回胴可能に保持するシール保持機構3Bが設けられている。本実施形態における2つのシール保持機構3A,3Bの構成は、回転軸Oの方向に関して対称となっている。従って、以下では、説明を簡略化するために、基端側のシール保持機構3Aについて詳細に説明する。
【0027】
図2に示すように、基端側のシール保持機構3Aでは、キルン本体10の外周部13に、3つのシール部15A,15B,15Cが設けられている。3つのシール部15A,15B,15Cの各々は、キルン本体10の外周部13から、キルン本体10の回転軸O(
図1参照)から遠ざかる方向に(つまり、外周部13から外側に向けて)円環状に突出している。円環状であるシール部15A,15B,15Cの中心は、キルン本体10の回転軸Oと一致している。円環状であるシール部15A,15B,15Cの各々は、回転軸Oに垂直な平面上に位置する。
【0028】
また、固定フード20Aのうち、キルン本体10の外周部13に対向する位置(つまり、固定フード20のうち、キルン本体10を保持する筒状の部位の内側の位置)には、3つのシール部15A,15B,15Cの各々が嵌合する円環状の溝部25A,25B,25Cが形成されている。円環状である溝部25A,25B,25Cの中心は、キルン本体10の回転軸O(
図1参照)と一致している。円環状である溝部25A,25B,25Cの各々は、回転軸Oに垂直な平面上に位置する。従って、キルン本体10は、シール部15A,15B,15Cと溝部25A,25B,25Cを摺動させながら、回転軸Oを中心に回胴する。なお、本実施形態の溝部25A,25B,25Cは、いずれも、シール部15A,15B,15Cの各々を基端側(
図2の左側)および先端側(
図2の右側)の両方から挟み込む。その結果、気体のシール性が向上している。しかし、複数の溝部の少なくともいずれかは、シール部の基端側および先端側の一方のみを覆ってもよい。
【0029】
以上説明したように、本実施形態のシール保持機構3Aでは、3つ以上(本実施形態では3つ)のシール部15A,15B,15Cが用いられる。従って、2つのシール部が用いられる場合に比べて、キルン本体10と固定フード20Aの摺動部を通じて気体が移動する可能性が低下する。
【0030】
しかしながら、シール部15A,15B,15Cと溝部25A,25B,25Cが摺動する摺動部では、周方向の全体で隙間が完全に存在しなくなるように厳密に各部材を形成することは困難である。従って、3つ以上のシール部15A,15B,15Cを用いる場合でもなお、摺動部を通じて気体が移動する場合があり得る。よって、本実施形態のロータリーキルン1は、シール保持機構3Aに加圧気体を適切に供給することで、摺動部を通じた気体の移動をさらに抑制する。
【0031】
図2に示すように、シール保持機構3A(つまり、キルン本体10と固定フード20Aが摺動する摺動部)の隙間を気体が通過する場合の気体の流路のうち、外気に近い側(
図2の右側)を外気側、キルン本体10の内部の気体に近い側(
図2の左側)を内部側とする。3つのシール部15A,15B,15Cのうち、最も内部側に位置する第1シール部15Aと、第1シール部15Aに隣接する第2シール部15Bと、固定フード20A(詳細には、固定フード20Aのうち、2つの溝部25A,25Bの間の部位)とによって囲まれた空間を、内部側シール空間6Aとする。また、3つのシール部15A,15B,15Cのうち、最も外気側に位置する第3シール部15Cと、第3シール部15Cに隣接する第2シール部15Bと、固定フード20A(詳細には、2つの溝部25B,25Cの間の部位)とによって囲まれた空間を、外気側シール空間6Bとする。内部側シール空間6Aは、外気側シール空間6Bよりも内部側に位置する。
【0032】
ロータリーキルン1は、複数(本実施形態では2つ)のシール空間6A,6Bの各々に加圧気体を供給する加圧気体供給部51を備える。従って、複数のシール空間6A,6Bの1つを気体が移動した場合でも、他のシール空間によって気体の移動が遮断され易い。よって、シール保持機構3Aを通じて気体が移動することが、適切に抑制される。加圧気体供給部51は、気体を加圧してシール空間6A,6Bに供給するためのポンプ等を備えていてもよい。
【0033】
本実施形態の加圧気体供給部51は、内部側シール空間6Aと、外気側シール空間6Bの各々に、異なる圧力で加圧気体を供給する。詳細には、第1加圧気体供給部51Aは、固定フード20Aに形成された第1流路27Aを通じて、内部側シール空間6Aに加圧気体SG1を供給する。第2加圧気体供給部51Bは、固定フード20Aに形成された第2流路27Bを通じて、加圧気体SG1とは異なる圧力で、加圧気体SG2を外気側シール空間6Bに供給する。この場合、複数のシール空間6A,6Bの各々に供給された加圧気体は、高い圧力で供給されたシール空間から、低い圧力で供給されたシール空間に向けて流れやすい。従って、複数のシール空間6A,6Bの各々に同じ圧力で加圧気体が供給される場合に比べて、シール保持機構3Aにおいて気体が流れる方向が制御され易い。よって、望ましくない気体の移動が生じる可能性が、さらに低下する。
