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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】ヒドロキシ酸の製造方法。
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/285 20060101AFI20240925BHJP
   C07C 59/105 20060101ALI20240925BHJP
   C07C 59/245 20060101ALI20240925BHJP
   C07D 313/04 20060101ALI20240925BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240925BHJP
【FI】
C07C51/285
C07C59/105
C07C59/245
C07D313/04
C07B61/00 300
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020110158
(22)【出願日】2020-06-26
(65)【公開番号】P2022022538
(43)【公開日】2022-02-07
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】辻 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】浦山 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅一
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 隆介
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-059682(JP,A)
【文献】米国特許第04870192(US,A)
【文献】特表2003-534251(JP,A)
【文献】特公昭41-000656(JP,B1)
【文献】中国特許出願公開第103373914(CN,A)
【文献】特開2011-225549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07D
C07B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大孔径ゼオライト触媒の存在下で、溶媒中、反応温度を40~130℃として過酸化水素と環状ケトンとを反応させてヒドロキシ酸を得る工程(反応工程)を含み、
前記大孔径ゼオライト触媒におけるSiO2/Al23(モル比)が10~1000の範囲であり、前記大孔径ゼオライト触媒が、Y型(FAU)、beta(*BEA)、又はモルデナイト(MOR)であり、
前記溶媒が水とニトリル基を有する有機化合物とを含有する混合溶媒であり、該混合溶媒における水/ニトリル基を有する有機化合物(質量比)が0.05~30の範囲であり、前記ニトリル基を有する有機化合物が、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、アジポニトリル、及びベンゾニトリルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、ヒドロキシ酸の製造方法。
【請求項2】
前記環状ケトンが、下記式(2)で示される化合物を含む、請求項1に記載のヒドロキシ酸の製造方法。
【化1】
(式(2)中、R1は、置換基を有していてもよい炭素数20以下の2価の炭化水素基である。)
【請求項3】
前記環状ケトンがシクロヘキサノンを含む、請求項1又は2に記載のヒドロキシ酸の製造方法。
【請求項4】
前記下記式(1)で示される有機過酸化物の生成量が、理論生成モル量に対して2.0%未満である、請求項1~のいずれか一項に記載のヒドロキシ酸の製造方法。
【化2】
(式(1)中、R1は、置換基を有していてもよい炭素数20以下の2価の炭化水素基である。)
【請求項5】
前記大孔径ゼオライト触媒におけるSnの含有量が0.1質量%未満である、請求項1~のいずれか一項に記載のヒドロキシ酸の製造方法。
【請求項6】
前記ヒドロキシ酸の収率が、理論生成モル量に対して30%以上である、請求項1~のいずれか一項に記載のヒドロキシ酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒドロキシ酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシ酸は医薬品、樹脂原料、繊維原料及び有機合成中間体等として有用な化合物である。ヒドロキシ酸は、例えば、環状ケトンから誘導されるラクトンを加水分解することで製造される。このとき、環状ケトンからラクトンを製造する方法としてBaeyer-Villiger反応(以下「BV反応」と記す。)が知られている。具体的には、例えば、特許文献1、特許文献2及び非特許文献1には、過酸化水素と環状ケトンとを反応させ、対応したラクトンを製造する方法が開示され、実施例ではシクロヘキサノンを原料としたε-カプロラクトンの合成法が開示されている。なお、ここでは副生成物として6-ヒドロキシカプロン酸が生成することが報告されている。また、シクロヘキサノンと過酸化水素との反応におけるその他の副生成物として、例えば、非特許文献2には、7,8,15,16-Tetraoxadispiro[5.2.5.2]hexadecaneが副生することが開示されている。7,8,15,16-Tetraoxadispiro[5.2.5.2]hexadecaneは、下記式(1)で表される構造を持つ水溶性及び反応性が低い有機過酸化物の1種である。
