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特許7560274共重合体、該共重合体の製造方法、およびカルボキシ基またはその塩を有する共重合体の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】共重合体、該共重合体の製造方法、およびカルボキシ基またはその塩を有する共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 69/04 20060101AFI20240925BHJP
   C08G 69/10 20060101ALI20240925BHJP
   C08G 69/48 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
C08G69/04
C08G69/10
C08G69/48
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020099293
(22)【出願日】2020-06-08
(65)【公開番号】P2021193163
(43)【公開日】2021-12-23
【審査請求日】2023-04-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム、COI拠点「スマートライフケア社会への変革を先導するものづくりオープンイノベーション拠点」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】514299594
【氏名又は名称】公益財団法人川崎市産業振興財団
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】持田 祐希
(72)【発明者】
【氏名】メロ ヴィニシオ
(72)【発明者】
【氏名】角田 潮
(72)【発明者】
【氏名】福島 重人
(72)【発明者】
【氏名】片岡 一則
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-540071(JP,A)
【文献】特開平05-117385(JP,A)
【文献】特表2015-512938(JP,A)
【文献】特表2009-504885(JP,A)
【文献】特開昭59-205348(JP,A)
【文献】特開平06-206832(JP,A)
【文献】特開2018-012694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 69/00-69/50
A61K 9/00-9/72
A61K 31/33-33/44
A61K 38/00-38/58
A61K 47/00-47/69
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位(a)を含む共重合体(X)が有する、前記一般式(1)で表される繰り返し単位(a)中の―COORを構成するRを、酸解離定数(pKa)(25℃)が0以上の酸存在下で脱保護し、カルボキシ基またはその塩に変換する工程(β)を有する、カルボキシ基またはその塩を有する共重合体(Y)の製造方法であって、
前記酸解離定数(pKa)(25℃)が0以上の酸が、燐酸であり、
前記脱保護が、水存在下、または水および有機溶媒存在下で行われ、
前記有機溶媒が、アセトニトリル、ヘキサン、トルエン、キシレン、アセトン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、およびクロロホルムから選択される少なくとも1種の有機溶媒である、カルボキシ基またはその塩を有する共重合体(Y)の製造方法。
【化1】
(一般式(1)において、Rは、炭素数4~7の3級アルキル基であり、Rは炭素数1~4のアルキレン基である。)
【請求項2】
前記脱保護が、水および有機溶媒存在下で行われ、
前記有機溶媒が、アセトニトリルである、請求項に記載のカルボキシ基またはその塩を有する共重合体(Y)の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(1)におけるRが、tert-ブチル基である、請求項1または2に記載のカルボキシ基またはその塩を有する共重合体(Y)の製造方法。
【請求項4】
前記一般式(1)におけるRが、メチレン基またはエチレン基である、請求項1~のいずれか一項に記載のカルボキシ基またはその塩を有する共重合体(Y)の製造方法。
【請求項5】
前記共重合体(X)がブロック共重合体、ランダム共重合体、またはグラフト共重合体である、請求項1~のいずれか一項に記載のカルボキシ基またはその塩を有する共重合体(Y)の製造方法。
【請求項6】
前記共重合体(X)がブロック共重合体であり、前記共重合体(X)が前記一般式(1)で表される繰り返し単位(a)を含む重合体ブロック(A)を有する、請求項1~のいずれか一項に記載のカルボキシ基またはその塩を有する共重合体(Y)の製造方法。
【請求項7】
前記共重合体(X)が重合体ブロック(B)を有し、
重合体ブロック(B)が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ[N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド]、ジビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、ポリホスファゼン、およびポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)から選択される重合体で形成される、請求項に記載のカルボキシ基またはその塩を有する共重合体(Y)の製造方法。
【請求項8】
重合体ブロック(B)が、ポリエチレングリコールで形成される、請求項に記載のカルボキシ基またはその塩を有する共重合体(Y)の製造方法。
【請求項9】
前記共重合体(X)がランダム共重合体である、請求項1~のいずれか一項に記載のカルボキシ基またはその塩を有する共重合体(Y)の製造方法。
【請求項10】
アミノ酸およびアミノ酸誘導体から選択される少なくとも1種のモノマーに由来する繰り返し単位(但し、繰り返し単位(a)を除く)を有する、請求項に記載のカルボキシ基またはその塩を有する共重合体(Y)の製造方法。
【請求項11】
前記一般式(1)で表される繰り返し単位(a)を含む共重合体(X)の製造方法が、下記一般式(1’)で表されるモノマーを重合する工程(α)を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載のカルボキシ基またはその塩を有する共重合体(Y)の製造方法。
【化2】
(一般式(1’)および(1)において、Rは、炭素数4~7の3級アルキル基であり、Rは炭素数1~4のアルキレン基である。)
【請求項12】
前記共重合体(X)がブロック共重合体であり、
前記工程(α)が、マクロ開始剤存在下で行われる、請求項11に記載のカルボキシ基またはその塩を有する共重合体(Y)の製造方法。
【請求項13】
前記マクロ開始剤が、分子内にポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ[N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド]、ジビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、ポリホスファゼン、およびポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)から選択される重合体を有するマクロ開始剤である、請求項12に記載のカルボキシ基またはその塩を有する共重合体(Y)の製造方法。
【請求項14】
前記共重合体(X)がランダム共重合体であり、
前記工程(α)が、アミノ酸およびアミノ酸誘導体から選択される少なくとも1種のモノマー(但し、一般式(1’)で表されるモノマーを除く)存在下で行われる、請求項11に記載のカルボキシ基またはその塩を有する共重合体(Y)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体、該共重合体の製造方法、およびカルボキシ基またはその塩を有する共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドラッグデリバリーシステム(DDS)の検討の中で、ポリエチレングリコール‐ポリアミノ酸ブロック共重合体と、薬物とで形成される高分子ミセルを、DDSとして応用することが従来から提案されている。ポリエチレングリコール‐ポリアミノ酸ブロック共重合体を構成するアミノ酸としては、特に、アスパラギン酸、グルタミン酸等のアニオン性アミノ酸が検討されている。
【0003】
ポリエチレングリコール‐ポリグルタミン酸ブロック共重合体の合成方法としては、下記スキーム(I)に従い合成する方法が知られている(例えば非特許文献1参照)。
【0004】
【化1】
【0005】
前記スキーム(I)では、まずNH2基を末端に有するポリエチレングリコールをマクロ開始剤として用いて、L-グルタミン酸5-ベンジル-N-カルボキシ無水物を重合することにより、ポリグルタミン酸が有するカルボキシル基がベンジル基で保護された、ポリエチレングリコール‐ポリグルタミン酸ベンジルエステルブロック共重合体を合成する。次いで、水酸化ナトリウムを用いてベンジル基の脱保護を行うことにより、ポリエチレングリコール‐ポリグルタミン酸Naブロック共重合体を得ている。ポリエチレングリコール‐ポリグルタミン酸Naブロック共重合体を適宜中和することにより、ポリエチレングリコール‐ポリグルタミン酸ブロック共重合体を得ることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】K. Suzuki et al., J. Control. Release 301, 2019, 28-41
