(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 15/024 20060101AFI20240925BHJP
【FI】
B60C15/024 C
B60C15/024 Z
(21)【出願番号】P 2020143704
(22)【出願日】2020-08-27
【審査請求日】2023-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2020080756
(32)【優先日】2020-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】辻 法行
(72)【発明者】
【氏名】荒川 幸司
(72)【発明者】
【氏名】中本 智
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-228104(JP,A)
【文献】特開2018-197017(JP,A)
【文献】特開2011-152824(JP,A)
【文献】特開2019-098875(JP,A)
【文献】特開2015-101228(JP,A)
【文献】特開2007-160983(JP,A)
【文献】特開平06-040221(JP,A)
【文献】特開平06-040223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドと、前記トレッドのタイヤ幅方向両端からタイヤ径方向内側に延びる一対のタイヤサイド部と、前記一対のタイヤサイド部それぞれのタイヤ径方向内側にそれぞれ連続し、非リム組み状態において正規リム幅よりも幅広に間隔を空けて配置され、ビードコアがそれぞれ埋設された一対のビード部とを備え、
前記ビード部は、
タイヤ径方向内端部においてタイヤ幅方向に延びる、ビードベース部と、
前記ビードベース部のタイヤ幅方向外端部から、タイヤ幅方向外側に向かってタイヤ径方向外側に湾曲しており、さらにタイヤ径方向外側に向かってタイヤ幅方向内側に湾曲する、ビードヒール部と、
前記ビードヒール部のタイヤ径方向外端部からタイヤ径方向外側に延びる、ビード背面部と
を含み、
前記非リム組み状態で、前記ビード背面部には、前記ビードヒール部のタイヤ幅方向外端部よりもタイヤ幅方向内側に窪んだ凹部が形成されており、
前記ビード背面部は、タイヤ幅方向外側に曲率中心を持つと共に、少なくとも一部が前記凹部の最深部を構成する円弧状の凹部R部を有し、
前記凹部R部の曲率中心は、タイヤ径方向において、前記ビードコアのタイヤ方向外端面を基準としてタイヤ径方向内側に2.0mmの径位置と、タイヤ径方向外側に9.0mmの径位置との間の径方向範囲に位置している、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ビード部は、タイヤ幅方向外側に突出するリムプロテクタを備え、
前記凹部R部の前記曲率中心は、公称リム径を基準として、前記リムプロテクタの頂部までの高さの0.2倍以上0.6倍以下の径位置に位置している、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記凹部は、タイヤ幅方向における深さが1.0mm未満である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
トレッドと、この幅方向両側から内径側に延びる一対のサイドウォールと、これらそれぞれの内径側にそれぞれ連続する一対のビード部とを備え、非リム組み状態で一対のビード部が正規リム幅よりも幅広に形成された空気入りタイヤが知られている。また、非リム組み状態で、ビード部は、タイヤ幅方向外側の外表面がタイヤ径方向外側に向かってタイヤ幅方向外側に傾斜して延びている。
【0003】
この空気入りタイヤを対応する正規リムに組み付ける場合、一対のビード部を正規リム幅に近接させることを要する。さらに、空気入りタイヤは、特に、ビード部からサイドウォールに向かってタイヤ幅方向外側に傾斜しているので、リム組み状態では、ビード部はタイヤ径方向外側に向かってタイヤ幅方向外側に傾斜しやすい。
【0004】
この結果、
図8に示すように、ビード部130は、正規リム50のリムシート部51とリムフランジ53の2点で当接しやすく、これらの間にビード部130とリムフランジ53との間に空間部Sが生じる。特に、ビード部130は、幅方向外表面の傾斜に起因して、該幅方向外表面においてリムフランジ53に対して局所的に強く当接しやすい。
【0005】
また、特許文献1には、ビード背面部にタイヤ幅方向内側に窪む凹部が形成された空気入りタイヤが開示されている。この空気入りタイヤは、リム組み状態で、凹部のタイヤ径方向外側の部分と凹部のタイヤ径方向内側の部分との2点でリムフランジに対して局所的に強く当接させており、これによってリムフランジに対するビード部の固定を強固にして操縦安定性を向上させることが企図されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記空気入りタイヤによれば、リム組み状態で、ビード背面部はリムフランジに対して局所的に強く当接するため、この当接部において強く圧縮されている。例えば、旋回時にタイヤ径方向および/またはタイヤ幅方向に荷重が作用したとき、上記当接部はすでに強く圧縮されているためさらに圧縮されにくいので、サイドウォールは、ビード部に近接した部分が変形しにくく、トレッドに近接した部分に変形が偏りやすい。すなわち、サイドウォールにおける荷重支持が効率的でなく、操縦安定性を向上させにくい。
【0008】
本発明は、サイドウォールにおける荷重支持を効率化させることによって、操縦安定性を向上させることができる、空気入りタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
トレッドと、前記トレッドのタイヤ幅方向両端からタイヤ径方向内側に延びる一対のタイヤサイド部と、前記一対のタイヤサイド部それぞれのタイヤ径方向内側にそれぞれ連続し、非リム組み状態において正規リム幅よりも幅広に間隔を空けて配置され、ビードコアがそれぞれ埋設された一対のビード部とを備え、
前記ビード部は、
タイヤ径方向内端部においてタイヤ幅方向に延びる、ビードベース部と、
前記ビードベース部のタイヤ幅方向外端部から、タイヤ幅方向外側に向かってタイヤ径方向外側に湾曲しており、さらにタイヤ径方向外側に向かってタイヤ幅方向内側に湾曲する、ビードヒール部と、
前記ビードヒール部のタイヤ径方向外端部からタイヤ径方向外側に延びる、ビード背面部と
