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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
   B62D 37/02 20060101AFI20240925BHJP
   F15D 1/12 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B62D37/02 Z
F15D1/12
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020164417
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022056588
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-08-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永野 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 恒
(72)【発明者】
【氏名】塚崎 裕一郎
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-011543(JP,A)
【文献】特開2008-260406(JP,A)
【文献】米国特許第05908217(US,A)
【文献】特開2006-290229(JP,A)
【文献】特開平05-193512(JP,A)
【文献】特開2019-114505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 37/02
F15D 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の中心に対して一方の側に設置された第1プラズマアクチュエータと、
前記中心に対して他方の側に設置された第2プラズマアクチュエータと、
前記第1プラズマアクチュエータおよび前記第2プラズマアクチュエータの駆動をそれぞれ制御して、車両におけるヨー挙動を制御する制御装置と、
を備えた、車両であって、
前記一方の側は前記車両の進行方向に向かって前記車体の前方右側であるとともに、前記他方の側は前記車体の前方左側であり、
前記制御装置は、前記第1プラズマアクチュエータおよび前記第2プラズマアクチュエータをそれぞれ駆動して前記車両の左右に抜ける走行風の剥離を制御して前記左右の圧力バランスを調整し、
前記制御装置は、前記車両の車速が所定値以上の場合、前記第1プラズマアクチュエータおよび前記第2プラズマアクチュエータを駆動させ、
前記所定値は、前記車両の走行地域に応じて可変である、車両。
【請求項2】
車体の中心に対して一方の側に設置された第1プラズマアクチュエータと、
前記中心に対して他方の側に設置された第2プラズマアクチュエータと、
前記第1プラズマアクチュエータおよび前記第2プラズマアクチュエータの駆動をそれぞれ制御して、車両におけるローリング挙動を制御する制御装置と、
を備えた、車両であって、
前記一方の側は前記車両の進行方向に対して前記車体の右側における前後部の上面および底面であるとともに、前記他方の側は前記車体の左側における前後部の上面および底面であり、
前記制御装置は、複数の前記第1プラズマアクチュエータおよび複数の前記第2プラズマアクチュエータをそれぞれ駆動して前記車両の左右を抜ける走行風の剥離を制御して前記車両の右側と左側の圧力バランスを調整し、
前記制御装置は、前記車両の車速が所定値以上の場合、前記第1プラズマアクチュエータおよび前記第2プラズマアクチュエータを駆動させ、
前記所定値は、前記車両の走行地域に応じて可変である、車両。
【請求項3】
前記車両の前方右側であって前記第1プラズマアクチュエータよりも上流に配置された第1圧力センサーと、
前記車両の前方左側であって前記第2プラズマアクチュエータよりも上流に配置された第2圧力センサーと、をさらに備え、
前記制御装置は、前記上流にそれぞれ配置された前記第1圧力センサーおよび前記第2圧力センサーでそれぞれ検出された前記前方右側および前記前方左側での各々の圧力値に基づいて、前記第1プラズマアクチュエータおよび前記第2プラズマアクチュエータを駆動する、請求項1又は2に記載の車両。
【請求項4】
前記車両の前方右側であって前記第1プラズマアクチュエータより下流に配置された第3圧力センサーと、