【0003】
【化1】
(式(1)中、R1は、置換基を有していてもよい炭素数20以下の2価の炭化水素基である。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-209305号公報
【文献】特開2015-227317号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Catalysis Today,2018,307,293
【文献】Catal. Sci. Technol.,2016,6,2787-2795
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ヒドロキシ酸が環状ケトンから過酸化水素により直接得られる合成方法があれば、ヒドロキシ酸の簡便な合成方法として有用である。
【0007】
非特許文献1には、Alを含むbetaゼオライト触媒存在下、アセトニトリルを溶媒として過酸化水素とカルボニル化合物とを反応させ、主たる生成物として対応するラクトンを製造する方法が開示されている。また、非特許文献1の実施例には、6-ヒドロキシカプロン酸も併せて得られることが開示されているが、その収率は10%以下に留まる。
【0008】
非特許文献2には、betaゼオライト触媒存在下、ジオキサンを溶媒として過酸化水素とカルボニル化合物とを反応させ、対応するラクトンを製造する方法が開示されている。また、非特許文献2の実施例には、Alを含むbetaゼオライトを使った場合に、ヒドロキシ酸が少量生成し、更に、7,8,15,16-Tetraoxadispiro[5.2.5.2]hexadecaneが選択率12%で生成することが開示されている。一方で、非特許文献2の実施例には、Snを含むbetaゼオライトを触媒としてシクロヘキサノンの過酸化反応を行う場合、7,8,15,16-Tetraoxadispiro[5.2.5.2]hexadecaneは生成しないが、6-ヒドロキシカプロン酸の選択率は20%以下に留まることが開示されている。
【0009】
特許文献1には、Sn含有触媒存在下、アセトニトリル、水、酢酸等を溶媒とし、過酸化水素とカルボニル化合物とを反応させ、対応するラクトンを製造する方法が開示されている。また、特許文献1の実施例には、シクロヘキサノンを原料としたε-カプロラクトンの合成法が開示されている。ここでは、その加水分解生成物である6-ヒドロキシカプロン酸が少量生成することが開示されている。
【0010】
Sn含有触媒を用いてシクロヘキサノンの過酸化反応を行う場合、アセトニトリル水溶液又は水溶媒下では、シクロヘキサノンの転化率が60%以下と低く、シクロヘキサノンを効率的に転化できていない。一方で、酢酸水溶液を溶媒とする場合、ヒドロキシ酸の収率は87%と向上するが、酢酸は反応器を侵しやすく分離にも困難を伴うため、酢酸溶媒の使用は工業的に好ましくない。
【0011】
特許文献2には、Snを含むbetaゼオライト触媒存在下、ジオキサンを溶媒として過酸化水素とカルボニル化合物とを反応させ、対応するラクトンを製造する方法が開示されている。また、特許文献2の実施例には、シクロヘキサノンと過酸化水素とから、ε-カプロラクトンが高収率で得られることが開示されているが、シクロヘキサノンの転化率は60%以下と低く、ヒドロキシ酸の収率は10%以下に留まる。
【0012】
有機溶媒としてジオキサンを用いた場合、7,8,15,16-Tetraoxadispiro[5.2.5.2]hexadecaneは転化せず、反応系中に残存する。7,8,15,16-Tetraoxadispiro[5.2.5.2]hexadecaneをはじめとする下記式(1)で表される構造を少なくとも一部に有する有機過酸化物(以下、「有機過酸化物A」ともいう)は水溶性が低く、過酸化水素水溶液に含まれる水によって、反応系中で析出し、反応装置を汚染する可能性が高い。
【0013】
【化2】
(式(1)中、R1は、置換基を有していてもよい炭素数20以下の2価の炭化水素基である。)
【0014】
非特許文献1に記載の方法のように、有機溶媒を反応液中に含まれる水に対して50倍以上使用する反応系では、シクロヘキサノンの転化率が低く、ヒドロキシ酸の収率も低いため、工業的に好ましくない。
【0015】
そこで、本発明では、副生する有機過酸化物Aを抑制しつつ、ヒドロキシ酸を収率よく与える製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、過酸化水素と環状ケトンとの反応において、所定のゼオライト触媒と、ニトリル基を有する有機化合物及び水を所定の割合で含む混合溶媒とを組み合わせることで、有機過酸化物Aを抑制しつつ、ヒドロキシ酸が収率よく得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]
大孔径ゼオライト触媒の存在下で、溶媒中、反応温度を40~130℃として過酸化水素と環状ケトンとを反応させてヒドロキシ酸を得る工程(反応工程)を含み、
前記大孔径ゼオライト触媒におけるSiO2/Al23(モル比)が10~1000の範囲であり、