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らが、前記スキーム(I)について詳細に検討したところ、前記スキーム(I)では、副生成物として、ポリグルタミン酸Na(ホモポリマー)が得られることが判明した。本発明者らは、これは、脱保護の際に、ポリグルタミン酸(およびその誘導体)部分の主鎖の一部が切断されるためと考えた。また、得られるポリエチレングリコール‐ポリグルタミン酸Naブロック共重合体においてラセミ化が起こることも判明した。本発明者らは、これは、脱保護の際に、水酸化物イオンによるα-プロトンの引き抜きが起こるためと考えた。
【0008】
さらに、前記スキーム(I)では、脱保護の際に主鎖の一部が切断されるため、得られるポリエチレングリコール‐ポリグルタミン酸Naブロック共重合体や、ポリエチレングリコール‐ポリグルタミン酸ブロック共重合体における、ポリグルタミン酸Na部分やポリグルタミン酸部分の重合度の制御が難しいという問題や、副生成物であるポリグルタミン酸Naを精製する必要があるという問題があることを、本発明者らは見出した。
【0009】
本発明は、このような問題点を鑑みてなされたものであり、容易にカルボキシ基を脱保護することが可能な、カルボキシ基またはその塩を有する共重合体の製造方法を提供することを目的とする。また、カルボキシ基またはその塩を有する共重合体の製造方法に用いる共重合体、および、該共重合体の製造方法についても提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、前記課題を解決することが可能なカルボキシ基またはその塩を有する共重合体の製造方法、該製造方法に用いる共重合体、および該共重合体の製造方法を見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[16]に関する。
[1]
下記一般式(1)で表される繰り返し単位(a)を含む共重合体(X)。
【化2】
(一般式(1)において、R1は、炭素数4~7の3級アルキル基であり、R2は炭素数1~4のアルキレン基である。)
【0012】
[2]
前記一般式(1)におけるR1が、tert-ブチル基である、[1]に記載の共重合体(X)。
【0013】
[3]
前記一般式(1)におけるR2が、メチレン基またはエチレン基である、[1]または[2]に記載の共重合体(X)。
【0014】
[4]
ブロック共重合体、ランダム共重合体、またはグラフト共重合体である、[1]~[3]のいずれかに記載の共重合体(X)。
【0015】
[5]
ブロック共重合体であり、
前記一般式(1)で表される繰り返し単位(a)を含む重合体ブロック(A)を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の共重合体(X)。
【0016】
[6]
重合体ブロック(B)を有し、
重合体ブロック(B)が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ[N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド]、ジビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、ポリホスファゼン、およびポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)から選択される重合体で形成される、[5]に記載の共重合体(X)。
【0017】
[7]
重合体ブロック(B)が、ポリエチレングリコールで形成される、[6]に記載の共重合体(X)。
【0018】
[8]
ランダム共重合体である、[1]~[3]のいずれかに記載の共重合体(X)。
[9]
アミノ酸およびアミノ酸誘導体から選択される少なくとも1種のモノマーに由来する繰り返し単位(但し、繰り返し単位(a)を除く)を有する、[8]に記載の共重合体(X)。
【0019】
[10]
[1]~[9]のいずれかに記載の共重合体(X)が有する、前記一般式(1)で表される繰り返し単位(a)中の―COOR1を構成するR1を、酸解離定数(pKa)(25℃)が0以上の酸存在下で脱保護し、カルボキシ基またはその塩に変換する工程(β)を有する、カルボキシ基またはその塩を有する共重合体(Y)の製造方法。
【0020】
[11]
前記酸解離定数(pKa)(25℃)が0以上の酸が、燐酸、蟻酸、トリフルオロ酢酸、およびピルビン酸から選択される少なくとも1種の酸である、[10]に記載のカルボキシ基またはその塩を有する共重合体(Y)の製造方法。
【0021】
[12]
前記脱保護が有機溶媒存在下で行われ、前記有機溶媒が、アセトニトリル、ヘキサン、トルエン、キシレン、アセトン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジクロロメタンおよびクロロホルムから選択される少なくとも1種の有機溶媒である、[10]または[11]に記載のカルボキシ基またはその塩を有する共重合体(Y)の製造方法。
【0022】
[13]
下記一般式(1’)で表されるモノマーを重合する工程(α)を有する、下記一般式(1)で表される繰り返し単位(a)を含む共重合体(X)の製造方法。
【化3】
【化4】
(一般式(1’)および(1)において、R1は、炭素数4~7の3級アルキル基であり、R2は炭素数1~4のアルキレン基である。)
【0023】
[14]
前記共重合体(X)がブロック共重合体であり、
前記工程(α)が、マクロ開始剤存在下で行われる、[13]に記載の共重合体(X)の製造方法。
【0024】
[15]
前記マクロ開始剤が、分子内にポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ[N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド]、ジビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、ポリホスファゼン、およびポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)から選択される重合体を有するマクロ開始剤である、[14]に記載の共重合体(X)の製造方法。
【0025】
[16]
前記共重合体(X)がランダム共重合体であり、
前記工程(α)が、アミノ酸およびアミノ酸誘導体から選択される少なくとも1種のモノマー(但し、一般式(1’)で表されるモノマーを除く)存在下で行われる、[13]に記載の共重合体(X)の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明のカルボキシ基またはその塩を有する共重合体(Y)の製造方法は、共重合体(X)を用いることにより、容易にエステル基をカルボキシ基またはその塩に変換(以下、「脱保護」ということがある。)することが可能である。また、本発明では、カルボキシ基またはその塩を有する共重合体(Y)の製造方法に用いる共重合体(X)、および、該共重合体(X)の製造方法についても提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、実施例1で得られたPEG-b-PGlu(OtBu)の1H-NMRの測定結果である。
図2図2は、実施例1で得られたPEG-b-PGlu(OtBu)のGPCの測定結果である。
図3図3は、実施例2で得られたPEG-b-PGlu(OtBu)の1H-NMRの測定結果である。
図4図4は、実施例2で得られたPEG-b-PGlu(OtBu)のGPCの測定結果である。
図5図5は、実施例3で得られたPEG-b-P[Glu(OtBu)-ran-Asp(OBzl)]の1H-NMRの測定結果である。
図6図6は、実施例3で得られたPEG-b-P[Glu(OtBu)-ran-Asp(OBzl)]のGPCの測定結果である。
図7図7は、実施例4で得られた粉末の1H-NMRの測定結果である。PEG-b-PGlu(OtBu)のtert-ブチル基が脱保護され、-COONaとなっていることが確認された。
図8図8は、実施例4で得られた粉末のGPCの測定結果である。
図9図9は、実施例5で得られた粉末のGPCの測定結果である。
図10図10は、実施例6で得られた粉末のGPCの測定結果である。
図11図11は、実施例7で得られた粉末のGPCの測定結果である。
図12図12は、実施例8で得られた粉末のGPCの測定結果である。
図13図13は、実施例9で得られた粉末のGPCの測定結果である。
図14図14は、実施例10で得られた粉末のGPCの測定結果である。
図15図15は、実施例11で得られた粉末のGPCの測定結果である。
図16図16は、実施例12で得られた粉末のGPCの測定結果である。
図17図17は、実施例13で得られた粉末のGPCの測定結果である。
図18図18は、実施例14で得られた粉末のGPCの測定結果である。
図19図19は、実施例15で得られた粉末のGPCの測定結果である。
図20図20は、実施例16で得られた粉末のGPCの測定結果である。
図21図21は、実施例17で得られた粉末のGPCの測定結果である。
図22図22は、実施例18で得られた粉末のGPCの測定結果である。