前記車両の前方左側であって前記第2プラズマアクチュエータより下流に配置された第4圧力センサーと、をさらに備え、
前記制御装置は、前記下流にそれぞれ配置された前記第3圧力センサーおよび前記第4圧力センサーでそれぞれ検出された圧力値に基づいて、前記第1プラズマアクチュエータおよび前記第2プラズマアクチュエータを駆動する、請求項1~3のいずれか一項に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両周りの気流を整流可能な整流技術に関し、より具体的にはプラズマアクチュエータを用いて上記気流を整流することで車両挙動を制御可能な車両に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会において車両は不可欠であり、日常における重要な移動手段となっている。かような車両は様々な走行環境下で走行することがあり、例えば橋上や風の強い日に走行する場合には、例えば横風などの影響を受けて車両の挙動が不安定となることが想定される。
【0003】
これに対して近年では、特許文献1に例示されるように、例えば誘電体バリア放電(DBD)方式を用いたプラズマアクチュエータ(以下、DBD方式を含む各種のプラズマアクチュエータを総称して「PA」とも称する)を車両に搭載する試みが示されている。かようなPAは、例えば樹脂やセラミック等の誘電体を挟んで一対の電極を設置し、これらの電極間に高周波の交流電圧又はパルス電圧を印加してプラズマを発生させる。
【0004】
そしてこの特許文献1や特許文献2によれば、上記したPAによって生成されるプラズマで車両周囲の整流を行うことが可能となっている。より具体的に例えば特許文献1では、車両のAピラーやフェンダーなどにPAを設置して、このPAを駆動することで車両周囲を流れる空気の剥離流れを抑制(整流)することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許9821862号明細書
【文献】特開2019-167006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した各特許文献に限らず既存の技術では市場のニーズを適切に満たしているとは言えず以下に述べる課題が存在する。すなわち、たしかに特許文献1や特許文献2に示されるようにプラズマアクチュエータを設置すれば車両周囲の気流を整流して空気抵抗の低減は実現できる。
【0007】
しかしながら、上記した特許文献を含む既存の技術では、あくまでも特定のPAに着目してそのPA周囲の気流を整流することに留まっている。他方、走行中の車両には、ピッチ、ロールおよびヨー挙動といった車両の傾きが発生することから、上記したプラズマアクチュエータを用いてこれらの挙動の少なくとも1つを制御できれば、より快適な運転が実現できると言える。
【0008】
本発明は、上記した課題を一例に鑑みて為されたものであり、プラズマアクチュエータを用いて車両に生ずるピッチ、ロールおよびヨー挙動の少なくとも1つを制御することで走行快適性を向上可能な車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の一実施形態における車両は、(1)車体の中心に対して一方の側に設置された第1プラズマアクチュエータと、前記中心に対して他方の側に設置された第2プラズマアクチュエータと、前記第1プラズマアクチュエータおよび前記第2プラズマアクチュエータの駆動をそれぞれ制御して、前記車両におけるヨー挙動を制御する制御装置と、を備えた、車両であって、前記一方の側は前記車両の進行方向に向かって前記車体の前方右側であるとともに、前記他方の側は前記車体の前方左側であり、前記制御装置は、前記第1プラズマアクチュエータおよび前記第2プラズマアクチュエータをそれぞれ駆動して前記車両の左右に抜ける走行風の剥離を制御して前記左右の圧力バランスを調整し、前記制御装置は、前記車両の車速が所定値以上の場合、前記第1プラズマアクチュエータおよび前記第2プラズマアクチュエータを駆動させ、前記所定値は、前記車両の走行地域に応じて可変である
【0010】
