(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】ロータリーキルン
(51)【国際特許分類】
F27B 7/06 20060101AFI20240925BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20240925BHJP
F27B 7/42 20060101ALI20240925BHJP
F27B 7/24 20060101ALI20240925BHJP
F27D 7/06 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
F27B7/06
F27D19/00 D
F27B7/42
F27B7/24
F27D7/06 B
(21)【出願番号】P 2020046103
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】福島 宏康
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-241104(JP,A)
【文献】国際公開第2012/111566(WO,A1)
【文献】特表2015-520095(JP,A)
【文献】実開昭49-060053(JP,U)
【文献】特開昭62-166281(JP,A)
【文献】特開2001-133157(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2012-0106635(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 7/06
F27D 19/00
F27B 7/42
F27B 7/24
F27D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物が投入される投入部と、
前記投入部から投入された被処理物を、前記投入部が閉鎖された状態で、前記投入部から延びる搬送経路を通じて搬送する搬送部と、
筒状に形成され、前記搬送部によって搬送された被処理物が内部に供給されるキルン本体と、
前記キルン本体の軸方向端部に位置する開口部を覆うと共に、前記キルン本体の円筒状の外周部を回胴可能に保持する固定フードと、
前記キルン本体の内部に雰囲気ガスを供給する雰囲気ガス供給部と、
前記キルン本体の内部の気体の圧力を検出する圧力検出部と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記キルン本体の内部側に外部側から空気が流入しないように、前記圧力検出部によって検出される前記キルン本体の内部の気体の圧力
が所定の閾値以下の場合に、前記雰囲気ガス供給部によって前記キルン本体の内部に供給する前記雰囲気ガスの供給量および供給圧の少なくともいずれかを
増加させる制御
を行うことを特徴とする、ロータリーキルン。
【請求項2】
請求項1に記載のロータリーキルンであって、
前記キルン本体の前記外周部から外側に円環状に突出し、前記固定フードのうち前記外周部に対向する位置に形成された円環状の溝部に嵌合されて摺動する複数のシール部をさらに備え、
前記雰囲気ガス供給部は、
前記複数のシール部と前記固定フードによって囲まれたシール空間に前記雰囲気ガスを供給するシールガス供給部を含み、
前記制御部は、前記圧力検出部によって検出される前記キルン本体の内部の気体の圧力に応じて、少なくとも前記シールガス供給部による前記雰囲気ガスの供給を制御することを特徴とする、ロータリーキルン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転するキルン本体の内部で被処理物を攪拌させながら加熱処理するロータリーキルンに関する。
【背景技術】
【0002】
キルン本体と固定フードを備えたロータリーキルンが知られている。キルン本体は筒状であり、連続して回転することで、内部の被処理物を攪拌させながら搬送する。固定フードは、筒状であるキルン本体の端部(例えば両端部)を覆った状態で、キルン本体を回胴可能に保持する。
【0003】
ロータリーキルンで被処理物を加熱処理する際に、キルン本体の内部と外部の間の気体の移動を制御することが望ましい場合も多い。例えば、空気中の物質(例えば、酸素、二酸化炭素、水蒸気等の少なくともいずれか)と被処理物の反応を避けるために、キルン本体の内部の雰囲気を制御した状態で、被処理物を熱処理する場合がある。また、キルン本体の内部から外部へガスが漏出することが望ましくない場合もある。従って、隙間(例えば、キルン本体と固定フードの摺動部等)を通じた気体の移動を適切に制御できることが望ましい。