図23図23は、実施例19で得られた粉末のGPCの測定結果である。
図24図24は、実施例20で得られた粉末の1H-NMRの測定結果である。PEG-b-PGlu(OtBu)のtert-ブチル基が脱保護され、-COONaとなっていることが確認された。
図25図25は、実施例20で得られた粉末のGPCの測定結果である。
図26図26は、実施例21で得られた粉末のGPCの測定結果である。
図27図27は、実施例22、23、24で得られた粉末のGPCの測定結果である。
図28図28は、実施例25、26、27で得られた粉末のGPCの測定結果である。
図29図29は、実施例28、29、30、31で得られた粉末のGPCの測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に本発明について具体的に説明する。
本発明には大きく分けて、三つの態様がある。本発明の第一の態様は、一般式(1)で表される繰り返し単位(a)を含む共重合体(X)である。本発明の第二の態様は、第一の態様の共重合体(X)を得ることが可能な、共重合体(X)の製造方法である。本発明の第三の態様は、第一の態様の共重合体(X)を用いた、カルボキシ基またはその塩を有する共重合体(Y)の製造方法である。以下、本発明の各態様について、順に説明する。
【0029】
本発明では、一般式(1)で表される繰り返し単位(a)を含む共重合体(X)を、単に共重合体(X)とも記す。また、第一の態様の共重合体(X)を用いて製造された、カルボキシ基またはその塩を有する共重合体(Y)を、単に共重合体(Y)とも記す。
【0030】
(共重合体(X))
本発明の第一の態様である共重合体(X)は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位(a)を含む。
【0031】
【化5】
(一般式(1)において、R1は、炭素数4~7の3級アルキル基であり、R2は炭素数1~4のアルキレン基である。)
【0032】
前記一般式(1)におけるR1としては、例えば、tert-ブチル基、tert-ペンチル基、トリエチルカルビル基が挙げられ、tert-ブチル基が好ましい。
前記一般式(1)におけるR2としては、直鎖状のアルキレン基であっても、分岐を有するアルキレン基であってもよく、直鎖状のアルキレン基であることが好ましい。R2としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、1-メチルエチレン基、2-メチルエチレン基、n-ブチレン基が挙げられ、メチレン基またはエチレン基が好ましい。
【0033】
一般式(1)で表される繰り返し単位(a)の好適態様としては、下記式(1-1)で表される繰り返し単位および下記式(1-2)で表される繰り返し単位が挙げられる。
【0034】
【化6】
【0035】
共重合体(X)は、一般式(1)で表される繰り返し単位(a)として、一種類の繰り返し単位のみを有していてもよく、二種類以上の繰り返し単位を有していてもよい。
共重合体(X)は、一般式(1)で表される繰り返し単位(a)を含んでいればよく、その他の繰り返し単位や、共重合の形態については、特に限定はない。
【0036】
共重合体(X)の形態としては、例えば、ブロック共重合体、ランダム共重合体、またはグラフト共重合体が挙げられる。前記共重合体(X)の形態は、共重合体(X)や後述の共重合体(Y)の用途等に応じて、適宜選択することができる。共重合体(X)や共重合体(Y)の用途としては、共重合される他のモノマーの種類によっても異なり、特に限定はないが、がん等の疾病を治療するための治療薬用のドラッグデリバリーシステム(DDS)等の各種生体用途への使用、農林水産業用資材、土木・建築資材、フィルム・シート、衛生用品等、各種用途への使用が可能である。
【0037】
また、共重合体(X)および、後述する共重合体(Y)には、共重合体に様々な性質を付与する目的で、共重合体の末端(例えば主鎖の末端や、側鎖の末端)、および鎖中(主鎖中、側鎖中)の少なくとも一方、好ましくは少なくとも末端に、官能基、リガンド分子、レポーター分子等を結合させてもよい。
【0038】
共重合体(X)が、ブロック共重合体である場合には、前記一般式(1)で表される繰り返し単位(a)を含む重合体ブロック(A)を有する。
重合体ブロック(A)としては、繰り返し単位(a)を有していればよく、特に限定はないが、重合体ブロック(A)100質量%中に、繰り返し単位(a)を、20~100質量%有することが好ましく、40~100質量%有することがより好ましい。重合体ブロック(A)の好ましい態様の一つとしては、重合体ブロック(A)100質量%中に、繰り返し単位(a)が100質量%である態様、すなわち、繰り返し単位(a)のホモポリマーが挙げられる。重合体ブロック(A)は、繰り返し単位(a)以外の繰り返し単位を有していてもよい。繰り返し単位(a)以外の繰り返し単位としては、後述のアミノ酸およびアミノ酸誘導体から選択される少なくとも1種のモノマーに由来する繰り返し単位(但し、繰り返し単位(a)を除く)が挙げられる。重合体ブロック(A)は、アミノ酸およびアミノ酸誘導体から選択される少なくとも1種のモノマーに由来する繰り返し単位(但し、繰り返し単位(a)を除く)を、重合体ブロック(A)100質量%中に、0~80質量%有することが好ましく、0~60質量%有することがより好ましい。重合体ブロック(A)が、繰り返し単位(a)以外の繰り返し単位を有する場合には、重合体ブロック(A)は、ランダム共重合体ブロックであっても、交互共重合体ブロックであっても、グラジエント共重合体ブロックであってもよく、特に制限はない。
【0039】
共重合体(X)が、ブロック共重合体である場合には、重合体ブロック(A)以外の重合体ブロックである、重合体ブロック(B)を有する。
共重合体(X)は、重合体ブロック(A)と、重合体ブロック(B)とをそれぞれ少なくとも一つ有することが好ましく、各重合体ブロックを複数有していてもよい。各重合体ブロックを複数有する場合には、それぞれの重合体ブロックは同一の重合体から形成されていてもよく、別の重合体から形成されていてもよい。
【0040】
重合体ブロック(B)としては、特に限定は無いが、重合体ブロック(B)が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ[N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド]、ジビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、ポリホスファゼン、およびポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)から選択される重合体で形成されることが好ましい。また、重合体ブロック(B)としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)、およびポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)から選択される重合体で形成されることがより好ましく、ポリエチレングリコールであることが特に好ましい。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)、およびポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)は、特に生体適合性に優れるため、生体用途に共重合体(X)や共重合体(Y)を用いる場合に好ましい。
【0041】
共重合体(X)がブロック共重合体である場合には、その分子量としては特に限定はないが、通常は2~200kDa、好ましくは4~100kDa、より好ましくは4~40kDaである。また、重合体ブロック(A)の分子量としては、通常は1~100kDa、好ましくは2~50kDa、より好ましくは2~20kDaであり、重合体ブロック(B)の分子量としては、通常は1~100kDa、好ましくは2~50kDa、より好ましくは2~20kDaである。なお、前記重合体ブロック(A)および重合体ブロック(B)の分子量は、各重合体ブロックが複数存在する場合には、各重合体ブロックの分子量である。
【0042】
共重合体(X)がランダム共重合体である場合も好ましい態様の一つである。共重合体(X)がランダム共重合体である場合には、アミノ酸およびアミノ酸誘導体から選択される少なくとも1種のモノマーに由来する繰り返し単位を有することが好ましい。但し、前記アミノ酸およびアミノ酸誘導体から選択される少なくとも1種のモノマーに由来する繰り返し単位には、前記繰り返し単位(a)は含まれない。また、前記アミノ酸およびアミノ酸誘導体から選択される少なくとも1種のモノマーには、後述の一般式(1’)で表されるモノマーは含まれない。
【0043】
共重合体(X)がランダム共重合体である場合には、繰り返し単位(a)の含有量としては特に限定はないが、共重合体(X)100質量%中に、繰り返し単位(a)を、20質量%以上100質量%未満有することが好ましく、40質量%以上100質量%未満有することがより好ましい。
【0044】
共重合体(X)がランダム共重合体である場合には、繰り返し単位(a)以外の繰り返し単位、好ましくはアミノ酸およびアミノ酸誘導体から選択される少なくとも1種のモノマーに由来する繰り返し単位を、0質量%を超えて80質量%以下有することが好ましく、0質量%を超えて60質量%以下有することがより好ましい。
【0045】
共重合体(X)がランダム共重合体である場合には、その分子量としては特に限定はないが、通常は2~200kDa、好ましくは4~100kDa、より好ましくは4~40kDaである。