を含み、
前記非リム組み状態で、前記ビード背面部には、前記ビードヒール部のタイヤ幅方向外端部よりもタイヤ幅方向内側に窪んだ凹部が形成されており、
前記ビード背面部は、タイヤ幅方向外側に曲率中心を持つと共に、少なくとも一部が前記凹部の最深部を構成する円弧状の凹部R部を有し、
前記凹部R部の曲率中心は、タイヤ径方向において、前記ビードコアのタイヤ方向外端面を基準としてタイヤ径方向内側に2.0mmの径位置と、タイヤ径方向外側に9.0mmの径位置との間の径方向範囲に位置している、空気入りタイヤを提供する。
【0010】
本発明によれば、ビード背面部には凹部が形成されているので、非リム組み状態において、ビード背面部のうち凹部の最深部から内径側に位置する内径側部分はタイヤ径方向内側に向かってタイヤ幅方向外側へ傾斜している。上記内径側部分は、一対のビード部を正規リムのリム幅に近接させたリム組み状態において、凹部の最深部の周辺を起点としてタイヤ幅方向内側に折れ曲がりタイヤ径方向に概ね沿いやすい。すなわち、リム組み状態において、ビード背面部を、凹部を消失させつつ、リムフランジの径方向部分の略全面にわたって密着させやすく、接触面積を拡大することができる。
【0011】
このように、リム組みされた無負荷状態において、リムフランジの径方向部分に密着するビード背面部の略全面にわたって面圧が作用するので、ビード背面部の一部にのみ面圧が作用する場合に比して、ビード背面部全体として受け持つ荷重が分散される。すなわち、ビード背面部に局所的に高い面圧が作用する場合に比して、ビード背面部が弾性変形するための圧縮代に余裕を持たせることができる。
【0012】
したがって、荷重入力時及び横力入力時において、余裕圧縮代の分、ビード背面部はさらに圧縮され得る。この場合、サイドウォールは、ビード背面部のさらなる圧縮に伴ってビード部に近接した部分も変形し得るので、サイドウォールはビード部側からトレッド側にわたって全体的に撓むように変形し得る。よって、サイドウォールにおける荷重支持が効率化されるので、操縦安定性が向上する。
【0013】
特に、ビードコアは、ビード部と正規リムとの嵌合のための高剛性部材であり、通常、リムフランジの径方向部分に対応する位置に設けられる。この構成では、凹部R部の曲率中心が、タイヤ径方向において、ビードコアのタイヤ方向外端面を基準としてタイヤ径方向内側に2.0mmの径位置と、タイヤ径方向外側に9.0mmの径位置との間の径方向範囲に位置している。つまり、凹部R部は、ビード背面部のうちビードコアに対応する位置に設けられる。これにより、リム組み状態において、ビード背面部を、凹部を消失させつつ、リムフランジの径方向部分の略全面にわたって当接させたときに、ビード背面部のビードコアに対応する部分もリムフランジの径方向部分と十分に当接できる。その結果、ビード部のリムフランジへの嵌合をより強固にでき、ビード部とリムフランジとの間において、荷重を円滑に伝達させやすい。特に、例えば、JATMAに規定される5°深底リムのフランジ記号Jの正規リムにリム組みする際に、上記発明の効果が好適に発揮される。
【0014】
凹部R部の曲率中心がタイヤ径方向において、ビードコアのタイヤ方向外端面を基準としてタイヤ径方向内側に2.0mmの径位置よりも離れて配置されると、リム組み状態において、凹部R部によって画定された凹部の一部がリムフランジの径方向部分に接触しにくい。つまり、リム組み状態において、凹部が消失しにくく、ビード背面部をリムフランジの径方向部分の略全面にわたって当接させにくい。その結果、ビード部とリムフランジとの間において、荷重を円滑に伝達させにくくなる。
【0015】
一方で、凹部R部の曲率中心がタイヤ径方向において、ビードコアのタイヤ方向外端面を基準としてタイヤ径方向外側に9.0mmの径位置よりも離れて配置されると、凹部R部によって構成される凹部の一部がリムフランジから過度に離れることになる。その結果、リム組み状態において、凹部の一部が消失しにくく、ビード背面部をリムフランジの径方向部分の略全面にわたって当接させにくい。その結果、ビード部とリムフランジとの間において、荷重を円滑に伝達させにくくなる。
【0016】
前記ビード部は、タイヤ幅方向外側に突出するリムプロテクタを備えてもよく、
前記凹部R部の前記曲率中心は、公称リム径を基準として、前記リムプロテクタの頂部までの高さの0.2倍以上0.6倍以下の径位置に位置していてもよい。
【0017】
この構成によれば、リム組み状態又荷重負荷時において、ビード背面部を、リムフランジの径方向部分の略全面にわたって当接させやすく、操縦安定性を向上できる。
【0018】
凹部R部の曲率中心が、公称リム径を基準として、リムプロテクタの頂部までの長さの0.2倍より小さい径位置に位置していると、ビードヒール部との関係から凹部R部を小さい曲率半径でしか構成できない。凹部R部の曲率半径が小さすぎると、リム組み状態において、凹部がリムフランジの径方向部分に対して局所的に強く当接しやすい。
【0019】
一方で、凹部R部の曲率中心が、公称リム径を基準として、リムプロテクタの頂部までの長さの0.6倍より大きい径位置に位置していると、凹部R部を大きい曲率半径でしか構成できない。凹部R部の曲率半径が大きいと、リム組み状態において、凹部がリムフランジから離れるため、ビード背面部をリムフランジの径方向部分の略全面にわたって当接させにくい。
【0020】
前記凹部は、タイヤ幅方向における深さが1.0mm未満であってもよい。
【0021】
本構成によれば、上記内径側部分は、非リム組み状態でタイヤ幅方向外側に適度に傾斜しているので、リム組み状態でタイヤ幅方向内側に折り曲げられてタイヤ幅方向外側への傾斜が解消しやすく、リムフランジの径方向部分に丁度沿い易い。凹部の深さが1.0mm以上であると、上記内径側部分は、非リム組み状態でタイヤ幅方向外側に過度に傾斜しやすいため、リム組み状態でタイヤ幅方向内側に折り曲げられてもタイヤ幅方向外側への傾斜が解消しにくい。この場合、リム組み状態で、凹部が消失しにくく、ビード背面部をリムフランジの径方向部分の略全面にわたって当接させにくい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、サイドウォールにおける荷重支持を効率化させることによって、操縦安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤの子午線断面図。
【
図2】リム組み前の空気入りタイヤのビード部周辺の子午線断面図。
【