また、本発明の別実施形態における車両は、(2)車体の中心に対して一方の側に設置された第1プラズマアクチュエータと、前記中心に対して他方の側に設置された第2プラズマアクチュエータと、前記第1プラズマアクチュエータおよび前記第2プラズマアクチュエータの駆動をそれぞれ制御して、前記車両におけるローリング挙動を制御する制御装置と、を備えた、車両であって、前記一方の側は前記車両の進行方向に対して前記車体の右側における前後部の上面および底面であるとともに、前記他方の側は前記車体の左側における前後部の上面および底面であり、前記制御装置は、複数の前記第1プラズマアクチュエータおよび複数の前記第2プラズマアクチュエータをそれぞれ駆動して前記車両の左右を抜ける走行風の剥離を制御して前記車両の右側と左側の圧力バランスを調整し、前記制御装置は、前記車両の車速が所定値以上の場合、前記第1プラズマアクチュエータおよび前記第2プラズマアクチュエータを駆動させ、前記所定値は、前記車両の走行地域に応じて可変である。
【0011】
また、上記した(1)又は(2)に記載の車両においては、(3)前記車両の前方右側であって前記第1プラズマアクチュエータよりも上流に配置された第1圧力センサーと、前記車両の前方左側であって前記第2プラズマアクチュエータよりも上流に配置された第2圧力センサーと、をさらに備え、前記制御装置は、前記上流にそれぞれ配置された前記第1圧力センサーおよび前記第2圧力センサーでそれぞれ検出された前記前方右側および前記前方左側での各々の圧力値に基づいて、前記第1プラズマアクチュエータおよび前記第2プラズマアクチュエータを駆動することが好ましい。
【0012】
また、上記した(1)~(3)のいずれかに記載の車両においては、(4)前記車両の前方右側であって前記第1プラズマアクチュエータより下流に配置された第3圧力センサーと、前記車両の前方左側であって前記第2プラズマアクチュエータより下流に配置された第4圧力センサーと、をさらに備え、前記制御装置は、前記下流にそれぞれ配置された前記第3圧力センサーおよび前記第4圧力センサーでそれぞれ検出された圧力値に基づいて、前記第1プラズマアクチュエータおよび前記第2プラズマアクチュエータを駆動することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車両走行中における気流の剥離を制御して走行快適性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係る整流機能付き車両を前方から見た正面図である。
図2】整流機能付き車両の側面図である。
図3】整流機能付き車両を斜め後方から見た後方斜視図である。
図4】整流機能付き車両の機能ブロック図である。
図5】実施形態に係るプラズマアクチュエータを用いた車両挙動の制御方法を示すフローチャートである。
図6】整流機能付き車両における圧力センサーとPAとの配置関係、および車両前方における受風状態を示す模式図である。
図7】ヨー制御およびピッチ制御に用いる圧力センサーとPAの制御テーブルを示す模式図である。
図8】ロール制御に用いる圧力センサーとPAの制御テーブルを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明を実施するための好適な実施形態について説明する。なお、例えばプラズマアクチュエータの駆動機構のうち本実施形態で説明する以外の部分については、上記した各特許文献を含む公知のプラズマアクチュエータの機構を援用してもよい。その他、本実施形態で詳述する以外の車両の構成については、公知の車両に関する要素技術や機構を補完してもよい。
【0018】
[車両100]
まず本実施形態における車両100について、図1図4を参照しながら説明する。なお本実施形態の車両100は、図示のとおり四輪自動車が好適ではあるが、例えば二輪自動車など他の公知の車両に適用してもよい。また、四輪自動車としては、例えばガソリン自動車のほか、各種の二次電池を搭載したハイブリッド車や電気自動車が適用できる。
【0019】
本実施形態の車両100は、これらの図から理解されるように、例えば横風など受けた際に乱れた車両周りの気流を整流する整流機能を有しており、プラズマアクチュエータ10、センサー類20および制御装置30を少なくとも含んで構成されている。
【0020】
≪プラズマアクチュエータ10≫
プラズマアクチュエータ10は、車両100の周囲における気流を整流する機能を有している。より具体的に本実施形態のプラズマアクチュエータ10は、車両100の所定部位に発生した渦流を剥離させて整流する機能を有して構成されている。なお、車両において渦流が生ずる部位は、当該車両の形状などによって種々の形態が想定でき、公知の風洞実験やシミュレーションなどによってその部位は特定できる。
【0021】