【0046】
共重合体(X)がグラフト共重合体である場合には、前記一般式(1)で表される繰り返し単位(a)を幹成分(幹ポリマー)中に含んでいてもよく、枝成分(枝ポリマー)中に含んでいてもよい。共重合体(X)がグラフト共重合体である場合の例としては、幹成分が、アミノ基、ヒドロキシ基、およびチオール基から選ばれる少なくとも一種の基を有するポリマーであり、該基の少なくとも一部から、枝成分がグラフトしており、該枝成分として繰り返し単位(a)を有するグラフト共重合体が挙げられる。グラフト共重合体を構成する繰り返し単位(a)以外の繰り返し単位としては、好ましくはアミノ酸およびアミノ酸誘導体から選択される少なくとも1種のモノマーに由来する繰り返し単位が挙げられる。
【0047】
幹成分として用いられる、前記アミノ基、ヒドロキシ基、およびチオール基から選ばれる少なくとも一種の基を有するポリマーとしては、リシン、オルニチン、セリン、トレオニン、チロシン、およびシステイン由来の繰り返し単位を有するポリマーが挙げられる。また、幹成分としては例えば、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、キトサン、ポリグリセリン、ポリビニルアルコール、ポリ(N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリラート)、アミノ酸誘導体由来の繰り返し単位を有するポリマーを用いることもできる。幹成分としては、枝成分として繰り返し単位(a)を有するポリマーがグラフト可能な官能基を有するものであれば、アミノ基、ヒドロキシ基、およびチオール基以外の官能基を有するポリマーであってもよい。幹ポリマーの具体例としては、ポリリシン、ポリオルニチンが挙げられる。幹ポリマーとしては、ホモポリマーでもよく、ブロック共重合体やランダム共重合体等の共重合体であってもよい。幹ポリマーが、枝ポリマーの開始剤として働く繰り返し単位(例えば、幹ポリマー中にアミノ基、ヒドロキシ基、およびチオール基から選ばれる少なくとも一種の基を与えるモノマー由来の繰り返し単位)と、枝ポリマーの開始剤として働かない繰り返し単位(例えば、幹ポリマー中に反応性基を与えないモノマー由来の繰り返し単位)との共重合体であると、両者の繰り返し単位の割合を調節することにより、グラフト共重合体が有する枝ポリマーの数を調節することが容易になる。幹ポリマーの分子量としては、通常は1~100kDa、好ましくは2~50kDa、より好ましくは2~20kDaである。
【0048】
枝成分が、前記一般式(1)で表される繰り返し単位(a)を含むポリマーである場合には、該ポリマーとしては、繰り返し単位(a)を有していればよく、特に限定はないが、枝成分(枝ポリマー)100質量%中に、繰り返し単位(a)を、20~100質量%有することが好ましく、40~100質量%有することがより好ましい。枝成分(枝ポリマー)の好ましい態様の一つとしては、枝成分(枝ポリマー)100質量%中に、繰り返し単位(a)が100質量%である態様、すなわち、繰り返し単位(a)のホモポリマーが挙げられる。枝成分(枝ポリマー)は、繰り返し単位(a)以外の繰り返し単位を有していてもよい。繰り返し単位(a)以外の繰り返し単位としては、後述のアミノ酸およびアミノ酸誘導体から選択される少なくとも1種のモノマーに由来する繰り返し単位(但し、繰り返し単位(a)を除く)が挙げられる。枝成分(枝ポリマー)は、アミノ酸およびアミノ酸誘導体から選択される少なくとも1種のモノマーに由来する繰り返し単位(但し、繰り返し単位(a)を除く)を、重合体ブロック(A)100質量%中に、0~80質量%有することが好ましく、0~60質量%有することがより好ましい。枝成分(枝ポリマー)が、繰り返し単位(a)以外の繰り返し単位を有する場合には、枝成分(枝ポリマー)は、ランダム共重合体であっても、交互共重合体であっても、グラジエント共重合体であってもよく、特に制限はない。
【0049】
共重合体(X)がグラフト共重合体である場合の別の例としては、幹成分が、繰り返し単位(a)を有するポリマーであり、幹成分の側鎖の少なくとも一部から、枝成分がグラフトしているグラフト共重合体が挙げられる。前記グラフト共重合体においては、幹成分としては、繰り返し単位(a)以外の繰り返し単位、例えばアミノ酸およびアミノ酸誘導体から選択される少なくとも1種のモノマーに由来する繰り返し単位を有していてもよい。また、枝成分としては、幹成分にグラフト可能な物であればよく、特に制限はない。
【0050】
アミノ酸としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、セレノシステイン、ピロリシン、オルニチン、シトルリン、ヒドロキシリシン等が挙げられる。
【0051】
アミノ酸誘導体としては、重合の制御を目的として、一部の官能基を保護したものや、N-カルボキシ無水物等が挙げられる。
アミノ酸誘導体としては例えば、βベンジル-L-アスパラギン酸-N-カルボキシ無水物(L-アスパラギン酸4-ベンジルエステル-N-カルボキシ無水物)、γ-ベンジル-L-グルタミン酸-N-カルボキシ無水物、Nε-トリフルオロアセチル-L-リシン-N-カルボン酸無水物(Lys(TFA)-NCA)が挙げられる、例えばβベンジル-L-アスパラギン酸-N-カルボキシ無水物では、アスパラギン酸の有するカルボキシ基の一つがベンジル基により保護されており、別のカルボキシ基と、アミノ基とで、N-カルボキシ無水物を形成している。これらのアミノ酸誘導体をモノマーとして用いた場合には、重合によりN-カルボキシ無水物構造が開環する。このため、重合体中に例えば、βベンジル-L-アスパラギン酸単位、γ-ベンジル-L-グルタミン酸単位、Nε-トリフルオロアセチル-L-リシン単位を導入することができる。
【0052】
(共重合体(X)の製造方法)
本発明の第二の態様である共重合体(X)の製造方法は、一般式(1’)で表されるモノマーを重合する工程(α)を有する。
【0053】
【化7】
(一般式(1’)において、R1は、炭素数4~7の3級アルキル基であり、R2は炭素数1~4のアルキレン基である。)
【0054】
一般式(1’)における、R1およびR2としては、一般式(1)におけるR1およびR2と同様のものが挙げられる。
一般式(1’)で表されるモノマーの好適態様としては、下記式(1’-1)で表されるモノマー(L-グルタミン酸5-tert-ブチルエステル-N-カルボキシ無水物)および下記式(1’-2)で表されるモノマーが挙げられる。
【0055】
【化8】
【0056】
共重合体(X)の製造方法では、一般式(1’)で表されるモノマーとして、一種類のモノマーのみを用いてもよく、二種類以上のモノマーを用いてもよい。
共重合体(X)の製造方法では、一般式(1’)で表されるモノマーを重合する工程(α)を有しており、該モノマーは、共重合体(X)において、一般式(1)で表される繰り返し単位(a)となる。
【0057】
共重合体(X)の製造方法としては、工程(α)を有していればよく、特に制限はない。以下、共重合体(X)がブロック共重合体の場合、ランダム共重合体の場合について、共重合体(X)の製造方法を例示的に説明する。
【0058】
前記共重合体(X)がブロック共重合体である場合には、前記工程(α)が、マクロ開始剤存在下で行われることが好ましい。
マクロ開始剤としては、例えば、アミン末端、ヒドロキシ末端、チオール末端のいずれか一種および、重合体鎖(前述の重合体ブロック(B)に相当する重合体)を有する重合体を用いることができる。
【0059】
マクロ開始剤としては、分子内にポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ[N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド]、ジビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、ポリホスファゼン、およびポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)から選択される重合体を有することが好ましく、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)を有することがより好ましく、ポリエチレングリコールを有することが特に好ましい。
【0060】
マクロ開始剤と一般式(1’)で表されるモノマーとの使用量の関係としては、得られるブロック共重合体の用途等によっても異なり、特に限定はないが、マクロ開始剤1モルに対して、一般式(1’)で表されるモノマーを、通常は10~200モル、好ましくは20~100モルである。
【0061】
前記共重合体(X)がブロック共重合体である場合、工程(α)は、通常は水系溶媒または有機溶媒中に、マクロ開始剤および一般式(1’)で表されるモノマー、必要に応じて、一般式(1’)で表されるモノマー以外のモノマーを加えて、重合反応を行うことにより行われる。
【0062】
水系溶媒としては、水、弱アルカリ性水溶液が挙げられる。弱アルカリ性水溶液としては、例えば、炭酸水素ナトリウム水溶液が挙げられる。水系溶媒を用いる場合には、pHが7~11の範囲であることが好ましい。
【0063】
有機溶媒としては、非プロトン性溶媒を用いることが好ましい。非プロトン性溶媒としては、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、シアノベンゼン、フェニルアセトニトリル、クロロベンゼン、ジクロロメタン、ニトロメタン等が挙げられる。