図3】リム組み状態の空気入りタイヤのビード部周辺の子午線断面図。
【
図4】インフレート時のビード部30の外表面における嵌合圧を示すグラフ。
【
図5】径方向荷重負荷時のビード部30の外表面における嵌合圧を示すグラフ。
【
図6】
図5の空気入りタイヤの変形を示す子午線断面図。
【
図7】横方向荷重負荷時の空気入りタイヤの変形を示す子午線断面図。
【
図8】リム組みされた従来例に係る空気入りタイヤのビード部周辺の子午線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。なお、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。また、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは相違している。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤ1の子午線方向における断面図であり、タイヤ赤道線CLに対して一方側のみ示されている。空気入りタイヤ1は、トレッド10と、トレッド10のタイヤ幅方向両端からタイヤ径方向内側に延びる一対のサイドウォール20と、一対のサイドウォール20それぞれのタイヤ径方向内側にそれぞれ連続する一対のビード部30とを備えている。
【0026】
ビード部30には、ビードコア31とこのタイヤ径方向外側に連接されたビードフィラー32とが埋設されている。ビードコア31は、鋼線からなるビードワイヤが複数周巻回されてなる環状の集束体をゴムで被覆して構成されている。ビードコア31の断面形状は、タイヤ径方向外側の端部にタイヤ幅方向に延びるビードコア外端面31aを有するように多角形状に形成されている。ビードコア外端面31aの公称リム径(JIS4102で規定される)NR(基準リム径ともいう)を基準としたタイヤ径方向における高さHbは本実施形態では6.7mmである。
【0027】
ビードフィラー32は、ビードコア外端面31aに沿って環状に延びる硬質ゴムで構成されており、子午線方向における断面形状がタイヤ径方向外側に向かってタイヤ幅方向に幅狭となる三角形状に形成されている。
【0028】
一対のビードコア31の間に、トレッド10およびサイドウォール20にわたってカーカスプライ2が掛け渡されている。カーカスプライ2は、ビードコア31の周りでタイヤ内面側からタイヤ外面側へ折り返されている。カーカスプライ2のタイヤ内面側には、空気圧を保持するためのインナーライナ3が設けられている。
【0029】
トレッド10において、カーカスプライ2のタイヤ径方向外側に、ベルト層11およびベルト補強層12が順に積層されている。本実施形態では、ベルト層11は2層から構成されている。ベルト補強層12のタイヤ径方向外側には、トレッドゴム13が積層されている。トレッドゴム13によって、空気入りタイヤ1のタイヤ径方向における外表面が構成されている。
【0030】
カーカスプライ2のタイヤ幅方向外側には、サイドウォール20およびビード部30にわたってタイヤサイドゴム21が配置されている。タイヤサイドゴム21は、トレッドゴム13のタイヤ幅方向端部からタイヤ径方向内側に延びるサイドウォールゴム21aと、この内径側端部に連接されておりタイヤ径方向内側にさらに延びるリムストリップゴム21bとを有している。タイヤサイドゴム21によって、空気入りタイヤ1のタイヤ幅方向における外表面が構成されている。
【0031】
サイドウォールゴム21aは、サイドウォール20の大部分を構成している。リムストリップゴム21bは、対応する正規リム50(
図2参照)に組み込まれた状態(リム組み状態と称する)で、タイヤサイドゴム21のうちリムフランジ53に当接する部分に少なくとも対応して設けられている。リムストリップゴム21bは、サイドウォールゴム21aに比して耐摩滅性に優れたゴムが採用される。
【0032】
タイヤサイドゴム21には、タイヤ幅方向外側に突出するリムプロテクタ4が形成されている。リムプロテクタ4は、タイヤ最大幅位置Zよりもタイヤ径方向内側に位置している。最大幅位置Zは、サイドウォール20における外表面のプロファイルラインが、タイヤ赤道線CLからタイヤ幅方向に最も離れた位置である。すなわち、タイヤサイドゴム21は、最大幅位置Zからリムプロテクタ4に向かって厚みが漸増しており、リムプロテクタ4からタイヤ径方向内側に向かって厚みが漸減している。
【0033】
リムプロテクタ4は、最大幅位置Zからタイヤ径方向内側に向かって延びた端部からタイヤ幅方向内側に屈曲しており、最も厚みが大きい頂部4aを有する。頂部4aは、公称リム径NRからタイヤ径方向外側にH6の高さに位置している。頂部4aの高さH6は、リム組み状態における対応する正規リム50のリムフランジ53よりもタイヤ径方向外側に位置している。
【0034】
なお、本明細書では、タイヤ径方向において、ビードフィラー32の先端部32aより外径側に位置する部分をサイドウォール20と称し、内径側に位置する部分をビード部30と称している。リムプロテクタ4は、ビード部30に位置している。また、本明細書において、タイヤサイドゴム21の厚みとは、カーカスプライ2の外表面に面直な方向として定義されている。
【0035】
図2には、正規リム50に組み込まれていない状態(非リム組み状態と称する)のビード部30周辺が拡大して示されており、対応する正規リム50のリムフランジ53の周辺が併せて示されている。正規リム50は、タイヤ幅方向外側に延びるリムシート部51と、このタイヤ幅方向外端部からタイヤ径方向外側に円弧状に湾曲したリムヒール部52と、このタイヤ径方向外端部からタイヤ径方向外側に延びるリムフランジ53とを有している。
【0036】
リムシート部51は、タイヤ幅方向内側に向かってタイヤ径方向内側に傾斜しており、タイヤ軸線に平行な直線に対する傾斜角度はA0である。リムフランジ53は、リムヒール部52からタイヤ径方向に対して平行にタイヤ径方向外側へ延びるフランジ径方向部分53aと、このタイヤ径方向外端部に連続してタイヤ幅方向外側に円弧状に湾曲したフランジ湾曲部分53bとを有している。
【0037】
リムヒール部52のうち空気入りタイヤ1が嵌合される側に位置する外表面は、該外表面よりも空気入りタイヤ1側に位置する曲率中心O11を中心として曲率半径がR11である円弧状に延びている。タイヤ幅方向に一対のフランジ径方向部分53aは、リム幅W0を空けて配置されている。フランジ径方向部分53aは、公称リム径NRからタイヤ径方向外側へH11の高さまで延びている。フランジ湾曲部分53bは、タイヤ外面側に位置する曲率中心O12を中心として曲率半径がR12である円弧状に延びている。