【0004】
例えば、特許文献1に記載のロータリーキルンは、固定フードに設けられた円筒状の第1摺動部および第2摺動部と、キルン本体の外周面と、固定フードの内周面とによって囲まれたシール空間に、外気を導入する。これによって、キルン本体から摺動部を介してガスが外部に漏出することの抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
空気中の物質と被処理物(原料)の反応を避けるために、キルン本体の内部の雰囲気を制御した状態で被処理物を加熱処理する場合には、隙間を通じて空気がキルン本体の内部に流入することを防止する必要がある。
【0007】
また、キルン本体の内部に被処理物を搬送するために、搬送部(例えばスクリューフィーダ等)が使用される場合がある。この場合、被処理物は、投入部を通じて搬送部に供給された後、搬送部の搬送機構(例えば搬送スクリュー等)によってキルン本体の内部に搬送される。ここで、キルン本体の内部で発生したガスに有害物質が含まれる場合等には、ガスが搬送部の搬送経路を通じて投入部から外部へ漏出することを防止するために、投入部が閉鎖される。投入部が閉鎖され、且つ、被処理物が搬送部内の搬送経路を閉塞した状態で、被処理物がキルン本体に向けて搬送されると、搬送経路の上流側(投入部側)の圧力が低下する。その後、被処理物の搬送が進み、搬送経路の閉塞が解除されると、搬送経路の上流側の負圧が解放されるので、キルン本体の内部の圧力が急激に低下する。その結果、空気が隙間を通じてキルン本体の内部に流入してしまう可能性があった。
【0008】
本発明の典型的な目的は、キルン本体の内部に空気が流入することを適切に抑制することが可能なロータリーキルンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ここに開示される一態様のロータリーキルンは、被処理物が投入される投入部と、上記投入部から投入された被処理物を、上記投入部が閉鎖された状態で、上記投入部から延びる搬送経路を通じて搬送する搬送部と、筒状に形成され、上記搬送部によって搬送された被処理物が内部に供給されるキルン本体と、上記キルン本体の軸方向端部に位置する開口部を覆うと共に、上記キルン本体の円筒状の外周部を回胴可能に保持する固定フードと、上記キルン本体の内部に雰囲気ガスを供給する雰囲気ガス供給部と、上記キルン本体の内部の気体の圧力を検出する圧力検出部と、制御部と、を備え、上記制御部は、上記圧力検出部によって検出される上記キルン本体の内部の気体の圧力に応じて、上記雰囲気ガス供給部によって上記キルン本体の内部に供給する上記雰囲気ガスの供給量および供給圧の少なくともいずれかを制御することを特徴とする。
【0010】
本開示に係るロータリーキルンでは、搬送経路の閉塞が解除されて、搬送経路の上流側の負圧が解放された結果、キルン本体の内部の気体の圧力が急激に低下すると、気体の圧力の低下に応じて、キルン本体の内部に供給する雰囲気ガスの供給量および供給圧の少なくともいずれかが制御される。従って、キルン本体の内部の圧力低下に伴って、空気が隙間を通じてキルン本体の内部に流入することが、適切に抑制される。よって、投入部が閉鎖された状態のまま、適切な雰囲気下で被処理物が加熱処理される。
【0011】
ここに開示されるロータリーキルンの好適な一態様は、キルン本体の外周部から外側に円環状に突出し、固定フードのうち外周部に対向する位置に形成された円環状の溝部に嵌合されて摺動する複数のシール部をさらに備える。雰囲気ガス供給部は、複数のシール部と固定フードによって囲まれたシール空間に雰囲気ガスを供給するシールガス供給部を含む。制御部は、圧力検出部によって検出されるキルン本体の内部の気体の圧力に応じて、少なくともシールガス供給部による雰囲気ガスの供給を制御する。
【0012】
キルン本体は、固定フードに摺動しながら回転する必要があるので、キルン本体と固定フードが摺動する摺動部を完全に密閉することは困難であり、摺動部には隙間が生じやすい。これに対し、好適な一態様に係るロータリーキルンは、摺動部におけるシール空間に雰囲気ガスを供給することで、摺動部の隙間を通じて空気がキルン本体の内部に流入することを適切に抑制する。さらに、好適な一態様に係るロータリーキルンは、シール空間に供給する雰囲気ガスの供給を、キルン本体の内部の気体の圧力に応じて制御する。従って、搬送経路の閉塞が解除されて、キルン本体の内部の気体の圧力が急激に低下した場合でも、摺動部の隙間を通じて空気が流入することが適切に抑制される。