【0064】
溶媒(水系溶媒または有機溶媒)の使用量としては、通常一般式(1’)で表されるモノマー100質量部に対して1000~10000質量部である。
また、工程(α)では、重合反応を均一に進めるため、チオ尿素を用いてもよい。
【0065】
工程(α)は、大気下(空気中)で行ってもよく、アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。溶媒として水系溶媒を用いる場合には、コストの観点から大気下で行われることが好ましい。溶媒として有機溶媒や、混合溶媒を用いる場合には、反応を安定的に進める観点から不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0066】
工程(α)を行う際の温度(重合温度)としては、モノマーの種類によっても異なるが、通常は0~40℃の範囲内で行われ、重合時間は通常は1~120時間である。
一般式(1’)で表されるモノマー以外のモノマーとしては、例えばアミノ酸およびアミノ酸誘導体から選択される少なくとも1種のモノマーが挙げられ。アミノ酸、アミノ酸誘導体としては、前述の物を用いることができる。
【0067】
前記共重合体(X)がランダム共重合体である場合には、前記工程(α)は、通常は溶媒(水系溶媒または有機溶媒)中に、一般式(1’)で表されるモノマーおよびアミノ酸およびアミノ酸誘導体から選択される少なくとも1種のモノマー(但し、一般式(1’)で表されるモノマーを除く)を加えて、重合反応を行うことにより行われる。アミノ酸、アミノ酸誘導体としては、前述の物を用いることができる。溶媒(水系溶媒または有機溶媒)としては、前述のものを用いることができる。
【0068】
前記共重合体(X)がランダム共重合体である場合には、前記工程(α)は、重合開始剤存在下で行われることが好ましい。重合開始剤としては、一般式(1’)で表されるモノマー並びに、アミノ酸およびアミノ酸誘導体から選択される少なくとも1種のモノマー(但し、一般式(1’)で表されるモノマーを除く)をランダム共重合できればよく、特に限定はないが、アミン、アルコール、チオール等を用いることができる。
【0069】
重合開始剤とモノマーとの使用量の関係としては、得られるランダム共重合体の用途等によっても異なり、特に限定はないが、重合開始剤1モルに対して、全モノマーを合計で、通常は10~200モル、好ましくは20~100モルである。
【0070】
工程(α)は、好ましくはアルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行われる。工程(α)を行う際の温度(重合温度)としては、モノマーの種類によっても異なるが、通常は0~40℃の範囲内で行われ、重合時間は通常は1~168時間である。
【0071】
前記共重合体(X)がグラフト共重合体である場合には、前記工程(α)は、共重合体(X)がブロック共重合体である場合のマクロ開始剤を、例えば、前記アミノ基、ヒドロキシ基、およびチオール基から選ばれる少なくとも一種の基を有するポリマーに変更することにより、実施することが可能である。前記アミノ基、ヒドロキシ基、およびチオール基から選ばれる少なくとも一種の基を有するポリマーと一般式(1’)で表されるモノマーとの使用量の関係としては、得られるグラフト共重合体の用途等によっても異なり、特に限定はないが、前記アミノ基、ヒドロキシ基、およびチオール基から選ばれる少なくとも一種の基を有するポリマーが有する、求核性官能基(アミノ基、ヒドロキシ基、およびチオール基から選ばれる少なくとも一種の基)1モルに対して、一般式(1’)で表されるモノマーを、通常は10~200モル、好ましくは20~100モルである。
【0072】
温度、雰囲気、溶媒等の諸条件は、ブロック共重合体の製造方法と同様の条件を採用することができる。
前記共重合体(X)がブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれの場合でも、重合する際の圧力としては、減圧、加圧、常圧のいずれの条件で行ってもよいが、製造コストの観点から、常圧で行うことが好ましい。
【0073】
第二の態様の共重合体(X)の製造方法では、工程(α)を行った後、任意の工程として、得られた重合体を精製する工程を設けてもよい。精製する工程としては、透析、再沈殿、再結晶等の方法を採用することができる。
【0074】
(共重合体(Y)の製造方法)
本発明の第三の態様である共重合体(Y)の製造方法は、前述の共重合体(X)が有する、前記一般式(1)で表される繰り返し単位(a)中の―COOR1を構成するR1を、酸解離定数(pKa)(25℃)が0以上の酸存在下で脱保護し、カルボキシ基またはその塩に変換する工程(β)を有する。第三の態様の製造方法で得られる共重合体(Y)は、カルボキシ基またはその塩を有する共重合体である。本発明の共重合体(Y)の製造方法では、前記スキーム(I)で反応を行った際に副生する不純物(ポリグルタミン酸Na(ホモポリマー))の生成が抑制されており、得られる共重合体(Y)のラセミ化も起こりづらい。また、脱保護が容易に進行するため好ましい。
【0075】
前記酸解離定数(pKa)(25℃)が0以上の酸としては、前記pKa(25℃)が、4.8以下の酸であることが、工程(β)を、すみやかに進行させる観点から好ましい。前記酸解離定数(pKa)(25℃)が0以上の酸としては、燐酸(2.12)、蟻酸(3.75)、酢酸(4.74)、トリフルオロ酢酸(0.23)、ピルビン酸(2.50)、安息香酸(4.19)、クエン酸(3.09)、琥珀酸(4.19)、シュウ酸(1.27)、マロン酸(2.85)、マレイン酸(2.00)、フマル酸(3.02)、フタル酸(2.96)、イソフタル酸(3.54)、テレフタル酸(3.51)、チオシアン酸(0.926)、亜硫酸(1.9)、および亜硝酸(3.29)から選択される少なくとも1種の酸であることが好ましく(但し、括弧書きは25℃におけるpKaを意味する。酸解離部が2か所以上ある酸についてはより低いpKaを記す。)、燐酸、蟻酸、トリフルオロ酢酸、およびピルビン酸から選択される少なくとも1種の酸がより好ましく、燐酸、蟻酸、またはトリフルオロ酢酸が特に好ましい。酸として燐酸を用いる場合には、通常は燐酸水溶液として用いられる。燐酸水溶液中の燐酸の濃度としては、特に制限はないが、好ましくは41~90質量%であり、より好ましくは45~88質量%であり、特に好ましくは50~87質量%である。
【0076】
前記酸解離定数(pKa)(25℃)が0以上の酸の使用量は、共重合体(X)が有する一般式(1)で表される繰り返し単位(a)1モル当たり、通常は1~10000モル、好ましくは2000~6000モルである。
【0077】
本発明では、前記酸解離定数(pKa)(25℃)が0以上の酸を用いることにより、tert-ブチル基等のR1を容易に脱離することが可能である。
前記脱保護は、溶媒不存下でおこなってもよく、水存在下、有機溶媒存在下、または、水および有機溶媒存在下で行ってもよい。前記不純物であるホモポリマーの生成が、より抑制される傾向にある有機溶媒存在下、または、水および有機溶媒存在下で行うことが好ましい。なお、脱保護を水および有機溶媒存在下で行う場合には、水相/有機相の二相系反応となる。また、有機溶媒存在下で行う場合には、酸と有機溶媒との組み合わせによって、反応系が変わり、酸と有機溶媒とが混ざらない場合には、酸/有機相の二相系反応となり、混ざる場合には、一相系反応となる。また、有機溶媒を用いない場合には、共重合体(X)が固体状態であり、酸や水が液体であるため、固液反応となる。前記脱保護は、共重合体(X)が有機溶媒に溶解している状況で行うことが、脱保護が効率的に進行する観点から好ましい。
【0078】
前記有機溶媒は、アセトニトリル、ヘキサン、トルエン、キシレン、アセトン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、およびクロロホルムから選択される少なくとも1種の有機溶媒であることが好ましく、アセトニトリル、ヘキサン、トルエン、およびキシレンから選択される少なくとも1種の有機溶媒であることがより好ましい。
【0079】
前記脱保護は、酸として蟻酸を用いた場合には、有機溶媒として、アセトニトリル、ヘキサン、トルエン、およびキシレンから選択される少なくとも1種の有機溶媒を用いることが好ましく、アセトニトリル、トルエン、またはキシレンを用いることがより好ましい。酸としてトリフルオロ酢酸を用いる場合には、有機溶媒として、アセトン、アセトニトリル、ジエチルエーテル、ヘキサン、トルエン、キシレン、およびクロロホルムから選択される少なくとも1種の有機溶媒を用いることが好ましく、トルエン、またはキシレンを用いることがより好ましい。酸として燐酸を用いる場合には、有機溶媒として、アセトニトリル、ヘキサン、トルエン、キシレン、クロロホルム、およびジクロロメタンから選択される少なくとも1種の有機溶媒を用いることが好ましく、アセトニトリルを用いることがより好ましい。これらの酸と有機溶媒との組み合わせは、特に前記不純物が少なくなるため好ましい。なお、酸として燐酸を用いる場合には、水と有機溶媒存在下で脱保護を行うことが好ましい。
【0080】
有機溶媒の使用量としては、特に制限はないが、反応を効率的に行う観点から、酸と有機溶媒との体積比(酸の体積:有機溶媒の体積)が、好ましくは10:90~90:10、より好ましくは15:85~85:15、特に好ましくは20:80~80:20である。但し、燐酸水溶液を使用した場合には、燐酸水溶液の体積:有機溶媒の体積が前記範囲であればよい。
【0081】