前記溶媒が水とニトリル基を有する有機化合物とを含有する混合溶媒であり、該混合溶媒における水/ニトリル基を有する有機化合物(質量比)が0.05~30の範囲である、ヒドロキシ酸の製造方法。
[2]
前記環状ケトンが、下記式(2)で示される化合物を含む、[1]に記載のヒドロキシ酸の製造方法。
【化3】
(式(2)中、R1は、置換基を有していてもよい炭素数20以下の2価の炭化水素基である。)
[3]
前記環状ケトンがシクロヘキサノンを含む、[1]又は[2]に記載のヒドロキシ酸の製造方法。
[4]
前記ニトリル基を有する有機化合物が、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、アジポニトリル、及びベンゾニトリルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、[1]~[3]のいずれかに記載のヒドロキシ酸の製造方法。
[5]
前記大孔径ゼオライト触媒が、Y型(FAU)、ホージャサイト(FAU)、beta(*BEA)、モルデナイト(MOR)、又はZSM-12(MTW)である、[1]~[4]のいずれかに記載のヒドロキシ酸の製造方法。
[6]
前記下記式(1)で示される有機過酸化物の生成量が、理論生成モル量に対して2.0%未満である、[1]~[5]のいずれかに記載のヒドロキシ酸の製造方法。
【化4】
(式(1)中、R1は、置換基を有していてもよい炭素数20以下の2価の炭化水素基である。)
[7]
前記大孔径ゼオライト触媒におけるSnの含有量が0.1質量%未満である、[1]~[6]のいずれかに記載のヒドロキシ酸の製造方法。
[8]
前記ヒドロキシ酸の収率が、理論生成モル量に対して30%以上である、[1]~[7]のいずれかに記載のヒドロキシ酸の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法によれば、過酸化水素を酸化剤とした環境調和な反応系により、収率よくヒドロキシ酸を製造することができる。また、本発明の製造方法では、有機過酸化物Aを抑制しつつヒドロキシ酸を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について以下詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0020】
本実施形態のヒドロキシ酸の製造方法は、大孔径ゼオライト触媒の存在下で、溶媒中、反応温度を40~130℃として過酸化水素と環状ケトンとを反応させてヒドロキシ酸を得る工程(反応工程)を含み、前記大孔径ゼオライト触媒におけるSiO2/Al23(モル比)が10~1000の範囲であり、前記溶媒が水とニトリル基を有する有機化合物とを含有する混合溶媒であり、該混合溶媒における水/ニトリル基を有する有機化合物(質量比)が0.05~30の範囲である。本実施形態のヒドロキシ酸の製造方法は、上記反応工程を含むことにより、有機過酸化物Aを抑制しつつ収率よくヒドロキシ酸を製造することできる。
【0021】
この要因は、特定のゼオライト触媒と、ニトリル基を有する有機化合物及び水を特定の割合で含有する混合溶媒とを組み合わせることが、有機過酸化物Aを溶解及び活性化し、反応系中で転化できるためであると考えられるが要因はこれに限定されない。
【0022】
[1]触媒
(ゼオライト触媒)
本実施形態のヒドロキシ酸の製造方法においては、ゼオライト触媒を用いる。ゼオライト触媒は、反応液に溶解しない不均一系触媒として機能する。本実施形態において、ゼオライト触媒とは、結晶性多孔質アルミノケイ酸塩、又はメタロケイ酸塩を含む触媒のことであり、それらと同様又は類似の構造を有する化合物を含む触媒も含まれる。ゼオライト触媒は、細孔径により小孔径ゼオライト触媒、中孔径ゼオライト触媒、大孔径ゼオライト触媒と分類でき、本実施形態に用いる触媒は、大孔径ゼオライト触媒である。大孔径ゼオライト触媒とは、12員環以上の細孔を有するゼオライト触媒である。具体的には、特に限定されないが、例えば、国際ゼオライト学会が定めるゼオライトを構造により分類するコードによる表記で、X型(構造コード:FAU。以下、同様。)、Y型(FAU)、ホージャサイト(FAU)、beta(*BEA)、モルデナイト(MOR)、ZSM-12(MTW)、AlPO4-5(AFI)などが挙げられる。その中でも、触媒活性の観点から、Y型(FAU)、ホージャサイト(FAU)、beta(*BEA)、モルデナイト(MOR)、ZSM-12(MTW)が好ましく、Y型(FAU)、beta(*BEA)、モルデナイト(MOR)がより好ましく、beta(*BEA)がさらに好ましい。
【0023】
(触媒の使用量)
本実施形態のヒドロキシ酸の製造方法において、触媒(大孔径ゼオライト触媒)の使用量としては、反応速度に優れるとともに、反応後の触媒を分離しやすいという観点から、例えば、環状ケトン1質量部に対して、0.01~1.0質量部であることが好ましく、0.05~0.8質量部であることがより好ましく、0.1~0.6質量部であることが更に好ましい。
【0024】
(触媒に含まれるアルミニウムの量)
本実施形態のヒドロキシ酸の製造方法において、大孔径ゼオライト触媒におけるSiO2/Al23(モル比)(SiO2のモル量をAl23のモル量で除した値)は、10~1000の範囲である。SiO2/Al23(モル比)がこのような範囲であると、ヒドロキシ酸の収率に優れる。本実施形態において、SiO2/Al23(モル比)は、蛍光X線分析などの汎用な方法で測定でき、具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定できる。SiO2/Al23(モル比)はヒドロキシ酸の収率に優れるという観点から、15~800の範囲であることが好ましく、15~500の範囲であることが更に好ましい。