【0013】
ただし、ロータリーキルンは、シールガス供給部とは別に、または、シールガス供給部と共に、前述したシール空間とは異なる部位からキルン本体の内部に雰囲気ガスを供給する雰囲気ガス供給部を備えていてもよい。この場合、制御部は、シールガス供給部によるガスの供給制御とは別に、または、シールガス供給部によるガスの供給制御と共に、シール空間とは異なる部位からの雰囲気ガスの供給を、キルン本体の内部の圧力に応じて制御してもよい。この場合でも、隙間を通じて雰囲気ガスが流入する可能性は、適切に低下する。
【0014】
ここに開示されるロータリーキルンの好適な一態様は、圧力検出部によって検出されるキルン本体の内部の気体の圧力が、閾値以下に低下した場合に、雰囲気ガス供給部による雰囲気ガスの供給量および供給圧の少なくともいずれかを増加させる。この場合、キルン本体の内部の圧力が低下しても、空気でなく雰囲気ガスがキルン本体の内部に流入し易い。よって、空気がキルン本体の内部に流入することが、より適切に抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ロータリーキルン1の全体構成を示す模式断面図である。
【
図2】シール保持機構3Aの構成を示す断面模式図である。
【
図3】雰囲気ガス供給制御処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示における典型的な実施形態の1つについて、図面を参照しつつ詳細に説明する。本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0017】
<全体構成>
図1および
図2を参照して、本実施形態のロータリーキルン1の構成について説明する。本実施形態のロータリーキルン1は、空気中の物質(例えば、酸素、二酸化炭素、水蒸気等の少なくともいずれか)と反応する被処理物を、雰囲気制御下で加熱処理する。一例として、本実施形態のロータリーキルン1は、窒素雰囲気中で硫化リチウムを加熱処理する場合に使用される。しかし、硫化リチウム以外の被処理物を雰囲気制御下で加熱処理する場合にも、本実施形態のロータリーキルン1を使用することができる。なお、以下の説明では、
図1および
図2における左側をロータリーキルン1の基端側、
図1および
図2における右側をロータリーキルン1の先端側とする。
【0018】
図1に示すように、本実施形態のロータリーキルン1は、キルン本体10、固定フード20A,20B、投入部30、搬送部40、雰囲気ガス供給部50、圧力検出部60、および制御部70を備える。
【0019】
キルン本体10は、筒状(本実施形態では円筒状)である。キルン本体10は、回胴機構(図示せず)によって回転軸Oを中心に回胴することで、内部に供給された被処理物を攪拌しながら、基端側(
図1の左側)から先端側(
図1の右側)に搬送する。キルン本体10は、内部の被処理物を加熱する加熱部11を備える。一例として、本実施形態の加熱部11は、キルン本体10の軸方向中央部の外周を覆うヒータであり、加熱部11に電力が供給されることで、キルン本体10の内部が加熱される。ただし、加熱部11の構成を変更することも可能である。例えば、ガスバーナー等によってキルン本体10の内部が加熱されてもよい。
【0020】
固定フード20A,20Bは、キルン本体10の回転軸Oの方向の端部に位置する開口部12A,12Bを覆うことで、開口部12A,12Bから外部へのガスの漏出を抑制する。また、固定フード20A,20Bは、キルン本体10の円筒状の外周部を回胴可能に保持する。本実施形態では、キルン本体10の基端側の開口部12Aを覆い、且つ基端側の外周部を回胴可能に保持する固定フード20Aと、キルン本体10の先端側の開口部12Bを覆い、且つ先端側の外周部を回胴可能に保持する固定フード20Bが設けられている。基端側の固定フード20Aには、被処理物をキルン本体10の内部へ搬送する搬送部40が接続される。基端側の固定フード20Aと、キルン本体10の基端側の外周部が摺動する摺動部には、摺動部を通じたキルン本体10の内部と外部の間の気体の移動を抑制した状態でキルン本体10を回胴可能に保持するシール保持機構3Aが形成されている。また、先端側の固定フード20Bには、キルン本体10の内部で加熱処理された被処理物が排出される排出口21が設けられている。先端側の固定フード20Bと、キルン本体10の先端側の外周部が摺動する摺動部には、摺動部を通じた気体の移動を抑制した状態でキルン本体10を回胴可能に保持するシール保持機構3Bが形成されている。シール保持機構3A,3Bの詳細については、