かようなプラズマアクチュエータ10の具体的な構造としては、例えば特許文献1や特許文献2に開示されている公知のプラズマアクチュエータであり、本実施形態では誘電体バリア放電(DBD)方式のプラズマアクチュエータを適用できる。なお、本実施形態のプラズマアクチュエータ10は、上記したDBDプラズマアクチュエータに限られず、例えばプラズマ発生領域が大きくなるように改良されたSliding Discharge(SD)方式プラズマアクチュエータなど他の公知のPAを適用してもよい。
【0022】
具体的に本実施形態のプラズマアクチュエータ10は、車両100の前方および後方にそれぞれ設けられた8つのプラズマアクチュエータPA1~PA8で構成されている。
すなわち、本実施形態の車両100は、図1及び2から理解されるとおり、まず車両100の前方においては、車幅方向の中間で二分されるように左右および上下に4つのプラズマアクチュエータPA1~PA4が配置されている。
【0023】
より具体的な設置場所として、本実施形態のプラズマアクチュエータPA1は、車両100の右前方下部(例えばフロントバンパーの右側)に配設されている。また、本実施形態のプラズマアクチュエータPA2は、車両100の左前方下部(例えばフロントバンパーの左側)に配設されている。また、本実施形態のプラズマアクチュエータPA3は、車両100の右前方上部(例えばフロント右フェンダーとAピラーの境目付近)に配設されている。また、本実施形態のプラズマアクチュエータPA4は、車両100の左前方上部(例えばフロント左フェンダーとAピラーの境目付近)に配設されている。
【0024】
また、図2及び3から理解されるとおり、車両100の後方においては、車幅方向の中間で二分されるように左右および上下に4つのプラズマアクチュエータPA5~PA8が配置されている。
【0025】
より具体的な設置場所として、本実施形態のプラズマアクチュエータPA5は、車両100の右後方下部(例えばリアバンパーの右側)に配設されている。また、本実施形態のプラズマアクチュエータPA6は、車両100の左後方下部(例えばリアバンパーの左側)に配設されている。本実施形態のプラズマアクチュエータPA7は、車両100の右後方上部(例えばCピラーの下方やリア左フェンダー)に配設されている。また、本実施形態のプラズマアクチュエータPA8は、車両100の左後方上部(例えばCピラーの下方やリア左フェンダー)に配設されている。
【0026】
なお上記したプラズマアクチュエータPA1~PA8の設置は一例であって、それぞれ車幅方向や車長方向ならびに鉛直方向に対となるように二分できる限りにおいて、車両100における他の部位に設置されていてもよい。
【0027】
ここで、本実施形態のプラズマアクチュエータ10は、車体の中心に対して一方の側に設置された第1プラズマアクチュエータと、この車体の中心に対して他方の側に設置された第2プラズマアクチュエータと、を含んでいる。すなわち本実施形態の車両100においては、後述する制御装置30の制御の下で、これら一対のプラズマアクチュエータ組(第1プラズマアクチュエータ、第2プラズマアクチュエータ)を用いて車両100に生ずるローリング挙動、ピッチング挙動およびヨーイング挙動が制御される。
【0028】
したがって、上記した挙動を制御する際には、車両100に配置された上記8つのプラズマアクチュエータPA1~PA8のうち、制御する対象挙動に即した一対のプラズマアクチュエータ組が制御装置30によって選択される。
【0029】
<ヨーイング挙動の場合>
より具体的に、例えば車両100のヨーイング挙動を制御する場合には、図1に示すとおり、車両100の右前方下部に配置されたプラズマアクチュエータPA1が上記した第1プラズマアクチュエータとして機能する一方で、車両100の左前方下部に配置されたプラズマアクチュエータPA2が上記した第2プラズマアクチュエータとして機能する。したがって、図4に示すように、このケースでは、ヨー制御系PA10Cとして、プラズマアクチュエータPA1とPA2がヨーイング挙動の場合における制御対象として設定される。
【0030】
なお本実施形態では車両100の前方下部におけるプラズマアクチュエータ10を用いているが、前方上部(プラズマアクチュエータPA3とPA4)を用いてヨーイング挙動を制御してもよい。
換言すれば、車両100のヨーイング挙動を制御する場合、前記した「一方の側」は車両100の進行方向(Y方向)に向かって車体の前方右側であるとともに、前記した「他方の側」は前記車体の前方左側であると言える。
そして後述するとおり、制御装置30は、この第1プラズマアクチュエータ(この場合はPA1)および第2プラズマアクチュエータ(この場合はPA2)をそれぞれ駆動して車両100の左右に抜ける気流(走行風)の剥離を制御して車両における左右の圧力バランスを調整する。