【0025】
SiO2/Al23(モル比)が前記範囲であるとヒドロキシ酸の収率に優れる理由は明らかではないが本発明者らは以下のように推定している。
【0026】
環状ケトンの転化はアルミニウム(Al)上で起こるため、SiO2/Al23(モル比)が1000以下の範囲であると、触媒中のAlが適度に存在することになり、環状ケトンの転化率が向上する。そのため、ヒドロキシ酸を高収率に得ることができると考えられる。一方、SiO2/Al23(モル比)が10以上の範囲である場合、ゼオライト細孔内の親水性が低いため、環状ケトンが細孔内に侵入しやすくなり、環状ケトンの転化率が向上する。そのため、ヒドロキシ酸を高収率に得ることができると考えられる。
【0027】
(大孔径ゼオライト触媒におけるスズの含有量)
本実施形態のヒドロキシ酸の製造方法において、大孔径ゼオライト触媒におけるスズ(Sn)の含有量としては、過酸化水素と環状ケトンとから生成するヒドロキシ酸の選択率を上げるため、例えば、大孔径ゼオライト触媒に対して、0.1質量%未満であることが好ましく、0.01質量%未満が更に好ましい。大孔径ゼオライト触媒におけるスズ(Sn)の含有量の下限は、例えば、0質量%である。
【0028】
非特許文献2のように、スズを含有した触媒は過酸化水素と環状ケトンとからラクトンを製造するために使用されているが、ヒドロキシ酸の製造においては、触媒にスズを含有させることは収率の観点から好ましくない。本実施形態において、スズの含有量は蛍光X線分析などの汎用な方法で測定でき、具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定できる。
【0029】
(大孔径ゼオライト触媒に含まれるカチオン種)
大孔径ゼオライト触媒に含まれるカチオン種は特に限定しないが、アルカリ金属カチオン(例えば、ナトリウム、カリウム等のカチオン)、アルカリ土類金属カチオン(例えば、マグネシウム、カルシウム等のカチオン)、プロトン、又はアンモニウムカチオンを含む化合物が好ましく、環状ケトンの転化率に優れるという観点からプロトンが好ましい。したがって、大孔径ゼオライト触媒は、プロトン型であることが好ましく、中でもbeta(*BEA)が、プロトン型であることが特に好ましい。
【0030】
[2]溶媒
本実施形態のヒドロキシ酸の製造方法において、溶媒として、水とニトリル基を有する有機化合物とを含有する混合溶媒(以下、単に「混合溶媒」とも記す)を用いる。
【0031】
(ニトリル基を有する有機化合物)
本実施形態のヒドロキシ酸の製造方法では、中間生成物である有機過酸化物Aの転化を促進するために混合溶媒の一部としてニトリル基を有する有機化合物を使用する。有機化合物の中でも、ニトリル基を有する有機化合物を選択することで、中間体生成物である有機過酸化物Aの転化を促すことができ、ヒドロキシ酸の収率を向上させることができる。
【0032】
ニトリル基を有する有機化合物の炭素数は、好ましくは2~20であり、より好ましくは2~8であり、更に好ましくは2~4である。なお、ここで、ニトリル基を有する有機化合物の炭素数はニトリル基の炭素を含む。
【0033】
ニトリル基を有する有機化合物は、特に限定されないが、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、アジポニトリル、ベンゾニトリルが挙げられる。これらの中でも、ヒドロキシ酸が高収率に得られるという点から、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルを用いることが好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ニトリル基を有する有機化合物の使用量は、環状ケトン1質量部に対して、例えば、0.5~50質量部であることが好ましく、2~10質量部であることがより好ましく、3~6質量部であることが更に好ましい。
【0034】
(水)
本実施形態のヒドロキシ酸の製造方法では、環状ケトンの転化を促進するために混合溶媒の一部として水を使用する。水の使用量は、環状ケトン1質量部に対して、例えば、0.1~30質量部であることが好ましく、0.3~15質量部であることがより好ましく、0.5~7質量部であることが更に好ましい。
【0035】
(水/ニトリル基を有する有機化合物(質量比))
本実施形態のヒドロキシ酸の製造方法では、溶媒として、ニトリル基を有する有機化合物と水とを混合して使用することで、環状ケトンと有機過酸化物Aとの転化を同時に促進できる。混合溶媒における水/ニトリル基を有する有機化合物(質量比)は0.05~30の範囲であり、0.1~10の範囲であることが好ましく、0.5~10の範囲であることがより好ましく、0.9~10の範囲であることが特に好ましい。
【0036】
有機過酸化物Aは、触媒によって転化し、対応するヒドロキシ酸が生成する。このとき、有機過酸化物Aの転化反応が進行すると、ヒドロキシ酸の収率は向上し、工業的に好ましい。
【0037】