図2を参照して後述する。
【0021】
投入部30には、加熱処理の対象となる被処理物が投入される。投入部30は、内部を密閉することが可能なグローブボックス5内に設けられている。作業者は、グローブボックス5内で投入部30に被処理物を投入する。ただし、ロータリーキルン1は、投入部30に被処理物を自動的に投入する投入機構を備えていてもよい。投入部30に投入された被処理物は、投入部30に接続された搬送部40に供給される。投入部30には、投入部30を通じた気体の移動を遮断する閉鎖部31が設けられている。一例として、本実施形態の閉鎖部31は、投入部30の投入口を開閉する蓋状の部材である。しかし、閉鎖部の構成を変更することも可能である。例えば、投入部30における被処理物の経路を開閉するシャッター等が、閉鎖部として採用されてもよい。閉鎖部31によって投入部30が閉鎖されることで、キルン本体10の内部から搬送部40の搬送経路を通じて投入部30へ移動した気体(本実施形態では、有毒物質を含む反応ガス)が、投入部30の投入口から外部へ漏出することが抑制される。
【0022】
搬送部40は、投入部30から投入された被処理物を、投入部30からキルン本体10の内部へ延びる搬送経路を通じて搬送する。一例として、本実施形態では、搬送部40としてスクリューフィーダが採用されている。本実施形態の搬送部40は、搬送経路に設けられた搬送機構(搬送スクリュー)41を、搬送用モータ42によって回転させることで、被処理物をキルン本体10の内部へ搬送する。ただし、搬送部の構成を変更することも可能である。例えば、搬送部は、搬送ベルト等によって被処理物を搬送してもよい。
【0023】
雰囲気ガス供給部50は、ロータリーキルン1の内部に雰囲気ガスを供給する。一例として、本実施形態で使用される雰囲気ガスは、被処理物である硫化リチウムの反応に寄与しない窒素ガスである。しかし、雰囲気ガスは、被処理物の種類等に応じて適宜選択されればよい。詳細は後述するが、本実施形態の雰囲気ガス供給部50はシールガス供給部50A(
図2参照)を含む。シールガス供給部50Aは、シール保持機構3A,3Bの内部側シール空間6(
図2参照)に、加圧気体(加圧した雰囲気ガス)SG1をシールガスとして供給する。
【0024】
また、雰囲気ガス供給部50は、キルン本体10の内部に雰囲気ガスSG2を供給する。本実施形態では、先端側の固定フード20Bを介して、キルン本体10の内部に雰囲気ガスSG2が供給される。また、基端側の固定フード20Aを介して、キルン本体10の内部から排ガスEG2が排出される。ただし、雰囲気ガスSG2の供給位置、および、排ガスEG2の排出位置を変更することも可能である。また、雰囲気ガス供給部50は、グローブボックス5の内部に雰囲気ガスSG3を供給する。グローブボックス5内から排ガスEG3が排出される。排ガスEG2,EG3は、湿式スクラバ等を備えた浄化装置(図示せず)に導かれる。
【0025】
圧力検出部60は、キルン本体10の内部の気体の圧力を検出する。一例として、本実施形態の圧力検出部60は、キルン本体10の内部空間に接続された、基端側の固定フード20Aの内部空間の気体の圧力を検出することで、キルン本体10の内部の気体の圧力を検出する。ただし、圧力検出部60の設置位置は適宜変更できる。
【0026】
制御部70は、ロータリーキルン1の各種制御を司るコントローラを備える。制御部70は、加熱部11、搬送用モータ42、雰囲気ガス供給部50、および圧力検出部60等に接続されており、各部の動作制御を実行する。
【0027】
図2を参照して、シール保持機構3A,3Bの構成について説明する。前述したように、本実施形態のロータリーキルン1では、キルン本体10の基端側の外周部をシールしつつ回胴可能に保持するシール保持機構3Aと、キルン本体10の先端側の外周部をシールしつつ回胴可能に保持するシール保持機構3Bが設けられている。本実施形態における2つのシール保持機構3A,3Bの構成は、回転軸Oの方向に関して対称となっている。従って、以下では、説明を簡略化するために、基端側のシール保持機構3Aについて詳細に説明する。