【0031】
<ピッチング挙動の場合>
また、例えば車両100のピッチング挙動を制御する場合には、図2に示すとおり、車両100の左前方上部に配置されたプラズマアクチュエータPA4が上記した第1プラズマアクチュエータとして機能する一方で、車両100の左後方上部に配置されたプラズマアクチュエータPA8が上記した第2プラズマアクチュエータとして機能する。したがって、図4に示すように、このケースでは、ピッチング制御系PA10Bとして、プラズマアクチュエータPA4とPA8がピッチング挙動の場合における制御対象として設定される。
【0032】
なお、例えば車両100のピッチング挙動を制御する場合に、車両100の左側でなく右側のプラズマアクチュエータ組(プラズマアクチュエータPA3およびPA7)を用いてピッチング挙動を制御してもよい。
換言すれば、車両100のピッチング挙動を制御する場合、前記した「一方の側」は前記した車両100の重心を基準として車両100の進行方向前側であるとともに、前記した「他方の側」は前記の重心を基準として車両100の進行方向後側であると言える。
そして後述するとおり、制御装置30は、この第1プラズマアクチュエータ(この場合はPA4)および第2プラズマアクチュエータ(この場合はPA8)をそれぞれ駆動して車両100の前後における走行風の剥離を制御して車両前後の圧力バランスを調整する。
【0033】
<ローリング挙動の場合>
また、例えば車両100のローリング挙動を制御する場合には、図1に示すとおり、車両100の右前方上部に配置されたプラズマアクチュエータPA3が上記した第1プラズマアクチュエータとして機能する一方で、車両100の左前方上部に配置されたプラズマアクチュエータPA4が上記した第2プラズマアクチュエータとして機能する。したがって、図4に示すように、このケースでは、ローリング制御系PA10Aとして、プラズマアクチュエータPA3とPA4がローリング挙動の場合における制御対象として設定される。
【0034】
なお上記は一例であって、例えば車両100のローリング挙動を制御する場合に、車両100の前方でなく後方のプラズマアクチュエータ組(例えばプラズマアクチュエータPA7およびPA8)を用いてピッチング挙動を制御してもよい。さらに、例えば車両100のローリング挙動を制御する場合に、前方又は後方の下部に配置されたプラズマアクチュエータ組(プラズマアクチュエータPA1及びPA2の組、あるいはPA5及びPA6の組)を用いてピッチング挙動を制御してもよい。
【0035】
さらに、例えば車両100のローリング挙動を制御する場合に、前方および後方のプラズマアクチュエータ組(例えばプラズマアクチュエータPA1、PA2、PA5及びPA6の4つ)を用いてピッチング挙動を制御してもよい。
【0036】
換言すれば、車両100のローリング挙動を制御する場合、前記した「一方の側」は車両100の進行方向に対して車体の右側における前後部の上面及び底面の少なくとも一方であるとともに、前記した「他方の側」は車両100の左側における前後部の上面および底面の少なくとも一方であると言える。
そして後述するとおり、制御装置30は、1又は複数の第1プラズマアクチュエータ(この場合はPA1、PA3、PA5およびPA7の少なくとも1つ)および1又は複数の第2プラズマアクチュエータ(この場合はPA2、PA4、PA6およびPA8の少なくとも1つ)をそれぞれ駆動して車両100の左右に流れる走行風の剥離を制御して車両100右側と左側の圧力バランスを調整する。
【0037】
≪センサー類20≫
図4に示すとおり、本実施形態のセンサー類20は、車速センサーV、圧力センサーSなどを含んで構成されている。
このうち車速センサーVは、走行中における車両100の速度を計測可能な公知のセンサーが例示できる。これにより制御装置30は、この車速センサーVから取得した車速に応じてプラズマアクチュエータ10の駆動を制御することが可能となっている。
【0038】
圧力センサーSは、車両100の車体表面に検出領域が位置するように当該車両100に設置されて、車両100が受ける気流の圧力(静圧)を検出する機能を有している。かような圧力センサーSの構造としては、特に制限されず、例えば拡散半導体圧力センサーなど公知の種々の圧力(静圧)センサーが適用できる。
【0039】
より具体的に本実施形態では、上記したプラズマアクチュエータ10にそれぞれ対応して圧力センサーSが配設されている。すなわち図1から理解されるとおり、プラズマアクチュエータPA1と対応するように圧力センサーS1が車両100の右前方下部(例えばフロントバンパーの右側)に配設されている。