有機過酸化物Aは水溶性が低く、多量の水存在下では析出する。本実施形態では、混合溶媒における水/ニトリル基を有する有機化合物(質量比)が30以下の範囲とし、水の存在量を適度な範囲に制御することにより、有機過酸化物Aの転化反応が進行し、ヒドロキシ酸の収率が向上する。この要因は、有機過酸化物Aが反応系中で析出することが抑制され、固体触媒との接触を良好となることが考えられるが要因はこれに限定しない。
【0038】
また、混合溶媒における水/ニトリル基を有する有機化合物(質量比)が0.05~30の範囲内では、有機過酸化物Aは触媒によって活性化することができる。このとき、活性化された有機過酸化物Aは、高い極性を持つニトリル基を有する有機化合物により溶媒和され、転化反応に供することができると考えられるが、要因はこれに限定されない。さらに、混合溶媒における水/ニトリル基を有する有機化合物(質量比)が0.05以上の範囲であると、過酸化水素水に含まれる水と比べて大過剰の溶媒を使用する必要がなく、工業的に好ましい。
【0039】
[3]原料
(過酸化水素)
本実施形態のヒドロキシ酸の製造方法では、酸化剤として、過酸化水素を使用することができる。過酸化水素の使用量としては、環状ケトンに対して例えば、0.1~2モル当量であることが好ましく、0.9~1.5モル当量であることがより好ましく、1.05~1.1モル当量が更に好ましい。過酸化水素を含有した水溶液(以下、単に「過酸化水素水」とも記す)を用いる場合、過酸化水素水中の過酸化水素濃度は、前項に示す水の使用量と、ニトリル基を有する有機化合物と水との質量比の範囲内で任意に調整することができ、特に限定はしないが、30~65質量%が好ましい。
【0040】
(環状ケトン)
本実施形態のヒドロキシ酸の製造方法においては、カルボニル基を有する環状ケトンを原料とする。環状ケトンとしては、特に限定されないが、例えば、下記式(2)で示される化合物が挙げられる。
【0041】
【化5】
(式(2)中、R1は、置換基を有していてもよい炭素数20以下の2価の炭化水素基である。)
【0042】
2価の炭化水素基の炭素数は、好ましくは3以上10以下、より好ましくは4以上8以下、さらに好ましくは5以上6以下である。
【0043】
置換基としては、特に限定されないが、例えば、炭素数1以上15以下のアルコキシ基、炭素数5以上15以下のアリール基、炭素数5以上15以下のアリールオキシ基、水酸基、アミノ基、ハロゲン原子、メタクリルオキシ基、メルカプト基、及びイミノ基が挙げられる。なお、R1の2価の炭化水素基が置換基を有する場合、当該2価の炭化水素基の炭素数には、置換基に含まれる炭素数は含まれないものとする。
【0044】
環状ケトンとしては、上記式(2)で示される化合物と、該化合物以外の環状ケトンとを混合して用いてもよい。
【0045】
環状ケトンの具体例としては、特に限定されないが、例えば、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロへプタノン、シクロオクタノン、シクロノナノンが挙げられる。反応性の点から、環状ケトンはシクロヘキサノンが好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
環状ケトンは、好ましくは式(2)で示される化合物を含み、より好ましくはシクロヘキサノンを含む。環状ケトン中、式(2)で示される化合物の含有量は、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上である。環状ケトン中、式(2)で示される化合物の含有量の上限は、特に限定されないが、例えば、100質量%である。
【0047】
[4]反応工程
反応工程は、触媒存在下、環状ケトンと過酸化水素とを反応させる工程である。また、本実施形態の製造方法は、上記反応工程により得られたヒドロキシ酸を精製する分離工程を含んでもよい。分離工程における方法としては、特に限定されないが、例えば、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶等の分離方法や、これらを組み合わせた分離方法が用いられる。
【0048】
[5]反応条件
反応工程において、反応温度は、ヒドロキシ酸を収率よく得る観点から、40~130℃である。反応温度は、50~120℃であることが好ましく、60~110℃であることがより好ましく、70~100℃であることがさらに好ましい。
【0049】
反応工程は、例えば、回分式、半回分式、連続式等の慣用の方法により行うことができる。反応時間としては、例えば、0.1~24時間であることが好ましく、0.5~10時間であることがより好ましく、0.5~4時間であることが更に好ましい。
【0050】
[6]反応生成物
反応工程において、反応の生成物は、ヒドロキシ酸、ラクトン、ジカルボン酸、ヒドロキシ酸オリゴマー、有機過酸化物を含んでいてもよい。反応の生成物としては、例えば、下記式(3)で表されるヒドロキシ酸、下記式(4)で表されるラクトン、下記式(5)で表されるジカルボン酸、下記式(6)で表されるヒドロキシ酸オリゴマー、有機過酸化物Aが挙げられる。反応の生成物は、例えば、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0051】
【化6】
(式(3)中、R2は、置換基を有していてもよい炭素数20以下の2価の炭化水素基である。)
【0052】
【化7】
(式(4)中のR2は式(3)中のR2と同様。)
【0053】
【化8】