酸と、―COOR1とを反応させた際に、カルボキシレート(―COO-)となる場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、燐酸ナトリウム、燐酸カリウム、燐酸水素二ナトリウム、燐酸水素二カリウムから選択される少なくとも1種を用いて中和を行い、カルボキシ基の塩を有する共重合体を得ることが好ましい。また、前記中和は、炭酸緩衝液(pH10)やリン酸緩衝液(pH7.4)を用いることにより行ってもよい。これらの緩衝液を用いると温和な条件で中和することができる。
【0082】
また、共重合体(Y)を、カルボキシ基を有する共重合体として得る方法としては、例えば酸と、―COOR1とを反応させ、脱保護を行った後、ジエチルエーテル等を用いて再沈殿を行い、カルボキシ基を有する共重合体を得る方法、脱保護を行った後、透析で酸を除いて、凍結乾燥によりカルボキシ基を有する共重合体を得る方法、これらを組み合わせた方法等が挙げられる。
【0083】
工程(β)は、大気下(空気中)で行ってもよく、アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。工程(β)を行う際の温度としては、通常は0~30℃の範囲内で行われ、時間は通常は0.5~24時間である。
【0084】
工程(β)は、脱保護の進捗に応じて、1回行っても、2回以上行ってもよい。工程(β)は、通常は1~2回、好ましくは1回行われる。
工程(β)としては、減圧、加圧、常圧のいずれの条件で行ってもよいが、製造コストの観点から、常圧で行うことが好ましい。
【実施例
【0085】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0086】
[実施例1]
(PEG-b-PGlu(OtBu)の合成)
2.06gのL-グルタミン酸5-tert-ブチルエステル-N-カルボキシ無水物を、3.60gのα-メトキシ-ω-アミノポリエチレングリコール(CH3O-PEG-NH2)(分子量:12kDa)(一方の末端がCH3O-、他方の末端が-NH2であるポリエチレングリコール)をマクロ開始剤として使用し、85mlの1Mチオ尿素を溶解したN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中で重合を行った。チオ尿素は、伸長するポリマー鎖の二次構造形成を阻害し、重合反応を制御するために加えた。重合は、アルゴン雰囲気下、25℃で2日間行った。2日後、得られた溶液を純水に対して室温で透析し、次いで凍結乾燥を行った。
【0087】
得られたポリマーは、ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解したあと、ジエチルエーテルを加えることで再沈殿させることを3回繰り返し、純度を高めた。1回目、2回目、3回目の再沈殿におけるDMAcの使用量は75ml、ジエチルエーテルの使用量はそれぞれ375ml、400ml、450mlであった。
【0088】
得られた最終生成物を、1H-NMR分光法(400MHz)(JNMーECS400、日本電子株式会社、Tokyo、Japan)および移動相としてLiClを10mM溶かしたDMFを用いたゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)(カラムとしてG4000HHRおよびG3000HHRを備えた、LC-2000Plus series、日本分光株式会社、Tokyo、Japan)により分析し、PEG-b-ポリ(L-グルタミン酸5-tert-ブチルエステル)(以下、PEG-b-PGlu(OtBu)とも称す)が得られたことを確認した。なお、GPCは、検出器として、RI検出器(示差屈折計)を用いた。
【0089】
1H-NMRの測定結果を図1に示し、GPCの測定結果を図2に示す。図1より、ポリ(L-グルタミン酸5-tert-ブチルエステル)鎖の重合度は20であることが確認され、図2より、ブロック共重合体の単分散性が良好であることが確認された。
【0090】
[実施例2]
(PEG-b-PGlu(OtBu)の合成2)
0.100gのα-メトキシ-ω-アミノポリエチレングリコール(CH3O-PEG-NH2)(分子量:12kDa)を溶かした0.05Mの炭酸水素水溶液を氷冷し、それに対して、0.0860gのL-グルタミン酸5-tert-ブチルエステル-N-カルボキシ無水物を加え、氷冷しながら3時間、さらに室温で18時間攪拌することで重合を行った。
【0091】
得られた溶液は、分子量分画6000-8000の透析膜を用いてメタノールに対して透析することで精製し、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去した後に、ベンゼンに溶解して凍結乾燥により生成物を得た。
【0092】
得られた最終生成物を、実施例1と同様に1H-NMR分光法およびGPCを用いて分析し、PEG-b-PGlu(OtBu)が得られたことを確認した。
1H-NMRの測定結果を図3に示し、GPCの測定結果を図4に示す。図3より、ポリ(L-グルタミン酸5-tert-ブチルエステル)鎖の重合度は41であることが確認され、図4より、ブロック共重合体の単分散性が良好であることが確認された。
【0093】
[実施例3]
(PEG-b-P[Glu(OtBu)-ran-Asp(OBzl)]の合成)
0.215gのL-グルタミン酸5-tert-ブチルエステル-N-カルボキシ無水物と0.233gのL-アスパラギン酸4-ベンジルエステル-N-カルボキシ無水物とを、0.500gのα-メトキシ-ω-アミノポリエチレングリコール(CH3O-PEG-NH2)(分子量:12kDa)(一方の末端がCH3O-、他方の末端が-NH2であるポリエチレングリコール)をマクロ開始剤として使用し、15.8mlのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)とジクロロメタンの混合溶媒(体積比1:9)中で重合を行った。重合は、アルゴン雰囲気下、25℃で3日間行った。3日後、得られた溶液をヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒(体積比6:4)中に再沈殿させ、ベンゼンに溶解して凍結乾燥により生成物を得た。
【0094】
得られた最終生成物を、実施例1と同様に1H-NMR分光法およびGPCを用いて分析し、PEG-b-ポリ(L-グルタミン酸5-tert-ブチルエステル-ran-L-アスパラギン酸4-ベンジルエステル)(以下、PEG-b-P[Glu(OtBu)-ran-Asp(OBzl)]とも称す)が得られたことを確認した。
【0095】
1H-NMRの測定結果を図5に示し、GPCの測定結果を図6に示す。図5より、ポリ(L-グルタミン酸5-tert-ブチルエステル)の重合度は18、ポリ(L-アスパラギン酸4-ベンジルエステル)の重合度は19であることが確認され、図6より、ブロック共重合体の単分散性が良好であることが確認された。
【0096】
[実施例4]
(tert-ブチル基の脱保護)
5mgの実施例1で得られたPEG-b-PGlu(OtBu)を、0.5mlのアセトニトリルに溶解し、ポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液に、0.5mlの85%燐酸水溶液を加え、反応液とし、空気中にて室温で24時間攪拌した。反応液をアイスバスで冷却し、5M NaOH(加えた燐酸に対して、0.98モル当量)を少しずつ加え、酸の中和を行い、続いて完全に中和を行うために、1mlの1M H3PO4を加えた。中和された溶液を、Milli-Q water(ミリQ水)に対して透析し、次いで凍結乾燥を行った。
【0097】
得られた粉末を、1H-NMR分光法(400MHz)(JEOL ECS 400、日本電子株式会社、Tokyo、Japan)および移動相として10mM燐酸緩衝液(500mM NaClを含むpH7.4の水溶液)を用いたゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)(カラムとしてSuperdex 200 Increase 10/300 GLを備えた、LC-2000Plus series、日本分光株式会社、Tokyo、Japan)により分析した。なお、GPCは、検出器として、RI検出器(示差屈折計)およびUV検出器(紫外検出器)を併用した。同様の実験を、合計5回行った。
【0098】
1H-NMRの測定結果を図7(1例)に示し、GPCの測定結果(RI検出器、UV検出器)を図8に示す。図7においてtert-ブチル基のシグナル(化学シフト=1.4ppm)が認められないこと、ならびに図8において排除限界(溶出時間16.5分)にピークが認められないことから、PEG-b-PGlu(OtBu)が有するtert-ブチル基が脱保護され、-COONaとなっていることが確認された。また、図8において溶出時間28分以降にピークの生成が抑えられていることから、ポリグルタミン酸Na(ホモポリマー)の副生が抑えられていることが確認された。
【0099】
[実施例5]
(tert-ブチル基の脱保護)
5mgの実施例1で得られたPEG-b-PGlu(OtBu)を、0.5mlのアセトニトリルに溶解し、ポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液に、0.5mlの蟻酸を加え、反応液とし、空気中にて室温で24時間攪拌した。反応液をアイスバスで冷却し、5M NaOH(加えた蟻酸に対して、0.98モル当量)を少しずつ加え、酸の中和を行い、続いて完全に中和を行うために、1mlの1M H3PO4を加えた。中和された溶液を、Milli-Q water(ミリQ水)に対して透析し、次いで凍結乾燥を行った。