【0040】
このとき、本実施形態の圧力センサーS1は、プラズマアクチュエータPA1の上流側における圧力(静圧)を検出可能な上流側圧力センサーS1aと、プラズマアクチュエータPA1の下流側における圧力(静圧)を検出可能な下流側圧力センサーS1bと、で構成されている。これにより本実施形態では、図1~3に示すとおり、それぞれのプラズマアクチュエータPA1~PA8の上流側および下流側で各々の圧力センサーS1~S8によって静圧を計測することが可能となっている。
【0041】
≪制御装置30≫
制御装置30は、前記した第1プラズマアクチュエータおよび第2プラズマアクチュエータの駆動をそれぞれ制御して、車両100におけるピッチ挙動、ロール挙動およびヨー挙動の少なくとも1つを制御する機能を有している。
この制御装置30の具体例としては、車両100に搭載された公知のリチウムイオン二次電池やニッケル水素電池などのバッテリー(不図示)から電力の供給を受けて駆動する公知の集積回路(制御用IC)が例示できる。また、本実施形態の制御装置30は、後述する整流方法など実行可能な制御プログラムが格納された不図示のメモリ等を備えていてもよい。
【0042】
かような制御装置30は、上記したプラズマアクチュエータ10(プラズマアクチュエータPA1~PA8)をそれぞれ駆動する高周波信号を生成する機能を有している。より具体的に、本実施形態の制御装置30は、例えば上記したバッテリーの直流電圧を交流電圧に変換する公知のインバータ素子を含んで構成されている。
【0043】
なお上記したバッテリーは、プラズマアクチュエータ10やセンサー類20に必要な電力を供給する機能を有している。本実施形態のバッテリーは、プラズマアクチュエータの駆動電圧まで昇圧可能なものであれば例えば鉛蓄電池やニッケル水素電池など他の公知の電池を適用してもよい。
【0044】
また、本実施形態の制御装置30には、前記したバッテリーからの電圧をプラズマアクチュエータが駆動可能な電圧まで昇圧する公知の昇圧回路を含んでいることが好ましい。もしくは、制御装置30とPA群10(第1PA11~第8PA18)との間に、公知の昇圧回路を別置きしてもよい。より具体的に本実施形態の昇圧回路は、例えば24V(他の例として例えばEV高圧系のシステムでは120V)の電圧を数千から数万Vまで昇圧する公知のトランスが例示できる。なお、本実施形態のプラズマアクチュエータ10は数百Vで駆動が可能な公知のプラズマアクチュエータであるが、上記した昇圧回路による昇圧割合は当該プラズマアクチュエータの駆動電圧の値に応じて適宜変更することができる。
【0045】
より具体的には、図4に示すとおり、本実施形態の制御装置30は、圧力検出部31、速度情報取得部32、演算部33、PA駆動制御部34および提示部35を含んで構成されている。
このうち、圧力検出部31は、上記した圧力センサーSから車両100の各設置部位における圧力(静圧)情報を受信する機能を有している。
また、速度情報取得部32は、上記した車速センサーVから車両100の走行中における車速情報を受信する機能を有している。
【0046】
演算部33は、後述するとおり、例えば制御したい対象挙動におけるプラズマアクチュエータ組それぞれの圧力(静圧)の差分を演算する機能を有している。
PA駆動制御部34は、上記した昇圧回路などを介してプラズマアクチュエータ10(PA1~PA8)の駆動を制御する機能を有している。なおプラズマアクチュエータの駆動制御については、本実施形態のほか、公知のプラズマアクチュエータの制御機構を援用してもよい。
提示部35は、後述する提示装置DSを介して、車両100に搭載された各種装備の設定画面を提示するほか、上記したプラズマアクチュエータ10の駆動状況や挙動制御の状況などを乗員に提示する機能を有している。
【0047】
外部通信装置CSは、例えば上記スマートフォンを利用したパケット通信や、コネクテッドのサービスに代表される次世代の自動車無線通信技術を利用して外部との各種の情報通信を行うことができる公知の通信装置が例示できる。
【0048】
保存装置MRは、例えば公知のハードディスクドライブや不揮発性メモリなどの記録装置/記憶装置が例示でき、後述する制御テーブルを含む各種の情報を記録することが可能な手段である。
ナビゲーション装置NSは、GPS機能を備えた公知のナビゲーションシステムが例示でき、上記した制御装置30と協働して車両100の位置情報を検出可能となっている。また、ナビゲーション装置NSには不図示の地図情報が格納されており、制御装置30は上記地図情報を参照して自車の絶対位置などを検出することができる。