【0028】
図2に示すように、基端側のシール保持機構3Aでは、キルン本体10の外周部13に、複数(本実施形態では2つ)のシール部15A,15Bが設けられている。2つのシール部15A,15Bの各々は、キルン本体10の外周部13から、キルン本体10の回転軸O(
図1参照)から遠ざかる方向に(つまり、外周部13から外側に向けて)円環状に突出している。円環状であるシール部15A,15Bの中心は、キルン本体10の回転軸Oと一致している。円環状であるシール部15A,15Bの各々は、回転軸Oに垂直な平面上に位置する。
【0029】
また、固定フード20Aのうち、キルン本体10の外周部13に対向する位置(つまり、固定フード20のうち、キルン本体10を保持する筒状の部位の内側の位置)には、複数のシール部15A,15Bの各々が嵌合する円環状の溝部25A,25Bが形成されている。円環状である溝部25A,25Bの中心は、キルン本体10の回転軸O(
図1参照)と一致している。円環状である溝部25A,25Bの各々は、回転軸Oに垂直な平面上に位置する。従って、キルン本体10は、シール部15A,15Bと溝部25A,25Bを摺動させながら、回転軸Oを中心に回胴する。なお、本実施形態の溝部25A,25Bは、いずれも、シール部15A,15Bの各々を基端側(
図2の左側)および先端側(
図2の右側)の両方から挟み込む。その結果、気体のシール性が向上している。しかし、複数の溝部の少なくともいずれかは、シール部の基端側および先端側の一方のみを覆ってもよい。
【0030】
なお、以下の説明では、シール保持機構3A(つまり、キルン本体10と固定フード20Aが摺動する摺動部)の隙間を気体が通過する場合の気体の流路のうち、外気に近い側(
図2の右側)を外気側、キルン本体10の内部の気体に近い側(
図2の左側)を内部側とする。
【0031】
シール部15A,15Bと溝部25A,25Bが摺動する摺動部では、周方向の全体で隙間が完全に存在しなくなるように厳密に各部材を形成することは困難である。よって、本実施形態のロータリーキルン1は、シール保持機構3Aに加圧気体を供給することで、摺動部を通じた気体の移動を抑制する。詳細には、本実施形態の雰囲気ガス供給部50は、シールガス供給部50Aを備える。シールガス供給部50Aは、隣接する複数のシール部15A,15Bと、固定フード20A(詳細には、固定フード20Aのうち、2つの溝部25A,25Bの間の部位)とによって囲まれたシール空間6に、雰囲気ガスをシールガスとして供給する。その結果、シール保持機構3Aを通じた気体の移動(例えば、シール保持機構3Aを通じた、外気側から内部側への空気の流入等)が、適切に抑制される。なお、本実施形態では、固定フード20Aに形成された流路27を通じて、シールガス供給部50Aからシール空間6に雰囲気ガスが供給される。
【0032】
ここで、本実施形態のロータリーキルン1では、
図1に示すように、投入部30が閉鎖され、且つ、被処理物が搬送部40内の搬送経路を閉塞した状態で、被処理物が搬送部40によってキルン本体10へ向けて搬送されると、搬送経路の上流側(投入部30側)の圧力が低下する。その後、搬送経路の閉塞が解除されると、搬送経路の上流側の負圧が解放されるので、キルン本体10の内部の圧力が急激に低下する。この場合、シール保持機構3A(摺動部)を通じて、外気側から内部側へ空気が流入してしまい、被処理物の加熱処理が雰囲気制御下で適切に実行されない可能性がある。
【0033】
これに対し、雰囲気ガス供給部50(詳細には、本実施形態ではシールガス供給部50A)は、キルン本体10の内部(本実施形態ではシール空間6)に供給する雰囲気ガスの供給量および供給圧の少なくともいずれかを調整可能なポンプ等を備える。制御部70は、シールガス供給部50Aによってキルン本体10の内部に供給する雰囲気ガスの供給量および供給圧の少なくともいずれかを、圧力検出部60によって検出される圧力に応じて制御する。その結果、空気がキルン本体10の内部に流入する可能性がさらに低下する。雰囲気ガスの供給制御について、以下詳細に説明する。
【0034】
<雰囲気ガス供給制御処理>
図3を参照して、本実施形態のロータリーキルン1の制御部70が実行する雰囲気ガス供給制御処理について説明する。雰囲気ガス供給制御処理は、記憶装置に記憶されたプログラムに従って、制御部70によって実行される。
【0035】