【0038】
なお、正規リム50は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば「標準リム」、TRAおよびETRTOであれば「Measuring Rim」である。
【0039】
本実施形態に係る正規リム50は、JATMAに規定される5°深底リムのフランジ記号Jに準拠しており、リムシート部51の傾斜角度A0は5°、リムヒール部52の曲率半径R11は6.5mm、フランジ径方向部分53aの高さH11は8mm、フランジ湾曲部分53bの曲率半径R12は9.5mmである。また、本実施形態に係る正規リム50のリムシート部51と径方向部分53aとの間の角度は95°である。
【0040】
ビード部30は、タイヤ径方向内端部においてタイヤ幅方向に延びるビードベース部34と、ビードベース部34のタイヤ幅方向外端部から、タイヤ幅方向外側に向かってタイヤ径方向外側に湾曲するビードヒール部35と、ビードヒール部35のタイヤ径方向外端部からタイヤ径方向外側に延びてリムプロテクタ4に連続するビード背面部36とを有している。
【0041】
ビードベース部34は、非リム組み状態において、タイヤ幅方向内側に向かってタイヤ径方向内側に直線状に傾斜しておりタイヤ軸線に平行な直線に対する傾斜角度がA1である。すなわち、ビードベース部34は単一の直線部により構成されている。具体的には、傾斜角度A1は、リムシート部51の傾斜角度A0よりも大きい。好ましくは、傾斜角度A1と傾斜角度A0との差は8°以下である。本実施形態では、傾斜角度A1は、12°であり、傾斜角度A0よりも7°大きい。なお、ビードベース部34がタイヤ幅方向内側に向かって段階的にタイヤ径方向内側に傾斜する複数のベース面を有してもよく、この場合、複数のベース面のうち最もタイヤ幅方向外側に(すなわちビードヒール部35に連続して)位置するベース面の、タイヤ軸線に平行な傾斜角度を、本実施形態に係る傾斜角度A1として規定する。
【0042】
ビードヒール部35は、ビードコア31に対してタイヤ径方向内側かつタイヤ幅方向外側に対応して位置している。ビードヒール部35は、外表面が第1湾曲部61(ヒールR部)により構成されている。第1湾曲部61は、ビードベース部34のタイヤ幅方向外端に位置する第1点P1から、タイヤ幅方向外側に向かってタイヤ径方向外側に湾曲して延びて、非リム組み状態においてビード部30のタイヤ径方向内側部分のうち最もタイヤ幅方向外側に位置する第2点P2に至ると共に、第2点P2からタイヤ径方向外側に向かってタイヤ幅方向内側に湾曲してさらに延びて、第3点P3に至っている。
【0043】
第1湾曲部61は、ビード部30の外表面よりもタイヤ内面側に位置する曲率中心O1を中心として曲率半径がR1である円弧状部により構成されている。曲率中心O1および曲率半径R1は、リムヒール部52の曲率中心O11および曲率半径R11とそれぞれ概ね同一に設定されている。本実施形態では、リムヒール部52の曲率半径R11は6.5mmであるので、第1湾曲部61の曲率半径R1は5.5mm以上7.5mm以下に設定されている。
【0044】
ビード背面部36は、外表面に、タイヤ径方向の内側に位置しており後述する凹部70の少なくとも一部を構成する第2湾曲部62(凹部R部)と、タイヤ径方向の外側に位置しておりリムプロテクタ4の頂部4aに至る第3湾曲部63(外径側R部)とを少なくとも有している。
【0045】
第2湾曲部62は、第3点P3よりもタイヤ径方向外側かつタイヤ幅方向内側に位置する第4点P4から、タイヤ径方向外側に向かってタイヤ幅方向内側に傾斜した方向に延びると共にタイヤ幅方向外側に湾曲して延びて第5点P5に至っている。第5点P5は、第2点P2よりもタイヤ幅方向外側に位置している。第2湾曲部62は、ビード部30の外表面よりもタイヤ外面側に位置する曲率中心O2を中心として曲率半径がR2である円弧状部により構成されている。
【0046】
公称リム径NRを基準とした曲率中心O2のタイヤ径方向における高さH2は、対応する正規リム50のフランジ径方向部分53aの高さH11以上である。また、好ましくは、曲率中心O2の高さH2は、フランジ径方向部分53aの高さH11の1.5倍以下である。本実施形態では、フランジ径方向部分53aの高さH11は8mmであるので、曲率中心O2の高さH2は8mm以上12mm以下に設定されている。また、好ましくは、公称リム径NRを基準とした曲率中心O2のタイヤ径方向における高さH2は、公称リム径NRを基準としたリムプロテクタ4の頂部4aのタイヤ径方向の高さH6の0.2倍以上0.6倍以下である。
【0047】
また、曲率中心O2は、タイヤ径方向において、ビードコア外端面31aを基準としてタイヤ径方向内側に2mmの径位置X1とタイヤ径方向外側に9mmの径位置X2との間の径方向範囲Wに位置している。
【0048】
さらにまた、曲率中心O2の高さH2は、タイヤ断面高さH0(
図1参照)の0.25倍未満に設定されている。タイヤ断面高さH0は、空気入りタイヤ1の外径から公称リム径を除いたものを2で除したものとして算出される。
【0049】
曲率半径R2は、対応する正規リム50のフランジ湾曲部分53bの曲率半径R12よりも大きい。好ましくは、曲率半径R2は、曲率半径R12の1.4倍以上であり、より好ましくは曲率半径R12の1.6倍以上2.4倍以下である。本実施形態では、フランジ湾曲部分53bの曲率半径R12は9.5mmであるので、曲率半径R2は、14mm以上、より好ましくは16mm以上22mm以下に設定されている。
【0050】
また、曲率半径R2は、第1湾曲部61の曲率半径R1の1.0倍以上4.5倍以下に設定されている。
【0051】
第3湾曲部63は、リムプロテクタ4の頂部4aに位置する第6点P6から、タイヤ幅方向内側に向かってタイヤ径方向内側に湾曲して延びて第7点P7に至っている。第3湾曲部63は、ビード部30の外表面よりもタイヤ外面側に位置する曲率中心O3を中心として曲率半径がR3である円弧状部により構成されている。曲率半径R3は、第2湾曲部62の曲率半径R2以上の大きさに設定されている。好ましくは、曲率半径R3は、曲率半径R2の1.2倍以上である。
【0052】
図2の拡大図に示すように、第2湾曲部62をタイヤ径方向外側に延長した仮想曲線62aと第3湾曲部63をタイヤ幅方向内側に延長した仮想曲線63aとは仮想交点P8においてタイヤ内面側に凸となるように交差している。