(式(5)中、R3は、置換基を有していてもよい炭素数19以下の2価の炭化水素基である。)
【0054】
【化9】
(式(6)中のR2は式(3)中のR2と同様。)
【0055】
上述のR2及びR3における2価の炭化水素基の具体例としては、上述の式(1)における2価の炭化水素基と同様である。
【0056】
[7]ヒドロキシ酸の収率
本実施形態の製造方法は、前述のとおり、ヒドロキシ酸の収率に優れる。ヒドロキシ酸の収率は、理論生成モル量に対して、30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましく、75%以上であることがより更に好ましく、80%以上であることが特に好ましい。ヒドロキシ酸の収率の上限は、例えば100%である。なお、収率の算出は、実施例に記載の方法による。
【0057】
反応工程における、ヒドロキシ酸の生成比率は、ヒドロキシ酸及びラクトンの合計量に対して、50%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましく、80%以上であることが更に好ましい。当該ヒドロキシ酸の生成比率の上限は、例えば100%である。
【0058】
なお、本実施形態において、ヒドロキシ酸の収率等、各生成物の収率は後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0059】
[8]有機過酸化物
本実施形態の製造方法は、前述のとおり、下記式(1)で示される有機過酸化物(有機過酸化物A)が生じる可能性がある。
【0060】
【化10】
(式(1)中、R1は、置換基を有していてもよい炭素数20以下の2価の炭化水素基である。)
【0061】
有機過酸化物Aは脂溶性が高く、水溶性は低いため、水が存在すると反応装置全体に固着し、反応液の攪拌や流通を阻害する可能性がある。よって、有機過酸化物Aの生成量は、理論生成モル量に対して、例えば、2.0%未満であることが好ましく、1.0%未満であることが好ましく、0.5%未満であることがより好ましい。有機過酸化物Aの生成量の下限は例えば0%である。なお、生成量の算出は、実施例に記載の方法による。
【0062】
有機過酸化物Aの具体例としては、特に限定されないが、例えば、7,8,15,16-Tetraoxadispiro[5.2.5.2]hexadecaneが挙げられる。
【0063】
有機過酸化物Aの生成量を前記範囲に制御する方法としては、例えば、上述したとおり、反応工程に用いる混合溶媒の一部として、ニトリル基を有する有機化合物を使用して、その使用量を上記所定の範囲に調整する方法が挙げられる。
【0064】
なお、本実施形態において、有機過酸化物Aの生成量は後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【実施例
【0065】
以下に実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下に記載の実施例によって制限されるものではない。
【0066】
液体クロマトグラフィー及び蛍光X線の分析条件を以下に示す。
(分析条件)
(逆相液体クロマトグラフィー)
装置:島津LC-20AD
カラム:ODS-80Ts
条件:
・溶離液:アセトニトリル/0.01Mリン酸水溶液=5/95(v/v)
・検出器:UV (使用波長:190nm)
・カラム温度:40℃
・流量:1mL/分
内標: バレルアミド
(順相液体クロマトグラフィー)
装置:島津LC-10ADVp
カラム:5SIL-4E
条件:
・溶離液:クロロホルム/イソプロピルアルコール=99/1(v/v)
・検出器:UV (使用波長:275nm)
・カラム温度:40℃
・流量:1mL/分
【0067】
(収率、転化率、選択率及び生成量)
収率、転化率、選択率及び生成量は以下の式で算出した。ヒドロキシカプロン酸ダイマー等の環状ケトン二分子が縮合して生成する化合物は、生成モル量を2倍し、環状ケトン換算とした。
収率(%)=〔化合物の生成モル量〕/〔環状ケトンの仕込みモル量〕×100
転化率(%)=〔環状ケトンの仕込みモル量―環状ケトンの残存モル量〕/〔環状ケトンの仕込みモル量〕×100
選択率(%)=〔化合物の生成モル量〕/〔環状ケトンの仕込みモル量―環状ケトンの残存モル量〕×100
有機過酸化物Aの生成量(%)=〔有機過酸化物Aの生成モル量〕×2/〔環状ケトンの仕込みモル量〕×100
(蛍光X線)
装置:リガク社製、蛍光X線分析装置(ZSXPrimusII)
条件:FP法
【0068】
[実施例1]
ガラス製容器にスターラーチップ、シクロヘキサノン3.93g(40mmol)、触媒としてbeta(構造コード:*BEA)ゼオライト(表1中「Beta-1」と記す、日揮触媒化成製、プロトン型、SiO2/Al23(モル比)=40、Sn含有量:0.1質量%未満。)2.0g、34.8質量%の過酸化水素水4.1g(42mmol)、アセトニトリル3.7g、水20.3gを加え、80℃にて1時間攪拌してシクロヘキサノンと過酸化水素とを反応させた。その後、反応液を室温まで冷却し、エタノールとバレルアミドとを加え、液相を一相にした後に、触媒をろ過にて取り除いた。次いで、得られたろ液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、シクロヘキサノンの転化率は94.6%、6-ヒドロキシカプロン酸の収率は82.7%、ε-カプロラクトンの収率は0.5%、アジピン酸の収率は1.9%、ヒドロキシカプロン酸ダイマーの収率は3.2%であり、これらの合計選択率は93.4%であった。