まず、制御部70は、被処理物の加熱処理の開始時に、キルン本体10の内部(本実施形態ではシール空間6)に供給する雰囲気ガスの供給量および供給圧の少なくともいずれか(以下、単に「供給量・供給圧」という)を通常値に設定し、シールガス供給部50Aに雰囲気ガスを供給させる(S1)。通常値は、キルン本体10の内部の気体の圧力が通常の範囲内である場合に、シール保持機構3Aを通じた気体の移動(本実施形態では、外部から内部への空気の流入)が防止されるように定められている。
【0036】
次いで、制御部70は、圧力検出部60によって検出されたキルン本体10の内部の気体の圧力が、閾値以下に低下したか否かを判断する(S2)。キルン本体10の内部の圧力が急激に低下しておらず、閾値よりも大きい場合には(S2:NO)、雰囲気ガスの供給量・供給圧を通常値に設定したまま、S2の判断が繰り返される。
【0037】
圧力検出部60によって検出されたキルン本体10の内部の気体の圧力が、閾値以下に低下すると(S2:YES)、制御部70は、シールガス供給部50Aからキルン本体10の内部に供給させる供給量・供給圧を、基準値以上に増加させる(S3)。基準値は、S1で設定される通常値よりも大きい値に設定されている。その結果、キルン本体10の内部の気体の圧力が低下した場合でも、シール保持機構3Aを通じて空気が内部へ流入することが、適切に防止される。
【0038】
なお、本実施形態のS3では、キルン本体10の内部の圧力の低下量に応じて供給量・供給圧が調整される。従って、内部の圧力の低下量に応じた適切な供給量・供給圧で、雰囲気ガスがキルン本体10の内部に供給される。
【0039】
圧力検出部60によって検出されるキルン本体10の内部の圧力が、閾値よりも大きい圧力に回復するまで(S4:NO)、雰囲気ガスの供給量・供給圧が基準値以上に調整されたまま、S4の判断が繰り返される。キルン本体10の内部の圧力が、閾値よりも大きい圧力に回復すると(S4:YES)、処理はS1へ戻り、キルン本体10の内部への雰囲気ガスの供給量・供給圧が通常値に調整される。
【0040】
上記実施形態で開示された技術は一例に過ぎない。従って、上記実施形態で例示された技術を変更することも可能である。例えば、上記実施形態のロータリーキルン1は、完全に密閉することが困難なシール保持機構3A,3Bのシール空間6に、キルン本体10の内部の圧力に応じて雰囲気ガス(シールガス)を供給する。その結果、内部の圧力の低下に伴って空気が流入し易いシール保持機構3A,3B(摺動部)において、空気の流入を効率よく抑制することができる。しかし、ロータリーキルン1は、シールガス供給部50Aとは別に、または、シールガス供給部50Aと共に、前述したシール空間6とは異なる部位からキルン本体10の内部に雰囲気ガスを供給する雰囲気ガス供給部50を備えていてもよい。制御部70は、シール空間6とは異なる部位からの雰囲気ガスの供給を、圧力検出部60によって検出された圧力に応じて制御してもよい。例えば、上記実施形態のロータリーキルン1は、先端側の固定フード20Bを介してキルン本体10の内部に供給する雰囲気ガスSG2の供給量・供給圧を、圧力検出部60によって検出された圧力に応じて制御してもよい。
【0041】
上記実施形態のロータリーキルン1は、圧力検出部60によって検出される内部の圧力が閾値以下に低下したか否かに応じて、雰囲気ガスの供給量・供給圧を制御する。しかし、圧力を閾値と比較せずに、雰囲気ガスの供給量・供給圧を制御することも可能である。例えば、制御部70は、圧力検出部60によって検出される内部の圧力が低下する程、内部に供給する雰囲気ガスの供給量・供給圧をリニアに、または段階的に増加させてもよい。この場合でも、キルン本体10の内部の圧力の低下に伴う空気の流入は、適切に抑制される。
【0042】
以上、具体的な実施形態を挙げて詳細な説明を行ったが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に記載した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0043】
1 ロータリーキルン
3A,3B シール保持機構
10 キルン本体
12A,12B 開口部
13 外周部
15A,15B シール部
20A,20B 固定フード
25A,25B 溝部
30 投入部
31 閉鎖部
40 搬送部
50 雰囲気ガス供給部
50A シールガス供給部
60 圧力検出部
70 制御部