【0053】
公称リム径NRを基準とした仮想交点P8のタイヤ径方向における高さH8は、第2湾曲部62の曲率中心O2の高さH2の1.5倍より大きく3.0倍未満である。より好ましくは、仮想交点P8の高さH8は、曲率中心O2の高さH2の2倍より大きく2.5倍未満である。また、仮想交点P8の高さH8は、リムプロテクタ4の頂部4aの高さH6の0.7倍以上である。仮想交点P8の高さH8は、例えば15mm以上25mm以下であり、好ましくは20mm以上24mm以下である。
【0054】
また、仮想交点P8の高さH8は、公称リム径NRを基準としたビードフィラー32の先端部32aの高さH9より小さい。具体的には、仮想交点P8の高さH8に対して、ビードフィラー32の先端部32aの高さH9は、1.1倍以上が好ましく、さらに1.3倍以上がより好ましい。
【0055】
仮想曲線62aと仮想曲線63aとの間の交差角A3、すなわち仮想交点P8から延びる第2湾曲部62(仮想曲線62a)に対する接線62bと、仮想交点P8から延びる第3湾曲部63(仮想曲線63a)に対する接線63bとの間の角度は、0°より大きく45°以下である。交差角A3が45°を超えると、第2湾曲部62と第3湾曲部63との間に歪が集中しやすくビード耐久性が悪化しやすい。好ましくは、交差角A3は30°以下である。交差角A3は、仮想交点P8からタイヤ幅方向外側に延びる接線62bおよび接線63b間の角度として画定されている。
【0056】
また、ビード背面部36は、外表面に、第3点P3と第4点P4とを直線状に接続する直線部69と、第5点P5と第7点P7とを円弧状に接続する第4湾曲部64(接続R部)とをさらに有している。
【0057】
直線部69は、第1湾曲部61と第2湾曲部62とを接線連続状に接続している。換言すれば、第3点P3は第1湾曲部61における直線部69に対する接点を構成し、第4点P4は第2湾曲部62における直線部69に対する接点を構成している。直線部69は、タイヤ径方向外側に向かってタイヤ幅方向内側に傾斜しており、タイヤ径方向に平行な直線に対する傾斜角度はA2である。傾斜角度A2は、ビードベース部34の傾斜角度A1よりも小さくなるように設定されている。本実施形態では、傾斜角度A2は10°以下である。さらに、傾斜角度A2は、直線部69とビードベース部34との間の角度A4が95°以上105°以下となるように設定されている。また、傾斜角度A2は、ビードベース部34の傾斜角度A1からリムのシート部51の傾斜角度A0を引いた値よりも小さく設定されている(A2<A1-A0)。
【0058】
第4湾曲部64は、第2湾曲部62と第3湾曲部63とを接線連続状に接続しており、ビード部30のタイヤ外面側に位置する曲率中心O4を中心として曲率半径がR4である円弧状部により構成されている。換言すれば、第5点P5は第2湾曲部62における第4湾曲部64に対する接点を構成し、第7点P7は第3湾曲部63における第4湾曲部64に対する接点を構成している。
【0059】
第4湾曲部64の曲率半径R4は、第2湾曲部62および第3湾曲部63の曲率半径R2,R3よりも小さい。
【0060】
ここで、非リム組み状態において、ビード部30のうちタイヤ径方向の内側には、ビードヒール部35およびビード背面部36にわたって、タイヤ幅方向内側に窪む凹部70が形成されている。凹部70は、ビードヒール部35およびビード背面部36のうち、第2点P2を通りタイヤ径方向に平行に延びる径方向直線L1に対してタイヤ幅方向内側に位置する部分を意味している。すなわち、凹部70は、第1湾曲部61のうち第2点P2から第3点P3の間に位置する部分と、直線部69と、第2湾曲部62のうちタイヤ径方向内側に位置する部分とによって構成されている。
【0061】
凹部70はタイヤ幅方向内側に最も窪んだ最深部71を有している。最深部71は、第2湾曲部62上に位置している。最深部71は、直線部69よりも径方向外側に位置する。換言すると、直線部69は、最深部71よりもタイヤ径方向内側に設けられている。最深部71の深さDは、径方向直線L1を基準として1.0mm未満、好ましくは0.8mm以下、より好ましくは、0.3mm以上0.5mm以下に設定されている。
【0062】
公称リム径NRを基準とした最深部71の高さH10は、対応する正規リム50のフランジ径方向部分53aの高さH11以上である。また、好ましくは、最深部71の高さH10は、フランジ径方向部分53aの高さH11の1.5倍以下である。本実施形態では、フランジ径方向部分53aの高さH11は8mmであるので、最深部71の高さH11は8mm以上12mm以下に設定されている。
【0063】
なお、本実施形態では、最深部71は、円弧状に延びる第2湾曲部62のうち曲率中心O2からタイヤ幅方向に平行に延びる幅方向直線L2上に位置しているので、最深部71の高さH10は、第2湾曲部62の曲率中心O2の高さH2と等しい。
【0064】
ここで、空気入りタイヤ1では、非リム組み状態で、一対のビード部30は、リム幅W0よりも幅広に間隔を空けて配置されている。具体的には、一対のビードヒール部35間のタイヤ幅方向における外幅W1(すなわち第2点P2間の距離)は、リム幅W0よりも大きい。例えば、外幅W1とリム幅W0の差は、1.5インチ以下であり、好ましくは1インチ以下である。
【0065】
図3は、空気入りタイヤ1を対応する正規リム50にリム組みしつつ規定の内圧を充填してインフレートさせたときの、ビード部30の周辺が示されており、仮想線でリム組み前の空気入りタイヤ1、および破線で荷重入力時の空気入りタイヤ1が併せて示されている。空気入りタイヤ1は、一対のビード部30間の外幅W1が、対応する正規リム50のリム幅W0よりも幅広に形成されているので、空気入りタイヤ1をリム組みする場合、一対のビード部30をタイヤ幅方向内側に互いに近接させることを要する。このとき、空気入りタイヤ1は、サイドウォール20およびビード部30にわたってタイヤ径方向内側に向かってタイヤ幅方向内側に傾斜するように変形させられる(図中矢印Y1)。
【0066】
さらに、ビードベース部34の傾斜角度A1はリムシート部51の傾斜角度A0よりも大きいので、ビードベース部34をリムシート部51に対してタイヤ径方向に嵌合させる際に、傾斜角度A0およびA1の角度差から、ビードベース部34が圧縮される分を除いた角度だけ、ビードベース部34は、
図3における時計回りに回転する(図中矢印Y2)。ビードベース部34は、傾斜角度A1が小さくなるように回転して、リムシート部51に対して径方向に嵌合される。