【0100】
得られた粉末を、実施例4と同様にGPCを用いて分析した。同様の実験を、合計2回行った。
GPCの測定結果(RI検出器、UV検出器)を図9に示す。図9において排除限界(溶出時間16.5分)にピークが認められないことから、PEG-b-PGlu(OtBu)が有するtert-ブチル基が脱保護されたこと、溶出時間28分以降にピークの生成が抑えられていることから、ポリグルタミン酸Na(ホモポリマー)の副生が抑えられていることが確認された。
【0101】
[実施例6]
(tert-ブチル基の脱保護)
5mgの実施例1で得られたPEG-b-PGlu(OtBu)を、0.5mlのヘキサンに懸濁し、ポリマー懸濁液を得た。得られたポリマー懸濁液に、0.5mlの蟻酸を加え、反応液とし、空気中にて室温で24時間激しく攪拌した。反応液をアイスバスで冷却し、5M NaOH(加えた蟻酸に対して、0.98モル当量)を少しずつ加え、酸の中和を行い、続いて完全に中和を行うために、1mlの1M H3PO4を加えた。中和された溶液を、Milli-Q water(ミリQ水)に対して透析し、次いで凍結乾燥を行った。
【0102】
得られた粉末を、実施例4と同様にGPCを用いて分析した。同様の実験を、合計2回行った。
GPCの測定結果(RI検出器、UV検出器)を図10に示す。図10において排除限界(溶出時間16.5分)にピークが認められないことから、PEG-b-PGlu(OtBu)が有するtert-ブチル基が脱保護されたこと、溶出時間28分以降にピークの生成が抑えられていることから、ポリグルタミン酸Na(ホモポリマー)の副生が抑えられていることが確認された。
【0103】
[実施例7、8]
(tert-ブチル基の脱保護)
5mgの実施例1で得られたPEG-b-PGlu(OtBu)を、0.5mlのトルエンに溶解し、ポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液に、0.5mlのトリフルオロ酢酸(実施例7)または蟻酸(実施例8)を加え、反応液とし、空気中にて室温で24時間激しく攪拌した。反応液をアイスバスで冷却し、5M NaOH(加えたトリフルオロ酢酸(実施例7)または蟻酸(実施例8)に対して、0.98モル当量)を少しずつ加え、酸の中和を行い、続いて完全に中和を行うために、1mlの1M H3PO4を加えた。中和された溶液を、Milli-Q water(ミリQ水)に対して透析し、次いで凍結乾燥を行った。
【0104】
得られた粉末を、実施例4と同様にGPCを用いて分析した。同様の実験を、合計2回(実施例7)または3回(実施例8)行った。
GPCの測定結果(RI検出器、UV検出器)を図11(実施例7)、12(実施例8)に示す。図11、12において排除限界(溶出時間16.5分)にピークが認められないことから、PEG-b-PGlu(OtBu)が有するtert-ブチル基が脱保護されたこと、溶出時間28分以降にピークの生成が抑えられていることから、ポリグルタミン酸Na(ホモポリマー)の副生が抑えられていることが確認された。
【0105】
[実施例9、10]
(tert-ブチル基の脱保護)
5mgの実施例1で得られたPEG-b-PGlu(OtBu)を、0.5mlのキシレンに溶解し、ポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液に、0.5mlのトリフルオロ酢酸(実施例9)または蟻酸(実施例10)を加え、反応液とし、空気中にて室温で24時間激しく攪拌した。反応液をアイスバスで冷却し、5M NaOH(加えたトリフルオロ酢酸(実施例9)または蟻酸(実施例10)に対して、0.98モル当量)を少しずつ加え、酸の中和を行い、続いて完全に中和を行うために、1mlの1M H3PO4を加えた。中和された溶液を、Milli-Q water(ミリQ水)に対して透析し、次いで凍結乾燥を行った。
【0106】
得られた粉末を、実施例4と同様にGPCを用いて分析した。
GPCの測定結果(RI検出器、UV検出器)を図13(実施例9)、14(実施例10)に示す。図13、14において排除限界(溶出時間16.5分)にピークが認められないことから、PEG-b-PGlu(OtBu)が有するtert-ブチル基が脱保護されたこと、溶出時間28分以降にピークの生成が抑えられていることから、ポリグルタミン酸Na(ホモポリマー)の副生が抑えられていることが確認された。
【0107】
[実施例11、12、13]
(tert-ブチル基の脱保護)
5mgの実施例1で得られたPEG-b-PGlu(OtBu)を、1.0mlのトリフルオロ酢酸(実施例11)、蟻酸(実施例12)、または85%燐酸水溶液(実施例13)に加え、反応液とし、空気中にて室温で24時間激しく攪拌した。反応液をアイスバスで冷却し、5M NaOH(加えたトリフルオロ酢酸(実施例11)、蟻酸(実施例12)、または燐酸(実施例13)に対して、0.98モル当量)を少しずつ加え、酸の中和を行い、続いて完全に中和を行うために、1mlの1M H3PO4を加えた。中和された溶液を、Milli-Q water(ミリQ水)に対して透析し、次いで凍結乾燥を行った。
【0108】
得られた粉末を、実施例4と同様にGPCを用いて分析した。同様の実験を、合計2回行った。
GPCの測定結果(RI検出器、UV検出器)を図15(実施例11)、16(実施例12)、図17(実施例13)に示す。図15、16、17において排除限界(溶出時間16.5分)にピークが認められないことから、PEG-b-PGlu(OtBu)が有するtert-ブチル基が脱保護されたこと、溶出時間28分以降にピークの生成が抑えられていることから、ポリグルタミン酸Na(ホモポリマー)の副生が抑えられていることが確認された。
【0109】
[実施例14]
(tert-ブチル基の脱保護)
5mgの実施例1で得られたPEG-b-PGlu(OtBu)を、0.5mlの水に懸濁し、ポリマー懸濁液を得た。得られたポリマー懸濁液に、0.5mlのトリフルオロ酢酸を加え、反応液とし、空気中にて室温で24時間激しく攪拌した。反応液をアイスバスで冷却し、5M NaOH(加えたトリフルオロ酢酸に対して、0.98モル当量)を少しずつ加え、酸の中和を行い、続いて完全に中和を行うために、1mlの1M H3PO4を加えた。中和された溶液を、Milli-Q water(ミリQ水)に対して透析し、次いで凍結乾燥を行った。
【0110】
得られた粉末を、実施例4と同様にGPCを用いて分析した。
GPCの測定結果(RI検出器、UV検出器)を図18に示す。図18において排除限界(溶出時間16.5分)にピークが認められないことから、PEG-b-PGlu(OtBu)が有するtert-ブチル基が脱保護されたこと、溶出時間28分以降にピークの生成が抑えられていることから、ポリグルタミン酸Na(ホモポリマー)の副生が抑えられていることが確認された。
【0111】
[実施例15、16]
(tert-ブチル基の脱保護)
5mgの実施例1で得られたPEG-b-PGlu(OtBu)を、0.5mlのアセトン(実施例15)、またはアセトニトリル(実施例16)に溶解し、ポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液に、0.5mlのトリフルオロ酢酸を加え、反応液とし、空気中にて室温で24時間激しく攪拌した。反応液をアイスバスで冷却し、5M NaOH(加えたトリフルオロ酢酸に対して、0.98モル当量)を少しずつ加え、酸の中和を行い、続いて完全に中和を行うために、1mlの1M H3PO4を加えた。中和された溶液を、Milli-Q water(ミリQ水)に対して透析し、次いで凍結乾燥を行った。
【0112】
得られた粉末を、実施例4と同様にGPCを用いて分析した。同様の実験を、合計2回(実施例15)または3回(実施例16)行った。
GPCの測定結果(RI検出器、UV検出器)を図19(実施例15)、20(実施例16)に示す。図19において排除限界(溶出時間16.5分)にピークが認められないことから、PEG-b-PGlu(OtBu)が有するtert-ブチル基が脱保護されたこと、溶出時間28分以降にピークの生成が抑えられていることから、ポリグルタミン酸Na(ホモポリマー)の副生が抑えられていることが確認された。図20において排除限界(溶出時間16.5分)にピークが認められないことから、PEG-b-PGlu(OtBu)が有するtert-ブチル基が脱保護されたことが確認された。図20ではUV検出器を用いたrun2およびrun3において、わずかに溶出時間28分以降にピークが観察されたことから、ポリグルタミン酸Na(ホモポリマー)の副生がわずかに起きたことが推察された。
【0113】
[実施例17、18]
(tert-ブチル基の脱保護)
5mgの実施例1で得られたPEG-b-PGlu(OtBu)を、0.5mlのジエチルエーテル(実施例17)またはヘキサン(実施例18)に懸濁し、ポリマー懸濁液を得た。得られたポリマー懸濁液に、0.5mlのトリフルオロ酢酸を加え、反応液とし、空気中にて室温で24時間激しく攪拌した。反応液をアイスバスで冷却し、5M NaOH(加えたトリフルオロ酢酸に対して、0.98モル当量)を少しずつ加え、酸の中和を行い、続いて完全に中和を行うために、1mlの1M H3PO4を加えた。中和された溶液を、Milli-Q water(ミリQ水)に対して透析し、次いで凍結乾燥を行った。
【0114】
得られた粉末を、実施例4と同様にGPCを用いて分析した。実施例18は、同様の実験を、合計2回行った。