合計選択率は6-ヒドロキシカプロン酸、ε-カプロラクトン、アジピン酸、ヒドロキシカプロン酸ダイマーの合計収率をシクロヘキサノンの転化率で割り、100を掛けることで算出した。また、有機過酸化物Aとして、7,8,15,16-Tetraoxadispiro[5.2.5.2]hexadecaneが1.4%生成していたが、反応後の溶液に固体析出物は観察されなかった。なお、6-ヒドロキシカプロン酸、ε-カプロラクトン、アジピン酸、ヒドロキシカプロン酸ダイマーの収率は逆相液体クロマトグラフィーを使用して内部標準法で測定した。7,8,15,16-Tetraoxadispiro[5.2.5.2]hexadecaneの生成量は順相液体クロマトグラフィーを使用して絶対検量法で測定した。評価結果を表2に示す。
【0069】
[実施例2、3]
表1に示すとおり、触媒を、実施例2ではbeta(構造コード:*BEA)ゼオライト(表1中「Beta-2」と記す、日揮触媒化成製、プロトン型、SiO2/Al23(モル比)=30、Sn含有量:0.1質量%未満。)とし、実施例3ではY型(構造コード:FAU)ゼオライト(表1中「Y-1」と記す、日揮触媒化成社製品、プロトン型、SiO2/Al23(モル比)=70、Sn含有量:0.1質量%未満。)としたこと以外は、実施例1と同条件で実験を行った。結果を以下の表2にまとめた。表2内の6-ヒドロキシカプロン酸、ε-カプロラクトン、アジピン酸、ヒドロキシカプロン酸ダイマーで表される項目は各々の収率を表している。また、反応後の溶液に固体析出物は観察されず、有機過酸化物Aとして、7,8,15,16-Tetraoxadispiro[5.2.5.2]hexadecaneの生成量は2%未満であった。
【0070】
[実施例4]
表1に示すとおり、触媒を、モルデナイト(構造コード:MOR)型ゼオライト(表1中「MOR-1」、日揮触媒化成製、プロトン型、SiO2/Al23(モル比)=30、Sn含有量:0.1質量%未満)とし、反応時間を3時間、反応温度を90℃としたこと以外は実施例1と同条件で実験を行った。結果を以下の表2にまとめた。また、反応後の溶液に固体析出物は観察されず、有機過酸化物Aとして、7,8,15,16-Tetraoxadispiro[5.2.5.2]hexadecaneの生成量は2%未満であった。
【0071】
[実施例5、6]
表1に示すとおり、反応温度を、実施例5では40℃とし、実施例6では130℃とし、反応時間を実施例5では10時間としたこと以外は実施例1と同条件で実験を行った。
結果を以下の表2にまとめた。また、反応後の溶液に固体析出物は観察されず、有機過酸化物Aとして、7,8,15,16-Tetraoxadispiro[5.2.5.2]hexadecaneの生成量は2%未満であった。
【0072】
[実施例7~11]
表1に示すとおり、ニトリル基を有する有機化合物として、アセトニトリルをプロピオニトリルに変更し、プロピオニトリルの量、水の量を変更したこと以外は実施例1と同条件で実験を行った。結果を以下の表2にまとめた。また、反応後の溶液に固体析出物は観察されず、有機過酸化物Aとして、7,8,15,16-Tetraoxadispiro[5.2.5.2]hexadecaneの生成量は2%未満であった。
本実施例7~11において、6-ヒドロキシカプロン酸、ε-カプロラクトン、アジピン酸、ヒドロキシカプロン酸ダイマーの合計選択率は、H2O/プロピオニトリル(質量比)=0.9で96.2%となり、これらの合計選択率はH2O/プロピオニトリル(質量比)が0.1~2.7の範囲では0.9のときに最適となることがわかった。また、6-ヒドロキシカプロン酸の収率は、H2O/プロピオニトリル(質量比)が大きくなるにつれて、向上することがわかった。また、反応液中に含まれるプロピオニトリルの量を増加させると、シクロヘキサノン転化率が減少した。
【0073】
[実施例12~16]
表1に示すとおり、ニトリル基を有する有機化合物として、アセトニトリルをプロピオニトリルに変更し、プロピオニトリルの量、及び水の量を変更したこと以外は実施例4と同条件で実験を行った。結果を以下の表2にまとめた。また、反応後の溶液に固体析出物は観察されず、有機過酸化物Aとして、7,8,15,16-Tetraoxadispiro[5.2.5.2]hexadecaneの生成量は2%未満であった。
【0074】
[実施例17]
表1に示すとおり、触媒をモルデナイト(構造コード:MOR)型ゼオライト(表1中「MOR-2」と記す、東ソー、プロトン型、SiO2/Al23(モル比)=18)とし、反応時間を3時間としたこと以外は実施例4と同条件で実験を行った。結果を以下の表2にまとめた。また、反応後の溶液に固体析出物は観察されず、有機過酸化物Aとして、7,8,15,16-Tetraoxadispiro[5.2.5.2]hexadecaneの生成量は2%未満であった。触媒中のSiO2/Al23(モル比)及びスズ(Sn)の含有量は蛍光X線分析により測定した。
【0075】
[実施例18]