【0067】
その結果、ビード部30においては、凹部70の最深部71の周辺を起点として、最深部71よりタイヤ径方向内側に位置する部分が、非リム組み状態に比して、タイヤ幅方向内側に
図3における時計廻り方向に回転するように傾斜する(図中矢印Y3)。ビードベース部34の回転に伴って、ビード背面部36は、傾斜角度A2がゼロになるように、すなわち、直線部69がタイヤ径方向に沿って延びるように、最深部71の周辺を起点としてタイヤ幅方向内側に向かって回転する。本実施形態では、傾斜角度A1は、傾斜角度A0よりも7°大きいので、最深部71よりタイヤ径方向内側に位置する部分が、7°以下の角度で回転する。
【0068】
この結果、空気入りタイヤ1は、リム組みされた状態で、凹部70が消失してビード背面部36のうち最深部71よりタイヤ径方向の内側に位置する部分が概ねタイヤ径方向に沿うように延びるように変形する。よって、ビード部30は、ビードベース部34、ビードヒール部35、およびビード背面部36のうち最深部71より内径側に位置する部分が、リムシート部51、リムヒール部52、およびリムフランジ53の径方向部分53aに対してそれぞれ略全面にわたって密着している。
【0069】
この非リム組状態からインフレート状態にかけてビードコア31は、ビードベース部34と同様に
図3における時計回りに回転する(図中矢印Y2)。ビードコア31の回転角度A6は、タイヤ径方向に平行な直線に対する傾斜角度はA2と略一致している。本実施形態においては、ビードコア31の回転角度A6は、非リム組状態におけるビードコア31の外端面31aの延長線L7と、インフレート状態におけるビードコア31の外端面31aの延長線L8とのなす角で画定されている。
【0070】
このリム組み状態において、ビード背面部36は、フランジ湾曲部分53bに対してタイヤ径方向に十分に離間するように形成されている。具体的には、フランジ湾曲部分53bのうちタイヤ径方向において最もタイヤ径方向外側に位置する頂点P10と、頂点P10を通りタイヤ径方向に延びる径方向直線L3とビード背面部36との交点P11との間のタイヤ径方向における距離は4mm以上となるように、ビード背面部36は形成されている。
【0071】
図3の破線で示すように、ビード背面部36は、空気入りタイヤ1に設定されたロードインデックスに対応する荷重の入力状態においても、フランジ湾曲部53bに対してタイヤ径方向に十分に離間するように形成されている。具体的には、頂点P10と、径方向直線L3と荷重入力状態のビード背面部36との交点P12との間のタイヤ径方向における距離は3mm以上となるように、ビード背面部36は形成されている。
【0072】
図4は、空気入りタイヤ1を正規リム50にリム組みしてインフレートした状態の、ビード部30と正規リム50のとの間の嵌合部における嵌合圧を示すグラフである。嵌合圧は、ビード部30と正規リム50との間に挟み込んだシート型圧力センサにより計測した。このグラフは、横軸にビード部30の外表面に沿ったビードベース部34のタイヤ幅方向内側の端部からビード背面部36までの各位置をとり、縦軸に嵌合圧をとっている。また、
図4には、
図8の従来例に係る空気入りタイヤ100におけるビード部130の嵌合圧が併せて示されている。空気入りタイヤ1の場合の嵌合圧を実線で示し、空気入りタイヤ100の場合の嵌合圧を破線で示している。
【0073】
図4に示されるように、従来例に係る空気入りタイヤ100では、ビードベース部134と、ビード背面部136のうちタイヤ径方向外側に位置する当接部136aとの2点において局所的に嵌合圧が生じている。ビードベース部134におけるピークは概ね嵌合圧Aであり、当接部136aにおけるピークは、嵌合圧Aより低く、嵌合圧Aより小さい嵌合圧Bを若干超える程度である。すなわち、
図8を併せて参照して、ビードベース部134とビード背面部136の間に位置しており、正規リム50に当接していない未当接部136bでは、嵌合圧が生じていない。
【0074】
したがって、空気入りタイヤ100は、ビードベース部134と当接部136aの2箇所において局所的に強く嵌合しており、ビード部130は、これら2箇所において強く圧縮されている。
【0075】
これに対して、本実施形態に係る空気入りタイヤ1では、ビードベース部34からビードヒール部35およびビード背面部36にわたって、正規リム50との間で嵌合圧が生じている。すなわち、空気入りタイヤ100とは異なり、ビードヒール部35およびビード背面部36の内径側部分についても正規リム50に当接している。
【0076】
具体的には、空気入りタイヤ1は、空気入りタイヤ100のうち局所的に強く嵌合する部分に対応する部分の嵌合圧が、空気入りタイヤ100に比して低くなっている。すなわち、ビードベース部34におけるピークは概ね嵌合圧Bであり、ビード背面部36におけるピークは、嵌合圧Bより小さい嵌合圧Cを若干下回る程度である。一方、空気入りタイヤ1は、空気入りタイヤ100のうち未嵌合部に対応する部分において、嵌合圧が生じている。すなわち、空気入りタイヤ1は、ビードベース部34からビード背面部36にわたって嵌合圧を有して正規リム50に密着しており、局所的な圧縮が抑制されている。
【0077】
図5は、
図4の状態から、タイヤ径方向に荷重をかけた状態の、ビード部30の外表面における嵌合圧が示されている。
図4と同様に、空気入りタイヤ1の場合の嵌合圧を実線で示し、空気入りタイヤ100の場合の嵌合圧を破線で示している。
図5に示されるように、従来例の空気入りタイヤ100では、インフレート状態で既にビードベース部134およびビード背面部136の当接部136aにおいて強く嵌合しているため、タイヤ径方向に荷重をかけた状態でも、これらの部分において更に圧縮されにくく、嵌合圧の上昇代は少ない。
【0078】
これに対して、本実施形態に係る空気入りタイヤ1では、インフレート状態における嵌合圧が従来例の空気入りタイヤ100に比して低いので、さらなる荷重が作用した状態における嵌合圧の上昇代がある。このため、
図4の状態に比して、全体的に嵌合圧が上昇して、ビードベース部34においては嵌合圧Bから嵌合圧Aを超過するレベルに上昇し、ビード背面部36においては嵌合圧Cから嵌合圧Bに上昇している。
【0079】
図6は、
図5の状態における空気入りタイヤ1,100の変形を示す子午線方向における断面図である。
図6に示されるように、従来例に係る空気入りタイヤ100は、インフレート状態でビード部130における更なる荷重に対して、ビード部130側がさらに圧縮されにくいため、サイドウォール120のうちトレッド110側に偏った位置において折れ曲がるように変形している。