【0049】
提示装置DSは、本実施形態では車載される公知のスピーカSPとディスプレイDPを含んで構成されている。このうちディスプレイDPは、上記したナビゲーション装置NSのモニターと兼用されていてもよい。また、本実施形態の提示装置DSは、乗員の有するスマートフォンなどの携帯機器と近距離無線通信が可能なように構成されていてもよい。
【0050】
[プラズマアクチュエータを用いた車両挙動の制御方法]
次に図5~8もさらに参照しつつ、本実施形態における制御装置30によって実行されるプラズマアクチュエータを用いた車両挙動の制御方法について説明する。なお以下では、車両100が制御する対象挙動の一例としてヨーイング挙動について説明する。しかしながら本発明は、ヨーイング挙動に限られずピッチング挙動やローリング挙動にも同様に適用できることは上述のとおりである。
【0051】
図5に示すとおり、ステップ1では、車両100の車速センサーVによって車速が検出される。
次いでステップ2では、制御装置30によって、ステップ1で検出された現在の車速が所定値以上か否かが判定される。これにより、例えば気流の影響が比較的緩やかな低速時にはプラズマアクチュエータ10の駆動を停止するなどでき、上記したバッテリーの省エネ化を図ることができる。
【0052】
なおステップ1及び2は必須ではなく適宜省略してもよい。この場合には車両100の車速に依らず、後述する圧力差に基づくPA(プラズマアクチュエータ)出力制御、上流側圧力センサーに基づくフィードフォワード的なPA出力制御、あるいは下流側圧力センサーに基づくフィードバック的なPA出力制御を実行できる。
【0053】
ステップ2における「所定値」については、車両100の車種や走行地域などによっても種々の値を設定し得る。一例として、本実施形態では50km/hが設定されており、車速が50km/h未満の場合にはプラズマアクチュエータ10の駆動が停止されている。また、制御装置30は、ナビゲーション装置NSから地図情報を参照して、車両100の現在地に応じて「所定値」を可変させてもよい。これにより例えば谷間や盆地など比較的強風が発生しやすい地域を走行する場合には、その地域に応じた「所定値」を設定可能となって走行快適性をさらに向上できる。
【0054】
そしてステップ2で現在の車速が所定値以上(ステップ2でYes)となった場合には、ステップ3で上記した圧力センサーSを用いて静圧値がそれぞれ検出される。
次いでステップ4では、上記した一対のプラズマアクチュエータ(PA)組にそれぞれ対応した圧力センサーSにおける圧力差が規定値以上であるか否かが検出される。
【0055】
一例として、ヨーイング挙動を制御する場合における具体例を図6に示す。
まず図6(b)および(c)から理解されるとおり、車両100が直進走行を行っている際の受風状態と横風を受けた際の受風状態では車両100が受ける挙動に変化が発生する。すなわち、横風を受けた受風状態では車両100の右前方と左前方とで圧力差が発生し、この圧力差の影響によって車両100にヨーイングが発生する。
【0056】
上記した圧力差は、例えば図6(a)に示すとおり、下流側圧力センサーS1bで検出される静圧値と、下流側圧力センサーS2bで検出される静圧値との差異を計測することで求めることができる。
なお上記は一例であって、例えば上記した圧力差を、上流側圧力センサーS1aで検出される静圧値と、上流側圧力センサーS2aで検出される静圧値との差異によって計測するようにしてもよい。
【0057】
続くステップ5では、制御装置30は、上記したメモリや保存装置MRに保存されたヨーイング挙動の制御テーブルを参照し、上記した圧力差に応じて一対のプラズマアクチュエータ組の出力を制御する。このとき、上述したとおり、一対のプラズマアクチュエータ組は、それぞれ車両100から気流が剥離する剥離位置に配置されている。
【0058】
一例として、ヨーイング挙動の制御テーブルを図7に示す。
より具体的には、第1プラズマアクチュエータとしてのプラズマアクチュエータPA1に対応する圧力センサーS1の静圧値P1と、第2プラズマアクチュエータとしてのプラズマアクチュエータPA2に対応する圧力センサーS2の静圧値P2と、の差分(P1-P2)の値に応じて、制御装置30はプラズマアクチュエータPA1及びPA2の出力を制御する。
【0059】