GPCの測定結果(RI検出器、UV検出器)を図21(実施例17)、22(実施例18)に示す。図21、22において排除限界(溶出時間16.5分)にピークが認められないことから、PEG-b-PGlu(OtBu)が有するtert-ブチル基が脱保護されたこと、溶出時間28分以降にピークの生成が抑えられていることから、ポリグルタミン酸Na(ホモポリマー)の副生が抑えられていることが確認された。
【0115】
[実施例19]
(tert-ブチル基の脱保護)
5mgの実施例1で得られたPEG-b-PGlu(OtBu)を、0.5mlのクロロホルムに溶解し、ポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液に、0.5mlのトリフルオロ酢酸を加え、反応液とし、空気中にて室温で24時間激しく攪拌した。反応液をアイスバスで冷却し、5M NaOH(加えたトリフルオロ酢酸に対して、0.98モル当量)を少しずつ加え、酸の中和を行い、続いて完全に中和を行うために、1mlの1M H3PO4を加えた。中和された溶液を、Milli-Q water(ミリQ水)に対して透析し、次いで凍結乾燥を行った。
【0116】
得られた粉末を、実施例4と同様にGPCを用いて分析した。
GPCの測定結果(RI検出器、UV検出器)を図23に示す。図23において排除限界(溶出時間16.5分)にピークが認められないことから、PEG-b-PGlu(OtBu)が有するtert-ブチル基が脱保護されたこと、溶出時間28分以降にピークの生成が抑えられていることから、ポリグルタミン酸Na(ホモポリマー)の副生が抑えられていることが確認された。
【0117】
[実施例20]
(tert-ブチル基の脱保護)
5mgの実施例1で得られたPEG-b-PGlu(OtBu)を、0.5mlのヘキサンに懸濁し、ポリマー懸濁液を得た。ポリマー懸濁液に、0.5mlの85%燐酸水溶液を加え、反応液とし、空気中にて室温で24時間激しく攪拌した。反応液をアイスバスで冷却し、5M NaOH(加えた燐酸に対して、0.98モル当量)を少しずつ加え、酸の中和を行い、続いて完全に中和を行うために、1mlの1M H3PO4を加えた。中和された溶液を、Milli-Q water(ミリQ水)に対して透析し、次いで凍結乾燥を行った。
【0118】
得られた粉末を、実施例4と同様に1H-NMR分光法およびGPCを用いて分析した。
1H-NMRの測定結果を図24に示し、GPCの測定結果(RI検出器、UV検出器)を図25に示す。図24においてtert-ブチル基のシグナル(化学シフト=1.4ppm)が認められないこと、ならびに図25において排除限界(溶出時間16.5分)にピークが認められないことから、PEG-b-PGlu(OtBu)が有するtert-ブチル基が脱保護され、-COONaとなっていることが確認された。また、図25において溶出時間28分以降にピークの生成が抑えられていることから、ポリグルタミン酸Na(ホモポリマー)の副生が抑えられていることが確認された。
【0119】
[実施例21]
(tert-ブチル基の脱保護)
5mgの実施例1で得られたPEG-b-PGlu(OtBu)を、0.5mlのトルエンに溶解し、ポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液に、0.5mlの85%燐酸水溶液を加え、反応液とし、空気中にて室温で24時間激しく攪拌した。反応液をアイスバスで冷却し、5M NaOH(加えた燐酸に対して、0.98モル当量)を少しずつ加え、酸の中和を行い、続いて完全に中和を行うために、1mlの1M H3PO4を加えた。中和された溶液を、Milli-Q water(ミリQ水)に対して透析し、次いで凍結乾燥を行った。
【0120】
得られた粉末を、実施例4と同様に1H-NMR分光法およびGPCを用いて分析した。同様の実験を、合計3回行った。
GPCの測定結果(RI検出器、UV検出器)を図26に示す。図26において排除限界(溶出時間16.5分)にピークが認められないことから、PEG-b-PGlu(OtBu)が有するtert-ブチル基が脱保護されたことが確認された。図26ではUV検出器を用いたrun2において、わずかに溶出時間28分以降にピークが観察されたことから、ポリグルタミン酸Na(ホモポリマー)の副生がわずかに起きたことが推察された。
【0121】
[実施例22、23、24]
(tert-ブチル基の脱保護)
アセトニトリル(有機溶媒)と、酸(燐酸)との量比を変えた際の影響を検討するため、以下の実験を行った。
5mgの実施例1で得られたPEG-b-PGlu(OtBu)を、0.75ml(実施例22)、0.5ml(実施例23)、または0.25ml(実施例24)のアセトニトリルに溶解し、ポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液に、0.25ml(実施例22)、0.5ml(実施例23)、または0.75ml(実施例24)の85%燐酸水溶液を加え、反応液とし、空気中にて室温で24時間攪拌した。反応液をアイスバスで冷却し、5M NaOH(加えた燐酸に対して、0.98モル当量)を少しずつ加え、酸の中和を行い、続いて完全に中和を行うために、1mlの1M H3PO4を加えた。中和された溶液を、Milli-Q water(ミリQ水)に対して透析し、次いで凍結乾燥を行った。
【0122】
得られた粉末を、実施例4と同様にGPCを用いて分析した。
GPCの測定結果(RI検出器、UV検出器)を図27に示す。図27において排除限界(溶出時間16.5分)にピークが認められないことから、PEG-b-PGlu(OtBu)が有するtert-ブチル基が脱保護されたこと、溶出時間28分以降にピークの生成が抑えられていることから、ポリグルタミン酸Na(ホモポリマー)の副生が抑えられていることが確認された。また、実施例22、23、24では、有機溶媒と酸との量比を変更しても、GPCの分析結果に大きな相違は観察されなかった。
【0123】
[実施例25、26、27]
(tert-ブチル基の脱保護)
燐酸水溶液中の燐酸濃度を変えた際の影響を検討するため、以下の実験を行った。
85%燐酸水溶液を、Milli-Q water(ミリQ水)で希釈し、60%燐酸水溶液および75%燐酸水溶液を調製した。
5mgの実施例1で得られたPEG-b-PGlu(OtBu)を、0.5mlのアセトニトリルに溶解し、ポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液に、0.5mlの60%燐酸水溶液(実施例25)、 75%燐酸水溶液(実施例26)、85%燐酸水溶液(実施例27)を加え、反応液とし、空気中にて室温で24時間攪拌した。反応液をアイスバスで冷却し、5M NaOH(加えた燐酸に対して、0.98モル当量)を少しずつ加え、酸の中和を行い、続いて完全に中和を行うために、1mlの1M H3PO4を加えた。中和された溶液を、Milli-Q water(ミリQ水)に対して透析し、次いで凍結乾燥を行った。
【0124】
得られた粉末を、実施例4と同様にGPCを用いて分析した。
GPCの測定結果(RI検出器、UV検出器)を図28に示す。図28において排除限界(溶出時間16.5分)にピークが認められないことから、PEG-b-PGlu(OtBu)が有するtert-ブチル基が脱保護されたこと、溶出時間28分以降にピークの生成が抑えられていることから、ポリグルタミン酸Na(ホモポリマー)の副生が抑えられていることが確認された。また、実施例25、26、27では、燐酸の濃度を60%~85%の範囲で変更しても、GPCの分析結果に大きな相違点は観察されなかった。
【0125】
[実施例28、29、30、31]
(tert-ブチル基の脱保護)
温度の影響を検討するため、以下の実験を行った。
5mgの実施例1で得られたPEG-b-PGlu(OtBu)を、0.5mlのアセトニトリルに溶解し、ポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液に、0.5mlの85%燐酸水溶液を加え、反応液とし、空気中にて4℃(実施例28)、25℃(実施例29)、40℃(実施例30)、または60℃(実施例31)で24時間攪拌した。反応液をアイスバスで冷却し、5M NaOH(加えた燐酸に対して、0.98モル当量)を少しずつ加え、酸の中和を行い、続いて完全に中和を行うために、1mlの1M H3PO4を加えた。中和された溶液を、Milli-Q water(ミリQ水)に対して透析し、次いで凍結乾燥を行った。
【0126】
得られた粉末を、実施例4と同様にGPCを用いて分析した。
GPCの測定結果(RI検出器、UV検出器)を図29に示す。図29において排除限界(溶出時間16.5分)にピークが認められないことから、PEG-b-PGlu(OtBu)が有するtert-ブチル基が脱保護されたこと、溶出時間28分以降にピークの生成が抑えられていることから、ポリグルタミン酸Na(ホモポリマー)の副生が抑えられていることが確認された。また、実施例28、29、30、31では、温度を4~60℃の範囲で変更しても、GPCの分析結果に大きな相違点は観察されなかった。
図1
図2
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図5
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図7
図8
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図10
図11
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