【0080】
これに対して、本実施形態に係る空気入りタイヤ1では、インフレート状態でビード部30における更なる荷重に対する余裕代が空気入りタイヤ100に比して大きいため、さらなる荷重に対しても、ビード部30において変形する余地があるので、サイドウォール120は、トレッド10側からビード部30側にかけて全体的に撓むように変形し得る。
【0081】
図7は、インフレート状態の空気入りタイヤ1,100に対してタイヤ幅方向に荷重をかけた状態を示す、子午線方向における断面図である。
図7に示されるように、
図6と同様に、空気入りタイヤ1は、サイドウォール20が、ビード部30からトレッド10にかけて全体的に撓むように変形している一方で、空気入りタイヤ100は、サイドウォール120は、トレッド110側に偏った位置において折れ曲がるように変形している。空気入りタイヤ1は、サイドウォール20を全体的に撓ませるように変形させるので、空気入りタイヤ100に比して荷重の吸収量を高めやすく、この結果、操縦安定性が向上する。
【0082】
本実施形態に係る空気入りタイヤ1によれば、次の効果を奏する。
【0083】
(1)ビード背面部36には凹部70が形成されているので、非リム組み状態において、ビード背面部36のうち凹部70の最深部71から内径側に位置する内径側部分はタイヤ径方向内側に向かってタイヤ幅方向外側へ傾斜している。上記内径側部分は、一対のビード部30を正規リム50のリム幅W0に近接させたリム組み状態において、凹部70の最深部71の周辺を起点としてタイヤ幅方向内側に折れ曲がりタイヤ径方向に概ね沿いやすい。すなわち、リム組み状態において、ビード背面部36を、凹部70を消失させつつ、リムフランジ53の径方向部分53aの略全面にわたって密着させやすく、接触面積を拡大することができる。
【0084】
このように、リム組みされた無負荷状態において、リムフランジ53の径方向部分53aに密着するビード背面部36の略全面にわたって面圧が作用するので、ビード背面部36の一部にのみ面圧が作用する場合に比して、ビード背面部36全体として受け持つ荷重が分散される。すなわち、ビード背面部36に局所的に高い面圧が作用する場合に比して、ビード背面部36が弾性変形するための圧縮代に余裕を持たせることができる。
【0085】
したがって、荷重入力時及び横力入力時において、余裕圧縮代の分、ビード背面部36はさらに圧縮され得る。この場合、サイドウォール20は、ビード背面部36のさらなる圧縮に伴ってビード部30に近接した部分も変形し得るので、サイドウォール20はビード部30側からトレッド10側にわたって全体的に撓むように変形し得る。よって、サイドウォール20における荷重支持が効率化されるので、操縦安定性が向上する。
【0086】
特に、ビードコア31は、ビード部30と正規リム50との嵌合のための高剛性部材であり、通常、リムフランジ53の径方向部分53aに対応する位置に設けられる。この構成では、第2湾曲部62の曲率中心O2が、タイヤ径方向において、ビードコア31のタイヤ方向外端面を基準としてタイヤ径方向内側に2.0mmの径位置と、タイヤ径方向外側に9.0mmの径位置との間の径方向範囲に位置している。つまり、第2湾曲部62は、ビード背面部36のうちビードコア31に対応する位置に設けられる。これにより、リム組み状態において、ビード背面部36を、凹部70を消失させつつ、リムフランジ53の径方向部分53aの略全面にわたって当接させたときに、ビード背面部36のビードコア31に対応する部分もリムフランジ53の径方向部分53aと十分に当接できる。その結果、ビード部30のリムフランジ53への嵌合をより強固にでき、ビード部30とリムフランジ53との間において、荷重を円滑に伝達させやすい。
【0087】
第2湾曲部62の曲率中心O2がタイヤ径方向において、ビードコア31のタイヤ方向外端面を基準としてタイヤ径方向内側に2.0mmの径位置よりも離れて配置されると、リム組み状態において、第2湾曲部62によって画定された凹部70の一部がリムフランジ53の径方向部分53aに接触しにくい。つまり、リム組み状態において、凹部70が消失しにくく、ビード背面部36をリムフランジ53の径方向部分53aの略全面にわたって当接させにくい。その結果、ビード部30とリムフランジ53との間において、荷重を円滑に伝達させにくくなる。
【0088】
一方で、第2湾曲部62の曲率中心O2がタイヤ径方向において、ビードコア31のタイヤ方向外端面を基準としてタイヤ径方向外側に9.0mmの径位置よりも離れて配置されると、第2湾曲部62によって構成される凹部70の一部がリムフランジ53から過度に離れることになる。その結果、リム組み状態において、凹部70の一部が消失しにくく、ビード背面部36をリムフランジ53の径方向部分53aの略全面にわたって当接させにくい。その結果、ビード部30とリムフランジ53との間において、荷重を円滑に伝達させにくくなる。
【0089】
(2)第2湾曲部62の曲率中心O2が公称リム径NRを基準として、リムプロテクタ4の頂部4aまでの高さの0.2倍以上0.6倍以下であるので、リム組み状態又荷重負荷時において、ビード背面部36を、リムフランジ53の径方向部分53aの略全面にわたって当接させやすく、操縦安定性を向上できる。
【0090】
第2湾曲部62の曲率中心O3が、公称リム径NRを基準として、リムプロテクタ4の頂部4aまでの高さH6の0.2倍より小さい径位置に位置していると、ビードヒール部35との関係から第2湾曲部62を小さい曲率半径でしか構成できない。第2湾曲部62の曲率半径R3が小さすぎると、リム組み状態において、凹部70がリムフランジ53の径方向部分53aに対して局所的に強く当接しやすい。
【0091】
一方で、第2湾曲部62の曲率中心O2が、公称リム径NRを基準として、リムプロテクタ4の頂部4aまでの高さH6の0.6倍より大きい径位置に位置していると、第2湾曲部62を大きい曲率半径でしか構成できない。第2湾曲部62の曲率半径R2が大きいと、リム組み状態において、凹部70がリムフランジ53から離れるため、ビード背面部36をリムフランジ53の径方向部分53aの略全面にわたって当接させにくい。
【0092】