表1に示すとおり、触媒をbeta(構造コード:*BEA)ゼオライト(表1中「Beta-3」と記す、東ソー製、プロトン型、SiO2/Al23(モル比)=500)としたこと以外は実施例1と同条件で実験を行った。結果を以下の表2にまとめた。また、反応後の溶液に固体析出物は観察されず、有機過酸化物Aとして、7,8,15,16-Tetraoxadispiro[5.2.5.2]hexadecaneの生成量は2%未満であった。さらに、使用したbetaゼオライト(東ソー製)に含まれるスズの量は蛍光X線分析装置で測定し、スズに帰属されるピークが存在せず、スズの含有量は0.01質量%未満であることを確かめた。
【0076】
[実施例19~21]
表1に示すとおり、ニトリル基を有する有機化合物として、アセトニトリルを、実施例19ではブチロニトリルに変更し、実施例20ではアジポニトリルに変更し、実施例21ではベンゾニトリルに変更し、ニトリル基を有する有機化合物及び水の量を変更したこと以外は実施例1と同条件で実験を行った。結果を以下の表2にまとめた。また、反応後の溶液に固体析出物は観察されず、有機過酸化物Aとして、7,8,15,16-Tetraoxadispiro[5.2.5.2]hexadecaneの生成量は2%未満であった。
【0077】
[実施例22、23]
表1に示すとおり、アセトニトリルの量、及び水の量を変更したこと以外は実施例1と同条件で実験を行った。結果を以下の表2にまとめた。また、反応後の溶液に固体析出物は観察されず、有機過酸化物Aとして、7,8,15,16-Tetraoxadispiro[5.2.5.2]hexadecaneの生成量は2%未満であった。
【0078】
[比較例1]
表1に示すとおり、アセトニトリルを水に変更したこと以外は実施例1と同条件で実験を行った。結果を以下の表2にまとめた。反応後の溶液に触媒とは明確に異なる白色結晶が観察され、有機過酸化物Aとして、7,8,15,16-Tetraoxadispiro[5.2.5.2]hexadecaneが4.2%生成していた。本比較例より、ニトリル基を有する有機化合物を含まない反応系では有機過酸化物Aが反応液中で析出することがわかった。
【0079】
[比較例2]
表1に示すとおり、アセトニトリルの量、及び水の量を変更したこと以外は実施例1と同条件で実験を行った。結果を以下の表2にまとめた。反応後の溶液に触媒とは明確に異なる白色結晶が観察され、有機過酸化物Aとして、7,8,15,16-Tetraoxadispiro[5.2.5.2]hexadecaneが4.0%生成していた。本比較例より、少量のアセトニトリルでは、有機過酸化物Aの析出を抑制することができないことがわかった。
【0080】
[比較例3、4]
表1に示すとおり、触媒を、比較例3ではY型(構造コード:FAU)ゼオライト(表1中「Y-2」と記す、日揮ユニバーサル製、プロトン型、SiO2/Al23(モル比)=5.9)とし、比較例4ではbeta(構造コード:*BEA)ゼオライト(表1中「Beta-4」と記す、東ソー製、プロトン型、SiO2/Al23(モル比)=1200)としたこと以外は実施例1と同条件で実験を行った。結果を以下の表2にまとめた。本比較例4で使用したbetaゼオライトは、Beta-3と80℃の硝酸(1.38)とを5時間反応させることで脱Al処理を行い、大過剰の水で洗浄を行って合成した。表1及び2に示すとおり、少量のAlを含む触媒又は多量のAlを含む触媒では、基質のヒドロキシ酸の収率が低いことがわかった。また、使用したbeta(構造コード:*BEA)ゼオライト(東ソー製)に含まれるスズの量は蛍光X線分析装置で測定し、スズに帰属されるピークが存在せず、スズの含有量は0.01質量%未満であることを確かめた。
【0081】
[参考例1]
ガラス製容器にスターラーチップ、7,8,15,16-Tetraoxadispiro[5.2.5.2]hexadecane 0.7g、beta(構造コード:*BEA)ゼオライト(「Beta-1」、日揮触媒化成社製品、プロトン型、SiO2/Al23(モル比)=40、Sn含有量:0.1質量%未満。)2.0g、アセトニトリル10gを加え、80℃にて1時間攪拌した。その後、反応液を室温まで冷却し、エタノールとバレルアミドとを加え、液相を一相にした後に、触媒をろ過にて取り除いた。次いで、得られたろ液をHPLCで分析したところ、シクロヘキサノンの収率は11.9%、6-ヒドロキシカプロン酸の収率は11.3%、ε-カプロラクトンの収率は2.7%であった。また、反応後の溶液に固体析出物は観察されなかった。本結果から、7,8,15,16-Tetraoxadispiro[5.2.5.2]hexadecaneはアセトニトリルと触媒との存在下で活性化され、転化することがわかった。
【0082】
[参考例2]
溶媒をアセトニトリルから水に変更したこと以外は参考例1と同条件で実験を行った。その結果、7,8,15,16-Tetraoxadispiro[5.2.5.2]hexadecaneは反応後も反応器壁に付着している様子が観察された。エタノール及びバレルアミドを加え、触媒をろ過にて取り除き、次いで得られたろ液をHPLCで分析したところ、シクロヘキサノン、6-ヒドロキシカプロン酸、ε-カプロラクトン、アジピン酸、ヒドロキシカプロン酸ダイマーに由来するピークを検出できなかった。本結果から、7,8,15,16-Tetraoxadispiro[5.2.5.2]hexadecaneはニトリル非存在下では活性化されず、ヒドロキシカプロン酸製造プロセスにおける反応装置を汚染する原因物質となることがわかった。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、環状ケトンの過酸化水素との反応により、ヒドロキシ酸を製造する方法として好適である。