例えば図6(c)に示すように車両100が横風を受けて左右の圧力バランスが崩れた場合、例えば圧力センサーSで静圧値が計測されてパターン5の状態であると制御装置30が判定する。すると、制御装置30は、この圧力バランスを均衡させるように、第1プラズマアクチュエータ(PA1)の出力を相対的に高くする一方で、第2プラズマアクチュエータ(PA2)の出力を相対的に低くすることで、該当する車両100の挙動(ヨーイング)を制御する。
【0060】
なお本実施形態では、制御装置30が制御する対象挙動としてヨーイングを例にして説明したが、ピッチング挙動を制御する場合には図7に例示する制御テーブルが、ローリング挙動を制御する場合には図8に例示する制御テーブルをそれぞれ用いることができる。
また、本例では、制御装置30がヨーイング挙動の制御を行っているが、これに代えてヨーイング、ローリングおよびピッチングの各挙動を並行して制御してもよいし、これらのうち少なくとも1つの挙動を制御するようにしてもよい。
【0061】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、これら実施形態や変形例に対して更なる修正を試みることは明らかであり、これらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0062】
一例として、本実施形態では、例えばヨーイング挙動の制御においては、左右の圧力差を検出して当該圧力差を解消するように一対のプラズマアクチュエータ組を制御したが、この形態に限られない。例えばヨーイング挙動の制御において、少なくとも一方の側における上流側センサー(例えばS1a)の静圧値の変化を検出しておき、この変化に応じて対応するプラズマアクチュエータ10(この場合はプラズマアクチュエータPA1)の出力をフィードフォワード的に制御するようにしてもよい。
【0063】
換言すれば、本実施形態における車両100は、車両100の前方右側であって第1プラズマアクチュエータ(例えばPA1)よりも上流に配置された第1圧力センサー(例えばS1a)と、車両100の前方左側であって第2プラズマアクチュエータ(例えばPA2)よりも上流に配置された第2圧力センサー(例えばS2a)と、をさらに備え、制御装置30は、上流にそれぞれ配置された第1圧力センサー及び第2圧力センサーでそれぞれ検出された前方右側および前方左側での各々の圧力値に基づいて第1プラズマアクチュエータ及び第2プラズマアクチュエータをそれぞれ駆動することが好ましいと言える。
【0064】
さらには、例えばヨーイング挙動の制御において、少なくとも一方の側における下流側センサー(例えばS2b)の静圧値の変化を検出しておき、この変化に応じて対応するプラズマアクチュエータ10(この場合はプラズマアクチュエータPA2)の出力をフィードバック的に制御するようにしてもよい。
【0065】
換言すれば、本実施形態における車両100は、車両100の前方右側であって第1プラズマアクチュエータ(例えばPA1)より下流に配置された第3圧力センサー(例えばS1b)と、この車両100の前方左側であって第2プラズマアクチュエータ(例えばPA2)より下流に配置された第4圧力センサー(S2b)と、をさらに備え、制御装置30は、下流にそれぞれ配置された第3圧力センサーおよび第4圧力センサーでそれぞれ検出された圧力値に基づいて第1プラズマアクチュエータ及び第2プラズマアクチュエータを駆動することが好ましい。
【0066】
また、上記した実施形態では、図1~3に示すとおり、車両100の各設置個所にはそれぞれ1つのプラズマアクチュエータが設置されていた。しかしながら本発明は、この形態に限られず、各設置場所に少なくとも1つのプラズマアクチュエータが設置されていてもよい。換言すれば、本実施形態における第1プラズマアクチュエータおよび第2プラズマアクチュエータの少なくとも一方は、2つ以上のプラズマアクチュエータが直列又は並列で接続されている形態であってもよい。
【0067】
上記で示した具体例はヨーイング挙動の制御を例にしているが、ピッチング挙動やローリング挙動の場合にも上記した形態を援用して同様の制御を実行してもよい。また、上記した実施形態では車速が所定値未満の場合にプラズマアクチュエータ10の駆動を停止する処理を行っているが、この形態に限られず乗員がディスプレイDPなどを介して手動でプラズマアクチュエータ10の駆動を停止してもよい。
【符号の説明】
【0068】
10 プラズマアクチュエータ
20 センサー類
30 駆動装置
100 車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8