(3)凹部70の深さDが1.0mm未満であると、最深部71より内径側に位置する部分は、非リム組み状態でタイヤ幅方向外側に適度に傾斜しているので、リム組み状態でタイヤ幅方向内側に折り曲げられてタイヤ幅方向外側への傾斜が解消しやすく、リムフランジ53の径方向部分53aに丁度沿い易い。凹部の深さが1.0mm以上であると、最深部71より内径側に位置する部分は、非リム組み状態でタイヤ幅方向外側に過度に傾斜しやすいため、リム組み状態でタイヤ幅方向内側に折り曲げられてもタイヤ幅方向外側への傾斜が解消しにくい。この場合、リム組み状態で、凹部70が消失しにくく、ビード背面部36をリムフランジ53の径方向部分53aの略全面にわたって当接させにくい。なお、凹部70の深さDが0.8mm以下であると、最深部71より内径側に位置する部分は、非リム組み状態でタイヤ幅方向外側により適度に傾斜しており、リム組み状態でリムフランジ53の径方向部分53aにより沿い易い。さらにまた、凹部70の深さDが0.3mm以上0.5mm以下であると、最深部71より内径側に位置する部分は、非リム組み状態でタイヤ幅方向外側により一層適度に傾斜しており、リム組み状態でリムフランジ53の径方向部分53aにより一層沿い易い。
【0093】
なお、本発明は、前期実施形態に記載された構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0094】
上記実施形態では、凹部70を、第1湾曲部61の一部、直線部69、第2湾曲部62の少なくとも一部によって構成したがこれに限らない。直線部69を用いずに、第1湾曲部61と第2湾曲部62とを直接に接続するように構成してもよい。また、この場合、第1湾曲部61と第2湾曲部62とを接線連続状に接続してもよい。
【0095】
また、本実施形態では、凹部70を円弧状部により構成したがこれに限らならい。すなわち、凹部70を台形状に形成してもよく、三角形状に形成してもよく、種々の構成を採用することができる。なお、本実施形態のように、凹部70を、接線連続状かつ円弧状部により構成することによって、リム組み時にビード背面部36をタイヤ径方向に平行に延びるように滑らかに変形させやすくリムフィッティング性に優れる。
【実施例】
【0096】
比較例1,2および実施例1,2の空気入りタイヤについて、空気入りタイヤと正規リムとの接触面積、ビード耐久性、および操縦安定性の評価試験を行った。
【0097】
比較例1は、凹部が設けられていない従来例に係る空気入りタイヤ100である。比較例2では、第2湾曲部62の曲率中心O2は、タイヤ径方向において、ビードコア外端面31aを基準としてタイヤ径方向内側に4.5mmの径位置に位置しており、本発明の上限値であるタイヤ径方向内側に2.0mmの径位置よりも離れて配置されている。また、比較例2では、第2湾曲部62の曲率中心O2は、公称リム径NRを基準として、リムプロテクタ4の頂部4aまでの高さH6の0.14倍の径位置に位置しており、本発明の下限値である0.2倍に満たない。第2湾曲部62の曲率中心O2は、タイヤ径方向において、ビードコア外端面31aを基準としてタイヤ径方向外側に、実施例1では3.5mm、実施例2では1.5mmの径位置に配置されている。また、第2湾曲部62の曲率中心O2は、公称リム径NRを基準として、リムプロテクタ4の頂部4aまでの高さH6の、実施例1では0.43倍、実施例2では0.30倍の径位置に位置している。凹部70の深さDは、比較例2、実施例1,2すべて0.4mmで共通である。評価に使用される正規リムは、JATMAに規定される5°深底リムのフランジ記号Jに準拠している。
【0098】
空気入りタイヤと正規リムの接触面積の評価は、各空気入りタイヤを正規リムに組み付けて規定内圧を付与したときの、空気入りタイヤと正規リムとの接触面積を計測し、比較例1の場合を100として、比較例2、実施例1,2の接触面積を指数で示している。値が大きいほどリムフィッティング性が優れていることを示している。
【0099】
エア漏れ性能の評価は、各空気入りタイヤを正規リムに組み付けて規定内圧を付与し、1ヶ月間放置した後に、空気入りタイヤの内圧を計測し、その内圧が、規定内圧の95%以上であるものを合格としている。表1において、合格を「○」で示し、不合格を「×」で示している。「○」であれば、エア漏れ性能が優れていることを示している。
【0100】
操縦安定性の評価は、実車に装着し実走行をしたときの運転者による官能による相対評価を行った。10点満点で、6.0が中心値であり、値が大きいほど操縦安定性に優れていることを示している。
【0101】
【0102】
表1から明らかなように、比較例1,2と実施例1,2との対比より、第2湾曲部62の曲率中心O2の径位置を本発明に規定する範囲内に設定した場合に、タイヤとリムの接触面積が増大し、リムフィッティング性に優れる。
【0103】
比較例2は、第2湾曲部62の曲率中心O2が、タイヤ径方向において、ビードコア外端面31aを基準としてタイヤ径方向内側に2.0mmの径位置よりも離れて配置されているとともに、公称リム径NRを基準として、リムプロテクタ4の頂部4aまでの高さH6の0.2倍に満たない径位置に位置している。このため、リム組みしてインフレートした状態でも、凹部70が消失せず、タイヤとリムの接触面積が実施例1,2に比して小さい。この結果、エア漏れ性能及び操縦安定性も比較例1,実施例1,2よりも悪化している。
【0104】
実施例1は、第2湾曲部62の曲率中心O2が適当な位置にあるため、リム組みしてインフレートした状態において、凹部70が消失し、ビード部30がビードベース部34からビード背面部36にわたって、リムフランジ53の径方向部分53aに対して概ね全面的に当接している。これによって、タイヤとリムの接触面積が比較例1よりも大きく、この結果、エア漏れ性能および操縦安定性が比較例1よりも優れる結果となった。
【0105】
実施例1と同様に、実施例2も、第2湾曲部62の曲率中心O2が適当な位置にあるため、リム組みしてインフレートした状態において、凹部70が消失し、ビード部30がビードベース部34からビード背面部36にわたって、リムフランジ53の径方向部分53aに対して概ね全面的に当接している。
【符号の説明】
【0106】
1 空気入りタイヤ
4 リムプロテクタ
10 トレッド
20 サイドウォール
30 ビード部
31 ビードコア
31a ビードコア外端面
32 ビードフィラー
32a ビードフィラー先端部
34 ビードベース部
35 ビードヒール部
36 ビード背面部
50 正規リム
51 リムシート部
52 リムヒール部
53 リムフランジ
53a 径方向部分
53b 湾曲部分
61 第1湾曲部
62 第2湾曲部
63 第3湾曲部
64 第4湾曲部
69 直線部
70 凹部
71 最深部