【0034】
本実施形態の加圧気体供給部51(第1加圧気体供給部51Aおよび第2加圧気体供給部51B)は、内部側シール空間6Aに供給する加圧気体SG1の圧力を、外気側シール空間6Bに供給する加圧気体SG2の圧力よりも高くする。この場合、複数のシール空間6A,6Bの各々に供給された加圧気体は、内部側シール空間6Aから外気側シール空間6Bに向けて流れやすい。従って、外部からシール保持機構3Aを通じてキルン本体10の内部に気体(例えば空気)が流入する可能性が、さらに低下する。特に、本実施形態のように、空気中の物質と反応する被処理物を、雰囲気制御下で加熱処理する場合等には、空気がキルン本体10の内部に流入し難くなるので、より有用である。
【0035】
本実施形態の加圧気体供給部51は、キルン本体10の内部に供給する雰囲気ガス(一例として、本実施形態では窒素ガス)を、加圧気体SG1,SG2としてシール空間6A,6Bに供給する。つまり、加圧気体供給部51は、雰囲気ガス供給部50(
図1参照)から供給される雰囲気ガスを加圧して、シール空間6A,6Bに供給する。従って、シール空間6A,6Bに供給された雰囲気ガスが、キルン本体10の内部に流入しても、被処理物の加熱処理が雰囲気制御下で適切に実行される。
【0036】
上記実施形態で開示された技術は一例に過ぎない。従って、上記実施形態で例示された技術を変更することも可能である。例えば、上記実施形態のロータリーキルン1では、キルン本体10の基端側の外周部をシールするシール保持機構3Aと、キルン本体10の先端側の外周部をシールするシール保持機構3Bの各々に3つ以上のシール部が形成されており、2つ以上のシール空間に加圧気体が供給される。従って、先端側および基端側の一方にのみ前述したシール保持機構を採用する場合に比べて、望ましくない気体の移動がより適切に抑制される。しかし、先端側および基端側の一方にのみ前述したシール保持機構を採用する場合でも、気体が移動する可能性は従来に比べて低下する。
【0037】
上記実施形態では、複数のシール空間6A,6Bの各々に、異なる圧力で加圧気体SG1,SG2が供給される。その結果、シール保持機構3A,3Bにおいて気体が流れる方向が制御され易くなる。しかし、複数のシール空間の各々に、同じ圧力で加圧気体が供給される場合でも、シール空間が1つだけ設けられている場合に比べて、望ましくない気体の移動は適切に抑制される。
【0038】
上記実施形態では、1つのシール保持機構3Aに、3つのシール部15A,15B,15Cと、2つのシール空間6A,6Bが形成される。しかし、1つのシール保持機構に、4つ以上のシール部が形成されてもよい。また、1つのシール保持機構に、3つ以上のシール空間が形成されてもよい。3つ以上のシール空間の各々に、異なる圧力で加圧気体を供給する場合でも、上記実施形態と同様に、内部側シール空間に供給する加圧気体の圧力と、外部側シール空間に供給する加圧気体の圧力を適宜調整することで、シール保持機構において気体が流れる方向は適切に制御される。
【0039】
本開示で例示する技術の少なくとも一部を、雰囲気制御下で処理する必要が無い被処理物を加熱処理するロータリーキルンに採用することも可能である。例えば、キルン本体の内部に空気が流入しても問題が生じず、且つ、キルン本体の内部から外部に気体が漏洩することを防止したい場合には、外気側シール空間6Bに供給する加圧気体の圧力を、内部側シール空間6Aに供給する加圧気体の圧力よりも高くしてもよい。この場合、シール保持機構3Aでは、外気側から内部側へ気体が流れやすくなる。よって、キルン本体の内部の気体が外部に漏洩する可能性が、適切に低下する。
【0040】
以上、具体的な実施形態を挙げて詳細な説明を行ったが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に記載した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0041】
1 ロータリーキルン
3A,3B シール保持機構
6A,6B シール空間
10 キルン本体
12A,12B 開口部
13 外周部
15A,15B,15C シール部
20A,20B 固定フード
25A,25B,25C 溝部
51 加圧気体供給部
70 制御部